(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】脳状態推定装置、コンピュータプログラム、脳状態推定方法、脳機能の検査システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G16H 10/40 20180101AFI20241122BHJP
A61B 5/246 20210101ALI20241122BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20241122BHJP
A61B 5/389 20210101ALI20241122BHJP
A61B 5/398 20210101ALI20241122BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G16H10/40
A61B5/246
A61B5/33 200
A61B5/389
A61B5/398
A61B10/00 H
(21)【出願番号】P 2021552465
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039091
(87)【国際公開番号】W WO2021075548
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019191003
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517168211
【氏名又は名称】株式会社Splink
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 進
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晃裕
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0268942(US,A1)
【文献】特表2015-533559(JP,A)
【文献】特開2008-229238(JP,A)
【文献】特表2009-542351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/246
A61B 5/33
A61B 5/389
A61B 5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得する取得部と、
取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成する生成部と、
生成した情報に基づいてエントロピーを算出する算出部と、
算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する推定部と
を備える脳状態推定装置。
【請求項2】
前記取得部は、
脳活動データを含む脳データ、あるいは、脳活動データ、筋電位データ、心電図データ、眼電位データ、及び基準ノイズデータを含む脳データを取得し、
前記生成部は、
周波数変換又は非線形時系列解析による変換を用いて、律動の周波数帯域情報又はフラクタル情報を含む脳に関連する情報を生成し、
前記算出部は
生成した律動の周波数帯域情報を含む情報に基づいて脳内の同期位相差量を特徴付けるエントロピー、又は生成したフラクタル情報を含む情報に基づいて時系列信号の乱雑性や位相構造の破れ具合を特徴付けるエントロピーを算出し、
前記推定部は、
算出したエントロピーの確率分布を平衡確率分布と仮定した場合のエントロピーの確率集合の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する、
請求項1に記載の脳状態推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、
脳内の複数の位置に対応する複数のチャネル毎の時系列の脳活動データを取得し、
前記生成部は、
前記複数のチャネルそれぞれの脳活動データ及び前記複数のチャネルのうちの2つのチャネル間の脳活動データに基づいて脳活動に関連する律動の周波数帯域情報を生成する、
請求項2に記載の脳状態推定装置。
【請求項4】
前記算出部は、
チャネル毎に、あるスペクトル密度が観測される測度に基づいてエントロピーを算出する、
請求項3に記載の脳状態推定装置。
【請求項5】
前記算出部は、
2つのチャネルで、あるスペクトル密度が同時に観測される測度に基づいてエントロピーを算出する、
請求項3又は請求項4に記載の脳状態推定装置。
【請求項6】
前記推定部は、
前記乖離度を健常者群に対する脳疾患群のマハラビノス距離で表現して脳状態を推定する、
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の脳状態推定装置。
【請求項7】
前記取得部で取得した脳活動データから前記脳活動データの平均値を減算するバイアス補正、所定の周波数帯域のバンドパスフィルタ、所定の周波数のノッチフィルタ、所定期間毎の加算平均の少なくとも1つを用いて、前記脳活動データのノイズを除去する第1ノイズ除去部を備える、
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の脳状態推定装置。
【請求項8】
前記取得部で取得した脳活動データに対して、独立成分分析及び信号空間投影法を用いて、前記脳活動データのノイズを除去する第2ノイズ除去部を備える、
請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の脳状態推定装置。
【請求項9】
脳内の複数の位置に対応する複数のチャネルのうちの2つのチャネル間のクロススペクトル分布を表示する表示処理部を備える、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の脳状態推定装置。
【請求項10】
前記表示処理部は、
脳体積モデルに前記クロススペクトル分布を重畳して表示する、
請求項9に記載の脳状態推定装置。
【請求項11】
前記表示処理部は、
健常者と脳疾患を有する患者それぞれの前記クロススペクトル分布を表示する、
請求項9又は請求項10に記載の脳状態推定装置。
【請求項12】
前記表示処理部は、
健常者群に対する脳疾患群の脳状態の乖離度合いを表示する、
請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の脳状態推定装置。
【請求項13】
コンピュータに、
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得し、
取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成し、
生成した情報に基づいてエントロピーを算出し、
算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する、
処理を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項14】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得し、
取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成し、
生成した情報に基づいてエントロピーを算出し、
算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する、
脳状態推定方法。
【請求項15】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習したモデルを用いて分類する機能を含む、システム。
【請求項16】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、前記脳活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定する機能を含む、システム。
【請求項17】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定する機能を含む、システム。
【請求項18】
請求項15ないし17のいずれかにおいて、
前記モデルは時系列ニューラルネットワークを含む、システム。
【請求項19】
請求項15ないし18のいずれかにおいて、
