IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20241122BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20241122BHJP
【FI】
H02K41/03 A
G02B7/04 E
G02B7/04 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022205409
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2018110611の分割
【原出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2023029428
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】藤中 広康
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-343853(JP,A)
【文献】特開2010-213546(JP,A)
【文献】特開2000-245130(JP,A)
【文献】特開2010-112976(JP,A)
【文献】実開昭59-072880(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラ本体に取り付けられるレンズ鏡筒であって、
レンズを含み、光軸方向に進退可能なレンズ枠と、
前記レンズ枠に固定され、前記レンズ枠と共に光軸方向において進退可能であって、光軸と略垂直な方向に巻線軸を有し、光軸方向に沿って並ぶ2相のコイルと、
前記レンズの光軸を中心とする径方向における内周側と外周側とにおいて前記2相のコイルを挟み込むように、前記2相のコイルの両側に対向する位置に固定され、光軸方向に沿って配置された磁石と、
を備え、
前記磁石を配置することにより、駆動時に前記コイルが、光軸と垂直方向に発生するローレンツ力を抑制する、
レンズ鏡筒。
【請求項2】
前記磁石と対向する部分における前記コイルの巻幅を、電気角で120°±7.7°の範囲、
前記磁石と対向する部分における前記コイルの平均幅を、電気角で144°±4.6°の範囲、
前記2相のコイル間のピッチを、電気角で90°+180°×n(nは0以上の整数)とした、
請求項1に記載のレンズ鏡筒。
(ただし、コイルの巻幅とは、巻線が巻回されたコイルの磁石と対向する略直線部分の前記駆動方向における幅寸法を意味する。コイルの平均幅とは、巻線が巻回されたコイルの磁石と対向する略直線部分の前記駆動方向における中心間の距離を意味する。)
【請求項3】
単極着磁された複数の前記磁石を、N極・S極交互に並べた界磁部を、さらに備え、
隣り合う前記磁石間の隙間をWg、低減したい高調波次数をk次、jを任意の整数とした場合、
{180°×(1+2j)-23.07°}/k<Wg<{180°×(1+2j)+23.07°}/k
の関係を満たす、
請求項1または2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズ鏡筒と、
前記レンズ鏡筒が装着される本体部と、
を備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズ鏡筒、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ鏡筒のレンズ枠体を光軸方向に移動させるために、高速応答が可能なリニアモータが使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-248290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のリニアモータでは、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、近年、撮像装置に用いられる撮像素子は、高画素化、ダイナミックレンジの向上等を目的としてサイズの大型化が進んでいる。
撮像素子が大型化すると、レンズ鏡筒に使用されるレンズも必然的に大型化し、レンズの移動量も大きくなる。
【0005】
この大型化されたレンズを駆動するために、レンズを駆動するアクチュエータは、従来よりも推力が大きく、ストロークが長いものが要求される。
