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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】中空コラーゲンゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20241122BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20241122BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20241122BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20241122BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L27/38
A61L27/50 300
A61L27/52
A61L27/58
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021537315
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029770
(87)【国際公開番号】W WO2021025005
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019143860
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 茂久
(72)【発明者】
【氏名】成田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】岩本 結衣
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/111232(WO,A1)
【文献】特開2017-086066(JP,A)
【文献】特開平10-136977(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178427(WO,A1)
【文献】特開2019-123745(JP,A)
【文献】特表平08-502082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/24
A61L 27/50
A61L 27/52
A61L 27/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔を有する材の孔に充填されたコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させることを特徴とする、中空状のコラーゲンゲルの製造方法であって、
前記接触により孔中に形成させた中空状コラーゲンゲルを、当該孔からゲル化剤中に吐出させるものであり、
前記ゲル化剤がpH7~13の緩衝液である、方法。
【請求項2】
孔を有する材の孔に充填されたコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させることを特徴とする、中空状のコラーゲンゲルの製造方法であって
を有する材料の一方の面を密閉用シール、他方の面を半透膜で覆い、半透膜で覆った面からゲル化剤を浸透させることにより、コラーゲン溶液をゲル化剤と接触させ、
前記ゲル化剤がpH7~13の緩衝液である、方法。
【請求項3】
中空状コラーゲンゲルが中空糸状である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コラーゲン溶液の濃度が0.5wt%~3.0wt%である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
孔を有する材料の孔の内径が0.1mm~2mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法により製造された、中空状のコラーゲンゲル(但し、コラーゲンゲルの外周を覆う高強度ハイドロゲルを含む外殻層を有するものを除く)。
【請求項7】
内径が0.05mmm、外径が0.2mm~5mmである、請求項に記載の中空状のコラーゲンゲル。
【請求項8】
請求項又はに記載のコラーゲンゲルの内壁又は外壁に細胞を播種したことを特徴とする医療材料。
【請求項9】
細胞が内皮細胞である、請求項に記載の材料。
【請求項10】
血管又は神経用である、請求項又はに記載の医療材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状のコラーゲンゲル及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲン素材は、外科系の医療機器(TERUMO:テルダーミス、GUNZE:ペルナック)として汎用されている。近年では、再生医療をはじめとする新規医療技術の開発においても注目されている。
【0003】
