(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】SMG1タンパク質の安定化方法、SMG1阻害剤のスクリーニング方法及びSMG1阻害剤
(51)【国際特許分類】
C12N 9/96 20060101AFI20241122BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241122BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241122BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20241122BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20241122BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20241122BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241122BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241122BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C12N9/96
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
A61K31/506
A61K31/343
A61K31/519
A61P35/00
A61P43/00 111
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2020114180
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 暁朗
(72)【発明者】
【氏名】大野 茂男
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/120991(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/002295(WO,A1)
【文献】特開2019-073466(JP,A)
【文献】Genes and Development,2009年,Volume 23,pp. 1091-1105
【文献】Nucleic Acids Research,2015年,Volume 43, Number 15,pp. 7600-7611
【文献】European Journal of Medicinal Chemistry,2015年,Volume 105,pp. 171-181
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences,1998年,Volume 87, Number 12,pp. 1597-1603
【文献】Journal of Pharmaceutical Sciences,2008年,Volume 97, Number 8,pp. 2924-2935
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00-9/99
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体を、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で
30分間以上維持することを含む、SMG1タンパク質の安定化方法。
【請求項2】
前記タンパク質複合体がSMG1とSMG9の複合体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリソルベート型非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリルエーテルである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で、SMG9と複合体化したSMG1タンパク質をSMG1阻害剤候補の化合物と
60分間~240分間接触させ、SMG1のキナーゼ活性を測定する工程、及び
SMG1のキナーゼ活性の低下が認められた化合物を選択する工程
を含む、SMG-1阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記SMG1タンパク質を、複数の前記SMG1阻害剤候補の化合物を含むライブラリーと接触させる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
下記のいずれかの構造を有する
化合物と、
SMG1を接触させることを含む、SMG1
の阻害
方法。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SMG1タンパク質の安定化方法、SMG1阻害剤のスクリーニング方法及びSMG1阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼSMG1はNMD(nonsense-mediated mRNA decay)経路の律速酵素であり、がん免疫の誘導や、遺伝性疾患の改善を目指す薬の標的タンパク質として注目されている。
