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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】便器装置
(51)【国際特許分類】
   E03D 9/00 20060101AFI20241122BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20241122BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
E03D9/00 Z
E03D11/02 Z
A61B5/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020148783
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043486
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 健志
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-229315(JP,A)
【文献】特開2018-146244(JP,A)
【文献】特開2018-143269(JP,A)
【文献】特開2002-266407(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0153414(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111305338(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/00-9/16
A61B 5/00-5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボウルと、
前記ボウル内に落下する便について、落下便の上下方向の落下軌跡と略直交する仮想検出面と、
前記仮想検出面における前記落下便の幅寸法情報を含む通過情報を検出する通過検出部と、
前記通過検出部が検出した前記落下便の前記通過情報を周期的に時系列で収集し、それらの通過情報にもとづいて前記落下便の便形態を特定する便判定部と、を備え、
前記通過検出部は2つまたは3つのセンサを有してなることを特徴とする便器装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記便判定部は、前記落下便が、性状分類による複数のモデル便のうちのいずれに近似しているかを、前記落下便について時系列に収集した前記通過情報をもとにして判定することを特徴とする便器装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
記センサは電波式センサとされることを特徴とする便器装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、
前記センサには、前記仮想検出面における前記便の前記幅寸法情報を検出する2つの第1センサが含まれ、それらの第1センサが2側面の前記幅寸法情報を測定できるようにしたことを特徴とする便器装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記センサには、前記落下便の落下速度を検出する第2センサがさらに含まれていることを特徴とする便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボウル内に落下してくる便(大便)の形態を特定することができる便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、排泄された便による健康観察が可能な便器装置が多く提案されている。特許文献1に記載された便器装置は、便の性状を推定するために画像センサ(カメラ)を用いて落下便の静止画像を取得するように構成されている。また、この文献技術は、使用者のプライバシーを保護するために、撮影した画像のうちの使用者の身体に相当する画像領域をマスキングするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-137707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、使用者の身体だけではなく排泄される便もプライバシーに関するものであり、使用者によっては、たとえ身体部分がマスキングされたとしても、便が撮影されることや、さらにトイレ室や便器にカメラを設置することに抵抗を感じる者もいる。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、トイレ室における使用者のプライバシーを配慮したうえで、使用者の排泄物の形態の特定を可能とした便器装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の便器装置は、ボウルと、前記ボウル内に落下する便について、前記落下便の上下方向の落下軌跡と略直交する仮想検出面と、前記仮想検出面における前記落下便の幅寸法情報を含む通過情報を検出する通過検出部と、前記通過検出部が検出した前記落下便の前記通過情報を周期的に時系列で収集し、それらの通過情報にもとづいて前記落下便の便形態を特定する便判定部と、を備え、前記通過検出部は2つまたは3つのセンサを有してなることを特徴とする。

