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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20241122BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20241122BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20241122BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/0258
H01M4/86 M
H01M4/86 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020113059
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011735
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】川島 勉
(72)【発明者】
【氏名】井村 真一郎
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-317793(JP,A)
【文献】特開2011-146407(JP,A)
【文献】特開2013-152927(JP,A)
【文献】特開2012-227108(JP,A)
【文献】特開2004-319137(JP,A)
【文献】特開2005-294192(JP,A)
【文献】特開2004-87491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の両面に、それぞれ触媒層及びガス拡散層を積層してなる、膜・電極接合体(MEA)を、セパレータによって挟持した燃料電池であって、
前記セパレータは、前記ガス拡散層と接触する側の表面に、発電に供する反応ガスが流れるガス流路を構成するためのリブ及び溝を備えており、
前記ガス拡散層の厚みをhとし、
前記リブにおける前記ガス拡散層と接触する部分の幅をRwとしたとき、
0.29Rw≦h≦0.48Rw
であり、且つ、
前記ガス拡散層が、導電性粒子と導電性繊維と高分子樹脂とを含み、
前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが
Fl<Rw/2、及びFd<h/100
であり、
前記ガス拡散層における前記導電性繊維の量は、前記導電性粒子の量より多い、燃料電池。
【請求項2】
前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが、
0.5μm≦Fl≦50μm、及び
0.05μm≦Fd≦0.3μm
である、請求項に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記ガス拡散層において、前記リブと前記溝との境界に段差を有し、前記リブの頂部平坦部に接触する面と、前記溝に対向する面とが非連続な凹凸面で構成された、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記リブと前記溝との境界における前記ガス拡散層の段差の高さが5~30μmである、請求項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記ガス拡散層において、前記セパレータと接触する面側の面粗さSaが3μmより小さい、請求項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記セパレータのリブ幅Rwと溝幅Gwが、
0.7Gw≦Rw≦1.3Gw
である、請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記ガス拡散層と前記セパレータがカソード側である、請求項1からのいずれか1項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池、特に固体高分子形の燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一例である固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性高分子電解質膜の一方の面を水素等の燃料ガスに暴露し、他方の面を酸素に暴露して、電解質膜を介した化学反応によって水を合成することでその際に生じる反応エネルギーを電気的に取り出している。
【0003】
固体高分子形燃料電池の単電池は、膜・電極接合体(以下、MEAと記載する)と、MEAの両面に配置された一対の導電性のセパレータとを有している。MEAは、プロトン伝導性高分子電解質膜と、この電解質膜を挟む一対の電極層とを備えている。一対の電極層は、高分子電解質膜の両面に形成され、白金族触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層とを有している。
【0004】
セパレータには、ガス拡散層と当接する側の表面に、発電に供する反応ガスが流れるガス流路を形成するためのリブ及び溝を備えている。
【0005】
