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特許7591871遠心圧縮機用のインペラ、及び遠心圧縮機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】遠心圧縮機用のインペラ、及び遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/28 20060101AFI20241122BHJP
   F04D 29/30 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F04D29/28 C
F04D29/30 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020058251
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156223
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 修一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 未来
(72)【発明者】
【氏名】岡 寛哲
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-202701(JP,A)
【文献】特開2012-177320(JP,A)
【文献】特開昭60-088898(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175165(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/042653(WO,A1)
【文献】特開平08-159088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28ー 29/30
F04D 29/22- 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転可能とされて、前記軸線方向一方側に向かうに従って径方向外側に向かって延びる主面を有するディスクと、
前記主面に周方向に間隔をあけて複数配置され、前記軸線方向他方側の入口から一方側の出口にかけて延びる流路を画成するブレードと、
前記複数のブレードを覆うように前記主面に対向して配置されたカバーと、
を備え、
前記ブレードと前記主面との接続部、及び前記ブレードと前記カバーの接続部であって、前記入口側の端部から前記流路に沿って出口側に向かって延びる入口側領域、及び前記出口側の端部から前記流路に沿って入口側に向かって延びる出口側領域には、前記ブレードの延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に小さな曲率半径を有する小フィレット部が形成され、
前記ブレードと前記主面との接続部、及び前記ブレードと前記カバーの接続部であって、前記入口側領域、及び前記出口側領域の間に形成された中間領域には、前記ブレードの延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に大きな曲率半径を有する大フィレット部が形成され、
前記流路の延びる方向から見て、前記ブレードは、前記主面、及び前記カバーの内周面に対して傾斜する方向に延びており、
前記入口側領域、及び前記出口側領域では、それぞれの延在長さの全域にわたって前記曲率半径がそれぞれ一定である遠心圧縮機用インペラ。
【請求項2】
前記入口側領域と前記中間領域との間、及び前記出口側領域と前記中間領域との間の少なくとも一方に形成され、前記小フィレット部から前記大フィレット部に向かうに従って前記曲率半径が次第に大きくなる遷移領域をさらに有する請求項1に記載の遠心圧縮機用インペラ。
【請求項3】
前記入口側領域の前記入口側の端部からの長さ、及び前記出口側領域の前記出口側の端部からの長さは、前記流路の長さを100%とした時、3%以上5%以下である請求項1又は2に記載の遠心圧縮機用インペラ。
【請求項4】
前記遷移領域の長さは、前記流路の長さを100%とした時、10%以下である請求項2に記載の遠心圧縮機用インペラ。
【請求項5】
前記大フィレット部の曲率半径は、前記小フィレット部の曲率半径の1.2倍以上、3倍以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の遠心圧縮機用インペラ。
【請求項6】
前記軸線に沿って延びる回転軸と、
該回転軸に固定された請求項1から5のいずれか一項に記載の遠心圧縮機用インペラと、
前記回転軸、及び前記インペラを外周側から覆うケーシングと、
