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特許7591756アクアポリン発現促進剤及び角化マーカー発現促進剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】アクアポリン発現促進剤及び角化マーカー発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20241122BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20241122BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20241122BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20241122BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241122BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241122BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20241122BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20241122BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241122BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20241122BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241122BHJP
【FI】
A61K36/48
A61K35/745
A61K35/744
A61K31/231
A61P17/00
A61P43/00 107
A61K8/9789
A61K8/99
A61K8/37
A61Q19/00
A23L33/115
A23L33/135
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021579
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2020203871
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019109401
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月1日 Nutrients 2018,10(12),1858 https://doi.org/10.3390/nu10121858 MDPI AG(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月5日 日本薬学会(第139年会組織委員会)発行「日本薬学会 第139年会 要旨集 第157頁」に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月23日「日本薬学会 第139年会 幕張メッセ 国際展示場ホール8」(PA会場)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】302054936
【氏名又は名称】株式会社光英科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニヨンサバ フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】奥村 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】玉根 強志
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 洋子
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/091988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61K 31/00
A61K 35/00
A61K 8/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)及び(B)から選ばれる1種以上を有効成分とし、成分(A)が、豆乳の乳酸菌発酵処理及び当該処理で得られた処理物を脂質抽出することにより回収される脂質分であり、乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせである、アクアポリン発現促進剤。
(A)豆乳の乳酸菌発酵処理物
(B)トリリノレイン
【請求項2】
前記アクアポリンが、アクアポリン1、アクアポリン3、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6、アクアポリン8、アクアポリン9、アクアポリン10及びアクアポリン11から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンである、請求項1に記載のアクアポリン発現促進剤。
【請求項3】
豆乳の乳酸菌発酵処理物を有効成分とし、且つ前記アクアポリンが、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6及びアクアポリン8から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンである、請求項1に記載のアクアポリン発現促進剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアクアポリン発現促進剤(但し、水と混和する極性溶媒を用いて豆乳の乳酸菌発酵処理物を抽出したものを有効成分とする場合を除く)。
【請求項5】
トリリノレインを有効成分とする、アクアポリン発現促進剤。
【請求項6】
以下の成分(A)及び(B)から選ばれる1種以上を有効成分とし、成分(A)が、豆乳の乳酸菌発酵処理及び当該処理で得られた処理物を脂質抽出することにより回収される脂質分であり、乳酸菌が、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせである、角化マーカー発現促進剤。
(A)豆乳の乳酸菌発酵処理物
(B)トリリノレイン
【請求項7】
前記角化マーカーが、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ及びケラチンから選ばれる1種又は2種以上の角化マーカーである、請求項に記載の角化マーカー発現促進剤。
【請求項8】
請求項6に記載の角化マーカー発現促進剤(但し、水と混和する極性溶媒を用いて豆乳の乳酸菌発酵処理物を抽出したものを有効成分とする場合を除く)。
【請求項9】
トリリノレインを有効成分とする、角化マーカー発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクアポリン発現促進剤及び角化マーカー発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮は、皮膚の最も外側にあり、外部からの異物の侵入や体の水分の蒸散を防ぐバリアとなって、内部を保護している。表皮の構造は、外側から角質層、透明層、顆粒層、有棘層及び基底層となっており、これらの各層のほとんどは角化細胞(ケラチノサイト)で構成されている。
