(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】Ni-Ti系合金、吸発熱材料、Ni-Ti系合金の製造方法、及び熱交換デバイス
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20241122BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20241122BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20241122BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241122BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20241122BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20241122BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241122BHJP
【FI】
C22C19/03 C
C22C14/00 Z
C22C30/00
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B22F1/14 500
B22F3/14 101B
C22C1/04 B
C22C1/04 E
C22C19/03 Z
(21)【出願番号】P 2022561918
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2021041031
(87)【国際公開番号】W WO2022102586
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020189704
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021113700
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】大野 航太朗
(72)【発明者】
【氏名】仲村 達也
(72)【発明者】
【氏名】椎 健太郎
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-131940(JP,A)
【文献】特開昭62-037353(JP,A)
【文献】特開2007-084888(JP,A)
【文献】特開2007-239833(JP,A)
【文献】特開2003-240397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/03
C22C 14/00
C22C 30/00
B22F 1/00
B22F 1/14
B22F 3/14
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni原子と、Ti原子と、Si原子と
のみを含有し、
前記Ni原子、前記Ti原子、及び前記Si原子の組成比は、
前記Ni原子の原子数%をx軸、前記Ti原子の原子数%をy軸、前記Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(50,49,1)で示される点Aと座標(50,30,20)で示される点Dとを結ぶ線分、前記点Dと座標(20,60,20)で示される点Iとを結ぶ線分、前記点Iと座標(30,60,10)で示される点Jとを結ぶ線分、前記点Jと座標(40,55,5)で示される点Kとを結ぶ線分、前記点Kと座標(49,50,1)で示される点Lとを結ぶ線分、前記点Lと座標(49.5,49.5,1)で示される点Mとを結ぶ線分、及び前記点Mと前記点Aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあり(ただし、前記組成比が、Ti
100-X-y/2
Ni
X-y/2
Si
y
、X=49~52、y=0.5~10、を満たす場合を除く)、
吸発熱特性を有する、
Ni-Ti系合金。
【請求項2】
前記Ni原子、前記Ti原子、及び前記Si原子の組成比は、
前記Ni原子の原子数%をx軸、前記Ti原子の原子数%をy軸、前記Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(49.7,50,0.3)で示される点aと座標(49.5,50,0.5)で示される点bとを結ぶ線分、前記点bと座標(49.3,50,0.7)で示される点cとを結ぶ線分、前記点cと座標(49,50.2,0.8)で示される点dとを結ぶ線分、前記点dと座標(48.5,50.5,1)で示される点eとを結ぶ線分、前記点eと座標(45,52.5,2.5)で示される点fとを結ぶ線分、前記点fと座標(40,57.5,2.5)で示される点gとを結ぶ線分、前記点gと座標(40,59.5,0.5)で示される点hとを結ぶ線分、前記点hと座標(44.5,55,0.5)で示される点iとを結ぶ線分、及び前記点iと前記点aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にある、
請求項1に記載のNi-Ti系合金。
【請求項3】
Ni原子と、Ti原子と、Si原子とのみを含有し、
前記Ni原子、前記Ti原子、及び前記Si原子の組成比は、
前記Ni原子の原子数%をx軸、前記Ti原子の原子数%をy軸、前記Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(49.5,49.5,1)で示される点Qと座標(47,50,3)で示される点Rとを結ぶ線分、点Rと座標(45,50,5)で示される点Sとを結ぶ線分、点Sと座標(40,50,10)で示される点Tとを結ぶ線分、点Tと座標(35,55,10)で示される点Uとを結ぶ線分、点Uと座標(40,55,5)で示される点Kとを結ぶ線分、点Kと座標(49,50,1)で示される点Lとを結ぶ線分、及び点Lと点Qとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあり、
吸発熱特性を有する、
Ni-Ti系合金。
【請求項4】
超弾性特性を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載のNi-Ti系合金。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のNi-Ti系合金を含有する、
吸発熱材料。
【請求項6】
前記Ni-Ti系合金に混合される樹脂成分を更に含有する、
請求項5に記載の吸発熱材料。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のNi-Ti系合金を製造する方法であり、
Ni粉末と、Ti粉末と、Si粉末とを混合して混合物を得ることを含む混合工程と、
前記混合物を不活性ガス雰囲気下でアーク放電に曝露することを含むアーク放電工程と、
を含む、
Ni-Ti系合金の製造方法。
【請求項8】
吸発熱部材と、前記吸発熱部材を収容する収容部材と、を備え、
前記吸発熱部材は、請求項5又は6に記載の吸発熱材料を含む、
熱交換デバイス。
【請求項9】
第1の支持部材と、第2の支持部材と、を更に備え、
前記吸発熱部材は、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材の間に介在し、かつ前記第1の支持部材と前記第2の支持部材との少なくとも一方から荷重を受けることで変形可能に構成されている、
請求項8に記載の熱交換デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Ni-Ti系合金、吸発熱材料、Ni-Ti系合金の製造方法、及び熱交換デバイスに関する。詳細には、Ni原子とTi原子とを含有するNi-Ti系合金、前記Ni-Ti系合金から作製される吸発熱材料、前記Ni-Ti系合金の製造方法、及び前記吸発熱材料から作製される吸発熱部材を備える熱交換デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ni-Ti合金は、形状記憶効果を有し、かつ超弾性(擬弾性ともいわれる)を示すことが知られている。超弾性は、Ni-Ti合金において高温相のオーステナイト相がマルテンサイト相に変態を完了する温度(Af温度)以上の温度で応力が加えられて変形が生じた後、応力が解除されることで元の形状に回復する形状記憶特性である。
【0003】
また、Ni-Ti合金は、弾性熱量効果を発現しうることも知られている(例えば非特許文献1)。弾性熱量効果とは、荷重による負荷と除荷とに基づく応力の変化に応じて結晶構造や磁気構造が変化する際に、変化前後でのエントロピー差に相当する発熱又は吸熱が生じる効果である。
【0004】
一方、Ni-Ti合金に代わるNi-Ti系合金として、Ni原子又はTi原子の一部を、Cu原子、Fe原子、Cr原子等で置換した合金の開発も進められている。置換したNi-Ti系合金は、Ni-Ti合金よりも、優れた形状記憶特性を有することが知られている。例えば、特許文献1は、Niおよび/またはTiの一部を5at%以下の範囲内でFe、Cr、Co、V、Al、Mo、W、Zr、Nbのいずれかの一種または二種以上の元素で置換したNi-Ti系合金を開示している。このNi-Ti系合金によれば、使用環境温度範囲内において、応力によって生じた2%の歪みを、負荷及び除荷した場合の残留歪みが0.25%以下となるようにできるという超弾性効果が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Cui,Y.Wu,J.Muehlbauer,Y.Hwang,R.Radermacher,S.Fackler,M.Wuttig,and I.Takeuchi,Appl.Phys.Lett.,101,073904(2012).
