(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】油圧サーボバルブの制御装置、油圧サーボバルブの制御方法、油圧サーボバルブの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 11/36 20060101AFI20241122BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20241122BHJP
F02M 47/00 20060101ALI20241122BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20241122BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G05B11/36 501Z
F16K31/06 385A
F02M47/00 F
G05B11/36 H
G05B13/02 B
G05B13/04
(21)【出願番号】P 2020018285
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 武史
(72)【発明者】
【氏名】久保山 豊
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-018970(JP,A)
【文献】特開2002-364453(JP,A)
【文献】特開平08-261886(JP,A)
【文献】特開2002-130202(JP,A)
【文献】特開平03-042117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/36
F16K 31/06
F02M 47/00
G05B 13/02
G05B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインバルブのスプールの目標位置と実位置との差に応じて前記メインバルブのスプールを駆動するパイロットバルブのスプールの位置をフィードバック制御するスプール制御部と、
前記パイロットバルブおよびメインバルブに所定動作をさせるように制御する所定動作制御部と、
前記パイロットバルブのスプールの位置と前記メインバルブのスプールの実位置および目標位置の少なくとも一方の位置と、又は、前記パイロットバルブのスプールの位置と前記パイロットバルブのスプールを駆動する駆動電流と、を取得する取得部と、
前記所定動作制御部が前記パイロットバルブおよび前記メインバルブに前記所定動作をさせるように制御しているときの前記取得部が取得した情報に基づいて前記パイロットバルブの劣化状態を推定する推定部と、
前記推定部の推定結果に基づいて、前記スプール制御部による前記フィードバック制御の制御パラメータを補正する補正部と、
を備え
、
前記補正部は、前記パイロットバルブの中立シフトおよび局所ゲインの変化を打ち消す方向に、前記制御パラメータのゲインおよびオフセットを補正する、油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項2】
前記所定動作は前記メインバルブのステップ動作または繰返動作である
請求項1に記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項3】
前記所定動作は前記メインバルブまたはパイロットバルブの固着防止動作である
請求項1に記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項4】
前記所定動作は前記メインバルブのスプールの位置に応じて燃料供給量が制御されるエンジンが停止しているときの動作である
請求項1から3のいずれかに記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項5】
前記補正部はユーザによって所定の操作部が操作されたときに前記制御パラメータを補正する
請求項1から4のいずれかに記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項6】
前記所定の操作部は前記パイロットバルブに設けられる
請求項5に記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項7】
前記所定の操作部はリモートコントローラに設けられ、
前記リモートコントローラに設けられた前記所定の操作部がユーザによって操作されたことを示す信号を無線通信を介して受信するための無線通信部を備える
請求項5に記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項8】
前記パイロットバルブおよび前記メインバルブは入力に対して出力流体の流量を比例的に制御する比例制御弁で
ある
請求項1から7のいずれかに記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項9】
前記推定部は予め機械学習により生成された劣化推定モデルを用いて前記パイロットバルブの劣化状態を推定し、
前記補正部は前記推定部の推定結果を予め機械学習により生成されたパラメータ補正モデルに入力して前記制御パラメータを補正する
請求項1から8のいずれかに記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項10】
前記補正部は前記推定部の推定結果が閾値を超えた場合に前記制御パラメータを補正する
請求項1から9のいずれかに記載の油圧サーボバルブの制御装置。
【請求項11】
メインバルブのスプールの位置に応じて前記メインバルブに油圧を供給するパイロットバルブのスプールの位置を変更するフィードバック制御を実行するステップと、
前記パイロットバルブおよびメインバルブに所定動作をさせるように制御するステップと、
前記パイロットバルブのスプールの位置と前記メインバルブのスプールの位置と、又は、前記パイロットバルブのスプールの位置と前記パイロットバルブのスプールを駆動する駆動電流と、を取得する取得ステップと、
前記パイロットバルブおよび前記メインバルブが前記所定動作をするように制御されているときの前記取得ステップで取得された取得結果に基づいて前記パイロットバルブの劣化状態を推定する推定ステップと、
前記推定ステップの推定結果に基づいて前記フィードバック制御の制御パラメータを補正する補正ステップと
を含
み、
