(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】不飽和基含有環状ポリオレフィン
(51)【国際特許分類】
C08F 8/00 20060101AFI20241122BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C08F8/00
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2020109823
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/080202(WO,A1)
【文献】特開2014-105280(JP,A)
【文献】国際公開第2020/044920(WO,A1)
【文献】特開平03-084009(JP,A)
【文献】特開平11-349626(JP,A)
【文献】特開2015-066551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
B32B 1/00 - 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィンの分子構造中にビニル基及び/又はビニリデン基を有する不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法であって、
該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体のみ、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーであり、
前記環状ポリオレフィンを、不活性ガス中、300~400℃で0.5~10時間熱減成処理する、不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項2】
重量平均分子量が1,000~40,000である、請求項1に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項3】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニル基及びビニリデン基の合計数が1~200である、請求項1又は2に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項4】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニリデン基数が1~100である、請求項1~3のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項1~4のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項1~4のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法。
【請求項7】
環状ポリオレフィンの分子構造中にビニル基及び/又はビニリデン基を有する不飽和基含有環状ポリオレフィンが、基材上に積層された、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体であって、
該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体のみ、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーであ
り、
重量平均分子量が1,000~40,000である、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
【請求項8】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニル基及びビニリデン基の合計数が1~200である、請求項
7に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
【請求項9】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニリデン基数が1~100である、請求項7
又は8に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
【請求項10】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項7~
9のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
【請求項11】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項7~
9のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
【請求項12】
有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物を基材に塗工した後、溶媒を除去して積層体を得る、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法であって、
前記有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物は、不飽和基含有環状ポリオレフィンを、有機溶媒に1~30質量%の濃度で溶解又は懸濁させた、不飽和基含有環状ポリオレフィン溶液又は不飽和基含有環状ポリオレフィンスラリーからなる混合物であり、
前記不飽和基含有環状ポリオレフィンが、環状ポリオレフィンの分子構造中にビニル基及び/又はビニリデン基を有するものであり、
前記環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体のみ、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーである、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【請求項13】
重量平均分子量が1,000~40,000である、請求項
12に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【請求項14】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニル基及びビニリデン基の合計数が1~200である、請求項
12又は
13に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【請求項15】
モノマー単位1,000個あたりの、ビニリデン基数が1~100である、請求項
12~
14のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【請求項16】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【請求項17】
前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒への溶解性、接着性、透明性の優れた不飽和基含有環状ポリオレフィンを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類の低分子量物は、軽量で耐水性や耐薬品性、絶縁性があり、取扱いも容易であるため、各種成形加工で形状が付与され、様々な工業材料に用いられている。
