(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】異常検知装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20241122BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G05B23/02 302R
G05B23/02 302Z
(21)【出願番号】P 2020205202
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘之
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-157787(JP,A)
【文献】特開2018-032319(JP,A)
【文献】特開2020-119198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常の有無を監視する機器の動作状態を表すデータの時系列であ
り波形で表される監視データと、前記機器の正常時の動作状態を表すデータの時系列であ
り波形で表される基準データとを比較する比較手段と、
該比較手段による前記監視データと前記基準データとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する判定手段とを備え、
前記比較手段は、動的時間伸縮法によって、前記監視データに設定されている複数の比較点と、前記基準データに設定されている複数の基準点の中から一つの前記比較点と一つの前記基準点とを一組にした複数のパス情報を導出するパス導出手段と、
前記パス導出手段が導出した前記複数のパス情報の中から前記比較点と前記基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を抽出する抽出処理と、前記重複パス情報を削除する削除処理とを実行する重複パス削除手段と、を有
し、
前記重複パス削除手段は、前記抽出処理において、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている前記比較点を第一要素として構成される第一配列を対象として、先頭側の複数の前記第一要素と末尾側の複数の前記第一要素の中から、隣り合い且つ同じ前記比較点が設定されている前記第一要素を第一重複要素として抽出する処理と、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている前記基準点を第二要素として構成される第二配列を対象として、先頭側の複数の前記第二要素と末尾側の複数の前記第二要素の中から、隣り合い且つ同じ前記基準点が設定されている前記第二要素を第二重複要素として抽出する処理と、
前記第一重複要素又は前記第二重複要素の少なくとも何れか一方が含まれている前記パス情報を前記重複パス情報として抽出する処理とを実行する、
異常検知装置。
【請求項2】
異常の有無を監視する機器の動作状態を表すデータの時系列であり波形で表される監視データと、前記機器の正常時の動作状態を表すデータの時系列であり波形で表される基準データとを比較する比較手段と、
該比較手段による前記監視データと前記基準データとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する判定手段とを備え、
前記比較手段は、動的時間伸縮法によって、前記監視データに設定されている複数の比較点と、前記基準データに設定されている複数の基準点の中から一つの前記比較点と一つの前記基準点とを一組にした複数のパス情報を導出するパス導出手段と、
前記パス導出手段が導出した前記複数のパス情報の中から前記比較点と前記基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を抽出する抽出処理と、前記重複パス情報を削除する削除処理とを実行する重複パス削除手段と、を有し、
前記重複パス削除手段は、前記抽出処理において、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている
前記比較点を第
一要素として構成される第
一配列を対象として、前記第
一配列の先頭の第
一要素から中央の第
一要素までの要素群と、前記第
一配列の末尾の第
一要素から中央の第
一要素までの要素群のそれぞれの要素群の中から、隣り合う前記第
一要素と同じ
前記比較点が設定されている第
一重複要素を抽出する処理と、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている