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様に係るNi-Ti系合金は、Ni原子と、Ti原子と、Si原子とを含有する。前記Ni-Ti系合金は、吸発熱特性を有する。
【0008】
本開示の一態様に係る吸発熱材料は、前記Ni-Ti系合金を含有する。
【0009】
本開示の一態様に係るNi-Ti合金の製造方法は、混合工程と、アーク放電工程と、を含む。前記混合工程では、Ni粉末と、Ti粉末と、Si粉末とを混合して混合物を得る。前記アーク放電工程では、前記混合物を不活性ガス雰囲気下でアーク放電に曝露する。
【0010】
本開示の一態様に係る熱交換デバイスは、吸発熱部材と、前記吸発熱部材を収容可能な収容部材とを備える。前記吸発熱部材は、前記吸発熱材料を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、本実施形態に係るNi-Ti系合金の応力と歪みの関係の一例を示す図である。
図1Bは、本実施形態に係るNi-Ti系合金の温度変化に応じた熱的挙動の一例を示す図である。
【
図2】
図2Aは、従来のNi-Ti合金における応力と歪みとの関係を示す概念図である。
図2Bは、従来のNi-Ti合金の温度変化に応じた熱的挙動を示す概念図である。
【
図3】
図3Aは、Ni-Ti合金(比較例1)における応力と歪みの関係を示す図である。
図3Bは、Ni-Ti合金(比較例1)における温度変化に応じた熱的挙動を示す図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、本実施形態に係るNi-Ti系合金のNi,Ti,Si原子の組成比の例を示す三角図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、本実施形態に係るNi-Ti系合金のNi,Ti,Si原子の組成比の例を示す三角図である。
【
図6】
図6Aは、本実施形態に係るNi-Ti系合金のNi,Ti,Si原子の組成比の例を示す三角図である。
図6Bは、
図6Aにおける三角図の一部を拡大した図である。
【
図7】
図7Aは、第1の実施形態の吸発熱材料を示す概略図である。
図7Bは、第2の実施形態の吸発熱材料を示す概略図である。
図7Cは、第3の実施形態の吸発熱材料を示す概略図である。
【
図8】
図8Aは、本実施形態に係る熱交換デバイスの例を示す概略図である。
図8Bは、
図8Aにおける熱交換デバイスに荷重した状態の例を示す概略図である。
図8Cは、
図8Aにおける熱交換デバイスを引張した状態の例を示す概略図である。
【
図9】
図9A~
図9Dは、実施例1~4におけるNi-Ti-Si合金のDSC曲線を示す図である。
【
図17】
図17Aは、本実施形態に係るNi-Ti系合金の応力と歪みの関係の一例を示す図である。
図17Bは、本実施形態に係るNi-Ti系合金の温度変化に応じた熱的挙動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)概要
まず、Ni-Ti系合金の概要について説明する。
【0013】
特許文献1(特開2007-51339号公報)では、Ni-Ti系合金材料が超弾性効果を示すことについては開示されているが、弾性熱量効果については検討されておらず、その熱的挙動、応力的挙動は明らかにされていない点が多い。
【0014】
発明者らは、Ni-Ti合金の弾性熱量効果に着目し、独自に研究開発を進め、新たなNi-Ti系合金を見出した。
【0015】
すなわち、本実施形態に係るNi-Ti系合金(以下、「Ni-Ti-Si合金」という。)は、Ni原子と、Ti原子と、Si原子とを含有する。Ni-Ti-Si合金は、吸発熱特性を有する。なお、本開示において、「Ni-Ti合金」とは、Ni原子とTi原子とからなる合金をいう。本実施形態のNi-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金におけるNi原子とTi原子とのうちの少なくとも一方がSi原子に置換された構造を有する。
【0016】
本開示における「吸発熱特性」とは、相転移の際に吸熱又は発熱が生じる特性をいう。「吸発熱特性」には、温度変化に伴って相転移の際に吸熱又は発熱が生じる特性と、弾性変形に基づく相転移の際に吸熱又は発熱が生じる特性とが含まれる。本実施形態に係るNi-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金と類似の構造変化が起こりうるため、力が加えられると、相転移が生じ、相転移の際に周囲から熱を吸収(吸熱)したり、熱を放出(発熱)したりすることができる。すなわち、Ni-Ti-Si合金は、荷重による負荷と除荷とに基づく応力の変化に応じた弾性熱量効果を示しうる。本開示において、弾性熱量効果とは、物質が荷重による負荷と除荷とによって弾性変形して相転移する際に、発熱、又は吸熱する現象をいう。
【0017】
さらに、本実施形態のNi-Ti-Si合金は、環境温度の変化に応じて相転移し、それに伴って発熱及び吸熱するという吸発熱特性も有する。
【0018】
そして、本実施形態のNi-Ti-Si合金は、Si原子を含有することで、Ni-Ti合金とは異なる吸熱特性及び発熱特性を有する。具体的には、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金とは異なる温度(相転移温度)で吸発熱反応を示し、更にNi-Ti合金とは異なる発熱量、及び吸熱量を有する。これは、従来のNi-Ti合金におけるNi原子又はTi原子の一部をSi原子へと置換することにより、Ni-Ti-Si合金の結晶構造における原子間の結合エネルギーが変化するためであると考えられる。
【0019】
Ni-Ti-Si合金は、上記特性を利用して、吸発熱材料、加熱装置及び冷却装置等の熱交換機能を有する熱交換デバイスに好適に用いることができる。
【0020】
(2)詳細
以下、本実施形態に係るNi-Ti-Si合金、Ni-Ti-Si合金材料を含む吸発熱材料、及び熱交換デバイスについて、詳しく説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、以下に説明する実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。すなわち、以下の実施形態は、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0021】
[Ni-Ti-Si合金]
本実施形態Ni-Ti-Si系合金は、Ni原子と、Ti原子と、Si原子とを含有する。本実施形態のNi-Ti-Si合金は、Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の数の比をp:q:rとするとNipTiqSirで表される。ただし、p+q+r=1、0<p<1、0<q<1、及び0<r<1である。NipTiqSirにおいて、rは0.5以下であることが好ましい。すなわち、Ni-Ti-Si合金における総原子数に対するSi原子数の比は、0.5以下であることが好ましい。この場合、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金とは異なる吸発熱特性を有しうる。また、この場合、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金とは異なる超弾性特性を有しうる。なお、rが0.5以下であることは、後述の原子割合においてSiが50at%以下であることを意味する。
【0022】
本実施形態のNi-Ti-Si合金は、既に述べたとおり、吸発熱特性を有している。Ni-Ti-Si合金が温度変化に伴って相転移に基づく吸発熱が生じることは、例えば示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)装置による発熱量を測定することにより確認できる。例えば