ところで、この低分子量ポリプロピレンは粘着性を有するため、ブロッキングが生じ、取扱性が悪いという問題点を有する(特許文献1[発明が解決しようとする課題])。
【0003】
これに対し、特許文献1には、特定のポリプロピレンやポリエチレンの混合物を熱減成処理して低分子量化することにより、粘着性を低下させ、ブロッキングの発生を抑制した低分子プロピレン系重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリオレフィン類は高い結晶性を持っており、その結晶性が有機溶媒への溶解性を低下させる要因となっている。さらに、かかる結晶性はポリオレフィン類の透明性を阻害することが通常であり、塗膜の透明性や発色性は好ましいものにはならない。このため、ポリオレフィン類の結晶性を低下させ、溶解性を改良させる検討が行なわれている。
また、ポリオレフィン類に対しては、容易に被着材に塗工や積層できる性能も求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1で得られる低分子プロピレン系重合体は、有機溶媒への溶解性が不十分なため、透明性も不十分となる傾向がある。また、接着性が不十分なため、被着材に対する塗工性や積層性も不十分な傾向がある。
【0007】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、有機溶媒への溶解性、接着性、透明性の優れた不飽和基含有環状ポリオレフィンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、特定の環状ポリオレフィンを用い、これを熱減成処理で低分子量化及び不飽和基を付与することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]環状ポリオレフィンの分子構造中にビニル基及び/又はビニリデン基を有する不飽和基含有環状ポリオレフィンであって、該環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーである、不飽和基含有環状ポリオレフィン。
【0010】
[2]重量平均分子量が1,000~40,000である、[1]に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン。
[3]モノマー単位1,000個あたりの、ビニル基及びビニリデン基の合計数が1~200である、[1]又は[2]に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン。
[4]モノマー単位1,000個あたりの、ビニリデン基数が1~100である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン。
【0011】
[5]前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、[1]~[4]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン。
[6]前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体が90%以上の水素化レベルをもつ、[1]~[4]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィン。
[7]前記環状ポリオレフィンを、不活性ガス中、300~400℃で0.5~10時間熱減成処理する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンを製造する方法。
【0012】
[8][1]~[6]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンを、有機溶媒に1~30質量%の濃度で溶解又は懸濁させた、不飽和基含有環状ポリオレフィン溶液又は不飽和基含有環状ポリオレフィンスラリーからなる有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物。
[9][1]~[6]のいずれか一項に記載の不飽和基含有環状ポリオレフィンが、基材上に積層された、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体。
[10][8]に記載の有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物を基材に塗工した後、溶媒を除去して積層体を得る、不飽和基含有環状ポリオレフィン含有積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、有機溶媒に可溶であり、金属、ガラス、プラスチック等の基材に塗工することにより、透明性を有し、且つ、良好な接着強度をもった塗膜となり、積層体を得ることができる。
また、本発明の溶液又はスラリーは、金属、ガラス、プラスチック等の基材に塗工することができ、有機溶媒を除去することで、透明性を有し、且つ、良好な接着強度をもった塗膜となる。
さらに、本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンや積層体は、塩素化等を行なわないので、燃焼時に有毒ガスが発生しない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
以下において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0015】
<不飽和基含有環状ポリオレフィン>
本発明は、環状ポリオレフィンの分子構造中にビニル基及び/又はビニリデン基を有する不飽和基含有環状ポリオレフィンである。
該環状ポリオレフィンとは、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーをいう。
【0016】
前記水素化ブロックコポリマーが含む「芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体」は「水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位」と、「共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体」は「水素化共役ジエンポリマーブロック単位」と称することがある。
【0017】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、後述する環状ポリオレフィンに熱減成処理を行ない、低分子量化及び不飽和基付与を行なったものである。この不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造方法は、後述する。
【0018】
不飽和基含有環状ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは40,000以下、より好ましくは30,000以下である。
不飽和基含有環状ポリオレフィンのMwが上記下限以上であれば、材料強度が低下せず、接着性が低下しないので好ましい。また、Mwが上記上限以下であれば、有機溶媒への溶解性が低下しないので好ましい。
不飽和基含有環状ポリオレフィンのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載する通りである。
