(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/40 20230101AFI20241122BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20241122BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241122BHJP
【FI】
H10K30/40
H10K30/50
H10K30/86
(21)【出願番号】P 2021558161
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026110
(87)【国際公開番号】W WO2021100237
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019208000
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 将平
(72)【発明者】
【氏名】河野 謙司
(72)【発明者】
【氏名】横山 智康
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038714(JP,A)
【文献】特表2014-520386(JP,A)
【文献】特開2019-125774(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108832001(CN,A)
【文献】Feidan Gu et al.,Lead-Free Tin-Based Perovskite Solar Cells: Strategies Toward High Performance,Solar RRL,2019年06月17日,Vol. 3,1900213
【文献】Seon Joo Lee et al.,Fabrication of Efficient Formamidinium Tin Iodide Perovskite Solar Cells through SnF2-Pyrazine Complex,Journal of the American Chemical Society,2016年,Vol. 138,p.3974-3977
【文献】Weijun Ke et al.,"Unleaded" Perovskites: Status Quo and Future Prospects of Tin‐Based Perovskite Solar Cells,Advanced Materials,2018年,Vol. 31,1803230
【文献】Shuyan Shao et al.,Enhancing the Performance of the Half Tin and Half Lead Perovskite Solar Cells by Suppression of the Bulk and Interfacial Charge Recombination,Advanced Materials,2018年,Vol. 30,p.1803703-1 - 1803703-9
【文献】Yuhei Ogomi et al.,CH3NH3SnxPb(1-x)I3 Perovskite Solar Cells Covering up to 1060 nm,The Journal of Physical Chemistry Letters,2014年,Vol. 5,p.1004-1011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-39/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池であって、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および前記第2電極の間に設けられた光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に設けられた正孔輸送層、を具備し、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記ペロブスカイト化合物は、(HC(NH
2
)
2
)SnI
3
または(CH
6
N
3
)
0.17
(HC(NH
2
)
2
)
0.83
SnI
3
であり、
および
前記正孔輸送層は、4,4′,4″-tris[9,9-dimethyl-2-fluorenyl(4-methoxy-phenyl)amino]triphenylamineを含有する、
太陽電池。
【請求項2】
前記正孔輸送層は、アルカリ金属塩をさらに含有する、
請求項
1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩は、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imideである、
請求項
2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記第2電極および前記光電変換層の間に設けられている電子輸送層をさらに具備する、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト太陽電池が研究および開発されている。ペロブスカイト太陽電池では、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト化合物が光電変換材料として用いられている。
【0003】
非特許文献1は、鉛を含まないペロブスカイト太陽電池を提案している。非特許文献1に開示されている鉛を含まないペロブスカイト太陽電池では、化学式CsSnI3で表されるペロブスカイト化合物、TiO2、およびSpiro-OMETADが、それぞれ、光電変換材料、電子輸送材料、および正孔輸送材料として用いられている。
【0004】
