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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】粉体製造装置および粉体製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20241122BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20241122BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241122BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241122BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241122BHJP
   C04B 35/632 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B28B1/30
B22F3/16
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y80/00
C04B35/632
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020157906
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051427
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】520365274
【氏名又は名称】株式会社エスケーファイン
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】松原 明男
(72)【発明者】
【氏名】飯島 安紀
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122571(JP,A)
【文献】特開2001-247355(JP,A)
【文献】特開2020-023064(JP,A)
【文献】特開2019-111803(JP,A)
【文献】特開2007-021993(JP,A)
【文献】特開2009-084619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30-1/42
C04B 35/632-35/636
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 80/00
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形面を有する造形テーブルと、
セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給する供給手段と、
前記供給手段により供給された前記混合物を前記造形テーブルの前記造形面上に引き延ばすことにより1または複数の組成物層を形成する引き延ばし部材と、
前記引き延ばし部材により形成された各組成物層を露光することにより、硬化された前記1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む粉体を形成する露光装置と
所定の粒度分布形状で前記粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定する制御部とを備える、粉体製造装置。
【請求項2】
前記露光装置による露光は、直径600μm以下のスポットサイズを有する露光光を用いて行われる、請求項1記載の粉体製造装置。
【請求項3】
前記粉体を含む前記1または複数の組成物層と溶剤とを混合することにより混合溶液を生成する混合手段と、
前記混合溶液から前記粉体を抽出するフィルタ部材とをさらに備える、請求項1または2記載の粉体製造装置。
【請求項4】
前記粉体の平均粒径は、1000μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の粉体製造装置。
【請求項5】
所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定するステップと、
セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給するステップと、
前記混合物を引き延ばし部材により造形テーブルの造形面上に引き延ばすことにより、1または複数の組成物層を形成するステップと、
形成された各組成物層を露光装置により露光することにより、硬化された1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む前記粉体を形成するステップと、
