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  • 特許-ブレージングシートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ブレージングシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/40 20060101AFI20241122BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20241122BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20241122BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B23K35/40 340J
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020069976
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021164949
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳川 裕
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
(72)【発明者】
【氏名】井手 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180489(JP,A)
【文献】特開2000-225461(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105637(WO,A1)
【文献】特開2001-158983(JP,A)
【文献】国際公開第2017/137236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/40
B23K 35/28
B23K 35/22
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウム材のろう付を行うためのブレージングシートの製造方法であって、
アルミニウム材からなる心材用塊と、Al-Si-Mg系合金からなり前記心材用塊の少なくとも片面上に配置されたろう材用塊と、を備えたクラッド塊を作製する積層工程と、
前記クラッド塊に熱間圧延を施して、前記心材用塊からなる心材と、前記ろう材用塊からなり前記心材用塊の少なくとも片面上に配置されたろう材と、を備えたクラッド板を作製する熱間圧延工程と、
前記クラッド板に1パス以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程における冷間圧延のパス間または前記冷間圧延工程の完了後に、無機酸及び鉄イオンを含む塩を含有し、かつ、フッ素原子を含まないエッチング液を用いて前記クラッド板の表面をエッチングするエッチング工程と、を有し、
前記ろう材用塊を構成するAl-Mg-Si系合金が、Si:3質量%以上13質量%以下、Mg:0.1質量%以上2.0質量%以下、Bi:0質量%以上1.0質量%以下、Li:0質量%以上0.30質量%以下、Cu:0質量%以上2.0質量%以下、Zn:0質量%以上6.5質量%以下、Sn:0質量%以上0.10質量%以下、In:0質量%以上0.10質量%以下、Sr:0質量%以上0.030質量%以下、Na:0質量%以上0.030質量%以下及びSb:0質量%以上0.030質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
前記心材用塊は、Mg:0.10質量%以上4.0質量%以下及びSi:0質量%超え1.0質量%以下を含むアルミニウム合金から構成されており、
前記エッチング工程におけるエッチング量は0.05g/m 2 以上1g/m 2 以下である、ブレージングシートの製造方法。
【請求項2】
前記エッチング液は、前記鉄イオンを含む塩としての硫酸第二鉄を含有している、請求項1に記載のブレージングシートの製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液は、前記無機酸としての硫酸及び硝酸を含有している、請求項2に記載のブレージングシートの製造方法。
【請求項4】
前記エッチング液中における硫酸の濃度が0.20質量%以上2.0質量%以下であり、硝酸の濃度が0.02質量%以上0.50質量%以下であり、硫酸第二鉄の濃度が0.10質量%以上1.0質量%以下である、請求項3に記載のブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレージングシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器や機械用部品などのアルミニウム製品は、アルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)からなる多数の部品を有している。これらの部品は、心材と、心材の少なくとも一方の面上に設けられたろう材とを有するブレージングシートによりろう付されていることが多い。ブレージングシートの心材は、一般的には、固相線温度が620℃以上であるアルミニウム合金から構成されている。また、ろう材は、固相線温度が577℃程度であるAl-Si(アルミニウム-シリコン)合金から構成されている。
【0003】
アルミニウム材のろう付方法としては、被接合部、つまりろう付によって接合しようとする部分の表面に予めフラックスを塗布した後にろう付を行うフラックスろう付法が多用されている。しかし、フラックスろう付法によりろう付を行う場合、ろう付が完了した後に、フラックスやその残渣がアルミニウム製品の表面に付着する。アルミニウム製品の用途によっては、これらのフラックスやその残渣が問題を起こすことがある。さらに、フラックスやその残渣を除去するためには、酸洗処理を行う必要があり、近年では、当該処理のコスト負担が問題視されている。
【0004】
フラックスの使用に伴う前述の問題を回避するため、アルミニウム製品の用途によっては、被接合部の表面にフラックスを塗布せずに真空中においてろう付を行う、いわゆる真空ろう付法を採用することもある。しかし、真空ろう付法は、フラックスろう付法に比べて生産性が低い、あるいはろう付接合の品質が悪化しやすいという問題がある。また、真空ろう付法に用いるろう付炉は、一般的なろう付炉に比べて設備費やメンテナンス費が高くなる。
【0005】