前記補正ステップは前記パイロットバルブの中立シフトおよび局所ゲインの変化を打ち消す方向に、前記制御パラメータのゲインおよびオフセットを補正する、油圧サーボバルブの制御方法。
【請求項12】
メインバルブのスプールの位置に応じて前記メインバルブに油圧を供給するパイロットバルブのスプールの位置を変更するフィードバック制御を実行するステップと、
前記パイロットバルブおよびメインバルブに所定動作をさせるように制御するステップと、
前記パイロットバルブのスプールの位置と前記メインバルブのスプールの位置と、又は、前記パイロットバルブのスプールの位置と前記パイロットバルブのスプールを駆動する駆動電流と、を取得する取得ステップと、
前記パイロットバルブおよび前記メインバルブが前記所定動作をするように制御されているときの前記取得ステップで取得された取得結果に基づいて前記パイロットバルブの劣化状態を推定する推定ステップと、
前記推定ステップの推定結果に基づいて前記フィードバック制御の制御パラメータを補正する補正ステップと
をコンピュータに実行させ
、
前記補正ステップは前記パイロットバルブの中立シフトおよび局所ゲインの変化を打ち消す方向に、前記制御パラメータのゲインおよびオフセットを補正する、油圧サーボバルブの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧サーボバルブの制御装置、油圧サーボバルブの制御方法および油圧サーボバルブの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フィードバックを用いたサーボ系を備えるサーボ制御システムが記載されている。このサーボ制御システムは、サーボ弁により制御される油圧シリンダと、この油圧シリンダにより操作される負荷と、油圧シリンダストローク変位と目標信号との偏差を解消するように制御入力を与えるコントローラとを備える。また、このシステムは、制御対象の状態量を推定するオブザーバと、このオブザーバの推定結果をゼロとする状態フィードバックを行うサーボ系とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、パイロットバルブを介してメインバルブを制御する油圧サーボシステムについて以下の認識を得た。
エンジン制御装置などの上位制御システムの指令情報に基づいてパイロットバルブを介してメインバルブを制御する油圧サーボシステムについて、メインバルブのスプールの位置をフィードバックして閉ループ制御する構成が考えられる。この場合、制御システムのパラメータは、劣化前のパイロットバルブの特性に基づいて設定される。
【0005】
しかし、このようなシステムでは、メインバルブのスプールの位置が一定となるように制御している場合、メインバルブのスプールの位置の変化は検知できない。このため、パイロットバルブの劣化状態を把握できず、パイロットバルブが突発的に壊れるという課題がある。
【0006】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、パイロットバルブの劣化状態を推定できる油圧サーボバルブの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の油圧サーボバルブの制御装置は、メインバルブのスプールの目標位置と実位置との差に応じてメインバルブのスプールを駆動するパイロットバルブのスプールの位置をフィードバック制御する制御部と、パイロットバルブのスプールの位置とメインバルブのスプールの実位置および目標位置の少なくとも一方の位置と、又は、パイロットバルブのスプールの位置とパイロットバルブのスプールを駆動する駆動電流と、を取得する取得部と、取得部が取得した情報に基づいてパイロットバルブの状態を推定する推定部とを備える。
【0008】
この態様によると、フィードバック制御と並行してパイロットバルブの劣化状態を推定することによりパイロットバルブの寿命を把握できる。これにより、パイロットバルブがいきなり壊れることを回避できる。
【0009】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パイロットバルブの劣化状態を推定できる油圧サーボバルブの制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る油圧サーボバルブの制御装置を概略的に示す構成図である。
【
図3】
図1の制御装置を含む制御ループを示すブロック線図である。
【
図4】
図1の制御装置の劣化状態を推定する動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図1の制御装置の制御パラメータを補正する動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図1の制御装置の推定モデルを生成するニューラルネットワークを模式的に示す図である。
【
図7】
図1の制御装置の補正モデルを生成するニューラルネットワークを模式的に示す図である。
【
図8】第3実施形態に係る油圧サーボバルブの制御装置を概略的に示す構成図である。
【
図10】
図8の制御装置の制御ループを示すブロック線図である。
【
図11】第4実施形態に係る制御方法を示すフローチャートである。
【
図12】フィードバック制御のオフセットを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0014】
[第1実施形態]
図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る油圧サーボバルブのバルブ制御装置100を説明する。本発明に係る制御装置は、各種の油圧サーボバルブに使用できるが、第1実施形態では、アクチュエータ80を油圧により駆動する油圧サーボバルブ10、20を制御するバルブ制御装置100によって例示される。アクチュエータ80は船舶エンジンに燃料を供給する。
【0015】
先ず、油圧サーボバルブ10、20およびその周辺構成を説明する。
図1は、油圧サーボバルブ10、20とバルブ制御装置100とを概略的に示す構成図である。
図2は、油圧サーボバルブ10、20とバルブ制御装置100とを示すブロック図である。この図では、説明に重要でない構成要素の記載を省いている。本実施形態では、油圧サーボバルブ10、20は、アクチュエータ80に油圧を供給するメインバルブ20と、メインバルブ20の動作を油圧により制御するパイロットバルブ10とを含む。パイロットバルブ10およびメインバルブ20に限定はないが、本実施形態では、入力信号に対して出力流体の圧力または流量を比例的に制御する比例制御弁である。この場合、弁は制御量に比例して動作するので、安定したフィードバック制御を実現できる。