前記基準点を第二要素として構成される第二配列を対象として、前記第二配列の先頭の第二要素から中央の第二要素までの要素群と、前記第二配列の末尾の第二要素から中央の第二要素までの要素群のそれぞれの要素群の中から、隣り合う前記第二要素と同じ
前記基準点が設定されている第二重複要素を抽出する処理と、
前記第
一重複要素又は前記第二重複要素の少なくとも何れか一方が含まれている前記パス情報を前記重複パス
情報として抽出する処理とを実行する、
異常検知装置。
【請求項3】
前記複数のパス情報のそれぞれについて、前記第二要素と前記第二要素の間の距離を示す個別距離情報を導出する個別距離導出手段と、
前記個別距離導出手段で導出した前記個別距離情報に基づいて異常の有無を判定する異常判定手段と、を備える、
請求項
1又は請求項
2に記載の異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DTW(動的時間伸縮法)を利用して回転機等の機器の動作異常を検出する異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の異常検知装置として、例えば、特許文献1に開示されているものが知られており、かかる異常検知装置では、異常の監視対象となる機器の動作状態を表す時系列データと、前記機器の正常な動作状態を表す標準時系列データとを対象としてDTWを行った結果に基づいて、前記機器の異常の有無を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、DTWによって出力されるパスの情報(以下、パス情報と称する)には、時系列データ上に設定される位置や、標準時系列データ上に設定される位置が他のパスの情報と重複するもの(重複パス情報)が含まれていることもある。
【0005】
この場合、重複パス情報の影響によって比較対象としている波形の類似度の算出結果に誤差が生じる。そのため、上記の異常検知装置をはじめとして、DTWを利用して機器の異常を検出する装置全般においては、重複パス情報の影響で生じる誤差により異常の検出精度が低下することが問題となっている。
【0006】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、パス情報の重複による検出精度の低下を抑えることができる異常検知装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の異常検知装置は、
異常の有無を監視する機器の動作状態を表すデータの時系列である監視データと、前記機器の正常時の動作状態を表すデータの時系列である基準データとを比較する比較手段と、
該比較手段による前記監視データと前記基準データとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する判定手段とを備え、
前記比較手段は、動的時間伸縮法によって、前記監視データに設定されている複数の比較点と、前記基準データに設定されている複数の基準点の中から一つの前記比較点と一つの前記基準点とを一組にした複数のパス情報を導出するパス導出手段と、
前記パス導出手段が導出した前記複数のパス情報の中から前記比較点と前記基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を抽出する抽出処理と、前記重複パス情報を削除する削除処理とを実行する重複パス削除手段と、を有する。
【0008】
上記構成の異常検知装置によれば、比較手段は、比較点及び基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を削除したうえで、監視データと基準データとを比較できるため、重複パス情報が原因となる異常検知の精度の低下を抑えることができる。
【0009】
本発明の異常検知装置において、
前記重複パス削除手段は、前記抽出処理において、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている比較点を第一要素として構成される第一配列を対象として、先頭側の複数の前記第一要素と末尾側の複数の前記第一要素の中から、隣り合い且つ同じ比較点が設定されている前記第一要素を第一重複要素として抽出する処理と、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている基準点を第二要素として構成される第二配列を対象として、先頭側の複数の前記第二要素と末尾側の複数の前記第二要素の中から、隣り合い且つ同じ前記基準点が設定されている前記第二要素を第二重複要素として抽出する処理と、