MEAにおけるガス拡散層は、セパレータのガス流路から供給される反応ガスを触媒層に供給する。また、ガス拡散層は、触媒層とセパレータ間の電子の導電経路としても機能する。このため、MEAに用いられるガス拡散層には導電性多孔質部材が使用されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、反応ガスが流れるガス流路を構成するためのリブ及び溝が形成されたセパレータを用いた燃料電池において、リブとガス拡散層との接触部分に対向するガス拡散層の領域への反応ガスの供給量を増大させることと、リブとガス拡散層との接触抵抗を低下させることを目的とした燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-218817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の燃料電池では、セパレータのリブ幅Rw(特許文献1では2x)に対してガス拡散層の厚みhが、h≧0.7Rwと厚いため、触媒に到達する反応ガスの供給量が低下し、特に、高電流密度域において拡散過電圧が上昇し、発電性能が低下する。
【0009】
本開示は、セパレータのリブ幅に対してガス拡散層の厚みを薄くすることで、特に、高電流密度域でのガス拡散性を向上させて、発電性能を高めた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ガス拡散層が導電性粒子と導電性繊維と高分子樹脂とにより構成されたガス拡散層において、導電性繊維の平均繊維長がセパレータのリブ幅の1/2よりも短く、導電性繊維の平均繊維径がガス拡散層の厚みの1/100以下であるガス拡散層を用いることにより、ガス拡散層の厚み方向と面方向のガス拡散性が均一化することを知見した。この知見により、リブ幅に対してガス拡散層の厚みを薄く形成しても、リブ下のガス拡散が阻害されにくく、特に、高電流密度域での発電性能が大幅に向上することを見出した。
【0011】
本開示の一実施の形態に係る燃料電池は、高分子電解質膜の両面に、それぞれ触媒層及びガス拡散層を積層してなる、膜・電極接合体(MEA)を、セパレータによって挟持した燃料電池であって、前記セパレータは、前記ガス拡散層と接触する側の表面に、発電に供する反応ガスが流れるガス流路を構成するためのリブ及び溝を備えており、前記ガス拡散層の厚みをh、前記リブにおける前記ガス拡散層と接触する部分の幅をRwとしたとき、0.29Rw≦h≦0.55Rwであり、且つ、前記ガス拡散層が、導電性粒子と導電性繊維と高分子樹脂とを含み、前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが、Fl<Rw/2、Fd<h/100である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ガス拡散層が十分なガス透過性を有し、特に、膜・電極接合体(MEA)における高電流密度域での発電性能を向上させた燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池の電池スタックを示す概略図
図2】本開示の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池の電池セルの一部を模式的に示す概略断面図
図3A】本開示の実施の形態1に係るガス拡散層を模式的に示す概略断面図
図3B】本開示の実施の形態1に係るガス拡散層の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図
図4】本開示の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池の電池セルの一部を模式的に示す概略断面図
図5A】本開示の実施の形態2に係る固体高分子形燃料電池の電池セルの一部を模式的に示す概略断面図
図5B】本開示の実施の形態2に係る電池セルの一部を拡大した断面SEM写真
図6】従来のガス拡散層を用いた電池セルの一部を拡大した断面SEM写真
図7】セル電圧とガス拡散層の厚み(h)/リブ幅(RW)とに関する実施例1~3及び比較例1~2の評価試験の結果を示すグラフ
図8】セル電圧とガス拡散層の厚み(h)/リブ幅(RW)とに関する実施例4~7及び比較例3~5の評価試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の燃料電池の具体的な実施の形態として固体高分子形燃料電池について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本開示の燃料電池は、以下の実施の形態に記載した燃料電池の構成に限定されるものではなく、以下の実施の形態において説明する技術的特徴を有する技術的思想と同等の技術に基づく燃料電池の構成を含むものである。
【0015】
また、以下の実施の形態において示す数値、形状、構成、製造工程、及び製造工程の順序などは、一例を示すものであり、発明を本開示の内容に限定するものではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各実施の形態においては、同じ要素には同じ符号を付して、説明を省略する場合がある。また、図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。