この角化細胞は、基底層で毎日生まれては後から分裂して生じる細胞に徐々に押し上げられて角質層に達し、角質細胞に変化する。その後、角質層の最外層に達し、少しずつ自然にはがれ落ちる。この角化細胞の発生から脱落までを角化又はターンオーバーという。表皮においてこの角化が正常に行なわれることが、皮膚の正常な機能、すなわち皮膚防御機能において極めて重要であり、角化マーカーとしては、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ-1、トランスグルタミナーゼ-3、ケラチン-1、ケラチン-10、ケラチン-14、ケラチン-20等が知られている。
【0003】
また、表皮は、外界と体内の水分量の調節も行っており、内部の角化細胞の含水量が多くなっている。この角化細胞における保湿機能は、細胞膜に存在するアクアポリン分子機能によって調節されている。
【0004】
また、紫外線や老化、環境の変化等によりダメージを受けた場合に、皮膚の皮膚防御機能や水分保持機能は低下するが、これらの機能低下には、角化細胞中の角化マーカーやアクアポリンの発現量の低下が関与していることが知られている。したがって、角化マーカーやアクアポリンの発現を促進させる成分を開発することは、皮膚の機能を改善する上で重要である。
【0005】
アクアポリン発現促進剤としては、クリプトキサンチン(特許文献1)、各種植物抽出物(特許文献2、3、4)、ホスホセリン(特許文献5)等が知られている。また、フィラグリン発現促進剤としては、キンモクセイ抽出物(特許文献6、7)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-144960号公報
【文献】特開2013-87057号公報
【文献】特開2013-87058号公報
【文献】特開2013-95667号公報
【文献】特開2018-188413号公報
【文献】特開2009-256269号公報
【文献】特開2009-67749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアクアポリン発現促進剤やフィラグリン発現促進剤は、効果が十分でない、安全性に懸念がある等の問題があった。
したがって、本発明の課題は、アクアポリンや角化マーカーの発現を促進する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインが、優れたアクアポリン発現促進効果及び優れた角化マーカー発現促進効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<5>を提供するものである。
<1> 以下の成分(A)及び(B)から選ばれる1種以上を有効成分とする、アクアポリン発現促進剤。
(A)豆乳の乳酸菌発酵処理物
(B)トリリノレイン
<2> 前記アクアポリンが、アクアポリン1、アクアポリン3、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6、アクアポリン8、アクアポリン9、アクアポリン10及びアクアポリン11から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンである、<1>に記載のアクアポリン発現促進剤。
<3> 豆乳の乳酸菌発酵処理物を有効成分とし、且つ前記アクアポリンが、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6及びアクアポリン8から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンである、<1>に記載のアクアポリン発現促進剤。
<4> 以下の成分(A)及び(B)から選ばれる1種以上を有効成分とする、角化マーカー発現促進剤。
(A)豆乳の乳酸菌発酵処理物
(B)トリリノレイン
<5> 前記角化マーカーが、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ及びケラチンから選ばれる1種又は2種以上の角化マーカーである、<4>に記載の角化マーカー発現促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクアポリン発現促進剤は、優れたアクアポリン発現促進効果を有する。
本発明の角化マーカー発現促進剤は、優れた角化マーカー発現促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】調製例1における培養プロセスの順序を示す図。
図2-1】乳酸菌生産物質1のアクアポリン1発現促進効果の評価結果を示す図。
図2-2】乳酸菌生産物質2のアクアポリン1発現促進効果の評価結果を示す図。
図2-3】フラクション1のアクアポリン1発現促進効果の評価結果を示す図。
図2-4】フラクション2のアクアポリン1発現促進効果の評価結果を示す図。
図3-1】乳酸菌生産物質2のアクアポリン10発現促進効果の評価結果を示す図。
図3-2】フラクション1のアクアポリン10発現促進効果の評価結果を示す図。
図4-1】乳酸菌生産物質2のアクアポリン11発現促進効果の評価結果を示す図。
図4-2】フラクション1のアクアポリン11発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-1】乳酸菌生産物質1、フラクション1、トリリノレインのアクアポリン1発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-2】乳酸菌生産物質1、フラクション1、トリリノレインのアクアポリン1発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図5-3】乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、フラクション2、トリリノレインのアクアポリン3発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-4】乳酸菌生産物質1、フラクション2、トリリノレインのアクアポリン3発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図5-5】フラクション1のアクアポリン4発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-6】乳酸菌生産物質2のアクアポリン5発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-7】乳酸菌生産物質2のアクアポリン5発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図5-8】乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション2のアクアポリン6発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-9】乳酸菌生産物質1、フラクション2のアクアポリン6発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図5-10】フラクション2のアクアポリン8発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-11】乳酸菌生産物質1、フラクション1、フラクション2、トリリノレインのアクアポリン9発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-12】フラクション2、トリリノレインのアクアポリン9発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図5-13】乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、トリリノレインのアクアポリン10発現促進効果の評価結果を示す図。
