(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】レーザ加工装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/044 20140101AFI20241122BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20241122BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241122BHJP
【FI】
B23K26/044
B23K26/03
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2021118506
(22)【出願日】2021-07-19
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕也
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-256481(JP,A)
【文献】特開平3-110087(JP,A)
【文献】特開2005-196242(JP,A)
【文献】特開平4-123884(JP,A)
【文献】特開2013-146734(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/147273(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0151629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/044
B23K 26/03
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッドを移動させるティーチング操作を行うことで、教示プログラムを作成する工程と、
前記教示プログラムに対して、補正対象の教示点で実行させる補正命令を追加する工程と、
前記教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態で前記レーザ加工ヘッドを加工方向に移動させる空走運転を行う工程と、
前記空走運転中、前記補正対象の教示点において、前記レーザ加工ヘッドの加工方向への移動を一時停止する工程と、
前記レーザ加工ヘッドを前記ワークに近づく方向に移動させ、前記レーザ加工ヘッドの先端部が前記ワークに接触したことを検出する工程と、
前記レーザ加工ヘッドが前記ワークに接触するまでの移動距離に基づいて、前記補正対象の教示点における前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの間の実距離を検出する工程と、
前記実距離と、レーザ加工時の目標距離とのズレ量を示す第1補正値を算出する工程と、
前記レーザ加工ヘッドを前記ワークから離れる方向に前記目標距離だけ移動させる工程と、
静電容量式のハイトセンサによって、前記ワークから前記目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する工程と、
予めキャリブレーションされた前記静電容量値に対する校正距離と、前記目標距離とのズレ量を示す第2補正値を算出する工程と、
前記第1補正値及び前記第2補正値に基づいて、前記教示プログラムを補正する工程と、を備える
レーザ加工装置の制御方法。
【請求項2】
ワークの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッドを移動させるティーチング操作を行うことで、教示プログラムを作成する工程と、
前記教示プログラムに対して、補正対象の教示点で実行させる補正命令を追加する工程と、
前記教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態で前記レーザ加工ヘッドを加工方向に移動させる空走運転を行う工程と、
前記空走運転中、前記補正対象の教示点において、前記レーザ加工ヘッドの加工方向への移動を一時停止する工程と、
前記レーザ加工ヘッドを前記ワークに近づく方向に移動させ、前記レーザ加工ヘッドの先端部が前記ワークに接触したことを検出する工程と、
前記レーザ加工ヘッドを、前記ワークから離れる方向にレーザ加工時の目標距離だけ移動させる工程と、
静電容量式のハイトセンサによって、前記ワークから前記目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する工程と、
予めキャリブレーションされた前記静電容量値に対する校正距離と、前記目標距離とのズレ量を示す補正値を算出する工程と、
前記目標距離及び前記補正値に基づいて、前記教示プログラムを補正する工程と、を備える
レーザ加工装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記教示プログラムの補正が完了した後で、前記教示プログラムから前記補正命令を削除する工程、をさらに備える
