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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】CNC機械加工のための適応性経路生成
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
G05B19/4093 H
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020181196
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2021072121
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】16/668,757
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【弁理士】
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】トー タン
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲朗
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-112511(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0172152(US,A1)
【文献】特開2015-105865(JP,A)
【文献】特開昭62-227727(JP,A)
【文献】特開2008-015683(JP,A)
【文献】国際公開第2018/222250(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18、4093
B23Q 15/00
G01B 5/004
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際部品形状に機械工具経路を適応化する方法であって、前記方法が、
公称加工品の表面上で機械加工作業を画定する公称工具経路を提供することと、
公称特徴点のグリッドを画定することと、
新規加工品を提供することと、
前記新規加工品上で実際特徴点のグリッドを計測することと、
プロセッサとメモリとを有するコンピュータを使用して空間マッピング関数を構成することであって、前記空間マッピング関数が前記公称特徴点のグリッドから前記実際特徴点のグリッドへの空間変換を画定する、構成することと、
前記コンピュータを使用して、前記空間マッピング関数を前記公称工具経路に適用することによって新規工具経路を計算することと、を含み、
前記公称特徴点のグリッドを画定することは、以下の規則(1)から(3)に従って行われ、
(1)前記公称特徴点の各々が、前記公称加工品の前記表面上に在り、且つ、前記公称特徴点のグリッドが、前記公称工具経路を包括するエリアをカバーし、
(2)前記公称特徴点の各々は、前記公称工具経路に重なる必要はない、及び
(3)前記公称特徴点のグリッドは、行と列の点の間にほぼ均等の距離を持つ、
前記実際特徴点のグリッドを計測することが、機械的プローブ又はレーザープローブを含むプローブを使用して前記実際特徴点を計測することを含み、
前記実際特徴点の各々は、前記プローブを、対応の個別の公称特徴点の位置に対して、前記公称特徴点のグリッドにおける局部接平面の法線方向に接近させることによって計測され、
前記新規工具経路が、前記公称工具経路との間にx、y及びz位置差及び前記公称工具経路との間にヨー、ピッチ及びロール回転差を含み、
前記ヨー、ピッチ及びロール回転差は、工具を前記実際特徴点のグリッドの各グリッド点の表面法線方向へ向けるように決定され、この場合において、前記表面法線方向は、前記実際特徴点のグリッドの中の特定のグリッド点について、前記実際特徴点のグリッドの中の隣の点の位置を使用して推定される、
方法。
【請求項2】