【0016】
パイロットバルブ10は、スプール(以下、「パイロットスプール12」という)を有する。パイロットスプール12は、エンジン制御装置82(上位制御装置)およびバルブ制御装置100の指令に基づいて移動しその位置が変化する。パイロットバルブ10は、パイロットスプール12の位置に応じてメインバルブ20への作動油48の送出状態を変化させる。
【0017】
メインバルブ20は、スプール(以下、「メインスプール22」という)を有する。メインスプール22は、パイロットバルブ10からの作動油48の送出状態に応じて移動しその位置が変化する。メインバルブ20は、メインスプール22の位置に応じてアクチュエータ80に供給する油圧を制御する。つまり、エンジン制御装置82は、パイロットバルブ10、メインバルブ20およびバルブ制御装置100を介してアクチュエータ80を制御する。パイロットバルブ10とメインバルブ20のセットは、エンジンの複数(例えば、6つ)の気筒それぞれに対応するアクチュエータ80に設けられている。
【0018】
図1のメインバルブ20の油圧系統は、作動油48を貯留するドレインタンク44と、ドレインタンク44の作動油48を加圧して送出する油圧ポンプ42とを含む。油圧ポンプ42から送出された作動油48は、メインバルブ20内のポンプ側配管部28pを通じて、メインバルブ20の内部とパイロットバルブ10とに供給される。パイロットバルブ10とメインバルブ20の内部から排出される作動油48は、メインバルブ20内のタンク側配管部28tを通じてドレインタンク44に戻される。
【0019】
パイロットバルブ10は、パイロットスプール12と、第1位置センサ14sと、ポート16と、スプール駆動部18とを主に含む。パイロットスプール12は、複数の弁体12gを有する。スプール駆動部18は、パイロットスプール12を移動させるソレノイド(不図示)を含み、バルブ制御装置100からの指令に基づいてパイロットスプール12を移動させて弁体12gの位置を制御する。この例では、3つの弁体12gは、3つのポート16を開閉可能な位置に配置されており、パイロットスプール12の位置に応じて複数のポート16の間の連通状態を変化させる。
【0020】
本実施形態のポート16は、ポート16pと、ポート16aと、ポート16tとを含む。ポート16pは、メインバルブ20のポンプ側配管部28pに接続され、油圧ポンプ42から加圧された作動油48の供給を受ける。ポート16aは、メインバルブ20の作動油受入部28aに接続される。ポート16tは、タンク側配管部28tに接続され、パイロットバルブ10に流れた作動油48をタンク側配管部28tを通じてドレインタンク44に排出する。
【0021】
第1位置センサ14sは、パイロットスプール12の位置を検知し、その検知結果(以下、「検知位置PVx」、「位置PVx」という)をバルブ制御装置100に送信する。
【0022】
本実施形態のメインバルブ20は、メインスプール22と、メインスプール22の位置を取得する第2位置センサ24sとを主に含む。メインスプール22は、パイロットバルブ10から作動油受入部28aに供給された作動油48の圧力に基づいて移動し、アクチュエータ80を介してエンジンへの燃料供給量を変化させる。つまり、エンジンへの燃料供給量は、メインスプール22の位置に応じて変化する。
【0023】
第2位置センサ24sは、メインスプール22の位置を検知し、その検知結果(以下、「検知位置MVx」、「位置MVx」という)をエンジン制御装置82およびバルブ制御装置100に送信する。
【0024】
エンジン制御装置82は、目標位置特定部82aと、制御演算部82bとを有し、メインスプール22の目標位置MVsとメインスプール22の実位置(検知位置MVx)とに基づいてフィードバック制御を行う。目標位置特定部82aは、目的のエンジン出力Hsに対応するメインスプール22の目標位置MVsを特定する。制御演算部82bは、第2取得部24の検知位置MVxをフィードバック情報として受信し、演算処理により、目標位置MVsと検知位置MVxとの偏差に応じてパイロットスプール12の目標位置PVsを得る。エンジン制御装置82は、制御演算部82bの演算結果を指令情報(パイロットスプール12の目標位置PVs)としてバルブ制御装置100に送信する。
【0025】
エンジン制御装置82およびバルブ制御装置100のフィードバック制御の制御ループを説明する。
図3は、油圧サーボバルブ10、20とバルブ制御装置100とを含む制御ループを示すブロック線図である。バルブ制御装置100は、エンジン制御装置82の制御ループを構成する制御要素として第1の動作を行うとともに、制御パラメータを補正する第2の動作を行う。
【0026】
まず、バルブ制御装置100の第1の動作を説明する。エンジン制御装置82は、メインスプール22の目標位置MVsと検知位置MVxとの偏差に基づいて、パイロットスプール12の位置を変化させるフィードバック制御を行う。この結果、メインスプール22の検知位置MVxが、目標位置MVsに追従するように制御される。
【0027】
第1の動作において、バルブ制御装置100は、エンジン制御装置82の制御ループにおいて、パイロットスプール12の目標位置PVs(指令値)と検知位置PVx(実位置)との偏差に基づいて、フィードバック制御を行う。バルブ制御装置100のフィードバック制御の制御パラメータは、後述するパラメータ記憶部32pに記憶されている。この制御フィードバックは、PID制御を含んでいる。この結果、パイロットスプール12の検知位置PVxが、パイロットスプール12の目標位置PVsに追従するように制御される。バルブ制御装置100の制御パラメータには、ゲインJgとオフセットJsとが含まれる。
【0028】
オフセットJsを説明する。
図12は、フィードバック制御におけるオフセットを説明する図である。この図は、フィードバック制御のステップ応答を示している。この制御では、制御量は設定値に向かって立ち上がり、設定値の上下でオーバーシュートとアンダーシュートを繰り返し、やがて定常値に収束して定常状態に至る。オフセットJsは、定常状態における制御量の設定値に対する偏差である。オフセットJsは、例えば、負荷の変動、センサの検出誤差、制御対象の中立位置の変化などによって変化する。オフセットJsは、センサの検出値など帰還ループの途中に補正信号を加えることで調整できる。
【0029】