洗浄により前記粉体を前記1または複数の組成物層の未硬化部分から分離するステップとを含む、粉体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体製造装置および粉体製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
粉体を製造するための装置として、造粒機が知られている。例えば、特許文献1に記載された転動造粒機においては、アルミナ微粉体からなる原料がパン型の回転皿に投入される。この状態で、回転皿が回転されつつ原料に液剤が所定時間噴霧された後、焼成が行われることにより造粒物が製造される。特許文献2に記載された攪拌式造粒機においては、アルミナ繊維と水とが混合され、撹拌造粒されることにより粒状物が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-105223号公報
【文献】特開2008-138157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微小な粉体は、医療または工業等の分野で種々の製品を製造するための材料として有効に利用可能であると考えられる。しかしながら、特許文献1または2の造粒機においては、製造された粉体の平均粒径は比較的大きく、0.1mm~5mm程度である。また、製造された粉体の粒度分布が大きいので、所望の平均粒径を有する粉体をバラツキが少ない状態で得るには、製造された粉体を分級する必要がある。そのため、歩留まりが低下する。さらに、粉体は用途に応じた形状を有することが好ましいが、特許文献1または2の造粒機においては、球状または円柱状等の単純な形状を有する粉体しか製造することができない。
【0005】
本発明の目的は、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造可能な粉体製造装置および粉体製造方法提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明に係る粉体製造装置は、造形面を有する造形テーブルと、セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給する供給手段と、供給手段により供給された混合物を造形テーブルの造形面上に引き延ばすことにより1または複数の組成物層を形成する引き延ばし部材と、引き延ばし部材により形成された各組成物層を露光することにより、硬化された1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む粉体を形成する露光装置と、所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定する制御部とを備える。
【0007】
この粉体製造装置においては、露光装置による露光パターンが制御されることにより、粉体を構成する各組成物層が任意の形状および寸法で硬化される。これにより、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造することができる。また、粉体製造装置は、所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定する制御部をさらに備える。この場合、任意の粒度分布形状を有する粉体を高精度で製造することができる。
【0008】
(2)露光装置による露光は、直径600μm以下のスポットサイズを有する露光光を用いて行われてもよい。この場合、微小な粉体をより容易に製造することができる。
【0010】
)粉体製造装置は、粉体を含む1または複数の組成物層と溶剤とを混合することにより混合溶液を生成する混合手段と、混合溶液から粉体を抽出するフィルタ部材とをさらに備えてもよい。この場合、微小な粉体を容易に抽出することができる。
【0011】
)粉体の平均粒径は、1000μm以下であってもよい。この場合、粉体をより微小にすることができる。
【0012】
)第2の発明に係る粉体製造方法は、所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定するステップと、セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給するステップと、混合物を引き延ばし部材により造形テーブルの造形面上に引き延ばすことにより、1または複数の組成物層を形成するステップと、形成された各組成物層を露光装置により露光することにより、硬化された1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む粉体を形成するステップと、洗浄により粉体を1または複数の組成物層の未硬化部分から分離するステップとを含む。
【0013】
この粉体製造方法によれば、露光装置による露光パターンが制御されることにより、粉体を構成する各組成物層が任意の形状および寸法で硬化される。これにより、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造することができる。また、所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径が設定される。この場合、任意の粒度分布形状を有する粉体を高精度で製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る粉体製造装置の模式的側面図である。