従来のコラーゲン素材として、真空乾燥処理によるスポンジ状又は膜状の製品が存在する。近年では、神経の再生を補助する糸状のコラーゲンが上市されている(NIPRO:リナーブ)。この製品は有機溶剤中にコラーゲンを吐出することで、糸状のハイドロゲルとして形成される。そして、糸状のコラーゲンは組織離開部への縫合糸、細胞を播種した細胞担体、組織再生における細胞遊走の誘導体としての利用が可能である。組織は上皮細胞と間葉系細胞により構成されるため、その再生には実質細胞(上皮細胞など)と間葉系細胞(血管内皮など)による異なる細胞を同時に移植する必要がある。
【0004】
しかし、上記方法では有機溶剤が残存するため、その毒性問題を解決することが課題となる。特に、再生医療で必要とされる細胞担体として、糸状である場合は素材内部への細胞ないし径の大きい粒状薬剤の封入は不可能である。さらに、糸状の場合、2種類以上細胞を表面に播種すると、増殖能が低い細胞は増殖能の高い細胞に駆逐されるため、培養培担体としての利用は不適である。
【0005】
他方、本発明者は、円柱状のハイドロゲルに紫外照射を施して、ガラス化し、再水和することで糸状のアテロコラーゲンが製造できることを見出した(非特許文献1:Biomater Sci. 2019 7(1):125-138)。
【0006】
また、管状の組織体を製造する技術として、平滑筋細胞の収縮性を利用した高密度・高配向コラーゲン管状組織体の形成と超小口径人工血管への応用の可能性などが知られており(非特許文献2:神田圭一,岡隆宏,松田武久- 人工臓器, 1994)、連続的、円筒状、同軸コラーゲン・フィルムの連続で形成されている壁を有することを特徴とするコラーゲンチューブなども知られている(特許文献1:特表2009-540896号公報)。さらに、コラーゲンチューブ作製する方法として、特開昭48-033686号公報(特許文献2)では、円筒ノズルによる成形、特開2011-130995号公報(特許文献3)では、管腔コラーゲン構造体の管内部に棒状部材を挿入し成形する方法が開示されている。また、特公平04-035185号公報(特許文献4)では、円筒ノズルによる成形方法、GB1007978号公報(特許文献5)ではコラーゲン原線維を含む押出しコラーゲンチューブ、FR2902661号公報(特許文献6)では、コラーゲンフィルムを巻いてチューブ状にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-540896号公報
【文献】特開昭48-033686号公報
【文献】特開2011-130995号公報
【文献】特公平04-035185号公報
【文献】GB1007978号公報
【文献】FR2902661号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Biomater Sci. 2019 7(1):125-138
【文献】神田圭一,岡隆宏,松田武久- 人工臓器, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
中空糸型のコラーゲン素材では、内部に血管内皮細胞を封入し、外部に上皮細胞などの実質細胞を播種することで、増殖能の差を考慮することなく簡便に細胞の共培養が可能となり、基本的な血管網を有する組織構築を再現した画期的移植デバイスとなり得る。神経組織再生においても、内部に神経細胞、外部にシュワン細胞を播種することで既存製品よりはるかに高率な神経再生効果が期待される。さらに、この中空糸型のコラーゲン素材は、それぞれの中空糸ごとに異なる細胞を組み合わせ、それぞれを束ね合わせることで、簡便に人工臓器を作製することも可能となる。
そこで、従来の中空糸型のコラーゲン素材の製法よりもより簡便に中空状コラーゲンゲルを製造できる方法の開発が望まれていた。
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、孔を有する材料(例えば中空状のチューブ又は中空状の円柱容器)に封入したコラーゲンにゲル化剤を浸透させることにより中空状のコラーゲンゲルを形成させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下の実施形態を包含する。
(1)孔を有する材料の孔に充填されたコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させることを特徴とする、中空状のコラーゲンゲルの製造方法。
(2)前記接触により孔中に形成させた中空状コラーゲンゲルを、当該孔からゲル化剤中に吐出させるものである、(1)に記載の方法。
(3)中空状コラーゲンゲルが中空糸状である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)コラーゲン溶液の濃度が0.5wt%~3.0wt%である(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)ゲル化剤のpHが7から13である(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)孔を有する材料の孔の内径が0.1mm~2mmである、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の方法により製造された、中空状のコラーゲンゲル。
(8)内径が0.05mmm、外径が0.2mm~5mmである、中空状のコラーゲンゲル。
