(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】金型の組立方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/00 20060101AFI20241122BHJP
B21D 28/34 20060101ALI20241122BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20241122BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20241122BHJP
B21D 37/14 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B21D37/00 B
B21D28/34 L
B30B15/28 Q
B30B15/28 K
B21D24/00 L
B21D37/14 J
(21)【出願番号】P 2021048978
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光央
(72)【発明者】
【氏名】野尻 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】濱田 秀明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶太郎
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-62282(JP,A)
【文献】特開平4-158926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/168477(US,A1)
【文献】実開平5-39799(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/00
B21D 28/34
B30B 15/28
B21D 24/00
B21D 37/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型とを備える金型を加工装置に設置せずに、前記金型の前記上型と前記下型との相対位置を変化させつつ、前記金型の位置を測定して、オフラインでの前記上型の座標または前記下型の座標を得るステップと、
前記金型を加工装置に設置して、前記金型の前記上型と前記下型との相対位置を変化させつつ、前記金型の位置を測定して、オンラインでの前記上型の座標及び前記下型の座標を得るステップと、
前記オフラインでの前記上型の座標及び前記下型の座標と、前記オンラインでの前記上型の座標及び前記下型の座標とを比較して、前記上型の座標の差分及び前記下型の座標の差分を算出するステップと、
前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値を前記オフラインでの前記上型の座標の補正値として算出するステップと、
を含む、金型の組立方法。
【請求項2】
前記オンラインでの前記上型の座標と前記下型の座標が、目標として設定する前記上型の座標と前記下型の座標に近づくように、機械学習を繰り返すことで、機械学習後の前記オフラインでの前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値を得るステップをさらに含み、
前記オフラインでの前記上型の座標の補正値として算出するステップにおいて、機械学習後の前記オフラインでの前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値を前記オフラインでの前記上型の座標の補正値とする、請求項1に記載の金型の組立方法。
【請求項3】
前記上型の座標の補正値を算出するステップにおいて、前記上型の座標の補正値を前記上型の下死点の座標として算出する、請求項1又は2に記載の金型の組立方法。
【請求項4】
前記上型のパンチ及び前記下型のダイにかかる荷重を測定して、前記オフラインでの前記パンチ及び前記ダイにかかる荷重の測定波形を得るステップと、
前記上型のパンチ及び前記下型のダイにかかる荷重を測定して、前記オンラインでの前記パンチ及び前記ダイにかかる荷重の測定波形を得るステップと、
をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の金型の組立方法。
【請求項5】
前記オフラインでの前記パンチ及び前記ダイにかかる荷重の測定波形又はオンラインでの前記パンチ及び前記ダイにかかる荷重の測定波形が予め設定した閾値以下であることを判定する、請求項4に記載の金型の組立方法。
