(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】化粧用積層シートおよびその製造方法、化粧用セット、ならびに薄膜シートの貼付方法
(51)【国際特許分類】
A45D 44/22 20060101AFI20241122BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241122BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241122BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241122BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
A45D44/22
B32B27/00 B
B32B27/18 Z
A61K8/02
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021501670
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000416
(87)【国際公開番号】W WO2020170633
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019030612
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 真里
(72)【発明者】
【氏名】篠田 雅世
(72)【発明者】
【氏名】竹下 さち子
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152160(JP,A)
【文献】国際公開第2004/108097(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013656(WO,A1)
【文献】特開2018-197356(JP,A)
【文献】特開平10-016109(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0046049(KR,A)
【文献】特開平11-012127(JP,A)
【文献】特開2013-177385(JP,A)
【文献】特開2015-193604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0238698(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 44/22
B32B 27/00
B32B 27/18
A61K 8/02
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基板と、
前記親水性基板上に積層された、透液性を有する薄膜シートと、
前記薄膜シート上に積層された支持体と、
を有し、
前記薄膜シートが、親水系成分、親油系成分、および
HLB値が3以上20以下である界面活性剤を含む液体で含浸されており、
前記親水性基板の水との接触角が、前記支持体を構成する材料の水との接触角より小さ
く、
前記薄膜シート内では、
前記親水性基板側の前記親水系成分の濃度が、前記支持体側の前記親水系成分の濃度より高く、かつ前記親水性基板側の前記親油系成分の濃度が、前記支持体側の前記親油系成分の濃度より低い、
化粧用積層シート。
【請求項2】
前記液体のコーンプレート型粘度計にて、せん断速度2000(1/s)にて測定される粘度が、1500m/s以下である、
請求項1に記載の化粧用積層シート。
【請求項3】
前記親水系成分が、水、および/または炭素数が3以下のアルコールである、
請求項1に記載の化粧用積層シート。
【請求項4】
前記親油系成分が、鉱物油、植物油、動物油、合成脂、脂肪酸エステル、ラノリンおよびその誘導体、脂肪族高級アルコール、リン脂質、ならびに脂肪酸類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項1に記載の化粧用積層シート。
【請求項5】
前記液体が、水中油滴型のエマルションである、
請求項1に記載の化粧用積層シート。
【請求項6】
請求項1に記載の化粧用積層シートと、
前記化粧用積層シートの前記親水性基板および/または前記支持体に隣接して配置された容器と、
を有する、
化粧用セット。
【請求項7】
請求項1に記載の化粧用積層シートと、
前記化粧用積層シートの前記薄膜シートおよび前記支持体を挟んで、前記親水性基板に対向するように配置された保護部材と、
を有し、
前記親水性基板と前記保護部材とが、前記薄膜シートおよび前記支持体を囲むように接合されている、
化粧用セット。
【請求項8】
透液性を有する薄膜シートおよび支持体が積層された積層体を準備する工程と、
水との接触角が前記支持体を構成する材料の水との接触角より小さい親水性基板を準備し、前記親水性基板が前記薄膜シートに面するように、前記積層体と前記親水性基板とを積層する工程と、
前記支持体上に、親水系成分、親油系成分、および
HLB値が3以上20以下である界面活性剤を含む液体を塗布する工程と、
を含
み、
前記液体を塗布する工程の後の前記薄膜シート内では、
前記親水性基板側の前記親水系成分の濃度が、前記支持体側の前記親水系成分の濃度より高く、かつ前記親水性基板側の前記親油系成分の濃度が、前記支持体側の前記親油系成分の濃度より低い、
化粧用積層シートの製造方法。
【請求項9】
透液性を有する薄膜シートおよび支持体が積層された積層体を準備する工程と、
水との接触角が、前記支持体を構成する材料の水との接触角より小さい親水性基板を準備し、前記親水性基板の少なくとも一方の面に、親水系成分、親油系成分、および
HLB値が3以上20以下である界面活性剤を含む、液体を塗布する工程と、
前記親水性基板の前記液体が塗布された面と前記薄膜シートとが面するように、前記積層体と前記親水性基板とを積層する工程と、
を含
み、
前記積層体と前記親水性基板とを積層する工程の後の前記薄膜シート内では、
前記親水性基板側の前記親水系成分の濃度が、前記支持体側の前記親水系成分の濃度より高く、かつ前記親水性基板側の前記親油系成分の濃度が、前記支持体側の前記親油系成分の濃度より低い、
化粧用積層シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の化粧用積層シートから前記支持体を剥離し、前記薄膜シートを露出させる支持体剥離工程と、