前記第一重複要素又は前記第二重複要素の少なくとも何れか一方が含まれている前記パス情報を前記重複パスとして抽出する処理とを実行する、ようにしてもよい。
【0010】
上記構成の異常検知装置によれば、第一配列と第二配列のなかで重複パス情報が発生し易い先頭側と末尾側とで重複パス情報の抽出と削除を行うことによって、異常検知の効率を高めることができる。
【0011】
本発明の異常検知装置において、
前記重複パス削除手段は、前記抽出処理において、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている比較点を第一要素として構成される第一配列を対象として、前記第一配列の先頭の第一要素から中央の第一要素までの要素群と、前記第一配列の末尾の第一要素から中央の第一要素までの要素群のそれぞれの要素群の中から、隣り合う前記第一要素と同じ比較点が設定されている第一重複要素を抽出する処理と、
前記複数のパス情報のそれぞれに含まれている基準点を第二要素として構成される第二配列を対象として、前記第二配列の先頭の第二要素から中央の第二要素までの要素群と、前記第二配列の末尾の第二要素から中央の第一要素までの要素群のそれぞれの要素群の中から、隣り合う前記第二要素と同じ比較点が設定されている第二重複要素を抽出する処理と、
前記第一重複要素又は前記第二重複要素の少なくとも何れか一方が含まれている前記パス情報を前記重複パスとして抽出する処理とを実行する、ようにしてもよい。
【0012】
上記構成の異常検知装置によれば、第一配列、第二配列の中央部も含めて重複パス情報の抽出と削除を行うことができるため、異常検知の精度がより高まる。
【0013】
本発明の異常検知装置は、
前記複数のパス情報のそれぞれについて、前記第一要素と前記第二要素の間の距離を示す個別距離情報を導出する個別距離導出手段と、
前記個別距離導出手段で導出した前記個別距離情報に基づいて異常の有無を判定する異常判定手段と、を備える、ようにしてもよい。
【0014】
上記構成の異常検知装置によれば、パス情報の第一要素と第二要素の間の個別距離は、監視データの比較点と基準データの基準点との間に生じている差異を表すため、各パス情報の個別距離に基づいて異常を発見できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の異常検知装置は、パス情報の重複による検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る異常検知装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る異常検知装置の監視データの説明図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る異常検知装置の基準データの説明図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る異常検知装置のワーピングパスの説明図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る異常検知装置のインデックス情報の説明図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る異常検知装置の重複パスを削除する前のインデックス情報の説明図である。
【
図7】
図7は、同実施形態に係る異常検知装置の重複パスを削除した後のインデックス情報の説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の異常検知装置の他の実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態にかかる異常検知装置について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0018】
異常検知装置は、DTW(動的時間伸縮法)を利用して回転機等の機器の異常を検出するように構成されている。
【0019】
本実施形態の異常検知装置1は、
図1に示すように、異常の有無を監視する機器(以下、監視対象機器と称する)の動作状態を表すデータの時系列である監視データと、前記機器の正常時の動作状態を表すデータの時系列である基準データとを比較する比較手段2と、該比較手段2による前記監視データと前記基準データとの比較結果に基づいて異常の有無を判定する判定手段3と、を備えている。
【0020】