【請求項6】
上型と下型とを備えた金型に取り付けられ、前記金型の位置を測定するセンサ類と、
前記センサ類で測定された前記上型と前記下型の座標を物理量として入力され、状態変数として変換する入力処理部と、
オフラインでの前記上型の座標及び前記下型の座標と、オンラインでの前記上型の座標及び前記下型の座標とを比較して、前記上型の座標の差分及び前記下型の座標の差分を算出すると共に、前記オンラインでの前記上型の座標と前記下型の座標が、目標として設定する前記上型の座標と前記下型の座標に近づくように、機械学習を繰り返すことで、機械学習後の前記オフラインでの前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値を前記オフラインでの前記上型の座標の補正値として算出する、学習処理部と、
前記オフラインでの前記上型の座標の補正値を出力する出力処理部と、
を備える、金型の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断加工、曲げ加工、絞り加工などに用いる金型であり、荷重、位置、振動などを測定できるセンサ類を備えた金型を高精度に組み立てる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切断加工では、一般的に、ダイと呼ばれる工具の上に置かれた被加工物であるワークをストリッパという部材により押さえつつ、パンチと呼ばれる工具によってワークをダイに押しこんで打ち抜くことで所定の形状を得る。切断加工は、一般的に家電機器の製造、精密機器の製造、もしくは自動車部品の製造といった多岐にわたる製造分野で普及している。
【0003】
こうしたパンチおよびダイを使用した切断加工においては、個々の金型に応じて、現場作業員の技能による、トライアンドエラーにより金型および工具の位置を調整するのが一般的である。しかし、そうしたトライアンドエラーによる調整では対応できない場合が存在し、そのような場合には所定品質の加工品が得られない。そのため、例えば、特許文献1に開示された調整方法のように、パンチに所定厚みの被膜を形成させることにより、パンチとダイの芯を出しやすくして、パンチとダイ間のクリアランス(すき間)を所定寸法範囲に確保する、金型および工具の位置調整する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例で示した特許文献1の調整方法は、パンチがダイに接触しても工具に生じる傷や削れなどの損傷を極小にすることを特徴としており、ある調整バラつきの範囲内でパンチとダイが接触せざるを得ないことを前提にした調整方法となっている。
【0006】
このような前提は、金型調整の分野では一般的な考え方となっており、その主な理由を次に説明する。
一般に、工具の入替え、または再研磨などの理由で金型をメンテナンスする場合、プレス装置から金型を取外した状態(オフライン状態)で所望のメンテナンスを施した後、再び工具を金型に取り付けて、パンチとダイの隙間がある程度の範囲内に収まるように、主に目視等の手段により組立調整を行う(刃合わせ調整)。
【0007】
しかし、金型を再びプレス装置に搭載すると、金型の自重、プレス装置毎のクセ(主に歪み)、およびプレス装置と金型との重心バランスの違いなどの理由により、金型に歪が生じて大きく撓んだ状態となる。つまり、金型をプレス装置に搭載した状態(オンライン状態)とオフライン状態とでは金型の撓み方が異なり、作業者によってオフライン状態で施した組立調整がオンライン状態では成り立たないことになる。このため、パンチとダイとが接触せざるを得ないことが多い。
【0008】
従来例で示した特許文献1の調整方法は、上記の前提を元にしているため、プレス装置による打抜き動作を繰り返すことによって、パンチとダイとが接触する機会が増え、パンチとダイに蓄積される負荷量が増加し、工具寿命が短いという問題があった。
【0009】