レーザ加工装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、実ワークの加工線を撮影した撮像データに基づいて、教示データと実ワークの加工線とのズレ量を演算し、ズレ量のデータに基づいて教示データを修正することで、実ワークの加工データを修正するようにしたティーチング方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の発明では、静電容量センサからの検出出力に基づいて、レーザ加工ヘッドがワークに対して常に所定距離を維持するようにしている。
【0005】
しかしながら、ワークの形状によっては、レーザ加工ヘッドの先端部とワークとの間の距離を正確に計測できないおそれがある。
【0006】
具体的に、ワークの表面から壁部が立設しており、壁部の近傍をレーザ加工ヘッドが移動する場合、静電容量センサがワークの壁部の側面影響を受け、壁部との間の静電容量に基づいてワークとの距離を誤検出してしまい、レーザ加工ヘッドの先端部とワークとの距離に誤差が生じてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、静電容量式のセンサにおける側面影響を考慮したティーチングを行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、ワークの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッドを移動させるティーチング操作を行うことで、教示プログラムを作成する工程と、前記教示プログラムに対して、補正対象の教示点で実行させる補正命令を追加する工程と、前記教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態で前記レーザ加工ヘッドを加工方向に移動させる空走運転を行う工程と、前記空走運転中、前記補正対象の教示点において、前記レーザ加工ヘッドの加工方向への移動を一時停止する工程と、前記レーザ加工ヘッドを前記ワークに近づく方向に移動させ、前記レーザ加工ヘッドの先端部が前記ワークに接触したことを検出する工程と、前記レーザ加工ヘッドが前記ワークに接触するまでの移動距離に基づいて、前記補正対象の教示点における前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの間の実距離を検出する工程と、前記実距離と、レーザ加工時の目標距離とのズレ量を示す第1補正値を算出する工程と、前記レーザ加工ヘッドを前記ワークから離れる方向に前記目標距離だけ移動させる工程と、静電容量式のハイトセンサによって、前記ワークから前記目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する工程と、予めキャリブレーションされた前記静電容量値に対する校正距離と、前記目標距離とのズレ量を示す第2補正値を算出する工程と、前記第1補正値及び前記第2補正値に基づいて、前記教示プログラムを補正する工程と、を備えるレーザ加工装置の制御方法である。
【0009】
第1の発明では、補正対象の教示点において、レーザ加工ヘッドの先端部がワークに接触したことを検出することで実距離を検出し、第1補正値を算出する。第1補正値は、実距離と目標距離とのズレ量を示す。ワークから目標距離だけ離れた位置の静電容量値をハイトセンサで検出し、第2補正値を算出する。第2補正値は、静電容量値に対する校正距離と目標距離とのズレ量を示す。第1補正値及び第2補正値に基づいて、教示プログラムを補正する。
【0010】
これにより、最初のティーチング操作がそれほど精度の高いものでなくても、第1補正値に基づいて教示プログラムを補正することで、実距離と目標距離のズレ量を考慮した誤差の少ない教示プログラムを容易に作成することができる。このようにすれば、レーザ加工中、ハイトセンサの検出値に基づくレーザ加工ヘッドの位置調整幅が小さくて済むことから、レーザ加工ヘッドの振動を抑えて加工品質を高めることができる。
【0011】
また、ワークから目標距離だけ離れた位置で静電容量値を検出することで、静電容量式のハイトセンサにおける側面影響を考慮したティーチングを行うことができる。
【0012】
具体的に、レーザ加工ヘッドの先端部とワークとの間の距離と、ハイトセンサで検出される静電容量値とは、予めキャリブレーションされてデータベースのテーブルに記憶される。そして、レーザ加工ヘッドの移動中、ハイトセンサの検出値が、レーザ加工時の目標距離に相当する静電容量値となるように、レーザ加工ヘッドとワークとの間の距離を調整するようにしている。ここで、キャリブレーションされた静電容量値と校正距離とは、ワークの表面に障害物が無い状態で行われる。
【0013】
そのため、例えば、ワークの表面から壁部が立設している場合、ハイトセンサがワークの壁部の側面影響を受け、壁部との間の静電容量に基づいてワークとの距離を誤検出してしまい、レーザ加工ヘッドの先端部とワークとの距離に誤差が生じてしまうおそれがある。
【0014】
