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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/08 20060101AFI20241122BHJP
   H01G 2/10 20060101ALI20241122BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01G9/08 C
H01G2/10 K
H01G9/15
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021012480
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115734
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 将一
(72)【発明者】
【氏名】ホウ ブン
(72)【発明者】
【氏名】島崎 幸博
(72)【発明者】
【氏名】栗田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】上田 さおり
(72)【発明者】
【氏名】後藤 公平
(72)【発明者】
【氏名】村中 隆則
(72)【発明者】
【氏名】八並 隆浩
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/246505(WO,A1)
【文献】特開2015-073097(JP,A)
【文献】特開2008-222815(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0392996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/08
H01G 2/10
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子と、前記コンデンサ素子の周囲に配置された外装体とを含む電解コンデンサであって、
前記コンデンサ素子の表面の少なくとも一部を覆うように配置されたコーティング層であって、前記コンデンサ素子の前記表面および前記外装体の両方と接触するコーティング層をさらに含み、
前記コーティング層は、ケイ素化合物と第1のエポキシ樹脂とを含み、
前記ケイ素化合物は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、前記アルコキシ基以外の官能基とを含有するアルコキシシランおよび前記アルコキシシランの反応生成物から選択される少なくとも一種であり、
前記外装体は第2のエポキシ樹脂を含む、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記官能基はアルキル基である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記コンデンサ素子は、陽極体と、一部が前記陽極体に埋設されている陽極ワイヤと、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された電解質層と、前記電解質層の少なくとも一部を覆うように配置された陰極引出層とを含み、
前記コンデンサ素子の表面のうち前記陰極引出層で覆われていない表面の少なくとも一部を覆うように前記コーティング層が配置されている、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記コーティング層は、前記陰極引出層の少なくとも一部の表面も覆うように配置されている、請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第1のエポキシ樹脂と前記第2のエポキシ樹脂とは、同じエポキシ樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、様々な電子機器に搭載されている。電解コンデンサの要部であるコンデンサ素子は、陽極体、誘電体層、および電解質層を含む。コンデンサ素子は、酸素ガスや水分と触れることによって特性が低下する。特に、電解質層は、酸素ガスや水分の影響による劣化が大きい。
【0003】