本開示は、上記従来の問題点に鑑み、パンチとダイが接触する機会を低減して、工具寿命を伸長することができる金型の組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の金型の組立方法は、上型と下型とを備える金型を加工装置に設置せずに、金型の上型と下型との相対位置を変化させつつ、金型の位置を測定して、オフラインでの上型の座標及び下型の座標を得るステップと、金型を加工装置に設置して、金型の上型と下型の相対位置と変化させつつ、金型の位置を測定して、オンラインでの上型の座標及び下型の座標を得るステップと、オフラインでの上型の座標及び下型の座標と、オンラインでの上型の座標及び下型の座標とを比較して、上型の座標の差分及び下型の座標の差分を算出するステップと、上型の座標の差分の値と下型の座標の差分の値をオフラインでの上型の座標の補正値として算出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の金型の組立方法によれば、パンチとダイが接触する機会を著しく低減して、工具寿命を伸長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る加工装置における、金型の評価システムの概要を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1における、センサを設置した金型の断面構成を示す概略断面図である。
【
図3】実施の形態1における、入力処理部、学習処理部および出力処理部の各構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態1における、評価システムを用いた金型組立方法の作業フローである。
【
図5(a)】実施の形態1におけるオフラインにおける上型の上死点及び下死点での座標の計測結果を示す概略図である。
【
図5(b)】実施の形態1におけるオンラインにおける上型の上死点及び下死点での座標の計測結果を示す概略図である。
【
図5(c)】オンラインにおける上型の下死点での座標の計測結果と目標数値との差分31を示す概略図である。
【
図5(d)】オンラインにおける上型の下死点での座標の計測結果とオフラインにおける上型の下死点での座標の計測結果との差分32を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の態様に係る金型の組立方法は、上型と下型とを備える金型を加工装置に設置せずに、金型の上型と下型との相対位置を変化させつつ、金型の位置を測定して、オフラインでの上型の座標及び下型の座標を得るステップと、
金型を加工装置に設置して、金型の上型と下型との相対位置を変化させつつ、金型の位置を測定して、オンラインでの上型の座標及び下型の座標を得るステップと、
オフラインでの上型の座標及び下型の座標と、オンラインでの上型の座標及び下型の座標とを比較して、上型の座標の差分及び下型の座標の差分を算出するステップと、
上型の座標の差分の値と下型の座標の差分の値をオフラインでの上型の座標の補正値として算出するステップと、
を含む。
【0014】
第2の態様に係る金型の組立方法は、上記第1の態様において、オンラインでの前記上型の座標と前記下型の座標が、目標として設定する前記上型の座標と前記下型の座標に近づくように、機械学習を繰り返すことで、機械学習後の前記オフラインでの前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値を得るステップをさらに含み、
前記オフラインでの前記上型の座標の補正値として算出するステップにおいて、機械学習後の前記オフラインでの前記上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値を前記オフラインでの前記上型の座標の補正値としてもよい。
【0015】
第3の態様に係る金型の組立方法は、上記第1又は2の態様において、上型の座標の補正値を算出するステップにおいて、上型の座標の補正値を上型の下死点の座標として算出してもよい。
【0016】
第4の態様に係る金型の組立方法は、上記第1から3のいずれかの態様において、上型のパンチ及び下型のダイにかかる荷重を測定して、オフラインでのパンチ及びダイにかかる荷重の測定波形を得るステップと、
上型のパンチ及び下型のダイにかかる荷重を測定して、オンラインでのパンチ及びダイにかかる荷重の測定波形を得るステップと、
をさらに含んでもよい。
【0017】
第5の態様に係る金型の組立方法は、上記第4の態様において、オフラインでのパンチ及びダイにかかる荷重の測定波形又はオンラインでのパンチ及びダイにかかる荷重の測定波形が予め設定した閾値以下であることを判定してもよい。
【0018】
第6の態様に係る金型の評価システムは、上型と下型とを備えた金型に取り付けられ、前記金型の位置を測定するセンサ類と、
センサ類で測定された上型と下型の座標を物理量として入力され、状態変数として変換する入力処理部と、
