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特許7591731二次電池用負極および非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】二次電池用負極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20241122BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241122BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241122BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241122BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241122BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241122BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20241122BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/587
H01M10/0525
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021542638
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028283
(87)【国際公開番号】W WO2021039217
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019158076
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我 正寛
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】福岡 隆弘
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503972(JP,A)
【文献】特開2004-349164(JP,A)
【文献】特開2015-125815(JP,A)
【文献】特開2014-107013(JP,A)
【文献】特開2007-165061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、
前記負極活物質は、第1炭素材料を主成分として含み、かつ第1炭素材料の粒子間に介在する第2炭素材料とシリコン含有材料とを含み、
前記第1炭素材料の平均粒径Aと、前記第2炭素材料の平均粒径Bと、前記シリコン含有材料の平均粒径Cとが、A>C≧Bを満たし、
前記第1炭素材料の平均粒径Aの前記シリコン含有材料の平均粒径Cに対する比:A/Cが、1.8以上、4以下である、二次電池用負極。
【請求項2】
前記シリコン含有材料の平均粒径Cの前記第2炭素材料の平均粒径Bに対する比:C/Bが、1以上、5以下である、請求項1に記載の二次電池用負極。
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、
前記負極活物質は、第1炭素材料を主成分として含み、かつ第1炭素材料の粒子間に介在する第2炭素材料とシリコン含有材料とを含み、
前記第1炭素材料の平均粒径Aと、前記第2炭素材料の平均粒径Bと、前記シリコン含有材料の平均粒径Cとが、A>C≧Bを満たし、
前記第1炭素材料の平均粒径Aの前記第2炭素材料の平均粒径Bに対する比:A/Bが、2以上、15以下である、二次電池用負極。
【請求項4】
前記第1炭素材料の平均粒径Aが、26μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池用負極。
【請求項5】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、
前記負極活物質は、第1炭素材料を主成分として含み、かつ第1炭素材料の粒子間に介在する第2炭素材料とシリコン含有材料とを含み、
前記第1炭素材料の平均粒径Aと、前記第2炭素材料の平均粒径Bと、前記シリコン含有材料の平均粒径Cとが、A>C≧Bを満たし、
前記第2炭素材料の平均粒径Bが、2μm以上、10μm未満である、二次電池用負極。
【請求項6】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、
前記負極活物質は、第1炭素材料を主成分として含み、かつ第1炭素材料の粒子間に介在する第2炭素材料とシリコン含有材料とを含み、
前記第1炭素材料の平均粒径Aと、前記第2炭素材料の平均粒径Bと、前記シリコン含有材料の平均粒径Cとが、A>C≧Bを満たし、
前記シリコン含有材料が、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子と、を備える、二次電池用負極。
【請求項7】
前記リチウムイオン導電相が、シリケートを含む、請求項に記載の二次電池用負極。
【請求項8】
前記リチウムイオン導電相が、二酸化ケイ素を含む、請求項またはに記載の二次電池用負極。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の負極と、正極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主として、二次電池負極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む負極合剤を備える。負極活物質に、高容量のシリコン含有材料を用いることが検討されている。