前記公称工具経路及び前記公称特徴点のグリッドが、コンピュータ支援設計システムにおいて画定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プローブが、前記機械加工作業を実施する工作機械の一部である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記コンピュータが、前記機械加工作業を実施する前記工作機械のコントローラである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記実際特徴点のグリッドが、前記公称特徴点のグリッドと同じ数の点の行及び列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記空間マッピング関数が、前記公称特徴点のグリッドの中の点と前記実際特徴点のグリッドの中の点との間の数学的関係を規定し、前記空間マッピング関数が、各々前記公称及び実際特徴点のグリッドの局部的エリアにおける空間マッピングを画定する1次、2次又は3次の複数の個別の関数を含み、前記個別の関数の各々が、前記グリッドの中の前記点のサブセットを入力として使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
更に、前記新規加工品に対して前記機械加工作業を実施するために工作機械によって前記新規工具経路を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記工作機械がコンピュータ制御ミル、ドリル又は旋盤である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
公称加工品の表面上で公称特徴点のグリッドを画定することと
新規加工品上で実際特徴点のグリッドを計測することと、
プロセッサとメモリとを有するコンピュータを使用して空間マッピング関数を構成することであって、前記空間マッピング関数が前記公称特徴点のグリッドから前記実際特徴点のグリッドへの空間変換を画定する、構成することと、
前記空間マッピング関数を公称工具経路に適用することによって新規工具経路を計算することと、を含み、
前記公称特徴点のグリッドを画定することは、以下の規則(1)から(3)に従って行われ、
(1)前記公称特徴点の各々が、前記公称加工品の前記表面上に在り、且つ、前記公称特徴点のグリッドが、前記公称工具経路を包括するエリアをカバーし、
(2)前記公称特徴点の各々は、前記公称工具経路に重なる必要はない、及び
(3)前記公称特徴点のグリッドは、行と列の点の間にほぼ均等の距離を持つ、
前記実際特徴点のグリッドを計測することが、機械的プローブ又はレーザープローブを含むプローブを使用して前記実際特徴点を計測することを含み、
前記実際特徴点の各々は、前記プローブを、対応の個別の公称特徴点の位置に対して、前記公称特徴点のグリッドにおける局部接平面の法線方向に接近させることによって計測され、
前記新規工具経路が、前記公称工具経路との間にx、y及びz位置差及び前記公称工具経路との間にヨー、ピッチ及びロール回転差を含み、
前記ヨー、ピッチ及びロール回転差は、工具を前記実際特徴点のグリッドの各グリッド点の表面法線方向へ向けるように決定され、この場合において、前記表面法線方向は、前記実際特徴点のグリッドの中の特定のグリッド点について、前記実際特徴点のグリッドの中の隣の点の位置を使用して推定される、
実際部品形状に機械工具経路を適応化する方法。
【請求項10】
実際部品形状に機械工具経路を適応化するためのシステムであって、前記システムが、
実際加工品上で実際特徴点のグリッドの位置を計測するように構成された計測プローブと、
プロセッサとメモリとを有するコンピュータであって、前記コンピュータが、前記計測プローブと通信して前記実際特徴点のグリッドの前記位置を受信し、前記コンピュータが、公称特徴点のグリッドから前記実際特徴点のグリッドへの空間変換を画定する空間マッピング関数を構成するように構成され、前記コンピュータが、前記空間マッピング関数を公称工具経路に適用することによって新規工具経路を計算するように構成される、コンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、前記公称特徴点のグリッドを以下の規則(1)から(3)に従って画定し、
(1)前記公称特徴点の各々が、公称加工品の表面上に在り、且つ、前記公称特徴点のグリッドが、前記公称工具経路を包括するエリアをカバーし、
(2)前記公称特徴点の各々は、前記公称工具経路に重なる必要はない、及び
(3)前記公称特徴点のグリッドは、行と列の点の間にほぼ均等の距離を持つ、
前記計測プローブは、機械的プローブ又はレーザープローブを含み、
前記実際特徴点の各々は、前記コンピュータにより、前記計測プローブを、対応の個別の公称特徴点の位置に対して、前記公称特徴点のグリッドにおける局部接平面の法線方向に接近させることによって計測され、
前記新規工具経路が、前記公称工具経路との間にx、y及びz位置差及び前記公称工具経路との間にヨー、ピッチ及びロール回転差を含み、