【0016】
先ず始めに、本開示の燃料電池における各種態様を例示する。
本開示に係る第1の態様の燃料電池は、
高分子電解質膜の両面に、それぞれ触媒層及びガス拡散層を積層してなる、膜・電極接合体を、セパレータによって挟持した燃料電池であって、
前記セパレータは、前記ガス拡散層と接触する側の表面に、発電に供する反応ガスが流れるガス流路を構成するためのリブ及び溝を備えており、
前記ガス拡散層の厚みをhとし、
前記リブにおける前記ガス拡散層と接触する部分の幅をRwとしたとき、
0.29Rw≦h≦0.55Rw
であり、且つ、
前記ガス拡散層が、導電性粒子と導電性繊維と高分子樹脂とを含み、
前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが
Fl<Rw/2、及びFd<h/100
である、燃料電池。
【0017】
本開示に係る第2の態様の燃料電池は、
高分子電解質膜の両面に、それぞれ触媒層及びガス拡散層を積層してなる、膜・電極接合体(MEA)を、セパレータによって挟持した燃料電池であって、
前記セパレータは、前記ガス拡散層と接触する側の表面に、発電に供する反応ガスが流れるガス流路を構成するためのリブ及び溝を備えており、
前記ガス拡散層の厚みをhとし、
前記リブにおける前記ガス拡散層と接触する部分の幅をRwとしたとき、
0.29Rw≦h≦0.48Rw
であり、且つ、
前記ガス拡散層が、導電性粒子と導電性繊維と高分子樹脂とを含み、
前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが
Fl<Rw/2、及びFd<h/100、
である、燃料電池。
【0018】
本開示に係る第3の態様の燃料電池は、前記の第1の態様又は第2の態様において、
前記導電性繊維の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが、
0.5μm≦Fl≦50μm、及び
0.05μm≦Fd≦0.3μm
であるのが、より好ましい。
【0019】
本開示に係る第4の態様の燃料電池は、前記の第3の態様において、前記ガス拡散層における前記導電性繊維の量を、前記導電性粒子の量より多く構成するのが、より好ましい。
【0020】
本開示に係る第5の態様の燃料電池は、前記の第4の態様の前記ガス拡散層において、前記リブと前記溝との境界に段差を有し、前記リブの頂部平坦部に接触する面と、前記溝に対向する面とが非連続な凹凸面で構成されることが、より好ましい。
【0021】
本開示に係る第6の態様の燃料電池は、前記の第5の態様において、前記リブと前記溝との境界における前記ガス拡散層の段差の高さを5~30μmとするのが、より好ましい。
【0022】
本開示に係る第7の態様の燃料電池は、前記の第6の態様において、前記ガス拡散層において、前記セパレータと接触する面側の面粗さSaを3μmより小さくするのが、より好ましい。
【0023】
本開示に係る第8の態様の燃料電池は、前記の第1の態様から第7の態様のいずれかの態様において、前記セパレータのリブ幅Rwと溝幅Gwが、
0.7Gw≦Rw≦1.3Gw
であることが、より好ましい。
【0024】
本開示に係る第9の態様の燃料電池は、前記の第1の態様から第8の態様のいずれかの態様において、前記ガス拡散層と前記セパレータがカソード側に構成されることが、より好ましい。
【0025】
以下本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
(実施形態1)
図1を用いて、本開示の実施の形態1に係る固体高分子形燃料電池(以下、単に燃料電池と称する)100の基本構成について説明する。図1は、実施の形態1の燃料電池100の基本構成(燃料電池スタックとも称する)を模式的に示す概略図である。なお、実施の形態1は、固体高分子形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0027】
<燃料電池スタックの構造>
図1に示すように、燃料電池100の燃料電池スタックは、基本単位である電池セル10を1枚以上積層し、積層した電池セル10の両側に集電板11、絶縁板12、及び端板13を配置して所定の荷重で両側から圧縮し、締結したものである。
【0028】
集電板11は、ガス不透過性の導電性材料から形成される。集電板11には、例えば、銅、真鍮などが使用される。集電板11には電流取出し端子部(図示せず)が設けられており、発電時には電流取出し端子部から電流が取り出される。
【0029】
絶縁板12は、樹脂等の絶縁性材料から形成される。絶縁板12には、例えば、フッ素系樹脂、PPS樹脂などが使用される。
【0030】
両端の端板13は、1枚以上積層された電池セル10と、集電板11と、絶縁板12とを、図示しない加圧手段によって所定の荷重で締結して、保持している。端板13には、例えば、鋼等の剛性の高い金属材料が使用される。
【0031】
図2は、電池セル10の断面を模式的に示す概略断面図である。電池セル10では、膜・電極接合体(以下、MEAとも称する)20を、アノード側セパレータ4a及びカソード側セパレータ4bで挟んでいる。以下では、アノード側セパレータ4a及びカソード側セパレータ4bを合わせて、セパレータ4と記載する。他の構成要素についても、複数の構成要素を合わせて説明する場合には、同様の記載を行う。