図2】洗浄工程を示す図である。
図3】洗浄工程を示す図である。
図4】粉体に含まれる単一粒子の粒度範囲を示す図である。
図5】擬似的な粒度分布形状の一例を示す図である。
図6】制御装置により設定される複数の目標粒径のレシピを示す図である。
図7】擬似的な粒度分布形状の他の例を示す図である。
図8】第1の例における粉体を示す顕微鏡写真である。
図9】第2の例における粉体を示す顕微鏡写真である。
図10】第3の例における粉体を示す顕微鏡写真である。
図11】第4の例における粉体を示す顕微鏡写真である。
図12図1の制御装置により実行される粉体製造処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)粉体製造装置の構成
以下、本発明の一実施の形態に係る粉体製造装置、粉体製造方法および粉体について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る粉体製造装置の模式的側面図である。図1において、矢印で示すように、水平面内で互いに直交する方向をX方向およびY方向と呼び、鉛直方向をZ方向と呼ぶ。図1に示すように、粉体製造装置100は、造形テーブル10、供給部20、引き延ばし部材30、露光装置40、記憶装置50、制御装置60および洗浄装置70を備える。
【0018】
造形テーブル10は、例えば矩形状を有する平板である。造形テーブル10は、一対の辺がX方向に平行になり、他の一対の辺がY方向に平行になるように略水平に配置される。これにより、造形テーブル10の一面(上面)が上方を向く。造形テーブル10の上面は、粉体3の製造が行われる造形面11となる。
【0019】
供給部20は、例えばディスペンサであり、例えばZ方向に延びる円筒形状のシリンジと、シリンジの下端に配置されたノズルとを含む。供給部20は、セラミック粉末または金属粉末と樹脂製の光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物1を内部に収容する。供給部20の先端(例えばノズルの下端)には、吐出孔21が形成される。供給部20は、収容された混合物を吐出孔21から造形テーブル10の造形面11上に吐出する。
【0020】
引き延ばし部材30は、例えばリコータであり、X方向に延びかつ造形テーブル10の上方でY方向に移動可能に設けられる。本例では、引き延ばし部材30はブレード部材であるが、ローラ部材であってもよい。供給部20により混合物1が供給された状態で、引き延ばし部材30がY方向に移動することにより、混合物1が組成物層2として造形面11上でY方向に引き延ばされる。これにより、1または複数の組成物層2が形成される。
【0021】
露光装置40は、造形テーブル10の上方に配置され、感光性波長領域の波長を有する露光光を出射可能に構成される。本例では、露光装置40はレーザ光源を含み、紫外領域(例えば315nm~400nm)の波長を有するレーザ光を露光光として出射する。露光光のスポットサイズは、10μm以上であってもよい。また、露光光のスポットサイズは、600μm以下であってもよい。なお、スポットサイズとは、光硬化性組成物が硬化反応する範囲のサイズである。露光装置40により出射された露光光は、引き延ばし部材30により形成された各組成物層2に部分的に照射されるように走査される。
【0022】
組成物層2が任意のパターンで露光されることにより、組成物層2の露光部分が硬化する。図1では、組成物層2の硬化部分がハッチングパターンにより示されている。硬化された複数の組成物層2が積層されることにより複数の粒子を含む粉体3が形成される。粉体3は、硬化された1つの組成物層2により形成されてもよい。なお、複数の組成物層2により形成される粉体3には、積層された複数の組成物層2の境界線が粉体3の外面に現れる。
【0023】
記憶装置50は、例えば揮発性メモリまたはハードディスクを含み、製造すべき粉体3に含まれる複数の粒子の三次元形状を示すそれぞれ示す複数の形状データが記載された図面データを記憶する。制御装置60は、例えばCPU(中央演算処理装置)により構成される。制御装置60は、記憶装置50に記憶された図面データに基づいて、粉体3が製造されるように供給部20、引き延ばし部材30および露光装置40の動作を制御する。洗浄装置70は、洗浄工程を実行することにより、製造された粉体3を1または複数の組成物層2の未硬化部分から分離する。洗浄工程の詳細については後述する。
【0024】
(2)洗浄工程
図2および図3は、洗浄工程を示す図である。図2に示すように、洗浄装置70には、貯留容器71が設けられる。貯留容器71には、粉体3を含む組成物層2が溶剤4とともに貯留される。ここで、未硬化の組成物層2の部分はスラリー状を有する。溶剤4は、アルコール等の有機溶剤であってもよいし、水系溶剤であってもよい。