前記コンピュータは、前記ヨー、ピッチ及びロール回転差を、工具を前記実際特徴点のグリッドの各グリッド点の表面法線方向へ向けるように決定し、この場合において、前記表面法線方向は、前記実際特徴点のグリッドの中の特定のグリッド点について、前記実際特徴点のグリッドの中の隣の点の位置を使用して推定される、
システム。
【請求項11】
前記公称工具経路及び前記公称特徴点のグリッドが、コンピュータ支援設計システムにおいて画定されて、前記コンピュータに提供される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記実際特徴点のグリッドが、前記公称特徴点のグリッドと同じ数の点の行及び列を有する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記空間マッピング関数が、前記公称特徴点のグリッドの中の点と前記実際特徴点のグリッドの中の点との間の数学的関係を規定し、前記空間マッピング関数が、各々前記公称及び実際特徴点のグリッドの局部的エリアにおいて空間マッピングを画定する1次、2次又は3次の複数の個別の関数を含み、前記個別の関数の各々が前記グリッドの中の前記点のサブセットを入力として使用する、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記計測プローブ及び前記コンピュータが、前記実際加工品に対して機械加工作業を実施するために前記新規工具経路を使用する工作機械に組み込まれ、前記工作機械がコンピュータ制御ミル、ドリル又は旋盤である、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ数値制御(CNC)機械のために工具経路を計算する分野、特に、公称加工品形状上で特徴点のグリッドを画定し、実際加工品形状上の特徴点の位置を計測し、計測された位置と空間マッピング関数を使用してCNC機械工具経路を実際加工品形状に変換する、公称加工品形状から実際加工品形状にCNC機械工具経路を適応化するための方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ数値制御(CNC)機械(ドリル、旋盤及びフライス盤など)は、長年、部品形状を画定するコンピュータ支援設計(CAD)ファイルに基づき自動的に部品を製造するために使用されてきた。CNC機械は、確実にかつ反復的に所望の形状及び仕様に合わせて部品を製造するための精度を与え、部品を迅速に製造できる。
【0003】
但し、その性質上、CNC機械は、設計通りの公称加工品形状と対比してその切削作業を実施する。現実には、各現実の加工品は、公称設計形状とは僅かに異なる実際形状を有する。いくつかのタイプの加工品において、公称加工品形状と実際加工品形状の間の相違は重要ではない。しかし、他のタイプの加工品において、公称加工品形状と実際加工品形状との間の相違及び各個別の実際加工品形状の相違は、重要である可能性がある。
【0004】
例えば、いくつかの応用は、部品の表面に形状をミリング又はエッチングすることをCNC機械に求める。部品が鋳造又は鍛造部品である場合、表面の実際形状は部品ごとに異なる場合がある。これらの応用において、部品の表面の中へ一貫した深さで形状をエッチングするためには、表面の実際形状を知らなければならない。実際の表面形状及び輪郭を知らなければ、CNC機械は、いくつかの場所においては形状を過剰に深くエッチングし、他の場所では充分な深さまでエッチングしない可能性がある。
【0005】
上述の状況を考慮すると、各々異なる可能性のある実際加工品形状にCNC機械工具経路を適応化するための確実で正確な技法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示の教示によれば、公称加工品形状から実際加工品形状にCNC機械工具経路を適応化する方法が開示される。方法は、公称加工品形状上で特徴点のグリッドを画定することを含み、特徴点は、機械工具経路の周りのエリアを包括するが、必ずしも機械工具経路上の点を表さない。プローブが、実際加工品上の特徴点の位置を検出するために使用される。空間マッピング関数は、公称特徴点から実際特徴点への変換(関数)として計算され、関数は、新規工具経路を計算するために公称工具経路に適用される。新規工具経路は、実際加工品に対して作業するためにCNC機械によって使用される。特徴点は、曲線又は外郭線だけでなく実際加工品の加工面の三次元形状を特徴付けるために使用される。
【0007】
本出願において開示する機器及び方法の付加的特徴は、添付図面と一緒に下記の説明及び請求項から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】公称加工品形状のために設計されたCNC機械工具経路が公称加工品とは異なる形状を持つ実際加工品に適用されたときに生じることを示す。