コンデンサ素子の周囲は、樹脂を含む外装体で覆われている。しかし、外装体でコンデンサ素子を覆っても、様々な経路で酸素ガスや水分が侵入して電解質層が劣化する。このような劣化を抑制するための方策が従来から提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特許第6426962号明細書)は、「焼結多孔質アノード体と、前記アノード体を覆う誘電体と、前記誘電体を覆う固体電解質と、前記固体電解質を覆う湿気バリア層とを含み、前記固体電解質が、導電性ポリマーと、金属原子に結合した少なくとも1つの反応性基を有する有機鎖を含む有機金属カップリング剤とを含み、さらに前記湿気バリア層が疎水性エラストマーを含む、コンデンサ素子と、前記アノード体と電気的に接続するアノード端子と、前記固体電解質と電気的に接続するカソード端子と、を備えることを特徴とする固体電解コンデンサ。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6426962号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、電解コンデンサの信頼性のさらなる向上が求められている。このような状況において、本開示は、信頼性が高い電解コンデンサを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、電解コンデンサに関する。当該電解コンデンサは、コンデンサ素子と、前記コンデンサ素子の周囲に配置された外装体とを含む電解コンデンサであって、前記コンデンサ素子の表面の少なくとも一部を覆うように配置されたコーティング層であって、前記コンデンサ素子の前記表面および前記外装体の両方と接触するコーティング層をさらに含み、前記コーティング層は、ケイ素化合物と第1のエポキシ樹脂とを含み、前記ケイ素化合物は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、前記アルコキシ基以外の官能基とを含有するアルコキシシランおよび前記アルコキシシランの反応生成物から選択される少なくとも一種であり、前記外装体は第2のエポキシ樹脂を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、信頼性が高い電解コンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の電解コンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本開示の電解コンデンサの他の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示に係る電解コンデンサの実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の電解コンデンサの構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。
【0011】
(電解コンデンサ)
本実施形態の電解コンデンサは、コンデンサ素子と、コンデンサ素子の周囲に配置された外装体とを含む。当該電解コンデンサは、コンデンサ素子の表面の少なくとも一部を覆うように配置されたコーティング層であって、コンデンサ素子の表面および外装体の両方と接触するコーティング層をさらに含む。コーティング層は、ケイ素化合物と第1のエポキシ樹脂とを含む。当該ケイ素化合物を、以下では、「ケイ素化合物(C)」と称する場合がある。ケイ素化合物(C)は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、前記アルコキシ基以外の官能基とを含有するアルコキシシランおよび当該アルコキシシランの反応生成物から選択される少なくとも一種である。外装体は第2のエポキシ樹脂を含む。
【0012】
上述したように、電解コンデンサの信頼性を向上させるには、酸素ガスや水分がコンデンサ素子(特に電解質層)に到達することを抑制することが重要である。酸素ガスや水分は、特に、コンデンサ素子と外装体との界面から侵入する場合が多い。そのため、それらの界面におけるバリアが重要である。
【0013】
検討の結果、本願発明者らは、コンデンサ素子と外装体との間に、特定のコーティング層を配置し、さらに特定の外装体を用いることによって、ESR(等価直列抵抗)の経時的な上昇(例えば高温下における経時的な上昇)を大幅に抑制できることを新たに見出した。本開示は、この新たな知見に基づく。
【0014】
本開示で用いられるコーティング層は、ケイ素化合物(C)(アルコキシシランおよび/またはアルコキシシランの反応生成物)を含む。ケイ素化合物(C)は、金属などの無機物の表面に化学吸着しやすいため、陽極体や陽極リードとの密着力が高い。また、コーティング層および外装体は共にエポキシ樹脂を含むため、両者は高い結合力で密着する。さらに、ケイ素化合物(C)に含有されるアルキル基は、炭素鎖を含むエポキシ樹脂との親和性を高める効果をもたらす。これらの理由から、本開示の電解コンデンサでは、コンデンサ素子と外装体との界面を介した酸素ガスや水分の侵入を特に抑制できる。