(9)(7)又は(8)に記載のコラーゲンゲルの内壁又は外壁に細胞を播種したことを特徴とする医療材料。
(10)細胞が内皮細胞である、(9)に記載の材料。
(11)血管又は神経用である、(9)又は(10)に記載の医療材料。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-143860号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、中空状のコラーゲンゲルが提供される。本発明により製造された中空コラーゲンゲルは、(i)細胞、薬剤又は菌体封入デバイス、(ii)異種細胞同時移植デバイス、(iii)毛細血管を付与した細胞移植デバイス、(iv)体外式人工臓器作製用のホローファイバー等に使用することができる。
糸の中空化はその内部に縫合後の早期治癒を促す薬剤などを含有できる等、糸の高機能化に大きく寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の中空コラーゲンゲルの製法の概要図である。
図2】中空ゲルのできるコラーゲン濃度を示す図である。
図3】毛細管径と空洞径との関係を示す図である。
図4】中空糸の内腔に内皮細胞が被覆できることを示す図である。
図5】注射器を用いてコラーゲンゲル糸を調製した実験の模式図を左側に、結果を右側に示す。
図6】2種類のコラーゲンゲルについて、中空糸の内腔への内皮細胞の被覆の有無を示す図である。Aは、本願実施例2に記載の手順に従って作製したコラーゲンゲルの結果を、Bは特開2019-123845号公報の第1実施例に記載された製法に従って作製したコラーゲンゲルの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態において、本発明は、孔を有する材料(孔の開いた容器)に充填したコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させることにより、中空状のコラーゲンゲル(コラーゲンゲル製の中空状チューブ)を製造する方法、及び中空状のコラーゲンゲルに関する。一実施形態において、本発明は、孔を有する材料の孔に充填されたコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させることを含む、中空状のコラーゲンゲルの製造方法に関する。
【0015】
本発明は、孔を有する材料の孔内に充填したコラーゲン溶液をゲル化剤と接触させると、コラーゲン溶液がゲル化するとともに、ゲル化に伴う収縮により、中空部が形成されるという知見に基づき完成されたものである。
一実施形態では、本発明においては、コラーゲン溶液を孔を有する材料、例えば中空状の細長いチューブ又は中空状の円柱状容器に充填させた後、孔を有する材料の孔の一方をシールし、他方の面からゲル化剤を接触させることにより、コラーゲン溶液をゲル化させるとともに、コラーゲンゲルを中空化させる。
本発明の別の態様においては、孔が無数であって、かつ、孔が曲がって入り組んだ立体的な多孔質材料であっても、充填されたコラーゲン溶液が空洞を形成する限り、形状は特に限定されるものではない。
【0016】
原料となるコラーゲンは、特に限定されるものではなく、市販のものを使用することができる。また、動物の由来も限定されるものではなく、例えばブタ、ウシ、魚類、鳥類由来のものを使用することができる。
コラーゲン溶液の濃度は、例えば0.5~3重量%(wt%)、好ましくは1重量%である。なお、コラーゲン溶液の溶媒としては、水性溶媒である限り、特に限定されるものではない。なお、水性媒体には、アルコール、グリセリン、界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0017】
コラーゲン溶液をゲル化させるためのゲル化剤としては、特に限定されるものではなく、溶液、気体及び固体のいずれを使用することができる。
ゲル化剤が溶液の場合のゲル化剤としては、緩衝液、例えばPBS、EDTA、Tris-HCl、TE、TAE、SSC、TBE、SSPE、リン酸緩衝液、炭酸-重炭酸緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES、BES、MOPS、TES、TAPSO、POPSO、HEPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSなどが挙げられる。また、ゲル化剤のpHは、7~13である。
【0018】
ゲル化剤が気体の場合(蒸気として使用する場合)のゲル化剤としては、蒸気が水に溶解したときに塩基性溶液となるものであれば、特に限定されるものではく、例えば アンモニア気体、メチルアミン、エタノールアミンなどが挙げられる。
ゲル化剤が固体の場合のゲル化剤としては、例えば炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0019】
一実施形態において、本発明の方法は、ゲル化工程において、ゲル化制御剤を必要としない。ゲル化制御剤とは、ゲル化の有無又はその速度を変更する、ゲル化剤とは異なる物質である。ゲル化制御剤としては、例えばpHを調整する塩酸、硫酸、及び酢酸等の酸;水酸化ナトリウム、及びアンモニア等の塩基;イオン強度を変化させる食塩等の電解質;並びにこれらの組み合わせが挙げられる。「ゲル化制御剤」を用いない場合、ゲル化制御剤を用いる場合と比べて使用する成分の数が少なく、製造方法が簡便である。