図2】本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成の技法を示す。
図3】本開示の実施形態に従った、適応化あり又はなしの、公称部品とは異なる実際部品に適用されるCNC機械工具経路を示す。
図4】本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成の方法のフローチャートである。
図5】本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成のためのシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
CNC機械加工のための適応性経路生成のための方法及びシステムに関する本開示の実施形態に関する下記の説明は、単に代表的なものであり、開示する機器及び技法又はその応用又は使用を制限することを決して意図しない。
【0010】
コンピュータ数値制御(CNC)機械は、長年、コンピュータ支援設計(CAD)ファイル又は部品形状を画定するその他のデータに基づき部品を自動的に製造するために使用されてきた。数値的又はデジタル制御できる機械には様々なタイプがある(ドリル、旋盤及びフライス盤など)。本開示におけるCNC機械の論証は、上記のタイプの機械及び形状を表す数学モデル又はデジタルデータファイルに従って機械加工機能を果たすためにコンピュータ又はプロセッサによって自動的に制御される他のタイプの工作機械を含むことが分かるはずである。
【0011】
CNC機械は、設計に従った公称加工品形状に対して切削作業を実施する。即ち、作業を受ける部品は、例えばCADシステムにおいて画定されたいくつかの公称機械加工前形状を有し、機械工具経路は、前記公称形状に基づいて計算される。但し、現実には、現実の加工品は、公称設計形状とは僅かに異なる可能性のある実際形状を有する。いくつかのタイプの加工品において、公称と実際加工品形状の間の相違は、重要ではない。但し、他のタイプの加工品において、公称と実際加工品形状の間の相違及び各個別の実際加工品形状の間の相違は重要である可能性がある。
【0012】
図1は、公称加工品形状のために設計されたCNC機械工具経路が公称と異なる形状を持つ実際加工品に適用されたときに起こることを示す。公称加工品110は、基準又は公称形状と見なされる形状を有する。公称加工品110は、CADモデルからの設計通りの形状であるか、又は公称又は「ベンチマーク」と見なされるプロトタイプ又は製造部品の計測された形状とすることができる。実際加工品120は、公称加工品110と何らかの相違を持つ形状を有する。図1において、実際加工品120は公称加工品110と異なる断面曲率を有することが分かる。
【0013】
CNC機械の仕事が公称加工品110によって表される部品の上面にパターン112をミリング又はエッチングすることである応用について考える。又、パターン112は、公称加工品110によって表される部品の表面の中へ一貫した深さのカットを持つ必要があると考える。CNC機械は、公称加工品110の形状に基づく工具経路を使ってプログラムされる。この工具経路が実際加工品120に適用されたとき、その結果は完全には許容できないものとなり、パターン112のいくつかの部分は、浅すぎる深さであるか又は完全に実際加工品120から外れ、一方、パターン112の他の部分は切削深さが大きすぎる。実際加工品形状に適用されたとき公称加工品形状に基づくCNC工具経路が不満足となる他の多くのシナリオを想定できる。これが本開示の技法によって解決される問題である。
【0014】
他の既知の経路適応化法は、部品の周縁に沿った又は予定される工具経路に沿った点を計測し、実際部品上で計測された点にスプライン曲線を当て嵌め、その後公称部品と比較して実際部品の輪郭を推定してオフセットに基づいて工具経路を補正しようとする。但し、これらの技法は、面ではなく曲線の補間法に基づくので、部品の作業面全体を包括的に考慮しない。更に、これらの技法は、上質なスプライン曲線を画定するためには工具経路の長さに沿って多数の特徴点を必要とする。
【0015】