【0003】
特許文献1は、負極活物質が、塊状黒鉛と、鱗片状黒鉛と、SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化ケイ素との混合物であり、SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化ケイ素は全黒鉛材料に対して1~5質量%含有されており、塊状黒鉛の平均粒子径(D50)に対する鱗片状黒鉛の平均粒子径(D50)の比が1/2~1/4である鱗片状黒鉛が、全黒鉛に対して5~15質量%含有されていることを特徴とする非水電解質二次電池を教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-67583号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1が提案するSiOは、充電時に大きく膨張し、その後の放電時に収縮するため、SiOと周囲の黒鉛材料との間の電気的接触が乏しくなる。これに対し、鱗片状黒鉛が存在することにより、SiOと塊状黒鉛との間の導電パスが形成されるため、サイクル特性は改善され得るが、十分ではない。特にシリコン含有材料の膨張と収縮が更に大きくなると、シリコンが孤立しやすくなり、導電パスの維持がより困難になる。シリコンの孤立は、シリコンの膨張に伴う割れなどにより生じる。
【0006】
本開示の一側面は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、前記負極活物質は、第1炭素材料を主成分として含み、かつ第1炭素材料の粒子間に介在する第2炭素材料とシリコン含有材料とを含み、前記第1炭素材料の平均粒径Aと、前記第2炭素材料の平均粒径Bと、前記シリコン含有材料の平均粒径Cとが、A>C≧Bを満たす、二次電池用負極に関する。
【0007】
本開示の別の側面は、上記負極と、正極と、非水電解質と、を備える、非水電解質二次電池に関する。
【0008】
二次電池用負極において、シリコン含有材料を用いる場合に、優れた放電容量とサイクル特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
図2図2は、負極活物質に占める第2炭素材料の含有量w2と初期の放電容量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係る二次電池用負極は、必須成分として、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む。負極活物質は、第1炭素材料と、第2炭素材料と、シリコン含有材料とを含む。第2炭素材料およびシリコン含有材料は、第1炭素材料の粒子間に介在している。つまり、第2炭素材料およびシリコン含有材料は、第1炭素材料の粒子間の隙間に充填されている。
【0011】
第1炭素材料は、負極活物質の主成分である。負極活物質に占める第1炭素材料の含有量は、例えば、75質量%以上であればよく、80質量%以上であってもよい。
【0012】
一方、負極活物質に占める第2炭素材料の含有量は、例えば、1~15質量%であってもよく、2~10質量%であってもよい。
【0013】
また、負極活物質に占めるシリコン含有材料の含有量は、1~15質量%であってもよく、2~10質量%であってもよい。
【0014】
ここで、第1炭素材料の平均粒径Aと、第2炭素材料の平均粒径Bと、シリコン含有材料の平均粒径Cとは、A>C≧Bを満たす。A>C≧Bが満たされることで、負極の集電性が顕著に向上し、放電容量が向上し、サイクル特性が良化する。
【0015】
負極活物質にシリコン含有材料を上記割合で含ませる場合、シリコン含有材料が激しい膨張と収縮を繰り返す場合でも、負極全体の膨張と収縮が抑制されやすい。これは、A>Cが満たされる場合、第1炭素材料が形成する比較的大きい隙間にシリコン含有材料が侵入し得るためと考えられる。
【0016】
第1炭素材料の平均粒径Aのシリコン含有材料の平均粒径Cに対する比:A/Cは、例えば、1.8以上、4以下であってもよい。A/C比をこのような範囲にすることで、負極全体の膨張と収縮をより効果的に抑制することができる。
【0017】
次に、負極活物質に第2炭素材料を上記割合で含ませる場合、放電時にシリコン含有材料が激しく収縮し、例えば、シリコン含有材料に割れが生じても、第1炭素材料とシリコン含有材料との間の導電パスが維持されやすい。これは、C≧Bが満たされる場合、シリコン含有材料が割れて、その粒子サイズが小さくなっても、小粒径の第2炭素材料の粒子サイズよりも極端に小さくなることがなく、第2炭素材料がシリコン含有材料とともに第1炭素材料の間に入り込みやすいためと考えられる。このとき、第1炭素材料の間で、シリコン含有材料と第1炭素材料とが混じり合って存在し得る。
【0018】
シリコン含有材料の平均粒径Cの第2炭素材料の平均粒径Bに対する比:C/Bは、例えば、1以上、5以下であってもよい。C/B比をこのような範囲にすることで、第2炭素材料がシリコン含有材料とともに第1炭素材料の間により入り込みやすくなり、さらに、第1炭素材料の間でシリコン含有材料と第1炭素材料とが混じり合いやすくなる。C/B比は、1以上、4以下であってもよく、1.2以上、3.6以下であってもよい。
【0019】
一方、A>Bであっても、C<Bであると、シリコン含有材料が割れ、その粒子サイズが小さくなると、小粒径のシリコン含有材料と第2炭素材料との粒子サイズの差が更に大きくなり、第1炭素材料の間で、シリコン含有材料と第2炭素材料とが混じり合って存在することは困難である。
【0020】