図5-14】乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、トリリノレインのアクアポリン10発現促進効果の評価結果を定量化した図。
図6-1】乳酸菌生産物質1のフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン発現促進効果の評価結果を示す図。
図6-2】乳酸菌生産物質1のトランスグルタミナーゼ、ケラチン発現促進効果の評価結果を示す図。
図7-1】乳酸菌生産物質2のフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン発現促進効果の評価結果を示す図。
図7-2】乳酸菌生産物質2のトランスグルタミナーゼ発現促進効果の評価結果を示す図。
図8-1】フラクション1のフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン発現促進効果の評価結果を示す図。
図8-2】フラクション1のトランスグルタミナーゼ、ケラチン発現促進効果の評価結果を示す図。
図9-1】フラクション2のフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン発現促進効果の評価結果を示す図。
図9-2】フラクション2のトランスグルタミナーゼ、ケラチン発現促進効果の評価結果を示す図。
図10-1】トリリノレインのフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン発現促進効果の評価結果を示す図。
図10-2】トリリノレインのトランスグルタミナーゼ、ケラチン発現促進効果の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアクアポリン発現促進剤、角化マーカー発現促進剤は、以下の成分(A)及び(B)から選ばれる1種以上を有効成分とするものである。
(A)豆乳の乳酸菌発酵処理物
(B)トリリノレイン
【0013】
上記トリリノレインは、市販品を用いても公知の方法で合成したものを用いてもよい。
次に、上記「豆乳の乳酸菌発酵処理物」について詳細に説明する。
豆乳の乳酸菌発酵処理物は、豆乳を乳酸菌で発酵処理した発酵物である。豆乳の乳酸菌発酵処理物は、液状、半液状、固体状のいずれでもよい。
豆乳は、食品やその原料として用いられるものであればよい。例えば、無調整豆乳、調整豆乳、豆乳飲料、豆乳の乾燥粉末等の液状又は粉末状のものが挙げられ、豆乳の濃縮物や希釈物を用いてもよい。これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。豆乳中の大豆固形分濃度は、好ましくは1~16%、より好ましくは2~10%である。なお、豆乳には、発酵処理に先立って加熱殺菌をしてもよい。
【0014】
乳酸菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属のいずれかに属する乳酸菌が挙げられる。
乳酸菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌から選ばれる1種又は2種以上の乳酸菌が好ましい。
このうち、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせが好ましく、
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせがより好ましく、
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせが更に好ましく、
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌を少なくとも含む組み合わせが特に好ましい。また、2種以上の乳酸菌を用いる場合、2種以上の乳酸菌のうち共棲可能なものを共棲培養させた培養物を用いることが好ましい。
【0015】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌としては、L.アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、L.ブレビス(Lactobacillus brevis)、L.ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、L.ガセリー(Lactobacillus gasseri)、L.ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、L.ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、L.カゼイ(Lactobacillus casei subsp. casei)、L.ラモナウサス(Lactobacillus rhamnosus)、L.デルブリッキィ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)等が挙げられる。
【0016】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌としては、S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌としては、E.フェシウム(Enterococcus faecium)等が挙げられる。ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌としては、L.ラクチス(Lactococcus lactis)等が挙げられる。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌としては、B.ロンガム(Bifidobacterium longum)、B.ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、B.アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)等が挙げられる。
【0017】