特許文献1は、色素増感太陽電池を開示している。特許文献1に開示されている色素増感太陽電池は、少なくとも1つの有機正孔導体材料(すなわち、正孔輸送材料)を有する。特許文献1は、有機正孔導体材料として、Spiro-OMETADを含む種々の材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Mulmudi Hemant Kumar et al., "Lead-free halide perovskite solar cells with high photocurrents realized through vacancy modulation", Advanced Materials, 2014, Volume 26, Issue 41, 7122-7127.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、高い光電変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示による太陽電池は、
第1電極、
第2電極、
前記第1電極および第2電極の間に設けられた光電変換層、および
前記第1電極および前記光電変換層の間に設けられた正孔輸送層
を具備し、
前記第1電極および前記第2電極からなる群から選択される少なくとも1つの電極が透光性を有し、
前記光電変換層は、1価のカチオン、2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有し、
前記1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
前記2価のカチオンは、Snカチオンを含み、
前記ハロゲンアニオンは、ヨウ化物イオンを含み、および
前記正孔輸送層は、4,4′,4″-tris[9,9-dimethyl-2-fluorenyl(4-methoxy-phenyl)amino]triphenylamineを含有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、高い光電変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態による太陽電池の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<用語の定義>
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト化合物」とは、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、およびXはハロゲンアニオンである)で示されるペロブスカイト結晶構造体およびそれに類似する結晶を有する構造体を意味する。
【0012】
本明細書において用いられる用語「ペロブスカイト太陽電池」とは、ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0013】
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト化合物」とは、スズを含有するペロブスカイト化合物を意味する。
【0014】
本明細書において用いられる用語「スズ系ペロブスカイト太陽電池」とは、スズ系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0015】
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト化合物」とは、鉛を含有するペロブスカイト化合物を意味する。
【0016】
本明細書において用いられる用語「鉛系ペロブスカイト太陽電池」とは、鉛系ペロブスカイト化合物を光電変換材料として含む太陽電池を意味する。
【0017】
<本開示の基礎となった知見>
以下、本開示の基礎となった知見が説明される。
【0018】
一般に、正孔輸送材料のHOMO準位および光電変換材料の価電子帯上端のエネルギー準位のエネルギー差が太陽電池の光電変換効率の低下を招くことが、知られている。本明細書における「価電子帯上端のエネルギー準位」の値は、真空準位を基準とした値である。
【0019】
現在、ペロブスカイト太陽電池に用いられている正孔輸送材料の代表的な例は、poly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](以下、「PTAA」という)または2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(以下、「spiro-OMeTAD」という)である。これらの正孔輸送材料のHOMO準位は、鉛系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位(すなわち、-5.4eV)とマッチしている。すなわち、これらの正孔輸送材料のHOMO準位および鉛系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位のエネルギー差は、小さい。
【0020】
一方、スズ系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位は、鉛系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位よりも、0.5eV程度浅い。スズ系ペロブスカイト化合物の一例であるHC(NH2)2SnI3の価電子帯上端のエネルギー準位は、-4.9eVである。したがって、スズ系ペロブスカイト太陽電池では、鉛系ペロブスカイト太陽電池と比較して、より浅いHOMO準位を有する正孔輸送材料が用いられる必要がある。
【0021】
本発明者らは、さらに、スズ系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位とのエネルギー差が小さいHOMO準位を有する正孔輸送材料が用いられた場合でも、太陽電池の光電変換効率を向上させることができない場合があることを見出した。この問題の原因の一つは、正孔輸送材料とスズ系ペロブスカイト化合物との界面において、スズ系ペロブスカイト化合物に欠陥が生じることであると考えられる。
【0022】
本発明者らは、検討を重ねた結果、4,4′,4″-tris[9,9-dimethyl-2-fluorenyl(4-methoxy-phenyl)amino]triphenylamine(以下、「MeO-TFATA」という)を正孔輸送材料として用いることによって、スズ系ペロブスカイト太陽電池の光電変換効率を向上させることができるということを、新たに見出した。
【0023】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、スズ系ペロブスカイト化合物を含有し、かつ高い光電変換効率を有する太陽電池を提供する。
【0024】
<本開示の実施形態>