上記特許文献1に記載された技術では、1つのコイルに対し界磁部が複数設けられた構成としたことで、推力の向上を図る構成について開示されている。
しかしながら、上記特許文献1記載の技術では、推力を大きくするには限界がある。また、長ストローク化すると、ヨーク部の磁気飽和が無視できなくなり、長ストローク化が難しいという課題がある。
【0006】
本開示の課題は、振動、騒音等の原因となる垂直方向の推力発生を抑えられると同時に、推力を大幅に高めることが可能なレンズ鏡筒、撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るレンズ鏡筒は、光軸方向に進退可能なレンズ枠と、レンズ枠に固定され、光軸と略垂直な方向に巻線軸を有し、光軸方向に沿って並ぶ2相のコイルと、2相のコイルを挟み込むように、2相のコイルの両側に対向する位置に、光軸方向に沿って配置された磁石と、を備え、磁石を配置することにより、駆動時にコイルが、光軸と垂直方向に発生するローレンツ力を抑制する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るレンズ鏡筒によれば、コイルの両側に磁石を配置することにより、振動、騒音等の原因となる垂直方向の推力発生を抑えられると同時に、推力を大幅に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るフォーカスユニットを示す斜視図。
図2】実施の形態1に係るフォーカスユニットの断面図。
図3】実施の形態1に係るフォーカスユニットの分解斜視図。
図4】実施の形態1に係るコイルとマグネットの関係を示す説明図。
図5】コイルとマグネットの関係を示す説明図。
図6A】コイルの平均幅Waを180°一定としてコイルの巻き幅Wcを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図6B】コイルの平均幅Waを180°一定としてコイルの巻き幅Wcを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図7A】コイルの平均幅Waを180°一定としてコイルの巻き幅Wcを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図7B】コイルの平均幅Waを180°一定としてコイルの巻き幅Wcを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図8A】コイルの巻き幅Wcを90°一定としてコイルの平均幅Waを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図8B】コイルの巻き幅Wcを90°一定としてコイルの平均幅Waを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図9A】コイルの巻き幅Wcを90°一定としてコイルの平均幅Waを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図9B】コイルの巻き幅Wcを90°一定としてコイルの平均幅Waを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図。
図10A】比較例のコイルとマグネットの関係を示す説明図。
図10B】実施の形態1とは別の実施例のコイルとマグネットの関係を示す説明図。
図11図10Aに示す比較例と、図4に示す本実施形態の構成と、図10Bに示す別の実施形態の構成とを比較した図。
図12A】実施の形態2に係る界磁部の正面図。
図12B】実施の形態2に係る界磁部の側面図。
図13】実施の形態2に係る界磁部の分解斜視図。
図14】実施の形態2に係る界磁部の高調波低減の原理を示す説明図。
図15A】実施の形態3に係る界磁部の構成を示す側面図。
図15B】実施の形態3に係る界磁部の構成を示す斜視図。
図16A】本実施の形態3の界磁部の磁力線図。
図16B】比較例の界磁部の磁力線図。
図17】2相リニアモータの駆動回路を示す図。
図18A】推力定数と位相との関係を示すグラフ。
図18B】電流波形と位相との関係を示すグラフ。
図18C図18Aのグラフと図18Bのグラフとを重ね合わせた推力と位相との関係を示すグラフ。