そこで、被接合部の表面にフラックスを塗布せずに不活性ガス雰囲気中でろう付を行う、いわゆるフラックスフリーろう付法が提案されている。フラックスフリーろう付法に用いられるブレージングシートの心材やろう材には、Mg(マグネシウム)等のAl(アルミニウム)よりも酸化されやすい金属元素が含まれている。これらの金属元素は、ろう付中に、ブレージングシート自体や、ブレージングシートと接合される相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊する作用を有している。フラックスフリーろう付においては、これらの金属元素の作用を利用してアルミニウム材同士のろう付が行われている。
【0006】
また、特許文献1には、ブレージングシートを作製した後に、エッチングを行って表面に存在する酸化皮膜を除去するブレージングシートの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-505231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された製造方法により得られるブレージングシートは、心材やろう材の化学成分によってはろう付性に劣ることがある。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フラックスフリーろう付におけるろう付性に優れたブレージングシートの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウム材のろう付を行うためのブレージングシートの製造方法であって、
アルミニウム材からなる心材用塊と、Al-Si-Mg系合金からなり前記心材用塊の少なくとも片面上に配置されたろう材用塊と、を備えたクラッド塊を作製する積層工程と、
前記クラッド塊に熱間圧延を施して、前記心材用塊からなる心材と、前記ろう材用塊からなり前記心材用塊の少なくとも片面上に配置されたろう材と、を備えたクラッド板を作製する熱間圧延工程と、
前記クラッド板に1パス以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程における冷間圧延のパス間または前記冷間圧延工程の完了後に、無機酸及び鉄イオンを含む塩を含有し、かつ、フッ素原子を含まないエッチング液を用いて前記クラッド板の表面をエッチングするエッチング工程と、を有し、
前記ろう材用塊を構成するAl-Mg-Si系合金が、Si:3質量%以上13質量%以下、Mg:0.1質量%以上2.0質量%以下、Bi:0質量%以上1.0質量%以下、Li:0質量%以上0.30質量%以下、Cu:0質量%以上2.0質量%以下、Zn:0質量%以上6.5質量%以下、Sn:0質量%以上0.10質量%以下、In:0質量%以上0.10質量%以下、Sr:0質量%以上0.030質量%以下、Na:0質量%以上0.030質量%以下及びSb:0質量%以上0.030質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
前記心材用塊は、Mg:0.10質量%以上4.0質量%以下及びSi:0質量%超え1.0質量%以下を含むアルミニウム合金から構成されており、
前記エッチング工程におけるエッチング量は0.05g/m 2 以上1g/m 2 以下である、ブレージングシートの製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
前記ブレージングシートの製造方法においては、前記クラッド塊に熱間圧延及び冷間圧延を施すことにより、クラッド板を作製する。このクラッド板の少なくとも片面上には、Al-Si-Mg系合金からなるろう材が配置される。かかるクラッド板の表面を、無機酸を含有し、かつ、フッ素原子を含まないエッチング液を用いてエッチングすることにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性に優れたブレージングシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、間隙充填試験に用いる試験体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<積層工程>
前記ブレージングシートの製造方法においては、まず、最終的にブレージングシートの心材となる心材用塊と、最終的にブレージングシートのろう材となるろう材用塊とを含む複数のアルミニウム塊を準備する。そして、これらのアルミニウム塊を所望の順序で重ね合わせ、クラッド塊を作製する積層工程を行う。クラッド塊におけるアルミニウム塊の積層順序や層の数は、所望するブレージングシートの積層構造及び層の数に応じて適宜設定すればよい。
【0014】
例えば、心材と、心材の片面上に積層されたろう材とを備えた2層構造のブレージングシートを得ようとする場合、クラッド塊を、心材用塊と、心材用塊の片面上に積層されたろう材用塊との2つのアルミニウム塊から構成とすればよい。同様に、心材と、心材の両面上に積層されたろう材とを備えた3層構造のブレージングシートを得ようとする場合、クラッド塊を、心材用塊と、心材用塊の両面上に積層されたろう材用塊との3つのアルミニウム塊から構成とすればよい。
【0015】
また、アルミニウム塊を準備する際に、心材用塊及びろう材用塊とは異なる化学成分を有するアルミニウム塊を準備し、このアルミニウム塊を心材用塊及びろう材用塊と重ね合わせてクラッド塊とすることにより、心材及びろう材とは異なる層を備えたブレージングシートを得ることもできる。例えば、アルミニウム塊を準備する際に、心材用塊及びろう材用塊とは異なる化学成分を備えた中間材用塊を準備し、心材用塊、中間材用塊、ろう材用塊の順に重ね合わせてクラッド塊を作製することにより、最終的に、心材とろう材との間に中間材用塊からなる中間材が設けられたブレージングシートを得ることができる。また、アルミニウム塊を準備する際に、心材用塊よりも自然電極電位が卑なアルミニウム合金からなる犠牲陽極材用塊を準備し、犠牲陽極材用塊、心材用塊、ろう材用塊の順に重ね合わせてクラッド塊を作製することにより、最終的に、心材の一方面上にろう材が積層され、他方面上に犠牲陽極材用塊からなる犠牲陽極材が積層されたブレージングシートを得ることができる。
【0016】
クラッド塊に含まれる各アルミニウム塊は、常法により作製することができる。クラッド塊に含まれる各アルミニウム塊は、以下の構成を有していてもよい。
【0017】
(心材用塊)
心材用塊は、クラッド塊に熱間圧延及び冷間圧延が施された後に、ブレージングシートの心材となるアルミニウム塊である。心材用塊を構成するアルミニウム材としては、ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金よりも固相線温度の高いアルミニウム材を採用することができる。心材用塊は、例えば、JIS A1000系アルミニウム、A3000系合金、A5000系合金、A6000系合金から構成されていてもよい。
【0018】