第1炭素材料の平均粒径Aの第2炭素材料の平均粒径Bに対する比:A/Bは、例えば、2以上、15以下であってもよい。A/Bを2以上とすることで、第2炭素材料が第1炭素材料の間により入り込みやすくなる。また、A/Bを15以下とすることで、第1炭素材料と第2炭素材料との粒子サイズの差が極端に異なることがなく、いずれも適度な粒径と表面積を有する設計とすることが容易になる。A/B比は、3以上、10以下であってもよく、3.5以上、5以下であってもよい。
【0021】
ここで、平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。例えば、負極から採取した負極活物質をレーザー回折散乱法で測定すると、第1炭素材料、シリコン含有材料および第2炭素材料の3つのピークを有する分布が得られる。これらをピーク分離すれば、第1炭素材料、シリコン含有材料および第2炭素材料の粒度分布が得られる。各粒度分布を分析すれば、体積平均粒径が得られる。
【0022】
第1炭素材料の平均粒径Aは、例えば、10μm以上であってもよく、15μm以上であってもよい。平均粒径Aは、例えば、26μm以下であってもよい。平均粒径Aを上記範囲とすることで、副反応を抑制しやすく、かつ高容量を得やすくなる。
【0023】
第2炭素材料の平均粒径Bは、例えば、10μm未満であってもよく、8μm以下であってもよい。また、平均粒径Bは、例えば、2μm以上であってもよい。平均粒径Bを上記範囲とすることで、負極活物質同士の良好な導電パスを形成しやすくなり、良好な放電容量とサイクル特性を得やすくなる。
【0024】
シリコン含有材料の平均粒径Cは、A>C≧Bを満たすように選択すればよいが、例えば、4μm以上、15μm以下であってもよく、5μm以上、13μm以下であってもよく、6μm以上、11μm以下であってもよい。平均粒径Cを上記範囲とすることで、充放電に伴うシリコン含有材料の体積変化による応力を緩和しやすく、シリコン含有材料の孤立化を防ぎ、良好なサイクル特性を得やすくなる。シリコン含有材料の表面積も適度になり、電解液との副反応による容量低下も抑制される。
【0025】
負極活物質に占める第2炭素材料の含有量は、1質量%以上、15質量%以下であればよく、3質量%以上、12質量%以下であってもよく、5質量%以上、10質量%以下であってもよい。第2炭素材料の含有量が1質量%未満では、第2炭素材料により形成される導電パスが微量となり、良好な放電容量とサイクル特性を得ることが困難になる。一方、第2炭素材料の含有量が15質量%を超えると、負極活物質に対する第2炭素材料の寄与が大きくなり、負極活物質全体の比表面積が大きくなり、副反応によって初期効率が低下しやすくなる。
【0026】
負極活物質に占めるシリコン含有材料の含有量は、1~15質量%であればよく、3質量%以上、12質量%以下であってもよく、5質量%以上、10質量%以下であってもよい。シリコン含有材料の含有量が1質量%未満では、シリコン含有材料により負極容量を増大させる効果が十分に奏されなくなる。一方、シリコン含有材料の含有量が15質量%を超えると、負極活物質に対するシリコン含有材料の寄与が大きくなり、充放電に伴う負極の膨張および収縮が激しくなり、導電パスを維持することが困難となり、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0027】
負極活物質に占める第1炭素材料の含有量は、例えば、75質量%以上であればよく、80質量%以上であってもよい。すなわち、第1炭素材料は、負極活物質の主成分である。平均粒径が比較的大きい第1炭素材料を主成分とすることで、負極全体の副反応を抑制しやすく、かつ高容量を得やすくなる。
【0028】
なお、負極活物質は、第1炭素材料、第2炭素材料およびシリコン含有材料以外に、リチウムイオンを吸蔵および放出する材料を含んでもよい。例えば、負極活物質は、第1炭素材料および第2炭素材料以外に、更に別の炭素材料を含んでもよい。ただし、負極活物質全体に占める第1炭素材料、第2炭素材料およびシリコン含有材料の合計含有量は、90質量%以上であることが望ましく、95質量%以上であることがより望ましい。これにより、第1炭素材料、第2炭素材料およびシリコン含有材料が共存することで奏される導電パスの形成の促進と安定化の効果が大きくなる。同様に、負極活物質に含まれる炭素材料全体に占める第1炭素材料および第2炭素材料の合計含有量は、90質量%以上であることが望ましく、95質量%以上であることがより望ましい。
【0029】
(第1炭素材料)
第1炭素材料としては、黒鉛材料、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、非晶質炭素などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。中でも、黒鉛材料が好ましい。黒鉛材料とは、黒鉛型結晶構造を有する炭素材料の総称である。黒鉛材料は、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない。
【0030】
なお、黒鉛とは、X線回折法により測定される(002)面の平均面間隔d002が0.340nm以下の炭素材料をいうものとする。
【0031】
黒鉛材料には、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。コスト面では天然黒鉛を用いることが有利であるが、性能面では人造黒鉛が好ましい。天然黒鉛と人造黒鉛とを併用してもよく、天然黒鉛と人造黒鉛とを複合化して用いてもよい。
【0032】
第1炭素材料として用いる黒鉛材料は、塊状黒鉛であってもよい。塊状黒鉛とは、いわゆる鱗片状黒鉛よりもアスペクト比の小さい(もしくは円形度の大きい)黒鉛材料をいう。黒鉛材料のアスペクト比は、黒鉛粒子の長軸方向の長さ(すなわち最大長)をA、短軸方向の長さ(最大長Aに垂直な方向の最大長)をBとするとき、A/B比で表される。アスペクト比は、最小で1となり、アスペクト比が5未満の黒鉛粒子は塊状黒鉛であり、アスペクト比が5以上の黒鉛粒子は、例えば燐片状黒鉛である。