比較手段2は、監視データと基準データとを取得する情報取得手段20と、動的時間伸縮法によって、前記異常の検査箇所として前記監視データに設定されている複数の比較点、及び前記異常の検査箇所として前記基準データに設定されている複数の基準点の中から一つの前記比較点と一つの前記基準点とを一組にしたパス情報を複数導出するパス導出手段21と、前記パス導出手段21が導出した前記複数のパス情報の中から前記比較点と前記基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を抽出する抽出処理と、前記重複パス情報を削除する削除処理とを実行する重複パス削除手段22と、前記複数のパス情報のそれぞれについて、一組にされている比較点と基準点の間の距離を示す個別距離情報を導出する個別距離導出手段23と、各パス情報の個別距離を総計した総距離情報を導出する総距離導出手段24と、を有する。
【0021】
情報取得手段20は、記憶装置や外部のコンピュータ等から監視データと基準データを取得する(読み出す)ように構成されていてもよいし、監視データについてはセンサ等の計測機器から直接取得する(受信する)ように構成されていてもよい。
【0022】
監視データは、例えば、監視対象機器が発する音や振動等を所定時間の間計測したデータである。また、
図2に示すように、監視データL
Xは、互いに直交する2つの座標軸(時間を表す座標軸Hと、計測値を表す座標軸V)によって構成される座標に波形で表すことができるようなデータである。
【0023】
監視データL
Xは、波形の中で異常の検査箇所とする比較点P
X1、P
X2、P
X3…を示す複数の比較点情報が関連付けられた状態でパス導出手段21による処理が行われるようになっている。そして、比較点情報には、比較点の時間軸Hの値H
xと計測値軸Vの値V
x、すなわち、座標中での比較点の位置を示す座標情報が設定されている(式1,2参照)。
【数1】
【数2】
【0024】
基準データは、監視対象機器の正常な動作状態の時系列を示すデータである。
図3に示すように、基準データL
Yも、互いに直交する2つの座標軸(時間を表す座標軸Hと、計測値を表す座標軸V)によって構成される座標に波形で表すことができるようなデータである。
【0025】
基準データL
Yは、監視データL
Xとの比較時の基準とする基準点P
Y1、P
Y2、P
Y3…を示す複数の基準点情報が関連付けられた状態でパス導出手段21による処理が行われるようになっている。そして、各基準点情報には、基準点の時間軸の値H
Yと計測値軸V
Yの値、すなわち、座標中での基準点の位置を示す座標情報が設定されている(式3,4参照)。
【数3】
【数4】
【0026】
パス導出手段21は、上述のように複数のパス情報を導出するように構成されている。また、一つのパス情報は、
図4に示すように、監視データの比較点と基準データの基準点とを結ぶ経路L
P(パス)として表される。
【0027】
本実施形態のパス導出手段21は、
図5に示すように、動的時間伸縮法を実行することにより複数のパス情報(比較点情報と基準点情報とを一組にした情報)を導出し、且つこの複数のパス情報を一群にしたインデックス情報Iを出力するように構成されている。
【0028】
そのため、インデックス情報Iには、複数のパス情報と、各パス情報を識別するための識別情報N1、N2、N3…が含まれている。
【0029】
なお、本実施形態のインデックス情報Iでは、複数の比較点情報で一つの配列(第一配列)が構成されており、各比較点情報が第一配列を構成する要素(第一要素)となっている。また、複数の基準点情報も同様に一つの配列(第二配列)を構成されており、各基準点情報は第二配列を構成する要素(第二要素)となっている。
【0030】
図1に戻り、重複パス削除手段22は、抽出処理において、第一配列に基づいて重複パスを探索する第一探索処理と、第二配列に基づいて重複パスを探索する第二探索処理とを実行するように構成されている。
【0031】
第一探索処理は、第一配列を構成する複数の第一要素のなかから、隣り合い且つ同じ比較点が設定されている第一要素を第一重複要素として抽出する処理を実行する。
【0032】
本実施形態の第一探索処理では、第一配列の先頭側の複数の第一要素から第一重複要素を抽出する第一前方探索処理と、第一配列の末尾側の複数の第一要素から第一重複要素を抽出する第一後方探索処理とが実行される。
【0033】
第一前方探索処理では、重複パスであるか否かを確認する対象とする第一要素を指定するための第一要素指定情報が設定されており、初期値は0に設定されている。すなわち、第一要素指定情報は、初期値の場合、先頭の第一要素を指すように設定されている。
【0034】