より具体的には、心材用塊は、Al及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、心材用塊は、Al及び不可避的不純物に加え、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Si(シリコン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Cr(クロム)及びZr(ジルコニウム)からなる群より選択される1種または2種以上の合金元素を含有していてもよい。なお、ブレージングシートにおける心材の化学成分は、心材用塊の化学成分と同一である。
【0019】
・Mg:0.10質量%以上4.0質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0.10質量%以上4.0質量%以下のMgが含まれている。これにより、Mgを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。心材中のMgは、ろう付時の加熱によって拡散してろう材へ移動する。そして、ろう材へ移動したMgが、ろう材中のMgとともにろう材の表面や相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊することにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させることができる。
【0020】
フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させる観点からは、心材用塊中のMg量を0.20質量%以上とすることが好ましく、0.30質量%以上とすることがより好ましく、0.40質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0021】
一方、心材用塊中のMgの含有量が過度に多くなると、ろう付中にろう材の表面まで到達するMgの量が多くなりやすい。このMgがろう材の表面において酸化されると、ろう付性の悪化を招くおそれがある。心材用塊中のMgの含有量を4.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下とすることにより、ろう付中に生じるMgの酸化物の量をより低減し、ひいてはろう付性の悪化を回避することができる。
【0022】
・Mn:0.05質量%以上1.60質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0.05質量%以上1.60質量%以下のMnが含まれていてもよい。この場合、Mnを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。
【0023】
心材用塊中のMnの含有量を0.05質量%以上、好ましくは0.30質量%以上、さらに好ましくは0.60質量%以上とすることにより、ブレージングシートにおける心材の強度をより向上させるとともに、心材の電位を調整し、耐食性をより向上させることができる。
【0024】
しかし、心材用塊中のMnの含有量が過度に多くなると、ブレージングシートの製造過程の際に心材に割れが発生しやすくなる。心材用塊中のMnの含有量を1.6質量%以下、好ましくは1.4質量%以下とすることにより、ブレージングシートの製造性の悪化を回避することができる。
【0025】
・Si:0質量%超え1.0質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え1.0質量%以下のSiが含まれている。これにより、Siを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。ブレージングシートにおける心材中のSiは、心材の強度を向上させる作用を有している。しかし、心材中のSiの含有量が過度に多くなると、心材の融点が低下し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。心材用塊中のSiの含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とすることにより、ろう付性の悪化を回避しつつ心材の強度をより向上させることができる。
【0026】
・Fe:0質量%超え1.0質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え1.0質量%以下のFeが含まれていてもよい。この場合、Feを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。ブレージングシートにおける心材中のFeは、心材の強度を向上させる作用を有している。しかし、心材中のFeの含有量が過度に多くなると、心材の耐食性の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、心材中に巨大な析出物が形成されやすくなり、ブレージングシートの成形性の低下を招くおそれもある。心材用塊中のFeの含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ心材の強度をより向上させることができる。
【0027】
・Cu:0質量%超え2.0質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え2.0質量%以下のCuが含まれていてもよい。この場合、Cuを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。心材中のCuは、心材の強度を向上させる作用を有している。また、Cuは、心材の電位を調整し、耐食性を向上させる作用を有している。しかし、心材中のCuの含有量が過度に多くなると、粒界腐食が発生しやすくなる。また、この場合には、心材の融点が低下し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。心材用塊中のCuの含有量を2.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ心材の強度及び耐食性をより向上させることができる。
【0028】
・Zn:0質量%超え6.5質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え6.5質量%以下のZnが含まれていてもよい。この場合、Znを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。心材中のZnは、心材の自然電極電位を卑にする作用を有している。心材の自然電位を卑にすることにより、心材をろう付後のアルミニウム製品における犠牲陽極として機能させることができる。しかし、Znの含有量が過度に多くなると、心材の自然電極電位が過度に低下し、犠牲防食効果が早期に損なわれるおそれがある。心材用塊中のZnの含有量を6.5質量%以下とすることにより、心材による犠牲防食効果をより長期間にわたって維持することができる。