を備える遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インペラ、及び遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機に用いられるインペラとして、クローズド型と呼ばれる形式のインペラが知られている。この種のインペラは、ディスクと、ブレードと、カバーとを有している。ディスクの外周面は、軸線方向一方側に向かうに従って径方向外側に延びている。この外周面上には、周方向に間隔をあけて配列された複数のブレードが設けられている。カバーはこれらブレードを径方向外側から覆っている。これにより、インペラには、隣接する一対のブレード、ディスク、及びカバーによって囲まれたインペラ流路が形成されている。
【0003】
ブレードとディスクとの接続部、及びブレードとカバーとの接続部には、流体の流れの円滑化を主な目的として、フィレットが形成される。フィレットは、ブレードの延びる方向から見て、当該ブレードとディスク、及びブレードとカバーとを円弧状に接続している。下記特許文献1に記載されているように、従来、フィレットの曲率半径は流路の全域にわたって一定とされることが一般的である。
【0004】
ここで、インペラ流路内における流体の挙動は、入口側、及び出口側の領域と、これら領域の間の中間領域とで大きく異なることが知られている。特に入口側では、環状をなす前段側の流路に対する流路断面積の急激な変化によって、流れに剥離が生じることが知られている。また、上記のフィレットを起点とする乱れを生じる虞がある。
【0005】
そこで、ブレードの前縁を薄くする手法や、剥離箇所の空間を埋める手法が提唱されている。また、インペラ流路の入口側から出口側にかけて流路断面積が緩やかに変化するようにフィレットの形状を設定する技術も提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/042653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流れへの影響を考慮した場合、フィレットは小さい方が望ましい。しかしながら、ブレードとディスク及びカバーの接合部に作用する応力集中を緩和するためには、フィレットには相応の大きさが必要となる。このように、フィレットの寸法・形状には背反する2つの要件が求められている。したがって、上記のようにフィレットの曲率半径を一定とした場合、インペラの性能が十分に発揮できない虞がある。
【0008】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、性能がより一層向上した遠心圧縮機用のインペラ、及び遠心圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示に係る遠心圧縮機用インペラは、軸線回りに回転可能とされて、前記軸線方向一方側に向かうに従って径方向外側に向かって延びる主面を有するディスクと、前記主面に周方向に間隔をあけて複数配置され、前記軸線方向他方側の入口から一方側の出口にかけて延びる流路を画成するブレードと、前記複数のブレードを覆うように前記主面に対向して配置されたカバーと、を備え、前記ブレードと前記主面との接続部、及び前記ブレードと前記カバーの接続部であって、前記入口側の端部から前記流路に沿って出口側に向かって延びる入口側領域、及び前記出口側の端部から前記流路に沿って入口側に向かって延びる出口側領域には、前記ブレードの延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に小さな曲率半径を有する小フィレット部が形成され、前記ブレードと前記主面との接続部、及び前記ブレードと前記カバーの接続部であって、前記入口側領域、及び前記出口側領域の間に形成された中間領域には、前記ブレードの延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に大きな曲率半径を有する大フィレット部が形成され、前記流路の延びる方向から見て、前記ブレードは、前記主面、及び前記カバーの内周面に対して傾斜する方向に延びており、前記入口側領域、及び前記出口側領域では、それぞれの延在長さの全域にわたって前記曲率半径がそれぞれ一定である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、性能がより一層向上した遠心圧縮機用のインペラ、及び遠心圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態に係る遠心圧縮機の構成を示す断面図である。
図2】本開示の実施形態に係るインペラの軸線を含む断面を示す断面図である。
図3図2のIII-III線における断面図である。
図4図2のIV-IV線における断面図である。