【0020】
孔を有する材料の材質は、特に限定されるものではないが、プラスチック製(テフロン、ポリスチレン、ポリエチレン等)、ガラス製のものがよい。また、孔を有する材料の内径(中空部の直径)は、例えば0.05mm以上、0.1mm以上又は0.2mm以上であってよく、2.0mm以下、1.9mm以下、1.8mm以下、1.7mm以下、1.6mm以下、1.5mm以下、1.4mm以下、1.3mm以下、1.2mm以下、1.1mm以下、又は1.0mm以下であってよい。孔を有する材料の内径(中空部の直径)は、例えば0.1mm~2.0mm、0.1mm~1.0mm、好ましくは0.2mm~1mmである。毛細管や孔の開いた基板などを使用することもできる。
【0021】
次に、コラーゲン溶液をゲル化剤と接触させてコラーゲンゲルをゲル化させる方法を以下に述べる。
一実施形態では、孔を有する材料の一方の面はゲル化剤と接触しており、他方の面はゲル化剤と接触しない。例えば、ゲル化剤が溶液の場合は、上記孔を有する材料の一方の面を密閉用シール、他方の面を透析膜などの半透膜で覆い、半透膜で覆った面からゲル化剤を浸透させる。ゲル化剤の浸透は、例えば図1に示すように、円柱状容器の一方の面をフッ素シールで、他方の面を透析膜でそれぞれ覆い、シールテープ又はシリコンゴムで密閉する。その後透析膜をゲル化剤が浸透できるように、容器をゲル化剤に浸漬する。浸漬する時間は10分~10日であり、浸漬したときのコラーゲン溶液とゲル化剤との反応温度は0~37℃である。これにより、ゲル化剤は透析膜を通って容器に充填されたコラーゲンに作用してコラーゲンをゲル化させるとともに、ゲル化に伴う収縮により、コラーゲンゲルが中空化する。」
【0022】
一実施形態において、本明細書に記載の方法では、前記接触により孔中に形成させた中空状コラーゲンゲルを、当該孔からゲル化剤中に吐出させる。この場合、接触によりゲルが形成される速度よりも遅い速度でゲル化剤を吐出することで、連続的にゲルを調製することができる。吐出速度は、吐出を行う容器の形状等にも依存し、限定しないが、例えば100mm/h以下、50mm/h以下、20mm/h以下、15mm/h以下、又は10mm/h以下であってよく、1mm/h以上、2mm/h以上、又は5mm/h以上であってよい。本明細書において、「連続的にゲルを調製」するとは、コラーゲン溶液とゲル化剤の接触によるゲルの形成が連続的に行われることを意図し、休止時間を含まずにゲル調製を行う場合だけでなく、休止時間を挟んで複数回のゲル調製を行う場合も包含する。連続的にゲルを調製することで、孔を有する材料の孔の全長よりも長い糸を調製することが可能である。
連続的なゲル調製は、例えば注射器等の容器中にゲル化剤を充填し、注射針等の吐出部からコラーゲン溶液を吐出することにより行うことができる。この場合、注射針が孔を有する材料に相当し、ここにおいてゲルが形成される。ゲルの吐出は、人手で行ってもよいし、吐出速度を正確に制御するために機械で行ってもよい。
【0023】
このようにして製造された中空状コラーゲンゲルの内径(コラーゲンゲル製チューブの中空部の直径)は、例えば0.01mm~2.0mmであり、好ましくは0.05mm~1mm又は0.1 mm~0.6 mmである。また、中空状コラーゲンゲルの外径(コラーゲンゲル製チューブの直径)は、例えば0.1mm~2.0mmであり、0.1mm~1.0mm、好ましくは0.2mm~1mmである。中空状コラーゲンゲルの外径は、上記孔を有する材料の内径と同じであってもよい。
【0024】
また、このようにして製造された中空状コラーゲンゲルの長さは、例えば3cm以上、4cm以上、5cm以上、8cm以上、10cm以上、15cm以上、又は20cm以上であってよい。中空状コラーゲンゲルの長さは、100m以下、10m以下、1m未満、又は50cm以下であってよい。
【0025】
一実施形態において、本明細書に記載のコラーゲンゲルは、コラーゲンゲルは中空糸状である。本明細書に記載のコラーゲンゲルは、長く細い中空糸を提供し得るので、縫合糸として用いる場合、規格(例えば、JIS 医療用絹製縫合糸)に沿った糸を提供し得る。また、この中空糸に異種細胞を整列させ編み合わせた3次元細胞組織を作成する場合、多様で緻密な組織の調製が可能となりうる。
【0026】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載のコラーゲンゲルを含む医療材料であって、前記コラーゲンゲルの内壁又は外壁に細胞が播種された、医療材料に関する。コラーゲン素材を培養担体とした場合、培養担体としてポリスチレン、ポリカーボネイト素材等を使用した場合に比べて、細胞の生理機能が亢進し得ることが報告されている(例えば、Ko JA et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2008, 49(1), pp. 113-9、及びKo JA et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2009, 50(5), pp. 2054-60を参照)。