【0003】
NMDの抑制は、がん細胞の異常遺伝子由来のがん特異抗原の発現誘導を介して、がん免疫を誘導する(非特許文献1)。NMDの抑制は放射線感受性を亢進する(非特許文献2)。NMDの抑制はがん細胞の増殖を抑制する(非特許文献3)。つまり、NMDの抑制は、制癌作用を期待できる。また、遺伝性の希少疾患に関して、NMDの抑制が症状を改善する可能性が提示されている(非特許文献4)。このように、NMDは創薬標的としての可能性を秘めている。
【0004】
これまでにSMG1阻害剤が報告されている(非特許文献5)が、このSMG1阻害剤はmTORも阻害するので、SMG1に特異的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pastor F., Nature, volume 465, pages 227-230 (13 May 2010)
【文献】Gubanova E., Clinical Cancer Research, Volume 18, Issue 5, pp.1257-1267, March 2012
【文献】Usuki F., PNAS September 10, 2013 110 (37) 15037-15042
【文献】Usuki F., Ann Neurol. 2004 May;55(5):740-744
【文献】Gopalsamy A., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, Volume 22, Issue 21, 1 November 2012, Pages 6636-6641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、SMG1阻害剤のスクリーニング方法、該スクリーニング方法に用いられる、SMG1の大量精製方法に有用な、SMG1タンパク質の安定化方法、及び該スクリーニング方法により発見された新規なSMG1阻害剤を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、SMG1タンパク質がSMG9と複合体化することで安定化されること、SMG1タンパク質や、SMG1タンパク質含有タンパク質複合体が、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で安定化されることを見出した。さらに、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で安定化された状態で、SMG9と複合体化したSMG1タンパク質をSMG1阻害剤候補の化合物と接触させ、SMG1のキナーゼ活性を測定し、SMG1のキナーゼ活性の低下が認められた化合物を選択することにより、SMG1阻害剤をスクリーニングできることを見出した。さらに、このスクリーニング方法により、SMG1タンパク質に特異的なSMG1阻害剤を複数見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体を、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で30分間以上維持することを含む、SMG1タンパク質の安定化方法。
(2) 前記タンパク質複合体がSMG1とSMG9の複合体である、(1)記載の方法。
(3) 前記ポリソルベート型非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリルエーテルである、(1)又は(2)記載の方法。
(4) ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で、SMG9と複合体化したSMG1タンパク質をSMG1阻害剤候補の化合物と60分間~240分間接触させ、SMG1のキナーゼ活性を測定する工程、及び
SMG1のキナーゼ活性の低下が認められた化合物を選択する工程
を含む、SMG1阻害剤のスクリーニング方法。
(5) 前記SMG1タンパク質を、複数の前記SMG1阻害剤候補の化合物を含むライブラリーと接触させる、(4)記載の方法。
(6) 下記のいずれかの構造を有する化合物と、SMG1を接触させることを含む、SMG1の阻害方法。
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ハイスループットのSMG1阻害剤のスクリーニング方法が提供され、該スクリーニング方法により、SMG1タンパク質に特異的なSMG1阻害剤が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】下記実施例において使用した、保存SMG1:SMG9複合体と保存SMG1、保存SMG1:SMG8SMG9複合体の活性を比較して示す図である。
【
図2】下記実施例において行った、SMG1阻害剤のスクリーニング方法を説明するための図である。
【
図3】下記実施例において行った、希釈したSMG1溶液(1nM)の酵素安定性試験の実験方法を説明するための図である。
【
図4】下記実施例において得られた、各種濃度のTween 20(商品名)を添加した場合のAlphaScreen(商品名)シグナルを、比較例(Triton X-100(商品名))又は対照(界面活性剤添加せず又はATP添加せず)の結果と比較して示す図である。