図5】本開示の実施形態に係るインペラにおける各領域の寸法比率を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(遠心圧縮機の構成)
以下、本開示の実施形態に係る遠心圧縮機について、図1を参照して説明する。図1に示すように、遠心圧縮機1は、回転軸2、ジャーナル軸受5、スラスト軸受6、インペラ20、及びケーシング10を備えている。本実施形態の遠心圧縮機1は、インペラ20を複数段備えたいわゆる一軸多段遠心圧縮機である。
【0013】
回転軸2は、水平方向に沿う軸線O方向に延びる円柱状をなしている。回転軸2は、軸線O方向の第一端部3側(軸線O方向他方側)および第二端部4側(軸線O方向一方側)で、ジャーナル軸受5によって軸線O回りに回転可能に支持されている。回転軸2は、第一端部3がスラスト軸受6によって支持されている。
【0014】
インペラ20は、回転軸2の外周面に外嵌されており、軸線O方向に間隔をあけて複数段が設けられている。これらインペラ20は、回転軸2とともに軸線O回りに回転することで、軸線O方向から流入するガス(流体)を径方向外側に向かって圧送する。インペラ20の詳細な構成については後述する。
【0015】
ケーシング10は、筒状に形成された部材であって、回転軸2、インペラ20、および、ジャーナル軸受5等を収容する。ケーシング10は、ジャーナル軸受5を介して回転軸2を回転自在に支持している。これによりケーシング10に対して回転軸2に取り付けられたインペラ20が相対回転可能となっている。ケーシング10は、導入流路11、接続流路13及び排出流路16を有している。
【0016】
導入流路11は、複数のインペラ20のうち最も軸線O方向他方側に配置された最前段のインペラ20に対してケーシング10の外部からガスを導入する。導入流路11は、ケーシング10の外周面に開口しており、当該開口部はガスの吸込み口12とされている。該導入流路11は、径方向内側の部分で最前段のインペラ20の軸線O方向他方側に接続されている。
【0017】
接続流路13は、軸線O方向に隣り合う一対のインペラ20を接続する流路である。接続流路13は、前段側のインペラ20から径方向外側に排出されるガスを、後段側のインペラ20に軸線O方向他方側から導入する。接続流路13は、ディフューザ流路14及びリターン流路15を有している。
ディフューザ流路14は、インペラ20の径方向外側に接続されており、インペラ20から径方向外側に排出されるガスを径方向外側に導きながら速度エネルギーを圧力エネルギーに変換する。リターン流路15は、ディフューザ流路14の径方向外側に接続されて径方向外側に向かうガスを径方向内側に転向させて後段側のインペラ20に案内する。
【0018】
排出流路16は、複数のインペラ20のうち最も軸線O方向一方側に配置された最後段のインペラ20から径方向外側に排出されるガスをケーシング10の外部に排出する。排出流路16は、ケーシング10の外周面に開口しており、当該開口部はガスの排出口17とされている。該排出流路16は、径方向内側の部分で最後段のインペラ20の径方向外側に接続されている。
【0019】
(インペラの構成)
次に、図2から図4を参照して、インペラ20の構成について説明する。図2に示すように、インペラ20は、ディスク30、ブレード40及びカバー36を有している。
【0020】
ディスク30は、軸線Oを中心とした円盤状に形成されている。ディスク30には、軸線Oを中心とした円形をなすとともに、当該軸線O方向に貫通する貫通孔31が形成されている。貫通孔31の内面が回転軸2の外周面に嵌まり込むことによって、インペラ20が回転軸2に一体に固定される。
【0021】
ディスク30における軸線O方向他方側を向く面は、軸線Oに直交する平面状をなすディスク背面32とされている。ディスク30における貫通孔31の軸線O方向他方側の端部からディスク背面32の径方向外側の端部にかけては、軸方向他方側から一方側に向かうに従って漸次径方向外側に向かって延びるディスク主面33(主面)が形成されている。ディスク主面33における軸線O方向他方側の部分は、径方向外側を向いており、軸線O方向一方側に向かうにしたがって軸線O方向他方側を向くように漸次湾曲している。即ち、ディスク主面33は、軸線O方向他方側から一方側に向かうに従って漸次拡径している。ディスク主面33は、凹曲面状をなしている。
【0022】
本実施形態では、ディスク主面33の軸線O方向他方側の端部と貫通孔31の軸線O方向一方側の端部との間には、軸線O方向に直交する平面状をなすディスク前端面34が形成されている。ディスク主面33の軸線O方向一方側の端部とディスク背面32の径方向外側の端部との間には、軸線O方向に延びてディスク30の外周縁部となるディスク外端面35が設けられている。
【0023】