これに対し、本発明では、空走運転中、ワークから目標距離だけ離れた位置の静電容量値をハイトセンサで検出することで、静電容量値に対する目標距離を正確に把握し、静電容量値に対する校正距離と目標距離とのズレ量を示す第2補正値を算出するようにしている。そして、第2補正値に基づいて教示プログラムを補正することで、ハイトセンサにおける側面影響を考慮したティーチングを行うことができる。
【0015】
第2の発明は、ワークの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッドを移動させるティーチング操作を行うことで、教示プログラムを作成する工程と、前記教示プログラムに対して、補正対象の教示点で実行させる補正命令を追加する工程と、前記教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態で前記レーザ加工ヘッドを加工方向に移動させる空走運転を行う工程と、前記空走運転中、前記補正対象の教示点において、前記レーザ加工ヘッドの加工方向への移動を一時停止する工程と、前記レーザ加工ヘッドを前記ワークに近づく方向に移動させ、前記レーザ加工ヘッドの先端部が前記ワークに接触したことを検出する工程と、前記レーザ加工ヘッドを、前記ワークから離れる方向にレーザ加工時の目標距離だけ移動させる工程と、静電容量式のハイトセンサによって、前記ワークから前記目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する工程と、予めキャリブレーションされた前記静電容量値に対する校正距離と、前記目標距離とのズレ量を示す補正値を算出する工程と、前記目標距離及び前記補正値に基づいて、前記教示プログラムを補正する工程と、を備えるレーザ加工装置の制御方法である。
【0016】
第2の発明では、補正対象の教示点において、レーザ加工ヘッドの先端部がワークに接触したことを検出した後、レーザ加工ヘッドをワークから離れる方向に目標距離だけ移動させる。ワークから目標距離だけ離れた位置の静電容量値をハイトセンサで検出し、補正値を算出する。補正値は、静電容量値に対する校正距離と目標距離とのズレ量を示す。目標距離及び補正値に基づいて、教示プログラムを補正する。
【0017】
これにより、レーザ加工ヘッドの先端部がワークに接触するまでの実距離を検出する工程や、実距離と目標距離とのズレ量を示す補正値を算出する工程が不要となる。
【0018】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記教示プログラムの補正が完了した後で、前記教示プログラムから前記補正命令を削除する工程、をさらに備える。
【0019】
第3の発明では、教示プログラムから補正命令を削除することで、意図せずに教示プログラムの再調整が行われるのを抑えることができる。
【0020】
具体的に、空走運転を行った場合に、教示プログラムを再調整するつもりが無いにもかかわらず、レーザ加工ヘッドが教示点で一時停止する等の意図しない動作が生じるのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、静電容量式のセンサにおける側面影響を考慮したティーチングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態1に係るレーザ加工装置の全体構成を示す図である。
【
図2】レーザ加工ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【
図3】ティーチング操作中のレーザ加工ヘッドの動作を示す図である。
【
図4】教示プログラムを補正する手順を説明するフローチャート図である。
【
図5】空走運転中のレーザ加工ヘッドの動作を示す図である。
【
図6】教示プログラムを補正した後のレーザ加工ヘッドの動作を示す図である。
【
図7】本実施形態2に係るレーザ加工装置において、教示プログラムを補正する手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
《実施形態1》
〈レーザ加工装置の構成〉
図1に示すように、レーザ加工装置1は、レーザ発振器2と、光ファイバ3と、ロボット5と、制御部10と、ティーチペンダント15と、レーザ加工ヘッド20とを備える。
【0025】
レーザ発振器2は、電源(図示省略)からの電力供給を受けてレーザ光Lを発振する。
【0026】
光ファイバ3は、レーザ発振器2で発振されたレーザ光Lを受け取り、レーザ加工ヘッド20に対して伝送する。レーザ加工ヘッド20には、ガス配管4を介してアシストガスが供給される。レーザ加工ヘッド20は、ロボット5の先端部に取り付けられる。レーザ加工ヘッド20は、ワークWに対してレーザ光Lを出射する。
【0027】
ロボット5は、教示プログラムに基づく制御部10からの信号を受けて、所定の軌跡を描くようにレーザ加工ヘッド20を移動させる。ロボット5は、レーザ加工の際に、レーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの距離が、所定の目標距離となるように、レーザ加工ヘッド20の位置を制御する。