ゲインJgを説明する。ゲインJgは、フィードバック制御の閉ループを切った場合にその閉ループを一巡する一巡伝達関数のループゲインである。したがって、ゲインJgは、フィードバック制御を構成する各要素の局所的な伝達ゲイン(以下、「局所ゲイン」いう)の積である。一巡伝達関数のループゲインが大きいと、オーバーシュートとアンダーシュートが増えてこれらが収束するまでの時間が長くなり、さらに大きくなるとオーバーシュートとアンダーシュートが集束しない不安定状態になる。一巡伝達関数のループゲインが小さいと、オーバーシュートとアンダーシュートは減るが、立ち上がりが遅くなり、設定値に達するまでの時間が長くなり、定常偏差が増えていわゆる応答が悪い状態になる。したがって、フィードバック制御の応答性は、一巡伝達関数のループゲインによって変化する。
【0030】
一巡伝達関数は複素関数であり、フィードバック制御の安定性は、ループゲインの周波数特性(ゲイン曲線)と、位相遅れの周波数特性(位相曲線)とにより示される。ループゲインが0dB(1倍)になる周波数(ゲインゼロクロス周波数)で位相遅れが180°に達すると、オーバーシュートとアンダーシュートとが収束しない不安定状態(発振状態)になる。
【0031】
したがって、ゲインゼロクロス周波数で、位相遅れが180°未満であることが安定条件であり、この周波数における、位相遅れが180°までどの程度の余有(位相余有)があるかによって、制御の安定性を判断できる。つまり、位相余有が小さいと制御は不安定であり、位相余有が大きいと安定し、位相余有が大きすぎると応答性が悪くなる。位相余有は、一巡伝達関数のループゲインを上げると減少し、下げると増大する。したがって、位相余有は、ループゲインにより調整できる。また、位相余有は、一巡伝達関数の位相遅れ要素が変化すると変化する。
【0032】
ここで、比較のために、第2の動作を用いない場合(推定部34および補正部36を用いない場合)を説明する。
【0033】
パイロットバルブ10の劣化は、主に弁体12gの摩耗(以下、単に「摩耗」ということがある)によって進行する。摩耗により中立位置のシフト(以下、「中立シフト」という)が発生する。中立位置は、作動油48が送出されない弁体12gの位置であり、摩耗が増加すると、中立位置が摩耗がない初期位置から変化し、中立シフトを生じる。中立シフト量が大きくなると、パイロットバルブ10に制御されるメインスプール22の位置がシフトし、フィードバック制御のオフセットJsが増加する。オフセットJsが増加すると、定常状態で設定値からの偏差が大きくなり制御精度が低下する。
【0034】
また、摩耗により、パイロットバルブ10の内部油漏れ量が増大し、パイロットスプール12の位置変化に対する作動油48の送出量の変化の割合が大きくなる。つまり、摩耗により、パイロットバルブ10の局所ゲインが高くなる。パイロットバルブ10の局所ゲインが高くなると、フィードバック制御のループゲインであるゲインJgも高くなり、位相余有が減少し、オーバーシュートなどが増加し、制御の安定性が低下する。
【0035】
フィードバック制御の安定性や制御精度が低下すると、エンジンの燃料消費量の増大および性能の低下を招くため、制御の安定性や制御精度の低下は抑制されることが望ましい。また、作動油48の漏れ量が許容範囲を超えると、パイロットバルブ10が正常に機能しなくなる。このため、パイロットバルブ10の劣化状態を正確に推定し、摩耗が許容範囲を超える前にパイロットバルブ10を交換または修理することが望ましい。本明細書において、パイロットバルブ10の劣化状態は、スプール12が摩耗した状態、スプール12を駆動するソレノイドの劣化、鉄粉による作動油48の粘度上昇、及び、スプール12を収容するスリーブやスプール12の変形を含む。
【0036】
上述の説明を踏まえて、バルブ制御装置100の第2の動作を説明する。バルブ制御装置100の第2の動作は、摩耗による局所ゲインの変化および中立シフト量の変化による影響を抑制するために行われる。第2の動作において、バルブ制御装置100は、パイロットスプール12の位置PVxとメインスプール22の位置MVxとを取得し、その取得結果に基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する。
【0037】
本実施形態では、パイロットバルブ10に、スプール駆動部18のソレノイドのコイルに流れる駆動電流の値を検知して検知結果(以下、「駆動電流Id」という)を送信する電流センサ18sが設けられる。バルブ制御装置100は、駆動電流Idを取得し、その取得結果も用いてパイロットバルブ10の劣化状態を推定している。この場合、駆動電流Idからパイロットスプール12の摩擦抵抗を推定できるため推定精度を向上できる。
【0038】
また、バルブ制御装置100は、劣化状態の推定結果に基づいて、劣化に伴うパイロットバルブ10の中立シフトおよび局所ゲインの変化を打ち消す方向に、制御パラメータのゲインJgおよびオフセットJsを補正する。この場合、ゲインJgの補正によりオーバーシュートを抑制でき、オフセットJsの補正により中立シフト量の影響を低減できる。
【0039】
バルブ制御装置100を説明する。
図2を含む各図に示す各機能ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0040】
図2に示すように、本実施形態のバルブ制御装置100は、複数の機能ブロックを集約した情報処理部30と、複数の記憶ブロックを集約した記憶部32とを含む。情報処理部30は、電流取得部30aと、第1取得部14と、第2取得部24と、指令取得部30jと、スプール制御部30cと、試験動作制御部30dと、推定部34と、補正部36と、無線通信部38と、推定モデル生成部34gと、補正モデル生成部36gと、操作取得部30hとを含む。記憶部32は、推定モデル34mと、補正モデル36mと、パラメータ記憶部32pとを含む。本実施形態では、情報処理部30と記憶部32とは一体的なモジュールとして構成されている。
【0041】
電流取得部30aは、電流センサ18sから駆動電流Idを取得する。第1取得部14は、パイロットバルブ10に設けられた第1位置センサ14sから、パイロットスプール12の検知位置PVxを取得する。第2取得部24は、メインバルブ20に設けられた第2位置センサ24sから、メインスプール22の検知位置MVxを取得する。指令取得部30jは、エンジン制御装置82からパイロットスプール12の目標位置PVsを取得する。
【0042】