【0032】
セパレータ4においては、ガス拡散層3に接触する側の表面に反応ガスが流れるガス流路が形成されている。このガス流路を構成するための溝5とリブ6がセパレータ4に形成されている。アノード側セパレータ4aに形成されたリブ6の間の溝5の空間が、燃料ガス用の反応ガスが流れるガス流路となる。カソード側セパレータ4bに形成されたリブ6の間の溝5が、酸化剤ガス用の反応ガスが流れるガス流路となる。セパレータ4には、カーボン系、あるいは金属系の材料を用いることができる。
【0033】
<MEA>
MEA20は、高分子電解質膜1と、触媒層2と、ガス拡散層3と、を有する。プロトンを選択的に輸送する高分子電解質膜1の両面にアノード触媒層2a及びカソード触媒層2b(アノード側及びカソード側の各触媒層2a,2bを合わせて触媒層2と記載)が形成されており、その外側にアノード側ガス拡散層3a及びカソード側ガス拡散層3b(両側ガス拡散層3a、3bを合わせてガス拡散層3と記載)がそれぞれ配置されている。ガス拡散層3は、セパレータ4のリブ6の突出端部に接触している。
【0034】
高分子電解質膜1としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸重合体が用いられるが、プロトン導電性を有すれば特に限定されない。
【0035】
触媒層2としては、白金等の触媒粒子を担持した炭素材料と高分子電解質を含む層を用いることができる。
【0036】
<ガス拡散層>
次に、図3A及び図3Bを用いて、本開示の実施の形態1の燃料電池100におけるガス拡散層3(基材無しのガス拡散層)の構成について詳細に説明する。図3Aは、ガス拡散層3の拡大した断面を模式的に示した概略断面図である。図3Bは、図3Aに示したガス拡散層3の一部を更に拡大して模式的に示した概略断面図である。図3Aに示すように、実施の形態1におけるガス拡散層3は、導電性粒子31と導電性繊維32と高分子樹脂33とにより構成されており、自己支持体構造を有する自立膜である。
【0037】
導電性粒子31は、電気伝導性の優れた粒子であり、ガス拡散層3の導電性の向上に寄与する。導電性粒子31の材料としては、例えば、カーボン粒子が用いられる。
【0038】
導電性繊維32は、ガス拡散層3の導電性の向上及び機械的強度の向上に寄与する。導電性繊維32の材料は特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブ等の炭素繊維を用いることができる。
【0039】
本発明者は、燃料電池100におけるガス拡散層3に関して各種実験を行い、導電性繊維32の平均繊維長Flと平均繊維径Fdとにおいて以下の関係を有する場合に好ましい結果が得られることを見出した。
【0040】
導電性繊維32の平均繊維長Flと平均繊維径Fdは、セパレータ4のリブ幅Rwとして、Fl<Rw/2であり、且つ、Fd<h/100であることが好ましい。平均繊維長Flと平均繊維径Fdが、Fl<Rw/2であり、且つ、Fd<h/100であることで、ガス拡散層3の厚み方向(図2における左右方向)と面方向(図2における上下方向)のガス拡散性が均等になりやすい。一方、ガス拡散層3の導電性繊維32の平均繊維長Flと平均繊維径Fdが、Fl≧R/2、あるいはFd≧h/100になると、ガス拡散層3の厚み方向と面方向のガス拡散性において異方性が生じる。特に、Fd≧h/100となると、ガス拡散層3の厚みを薄くしていったときに、面方向の断面積に占める導電性繊維32の面積が増加し、面方向へのガス拡散性が低下する。結果として、リブ下のガス拡散膜3におけるガス拡散が低下し、セル電圧が低下する。
【0041】
導電性繊維32の平均繊維長Flは、0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。導電性繊維33の平均繊維長Flが0.5μm以上であることで、ガス拡散層3の導電性の向上が効果的に寄与するとともに、ガス拡散層3の機械的強度をより高めることができる。また、導電性繊維32の平均繊維長Flが50μm以下であることで、ガス拡散層3の厚み方向と面方向におけるガス拡散性の異方性を最小限にとどめることが出来る。
【0042】
導電性繊維32の平均繊維径Fdは50nm以上300nm以下であることが好ましい。導電性繊維32の平均繊維径Fdが50nm以上であることで、ガス拡散層3の導電性の向上が効果的に寄与するとともに、ガス拡散層3の機械的強度をより高めることができ、ガス拡散層3は自立膜として十分な強度を有しうる。また、導電性繊維32の平均繊維径Fdが300nm以下であることで、径が大きくなりすぎないため、ガス拡散層3の厚みを薄くしていったときに、面方向の断面積に占める導電性繊維32の面積比を小さくし、面方向のガス拡散性を十分に確保することが可能となる。
【0043】
高分子樹脂33の材料の例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、及びPFA(ポリフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。特に、耐熱性、撥水性、及び耐薬品性の観点から、高分子樹脂33は、PTFEを含むことが好ましい。PTFEの原料形態としてはディスパージョンや粉末状などが挙げられるが、優れた分散性を有する観点から、ディスパージョンを使用することが好ましい。