【発明の効果】
【0007】
本発明の便器装置は上述した構成とされるため、トイレ室における使用者のプライバシーを配慮したうえで、使用者が排泄した便の形態の特定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る便器装置の説明図であり、(a)は基本ブロック図、(b)は概略縦断面図である。
図2】(a)(b)は、仮想検出面における通過情報の検出アルゴリズムの説明図である。
図3】(a)(b)は、形状が異なる2例の落下便に関する時系列通過情報データを表した模式図である。
図4】他の2例の落下便の形状を特定するための説明図である。(a)は第1例の落下便を時系列通過情報データで表した模式図、(b)はその第1例の概略時系列通過情報データにより検出される概略便形状を示す図である。(c)は第2例の落下便を時系列通過情報データで表した模式図、(d)はその第2例の概略時系列通過情報データにより検出される概略便形状を示す図である。
図5】(a)は落下便の性状分類表、(b)は(a)の性状を決定するための性状(モデル便)/パラメータ対応表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面をもとに説明する。なお、明細書および特許請求の範囲では、大便をたんに便5と記述し、小便については尿と記述する。排泄されボウル14内に落下する便5については、落下便5とも記述する。
まず、実施形態に係る便器装置1の基本構成について説明する。
【0010】
便器装置1は、ボウル14を備え、そのボウル14内に落下する便5について、落下便5の上下方向の落下軌跡と略直交する仮想検出面32と、この仮想検出面32における落下便5の幅寸法情報を含む通過情報を検出する通過検出部31とを備えている。便器装置1はさらに、通過検出部31が検出した落下便5の通過情報を周期的に時系列で収集し、それらの通過情報にもとづいて落下便5の便形態を特定する便判定部33を備えている。
ついで便器装置1の詳細について説明する。
【0011】
便器装置1は、トイレ空間内の床3や壁などに固定される腰掛式の洋風便器装置である。この便器装置1の便器本体10は、上方に向けて開口したボウル14がスカート部11に囲まれるように内装され、ボウル14の上側にはボウル12の開口面に対し起倒自在とした、相互に同一の回転軸とした便座12、便蓋13を備えている。
【0012】
スカート部11の内部空間には、給水口16からボウル12内に洗浄水を供給しボウル12内を洗浄する便器洗浄部17が配されている。この便器洗浄部17は給水機構と排水機構とを有する。
【0013】
給水機構は、給水口16と、水道管(不図示)から供給される洗浄水をボウル14内に給水口16を通じて供給する洗浄水供給路18と、洗浄水供給路18の途中に配されている、ボウル14への洗浄水を供給または遮断する給水弁19とを備えている。
【0014】
本実施形態に係る便器装置1の排水機構は、可動式のトラップ20を有した構造である。このトラップ20は、駆動機構23によって矢印方向に回動されて排水状態または封水状態を形成する。図例のトラップ20は封水状態での位置にあり、排水状態ではトラップ20の開放端側の排水口21が排出口24を向くように回転動作する。なおトラップ20はトラップケース22に囲まれて、汚水や臭気が外部に漏れないようになっている。または排水機構としては、サイホン式やサイホンゼット式、サイホンボルテックス式、洗い落とし式などであってもよい。
【0015】
また、図例では、便器装置1が、水洗タンク(ロータンク)を備えていない、水道直結式のタンクレスタイプとされた例を示しているが、水洗タンクを備えた構成としてもよい。
【0016】
また本便器装置1は、電気的動作を実行するために、CPUやMPUなどのプロセッサ30で構成される中央処理ユニットを備えている。このプロセッサ30は、各種プログラムを実行しながら各部を制御し、各部より信号を入力し、さらに種々さまざまな情報処理を行う。
【0017】
この便器装置1には、落下便5の通過を検出するための仮想的な面(上述の仮想検出面32)を備えている。仮想検出面32は、本実施形態では、ボウル14の上部開口部分に、図1の2点鎖線で示すリム15の高さ位置に仮想的に配されている。
【0018】
また、便器装置1は上述したように通過検出部31を備えている。通過検出部31は、センサを含んで構成され、本実施形態では電波式センサよりなる第1センサ31aと、電波式センサよりなる第2センサ31bとを備えている。第1センサ31aはリム15(リム15内の空洞部)に設けてあり、第2センサ31bは第1センサ31aよりも高さ位置がやや低い位置の、ボウル14の外面に設けてある。
【0019】