オフラインでの上型の座標及び下型の座標と、オンラインでの上型の座標及び下型の座標とを比較して、上型の座標の差分及び下型の座標の差分を算出すると共に、オンラインでの上型の座標と下型の座標が、目標として設定する上型の座標と下型の座標に近づくように、機械学習を繰り返すことで、機械学習後のオフラインでの上型の座標の差分の値と前記下型の座標の差分の値又は差分に近い値をオフラインでの上型の座標の補正値として算出する、学習処理部と、
オフラインでの上型の座標の補正値を出力する出力処理部と、
を備える。
【0019】
以下に、本開示に係る金型の組立方法及びこれに用いる金型の評価システムについて、添付図面を参照して説明する。なお、実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る金型の組立方法は、金型の挙動を測定してデータ収集および解析する評価システム1と、その評価システム1を用いた金型の組立調整する方法とを含む。
【0021】
(評価システム)
図1は、金型の評価システム1の概要を示すブロック図である。まず、評価システム1について、その概要を示す
図1のブロック図を用いて説明する。
本開示の評価システム1は、金型に取り付けるセンサ類2と、入力処理部3と、学習処理部4と、出力処理部5とを備える。
【0022】
この評価システム1は、センサ類2からの測定信号を元に、加工中の物理量6を状態変数7に変換する入力ステップを実行する入力処理部3と、状態変数7と目標数値8を元に、状態変数の演算・判定9などの学習ステップを実行する学習処理部4と、演算結果10および警報11などの出力ステップを実行する出力処理部5とを、機能として備える。
なお、この評価システム1は、上記入力処理部3、学習処理部4、出力処理部5の機能を実行できる物理的な構成として、通常のコンピュータの構成を有してもよい。例えば、CPU、メモリ、記憶部、入力部、出力部等(図示せず)を備えていてもよい。
また、上記入力処理部3、学習処理部4、出力処理部5の各機能は、コンピュータプログラムによって実現してもよい。コンピュータプログラムは、例えば、記憶部に記憶しておき、必要に応じて読み出してCPUにおいて実行することによって、上記入力処理部3、学習処理部4、出力処理部5の各機能を実現できる。
【0023】
(センサ類の構成)
次に、評価システム1のうち、金型に取り付けるセンサ類2の構成に関して、
図2を用いて説明する。
図2は、センサ類2を設置した金型21の断面構成を示す概略断面図である。便宜上、鉛直上方をZ方向、これに垂直な水平面内をX-Y面として、紙面右方向をX方向、紙面手前から奥に向かってY方向としている。金型21には少なくとも荷重センサ29と位置センサ30a、30b、30c、30dを備える。荷重センサ29は金型の上型22および下型23を上下に動作させた時に、パンチ24あるいはダイ25にかかる荷重を測定できる。位置センサ30a、30b、30c、30dは、例えば近接センサを下型23に取付けることで上型22(ダイセット26、パンチプレート27あるいはストリッパプレート28)の位置や傾きを測定することができる。
【0024】
図2では、荷重センサ29を設置する一例として、パンチ24の先端に荷重センサ29をボルト等で固定し、パンチ24にかかる荷重を高感度に測定できる構成としている。
また、位置センサ30a、30b、30c、30dを測定する一例として(ただし、30c、30dは図示せず)、上型22のダイセット26の4つ角となる位置の各々で、X、YおよびZ方向の位置を測定できる構成としている。
【0025】
次に、評価システム1のうち、入力処理部3、学習処理部4および出力処理部5を構成する概要を示すブロック図に関して、
図3を用いて説明する。
【0026】
(入力処理部)
入力処理部3には、物理量6がセンサ類2から入力される。センサ類2から入力される物理量6は、金型の座標である。なお、物理量6には金型の座標以外に、パンチ又はダイにかかる荷重を含んでもよい。さらに、切断加工中に生じる音、切断加工中に生じる振動、せん断速度、ダイとパンチとのクリアランス、および、切断加工中に生じるワークの温度を含んでもよい。
【0027】
1回の切断加工が開始されてから終了するまでにリアルタイムで測定された物理量6は、状態変数12として変換され、学習処理部4に入力される。なお、切断評価にてプロセスの特徴、例えば荷重プロファイルのカーブの曲率など物理量6の局所的な値の傾向を捉えるのに十分な量のサンプル数が必要となるため、物理量6のサンプリング周期(測定周期)は、切断に要する時間の100分の1以下が望ましい。
【0028】
(学習処理部)
本開示の切断加工では、固定した下型8に対して上型7を上下動させることで対象物(ワーク)を切断加工する。このため、1回の上下動を1ストロークとして、複数回連続で動作させつつ、センサで加工中の物理量6を測定する。その物理量6は、状態変数7として入力される際、少なくとも2系統で学習処理部4に入力される。
