(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】収納装置、露光装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20241122BHJP
G03F 1/66 20120101ALI20241122BHJP
H01L 21/673 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
G03F1/66
H01L21/68 T
(21)【出願番号】P 2020208629
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 康平
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-249286(JP,A)
【文献】国際公開第2002/021583(WO,A1)
【文献】特開2003-228163(JP,A)
【文献】特表2015-531546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンが形成されたパターン面を含む原版を収納する収納装置であって、
前記原版を収納する収納空間を規定するチャンバと、
前記原版の前記パターン面とは反対側の第1面に沿った第1気流、及び、前記パターン面から離間して設けられて前記パターン面を保護する保護部材の前記パターン面の側とは反対側の第2面に沿った第2気流の少なくとも一方の気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第1供給部と、
前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流に干渉する第3気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第2供給部と、
前記第2供給部から吹き出される気体の吹出方向に
対面し、前記第2供給部によって形成された前記第3気流を受けるための受面を含む部材と、
を有し、
前記第1供給部は、前記原版を搬送するための搬送口を基準として
前記収納空間の奥側に配置され、
前記第2供給部は、前記搬送口を基準として前記収納空間の手前側に配置され
、
前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流は、前記収納空間の奥側から前記収納空間の手前側に向かう気流であることを特徴とする収納装置。
【請求項2】
前記第2供給部は、前記第3気流として、前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流にあたる気流が形成されるように、気体を吹き出して供給することを特徴とする請求項
1に記載の収納装置。
【請求項3】
前記部材は、前記受面が前記パターン面に直交する方向において前記第2面よりも下方に位置するように配置されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の収納装置。
【請求項4】
前記部材は、前記パターン面に直交する方向において前記受面と前記第2供給部の気体の吹出口との間の距離が10mm以上500mm以下となるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至
3のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項5】
前記受面は、前記保護部材の前記第2面に対して、前記第2面に沿った方向において、前記第2面から外側に0mm以上300mm以下の範囲で延在していることを特徴とする請求項1乃至
4のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項6】
前記第1供給部は、前記第1気流及び前記第2気流が形成されるように、気体を吹き出して供給し、
前記第3気流の流量は、前記第1気流の流量と前記第2気流の流量との和よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至
5のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項7】
前記受面は、前記第2供給部の側に突出した凸部を含むことを特徴とする請求項1乃至
6のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項8】
前記第1供給部は、前記第1気流のみが形成されるように、気体を吹き出して供給し、
前記保護部材の前記第2面に対向して設けられ、前記第2面に向けて気体を吹き出して供給する第3供給部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の収納装置。
【請求項9】