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0025】
図1は、本実施形態による太陽電池100の断面図を示す。
図1に示されるように、本実施形態の太陽電池100は、第1電極7、第2電極2、第1電極7および第2電極2の間に設けられた光電変換層5、および第1電極7および光電変換層5の間に設けられた正孔輸送層6を具備している。
【0026】
第1電極7は、第1電極7および第2電極2の間に正孔輸送層6および光電変換層5が位置するように、第2電極2と対向している。第1電極7および第2電極2からなる群より選ばれる少なくとも1つの電極は、透光性を有する。本明細書において、「電極が透光性を有する」の語は、200nmから2000nmの波長を有する光のうち、いずれかの波長において、10%以上の光が電極を透過することを意味する。
【0027】
(光電変換層5)
光電変換層5は、光電変換材料として、1価のカチオン、2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を含有する。光電変換材料は、光吸収材料である。
【0028】
本実施形態において、ペロブスカイト化合物は、化学式ABX3(ここで、Aは1価のカチオンであり、Bは2価のカチオンであり、かつXはハロゲンアニオンである)で示される化合物であり得る。
【0029】
ペロブスカイト化合物のために慣用的に用いられている表現に従い、本明細書においては、A、B、およびXは、それぞれ、Aサイト、Bサイト、およびXサイトとも言う。
【0030】
本実施形態において、ペロブスカイト化合物は、化学式ABX3で示されるペロブスカイト型結晶構造を有し得る。一例として、Aサイトに1価のカチオンが位置し、Bサイトに2価のカチオンが位置し、かつXサイトにハロゲンアニオンが位置する。
【0031】
(Aサイト)
Aサイトに位置している1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2
+)およびメチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3
+)からなる群から選択される少なくとも1つを含む。Aサイトがホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つを含むことにより、高い光電変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池が得られる。
【0032】
太陽電池の光電変換効率を高めるために、Aサイトに位置している1価のカチオンは、グアニジニウムカチオン(すなわち、CH6N3
+)をさらに含んでいてもよい。Aサイトに位置している1価のカチオンは、ホルムアミジニウムカチオン、メチルアンモニウムカチオン、およびグアニジニウムカチオンを除く他の1価のカチオンを含んでいてもよい。他の1価のカチオンの例は、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。有機カチオンの例は、フェニルエチルアンモニウムカチオン(すなわち、C6H5C2H4NH3
+)である。アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(すなわち、Cs+)である。
【0033】
文「Aサイトがホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つを主として含む」とは、ホルムアミジニウムカチオンのモル数およびメチルアンモニウムカチオンのモル数の合計の1価のカチオンの総モル数に対するモル比が50%を超えることを意味する。
【0034】
Aサイトが、実質的に、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つのみから構成されていてもよい。「Aサイトが、実質的に、ホルムアミジニウムカチオンおよびメチルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1つのみから構成される」とは、ホルムアミジニウムカチオンのモル数およびメチルアンモニウムカチオンのモル数の合計の1価のカチオンの総モル数に対するモル比が90%以上、望ましくは95%以上であることを意味する。
【0035】
Aサイトは、ホルムアミジニウムカチオンを主として含んでいてもよい。文「Aサイトがホルムアミジニウムカチオンを主として含む」とは、1価のカチオンのモル総数に対するホルムアミジニウムカチオンのモル数の割合が最も高いことを意味する。Aサイトが実質的にホルムアミジニウムカチオンのみから構成されていてもよい。「Aサイトが、実質的にホルムアミジニウムカチオンのみから構成される」とは、1価のカチオンの総モル数に対するホルムアミジニウムカチオンのモル数のモル比が90%以上、望ましくは95%以上であることを意味する。
【0036】
(Bサイト)
Bサイトに位置している2価のカチオンは、Snカチオン、すなわちSn2+を含む。2価のカチオンは、Snカチオンを50モル%以上含んでいてもよい。「2価のカチオンが、Snカチオンを50モル%以上含む」とは、2価のカチオンの物質量の合計に対するSnカチオンの物質量のモル比が、50%以上であることを意味する。2価のカチオンは、Snのみからなっていてもよい。
【0037】
(Xサイト)
Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、ヨウ化物イオンを含む。Xサイトがヨウ化物イオンを含むことにより、高い光電変換効率を有するスズ系ペロブスカイト太陽電池が得られる。Xサイトに位置しているハロゲンアニオンは、2種以上のハロゲンイオンから構成されていてもよい。
【0038】
Xサイトは、ヨウ化物イオンを主として含んでいてもよい。ハロゲンアニオンがヨウ化物イオンを主として含むとは、ハロゲンアニオンのモル総数に対するヨウ化物イオンのモル数の割合が最も高いことを意味する。Xサイトが、実質的にヨウ化物イオンのみから構成されていてもよい。「Xサイトが、実質的にヨウ化物イオンのみから構成されている」とは、アニオンの総モル数に対するヨウ化物イオンのモル数のモル比が90%以上、望ましくは95%以上、であることを意味する。
【0039】
光電変換層5は、光電変換材料以外の材料を含んでいてもよい。例えば、光電変換層5は、ペロブスカイト化合物の欠陥密度を低減するためのクエンチャー物質をさらに含んでいてもよい。クエンチャー物質は、フッ化スズのようなフッ素化合物である。クエンチャー物質の光電変換材料に対するモル比は、5%以上20%以下であってもよい。