図19図1のフォーカスユニットが搭載されたレンズ鏡筒の構成を示す外観斜視図。
図20図19のレンズ鏡筒が装着されたカメラの構成を示す外観斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0011】
また、「略**」との記載は、「略同一」を例に挙げて説明すると、全く同一はもとより、実質的に同一と認められるものを含む意図である。また、「**近傍」、「約**」との記載においても同様である。
なお、各図は、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0012】
(実施の形態1)
次に、実施の形態1に係るフォーカスユニット(リニアモータ)1の構成について、図1図11および図17図20を用いて説明する。
フォーカスユニット1は、交換可能なレンズ鏡筒40(図19参照)の中で、主にピント合わせを行うレンズ、およびレンズを駆動するリニアモータを備えている。
【0013】
図1は、実施の形態1に係るフォーカスユニット1を示す斜視図である。図2は、実施の形態1に係るフォーカスユニット1の断面図である。図3は、実施の形態1に係るフォーカスユニット1の分解斜視図である。図4は、実施の形態1に係るコイルとマグネットの関係を示す説明図である。
図1では、レンズ鏡筒40とレンズ鏡筒40が装着されるカメラ本体(本体部)51とを備えたカメラ(撮像装置)50(図20参照)の光軸Jと平行な方向をY軸方向と規定し、水平方向をX軸方向と規定し、鉛直上側をZ軸方向と規定する。また、被写体側をY軸プラス方向側と規定し、撮像素子側をY軸マイナス方向側と規定する。なお、図1では、Y軸方向とZ軸方向とは、使用態様によって変化するため、これには限定されない。図1以降の各図においても、同様である。
【0014】
図1から図3に示すように、フォーカスユニット1は、保持枠2と、フォーカスレンズL1と、レンズ枠3と、主ガイドポール4と、副ガイドポール5と、ガイドカバー6とを有する。
保持枠2は、樹脂部材であり、Y軸プラス方向側に開いている。
図2および図3に示すように、保持枠2には、主ヨーク7と、副ヨーク8と、駆動用マグネット(磁石)9とを有する界磁部が固定され、レンズ枠3を光軸方向に移動可能に収容する収容空間が形成されている。
【0015】
主ヨーク7は、断面が略U字状をなし、保持枠2の外周面に沿うように配置している。
副ヨーク8は、平板状の形状をしており、主ヨーク7の端面と接している。
駆動用マグネット9は、主ヨーク7の内周面に沿うように設けられている。駆動用マグネット9は光軸方向に沿って内周側がN極、S極交互になるように多極着磁されている。
コイル10a,10bは、レンズ枠3に固定されている。コイル10a,10bには電源部からの電力が供給される。電力の供給は、フレキシブル基板11を介して行われる。
【0016】
ここで、コイル10a,10bにレンズ枠3の位置に応じた電流を通電することにより、コイル10a,10bは、ローレンツ力を受けてY軸方向に力が働く。その結果、レンズ枠3をY軸方向に沿って移動させることができる。
ここで、特許文献1記載の技術の様に、マグネットを単極着磁の磁石で構成した場合、光軸方向のストロークを長くすると、マグネットの長さに応じてヨークの磁束密度が高くなり、ヨークが磁気飽和するため、推力が低下してしまう場合が多い。
【0017】
一方、本実施形態の構成では、駆動用マグネット9を光軸方向に長くして磁極数を増やすことにより、推力はそのままに、ストロークのみ容易に伸ばすことができる。
図2および図3に示すように、レンズ枠3は、Y軸方向に沿って移動可能である。レンズ枠3は、フォーカスレンズL1と、MR(Magneto Resistive)素子12(位置検出センサの一例)を有する。また、保持枠2は、MRマグネット13(位置検出部材の一例)を有する。レンズ枠3は、略円筒状に形成され、内径部にフォーカスレンズL1保持する。レンズ枠3には、主ガイドポール4を挿通するポール挿通孔31が形成されている。また、保持枠2には、レンズ枠3がY軸方向に直動するように、副ガイドポール5が固定されている。
【0018】
なお、本実施の形態では、位置検出センサの一例としてMR素子12を用いているが、MR素子12の代わりに位置検出センサの一例としてフォトカプラを用いてもよい。