前記部材に設けられ、前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流に干渉し、且つ、前記第2供給部によって形成された前記第3気流に対向する第4気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第4供給部を更に有することを特徴とする請求項1乃至
8のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項10】
前記収納装置は、前記原版を複数収納し、
前記第2供給部及び前記部材は、前記原版のそれぞれに対して設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項11】
前記気体は、湿度が1%以下の気体を含むことを特徴とする請求項1乃至10のうちいずれか1項に記載の収納装置。
【請求項12】
前記第1供給部は、前記収納空間に前記原版が収納される位置よりも、前記収納空間の奥側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の収納装置。
【請求項13】
基板を露光する露光装置であって、
パターンが形成されたパターン面を含む原版を収納する収納部と、
前記収納部から搬送された前記原版を保持する原版保持部と、
前記原版保持部に保持された前記原版のパターンを前記基板に投影する投影光学系と、を有し、
前記収納部は、
前記原版を収納する収納空間を規定するチャンバと、
前記原版の前記パターン面とは反対側の第1面に沿った第1気流、及び、前記パターン面から離間して設けられて前記パターン面を保護する保護部材の前記パターン面の側とは反対側の第2面に沿った第2気流の少なくとも一方の気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第1供給部と、
前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流に干渉する第3気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第2供給部と、
前記第2供給部から吹き出される気体の吹出方向に
対面し、前記第2供給部によって形成された前記第3気流を受けるための受面を含む部材と、
を有し、
前記第1供給部は、前記原版を搬送するための搬送口を基準として
前記収納空間の奥側に配置され、
前記第2供給部は、前記搬送口を基準として前記収納空間の手前側に配置され、
前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流は、前記収納空間の奥側から前記収納空間の手前側に向かう気流であることを特徴とする露光装置。
【請求項14】
請求項
13に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納装置、露光装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示素子の製造工程(リソグラフィ工程)では、原版(マスク又はレチクル)のパターンを、レジスト材が配置された基板(ウエハ)に投影して基板上にパターンを転写(形成)する露光装置が用いられている。露光装置では、原版のパターンを基板上に投影する際、即ち、基板の露光時に、原版上に異物などが存在していると、かかる異物がパターンとともに基板上に転写されて欠陥(不良)の原因となる。
【0003】
そこで、原版には、一般的に、原版のパターン面(パターンが形成されている面)に異物が付着することを防止するために、ペリクルと称される保護部材が設けられている。ペリクルには、例えば、合成樹脂からなる膜状のものがある。ペリクルは、ペリクル支持枠を介して、原版のパターン面から所定の距離だけオフセットして支持されている。これにより、異物は、原版のパターン面から所定の距離だけオフセットされたペリクル膜に付着するため、露光時に基板上で焦点を結ばず、照度むらとして現れるに過ぎない。このように、原版にペリクルを設けることによって、露光時における異物の影響を低減することができる。
【0004】
また、露光装置では、半導体素子の微細化に対応して高解像度を実現するために、露光波長の短波長化が進んでいる。現在では、露光波長は、KrFエキシマレーザの248nmや真空紫外域に属するArFエキシマレーザの193nmが主流となっているが、ArFエキシマレーザのような短波長(高エネルギー)を光源とする露光装置では、原版の曇りが問題となる。具体的には、まず、原版の表面や雰囲気中に存在する酸と塩基との反応、或いは、有機不純物の光化学反応に起因して、原版に曇りの種となる物質が形成される。そして、水分の介在と紫外線の照射(露光のエネルギー)によって曇りの種が凝集し、欠陥の原因となるサイズの曇りに成長する。
【0005】
