(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】建築物又は構造物用塗膜剥離組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20241122BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C09D9/00
E04G23/02 H
(21)【出願番号】P 2021018869
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】302065851
【氏名又は名称】クリアライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 雅大
(72)【発明者】
【氏名】桑原 基晶
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-537037(JP,A)
【文献】米国特許第05188675(US,A)
【文献】特開2005-154317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)の化合物及びエステル系溶剤を含有し、
前記エステル系溶剤の含有量が40~90重量%であり、ベンジルアルコールの含有量が1重量%未満である、建築物又は構造物用塗膜剥離組成物:
R
1-(OCH(R
2)-CH(R
3))
n-OH (1)
式中、
R
1
はC
2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC
5-20アリール基である;
R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子、C
1-20アルキル基、C
2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC
5-20アリール基である;
nは1以上の整数である。
【請求項2】
R
1がC
5-20アリール基であり、R
2及びR
3の一方が水素原子であり、他方がC
1-20アルキル基であり、nが1~10の整数である、請求項1に記載の塗膜剥離組成物。
【請求項3】
前記エステル系溶剤が、二塩基酸エステル及び脂肪酸エステル
のいずれか一方又は両方を含む、請求項1又は2に記載の塗膜剥離組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の塗膜剥離組成物を、建築物又は構造物表面の塗膜に塗布し、次いで剥離器具を用いて前記塗膜を剥離させる、建築物又は構造物の塗膜の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンジルアルコールの含有量が少なく、且つ優れた剥離性能を有すると共に、低温環境でも性状が安定な建築物又は構造物用の塗膜剥離組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、種々の機能、例えば、表面保護、強度保全、及び美観向上を発揮させるために、建物等の建築物及び橋梁等の構造物の表面には塗装がされている。建築物及び構造物に形成された塗膜が紫外線等の影響により経時劣化すると、上記の機能が低下する。そのため、定期的に、劣化した塗膜を剥離して塗り替えを行う必要がある。
【0003】
建築物及び構造物に形成された塗膜を剥離する方法として、物理的方法、例えば、ディスクグラインダー、電動ワイヤーブラシ又はワイヤーブラシ等の工具を用いて塗膜を剥離する方法、あるいは研削材を噴射・衝突させて塗膜を除去する方法が知られている。しかし、物理的方法では、塗膜の一部が粉塵状の微細塗膜片となって飛散する。このような微細塗膜片を作業員が吸引すると、重度の健康障害を引き起こすおそれがある。特にアスベスト等の有害物質を含む塗膜の除去では、かかる健康障害が重大な問題となる。
【0004】
このような塗膜の飛散による問題を解決するために、塗膜剥離組成物を用いる方法が知られている。塗膜剥離組成物を塗布して塗膜を軟化・膨潤させることにより、スクレーパー等の剥離器具を用いて、塗膜を物理的に剥離することができる。この方法によれば、粉塵状の微細塗膜片の発生を抑制することができる。一般的に、塗膜剥離組成物には、塗膜を軟化・膨潤させるための溶剤が含まれている。例えば、特許文献1には、エチレングリコールモノアルキルエーテルと無機酸又は有機酸とを含む樹脂の除去剤が開示されている。特許文献2には、γブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、及びベントナイトを含む塗膜剥離剤が記載されている。