【0033】
アスペクト比は、黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求めればよい。例えば、任意の100個の黒鉛粒子のA/B比を測定し、それらの測定値の算術平均値をアスペクト比とすればよい。
【0034】
人造黒鉛の場合、例えば、主原料となるコークスを造粒した後、焼成し、所定サイズに粉砕し、篩分けすることで塊状黒鉛が得られる。また、天然黒鉛の場合、燐片状の天然黒鉛を球状化処理し、篩分けすれば塊状黒鉛が得られる。塊状黒鉛は、非晶質炭素の表層を有してもよい。非晶質炭素の表層は、例えば、塊状黒鉛と石油ピッチとを不活性ガス雰囲気下で加熱しながら混合し、焼成し、その後、粉砕、分級すれば形成することができる。
【0035】
(第2炭素材料)
第2炭素材料としても、黒鉛材料、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、非晶質炭素などを用い得る。これらは単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。中でも、黒鉛材料が好ましい。
【0036】
第2炭素材料として用いる黒鉛材料は、鱗片状黒鉛であってもよい。鱗片状黒鉛のアスペクト比(A/B比)は、5以上であればよい。鱗片状黒鉛は、天然黒鉛もしくは人造黒鉛を鱗片状に粉砕し、必要に応じて焼成し、粉砕、分級すれば得られる。
【0037】
(シリコン含有材料)
シリコン含有材料は、炭素材料よりも高容量を有するシリコンを含む材料であればよいが、シリコン単独では、充放電に伴う膨張と収縮により微粉化が進行しやすい。そこで、リチウムイオン導電相と、チウムイオン導電相内に分散させたシリコン粒子との複合材料を用いることが望ましい。シリコン粒子をリチウムイオン導電相内に分散させることで、シリコン粒子の膨張と収縮による微粉化が顕著に抑制される。
【0038】
なお、リチウムイオン導電相が電子伝導性を有さない場合、シリコン含有材料の表面の少なくとも一部を導電層で被覆してもよい。導電層は、電子伝導性を有する材料で形成すればよく、例えば、炭素材料で形成すればよい。導電層でシリコン含有材料の表面を被覆することで、導電性を飛躍的に高めることができる。導電層は、実質上、シリコン含有材料の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。
【0039】
以下、リチウムイオン導電相とシリコン粒子との複合材料について例示する。
【0040】
(第1複合材料)
第1複合材料は、リチウムイオン導電相としてシリケートを有する。すなわち、第1複合材料(以下、LSX材料とも称する。)は、シリケート相と、シリケート相内に分散しているシリコン粒子とを備える。ここで、シリケートとは、アルカリ金属元素および第2族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含むケイ酸塩化合物である。シリケートは、金属元素のカチオンとケイ酸アニオンとの塩で形成されているため、不可逆容量が小さく、リチウムイオンを取り込みにくいため、優れた初期効率を達成しやすい。
【0041】
第1複合材料は、シリケートとシリコンとを複合化させることにより製造される。その際、シリケートとシリコンとの混合割合は任意に決定し得る。換言すれば、シリケートに対するシリコンの割合を高めることで、所望の高容量の第1複合材料を得ることができる。しかし、シリケートに対するシリコンの割合を高めるほど、充放電時のシリコン粒子の膨張と収縮に伴う体積変化は顕著に大きくなる。このような場合、A>Bを満たす第1炭素材料と第2炭素材料とを併用するだけでは、良好なサイクル特性を達成するには不十分であり、C≧Bを満たすシリコン含有材料を用いることが特に重要となる。
【0042】
高容量化の観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、通常50nm以上であり、好ましくは100nm以上である。LSX材料は、例えば、シリケートと原料シリコンとの混合物を、ボールミル等の粉砕装置を用いて粉砕処理し、微粒子化した後、不活性雰囲気中で熱処理することにより作製することができる。粉砕装置を用いずに、シリケートの微粒子と原料シリコンの微粒子とを合成し、これらの混合物を不活性雰囲気中で熱処理して、LSX材料を作製してもよい。シリケートと原料シリコンとの混合割合や原料シリコンの粒子サイズを調節することで、シリケート相内に分散させるシリコン粒子量やサイズを制御することができる。
【0043】
シリコン粒子自身の亀裂を抑制する観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。初回充電後においては、シリコン粒子の平均粒径は、400nm以下が好ましい。シリコン粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、第1複合材料の構造安定性が更に向上する。
【0044】
シリコン粒子の平均粒径は、第1複合材料の断面のSEM写真を用いて測定される。具体的には、任意の100個のシリコン粒子の最大径を測定し、それらの測定値の算術平均値をシリコン粒子の平均粒径とすればよい。
【0045】