上記のような乳酸菌の具体的な菌株としては、例えば、JCM1021株、JCM1023株、JCM1028株、JCM1033株、JCM1034株、JCM1132株、JCM1061株、JCM1065株、JCM11034株、JCM11035株、JCM1053株、JCM1109株、JCM1111株、JCM1133株、JCM1017株、JCM1019株、JCM1025株、JCM1131株、JCM1002株、JCM11037株、JCM11038株、JCM1003株、JCM1004株、JCM1120株、JCM1134株、JCM1136株、JCM1165株、JCM1553株、JCM20075株、JCM20088株、JCM17834株、JCM20026株、JCM5804株、JCM5805株、JCM1217株、JCM7052株、JCM1254株、JCM1255株、JCM1275株、KOEI株等が挙げられる。
【0018】
乳酸菌は、1種を単独で用いてもよく、共棲可能な2種以上を組み合わせて用いてもよいが、5~50種を組み合わせて用いるのが好ましく、10~45種を組み合わせて用いるのがより好ましく、15~40種を組み合わせて用いるのが特に好ましい。なお、属が同じで株が異なるものを組み合わせてもよい。
【0019】
豆乳の乳酸菌発酵処理を、乳酸菌の共棲培養物を用いて行う場合、発酵処理に先立って行われる乳酸菌の共棲培養、及び得られた共棲培養物を用いた発酵処理は、例えば、特開2005-97280号公報、特開2016-202139号公報、特許第4540376号公報等の記載を参考にして行うことができる。
【0020】
ここで、乳酸菌の共棲培養について説明する。
共棲培養は、2種以上の乳酸菌を共棲培養する1次培養工程を含む方法で行うのが好ましい。より具体的には、1種又は2種以上の乳酸菌からなるグループを、第1グループから第kグループまでk個(kは2以上の整数であり、好ましくは6~48の整数、より好ましくは12~36の整数、特に好ましくは24である)作成し、そのグループごとに培養を行い、第1の乳酸菌培養物から第kの乳酸菌培養物までの合計k個の乳酸菌培養物を得る予備培養工程と、第1の乳酸菌培養物から第kの乳酸菌培養物まで順番に隣り合う番号の乳酸菌培養物を2つずつ混合してk/2個(例えば、k=24の場合は12個)の1次培養用乳酸菌混合物を得て、それぞれを共棲培養する1次培養工程とを含む方法が挙げられる。
【0021】
第1グループから第kグループまでの各グループにおいては、1次培養の際に共棲可能となるような1種又は2種以上の乳酸菌をそれぞれ選択すればよい。また、1つのグループに2種以上の乳酸菌を包含させる場合には、予備培養工程において継代培養したときでも、2種以上の乳酸菌の共棲状態が維持されるように選択すればよい。なお、共棲状態が維持されるとは、2種以上の乳酸菌が同時に存在し、それぞれ活性が維持されることをいう。なお、同種の乳酸菌が異なるグループに含まれていてもよい。
【0022】
例えば、k=24の場合における第1グループから第kグループまでの乳酸菌の組み合わせとしては、
第1~4グループが、それぞれ、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループであり、
第5~8グループのうち、2つのグループが、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループであり、残りの2つは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌のみで構成されるもの、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、
第9~12グループのうち、2つのグループが、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループであり、残りの2つのグループは、いずれも、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、
第13~16グループのうち、2つは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、残りの2つのグループは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループと、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループであり、
第17~20グループのうち、2つのグループが、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌及びストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループであり、残りの2つのグループは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループと、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、
第21~24グループのうち、2つは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、1つは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する乳酸菌のみで構成されるものであり、残りの1つのグループは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する乳酸菌の組み合わせで構成されるグループである組み合わせが挙げられる。
【0023】
予備培養工程及び1次培養工程における各培養は、好気条件下で行っても嫌気条件下で行ってもよいが、好気条件下で静置培養することが好ましい。また、培養に用いる培地は、乳酸菌の種類に応じて選択すればよいが、寒天含有培地が好ましい。市販品としては、日水製薬株式会社製GAM半流動高層培地、日水製薬株式会社製BL寒天培地、日水製薬株式会社製変法GAM寒天培地等が挙げられる。
また、予備培養工程及び1次培養工程における乳酸菌の添加量は、乳酸菌1種ごとに、培地に対して、好ましくは1~10%(w/w)である。
また、予備培養工程及び1次培養工程における各培養の培養温度は、通常30~45℃であり、培養時間は通常3~72時間であるが、1次培養工程は、pHが4.4~4.8の範囲になるまで行うのが好ましい。
【0024】
次に、豆乳の乳酸菌発酵処理について詳細に説明する。
豆乳に乳酸菌を接種する方法としては、例えば、豆乳に乳酸菌を添加して静置する方法、豆乳と乳酸菌を混合する方法、乳酸菌を適当な培地で培養した培養液と豆乳とを接触させる方法、豆乳を添加した適当な培地で乳酸菌を培養する方法等が挙げられる。
【0025】
豆乳の乳酸菌発酵処理としては、2種以上の乳酸菌による共棲発酵処理(具体的には、上記の乳酸菌の共棲培養で得られた共棲培養物を用いた発酵処理)が好ましい。
ここで、第1の乳酸菌培養物から第kの乳酸菌培養物まで順番に隣り合う番号の乳酸菌培養物を2つずつ混合してk/2個の1次培養用乳酸菌混合物を得て、それぞれを共棲培養する上記の1次培養工程を行った場合には、第1、2グループの乳酸菌を含む第1の1次培養物から第k-1、kグループ(例えば、k=24の場合は第23、24グループ)の乳酸菌を含む第k/2の1次培養物まで、順番に隣り合う1次培養物を2つずつ組み合わせて、この組み合わせたものを豆乳に含有せしめて発酵処理(2次培養)をすることが好ましい。
また、上記2次培養を行なう場合、2次培養で得られるk/4個(例えば、k=24の場合は6個)の2次培養物の全てを組み合わせて、これを豆乳に含有せしめて発酵処理(3次培養)を更に行うことが好ましい。