【0040】
光電変換層5は、1価のカチオン、Snカチオンを含む2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を主として含んでいてもよい。
【0041】
文「光電変換層5は、1価のカチオン、Snカチオンを含む2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を主として含む」とは、光電変換層5が、1価のカチオン、Snカチオンを含む2価のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されるペロブスカイト化合物を70質量%以上(望ましくは80質量%以上)含有することを意味する。
【0042】
光電変換層5は、不純物を含有し得る。光電変換層5は、上記のペロブスカイト化合物以外の化合物をさらに含有していてもよい。
【0043】
光電変換層5は、100nm以上10μm以下の厚み、望ましくは、100nm以上1000nm以下の厚み、を有し得る。光電変換層5の厚みは、その光吸収の大きさに依存する。
【0044】
(正孔輸送層6)
正孔輸送層6は、正孔輸送材料として、以下の構造式(1)で示されるMeO-TFATAを含有する。
【化1】
【0045】
MeO-TFATAは、スズ系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位とのエネルギー差が小さいHOMO準位を有する。さらに、MeO-TFATAは、スズ系ペロブスカイト化合物との界面において、欠陥を生じさせにくいと考えられる。すなわち、MeO-TFATAを含有する正孔輸送層6およびスズ系ペロブスカイト化合物を含有する光電変換層5の界面は、小さい欠陥密度を有すると考えられる。したがって、正孔輸送層6がMeO-TFATAを含有することにより、スズ系ペロブスカイト化合物を含有する太陽電池100は、高い光電変換効率を有する。
【0046】
正孔輸送層6は、MeO-TFATAの他に、有機物または無機半導体などを含んでいてもよい。
【0047】
正孔輸送層6に用いられる代表的な有機物の例は、spiro-OMeTAD、PTAA、poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)(以下、「P3HT」という)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)(以下、「PEDOT」という)、または銅フタロシアニン(以下、「CuPC」という)である。
【0048】
無機半導体の例は、Cu2O、CuGaO2、CuSCN、CuI、NiOx、MoOx、V2O5、または酸化グラフェンのようなカーボン材料である。
【0049】
正孔輸送層6は、互いに異なる材料から形成される複数の層を含んでいてもよい。この場合、少なくとも一つの層が、MeO-TFATAを含有している。
【0050】
正孔輸送層6の厚みは、1nm以上1000nm以下であることが望ましく、10nm以上500nm以下であることがより望ましい。正孔輸送層6の厚みが1nm以上1000nm以下であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。さらに、正孔輸送層6の厚みが1nm以上1000nm以下であれば、正孔輸送層6の抵抗が低いので、高効率に光が電気に変換される。
【0051】
正孔輸送層6は、添加剤および溶媒を含有していてもよい。添加剤および溶媒は、例えば、以下のような効果を有する。
(i)正孔輸送層6における正孔伝導度を上げる。
(ii)光電変換層5と正孔輸送層6とを架橋し、正孔を取り出す効率を上げる。
(iii)光電変換層5の表面に存在する欠陥サイトを不活性化する。
【0052】
添加剤の例は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩である。すなわち、正孔輸送層6は、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩を含有していてもよい。アンモニウム塩の例は、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩、またはピリジニウム塩である。アルカリ金属塩の例は、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(以下、「LiTFSI」という)、LiPF6、LiBF4、過塩素酸リチウム、または四フッ化ホウ酸カリウムである。
【0053】
太陽電池の光電変換効率を高めるために、正孔輸送層6は、LiTFSIを含有することが望ましい。正孔輸送層6がLiTFSIをさらに含有することにより、正孔輸送層6の正孔輸送性が向上する。その結果、太陽電池100の光電変換効率がより向上する。正孔輸送層6がMeO-TFATAおよびLiTFSIを含有する場合、正孔輸送層6には、tert-ブチルピリジン(以下、「TBP」という)が添加されることが望ましい。TBPが添加されることにより、MeO-TFATAおよびLiTFSIの相溶性が向上する。これにより、MeO-TFATAおよびLiTFSIが均一に混合されて、正孔輸送層6の正孔輸送性がより向上する。
【0054】
正孔輸送層6に含有される添加剤の濃度は、0.1mmol/L以上100mmol/L以下であることが望ましく、1mmol/L以上10mmol/L以下であることがより望ましい。添加剤の濃度が0.1mmol/L以上100mmol/L以下であれば、正孔輸送層6の正孔輸送性を十分に向上させることができる。
【0055】
正孔輸送層6に含有される溶媒は、高いイオン伝導性を有していてもよい。当該溶媒は、水系溶媒または有機溶媒であり得る。溶質の安定化の観点から、有機溶媒であることが望ましい。有機溶媒の例はTBP、ピリジン、またはn-メチルピロリドンのような複素環化合物である。
【0056】
正孔輸送層6に含有される溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体は、単独でまたは他の溶媒と混合されて用いられ得る。イオン液体は、低い揮発性および高い難燃性の点で望ましい。
【0057】