なお、本実施の形態では、位置検出部材の一例としてMRマグネット13を用いているが、例えば位置検出部材を反射ミラーとしてもよい。
図3に示すように、MRマグネット13は、MR素子12の近傍で保持枠2に設けられている。MR素子12が設けられたレンズ枠3が移動することで、MRマグネット13に生じる磁界の変化をMR素子12で検出する。
【0019】
MR素子12は、レンズ枠3に設けられる。MR素子12は、例えば、撮影時に、レンズ枠3を移動させると、MR素子12に対するMRマグネット13の位置が変化する。このとき、MR素子12の位置における磁束が変化し、MR素子12の出力が変化する。こうして、MR素子12の出力を検出すれば、レンズ枠3のシフト位置を検出することができる。
【0020】
図3に示すように、主ガイドポール4および副ガイドポール5は、円柱状をなした金属製の部材であって、Y軸方向と略平行に延びている。主ガイドポール4は、レンズ枠3をY軸方向に移動可能に支持する。言い換えれば、主ガイドポール4は、光軸Jに沿って移動するようにレンズ枠3をガイドする。主ガイドポール4の一端側(Y軸マイナス方向側)は保持枠2に保持され、主ガイドポール4の他端側(Y軸プラス方向側)はガイドカバー6に保持されている。
【0021】
ガイドカバー6は、樹脂製のカバー部材であり、Y軸プラス方向側の端部に設けられる。具体的には、ガイドカバー6は、保持枠2のY軸プラス方向側(被写体側)の端部にビスにて固定(保持)されている。
図4は、実施の形態1に係るコイル10a,10bと駆動用マグネット9との位置関係を示す説明図である。
【0022】
図4において、角度寸法は全て電気角を示す。
図4においてコイル10aとコイル10bとは、全く同じ構成のコイルである。コイル10aとコイル10bとは、Y方向に電気角で270°ずれた位置に固定されている。
コイル10aおよびコイル10bには、マグネット9(図中破線で示す)との位置に応じて正弦波状の電流を通電して駆動する。
【0023】
コイル10aとコイル10bとは、270°(-90°)位相がずれているため、90°位相がずれた2相電流を通電すれば駆動できる。
コイル10a,10bの形状は、コイルの巻き幅が電気角で120°、コイルの平均幅が電気角で144°になる様に設計されている。
ここで、図5を用いて、コイル10a,10bをこの様な形状にした理由について説明する。
【0024】
図5は、コイル10aと駆動用マグネット9との位置関係を示す説明図である。
図5においてコイル10aの形状は、コイル10aの巻き幅をWc、コイルの平均幅をWaとする。
駆動用マグネット9により発生する磁束の磁束密度がY方向に対して正弦波状に変化すれば、コイル10a,10bに発生する推力は、2相の推力を合計すると完全に一定になる。
【0025】
しかしながら、駆動用マグネット9により発生する磁束の磁束密度は、通常、3次、5次、7次等の高調波成分を含む。
磁束密度に高調波成分が含まれていると、一般的に、コイル10aにより発生する推力にも高調波成分が含まれる。
推力に高調波成分が含まれると、推力が位置によって変動して、振動や騒音が発生したり、位置制御する際の位置精度が下がったりするため、高調波成分は可能な限り少ないことが望ましい。
【0026】
図6A図7Bは、図5に示す磁気回路においてコイル10aの平均幅Waを180°一定としてコイル10aの巻き幅Wcを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図である。
なお、上記は、コイルの抵抗値、コイルの導体占積率が一定となる様にコイル導体径、ターン数を変化させた場合の推力を計算したものである。
【0027】
図6Aに示す通り、推力の基本波成分は、コイルの巻き幅Wcが150°をピークとして広い場合も、狭い場合も下がる結果となった。
また、図6Bに示す通り、3次高調波成分に関しては、120°付近でゼロとなる。
また、図7Aに示す通り、5次高調波成分に関しては、72°、144°付近でゼロとなる。
【0028】
また、図7Bに示す通り、7次高調波成分に関しては、103°、154°付近でゼロとなる。
この理由について、以下図を用いて詳しく説明する。
図5において、コイルのI部で発生する推力について考える。
図5において、f1はコイルのI部左端1ターン分、fkはコイルの右端1ターン分を示している。全体での推力はf1…fkの推力を合計、言い換えれば積分した値となる。