原版の曇りに対しては、原版の保管環境及び搬送環境から、曇りの原因物質である揮発性不純物(主に、SOx、NH3、有機物)や曇りの生成物質である水分を除去(低湿度化)することが、原版の曇りを包括的に抑制する効果的な対策とされている。このような対策の一例として、原版の周囲環境にクリーンドライエア(CDA)などのガスを供給してガスパージする、即ち、原版の周囲環境をパージガスで置換する技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
また、原版の曇りは、ペリクル膜内に存在する水分によっても形成される。但し、ペリクル膜内が低湿度環境にさらされても、ペリクル膜内が低湿度に置換されるまでには時間を要する。従って、原版の保管庫などの保管環境をガスパージすることは、ペリクル膜内の低湿度化に有効であり、原版の曇りを抑制するのに効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-249286号公報
【文献】特許第4585514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では、原版の保管環境などの周囲環境を低湿度化するために、大量(大流量)のパージガスが必要になるという課題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、原版の収納空間を低湿度化するのに有利な収納装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、パターンが形成されたパターン面を含む原版を収納する収納装置に係り、前記収納装置は、前記原版を収納する収納空間を規定するチャンバと、前記原版の前記パターン面とは反対側の第1面に沿った第1気流、及び、前記パターン面から離間して設けられて前記パターン面を保護する保護部材の前記パターン面の側とは反対側の第2面に沿った第2気流の少なくとも一方の気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第1供給部と、前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流に干渉する第3気流が形成されるように、気体を吹き出して供給する第2供給部と、前記第2供給部から吹き出される気体の吹出方向に対面し、前記第2供給部によって形成された前記第3気流を受けるための受面を含む部材と、を有し、前記第1供給部は、前記原版を搬送するための搬送口を基準として前記収納空間の奥側に配置され、前記第2供給部は、前記搬送口を基準として前記収納空間の手前側に配置され、前記第1供給部によって形成された前記少なくとも一方の気流は、前記収納空間の奥側から前記収納空間の手前側に向かう気流である。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、原版の収納空間を低湿度化するのに有利な収納装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図2】第1気流の流量と、第2気流の流量と、第3気流の流量との関係を説明するための図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図5】本発明の第1実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図6】本発明の第1実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図8】本発明の第3実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図9】本発明の第4実施形態における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図10】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【
図11】従来技術における収納装置の構成を示す概略図である。
【
図12】従来技術における収納装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
まず、本実施形態を説明する前に、原版を収納(保管)する収納装置(保管庫)に関する従来技術について説明する。
【0016】
図11は、特許文献1に開示されている収納装置1000の構成を示す概略図である。収納装置1000は、パターンが形成されたパターン面を含む原版91を収納する収納空間(原版91の周囲環境)を一方向からガスパージしている。具体的には、供給部94が、原版91のパターン面とは反対側の裏面92の周囲や原版91のパターン面を保護する保護部材(ペリクル)の保護面93の周囲に、ノズルを介して気体95(低湿度ガス)を流すことで、収納空間のガスパージが行われている。このように、原版91の収納空間を一方向からガスパージすると、