リチウムイオン導電相内に分散しているシリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有し、通常は、複数の結晶子で構成される。シリコン粒子の結晶子サイズは、30nm以下であることが好ましい。シリコン粒子の結晶子サイズが30nm以下である場合、充放電に伴うシリコン粒子の膨張収縮による体積変化量を小さくでき、サイクル特性が更に高められる。シリコン粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば1nm以上である。
【0046】
また、シリコン粒子の結晶子サイズは、より好ましくは10nm以上、30nm以下であり、更に好ましくは15nm以上、25nm以下である。シリコン粒子の結晶子サイズが10nm以上である場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じ難い。
【0047】
シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0048】
高容量化の観点から、第1複合材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは55質量%以上である。この場合、リチウムイオンの拡散性が良好であり、優れた負荷特性を得易くなる。一方、サイクル特性の向上の観点からは、第1複合材料中のシリコン粒子の含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。この場合、リチウムイオン導電相で覆われずに露出するシリコン粒子の表面が減少し、電解液とシリコン粒子との反応が抑制され易い。
【0049】
シリコン粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
【0050】
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA-400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
シリケート相は、アルカリ金属元素(長周期型周期表の水素以外の第1族元素)および長周期型周期表の第2族元素の少なくとも一方を含む。アルカリ金属元素は、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等を含む。第2族元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等を含む。中でも、不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、リチウムを含むシリケート相(以下、リチウムシリケート相とも称する。)が好ましい。すなわち、LSX材料は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子とを含む複合材料が好ましい。
【0051】
シリケート相は、例えば、リチウム(Li)と、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含むリチウムシリケート相(酸化物相)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2超4未満である。O/Siが2超4未満(後述の式中のzが0<z<2)の場合、安定性やリチウムイオン伝導性の面で有利である。好ましくは、O/Siが2超3未満(後述の式中のzが0<z<1)である。リチウムシリケート相におけるSiに対するLiの原子比:Li/Siは、例えば、0超4未満である。
【0052】
リチウムシリケート相は、Li、SiおよびO以外に、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、フッ素(F)、ホウ素(B)、リン(P)、ランタン(La)等の他の元素を微量含んでもよい。
【0053】
リチウムシリケート相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<2)で表される組成を有し得る。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、zは、0<z<1の関係を満たすことが好ましく、z=1/2がより好ましい。
【0054】
リチウムシリケート相は、SiOのSiO相に比べ、リチウムと反応し得るサイトが少ない。よって、LSXはSiOと比べて充放電に伴う不可逆容量を生じ難い。リチウムシリケート相内にシリコン粒子を分散させる場合、充放電の初期に、優れた充放電効率が得られる。また、シリコン粒子の含有量を任意に変化させることができるため、高容量の負極を設計することができる。
【0055】
第1複合材料のシリケート相の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
【0056】
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料断面の反射電子像を得、第1複合材料の断面を観察する。オージェ電子分光(AES)分析装置を用いて、観察された第1複合材料のシリケート相について元素の定性定量分析を行う(加速電圧10kV、ビーム電流10nA)。例えば、得られたリチウム(Li)、シリコン(Si)、酸素(O)、他の元素の含有量に基づいて、リチウムシリケート相の組成を求める。
【0057】
上記の試料の断面観察や分析では、Liの拡散を防ぐため、試料の固定にはカーボン試料台を用いればよい。試料断面を変質させないため、試料を大気に曝すことなく保持搬送するトランスファーベッセルを使用すればよい。
【0058】
(第2複合材料)
第2複合材料は、リチウムイオン導電相としてSiO相を有する。すなわち、第2複合材料(以下、SiO材料とも称する。)は、SiO相と、SiO相内に分散しているシリコン粒子とを備える。第2複合材料の全体的な組成はSiOで表され、xは、例えば、0.5以上、1.5以下程度である。