【0029】
・Ti:0質量%超え0.20質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え0.20質量%以下のTiが含まれていてもよい。この場合、Tiを含むアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。心材中のTiは、心材の腐食を層状に進行させ、深さ方向への腐食の進行を抑制する作用を有している。しかし、Tiの含有量が過度に多くなると、心材用塊中に巨大な析出物が形成されやすくなり、熱間圧延や冷間圧延における圧延性の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、かえって心材の耐食性の悪化を招くおそれもある。心材用塊中のTiの含有量を0.20質量%以下とすることにより、かかる問題を回避しつつ心材の深さ方向への腐食の進行をより効果的に抑制することができる。
【0030】
・Cr:0質量%超え0.50質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え0.50質量%以下のCrが含まれていてもよい。この場合、Crを含有するアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。Crは、心材の結晶粒径を大きくし、エロージョンの発生を抑制する作用を有している。しかし、心材用塊中のCrの含有量が過度に多くなると、ブレージングシートの製造過程において心材に割れが発生しやすくなる。心材用塊中のCrの含有量を0.50質量%以下とすることにより、ブレージングシートの製造性の悪化を回避しつつエロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
【0031】
・Zr:0質量%超え0.50質量%以下
心材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え0.50質量%のZrが含まれていてもよい。この場合、Zrを含有するアルミニウム合金からなる心材を備えたブレージングシートを得ることができる。Zrは、心材の結晶粒径を大きくし、エロージョンの発生を抑制する作用を有している。しかし、心材用塊中のZrの含有量が過度に多くなると、ブレージングシートの製造過程において心材に割れが発生しやすくなる。心材中のZrの含有量を0.50質量%以下とすることにより、ブレージングシートの製造性の悪化を回避しつつエロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
【0032】
(ろう材用塊)
ろう材用塊は、クラッド塊に熱間圧延及び冷間圧延が施された後に、ブレージングシートのろう材となるアルミニウム塊である。ろう材用塊を構成するアルミニウム材としては、Mg及びSiを含むアルミニウム合金である、Al-Si-Mg系合金を採用することができる。ろう材用塊は、例えば、Si:3.0質量%以上13.0質量%以下、Mg:0.10質量%以上2.0質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有するAl-Si-Mg系合金から構成されていてもよい。なお、ブレージングシートにおけるろう材の化学成分は、ろう材用塊の化学成分と同一である。
【0033】
・Si:3.0質量%以上13.0質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、3.0質量%以上13.0質量%以下のSiが含まれている。ろう材用塊中のSiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させることができる。
【0034】
・Mg:0.10質量%以上2.0質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、0.10質量%以上2.0質量%以下のMgが含まれている。ろう材中のMgは、ろう付中に、ろう材の表面や相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊する作用を有している。ろう材用塊中のMgの含有量を0.10質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上とすることにより、ろう材の表面や相手材の表面に存在する酸化皮膜を十分に破壊し、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させることができる。
【0035】
一方、ろう材中のMg量が過度に多くなると、ブレージングシートの表面にMgの酸化物が形成されやすくなる。Mgの酸化物が過度に多くなると、ろう付性の悪化を招くおそれがある。ろう材用塊中のMgの含有量を2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下とすることにより、ブレージングシートの表面に生じるMgの酸化物の量をより低減し、ひいてはろう付性の悪化を回避することができる。
【0036】
ろう材用塊を構成するアルミニウム合金には、必須成分としてのSi及びMgに加えて、Bi(ビスマス)、Li(リチウム)、Cu、Zn、Sn(スズ)、In(インジウム)、Sr(ストロンチウム)、Na(ナトリウム)及びSb(アンチモン)からなる群より選択される1種または2種以上の合金元素が含まれていてもよい。
【0037】
・Bi:0.05質量%以上1.0質量%以下
ろう材用塊を構成するアルミニウム合金には、0.05質量%以上1.0質量%以下のBiが含まれていてもよい。この場合、Biを含むAl-Si-Mg系合金からなるろう材を備えたブレージングシートを得ることができる。Biは、ろう付時に生じる溶融ろうの表面張力を低下させる作用を有している。ろう材用塊中のBiの含有量を0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上とすることにより、ろう付性をより向上させることができる。
【0038】
しかし、ろう材用塊中のBiの含有量が過度に多くなると、Biの含有量に見合ったろう付性向上の効果を得ることが難しくなる。また、この場合には、ろう付後のろう材が変色しやすくなり、外観不良となるおそれがある。ろう材用塊中のBiの含有量を1.0質量%以下、好ましくは0.70質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつろう付性をより向上させることができる。