スプール制御部30cは、上述の第1の動作を制御する。スプール制御部30cは制御部を例示する。具体的には、スプール制御部30cは、パイロットスプール12の目標位置PVsと、第1取得部14で取得した検知位置PVxとを比較し、その差を比較結果として得る。検知位置PVxは実位置を例示する。また、スプール制御部30cは、制御パラメータを用いて、この比較結果に対して演算処理を行い、その演算結果をスプール駆動部18に送信する。本実施形態のスプール制御部30cは、PID制御を含むフィードバック制御を行う。
【0043】
推定部34は、取得部14、24で取得した検知位置PVx、MVxおよび電流取得部30aの取得結果Idに基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する。補正部36は、推定部34の推定結果に基づいて制御パラメータの補正量を決定する。
【0044】
操作取得部30hは、パイロットバルブ10に設けられた操作入力部17から、その操作結果を取得する。試験動作制御部30dは、パイロットバルブ10およびメインバルブ20の試験動作を制御する。推定モデル生成部34gは、推定モデル34mを生成する。補正モデル生成部36gは、補正モデル36mを生成する。無線通信部38は、外部と無線通信を行う。パラメータ記憶部32pは、バルブ制御装置100のフィードバック制御の制御パラメータを記憶する。
【0045】
このように構成されたバルブ制御装置100の動作(第2の動作)を説明する。バルブ制御装置100の動作には、パイロットバルブ10の劣化状態を推定する動作と、その推定結果に基づいて制御パラメータを補正する動作とが含まれる。
図4は、パイロットバルブ10の劣化状態を推定する動作S60を示すフローチャートである。
【0046】
本実施形態は、試験用の制御パラメータを用いてパイロットバルブ10およびメインバルブ20に試験動作をさせたときに状態を推定する。特に、本実施形態の推定部34は、予め設定された試験用の制御パラメータによってパイロットバルブ10およびメインバルブ20を試験動作Mpをするように制御したときに、推定部34は、取得部14、24で取得した検知位置PVx、MVxおよび電流取得部30aの取得結果Idに基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する。この場合、試験用の制御パラメータを用いるので、推定結果の相対比較が容易になる。試験用の制御パラメータは、パラメータ記憶部32pに記憶されている。本実施形態の試験用の制御パラメータは、バルブ制御装置100の初期設定時の制御パラメータである。
【0047】
フローチャートに戻る。状態推定のタイミングに至ったら(ステップS61のY)、情報処理部30の試験動作制御部30dは、スプール制御部30cを介してパイロットバルブ10およびメインバルブ20に試験動作Mpをさせる(ステップS62)。
【0048】
試験動作Mpを説明する。エンジンが動作している状態で試験を行うと、動作状況によって検知データ(PVx、MVx、Id)の誤差が大きくなる。このため、本実施形態では、試験動作Mpは、メインバルブ20が制御するエンジンが停止しているときの動作である。この場合、エンジンが停止しているので検知データの誤差を抑制できる。本実施形態の試験動作Mpは、メインバルブ20のスプールを所定の振幅だけステップ的に移動させる動作(以下「ステップ動作」という)またはメインバルブ20のスプールの小振幅の繰り返し動作(以下「繰返動作」という)である。この場合、メインバルブにステップ動作または繰返動作させたときの応答を観察することができる。
【0049】
メインバルブ20またはパイロットバルブ10では、流体の固化による可動部の固着を防止するために固着防止動作が行われる。本実施形態の固着防止動作では、バルブが開閉を繰り返すように、スプールが周期的に往復運動する。本実施形態の試験動作Mpは、メインバルブ20またはパイロットバルブ10の固着防止動作を用いている。この場合、固着防止動作を兼用するので推定動作の簡素化を図れる。固着防止動作は、ディザ動作と称されることがある。
【0050】
試験動作Mpをさせている間、試験動作制御部30dは、パイロットスプール12の位置PVxと、メインスプール22の位置MVxと、スプール駆動部18の駆動電流Idとを時系列的に取得する(ステップS63)。このステップで、位置PVxは第1取得部14を介して、位置MVxは第2取得部24を介して、駆動電流Idは電流取得部30aを介して取得する。取得されたこれらのデータは時系列データDxとして記憶部32に記憶される。
【0051】
ステップS62を実行したら、推定部34は、時系列データDxに基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する(ステップS64)。このステップでは、メインバルブ20に繰返動作させた時の検知位置MVx、PVxの応答から、パイロットバルブ10の中立シフトおよび局所ゲインの初期状態に対する変化を特定する。これらの変化からパイロットバルブ10の劣化状態(内部油漏れ量および中立シフト量)を推定できる。
【0052】
本実施形態では、推定部34は、予め機械学習により生成された推定モデル34mを用いてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する。この場合、推定モデル34mを用いることにより、短い処理時間で的確な推定結果を得られる。本実施形態では、時系列データDxを推定モデル34mに入力することにより、その結果として、推定モデル34mから推定結果が出力される。本実施形態の推定結果には、内部油漏れ量の推定値および中立シフト量の推定値が含まれる。
【0053】
劣化状態を推定したら、記憶部32は、推定結果を記憶する(ステップS65)。ステップS65を実行したら、動作S60は終了する。動作S60は、繰り返し実行されてもよい。状態推定のタイミングに至らなければ(ステップS61のN)、S62~S64をスキップする。この動作S60は、あくまでも一例であって、ステップの順序を入れ替えたり、一部のステップを追加・削除・変更したりしてもよい。
【0054】
次に、制御パラメータを補正する動作を説明する。なお、本明細書おいて、制御パラメータを補正することには、制御パラメータを書き換えることと、複数の制御パラメータの間で使用する制御パラメータを切り換えることとが含まれる。
【0055】
図5は、制御パラメータを補正する動作S70を示すフローチャートである。本実施形態の補正部36は、予め生成された補正モデル36mを用いて制御パラメータを補正する。この場合、短い処理時間で的確に制御パラメータを補正できる。補正モデル36mを生成する方法は後述する。