【0029】
ここで、コイルの巻き幅Wcを電気角で120°(3次高調波においては360°分に相当)に設定すると、3次高調波は丁度1周期分積分される形になり、値がゼロになる。
また、巻き幅Wcを電気角で72°または144°(5次高調波においては360°または720°分に相当)に設定すると、5次高調波は、丁度1周期分、または2周期分積分されることになり、値がゼロになる。
【0030】
同様に、
7次高調波においては、51.4°、102.9°、154.3°
9次高調波においては、40°、80°、120°、160°
でゼロになる。
なお、上記は丁度ゼロになる電気角を示したが、巻き幅Wcを上記と近い値に設定すれば、推力の特定の高調波成分を低減できる。
【0031】
例えば、3次高調波においては、コイルの巻き幅Wcを
112.3°<Wc<127.7°
の関係を満足する様に設定すれば、3次高調波成分を5分の1以下に低減することができ、十分な効果が得られる。
一般的には、n次高調波成分に関して、コイルの巻き幅をWc、mは1以上の整数とした場合、
(m×360-23.07)/n<Wc<(m×360+23.07)/n×23.07=asin(0.2)×2
の関係を満足する様に設計すれば、n次高調波成分を5分の1以下に低減することができ、十分な効果が得られる。また更に
(m×360-11.48)/n<Wc<(m×360+11.48)/n×11.48=asin(0.1)×2
の関係を満足する様に設計すれば、n次高調波成分を10分の1以下に低減することができ、更に高い効果が得られる。
【0032】
図8A図9Bは、コイルの巻き幅Wcを90°一定としてコイルの平均幅Waを変化させた場合の推力の変化をシュミレーションした図である。
図8Aに示すように、推力の基本波成分は、コイルの平均幅が170°をピークとして広い場合も、狭い場合も下がる結果となった。
また、図8Bに示す通り、3次高調波成分に関しては、120°付近でゼロとなる。
【0033】
また、図9Aに示す通り、5次高調波成分に関しては、72°、144°付近でゼロとなる。
また、図9Bに示す通り、7次高調波成分に関しては、103°、154°付近でゼロとなる。
この理由について、以下図を用いて詳しく説明する。
【0034】
図5において、コイルのI部で発生する推力と、II部で発生する推力について考える。
I部とII部とは繋がっているため、コイルに通電した際に流れる電流の向きは、I部とII部とで正反対になる。
コイルの平均幅Waを180°にすると、I部とII部の磁束密度は符号が反対で、大きさの等しい磁束密度となる。電流の向きが正反対なので、結果としてI部とII部とで発生する推力は同一の推力となる。
【0035】
一方、コイルの平均幅Waを180°からずらしていくと、I部とII部とで発生する推力は、180°からずらした分だけずれた位相の推力を発生する状態となる。
ここで、コイルの平均幅Waを電気角で120°(180°から60°ずれ=3次高調波においては180°ずれに相当)にすると、3次高調波は、I部とII部とで逆位相の推力を発生する状態となり、全体としてはキャンセルされてゼロになる。
【0036】
また、巻き幅を電気角で72°または144°(180°から108°または36°ずれ=5次高調波においては540°または180°ずれに相当)に設定すると、5次高調波は、I部とII部が逆位相の推力を発生することになり、全体としてはキャンセルされてゼロになる。
同様に、
7次高調波においては、51.4°、102.9°、154.3°
9次高調波においては、40°、80°、120°、160°
でゼロになる。
【0037】
なお、上記では、丁度、ゼロになる電気角を示したが、平均幅Waを上記と近い値に設定すれば、推力の特定の高調波成分を低減できる。
例えば、5次高調波においては、コイルの平均幅Waを
139.4°<Wa<148.6°
の関係を満足する様に設定すれば、5次高調波成分を5分の1以下に低減することができ、十分な効果が得られる。
【0038】
一般的には、n次高調波成分に関して、コイルの巻き幅をWa、mは1以上の整数とした場合、
(m×360-23.07)/n<Wa<(m×360+23.07)/n×23.07=asin(0.2)×2