図11に示すように、原版91に対して下流側で渦96が発生し、原版91の周囲の高湿度雰囲気を巻き込むため、収納空間を低湿度化することができないという課題がある。
【0017】
図12は、特許文献2に開示されている収納装置2000の構成を示す概略図である。収納装置2000は、パターンが形成されたパターン面を含む原版101を収納する収納空間110をガスパージしている。具体的には、収納装置2000では、原版101の収納空間110の開口側から内側に向けて気体104(低湿度ガス)を流し、かかる気体104は、収納空間110(の内側)をパージしてから開口側に流れる。この際、気体104は、原版101のパターン面とは反対側の裏面102の周囲や原版101のパターン面を保護する保護部材(ペリクル)の保護面103の周囲を流れる。なお、
図12では、原版101の収納空間110の内側から開口側に流れる気体104の流れを示している。また、収納装置2000には、原版101の収納空間110の開口側(原版101に対して下流側)の上方に、下方に向けて、ノズルを介して気体106(低湿度ガス)を吹き出してエアカーテンを形成する供給部105が設けられている。更に、収納装置2000には、原版101の収納空間110を規定するチャンバ108に設けられた開口を閉じて、収納空間110を密閉空間にする開閉機構109が設けられている。
【0018】
このような収納装置2000では、開閉機構109によって収納空間110を密閉空間にしてガスパージしない場合、原版101に対して下流側で渦107が発生し、原版101の周囲の高湿度雰囲気を巻き込むため、収納空間110を低湿度化することができない。原版101の収納空間110を低湿度化するためには、渦107が発生する領域を狭めて周囲の高湿度雰囲気の巻き込みを低減しなければならない。そこで、供給部105によって、原版101の裏面102の周囲や保護部材の保護面103の周囲に流れる気体104の流れを遮断するようなエアカーテンを形成することが考えられる。但し、このようなエアカーテンを形成するためには、大量(大流量)の気体106が必要になるという課題がある。
【0019】
以下、各実施形態において、原版の収納空間を低湿度化するのに有利な収納装置について説明する。
【0020】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態における収納装置1Aの構成を示す概略図である。収納装置1Aは、収納チャンバ(不図示)によって規定される収納空間ASにおいて、パターンが形成されたパターン面14を含む原版11を収納(保管)する。
【0021】
原版11は、例えば、収納チャンバに設けられた保持溝や保持部材を介して、収納空間ASで保持されている。原版11には、原版11のパターン面14に異物が付着することを防止するために、ペリクルと称される保護部材12が設けられている。保護部材12は、支持枠12aを介して、原版11のパターン面14から所定の距離だけ離間(オフセット)して支持されている。
【0022】
収納装置1Aには、原版11を収納する収納空間AS(原版11の周囲環境)を一方向からガスパージするために、第1供給部13(ノズル)が設けられている。第1供給部13は、原版11のパターン面14とは反対側の裏面15(第1面)の周囲や保護部材12のパターン面14の側とは反対側の保護面16(第2面)の周囲に気体を供給して、かかる気体で収納空間ASを置換する。具体的には、第1供給部13は、原版11の裏面15に沿った(即ち、裏面15の周囲を流れる)第1気流17、及び、保護部材12の保護面16に沿った(即ち、保護面16の周囲を流れる)第2気流18の少なくとも一方の気流を形成する機能を有する。本実施形態では、第1供給部13は、第1気流17及び第2気流18の両方の気流が形成されるように、収納空間ASに対して、気体を吹き出して供給する。このように、第1供給部13は、収納空間ASの奥側から収納空間ASの手前側に向かう一方向の気流(第1気流17及び第2気流18)を形成する。なお、第1供給部13は、第1気流17と第2気流18とを1つのノズルで形成してもよいし、第1気流17及び第2気流18のそれぞれを別のノズル(2つのノズル)で形成してもよい。第1気流17及び第2気流18のそれぞれを別のノズルで形成することで、第1気流17の流量と第2気流18の流量とを個別に制御(設定)することが可能となる。
【0023】
また、収納装置1Aには、収納チャンバに設けられた開口側、具体的には、収納装置1Aと外部との間で原版11を搬送するための搬送口CPの側の上方に、第2供給部21が設けられている。第2供給部21は、搬送口CPと外部とを遮断するためのエアカーテンを形成する。具体的には、第2供給部21は、第1供給部13によって形成された第1気流17及び第2気流18の少なくとも一方の気流に干渉する第3気流19が形成されるように、気体を吹き出して供給する。本実施形態では、第2供給部21は、第1供給部13によって形成された第1気流17及び第2気流18の両方の気流にあたる(交差する)第3気流19が形成されるように、下方に向けて、気体を吹き出して供給する。