図1Bに示すように、Ni-Ti-Si合金は、その結晶構造のマルテンサイト相が、昇温過程でオーステナイト相変態開始温度(As温度ともいう)に到達すると相転移(相変態)を開始して吸熱し始める。そして、Ni-Ti-Si合金は、オーステナイト相変態終了温度(Af温度ともいう)に到達するとオーステナイト相への変態が完了する。また、Ni-Ti-Si合金は、その結晶構造のオーステナイト相が、降温過程で、マルテンサイト相変態開始温度(Ms温度ともいう)に到達すると相変態を開始して発熱し始める。そして、Ni-Ti-Si合金は、マルテンサイト相変態終了温度(Mf温度ともいう)に到達するとマルテンサイト相への変態が完了する。このため、Ni-Ti-Si合金は、加熱することで結晶構造が変化することにより吸熱することができ、冷却することで加熱の場合とは異なった結晶構造に変化することにより放熱することができる。
【0023】
また、Ni-Ti-Si合金が弾性変形に伴って相転移に基づく吸発熱が生じることは、Ni-Ti-Si合金の荷重の負荷及び除荷による応力-ひずみ挙動、並びに温度変化による熱的挙動と、Ni-Ti合金の応力-ひずみ挙動及び熱的挙動とを対比することで確認することができる。
【0024】
ここで、Ni-Ti合金の応力-ひずみ挙動及び熱的挙動と、弾性変形による吸発熱特性との関係について、
図2A,B及び
図3A,Bを参照して説明する。
【0025】
図2A及び
図2Bは、Ni-Ti合金における断熱条件下での弾性熱量変化を示す冷却サイクルを示している。
図2Aには、応力と歪みとの関係を示す曲線、
図2Bには、温度とエントロピーとの関係を示す曲線の例を示す。
図2A及び
図2B中に示す番号の1~4は、断熱冷却サイクルにおける状態1~4を順に示した番号であり、
図2Aと
図2Bとで共通する。
【0026】
状態1では、Ni-Ti合金は、周囲温度がTE(環境温度)下にあり、オーステナイト相の結晶構造を有している。状態1にあるNi-Ti合金は、圧力が印加されることで歪みが生じ、オーステナイト相からマルテンサイト相への相転移を開始し、相転移に伴う発熱反応を生じて温度が上昇する(状態1から状態2)。Ni-Ti合金がマルテンサイト相への相転移を完了すると、発熱が終了し、Ni-Ti合金の温度は、TH(高温度)に到達する(状態2)。
【0027】
状態2にあるNi-Ti合金は、圧力(応力)を維持した状態で、周囲(例えば熱交換媒体)に熱を放出(放熱)することで、Ni-Ti合金の温度は、低下し始め、やがて温度TEに到達する(状態2から状態3)。状態3では、Ni-Ti合金は、周囲温度がTE(環境温度)下にあり、マルテンサイト相の結晶構造を有している。
【0028】
状態3にあるNi-Ti合金は、圧力を徐々に解除すると、歪みも徐々に小さくなり、マルテンサイト相からオーステナイト相への相転移を開始し、相転移に伴う吸熱反応を生じて温度が低下する(状態3から状態4)。Ni-Ti合金がオーステナイト相への相転移を完了すると吸熱が終了し、Ni-Ti合金の温度は、TL(低温度)に到達する(状態4)。
【0029】
状態4にあるNi-Ti合金は、圧力を解除した状態で、周囲(例えば熱交換媒体)の熱を吸収(吸熱)する事でNi-Ti合金の温度は上昇し、オーステナイト相からマルテンサイト相への相転移を開始する状態1に戻る。
【0030】
このように、Ni-Ti合金は、負荷及び除荷による応力変化に伴い、応力誘起の相転移を生じさせることができ、これにより弾性変形に伴って相転移に基づく吸発熱を生じる特性を有することが確認できる。
【0031】
一方、本実施形態に係るNi-Ti-Si合金も、
図1Aに示すように、Ni-Ti合金と同様の応力-歪み挙動を示す。さらに、
図1Bに示すように、本実施形態に係るNi-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金と同様の熱的挙動を示す。このため、Ni-Ti-Si合金は、負荷及び除荷による応力変化に伴い、応力誘起の相転移を生じさせることができる。これにより、Ni-Ti-Si合金は、弾性変形に伴って相転移に基づく吸発熱を生じる特性を有するといえる。すなわち、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金と同様に、弾性熱量効果を示すことが推察される。なお、
図1Aは、Ni-Ti-Si合金の、温度110℃における応力-歪み(σ-ε)曲線の一例を示す図である。
図1Bは、Ni-Ti-Si合金の、DSC装置により、昇温速度10℃/min、及び降温速度10℃/min、温度範囲-80℃~150℃の範囲内の条件でそれぞれ測定した熱的挙動を示したDSC曲線である。なお、DSC曲線における、縦軸は熱流(Heat Flow)[mW]、横軸は温度[℃]としている。
【0032】
また、
図2Aの状態1~2にわたって、印加された荷重(負荷)により歪みが生じて変形したNi-Ti合金は、状態3~4において除荷されることで徐々に歪みが小さくなり、次第に元の形状に回復するという形状記憶特性を示す。特に、加熱することなく圧力の解除だけで元の形状に回復すれば、超弾性を有する。本開示において、形状記憶特性とは、荷重を加えること(負荷)で変形させても、荷重を解除した後、加熱することにより、変形前の元の形状に回復する特性のことをいう。超弾性効果とは、荷重を加えること(負荷)で変形させ、荷重を解除すること(除荷)により、加熱しなくても、元の形状に回復する特性をいう。
【0033】
Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金と同様に、荷重による負荷と除荷に基づく応力に対して、形状記憶特性と超弾性効果とが得られやすい。従来のNi-Ti合金は、上述のとおり、例えば
図3Aに示すように、応力が上昇すると歪みが大きくなり、応力が低下すると歪みは次第に小さくなるものの、元の形状にまで戻らず、歪みが残留することがある。Ni-Ti合金における残留歪みは、負荷(応力)による変形の歪みの大きさが大きければ顕著となる。なお、Ni-Ti合金は、残留歪みは、加熱により解消され、元の形状に回復する(すなわち、歪みが約0%となる)という形状記憶特性を有している。これに対し、Ni-Ti-Si合金は、例えば
図1Aに示すように、与えられる荷重を大きくし、応力が上昇すると歪みも徐々に大きくなるが、荷重が解除され応力を低下させると、歪みは徐々に小さくなり、次第に歪みは約0%となり、元の形状に回復する。すなわち、Ni-Ti-Si合金は、与えた荷重(負荷)により変形させてから、荷重を解除(除荷)するだけで、加熱等しなくても、元の形状に戻すことができる超弾性効果が得られやすい。本実施形態のNi-Ti-Si合金は、
図3Aに示すように、例えば8%以上の歪みが生じても超弾性効果が得られやすい。これは、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金の結晶構造におけるNi原子とTi原子のサイトをSi原子で置換すること(置換)と、Ni原子とTi原子との隙間に入り込むこと(侵入)とのうちいずれか一方又は両方が生じることによって原子同士の間での変位が生じやすくなっているためと、推察される。このため、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金より大きな変形を生じさせても、元の形状に回復させることができるため、繰り返し利用が可能な材料に適用しやすい。特に、Ni-Ti-Si合金は、Af以上の温度で負荷により変形させてから除荷すると、超弾性効果が得られやすい。
【0034】
Ni-Ti-Si合金のより好ましい組成について、
図4A~
図5Bに示す三角図(三成分組成図)を参照して説明する。本開示では、三角図は、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸としてそれぞれを有し、すなわちNi-Ti-Si合金の総原子数を100、Ni原子、Ti原子、及びSi原子との原子組成百分比をx、y及びzとして、xyz座標軸における点(100,0,0)、点(0,100,0)、及び点(0,0,100)を頂点とする三角形で表される。三角図には、前記3つの頂点を結ぶ三辺を含む三角形の範囲内に、Ni原子の原子割合をx[at%]、Ti原子の原子割合をy[at%]、及びSi原子の原子割合をz[at%]とした場合、原子組成百分比(x,y,z)がプロットされる。例えば、点(30,35,35)は、Ni-Ti-Si合金の組成が、Ni原子割合30at%、Ti原子割合35at%、及びSi原子割合35at%であることを示す。また、三角図において複数の点を順に結ぶ複数本の線分で囲まれる範囲には、各点とその点と隣り合う点とを結ぶ各線分(すなわち複数本の直線)上の点も含まれる。