【0019】
前記不飽和基含有環状ポリオレフィンのMwは、環状ポリオレフィンの熱減成処理の温度や時間によって制御することができる。
【0020】
<不飽和基>
不飽和基含有環状ポリオレフィンが有する不飽和基は、ビニル基及び/又はビニリデン基である。これらのうちでは、ビニリデン基が好ましい。
尚、本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、ビニル基、ビニリデン基以外の不飽和基を含有していてもよい。
【0021】
<不飽和基数>
不飽和基含有環状ポリオレフィンが有するビニル基数及びビニリデン基数は、1H-NMR測定結果より以下のように求めることでできる。
【0022】
・(ビニル基数/モノマー単位1,000個)=
[((4.9~5.1ppm領域,5.7~5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値の合計)/ビニル基の水素の数)×1,000]
/[((0.2~3.0ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/環状ポリオレフィンのモノマー単位の水素の数)]
【0023】
・(ビニリデン基数/モノマー単位1,000個)=
[((4.69ppm,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値の合計)/ビニリデン基の水素の数)×1,000]
/[((0.2~3.0ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/環状ポリオレフィンのモノマー単位の水素の数)]
【0024】
ここで、ビニル基の水素の数は3であり、ビニリデン基の水素の数は2である。
また、環状ポリオレフィンのモノマー単位の水素の数は、例えば、スチレン単位の水素化体の場合は14、ブタジエン単位の水素化体の場合は8を用いる。スチレン単位の水素化体とブタジエン単位の水素化体の比率は、実施例の項に記載するカーボンNMRによる測定によって算出される。
【0025】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンが有する不飽和基数、即ち、モノマー単位1,000個あたりのビニル基数、及び、モノマー単位1,000個あたりのビニリデン基数は、小数点以下を四捨五入した値で表示する。
【0026】
モノマー単位1,000個あたりのビニル基及びビニリデン基の合計数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましい。また、200以下が好ましく、150以下がより好ましい。
【0027】
モノマー単位1,000個あたりのビニリデン基数は1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましい。また、100以下が好ましく、80以下がより好ましい。
不飽和基含有環状ポリオレフィンが有する不飽和基数が上記下限以上であれば、不飽和基含有環状ポリオレフィンの有機溶媒への溶解性及び接着性の効果を十分に発現することができる。また、上記上限以下であれば、分子量が小さくならず、材料強度が低下しない。
【0028】
<不飽和基含有環状ポリオレフィンの水素化体の水素化レベル>
不飽和基含有環状ポリオレフィンの環状ポリオレフィンが、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体である場合、その水素化レベルとは、芳香族ビニルモノマー単位が水素化によって飽和される割合を示し、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上が更に好ましい。このように高レベルの水素化は、透明性のために好ましい。
【0029】
不飽和基含有環状ポリオレフィンの環状ポリオレフィンが、前記水素化ブロックコポリマーである場合、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上が更に好ましい。このように高レベルの水素化は、透明性のために好ましい。
前記水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0030】
<不飽和基含有環状ポリオレフィンの製造>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、環状ポリオレフィン(a)を熱減成処理することで製造することができる。
例えば、環状ポリオレフィン(a)を窒素通気下で、300~400℃で0.5~10時間、熱減成する方法がある。
【0031】
<環状ポリオレフィン(a)>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンの原料となる環状ポリオレフィン(a)は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体、又は、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体を有する水素化ブロックコポリマーである。
ここで、環状ポリオレフィンの「環状」とは、芳香族ビニルモノマー単位が有する芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0032】
芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体とは、芳香族ビニル重合体の水素化体である。
芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体としては、例えば、ポリスチレンの水素化体、スチレン/α-メチルスチレン共重合体の水素化体、スチレン/ビニルナフタレン共重合体の水素化体が挙げられる。
これらの中では、ポリスチレンの水素化体が好ましい。
【0033】
前記水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0034】
環状ポリオレフィン(a)が、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体である場合、分子構造中の芳香族環、及び、分子末端に生成し得るビニル基は水素化されている。
即ち、分子構造中には実質的にビニル基、ビニリデン基を含まないものであり、これによって熱減成前のポリマーと熱減成後のポリマーを区別することができる。
【0035】
環状ポリオレフィン(a)が、前記水素化ブロックコポリマーである場合、分子構造中の芳香族環、分子構造中の共役ジエン単位に由来するビニレン基及びビニル基、及び、分子末端に生成し得るビニル基は水素化されている。
即ち、分子構造中には実質的にビニル基、ビニリデン基を含まないものであり、これによって熱減成前のポリマーと熱減成後のポリマーを区別することができる。
【0036】
本発明で用いる環状ポリオレフィン(a)は、透明性及び材料強度の観点から、前記水素化ブロックコポリマーであることが好ましい。
【0037】
尚、「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0038】
前記芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0039】
【化1】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基である。