【
図5】下記実施例において得られた、第1インキュベーションにおけるTween 20(商品名)の濃度と、シグナル/バックグランド比の関係を示す図である。
【
図6】下記実施例において得られた3種類のSMG1化合物の濃度とSMG1阻害活性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記のとおり、本発明のSMG1タンパク質の安定化方法では、SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体を、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下で維持する。ポリソルベート型非イオン界面活性剤は、ソルビトールの脂肪酸エステルであり、好ましいポリソルベート型非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリルエーテル(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(商品名Tween 20))を挙げることができる。
【0012】
本発明の安定化方法における安定化の対象は、SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体である。該複合体としては、SMG1タンパク質とSMG9タンパク質の複合体を挙げることができる。SMG1タンパク質もSMG9タンパク質は公知のタンパク質で、そのアミノ酸配列も、該アミノ酸配列をコードする遺伝子配列も公知であり、遺伝子工学的手法により生産することができる(下記実施例参照)。精製SMG1タンパク質はほとんど活性を示さないが、SMG9と複合体を形成させることにより、保存SMG1:SMG9複合体として活性を示す。
【0013】
本発明の安定化方法では、上記したポリソルベート型非イオン界面活性剤を含む緩衝液中、SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体を維持する。この際の温度は、特に限定されないが、通常、15℃~37℃、好ましくは25℃~30℃である。また、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01%~1%程度、好ましくは0.03~0.1%程度である。また、SMG1タンパク質、又はSMG1タンパク質を含むタンパク質複合体の濃度は、通常、0.2nM~4nM程度、好ましくは0.4nM~1.0nM程度である。
【0014】
本発明のSMG1阻害剤のスクリーニング方法では、上記した安定化方法によりSMG9と複合体化したSMG1タンパク質を安定化させている状態、すなわち、ポリソルベート型非イオン界面活性剤の共存下において、SMG9と複合体化したSMG1タンパク質をSMG1阻害剤候補の化合物と接触させ、SMG1のキナーゼ活性を測定する。阻害剤候補化合物との接触は、好ましくは、分子間相互作用を調べるための市販のキットであるAlphaScreen(商品名、パーキンエルマー社製)等を用いて、阻害剤候補化合物のライブラリーと接触させることにより行うことができる(下記実施例参照)。接触させる際の温度は、通常、室温~37℃である。また、接触の時間は、特に限定されないが、通常、60分間~240分間、好ましくは120分間~180分間である。SMG1のキナーゼ活性は、公知の方法により測定することができ、例えば、上記AlphaScreen(商品名)を用いて接触させた場合には、AlphaScreen(商品名)用の蛍光測定装置で蛍光測定を行うことにより測定することができる(下記実施例参照)。
【0015】
上記本発明のスクリーニング方法により、以下の3種類の化合物が、SMG1阻害剤として同定された。これらの化合物はいずれも公知化合物であり、その製造方法も公知であるが、SMG1に対する阻害活性を有することが本発明により新たに見出された。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
下記実施例に具体的に示されるように、これらの3種類の化合物は、濃度依存的に優れたSMG1阻害活性を示した。
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、全ての「%」は、特に断りがない限り質量%である。
【0021】
1.材料及び方法
(I) プラスミド、酵素、抗体、ペプチド
以下のプラスミドは、常法に従い各cDNA断片をクローニングして構築した。
pEFh_SBP-SMG1 (ヒトSMG1の2-3661番残基、コドン最適化した配列を使用)
pEFh_SMG9 (ヒトSMG9の1-520番残基、コドン最適化した配列を使用)
pEFh_SBP-mTOR (ラットmTORの2-2549番残基)
pEFh_HA-mLST8 (ヒトmLST8の2-326番残基、コドン最適化した配列を使用)
pEFh_SBP-ATM (ヒトATMの2-3056番残基)
pEFh_HA-ATMIN (ヒトATIMNの2-823番残基)
pEFh-SBP-ATR (ヒトATRの2-2644番残基)
pEFh-HA-ATRIP (ヒトATRIPの2-791番残基)