ブレード40は、ディスク30におけるディスク主面33に軸線Oの周方向に間隔をあけて複数設けられている。各ブレード40は、径方向内側から径方向外側に向かうに従ってインペラ20の回転方向の後方側(周方向一方側)に向かって湾曲している。各ブレード40は、回転方向の前方側に向かって凸となる凸曲面をなしながら延びている。
【0024】
カバー36は、複数のブレード40を外周側から覆っている。カバー36は、ディスク30との間にブレード40を挟むように、ディスク主面33と対向して設けられている。カバー36の内周面37は、軸線O方向他方側から一方側に向かうにしたがって漸次拡径するように形成されている。カバー36の内周面37は、ディスク主面33と対応するように該ディスク主面33同様に湾曲している。カバー36の内周面37には、ブレード40におけるディスク主面33側とは反対側の端部が固定されている。
【0025】
カバー36の内周面37、ディスク主面33及び隣接する一対のブレード40によって、これらの間に軸線O方向一方側から他方側に向かうに従って、回転方向後方側に湾曲するように延びる流路(インペラ流路Fi)が形成されている。
【0026】
インペラ流路Fiは、入口51から出口52にかけて、複数の領域に分けられている。具体的には、インペラ流路Fiは、入口51から出口52に向かって順に、入口側領域A1と、遷移領域A2と、中間領域A3と、遷移領域A4と、出口側領域A5と、を有している。図5に示すように、インペラ流路Fiの長さを100%とした時、入口側領域A1は、インペラ流路Fiの入口51から3~5%の領域である。出口側領域A5は、インペラ流路Fiの出口52から3~5%の領域である。遷移領域A2,A4の長さは、インペラ流路Fiの長さを100%とした時、10%以下とされる。
【0027】
図3に示すように、入口側領域A1、及び出口側領域A5では、ブレード40とディスク30、及びブレード40とカバー36との接続部にそれぞれフィレット(小フィレット部60A)が形成されている。より具体的には、小フィレット部60Aは、ディスク主面33とブレード40の腹面40A、及び背面40Bとの間の部分と、カバー36の内周面37とブレード40の腹面40A、及び背面40Bとの間の部分にそれぞれ形成されている。それぞれの小フィレット部60Aは、流路Fiの延びる方向から見て、円弧状の曲面をなしている。小フィレット部60Aの曲率半径は、(前段の記載方針のように)インペラに進入する流体の流路断面を減少させることになるため、極力小さいことが好ましい。一方、流体を遠心圧縮するインペラのブレードは、流体に大きな(旋回)力を加えることで流れ方向を大きく曲げるので、ブレードとディスク及びカバーの接合部に作用する応力を緩和するのに、必要な寸法のフィレットが小フィレット部60Aの曲率半径として設定される。なお、図3の例では、同一断面内で、各小フィレット部60Aの曲率半径が互いに同一である構成を示している。しかしながら、これらの曲率半径が互いに異なっている構成を採ることも可能である。
【0028】
さらに、図4に示すように、中間領域A3では、ブレード40とディスク30、及びブレード40とカバー36との接続部にそれぞれフィレット(大フィレット部60B)が形成されている。より具体的には、大フィレット部60Bは、ディスク主面33とブレード40の腹面40A、及び背面40Bとの間の部分と、カバー36の内周面37とブレード40の腹面40A、及び背面40Bとの間の部分にそれぞれ形成されている。それぞれの大フィレット部60Bは、流路Fiの延びる方向から見て、円弧状の曲面をなしている。大フィレット部60Bの曲率半径は、上述した小フィレット部60Aの曲率半径に比べて相対的に大きく設定されることが望ましい。さらに望ましくは、大フィレット部60Bの曲率半径は小フィレット部60Aの曲率半径の1.2倍以上3倍以下とされる。最も望ましくは、大フィレット部60Bの曲率半径は、小フィレット部60Aの曲率半径の1.5倍以上3倍以下とされる。なお、図4の例では、同一断面内で、各大フィレット部60Bの曲率半径が互いに同一である構成を示している。しかしながら、これらの曲率半径が互いに異なっている構成を採ることも可能である。
【0029】
なお、詳しくは図示しないが、遷移領域A2,A4には、小フィレット部60Aと大フィレット部60Bを接続する他のフィレットが形成されている。遷移領域A2,A4のフィレットでは、小フィレット部60Aから大フィレット部60Bに向かうに従って曲率半径が次第に大きくなっている。これにより、小フィレット部60Aと大フィレット部60Bとが滑らかに接続されている。
【0030】
(作用効果)
次いで、遠心圧縮機1の動作について説明する。遠心圧縮機1を駆動するに当たっては、まず外部の動力源によって、回転軸2を回転させる。回転軸2の回転に伴って、インペラ20が一体に回転する。これにより、上述の導入流路11を通じて、外部の流体が遠心圧縮機1内に取り込まれる。流体は、インペラ20のブレード40同士の間の流路を流通するに従って圧縮され、高圧流体となって接続流路13に流入する。接続流路13に流入した流体は、さらに後段のインペラ20によって圧縮される。このようなサイクルが最終段のインペラ20に至るまで繰り返され、最終的に排出流路16から目標圧力の流体が吐出する。