【0040】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されていてもよい。アルキル基の炭素数は1~6が好ましい。
前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0041】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
前記共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよい。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0044】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンによる単位を挙げることができ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンによる単位を挙げることができる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0045】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(a)に対して、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~90モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限以下であれば脆性が悪化することがない。
【0046】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(a)に対して、好ましくは1~70モル%、より好ましくは10~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限以下であれば剛性が低下することがない。
【0047】
水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0048】
水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0049】
前記水素化ブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは、例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0050】
水素化ブロックコポリマーのMwの下限は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下である。
Mwが上記下限以上であれば機械強度が低下せず、上記上限以下であれば得られる不飽和基含有環状ポリオレフィンの有機溶媒への溶解性が向上する。
本明細書のMwは、GPCの測定によって決定される。
【0051】
環状ポリオレフィン(a)が芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーの水素化体である場合、その水素化レベルとは、芳香族ビニルモノマー単位が水素化によって飽和される割合を示し、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上が更に好ましい。このように高レベルの水素化は、透明性のために好ましい。
【0052】
環状ポリオレフィン(a)が水素化ブロックコポリマーである場合、その水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
このように高レベルの水素化は、透明性を発現させるために好ましい。
【0053】
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。
前記水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0054】
環状ポリオレフィン(a)のメルトフローレート(MFR)は、通常0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.5g/10分以上である。また通常200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0055】
環状ポリオレフィン(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
環状ポリオレフィン(a)としては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0056】
<有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、有機溶媒に溶解又は懸濁させて、溶液又はスラリーとすることができ、有機溶媒と不飽和基含有環状ポリオレフィンとの混合物(有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物)を得ることができる。
ここで溶液とは、上記不飽和基含有環状ポリオレフィンが有機溶媒中に溶解した状態を表す。即ち、不飽和基含有環状ポリオレフィンが有機溶媒中に分子分散した状態を表す。
また、スラリーとは、有機溶媒中に不飽和基含有環状ポリオレフィンの粒子が混ざりこんだ懸濁体を表す。
一般にポリオレフィン類は有機溶媒への溶解性が悪く、仮に溶けてもゲル化して塗工に適さないものであるが、本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、この点で特異的な性質を示すものである。
【0057】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンが溶解し得る有機溶媒は、芳香族系の溶媒、脂肪族系の溶媒、脂環式の溶媒である。
芳香族系の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ブロモナフタレン等が挙げられ、脂肪族系の溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等が挙げられ、脂環式の溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロデカン等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、取扱い性や留去の容易さの観点から、トルエン、シクロヘキサンが好ましい。
【0058】
また、本発明の効果を阻害しない程度であれば上記以外の有機溶媒を添加することもできる。使用し得るその他の有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;フェノール、クレゾール、ナフトール等のフェノール類;エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類が挙げられる。
【0059】
上記の溶液又はスラリー中の、不飽和基含有環状ポリオレフィンの濃度としては1~30質量%が好ましい。
上記不飽和基含有環状ポリオレフィンの濃度が上記下限以上であれば、溶液粘度が適切となり塗工作業に好適である。また上記上限以下であれば、溶液粘度が適切であり、ゲル化が生じることもない。
上記の溶液又はスラリー中の不飽和基含有環状ポリオレフィンの濃度は、5~20質量%がより好ましい。
【0060】