【0059】
第2複合材料は、一酸化珪素を熱処理して、不均化反応により、SiO相と、SiO相内に分散する微細なSi相(シリコン粒子)とに分離することにより得られる。
【0060】
第2複合材料中のシリコン粒子は、第1複合材料のそれらと比べて小さく、第2複合材料中のシリコン粒子の平均粒径は、例えば5nm程度である。第2複合材料は、第1複合材料と比べ、容量が小さく、不可逆容量も大きいが、充電時の膨張は小さめである。そのため、第1複合材料を用いる場合と比べると、A>C≧Bとすることによるサイクル特性の改善幅は小さくなる。
【0061】
負極活物質が、第1複合材料と第2複合材料とを両方含む場合、第1複合材料100質量部に対する第2複合材料の量は、例えば、10質量部以上、100質量部以下であればよい。このような割合で両者を併用することで、負極の高容量化とサイクル特性の向上とをバランスよく達成し得るようになる。
【0062】
なお、負極の試料断面において、第1複合材料と第2複合材料との区別は可能である。通常、第1複合材料中のシリコン粒子の平均粒子径は、第2複合材料中のシリコン粒子の平均粒子径よりも大きく、粒子径の観察により、両者を容易に区別可能である。
【0063】
本開示の実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、非水電解質とを備える。以下、負極、正極、および非水電解質について説明する。
【0064】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成され、かつ負極活物質を含む負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。負極合剤は、負極活物質を必須成分として含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤などを含むことができる。
【0065】
負極集電体としては、例えば金属箔が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。負極集電体の厚さは、例えば、5~20μmである。
【0066】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリルニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、カーボンブラック類および炭素繊維は、リチウムイオンを吸蔵し得るが、容量が小さいため、通常、負極活物質に含めない。一方、第2炭素材料は導電剤としても機能する。
【0068】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩などの塩も含む)、メチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0070】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極合剤は、必須成分として正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤、および増粘剤などを含むことができる。
【0071】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物としては、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-y2、LixCoy1-yz、LixNi1-yyz、LixMn24、LixMn2-yy4、LiMPO4、Li2MPO4Fなどが挙げられる。ここで、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、B、Nb、Si、Ti、Sn、Zr、Mo、Ta、W、K、Ba、Sr、Bi、Be、ZnおよびCaからなる群より選択される少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3を満たす。これらは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0072】
高容量化の観点から、正極活物質は、LixNi1-yyz(Mは、Mn、CoおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含み、0<x≦1.2、0≦y≦0.7)のリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。さらなる高容量化の観点から、0≦y≦0.5を満たすことが好ましい。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0073】
結着剤、導電剤、増粘剤、および分散媒としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。
【0074】
正極集電体としては、例えば金属箔が使用される。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。正極集電体の厚さは、例えば、5~20μmである。
【0075】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩を含む。非水電解質におけるリチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/Lである。非水電解質は、公知の添加剤を含有してもよい。
【0076】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