前記薄膜シートを被貼付面に重ね合わせた後、前記親水性基板を前記薄膜シートから剥離する薄膜シート貼付工程と、
を含む、
薄膜シートの貼付方法。
【請求項11】
前記支持体剥離工程後、前記薄膜シート貼付工程前に、前記薄膜シート表面、または被貼着面に水を塗布する水塗布工程をさらに有する、
請求項
9に記載の薄膜シートの
貼付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は化粧用積層シートおよびその製造方法、化粧用セット、ならびに薄膜シートの貼付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜に各種色材を含むインクを塗布し、これを人体に貼り付けて、肌に生じたシミや痣、傷跡(以下、「変色領域」とも称する)等を目立ち難くすることが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、肌を撮像し、変色領域を識別する。そして、変色領域の周囲の色と同様の色を薄膜シートに印刷し、これを肌に貼り付けることで、変色領域を目立ち難くしている。
【0003】
このような薄膜シートは、通常、台紙と積層されて流通され、ユーザが台紙から剥離して肌に貼り付ける。しかしながら、薄膜シートは、非常に薄いことから、シワ等を生じさせることなく肌に貼り付けることが難しい。そこで、治具を用いて肌に貼り付ける方法が特許文献2に提案されている。具体的には、台紙と薄膜シートとが積層された積層体を、薄膜シートと治具とが面するように治具上に載置する。そして、台紙側に水を吹きつける。そして、台紙を剥離し、露出した薄膜シートを肌に密着させて、治具を薄膜シートから剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-43836号公報
【文献】国際公開第2018/061486号
【発明の概要】
【0005】
特許文献2の方法のように、治具を用いると、被貼付面(肌等)への薄膜シートの貼付が容易になる。ただし、薄膜シートが非常に薄いため、台紙を薄膜シートから剥離することが難しい。例えば、台紙を剥離する際に、薄膜シートが共に持ち上がり、治具から剥がれたり、薄膜シートにシワが生じたりすることがある。そして、治具上で薄膜シートにシワが生じると、薄膜シートを肌に貼付した際にもシワが生じやすい。
【0006】
本開示は、支持体を剥離しやすく、さらには支持体を剥離した後の薄膜シートにシワが生じにくい、化粧用積層シートおよびその製造方法を提供する。本開示の化粧用積層シートは、親水性基板と、前記親水性基板上に積層された、透液性を有する薄膜シートと、前記薄膜シート上に積層された支持体と、から構成される。前記薄膜シートは、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上の界面活性剤を含む液体で含浸されており、前記親水性基板の水との接触角が、前記支持体を構成する材料の水との接触角より小さく構成される。
【0007】
本開示の化粧用セットによれば、薄膜シートから支持体を剥離しやすい。また、支持体を剥離した後の薄膜シートにシワが生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る化粧用積層シートの概略断面図である。
【
図2A】従来の化粧用積層シートから支持体を剥離する方法を説明するための模式図である。
【
図2B】本開示の一実施形態に係る化粧用積層シートから支持体を剥離する方法を説明するための模式図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る化粧用セットの概略断面図である。
【
図4】本開示の第2実施形態の化粧用セットの概略断面図である。
【
図5】本開示の第3実施形態の化粧用セットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.化粧用積層シート
図1に、本開示の一実施形態に係る化粧用積層シートの断面図を示す。本開示の化粧用積層シートは、親水性基板11と、当該親水性基板11上に配置された、肌の彩色や美化のために、肌に貼付する薄膜シート12と、これを支持する支持体13と、を少なくとも含む。当該化粧用積層シート100では、薄膜シート12が、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上の界面活性剤を含む液体(図示せず)で含浸されている。
【0010】
当該化粧用積層シート100の薄膜シート12は、公知のメイク支援システム等を通じて、特定の個人の肌の変色部位に応じて作製された、特定の人が使用するためのシート(オンデマンドで作製されるシート)であってもよい。一方で、薄膜シート12は、不特定多数の人の平均的な肌の色に合わせて作製された、不特定多数の人が使用するためのシート等であってもよい。当該薄膜シート12は、肌の彩色等のためだけでなく、肌の変色部位の上に貼付することで、変色部位を目立たなくしたり、当該変色部位を装飾したりする用途にも用いることもできる。
【0011】
従来の化粧用積層シートから支持体を剥離する方法を説明するための模式図を
図2Aに示す。従来、親水性基板91と、薄膜シート92と、支持体93とがこの順に積層された化粧用積層シート900に、支持体93側から水を吹き付け、支持体93を剥離することが提案されていた。
【0012】
化粧用積層シート900に水を吹き付けると、支持体93や薄膜シート92が水を含み、薄膜シート92と支持体93との間、および薄膜シート92と親水性基板91との間に、それぞれ水の層101が形成される。なお、
図2Aでは、便宜上、水の層101の厚みを厚く記載しているが、実際は、非常に薄い層である。水の層101が、薄膜シート92と支持体93との間に形成されると、薄膜シート92と支持体93とが離間し、支持体93を剥離しやすくなると考えられる。しかしながら、当該方法では、水の層101によって、薄膜シート92および支持体93の間、ならびに薄膜シート92および親水性基板91の間、にそれぞれ水和による積層吸着力が生じる。そして、薄膜シート92および支持体93の間に生じる積層吸着力と、薄膜シート92および親水性基板91の間に生じる積層吸着力には大きな差がない。したがって、支持体93を薄膜シート92から剥離しようとする際に、支持体93と薄膜シート92との界面ではなく、薄膜シート92と親水性基板91との界面で剥離が生じてしまうことがあった。
【0013】
本開示の化粧用積層シート100から支持体を剥離する方法を説明するための模式図を