<その他の成分>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンの溶液又はスラリーには、その機能性の更なる向上を目的として、以上で挙げたもの以外の成分を含んでいてもよい。
このようなその他の成分としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、硬化促進剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、フラックス、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
【0061】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂、スチレン/共役ジエンブロック共重合樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂が挙げられる。
また前記エラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0062】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンに添加してもよいし、不飽和基含有環状ポリオレフィンと共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
【0063】
<不飽和基含有環状ポリオレフィンの積層体>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、金属、ガラス及びプラスチック等の基材に対する接着強度が良好であり、べたつかない接着表面が得られ、金属、ガラス又はプラスチックとの積層体を得ることができる。
積層の方法は特に決まっておらず、熱プレス、溶融押出成形、インサートインジェクション成形等、公知の積層方法を用いることができる。
【0064】
また、本発明の有機溶媒-不飽和基含有環状ポリオレフィン混合物を金属等に塗工し、その後に溶媒を除去することでも積層体を得ることができる。
塗工の方法としてはバーコーター、ブレードコーター、ダイコーター、グラビアロールコーター、スプレーコート等の他、刷毛で塗工することも可能である。塗工の厚さは必要に応じて調整することができるが、通常1~100μmが好ましい。
塗工後に塗工表面より溶媒を留去することも可能である。通常はホットエアーの吹き付けによるものが好ましいが、減圧処理と加熱を組み合わせたり、同時に加圧プレスを行なうことも可能である。
【0065】
上記の積層体を得る被塗工素材である基材としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、ニッケル、亜鉛、チタン、タングステン等の金属類や合金類;ガラス板、ガラス繊維マット、ガラス繊維クロス、ガラスウール等のガラス類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン/α-オレフィン共重合体、プロピレン/α-オレフィン共重合体、エチレン/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/ビニルモノマー共重合体、ポリアミド、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVOH)等のプラスチックが挙げられる。
これらは板状、フィルム状であってもその他の形状が付与されたものでもよく、単一素材であっても複合化されていてもよく、また単層であっても積層化されたものでもよい。
【0066】
これら基材の内では、回路基板等の電子部材向けであれば銅が電気伝導性や経済性の観点で好ましく、手すりや合板用途であれば鉄やステンレスが経済性、剛性の点で好ましく、電池包装等の用途であればアルミニウムが軽量性、加工性の観点で好ましく、食品包装用途であればポリアミドやEVOHがガスバリア性発現の観点で好ましい。
【0067】
<用途>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、透明であり、有機溶媒への溶解性に優れ、金属、ガラス及びプラスチックへの接着性に優れ、またこれを含む溶液も金属、ガラス及びプラスチックへ優れた接着性を与えるという効果を奏する。
このため、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。
【0068】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィン又はこれを用いた溶液又はスラリーの用途の一例としては、銅箔積層板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板;フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤;半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板が挙げられる。
【0069】
<導電性金属層含有不飽和基含有環状ポリオレフィン積層体>
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィン、これを用いた溶液又はスラリーは、前述の電気・電子回路用積層板等の導電性金属層を含有する積層体としても好適に用いることができる。
この導電性金属層を含有する積層体は、本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンを含む層と導電性金属層とを積層したものであり、本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンを含む層と導電性金属層とを積層したものであれば、上記電気・電子回路以外に、キャパシタを有する回路等の積層体を含む。
尚、導電性金属層含有不飽和基含有環状ポリオレフィン積層体中には2種以上の不飽和基含有環状ポリオレフィンからなる層が形成されていてもよく、少なくとも1つの層において本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンが用いられていればよい。また、2種以上の導電性金属層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
尚、以下の記載において「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0071】
<分子量>
・装置 :東ソー(株)製 GPC HLC-832GPC/HT
・検出器:MIRAN社製 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
・カラム:昭和電工(株)製 AD806M/S 3本(カラムの較正は東ソー製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・測定温度:135℃
・濃度 :20mg/10mL
・注入量:0.2mL
・溶媒 :o-ジクロロベンゼン
・流速 :1.0mL/分
【0072】
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h4/p-ジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:3600
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0073】