【0015】
(ケイ素化合物(C))
上述したように、ケイ素化合物(C)は、アルコキシシランおよびアルコキシシランの反応生成物から選択される少なくとも一種である。当該アルコキシシランは、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、当該アルコキシ基以外の官能基とを含有する。アルコキシシランは、アルコキシシリル基を含有する。上記官能基は、アルコキシシリル基を構成するケイ素原子に直接結合していてもよいし、当該ケイ素原子に他の原子団(例えば鎖状構造)を介して結合していてもよい。
【0016】
上記官能基の好ましい例には、アルキル基が含まれる。例えば、アルコキシシリル基を構成するケイ素原子にアルキル基が結合していてもよい。例えば、アルコキシシリル基のケイ素原子に結合している主鎖がアルキル鎖であってもよい。上記官能基として用いられるアルキル基の炭素数は、1~20の範囲(例えば1~10の範囲)にあってもよい。本発明の効果が得られる限り、ケイ素化合物(C)は、アルキル基以外の官能基を含んでもよい。ケイ素化合物(C)の重量平均分子量に特に限定はなく、100~600の範囲(例えば100~300の範囲)にあってもよい。ケイ素化合物(C)は、一種の化合物で構成されてもよいし、複数種の化合物を含んでもよい。
【0017】
ケイ素化合物(C)のケイ素原子(アルコキシシリル基中のケイ素原子)には、アルキル基を含む鎖状構造が結合していてもよい。例えば、アルコキシシリル基には、アルキル基を含む炭化水素鎖が結合していてもよい。当該鎖状構造には、アルキル基以外の官能基が結合していてもよい。
【0018】
アルコキシシリル基は、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、およびトリアルコキシシリル基からなる群より選択される少なくとも1種であってよいが、ジアルコキシシリル基および/またはトリアルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基に含まれるアルキル基(アルコキシ基を構成するアルキル基)の例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが含まれる。ジアルコキシシリル基やトリアルコキシシリル基を有する化合物は、加水分解縮合によってポリシロキサン結合を生じる。また、アルコキシシリル基は、水の存在下における加熱などによってシラノール基(-Si-OH)に変化させることが可能である。すなわち、ケイ素化合物(C)の反応生成物の例には、アルコキシシリル基がシラノール基に変化した化合物が含まれる。シラノール基が無機物(例えば金属)の表面に存在する水酸基と反応することによって、ケイ素化合物(C)の反応生成物が無機物の表面に化学結合する。そのため、ケイ素化合物(C)の反応生成物は、無機物(例えば金属)の表面に強く吸着する。
【0019】
アルコキシシリル基がモノアルコキシシリル基またはジアルコキシシリル基である場合、アルコキシシリル基のケイ素原子に結合しているアルコキシ基以外の他の基の例には、水素原子や炭素数が比較的少ないアルキル基(例えば炭素数が4以下のアルキル基)が含まれる。
【0020】
ケイ素化合物(C)は、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を含んでもよい。ケイ素化合物(C)は、ポリシロキサン結合を含んでもよい。ポリシロキサン結合は、シロキサン結合が繰り返された結合であり、(-Si-O)(nは繰り返しを表す2以上の自然数)で表される。シロキサン結合やポリシロキサン結合が存在することによって、コーティング層のバリア性がより高くなる。
【0021】
コーティング層および外装体に含まれるエポキシ樹脂に限定はなく、公知のエポキシ樹脂を用いてもよい。エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などが含まれる。コーティング層に含まれる第1のエポキシ樹脂と外装体に含まれる第2のエポキシ樹脂とは、同じエポキシ樹脂であってもよいし、異なるエポキシ樹脂であってもよい。両者に含まれるエポキシ樹脂の種類を同じとすることによって、両者の間の密着性を高めることができる。
【0022】
本開示のコーティング層は、ケイ素化合物(C)を含む。検討の結果、本願発明者らは、コーティング層が上記ケイ素化合物(C)を含む場合、コーティング層は、樹脂としてエポキシ樹脂を含むことが好ましいことを見出した。その理由は現在のところ明確ではないが、理由の1つとしては、樹脂を含むことでコーティング層の柔軟性が増し、周辺の部材の変形に対応出来るようになることが考えられる。