図2Bに示す。本開示の化粧用積層シート100では、薄膜シート12が、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上の界面活性剤を含む液体で含浸されている。また、本開示の化粧用積層シート100では、親水性基板11の水との接触角が、支持体13を構成する材料の水との接触角より低い。つまり、親水性基板11のほうが、支持体13より親水系成分との親和性が高く、支持体13のほうが、親水性基板11より親油形成分との親和性が高い。そのため、薄膜シート12に含浸された液体中の親水系成分が親水性基板11側に多く引き寄せられ、薄膜シート12と親水性基板11との間に親水系成分を多く含む層(以下「親水層」とも称する)102が形成される。一方、薄膜シート12と支持体13との間では、相対的に親水系成分が少なくなり、親油系成分の濃度が高くなる。つまり、薄膜シート12と支持体13との間には、親油系成分を比較的多く含む層(以下「親油層」とも称する)103が形成される。なお、
図2Bには、親水層102および親油層103の厚みを厚く記載しているが、実際、これらは、非常に薄い層である。
【0014】
ここで、親水層102に多く含まれる親水系成分は、親水性基板11や薄膜シート12と水素結合しやすい。一方、親油層103に多く含まれる親油系成分は、このような水素結合を生じ難い。したがって、薄膜シート12と親水性基板11との間に生じる積層吸着力が、薄膜シート12と支持体13との間に生じる積層吸着力より高くなる。その結果、支持体13を持ち上げた際、薄膜シート12と親水性基板11との界面では剥離が生じ難く、支持体13を薄膜シート12から確実に剥離することが可能となる。
【0015】
なお、本開示の化粧用積層シート100によれば、薄膜シート12を被貼付面に貼付した際、液体中の親油系成分によって薄膜シート12表面にツヤが生じやすく、薄膜シート12貼付後の美観性が良好になりやすい、という利点もある。以下、本開示の化粧用積層シートの各構成について説明する。
【0016】
(親水性基板)
本実施形態の化粧用積層シート100が含む親水性基板11は、親水性を有する基板であり、後述の支持体13を構成する材料より水との接触角が低い基板である。本明細書において、親水性を有する基板とは、水との接触角が90°以下である基板をいう。親水性基板11の水との接触角は、90°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。また、親水性基板11の水との接触角と、後述の支持体13を構成する材料の水との接触角との差は、10°以上が好ましく、40°以上がより好ましい。これらの接触角の差が当該範囲であると、後述の溶液中の親水系成分が親水性基板11側に移行しやすくなり、上述の効果が得られやすくなる。
【0017】
親水性基板11の平面視形状は、本実施形態では、上記薄膜シート12の平面視形状より大きければよく、特に限定されない。親水性基板11は平板状であってもよく、曲面(凹面または凸面)を有していてもよい。また、その厚みも特に制限されず、取扱性の観点から、0.1~15mm程度が好ましく、0.1~8mm程度がさらに好ましい。
【0018】
またさらに、親水性基板11は、後述の化粧用セットとする際に、容器や保護部材等と接合するための構造(たとえば側面に設けられたねじ山等)や、これらと位置合わせするための凸部や凹部等を有していてもよい。また、化粧用セットから薄膜シート12を取り出しやすいように、薄膜シート12を囲む位置に切り取り線が形成されていてもよい。
【0019】
親水性基板11は、透明性を有していてもよく、有していなくてもよいが、被貼付面に薄膜シート12を貼付する際、薄膜シート12の貼付位置を視認しやすいとの観点で、透明性を有することが好ましい。
【0020】
親水性基板11は、例えばレーヨン、ポリエステル、アラミド、ガラス繊維、ナイロン、ビニロン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン等)、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、または共重合ポリエステル樹脂等を含むシート、親水剤を含むシリコン(Si)系のシート、親水剤を含むエラストマーシート、水性ゲル等から構成されるゴムシート等が含まれる。これらのシートは、各種親水化処理が施されたものであってもよい。
【0021】
(薄膜シート)
薄膜シート12は、肌に貼着するためのシートであり、透液性を有し、後述の液体が含浸されているシートである。本明細書において、薄膜シート12が透液性を有するとは後述の記液体中の親水系成分や親油系成分等が薄膜の一方の面から他方の面に移動可能であることをいう。また、薄膜シート12が液体で含浸されている、とは、後述の液体によって薄膜シート12の両面が濡れていることをいう。
【0022】
当該薄膜シート12は、例えば透液性を有する薄膜(図示せず)と着色層や光散乱層等(図示せず)とから構成されるシートとすることができる。薄膜シート12が薄膜の他に着色層や光散乱層等を有すると、薄膜シート12の貼付によって、被貼付面(例えば肌等)の色を任意の色に着色可能となる。より具体的には、肌を彩色したり、肌の変色部位を正常な色に見せたりすることが可能となる。なお、薄膜シート12が着色層等を有する場合、薄膜シート12内の薄膜が被貼付面と接するように貼付することが好ましい。被貼付面が人体の皮膚である場合、生体適合性のある薄膜を皮膚と接するように貼り付けることで、皮膚に対する刺激等を生じさせにくくなる。そこで、薄膜シート12が着色層を有する場合、薄膜が後述の支持体13と面するように、薄膜シート12を支持体13に積層する。
【0023】
薄膜シート12が含む薄膜は、人の肌に貼付しても違和感が無く、生体適合性を有するシート状の部材であることが好ましい。また、薄膜は、通常、無色透明、または半透明であることが好ましい。
【0024】
薄膜シート12中の薄膜の厚さは、10nm~10μmが好ましく、10nm~1000nmがより好ましい。また特に、薄膜が疎水性である場合、薄膜の薄さは特に10nm~800nmであることが好ましい。
【0025】
薄膜の平面視形状は特に制限されず、薄膜シート12の貼付部位の形状や、用途に応じて適宜選択される。なお、薄膜には、薄膜シート12の貼付部位の形状に適合するように、外周部および/または面内に切り込みが形成されてもよい。
【0026】
ここで、薄膜は、スピンコート法もしくはロールツーロール法、LB法(ラングミュア・ブロジェット法)等で形成されるシートであってもよく、電界紡糸法等で生成されるファイバーが折り重なるファイバーシート等であってもよい。