リチウム塩としては、例えば、塩素含有酸のリチウム塩(LiClO4、LiAlCl4、LiB10Cl10など)、フッ素含有酸のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2など)、フッ素含有酸イミドのリチウム塩(LiN(CF3SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiN(C25SO22など)、リチウムハライド(LiCl、LiBr、LiIなど)などが使用できる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0079】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0080】
図1は、本開示の一実施形態に係る角形の非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0081】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および非水電解質(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0082】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接等により取り付けられている。負極リード3の他端は、樹脂製の絶縁板(図示せず)を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接等により取り付けられている。正極リード2の他端は、絶縁板を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。絶縁板は、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離している。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。このようにして、電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。封口板5に設けられている電解液の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【0083】
<実施例>
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
<実施例1>
[第1炭素材料]
平均粒径A=23μmの塊状人造黒鉛を準備した。ここでは、コークスを原料として合成した塊状黒鉛を石油ピッチと混合し、さらに不活性ガス雰囲気下で焼成し、その後、粉砕、分級して、平均粒径23μmに調整した。
【0085】
[第2炭素材料]
平均粒径B=6μmの鱗片状天然黒鉛を準備した。ここでは、天然黒鉛を粉砕し、分級して、平均粒径6μmに調整した。
【0086】
[LSX材料]
工程(i)
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Li=1となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、Li2Si25で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0087】
工程(ii)
リチウムシリケートとして粉末状のLi2Si25(平均粒径10μm)と、粉末状の原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、50:50の質量比で混合し、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、SUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0088】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、ホットプレスで混合物に所定の圧力を印加しながら、600℃で4時間焼成して、混合物の焼結体を得た。
【0089】
工程(iii)
その後、焼結体を粉砕し、40μmのメッシュに通した後、石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気中で、800℃で5時間焼成し、複合粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、複合粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、表面に導電層を有するLSX材料(平均粒径C1=9μm)を得た。
【0090】
SEMを用いてLSX材料の断面を観察したところ、Li2Si25からなるマトリックス中に平均粒径50nmのSi粒子が略均一に分散していることが確認された。LSX材料のXRDパターンには、主に単体SiとLi2Si25に由来する回折ピークが確認され、ピーク強度は、Li2Si25<Siであった。
【0091】
Si-NMRによる測定で、LSX材料(リチウムシリケート相およびSi粒子)に占めるSi粒子の含有量は50質量%であることが確認された。
【0092】
[SiOx材料]
一酸化珪素の不均化反応により、SiO相とシリコン粒子とを分離生成させて、全体の組成がSiO(X=1)で表されるSiO材料(平均粒径C2=6μm)を得た。SiO材料の表面にも、LSX材料と同様の導電層を形成した。
【0093】
[負極の作製]
第1炭素材料86質量部と、第2炭素材料5質量部と、表面に導電層を有するLSX材料5質量部と、表面に導電層を有するSiOx材料4質量部とを混合して負極活物質として用いた。A/C比は3、C/B比は1.3である。ここで、平均粒径Cは、C=(C1(9μm)×5質量部+C2(6μm)×4質量部)/(5質量部+4質量部)=(45+24)/9=7.67と算出した。