【0031】
ところで、上述のようにブレード40とディスク30との接続部、及びブレード40とカバー36との接続部には、応力集中の緩和を目的にフィレットが形成される。一般的にフィレットの曲率半径は流路の全域にわたって一定である。ここで、インペラ流路Fiにおいて特に入口側領域A1では、環状空間をなす前段側の流路に対して、流路断面積がブレードの前縁部により急激に変化(減少)するため、インペラ流路Fi内の流れに乱れが発生することがある。加えて、上記のフィレットはブレード40よりも肉厚になるので、フィレットを起点に流れの剥離等の乱れが生じる虞がある。このように、流れへの影響、即ち損失を抑制するには、フィレットは小さい方が望ましいが、ブレードとディスク及びカバーの接続部に作用する応力集中を緩和するために、フィレットには相応の大きさが必要となる。即ち、インペラ流路において損失を回避しつつ強度を確保するには、フィレットの寸法・形状に背反する2つの要件が求められる。
【0032】
そこで、本実施形態では、入口側領域A1、及び出口側領域A5の少なくとも一方には小フィレット部60Aが形成され、中間領域A3には大フィレット部60Bが形成されている。この構成によれば、入口側領域A1、及び出口側領域A5では、流体の挙動が最適化され、インペラ20としての性能を向上させることができる。他方、中間領域A3では、ブレード40によってカバー36を支持する必要があることから、入口側領域A1、及び出口側領域A5に比べて高い強度が必要とされる。上記構成では、当該中間領域A3には曲率半径の大きな大フィレット部60Bが形成されていることから、中間領域A3での強度を向上させることができる。
【0033】
ここで、ディスク30、ブレード40、及びカバー36が一体に形成されているワンピース型のインペラでは、その製造工程で、インペラ流路Fiの入口51側、又は出口52側から工具を内部に到達させて切削加工により流路を形成する。中間領域のフィレットを大フィレットにすると切削加工量も減少するので、インペラ20の製造に要する工数や時間の削減にもつながる。
【0034】
上記構成によれば、小フィレット部60Aと大フィレット部60Bとの間に遷移領域A2,A4が形成されている。遷移領域A2,A4では小フィレット部60Aから大フィレット部60Bに向かうに従って曲率半径が次第に大きくなる。したがって、流体の流れに乱れや渦を生じさせることなく、円滑に流通させることが可能となる。これにより、インペラの性能をさらに向上させることができる。
【0035】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上記のインペラ20は、遠心圧縮機1のみならず、液体を圧送する遠心ポンプにも好適に適用することが可能である。
【0036】
また、上記実施形態では、入口側領域A1と出口側領域A5の両方に小フィレット部60Aが形成されている例について説明した。しかしながら、入口側領域A1のみ、又は出口側領域A5のみに小フィレット部60Aを形成することも可能である。なお、インペラ20の性能を向上させる上では、特に入口側領域A1に小フィレット部60Aを形成することが望ましい。
【0037】
<付記>
各実施形態に記載のインペラ20、及び遠心圧縮機1は、例えば以下のように把握される。
【0038】
(1)第1の態様に係るインペラ20は、軸線O回りに回転可能とされて、前記軸線O方向一方側に向かうに従って径方向外側に向かって延びる主面(ディスク主面33)を有するディスク30と、前記主面に周方向に間隔をあけて複数配置され、前記軸線O方向他方側の入口51から一方側の出口52にかけて延びる流路(インペラ流路Fi)を画成するブレード40と、前記複数のブレード40を覆うように前記主面に対向して配置されたカバー36と、を備え、前記ブレード40と前記主面との接続部、及び前記ブレード40と前記カバー36の接続部であって、前記入口51側の端部を含む入口側領域A1、及び前記出口52側の端部を含む出口側領域A5の少なくとも一方には、前記ブレード40の延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に小さな曲率半径を有する小フィレット部60Aが形成され、前記ブレード40と前記主面との接続部、及び前記ブレード40と前記カバーの接続部であって、前記入口側領域A1、及び前記出口側領域A5の間に形成された中間領域A3には、前記ブレード40の延びる方向から見て円弧状に湾曲するとともに相対的に大きな曲率半径を有する大フィレット部60Bが形成されている。