第一前方探索処理では、第一要素指定情報が指す第一要素を選択した後に、第一要素指定情報を一つ繰り上げて該第一要素指定情報が指す第一要素(つまり、先に選択した第一要素に対して末尾側で隣り合う第一要素)をさらに選択する選択処理と、これら2つの第一要素を比較する比較処理とが実行される。
【0035】
そして、比較処理で比較した2つの第一要素の比較点が同一であれば、第一要素指定情報に設定されている数を第一前方切取位置として設定し、再び選択処理と比較処理を順番に実行する。
【0036】
一方で、比較処理で比較した2つの第一要素の比較点が異なっている場合は、第一要素指定情報を第一配列の数と同じ数まで繰り上げた後に第一前方探索処理を終了し、第一後方探索処理に移る。
【0037】
第一後方探索処理では、第一要素指定情報が指す第一要素を選択した後に、第一要素指定情報を一つ繰り下げて該第一要素指定情報が指す第一要素(つまり、先に選択した第一要素に対して先頭側で隣り合う第一要素)をさらに選択する選択処理と、この2つの第一要素を比較する比較処理とが実行される。なお、第一前方探索処理の終了時に第一要素指定情報が第一配列の数と同じ数まで繰り上げられているため、第一後方探索処理で最初に指定するのは、末尾の第一要素である。
【0038】
そして、比較処理で比較した2つの第一要素の比較点が同一であれば、第一要素指定情報に設定されている数を第一後方切取位置として設定し、再び選択処理と比較処理を順番に実行する。
【0039】
一方で、比較処理で比較した2つの第一要素の比較点が異なっている場合は、第一後方探索処理を終了する。
【0040】
第二探索処理は、第二配列を構成する複数の第二要素のなかから、隣り合い且つ同じ基準点が設定されている第二要素を第二重複要素として抽出する処理を実行する。
【0041】
本実施形態の第二探索処理では、第二配列の先頭側の複数の第二要素から第二重複要素を抽出する第二前方探索処理と、第二配列の末尾側の複数の第二要素から第二重複要素を抽出する第二後方探索処理とが実行される。
【0042】
第二前方探索処理では、重複パスであるか否かを確認する対象とする第二要素を指定するための第二要素指定情報が設定されており、初期値は0に設定されている。すなわち、第二要素指定情報は、初期値の場合、先頭の第二要素を指すように設定されている。
【0043】
第二前方探索処理では、第二要素指定情報が指す第二要素を選択した後に、第二要素指定情報を一つ繰り上げて該第二要素指定情報が指す第二要素(つまり、先に選択した第二要素に対して末尾側で隣り合う第二要素)をさらに選択する選択処理と、これら2つの第二要素を比較する比較処理とが実行される。
【0044】
そして、比較処理で比較した2つの第二要素の基準点が同一であれば、第二要素指定情報に設定されている数を第二前方切取位置として設定し、再び選択処理と比較処理を順番に実行する。
【0045】
一方で、比較処理で比較した2つの第二要素の基準点が異なっている場合は、第二要素指定情報を第二配列の数と同じ数まで繰り上げた後に第二前方探索処理を終了し、第二後方探索処理に移る。
【0046】
第二後方探索処理では、第二要素指定情報が指す第二要素を選択した後に、第二要素指定情報を一つ繰り下げて該第二要素指定情報が指す第二要素(つまり、先に選択した第二要素に対して先頭側で隣り合う第二要素)をさらに選択する選択処理と、この2つの第二要素を比較する比較処理とが実行される。なお、第二前方探索処理の終了時に第二要素指定情報が第二配列の数と同じ数まで繰り上げられているため、第二後方探索処理で最初に指定するのは、末尾の第二要素である。
【0047】
そして、比較処理で比較した2つの第二要素の基準点が同一であれば、第二要素指定情報に設定されている数を第二後方切取位置として設定し、再び選択処理と比較処理を順番に実行する。
【0048】
一方で、比較処理で比較した2つの第二要素の基準点が異なっている場合は、第二後方探索処理を終了する。
【0049】
削除処理では、第一前方切取位置と第二前方切取位置とを比較し、大きい方を前側切取位置に設定する処理と、第一後方切取位置と第二後方切取位置とを比較し、小さい方を後側切取位置に設定する処理と、監視データ及び基準データのうち、先頭から前側切取位置に該当する位置までの間に相当する範囲と、末尾から後側切取位置に該当する位置までの間に相当する範囲とを切り取る処理とが実行される。これにより、監視データ及び基準データのうち、複数のパス情報が集中している比較点、基準点が発生している範囲が切り取られる。これにより、インデックス情報Iは、重複パスに該当するパス情報が削除された状態になる。
【0050】