イオン液体の例は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートのようなイミダゾリウム化合物、ピリジン化合物、脂環式アミン化合物、脂肪族アミン化合物、またはアゾニウムアミン化合物である。
【0058】
図1に示されるように、太陽電池100では、基板1上に、第2電極2、電子輸送層3、多孔質層4、光電変換層5、正孔輸送層6、および第1電極7がこの順に積層されている。太陽電池100は、基板1を有していなくてもよい。太陽電池100は、電子輸送層3を有していなくてもよい。太陽電池100は、多孔質層4を有していなくてもよい。
【0059】
(基板1)
基板1は、第1電極7、正孔輸送層6、光電変換層5、多孔質層4、電子輸送層3、および第2電極2を保持する。基板1は、透明な材料から形成され得る。基板1の例は、ガラス基板またはプラスチック基板である。プラスチック基板の例は、プラスチックフィルムである。第2電極2が十分な強度を有している場合、第2電極2が、第1電極7、正孔輸送層6、光電変換層5、多孔質層4、および電子輸送層3を保持するので、太陽電池100は、基板1を有しなくてもよい。
【0060】
(第1電極7および第2電極2)
第1電極7および第2電極2は、導電性を有する。第1電極7および第2電極2からなる群から選択される少なくとも一方の電極は透光性を有する。透光性を有する電極を可視領域から近赤外領域の光が透過し得る。透光性を有する電極は、透明でありかつ導電性を有する材料から形成され得る。
【0061】
このような材料の例は、
(i) リチウム、マグネシウム、ニオブ、およびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化チタン、
(ii) 錫およびシリコンからなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化ガリウム、
(iii) シリコンおよび酸素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした窒化ガリウム、
(iv) インジウム-錫複合酸化物、
(v) アンチモンおよびフッ素からなる群から選択される少なくとも1つをドープした酸化錫、
(vi) ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムの少なくとも1種をドープした酸化亜鉛、または、
(vii) これらの複合物である。
【0062】
透光性を有する電極は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンの例は、線状、波線状、格子状、または多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列されたパンチングメタル状のパターンである。透光性を有する電極がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない材料の例は、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金である。導電性を有する炭素材料が透明でない材料として用いられてもよい。
【0063】
太陽電池100が、光電変換層5および第2電極2の間に電子輸送層3を具備している場合、第2電極2は、光電変換層5からの正孔に対するブロック性を有さなくてもよい。したがって、第2電極2の材料は、光電変換層5とオーミック接触可能な材料であってもよい。
【0064】
太陽電池100が電子輸送層3を具備していない場合、第2電極2は、例えば光電変換層5からの正孔に対するブロック性を有する材料で形成されている。この場合、第2電極2は、光電変換層5とオーミック接触しない。光電変換層5からの正孔に対するブロック性とは、光電変換層5で発生した電子のみを通過させ、正孔を通過させない性質のことである。正孔に対するブロック性を有する材料のフェルミエネルギーは、光電変換層5の価電子帯上端のエネルギー準位よりも高い。正孔に対するブロック性を有する材料のフェルミエネルギーは、光電変換層5のフェルミエネルギーよりも高くてもよい。正孔に対するブロック性を有する材料の例は、アルミニウムである。
【0065】
太陽電池100は、光電変換層5および第1電極7の間に正孔輸送層6を有しているので、第1電極7は、光電変換層5からの電子に対するブロック性を有さなくてもよい。この場合、第1電極7は、光電変換層5とオーミック接触していてもよい。
【0066】
光電変換層5からの正孔に対するブロック性を有する材料は、透光性を有さないことがある。光電変換層5からの電子に対するブロック性を有する材料もまた、透光性を有さないことがある。そのため、これらの材料を用いて第1電極7または第2電極2が形成されているとき、第1電極7または第2電極2は、光が第1電極7または第2電極2を透過するような上記のパターンを有する。
【0067】
第1電極7および第2電極2のそれぞれの光の透過率は、50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。電極を透過する光の波長は、光電変換層5の吸収波長に依存する。第1電極7および第2電極2のそれぞれの厚みは、例えば、1nm以上1000nm以下の範囲内にある。
【0068】
(電子輸送層3)
電子輸送層3は、半導体を含む。電子輸送層3は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体から形成されていることが望ましい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で電子輸送層3を形成することにより、可視光および赤外光を光電変換層5まで透過させることができる。半導体の例としては、有機または無機のn型半導体が挙げられる。
【0069】
有機のn型半導体の例は、イミド化合物、キノン化合物、フラーレン、またはフラーレンの誘導体である。無機のn型半導体の例は、金属酸化物、金属窒化物、またはペロブスカイト酸化物である。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。TiO2が望ましい。金属窒化物の例は、GaNである。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。
【0070】
電子輸送層3は、バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質によって形成されていてもよい。バンドギャップが6.0eVよりも大きな物質の例は、