【0005】
現在、ベンジルアルコールを含む塗膜剥離組成物が多く市販されている。例えば、特許文献3には、アルコール系溶剤、水、及びレオロジーコントロール剤を含む塗膜剥離剤が開示され、前記アルコール系溶剤としてベンジルアルコールが例示されている。特許文献4には、溶剤及び脂肪酸エステルを含有する塗膜剥離用組成物が開示され、前記溶剤としてベンジルアルコール等の芳香族ヒドロキシ化合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-59546号公報
【文献】特開2013-18887号公報
【文献】特開2019-131651号公報
【文献】特開2014-177599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ベンジルアルコールを含有する塗膜剥離組成物の使用による中毒事故が多発している。厚生労働省労働基準局安全衛生部による通達(令和2年8月17日一部改正 基安化発1019第1号 令和2年10月19日)では、ベンジルアルコールを含有する剥離組成物の吹き付け等において、防毒マスクを使用している作業者にも中毒症状がみられたことが紹介されている。そのため、上記通達では、当分の間、作業者に送気マスクを使用させることが通達されている。しかし、送気マスクを使用すると、吹き付け作業の効率が低下する。一方、特許文献4では、二塩基酸エステルを含む剥離組成物やエチレングリコールモノアルキルエーテルを含む剥離組成物では、剥離作用が十分ではないことが指摘されている。そこで、ベンジルアルコールの含有量が低く、且つ優れた剥離性能を有する塗膜剥離組成物の開発が望まれていた。
【0008】
また、建築物及び構造物の塗膜剥離作業は通常、屋外で行われる。よって、塗膜剥離組成物は、冬季に屋外で使用されることがある。そのため、塗膜剥離組成物は、低温環境、特に氷点下でも性状が安定していることが求められる。例えば、剥離組成物は、低温環境でも凝固せずに流動性を維持していることが求められる。
【0009】
本発明は、ベンジルアルコールの含有量が少なく、且つ優れた剥離性能を有すると共に、低温環境でも性状が安定な建築物又は構造物用塗膜剥離組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の建築物又は構造物用塗膜剥離組成物は、式(1)の化合物(以下、「化合物(1)」という。)及びエステル系溶剤を含有し、ベンジルアルコールの含有量が1重量%未満である:
R1-(OCH(R2)-CH(R3))n-OH (1)
【0011】
式(1)中、R1はC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基である;R2及びR3はそれぞれ独立して、水素、C1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基である;nは1以上の整数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、ベンジルアルコールの含有量が少ないことから、ベンジルアルコールによる中毒を抑制することができ、吹き付け時に送気マスク等の特殊な装備を使用せずに作業を行うことができる。また、本発明の組成物は、ベンジルアルコールを含む組成物と比べて、優れた剥離性能を有する。更に、本発明の組成物は低温環境でも性状が安定であることから、冬季の屋外での塗膜剥離作業に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態の建築物又は構造物用塗膜剥離組成物(以下、単に「本組成物」という。)は、化合物(1)及びエステル系溶剤を含有し、ベンジルアルコールの含有量が1重量%未満である。
R1-(OCH(R2)-CH(R3))n-OH (1)
【0014】
上記のように、特許文献4では、エチレングリコールモノアルキルエーテルを含む剥離組成物では、剥離作用が十分ではないことが指摘されている。また、特許文献1では、エチレングリコールモノアルキルエーテル及びプロピレングリコールアルキルエーテル等は、単独では効果を認めないことが開示されている。更に、特許文献4に開示されているように、プロピレングリコールアルキルエーテルは、浸漬型の塗膜剥離剤の成分として知られているに過ぎず、建築用塗膜、特にアクリル樹脂からなる建築用塗膜(仕上塗材)に対する剥離性能については知られていなかった。これに対して、本組成物は、化合物(1)を用いることにより、ベンジルアルコールを用いた場合よりも剥離性能に優れているという、全く予想外な作用効果を奏することが新たに見いだされた。