【0044】
高分子樹脂33は、導電性粒子31同士を結着するバインダーとして機能する。また、高分子樹脂33は、撥水性を有する。これにより、ガス拡散層3の内部の細孔に水が滞留してガス透過が阻害されることが防止される。
【0045】
ガス拡散層3における導電性繊維32の量(wt%)は、導電性粒子31の量(wt%)より多いことが好ましい。その理由について説明する。ガス拡散層3には、ガスの拡散性とともに、反応によって生じた生成水を保水しつつ、余剰な水はガス拡散層3の細孔を通って外部に排出させる役割を持つ。余剰な水は水蒸気としてガス拡散層3の内部の細孔を通過するが、細孔径が数十nmオーダーでは水蒸気が十分透過することが出来ない。そのため、膜・電極接合体(MEA)20の内部の余剰な水が排出されず、触媒層2へのガス拡散が阻害され、電池性能が低下する。一方、ミクロンオーダーの細孔になると、水蒸気が透過しすぎて、MEA20の内部が乾燥状態になり、プロトン導電性が低下し、電池性能が低下する。そのため、ガス拡散層3の内部の細孔径は、0.1μmオーダーの細孔が適している。0.1μmオーダーの細孔は、導電性繊維32の隙間によって形成されやすく、数十nmの細孔は導電性粒子の1次粒子の隙間によって形成されやすい。このため、導電性繊維32の量(wt%)が導電性粒子31の量(wt%)よりも多いことで、ガス拡散層3中の細孔が0.1μmオーダーとなり、電池性能が向上する。さらに、ガス拡散層3には、導電性繊維32の隙間に導電性粒子31が存在し、繊維状の高分子樹脂33で導電性繊維32や導電性粒子31を良好に結着することができるため、ガス拡散層3は十分な強度を有することができる。
【0046】
<電池セル>
次に、図4を用いて、本開示の実施の形態1の燃料電池100における電池セル10の構成について詳細に説明する。図4は、電池セル10におけるカソード側の高分子電解質膜1、触媒層2、ガス拡散層3、及びセパレータ4の構成を模式的に示した概略断面図である。図4においては、セパレータ4(4b)とガス拡散層3(3b)との接触部分を拡大している。なお、図4に示すガス拡散層3においては、導電性繊維32のみを記載し、図3で示した導電性粒子31と高分子樹脂33は省略した。図4においては、電池セル10におけるカソード側の構成を示すが、アノード側の構成も同様であっても良い。
【0047】
上述したように、セパレータ4には、ガス拡散層3と当接する側の表面に反応ガスが流れるガス流路を構成するための溝5とリブ6を備えている。リブ6の幅をRw、溝5の幅をGw、ガス拡散層の厚みをhとして、条件(1)0.29Rw≦h≦0.55Rw、より好ましくは、条件(1’)0.29Rw≦h≦0.48Rwを満たしている。更に、ガス拡散層3の導電性繊維32の平均繊維長Flは、条件(2)Fl<Rw/2、導電性繊維の平均繊維径Fdは、条件(3)Fd<h/100を満たしている。ここで、リブ6の幅Rw、溝5の幅Gwは、反応ガスの主たる流れ方向に対して直交方向の断面におけるリブ6の幅、溝5の幅である。また、ガス拡散層3の厚みhの測定は、株式会社ミツトヨ製のデジマチックインジケータを用いて行い、ガス拡散層単体の厚みを測定した。
【0048】
なお、実施の形態1の構成において、セパレータ4のリブ幅Rwと溝幅Gwとの関係は、0.7Gw≦Rw≦1.3Gw、であることが好ましい。セパレータ4のリブ幅Rwと溝幅Gwとの関係が、0.7Gw>Rwとなると、リブ6とガス拡散層3の接触面積が減少するため、電子抵抗が増加し、セル電圧が低下する。一方、Rw>1.3Gwとなると、リブ6に対向する触媒層2の領域の反応ガスが減少し、セル電圧が低下する。更に、溝5における反応ガスの主たる流れ方向に対して直交する断面積が減少するため、反応ガスの圧力損失が上昇し、特にカソード側においては補器類の負荷が増大してしまう。
【0049】
上記条件(1)~(3)のすべての条件を満たすことにより、セパレータ4のリブ幅Rwに対して、ガス拡散層3の厚みhを薄くすることが可能となり、特に、高電流密度域で、ガスの拡散性も飛躍的に向上させ、電池性能の向上を実現することができる。その理由としては以下の点が考えられる。
【0050】
触媒層2に到達する反応ガスは、溝5に対向する触媒層2の領域よりも、リブ6に対向する触媒層2の領域の方が、ガスが拡散する経路が長くなるため、減少する。更に従来のガス拡散層30(基材有りのガス拡散層:図6参照)は、炭素繊維の基材にマイクロポーラス層(MPL)を形成したものであり、基材を構成する炭素繊維基材の平均繊維長Flが10mm程度、平均繊維径Fdが10μm程度であるため、厚み方向のガス拡散性に対して面方向のガス拡散性が悪くなる。そのため、従来の電池セルでは、リブ幅Rwに対して、ガス拡散層の厚みhを一定程度厚くすることにより、リブ6に対向する触媒層2の領域にもガスが到達しやすくなるように構成していた。
【0051】
それに対し、本開示の実施の形態1における電池セル10の構成では、ガス拡散層3を構成する導電性繊維32の平均繊維長Flを短くし、平均繊維径Fdもガス拡散層3の厚みhに対して極端に小さくしているため、厚み方向と面方向のガス拡散における異方性が少なくなっている。その結果、ガス拡散層3の厚みhを薄くしても、リブ6に対向する触媒層2の領域へのガスの透過量を確保することが可能となる。また、ガス拡散層3の厚みhが薄くなるため、溝5に対向する触媒層2の領域へのガスの透過量も向上する。