【0024】
図1に示すように、収納装置1Aでは、第1供給部13は、搬送口CPを基準として収納空間ASの奥側に配置され、第2供給部21は、搬送口CPを基準として収納空間ASの手前側に配置されている。また、収納空間ASに収納された原版11を基準とすれば、第1供給部13は、原版11の一方の側(-Y方向)に配置され、第2供給部13は、原版11の他方の側(+Y方向)に配置されている。このような配置によって、収納装置1Aでは、収納空間ASを一方向からガスパージすることを可能としている。
【0025】
第1供給部13及び第2供給部21から供給する気体(パージガス)としては、例えば、クリーンドライエア(CDA)が挙げられる。CDAは、原版11の曇り生成物質である水分(水蒸気)を含む割合が通常の空気に比べて極端に低く、本実施形態では、その湿度が1%以下の気体である。また、第1供給部13及び第2供給部21から供給する気体は、水分を含む割合が少ない不活性ガス、例えば、窒素(N2)であってもよい。湿度が1%以下のCDAで収納空間ASをパージすることで、原版11の周囲環境の湿度を、例えば、1.5%以下の低湿度にすることが可能であり、原版11の曇りの発生を抑制することができる。
【0026】
なお、原版11の周囲環境の湿度を目標湿度以下にすることができれば、第1供給部13から供給する気体と第2供給部21から供給する気体とが異なっていてもよい。換言すれば、第3気流19を形成する気体が第1気流17及び第2気流18を形成する気体と別の気体であってもよい。但し、装置構成の複雑化の観点から、第1供給部13から供給する気体と第2供給部21から供給する気体とは同じ気体であることが好ましい。
【0027】
更に、収納装置1Aには、第2供給部21に対向して、壁部材20が設けられている。壁部材20は、第2供給部21から吹き出される気体の吹出方向BDに交差し、第2供給部21によって形成された第3気流19を受けるための受面20aを含む部材である。具体的には、受面20aが、保護部材12の保護面16に対して、Y方向(保護面16に沿った方向)において、保護面16から外側に0mm以上300mm以下の範囲で延在するように、壁部材20を構成する。壁部材20は、収納空間ASを規定する収納チャンバの一部として構成されていてもよいし、収納チャンバとは別に構成されていてもよい。
【0028】
収納装置1Aにおいても、上述したように、第1気流17及び第2気流18に起因して、原版11に対して下流側で渦22が発生する。但し、本実施形態では、第2供給部21によって形成される第3気流19と壁部材20とで第1気流17及び第2気流18を挟み込むことで、渦22が発生する領域(発生領域)を狭めることができる。従って、原版11の周囲の高湿度雰囲気の巻き込みを低減し、収納空間ASを低湿度化することができる。また、第2供給部21と壁部材20との間のZ方向(原版11のパターン面14に直交する方向)の距離は、渦22の発生領域を狭める観点から、短い方が好ましい。具体的には、壁部材20は、Z方向において、受面20aと第2供給部21の気体の吹出口との間の距離が10mm以上500mm以下となるように配置されているとよい。
【0029】
ここで、
図2を参照して、第1気流17の流量Q1と、第2気流18の流量Q2と、第3気流19の流量Q3との関係について説明する。
図2では、第3気流19の流量Q3が第1気流17の流量Q1と第2気流18の流量Q2との和(第1気流17と第2気流18の総流量)以上である場合、即ち、Q3≧Q1+Q2である場合における原版11の周辺での気体の流れを示している。この場合、
図2に示すように、第3気流19が壁部材20の受面20aにあたることで、その一部が原版11の側に流れる(逆流する)気流19aが発生する。これにより、原版11の周囲の高湿度雰囲気が巻き込まれて、高湿度の気体が原版11の側に向かう気流81が生成されるため、原版11の周囲環境である収納空間ASの低湿度化に不利となる。従って、第3気流19の流量Q3は、第1気流17の流量Q1と第2気流18の流量Q2との和(第1気流17と第2気流18の総流量)よりも少ないこと、即ち、Q3<Q1+Q2であることが好ましい。
【0030】
また、収納装置1Aは、
図3に示すように、収納空間ASを複数段設ける、即ち、原版11の収納棚を複数段積み重ねることで、原版11を複数収納するように構成することも可能である。なお、
図3では、収納棚を2段積み重ねているが、収納棚の段数は限定されるものではなく、3段以上の収納棚を積み重ねてもよい。
図3は、複数の原版11を収納可能な収納装置1Aの構成を示す図である。この場合、第2供給部21及び壁部材20は、複数の収納空間AS(複数の原版11)のそれぞれに対して設けられる。この際、
図3に示す収納装置1Aのように、上段の収納空間ASに設けられた壁部材20に、下段の収納空間ASに第3気流19を形成するための第2供給部21を設けてもよい。一方、第1供給部13は、複数の収納空間ASのそれぞれに対して設ける必要はなく、