(i) フッ化リチウムまたはフッ化カルシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物、
(ii) 酸化マグネシウムのようなアルカリ金属酸化物、または
(iii) 二酸化ケイ素である。この場合、電子輸送層3の電子輸送性を確保するために、電子輸送層3の厚みは、例えば、10nm以下であってもよい。
【0071】
電子輸送層3は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。
【0072】
(多孔質層4)
多孔質層4は、光電変換層5の形成を容易にする。光電変換層5の材料が、多孔質層4の空孔の内部にも侵入する。そのため、光電変換層5の材料が電子輸送層3の表面で弾かれたり、または凝集したりする可能性が小さくなる。したがって、多孔質層4が、光電変換層5の土台となり、そして光電変換層5を均一な膜として形成することができる。光電変換層5は、溶液をスピンコート法にて電子輸送層3上に塗布し、加熱することによって形成され得る。
【0073】
多孔質層4によって光散乱が起こる。そのため、光電変換層5を通過する光の光路長が増加し得る。光路長の増加は、光電変換層5中で発生する電子および正孔の量を増加させ得る。
【0074】
多孔質層4は、電子輸送層3の上に、例えば塗布法によって形成される。
【0075】
多孔質層4は、光電変換層5を形成するための土台となる。多孔質層4は、光電変換層5から第2電極2へ電子が移動することを阻害しない。
【0076】
多孔質層4は、多孔質体を含む。多孔質体の例は、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体である。絶縁性の粒子の例は、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素である。半導体の粒子の例は、無機半導体粒子である。無機半導体の例は、金属酸化物(ペロブスカイト酸化物を含む)、金属硫化物、または金属カルコゲナイドである。金属酸化物の例は、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、またはCrの酸化物である。TiO2が望ましい。ペロブスカイト酸化物の例は、SrTiO3またはCaTiO3である。金属硫化物の例は、CdS、ZnS、In2S3、SnS、PbS、Mo2S、WS2、Sb2S3、Bi2S3、ZnCdS2、またはCu2Sである。金属カルコゲナイドの例は、CdSe、CsSe、In2Se3、WSe2、HgS、SnSe、PbSe、またはCdTeである。
【0077】
多孔質層4の層さは、0.01μm以上10μm以下が望ましく、0.1μm以上1μm以下がさらに望ましい。また、多孔質層4の表面粗さは大きい方が望ましい。具体的には、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であることが望ましく、100以上であることがさらに望ましい。なお、投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。比表面積は、例えば窒素吸着法によって測定される。
【0078】
(太陽電池の作用効果)
次に、太陽電池100の基本的な作用効果を説明する。太陽電池100に光が照射されると、光電変換層5が光を吸収し、励起された電子および正孔を発生させる。励起された電子は、電子輸送層3に移動する。一方、光電変換層5で生じた正孔は、正孔輸送層6に移動する。電子輸送層3および正孔輸送層6は、それぞれ、第2電極2および第1電極7に電気的に接続されている。負極および正極としてそれぞれ機能する第2電極2および第1電極7から、電流が取り出される。
【0079】
(太陽電池100の製法)
太陽電池100は、例えば以下の方法によって作製することができる。
【0080】
まず、基板1の表面に第2電極2を、化学気相蒸着法(以下、「CVD法」という)またはスパッタ法により形成する。
【0081】
第2電極2の上に、電子輸送層3が、スピンコート法のような塗布法またはスパッタ法により形成される。
【0082】
電子輸送層3の上に、多孔質層4が、スピンコート法のような塗布法により形成される。
【0083】
多孔質層4の上に、光電変換層5が形成される。光電変換層5は、例えば、以下のように形成され得る。以下、一例として、HC(NH2)2SnI3(以下、「FASnI3」という)で表されるペロブスカイト化合物を含有する光電変換層5を形成する方法が説明される。
【0084】
まず、有機溶媒に、SnI2およびHC(NH2)2I(以下、「FAI」という)が添加され、混合液を得る。有機溶媒の例は、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)およびN,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)の混合物(体積比=1:1)である。
【0085】
SnI2のモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0086】
FAIのモル濃度は、0.8mol/L以上2.0mol/L以下であってもよく、0.8mol/L以上1.5mol/L以下であってもよい。
【0087】
次に、混合液は、40℃以上180℃以下の温度に加熱される。このようにして、SnI2およびFAIが溶解している混合溶液を得る。続いて、混合溶液は室温で放置される。
【0088】
次に、混合溶液を多孔質層4の上にスピンコート法にて塗布し、塗布膜を形成する。次いで、塗布膜は、40℃以上200℃以下の温度で、15分以上1時間以下の間、加熱される。これにより、光電変換層5が形成される。スピンコート法にて混合溶液が塗布される場合には、スピンコート中に貧溶媒を滴下してもよい。貧溶媒の例は、トルエン、クロロベンゼン、またはジエチルエーテルである。
【0089】
混合溶液は、フッ化スズのようなクエンチャー物質を含んでいてもよい。クエンチャー物質の濃度は、0.05mol/L以上0.4mol/L以下であってもよい。クエンチャー物質により、光電変換層5内に欠陥が生成することが抑制される。光電変換層5内に欠陥が生成する原因は、例えば、Sn4+の量の増加によるSn空孔の増加である。
【0090】