1つ目は、センサを取り付けた金型21を、切断加工する加工装置に搭載した状態で1回以上の上下動あるいは切断加工を実施して測定した物理量6aの状態変数7a(以降、オンラインでの物理量6a、状態変数7a)とする。2つ目は、センサを取り付けた金型を、切断加工する加工装置に搭載せず、メンテナンスエリアに金型を載置し、治具等を用いて手作業を介した状態で、1回以上の上下動を実施して測定した物理量6bの状態変数7b(以降、オフラインでの物理量6b、状態変数7b)とする。
【0029】
学習処理部4での処理の概要を示す。まず、学習処理部4に入力された状態変数のうち、オンラインでの状態変数7aは、予め設定した目標数値8との差分を演算して、目標数値8に対する差分値31として記憶する。さらに、オンラインでの状態変数7aとオフラインでの状態変数7bとの差分も演算して、オンラインとオフラインとの差分値32として記憶する。
【0030】
次に、差分値31がゼロに近づくように、差分値32を最適な値(ゼロが最適とは限らない)にするよう、機械学習を繰り返すことで、オフラインでの物理量6bを補正する補正値33を得る。
【0031】
(出力処理部)
出力処理部5によって上記補正値33を出力する。
【0032】
この学習処理により、オンラインでの物理量6aを最適とできるオフラインでの物理量6bを数値で算出することが可能となり、オフラインでの治具等を用いた手作業での目標値を明確にすることができる。
【0033】
(組立調整方法と具体例)
本開示の切断加工における、評価システム1を用いた金型を組立調整する方法を、
図4の作業フローを用いて次に説明する。
一般に、切断加工工程の現場では、工具が摩耗あるいは損傷した際にパンチあるいはダイを再研磨する、または商品機種を切替える、などの理由により、切断加工機から金型を降ろして、金型を一度解体して、所定の処置を実施した後に再度金型を組み立てるようなメンテナンス作業が頻繁に生じる。
【0034】
(1a)本開示の金型を組立調整する方法では、まず、メンテナンス作業のようなオフラインの状態で金型を組み立てた段階で、パンチ24とダイ25との間の刃合わせをするために、吊り治具などを用いて手作業にて下型23に対して上型22を1回以上、上下動させる(S01)。
【0035】
この時点で、ここで用いた金型21と工具の組合せが補正値33を有しない組合せである場合は、上型22と下型23とが最も近接する状態(下死点近傍)で、荷重の値が予め設定した閾値以下(理想的にはゼロ)とされ、且つ位置センサを設置した各位置におけるX、YおよびZの位置座標が、予め設定した各々の所定位置座標からのズレ量を極小値とされるように、上型22と下型23の位置を調整する。
【0036】
(2a)この状態で、金型21に設置した荷重センサ29および位置センサ30a、30b、30c、30dからの信号を取込み、オフラインでの物理量6bを計測し、状態変数7bに変換して記憶する(S02)。
【0037】
(1b)一方、この時点で、ここで用いた金型21と工具との組合せが、後述する方法(S05)によって得ることのできる補正値33を有する組合せである場合は、オフラインの状態で補正値33を反映させた調整を行う。すなわち、上型22と下型23が最も近接する状態(下死点近傍)で、荷重の値が予め設定した閾値以下(理想的にはゼロ)とされ、且つ位置センサを設置した各位置におけるX、YおよびZの位置座標が、予め設定した各々の所定位置座標に補正値33を加えた位置座標からのズレ量を極小値とするように、上型22と下型23の位置を調整する(S06)。なお、補正値33は、例えば、補助板等を用いて反映させることができる。
【0038】
(2b)この状態で、金型21に設置した荷重センサ29および位置センサ30a、30b、30c、30dからの信号を取込み、オフラインでの物理量6bを計測し、状態変数7bに変換して記憶する(S02)。
【0039】
(3)次に、切断加工機に金型21を設置した段階で、被加工材を投入しない状態で、切断加工機にて上型22を1回以上、上下動させる(S03)。
(4)この状態で、金型21に設置した荷重センサ29および位置センサ30a、30b、30c、30dからの信号を取込み、オンラインでの物理量6aを計測し、状態変数7aに変換して記憶する(S04)。
またこの時、荷重の値が予め設定した閾値以上となった場合は、パンチおよびダイに過剰な負荷荷重が生じていると判断されるため、出力処理部5を介して荷重異常の警報を発する。