【0027】
薄膜の材料の例には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、またはこれらの共重合体に代表されるポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールに代表されるポリエーテル類;ナイロン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、またはこれらの塩に代表されるポリアミド類;プルラン、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コーンスターチに代表される多糖類またはこれらの塩;アクリルシリコーン、トリメチルシロキシケイ酸に代表されるシリコーン類;アクリル酸アルキル、アクリル酸シリコーン、アクリル酸アミドや、これらの共重合体に代表されるアクリル酸類;ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリ酸無水物;ポリエチレン;ポリプロピレン;多孔質層コーティングシート、ナノファイバーシート、等が含まれる。これらの中でも、薄膜の材料が、ポリ乳酸、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸、コーンスターチ、またはポリウレタンであると、生体適合性や入手容易性、取り扱い性等が良好になる。
【0028】
一方、薄膜上に配置される着色層には、色材とバインダとが含まれる。着色層には、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等がさらに含まれていてもよい。着色層の色は通常、肌に合わせた色とすることができるが、薄膜シート12を、チーク、アイシャドウまたはボディペインティングなど、化粧用品として使用する場合は、任意の色とすることができる。また、薄膜シート12全体が同一の色であってもよいが、一部に、色が異なる領域が配置されていてもよい。
【0029】
また、着色層は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。着色層が複数層から構成される場合、各層に含まれる色材の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる色材の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、肌色の着色層の上に、任意の色の着色層が積層されたような構成であってもよい。
【0030】
着色層に含まれる色材の例には、酸化鉄、水酸化鉄等のチタン酸鉄等の無機赤色顔料;γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料;マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色顔料;水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色顔料;紺青(フェロシアン化第二鉄)、群青(ウルトラマリン青)、瑠璃、岩群青、アルミ-コバルト酸化物、アルミ-亜鉛-コバルト酸化物、ケイ素-コバルト酸化物、ケイ素-亜鉛-コバルト酸化物、コバルト顔料、花紺青、コバルト青、錫酸コバルト、コバルトクロム青、コバルト-アルミニウム-ケイ素酸化物、マンガン青等の無機青色系顔料;インディゴ、フタロシアニン、インダンスレンブルー、およびこれらのスルホン化物等の有機青色顔料もしくは青色染料;各種タール系色素をレーキ化したもの、各種天然色素をレーキ化したもの、これらの粉体を複合化した合成樹脂粉体等が含まれる。
【0031】
一方、着色層に含まれるバインダの形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましく、特に(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子(以下、単に「アクリル系粒子」とも称する)であることが好ましい。バインダが、アクリル系粒子からなると、上述の色材の定着性が良好になりやすく、着色層の耐久性が良好になりやすい。バインダは、皮膚刺激性のない(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子であることがさらに好ましい。そこで、上記アクリル系粒子は、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等から選択されることが好ましく、公知の化粧料等に適用されているアクリル系樹脂の粒子とすることが好ましい。
【0032】
着色層に含まれるバインダの量は、色材の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。色材の量に対するバインダの量が上記範囲であると、色材の定着性が高まる。また、バインダの量が上記範囲であると、相対的に色材の量が十分になりやすく、着色層を所望の色とすることができる。
【0033】
着色層の厚さは、所望の色の濃さ等に合わせて適宜選択されるが、10nm~15μmであることが好ましく、10nm~3μmであることがより好ましい。着色層の厚みが当該範囲であると、厚塗り感を生じさせることなく、所望の発色が得られやすくなる。なお、着色層を複数積層する場合、これらの合計の厚みが、当該範囲であることが好ましい。このような着色層は、例えばインクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等によって薄膜上に色材およびバインダを含むインクを塗布することで形成できる。これらの中でも、オンデマンド印刷を行いやすい、化粧料インクを複数回に亘って塗布する、積層印刷を行うことができる等の観点から、インクジェット法が好ましい。
【0034】
一方、光散乱層には、反射材料とバインダとが含まれる。光散乱層には、皮膜形成剤や分散剤、各種添加剤等がさらに含まれていてもよい。光散乱層は、一層からなるものであってもよく、二層以上から構成されていてもよい。光散乱層が複数層から構成される場合、各層に含まれる反射材料の種類は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、各層に含まれる反射材料の量は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