の関係を満足する様に設計すれば、n次高調波成分を5分の1以下に低減することができ、十分な効果が得られる。また更に
(m×360-11.48)/n<Wa<(m×360+11.48)/n×11.48=asin(0.1)×2
の関係を満足する様に設計すれば、n次高調波成分を10分の1以下に低減することができ、更に高い効果が得られる。
【0039】
そこで、図4に示す構成では、コイルの巻き幅Wcを120°とすることにより、3次高調波成分を低減し、コイルの平均幅Waを144°とすることにより、5次高調波成分を低減する構成となっている。
なお、コイルの巻き幅Wcおよびコイルの平均幅で3次および5次高調波両方を同時に低減する別の組み合わせとしては、図10Bに示すコイルの巻き幅Wcを72°、コイルの平均幅Waを120°とする組み合わせが考えられる。
【0040】
図11は、図10Aに示す比較例と、図4に示す構成と、図10Bに示す別の構成との比較をした表である。
図10Aの比較例の構成では、コイルの平均幅Waを180°とし、巻き幅Wcは、隣のコイルと重ならない範囲で最大の値である90°で設計されている。
表において上段の数値は絶対値、下段の数値は比較例の基本波成分を100%とした場合の割合を示す。
【0041】
図11に示すように、図4に示す構成と、図10Bに示す別の構成では、3次および5次高調波は、ほぼ完全に消滅した。
また、基本波成分については、図4に示す構成が106.46%と最も高い値を示した。これは、本実施の形態1の構成が、推力が高いにも関わらず、有害な推力の高調波成分が発生しないことを示している。
【0042】
これは、図5に示す比較例のコイル形状がコイルの真ん中に大きな空洞部があるのに対し、図4に示す本実施の形態1のコイル形状が、無駄な空洞部が殆ど無く、コイルを巻回できるスペースが大きいため、コイルの断面積が大きく、コイルのターン数が大きくできるためと考えられる。
以上のように、本実施の形態1では、リニアモータの推力密度を向上することができ、リニアモータの小型化を実現できる、また、推力の高調波成分を削減することにより、推力の変動が少なく、振動や騒音の発生が少ないリニアモータを提供できる。
【0043】
また更に、コイルおよび界磁部の構成を工夫することにより、多相駆動した場合に課題となる推力の高調波成分を削減し、高精度に位置決めできるリニアモータおよび撮像装置を提供することができる。
なお、本実施形態のリニアモータは、図17に示す駆動回路によって示すこともできる。
【0044】
具体的には、リニアモータは、図17に示すように、2相駆動方式の駆動回路において、A相側のコイル10aを駆動する回路20aと、B相側のコイル10bを駆動する回路20bと、コイル10a,10bに近接する位置に配置された駆動用マグネット9とを備えている。
A相側の回路20aは、プラス側のトランジスタ21a,21bと、マイナス側のトランジスタ22a,22bと、を有している。
【0045】
B相側の回路20bは、プラス側のトランジスタ23a,23bと、マイナス側のトランジスタ24a,24bと、を有している。
これにより、A相側の回路20aとB相側の回路20bとにおいて、それぞれプラス側とマイナス側とを交互にON/OFFすることで、駆動用マグネット9に対してレンズ枠3を光軸方向において前後に駆動することができる。
【0046】
また、A相側の回路20aとB相側の回路20bとにおいて、位相に対する推力定数は、図18(a)に示すような正弦波のグラフとなる。
そして、位相に対する電流波形は、図18(b)に示すような波形となる。
よって、図18(a)および図18(b)のグラフを合計した結果、リニアモータは、図18(c)の点線として示すように、略一定の推力を得ることができる。
【0047】
なお、本実施の形態1では、コイル2個を使用して2相駆動する方式を示したが、コイル3個を使用して3相駆動する方式も可能である。
しかしながら、3相駆動する場合はコイルを3個光軸方向に並べて使用する必要があり、2相駆動する場合よりもアクチュエータが光軸方向に長くなりがちであり、レンズ駆動用としては、2相駆動がより好適である。
【0048】
(実施の形態2)
上記実施の形態1は、コイルの形状を工夫することにより、性能を改善する方法について説明したが、本実施の形態2では、マグネットを含む界磁部の構成を工夫することにより更に性能を改善する例を示す。