【0026】
2次培養、3次培養における各培養は、好気条件下で行っても嫌気条件下で行ってもよいが、好気条件下で静置培養することが好ましい。
また、2次培養、3次培養のいずれにおいても、豆乳に、必要に応じて、ブドウ糖、グルコース等の糖類;酵母エキス、ペプトン等の窒素源等を含有せしめてもよい。
2次培養においては、各1次培養物を培地ごと豆乳に含有せしめることができる。1次培養物の添加量は、1次培養物1種ごとに、豆乳に対して、好ましくは1~10%(w/w)である。3次培養においても、各2次培養物を培地ごと豆乳に含有せしめることができる。2次培養物の添加量は、2次培養物1種ごとに、豆乳に対して、好ましくは1~10%(w/w)である。
【0027】
2次培養の培養温度は、通常30~45℃であり、培養時間は通常3~48時間であるが、2次培養工程は、pHが4.4~4.8の範囲になるまで行うのが好ましい。
3次培養の培養温度は、通常30~45℃であり、培養時間は通常10時間~1週間であるが、3段階に温度を変化させて培養するのが好ましい。具体的には、30~37℃で12~36時間培養した後、38~45℃で24~72時間培養し、更に30~37℃で12~96時間培養する方法が挙げられる。
【0028】
また、上記のようにして得られる豆乳の乳酸菌発酵処理物は、アクアポリン発現促進剤、角化マーカー発現促進剤としてそのまま用いることができるが、殺菌(例えば、60~90℃で15~60分間行う加熱殺菌)、遠心分離による不溶物の除去及び上清の回収、ろ過による菌体等の除去及びろ液の回収、凍結乾燥や噴霧乾燥等の乾燥処理、脂質抽出による脂質分の回収、クロマトグラフィー等を必要に応じて適宜選択して行ったものを用いてもよい。
【0029】
そして、後記実施例に示すように、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、優れたアクアポリン発現促進効果を有する。アクアポリンとしては、アクアポリン1、アクアポリン3、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6、アクアポリン8、アクアポリン9、アクアポリン10及びアクアポリン11から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンが挙げられる。上記の有効成分の中でも、豆乳の乳酸菌発酵処理物は、アクアポリン4、アクアポリン5、アクアポリン6及びアクアポリン8から選ばれる1種又は2種以上のアクアポリンの発現を促進する効果にも優れ、広範な種類のアクアポリンの発現を促進することができる。
したがって、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、皮膚の他、口腔内や鼻粘膜、眼、腎臓、肺、大腸、小腸、脳内等の体内に存在するアクアポリンの発現を促進でき、皮膚保湿の維持、強化等に特に有用である。また、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、アクアポリン発現促進剤となり得、アクアポリン発現促進のために使用することができる。アクアポリン発現促進剤は、アクアポリン発現促進に有効な医薬品、化粧品若しくは食品として、又は医薬品、化粧品若しくは食品に配合する素材として使用可能である。
【0030】
また、後記実施例に示すように、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、優れた角化マーカー発現促進効果を有し、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ及びケラチンから選ばれる1種又は2種以上の角化マーカーの発現を促進するのにより適し、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ-1、トランスグルタミナーゼ-3、ケラチン-1及びケラチン-10から選ばれる1種又は2種以上の角化マーカーの発現を促進するのに特に適する。
したがって、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、皮膚等の体内に存在する角化マーカーの発現を促進でき、表皮角化の調節、皮膚防御機能の維持、強化に有用である。また、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、角化マーカー発現促進剤となり得、角化マーカー発現促進のために使用することができる。角化マーカー発現促進剤は、角化マーカー発現促進に有効な医薬品、化粧品若しくは食品として、又は医薬品、化粧品若しくは食品に配合する素材として使用可能である。
【0031】
なお、食品は、アクアポリン発現促進や角化マーカー発現促進をコンセプトとし、その旨を表示した保健機能食品、例えば機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品等とすることが可能である。具体的な形態としては、皮膚保湿の維持、強化等を目的とした清涼飲料水、カプセル剤、錠剤、ゼリー、顆粒剤、パン、麺類、菓子、調味料などが挙げられ、また、液体や粉末の形でサプリメントや食品へ添加する素材とすることも可能である。なお、老人性乾皮症やアトピー性皮膚炎の患者で皮膚保湿の強化を求める人々にとっては、症状改善の補助食品となる可能性がある。
【0032】
本発明のアクアポリン発現促進剤、角化マーカー発現促進剤の適用手段は、経口、注射、皮膚外用等のいずれでもよいが、経口又は皮膚外用が好ましく、皮膚外用がより好ましい。
本発明のアクアポリン発現促進剤、角化マーカー発現促進剤を経口投与する場合、その剤形としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤;半固形製剤;液状製剤等が挙げられる。医薬品、食品のいずれの場合においても、これらの剤形にしてよい。また、経口投与用組成物とする場合には、上記の有効成分に加えて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等の添加剤を含有せしめることができる。
本発明のアクアポリン発現促進剤、角化マーカー発現促進剤を皮膚外用剤とする場合、その剤形としては、軟膏剤、クリーム剤、乳液、ゲル剤、ペースト剤、ローション等が挙げられる。これらの皮膚外用剤とする場合には、上記の有効成分に加えて、通常の外用剤において基材や添加剤として用いられる各種成分を含有せしめることができる。例えば、天然動植物油脂、半合成油脂、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、フッ素系油剤等の固体、半固体又は液状の油剤;水;低級アルコール、糖アルコール、ステロール等のアルコール類;アラビアゴム、トラガカント等の植物系高分子;キサンタンガム、デキストラン等の微生物系高分子;カルボキシメチルデンプン等のデンプン系高分子;カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系高分子;各種アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性界面活性剤等の界面活性剤;金属セッケン、デキストリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の油溶性ゲル化剤;酸化チタン、炭酸マグネシウム、雲母、ヒドロキシアパタイト等の無機粉体;ポリアミドパウダー等の有機粉体;有色顔料;パール顔料;保湿剤;防腐剤;pH調整剤;キレート剤;清涼剤;抗炎症剤;美白剤、細胞賦活剤、血行促進剤等の美肌成分等を使用することができる。