なお、これらのセンサは電波式センサであり、送出される電波がボウル14の壁を通過(透過)するものを用いることが望ましい。そのような電波式センサを用いれば、ボウル14内の洗浄水に接触しないような上記部位に設置することができ、それによりセンサの汚れの付着や不具合の発生、それらによる劣化を防止することができる。なお、洗浄水が接触しない位置であれば、ボウル14の内面にセンサを取りつけてもよい。また、便5のみを判別対象とするならば、電波が尿も通過するような電波センサを用いることが望ましい。
【0020】
第1センサ31aは、排泄され落下する便5の仮想検出面32における幅寸法情報を検出するセンサである。例えば、電波が設置面(床3面)に略平行に送出されるように第1センサ31aを設置するとすれば、仮想検出面32は第1センサ31aと略同高さ位置に配されることが望ましい。図2(a)は、第1センサ31aと、仮想検出面32と、仮想検出面32を通過する便5との位置関係を模式的に示した斜視図である。
【0021】
図2(a)に示すように、第1センサ31aは電波による計測により便5の正面(1側面)の幅寸法情報を測定、算出することが可能とされる。後述するように、幅寸法情報にもとづいて1個の落下便5の全体形状や体積をより正しく検出することを考慮すれば、2側面の幅寸法情報を測定できるように第1センサ31aを2つ設けることが望ましい。つまり、第1センサ31aが2つあれば、便5の断面積をより正しく算出することができる。
【0022】
この第1センサ31aは、送出する電波と、便5表面に当たって反射して戻ってくる反射波とを利用して仮想検出面32を通過する物体(便5)の有無を単位面32a(仮想検出面32の1単位)ごとに検出し、幅寸法情報を検出する構成とされている。この幅寸法情報は、実際の寸法、つまりmm(ミリメートル)やcm(センチメートル)で表されるものであることが望ましいが、この便器装置1特有の単位で表現できるものであってもよい。
【0023】
例えば、図2(a)に示した小正方形面を1単位面32aとし、その1辺の長さを「1辺長」(「辺長」は仮に取り決めた単位)で表し、便5の幅寸法を1辺長の整数倍で表現するようにしてもよい。この1辺長をあらかじめ、例えば1辺長=3mm、5mm、10mmなどと数値で決めておけば、最終的に便5の寸法を算出することができる。なお、第1センサ31aが1つである場合はもちろん、たとえ2つであっても、算出した幅寸法や体積に誤差を生じる可能性があることはいうまでもない。
【0024】
この第1センサ31aは、周期的に仮想検出面32での便5の検出(幅寸法情報の検出)を行う。図2(a)は、単位時間間隔ごとに検出した、仮想検出面32に対する便5の落下状態を模式的に示した図である。ここで、図2(b)のt、t、・・・t、・・・tは単位時間間隔ごとの時間である。
【0025】
この第1センサ31aによれば、幅寸法情報(太さ)の検出の他、1個の便5の体積、1個の便5の仮想検出面32の通過時間の算出が可能となる。また、1回の排便での最初の便5の通過開始から最後の便5の通過終了までの合計時間、1回の排便での便5の個体数、1回の排便での複数の便5の合計体積などの算出も可能となる。ここで、例えば着座センサ36のオンからオフまでに排泄される便5を、1回の排便と特定すればよい。
【0026】
第2センサ31bは、便5の先端(下端)に電波を当て、送出波と反射波とにより便の落下速度を算出するものである。例えば、tのタイミングで、仮想検出面32に到達した便5の先端に電波を当て、落下速度を検出すればよい。このように検出した落下速度を、仮想検出面32ごとの落下速度として通過情報の落下速度に割り当てればよい。
【0027】
また、落下速度は、図2(b)中、t~tのすべてのタイミングで計測して、単位時間間隔ごとに変化する落下速度を検出できるようにしいてもよい。なお、そのためには、高さ位置が変化する便5の先端に対応できるように、送出方向を可変となるように第2センサ31bを設ければよい。
【0028】
また便器装置1は、通過検出部31で検出した通過情報のデータや、便判定部33で特定した便形態に関するデータなどを保存する記憶部34、便座12に対する人の着座、離座を検知する着座センサ36、および操作部35をさらに備えている。
【0029】
便判定部33はプログラムを含んで構成され、通過検出部31で検出された通過情報にもとづく便形態を特定するための種々の情報処理を、プロセッサ30と協働しながら実行する。
【0030】
つぎに、便判定部33が、通過検出部31が検出した通過情報などにもとづいて行う便形態の特定方法について記述する。まず、通過情報(幅寸法情報)の時系列収集データについて図3を参照して説明する。
【0031】
図3(a)(b)は、形状が異なる2例の落下便5の時系列通過情報データを模式的に表した図である。t~t18は検出タイミングであり、t、tk+1間の時間間隔は、例えば第1センサ31aの検出周期を50msecとした場合、50msecとされる。
【0032】
図3(a)(b)における最小の長方形で表された1ブロックが、上述した1単位面32a(図2(a)参照)に相当し、横1列の全ブロックが仮想検出面32に相当する検出結果部位である。仮想検出面32は厚みのあるものではないが、これらの図には便宜上、長方形状に図示し、仮想検出面32、単位面32aと同一の符号を付した。
【0033】