【0022】
抗リン酸化S1078/S1096-UPF1-抗体 (clone 8E6, 7H1, 7D5, 2C9及び9C2) は既報(2009 Genes and Development 23(9):1091-105)のものを用いた。これらの抗体はいずれもAlphaスクリーニングに使用可能な抗体である。これらの抗体のうち、無血清培地での培養に適合できたのは8E6のみであった。抗UPF1抗体は2001 GenesDev15(17):2215-28に記載のものを用いた。抗リン酸化T37/46-4EBP1 (236B4) 抗体はCell Signaling Technology社より購入した (カタログ番号2855)。
【0023】
精製酵素は以下の通りに調製した。精製PIKK酵素は、精製SBP-SMG1:SMG9複合体、精製SBP-mTOR:HA-mLST8複合体、精製SBP-ATM:HA-ATMIN複合体、精製SBP-ATR:HA-ATRIP複合体として、それぞれのタンパク質を発現する2種のプラスミドを、6x108個の293T細胞にポリエチレンイミンを用いて共導入した。共導入の2~3日後、50mg/mlのRNase Aを含む NFバッファー(20mM Tris-HCl[pH7.5], 150mM NaCl, 0.25 M ショ糖、0.5% NP-40、1% Tween 20(商品名)、1 mMジチオスレイトール [DTT]、プロテアーゼインヒビターカクテル(ナカライテスク)、ホスファターゼインヒビターカクテル(EDTAフリー、ナカライテスク)中でホモジナイザーで溶解した。SBP-タグ化タンパク質を、Streptavidinコートレジン(GE社、Streptavidin Mag-sepharose、カタログ番号28985738)を用い、ゆるやかに垂直に回転させながら4℃で2時間インキュベートし、NFバッファーで洗浄することにより捕捉した。親和性精製されたタンパク質複合体は、2mM DTT、プロテアーゼインヒビターカクテル(EDTAフリー、ナカライテスク)、ホスファターゼインヒビターカクテル(ナカライテスク)及び2mM デスチオビオチン(シグマ社、カタログ番号D1411)含むTバッファー(20 mM HEPES-KOH [pH 7.5], 150 mM NaCl, 2.5 mM MgCl2, 0.05% Tween 20(商品名))で4℃で30分間インキュベートすることにより溶出した。溶出タンパク質は、PIKKキナーゼバッファー(10mM HEPES-NaOH,pH 7.5, 50mM NaCl, 2.5mM MgCl2)を用いて透析した。
精製DNA-PKはプロメガ社より購入した(カタログ番号V5811)。
以下の基質ペプチドはオペロンバイオテクノロジー社により合成した。下線部がPIKKによりリン酸化されるセリンもしくはトレオニンである。
ビオチン化SMG1基質ペプチド (Biotin-PEG8-QIDVALSQDSTYQG)
SMG1基質ペプチドUPF1由来(QIDVALSQDSTYQGRRRRR)
mTOR基質ペプチド4EBP1由来(KKKKKPQDYCTTPGGTLF)
ATM, ATR, DNA-PK基質ペプチドp53由来(KKKKKSVEPPLSQETFSD)
【0024】
(II) Alphaスクリーニング
AlphaScreen (商品名) アッセイは、OptiPlate-384 (商品名、パーキンエルマー社製)プレート中で行なった(
図2参照)。0.4 nMのSMG1キナーゼ (SBP-SMG1:SMG9複合体) を、1μMのビオチン化SMG1基質ペプチド (Biotin-PEG8-QIDVAL
SQDSTYQG [下線がリン酸化を受けるUPF1の第1096番S])、及びSMG1キナーゼバッファー (10mM HEPES pH 7.5, 50mM NaCl, 2.5mM MnCl
2, 0.1% Tween20(商品名)及び 0.01%ウシ血清アルブミン (BSA)) 中に溶解した10μMのATPと混合し、1ウェル当たりの総量を10μLとして、1 mg/mLの各化合物(OCDD core: 9,600種の化合物、NPDepo: 20,000種の化合物)0.1μLの共存下又は非共存下で26℃、120分間インキュベートした(
図3参照)。次いで、AlphaScreen (商品名)検出バッファー(10mM Tris HCl pH. 7.0, 100mM NaCl, 0.1% Tween20 (商品名)及び0.005% BSA)中に希釈したEDTAを終濃度5mMで添加してキナーゼ反応を停止し、リン酸化されたSMG1基質ペプチドに312.5μg/mLの抗リン酸化S1078/S1096-UPF1抗体(8E6)を添加して1ウェル当たり総量12μLで26℃、60分間反応させ、8E6抗体をリン酸化SMG1基質ペプチドで標識した。標識後、ストレプトアビジンドナービーズとプロテインAアクセプタービーズの混合物(終濃度: 各7.5μg/ml)(パーキンエルマー社製)を各ウェルに添加し、1ウェル当たり総量20μLで暗所にて26℃、16~19時間インキュベートした。インキュベーション後、AlphaScreen (商品名)に対応したプレートリーダーであるEnVision Multilabel Reader (商品名、パーキンエルマー社製)又はEnSpire Alpha (商品名、パーキンエルマー社製) を使用し、680 nmでレーザー励起、520~620 nmでリーディングを行なった。