【0040】
なお、上型22を上下動させる回数は1ストローク分を1回以上動作させれば有効なデータを取得できる。また、複数回の動作をさせることで、動作のバラつきを考慮したデータを取得できることができ、さらに好ましい。
なお、予め設定した荷重の閾値の大きさは、パンチおよびダイがチッピング等の破損を生じないレベルで発生する荷重とすることが好ましい。さらに、理想的にはパンチ及びダイにかかる荷重を0(ゼロ)とすることが最も好ましい。
【0041】
なお、予め設定した位置センサの所定位置座標とは、下死点近傍で下型を基準として上型が下型に面接触した状態での位置をZの所定位置座標とし、またその状態で上型と下型の外形が重なり合った位置をXおよびYの所定位置座標とすることが好ましい。
【0042】
(5)次に、評価システム1の入力処理部に取り込まれた、オフラインで取得した物理量6b、状態変数7b、オンラインで取得した物理量6a、状態変数7aは、評価システム1にて、目標数値8との差分値31、およびオンラインとオフラインの差分値32が算出されて出力される。この具体例を
図5(a)から
図5(d)にて説明する。ここでは、物理量6aとして、上型の座標である場合について説明する。
【0043】
図5(a)では、上記S02のオフラインで取得した上型の上死点及び下死点での4点の位置センサ30a、30b、30c、30dの各々の座標(X1、Y1、Z1)、(X2、Y2、Z2)、(X3、Y3、Z3)および(X4、Y4、Z4)を示している。点A、B、C、Dは、所定位置座標を示し、実線a、b、c、dは所定位置座標同士を結ぶ線を示している。
【0044】
また、
図5(b)では、オンラインで取得した上型の上死点及び下死点での4点の位置センサ‘30a、‘30b、‘30c、‘30dの各々の座標(‘X1、‘Y1、‘Z1)、(‘X2、‘Y2、‘Z2)、(‘X3、‘Y3、‘Z3)および(‘X4、‘Y4、‘Z4)を示している。破線a’、b’、c’、d’は所定位置座標同士を結ぶ線を示している。
【0045】
まず、上型の下死点での4点の座標と目標数値8との差分値31を算出するが、これを
図5(c)に示す。予め人が設定しておく目標数値8を点E、F、G、Hとして、オンラインで取得した上型の下死点での4点の位置座標と目標数値8との差分31が算出される。この場合、各々の座標でその差分31が予め定めた所定値以下であるか(限りなく0が好ましい)か否かを判定する。
【0046】
次に、
図5(d)では、オフラインで取得した上型の4点の位置座標と、オンラインで取得した上型の4点の位置座標とを重ねた図を示している。このように、オフラインとオンラインで取得した上型の各々の位置座標の差分32が算出されることで、
図3の出力処理部に示すような、上型の各々の位置座標の補正値33が算出される。
【0047】
このように、ここで用いた金型21と工具の組合せにおいて、上型の4点の一座標と目標数値8との差分値31の各々の座標でその差分が0(ゼロ)になるまで、つまり、オンラインで取得した上型の4点の位置座標が目標数値8に近づくまで機械学習を続け、オフラインで取得した上型の4点の位置座標の補正値33の最適値を算出し続けた。(S05)
【0048】
その結果、従来の作業者の技能に頼った金型の組立方法に比べ、本開示の金型の組立方法では、同一ショット数でのパンチとダイの摩耗量を減らすことができ、工具寿命(加工可能なショット数)を伸長することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示によれば、主に切断加工の分野において、加工装置に金型を載置して動作させた状態に最適となるよう、オフラインでの金型の組立方法を実現することができる。これにより、加工動作中にパンチとダイが接触する機会を著しく低減して、工具の寿命を伸長でき、加工装置のダウンタイム低減による生産性の向上が見込まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 評価システム
2 センサ類
3 入力処理部
4 学習処理部
5 出力処理部
6 物理量
7 状態変数
8 目標数値
9 測定波形の演算・判定
10 演算結果
11 警報
21 金型
22 上型
23 下型
24 パンチ
25 ダイ
26 ダイセット
27 パンチプレート
28 ストリッパプレート
6a オンラインでの物理量
7a オンラインでの状態変数
6b オフラインでの物理量
7b オフラインでの状態変数
29 荷重センサ
30 位置センサ(30a、30b、30c、30d)
31 目標との差分値
32 オンラインとオフラインの差分値
33 補正値