前記脳活動データは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の少なくともいずれかを含む刺激に対する脳活動データを含む、システム。
【請求項20】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習した時系列モデルを用いて分類することを含む、方法。
【請求項21】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、前記脳活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定することを含む、方法。
【請求項22】
時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定することを含む、方法。
【請求項23】
コンピュータを請求項15ないし19のいずれかのシステムとして稼働するための命令を有するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳状態推定装置、コンピュータプログラム、脳状態推定方法、脳機能の検査システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刺激などに対する脳の状態を、外部で得られる信号を介して捉えて、認知症の可能性などを含めた被験者(受験者、患者)の脳機能を検査することが試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
脳機能検査には一般に、被験者に刺激を提示し、それに対する脳の反応を測定する方法が用いられる。検査項目に応じ適切な刺激、測定、解析を、適切なパラメータを選択して実行し、さらに、得られたデータに対して適切な解を求めることが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習した時系列モデルを用いて分類する機能を含むシステムである。時系列モデルの一例は、リカレントニューラルネットワーク(RNN)を含む、時系列ニューラルネットワークである。他の態様の1つは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定する機能を含むシステムである。他の態様の1つは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定する機能を含むシステムである。これらのモデルは時系列ニューラルネットワークを含んでもよい。脳活動データは、安静時のデータであってもよく、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の少なくともいずれかを含む刺激に対する脳活動データを含んでいてもよい。本発明は、コンピュータを上記のシステムとして稼働するための命令を有するプログラムを含む。
【0005】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習した時系列モデルを用いて分類することを含む方法である。この方法は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、前記活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定することを含んでもよく、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定することを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】MEGの計測方法と賦活領域の位置推定の技術を示す図。
【
図3】EEG/MEGの周波数帯の特徴を参考に示す図。
【
図4】本実施の形態の脳状態推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】MEGセンサマップ中心位置に対して頭部の回転に伴う脳表面活動分布の局所性を示す模式図である。
【
図8】MEGセンサと電流双極子との間で構成される磁場分布の算出方法を示す模式図である。
【
図9】本実施の形態により算出した磁場分布(Source Space Data)の結果の一例を示す模式図である。
【
図10】周期性のずれが異なる二標本の時間領域での平均結果の一例を示す模式図である。
【
図11】時間領域Tを用いて計算された自己共分散関数のPSDの一例を示す模式図である。
【
図12】認知症患者と健常者でのPSDの違いの一例を示す模式図である。
【
図13】クロススペクトルを用いた認知症患者と健常者の頭部内磁場位相同期分布の一例を示す模式図である。
【
図14】年齢別の被験者のエントロピー分布の一例を示す模式図である。
【
図15】マハラビノス距離と異常確率の関係の一例を示す模式図である。
【
図16】各チャネルからサンプリングされたエントロピーの統計的性質(不偏性)を示す模式図である。
【
図17】各チャネルからサンプリングされたエントロピーを用いた異常値検定の結果の一例を示す模式図である。
【
図18】脳状態の表示画面の第1例を示す模式図である。
【
図19】脳状態の表示画面の第2例を示す模式図である。
【
図20】脳状態推定装置による脳状態推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一例として、脳磁図を用いたニューラルネットワークによる脳活動の分類を説明する。脳磁図(Magnetoencephalography、MEG)は、脳磁場計測装置(脳磁計と略称される)を用いて記録される脳内の磁場活動である。幅広く普及している脳電位(Electroencephalography、EEG)と対比して、本質的には同一現象を異なった方法で検索するものである。大脳皮質錐体細胞の尖端樹状突起のある部分が興奮して脱分極が生じると細胞外及び細胞内に電流が流れる。この細胞外電流を記録したものがEEGであるのに対して、細胞内電流を取り巻くように生じる磁場を記録したものがMEGである。MEGはEEGと同様に脳から出る反応を記録するわけであり、脳に直接刺激あるいは負荷をかける必要が無いため、極めて安全な検査法であると言える。
【0008】
EEGと比べた場合のMEGの最も大きな長所は高い空間分解能である。脳と頭皮の間には脳脊髄液、頭蓋骨、皮膚という導電率が大きく異なる3つの層がある。従って、脳で発生した電場はそれらによって大きな影響を受けるため、頭皮上に置いた脳波電極から脳の活動部位を正確に推測することは、特殊な推定法(例えば双極子追跡法)を用いない限り困難である。しかしながら、MEGの場合、磁場は導電率の影響を受けないため、記録条件が良好ならばmm単位の精度で活動部位を推測することができる。
【0009】
MEG、EEGと同様に脳の賦活状態とその領域を計測する手法にfunctional MRI(fMRI、機能画像)があるが、fMRIと比べた場合に、MEGの長所としては、局所脳血流の変化ではなく細胞の電気的活動そのものを直接的に記録すること、及びEEGと同様にミリ秒単位の高い時間分解能を有することが上げられる。
【0010】
本技術開発は、脳の活動状態が時間を含む空間で変動するデータとして得られる場合に、時系列モデルを用いて分類、推定および解析を行うことを提案する。MEGは、脳の活動データを得る方法として現在最適であるが、EEGにより得られたデータであってもよい。例えば、MEGの解析にニューラルネットワークを用い、脳の賦活情報を元に各種脳疾患の状態や健常人の脳活動の状態を高精度に鑑別するものであり、また信号源推定のような解析前処理へもニューラルネットワークを用いた方法を作成するものである。
【0011】
図1に示すように、ソースレベル(Source Level)データを時系列NN(ニューラルネットワーク)で分類するプロセス100を設けてもよい。時系列NNには、リカレントニューラルネットワーク等が含まれる。また、解のモデルを複数大量に用意しておき、入出力を再現するネットワークを学習する新規のプロセス200を含む信号源推定方法を提供してもよい。また、信号源推定データを、NNを用いて鑑別するプロセス300を設けてもよい。鑑別する対象は、脳機能を含み、脳の異常に関する症状の有無を鑑別してもよい。例えば、認知症においては、NC/MCI/ADの分類等を行ってもよい。脳活動データは、安静時のデータであってもよく、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の少なくともいずれかを含む刺激に対する脳活動データであってもよい。