【0025】
次に、組成物層2と溶剤4とが混合される。この場合、組成物層2が溶剤4で希釈されることにより、流動性が高い混合溶液5が生成される。組成物層2と溶剤4との混合は、例えば超音波振動により行われてもよいし、撹拌棒による撹拌により行われてもよい。続いて、図3に示すように、混合溶液5が所定の目開きを有するフィルタ部材72を通過される。フィルタ部材72は、メッシュ、多孔質膜または篩を含む。これにより、未硬化の組成物層2と粉体3とが分離され、混合溶液5から粉体3がフィルタ部材72上に抽出される。
【0026】
その後、分離された粉体3が乾燥されることにより、残存した溶剤4の成分が除去される。乾燥は、自然乾燥であってもよいし、真空乾燥であってもよい。あるいは、乾燥は、例えば100℃程度の熱乾燥であってもよい。この状態においては、粉体3に光硬化性組成物を含むバインダの成分が残存している。
【0027】
そこで、粉体3が例えば500℃程度に加熱されることにより、脱脂されてもよい。これにより、粉体3から光硬化性組成物の成分が除去される。また、粉体3にさらなる熱処理(焼成)が行われてもよい。これにより、粉体3が焼結される。一方、粉体3に光硬化性組成物の成分が残存してよい場合には、粉体3の脱脂および焼結は行われなくてもよい。
【0028】
製造された粉体3は多孔質性を有してもよい。例えば、光硬化性組成物が多孔質樹脂を含む場合、粉体3の脱脂および焼結を省略することにより、多孔質性を有する粉体3を製造することができる。あるいは、光硬化性組成物が多孔質樹脂を含まない場合でも、焼成を比較的低い温度で行うことにより、粉体3における光硬化性組成物の成分が除去された部分を孔として残存させることができる。この場合にも、多孔質性を有する粉体3を製造することができる。
【0029】
(3)粉体の例
粉体製造装置100においては、任意の図面データを使用することにより、形成される粉体3の平均粒径、粒度分布および形状を任意に調整することができる。粉体3の平均粒径は、10μm以上であってもよい。また、粉体3の平均粒径は、1000μm以下であってもよい。粉体3の用途に応じて、平均粒径100μm未満、あるいは平均粒径50μm未満の粉体3が形成される。本例では、粉体3の平均粒径は、顕微鏡法により測定される円相当径である。例えば、平均粒子径は、顕微鏡写真に含まれる少なくとも300個の粒子画像のそれぞれの円相当径を測定し、これらの平均を算出することにより求めることができる。
【0030】
図4は、粉体3に含まれる単一粒子の粒度範囲を示す図である。図4の例では、粒度分布形状は、ガウシアン分布を有する。本例では、粉体3の粒度分布の幅を小さくすることが可能である。なお、粒度分布の幅とは、ピークに対応する粒子集合のD90とD10との差(D90-D10)をいう。例えば、粒径が100μm以下の場合、粒度分布の幅は中心粒径±5μmであり、粒径が100μm以上の場合、D90/D10は1.1以下である。そのため、分級作業を行うことなく所望の平均粒径を有する粉体3を効率よく得ることができる。これにより、歩留まりが低下することが防止される。
【0031】
一方で、粉体3の粒度分布の幅を大きくすることも可能である。具体的には、制御装置60は、所定の粒度分布形状で粉体3が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定することが可能である。この場合、擬似的な任意の粒度分布形状を有する粉体3を高精度で製造することができる。所定間隔は、例えば、10μm以下であってもよいし、5μm以下であってもよいし、1μm以下であってもよい。また、粒度分布形状は、ガウシアン分布に設定されていてもよいし、ガウシアン分布以外に設定されていてもよい。
【0032】
図5は、擬似的な粒度分布形状の一例を示す図である。図6は、制御装置60により設定される複数の目標粒径のレシピを示す図である。図6の例では、「レシピ番号1」~「レシピ番号9」の各々において、目標粒径と粒子の個数とが設定される。なお、「レシピ番号2」、「レシピ番号5」および「レシピ番号8」の目標粒径は、それぞれD10、D50およびD90に相当する。「レシピ番号1」~「レシピ番号9」にそれぞれ対応する9つの粒度分布形状が図6に実線で示される。この場合、図6に一点鎖線で示されるように、擬似的な粒度分布形状が大きくなる。その結果、任意の粒度分布の幅(D90-D10)を有する粉体3を得ることができる。
【0033】
図7は、擬似的な粒度分布形状の他の例を示す図である。図7の例では、複数のレシピにそれぞれ対応する複数の粒度分布形状が実線で示される。これにより、一点鎖線で示すように、種々の幅を有する複数(本例では3つ)のピークを含む擬似的な粒度分布形状が実現される。このように、粒度分布のピークを複数にするとともに、粒度分布の各ピークの幅を任意に調整することも可能である。これらの場合、種々の平均粒径を有する粉体3を効率よく得ることができる。
【0034】