図2は、本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成のための技法を示す。図2において、卵は、加工品(成型又は鋳造部品など)の比喩として使用される。図2のシナリオは、パターンが卵の殻の外面にミリングされる、と言うものである。卵の殻を破らないようにするためには、パターンは非常に浅く一貫した深さでミリングされなければならない。各卵のサイズ及び形状は多少変化するので、CNC機械工具経路を1個の「公称」卵に基づいて画定してこれを他の全ての卵に申し分なく適用できないことは明白である。それに引き換え、本開示の技法に従えば、機械工具経路は、公称卵上で計測された特徴点のグリッドに対して画定され、その後、各実際卵上で計測された特徴点の対応するグリッドを使用して、各実際卵のために調整済み工具経路を計算できるようにする空間マッピング関数を計算する。卵の殻に機械加工することは単なる例に過ぎない。開示する技法は、この具体的例を越える部品機械加工の全般的事例に適用できる。
【0016】
公称加工品210は、指定される又は理論上のサイズ及び形状を有する部品を表し、ステップ1において示される。公称工具経路212は、公称加工品210の形状に対して画定される。公称工具経路212は、既定の形状又はパターン(この実施例において、特定のサイズのFの字)を持ち、任意の適切な又は好ましい特徴(公称加工品210の表面の中へのカットの一貫した深さ、カットの可変的深さ及び/又は表面法線方向条件など)を有する。公称特徴点のグリッド214は、公称加工品210の表面上で、公称工具経路212を取り囲むエリアに画定される。公称特徴点のグリッド214の中の個々の特徴点は、公称工具経路212に重なる必要はない。必要なのは、公称特徴点のグリッド214が公称工具経路212を含む又は包括するエリアを画定することだけである。公称特徴点のグリッド214は、所望の機械加工の精度を得るために適する任意の寸法を持つことができる。図2に示す実施例においては、6x8ポイントのグリッドが使用される。但し、公称特徴点のグリッド214は、正方形、長方形又は公称工具経路212に適切に当て嵌まるその他の適切な形状とすることができる。公称特徴点のグリッド214は、行及び列の点の間にほぼ均等の距離を持って、かなり均等に離間することが好ましい。ステップ2及び3において、公称特徴点のグリッド214及び公称工具経路212は、実際加工品に適用するために下行のプロセスステップに与えられる。
【0017】
新規加工品220(ステップ4)は、工作機械の作業を実際に受ける部品である。新規加工品220は、公称加工品210と僅かに異なる形状を持つ。したがって、新規工具経路222が、新規加工品220のために計算されなければならない。プローブ230は、ステップ5において、新規加工品220上で実際特徴点のグリッド224を計測するために使用される。プローブ230は、任意の適切な点位置計測機器(機械的プローブ、レーザープローブ又はその他のタイプ)とすることができる。プローブ230は、CNC機械の一部とすることができる。プローブ230は、実際特徴点のグリッド224の中の個別の各実際特徴点の三次元位置を計測する。実際特徴点のグリッド224の全体位置は、任意の適切な手段(新規加工品220の2つの端部及び2つの側縁に対して確立された位置を持つコーナーグリッド点又は中心グリッド点、又は新規加工品220上の最高点に位置する中心グリッド点など)によって確立できる。新規加工品220は、プローブ計測時に固定装置に保持される。実際特徴点のグリッド224を計測するためのルールは、適宜確立できる(プローブ230は、公称特徴点の既知のグリッド214において局部接平面に対して法線方向に個別の各グリッド点に接近しなければならない、など)。
【0018】
実際特徴点のグリッド224が計測された後、実際特徴点のグリッド224を公称特徴点のグリッド214に関係付けるマッピング関数fが、ステップ6において構成される。言い換えると、関数fは、公称特徴点214の各々に適用されるfが実際特徴点のグリッド224における対応点に等しい又はこれに近いように、2組の点を空間において位置整合する(register)ために構成される。関数fは、第1表面パッチ(公称特徴点のグリッド214)と第2表面パッチ(実際特徴点のグリッド224)との間の数学的関係を説明する任意の適切な空間マッピング関数とすることができる。例えば、関数fは、各々公称/実際特徴点のグリッドの局部的エリアにおいて空間マッピングを画定するいくつかの1次、2次又は3次関数の組合せとすることができ、個々の1次、2次又は3次関数の各々は、グリッドの中の点のサブセットを入力として使用する。
【0019】