【0039】
・Li:0.0010質量%以上0.30質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、0.0010質量%以上0.30質量%以下のLiが含まれていてもよい。この場合、Liを含むAl-Si-Mg系合金からなるろう材を備えたブレージングシートを得ることができる。ろう材中のLiは、ろう付中に、ろう材の表面や相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊する作用を有している。
【0040】
ろう材用塊中のLiの含有量を0.0010質量%以上、より好ましくは0.0040質量%以上とすることにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させることができる。
【0041】
しかし、ろう材用塊中のLiの含有量が過度に多くなると、ブレージングシートの表面にLiの酸化物が形成されやすくなる。Liの酸化物が過度に多くなると、ろう付性の悪化を招くおそれがある。ろう材用塊中のLiの含有量を0.30質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下とすることにより、Liの酸化によるろう付性の悪化を回避することができる。
【0042】
・Cu:0質量%超え2.0質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、0質量%超え2.0質量%以下のCuが含まれていてもよい。この場合、Cuを含むAl-Si-Mg系合金からなるろう材を備えたブレージングシートを得ることができる。ろう材中のCuは、ろう材の自然電極電位を貴にするとともに、融点を低下させる作用を有している。ろう材用塊中のCuの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ろう材の自然電極電位を適度に上昇させ、ろう材の耐食性を向上させることができる。また、ろう材用塊中のCuの含有量を前記特定の範囲とすることにより、溶融ろうの流動性を高め、ろう付性をより向上させることができる。
【0043】
・Zn:0質量%超え6.5質量%以下、Sn:0質量%超え0.10質量%以下、In:0質量%超え0.10質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、0質量%超え6.5質量%以下のZn、0質量%超え0.10質量%以下のSn及び0質量%超え0.10質量%以下のInからなる群より選択される1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。ろう材中のZn、Sn、Inは、いずれもろう材の自然電極電位を卑にする作用を有している。ろう材用塊中のZnの含有量、Snの含有量、Inの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ろう材を犠牲陽極として機能させ、ろう付後のアルミニウム製品の耐食性をより向上させることができる。
【0044】
・Sr:0質量%超え0.030質量%以下、Na:0質量%超え0.030質量%以下、Sb:0質量%超え0.030質量%以下
ろう材用塊を構成するAl-Si-Mg系合金には、0質量%超え0.030質量%以下のSr、0質量%超え0.030質量%以下のNa及び0質量%超え0.030質量%以下のSbからなる群より選択される1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。ろう材中のSr、Na、Sbは、いずれもろう材中のSi粒子を微細化し、溶融ろうの流動性を向上させる作用を有している。ろう材用塊中のSrの含有量、Naの含有量、Sbの含有量を前記特定の範囲とすることにより、溶融ろうの流動性を高め、ろう付性をより向上させることができる。
【0045】
(中間材用塊)
前記クラッド塊を作製する際に、心材用塊とろう材用塊との間に中間材用塊を配置することにより、心材とろう材との間に中間材用塊からなる中間材が設けられたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊を構成するアルミニウム合金としては、例えば、心材用塊及びろう材用塊とは異なる化学成分を有するアルミニウム合金を採用することができる。なお、中間材の化学成分は、中間材用塊の化学成分と同一である。
【0046】
・Mg:0.40質量%以上6.0質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金は、例えば、0.40質量%以上6.0質量%以下のMgを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。かかる中間材用塊をクラッド塊における心材用塊とろう材用塊との間に配置することにより、心材とろう材との間にMgを含む中間材が設けられたブレージングシートを得ることができる。
【0047】
中間材中のMgは、心材中のMgと同様に、ろう付時の加熱によって拡散してろう材へ移動する。そして、ろう材へ移動したMgが、ろう材中のMgとともにろう材の表面や相手材の表面に存在する酸化皮膜を破壊することにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させることができる。フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上させる観点からは、中間材用塊中のMgの含有量を前記特定の範囲とすることが好ましい。
【0048】
中間材用塊には、Al及び不可避的不純物に加えて、Mn、Si、Fe、Cu、Zn、Ti、Cr及びZrからなる群より選択される1種または2種以上が含まれていてもよい。
【0049】
・Mn:0質量%超え2.0質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え2.0質量%以下のMnが含まれていてもよい。この場合、Mnを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊中のMnの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ブレージングシートにおける中間材の強度をより向上させるとともに、中間材の電位を調整し、耐食性をより向上させることができる。
【0050】
・Si:0質量%超え1.0質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え1.0質量%以下のSiが含まれていてもよい。この場合、Siを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊中のSiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ブレージングシートにおける中間材の強度をより向上させることができる。