【0023】
コーティング層におけるケイ素化合物(C)の含有率は、10質量%~50質量%の範囲(例えば、20質量%~40質量%の範囲)にあってもよい。コーティング層におけるエポキシ樹脂の含有率は、50質量%~90質量%の範囲(例えば60質量%~80質量%の範囲)にあってもよい。コーティング層は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。
【0024】
コンデンサ素子は、陽極体と、一部が陽極体に埋設されている陽極ワイヤと、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層上に配置された電解質層と、電解質層の少なくとも一部を覆うように配置された陰極引出層とを含んでもよい。そして、コンデンサ素子の表面のうち陰極引出層で覆われていない表面の少なくとも一部を覆うようにコーティング層が配置されていてもよい。コンデンサ素子の表面のうち陰極引出層で覆われていない表面を、以下では「表面(S)」と称する場合がある。なお、表面(S)は、コンデンサ素子の表面の一部を構成する。すなわち、表面(S)は、コンデンサ素子単体で見たときに、陰極引出層で覆われずに露出している表面である。表面(S)には、例えば、陽極体の表面、陽極ワイヤの表面、電解質層の表面、および陰極引出層以外の他の層(例えば後述するカーボン層)の表面のうち、コンデンサ素子単体で見たときに露出している表面が含まれる。
【0025】
陰極引出層は、電解質層上に直接配置されていてもよいし、他の層を介して電解質上に配置されていてもよい。陰極引出層は、導電層(例えば、銀ペースト層など)である。典型的には、陰極引出層は、金属(例えば金属粒子)を含む導電層である。そのような導電層は比較的バリア性が高いため、酸素ガスや水分の侵入をある程度抑制する。そのため、コーティング層は、表面(S)のうち、陰極引出層で覆われていない部分を少なくとも覆うことが好ましい。この構成によれば、少ない材料で高い効果を得ることができる。
【0026】
コーティング層は、陰極引出層の少なくとも一部の表面も覆うように配置されていてもよい。すなわち、コーティング層は、表面(S)上だけでなく、陰極引出層の少なくとも一部の上にも配置されてもよい。陰極引出層の上にもコーティング層を形成することによって、バリア性をより高めることができる。陰極引出層が均一に形成されていない場合もあるため、そのような場合には、陰極引出層の上にもコーティング層を形成することが有効である。陰極引出層の最外層が金属粒子を含む層(例えば銀ペースト層)である場合、ケイ素化合物(C)を含むコーティング層と陰極引出層との密着性が高くなる。
【0027】
コーティング層は、表面(S)上のみに配置されてもよい。表面(S)の面積の20~100%、40~100%、60~100%、または80~100%の面積がコーティング層で覆われてもよい。
【0028】
コーティング層は、表面(S)上だけでなく、陰極引出層のうち表面(S)に隣接する領域上にも配置されてもよい。例えば、陰極引出層と表面(S)との境界からの距離が所定の距離である領域上にもコーティング層が形成されていてもよい。当該所定の距離Aは、陽極ワイヤの延伸方向における陽極体の全長を長さLとしたときに、0.5L以下、0.3L以下、または0.1L以下であってもよい。コンデンサ素子のすべての表面積の20~100%、40~100%、60~100%、または80~100%の面積がコーティング層で覆われてもよい。
【0029】
コーティング層の厚さに限定はなく、0.1μm~100μmの範囲(例えば、1μm~50μmの範囲)にあってもよい。コーティング層を厚くすることによってバリア性を高めることができる。
【0030】
外装体におけるエポキシ樹脂の含有率に特に限定はなく、2質量%~30質量%の範囲(例えば2質量%~15質量%の範囲)にあってもよい。外装体は、エポキシ樹脂以外の樹脂を含んでもよい。そのような樹脂の例には、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、および不飽和ポリエステルなどが含まれる。外装体は、無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーの例には、シリカが含まれる。コーティング層のケイ素化合物(C)が無機フィラーと結合することによって、コーティング層と外装体との密着性を高めることができる。シリカは、コーティング層のケイ素化合物(C)との結合性が高い点で好ましい。