【0028】
制御部10は、レーザ制御部11と、ロボット制御部12と、位置制御部13と、記憶部14とを有する。
【0029】
レーザ制御部11は、レーザ発振器2の出力を制御する。レーザ制御部11は、所望の強度のレーザ光Lが出射されるように、電源から供給される電力やレーザ発振器2の温度等を制御する。
【0030】
ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御する。ロボット制御部12は、教示プログラム等に基づいて、ロボット5の先端部、つまり、レーザ加工ヘッド20の先端部が所定の軌跡を描くように、ロボット5の関節軸を駆動又は停止させる信号を出力する。
【0031】
位置制御部13は、後述するハイトセンサ25で計測された距離に基づいて、レーザ加工ヘッド20先端部とワークWとの間の距離が目標距離となるように、レーザ加工ヘッド20の位置、具体的には、ロボット5の位置を制御する信号をロボット5に供給する。
【0032】
記憶部14は、教示プログラムを記憶する。教示プログラムは、作業者がティーチペンダント15を用いて、ワークWの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッド20を移動させるティーチング操作を行うことで作成される。
【0033】
記憶部14は、ハイトセンサ25の静電容量値に対する校正距離を示すテーブルを有する。具体的に、レーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの間の校正距離と、ハイトセンサ25で検出された静電容量値とが、予めキャリブレーションされてテーブルに記憶される。
【0034】
〈レーザ加工ヘッドの構成〉
図2に示すように、レーザ加工ヘッド20は、センサノズル21と、シールドノズル22と、絶縁部材23と、静電容量式のハイトセンサ25とを有する。ハイトセンサ25は、センサ電極26を含む。
【0035】
センサノズル21は、円筒状で金属製の部材で構成される。センサノズル21には、ハイトセンサ25のセンサ電極26が電気的に接続される。センサノズル21の内部は、レーザLの出射光路を構成するとともに、レーザ加工時にワークWに吹き付けられるアシストガスの流路を構成する。
【0036】
シールドノズル22は、円筒状で金属製の部材で構成される。シールドノズル22は、先端部に向かって先細となっている。シールドノズル22には、センサノズル21と間隔をあけてその外周を囲むように配置される。
【0037】
シールドノズル22は、センサノズル21及びセンサ電極26と同電位になるように構成される。具体的に、センサ電極26に印加される交流電圧と同一電位で且つ同一位相の交流電圧が、シールドノズル22に印加される。これにより、シールドノズル22は、センサノズル21及びセンサ電極26に対する外部からの電磁ノイズを遮蔽するとともに、センサノズル21を機械的衝撃から保護する。
【0038】
絶縁部材23は、フランジ部を有する円環形状の耐熱樹脂製の部材で構成される。絶縁部材23は、センサノズル21とシールドノズル22とを電気的に絶縁する。絶縁部材23は、シールドノズル22とハイトセンサ25のセンサ電極26とを電気的に絶縁する。絶縁部材23は、センサノズル21とシールドノズル22との間の空間を封止する。
【0039】
図1に示すように、ハイトセンサ25は、センサ電極26と、信号処理部27とを有する。ハイトセンサ25は、レーザ加工ヘッド20の先端部、つまり、センサ電極26の先端部と、アース電位に電気的に接続されたワークWとの距離を計測する機能を有する。
【0040】
センサ電極26は、金属製の部材で構成される。センサ電極26は、例えば、銅チップで構成される。センサ電極26は、レーザ加工ヘッド20の先端部に取り付けられる。センサ電極26には、ワークWとの距離に応じた静電容量が電気的に結合される。
【0041】
信号処理部27は、センサ電極26に対して、所定の周波数と振幅とを有する電圧信号を供給する。信号処理部27は、センサ電極26から戻ってきた電圧信号を検出する。
【0042】
信号処理部27は、検出された電圧信号に基づいて、センサ電極26の先端部とワークWとの間の実距離を算出する。具体的に、ハイトセンサ25で検出される静電容量値は、センサ電極26の先端部とワークWとの間の距離に応じて変化する。よって、検出された電圧信号の値から静電容量値を算出することができ、静電容量値からセンサ電極26の先端部とワークWとの間の実距離を算出することができる。信号処理部27で算出された実距離を示す信号は、制御部10に送られる。なお、ハイトセンサ25の信号処理部27は、レーザ加工装置1の制御部10に組み込まれていてもよい。
【0043】
レーザ加工中は、常時、ハイトセンサ25によってセンサ電極26の先端部とワークWとの間の距離が計測される。位置制御部13は、計測された実際の距離に基づいて、レーザ加工ヘッド20の位置、つまり、ロボット5の位置を制御する。
【0044】
〈レーザ加工装置のティーチング方法〉