【0033】
本発明のアクアポリン発現促進剤中、豆乳の乳酸菌発酵処理物及びトリリノレインから選ばれる1種以上の含有量としては、0.1~80質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.1~30質量%が特に好ましい。
本発明の角化マーカー発現促進剤中、豆乳の乳酸菌発酵処理物及びトリリノレインから選ばれる1種以上の含有量としては、0.1~80質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましく、0.1~30質量%が特に好ましい。
【0034】
本発明のアクアポリン発現促進剤は、豆乳の乳酸菌発酵処理物及びトリリノレインから選ばれる1種以上として、成人一日あたり、10mg~5gを摂取又は塗布することが好ましい。
本発明の角化マーカー発現促進剤は、豆乳の乳酸菌発酵処理物及びトリリノレインから選ばれる1種以上として、成人一日あたり、10mg~5gを摂取又は塗布することが好ましい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔調製例1〕
L.アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、L.ブレビス(Lactobacillus brevis)、L.ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、L.ガセリー(Lactobacillus gasseri)、L.ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、L.ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、L.カゼイ(Lactobacillus casei subsp. casei)、L.ラモナウサス(Lactobacillus rhamnosus)、L.デルブリッキィ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、E.フェシウム(Enterococcus faecium)、L.ラクチス(Lactococcus lactis)、B.ロンガム(Bifidobacterium longum)、B.ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、B.アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)の16種の乳酸菌の食品用市販品を準備して、図1に示すように、これらの16種の乳酸菌でNo.1~No.24の24グループを作成し、各グループの菌種について継代培養を行なった後、1次~3次培養を行い、最終培養液を滅菌することで、豆乳の乳酸菌発酵処理物を調製した。この発酵処理物を「乳酸菌生産物質1」とも称する。具体的な手順を以下に示す。なお、図1は、上記グループ作成プロセスから3次培養プロセスまでの各プロセスを示した図である。また、図1中の「No.」はグループ番号である。
【0037】
グループNo.1 : E.フェシウム及びL.ヘルベティカス
グループNo.2 : E.フェシウム及びL.アシドフィラス
グループNo.3 : E.フェシウム及びL.ガセリー
グループNo.4 : E.フェシウム、L.アシドフィラス及びL.ブレビス
【0038】
グループNo.5 : E.フェシウム、L.アシドフィラス及びL.ブレビス
グループNo.6 : E.フェシウム、L.アシドフィラス、L.ブレビス及びL.パラカゼイ
グループNo.7 : B.アドレセンティス単体
グループNo.8 : L.デルブリッキィ及びL.ガセリー
【0039】
グループNo.9 : L.デルブリッキィ単体
グループNo.10 : E.フェシウム、L.ジェンセニイ、L.パラカゼイ及びL.ブレビス
グループNo.11 : L.アシドフィラス単体
グループNo.12 : E.フェシウム及びL.ガセリー
【0040】
グループNo.13 : L.パラカゼイ単体
グループNo.14 : L.ガセリー、E.フェシウム及びB.ビフィダム
グループNo.15 : B.ロンガム、S.サーモフィラス及びE.フェシウム
グループNo.16 : L.ガセリー単体
【0041】
グループNo.17 : L.ブルガリクス及びS.サーモフィラス
グループNo.18 : L.ガセリー、L.ラクチス及びE.フェシウム
グループNo.19 : L.ガセリー、S.サーモフィラス及びL.ブルガリクス
グループNo.20 : L.ラクチス単体
【0042】
グループNo.21 : L.ガセリー及びE.フェシウム
グループNo.22 : L.ラモナウサス単体
グループNo.23 : L.カゼイ単体
グループNo.24 : B.ロンガム単体
【0043】
(継代培養)
培地10mLに、グループNo.1の各乳酸菌を1白金耳ずつ播種し、32℃で12時間培養した。次に、継代して37℃で12時間培養し、さらに再度継代して40℃で24時間培養した後、その培養液を5℃で冷蔵保存しておいた。
また、グループNo.2~No.24の乳酸菌についても、上記と同様にして継代培養を行なった。
なお、培地は、日水製薬株式会社製GAM半流動高層培地、日水製薬株式会社製BL寒天培地、日水製薬株式会社製変法GAM寒天培地の3種類を、各グループの乳酸菌に応じて使い分けた。
【0044】
このようにして継代培養することで得られた各グループの培養液について同定試験を行った。同定試験は、日本食品分析センターに依頼した。すなわち、各グループの検体を寒天平板培地に直接接種・培養し、優勢に生育した形状の異なる集落を釣菌してグループ毎に乳酸菌を分離し、この分離菌について形態観察、生理的性状試験及び菌体内DNAのGC含有量の測定を行い、以下の文献を参考に同定を行った。
同定の結果、B.ロンガム以外に合計34種類の菌株が特定されるとともに、それらが各グループ内で共棲状態を維持していることが確認された。
【0045】
1.Sneath,P.H.A., Mair,N.S., Sharpe,M.E. and Holt,J.G. : "Bergey's Manual of Systematic Bacteriology" Vol.2, (1986) Williams & Wilkins.
2.Holt,J.G., Krieg,N.R., Sneath,P.H.A., Staley,J.T. and Williams,S.T. : "Bergey's Manual of Determinative Bacteriology"Ninth Edition(1994)Williams & Wilkins.
3.光岡知足:“腸内菌の世界”,(1984)叢文社.
4.辨野義巳:微生物6,3-14(1990).
5.厚生省生活衛生局監修:“食品衛生検査指針-微生物編-”(1990)日本食品衛生協会.
6.Schleifer,K.H. and Kilpper-Balz,R. : Int.J.Syst.Bacteriol.,34,31-34(1984).