【0031】
本開示の電解コンデンサの構成および構成要素の例について、以下に説明する。なお、本開示の電解コンデンサの構成および構成要素は、以下の例に限定されない。本開示の電解コンデンサの一例は、コンデンサ素子、上述したコーティング層、外装体、陽極リード端子、および陰極リード端子を含む。
【0032】
(コンデンサ素子)
コンデンサ素子は、陽極部、誘電体層、および陰極部を含む。コンデンサ素子に特に限定はなく、公知の固体電解コンデンサに用いられているコンデンサ素子を用いてもよい。
【0033】
陽極部は、陽極体と陽極ワイヤとを含む。陽極体は、多孔質焼結体であってもよいし、表面が多孔質化された金属箔であってもよい。誘電体層は、陽極体の表面に形成される。陰極部は、電解質層と陰極引出層とを含む。陰極部は、電解質層と陰極引出層との間に配置された他の導電層(例えばカーボン層)をさらに含んでもよい。以下では、それらの導電層をまとめて、「陰極層」と称する場合がある。すなわち、陰極層は、陰極引出層を含み、電解質層と陰極引出層との間に配置された他の導電層(例えばカーボン層)をさらに含んでもよい。電解質層は、陽極体の表面に形成された誘電体層と陰極引出層との間に配置されている。これらの構成要素に特に限定はなく、公知の固体電解コンデンサに用いられる構成要素を適用してもよい。これらの構成要素の例について、以下に説明する。
【0034】
(陽極体)
陽極体は、材料となる粒子を焼結することによって形成してもよい。材料となる粒子の例には、弁作用金属の粒子、弁作用金属を含有する合金の粒子、および弁作用金属を含有する化合物の粒子が含まれる。これらの粒子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。弁作用金属としては、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などが用いられる。
【0035】
陽極体の表面に形成される誘電体層に特に限定はなく、公知の方法で形成してもよい。例えば、陽極体の表面を陽極酸化することによって、誘電体層を形成してもよい。
【0036】
(陽極ワイヤ)
陽極ワイヤは、金属からなるワイヤであってもよい。陽極ワイヤの材料の例には、上記の弁作用金属、銅、アルミニウム、アルミニウム合金などが含まれる。陽極ワイヤの一部は陽極体に埋設され、残りの部分は陽極体の端面から突き出している。
【0037】
(電解質層)
電解質層に特に限定はなく、公知の固体電解コンデンサに用いられている電解質層を適用してもよい。なお、この明細書において、電解質層を固体電解質層に読み替えてもよく、電解コンデンサを固体電解コンデンサに読み替えてもよい。電解質層は、2層以上の異なる電解質層の積層体であってもよい。
【0038】
電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように配置される。電解質層は、マンガン化合物や導電性高分子を用いて形成してもよい。導電性高分子の例には、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、およびこれらの誘導体などが含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、導電性高分子は、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。なお、導電性高分子の誘導体とは、導電性高分子を基本骨格とする高分子を意味する。例えば、ポリチオフェンの誘導体の例には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0039】
導電性高分子にはドーパントが添加されていることが好ましい。ドーパントは、導電性高分子に応じて選択でき、公知のドーパントを用いてもよい。ドーパントの例には、ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、およびこれらの塩などが含まれる。一例の電解質層は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を用いて形成される。
【0040】
導電性高分子を含む電解質層は、誘電体層上で原料モノマーを重合することによって形成してもよい。あるいは、導電性高分子(および必要に応じてドーパント)を含んだ液体を、誘電体層に塗布した後に乾燥させることによって形成してもよい。
【0041】
(陰極層)