【0025】
図2にも記載されているが、スクリーニングは以下の方法により行った。
(1) 384ウェルアッセイプレートにライブラリー化合物の1 mg/mLストック溶液in DMSOを0.1μL添加する。
(2) ライブラリー化合物を添加したウェル、及び添加しないコントロールのウェルにキナーゼ反応ミックス(8μLの0.4 nM SMG1(SMG1:SMG9複合体)、10μM ATP、1μMビオチン化SMG1基質ペプチド in 1 x SMG1キナーゼバッファー、総量10μL)を添加する。
キナーゼ反応ミックスの組成:1xSMG1キナーゼバッファー中に、8μLの0.4 nM SMG1(SMG1:SMG9複合体)、10μM ATP、1μMビオチン化SMG1基質ペプチドを加え、総量10μLとする。
(3) プレートを26℃で2時間インキュベートする。
(4) 各ウェルに2μLのEDTA(終濃度5 mM)を添加し、酵素反応を停止させる。リン酸化S1096 mAbの1x検出バッファー中溶液を添加し(mAb量として250ng)、総量を12μLとする。
(5) プレートを26℃で1時間インキュベートする。
(6) 各ウェルにアクセプタービーズとドナービーズの1x検出バッファー中懸濁液(各ビーズの終濃度は7.5μg/mL)を8μL加え、総量を20μLとする。
(7) プレートを23℃で16~19時間インキュベートする。
(8) AlphaシグナルをEnVision Multilabel Reader(商品名)又はEnSpire Alpha(商品名)で検出する。
【0026】
2. 結果
(I) 安定化
AlphaScreen(商品名)の過程では複数のプレートのインジェクションに時間が取られるため、キナーゼ反応の前に室温で30分以上SMG1キナーゼをインキュベートするべきである。しかしながら、キナーゼ反応前の26℃30分間のインキュベーションによってSMG1キナーゼ活性は4分の1に減少してしまった(
図4の「0」)。この活性低下を抑制するため、界面活性剤等の添加剤の効果を検討した。その結果の一部を(
図4)に示す。0.096 % TritonX-100(商品名)はさらにSMG1キナーゼ活性を低下させてしまった。一方、0.0096~0.86% Tween20(商品名)の添加によりSMG1キナーゼ活性は向上し、26℃30分間のインキュベーションによる活性低下は検出されなかった。これにより、SMG1-SMG9複合体がTween20(商品名)により安定化されることが明らかになった。なお、第1のインキュベーション中におけるTween20(商品名)の濃度とシグナル/バックグランド(S/B)比の関係を、第1のインキュベーションを行った場合と行わなかった場合について
図5に示す。
【0027】
(II) 同定されたSMG1阻害剤
上記方法により、ライブラリーに含まれる9600種類の化合物から、SMG1阻害剤として、上記した3種類の化合物、すなわち、NPD15008、NPD12823及びNPD14897がスクリーニングされた。
【0028】
得られた3種類の化合物の濃度(M)の対数とSMG1阻害活性との関係を
図6に示す。これから求められたIC50も
図6に示す。これらの結果から、これらの3種類の化合物のSMG1阻害活性が確認された。
【0029】
さらに、得られた3種類の化合物について、ATP濃度が10μM又は1μMにおいて、各種キナーゼ(SMG1、DNA-PK、ATR、mTOR、ATM)に対する阻害活性を調べた。これは具体的には次のようにして行った。各種組換えPIKKと基質ペプチド(SMG1: QIDVALSQDSTYQGRRRRR (下線部はUPF1のSer 1096 )、mTOR: KKKKKPQDYCTTPGGTLF (下線部は4EBP1のThr 37), ATM, ATR, DNA-PK: KKKKKSVEPPLSQETFSD (下線部はp53のSer 15 ) を、16.6 nM~49.8 nMの放射性標識ATP(γ32P-ATP)、キナーゼバッファー(10mM HEPES pH 7.5, 50mM NaCl, 2.5mM MnCl2, 0.1% Tween20(商品名)及び 0.01% BSA)中1μM 若しくは10μM ATP と、0μM~50μM各種化合物を混合し、30℃、15分間のインキュベートした。反応後、65℃15分間熱不活化処理により、キナーゼ反応を終了した。熱不活化後、1cm四方のP81 ホスフォセルロースろ紙 (Millipore)の中央に反応液をスポットした。スポット後すぐに、75mMリン酸溶液中にろ紙を投入し、5分間ゆっくり振とうした。その後、新しい75mMリン酸溶液にろ紙を移し、同様に5分間ゆっくり振とうした。この洗浄操作を3回繰り返した。リン酸中での最後の洗浄後、ろ紙を1.5mLマイクロ遠心管に移し、「32Pプログラム」を用い、シンチレーション液非存在下で液体シンチレーションカウンターを用いてチェレンコフカウントを計測した。
【0030】
結果を下記表1に示す。上記3種類の化合物により、SMG1活性のみが、特異的に阻害された。これに対し、非特許文献5記載のSMG1阻害剤(Pfizer 11j)では、mTOR活性も阻害されており、阻害活性がSMG1特異的というわけではなかった。
【0031】