ところで、ワークWの形状によっては、ティーチング操作を精度良く行うことが困難な場合がある。例えば、
図3に示すワークWは、平坦部31と、湾曲部32と、壁部33とを有する。湾曲部32は、上方に向かって膨出した形状となっている。
【0045】
平坦部31では、ワークWの表面に沿ってレーザ加工ヘッド20を直線状に移動させることで、レーザ加工ヘッド20とワークWとの間の距離を一定としてティーチング操作を行うことができる。
【0046】
しかしながら、湾曲部32では、レーザ加工ヘッド20とワークWとの間の距離を一定とするために、湾曲部32の表面に沿ってレーザ加工ヘッド20を湾曲状に移動させる必要があり、熟練者でなければティーチング操作が困難である。
【0047】
そのため、例えば、ワークWの加工方向に沿って直線状にレーザ加工ヘッド20を移動させてティーチング操作を行い、レーザ加工中に、ハイトセンサ25の検出値に基づいてレーザ加工ヘッド20の位置調整を行うことが考えられる。
【0048】
しかしながら、ハイトセンサ25の高さ制御に過度に頼りすぎたレーザ加工を行うと、レーザ加工ヘッド20の振動が発生する要因となり、加工品質が悪化するおそれがある。
【0049】
また、別の問題として、ワークWの形状によっては、レーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの間の距離を正確に計測できないことがある。
図3に示すように、ワークWの表面から壁部33が立設している場合、ハイトセンサ25がワークWの壁部33の側面影響を受け、壁部33との間の静電容量に基づいてワークWとの距離を誤検出してしまい、レーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの距離に誤差が生じてしまうおそれがある。
【0050】
そこで、本実施形態では、実距離と目標距離のズレ量を考慮した誤差の少ない教示プログラムを容易に作成するとともに、静電容量式のハイトセンサ25における側面影響を考慮したティーチングを行うことができるようにした。以下、
図4のフローチャート図に基づいて説明する。
【0051】
図4に示すように、ステップS11では、ティーチング操作を行うことで、基本の教示プログラムを作成する。具体的には、ワークWの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッド20を移動させるティーチング操作を行うことで、教示プログラムを作成する。
図3に示す例では、ワークWから所定距離離れた位置で、ワークWの加工方向に沿ってレーザ加工ヘッド20を直線状に移動させる。
【0052】
なお、ワークWの表面において、基準となる任意の一箇所については、予め、ハイトセンサ25のキャリブレーションを行う。キャリブレーションは、任意のポイントでレーザ加工ヘッド20を下降させてワークWに接触させた後、レーザ加工ヘッド20を、例えば、0.1mmずつ上昇させていき、その位置での静電容量値をハイトセンサ25で検出することで行う。静電容量値と校正距離との関係を示すデータは、記憶部14に記憶される。
【0053】
ステップS12では、作成した教示プログラムに補正命令を追加する。補正命令は、補正したい教示点ごとに追加する。具体的に、
図3に示す例では、3つの教示点P1、P2、P3のうち2つの教示点P1、P3を補正対象とする。そして、教示プログラムに対して、補正対象の教示点P1、P3で実行させる補正命令を追加する。
【0054】
なお、教示点の数や補正対象の教示点の位置は、あくまでも一例であり、この形態に限定するものではなく、ワークWの形状に合わせて、追加の補正対象の教示点を設けてもよい。
【0055】
例えば、教示点P1と教示点P2との間に、補正対象とする複数の教示点を追加で設けるようにしてもよい。また、教示点P2と教示点P3との間に、補正対象とする複数の教示点を追加で設けるようにしてもよい。
【0056】
ステップS13では、教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態でレーザ加工ヘッド20を加工方向に移動させる空走運転を行う。
【0057】
ステップS14では、空走運転中、補正対象の教示点において、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20の加工方向への移動を一時停止する。
【0058】
ステップS15では、ワークWに向かってレーザ加工ヘッド20を下降させる。具体的に、ロボット5は、レーザ加工ヘッド20をワークWに近づく方向に移動させる。
【0059】
ステップS16では、レーザ加工ヘッド20の先端部がワークWに接触したことを検出したときに、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20の下降を停止する。具体的に、レーザ加工ヘッド20の先端部に設けられた静電容量式のハイトセンサ25がワークWに接触(
図5参照)したときに、レーザ加工ヘッド20の下降を停止する。
【0060】