個別距離導出手段23は、複数のパス情報のそれぞれについて、個別距離情報を導出するように構成されている。また、個別距離情報は比較点が基準点から離れている程大きくなるため、個別距離情報の長さには比較点と基準点とを比較した際の違いが表れる。
【0051】
なお、個別距離導出手段23は、時間軸に直交する他の座標軸の方向での比較点と基準点との距離を個別距離情報として算出するように構成されていればよい。また、個別距離導出手段23は、比較点と基準点の差の絶対値を個別距離情報としてもよいし、ユークリッド距離、マハラノビス距離、コサイン距離等の計算式による計算結果を個別距離情報としてもよい。
【0052】
総距離算出手段は、各識別情報の個別距離情報を総計(例えば積算)した総距離情報を導出する。総距離情報は、監視データと基準データの類似度合いを示す情報でもある。
【0053】
判定手段3は、総距離情報に基づいて異常か否かを判定する処理を実行する。本実施形態の判定手段3は、総距離情報が異常であるか正常であるかを判定する基準とする閾値を用いるように構成されている。基準データに対する監視データの差違が大きいほど総距離情報も大きくなるため、総距離情報が閾値以上であれば異常総距離情報が閾値未満であれば正常と判定をするように構成されている。
【0054】
なお、閾値は、正常運転と基準データとで判定した結果等を用いればよい。
【0055】
本実施形態に係る異常検知装置1の構成は、以上の通りである。続いて、異常検知装置1の動作を説明する。
【0056】
異常検知装置1を動作させると、情報取得手段20が監視データと基準データを取得する。
【0057】
そして、パス導出手段21が監視データと基準データとに対して動的時間伸縮法を実行することによりインデックス情報を出力する(
図6参照)。
【0058】
続いて、重複パス削除手段22がインデックス情報に対して重複パス情報の抽出と削除を行う。
【0059】
インデックス情報の一例を挙げて重複パス削除手段22の動作を説明すると、
図6に示すインデックス情報では、第一配列の先頭の第一要素に設定されている比較点と先頭から2つ目の第一要素に設定されている比較点が異なるため、重複パス削除手段22は、第一前方探索処理においては、第一要素指定情報を繰り上げずに第一要素指定情報に設定されている数を第一前方切取位置に設定し、処理を終了する。
【0060】
また、
図6に示すインデックス情報では、末尾の第一要素に設定されている比較点と末尾から2つ目の第一要素に設定されている比較点も異なっているため、重複パス削除手段22は、第一前方探索処理においては、第一要素指定情報を繰り下げずに第一要素指定情報に設定されている数を第一後方切取位置に設定し、処理を終了する。
【0061】
一方で、第二配列に対する第二前方探索処理では、先頭の第二要素に設定されている基準点と先頭から3つ目の第二要素に設定されている基準点が同一であるため、先頭から3つ目の第二要素に至るまで選択処理と比較処理を繰り返した後に、第二前方切取位置に3を設定して処理を終了する。
【0062】
また、第二配列に対する第二後方探索処理では、末尾の第二要素に設定されている基準点と末尾から4つ目の第二要素に設定されている基準点が同一であるため、末尾から4つ目の第二要素に至るまで選択処理と比較処理を繰り返した後に、第二後方切取位置を4に設定して処理も終了する。
【0063】
そして、第一前方切取位置と第二前方切取位置とを比較し、大きい方(末尾側の数)である第二前方切取位置の3を前側切取位置に設定し、第一後方切取位置と第二後方切取位置とを比較し、小さい方(先頭側の数)である第二後方切取位置の4を後側切取位置に設定した後に、監視データ及び基準データのうち、先頭から前側切取位置に該当する位置までの間に相当する範囲と、末尾から後側切取位置に該当する位置までの間に相当する範囲とを切り取る。これにより、インデックス情報Iから重複パスである先頭から3つ目までのパス情報と、末尾から4番目までのパス情報が削除される。
【0064】
このようにして、監視データ及び基準データは、複数のパス情報が集中している比較点、基準点が切り取られ、重複パス情報が削除される。
【0065】
そして、個別距離情報が複数のパス情報のそれぞれについて個別距離情報を導出し、総距離算出手段が総距離情報を導出し、判定手段3が総距離情報に基づいて異常か否かを判定する処理を実行することにより、異常検知装置の一連の動作が終了する。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る異常検知装置1によれば、比較手段2が比較点及び基準点のうちの少なくとも何れか一方が同一となっている重複パス情報を削除したうえで、監視データと基準データとを比較できるため、重複パス情報が原因となる異常検知の精度の低下を抑えることができる。