図3中、クロスハッチングが付されたブロックは便5が検出された単位面32aである。例えば図3(a)の例では、tのタイミングで3辺長の幅寸法の単位面32aで便5が検出され、tのタイミングで2辺長の幅寸法の単位面32aで便5が検出されている。図3(a)の例では、便5が検出されないタイミングが多くあり、これにより便判定部33は便5が分離状態に排泄されていることを判定することができる。図3(b)の例では、便判定部33は、落下便5が上下方向に長く連続的であることを判定することができる。
【0034】
また、便判定部33は第2センサ31bで検出した落下速度を用いることで、便5の体積を算出することもできる。なお、体積を算出するにあたり、便5の概略形状を円柱の積み重ねであると仮定する。つまり、検出タイミングでの便5の横断面を円形と仮定する。
【0035】
例えば、任意のタイミングtからtk+1までの50msec間に移動する体積Vol(単位:mm)は、tのタイミングで検出した幅寸法をx(単位:mm。辺長をもとに換算したもの)とし、落下速度をv(単位:mm/sec)とする。また、幅寸法xは直径に相当する。よって、
Vol(単位時間当たりの体積)=(x/2)×π×v×(50/1000)
この式で算出することができる。
【0036】
したがって、便5全体の体積(単位:mm)は、落下速度を一定のv(単位:mm/sec)とした場合、
Vol(全体の体積)={(x/2)+(x/2)+・・・+(x/2)}×π×v×(50/1000)
この式で算出することができる。
【0037】
また、検出タイミングでの便5の横断面を正方形と仮定すれば、便5全体の体積は、
Vol(全体の体積)=(x +x +・・・+x )×v×(50/1000)
この式で算出することができ、
2つの第1センサ31aを用いた場合には、検出タイミングでの便5の横断面を2つの幅寸法にもとづく長方形と仮定し、他の幅寸法をy(単位:mm)とすれば、便5全体の体積は、
Vol(全体の体積)={(x×y)+(x×y)+・・・+(x×y)}×v×(50/1000)
この式で算出することができる。
【0038】
また、検出タイミングごとの落下速度を検出できた場合には、検出タイミングでの便5の横断面を円形と仮定すれば、便5全体の体積は、
Vol(全体の体積)={(x/2)×π×v}+{(x/2)×π×v}+・・・+{(x/2)×π×v}×(50/1000)
この式で算出することができる。
【0039】
このように本便器装置1は、体積を算出するうえで便5の横断面形状を円形、正方形などと仮定するものであり、そのような仮定において体積を算出することができる。したがって、算出された体積は精緻な値ではないが、相対的に比較するうえでは問題なく利用できる。また、単位面をより小さいものとすれば正確な値に近づけることができる。
【0040】
また、第2センサ31bにより検出された落下速度を用いることで、便5の体積を算出できるだけでなく、便5の全体の正面視形状も特定することができる。これについて、図4を参照しながら説明する。図4(a)(c)は、2例の便5の時系列通過情報データを模式的に表した図である。
【0041】
図4(a)に対応した便は検出タイミングt~t(計5回)において検出されている一方、図4(c)に対応した便5は検出タイミングt~t10(計10回)において検出されている。しかし、この情報からだけでは両方の便5の体積や形状の差異を判別することはできない。上述したように、幅寸法情報に落下速度を加味することで体積を算出することができ、さらに便5の全体形状を特定することもできる。
【0042】
具体的には、図4(a)と図4(c)とを比較すると、
図4(a)のt: 2辺長、図4(c)のt、t: 2辺長
図4(a)のt、t: 3辺長、図4(c)のt~t: 3辺長
図4(a)のt: 2辺長、図4(c)のt、t: 2辺長
図4(a)のt: 1辺長、図4(c)のt、t10: 1辺長
となっている。つまり、図4(c)における便5が検出されたクロスハッチング部分は、図4(a)における便5が検出されたクロスハッチング部分を上下に引き伸ばしたような形状となっている。
【0043】
本図例において、落下速度については、図4(a)に対応した便5の落下速度が、図4(c)に対応した便5の落下速度の2倍であるとする。このような落下速度を前提とすれば、上記式で計算することで両方の体積は一致し、さらに図4(b)(d)に示すように、両者の形状が略一致していることも判定される。
【0044】
以上のようにして、幅寸法情報および落下速度を含む通過情報をもとにして、便5の体積や形状などの便形態を特定することができる。また、上述したように、1個の便5の通過時間、1回の排便における最初の便5の通過開始から最後の便5の通過終了までの合計時間、および1回の排便での便5の個体数なども算出される。1個の便5の体積が算出されるため、1回の排便での便5の全体量も算出することができる。
【0045】
本便器装置1では、落下便5がどのような性状であるかについても特定することができる。つまり、便5の性状も便判定部33が特定する便形態に含まれる。以下、性状の特定方法について、図5を参照しながら説明する。
【0046】
図5(a)は、便5の性状ごとに複数のモデル便7を対応させた性状分類表である。性状は以下のように区分されている。
【0047】
NO.1 コロコロ便(硬くてコロコロの兎糞状の便)
NO.2 硬い便(ソーセージ状の硬い便)