【0015】
本組成物は、化合物(1)を含有する。化合物(1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
式(1)中、R1はC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基である。前記C1-20アルキル基、C2-20アルケニル基及びアルキニル基、並びにC5-20アリール基の炭素数の上限及び下限については、上記の範囲内の任意の整数とすることができる。R1として好ましくはC5-20アリール基であり、更に好ましくはC5-12アリール基であり、更に好ましくはフェニル基である。前記C5-20アリール基は、環に他の置換基を有していてもよく、無置換でもよい。例えば、R1として置換フェニル基でもよく、無置換のフェニル基でもよい。
【0017】
式(1)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素、C1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基である。C1-20アルキル基、C2-20アルケニル基及びアルキニル基、並びにC5-20アリール基については、上記の説明が妥当する。R2及びR3は同じ基又は原子でもよく、異なる基又は原子でもよい。例えば、R2及びR3のうちの一方が水素原子であり、他方がC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基でもよい。また、R2及びR3の両方が水素原子でもよく、あるいは両方ともC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基でもよい。
【0018】
R2及びR3として好ましくは、一方が水素原子であり、他方がC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基である。R2及びR3として更に好ましくは、一方が水素原子であり、他方がC1-20アルキル基、C1-10アルキル基、C1-5アルキル基、又はC1-3アルキル基である。
【0019】
式(1)中、nは1以上の整数である。nの上限及び下限は必要に応じて1以上の適宜の整数を選択することができる。好ましくはn=1~100の整数であり、更に好ましくはn=1~50の整数であり、より好ましくはn=1~10の整数、特に好ましくはn=1~5の整数である。
【0020】
R1~R3及びnの組み合わせについて具体的に、上記の記載の任意の組み合わせを選択することができる。化合物(1)として好ましくは、R1がC5-20アリール基であり、R2及びR3のうちの一方が水素原子であり、他方がC1-20アルキル基、C2-20アルケニル基若しくはアルキニル基、又はC5-20アリール基であり、n=1~100の整数である化合物が挙げられる。より好ましくは、R1がC5-12アリール基であり、R2及びR3のうちの一方が水素原子であり、他方がC1-10アルキル基であり、n=1~10の整数である化合物が挙げられる。更に好ましくは、R1が置換又は無置換フェニル基であり、R2及びR3のうちの一方が水素原子であり、他方がC1-5アルキル基であり、n=1~5の整数である化合物が挙げられる。
【0021】
化合物(1)として具体的には、例えば、ジエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、エチレンングリコールベンジルエーテル、及びジエチレングリコールヘキシルエーテルが挙げられる。
【0022】
本組成物中、化合物(1)の含有量には特に限定はなく、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。本組成物の全量100重量%中、化合物(1)の含有量は通常、1~95重量%、好ましくは1~90重量%、更に好ましくは3~85重量%、より好ましくは5~80重量%とすることができる。
【0023】
本組成物は、前記エステル系溶剤を含有する。一般に、化合物(1)の凝固点は高く、例えば、プロピレングリコールフェニルエーテルの凝固点は11℃である。よって、プロピレングリコールフェニルエーテル等の化合物(1)を含む塗膜剥離組成物は、低温環境、特に0℃以下の氷点下において凝固し、塗布することが困難となることがある。本組成物は前記エステル系溶剤を含有することにより、剥離性能等に影響を与えることなく、低温環境での凝固を抑制することができる。前記エステル系溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0024】