ステップS17では、レーザ加工ヘッド20の下降動作量から実際の距離を算出し、目標距離とのズレ量を算出して記憶部14に記憶する。具体的に、レーザ加工ヘッド20がワークWに接触するまでの移動距離に基づいて、補正対象の教示点におけるレーザ加工ヘッド20とワークWとの間の実距離を検出する。そして、制御部10は、実距離と、レーザ加工時の目標距離とのズレ量を示す第1補正値を算出する。
【0061】
ステップS18では、レーザ加工ヘッド20を目標距離だけ上昇させる。具体的に、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20をワークWから離れる方向に目標距離だけ移動させる。
【0062】
ステップS19では、ハイトセンサ25による静電容量値を測定し、実際の目標距離では、基準のキャリブレーションにて何mm相当の高さ、つまり、基準のキャリブレーションでの設定すべき高さかを記憶部14に記憶する。
【0063】
具体的に、ハイトセンサ25によって、ワークWから目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する。そして、制御部10は、予めキャリブレーションされた静電容量値に対する校正距離と、目標距離とのズレ量を示す第2補正値を算出する。
【0064】
ステップS20では、教示プログラムの実行を終了する。
【0065】
ステップS21では、第1補正値に基づいて、教示プログラムを補正する。つまり、制御部10は、記憶部14に記憶された実距離と目標距離とのズレ量に基づいて、補正対象の教示点におけるレーザ加工ヘッド20の高さを補正する。具体的には、教示点の登録座標を上書きして修正する。なお、ステップS21における「レーザ加工ヘッド20の高さ」とは、XYZで示されるような位置座標のことをいう。
【0066】
ステップS22では、第2補正値に基づいて、教示プログラムを補正する。つまり、制御部10は、記憶部14に記憶された基準のキャリブレーションでの設定すべき高さに基づいて、補正対象の教示点におけるレーザ加工ヘッド20の高さを補正する。なお、ステップS22における「レーザ加工ヘッド20の高さ」とは、目標距離(維持する目標となるレーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの距離)のことをいう。
【0067】
ステップS22の実行後、処理を終了する。
【0068】
なお、ステップS22の実行後、処理を終了する前に、教示プログラムから補正命令を削除するステップを行うようにしてもよい。このようにすれば、意図せずに教示プログラムの再調整が行われるのを抑えることができる。具体的に、空走運転を行った場合に、教示プログラムを再調整するつもりが無いにもかかわらず、レーザ加工ヘッド20が教示点で一時停止する等の意図しない動作が生じるのを抑えることができる。
【0069】
〈レーザ加工装置の動作〉
次に、レーザ加工装置1の動作について説明する。
【0070】
図1に示すように、まず、レーザ加工装置1全体の電源を立ち上げ、レーザ加工装置1に電力を投入する。自動で、あるいは操作者の操作により、レーザ加工用の教示プログラムが起動し、ロボット5は所定の初期位置に移動するとともに、ハイトセンサ25にも電力が投入されて計測可能状態となる。さらに、レーザ発振器2の電源もONになる。
【0071】
次に、ワークWをセットし、ロボット5を移動させる。ハイトセンサ25によりレーザ加工ヘッド20とワークWとの実際の距離を計測するとともに、位置制御部13により、教示プログラムで規定されたセンサ電極26の先端とワークWとの間の目標距離と実際の距離とを比較し、これらの差異に応じて、レーザ加工ヘッド20が目標位置に来るようにロボット5を駆動する。
【0072】
レーザ加工ヘッド20内にアシストガスを供給するとともに、レーザ発振器2でレーザ光Lを発生させる。光ファイバ3によりレーザ加工ヘッド20内に伝送されたレーザ光LをワークWに照射し、レーザ加工を開始する。
【0073】
図6に示すように、レーザ加工中は、常時、ハイトセンサ25によってセンサ電極26の先端とワークWとの距離が計測される。位置制御部13は、計測された実際の距離に基づいて、レーザ加工ヘッド20の位置、つまり、ロボット5の位置を制御する。
【0074】
所定の加工が終了すると、レーザ発振器2のレーザ発振が停止し、続けてアシストガスの供給も停止する。ロボット5は、所定の初期位置に移動し、次の加工開始までその位置で待機する。
【0075】
-本実施形態1の効果-
以上のように、本実施形態に係るレーザ加工装置1の制御方法によれば、最初のティーチング操作がそれほど精度の高いものでなくても、第1補正値に基づいて教示プログラムを補正することで、実距離と目標距離のズレ量を考慮した誤差の少ない教示プログラムを容易に作成することができる。
【0076】
また、空走運転中、ワークWから目標距離だけ離れた位置の静電容量値をハイトセンサ25で検出することで、静電容量値に対する目標距離を正確に把握し、静電容量値に対する校正距離と目標距離とのズレ量を示す第2補正値を算出するようにしている。そして、第2補正値に基づいて教示プログラムを補正することで、ハイトセンサ25における側面影響を考慮したティーチングを行うことができる。