光電変換層5の上に、正孔輸送層6が形成される。正孔輸送層6の形成方法の例は、塗布法または印刷法である。塗布法の例は、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、またはスピンコート法である。印刷法の例は、スクリーン印刷法である。複数の材料を混合して正孔輸送層6を得て、次いで正孔輸送層6を加圧または焼成してもよい。正孔輸送層6の材料が有機の低分子体または無機半導体である場合には、真空蒸着法によって正孔輸送層6を作製してもよい。
【0091】
最後に、正孔輸送層6の上に、第1電極7が形成される。このようにして、太陽電池100が得られる。第1電極7は、CVD法またはスパッタ法により形成され得る。
【0092】
(実施例)
以下の実施例を参照しながら、本開示はより詳細に説明される。
【0093】
[実施例1]
実施例1では、
図1に示される太陽電池100が以下のように作製された。
【0094】
室内において、基板1および第2電極2として、インジウムによってドープされたSnO2層を表面に有する厚さ1mmの導電性ガラス基板(ジオマテック株式会社製)が用意された。ガラス基板およびSnO2層は、それぞれ、基板1および第2電極2として機能した。
【0095】
第2電極2上に、スパッタ法により、厚さ約10nmの酸化チタン層が形成された。この酸化チタン層は、電子輸送層3として機能した。
【0096】
次に、多孔質層4が室内において、以下のように形成された。
【0097】
平均1次粒子径30nmの高純度酸化チタン粉末(GreatCell Solar製)をエチルセルロース中に分散させた。このようにして、スクリーン印刷用の酸化チタンペーストが作製された。
【0098】
第2電極2の上に酸化チタンペーストが塗布され、塗布膜が形成された。塗布膜は、乾燥された後、空気中でさらに500℃で30分間焼成された。これによって、厚さ200nmの多孔質酸化チタン層が形成された。この多孔質酸化チタン層は、多孔質層4として機能した。
【0099】
次に、グローブボックス内において、SnI2(Sigma Aldrich製)、SnF2(Sigma Aldrich製)、およびFAI(GreatCell Solar製)を含有する溶液が調製された。当該溶液に含有されるSnI2、SnF2、およびFAIの濃度は、それぞれ、1.2mol/L、0.12mol/L、および1.2mol/Lであった。当該溶液の溶媒は、DMSOおよびDMFの混合物(DMSO:DMF=1:1(体積比))であった。
【0100】
そして、基板1、第2電極2、電子輸送層3、および多孔質層4で構成された積層体をグローブボックス内に移した。
【0101】
グローブボックス内で、多孔質層4上に、100μLの上記溶液がスピンコート法により塗布され、塗布膜を形成した。塗布膜は、40nmの厚みを有していた。溶液の一部は、多孔質層4の空孔の内部にも含浸していた。したがって、塗布膜の厚みは、多孔質層4の厚み(すなわち、200nm)を含んでいる。
【0102】
塗布膜は、グローブボックス内のホットプレート上で、80℃で30分間焼成され、光電変換層5を形成した。光電変換層5は、化学式FASnI3により表されるペロブスカイト化合物を主として含有していた。化学式FASnI3により表されるペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.5eVであった。化学式FASnI3により表されるペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-4.9eVであった。
【0103】
グローブボックス内で、MeO-TFATA(株式会社奥本研究所から購入)を12mg/mLの濃度で含むトルエン溶液が調製された。そして、MeO-TFATAを含むトルエン溶液が光電変換層5上にスピンコート法により塗布され、正孔輸送層6が形成された。
【0104】
最後に、グローブボックス内において、正孔輸送層6上に、100nmの厚みを有する金膜が蒸着され、第1電極7を形成した。そして、ガラス(大きさ:20mm角、厚み:1.1mm、株式会社イーエッチシー製)で挟んで、封止した。封止された太陽電池をグローブボックスから取り出した。このようにして、実施例1の太陽電池が得られた。なお、以下の各種測定および算出は、室内において行われた。
【0105】
[実施例2]
正孔輸送層6を形成するためのトルエン溶液を調製する工程において、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)LiTFSI(Sigma Aldrich製)を170mg/mLの濃度で含む、LiTFSIのアセトニトリル溶液が調製された。
(ii)(i)で示されるLiTFSIのアセトニトリル溶液、TBP(Sigma Aldrich製)、およびMeO-TFATAを含むトルエン溶液(LiTFSIのアセトニトリル溶液の濃度:5.25μL/mL、TBPの濃度:6.17μL/mL、およびMeO-TFATAの濃度:12mg/mL)が調製された。なお、(ii)で調製された溶液が、実施例1で用いたトルエン溶液に置き換えられた。
【0106】
[実施例3]
光電変換層5を形成する溶液の調製において、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)SnI2(Sigma Aldrich製)、SnF2(Sigma Aldrich製)、FAI(GreatCell Solar製)、およびCH6N3I(以下、「GAI」という)を含有する溶液(SnI2:1.2mol/L、SnF2:0.12mol/L、FAI:1.0mol/L、およびGAI:0.2mol/L)が調製された。
(ii)(i)で調製された溶媒は、DMSOおよびDMFの混合物(DMSO:DMF=1:1(体積比))であった。
【0107】
実施例3による光電変換層5は、化学式GA0.17FA0.83SnI3により表されるペロブスカイト化合物を主として含有していた。化学式GA0.17FA0.83SnI3により表されるペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-3.5eVであった。化学式GA0.17FA0.83SnI3により表されるペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位は、真空準位を基準として、-4.9eVであった。
【0108】
[実施例4]