前記エステル系溶剤の種類には特に限定はない。前記エステル系溶剤として、例えば、二塩基酸エステル及び脂肪酸エステルが挙げられる。例えば、前記エステル系溶剤として、二塩基酸エステル及び脂肪酸エステルのいずれか一方を用いてもよく、両者を併用してもよい。前記エステル系溶剤として二塩基酸エステル及び脂肪酸エステルを用いると、いずれか一方のみを用いた場合と比べて組成物の粘度、特に増粘剤を含む組成物の粘度を高めることができるので好ましい。
【0025】
前記二塩基酸エステルとして、例えば、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、及びアジピン酸エステルが挙げられる。前記二塩基酸エステルとして具体的には、例えば、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチルが挙げられる。前記二塩基酸エステルは1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。一般的に2種以上の混合物が安価に入手することができるので好ましい。前記二塩基酸エステルの混合物としては、シグマアルドリッチ社製「DBE」等が挙げられる。
【0026】
前記脂肪酸エステルは、飽和脂肪酸エステルでもよく、不飽和脂肪酸エステルでもよい。前記脂肪酸エステルとして、例えば、炭素数8~20の脂肪酸のエステル、あるいは炭素数8~20の脂肪酸と炭素数1~6のアルコールとのエステルが挙げられる。前記脂肪酸エステルとして具体的には、例えば、カプリル酸メチル、カプリン酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、パルミトレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピルが挙げられる。前記脂肪酸エステルは1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。一般的に2種以上の混合物が安価に入手することができるので好ましい。前記脂肪酸エステルの混合物としては、当栄ケミカル株式会社製「TOENOL#2180-70」等が挙げられる。
【0027】
前記エステル系溶剤の含有量には特に限定はなく、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。本組成物の全量100重量%中、前記エステル系溶剤の含有量は通常、1~97重量%、好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%とすることができる。前記エステル系溶剤を2種以上用いた場合、エステル系溶剤の合計量を上記範囲とすることができる。
【0028】
前記エステル系溶剤として二塩基酸エステル及び脂肪酸エステルを用いる場合、その含有量及び割合には特に限定はなく、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。本組成物の全量100重量%中、二塩基酸エステルの含有量は0.5~90重量%、好ましくは2.5~80重量%、更に好ましくは5~70重量%、より好ましくは5~60重量%とすることができ、脂肪酸エステルの含有量は0.5~90重量%、好ましくは2.5~80重量%、更に好ましくは5~70重量%、より好ましくは10~60重量%とすることができる。二塩基酸エステル及び脂肪酸エステルの割合(二塩基酸エステル:脂肪酸エステル)は重量比で1:(0.1~10)、好ましくは1:(0.15~8)、更に好ましくは1:(0.2~6)、より好ましくは1:(0.3~4)とすることができる。
【0029】
本組成物において、本組成物の全量100重量%中、ベンジルアルコールの含有量は1重量%未満、好ましくは0.75重量%未満、更に好ましくは0.5重量%未満である。ベンジルアルコールの含有量が前記範囲であると、ベンジルアルコールによる中毒を抑制することができ、また、吹き付け時に送気マスク等の特殊な装備を使用せずに剥離作業を行うことができるので好ましい。尚、特許請求の範囲及び本書面における「ベンジルアルコールの含有量は〇重量%未満」の記載は、本組成物において、ベンジルアルコールが必須の成分として含有することを意味しない。よって、本組成物において、ベンジルアルコールの含有量の下限値は0重量%でもよい。
【0030】