陰極層は、導電層であり、電解質層の少なくとも一部を覆うように配置されている。陰極層は、電解質層上に形成されたカーボン層と、カーボン層上に形成された陰極引出層(例えば金属ペースト層)とを含んでもよい。カーボン層は、カーボンを含む層であり、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂とによって形成されてもよい。金属ペースト層は、金属粒子(例えば銀粒子)と樹脂とによって形成されてもよく、例えば公知の銀ペーストによって形成されてもよい。
【0042】
陰極引出層は、カーボン層の一部の上に形成されてもよい。その場合、カーボン層の表面のうち陰極引出層で覆われていない表面は、表面(S)の一部を構成する。カーボン層の表面のうち陰極引出層で覆われていない表面も、コーティング層で覆われることが好ましい。
【0043】
電解質層上の領域(電解質層の外側の領域)のうち陰極引出層で覆われていない領域を、できるだけ高い割合(面積%)でコーティング層によって覆うことが好ましい。例えば、電解質層の少なくとも一部の上にカーボン層が形成され、カーボン層の一部の上に陰極引出層が形成されている場合について考える。この場合、コンデンサ素子単体で見たときに、電解質層の表面の一部とカーボン層の表面の一部とは露出している。それらの露出している表面を覆うように、コーティング層を配置することが好ましい。
【0044】
(陰極リード端子および陽極リード端子)
陰極リード端子は、電解コンデンサの底面において露出している陰極端子部と、陰極端子部につながっている接続部とを含む。当該接続部は、陰極部と電気的に接続されている。例えば、当該接続部は、導電層(例えば銀ペースト層)などによって陰極引出層に接続されてもよい。陽極リード端子は、電解コンデンサの底面において露出している陽極端子部と、陽極端子部につながっているワイヤ接続部とを含む。ワイヤ接続部は、陽極ワイヤに接続されている。リード端子は、金属(銅、銅合金など)からなる金属シート(金属板および金属箔を含む)を、公知の金属加工法で加工することによって形成してもよい。
【0045】
(外装体)
外装体は、電解コンデンサの表面にコンデンサ素子が露出しないように、コンデンサ素子の周囲に配置される。さらに、外装体は、陽極リード端子と陰極リード端子とを絶縁する。そのため、外装体は、絶縁性の材料で構成される。
【0046】
(電解コンデンサの製造方法)
コーティング層の形成方法を除いて、本開示の電解コンデンサの製造方法に特に限定はなく、電解コンデンサの公知の製造方法を適用してもよいし、公知の製造方法を必要に応じて変更して適用してもよい。
【0047】
本開示の電解コンデンサの製造方法の一例について以下に説明する。まず、コンデンサ素子を作製する。コンデンサ素子の作製方法に限定はなく、公知の方法で作製してもよい。次に、陽極リード端子および陰極リード端子をコンデンサ素子に接続する。次に、コーティング層を上述した位置に形成する。なお、コーティング層を形成してから、陽極リード端子および陰極リード端子をコンデンサ素子にしてもよい。
【0048】
コーティング層は、例えば、以下の方法で形成してもよい。まず、コーティング層を形成するための処理液を準備する。処理液は、ケイ素化合物(C)と、第1のエポキシ樹脂と、液状成分(溶媒または分散媒または水)とを含む。処理液に添加されるケイ素化合物(C)の例には、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、当該アルコキシ基以外の官能基(好ましくは、アルキル基)とを含有するアルコキシシランが含まれる。これらの例については上述したため、重複する説明を省略する。ケイ素化合物(C)およびエポキシ樹脂の例については上述したため、重複する説明を省略する。処理液中の成分の割合を変更することによって、コーティング層中の成分の割合を変更できる。液状成分に特に限定はなく、水であってもよいし、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0049】
次に、上記処理液を、コーティング層を形成する部分に塗布する。塗布の方法に限定はなく、スプレー法やディップ法を用いてもよい。塗布量や処理液の粘度を変えることによって、コーティング層の厚さを変えることが出来る。通常、処理液を塗布した後に熱処理を行う。熱処理によって、処理液を乾燥させる。また、熱処理によってエポキシ樹脂を硬化させてもよい。また、熱処理によって、アルコキシシランを反応させてアルコキシシランの反応生成物としてもよい。熱処理の温度は、処理液に応じて選択すればよく、40℃~300℃の範囲(好ましくは100℃~250℃の範囲)にあってもよい。熱処理の時間は、処理液に応じて選択すればよく、2~120分間の範囲、または10~60分間の範囲にあってもよい。以上のようにしてコーティング層が所定の位置に配置される。