実施の形態2に係る界磁部の構成について、図12から図14を用いて説明する。
【0049】
上記実施の形態1では、単一のマグネット9を多極着磁して構成したが、本実施の形態2ではマグネット9を磁極毎に分割して構成する。
図12は、実施の形態2に係る界磁部の正面図と側面図である。
図12において、界磁部は、主ヨーク7と6個の大マグネット9aと、大マグネットの半分の幅の小マグネット9b2個により構成される。
【0050】
大マグネット9aは、主ヨーク7上において磁極の向きがN、S交互に並ぶ様に配置される。多極方向の磁極ピッチはWpに設定されているが、大マグネット9aの幅は、磁極ピッチよりWgだけ狭い幅で作成されている。また、その両端には、Wgの隙間を空けて小マグネット9bが配置されている。
一般に、単一の磁石を多極着磁する場合、磁極の切り替え部分は完全にフル着磁することが困難であるが、あらかじめ単極でフル着磁したマグネットを並べることにより、磁石の性能を引き出し易くなり、単一のマグネットを使用する場合と比較して、より多くの磁束を取り出せることが多い。
【0051】
図13は、実施の形態2に係る界磁部の分解斜視図である。
図13において、主ヨーク7にはプレス加工にて複数の突起7aが形成されている。
組み立て時には、大マグネット9aを突起aの間に挿入していくことにより、大マグネット9aを規則正しく配置することが可能である。
図14は、実施の形態2に係る界磁部の高調波低減の原理を示す説明図である。
【0052】
磁気回路の構成については、磁気飽和が発生しない領域では、重ね合わせで計算可能なことが知られている。
本実施の形態2の界磁部の構成は、図14において磁極ピッチWpで多極着磁された界磁部Aと同じ磁極ピッチWpで多極着磁され、位相がWgずれた界磁部Bを重ね合わせたものと等価であることが理解できる。
【0053】
界磁部Aにより発生する磁束密度と、界磁部Bにより発生する磁束密度は、波形や、振幅は同一で、位相がWg異なる状態になる。ここで、例えば、Wgを電気角で36°に設定すれば、界磁部Aと界磁部Bの磁束密度の位相は36°(5次高調波では180°に相当)位相が異なる状態となり、全体としては5次高調波がキャンセルされる状態となる。
同様に、一般的には、隣り合う磁石隙間をWg、低減したい高調波成分をk次、jを任意の整数とした場合、
Wg=180×(1+2j)/k
の関係を満足する様に設計すれば、k次高調波成分を完全にキャンセルすることができる。
【0054】
なお、上記は丁度ゼロになる電気角を示したが、Wgを上記と近い値に設定すれば、推力の特定の高調波成分を低減できる。
一般的には、隣り合う磁石隙間をWg、低減したい高調波成分をk次、jを任意の整数とした場合、
{180×(1+2j)-23.07}/k<Wg<{180×(1+2j)+23.07}/k×23.07=asin(0.2)×2
の関係を満足する様に設計すれば、k次高調波成分を5分の1以下に低減することができ、十分な効果が得られる。また更に、隣り合う磁石隙間をWg、低減したい高調波成分をk次、jを任意の整数とした場合、
{180×(1+2j)-11.48}/k<Wg<{180×(1+2j)+11.48}/k×11.48=asin(0.1)×2
の関係を満足する様に設計すれば、k次高調波成分を10分の1以下に低減することができ、更に高い効果が得られる。
【0055】
磁束の高調波成分を低減すると、推力の高調波成分も低減されることは言うまでもない。
なお、上記実施の形態2は、界磁部の構成で推力の高調波成分を低減する方法を示したが、上記実施の形態1に示したコイル形状を組み合わせることで、更に性能を高めることができる。
【0056】
例えば、上記実施の形態1で説明したように、コイル形状により3次、5次高調波成分を低減した上で、Wg=25.7°とすることにより、磁束の7次高調波成分をキャンセルすることができる。よって、コイル形状のみでは低減することができなかった、推力の7次高調波をも低減することができる。