光散乱層に含まれる反射材料は、紫外光および可視光(例えば、波長200~780nmの光)を散乱もしくは反射する粒子であればよく、例えば、パール剤や、ソフトフォーカス剤、ラメ剤等とすることができる。パール剤、ソフトフォーカス剤、およびラメ剤は、皮膚刺激性がないものであることが好ましい。
【0036】
光散乱層に含まれるバインダの量は、上記反射材料の量を10質量部としたとき、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。反射材料の量に対するバインダの量が上記範囲であると、反射材料の定着性が高まる。また、バインダの量が当該範囲であると、相対的に反射材料の量が十分になりやすく、光散乱層によって、十分に光を反射したり散乱させたりすることができる。
【0037】
光散乱層の厚さは、10nm~120μmであることが好ましく、10nm~100μmであることがより好ましい。光散乱層の厚みが当該範囲であると、肌の表面で反射された光が光散乱層で十分に反射されやすくなる。
【0038】
なお、薄膜シート12には、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、さらに光沢層や吸湿層等が積層されていてもよい。吸湿層が配置されていると、薄膜シート12の表面側の湿度が制御され、快適性が高まる。吸湿層には通常吸湿剤が含まれ、吸湿剤の例には、真球状シリカ、多孔質アクリル粒子、ナイロン6(ポリアミド6)等が含まれる。
【0039】
(支持体)
支持体13は、上述の薄膜シート12を保護するための層であり、その形状は薄膜シート12の一方の面を覆うことが可能であれば特に制限されない。支持体13の平面視形状は薄膜シート12と同じであってもよく、薄膜シート12より大きくてもよい。例えば、薄膜シート12から剥離する際につかむためのつかみシロ等を有していてもよい。
【0040】
また、支持体13の厚みは、50~2000μmが好ましく、100~1500μmがより好ましい。支持体13の厚みが当該範囲であると、支持体13を薄膜シート12から剥離する際に、支持体13が任意の方向に変形しやすく、剥離しやすくなる。
【0041】
支持体13は、親水性を有する材料、もしくは内部に水を保持可能な吸水性を有する材料から構成される。上述のように、本本明細書において、親水性を有する材料とは、接触角が90°以下である材料をいい、吸水性を有する材料とは、内部に水を保持可能な構造(例えば孔等)を有する材料をいう。なお、支持体13が吸水性を有する材料からなる場合、当該材料の水との接触角は、90°を超えていてもよい。ここで、支持体13を構成する材料の水との接触角は、上述のように、親水性基板11の水との接触角より大きい値とされる。支持体13を構成する材料の水との接触角は、150°以下が好ましく、145°以下がより好ましい。支持体13を構成する材料の水との接触角は、当該材料からなる平板状の試料を作製し、その試料の水との接触角を測定すればよい。
【0042】
支持体13の材料の例には、紙(セルロース)、レーヨン、ポリエステル、アラミド、ガラス繊維、ナイロン、ビニロン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等)、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂、多孔質フィルム、ナノファイバーシート等が含まれる。これらの中でも、薄膜シート12から剥離しやすいとの観点で、紙(セルロース)、レーヨン、ポリエステルが好ましい。また、支持体13は、光透過性を有していてもよく、有していなくてもよい。また、着色されていてもよい。
【0043】
また、支持体13は可撓性を有することが好ましく、その弾性率は、100~100000MPaが好ましく、100~5000MPaがより好ましい。当該弾性率は、静的試験法、横振動法、超音波法のいずれかにより測定される値である。弾性率測定に関するJIS規格は、JIS Z2280、JIS R1602、JIS R1605であり、弾性率は、これらのいずれかに準拠して測定した値である。支持体13の弾性率が当該範囲であると、薄膜シート12から剥離する際に破断等が生じ難く、また適度に変形可能となる。
【0044】
(液体)
後述の薄膜シート12に含浸させる液体は、親水系成分、親油系成分、および界面活性剤を含む液体である。界面活性剤のHLB値は、3以上であればよいが、3~20が好ましく、6~20がより好ましい。
【0045】
当該液体は、親水系成分および親油系成分のうち一方に他方を分散させたエマルションとすることができる。当該液体は、水中油滴型(O/W型)のエマルションであってもよく、油中水滴型(W/O型)のエマルションであってもよいが、水中油滴型(O/W型)のエマルションが肌になじみやすい等の観点で好ましい。
【0046】
親水系成分の例には、各種アルコール、水等が含まれ、これらの中でも水、もしくは炭素数が3以下のアルコールが好ましい。炭素数が3以下のアルコールは、水溶性が高い。
【0047】
親油系成分の例には、鉱物油(パラフィン、ミネラルオイル、スクワラン、ワセリンなど)、植物油、動物油、合成脂(オレフィンオリゴマー、シリコーンオイルなど)、脂肪酸エステル、ラノリンおよびその誘導体、脂肪族高級アルコール、リン脂質、脂肪酸類等が含まれる。これらは、肌の水分およびバリア機能を保持する効果が高い。
【0048】
また、界面活性剤は、上述の親水系成分および親油系成分の混合状態を安定化させることが可能であれば特に制限されず、その例には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が含まれる。これらの中でも肌への刺激性や毒性が低く、安定した乳化力が得られるとの観点で両性界面活性剤、またはノニオン性界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分がより好ましい。また特に、ポリエチレングリコールが、水との親和性が極めて高い点で特に好ましい。
【0049】
当該液体中の親水系成分の量は適宜選択されるが、液体中に98質量%以下含まれることが好ましく、5~98質量%がより好ましい。また、親油系成分の量は、液体中に98質量%以下含まれることが好ましく、5~98質量%がより好ましい。一方、界面活性剤の量は、親水系成分および親油系成分の合計量100質量部に対して、2~50質量部が好ましく、2~10質量部がより好ましい。
【0050】
当該液体のコーンプレート型粘度計にて、せん断速度2000(1/s)にて測定される粘度は、1500mPa・s以下が好ましく、1.2~15mPa・sがより好ましい。液体の粘度が当該範囲であると、薄膜シート12近傍に液体が留まりやすくなる。