【0012】
図2に、健常者の安静時データを、ResNetモデルを用いて、自発閉眼と、自発開眼とにクラス分けした実験例を示している。このように、開眼閉眼に関する脳活動データを学習したモデルを用いることにより、脳活動データから眼の開閉に関するデータを抽出して解析できる。
【0013】
図3に、参考として、目の開閉に関するEEGの周波数帯毎の電波強度を示し、また、健常者と認知症患者の周波数帯毎の電波強度に相違があることを示す。したがって、時間に依存して変動する脳活動データを取得し、適切な周波数帯に対する知識と、発生源に対する知識とを学習した人工知能を用いることにより、脳の機能の健全性または脳の機能の経時変化を、患者毎に的確に判断する方法およびシステムを提供できる。本発明における、時間を含む空間は、時間領域の関数をフーリエ変換などにより周波数空間に変換した空間も含む概念であり、静的なイメージあるいは信号ではなく、動的なイメージあるいは信号により得られる脳活動データを取り扱うシステムおよび方法に関するものである。
【0014】
脳内の磁場変化や電位変化を計算することで、電気生理学的活動領域で構成されたネットワーク(「機能的接続性」ともいう)を計算することができる。機能的接続性とは、神経細胞集団が構成する脳内のネットワークによって生じる加算された電気現象(EPSP:興奮性シナプス後電位、IPSP:抑制性シナプス後電位)の変化で表現される。解剖学的な神経投射経路の領域ごとに、入出力する磁場ベクトル強度または電位インピーダンスベクトルを計算した結果が機能的接続性になる。機能的接続性は、神経細胞集団に投射された電気的活動の経時的な情報を元に、統計的な関係性を表現する脳の接続性の分類の一種である。機能的接続性は、脳機能という観点から脳全体を捉えることで、脳内の異なる領域間の関係性をネットワークとして表す。機能的接続性を計算するには、まず生体磁気計測装置(MEG計測装置)のMEGセンサ(磁束検出コイル)から計測された磁場を用いて、脳表面の活動分布を推定するソースレベル解析(特に最小ノルム推定法(MNE))が使用されている。MEG解析において被験者が安静した状態で観測される脳磁場分布から計算された機能的接続性を、デフォルトモードネットワーク(DMC)という。MNEを用いたDMCは、異なる脳領域で同期的に分散した神経活動分布を意味する。以下、脳状態の推定方法(健常者との差異を自動分類する方法)について説明する。
【0015】
図4は本実施の形態の脳状態推定装置50の構成の一例を示すブロック図である。脳状態推定装置50は、装置全体を制御する制御部51、データ取得部52、記憶部53、前処理部54、SSP処理部55、信号源位置推定部56、信号分布算出部57、スペクトル解析部58、エントロピー算出部59、脳状態推定部60、表示パネル61、操作部62、及び表示処理部63を備える。
【0016】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などで構成することができる。記憶部53は、半導体メモリ又はハードディスク等で構成することができる。以下では、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データとして、生体磁気計測装置のMEGセンサ(検出コイル)によって計測される磁場データ(以下、「MEGデータ」とも称する)を例として説明する。脳データは、脳活動データ、眼電位データ(EOG)、心電図データ(ECG)、筋電位データ(EMG)、基準ノイズデータ(reference noise)等を意味し、脳データは、脳活動データを含む場合、あるいは、脳活動データに加えて、EOG、ECG、EMG、及びreference noiseのうちの少なくとも1つのデータを含む場合がある。例えば、脳状態を解析する場合には、脳活動データに加えて、EOG、ECG、EMG、及びreference noiseのうちの少なくとも1つのデータを用いることができる。また、脳状態の差を用いて解析する場合には、脳活動データが必須となる。脳活動データは、磁場データに限定されるものではなく、EEGにより得られたデータでもよい。
【0017】
データ取得部52は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得することができる。より具体的には、データ取得部52は、脳活動データとしてのMEGデータを取得することができる。生体磁気計測装置は、頭皮上に配置される多数(例えば、160か所など)のMEGセンサを備え、各MEGセンサが各チャネルに対応しており、データ取得部52は、複数のチャネルごとにMEGデータを取得することができる。MEGデータは、例えば、被験者が安静した状態の臥位閉眼時のデータとすることができる。また、データ取得部52は、MEGデータ以外のデータとして、眼電位(EOG)、心電図(ECG)、筋電位(EMG)、基準ノイズデータなどのデータの全部又は一部を取得することができる。また、データ取得部52は、MEGデータに加えて、あるいはMEGデータに代えて、脳波(EEG)を取得することができる。
【0018】
前処理部54は、不良チャネルのデータ除去、ベースライン補正、ハンドパスフィルタ処理、ノッチフィルタ処理、加算平均処理、独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)などを行う。計測された磁場データには、磁場由来のデータだけでなく、環境ノイズや頭部運動、生体ノイズ由来の信号が含まれている。前処理部54は、磁場データ以外の信号を除去する機能を備える。
【0019】
不良チャネルのデータ除去は、計測できていないチャネルのMEGデータを解析対象データから除去する。MEGデータの取得に失敗したチャネルの判定は、MEGデータ群に対する固有値分解によって求め、所定の閾値を示すチャネルのデータを除去する。除去したチャネルデータは、除去対象でないチャネルのデータで補間(内挿補間)することができる。
【0020】
ベースライン補正(「バイアス補正」とも称する)は、MEGデータの各チャネルに記録された時系列データの平均値を用いて、各チャネルに記録された時系列データから当該平均値を減算する。MEGデータは気温や気圧、個人差によって信号データの絶対値が変動するため、相対的なデータに変換するためである。
【0021】
ハンドパスフィルタ処理は、所要の周波数帯域をバンド幅とするバンドパスフィルタを用いて、MEGデータから不要な周波数帯域の信号を除去する。所要の周波数帯域は、例えば、0~70Hzとすることができる。この周波数帯域には、α波(8~13Hz)、β波(14~30Hz)、θ波(4~7Hz)、δ波(0.5~3Hz)、γ波(26~70Hz)などの神経細胞集団から構成された脳の電気生理学的な電気信号が含まれる。
【0022】
ノッチフィルタ処理は、ノッチフィルタを用いて、生体磁気計測装置を稼動する際に使用する他の装置等の電源から混入する電源由来周期ノイズ(50Hz又は60Hz)を除去する。
【0023】
加算平均処理は、MEGデータに含まれるノイズ成分を除去するため、記録された時系列データを、例えば、5秒間の区間に分割し(trial)、分割した各データの加算平均を行うことでノイズ成分を減衰させる(エポックデータ)。
【0024】
図5はエポックデータの構成を示す模式図である。
図5に示すように、複数のチャネルそれぞれのMEGデータを複数の区間に分割する(trial1、trial2、…、trialn)。各区間の時間は、例えば、5秒間とすることができるが、これに限定されるものではない。また、区間の数nは適宜決定することができる。
【0025】
図6は加算平均処理の一例を示す模式図である。加算平均処理は、1つのtrial毎に1~nの各trialの信号を加算する。各trialに共通して観測される信号は加算されることにより強調される。一方、各trialでランダムに観測される波形(例えば、ノイズの波形)は、加算されることによって相殺され、ノイズの波形は低減する。
【0026】
独立成分分析は、単一の信号を、それが生じている独立な信号源ごとに分離する手法である。分離された信号に、MEGデータ、環境ノイズ、EMGデータが含まれる。独立成分分析は、室内環境に由来する環境ノイズを計測しているリファレンスチャネルと、眼球運動や筋肉の活動を計測しているEMGチャネルの二つの情報を用いて、頭部に位置している各MEGセンサで計測したデータに混入されているノイズ成分(例えば、EMG、リファレンスに同期しているノイズ)を除去する。具体的には、単一の被験者に対して計測された磁場データから、ランダム信号や頭部の運動に伴うアーティファクト、生体ノイズ由来の信号を除去し、複数の信号成分を求める。相関係数又は閾値に基づいて、アーティファクトとして定義するEMG-EMG、EMG-MEGの組み合わせのICA要素を各チャネルから除去する。