【0035】
Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、
図4Aに示すように、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(50,49,1)で示される点Aと座標(50,30,20)で示される点Dとを結ぶ線分、点Dと座標(20,60,20)で示される点Iとを結ぶ線分、点Iと座標(30,60,10)で示される点Jとを結ぶ線分、点Jと座標(40,55,5)で示される点Kとを結ぶ線分、点Kと座標(49,50,1)で示される点Lとを結ぶ線分、点Lと座標(49.5,49.5,1)で示される点Mとを結ぶ線分、及び点Mと点Aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることが好ましい。なお、点Aから点M、及び前記線分上の点も、前記の線分で囲まれた範囲内に含まれる。この場合、Ni-Ti合金とは異なる吸発熱特性を示す。Ni原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、点Aと座標(50,40,10)で示される点Cとを結ぶ線分、点Cと座標(40,40,20)で示される点Eとを結ぶ線分、点Eと点Iとを結ぶ線分、点Iと点Jとを結ぶ線分、点Jと点Kとを結ぶ線分、点Kと点Lとを結ぶ線分、点Lと点Mとを結ぶ線分、及び点Mと点Aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることがより好ましい。
【0036】
なお、
図4Aにおいて、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における座標(50,45,5)で示される点B、及び座標(50,40,10)で示される点Cは、点Aと点Dとを結ぶ直線上にある。また、座標(40,40,20)で示される点E、座標(35,45,20)で示される点F、座標(30,50,20)で示される点G、及び座標(25,55,20)で示される点Hは、点Dと点Iとを結ぶ直線上にある。
【0037】
Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、
図4Bに示すように、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における点A(50,49,1)と座標(49,48,3)で示される点Nとを結ぶ線分、点Nと座標(45,45,10)で示される点Oとを結ぶ線分、点Oと座標(35,45,20)で示される点Fとを結ぶ線分、点Fと(20,60,20)で示される点Iとを結ぶ線分、点Iと座標(30,60,10)で示される点Jとを結ぶ線分、及び点Jと点Aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることが更に好ましい。この場合、Ni-Ti合金の発熱量(約11J/g)よりも高い発熱量が得られる。このため、Ni-Ti-Si合金を吸発熱材料として用いると、Ni-Ti合金より吸発熱の効率を高めやすい。
【0038】
なお、
図4Bにおいて、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における座標(40,45,15)で示される点Pは、点Oと点Fとを結ぶ直線上にある。また、座標(30,50,20)で示される点Gは、点Fと点Iとを結ぶ線分上にある。
【0039】
Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、
図5Aに示すように、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における座標(49.5,49.5,1)で示される点Qと座標(47,50,3)で示される点Rとを結ぶ線分、点Rと座標(45,50,5)で示される点Sとを結ぶ線分、点Sと座標(40,50,10)で示される点Tとを結ぶ線分、点Tと座標(35,55,10)で示される点Uとを結ぶ線分、点Uと座標(40,55,5)で示される点Kとを結ぶ線分、点Kと座標(49,50,1)で示される点Lとを結ぶ線分、及び点Lと点Qとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることがより更に好ましい。この場合、Ni-Ti合金の発熱量(約11J/g)よりも更に高い発熱量が得られる。このため、Ni-Ti-Si合金を吸発熱材料として用いると、Ni-Ti合金よりも更に吸発熱の効率を高めやすい。
【0040】
また、Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、
図5Bに示すように、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における座標(49.5,49.5,1)で示される点Qと座標(50,45,5)で示される点Bとを結ぶ線分、点Bと座標(50,40,10)で示される点Cとを結ぶ線分、点Cと座標(50,30,20)で示される点Dとを結ぶ線分、点Dと座標(40,40,20)で示される点Eとを結ぶ線分、点Eと座標(48,49,3)で示される点Vとを結ぶ線分、及び点Vと点Qとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることも好ましい。この場合、Ni-Ti合金の発熱量(約11J/g)よりも低い発熱量であるが、低い相転移温度(特に、低いAf温度)が得られやすい。また、この場合、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金の原料となるNi金属及びTi金属を、より安価なSi原子に置き換えられることで、Ni-Ti合金に比して製造コストを低めやすい。
【0041】
また、Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子の組成比は、
図6A及び
図6Bに示すように、Ni原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(49.7,50,0.3)で示される点aと座標(49.5,50,0.5)で示される点bとを結ぶ線分、点bと座標(49.3,50,0.7)で示される点cとを結ぶ線分、点cと座標(49,50.2,0.8)で示される点dとを結ぶ線分、点dと座標(48.5,50,5.1)で示される点eとを結ぶ線分、点eと座標(45,52.5,2.5)で示される点fとを結ぶ線分、点fと座標(40,57.5.2.5)で示される点gとを結ぶ線分、点gと座標(40,59.5.0.5)で示される点hとを結ぶ線分、点hと座標(44.5,55,0.5)で示される点iとを結ぶ線分、及び点iと点aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にあることが好ましい。なお、点aから点i、及び前記線分上の点も、前記の線分で囲まれた範囲内に含まれる。この場合、Ni-Ti合金とは異なる吸発熱特性を示す。具体的には、この場合、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金の発熱量(約11J/g)よりも高い発熱量が得られる。このため、Ni-Ti-Si合金を吸発熱材料として用いると、Ni-Ti合金より吸発熱の効率を特に高めやすい。点j(48,51,1)は、前記線分で囲まれた範囲内にある。
図6Bは、
図6Aの三角図におけるTi:40at%と60at%とを結ぶ線分と、Si:0at%と3at%とを結ぶ線分と、これらに平行な線分とで形成される平行四辺形で示す部分を拡大した図である。