計算後、新規工具経路222を得るために公称工具経路212に関数fが適用される(ステップ7)。公称工具経路212及び新規工具経路222の両方が、概略的に三次元形状であることが分かるはずである。即ち、公称工具経路212の文字Fは図においては二次元のように見えるが、実際には公称加工品210の表面形状に合わせるために曲げられたり巻かれたりする。同様に、新規工具経路222は、新規加工品220の表面形状に合わせるために巻かれる。更に、公称工具経路212及び新規工具経路222は、新規工具経路222の対応する点を得るために公称工具経路212の各点を関数fの中に差し込めるように、離散点セットとしてモデル化される。新規工具経路222が関数fを使用して計算された後、CNC機械は、新規工具経路222を使用して新規加工品220に対する機械加工作業を実施する。このプロセスのステップ4~7は、各新規実際加工品に対して反復される。
【0020】
いくつかの実施形態において、関数fが新規工具経路222を得るために公称工具経路212に適用されたとき、新規工具経路222は、位置(x、y、z)だけでなく、工具向き角度(ヨー、ピッチ及びロール又はW、P、R回転)も含む。工具向き角度の差は、機械加工エリアの表面法線を画定し、工具の振動/ガタガタ(と言う音)を抑制するため及びその他の理由で重要である可能性がある。向き角度を測定するための1つの技法は、実際特徴点のグリッド224の中の隣の点の位置を使用して、特定のグリッド点について表面接平面及び表面法線方向を推定することである。実際特徴点のグリッド224の中の各点の表面法線方向は、その後、新規工具経路222に適用でき、CNC工作機械を、新規工具経路222の各点の表面法線方向へ向けることができる。
【0021】
図3は、適応化なし及び本開示の実施形態に従った適応化ありの、公称部品とは異なる実際部品に適用されたCNC機械工具経路を示す。図2のステップ1の公称工具経路212及び公称特徴点のグリッド214を持つ公称加工品210を、図3の左に示す。図3の右側には、新規加工品220の一部分を拡大して示す。右上に、公称工具経路212及び公称特徴点のグリッド214が重ねられた新規加工品220を示す。即ち、特徴点のグリッド及び工具経路は、新規加工品220の形状にまだ適応化されていない。適応化なしでは、公称工具経路212及び公称特徴点のグリッド214の両方は、新規加工品220の表面から離れることが分かる。CNC機械が公称工具経路212を使用して新規加工品220に対して作業を行おうとすれば、作業のほとんどについて工具-加工品接触の存在がないことは明らかである。これが、まさしく本開示の技法が解決しようとする問題である。
【0022】
図3の右下に示すのは、新規工具経路222及び実際特徴点のグリッド224が重ねられた新規加工品220である。即ち、特徴点のグリッド及び工具経路は、新規加工品220の形状に適応化されている。本開示に従って適応化されると、新規工具経路222及び実際特徴点のグリッド224の両方が、新規加工品220の表面を忠実に辿ることが分かる。CNC機械が新規工具経路222を使用して新規加工品に対して作業するとき、工具は、作業全体を通じて新規加工品220の表面と接触したままであり、機械加工作業は、工具経路全体に対して所望の結果(カットの深さなど)を与える。新規加工品220に適切に当て嵌まる新規工具経路222は、表面仕上げの質を向上させ、工具の振動を減少する。
【0023】
上で開示した適応性工具経路生成法は、あらゆるタイプの公称-実際部品形状の相違に充分に対処することが立証された。これらの相違としては、2つの部品が同じ特徴的形状を持つが、異なる曲率を持つ(即ち、卵の例)、1つの部品が凹面形状を持ち、他方の部品が凸面形状を持つ、一方の部品と他方の部品との間で凹面領域及び凸面領域(窪みとこぶ)の数が異なる、工具経路のエリアにおける公称部品と実際部品の表面の間の形状のその他のタイプの任意の相違がある、などを含む。開示する適応性工具経路生成法は、単に外郭線又は単一の経路だけでなく表面全体を特徴付けるために点のグリッドが使用されるので、これらのタイプの部品間の形状の相違の全てを処理できる。
【0024】
図4は、本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成の方法のフローチャート400である。枠402において、公称工具経路と一緒に公称加工品が与えられる。公称工具経路は、公称加工品に対して所望の作業を実施するように設計される。枠404において、公称特徴点のグリッドが、公称工具経路を取り囲むエリアについて公称加工品の表面上で画定される。枠402及び404の活動について、図2のステップ1~3に図示し、これに関する論証において説明した。
【0025】