【0067】
また、第一配列と第二配列のなかで重複パス情報が発生し易い先頭側と末尾側とで重複パス情報の抽出と削除を行うことによって、異常検知の精度低下を抑えることができる。
【0068】
なお、本発明に係る異常検知装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0069】
上記実施形態において、特に言及しなかったが、異常検知装置は、
図8に示すように、各パス情報の個別距離情報に基づいて異常の有無を判定する細部異常検出手段4を備えていてもよい。
【0070】
このようにすれば、判定手段3では、総距離情報に基づいて異常を判定するため、監視データに対して局所的に発生している異常を検出しにくい場合があるが、異常判定手段3は、総距離情報に統合される前の状態の個別距離情報に基づいて異常を検出するため、監視データに対して局所的に発生している異常を検出できるようになる。なお、細部異常検出手段4による異常の検出処理は、判定手段3による異常の検知処理の前に実行されるようになっていればよい。
【0071】
上記実施形態において、特に言及しなかったが削除処理では、前側切取位置と後側切取位置とに基づいて監視データ及び基準データを切り取った後、監視データ及び基準データの先頭側と末尾側とをさらに切り取ってもよい。
【0072】
上記実施形態において、第一前方探索処理は、常に先頭の第一要素から順番に処理を開始していたが、この構成に限定されない。例えば、先頭の第一要素から順番に第一重複要素を抽出し、第一重複要素の抽出数が所定の数に至ったときに第一前方探索処理を開始するようにしてもよい。この場合、抽出数の初期値は1に設定され、先頭の第一要素と先頭から2つ目の第一要素が第一重複要素でない場合は、抽出数に第一配列全体の5%~10%の数が設定される。
【0073】
第一後方探索処理も同様に、常に末尾の第一要素から順番に処理を開始していたが、この構成に限定されない。例えば、末尾の第一要素から順番に第一重複要素を抽出し、第一重複要素の抽出数が所定の数に至ったときに第一後方探索処理を開始するようにしてもよい。この場合、抽出数の初期値は第一要素の総数が設定され、末尾の第一要素と末尾から2つ目の第一要素が第一重複要素でない場合も、抽出数に第一配列全体の5%~10%の数に設定される。
【0074】
また、この場合、第一前方探索処理においても、第一後方探索処理においても中央の第一要素に至った場合は、処理を強制的に終了するように構成されていることが好ましい。このようにすれば、第一前方探索処理において第一前方切取位置が第一要素の末尾側に設定されたり、第一後方探索処理において第一後方切取位置が第一要素の先頭側に設定されたりすること、すなわち、パス情報の大部分が削除されてしまうことを避けることができる。
【0075】
上記実施形態において、第二前方探索処理は、常に先頭の第二要素から順番に処理を開始していたが、この構成に限定されない。例えば、先頭の第二要素から順番に第二重複要素を抽出し、第二重複要素の抽出数が所定の数に至ったときに第二前方探索処理を開始するようにしてもよい。この場合、抽出数の初期値は1に設定され、先頭の第二要素と先頭から2つ目の第二要素が第二重複要素でない場合は、抽出数に第二配列全体の5%~10%の数が設定される。
【0076】
第二後方探索処理も同様に、常に末尾の第二要素から順番に処理を開始していたが、この構成に限定されない。例えば、末尾の第二要素から順番に第二重複要素を抽出し、第二重複要素の抽出数が所定の数に至ったときに第二後方探索処理を開始するようにしてもよい。この場合、抽出数の初期値は第二要素の総数が設定され、末尾の第二要素と末尾から2つ目の第二要素が第二重複要素でない場合も、抽出数に第二配列全体の5%~10%の数に設定される。
【0077】
第二前方探索処理においても、第二後方探索処理においても中央の第二要素に至った場合は、処理を強制的に終了するように構成されていることが好ましい。このようにすれば、第二前方探索処理において第二前方切取位置が第二要素の末尾側に設定されたり、第二後方探索処理において第二後方切取位置が第二要素の先頭側に設定されたりすること、すなわち、パス情報の大部分が削除されてしまうことを避けることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…異常検知装置、2…比較手段、3…判定手段、20…情報取得手段、21…パス導出手段、22…重複パス削除手段、23…個別距離導出手段、24…総距離導出手段