【0051】
当該液体の調製方法は特に制限されず、公知の水中油滴型もしくは油中水滴型の化粧料の製造方法と同様とすることができる。
【0052】
2.化粧用積層シートの製造方法
上述の化粧用積層シートの製造方法について、以下、2つの実施形態を説明するが、上述の化粧用積層シートの製造方法は、当該方法に制限されない。
【0053】
[第1の実施形態]
第1の実施形態の化粧用積層シートの製造方法は、上述の薄膜シート12および支持体13が積層された積層体を準備する工程(以下、「積層体準備工程」とも称する)と、上述の親水性基板11を準備し、当該親水性基板11を、先に作製した積層体の薄膜シート12に面するように積層する工程(以下、「親水性基板積層工程」とも称する)と、当該支持体13上に、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上の界面活性剤を含む液体を塗布する工程(以下、「液体塗布工程」とも称する)と、を含む。ただし、本実施形態の化粧用積層シートの製造方法は、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。
【0054】
(積層体準備工程)
積層体準備工程では、上述の薄膜シート12および支持体13が積層された積層体を準備する。本工程では、先に支持体13を準備し、当該支持体13上に、薄膜シート12を成膜してもよい。また、別々に作製した支持体13および薄膜シート12を重ね合わせてもよい。なお、薄膜シート12が薄膜と着色層や光散乱層等との積層体である場合、薄膜が支持体と面するように重ね合わせる。
【0055】
また、薄膜シート12における着色層や光散乱層等の形成タイミングは特に制限されず、例えば、薄膜上に着色層等を形成して薄膜シート12(薄膜および着色層等の積層体)としてから、支持体13と積層してもよい。一方、薄膜と支持体13とを積層した後、薄膜上に着色層等を形成してもよい。
【0056】
(親水性基板積層工程)
親水性基板積層工程では、上述の親水性基板11を準備する。そして、当該親水性基板11と、上述の積層体準備工程で準備した積層体の薄膜シート12とが面するように、積層体と親水性基板とを重ね合わせる。なお、これらの間には接着層等は設けない。後述の液体塗布工程で支持体13側から液体を塗布することで、積層体(薄膜シート12)と親水性基板11との間に積層吸着力が生じ、これらが密着する。
【0057】
(液体塗布工程)
親水性基板積層工程後、支持体13上に、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上である界面活性剤を含む、上述の液体を塗布する。液体の塗布方法は、支持体13および薄膜シート12が十分に濡れる程度、液体を塗布可能であれば特に制限されない。例えば、インクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等、公知の印刷方法によって塗布できる。
【0058】
支持体13上に液体塗布すると、液体が支持体13を透過し、薄膜シート12側に移動する。またこのとき、液体中の親水系成分は親水性基板11側に引き寄せられて移動し、薄膜シート12と親水性基板11との間に上述の親水層が形成される。一方、親油系成分は薄膜シート12と支持体13との界面に残り、上述の親油相が形成される。その結果、支持体13を持ち上げた際、支持体13と薄膜シート12との界面で剥離が生じやすく、支持体13のみを確実に剥離することが可能となる。
【0059】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の化粧用セットの製造方法は、上述の薄膜シート12および支持体13が積層された積層体を準備する工程(以下、「積層体準備工程」とも称する)と、上述の親水性基板11を準備し、当該親水性基板11の少なくとも一方の面に、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上である界面活性剤を含む上述の液体を塗布する工程(以下、「液体塗布工程」とも称する)と、当該親水性基板11の前記液体が塗布された面と薄膜シート12とが面するように、親水性基板11および積層体を積層する工程(以下、「積層工程」とも称する)と、を含む。なお、積層体準備工程は、第1の実施形態の積層体準備工程と同様であるので、ここでの詳しい説明は省略する。また、本実施形態の化粧用積層シートの製造方法は、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。
【0060】
(液体塗布工程)
液体塗布工程では、親水性基板11の少なくとも一方の面に、上述の液体を塗布する。液体塗布工程における液体の塗布方法は、十分な量の液体を塗布可能であれば特に制限されない。例えば、インクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等、公知の印刷方法によって塗布できる。
【0061】
(積層工程)
上記液体塗布工程により親水性基板11の液体が塗布された面と、積層体準備工程で準備した積層体の薄膜シート12とが面するように、親水性基板11および積層体を積層する。当該積層工程を行うと、液体の一部の成分が薄膜シート12を透過し、支持体13側に移動する。このとき、液体中の親水系成分は親水性基板11側に多く留まる。したがって、薄膜シート12と親水性基板11との間には、親水系成分を多く含む親水層が形成され、薄膜シート12と支持体13との間には、親油系成分を多く含む親油層が形成される。その結果、支持体13を持ち上げた際、支持体13と薄膜シート12との界面で剥離が生じやすく、支持体13のみを確実に剥離することが可能となる。
【0062】
3.薄膜シートの貼付方法
次に、上述の化粧用積層シート100が含む薄膜シート12を被貼付面に貼付する方法について説明する。本開示の薄膜シート12の貼付方法では、化粧用積層シート100から支持体13を剥離し、薄膜シート12を露出させる支持体剥離工程と、前記薄膜シート12を被貼付面に重ね合わせた後、前記親水性基板11を前記薄膜シート12から剥離する薄膜シート貼付工程と、を行う。
【0063】
ただし、上記支持体剥離工程と、薄膜シート貼付工程との間に、薄膜シート12表面または被貼付面(図示せず)に水を塗布する水塗布工程をさらに有することが好ましい。
【0064】
(支持体剥離工程)