【0094】
負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1:1.5の質量比で混合し、水を添加した後、混合機を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、銅箔の表面に負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0095】
[正極の作製]
コバルト酸リチウムと、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0096】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7の体積比で含む混合溶媒にLiPF6を1.0mol/L濃度で溶解して非水電解液を調製した。
【0097】
[非水電解質二次電池(ラミネート型電池)の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、非水電解質二次電池A1(設計容量:800mAh)を得た。
【0098】
<実施例2>
第1炭素材料81質量部と、第2炭素材料10質量部と、表面に導電層を有するLSX材料5質量部と、表面に導電層を有するSiOx材料4質量部とを混合して負極活物質として用いた点以外、実施例1と同様に負極を作製し、さらに電池A2を作製した。
【0099】
<比較例1>
ここでは、第2炭素材料を用いなかった。すなわち、第1炭素材料91質量部と、表面に導電層を有するLSX材料5質量部と、表面に導電層を有するSiOx材料4質量部とを混合して負極活物質として用いた点以外、実施例1と同様に負極を作製し、さらに電池B1を作製した。
【0100】
<実施例3>
LSX材料の平均粒径を12μmに変更したこと以外、実施例1と同様に負極を作製し、さらに電池A3を作製した。A/C比は2.5、C/B比は1.6である。ここで、平均粒径Cは、C=(C1(12μm)×5質量部+C2(6μm)×4質量部)/(5質量部+4質量部)=(60+24)/9=9.33と算出した。
【0101】
<実施例4>
LSX材料の平均粒径を12μmに変更したこと以外、実施例2と同様に負極を作製し、さらに電池A4を作製した。
【0102】
<比較例2>
LSX材料の平均粒径を12μmに変更したこと以外、比較例1と同様に負極を作製し、さらに電池B2を作製した。
【0103】
[サイクル特性]
以下の条件で充放電サイクルを100回繰り返した後、充放電サイクル後の放電容量を求めた。
【0104】
〈充電〉
25℃の環境下で、400mAの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの電圧で電流が40mAになるまで定電圧充電した。充電後、25℃の環境下で、20分間休止した。
【0105】
〈放電〉
休止後、25℃の環境下で、800mAの電流で電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。
【0106】
上記で得られた充放電サイクル前後の放電容量を用いて、下記式より、容量維持率を求めた。
【0107】
充放電サイクル後の容量維持率(%)=(充放電サイクル後の放電容量/初期の放電容量)×100
サイクル特性の評価結果を表1に示す。なお、表1において、負極活物質に占める第2炭素材料の含有量をw2で示す。
【0108】
【表1】
【0109】
[初期容量]
実施例1、2および比較例1の負極を用いて、対極を金属リチウムとして含む単極セルa1、a2およびb1を作製した。
【0110】
各単極セルの充放電を以下の条件で行い、初期の放電容量を求めた。
【0111】
〈充電〉
25℃の環境下で、0.1Cのレートで電圧が5mVになるまで定電流充電を行った。充電後、25℃の環境下で、20分間休止した。
【0112】
〈放電〉
休止後、25℃の環境下で、0.1Cのレートで電圧が1Vになるまで定電流放電を行った。
【0113】
比較例1の負極を用いた単極セルの初期の放電容量を100として、各単極セルの相対値(Index)を求めた。図2に、負極活物質に占める第2炭素材料の含有量w2と、初期の放電容量との関係を示す。
【0114】
電池a1では、電池b1と比べて初期容量が増加し、かつ電池A1では、電池B1と比べて容量維持率も向上した。電池a2は、初期容量の有意な増加は見られないが、表1に示すように、電池A2の容量維持率は顕著に向上した。これらの結果から、適量の第2炭素材料を用いることで、優れた放電容量とサイクル特性とを両立し得るようになることが理解できる。このとき、負極活物質に占める第2炭素材料の含有量(w2)は、15質量%以下が好ましく、例えば5質量%以上とすればよく、例えば10質量%以下でよいことも理解できる。なお、電池A3、B2およびA4の対比からも同様の傾向が見られた。
【0115】
次に、電池A1、A2およびB1と電池A3、A4およびB2とを対比すると、シリコン含有材料の平均粒径がより大きい場合の方が、第2炭素材料を用いることによるサイクル特性の向上効果が大きくなる傾向があることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示に係る二次電池用負極は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源となる非水電解質二次電池に有用である。
【符号の説明】
【0117】
1 電極群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 ガスケット
8 封栓
図1
図2