【0051】
・Fe:0質量%超え1.0質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え1.0質量%以下のFeが含まれていてもよい。この場合、Feを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊中のFeの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ブレージングシートにおける中間材の強度をより向上させることができる。
【0052】
・Cu:0質量%超え2.0質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え2.0質量%以下のCuが含まれていてもよい。この場合、Cuを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊中のCuの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ブレージングシートにおける中間材の強度をより向上させることができる。また、この場合には、中間材の電位を調整し、耐食性をより向上させることができる。
【0053】
・Zn:0質量%超え6.5質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え6.5質量%以下のZnが含まれていてもよい。この場合、Znを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材中のZnは、心材中のZnと同様に、中間材の自然電極電位を卑にする作用を有している。中間材用塊中のZnの含有量を前記特定の範囲とすることにより、中間材を犠牲陽極として機能させ、耐食性をより向上させることができる。
【0054】
・Ti:0質量%超え0.20質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え0.20質量%以下のTiが含まれていてもよい。この場合、Tiを含むアルミニウム合金からなる中間材を備えたブレージングシートを得ることができる。中間材用塊中のTiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、中間材の腐食を層状に進行させ、深さ方向への腐食の進行をより効果的に抑制することができる。
【0055】
・Cr:0質量%超え0.50質量%以下、Zr:0質量%超え0.50質量%以下
中間材用塊を構成するアルミニウム合金には、0質量%超え0.50質量%以下のCr及び0質量%超え0.50質量%以下のZrからなる群より選択される1種または2種の元素が含まれていてもよい。Cr及びZrは、中間材の結晶粒径を大きくする作用を有している。中間材用塊中のCrの含有量及びZrの含有量を前記特定の範囲とすることにより、エロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
【0056】
(犠牲陽極材用塊)
前記クラッド塊を作製する際に、心材用塊の一方の面上にろう材用塊を配置し、他方の面上に犠牲陽極材用塊を配置することにより、心材の一方の面上にろう材が設けられ、他方の面上に犠牲陽極材が設けられたブレージングシートを得ることができる。犠牲陽極材用塊を構成するアルミニウム合金としては、例えば、心材を構成するアルミニウム合金よりも自然電極電位が卑なアルミニウム合金を採用することができる。なお、犠牲陽極材の化学成分は、犠牲陽極材用塊の化学成分と同一である。
【0057】
・Zn:0質量%超え6.5質量%以下、Sn:0質量%超え0.10質量%以下、In:0質量%超え0.10質量%以下
犠牲陽極材用塊を構成するアルミニウム合金は、例えば、0質量%超え6.50質量%以下のZn、0質量%超え0.10質量%以下のSn及び0質量%超え0.10質量%以下のInからなる群より選択される1種または2種以上の元素を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。この場合には、Zn、SnまたはInを含むアルミニウム合金からなる犠牲陽極材を備えたブレージングシートを得ることができる。
【0058】
犠牲陽極材中のZn、Sn、Inは、犠牲陽極材の自然電極電位を卑にする作用を有している。犠牲陽極材中のZnの含有量、Snの含有量及びInの含有量を前記特定の範囲とすることにより、ろう付後のアルミニウム製品の耐食性をより向上させることができる。
【0059】
<熱間圧延工程>
前記ブレージングシートの製造方法においては、積層工程の後に、熱間圧延工程を行う。熱間圧延工程においては、積層工程において得られたクラッド塊に熱間圧延を施す。これにより、隣り合うアルミニウム塊同士が接合されたクラッド板を得ることができる。熱間圧延工程における圧延条件は、クラッド塊の構成や最終的に得ようとするブレージングシートの構成等に応じて適宜設定すればよい。また、熱間圧延工程の後、必要に応じてクラッド板を加熱して均質化処理を行ってもよい。
【0060】
<冷間圧延工程>
熱間圧延工程の後、得られたクラッド板に1パス以上の冷間圧延を施す冷間圧延工程を行う。クラッド板に冷間圧延を行うことにより、クラッド板の厚みを所望のブレージングシートの厚みまで減少させる。冷間圧延工程におけるパス数や圧延条件は、クラッド板の構成や所望するブレージングシートの構成等に応じて適宜設定すればよい。また、冷間圧延を行う前や冷間圧延の途中、冷間圧延の後に、必要に応じてクラッド板を加熱して焼鈍を行ってもよい。
【0061】
<エッチング工程>
冷間圧延により得られたブレージングシートの表面には、前述した熱間圧延や熱処理の際に、クラッド板やブレージングシートが高温となったことにより形成された酸化皮膜が存在している。この酸化皮膜を脆弱化するため、エッチング工程において、ブレージングシートの表面にエッチング液を接触させてエッチングを行う。エッチング工程は、冷間圧延工程における冷間圧延のパス間に行ってもよいし、冷間圧延工程が完了した後に行ってもよい。冷間圧延工程が完了した後にエッチング工程を行う場合、所望の大きさに切断する前のコイル材の状態でエッチングを行ってもよいし、切断やプレスなどの、ブレージングシートを所望の形状に成形するための加工が施された後にエッチングを行ってもよい。
【0062】