【0050】
次に、外装体を形成する。外装体の形成方法に限定はなく、公知の方法で形成してもよい。例えば、リード端子の一部およびコンデンサ素子を覆うように外装体の材料を配置して硬化させることによって、外装体を形成してもよい。このようにして、電解コンデンサが得られる。
【0051】
本開示は、電解コンデンサの製造方法の一例を提供する。当該製造方法は、ケイ素原子に結合したアルコキシ基と、当該アルコキシ基以外の官能基(好ましくは、アルキル基)とを含有するアルコキシシランと第1のエポキシ樹脂とを含む処理液をコンデンサ素子の表面に塗布する工程(i)と、前記処理液を熱処理してコーティング層を形成する工程(ii)と、前記コンデンサ素子および前記コーティング層を覆うように、第2のエポキシ樹脂を含む外装体を形成する工程(iii)とを含む。工程(ii)の熱処理において、アルコキシシラン中のアルコキシシリル基の少なくとも一部をシラノール基に変化させる。コンデンサ素子、アルコキシシラン、エポキシ樹脂、処理液、コーティング層、外装体、および熱処理については上述したため、重複する説明を省略する。
【0052】
以下では、本開示の電解コンデンサの例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する例の電解コンデンサの構成要素には、上述した構成要素を適用できる。また、以下で説明する例の電解コンデンサは、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本開示の電解コンデンサに必須ではない構成要素は省略してもよい。
【0053】
(実施形態1)
実施形態1では、本開示に係る電解コンデンサの一例について説明する。実施形態1の電解コンデンサ100の断面図を図1に模式的に示す。なお、図1は模式的な図であり、実際の形態を正確に反映する図ではない。
【0054】
電解コンデンサ100は、コンデンサ素子110、陽極リード端子120、陰極リード端子130、外装体101、導電層141、コーティング層150を含む。コンデンサ素子110は、陽極部111、誘電体層114、および陰極部115を含む。陽極部111は、陽極体113と、陽極ワイヤ112とを含む。陽極体113は、直方体状の多孔質焼結体であり、表面に誘電体層114が形成されている。陽極ワイヤ112の一部は陽極体113の1つの端面から、電解コンデンサ100の前面100fに向かって突き出している。陽極ワイヤ112の他の部分は陽極体113に埋設されている。
【0055】
陰極部115は、誘電体層114の少なくとも一部を覆うように配置された電解質層116と、電解質層116の少なくとも一部を覆うように形成された陰極引出層117とを含む。陰極引出層117は、例えば、金属粒子を含む層であり、金属ペーストを用いて形成された金属ペースト層(例えば銀ペースト層)であってもよい。
【0056】
電解質層116と陰極引出層117との間には、カーボン層が配置されていてもよい。例えば、電解質層116の少なくとも一部の上にカーボン層が配置され、カーボン層の少なくとも一部の上に陰極引出層117が配置されてもよい。
【0057】
陽極リード端子120は、陽極端子部121およびワイヤ接続部122を含む。陽極端子部121は、電解コンデンサ100の底面100bにおいて露出している。ワイヤ接続部122は、陽極ワイヤ112に接続されている。陰極リード端子130は、陰極端子部131および接続部132を含む。陰極端子部131は、電解コンデンサ100の底面100bにおいて露出している。接続部132は、導電層141によって陰極引出層117に電気的に接続されている。
【0058】
コーティング層150は、上述したコーティング層である。図1に示す電解コンデンサ100では、コーティング層150が、コンデンサ素子110の表面のうち陰極引出層117で覆われていない表面を覆うように形成されている。酸素ガスや水分によって電解質層116などが劣化することを、コーティング層150によって抑制できる。特に、コンデンサ素子110(例えば陽極ワイヤ112)と外装体101との界面から酸素ガスや水分が侵入することを抑制できる。特に、電解質層116上の領域のうち陰極引出層117で覆われていない領域のすべてを覆うようにコーティング層150が形成されていることが望ましい。例えば、電解質層116の少なくとも一部の上にカーボン層が形成され、カーボン層の一部の上に陰極引出層117が形成されている場合について考える。この場合、コーティング層150は、コンデンサ素子110単体でみたときに露出している電解質層116の表面および露出しているカーボン層の表面を覆うように形成されることが好ましい。