【0056】
図2も参照する。制御パラメータは自動的に補正されてもよいが、本実施形態の補正部36は、ユーザによって所定の操作部が操作されたときに制御パラメータを補正するように構成されている。この場合、ユーザが希望するタイミングで制御パラメータを補正できる。本実施形態のパイロットバルブ10には、ユーザによる所定操作を入力するための操作入力部17(例えば、操作ボタン)が設けられている。操作入力部17は、所定の操作部を例示する。この構成では、ユーザによる所定操作は、操作入力部17の操作ボタンを押し下げる操作を含んでいる。操作取得部30hは、操作入力部17の操作ボタンの状態を取得して、その取得結果を補正部36に提供する。この場合、パイロットバルブ10からユーザの操作により制御パラメータを補正できる。
【0057】
本実施形態では、バルブ制御装置100を外部から遠隔操作するためのリモートコントローラ40が備えられている。バルブ制御装置100は、リモートコントローラ40に入力されたユーザによる所定操作を無線通信を介して受信するための無線通信部38を備えている。この構成では、ユーザによる所定操作は、リモートコントローラ40に入力された操作を含んでいる。リモートコントローラ40は所定の操作部を例示している。リモートコントローラ40は、操作結果を無線通信を通じて無線通信部38に提供する。この場合、パイロットバルブ10から離れた位置からユーザの操作により制御パラメータを補正できる。
【0058】
このように、本実施形態では、操作入力部17またはリモートコントローラ40のいずれか一方が操作された場合に、制御パラメータが補正される。本実施形態の補正部36は、ゲインJgとオフセットJsの両方を補正する。この場合、オーバーシュートの抑制と、中立シフトの影響の低減とを実現できる。
【0059】
本実施形態の補正部36は、推定部34の推定結果が閾値を超えた場合に制御パラメータを補正する。この場合、推定結果が閾値以下の場合の補正を回避し、補正の頻度を減らせる。本実施形態では、推定結果は、許容限界とされる量を100%としたときの比率に変換された後に閾値と比較される。内部油漏れ量の推定値は、許容限界とされる内部油漏れ量を100%としたときの比率に変換される。また、中立シフト量の推定値は、許容限界とされる中立シフト量を100%としたときの比率に変換される。
【0060】
フローチャートに戻る。制御パラメータを補正するタイミングに至ったら(ステップS71のY)、情報処理部30の補正部36は、推定結果が閾値を超えているか否かを判定する(ステップS72)。このステップの閾値は、所望の制御特性に対応してシミュレーションにより設定できる。この例では、閾値は80%に設定されており、推定結果が80%を超えた場合に、制御パラメータを補正する。この例では、内部油漏れ量の推定値または中立シフト量の推定値が80%を超えた場合に、制御パラメータを補正する。
【0061】
推定結果が閾値を超えていない場合(ステップS72のN)、情報処理部30は処理をステップS72の先頭に戻す。
【0062】
推定結果が閾値を超えている場合(ステップS72のY)、情報処理部30は、推定結果が閾値を超えていることを外部に報知する(ステップS73)。例えば、リモートコントローラ40に設けた表示部(不図示)に所定の表示をしてもよし、無線通信部38を介して外部の携帯端末などの情報端末に所定の情報を送信してもよい。
【0063】
ステップS73を実行したら、情報処理部30の操作取得部30hは、操作入力部17から操作結果を取得して、ユーザ操作があったか否かを判定する(ステップS74)。ユーザ操作があった場合(ステップS74のY)、情報処理部30は、処理をステップS76に進める。
【0064】
ユーザ操作がなかった場合(ステップS74のN)、情報処理部30は、処理をステップS75に進める。ステップS75では、情報処理部30の無線通信部38は、リモートコントローラ40から操作結果を取得して、ユーザ操作があったか否かを判定する(ステップS75)。ユーザ操作がなかった場合(ステップS75のN)、情報処理部30は、ステップS74の先頭に戻す。
【0065】
ユーザ操作があった場合(ステップS75のY)、補正部36は、推定モデル34mの推定結果に基づいて制御パラメータの補正量を決定する(ステップS76)。制御パラメータの補正量には、ゲインの補正量とオフセットの補正量とが含まれる。補正部36は、補正モデル36mに推定結果を入力することによって、ゲインの補正量とオフセットの補正量を決定する。補正モデル36mを用いることにより、短い処理時間で的確な補正量を得ることができる。
【0066】
ステップS76を実行したら、補正部36は、ゲインの補正量およびオフセットの補正量によってゲインJgおよびオフセットJsを補正する(ステップS77)。補正後のゲインJgおよびオフセットJsは、パラメータ記憶部32pに記憶される。
【0067】
ステップS77を実行したら、動作S70は終了する。動作S70は、繰り返し実行されてもよい。制御パラメータを補正するタイミングに至らなければ(ステップS71のN)、S72~S77をスキップする。この動作S70は、あくまでも一例であって、ステップの順序を入れ替えたり、一部のステップを追加・削除・変更したりしてもよい。
【0068】
劣化推定と制御パラメータの補正とは、別々のタイミングで実行されてもよいが、本実施形態では同じタイミングに連続して実行される。劣化推定および制御パラメータの補正は、1日、1週間、1月などの所定の間隔で実行されてもよい。また、劣化推定および制御パラメータの補正は、ユーザ操作、上位または別のシステムからの指令、固着防止動作時の各部の移動状態などをトリガにして実行されてもよい。
【0069】
推定モデル34mを生成する方法を説明する。
図6は、推定モデル34mを生成するニューラルネットワークの一例を模式的に示す図である。推定モデル生成部34gは、パイロットバルブ10の劣化状態を推定するために、実測により得た複数のデータセットを基に、予め機械学習によって推定モデル34mを生成する。本実施形態のデータセットの入力データは、パイロットスプール12の位置、メインスプール22の位置および駆動電流の過去の実測値群であり、出力データ(ラベル)は、内部油漏れ量および中立シフト量の過去の実測値群である。
【0070】