図3に示すように、1つの第1供給部13によって、複数の収納空間ASのそれぞれにおける第1気流17及び第2気流18を形成してもよい。この場合、複数の収納空間ASのそれぞれに対して第1供給部13を設ける場合と比べて、装置構成の点で有利である。
【0031】
また、
図1では、壁部材20は、第2供給部21に対向する部分のみに存在している。但し、壁部材20は、
図4に示すように、原版11の裏面15や保護部材12の保護面16よりも第1供給部13の側に延在していてもよい。この場合、第2供給部21によって形成される第2気流18が壁部材20で整流される。同様に、第1気流17の整流という観点から、第2供給部21を、
図4に示すように、原版11の裏面15や保護部材12の保護面16よりも第1供給部13の側に延在させてもよい。
【0032】
図5は、
図1に示す収納装置1AのXY平面図である。第1気流17は、
図5に示すように、X方向において、原版11の裏面15よりも広い範囲で流れることが好ましい。同様に、第2気流18は、X方向において、保護部材12の保護面16よりも広い範囲で流れることが好ましい。従って、第1供給部13は、X方向において、原版11の裏面15や保護部材12の保護面16よりも広い範囲に第1気流17及び第2気流18が形成されるように、気体を吹き出して供給するとよい。また、第3気流19は、X方向において、第1気流17及び第2気流18よりも広い範囲で流れることが好ましい。従って、第2供給部21は、X方向において、第1気流17及び第2気流18よりも広い範囲に第3気流19が形成されるように、気体を吹き出して供給するとよい。
【0033】
第2供給部21(の気体の吹出口)は、Y方向において、原版11の近傍に配置されることが好ましい。これは、第2供給部21を原版11から離れた位置に配置すると、第3気流19と第1気流17及び第2気流18とが干渉する(交差する)位置が原版11から離れ、渦22の発生領域が+Y方向に広がり、収納空間ASの低湿度化に時間を要してしまうからである。
【0034】
また、上述したように、第3気流19は、壁部材20と協同して、原版11に対して下流側で第1気流17及び第2気流18を挟み込めればよい。従って、
図6に示すように、第2供給部21と壁部材20とがZ方向において対向している必要はなく、第2供給部21から吹き出される気体の吹出方向BDと受面20aとが交差するように、第2供給部21と壁部材20とを配置すればよい。第2供給部21と壁部材20とがY方向にずれていても、第2供給部21から吹き出される気体の吹出方向BDと壁部材20の受面20aとが交差していればよい。
【0035】
<第2実施形態>
図7(a)及び
図7(b)を参照して、本発明の第2実施形態における収納装置1Bについて説明する。
図7(a)は、本発明の第2実施形態における収納装置1Bの構成を示す概略図であって、
図7(b)は、
図7(a)に示す収納装置1BのXY平面図である。収納装置1Bは、収納チャンバ(不図示)によって規定される収納空間ASにおいて、パターンが形成されたパターン面14を含む原版11を収納(保管)する。収納装置1Bは、収納装置1Aと同様な構成を有するが、収納装置1Aと比較して、壁部材20の構成が異なる。
【0036】
壁部材20は、本実施形態では、受面20aにおいて、第2供給部21の側に突出した凸部41を含む。凸部41は、第2供給部21に対向し、第2供給部21から吹き出される気体の吹出方向BDに交差するように設けられている。壁部材20の受面20aに凸部41を設けることによって、第2供給部21と壁部材20との間のZ方向の距離を狭めることができる。また、凸部41の第2供給部21の側の面は、Z方向において、第2供給部21の側の面が保護部材12の保護面16よりも高い位置(+Z方向)になるようにするとよい。
【0037】
第1実施形態で説明したように、第2供給部21によって形成される第3気流19と壁部材20とによって、渦42の発生領域を狭めることができるが、本実施形態のように、凸部41を設けることによって、渦42の発生領域を更に狭めることができる。従って、原版11の周囲の高湿度雰囲気の巻き込みを低減し、収納空間ASを低湿度化することができる。このように、凸部41は、原版11の周囲環境の低湿度化に効果的である。
【0038】
また、本実施形態では、
図7(b)に示すように、原版11に対してX方向に側壁43を設けている。
図7(b)を参照するに、第1供給部13によって形成された第1気流17は、一般的に、X方向に拡散する。但し、本実施形態では、側壁43が設けられているため、第1気流17のX方向への拡散を抑制することができる。従って、本実施形態では、第1気流17を、X方向において、原版11の裏面15よりも狭い範囲で流すことが可能となる。同様に、第2気流18を、X方向において、保護部材12の保護面16よりも狭い範囲で流すことが可能となる。一方、第3気流19は、X方向において、第1気流17及び第2気流18よりも広い範囲で流れることが好ましい。