【0059】
なお、図1に示す一例のコーティング層150は、陰極引出層117の端部の一部も覆っている。具体的には、陰極引出層117と表面(S)との境界からの距離が距離Aである領域上にもコーティング層150が形成されている。なお、各層の厚さは薄いため、図1の距離Aの表記に関して、各層の厚さは無視できる。図1には、陽極ワイヤ112の延伸方向における陽極体113の全長である長さLも示す。
【0060】
コーティング層150は、図1に示す部分だけでなく、陰極引出層117のほぼ全体も覆うように形成されてもよい。そのようなコーティング層150を含む電解コンデンサの一例の断面図を図2に模式的に示す。図2に示すコーティング層150は、リード端子(陽極リード端子120および陰極リード端子130)が接続されている部分を除き、コンデンサ素子110のほぼ全体を覆うように形成されている。この構成によれば、陰極引出層117を介して電解質層116に酸素ガスや水分が到達することも抑制できる。
【実施例
【0061】
以下の実施例によって、本開示についてさらに詳細に説明する。
【0062】
(実施例1)
実施例1では、コーティング層の有無およびコーティング層の材料を変化させて複数の電解コンデンサ(コンデンサA1、C1~C3、およびR1)を作製した。コンデンサA1のコーティング層には、上述した本開示のコーティング層を用いた。コンデンサR1では、コーティング層を形成しなかった。コンデンサC1~C3では、上述した本開示のコーティング層とは異なるコーティング層を形成した。なお、コーティング層は、図1に示すコーティング層150と同様の領域に形成した。
【0063】
コンデンサC1のコーティング層には、エポキシ樹脂のみからなるコーティング層を用いた。なお、コンデンサC1のコーティング層のエポキシ樹脂は、外装体のエポキシ樹脂とは異なる。コンデンサC2のコーティング層には、アルキル基を含まないポリシラザンを用いて形成されたコーティング層を用いた。具体的には、アルキル基を含まないポリシラザンを含みエポキシ樹脂を含まない処理液を塗布して熱処理することによってコーティング層を形成した。ポリシラザンは、酸素ガスの存在下(例えば大気中)において加熱することによってポリシロキサンに変化することが知られている。
【0064】
コンデンサC3のコーティング層は、ケイ素化合物(C)の一種であるジメチルジメトキシシランを含みエポキシ樹脂を含まない処理液を塗布して熱処理することによって形成した。
【0065】
コンデンサA1のコーティング層は、ケイ素化合物(C)の一種であるジメチルジメトキシシランとエポキシ樹脂とを含む処理液を塗布して熱処理することによって形成した。コンデンサA1のコーティング層のエポキシ樹脂は、外装体に用いられるエポキシ樹脂と同じとした。
【0066】
コンデンサ素子の陽極体には、タンタル焼結体を用いた。誘電体層は、陽極体の表面を酸化することによって形成した。電解質層には、ドーパントを含む導電性高分子を用いた。陰極引出層には、カーボン層と金属ペースト層との積層体を用いた。コンデンサ素子を作製した後に、リード端子を接続し、必要に応じて上述したコーティング層を形成した。その後、エポキシ樹脂とシリカ(無機フィラー)とを含む樹脂組成物を用いて外装体を形成した。このようにして、コンデンサA1、C1~C3、およびR1を作製した。
【0067】
作製したコンデンサについて、初期のESRと、高温下で放置(125℃以上の温度で500時間放置)した後のESRとを測定した。そして、それぞれのコンデンサについて、高温放置によるESRの上昇率を算出した。各コンデンサのコーティング層の形成条件と、高温放置によるESRの上昇率を表1に示す。表1のESRの上昇率は、コンデンサA1のESRの上昇率を基準(1.0)としたときの、比率(相対値)である。この相対値が低いほど、ESRの上昇率が小さいことを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、本開示のコンデンサA1のESRの上昇率は、他のコンデンサのERの上昇率よりも大幅に低かった。これは、上述した理由によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示は、電解コンデンサに利用できる。
【符号の説明】
【0071】
100 :電解コンデンサ
101 :外装体
110 :コンデンサ素子
111 :陽極部
112 :陽極ワイヤ
113 :陽極体
114 :誘電体層
115 :陰極部
116 :電解質層
117 :陰極引出層
150 :コーティング層
図1
図2