【0042】
[Ni-Ti-Si合金の製造方法]
本実施形態におけるNi-Ti-Si合金の製造方法は、混合工程と、アーク放電工程とを含む。混合工程では、Ni粉末と、Ti粉末と、Si粉末とを混合する。アーク放電工程では、混合工程で得た混合物を不活性ガス雰囲気下でアーク放電に曝露する。この場合、優れた弾性熱量効果を有し、かつ吸発熱特性にも優れるNi-Ti-Si合金が得られやすい。また、本製造方法によれば、固相反応で製造する場合に比して、Ni-Ti-Si合金に含まれうる原子が均一に混合されやすい。さらに、本製造方法では、より短い時間でNi-Ti-Si合金を合成することができるため、Ni-Ti-Si合金の生産効率を向上させうる。
【0043】
本実施形態のNi-Ti-Siの合金の製造方法について、例を示して具体的に説明する。
【0044】
(混合工程)
まず、金属ニッケル、金属チタン、及び金属シリコンを用意する。金属ニッケル、金属チタン、及び金属シリコンの性状は特に制限されないが、それぞれいずれも粉末であってよい。金属ニッケル、金属チタン、及び金属シリコンを、目的の組成比となるように秤量して混合し混合物を調製する。この混合物を、成形ダイス(8mmφ)により、適宜の圧力でペレット化し、混合物のペレットを得る。ペレット化の圧力条件は、例えば60MPaである。なお、ペレット化の条件は、前記に限らず、適宜調整可能である。また、混合工程において、ペレット化することは必須の構成ではなく、混合物の状態で他の工程に用いてもよい。
【0045】
(アーク放電工程)
続いて、作製した混合物、又はペレットを真空チャンバ内に入れ、アルゴンガス雰囲気下で、ガス圧を約0.1MPaに設定し、アーク放電に曝露させる。これにより、ペレットを焼成する。アーク放電に曝露させる時間は、適宜調整すればよいが、例えば10秒間以上であってよい。焼成したサンプルを裏返し、更に上記と同様の条件で、アーク放電に曝露させながら、焼成する。この操作を3~4回繰り返して焼成物を得る。これにより、Ni-Ti-Si合金を得ることができる。なお、アーク放電工程における、条件は前記に限らない。例えば雰囲気は、適宜の不活性ガスであってもよく、ガス圧も適宜調整可能である。アーク放電工程における、焼成の回数も、前記に限らず適宜調整すればよい。
【0046】
(加熱焼成工程)
得られた焼成物は、更に加熱焼成してもよい。例えば、上記焼成物を石英管内に入れ、真空度10-4Paとなるまで減圧して真空封管し、石英管を電気炉内に入れ、電気炉の温度を約900℃とし、大気条件下で、24時間加熱する。24時間経過後、放冷し、石英管から生成物を取出す。これにより、Ni-Ti-Si合金が得られる。加熱時及び冷却時の条件は、上記に限られず、適宜の加熱温度、加熱時間、冷却温度、及び冷却時間とすればよい。
【0047】
上記製造方法では、Ni-Ti-Si合金におけるNi原子、Ti原子、及びSi原子以外の、不可避的不純物の割合は、0.10%以下とすることができる。
【0048】
Ni-Ti-Si合金の組成は、SEM/EDX(Scanning Electron Microscope / Energy Dispersive X-ray Spectroscope(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光器)により測定されるスペクトルからピーク及びピーク面積により確認できる。Ni-Ti-Si合金の構造は、粉末X線回折測定法により確認できる。
【0049】
なお、Ni-Ti-Si合金の製造方法は、上記の方法及び工程に限られず、実質的に同一の組成を有するNi-Ti-Si合金を作製できれば、適宜の方法及び工程を含んでもよいし、又は省略してもよい。例えば、アーク放電に代えて、混合物のペレットを加熱溶融により溶融させてから、溶融させた混合物を焼成することによってNi-Ti-Si合金を作製してもよい。
【0050】
[吸発熱材料]
上記で説明したNi-Ti-Si合金は、吸発熱材料1として利用可能である。本実施形態の吸発熱材料は、Ni-Ti-Si合金を含有する。なお、Ni-Ti-Si合金は、単独で吸発熱材料1として用いてもよい。
【0051】
吸発熱材料1におけるNi-Ti-Si合金の形状は、特に制限されないが、例えば粉体状、粒状(粒子状)、塊状、線状(ワイヤ状)、球状、多角柱状、円柱状、多孔質状等であってよい。吸発熱材料1におけるNi-Ti-Si合金の形状が粉体状、粒状、塊状、又は多孔質状のうちのいずれかであると、吸発熱材料1から作製される吸発熱部材100と熱媒体120との接触面積が増加しうる。このため、熱交換デバイス200における熱伝達を向上させることができる。
【0052】
吸発熱材料1の形状が、例えば線状である場合には、加工してばね状に形成されていてもよい。吸発熱材料1がばね状であると、吸発熱材料1に負荷を与えやすく、また除荷もしやすいため、容易に吸発熱材料1から熱を取り出したり、吸発熱材料1に熱を吸収させたりしやすい。
【0053】
吸発熱材料1は、Ni-Ti-Si合金と、Ni-Ti-Si合金に混合される混合成分2を更に含有することが好ましい。この場合、より容易に吸発熱材料1から熱を取り出したり、吸発熱材料1に熱を吸収させたりしやすくできる。
【0054】
混合成分2は、適宜の材料であってよい。混合成分2の形状は、特に制限されず、適宜の形状に加工して、又は無加工で用いることができる。
【0055】
以下、
図7A~
図7Cを参照して、吸発熱材料1のより具体的な例について説明する。ただし、吸発熱材料1の形態は以下の形態に限られない。
【0056】
図7Aに示す吸発熱材料1(11)は、Ni-Ti-Si合金と、Ni-Ti-Si合金と混合される混合成分2として樹脂成分21と、を含有している。例えば、本実施形態の吸発熱材料11は、樹脂成分21にNi-Ti-Si合金の粉末10(10a)が分散している。具体的には、吸発熱材料11は、Ni-Ti-Si合金の粉末10aと、樹脂成分21とを含有する混合物を適宜の形状に成形した成形体である。
【0057】
本実施形態の吸発熱材料11は、上記のNi-Ti-Si合金を含有するため、荷重による応力変化に基づいて、吸熱及び発熱することができる。
【0058】
樹脂成分21は、適宜の1種又は2種以上の樹脂であってよい。樹脂成分21には、適宜の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、シリコン樹脂等の無機重合体が含まれる。ただし、樹脂成分21は、前記に限られない。
【0059】
吸発熱材料11は、Ni-Ti-Si合金、及び樹脂成分21以外の他の成分、例えば適宜の添加剤等を含有してもよい。
【0060】
吸発熱材料11の形状は、特に制限されず、適宜の形状に加工してもよい。例えば、吸発熱材料11の例えば板状、線状(ワイヤ状)、ばね状、球状等であってよい。吸発熱材料11が厚みを有する場合、その厚みの下限は、例えば10μmである。吸発熱材料11が径を有する場合、その径の下限は、例えば10μmである。なお、第1の実施形態の吸発熱材料11に含まれるNi-Ti-Si合金は、粉末10aに限らず、粒子状(粒子10b)であってもよく、その他の形状であってもよい。
【0061】
図7Bに示す吸発熱材料1(12)は、混合成分2にNi-Ti-Si合金の粒子10(10b)が付着して構成されている。より具体的には、混合成分2が、繊維状の形状を有しており、その繊維状の混合成分2(22)の表面又は内部に、Ni-Ti-Si合金の粒子10bが付着している。本実施形態の吸発熱材料12も、上記で説明した吸発熱材料11と同様、Ni-Ti-Si合金を含有するため、荷重による応力変化に基づいて、吸熱及び発熱する特性を有しうる。また、この場合も、吸発熱材料12から作製される吸発熱部材100と熱媒体120等との接触面積が増加しうる。このため、熱交換デバイス200における熱伝達を向上させることができる。
【0062】
繊維状の混合成分22は、繊維状に成形されたものであれば特に制限されず、例えば織布、及び不織布であってよい。また、繊維状の混合成分22は、例えば上記の樹脂成分21を繊維状に作製することで混合成分2(22)として用いてもよい。