上述のように、本開示の化粧用積層シートでは、薄膜シート12に上述の液体が含浸されており、薄膜シート12と親水性基板11との積層吸着力が、薄膜シート12と支持体13との積層吸着力より高い。そのため、支持体13を薄膜シート12から剥離する際に、薄膜シート12が持ち上がりにくく、支持体13のみを確実に剥離することができる。また、当該化粧用積層シート100では、支持体13の剥離後、薄膜シート12にシワ等が生じ難い。
【0065】
(水塗布工程)
上述のように、上記支持体剥離工程によって露出した薄膜シート12表面、もしくは薄膜シート12を貼付する被貼付面に水を吹き付ける水塗布工程を行うことが好ましい。薄膜シート12表面、もしくは被貼付面に水が存在すると、後述の薄膜シート貼付工程で薄膜シート12と被貼付面とが十分に密着し、親水性基板11を薄膜シート12から剥離しやすくなる。
【0066】
水の塗布方法は特に制限されず、例えば霧吹き等により塗布することができる。またその量は特に制限されず、薄膜シート12表面全体、もしくは被貼付面全体に満遍なく塗布可能な量であればよい。
【0067】
(薄膜シート貼付工程)
薄膜シート貼付工程では、薄膜シート12を被貼付面に重ね合わせた後、親水性基板11を薄膜シート12から剥離し、薄膜シート12のみを被貼付面側に移行させる。薄膜シート12を貼付する際には、必要に応じて、親水性基板11を、治具等に貼り付けてもよい。治具を用いると、薄膜シート12が撓んだりし難く、被貼付面に貼付しやすくなる。
【0068】
(その他)
なお、上記化粧用積層シート100を用いた場合であっても、被貼付面(皮膚等)に薄膜シート12を貼付した際、被貼付面が曲面を有する場合等には、薄膜シート12にシワが発生したりする可能性がある。この場合、シワが生じた部分や、密着が不十分である部分を、ブラシや筆で撫でることが好ましい。ブラシや筆で薄膜シート12表面を撫でることで、薄膜シート12を被貼付面に密着させたり、シワを薄膜シート12の外縁側に移動させたりできる。また、よれた端を紐状にし、除去することも可能となる。
【0069】
使用する筆またはブラシの毛の硬さは、85N/cm2以下が好ましく、60N/cm2以下がより好ましい。毛の硬さが当該範囲であると、薄膜シート12を破損することなく、シワを解消することが可能となる。毛の硬さは、JIS S3016(1995)に準拠し、圧縮試験器により測定可能である。
【0070】
また、筆またはブラシの毛の薄膜シート12との接触面積は、3cm2以下が好ましい。接触面積が広すぎる場合、薄膜シート12を破損してしまう可能性が高まり、さらには広い面積に圧力が分散され、シワ等の解消が難しいことがある。
【0071】
また、筆またはブラシの毛の長さは均一であってもよいが、長さの異なる毛を2種以上含むことがより好ましい。長さの異なる毛を含むと、毛先と薄膜シート12とが接する点が最小限となる。そして、毛で薄膜シート12を撫でた際に生じる摩擦が抑制され、薄膜の破損が抑制されやすい。この場合、筆またはブラシの最長の毛と最短の毛の長さの差は、1~10mmが好ましく、1~5mmがより好ましい。
【0072】
4.化粧用セット
本開示の化粧用セットは、上述の化粧用積層シートと、当該化粧用積層シートに上述の液体を供給するための容器、もしくは保護部材と、を含む。以下、化粧用セットについて、3つの実施形態を説明するが、化粧用セットは、これらに限定されない。
【0073】
[第1実施形態]
本開示の第1実施形態に係る化粧用セットの断面図を
図3に示す。
図3に示すように、本実施形態に係る化粧用セット200は、上述の化粧用積層シート100(親水性基板21、薄膜シート22、および支持体23)と、支持体23側に接合された容器28と、を有する。
【0074】
支持体側に配置される容器28は、支持体23と略同一、もしくはこれより小さい開口を有する凹部28aを有する。当該化粧用セット200では、化粧用積層シート100が当該容器28(凹部28a)の蓋となる。当該容器28内には、上述の液体が収容される。
【0075】
当該容器28は、内部に収容する液体によって侵食されないものであれば、その材料は特に制限されず、その例には、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート等の樹脂材料;サトウキビ・葦・ケナフ等の自然素材で作られた材料;アルミ、ステンレス、ブリキ、スチール等の金属系材料;が含まれる。また、その形状は特に制限されず、十分な量の液体を収容可能であればよく、凹部28aの深さ等は適宜選択される。
【0076】
また、当該容器28は、接合部29によって親水性基板21に接合されている。接合部29は、支持体23や薄膜シート22を囲むように、接合していてもよい。また、接合部29は、例えば2点、もしくは3点以上で、容器28および親水性基板21を接合していてもよい。当該接合部29は、疎水性接着剤で構成されることが好ましい。本明細書でいう疎水性接着剤とは、疎水性ポリマーから構成され、硬化後も水に殆ど溶解しない接着剤をいう。疎水性接着剤の例には、各種熱可塑性樹脂接着剤や熱硬化性樹脂接着剤が含まれ、より具体的には、フェノール樹脂接着剤、酢酸ビニル系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコン系接着剤等が含まれる。
【0077】
当該化粧用セット200では、支持体23側から、容器28内に充填された液体が供給され、薄膜シート22が液体で常に含浸されている状態となる。そして、当該化粧用セット200の薄膜シート22を使用する際には、容器28から親水性基板21を取り外す。このとき、薄膜シート22と支持体23との積層吸着力より、薄膜シート22と親水性基板21との積層吸着力のほうが大きいため、薄膜シート22と支持体23との界面で剥離が生じる。つまり、親水性基板21とともに薄膜シート22を剥離できる。そして、親水性基板21を治具等として使用することで、被貼付面に薄膜シート22を貼付できる。
【0078】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態に係る化粧用セットの断面図を
図4に示す。また、
図4に示すように、本実施形態の化粧用セット300は、化粧用積層シート(支持体33と、薄膜シート32と、親水性基板31)と、親水性基板31側に配置された容器38と、を有する。
【0079】
支持体に面するように配置される容器38は、親水性基板31と略同一、もしくはこれより小さい開口を有する凹部38aを有する。当該化粧用セット300でも、化粧用積層シート100が当該容器38(凹部38a)の蓋となる。当該容器38内には、上述の液体が収容される。当該容器38の材料や形状は、第1実施形態の化粧用セット200の容器28と同様とすることができる。