【0027】
SSP処理部55は、SSP(信号空間投影法: Signal Space Projection)手法を用いてMEGデータから、信号源のノイズ影響を低減する。以下、SSPの方法について説明する。
【0028】
各MEGセンサで計測された信号y(t)は、元信号ys(t)とノイズεの影響を含んでいるものと仮定すると、式(1)で表すことができる。
【0029】
【0030】
この時、時刻tにおける元信号ys(t)は、様々な信号源の(回転、位置が不定の信号源)とその信号源に対して生成されるリードフィールドlによって構成される。ある信号源Sqは、MEGのチャネルに対して一意の分布を示し、式(2)で表される。ここで、qはチャネルインデックス、Qはチャネル数、lqはチャネルqの信号状態を示す。信号源Sqは未知である。元信号ys(t)とノイズεの影響にすべてに影響を及ぼすノイズPは、式(3)で表すことができる。ノイズの影響Pを最小化した場合、式(1)から式(4)を定義できる。
【0031】
ノイズの影響Pの最小化には、式(5)で示す、Uqの正規直交基底を考え、式(6)のように信号源Sq=Cq、リードフィールドlq=Uqと置き換えることで実現できる。データサンプル数が有限の場合、Uqの正規直交基底からなる基底ベクトルuは、データ共分散行列のQ個の要素からなる最大固有値に対応した固有ベクトルの最尤推定解となる。式(6)を求めるために、データの共分散行列から特異値分解を用いることで、元信号ys(t)を求めることができる。この元信号ys(t)をセンサ空間データ(Sensor Space Data)とする。
【0032】
磁場データに、理論電圧値から構成した磁場分布に独立な乱数データと独立な環境で計測されたEMG+ECGデータを混入し、上述のICA処理及びSSP処理を行った。計測値と理論値の一致度合いを評価する指標としてGOF(Goodness of Fit)の計算結果は97%と高かった。GOFは、GOF={1-Σ(計測値-理論値)2 /Σ(計測値2 )}×100[%]で求めることができる。ここで、Σは、各センサについて総和していることを意味する。GOFは、100%のとき両者は完全に一致しており、100%より小さな値になるほど一致度が小さくなることを意味する。なお、ICA処理のみの場合、GOFは60%と低かった。
【0033】
上述のように、本実施形態では、各チャネルの時系列データの無相関な信号や、チャネル間の無相関な信号を除去した上で、MEGデータを再構成することができる。出願人は、健常者であれば、脳内の機能的接続性が関連性を有し、同期性を有するのに対し、認知症などの脳疾患を有する患者では、機能的接続性の同期性が徐々に失われていくという点に着目した。本実施の形態によれば、チャネル間の無相関な信号を除去することにより、チャネル間の信号の相関成分を強調し、再構成されたMEGデータを用いることにより、健常者と脳疾患患者とを分離(スクリーニング)することが可能になる。脳疾患の具体例としては、例えば、認知症(AD、DLB、前頭側頭葉変性症(FTLD)、正常圧水頭症(NPH)等を含む)、脳腫瘍、精神障害(精神疾患ともいう、統合失調症、てんかん、気分障害、依存障害、高次機能障害等を含む)、パーキンソン病、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、睡眠障害、小児疾患、虚血性脳障害、気分障害(うつ病等を含む)等を含む。
【0034】
信号源位置推定部56は、SSP処理部55で得られたセンサ空間データを用いて、脳内の信号源の位置を推定する。ここで、信号源は、多数のニューロンの同期活動を表す電流双極子である。磁場は距離の関数に依存する。MEGセンサの計測データはMEGセンサと頭部間の距離の影響を強く受けている。
【0035】
図7はMEGセンサマップ中心位置に対して頭部の回転に伴う脳表面活動分布の局所性を示す模式図である。図中、輪郭部分は、頭部中心位置及び範囲に従って回転拡縮された頭部範囲を示す。輪郭内のメッシュは、頭部中心位置及び範囲に従って回転拡縮されたMNIテンプレートを示す。輪郭内の左右の部分は、頭部とMEGセンサ位置の中で最も短い距離のエリアを示す。輪郭の周囲の点は、各MEGセンサの位置を表す。
【0036】
MEGセンサと頭部間の距離の影響を低減するには、頭部位置を考慮したセンサ位置を定義する必要がある。MEGデータに記録された鼻中央、右耳、左耳の空間位置から、頭部の中心位置を設定し、設定した中心位置に対応して各MEGセンサの位置が設定されるように、アフィン変換を用いて頭部モデル(MNIテンプレート)を回転拡縮させる。この頭部モデルの形状とセンサ距離をもとに、SSP処理部55で得られたセンサ空間データを使用して、媒質内を通過する磁場モデル式であるビオサバール式を使用して、脳内信号源位置を推定する(順問題によるダイポール推定)。
【0037】
信号源位置推定部56は、推定した脳内信号源位置における電流成分から再びビオサバール式を用いて、頭部の外に位置するセンサまでの距離によって特異的に減衰、増強される磁場データに構成し、再構築されたセンサ空間データとする。
【0038】
信号分布算出部57は、信号源位置推定部56で再構築されたセンサ空間データを用いて、磁場分布(Source Space Data)を算出する。本実施の形態では、アダプティブビームフォーマー(SAM)を用いて、磁場分布(Source Space Data)を算出する。
【0039】
図8はMEGセンサと電流双極子との間で構成される磁場分布の算出方法を示す模式図である。MEGの磁場データは、電流成分を持つ双極子Joの脳内での位置と回転が与えられたとき(r、r-r′)、外部で計測しているMEGセンサに到達するまでの磁場の分布A(r)を図中の式であるビオサバール方程式を用いて算出することができる。SAMは、各MEGセンサで記録した磁場データから、ビオサバール方程式を用いて電流双極子Joの存在を推定した上で、数理計画法を用いて外部センサ(Sensor Space Data)、もしくは頭部表面の境界面(図中の円状領域)において計測される磁場分布(Source Space Data)を計算したものである。この手法を用いることで、計測された磁場データ内に含まれる磁場分布以外のシグナルを低減し、空間SNRを向上することができる。
【0040】
図9は本実施の形態により算出した磁場分布(Source Space Data)の結果の一例を示す模式図である。図に示すように、アダプティブビームフォーマー(SAM)を用いて求められた磁場分布(Source Space Data)により、空間SNRが改善され、隣接した神経活動源を正確に評価することができる。
【0041】
次に、スペクトル解析について説明する。
【0042】
スペクトル解析部58は、データ取得部52を介して取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成することができる。例えば、スペクトル解析部58は、周波数変換を用いて、律動の周波数帯域情報を含む脳に関連する情報を生成することができる。律動の周波数帯域情報は、脳機能情報が一定の周期構造を持っていることに注目した情報である。また、スペクトル解析部58は、非線形時系列解析による変換を用いて、フラクタル情報を含む脳に関連する情報を生成することができる。フラクタル情報は、脳機能情報に含まれる乱雑性に注目した情報であり、脳機能情報の類似構造の破れ具合を意味する。具体的には、スペクトル解析部58は、信号源位置推定部56、又は信号分布算出部57で得られた磁場データ(各MEGチャネルの時系列データ)を取得して、単一チャネルのスペクトル解析、及び2つのチャネル間のスペクトル解析を行うことができる。スペクトル解析の切り替えは、計算条件を含んだ設定ファイルを指定することで行うことができる。以下では、まず、単一チャネルのスペクトル解析について説明する。
【0043】
ウィンナー・フィンチンの定理(自己共分散関数のフーリエ変換はスペクトルであり、スペクトルの逆フーリエ変換は自己共分散関数である)より、式(7)で表す、自己共分散関数ρ(τ)のフーリエ変換を用いて、式(8)のように、スペクトルを解析する(相関法)。ここで、y(t)(t=0、1、…、N)は、信号列を示し、x(t)は、τインデックス分、離散的にサンプリングした信号列を示し、kはサンプリングインデックス数(k=0、1、…、N-1)を示す。