【0063】
図7Bでは、Ni-Ti-Si合金は、粒子10bで示されているが、これに限らず、繊維状の混合成分22に結合させることができるのであれば、粉末10aであってもよく、その他の形状であってもよい。
【0064】
図7Cに示す吸発熱材料1(13)は、混合成分2を媒体23として、媒体23中にNi-Ti-Si合金の粉末10a又は粒子10bを分散させることで構成されている。本実施形態の吸発熱材料13も、上記吸発熱材料11(12)と同様、上記のNi-Ti-Si合金を含有するため、荷重による応力変化に基づいて、吸熱及び発熱する。
【0065】
図7Cでは、吸発熱材料13は、容器5内に収められている。なお、
図7Cでは、容器5が円筒形状で形成されているが、これに限定されず、例えば媒体23及び粉末10aが容器5内を流動可能に構成することができる。ただし、吸発熱材料13において、容器5は必須の構成ではない。
【0066】
媒体23としては特に制限されないが、例えば流体である。流体は、液体であってもよく、気体であってもよく、液体と気体との混合体であってもよい。すなわち、流体には、液体と気体との少なくとも一方が含まれる。流体は、液体としては水、有機溶剤などの溶剤、石油系の液体燃料、作動油等を含み、気体としては、例えば空気、窒素、酸素、アルゴン、並びにメタン、プロパン、アセチレン、水素、及び天然ガス等の気体燃料を含む。したがって、媒体23は、上記から選択される液体及び気体からなる群から選択される少なくとも一種の流体を含む。
図7Cに示す吸発熱材料13において、媒体23は、液体である。
【0067】
上記の説明では、Ni-Ti-Si合金からなる吸発熱材料1(11,12,13)を、それぞれ単独で用いる場合を説明したが、吸発熱材料1の吸発熱部材100への適用はこれに限られず、適宜の吸発熱材料1を組み合わせて吸発熱部材100を構成してもよい。
【0068】
[熱交換デバイス]
上記で説明したNi-Ti-Si合金、及び吸発熱材料1は、既に述べたとおり弾性熱量効果を示すため、吸発熱材料1に荷重を加えたり、吸発熱材料1から荷重を取り除いたりなどといった荷重による応力変化に伴う吸発熱材料1の弾性熱量効果を利用することで、熱交換デバイス200における熱交換機構を実現できる。
【0069】
本実施形態の熱交換デバイス200は、吸発熱部材100と、吸発熱部材100を収容する収容部材110とを備える。吸発熱部材100は、上記の吸発熱材料1を含む。熱交換デバイス200では、収容部材110内を通過する熱媒体120と、吸発熱部材100との間で、熱交換を生じさせることができる。例えば、熱交換デバイス200において、熱媒体120が収容部材110内を移動する際に、収容部材110内に配置される吸発熱部材100で生じる発熱、又は吸熱により熱媒体120と吸発熱部材100との間で熱交換が生じる。これにより、熱媒体120は、収容部材110内に供給される前よりも、その温度が上昇し、又は低下した状態で、熱交換デバイスにおける収容部材110から外部へ排出される。
【0070】
熱媒体120は、吸発熱部材100との間で熱の授受を行いうる。熱媒体120としては、適宜の熱媒、冷媒であってよい。熱媒体120は、例えば液体及び気体からなる群から選択される少なくとも一種の流体を含む。液体としては水、有機溶剤などの溶剤、石油系の液体燃料、作動油等を含み、気体としては、例えば空気、窒素、酸素、アルゴン、並びにメタン、プロパン、アセチレン、水素、及び天然ガス等の気体燃料を含む。熱媒体120は、熱交換デバイス200から排出されると、周囲の温度を上昇させたり、低下させたりすることができる。
【0071】
熱交換デバイス200における、吸発熱部材100の変形は、吸発熱部材100のみを直接変形させてもよいし、収容部材110全体を変形させることで吸発熱部材100を間接的に変形させてもよい。例えば、間接的に変形させるには、収容部材110が弾性を有する材料で形成され、収容部材110全体を弾性変形させる際に、内部の圧力変化を生じ内圧が下がる(断熱圧縮される)こと、又は内圧が上がる(断熱膨張される)ことで、間接的に吸発熱部材100に応力変化が生じて、吸発熱部材100が変形してもよい。
【0072】
上記のとおり、吸発熱部材100は加熱部材としても冷却部材としても機能しうるため、熱交換デバイス200は、例えば加熱機能と冷却機能とのうちいずれか一方又は両方を有することができる。すなわち、熱交換デバイス200は、加熱装置と冷却装置とのうちいずれか一方又は両方とすることができる。加熱装置は、吸発熱部材100に圧力(歪み)を加えることで発熱させ、その熱を熱媒体120に伝達する。これにより、加熱装置では、例えば周囲の温度、又は媒体の温度を上昇させることができる。冷却装置は、吸発熱部材100を予め変形させた状態で配置し、変形を元に戻すために除荷することで、熱媒体120から熱を吸収する。これにより、冷却装置では、例えば周囲の温度、又は媒体の温度を低下させることができる。
【0073】
熱交換デバイス200のより具体的な形態について、
図8A~
図8Cを参照して説明する。
【0074】
図8Aにおける熱交換デバイス200は、第1の支持部材201と、第2の支持部材202と、吸発熱部材100と、を備える。吸発熱部材100は、第1の支持部材201及び第2の支持部材202の間に介在し、かつ第1の支持部材201と第2の支持部材202との少なくとも一方から荷重を受けることで変形可能に構成されている。
【0075】
第1の支持部材201及び第2の支持部材202は、吸発熱部材100を支持する部材である。第1の支持部材201と第2の支持部材202とは、吸発熱部材100の応力変化による荷重を与える。第1の支持部材201及び第2の支持部材202は、吸発熱部材100を支持可能であれば、特に制限されず、適宜の材料で作製すればよい。
【0076】
図8Aでは、熱交換デバイス200において、収容部材110内に、第1の支持部材201と、第2の支持部材202と、これらの間に介在する吸発熱部材100とが納められている。これにより、
図8Aに示す熱交換デバイス200は、例えば第1の支持部材201と第2の支持部材202とのうちの一方が外部から荷重を受けると、吸発熱部材100を変形させることができる。吸発熱部材100は、荷重を受けてその形状が変形すると、吸発熱部材100の変形に応じて発熱又は吸熱し、吸発熱部材100周囲に存在する熱媒体120に熱を放熱したり、又は熱媒体120から熱を吸収したりすることができる。
【0077】
吸発熱部材100は、
図8A~
図8Cでは線状(ワイヤ状)に形成されている。吸発熱部材100は、第1の支持部材201と第2の支持部材202とのうち少なくとも一方から荷重を受けることで、収縮したり、引張したりして変形が生じる(例えば
図8B及び
図8C参照)。なお、
図8Aでは、3本のワイヤ状の吸発熱部材100を備えて構成されているがこれに限られず、形状、本数等は適宜調整すればよい。
【0078】
収容部材110は、
図8A~
図8Cでは、中空を有する円柱形状に形成されているが、これに限らず、収容部材110の形状は、吸発熱部材100を収容可能に構成されていれば、適宜の形状、材質、及び構造等は、特に制限されない。
【0079】
熱交換デバイス200を加熱装置として用いる場合、例えば以下のように熱交換を実現することができる。
【0080】
まず、熱交換デバイス200において、
図8Aに示すように、吸発熱部材100に荷重が加わっていない状態で、
図8Bに示すように、第1の支持部材201に荷重をかける。これにより、第1の支持部材201と第2の支持部材202との間にある吸発熱部材100に荷重が伝わり、吸発熱部材100に変形が生じる。
【0081】
吸発熱部材100が変形することで、吸発熱部材100の発熱により収容部材110内を通過する熱媒体120に熱を与え、熱媒体120の温度を上げることができる。このようにして加熱機構を実現できる。なお、吸発熱部材100の変形は
図8Bのような圧縮変形に限らず、
図8Cのような膨張変形をさせてもよい。
【0082】