【0039】
<第3実施形態>
図8を参照して、本発明の第3実施形態における収納装置1Cについて説明する。
図8は、本発明の第3実施形態における収納装置1Cの構成を示す概略図である。収納装置1Cは、収納チャンバ(不図示)によって規定される収納空間ASにおいて、パターンが形成されたパターン面14を含む原版11を収納(保管)する。収納装置1Cは、収納装置1Aと同様な構成を有するが、収納装置1Aと比較して、第3供給部51を更に有する。なお、本実施形態では、第1供給部13は、第1気流17のみが形成されるように、気体を吹き出して供給する。
【0040】
第3供給部51は、保護部材12の保護面16に対向して設けられ、保護面16に向けて気体を吹き出して供給する。これにより、
図8に示すように、原版11の収納空間ASには、気流52が形成される。
【0041】
第3供給部51から供給する気体(パージガス)は、原版11の曇り生成物質である水分(水蒸気)を含む割合が通常の空気に比べて極端に低く、本実施形態では、その湿度が1%以下の気体である。また、第3供給部51から供給する気体は、第1供給部13から供給する気体やと第2供給部21から供給する気体と異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0042】
第1実施形態で説明したように、第2供給部21によって形成される第3気流19と壁部材20とによって、渦53の発生領域を狭めることができるが、本実施形態のように、気流52を形成することによって、渦53の発生領域を更に狭めることができる。従って、原版11の周囲の高湿度雰囲気の巻き込みを低減し、収納空間ASを低湿度化することができる。このように、保護部材12の保護面16に対して第3供給部51から気体を吹き出して気流52を形成することは、原版11の周囲環境の低湿度化に効果的である。
【0043】
なお、本実施形態では、第3供給部51を壁部材20に設けているが、これに限定されるものではない。例えば、第3供給部51は、保護部材12の保護面16の全域に向けて気体を吹き出すことができるように構成されていればよく、壁部材20とは別に、第3供給部51を設けてもよい。また、第3供給部51の気体の吹出口の形状は、スリット形状や円形状など任意の形状を選択可能である。
【0044】
<第4実施形態>
図9を参照して、本発明の第4実施形態における収納装置1Dについて説明する。
図9は、本発明の第4実施形態における収納装置1Dの構成を示す概略図である。収納装置1Dは、収納チャンバ(不図示)によって規定される収納空間ASにおいて、パターンが形成されたパターン面14を含む原版11を収納(保管)する。収納装置1Dは、収納装置1Aと同様な構成を有するが、収納装置1Aと比較して、第4供給部61を更に有する。
【0045】
第4供給部61は、第2供給部21に対向して、壁部材20に設けられている。第4供給部61は、第1供給部13によって形成された第1気流17や第2気流18に干渉し、且つ、第2供給部21によって形成された第3気流19に対向する第4気流62が形成されるように、気体を吹き出して供給する。なお、第4気流62は、X方向において、第3気流19と同程度の範囲で流れることが好ましい。
【0046】
第4供給部61から供給する気体(パージガス)は、原版11の曇り生成物質である水分(水蒸気)を含む割合が通常の空気に比べて極端に低く、本実施形態では、その湿度が1%以下の気体である。また、第4供給部61から供給する気体は、第1供給部13から供給する気体やと第2供給部21から供給する気体と異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0047】
第4気流62は、本実施形態では、第1気流17及び第2気流18に干渉する(あたる)ように形成されるため、第3実施形態と同様な効果を得ることができる。具体的には、第2供給部21によって形成される第3気流19と壁部材20とによって、渦63の発生領域を狭めることができるが、本実施形態のように、第4気流62を形成することによって、渦63の発生領域を更に狭めることができる。従って、原版11の周囲の高湿度雰囲気の巻き込みを低減し、収納空間ASを低湿度化することができる。このように、第4供給部61から気体を吹き出して第3気流19に対向する第4気流62を形成することは、原版11の周囲環境の低湿度化に効果的である。
【0048】