構造物において通常、塗膜は水平面だけでなく、垂直面にも設けられている。本組成物の粘度を高めることにより、構造物の垂直面にも容易に本組成物を塗布し、塗膜を剥離することができるので好ましい。本組成物の粘度(ローターNo.4、回転数:30rpm、温度20℃の条件で、B型粘度計により測定)は、例えば、3~50Pa・sの範囲とすることができる。本組成物の粘度を高める方法には特に限定はない。該方法として、例えば、増粘剤を加える方法の他、樹脂又は界面活性剤を加える方法が挙げられる。
【0031】
前記増粘剤の種類には特に限定はない。前記増粘剤として、塗膜剥離剤において一般的に使用されている増粘剤を用いることができる。前記増粘剤として具体的には、例えば、シリカ、セピオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セルロース系等の多糖類、アクリル系増粘剤、及びアルキルアマイドが挙げられる。前記増粘剤は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記増粘剤の含有量には特に限定はなく、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。本組成物の全量100重量%中、前記増粘剤の含有量は通常1~30重量%、好ましくは2~15重量%、更に好ましくは3~20重量%とすることができる。
【0033】
本組成物は、作用効果を著しく阻害しない限りにおいて、塗膜剥離組成物で用いられている公知の他の成分を1種又は2種以上を含んでいてもよい。前記他の成分として具体的には、例えば、剥離組成物として既知の溶剤(例えば、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトン)、防錆剤、洗浄剤、界面活性剤、酸(例えば、有機酸)、アルカリ(例えば、有機アミン)が挙げられる。
【0034】
本組成物は、建築物又は構造物に形成された塗膜の剥離に用いられる。前記建築物又は構造物の種類には特に限定はない。前記建築物として具体的には、例えば、住宅(個人宅、アパート、マンション、ビル等)、学校、門、塀等が挙げられる。前記構造物として具体的には、例えば、橋梁、歩道橋、水門、及び鉄塔等の鋼構造物が挙げられる。
【0035】
前記建築物又は構造物において、前記塗膜が形成されている部位には特に限定はない。前記塗膜は、前記建築物又は構築物の屋外表面に形成されていてもよく、屋内表面に形成されていてもよい。上記のように、本組成物は低温環境でも性状が安定である。よって、前記塗膜は、前記建築物又は構築物の屋外表面に形成されていることが好ましい。
【0036】
前記塗膜が形成されている材料には特に限定はない。前記材料として、構造物を構成する一般的な材料が挙げられる。前記材料として具体的には、金属(鋼等)、コンクリート、ガラス、モルタル、及びALC等が挙げられる。
【0037】
前記建築用塗膜として具体的には、例えば、JIS A 6909に記載の薄塗材E、防水形薄塗材E、厚塗材E、複層塗材E、防水形複層塗材E、及び複層塗材REが挙げられる。前記鋼構造物の塗膜として具体的には、例えば、社団法人日本道路協会発行の鋼道路橋塗装・防食便覧(改訂版)に記載されているA塗装系(長ばく形エッチングプライマー、鉛系さび止めペイント1種、長油性フタル酸樹脂塗料)、B塗装系(長ばく形エッチングプライマー、鉛系さび止めペイント1種、フェノール樹脂MIO塗料、塩化ゴム系塗料)、C塗装系(エポキシ樹脂塗料又は変性エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料)等が挙げられる。
【0038】
前記塗膜の種類には特に限定はない。前記塗膜として具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキドメラミン樹脂を主成分とする塗膜が挙げられる。建築用塗膜として一般的に、アクリル樹脂を主成分とする塗膜が用いられているが、プロピレングリコールフェニルエーテル等の化合物(1)がアクリル樹脂を主成分とする塗膜の剥離に有効であることは知られていない。これに対し、本組成物は、アクリル樹脂を主成分とする塗膜の剥離に好適に用いることができる(尚、前記「主成分」は、塗膜100重量%中、含有量が50重量%以上である樹脂成分、あるいは樹脂成分が2以上ある場合に最も含有量の多い樹脂成分の意味である。)。
【0039】
本組成物は通常、建築物又は構造物表面の塗膜に塗布される。塗布から必要に応じて一定時間(通常、24時間程度)放置後、スクレーパー等の剥離器具を用いて塗膜を剥離する。前記「塗布」は、浸漬以外の方法で建築物又は構造物表面に本組成物を付着させることができる限り、具体的態様には特に限定はない。前記「塗布」として具体的には、例えば、刷毛等により直接塗布する態様及びスプレー等により噴霧する態様も含む。