推定モデル生成部34gは、データセットを教師データとして機械学習(教師有り学習)により推定モデル34mを生成する。推定モデル生成部34gは、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、ランダムフォレスト等、公知の機械学習手法を用いて推定モデル34mを生成できる。推定モデル生成部34gは、生成後の推定モデル34mを記憶部32に格納する。
【0071】
補正モデル36mを生成する方法を説明する。
図7は、補正モデル36mを生成するニューラルネットワークの一例を模式的に示す図である。補正モデル生成部36gは、制御パラメータの補正量を決定するために、過去の実測により得た複数のデータセットを基に、予め機械学習によって補正モデル36mを生成する。本実施形態のデータセットの入力データは、内部油漏れ量および中立シフト量の過去の実測値群であり、出力データ(ラベル)は、ゲインの補正量およびオフセットの補正量の過去の実測値群である。
【0072】
補正モデル生成部36gは、データセットを教師データとして機械学習(教師有り学習)により補正モデル36mを生成する。補正モデル生成部36gは、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、ランダムフォレスト等、公知の機械学習手法を用いて補正モデル36mを生成してもよい。補正モデル生成部36gは、生成後の補正モデル36mを記憶部32に格納する。
【0073】
推定モデル34mおよび補正モデル36mは、パイロットバルブ10およびメインバルブ20が最初に設置されたタイミング、パイロットバルブ10またはメインバルブ20がメンテナンスされたタイミング、または、所定の期間毎のタイミングで生成されてもよい。モデルを生成するタイミングに至ったら、複数のバルブ制御装置100について、モデル生成用のデータセットに対応する過去の実測値を多数収集し、各生成部は、収集された過去の実測値をデータセットとして機械学習して各モデルを生成する。また、このデータセットには、このバルブ制御装置100だけでなく他のバルブ制御装置の実測値が含まれてもよい。
【0074】
本実施形態の構成によれば、パイロットバルブ10が劣化して特性が変化した場合に、パイロットバルブ10の劣化状態を推定できる。これにより、劣化状態の推定結果に応じて制御パラメータを補正できるため、劣化に伴う制御特性の変化を抑制することが可能となる。この結果、劣化の影響を受けにくいバルブ制御装置を提供できる。
【0075】
次に、本発明の第2~第5実施形態を説明する。第2~第5実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0076】
[第2実施形態]
第2実施形態のバルブ制御装置100を説明する。第1実施形態の説明では、補正部36を備え、制御パラメータを自律的に補正する例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2実施形態は補正部36を備えない点で第1実施形態と異なり、他の構成は同様である。
【0077】
本実施形態のバルブ制御装置100は、スプール制御部30cと、取得部14、24と、推定部34とを備える。スプール制御部30cは、メインバルブ20のスプール22の位置Mvxに応じてメインバルブ20に油圧を供給するパイロットバルブ10のスプール12の位置PVxを変更するフィードバック制御を実行する。取得部14、24は、パイロットバルブ10のスプール12の位置PVxとメインバルブ20のスプール22の位置Mvxと、又は、パイロットバルブ10のスプール12の位置PVxとパイロットバルブ10のスプール12を駆動する駆動電流Idとを取得する。
【0078】
推定部34は、取得部14、24、30aの取得結果に基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する。ユーザは、パイロットバルブ10の推定部34の推定結果に応じて制御パラメータを補正できる。
【0079】
本実施形態によれば、フィードバック制御と並行してパイロットバルブの劣化状態を推定してパイロットバルブの寿命を把握できる。このことにより、パイロットバルブがいきなり壊れることを回避できる。また、自律的に補正する機能が無くても、劣化状態の推定結果に合わせて、ユーザがフィードバック制御のゲインやオフセットを補正できる。
【0080】
[第3実施形態]
第3実施形態のバルブ制御装置100を説明する。
図8は、第3実施形態のバルブ制御装置100を概略的に示す構成図であり、
図1に対応する。
図9は、第3実施形態のバルブ制御装置100を示すブロック図であり、
図2に対応する。
図10は、第3実施形態のバルブ制御装置100の制御ループを示すブロック線図であり、
図3に対応する。
【0081】
第1実施形態の説明では、エンジン制御装置82がメインバルブ20をフィードバック制御する例を示したが、本発明はこれに限定されない。本実施形態のエンジン制御装置82は、フィードバック制御を行わず、バルブ制御装置100がメインバルブ20をフィードバック制御する点で、第1実施形態と異なる。このため、エンジン制御装置82は、
図8、
図9に示すように、メインスプール22の目標位置MVsを指令情報としてバルブ制御装置100に送信する。この制御形態は、セットポイント制御と称されることがある。
【0082】
本実施形態のエンジン制御装置82は、
図10に示すように、目標位置特定部82aと、モニタリング部82cとを有する。目標位置特定部82aは、メインスプール22の目標位置MVsを指令情報としてバルブ制御装置100に送信する。モニタリング部82cは、メインスプール22の実位置(検知位置MVx)を監視して異常な偏差が生じたときに外部に報知する。
【0083】
本実施形態では、バルブ制御装置100は、エンジン制御装置82に代わって、目標位置MVsと検知位置MVxとの偏差に応じてメインバルブ20のフィードバック制御を行うための制御演算部30kをさらに備える。指令取得部30jは、エンジン制御装置82からメインスプール22の目標位置MVsを指令情報として取得する。制御演算部30kは、演算処理により、目標位置MVsと検知位置MVxとの偏差からパイロットスプール12の目標位置PVsを特定し、スプール制御部30cに提供する。スプール制御部30cは、制御パラメータを用いて、目標位置PVsと検知位置PVxとの偏差に対して演算処理を行い、その演算結果をスプール駆動部18に送信する。
【0084】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。加えて、本実施形態では、エンジン制御装置82の処理負荷が軽くなるため、エンジン制御装置82を簡素化できる。