【0052】
上記条件(1)を満たさずに、0.29Rw>hの場合には、リブ6に対向する触媒層2の領域へのガス透過量が低下し、セル電圧が低下する。反対に、h≧0.55Rwの場合には、ガス拡散層3の厚みhが厚くなり、溝5及びリブ6に対向する触媒層2のそれぞれの領域ともに、ガスの透過量が少なくなり、セル電圧が低下する。
【0053】
また、上記条件(2)と条件(3)を満たさずに、Fl≧Rw/2であり、Fd≧h/100の場合には、上述したように、ガス拡散層3の厚み方向と面方向のガス拡散性において異方性が生じて、リブ6に対向する触媒層2の領域へのガスの透過量が減少し、セル電圧が低下する。
【0054】
(実施の形態2)
図5A図5Bを用いて、本開示の実施の形態2に係る燃料電池における電池セルの構成について詳細に説明する。
【0055】
以下、実施の形態2の燃料電池の説明おいては、前述の実施の形態1との相違点を中心に説明する。なお、実施の形態2の説明において、前述の実施の形態1と同じ機能、構成を有する要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。また、前述の実施の形態1と同じ作用を有する内容についても、説明を省略する。
【0056】
図5Aは、電池セル10におけるカソード側の高分子電解質膜1、触媒層2、ガス拡散層3、及びセパレータ4の構成を模式的に示した概略断面図である。図5Aにおいては、セパレータ4とガス拡散層3との接触部分を拡大して模式的に示している。なお、図5Aに示すガス拡散層3においては、導電性繊維32のみを記載し、導電性粒子31と高分子樹脂33を省略している。図5Aにおいては、電池セル10におけるカソード側の構成を示すが、アノード側の構成も同様であっても良い。
【0057】
図5Aに示すように、セパレータ4のリブ6の幅をRw、溝5の幅をGw、ガス拡散層の厚みをhとして、条件(1)0.29Rw≦h≦0.55Rw、より好ましくは、条件(1’)0.29Rw≦h≦0.48Rwを満たしている。更に、ガス拡散層3の導電性繊維32の平均繊維長Flは、条件(2)Fl<Rw/2、導電性繊維の平均繊維径Fdは、条件(3)Fd<h/100を満たしている。
【0058】
図5Bは、実施の形態2の電池セルにおけるセパレータ4のリブ6とガス拡散層3との接触状態を拡大して示した断面SEM写真である。図5Bの写真から理解できるように、リブ6の突出端部がガス拡散層3に埋設するように接触した状態であり、リブ6の突出端部がその側面と共にガス拡散層3に確実に接触している。即ち、ガス拡散層3は溝5の内部に突出した状態であり、ガス拡散層3に対するリブ6と溝5との境界面においては段差Sを有する非連続面となっている。
【0059】
上記のように、実施の形態2におけるガス拡散層3においては、セパレータ4における溝5とリブ6との境界に段差Sを有しており、セパレータ4のリブ6の頂部平坦部に接触する面と、セパレータ4の溝5に対向する面とが非連続な凹凸面で構成されている。従って、ガス拡散層3とリブ6との境界面に対して、溝5の内部においてはガス拡散層3が突出した状態である。セパレータ4の溝5とリブ6との境界におけるガス拡散層3の段差Sの高さとなる突出量pは、5~30μmである。
【0060】
図6は、従来のガス拡散層30を用いた電池セルにおいて、セパレータ4のリブ6とガス拡散層30との接触状態を示す断面SEM写真である。ここで用いた従来のガス拡散層30は、基材を構成する炭素繊維基材の平均繊維長Flが10mm程度であり、平均繊維径Fdが10μm程度であって、炭素繊維基材の繊維長が長く、太い炭素繊維が用いられている。図6の写真からも明らかなように、従来のガス拡散層30においては、リブ6と溝5との境界において段差がなく、リブ6の突出端面のみが従来のガス拡散層30に平面的に接触する構成となっている。これは、従来のガス拡散層30においては、基材を構成する炭素繊維基材の平均繊維長Flが10mm程度という長い炭素繊維であり、平均繊維径Fdが10μm程度という太い炭素繊維が用いられているためと考えられる。
【0061】
実施の形態2における電池セル10においては、ガス拡散層3が溝5の内部に入り込むようにリブ6と溝5との境界に段差Sが形成されており、その段差Sの高さとなる突出量pが5~30μmであった。このように実施の形態2の構成においては、リブ6と溝5との境界でガス拡散層3が段差Sを有し、リブ6の突出端部がガス拡散層3に埋設したような接触状態となっており、リブ6の突出端部の側面もガス拡散層3に接触した状態である。この結果、実施の形態2における電池セルの構成においては、ガス拡散層3とリブ6との密着性が向上しており、接触抵抗を低減することが出来る構成となる。ガス拡散層3の溝5への突出量p(段差Sの高さ)は、5μmよりも小さいと、接触抵抗の低減効果が小さくなる。一方、ガス拡散層3の溝5への突出量pが、30μmよりも大きくなると、溝5の深さは一般的に100から300μm程度のため、溝5により形成されるガス流路の断面積が減少し、反応ガスの圧力損失が増加してしまう。
【0062】