【0077】
《実施形態2》
以下、前記実施形態1と同じ部分については同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0078】
図7に示すように、ステップS31では、ティーチング操作を行うことで、基本の教示プログラムを作成する。
【0079】
ステップS32では、作成した教示プログラムに補正命令を追加する。補正命令は、補正したい教示点ごとに追加する。
【0080】
ステップS33では、教示プログラムを実行して、レーザ出射を停止させた状態でレーザ加工ヘッド20を加工方向に移動させる空走運転を行う。
【0081】
ステップS34では、空走運転中、補正対象の教示点において、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20の加工方向への移動を一時停止する。
【0082】
ステップS35では、ワークWに向かってレーザ加工ヘッド20を下降させる。具体的に、ロボット5は、レーザ加工ヘッド20をワークWに近づく方向に移動させる。
【0083】
ステップS36では、レーザ加工ヘッド20の先端部がワークWに接触したことを検知したときに、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20の下降を停止する。
【0084】
ステップS37では、レーザ加工ヘッド20を目標距離だけ上昇させる。具体的に、ロボット制御部12は、ロボット5の動作を制御して、レーザ加工ヘッド20をワークWから離れる方向に目標距離だけ移動させる。記憶部14には、目標距離上昇後のレーザ加工ヘッド20の高さが記憶される。
【0085】
ステップS38では、ハイトセンサ25による静電容量値を測定し、実際の目標距離では、基準のキャリブレーションにて何mm相当の高さ、つまり、基準のキャリブレーションでの設定すべき高さかを記憶部14に記憶する。
【0086】
具体的に、ハイトセンサ25によって、ワークWから目標距離だけ離れた位置の静電容量値を検出する。そして、制御部10は、予めキャリブレーションされた静電容量値に対する校正距離と、目標距離とのズレ量を示す補正値を算出する。
【0087】
ステップS39では、教示プログラムの実行を終了する。
【0088】
ステップS40では、目標距離に基づいて、教示プログラムを補正する。つまり、制御部10は、記憶部14に記憶された、目標距離上昇後のレーザ加工ヘッド20の高さに基づいて、補正対象の教示点におけるレーザ加工ヘッド20の高さを補正する。具体的には、教示点の登録座標を上書きして修正する。なお、ステップS40における「レーザ加工ヘッド20の高さ」とは、XYZで示されるような位置座標のことをいう。
【0089】
ステップS41では、補正値に基づいて、教示プログラムを補正する。つまり、制御部10は、記憶部14に記憶された基準のキャリブレーションでの設定すべき高さに基づいて、補正対象の教示点におけるレーザ加工ヘッド20の高さを補正する。なお、ステップS41における「レーザ加工ヘッド20の高さ」とは、目標距離(維持する目標となるレーザ加工ヘッド20の先端部とワークWとの距離)のことをいう。
【0090】
ステップS41の実行後、処理を終了する。
【0091】
-実施形態2の効果-
以上のように、本実施形態に係るレーザ加工装置1の制御方法によれば、レーザ加工ヘッド20の先端部がワークWに接触するまでの実距離を検出する工程や、実距離と目標距離とのズレ量を示す補正値を算出する工程が不要となる。
【0092】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0093】
本実施形態では、教示プログラムを補正する際に、教示点の登録座標を直接修正するようにしているが、この形態に限定するものではない。例えば、教示点の登録座標をそのままとし、教示点毎の補正データをシフト量として別途、記憶部14にテーブルとして記憶するようにしてもよい。
【0094】
本実施形態では、ハイトセンサ25を用いて、レーザ加工ヘッド20の先端がワークWに接触したことを検知するようにしたが、この形態に限定するものではない。
【0095】
例えば、圧力センサを用いて、ワークWに接触する際の圧力を検出することで、レーザ加工ヘッド20の先端がワークWに接触したことを検知するようにしてもよい。
【0096】
また、レーザ変位センサを用いて、レーザ加工ヘッド20の先端に向けてレーザ光を出射し、計測された高さに基づいて、レーザ加工ヘッド20の先端がワークWに接触したことを検知するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明は、レーザ加工装置の制御方法について有用である。
【符号の説明】
【0098】
1 レーザ加工装置
5 ロボット
10 制御部
20 レーザ加工ヘッド
25 ハイトセンサ
27 信号処理部
P1 教示点