熱交換デバイス200を冷却装置として用いるには、例えば以下のように熱交換を実現することができる。
【0083】
吸発熱部材100を、
図8Aの状態から予め変形させておき、その際に生じる熱を取り除いた状態で、収容部材110内部に配置する。この状態で熱媒体120を、収容部材110を通過させて熱媒体120と、吸発熱部材100との熱交換を行う。具体的には、
図8Bに示すように、荷重をかけて吸発熱部材100を変形させた状態を初期状態として、熱媒体120を通過させる。熱媒体120を通過させながら、吸発熱部材100への荷重を解除することで、吸発熱部材100の歪みを徐々に解消させ、変形を徐々に戻す。この際に、吸発熱部材100は、吸熱を生じることで、熱媒体120から熱を奪う。これにより、熱媒体120の温度を下げることができる。このようにして、冷却機構を実現できる。なお、吸発熱部材100の変形は、上記加熱機構の場合と同様に、
図8Bのような圧縮変形に限らず、
図8Cのような膨張変形をさせてもよい。吸発熱部材100に荷重をかけて変形させる際に生じる発熱は、適宜排熱機構等を設けるなどして、熱交換デバイス200外に排出してもよい。
【0084】
吸発熱部材100の変形が徐々に元の形状に戻り、吸熱が完了すると、吸発熱部材100は、
図8Aの状態に戻るため、再度吸熱のために熱交換を行うには、吸発熱部材100は、荷重をかけて変形させた状態にしてから熱媒体120を供給すればよい。また、吸発熱部材100は、変形の際に発熱が生じるため、熱媒体120を加熱しない場合は、収容部材110から熱媒体120を除いておくことが好ましい。変形させることで
図8Bの状態にしておくことで、上記と同じ順で、吸発熱部材100の変形を戻していくことで、熱媒体120と吸発熱部材100との間で熱交換が起こり、吸発熱部材100が熱媒体120から熱を奪い、熱媒体120を冷却する。
【0085】
(変形例)
熱交換デバイス200は、適宜の装置(不図示)を備えていてもよい。例えば、熱交換デバイス200は、加圧装置を備えることができる。加圧装置は、例えば熱交換デバイス200における第1の支持部材201若しくは第2の支持部材202、又はこれらの両方に負荷を与えたり、負荷を取り除いたり(除荷したり)することができるように構成されている装置である。熱交換デバイス200は、加圧装置を備えると、吸発熱部材100を効率よく変形させることができるため、熱媒体120との熱交換をより効率にすることができる。なお、加圧装置は、熱交換デバイス200における収容部材110内を流動する熱媒体120の流動性を高めるために用いられてもよい。
【0086】
熱交換デバイス200は、収容部材110に連結する複数の流路を備えてもよい。流路は、例えば長さを有し、管状に形成されている。複数の流路は、例えば熱媒体120の供給経路、排出流路等として利用可能である。
【0087】
熱交換デバイス200における収容部材110は、断熱材で覆われていてもよい。この場合、熱交換デバイス200の外部との熱のやり取りを低減し、熱交換機能を高めることができる。
【実施例】
【0088】
以下、本開示を実施例によって、更に詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0089】
[Ni-Ti-Si合金の合成]
金属ニッケル粉末(最大粒径63μm、純度99.9%)、金属チタン粉末(最大粒径45μm、純度99.9%)、及び金属シリコン粉末(最大粒径45μm、純度99.9%)を、表1及び表2に示す割合となるように混合し混合物(1.6g~2.0g)を調製した。なお、比較例1では、金属ニッケル粉末(最大粒径63μm、純度99.9%)と金属チタン粉末(最大粒径45μm、純度99.9%)とを、50at%:50at%の比になるように混合し混合物を調製した。
【0090】
調製した混合物を、成形ダイス(8mmφ)により、圧力60MPa下でペレット化して混合物のペレットを得た。続いて、ペレットを真空チャンバ内に入れ、アルゴンガス雰囲気下で、ガス圧を約0.1MPaに設定し、アーク放電に曝露させながら、約10秒間加熱焼成した。焼成したサンプルを裏返し、更に上記と同様の条件で、アーク放電に曝露させながら、加熱焼成した。この操作を3~4回繰り返して焼成物を得た後、焼成物を石英管内に入れ、真空度10-4Paとなるまで減圧して真空封管し、石英管を電気炉内に入れた。電気炉の温度を900℃とし、大気条件下で、24時間加熱した。24時間経過後、放冷し、石英管から生成物を取出した。
【0091】
これにより、表1及び表2に示す組成のNi-Ti-Si合金を得た。得られたNi-Ti-Si合金の組成は、SEM/EDX(Scanning Electron Microscope / Energy Dispersive X-ray Spectroscope)(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光器)により測定されるスペクトルからピーク及びピーク面積により確認した。また、得られたNi-Ti-Si合金の構造は、粉末X線回折測定を行うことにより確認し、室温でマルテンサイト相であった。なお、いずれの実施例のNi-Ti-Si合金も、不可避的不純物原子の合計は0.1at%以下であった。
【0092】
[Ni-Ti-Si合金の評価]
(DSC測定(熱的挙動))
上記で得られたNi-Ti-Si合金(実施例1~30)の粉末を、DSC装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製 型番DSC7020)により、温度範囲を-80℃から150℃、N
2ガスを60mL/minで流し、昇温時は昇温速度10℃/min、降温時は降温速度10℃/minの条件で熱量変化を測定した。これにより得られたDSC曲線を、
図1B、
図3B、及び
図9A~
図16Bに示す。また、DSC曲線からMs温度、発熱量、Af温度、吸熱量を読み取り、下記表1及び表2に示した。
【0093】
【0094】
上記DSC曲線の結果にも示されるように、Ni-Ti-Si合金は、いずれも
図3Bに示す比較例1のNi-Ti合金(Ni:Ti=0.5:0.5)と同様、昇温過程で吸熱反応を示し、かつ降温過程で発熱反応を示した。このため、実施例1~30のNi-Ti-Si合金は、温度サイクルにおいて繰り返し吸発熱反応が可能であることが示された。
【0095】
特に、実施例1,3,4,6,7,9,10,13~30のNi-Ti-Si合金は、比較例1のNi-Ti合金よりも高い発熱量を示すことがわかった。また、実施例1,3,4,6,7,9,10,13~17,19,20~30のNi-Ti-Si合金は、比較例1のNi-Ti合金よりも高い吸熱量を示すことがわかった。
【0096】
一方、実施例2,5,8,11のNi-Ti-Si合金は、比較例1のNi-Ti合金よりも低い発熱量であったが、比較例1のNi-Ti合金よりも低い温度で発熱と吸熱とのうち少なくとも一方が生じることが示唆された。このため、Ni-Ti合金に比べて、より低い温度での吸熱及び発熱を実現しうることが示唆された。
【0097】
(応力-歪み挙動)
上記で作製した比較例1(Ni:Ti=0.5:0.5)の合金について、幅3mm、長さ29mm、厚さ0.06mmの試験片を作製し、試験片に対し万能試材料試験機(インストロン製の型番5565)により、測定温度を室温、最大荷重185N、引張速度1mm/minの条件で、引張試験を行った。また、上記で作製した実施例9(Ni:Ti:Si=0.4:0.5:0.1)の合金について、幅2mm、長さ4mm、厚さ2mmの試験片を作製し、試験片に対し精密万能試験機(株式会社島津製作所製の型番AGS-X)により、測定温度110℃、最大荷重5kN、圧縮速度0.5mm/minの条件で、加熱圧縮試験を行った。これにより、得られた結果として、応力-歪み曲線を
図1A(実施例9)及び
図3A(比較例1)に示した。
【0098】
また、上記で作製した実施例25(Ni:Ti:Si=0.485:0.505:0.01)の合金について、幅2mm、長さ4mm、厚さ2mmの試験片を作製し、試験片に対し精密万能試験機(株式会社島津製作所製の型番AGS-X)により、測定温度40℃、最大荷重1.45kN、圧縮速度0.5mm/minの条件で、加熱圧縮試験を行った。これにより、得られた結果として、応力-歪み曲線を