【0046】
(1次培養)
次に、図1に示す1次培養(1)~(12)の共棲培養を行なった。
すなわち、1次培養用培地50mLに、上記継代培養で得られた培養液を表1に示す条件で添加し、1次培養用培地のpH値が4.6になるまで37℃で約6~12時間培養した。
なお、1次培養用培地は、日水製薬株式会社製GAM半流動高層培地、日水製薬株式会社製BL寒天培地、日水製薬株式会社製変法GAM寒天培地の3種類を、継代培養で得られた培養液に含まれる乳酸菌に応じて使い分けた。
【0047】
【表1】
【0048】
(2次培養)
次に、図1に示す2次培養(13)~(18)の共棲培養を行なった。
すなわち、豆乳1600mLにブドウ糖0.5%(w/w)、酵母エキス0.4%(w/w)を添加することで、2次培養用培地を調製し、この2次培養用培地に、上記1次培養プロセスが終了した乳酸菌を表2に示す条件で1次培養用培地ごと投入し、pH値が4.55になるまで37℃で約6~10時間培養した。
【0049】
【表2】
【0050】
(3次培養)
次に、図1に示す3次培養(19)の共棲培養を行なった。
すなわち、豆乳1000Lにブドウ糖0.5%(w/w)、酵母エキス0.4%(w/w)を添加することで、3次培養用培地を調製し、この3次培養用培地に、上記2次培養プロセスが終了した全ての乳酸菌を2次培養用培地ごと投入した。なお、2次培養(13)~(18)で得た培養液は、それぞれ約1720mL使用した。
そして、32℃で24時間、次に40℃で48時間、さらに37℃で48時間の条件で培養を行なった。
上記の3次培養プロセスで得られた乳酸菌と培地とを含む最終培養液を、85℃以上で15分間加熱して滅菌することで、乳酸菌生産物質1(ヨーグルト様物質)を得た。
【0051】
〔調製例2〕
調製例1で得た乳酸菌生産物質1を遠心分離(10000rpm,4℃,10分間)し、得られた上清(淡黄色液体、pH=約3.8)を回収した。この上清を「乳酸菌生産物質2」とも称する。
【0052】
〔調製例3〕
調製例1で得た乳酸菌生産物質1を凍結乾燥し粉末化した。この凍結粉末15gを、ジエチルエーテル200mLに懸濁させ、20分間超音波処理し、濾過(ADVANTEC 5C,150mm)し濾液を集めた。また、濾過で生じた残渣に対して上記と同じ処理を行い、この濾液を前記の濾液と合わせロータリーエバポレーターで濃縮し、脂質を得た。収量は2.7gだった。
次に、得られた脂質1.5gをオープンカラムクロマトグラフィー法にて以下の条件で分画した。展開液を12mLずつフラクションに分けていき、1番目のフラクションを「フラクション1」とし、2番目のフラクションを「フラクション2」とした。
(分画条件)
カラム容器:アズワン製クロマトグラフ管(内径3cm)
担体:ワコーゲル 60N,63~212μm(充填高さ20cm)
展開溶媒:ヘキサン95質量部とエタノール5質量部との混液 600mL
【0053】
〔試験例1-1〕
12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、正常ヒト表皮角化細胞(新生児由来)を5×105個播種した後、3日間培養(37℃、95%Air、5%CO2)して70~80%コンフルエントにした。その後、乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1又はフラクション2を0.1%(w/w)加えて培養した。なお、乳酸菌生産物質1を添加した培地の培養時間は72時間、乳酸菌生産物質2を添加した培地の培養時間は48時間、フラクション1を添加した培地の培養時間は72時間、フラクション2を添加した培地の培養時間は24時間である。
その後、上清を捨てて、細胞を完全に溶解させた。全RNAを抽出し、RNAを逆転写してcDNAを作製し、定量リアルタイムPCRを用いてアクアポリン-1の遺伝子発現量を検出した(n=5)。結果を図2-1~図2-4に示す(なお、各図中のコントロールはサンプル未添加群である)。
【0054】
〔試験例1-2〕
乳酸菌生産物質2又はフラクション1を0.5%(w/w)加えて24時間又は72時間培養したときのアクアポリン-10の遺伝子発現量を、試験例1-1に記載の手法に準じて検出した(n=5)。結果を図3-1~図3-2に示す(なお、各図中のコントロールはサンプル未添加群である)。
乳酸菌生産物質2又はフラクション1を0.1%(w/w)加えて72時間培養したときのアクアポリン-11の遺伝子発現量を、試験例1-1に記載の手法に準じて検出した(n=5)。結果を図4-1~図4-2に示す(なお、各図中のコントロールはサンプル未添加群である)。
【0055】
〔試験例1-3〕
12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、正常ヒト表皮角化細胞(新生児由来)を5×105個播種した後、3日間培養(37℃、95%Air、5%CO2)して70~80%コンフルエントにした。その後、乳酸菌生産物質1、フラクション1又はトリリノレイン(東京化成製標準品)を、0.02%(w/w)、0.1%(w/w)又は0.5%(w/w)加えて72時間培養した。
その後、上清を捨てて、細胞を完全に溶解させた。100℃でタンパク質を変性させた後、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行うことでタンパク質を分離させ、膜(メンブレン)に転写した。イムノブロック(ケー・エー・シー社製)を用いてブロッキングした後、一次抗体(rabbit anti-aquaporin 1)を加えて4℃で一晩インキュベートした。次いで、洗浄した後、二次抗体(goat anti-rabbit IgG)を加えて室温で1時間インキュベートした。洗浄した後、発光・発色基質(Luminata Forte(Merck社製))を加えてインキュベートした後、化学発光検出装置(Fujifilm製LAS400)を用いてシグナルを検出した。なお、ポリアクリルアミドゲルへの試料のロード量が均一であることは、一次抗体として抗β-アクチン抗体を用いた同様の実験で検証した。