【0040】
本組成物の調製方法には特に限定はない。上記のように、本組成物は、ベンジルアルコールの含有量が少ないことから、ベンジルアルコールによる中毒を抑制することができ、また、ベンジルアルコールを含む組成物と比べて、優れた剥離性能を有する。よって、本組成物は、例えば、市販されているベンジルアルコールを含有する塗膜剥離剤のベンジルアルコールを、プロピレングリコールフェニルエーテル等の化合物(1)に置き換えることにより調製、使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0042】
(1)塗膜剥離組成物の調製
実施例及び比較例の塗膜剥離組成物の成分及び割合を表1及び表2に示す。尚、表1及び表2中の各成分の含有量の単位は重量%である。各成分をプロペラ羽で攪拌混合することにより、実施例及び比較例の塗膜剥離組成物を調製した。表1及び表2中の成分の詳細は以下の通りである。
プロピレングリコールフェニルエーテル;(ダウ・ケミカル社製「ダワノールPPH」)
二塩基酸エステル;シグマアルドリッチ社製「DBE」
増粘剤;有機変性ベントナイト
【0043】
(2)剥離試験1(建築物対象)
複層塗材E(吹き付けタイル)に、実施例及び比較例の各塗膜剥離組成物を0.5kg/m2塗布し、20℃の恒温槽中で24時間放置した。その後、スクレーパーにより塗膜を剥離した。以下の基準に基づいて剥離状態を評価した。その結果を表1に示す。
◎;容易に剥離可能
〇;剥離可能
△;剥離しづらい
×;かなり剥離しづらい
【0044】
(3)剥離試験2(構造物対象)
A塗装系(フタル酸系)に、実施例及び比較例の各塗膜剥離組成物を1.0kg/m2塗布し、20℃の恒温槽中で24時間放置した。その後、スクレーパーにより塗膜を剥離した。剥離試験1と同じ基準に基づいて剥離状態を評価した。その結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
(4)凝固試験
実施例の塗膜剥離組成物の調製で用いたプロピレングリコールフェニルエーテル、二塩基酸エステル、及びオレイン酸メチルエステルを用いて、表3に記載の割合(重量%)で混合物を調製した。これらの混合物を-5℃の冷凍庫に入れ、24時間後に凝固の有無を目視で確認した。その結果を表3に示す。また、実施例1~4及び比較例の溶剤組成(プロピレングリコールフェニルエーテル、二塩基酸エステル、及びオレイン酸メチルエステル)について、上記と同じ方法により凝固の有無を目視で確認した。その結果を表4に示す。表3及び表4中、「〇」は凝固しなかったことを意味し、「×」は凝固したことを意味する。
【0048】
【0049】
【0050】
表1及び表2より、実施例の塗膜剥離組成物は、複層塗材E及びA塗装系のいずれにおいても優れた剥離性能を示している。この結果は、実施例の塗膜剥離組成物は、建築物及び構築物のいずれの塗膜の剥離にも好適に使用できることを示している。
【0051】
表1より、プロピレングリコールフェニルエーテルを含む実施例の塗膜剥離組成物は、ベンジルアルコール以外の他の溶剤を用いた比較例2~9と比べて、塗膜剥離性能に優れている。また、溶剤としてベンジルアルコールを用いた比較例1と、ベンジルアルコールに代えてプロピレングリコールフェニルエーテル以外の溶剤を用いた比較例2~9とを対比すると、比較例2~9は、比較例1より剥離性能が劣る。これに対して、ベンジルアルコールに代えてプロピレングリコールフェニルエーテルを用いた実施例2は、比較例1よりも塗膜剥離性能に優れている。この結果は、ベンジルアルコールに代えて、プロピレングリコールフェニルエーテルを用いることにより、他の溶剤を用いた場合と比べて、剥離性能が向上することを示している。
【0052】
表3より、プロピレングリコールフェニルエーテルのみでは、-5℃で凝固することが確認された。一方、表3及び表4より、プロピレングリコールフェニルエーテルとエステル系溶剤(二塩基酸エステル及び/又はオレイン酸メチルエステル)とを含む混合物では、-5℃でも凝固しなかった。この結果から、本実施例の塗膜剥離組成物は、氷点下の条件であっても性状が安定であり、塗布可能である。また、表4より、ベンジルアルコールに代えてプロピレングリコールフェニルエーテルを用いた場合でも凝固を抑制していることから、本実施例の塗膜剥離組成物では、ベンジルアルコールに代えてプロピレングリコールフェニルエーテルを用いても、低温環境での性状の安定性が低下しない。