NO.3 やや硬い便(表面にひび割れのあるソーセージ状の便)
NO.4 普通便(表面が滑らかで柔らかいソーセージ状、あるいはとぐろを巻く便)
NO.5 やや柔らかい便(はっきりとしわのある柔らかい半固形便)
NO.6 泥状便(境界がほぐれて、不定形の小片泥状便)
NO.7 水様便(水様で、固形物を含まない液体状の便)
【0048】
この性状分類表によれば、図3(a)に示した便5はコロコロ便(NO.1)であり、図3(b)で示した便5は普通便(NO.4)であることが想定される。
【0049】
本便器装置1は、通過情報などにより、上記の複数の性状(モデル便7)のうちのいずれであるか、またはいずれに近似しているかを判定できるのである。つまり本便器装置1では、便判定部33は、落下便5が、性状分類による複数のモデル便7のうちのいずれに近似しているかを、落下便5について時系列に収集した通過情報をもとにして判定している。
【0050】
具体的には、便判定部33は、図5(b)に示した性状/パラメータ対応表を用いて近似のモデル便7を決定している。パラメータは通過情報をもととして得た種々の要素であり、本例ではパラメータとして、(a)1個の便5の仮想検出面32における通過時間、(b)落下速度、(c)太さ(幅寸法の平均値)、(d)仮想検出面32を通過した便5の個体数が含まれる。
【0051】
(a)通過時間については長・短、(b)落下速度については速・中(自由落下程度)・遅、(c)太さについては太・中・細、(d)個体数については多・少などのように、複数のパラメータ値で判別できるようにすればよい。また、図5(b)の対応表で白抜き矢印で示しているように、例えば通過時間の長・短をさらに細かく分けて、より多くのパラメータ値で判別できるようにしてもよい。なお、これらのパラメータ値は、個体数が5個以上であれば多、5未満であれば少、などのように数値を基準として定義することが望ましい。
【0052】
この対応表によれば、例えば、通過時間が長く、かつ落下速度が遅く、かつ太さが中ぐらいで、かつ個体数が少ない場合、便判定部33は、性状は普通便(NO.4)と判定する。また、通過時間がやや短く、落下速度が速く、太さが細く、個体数がやや多めの場合、性状は泥状便(NO.6)と判定される。
【0053】
図5(b)の対応表や、それに用いられるパラメータ値(の定義に用いられる境界値)は、記憶部34にテーブルとして登録しておき、便判定部33がそのテーブルにもとづく処理により性状を決定すればよい。もちろん、対応表を記憶部34にテーブル化せず、プログラムロジックにて判別するようにしてもよい。より複雑な組み合わせで性状を判断する場合は、プログラムロジックで判定することが望ましい。
【0054】
なお、対応表は図5(b)のものに限るものではない。例えば、「1回の排便での最初の便5の通過開始から最後の便の通過終了までの合計時間」をパラメータとして用いてもよい。コロコロ便の場合、1個ごとの便5の通過時間は短いが、硬い便であるため、すべての便5が排泄されるには時間を要することを想定でき、その合計時間をパラメータとして加えれば、より的確に判定することができる。
【0055】
以上のように、落下便5の通過情報およびそれをもとに算出した情報をもとにすれば、便判定部33は、撮像画像がなくても、近似したモデル便7、つまり便5の性状を判別することができる。
【0056】
このように本便器装置1は、仮想検出面32での便5の通過情報を時系列に収集しているので、カメラによる撮像手段を用いなくとも、排泄された便5の形状、寸法、体積、性状などの便形態を特定することができる。その結果、きめ細かな健康観察を実現することができる。もちろん、ボウル14内に排泄された便5を直接目視する必要もなく、病院や介護施設などで、医師や看護師、介護ヘルパーなどが多くの対象者の便5を効率的に確認することができる。
【0057】
また、本実施形態の便器装置1はカメラを用いていないため、使用者のプライバシーは保護される。また、カメラに代えて電波式センサを用いているため、カメラにくらべ、外乱光が溜め水に反射することなどによるノイズの発生を少なくすることができ、ミスの少ない便形態の特定を実現することができる。
【0058】
また、尿を便5と同様に検出してしまう電波式センサを用いた場合、仮想検出面32における検出位置や幅寸法情報、落下速度などで尿であることを特定し、それを除外して便5のみを対象とすることが望ましい。
【0059】
また、本便器装置1は対象を便5としてその形態を特定するものであるが、さらに尿をも対象として形態を特定するものであってもよい。その場合、通過検出部31が尿を検出できるようにする必要があることはいうまでもない。
【0060】
なお、仮想検出面において通過情報を検出する通過検出部は電波式センサでなくてもよい。仮想検出面ごとに形状、数値を得られるものであれば他の手段(カメラでもよい)を用いてもよい。落下速度を検出するためには振動センサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 便器装置
5 便、落下便
7 モデル便
10 便器本体
14 ボウル
15 リム
31 通過検出部
31a 第1センサ
31b 第2センサ
32 仮想検出面
33 便判定部

図1
図2
図3
図4
図5