正孔輸送層6の形成において、以下の点を除き、実施例3と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)正孔輸送層6の形成に用いられるトルエン溶液として、実施例2で用いられたトルエン溶液が用いられた。
【0109】
[比較例1]
正孔輸送層6の形成において、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)MeO-TFATAのトルエン溶液の代わりに、PTAA(入手元:Sigma Aldrich)を12mg/mLの濃度で含むトルエン溶液が調製された。本トルエン溶液が正孔輸送層6の形成に用いられた。
【0110】
[比較例2]
正孔輸送層を形成するためのトルエン溶液を調製する工程において、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)LiTFSI(Sigma Aldrich製)を170mg/mLの濃度で含む、LiTFSIのアセトニトリル溶液が調製された。
(ii)調製されたLiTFSIのアセトニトリル溶液、TBP(Sigma Aldrich製)、およびSpiro-OMETADを含むクロロベンゼン溶液(LiTFSIのアセトニトリル溶液の濃度:17.5μL/mL、TBPの濃度:20μL/mL、およびSpiro-OMETADの濃度:50mg/mL、)が調製された。なお、(ii)で調製された溶液が、実施例1で用いたトルエン溶液に置き換えられた。
【0111】
[比較例3]
正孔輸送層6の形成に用いられたトルエン溶液について、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)MeO-TFATAのトルエン溶液の代わりに、P3HT(Sigma Aldrich製)を10mg/mLの濃度で含む、P3HTのトルエン溶液が調製された。本トルエン溶液が正孔輸送層6の形成に用いられた。
【0112】
[比較例4]
正孔輸送層6を形成するためのトルエン溶液を調製する工程において、以下の点を除き、実施例1と同様の方法で太陽電池が得られた。
(i)LiTFSI(Sigma Aldrich製)を170mg/mLの濃度で含む、LiTFSIのアセトニトリル溶液が調製された。
(ii)調製されたLiTFSIのアセトニトリル溶液、TBP(Sigma Aldrich製)、およびP3HTを含むトルエン溶液(LiTFSIのアセトニトリル溶液の濃度:5.25μL/mL、TBPの濃度:6.17μL/mL、およびP3HTの濃度:10mg/mL)が調製された。なお、(ii)で調製された溶液が、実施例1で用いたトルエン溶液に置き換えられた。
【0113】
[光電変換効率の測定]
実施例1から4および比較例1から4による太陽電池に、ソーラーシミュレータ(分光計器株式会社製、「OTENTO-SUN V 擬似太陽光装置」)を用いて100mW/cm2の照度を有する擬似太陽光を照射して、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、および曲線因子(FF)を求めた。次いで、Voc、Jsc、およびFFの値から、「関係式:変換効率=(Voc×Jsc×FF)/(入射光のエネルギー)」を用いて、各太陽電池の光電変換効率を算出した。表1は、Voc、Jsc、FF、および光電変換効率を示す。
【0114】
[光電変換層5に含有されるペロブスカイト化合物の伝導帯下端および価電子帯上端のエネルギー準位の算出]
各実施例および比較例において、基板1、第2電極2、電子輸送層3、多孔質層4、および光電変換層5から構成されるサンプルが用意された。サンプルは、正孔輸送層6および第1電極7を具備していなかった。すなわち、光電変換層5の表面が露出していた。
【0115】
サンプルに含まれる光電変換層5に含まれるペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位は、以下のように、紫外電子分光測定法および透過率測定法により測定された。
【0116】
各サンプルは、紫外電子分光測定装置(アルバック・ファイ株式会社製、商品名:PHI 5000 VersaProbe)を用いる紫外電子分光測定に供され、各スズ系ペロブスカイト化合物の価電子帯上端のエネルギー準位の値が得られた。
【0117】
各サンプルは、透過率測定装置(株式会社島津製作所製、商品名:SlidSpec-3700)を用いる透過率測定に供され、次いで透過率測定の結果から各スズ系ペロブスカイト化合物のバンドギャップの値が得られた。
【0118】
このようにして得られた価電子帯上端のエネルギー準位およびバンドギャップの値に基づいて、ペロブスカイト化合物の伝導帯下端のエネルギー準位が算出された。
【0119】
【0120】
表1から明らかなように実施例1から4による太陽電池は、スズ系ペロブスカイト化合物を含有する光電変換層5およびMeO-TFATAを含有する正孔輸送層6を備えている。したがって、実施例1から4による太陽電池では、2.5%を超える高い光電変換効率が得られた。一方、比較例1から4による太陽電池は、スズ系ペロブスカイト化合物を含有する光電変換層5およびMeO-TFATAを含有しない正孔輸送層6を備えている。比較例1から4による太陽電池は、1.2%以下の低い光電変換効率しか得られなかった。
【0121】
実施例2と実施例1との比較、および、実施例4と実施例3との比較から明らかなように、MeO-TFATAにLiTFSIが添加された正孔輸送層6を備える太陽電池は、LiTFSIが添加されない正孔輸送層6を備える太陽電池よりも、高い光電変換効率を有する。一方、比較例4と比較例3との比較から明らかなように、MeO-TFATAとは異なる別の正孔輸送材料(すなわち、比較例3および4ではP3HT)が用いられ、かつMeO-TFATAが含有されていない正孔輸送層6に対してLiTFSIが添加された場合、光電変換効率は低下する。これらの結果から、スズ系ペロブスカイト太陽電池において、正孔輸送層にLiTFSIが添加されることによって光電変換効率向上の効果が得られるのは、正孔輸送層がMeO-TFATAを含有している場合であるということがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本開示の太陽電池は、例えば、屋根上に設置する太陽電池として有用である。
【符号の説明】
【0123】
1 基板
2 第2電極
3 電子輸送層
4 多孔質層
5 光電変換層
6 正孔輸送層
7 第1電極
100 太陽電池