あるいは、理論的には、コイル形状または界磁部の構成により、3次高調波を完全にキャンセルすることは可能であるが、実際のものづくりではコイル寸法、あるいはマグネット寸法等には寸法バラつきがあるため、完全にキャンセルすることは不可能である。そこで、コイル形状により3次、5次高調波成分を低減した上で、Wg=60°とすることにより、磁束の3次高調波成分をキャンセルすることができる。よって、推力の3次高調波をコイル形状と、界磁部の構成とで2重に削減することにより、元々値が大きい3次高調波成分を効果的に低減することができ、寸法バラつきがあった場合でも、安定して推力の高調波成分を低減することが可能となる。
【0057】
(実施の形態3)
上記実施の形態1および実施の形態2は、コイルの形状および界磁部の構成を工夫することにより、推力の高調波成分を削減する方法を説明したが、本実施の形態3では更に性能を改善する例を示す。
図15Aおよび図15Bは、実施の形態3に係る界磁部の構成を示す側面図と斜視図である。
【0058】
上記実施の形態1では、コイル10a,10bの外周側のみにマグネット9を配置する構成を示したが、本実施の形態3では、コイルの内周側および外周側の両方にマグネット9を配置する構成となっている。
以下、コイルの両側にマグネット9を配置することの優位性について説明する。
図16Aは、本実施の形態3の界磁部の磁力線図、図16Bは、比較例の界磁部の磁力線図である。
【0059】
図16Bは、実施の形態1と同様、コイルの片側のみにマグネット9を配置した状態の磁力線図を示す。
図16Bに示す通り、コイル部の磁束は方向が斜めを向いていることが分かる。
これは、コイルがレンズを駆動するのに必要な光軸方向の推力だけでなく、垂直方向の推力を発生することが分かる。本比較例の磁界解析を行った結果、垂直方向の推力は、最大で光軸方向推力の約35%もの推力となった。
【0060】
垂直方向の推力は、レンズ枠の振動、騒音等を引き起こす為、できるだけ小さいことが望ましい。
図16Aは、コイルの両側にマグネット9を配置した状態の磁力線図を示す。
図16Aに示す通り、コイル部の磁束密度は、図16Bと比較して、かなり真っ直ぐに矯正されていることが分かる。本実施例の磁界解析を行った結果、垂直方向には全く推力を発生しない結果となった。
【0061】
よって、コイルの両側にマグネット9を配置することにより、レンズ枠の振動、騒音等を発生し難くなる。
また、図16A図16Bとを比較すると、コイル部の磁力線の密度が高くなっていることが分かる。磁力線の密度(=磁束密度)が高いと言うことは、推力が高くなることを示している。本実施例の磁界解析を行った結果、マグネット9をコイルの両側に配置することにより、推力はおよそ1.5倍に向上することが確認できた。
【0062】
本実施形態の様に、コイルの両側にマグネット9を配置することにより、振動、騒音等の原因となる垂直方向の推力発生を抑えられると同時に、推力を大幅に高めることが可能となる。
なお、本実施の形態3は、コイルの両側にマグネット9を配置することのみを説明したが、実施の形態1および実施の形態2の技術を組み合わせて使用することが可能なことは言うまでもない。
【0063】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態1から3を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0064】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示のリニアモータは、推力を大きくするとともに、ストロークを長くすることができるという効果を奏することから、レンズ枠を光軸方向において移動させて被写体を撮像する撮像装置等の各種装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 フォーカスユニット(リニアモータ)
2 保持枠
3 レンズ枠
4 主ガイドポール
5 副ガイドポール
6 ガイドカバー
7 主ヨーク
8 副ヨーク
9 駆動用マグネット(磁石)
9a 大マグネット
9b 小マグネット
10a,10b コイル
11 フレキシブル基板
12 MR素子(位置検出センサ)
13 MRマグネット(位置検出部材)
20a,20b 回路
21a,21b トランジスタ
22a,22b トランジスタ
23a,23b トランジスタ
24a,24b トランジスタ
31 ポール挿通孔
40 レンズ鏡筒
50 カメラ(撮像装置)
51 カメラ本体(本体部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20