【0080】
また、当該化粧用セット300では、容器38が、接合部39によって親水性基板31と接合されている。接合部39は、親水性基板31の外周を囲むように、容器38と親水性基板31とを接合していてもよい。また、親水性基板31の外周を囲んでいなくてもよく、接合部39は、例えば2点、もしくは3点以上で、容器38および親水性基板31を接合していてもよい。当該接合部39は、疎水性接着剤で構成されることが好ましく、第1実施形態の化粧用セット200の接合部29と同様の材料を用いることができる。
【0081】
当該化粧用セット300では、親水性基板31側から、容器38内に充填された液体が供給され、薄膜シート32が液体で常に含浸された状態となる。そして、当該化粧用セット300の薄膜シート32を使用する際には、支持体33を薄膜シート32から剥離する。このとき、薄膜シート32と支持体33との積層吸着力より、薄膜シート32と親水性基板31との積層吸着力のほうが大きいため、薄膜シート32と支持体33との界面で確実に剥離が生じる。そして、親水性基板31や容器38を治具等として利用することで、被貼付面に薄膜シート32を貼付できる。
【0082】
[第3実施形態]
本開示の第3実施形態に係る化粧用セットの断面図を
図5に示す。
図5に示すように、本実施形態の化粧用セット400は、化粧用積層シート100(親水性基板41、薄膜シート42、および支持体43)と、当該化粧用積層シート100の薄膜シート42および支持体43を挟んで、親水性基板41に対向するように配置された保護部材47と、を有する。当該保護部材47は、化粧用積層シート100の薄膜シート42および支持体43を囲むように、親水性基板41と接合されている。
【0083】
保護部材47は、薄膜シート42および支持体43を覆い、かつ親水性基板41と接合可能な形状であればよい。本実施形態では、薄膜シート42および支持体43を収容するための凹部47aを囲む壁面および天面と、当該凹部47aの開口縁を囲むように配置された鍔部47bとを有する。当該保護部材47では、凹部47aに薄膜シート42および支持体43が収容され、鍔部47bと親水性基板41とが接着剤で接着される。ただし、保護部材47の形状はこれに限定されず、例えば平坦なシートであってもよい。
【0084】
保護部材47の材料は特に制限されず、上述の液体によって侵食されない材料であればよく、第1実施形態の化粧用セット200の容器28と同様の材料とすることができる。また、親水性基板41と保護部材47とを接着する接着剤は、疎水性接着剤であることが好ましく、第1実施形態の化粧用セット200の接合部29と同様の材料を用いることができる。
【0085】
当該化粧用セット400は、保護部材47および親水性基板41によって密封されているため、薄膜シート42に含浸した液体が揮発し難い。そのため、親水性基板41と保護部材41とから構成される空間の内部に液体を充填しなくてもよいが、液体を充填したほうが、長期間に亘って、安定して薄膜シート42に液体を含浸させることが可能となる。
【0086】
当該化粧用積層シート400を使用する際には、保護部材47を剥がすことで、親水性基板41、薄膜シート42、および支持体43を取り出せる。そして、支持体43を剥離し、親水性基板41を治具等として利用し、被貼付面に薄膜シート42を貼付できる。
【0087】
なお、親水性基板41に切り取り線が形成されている場合には、親水性基板41の切り取り線に沿って親水性基板41の一部を切り離すことで、薄膜シート42等を外部に取り出してもよい。
【0088】
また、上記の説明では、親水性基板41と保護部材47とを接着剤で接着していたが、親水性基板41と保護部材47との接合方法は特に制限されない。例えば親水性基板41の側面にねじ山が配置されており、保護部材47側に、当該ねじ山と嵌合可能なねじ部が設けられていてよい。この場合、保護部材47を一定方向に回転させることで、保護部材47を取り外すことができる。また、ゴム等の弾性体によって、親水性基板41の外縁部および保護部材47の鍔部47bを上下から挟み込み、親水性基板41と保護部材47とを密封してもよい。
【実施例】
【0089】
以下において、実施例を参照して本開示を説明する。実施例によって、本開示の範囲は限定して解釈されない。
【0090】
[比較例]
厚みが200nmのポリ乳酸シート(薄膜シート)を、平面視形状がポリ乳酸シートより大きい、ろ紙(水との接触角35°)からなる支持体に貼り付けた。そして、当該積層体を親水性基板(水との接触角10°)上に載置した。そして、支持体側から水を噴霧し、薄膜シートからはみ出た支持体をつかみ、支持体を持ち上げて薄膜シートから剥離した。
【0091】
[実施例1]
薄膜シートおよび支持体からなる積層体を親水性基板に載置した後、水、オレフィンオリゴマー、およびポリエチレングリコール1000(HLB値20)を含む液体を、支持体側から噴霧した以外は、比較例と同様にした。
【0092】
[実施例2]
水、シクロペンタシロキサン、およびPEG-10ジメチコン(HLB値4.5)を含む液体を親水性基板上に塗布し、当該塗布面に、薄膜シートおよび支持体からなる積層体の薄膜シートを重ね合わせた以外は、比較例と同様にした。
【0093】
[評価]
支持体を剥離した際の剥離しやすさを以下のように評価した。結果を表1に示す。
×:支持体を剥離し難く、剥離できたとしても薄膜シートにシワが生じたり、きれいに剥がれなかった
○:支持体を容易に剥離可能であり、剥離後に薄膜シートにシワが生じなかった
【0094】
【0095】
上記表1に示されるように、水を塗布しただけでは、支持体を剥離できないことがあったが、親水性基板の水との接触角を、支持体を構成する材料の水との接触角より小さくし、薄膜シートに、親水系成分、親油系成分、およびHLB値が3以上の界面活性剤を含む液体を含浸した場合には、支持体の剥離性が良好になった(実施例1および2)。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示の化粧用積層シートは、薄膜シートから支持体を剥離しやすく、さらには支持体を剥離した後の薄膜シートにシワが生じにくい。したがって、変色部位を目立たなくしたり、当該変色部位を装飾したりする用途等に非常に有用である。
【符号の説明】
【0097】
11、21、31、41、91 親水性基板
12、22、32、42、92 薄膜シート
13、23、33、43、93 支持体
28、38 容器
47 保護部材
100、900 化粧用積層シート
200、300、400 化粧用セット