また、ガス拡散層3におけるリブ6と接触する面の面粗さSaは、3μm以下であることが好ましい。面粗さSaが3μm以下であることで、ガス拡散層3とリブ6との接触性が良くなり、更に接触抵抗を低減することが可能となる。
【0063】
なお、上記の実施の形態においては、電池セルのカソード側の構成について説明したが、同様の構成でアノード側の構成とすることができる。燃料電池に含まれるガス拡散層においては、酸化剤ガスとして用いられる酸素が、燃料ガスとして用いられる水素と比較して拡散しにくいため、本開示の燃料電池においては少なくともカソード側の構成として適用することが好ましい。
【0064】
なお、本開示の燃料電池は、上記実施の形態に記載した内容に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
(実施例及び比較例)
【0065】
以下、本開示の燃料電池に関して、本発明者が実験を行ったときの実施例及び比較例の具体的な構成及び製造方法について説明する。
【0066】
A:基材無しのガス拡散層
(材料)
[導電性粒子]
・粒状デンカブラック(登録商標)(デンカ株式会社製)
[導電性繊維]
・VGCF(登録商標)(昭和電工株式会社製、VGCF-H)
[高分子樹脂]
・ポリフロンPTFE Dシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、平均粒径0.25μm
【0067】
(基材無しのガス拡散層の製造方法)
導電性粒子20wt%、導電性繊維50wt%、高分子樹脂30wt%の割合で、基材無しのガス拡散層を製造した。
まず、導電性粒子と導電性繊維と界面活性剤、及び分散溶媒を配合し、プラネタリーミキサーを用いて混錬した。次に、混錬した混合物に、高分子樹脂を加え、プラネタリーミキサーを用いてさらに混錬した。次いで、圧延ロール機を用いて、0.1ton/cmの圧延条件で混錬物を5回圧延した。その後、IR炉内に圧延したシートを配置し、300℃で0.5時間焼成を行った。焼成したシートを、ロールプレス機を用いて1ton/cmの圧延条件で3回再圧延し、後述した表1に記載した厚みのガス拡散層を得た。
【0068】
B:基材有りのガス拡散層
(材料)
[基材]
・トレカ(登録商標)カーボンペーパー(東レ株式会社製 TGP-H-030)
[導電性粒子]
・粒状デンカブラック(登録商標)(デンカ株式会社製)
[高分子樹脂]
・ポリフロンPTFE Dシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、平均粒径0.25μm
【0069】
(基材有りのガス拡散層の製造方法)
MPL層として、導電性粒子80wt%、高分子樹脂20wt%に、界面活性剤、及び分散溶媒を配合し、プラネタリーミキサーを用いてインクを作製した。基材にスプレー塗工機でインクを塗工し、165μmの厚みのガス拡散層を得た。
【0070】
C:セパレータ
(材料)
[カーボン板材]
・カーボンプレート(東海カーボン株式会社製)G347B
(セパレータの製造)
カーボン板材を切削加工により、表に記載したリブ幅、溝幅のガス流路を形成したセパレータを得た。
【0071】
D:燃料電池
後述する表1に示した実施例1~3、及び表2に示した比較例1~2の燃料電池を以下の方法で製造した。
【0072】
(1)カソード触媒層用の分散液の調製
カソード触媒層用の分散液は以下のように調製した。触媒粒子(Pt-Co合金)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)100質量部を添加し、撹拌することにより、カソード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0073】
(2)アノード触媒層用の分散液の調製
アノード触媒層用の分散液は以下のように調製した。触媒粒子(Pt)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)120質量部を添加し、撹拌することにより、アノード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0074】
(CCMの作製)
CCM(Catalyst Coated Membrane: 膜・触媒層接合体)の作製においては、2枚のPETシートを準備し、スクリーン印刷法を用いて、一方のPETシートの平滑な表面に、得られたカソード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布し、他方のPETシートの平滑な表面に、得られたアノード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、高分子電解質膜の両面に2つの触媒層を形成した。カソード触媒層の膜厚は6μmであり、アノード触媒層の膜厚は4.5μmであった。
【0075】
(単電池の作製)
単電池の作製においては、アノード側ガス拡散層としては、すべて上記基材有りのガス拡散層を使用した。
【0076】
実施例1~7及び比較例1~5のガス拡散層を、カソード側ガス拡散層としてカソード触媒層と接合させた。また、アノード側ガス拡散層をアノード触媒層と接合させた。これにより、MEAを得た。
【0077】