その後、Fujifilm製LAS400を用いてアクアポリン-1発現量を定量化した。
アクアポリン-1発現量の測定結果を図5-1、図5-2に示す。なお、図5-2中のLABM1は、乳酸菌生産物質1を意味する(以下同じ)。
【0056】
〔試験例1-4〕
乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、フラクション2又はトリリノレイン(東京化成製標準品)を加えて48時間又は72時間培養したときのアクアポリン-3発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定及び定量化した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 3を使用した。
アクアポリン-3発現量の測定結果を図5-3、図5-4に示す。
【0057】
〔試験例1-5〕
フラクション1を加えて72時間培養したときのアクアポリン-4発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定した。なお、一次抗体にはmouse anti-aquaporin 4を使用した。
アクアポリン-4発現量の測定結果を図5-5に示す。
【0058】
〔試験例1-6〕
乳酸菌生産物質2を加えて24時間培養したときのアクアポリン-5発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定及び定量化した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 5を使用した。
アクアポリン-5発現量の測定結果を図5-6、図5-7に示す。なお、図5-7中のLABM2は、乳酸菌生産物質2を意味する(以下同じ)。
【0059】
〔試験例1-7〕
乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2又はフラクション2を加えて72時間培養したときのアクアポリン-6発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定及び定量化した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 6を使用した。
アクアポリン-6発現量の測定結果を図5-8、図5-9に示す。
【0060】
〔試験例1-8〕
フラクション2を加えて72時間培養したときのアクアポリン-8発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 8を使用した。
アクアポリン-8発現量の測定結果を図5-10に示す。
【0061】
〔試験例1-9〕
乳酸菌生産物質1、フラクション1、フラクション2又はトリリノレイン(東京化成製標準品)を加えて24時間又は48時間培養したときのアクアポリン-9発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定及び定量化した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 9を使用した。
アクアポリン-9発現量の測定結果を図5-11、図5-12に示す。
【0062】
〔試験例1-10〕
乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1又はトリリノレイン(東京化成製標準品)を加えて72時間培養したときのアクアポリン-10発現量を、試験例1-3に記載の手法に準じて測定及び定量化した。なお、一次抗体にはrabbit anti-aquaporin 10を使用した。
アクアポリン-10発現量の測定結果を図5-13、図5-14に示す。
【0063】
図2-1~図5-14に示すとおり、豆乳の乳酸菌発酵処理物(乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、フラクション2)及びトリリノレインは、優れたアクアポリン発現促進効果を有することがわかった。特に、豆乳の乳酸菌発酵処理物は、広範な種類のアクアポリンの発現を促進した。
【0064】
〔試験例2〕
12ウェルのプレート1ウェルに培地(HuMedia-KG2)を0.8mL添加し、正常ヒト表皮角化細胞(新生児由来)を5×105個播種した後、3日間培養(37℃、95%Air、5%CO2)して70~80%コンフルエントにした。その後、乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、フラクション2又はトリリノレイン(東京化成製標準品)を0.02%(w/w)、0.1%(w/w)又は0.5%(w/w)加えて48時間又は72時間で培養した。その後、上清を捨てて、細胞を完全に溶解させた。全RNAを抽出し、RNAを逆転写してcDNAを作製し、定量リアルタイムPCRを用いてフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ-1、トランスグルタミナーゼ-3、ケラチン-1及びケラチン-10の遺伝子発現量を検出した(n=5)。結果を図6-1~図10-2に示す(なお、各図中のコントロールはサンプル未添加群である)。
【0065】
図6-1~図10-2に示すとおり、乳酸菌生産物質1、乳酸菌生産物質2、フラクション1、フラクション2及びトリリノレインは、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、トランスグルタミナーゼ-1、トランスグルタミナーゼ-3、ケラチン-1及びケラチン-10の発現を促進した。
図6-1~図10-2の結果から、豆乳の乳酸菌発酵処理物、トリリノレインは、優れた角化マーカー発現促進効果を有することがわかった。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図5-8】
図5-9】
図5-10】
図5-11】
図5-12】
図5-13】
図5-14】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】