【0085】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態は、油圧サーボバルブの制御方法である。本発明に係る制御方法は、各種の油圧サーボバルブに使用できるが、本実施形態では、アクチュエータ80を油圧により駆動する油圧サーボバルブ10、20を制御する制御方法S80によって例示される。
図11は、制御方法S80を示すフローチャートである。
【0086】
制御方法S80は、パイロットバルブ10のスプールの位置PVxとメインバルブ20のスプールの位置MVxとを取得する取得ステップS81と、取得ステップS81で取得された取得結果に基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する推定ステップS82と、推定ステップS82で推定された推定結果に基づいてパイロットバルブ10を制御するための制御パラメータを補正する補正ステップS83とを含む。制御方法S80は、バルブ制御装置100によって実現できる。
【0087】
第4実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0088】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態は、油圧サーボバルブの制御プログラム(コンピュータプログラム)である。本発明に係る制御プログラムは、各種の油圧サーボバルブに使用できるが、本実施形態では、アクチュエータ80を油圧により駆動する油圧サーボバルブ10、20を制御するコンピュータプログラムP100によって例示される。
【0089】
コンピュータプログラムP100は、パイロットバルブ10のスプールの位置PVxとメインバルブ20のスプールの位置MVxとを取得する取得ステップS81と、取得ステップS81で取得された取得結果に基づいてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する推定ステップS82と、推定ステップS82で推定された推定結果に基づいてパイロットバルブ10を制御するための制御パラメータを補正する補正ステップS83とをコンピュータに実行させる。
【0090】
コンピュータプログラムP100では、これらの機能はバルブ制御装置100の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとしてバルブ制御装置100のストレージ(例えば記憶部32)にインストールされてもよい。コンピュータプログラムP100はバルブ制御装置100のプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0091】
第5実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の作用および効果を奏する。
【0092】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0093】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0094】
実施形態の説明では、推定部34が、パイロットスプール12の位置と、メインスプール22の位置と、駆動電流とに基づいて劣化状態を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。劣化状態の推定に駆動電流を用いることは必須でなく、またこれらに加えて別の要素を用いてもよい。
【0095】
実施形態の説明では、推定部34が、推定モデル34mを用いてパイロットバルブ10の劣化状態を推定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、推定部34は、パイロットスプール12の位置と、メインスプール22の位置と、駆動電流とに対応する内部油漏れ量と中立シフト量とを含む推定テーブルを用いてもよい。この場合、パイロットスプール12の位置と、メインスプール22の位置と、駆動電流とをキーにしてテーブル処理によって内部油漏れ量と中立シフト量とを得ることができる。推定テーブルは、過去のデータセットから、実験またはシミュレーションに基づいて作成できる。
【0096】
実施形態の説明では、補正部36が、補正モデル36mを用いて制御パラメータの補正量を決定する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、補正部36は、推定結果に対応する制御パラメータの補正量を含む補正量テーブルを用いてもよい。この場合、推定結果をキーにしてテーブル処理によって制御パラメータの補正量を得ることができる。補正量テーブルは、過去の推定結果および適切な制御パラメータから、実験またはシミュレーション結果に基づいて作成できる。
【0097】
実施形態の説明では、情報処理部30と記憶部32とが一体的に構成される例を示したが、これらは別々に構成されてもよい。また、情報処理部30内の各ブロック、記憶部32内の各ブロックはそれぞれ一体的に構成されてもよいし、別々に構成されてもよい。
【0098】
実施形態の説明では、補正部36は、制御パラメータのゲインJgとオフセットJsの両方を補正する例を示したが、制御パラメータの補正内容は限定されない。補正部は、ゲインJgおよびオフセットJsの一方のみを補正してもよいし、他の制御パラメータを補正してもよい。
【0099】
実施形態の説明では、試験用の制御パラメータを用いてパイロットバルブ10およびメインバルブ20に試験動作をさせたときに状態を推定する例を示したが、パイロットバルブ10の劣化状態の推定方法は限定されない。この推定は、試験用とは別の制御パラメータを用いて実行されてもよいし、試験動作とは別の動作をさせたときに実行されてもよい。
【0100】
上述の変形例は、第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0101】
上述した各実施形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0102】
10 パイロットバルブ、 17 操作入力部、 20 メインバルブ、 30a 電流取得部、 32 記憶部、 34 推定部、 34g 推定モデル生成部、 34m 推定モデル、 36 補正部、 36g 補正モデル生成部、 36m 補正モデル、 38 無線通信部、 40 リモートコントローラ、 82 エンジン制御装置、 100 バルブ制御装置。