前記エッチング工程において、エッチング液としては、無機酸を含有し、かつ、フッ素原子を含まない水溶液を使用することができる。前述したように、ブレージングシートのろう材には、Mgが必須成分として含まれている。そのため、エッチング液中にフッ素原子が存在していると、フッ素原子とろう材中のMgが反応し、ろう材の表面にMg及びフッ素原子を含む化合物が形成される。この化合物は、ろう付時にMgによる酸化皮膜の破壊を妨げる作用を有しているため、フッ素原子を含むエッチング液を用いてエッチングを行うと、ろう付性が低下するおそれがある。
【0063】
これに対し、前記エッチング液にはフッ素原子が含まれていないため、ブレージングシートの表面へのフッ素原子の残留やフッ素原子とMgの化合物の形成を回避することができる。それ故、前記特定のエッチング液を用いてエッチングを行うことにより、ろう材中にMgを含むブレージングシートのろう付性をより向上させることができる。
【0064】
エッチング液中に含まれる無機酸としては、例えば、硫酸や硝酸、リン酸等を使用することができる。これらの無機酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ブレージングシートのろう付性をより向上させる観点からは、エッチング液は、無機酸としての硫酸を含んでいることが好ましく、硫酸及び硝酸の両方を含んでいることがより好ましい。エッチング液中の硫酸の濃度は、0.10質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。また、エッチング液中の硝酸の濃度は、0.02質量%以上0.50質量%以下であることが好ましい。
【0065】
エッチング液には、無機酸のほかに、鉄イオンを含む塩が含まれている。かかる塩としては、例えば、硫酸第二鉄や硝酸鉄、過塩素酸鉄などを使用することができる。これらの塩は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。無機酸と、鉄イオンを含む塩とを含むエッチング液を用いてエッチングを行うことにより、ブレージングシートの保存安定性をより向上させ、保管中のろう付性の低下をより長期間に亘って抑制することができる。また、この場合には、エッチングを行った後のブレージングシートの表面への圧延油等の油の塗布を行わなくても、保管中のろう付性の低下をより長期間に亘って抑制することができる。
【0066】
鉄イオンを含む塩としては、硫酸第二鉄を用いることが好ましい。この場合、エッチング液中の硫酸第二鉄の濃度は、0.05質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
ブレージングシートのろう付性をより向上させるとともに、ブレージングシートの保存安定性をより向上させる観点からは、エッチング液が、0.20質量%以上2.0質量%以下の硫酸と、0.02質量%以上0.50質量%以下の硝酸と、0.10質量%以上1.0質量%以下の硫酸第二鉄とを含有していることが特に好ましい。
【0068】
エッチング液には、更に、界面活性剤及び反応促進剤のうち少なくとも一方が含まれていることが好ましく、両方が含まれていることがより好ましい。界面活性剤や反応促進剤を含むエッチング液を用いてエッチングを行うことにより、エッチングに要する時間をより短縮するとともに、反応にムラが生じることを抑制し、ブレージングシート全体を均一にエッチングすることができる。
【0069】
前述したエッチングにおいては、ブレージングシートの表面に存在する酸化皮膜の厚みをエッチング前よりも薄くしてもよいし、酸化皮膜を完全に除去してもよい。前者の場合、エッチング後の酸化皮膜の厚みがエッチング前よりも薄くなるため、エッチング後の酸化皮膜をエッチング前に比べて脆弱にすることができる。また、後者の場合には、酸化皮膜を除去した後にクラッド板の表面が外気に接触することにより、ろう材の表面に酸化皮膜が形成される。しかし、このようにして形成される酸化皮膜は、クラッド板の製造過程において形成される酸化皮膜、つまり、エッチング前に存在していた酸化皮膜に比べて脆弱である。
【0070】
従って、クラッド板の表面をエッチングすることにより、ろう材の表面に存在する酸化皮膜を脆弱化することができる。そして、酸化皮膜を脆弱化することにより、ろう付時に酸化皮膜を容易に分断することができる。その結果、フラックスフリーろう付におけるろう付性をより向上することができる。
【0071】
エッチング工程におけるエッチング量は0.05g/m2以上1g/m2以下である。エッチング量を0.05g/m2以上、より好ましくは0.1g/m2以上とすることにより、クラッド板の表面に存在する酸化皮膜を十分に脆弱化し、ろう付において酸化皮膜をより容易に分断することができる。また、エッチング量を1g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以下とすることにより、酸化皮膜を十分に脆弱化しつつ、エッチングに要する時間を短縮し、ブレージングシートの生産性をより向上させることができる。
【0072】
前記の製造方法によって得られたブレージングシートは、フラックスフリーろう付、つまり、不活性ガス雰囲気中においてフラックスを塗布せずに行うろう付に使用することができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴンまたはヘリウム等を使用することができる。
【0073】
フラックスフリーろう付においては、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度及び露点が過度に高いとろう付性の悪化を招くおそれがある。しかし、前記ブレージングシートは、前述したように、ろう材の表面に存在する酸化皮膜が予め脆弱化されているため、比較的高い酸素濃度及び露点においても、ろう付性の悪化を回避することができる。前記ブレージングシートは、例えば、酸素濃度が100体積ppm以下、露点が-30℃以下の不活性ガス雰囲気中でフラックスフリーろう付を行うことができる。
【0074】
フラックスフリーろう付における加熱条件は特に限定されることはないが、ろう付加熱を開始してからろう材が溶融するまでに要する時間が過度に長くなると、ろう材の表面の酸化が進行し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。かかる問題を回避する観点から、ブレージングシートの温度が300℃に到達してからろう材の固相線温度に到達するまでの所要時間が40分以下となる加熱条件でろう付を行うことが好ましい。
【実施例
【0075】
前記ブレージングシートの製造方法の実施例について、以下に説明する。なお、本発明に係るブレージングシートの製造方法の態様は、以下に示す実施例の容態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0076】