【0044】
【0045】
一般的に、スペクトルの推定は、有限のデータに対して行うために、データの端の影響が、推定されたスペクトルピークが存在する周波数から、他の周波数にスペクトルの漏れ(spectral leakage)として現れる問題がある。観測されたスペクトルに含まれるスペクトルの漏れにより、スペクトルは真の物理現象を完全に表現するものではないことが知られている。このため、窓関数の種類や、平滑化処理によってスペクトル推定の誤差を低減することができるが、推定されたスペクトルの誤差は大きいのが実情である。
【0046】
式(8)で示すような相関法を用いることで、任意に設定した時間領域で、ある時刻tからτだけ離れた各時点(t+τ)での関連性を定量的に評価することができる。すなわち、自己相関関数(Auto Correlation)からスペクトルを求めるBlackman-Tukey法は、スペクトルの誤差論に基づいて有限の時間領域での変動を求めるように設計されている。有限の時間領域におけるランダムシーケンスからなる集合要素は、各要素において個別の発生確率を有している。確率過程の構成要素である各時間領域の確率変数が独立に分布している場合には、異時点間の自己相関は全て0になる。MEGの時系列データに対して加算平均処理を行う場合、任意の時間領域を設定するため周期位相がずれた信号を同時に加算平均することになり、自己相関が小さく、DTFT(Discrete-time Fourier transform:離散時間フーリエ変換)を持たないことがある。
【0047】
図10は周期性のずれが異なる二標本の時間領域での平均結果の一例を示す模式図である。
図10に示すように、複数の標本の属する確率過程を用いることによって統計量を推定できない場合は、標本として扱う時間領域を変更する必要がある。すべての統計量が任意の1つの標本過程x(t)から、一致性と不偏性を持って推定できる場合、すなわち、エルゴード性を満たす場合、統計量を示すことができる。従って、標本として扱う時間領域の変更によってエルゴード性を保証することを示さなければならない。
【0048】
本実施の形態では、平均μと自己共分散関数ρ(τ)(Autocovariance)についてのエルゴード性を保証する時間領域Tを自動決定する。時間領域での平均は、式(9)で表され、時系列データの平均エルゴード性は、式(10)で表され、定常過程を示す分散の0収束条件は、式(11)で表される。式(11)において、Cx (t1-t2)は周波数領域t1、t2での自己共分散関数を示す。
【0049】
【0050】
特に、平均値に収束する性質と、分散が0に収束する条件の二つを満たす時間領域Tを探索し、その時間領域Tでの自己共分散関数ρ(τ)=P(ω)を用いてパワースペクトル密度(PSD)を推定することができる。自動決定した時間領域Tを用いたPSD計算は次のように行う。ある時間領域Tを持つ時系列データの矩形サンプリングを式(12)とすると、この時のPSDは、式(13)で求めることができる。ここで、Eは式(12)で規格化したτインデックス領域での時系列データxτの、xτ(t)xτ(t+τ)の時間平均を示す。τはサンプリング幅を示す。
【0051】
【0052】
図11は時間領域Tを用いて計算された自己共分散関数のPSDの一例を示す模式図である。図中、横軸は周波数を示し、縦軸はPSD(パワースペクトル密度)を示す。実線は理論値を示し、破線は時間領域TにおけるBlackman-Tukey法を用いた値を示す。矩形窓、バートレット窓、ブラックマン窓など、窓関数の種別によらず、最適な時間領域Tを求めることができる。
【0053】
図12は認知症患者と健常者でのPSDの違いの一例を示す模式図である。図中、横軸は周波数を示し、縦軸はPSD(パワースペクトル密度)を示す。実線は健常者(NC)を示し、破線はアルツハイマー病患者(AD)を示す。図に示すように、α帯、θ帯に特徴的な差が見られ、認知症の臨床段階の違いをスペクトルで定義することができる。逆に言えば、スペクトル密度を用いて認知症の臨床段階を分類、スクリーニングすることが可能となる。なお、図示していないが、認知症(AD、DLB、前頭側頭葉変性症(FTLD)、正常圧水頭症(NPH)、軽度認知障害(MCI:Mild cognitive impairment)、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCIdue to AD)、前駆期アルツハイマー病(prodromal AD)、アルツハイマー病の発症前段階/プレクリニカルAD(preclinical AD)等を含む)、多発性硬化症脳腫瘍、精神障害(精神疾患ともいう、統合失調症、てんかん、気分障害、依存障害、高次機能障害、等を含む)、パーキンソン病、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、睡眠障害、小児疾患、虚血性脳障害、気分障害(うつ病等を含む)等ついても分類、鑑別、診断、スクリーニングなどを期待できる。
【0054】
次に、2つのチャネル間のスペクトル解析について説明する。
【0055】
2つのチャネル間のスペクトル(「クロススペクトル」ともいう)解析には、脳活動を表現する70Hz未満の周波数成分を持つ比較的短い時系列データに対して有効である、Multi-Taper Methodを使用したフーリエ変換を使用してクロススペクトルを解析する(直接法)。
【0056】
単一チャネルのスペクトル解析と同様に、クロススペクトルの推定は、有限のデータに対して行うために、データの端の影響が、推定されたスペクトルピークが存在する周波数から、他の周波数にスペクトルの漏れ(spectral leakage)として現れる問題がある。このスペクトルの漏れは、推定スペクトルのシグナル(平均)とノイズ(標準偏差)が同じ大きさを持ち、時間領域Tを変化させても推定スペクトルの誤差は改善されない場合がある。そこで、スペクトルの漏れを低減するために、テーパー(taper)関数を用いることができる。これをピリオドグラムの平滑化という。本実施の形態でのピリオドグラムの平滑化処理は、以下のとおりである。
【0057】
MEGの時系列データをy(t)とし、テーパー関数をh(t)とする。この時のフーリエ変換を行ったY′(k)との関係は、式(14)で表される。
【0058】
【0059】
フーリエ変換であるY′(k)の逆フーリエ変換は、式(15)であり、式(15)を式(14)に代入すると、式(16)が得られる。式(16)のH(k-l)は、テーパー関数h(t)のフーリエ変換式である、式(17)で表すことができる。テーパーを用いたフーリエ変換の期待値{S′}は、時系列データy(t)のフーリエ変換、及びテーパー関数h(t)のフーリエ変換との畳み込みで表される。フーリエ変換の期待値{S′}は、式(18)で求めることができる。ここで、fN は解析対象である全周波数帯域を示し、N=(0、1、…、N-1)[Hz]である。f′はサンプリング周波数を示す。テーパー関数h(t)を用いたスペクトルデータは、式(19)である。
【0060】
2つのチャネル間の組み合わせjによるクロススペクトル推定は、式(16)を拡張する式(20)で表すことができる。2つのチャネル間の組み合わせj=1、2の場合、クロススペクトル推定は、式(20)により、式(21)で表される。クロススペクトルを計算する2つのチャネル間のデータの位相が同期している場合、クロススペクトルは高い値を示す。
【0061】
テーパー関数を用いた修正ピリオドグラムの計算により、フーリエ窓関数(ハミング窓、矩形窓など)によらず、クロススペクトルの期待値は同じであり、クロススペクトル推定誤差の変動を極めて小さくすることができる。
【0062】
次に、認知症の特徴量としてのPSI(Phase Slope Index)について説明する。PSIは、ビームフォーマーを用いて脳磁場分布を定位させたメトリクス群の内、コヒーレンスを用いて計算したものであり、安定した統計量を示すことが報告されている。
【0063】
sk (t)、sj (t)を、k点とj点での時系列磁場信号とすると、k点とj点を結ぶある脳内のスペクトルを式(22)、式(23)で表すとする。
【0064】
【0065】