さらに、球状または円柱状等の単純な形状を有する粉体だけでなく、より複雑な形状を有する粉体3を製造することができる。図8図11は、それぞれ第1~第4の例における粉体3を示す顕微鏡写真である。図8図11の各々においては、上部に脱脂前の粉体3の粒子が示され、下部に脱脂および焼結後の粉体3の粒子が示される。
【0035】
図8に示すように、第1の例における粉体3は環状を有し、粉体3の粒径は約200μmである。具体的には、粉体3は円環状を有するが、矩形枠形状等の他の環状を有してもよい。図9に示すように、第2の例における粉体3は多角形状を有し、粉体3の粒径は約200μmである。具体的には、粉体3は六角形状を有するが、五角形状または星形状等の他の多角形状を有してもよい。
【0036】
図10に示すように、第3の例における粉体3は十字形状を有し、粉体3の粒径は約200μmである。図11に示すように、第4の例における粉体3はC字形状を有し、粉体3の粒径は約200μmである。第1~第4の例においては、粉体3の上面および下面は平行な平面であってもよいし、湾曲する曲面であってもよい。また、粉体3は、少なくとも1もしくは複数の開口を有する形状、または円盤状であってもよい。さらに、粉体3の外面には、積層された複数の組成物層の境界線が現れていてもよい。
【0037】
粉体3の他の例として、繊維状(糸状)または消波ブロック形状(テトラポッド(登録商標)形状)等を有する粉体3を用途に応じて製造することも可能である。例えば、粉体3が熱伝導性粒子により形成される場合、繊維状を有する粉体3を用いることにより、一方向に高い熱伝導性を有する熱伝導シートを製造することができる。あるいは、消波ブロック形状を有する微小な粉体3を用いることにより、高い骨密度を有する人工骨を製造することができる。また、粉体3は、例えば、二次電池等の電気機器の部材(例えば、二次電池のセパレータの材料)として用いることも可能である。
【0038】
露光光による所定の描画が粉体3の面または各断面に対応する組成物層2に行われるように露光光が走査されることにより、上記の種々の形状を有する粉体3が製造される。ここで、本例においては、粉体3は微小であるため、上記の第2の例のように、粉体3が角部を有する場合には、組成物層2に目標の角部の形状が描かれるように露光光が走査されても、粉体3の角部が適切に形成されないことがある。
【0039】
そこで、粉体3が角部を有する場合には、組成物層2における目標の角部よりも内側の領域に当該角部の角度よりも鋭い(小さい)角度の角部が描かれるように露光光が走査される。これにより、粉体3が微小である場合でも、粉体3の角部を適切に形成することができる。
【0040】
(4)粉体製造処理
図12は、図1の制御装置60により実行される粉体製造処理を示すフローチャートである。図12に示すように、まず、記憶装置50に記憶された図形データに基づいてn個の断面データ(nは1以上の整数)が取得される(ステップS1)。各断面データは、粉体3の各組成物層2の平面形状を表す。取得されたn個の断面データには、下から順に1~nの固有の番号がそれぞれ付与される。1段目の断面データは1番下の組成物層2に対応し、n段目の断面データは最も上の組成物層2に対応する。
【0041】
次に、積層数を表す変数iの値が1に設定される(ステップS2)。続いて、供給部20により混合物1が吐出される(ステップS3)。これにより、変数iの値が1の場合、混合物1が造形テーブル10の造形面11上に供給される。一方、変数iの値が2以上である場合、混合物1が組成物層2上に供給される。その後、供給された混合物1が引き延ばし部材30により引き延ばされることにより、組成物層2が形成される(ステップS4)。
【0042】
次に、形成された組成物層2がi番目の断面データに基づいて露光装置40により露光される(ステップS5)。これにより、組成物層2の露光部分に硬化する。続いて、変数iの値がnであるか否かが判定される(ステップS6)。変数iの値がnでない場合、変数iの値が1だけ増加され(ステップS7)、処理がステップS3に戻る。変数iの値がnになるまでステップS3~S7が繰り返される。
【0043】
変数iの値がnである場合、粉体3が完成する。この場合、形成された粉体3が洗浄装置70により洗浄されることにより、粉体3が抽出される(ステップS8)。その後、粉体3が脱脂される(ステップS9)。最後に、粉体3が焼結される(ステップS10)。これにより、粉体製造処理が終了する。ステップS10は省略されてもよい。あるいは、ステップS9がさらに省略されてもよい。
【0044】
(5)効果
本実施の形態に係る粉体製造装置100においては、セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物1が供給部20により供給される。混合物1が引き延ばし部材30により造形テーブル10の造形面11上に引き延ばされることにより、1または複数の組成物層2が形成される。形成された各組成物層2が露光装置40により露光されることにより、硬化された1または複数の組成物層2からなる粉体3が形成される。洗浄装置70による洗浄により粉体3が1または複数の組成物層2の未硬化部分から分離される。