<水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:テトラクロロエタン
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:80℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0074】
<不飽和基含有環状ポリオレフィンの不飽和基>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:テトラクロロエタン
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:80℃
【0075】
<不飽和基を有するポリプロピレンの不飽和基>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:テトラクロロエタン
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:80℃
【0076】
<ポリプロピレンのモノマー単位1,000個あたりのビニル基数>
・ビニル基数/ポリプロピレンのモノマー単位1,000個=
[((4.9~5.1ppm領域,5.7~5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値の合計)/ビニル基の水素の数)×1,000]
/[((0.2~3.0ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/ポリプロピレンのモノマー単位の水素の数=6)]
【0077】
<ポリプロピレンのモノマー単位1,000個あたりのビニリデン基数>
・ビニリデン基数/ポリプロピレンのモノマー単位1,000個=
[((4.69ppm,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値の合計)/ビニリデン基の水素の数)×1,000]
/[((0.2~3.0ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/ポリプロピレンのモノマー単位の水素の数=6)]
【0078】
<物性>
<透明性>
プレス成形にて、成形温度200~250℃にて厚さ2mm×幅50mm×長さ80mmの平板を成形した。この板を用い、JIS K7105(1981)記載の測定法に準じてヘーズを測定した。
測定したヘーズの値をもって透明性の評価とした。
ヘーズ値は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、低いほど透明性が良好である。
【0079】
<溶解性>
100mLの試験管のそれぞれに2.5g及び5gのポリマーと50mL(43.1g)のトルエンを投入し、ゴム栓で封をした。
この試験管を60℃に調整した水槽に漬け、5分毎に10秒間手で振って攪拌し、1時間かけてポリマーを溶解させ、ポリマーの5.8%トルエン溶液及び11.6%トルエン溶液を作製した。
溶液の状態を目視で確認した。完全に溶解しているものを〇とし、溶解せず沈殿するものやゲル化するものを×とした。溶解しているものが良好である。
【0080】
<溶液安定性>
上記で得られた溶液を室温(25℃)で24時間放置させた後の溶液の状態を目視で確認した。溶解しているものを〇とし、析出し沈殿するものやゲル化するものを×とした。溶解しているものが良好である。
【0081】
<接着性>
上記溶解性で〇のものに関して、60℃に調整した溶液をスポイトで1滴を、表面をアセトンで拭いて脱脂した金属板(アルミニウム板:JISH4000 A5052P 厚さ1mm×幅70mm×長さ150mm、ステンレス板:JISG4305 SUS304 BA 厚さ0.5mm×幅70mm×長さ150mm)に滴下し、溶液を厚さ50μmとなるようにワイヤーバーコーターで塗工した。
塗工面をドライヤーにて温風を10秒間吹き付けて溶媒を除去し、室温(25℃)にて15時間放置安定させた後、塗工面を3M社Scotch(登録商標)メンディングテープNo.810を張り付けた後に剥がし、塗膜の状態を観察し、接着性評価とした。
塗膜剥がれが無いものを〇とし、塗膜剥がれがあるものを×とした。塗膜剥がれが無いものは接着性が良好である。
【0082】
<原材料>
[環状ポリオレフィン(a)]
〇a-1:
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC930
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:75000
・ビニル基及びビニリデン基の合計数/モノマー単位1,000個=0
・ビニル基数/モノマー単位1,000個=0
・ビニリデン基数/モノマー単位1,000個=0
【0083】
<実施例1>
[不飽和基含有環状ポリオレフィン(A)]
・A-1:
反応容器に環状ポリオレフィンa-1 100部を窒素雰囲気下に仕込み、気相部分に窒素を供給しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、撹拌しながら360℃で70分間熱減成を行ない、A-1を得た。得られたA-1の分析結果は以下の通りであった。
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル99.5%以上
・Mw:8700
・ビニル基及びビニリデン基の合計数/モノマー単位1,000個=34
・ビニル基数/モノマー単位1,000個=0
・ビニリデン基数/モノマー単位1,000個=34
【0084】
前述の評価項目に従い、透明性、溶解性及び溶液安定性を評価した。また、溶解性の評価に用いた溶液を使用して、接着性を評価した。
結果を表1に示す。
【0085】
<比較例1>
A-1の代わりにa-1を用いること以外は実施例1と同様にして、各種評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
<比較例2>
[不飽和基を有するポリプロピレン(b)]
・b-1:
三洋化成工業(株)製 ビスコール(商標登録)660-P
b-1は分子構造中に脂環式構造を有さず、環状ポリオレフィンには該当しないポリプロピレンである。
・Mw:7000
・ビニル基及びビニリデン基の合計数/モノー単位1,000個=20
・ビニル基数/モノマー単位1,000個=0
・ビニリデン基数/モノマー単位1,000個=20
【0087】
A-1の代わりにb-1を用いること以外は実施例1と同様にして、各種評価を実施した。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
<結果>
表1より、本発明に該当する実施例1は透明性、溶解性、溶液安定性、接着性の優れたものであることがわかった。
これに対して、比較例1は分子量が高いため、溶液安定性が劣り、分子構造中に不飽和基を含まないため接着性が劣ることがわかった。
比較例2は環状ポリオレフィンではないことから、透明性及び溶解性が乏しく、塗工することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の不飽和基含有環状ポリオレフィンは、有機溶媒への溶解性、接着性、透明性が優れる。
このため、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として好適に使用できる。