この時のクロススペクトルは、式(24)で表すことができる。位相情報が第j番目の位置から第k番目の位置に伝わる時間をτとすると、クロススペクトルの同期位相状態は、信号の周波数fと時間差τに比例する。この情報をもとにPhase Slope(Ψ)は、式(25)によって定義される。これは、クロススペクトルから計算できるが、コヒーレンスとしても記述できる。コヒーレンスは、クロススペクトルΦから、式(26)として記述できる。コヒーレンスは、複素数であるクロススペクトルの実部を表現したもので、2つの信号のフーリエ周波数成分の相互相関係数と見ることができ、式(26)で示す値は、0から1の間の値をとり、0に近い場合、両者の相関性は低く、1に近い場合、両者の相関性が高いことを意味する。PSIは、コヒーレンスを用いて、式(27)によって求められる。式(25)と式(27)は同じとなる。PSIは、位相情報が第j番目の位置から第k番目の位置に伝わるラグを持った同期情報を意味する。
【0066】
前述のように、PSIを計算する際に必要となるコヒーレンスは、信号源近くにおいて、偽の磁場分布を形成することが知られている。このため、コヒーレンスを用いたPSIの信頼性は低い。以下、本実施の形態では、コヒーレンスを使用せず、クロススペクトル、パワースペクトル計算を使用したエントロピーの算出について説明する。
【0067】
MEGデータを用いてスペクトル解析された結果、すなわち、スペクトルデータから脳活動に関連する各脳内領域間で協調した律動の周波数帯域(「同期成分、コヒーレンス」ともいう)、ある律動の周波数帯域でのパワー(「周波数成分」ともいう)の両方の情報を用いて、脳内の同期程度量(ある周波数帯域で見られるコヒーレンスが示す同期位相差量)と同期分布(コヒーレンスやクロススペクトルでの同期位相差量)を計算することで、脳疾患に関連した特徴量(脳疾患の臨床段階での差異、例えば、認知症患者と健常者の差異を決定付けるエントロピー)を算出することができる。
【0068】
エントロピー算出部59は、スペクトル解析部58が生成した情報に基づいてエントロピーを算出する。具体的には、2つのチャネル間に関連して、エントロピー算出部59は、脳活動に関連する律動の周波数帯域情報に基づいて脳内の同期位相差量を特徴付けるエントロピーを算出することができる。周波数帯域情報は、律動の周波数帯域、及びある律動の周波数帯域でのパワー(「周波数成分」ともいう)を含む。同期位相差量は、ある周波数帯域で見られるコヒーレンスが示す同期程度量、コヒーレンスやクロススペクトルでの同期成分をいう。コヒーレンスは、グリッド間で同期している成分量を表すものであり、同じ位相、同じ周波数の信号成分をいう。また、各チャネルに関連して、エントロピー算出部59は、脳活動に関連する律動の周波数帯域情報に基づいて脳内の同期量を特徴付けるエントロピーを算出することができる。また、各チャネルに関連して、脳活動に関連する時系列信号の構造に注目し、エントロピー算出部59は、非線形時系列解析を用いて、時系列信号の乱雑性や位相構造の破れ具合を特徴付けるエントロピーを算出することができる。非線形時系列解析を用いて算出される、時系列信号の乱雑性や位相構造の破れ具合を特徴付けるエントロピーとしては、例えば、(1)信号の乱雑性指標、指定した組み合わせの時系列データの差分が、ある数値範囲でみられる測度を意味するapprocimate entropy(ApEn)、(2)自己相関を持つ信号の乱雑性指標を意味し、ApEnの拡張系でデータサイズに依存しないSample Entropy、(3)コロモゴロフ過程(一様連続性)を仮定したときの時系列データの測度(乱雑性指標)を意味するLempel-Ziv complexity(LZC)、(4)自己回帰係数を用いた時系列データの測度を意味するmultisacale entropy(MSE)、(5)自己回帰係数を用いた時系列データの測度を意味するrefined MSE(RMSE)、(6)LZCの拡張系であり、二つの時系列データの測度を比較するLopez Ruiz Mancini Calbet complexity(LMC)などがある。
【0069】
以下では、単一チャネルに関するエントロピーを表すメトリクスTSE、MF、SE、SSE、及び2つのチャネル間に関するエントロピーを表すメトリクスQSEについて説明する。
【0070】
TSEは、式(28)で計算することができ、各チャネルの0.5Hzから70Hzの周波数帯域での、あるスペクトル密度(PSD)が観測される測度と、q指数関数のオーダーで定義された最尤関数との差分を示す。
【0071】
【0072】
QSEは、式(29)で計算することができ、2つのチャネルで、0.5Hzから70Hzの周波数帯域での、一方のチャネルでのあるクロススペクトル密度(PSD)が観測される測度と他方のチャネルでのq指数関数のオーダーで定義された最尤関数との差分を示す。
【0073】
MFは、式(30)で計算することができ、MEGのPSDの各周波数領域での累積和の中央値を示す。
【0074】
SEは、式(31)で計算することができ、各チャネルの、あるスペクトル密度が観測される測度を示す。
【0075】
SSEは、式(32)で計算することができ、各周波数帯域の累積和の50%となる周波数であるMFの全体集合の中で、あるスペクトル密度が観測される測度を示す。メトリクスTSE、QSE、MF、SE、SSEは、スペクトル密度PSDを用いて計算することができる。
【0076】
図13はクロススペクトルを用いた認知症患者と健常者の頭部内磁場位相同期分布の一例を示す模式図である。図では、認知症患者の例としてアルツハイマー病患者(AD)を挙げている。図から分かるように、健常者と認知症患者との間で、クロススペクトル分布に差異がある。別言すれば、クロススペクトル分布に基づいて、健常者と認知症患者の分類、スクリーニングを行うことができる。クロススペクトル分布の差異は、脳神経の活動分布の差異を意味する。認知症患者に比べて健常者の場合、脳内の各部においてクロススペクトルの値が高いことが分かる。クロススペクトルの値が高いということは、脳神経の活動が強く活性化していることを意味する。
【0077】
図14は年齢別の被験者のエントロピー分布の一例を示す模式図である。図中、横軸は年齢を示し、縦軸はメトリクスSEを示す。メトリクスSEは、パワースペクトルPSDを用いて計算することができる。健常者を示すエントロピー(黒点)と認知症患者を示すエントロピー(X印)とは、確率的な差異を示すことが分かる。
【0078】
次に、エントロピーを用いた検定について説明する。
【0079】
着目しているある物理量をQとし、測定によって得られたその物理量の期待値をQEとする。しかし、それ以外の情報を取得することが困難である系では妥当な解析ができない。そこで、物理量Qについての事前確率分布を拘束条件として、系の状態に関する不確定性を最大化することで、その系の持つ性質を推定する。これを最大エントロピー原理といい、この要請に基づいて統計系の平衡確率分布が決定される。しかし、一般的な脳活動はマルチフラクタル系のような不均衡状態であり、従来の平衡した状態を解析する手法は妥当ではない。そこで、Boltzmann-Shannonエントロピーを一般化したTsallis統計を用いてマルチフラクタル系のように確率分布関数がベキ則的振る舞いをする場合に対応した統計系の平衡確率分布を計算し、この平衡確率分布を用いた指標計算を行うことができる。
【0080】
正規分布のような確率分布の場合、平均と分散が分かれば、分布に属する値の確率分布が分かる。しかし、エントロピーは限られたデータしか存在しないので、エントロピーの確率分布は分からない。そこで、以下のように、平衡分布(qガウス分布)とマハラビノス距離を用いることによって、エントロピーの値から健常者群と疾患群とを分類することができる。
【0081】
MEGチャネルのエントロピー分布に対して、Hotellingの不偏性検定を用いた多変量2標本問題の統計解析を可能にする。具体的には、以下のような手順を用いることができる。すなわち、
(1)脳内のエントロピーTSEを表す式(33)を使用する。
【0082】
【0083】
(2)このTSEはエントロピーの集合要素から成り立っていることを表す式(34)を使用する(エスコート分布)。エントロピーの集合要素からなるエントロピー分布は未知である。
(3)未知のエントロピー分布に対して、特定の仮定を想定することにより、qオーダーを用いた確率分布に基づく統計解析が可能であることを表す式(35)を使用する。式(35)は、エントロピー集合の属する確率分布を決定づけるqの値を決定する。式(35)は、Tsallis統計におけるJacksonのq微分演算子を表す。