本例において用いるろう材用塊A1~A3及び心材用塊B1の化学成分は、表1に示す通りである。これらのろう材用塊及び心材用塊は、常法により作製することができる。なお、表1における記号「Bal.」は、残部であることを示す記号であり、記号「-」は、当該合金元素を積極的に添加していないことを示す記号である。
【0077】
【表1】
【0078】
(実施例1)
まず、心材用塊B1の片面上に、ろう材用塊A1またはA2のいずれかを重ね合わせてクラッド塊を作製する(積層工程)。このクラッド塊に熱間圧延を施し、心材の片面上にろう材が積層されたクラッド板を作製する(熱間圧延工程)。クラッド板の厚みは3.0mmとする。
【0079】
このクラッド板に1パス以上の冷間圧延を施し、次いで焼鈍することにより、厚みが0.8mmのブレージングシートを作製する(冷間圧延工程)。得られたブレージングシートにおけるろう材のクラッド率、つまり、ブレージングシートの厚みに対するろう材の厚みの比率は8%とする。
【0080】
冷間圧延の後、ブレージングシートに脱脂洗浄を行い、ブレージングシートの表面から圧延油を除去する。次いで、表2に示す組成のエッチング液をブレージングシートに接触させ、ブレージングシートの表面をエッチングする(エッチング工程)。ブレージングシートに接触させるエッチング液の温度及びエッチング時間は、表2に示す通りとする。エッチングが完了した後、ブレージングシートを水洗してエッチング液を除去し、次いでブレージングシートを乾燥させる。なお、表2における記号「-」は、当該成分を含有していないことを示す記号である。
【0081】
以上により得られたブレージングシートC1~C14のろう付性は、間隙充填試験により評価することができる。間隙充填試験においては、まず、図1に示す試験体1を組み立てる。試験体1は、図1に示すように、ブレージングシートC1~C14からなる水平板2と、JIS A3003合金から構成された板厚1.0mmの垂直板3とを有している。水平板2は、ろう材21が上方を向き、心材22が下方を向くようにして水平に配置されている。垂直板3は、水平板2に対して直交するように配置されている。また、垂直板3の長手方向の一端31は、水平板2のろう材21に当接している。なお、水平板2の幅は25mmであり、長さは60mmである。また、垂直板3の幅は25mmであり、長さは55mmである。
【0082】
垂直板3の長手方向における他端32と水平板2との間には、スペーサー4が介在している。これにより、水平板2と垂直板3との間に、垂直板3の一端31からスペーサー4側へ向かうにつれて徐々に広がる間隙Sが形成されている。スペーサー4は、具体的には直径1.6mmのステンレス鋼製丸線であり、垂直板3が水平板2に当接する位置(つまり、垂直板3の一端31)から水平方向に55mm離れた位置に配置されている。
【0083】
試験体のろう付は、窒素ガス炉を用いて行う。具体的には、まず、炉内の雰囲気を酸素濃度が10体積ppm以下である窒素ガス雰囲気とし、炉内の温度が100℃以下である状態で試験体を炉内に配置する。この炉内に試験体を10分間放置した後にろう付加熱を開始する。ろう付加熱は、温度が600℃となるまで試験体の温度を上昇させた後、600℃の温度を3分間保持することにより行う。ろう付加熱が完了した後、ある程度温度が低下するまで試験体を炉内で徐冷し、その後、炉外に試験体を取り出す。
【0084】
間隙充填試験においては、ろう付後に形成されるフィレットFの長さL及び形状(図1参照)に基づいてろう付性を評価することができる。各ブレージングシートを用いた試験体におけるフィレットFの長さLを表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示したように、無機酸を含み、かつ、フッ素原子を含まないエッチング液を用いてエッチングしたブレージングシートC1~C11は、フッ素原子を含有するエッチング液を用いてエッチングしたブレージングシートC12、C13に比べてフィレット長さLを長くすることができる。
【0087】
ろう材にMgを含有しないブレージングシートC14は、Mgによる酸化皮膜の破壊が不十分となるため、フッ素を含まないエッチング液を用いてエッチングしてもろう付性を向上させることができない。
【0088】
これらの結果から、Al-Mg-Si系合金からなるろう材を備えたブレージングシートを、無機酸を含み、かつ、フッ素原子を含まないエッチング液を用いてエッチングすることにより、フラックスフリーろう付におけるろう付性を向上させることができることが理解できる。
【0089】
(実施例2)
本例では、ブレージングシートの保存安定性の評価を行う。まず、表1に示す心材用塊B1の片面上にろう材用塊A3を重ね合わせ、クラッド塊を作製する(積層工程)。このクラッド塊に熱間圧延を施し、厚さ3.0mmのクラッド板を作製する(熱間圧延工程)。次いで、クラッド板に冷間圧延を施すことにより、厚さ0.4mmのブレージングシートを得る(冷間圧延工程)。得られたブレージングシートにおけるろう材のクラッド率は10%とする。
【0090】
冷間圧延の後、ブレージングシートを焼鈍する。次いで、ブレージングシートに脱脂洗浄を行い、ブレージングシートの表面から圧延油を除去する。その後、表3に示す組成のエッチング液をブレージングシートに接触させ、ブレージングシートの表面をエッチングする(エッチング工程)。ブレージングシートに接触させるエッチング液の温度及びエッチング時間は、表3に示す通りとする。エッチングが完了した後、ブレージングシートを水洗してエッチング液を除去し、次いでブレージングシートを乾燥させる。以上により、ブレージングシートD1~D4を得る。なお、表3における記号「-」は、当該成分を含有していないことを示す記号である。
【0091】
本例では、長期間保管されたブレージングシートの状態を模擬するため、乾燥後のブレージングシートD1~D4を温度40℃、相対湿度80%RHの恒温恒湿槽内で7日間静置する。その後、実施例1と同様の方法により、間隙充填試験を行う。表3に、各ブレージングシートを用いた試験体におけるフィレットFの長さLを示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示したように、無機酸と硫酸第二鉄とが含まれたエッチング液を用いてエッチングされたブレージングシートD1、D2は、硫酸第二鉄が含まれていないエッチング液を用いてエッチングされたブレージングシートD3、D4に比べてフィレットFの長さLを長くすることができる。
【0094】
これらの結果から、無機酸と鉄イオンとを含むエッチング液を用いてブレージングシートをエッチングすることにより、ブレージングシートの保存安定性をより高め、保管中のろう付性の悪化をより長期間に亘って抑制できることが理解できる。
【符号の説明】
【0095】
1 試験体
2 水平板
21 ろう材
22 心材
3 垂直板
4 スペーサー
F フィレット
L フィレットの長さ
図1