ここで、第1気流17の流量Q1と、第2気流18の流量Q2と、第3気流19の流量Q3と、第4気流62の流量Q4との関係について説明する。例えば、第3気流19の流量Q3と第4気流62の流量Q4との和(総流量)が、第1気流17の流量Q1と第2気流18の流量Q2との和(総流量)以上である場合、即ち、Q3+Q4≧Q1+Q2である場合を考える。この場合、第3気流19と第4気流62とがあたることで、その一部が原版11の側に流れる(逆流する)気流が発生する。これにより、原版11の周囲の高湿度雰囲気が巻き込まれて、高湿度の気体が原版11の側に向かう気流が生成されるため、原版11の周囲環境である収納空間ASの低湿度化に不利となる。従って、第3気流19の流量Q3と第4気流62の流量Q4との和は、第1気流17の流量Q1と第2気流18の流量Q2との和よりも少ないこと、即ち、Q3+Q4<Q1+Q2であることが好ましい。
【0049】
このように、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態及び第4実施形態によれば、大量(大流量)の気体(パージガス)を必要とせずに、原版11の周囲環境である収納空間ASを低湿度化するのに有利な収納装置を提供することができる。なお、第1実施形態と、第2実施形態と、第3実施形態と、第4実施形態とは、適宜組み合わせることが可能である。
【0050】
以下、
図10を参照して、原版を収納する収納部として収納装置1Aが適用された露光装置について説明する。なお、ここでは、収納装置1Aを露光装置に適用しているが、収納装置1B、1C又は1Dを露光装置に適用することも可能である。
図10は、本発明の一側面としての露光装置505の構成を示す概略図である。
【0051】
露光装置505は、半導体素子や液晶表示素子などのデバイスの製造工程であるリソグラフィ工程に採用され、基板にパターンを形成するリソグラフィ装置である。露光装置505は、原版を介して基板を露光して、原版のパターンを基板に転写する。露光装置505には、ステップ・アンド・スキャン方式、ステップ・アンド・リピート方式、その他の露光方式を採用することができる。
【0052】
露光装置505は、
図10に示すように、照明光学系501と、原版を保持して移動する原版ステージ502(原版保持部)と、投影光学系503と、基板を保持して移動する基板ステージ504と、収納装置1Aとを有する。
【0053】
照明光学系501は、光源からの光で、原版ステージ502に保持された原版11を照明する。照明光学系501は、レンズ、ミラー、オプティカルインテグレータ、絞りなどを含む。なお、光源には、例えば、波長約193nmのArFエキシマレーザ、波長約248nmのKrFエキシマレーザ、波長約157nmのF2レーザ、YAGレーザなどのレーザを用いることができる。光源に用いられるレーザの個数は、限定されるものではない。光源にレーザが用いられる場合、照明光学系501は、レーザ光(平行光)を所望の形状に整形する整形光学系やコヒーレントなレーザ光をインコヒーレント化するインコヒーレント化光学系を含むとよい。また、光源はレーザに限定されるものではなく、1つ又は複数の水銀ランプやキセノンランプなどのランプを用いてもよい。
【0054】
投影光学系503は、原版11のパターンを、基板ステージ504に保持された基板に投影する。投影光学系503は、複数のレンズ素子のみからなる光学系、複数のレンズ素子と少なくとも1つの凹面ミラーとを含む光学系(カタディオプトリック光学系)を用いることができる。また、投影光学系503は、複数のレンズ素子と1つのキノフォームなどの回折光学素子とを含む光学系や全ミラー型の光学系などを用いることもできる。
【0055】
収納装置1Aは、露光装置505の外部から露光装置505に搬入され、原版ステージ502に搬送される原版11を収納(保管)する。収納装置1Aは、上述したように、大量(大流量)の気体(パージガス)を必要とせずに、原版11の周囲環境である収納空間ASを低湿度化することができる。従って、収納装置1Aから原版ステージ502に搬送され、原版ステージ502に保持された原版11は、露光時において、曇りの発生が抑制される。これにより、露光装置505は、半導体素子や液晶表示素子などのデバイスの製造工程であるリソグラフィ工程において、従来よりも高品位のデバイスを低コストで製造することができる。
【0056】
本発明の実施形態における物品の製造方法は、例えば、デバイス(半導体素子、磁気記憶媒体、液晶表示素子など)などの物品を製造するのに好適である。かかる製造方法は、露光装置505を用いて、感光剤が塗布された基板を露光する(パターンを基板に形成する)工程と、露光された基板を現像する(基板を処理する)工程を含む。また、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。なお、上述した物品の製造方法は、インプリント装置や描画装置などのリソグラフィ装置を用いて行ってもよい。
【0057】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0058】
1A、1B、1C、1D:収納装置 11:原版 14:パターン面 15:裏面 12:保護部材 16:保護面 17:第1気流 18:第2気流 19:第3気流 20:壁部材 20a:受面 21:第2供給部 22:渦