【0039】
上記構成によれば、入口側領域A1、及び出口側領域A5の少なくとも一方には相対的に小さな曲率半径を有する小フィレット部60Aが形成されている。さらに、これら入口側領域A1と出口側領域A5との間の中間領域A3には相対的に大きな曲率半径を有する大フィレット部60Bが形成されている。これにより、入口側領域A1、及び出口側領域A5の少なくとも一方では、流体の挙動が最適化され、インペラ20としての性能を向上させることができる。他方、中間領域A3では、ブレード40によってカバー36を支持する必要があることから、入口側領域A1、及び出口側領域A5に比べて高い強度が必要とされる。上記構成では、当該中間領域A3には曲率半径の大きな大フィレット部60Bが形成されていることから、例えば曲率半径が小さい場合に比べて板厚が大きくなる。これにより、中間領域A3での強度を向上させることができる。
ところで、ディスク30、ブレード40、及びカバー36が一体に形成されているワンピース型のインペラ20では、その製造工程で、流路の入口51側、又は出口52側から工具を内部に到達させて切削加工を施すことで上記の小フィレット部60Aが形成される。一方で、中間領域A3では上記のように大フィレット部60Bが形成されているのみである。したがって、大フィレット部60Bでは、このような加工によって曲率半径を小さくする必要がないか、又は加工量が少なくて済む。その結果、インペラの製造に要する工数や時間を削減することができる。
【0040】
(2)第2の態様に係るインペラ20は、前記入口側領域A1と前記中間領域A3との間、及び前記出口側領域A5と前記中間領域A3との間の少なくとも一方に形成され、前記小フィレット部60Aから前記大フィレット部60Bに向かうに従って前記曲率半径が次第に大きくなる遷移領域A2,A4をさらに有する。
【0041】
上記構成によれば、小フィレット部60Aと大フィレット部60Bとの間に遷移領域A2,A4が形成されている。遷移領域A2,A4では小フィレット部60Aから大フィレット部60Bに向かうに従って曲率半径が次第に大きくなる。したがって、流体の流れに乱れや渦を生じさせることなく、円滑に流通させることが可能となる。これにより、インペラ20の性能をさらに向上させることができる。
【0042】
(3)第3の態様に係るインペラ20は、前記入口側領域A1、及び前記出口側領域A5の長さは、前記流路の長さを100%とした時、3%以上5%以下である。
【0043】
上記構成によれば、入口側領域A1、及び出口側領域A5における流体の挙動が最適化され、インペラ20としての性能をさらに向上させることができる。また、小フィレット部60Aを形成するための加工を要する領域が小さくて済むことから、より容易かつ短期間でインペラ20を製造することも可能となる。
【0044】
(4)第4の態様に係るインペラ20では、前記遷移領域A2,A4の長さは、前記流路の長さを100%とした時、10%以下である。
【0045】
上記構成によれば、遷移領域A2,A4の長さが十分に確保されていることから、流体の流れに乱れや渦を生じさせることなく、円滑に流通させることが可能となる。これにより、インペラ20の性能をさらに向上させることができる。
【0046】
(5)第5の態様に係るインペラ20では、前記大フィレット部60Bの曲率半径は、前記小フィレット部60Aの曲率半径の1.2倍以上、3倍以下である。
【0047】
上記構成によれば、インペラ20の性能をさらに向上させることができる。
【0048】
(6)第6の態様に係る遠心圧縮機1は、前記軸線Oに沿って延びる回転軸2と、該回転軸2に固定された上記いずれか一の態様に係るインペラ20と、前記回転軸2、及び前記インペラ20を外周側から覆うケーシング10と、を備える。
【0049】
上記構成によれば、インペラ20の性能と強度がともに向上することで、より安定的に運転することが可能な遠心圧縮機1を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 遠心圧縮機
2 回転軸
3 第一端部
4 第二端部
5 ジャーナル軸受
6 スラスト軸受
10 ケーシング
11 導入流路
12 吸込み口
13 接続流路
14 ディフューザ流路
15 リターン流路
16 排出流路
17 排出口
20 インペラ
30 ディスク
31 貫通孔
32 ディスク背面
33 ディスク主面
34 ディスク前端面
35 ディスク外端面
36 カバー
37 内周面
40 ブレード
40A 腹面
40B 背面
51 入口
52 出口
60A 小フィレット部
60B 大フィレット部
A1 入口側領域
A2 遷移領域
A3 中間領域
A4 遷移領域
A5 出口側領域
Fi インペラ流路(流路)
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5