【0045】
この構成によれば、露光装置40による露光パターンが制御されることにより、粉体3を構成する各組成物層2が任意の形状および寸法で硬化される。これにより、任意の形状を有する微小な粉体3を高精度で製造することができる。
【0046】
洗浄装置70においては、貯留容器71内で粉体3を含む組成物層2と溶剤4とが混合されることにより混合溶液5が生成される。また、フィルタ部材72により混合溶液5から粉体3が抽出される。この場合、微小な粉体3を容易に抽出することができる。
【0047】
また、露光装置40による露光は、直径10μm以上600μm以下のスポットサイズを有する露光光を用いて行われる。これにより10μm以上1000μm以下の平均粒径を有する粉体3を容易に製造することができる。スポットサイズは、200μm以下であってもよいし、50μm以下であってもよい。また、粉体3の平均粒径は、300μm以下であってもよいし、100μm以下であってもよい。
【0048】
(6)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【0049】
上記の実施の形態では、造形面11が造形面の例であり、造形テーブル10が造形テーブルの例であり、混合物1が混合物の例であり、供給部20が供給手段の例である。組成物層2が組成物層の例であり、引き延ばし部材30が引き延ばし部材の例であり、粉体3が粉体の例であり、露光装置40が露光装置の例であり、制御装置60が制御部の例である。粉体製造装置100が粉体製造装置の例であり、溶剤4が溶剤の例であり、混合溶液5が混合溶液の例であり、貯留容器71が混合手段の例であり、フィルタ部材72がフィルタ部材の例である。
(7)参考形態
(7-1)第1の参考形態に係る粉体製造装置は、造形面を有する造形テーブルと、セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給する供給手段と、供給手段により供給された混合物を造形テーブルの造形面上に引き延ばすことにより1または複数の組成物層を形成する引き延ばし部材と、引き延ばし部材により形成された各組成物層を露光することにより、硬化された1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む粉体を形成する露光装置とを備える。
この粉体製造装置においては、露光装置による露光パターンが制御されることにより、粉体を構成する各組成物層が任意の形状および寸法で硬化される。これにより、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造することができる。
(7-2)露光装置による露光は、直径600μm以下のスポットサイズを有する露光光を用いて行われてもよい。この場合、微小な粉体をより容易に製造することができる。
(7-3)粉体製造装置は、所定の粒度分布形状で粉体が形成されるように、所定値以下の粒径間隔で複数の目標粒径を設定する制御部をさらに備えてもよい。この場合、任意の粒度分布形状を有する粉体を高精度で製造することができる。
(7-4)粉体製造装置は、粉体を含む1または複数の組成物層と溶剤とを混合することにより混合溶液を生成する混合手段と、混合溶液から粉体を抽出するフィルタ部材とをさらに備えてもよい。この場合、微小な粉体を容易に抽出することができる。
(7-5)粉体の平均粒径は、1000μm以下であってもよい。この場合、粉体をより微小にすることができる。
(7-6)第2の参考形態に係る粉体製造方法は、セラミック粉末または金属粉末と光硬化性組成物を含むバインダとが混合された混合物を供給するステップと、混合物を引き延ばし部材により造形テーブルの造形面上に引き延ばすことにより、1または複数の組成物層を形成するステップと、形成された各組成物層を露光装置により露光することにより、硬化された1または複数の組成物層からなる複数の粒子を含む粉体を形成するステップと、洗浄により粉体を1または複数の組成物層の未硬化部分から分離するステップとを含む。
この粉体製造方法によれば、露光装置による露光パターンが制御されることにより、粉体を構成する各組成物層が任意の形状および寸法で硬化される。これにより、任意の形状を有する微小な粉体を高精度で製造することができる。
(7-7)第3の参考形態に係る粉体は、1000μm以下の平均粒径を有し、環状、多角形状、十字形状、C字形状、少なくとも1もしくは複数の開口を有する形状、円盤状または繊維状である。この場合、粉体を用いて種々の製品を製造することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…混合物,2…組成物層,3…粉体,4…溶剤,5…混合溶液,10…造形テーブル,11…造形面,20…供給部,21…吐出孔,30…引き延ばし部材,40…露光装置,50…記憶装置,60…制御装置,70…洗浄装置,100…粉体製造装置
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