(4)qオーダーを用いた確率分布に対するマハラビノス距離を指標として異常確率を求めることにより、検定を可能とする。マハラビノス距離は、qガウス分布が0平均多変量分布を示し、不偏性を示す場合の情報量距離を意味する。qガウス分布は、分散一定の条件下でTsallisエントロピーを最大化して得られる確率分布である。
【0084】
上述のように、脳状態推定部60は、エントロピー算出部59が算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて被験者の脳状態を推定することができる。ある確率測度を持つと仮定した場合の確率分布は、例えば、平衡確率分布、正規分布、離散一様分布、同時分布、負の二項分布、幾何分布、二項分布、ポワソン分布、コーシー分布、ガンマ分布などを含む。確率分布を平衡確率分布とした場合、脳状態推定部60は、算出したエントロピーの確率分布を平衡確率分布と仮定した場合のエントロピーの確率集合の乖離度に基づいて被験者の脳状態を推定することができる。具体的には、一度qガウス分布に変換することで、マハラビノス距離という測度に対して属する確率分布を定義し、定義した確率分布間での乖離度を計算できる。これにより、脳状態推定部60は、乖離度を健常者群に対する脳疾患群のマハラビノス距離で表現して脳状態を推定することができる。なお、脳状態推定部60は、健常者や脳疾患患者に限らす、五感の刺激の判別を行うこともできる。脳状態推定部60は、機械学習によって生成された学習済みモデルで構成することができる。
【0085】
図15はマハラビノス距離と異常確率の関係の一例を示す模式図である。m次元正規分布からデータをサンプリングしている場合、マハラノビス距離は、自由度mのカイ二乗分布に従うことが知られている。カイ二乗分布の95%点αなどを閾値にして、α<(x-μ)T Σ
-1 (x-μ)のとき、xを異常値と判定することができる。xは、多変量正規分布N(μ、Σ)からサンプリングされたデータである。
図15の例では、例えば、確率が95%に対応するマハラビノス距離より小さい場合、異常であると判定することができる。
【0086】
図16は各チャネルからサンプリングされたエントロピーの統計的性質(不偏性)を示す模式図である。マハラビノス距離を用いて異常確率を求める場合、サンプリングされたエントロピーが統計的性質を持っている必要がある。
図16に示すように、認知症患者(AD:アルツハイマー病患者)と健常者(NC)の被験者間においても、全脳分布の各MEGチャネルからサンプリングされたエントロピーから計算された不偏推定量(UMVU)が一様の傾向を示すことが分かる。すなわち、エントロピーの分布は定常である。ここでは、エントロピーを表すメトリクスとしてTSEを用いているが、他のメトリクスの場合も同様である。UMVU性質を持つ分布からサンプリングされたエントロピー分布の普遍性を示す統計的性質からカイ二乗分布として定義することができる。これにより、MEGチャネルのエントロピー分布はHotellingの不偏性検定を用いた多変量2標本問題の統計解析を可能にする。
【0087】
図17は各チャネルからサンプリングされたエントロピーを用いた異常値検定の結果の一例を示す模式図である。実線は、NCに対してNCの二つの確率測度との間の距離(計量)を示し、破線はNCに対してADの二つの確率測度との間の距離(計量) を示す。各MEGチャネルで個別に計算したエントロピーの確率集合の乖離度をマハラノビス距離で表現したものである。図から分かるように、AD群とNC群の区別が統計的に妥当であることが検証可能となる。本実施の形態は、認知症(AD、DLB、前頭側頭葉変性症(FTLD)、正常圧水頭症(NPH)等を含む)、脳腫瘍、精神障害(精神疾患ともいう、統合失調症、てんかん、気分障害、依存障害、高次機能障害等を含む)、パーキンソン病、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、睡眠障害、小児疾患、虚血性脳障害、気分障害(うつ病等を含む)等を含む脳疾患のスクリーニング、鑑別、診断、分類に用いることができる。
【0088】
表示パネル61は、液晶パネル又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成することができる。なお、表示パネル61に加えて、あるいは代えて、外部の表示装置を設ける構成でもよい。
【0089】
操作部62は、例えば、キーボード、マウスなどで構成することができる。操作部62は、表示パネル61に組み込まれたタッチパネルで構成してもよい。ユーザは表示パネル61上で所定の操作を行うことができる。
【0090】
表示処理部63は、脳状態推定部60が出力する推定結果などの情報を表示パネル61に表示する処理を行う。
図13に例示したように、表示処理部63は、脳内の複数の位置に対応する複数のチャネルのうちの2つのチャネル間のクロススペクトル分布を表示することができる。以下、他の表示例について説明する。
【0091】
図18は脳状態推定結果の第1例を示す模式図である。表示パネル61には、患者名、診断結果、信頼度が表示される。診断結果は、例えば、正常(健常者である)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、その他の脳疾患などのいずれかを示す。信頼度は、前述の異常確率などに基づいて算出された、診断結果の確からしさを示す。表示パネルには、脳体積モデルにクロススペクトル分布を重畳した画像を表示することができる。表示された画像は、「回転」アイコンにより所望の向きに回転させることができ、「拡大・縮小」アイコンにより画像を拡大、縮小することができる。
【0092】
このように、表示処理部63は、脳体積モデルにクロススペクトル分布を重畳して表示することができる。脳体積モデルは、MRI画像、MI画像、CT画像などから構築することができる。
【0093】
図19は脳状態推定結果の第2例を示す模式図である。表示パネル61には、脳疾患患者の典型的又は代表的なクロススペクトル分布が表示されるとともに、被験者自身のクロススペクトル分布が対比可能に表示される。図の例では、脳疾患患者として、NC(健常者)、MCI(軽度認知障害)、AD(アルツハイマー病)、その他の脳疾患それぞれのクロススペクトル分布が表示されている。また、図の例では、被験者の診断結果がMCIであるとし、健常者群に対する脳疾患群(図の例では、MCI、AD、その他)の脳状態の乖離度合い(異常確率の確からしさ)が対比して表示されている。
【0094】
このように、表示処理部63は、健常者と脳疾患を有する患者それぞれのクロススペクトル分布を表示することができる。また、表示処理部63は、健常者群に対する脳疾患群の脳状態の乖離度合いを表示することができる。
【0095】
次に、脳状態推定装置50の処理について説明する。
【0096】
図20は脳状態推定装置50による脳状態推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。以下では、便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、被験者の脳活動データ(各MEGチャネルのMEGデータ)を取得する(S11)。なお、MEGデータ以外に、眼電位(EOG)、脳波(EEG)、心電図(ECG)、筋電位(EMG)などのデータを取得することもできる。
【0097】
制御部51は、取得したMEGデータに対して、独立成分分析(ICA)を含む前処理を行う(S12)。ICA以外の前処理には、例えば、取得したMEGデータに対してMEGデータの平均値を減算するバイアス補正、所定の周波数帯域のバンドパスフィルタ、所定の周波数のノッチフィルタ、所定期間毎の加算平均の少なくとも1つを用いることができる。
【0098】
制御部51は、SSP(信号空間投影法)処理を行い(S13)、信号原位置推定を行い(S14)、信号分布を算出する(S15)。ここでは、信号分布は、磁場分布である。制御部51は、ステップS14又はS15の処理の結果得られた、MEGデータを用いて、各チャネル及びチャネル間のスペクトル解析を行う(S16)。ここでは、パワースペクトル、クロススペクトルが算出される。
【0099】
制御部51は、エントロピーを算出し(S17)、算出したエントロピーを用いて、エントロピーの確率分布を平衡確率分布と仮定した場合のエントロピーの確率集合の乖離度に基づいて被験者の脳状態を推定し(S18)、推定結果を出力し(S19)、処理を終了する。
【0100】