次に、アノード側セパレータとしては、リブ幅0.5mm、溝幅0.5mmのセパレータを用い、カソード側セパレータとしては、リブ幅0.5mm、溝幅0.5mmのセパレータを用いて、燃料電池を製造した。まず、製造したMEAを、燃料ガス供給用の流体流路及び冷却水流路を有するアノード側セパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するカソード側セパレータとで挟持し、カソード及びアノードの周囲にフッ素ゴム製のガスケットを配置することで単電池を製造した。有効電極(アノード又はカソード)面積は36cmである。この単電池を、テストピースとして用いた。
【0078】
(実施例1~3及び比較例1~2の評価試験)
実施例1~3及び比較例1~2について、下記の評価試験を行った。表1は実施例1~3及び比較例1~2の評価試験の結果を示す。評価試験におけるセル電圧、拡散過電圧、及び抵抗過電圧は以下のように測定した。なお、表1においてはガス拡散層をGDLと表記する。
【0079】
[セル電圧]
セル電圧の測定は、以下の条件で行った。単電池のセル温度を75℃に制御し、アノード側のガス流路に燃料ガスとして水素ガスを供給し、カソード側のガス流路に空気を供給した。水素ガスのストイキオメトリは1.5、空気のストイキオメトリは1.8とした。燃料ガス及び空気は、いずれも露点が75℃となるように加湿してから単電池に供給した。電流密度0A/cmから2.0A/cmまで、0.5A/cmごとに、3分間保持して、2.0A/cmのときのセル電圧を測定し、比較例1のセル電圧に対して規格化した数値を記録した。
【0080】
[拡散過電圧]
拡散過電圧は、上記のセル電圧の測定と同条件において2.0A/cmのときの拡散過電圧を測定し比較例1の拡散過電圧に対して規格化した数値を記録した。
【0081】
[抵抗過電圧]
抵抗過電圧は、上記のセル電圧の測定と同条件において2.0A/cmのときの抵抗過電圧を測定し、比較例1の抵抗過電圧に対して規格化した数値を記録した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すとおり、実施例1~3の燃料電池は、ガス拡散層の厚みhとセパレータのリブ幅Rwが、0.29Rw≦h≦0.55Rwであり、且つ、ガス拡散層の導電性繊維の平均繊維長Flが、Fl<Rw/2を満たしている。そのため、同じリブ幅Rwのセパレータを用いた場合、実施例1~3の構成においては表1に示した比較例1~2と比較すると、セル電圧が高く、拡散過電圧が低くなっていることが確認できた。図7は、セル電圧とガス拡散層の厚みh/リブ幅RWとに関して、実施例1~3及び比較例1~2の評価試験の結果をプロットしたものである。
【0084】
以上のように、本開示の燃料電池は、ガス拡散層において十分なガス透過性を有しており、特に、膜・電極接合体(MEA)における高電流密度域での発電性能が向上したものとなっている。
【0085】
(実施例4~7及び比較例3~5の評価試験)
実施例4~7の評価試験においては、前述の実施例1~3と同様に、単電池を作製し、電池評価を行った。実施例1~3との相違点は、カソード側セパレータとして、リブ幅0.3mm、溝幅0.3mmのセパレータを使用した点のみである。表2は実施例4~7及び比較例3~5の評価試験の結果を示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示すとおり、実施例4~7の燃料電池は、ガス拡散層の厚みhとセパレータのリブ幅Rwが、0.29Rw≦h≦0.55Rwであり、且つ、ガス拡散層の導電性繊維の平均繊維長Flが、Fl<Rw/2を満たしている。そのため、同じリブ幅Rwのセパレータを用いた場合、実施例4~7の構成においては表2に示した比較例3~5と比較すると、セル電圧が高く、拡散過電圧が低くなっていることが確認できた。図8は、セル電圧とガス拡散層の厚みh/リブ幅RWとに関して、実施例4~7及び比較例3~5の評価試験の結果をプロットしたものである。
【0088】
以上のように、本開示の燃料電池は、ガス拡散層において十分なガス透過性を有しており、特に、膜・電極接合体(MEA)における高電流密度域での発電性能が向上したものとなっている。
【0089】
発明をある程度の詳細さをもって好適な実施の形態について説明したが、この好適な実施の形態の現開示内容は構成の細部において変化してしかるべきものであり、各要素の組合せや順序の変化は請求された発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示の燃料電池は、家庭用コージェネレーションシステム、自動車用燃料電池、モバイル用燃料電池、及びバックアップ用燃料電池などの用途に適用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
2a アノード触媒層
2b カソード触媒層
3 ガス拡散層
3a アノード側ガス拡散層
3b カソード側ガス拡散層
4 セパレータ
4a アノード側セパレータ
4b カソード側セパレータ
5 溝
6 リブ
10 電池セル
11 集電板
12 絶縁板
13 端板
20 膜・電極接合体
31 導電性粒子
32 導電性繊維
33 高分子樹脂
100 燃料電池
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8