図17A(実施例25)に示した。
【0099】
比較例1のNi-Ti合金では、
図3Aに示すように、Ni-Ti合金に与えられる荷重(応力)が上昇すると、変形し、歪みも上昇するが、応力が約1000MPaで歪みが約3.5%で最大となる。歪みが約3.5%の時点から、Ni-Ti合金に与えられる荷重を解除し、応力が低下すると、歪みも徐々に低下し、変形が回復し元の形状に近い形に戻る。しかし、
図3Aに示されるように、応力が0MPaとなっても、Ni-Ti合金の歪みは、約1.1%程度の歪み(残留歪み)が残存しており、荷重を解消しただけでは完全には元の形状には戻らなかった。なお、Ni-Ti合金に残存した残留歪みは、少なくとも50℃まで加熱することで歪みが解消され、Ni-Ti合金は元の形状に回復した。
【0100】
一方、実施例9のNi-Ti-Si合金では、
図1Bに示すように、Ni-Ti-Si合金に与えられる荷重が上昇すると、変形し、緩やかに歪みが上昇する。そして、Ni-Ti-Si合金では、約1200MPaまで応力が上昇し、約8.5%もの歪みが生じても弾性限界とはならず、応力が徐々低下すると、それに伴い歪みも低下し、応力が0MPaとなると、歪みも次第に0%となり、元の形状に戻るといった超弾性を示した。
【0101】
また、実施例25のNi-Ti-Si合金では、
図17Aに示すように、Ni-Ti-Si合金に与えられる荷重が上昇すると、変形し、緩やかに歪みが上昇する。そして、Ni-Ti-Si合金では、約350MPaまで応力が上昇し、約2.5%の歪みが生じても弾性限界とはならず、応力が徐々に低下すると、それに伴い歪みも低下し、応力が0MPaとなると、歪みも次第に0%となり、元の形状に戻るといった超弾性を示した。
【0102】
実施例9及び25以外の実施例も、実施例9及び25と同様の応力-歪み曲線が確認され、このため、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金に比して優れた超弾性効果を示すことが示唆された。
【0103】
また、上記「DSC測定(熱的挙動)」と「応力-歪み挙動」の結果から、Ni-Ti-Si合金は、応力に応じて相転移可能であり、相転移の際に吸熱、又は発熱が生じることがわかった。これにより、Ni-Ti-Si合金が、弾性熱量効果を発現することが示唆された。
【0104】
【0105】
【0106】
[まとめ]
以上説明したように、本開示の第1の態様に係るNi-Si系合金は、Ni原子と、Ti原子と、Si原子とを含有する。Ni-Ti系合金は、吸発熱特性を有する。
【0107】
この態様によれば、Ni-Ti合金とは異なる吸熱特性及び発熱特性を示すことができる。これにより、吸発熱材料、加熱装置及び冷却装置等の熱交換機能を有する熱交換デバイスに好適に用いることができる。
【0108】
第2の態様に係るNi-Ti系合金は、第1の態様において、超弾性特性を有する。
【0109】
この態様によれば、Ni-Ti系合金は繰り返し利用が可能な材料に適用しやすい。
【0110】
第3の態様に係るNi-Ti系合金は、第1又は第2の態様において、Ni-Ti系合金の原子全量に対するSi原子の割合は、50at%以下である。
【0111】
この態様によれば、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金とは異なる吸発熱特性を有することができる。また、この場合、Ni-Ti-Si合金は、Ni-Ti合金とは異なる超弾性特性を有しうる。
【0112】
第4の態様に係るNi-Ti系合金は、第1から第3の態様のいずれか一つにおいて、Ni原子、Ti原子、及びSi原子の組成比がNi原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(50,49,1)で示される点Aと座標(50,30,20)で示される点Dとを結ぶ線分、点Dと座標(20,60,20)で示される点Iとを結ぶ線分、点Iと座標(30,60,10)で示される点Jとを結ぶ線分、点Jと座標(40,55,5)で示される点Kとを結ぶ線分、点Kと座標(49,50,1)で示される点Lとを結ぶ線分、点Lと座標(49.5,49.5,1)で示される点Mとを結ぶ線分、及び点Mと点Aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にある。
【0113】
この態様によれば、Ni-Ti合金とは異なる吸発熱特性を有するNi-Ti-Si合金が得られる。
【0114】
第5の態様に係るNi-Ti系合金は、第1から第3の態様のいずれか一つにおいて、Ni原子、Ti原子、及びSi原子の組成比がNi原子の原子数%をx軸、Ti原子の原子数%をy軸、Si原子の原子数%をz軸にそれぞれ示す三角図における、座標(49.7,50,0.3)で示される点aと座標(49.5,50,0.5)で示される点bとを結ぶ線分、点bと座標(49.3,50,0.7)で示される点cとを結ぶ線分、点cと座標(49,50.2,0.8)で示される点dとを結ぶ線分、点dと座標(48.5,50.5,1)で示される点eとを結ぶ線分、点eと座標(45,52.5,2.5)で示される点fとを結ぶ線分、点fと座標(40,57.5,2.5)で示される点gとを結ぶ線分、点gと座標(40,59.5,0.5)で示される点hとを結ぶ線分、点hと座標(44.5,55,0.5)で示される点iとを結ぶ線分、及び点iと点aとを結ぶ線分で囲まれた範囲内にある。
【0115】
この態様によれば、Ni-Ti合金よりも高い吸発熱量を示すNi-Ti-Si合金が得られる。
【0116】
第6の態様に係る吸発熱材料(1)は、第1から第5の態様のいずれか一つのNi-Ti系合金を含有する。
【0117】
この態様によれば、Ni-Ti合金とは異なる吸熱特性及び発熱特性を示すことができる。これにより、加熱装置及び冷却装置等の熱交換機能を有する熱交換デバイスに好適に用いることができる。
【0118】
第7の態様に係る吸発熱材料(1)は、第6の態様において、混合成分(2)を更に含有する。
【0119】
この態様によれば、より容易に吸発熱材料(1)から熱を取り出したり、吸発熱材料(1)に熱を吸収させたりしやすくできる。
【0120】
第8の態様に係るNi-Ti系合金の製造方法は、混合工程と、アーク放電工程とを含む。混合工程は、Ni粉末と、Ti粉末と、Si粉末とを混合して混合物を得ることを含む。アーク放電工程は、混合物を不活性ガス雰囲気下でアーク放電に曝露することを含む。
【0121】
この態様によれば、優れた弾性熱量効果を有し、かつ吸発熱特性にも優れるNi-Ti-Si合金が得られやすい。また、本製造方法によれば、固相反応で製造する場合に比して、Ni-Ti-Si合金に含まれうる原子が均一に混合されやすい。
【0122】
第9の態様に係る熱交換デバイス(200)は、吸発熱部材(100)と、吸発熱部材(100)を収容する収容部材(110)と、を備える。吸発熱部材(100)は、第6又は第7の態様の吸発熱材料(1)を含む。
【0123】
この態様によれば、吸発熱材料(1)に荷重を加えたり、吸発熱材料(1)から荷重を取り除いたりなどといった荷重による応力変化に伴う吸発熱材料(1)の弾性熱量効果を利用することで、熱交換デバイス(200)における熱交換機構を実現できる。
【0124】
第10の態様に係る熱交換デバイス(200)は、第9の態様において、第1の支持部材(201)と、第2の支持部材(202)と、を更に備える。吸発熱部材(100)は、第1の支持部材(201)及び第2の支持部材(202)との間に介在し、かつ第1の支持部材(201)と第2の支持部材(202)との少なくとも一方から荷重を受けることで変形可能に構成されている。
【0125】
この態様によれば、より熱効率に優れた熱交換デバイス(200)が実現できる。
【符号の説明】
【0126】
1 吸発熱材料
2 混合成分
100 吸発熱部材
110 収容部材
120 熱媒体
200 熱交換デバイス
201 第1の支持部材
202 第2の支持部材