脳状態推定装置50は、CPU(プロセッサ)、RAMなどを備えたコンピュータを用いて実現することもできる。
図20に示すような処理の手順を定めたコンピュータプログラムを記録した記録媒体を記録媒体読取装置で読み取り、読み取ったコンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上で脳状態推定装置50を実現することができる。
【0101】
上述の実施の形態では、被験者の脳活動データとして、MEGデータを例に挙げて説明したが、脳活動データは、MEGデータに限定されるものではなく、EEGデータに対しても本実施の形態を適用することができる。
【0102】
脳状態推定装置50は、生体磁気計測装置(MEG計測装置)から、無線通信又は有線通信を経由して、MEGデータを取得することができる。MEG計測装置は、MEGセンサ(検出コイル)を被験者の頭皮上に多数配置し、MEGセンサで記録された時系列データを出力する。多数のMEGセンサそれぞれには、チャネルが対応付けられている。
【0103】
本実施の形態の脳状態推定装置は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得する取得部と、取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成する生成部と、生成した情報に基づいてエントロピーを算出する算出部と、算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する推定部とを備える。
【0104】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記取得部は、脳活動データを含む脳データ、あるいは、脳活動データ、筋電位データ、心電図データ、眼電位データ、及び基準ノイズデータを含む脳データを取得し、前記生成部は、周波数変換又は非線形時系列解析による変換を用いて、律動の周波数帯域情報又はフラクタル情報を含む脳に関連する情報を生成し、前記算出部は、生成した律動の周波数帯域情報を含む情報に基づいて脳内の同期位相差量を特徴付けるエントロピー、又は生成したフラクタル情報を含む情報に基づいて時系列信号の乱雑性や位相構造の破れ具合を特徴付けるエントロピーを算出し、前記推定部は、算出したエントロピーの確率分布を平衡確率分布と仮定した場合のエントロピーの確率集合の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する。
【0105】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記取得部は、脳内の複数の位置に対応する複数のチャネル毎の時系列の脳活動データを取得し、前記生成部は、前記複数のチャネルそれぞれの脳活動データ及び前記複数のチャネルのうちの2つのチャネル間の脳活動データに基づいて脳活動に関連する律動の周波数帯域情報を生成する。
【0106】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記算出部は、チャネル毎に、あるスペクトル密度が観測される測度に基づいてエントロピーを算出する。
【0107】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記算出部は、2つのチャネルで、あるスペクトル密度が同時に観測される測度に基づいてエントロピーを算出する。
【0108】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記推定部は、前記乖離度を健常者群に対する脳疾患群のマハラビノス距離で表現して脳状態を推定する。
【0109】
本実施の形態の脳状態推定装置は、前記取得部で取得した脳活動データから前記脳活動データの平均値を減算するバイアス補正、所定の周波数帯域のバンドパスフィルタ、所定の周波数のノッチフィルタ、所定期間毎の加算平均の少なくとも1つを用いて、前記脳活動データのノイズを除去する第1ノイズ除去部を備える。
【0110】
本実施の形態の脳状態推定装置は、前記取得部で取得した脳活動データに対して、独立成分分析及び信号空間投影法を用いて、前記脳活動データのノイズを除去する第2ノイズ除去部を備える。
【0111】
本実施の形態の脳状態推定装置は、脳内の複数の位置に対応する複数のチャネルのうちの2つのチャネル間のクロススペクトル分布を表示する表示処理部を備える。
【0112】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記表示処理部は、脳体積モデルに前記クロススペクトル分布を重畳して表示する。
【0113】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記表示処理部は、健常者と脳疾患を有する患者それぞれの前記クロススペクトル分布を表示する。
【0114】
本実施の形態の脳状態推定装置において、前記表示処理部は、健常者群に対する脳疾患群の脳状態の乖離度合いを表示する。
【0115】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、コンピュータに、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得し、取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成し、生成した情報に基づいてエントロピーを算出し、算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する、処理を実行させる。
【0116】
本実施の形態の脳状態推定方法は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳データを取得し、取得した脳データを変換して脳に関連する情報を生成し、生成した情報に基づいてエントロピーを算出し、算出したエントロピーがある確率測度を持つと仮定した場合のエントロピーを変換した際の測度の乖離度に基づいて前記被験者の脳状態を推定する。
【0117】
本実施の形態のシステムは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習したモデルを用いて分類する機能を含む。
【0118】
本実施の形態のシステムは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、前記脳活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定する機能を含む。
【0119】
本実施の形態のシステムは、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定する機能を含む。
【0120】
本実施の形態のシステムにおいて、前記モデルは時系列ニューラルネットワークを含む。
【0121】
本実施の形態のシステムにおいて、前記脳活動データは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の少なくともいずれかを含む刺激に対する脳活動データを含む。
【0122】
本実施の形態の方法は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データを、脳機能の検査に係る多数の解を含む学習データを学習した時系列モデルを用いて分類することを含む。
【0123】
本実施の形態の方法は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから、脳の活動領域およびパターンを含む多数の入出力に係る解を学習したモデルを用いて、前記脳活動データにより示される信号源の時間軸を含む空間分布を推定することを含む。
【0124】
本実施の形態の方法は、時間軸を含む空間で変動する被験者の脳活動データから推定された信号源の時間軸を含む空間分布と症例とを学習したモデルを用いて、被験者の脳状態を推定することを含む。
【0125】
本実施の形態のコンピュータプログラムは、前述のシステムとして稼働するための命令を有する。
【符号の説明】
【0126】
50 脳状態推定装置
51 制御部
52 データ取得部
53 記憶部
54 前処理部
55 SSP処理部
56 信号源位置推定部
57 信号分布算出部
58 スペクトル解析部
59 エントロピー算出部
60 脳状態推定部
61 表示パネル
62 操作部
63 表示処理部