枠406において、図2のステップ4に示すような新規加工品が与えられ、新規加工品は、CNC機械の作業を受ける予定の実際部品である。枠408において、図2のステップ5に示し該当の論証において説明するように、実際特徴点のグリッドがプローブによって新規加工部品上で計測される。枠410において、空間マッピング関数fが構成される。図2のステップ6に関する論証において説明するように、空間マッピング関数fは、公称特徴点のグリッド(枠404から)に適用されたとき、実際特徴点のグリッド(枠408から)を生じる関数である。枠412において、空間マッピング関数fを公称工具経路に適用することによって新規工具経路が計算される。新規工具経路は、新規加工品に対する機械加工作業を実施するために、CNC機械によって使用される。フローチャート400のプロセスは、枠406へ戻り、ここで、別の新規加工品が与えられる。公称加工品形状、公称工具経路及び公称特徴点のグリッドは、全ての新規/実際加工品のための基準線として使用される。
【0026】
図5は、本開示の実施形態に従ったCNC機械加工のための適応性経路生成のためのシステム500の概略図である。システム500は、少なくとも1つのコンピュータ、コントローラ又はサーバー(コンピュータ502によって代表される)を含む。コンピュータ502は、プロセッサ及びメモリ504を含み、データを受信し保存し、計算を実施し、任意に工作機械を制御できる。メモリ504は、前述のように公称加工品に関するデータ(図2のステップ1~3に示す公称経路及び公称特徴点のグリッドを含めて)を含む。公称加工品に関するデータは、CADシステムまたは3Dモデリングシステムなど別のコンピュータからコンピュータ502のメモリ504へ与えることができる。
【0027】
システム500は、又、図2に示し前に論じたプローブ230を含む。プローブ230は、機械的プローブ、レーザープローブ又は実際/新規加工品上で複数の特徴点を計測できるその他の機器とすることができる。プローブ230は、コンピュータ502と通信して、前記の点が計測された後に実際特徴点のグリッドを画定するデータを提供する。コンピュータ502は、公称特徴点のグリッド及び実際特徴点のグリッドに基づいて空間マッピング関数fの計算又は構成を実施する。コンピュータ502は、又、空間マッピング関数fを公称工具経路に適用することによって新規工具経路を計算する。
【0028】
システム500は、又、コンピュータ502から新規工具経路を受信し実際/新規加工品に対して機械加工作業を実施するCNC機械506を含むことができる。CNC機械506それ自体は、本開示の適応性経路生成手順に要求される部分ではなく、適応性経路生成の出力を受信する。上述のように、CNC機械506は、任意のタイプのCNC機械(ドリル、旋盤又はフライス盤など)又は工具経路を画定するモデル又はデータファイルに従って機械加工機能を果たすためにコンピュータ又はプロセッサによって自動的に制御されるその他の任意のタイプの工作機械とすることができる。実際には、プローブ230は、CNC機械506の一部とすることができ、コンピュータ502はCNC機械506のコントローラとすることができる。
【0029】
いくつかの実現形態において、コンピュータ502は、ネットワーク上(有線又は無線)で計算する複数のコンピュータとすることができる。当業者には分かるように、いくつかの計算機能(公称加工品を説明するCADデータの提供、プローブ230の制御、空間マッピング関数fの計算、新規工具経路を計算するためのfの使用、及びCNC機械506の制御を含む)は、本出願に開示する技法の範囲または性質を変更することなく1つ又は複数の計算機器の任意の組合せによって実施できる。これらの機器は、汎用コンピュータ、特別仕立てコントローラ又はプロセッサ又は目的に適したその他の任意の計算機器とすることができる。上記の好ましい実施形態において、コンピュータ502は、CNC機械コントローラである。即ち、公称加工品を説明するデータが、CNC機械コントローラに提供され、プローブ230は、CNC機械506の一部であり、その計測データをコントローラに与え、CNC機械コントローラは空間マッピング関数fを計算し、fを使用して新規工具経路を計算する。
【0030】
上述のように、CNC機械加工のための開示する適応性経路生成のための技法は、部品間の相違が重要である又は機械加工作業が部品形状の小さい変化に対しても敏感である応用における機械加工作業の性能を改良する。
【0031】
CNC機械加工のための適応性経路生成のための方法及びシステムの多数の代表的形態及び実施形態について上で論じたが、当業者には、その修正、置換、付加及び部分組合せが分かるだろう。従って、以下の請求項は、これらの全ての修正、置換、付加及び部分組合せをその真の主旨及び範囲内にあるものとして含むものと解釈される。
図1
図2
図3
図4
図5