【0027】
一実施形態において、前記コラーゲンゲルの内壁に播種する細胞は内皮細胞であってよく、外壁に播種する細胞は上皮細胞などの実質細胞であってよい。本明細書に記載のコラーゲンゲルの内部に血管内皮細胞を封入し、外部に上皮細胞などの実質細胞を播種することで、増殖能の差を考慮することなく簡便に細胞の共培養が可能となり、基本的な血管網を有する組織構築を再現した移植材料を調製し得る。
【0028】
一実施形態において、前記コラーゲンゲルの内壁に播種する細胞は神経細胞であってよく、外壁に播種する細胞はシュワン細胞であってよい。このようなコラーゲンゲルは神経組織再生に用いることができ、高率な神経再生効果を有し得る。
【0029】
一実施形態において、本明細書に記載の医療材料は、血管又は神経用である。
【0030】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
方法
1、3又は6 wt%のブタ由来コラーゲン溶液(日本ハム製)をガラス製毛細管(内径:0.47、1.05又は1.89 mm)に充填した。毛細管の一方をフッ素シールテープで密封した。これを緩衝液(pH10)に浸漬し、冷温庫(7℃)で5日間静置した。
【0032】
結果
コラーゲン濃度1wt%で調製したゲル内には空洞が確認された(図2、内径:0.47mmの場合)。コラーゲン濃度3又は6wt%で調製したゲル内には空洞が確認できなかった。ゲルの空洞径から求めた収縮率は、毛細管径が小さいほど大きいことが確認された(図3)。この結果は、緩衝液から加わる浸透圧および、ゲルとガラス界面が空洞形成に関与することを示唆している。蒸留水およびPBS中で再膨潤させた風乾後のキセロゲルは、24時間後に平衡膨潤度(蒸留水:2.8、PBS:2.5)に達し、その後も形状は維持された。膨潤度はリン酸緩衝液よりも蒸留水中で大きくなることが明らかになった。
【実施例2】
【0033】
方法
中空糸の調製方法:1wt%ブタ由来コラーゲン溶液(日本ハム製)を内径1 mmのPTFE製毛細管に充填し、実施例1と同様に毛細管の一方をフッ素シールテープで密封し、炭酸塩緩衝液(pH10)に5日間ほど浸漬させて中空コラーゲンゲルを調製した。ゲル化後、一端のフッ素シールテープを取り除き、スポイトで毛細管内のゲルを押し出し毛細管からコラーゲンゲルを取り出した。取り出したゲルは一端からガラス棒に吊るし、20℃、湿度60%で1日間風乾し、キセロゲルを得た。
【0034】
中空糸状コラーゲンゲルを径10 cmの培養皿内に静置し、培養液10 ml当たり100万個の内皮細胞を混合し、静置培養を行うことで、内皮細胞(細胞株、MS-1、ATCC)をコラーゲンゲルに播種した。培地交換は2日おきに行った。
【0035】
播種後、7日目に中空糸状コラーゲンゲルをホルマリン固定し、パラフィン包埋した後に薄切し、HE染色により細胞の接着および分布状況を確認した。
【0036】
結果
中空糸の内腔に内皮細胞が被覆できることが確認できた(図4)。
【実施例3】
【0037】
方法
以下の手順で注射器を用いてコラーゲンゲル糸を調製した。(a):1wt%ブタ由来コラーゲン溶液(日本ハム製)を用いた。(b):緩衝溶液は炭酸塩緩衝液(pH10)を使用し、20 mlをバイアル瓶に入れた。(c):容量10 mlのプラスチックディスポシリンジの先に内径1.89 mmのPTFE製チューブ(50 mm長)を取り付けた。(d):(a)のコラーゲン水溶液を6ml、PTFEチューブを取り付けたシリンジに封入した。(e):(d)のPTFEチューブの先までコラーゲンを押出した後、(b)の緩衝溶液に挿入しコラーゲン溶液と(b)の緩衝溶液と接触させ、2日間放置した。(g):この放置後、マイクロシリンジポンプを用いて10mm/hでコラーゲン溶液を緩衝溶液内に吐出させ、コラーゲンゲル糸を得た。
【0038】
結果
本実験の模式図を図5の左側に、結果を図5の右側に示す。調製されたコラーゲンゲル糸の長さ、6cm~15cmであった。
【実施例4】
【0039】
方法
本願実施例2記載の手順に従って作製したコラーゲンゲルと特開2019-123845号公報の第1実施例に記載の手順に従って作製したコラーゲンゲルについて、中空内部への血管内皮細胞の接着性、増殖性を比較した。
【0040】
コラーゲンゲルを径10 cmの培養皿内に静置し、培養液10 ml当たり100万個の内皮細胞を混合し、静置培養を行うことで、内皮細胞(細胞株、MS-1、ATCC)をコラーゲンゲルに播種した。培地交換は2日おきに行った。
播種後、7日目にコラーゲンゲルをホルマリン固定し、パラフィン包埋した後に薄切し、HE染色により細胞の接着および分布状況を確認した。
【0041】
結果
結果を図6に示す。本願実施例2に記載の手順に従って作製したコラーゲンゲルでは、素材の外側および中空内腔面(矢印)の部分に内皮細胞の被覆(増殖)像が見られた。一方、特開2019-123845号公報の第1実施例に記載された製法に従って作製したコラーゲンゲルでは、素材の外側(矢頭)部分には血管内皮細胞の被覆像が見られるが、内腔(星印)部分には細胞の被覆像は見られなかった。
【0042】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6