(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 31/048 20140101AFI20241122BHJP
【FI】
H01L31/04 560
(21)【出願番号】P 2021000927
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】赤池 哲
(72)【発明者】
【氏名】山村 昌敬
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-199450(JP,A)
【文献】特開2012-099818(JP,A)
【文献】特表2020-518103(JP,A)
【文献】特開2016-119339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/056
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が第1及び第2の主面を有する複数の太陽電池セルで構成された複数の太陽電池ストリングと、
前記複数の太陽電池セルの前記第1の主面側に配置された、
平面視形状が長方形または正方形の板状である第1の保護部材と、
前記複数の太陽電池セルの前記第2の主面側に配置された、
平面視形状が長方形または正方形の板状である第2の保護部材と、
前記第1の保護部材と前記第2の保護部材との間において前記複数の太陽電池ストリングを封止している第1の封止材と、
前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の周縁部に対応して、前記第1の封止材の外方に配置される第2の封止材と、を有し、
前記第2の封止材は前記第1の封止材と比べ、ラミネート施工時の加熱温度での弾性率が高
く、
前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の周縁部の一部が、前記第2の封止材を有さず、
前記第2の封止材は、前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の前記周縁部のうちで、平面視で対向する二辺側にのみ配置されることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記第2の封止材は前記第1の封止材と比べ、80~120℃時の弾性率が高いことを特徴とする、請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記第2の封止材はUV吸収剤を含むことを特徴とする、請求項1
または2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記第2の封止材は濃色を呈することを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状である2枚の保護部材で複数の太陽電池ストリングを樹脂材料で封止して形成された太陽電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池ストリングを2枚の保護部材である平板状のガラスで挟んだ上、樹脂材料で封止することにより、高い信頼性を有する太陽電池モジュールを得ることができる。その一例として、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
一方、この構成の太陽電池モジュールでは、2枚のガラスにより太陽電池ストリングが封止された封止体における、平面視での周縁部が、ラミネート工程(例えば特許文献1の
図3参照)におけるプレス圧を受け、平面視での中央部に比べて大きく押しつぶされることによって薄くなることが懸念される。この状態では、周縁部の2枚のガラスは、外縁に向かうにつれ双方が近づくように湾曲してしまっている。なお、封止体が四角形である場合、この現象は四隅において顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽電池モジュールにおいて、前記原因により過度に薄くなってしまった部位は、太陽電池モジュールの現場設置後において、湾曲したガラスが元の形状(平板状)に戻ろうとする挙動により、封止樹脂がガラスから剥がれてしまったり、封止樹脂に亀裂が発生したりする可能性があって問題である。
【0006】
そこで本発明は、ラミネート工程で周縁部が押しつぶされることを抑制できる太陽電池モジュールの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、各々が第1及び第2の主面を有する複数の太陽電池セルで構成された複数の太陽電池ストリングと、前記複数の太陽電池セルの前記第1の主面側に配置された、板状である第1の保護部材と、前記複数の太陽電池セルの前記第2の主面側に配置された、板状である第2の保護部材と、前記第1の保護部材と前記第2の保護部材との間において前記複数の太陽電池ストリングを封止している第1の封止材と、前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の周縁部に対応して、前記第1の封止材の外方に配置される第2の封止材と、を有し、前記第2の封止材は前記第1の封止材と比べ、ラミネート施工時の加熱温度での弾性率が高いことを特徴とする太陽電池モジュールである。
【0008】
また、前記第2の封止材は前記第1の封止材と比べ、80~120℃時の弾性率が高いものとできる。
【0009】
これらの構成によれば、封止体の中央側に配置した第1の封止材よりもラミネート施工時の加熱温度での弾性率が高い第2の封止材を封止体の周縁部に配置することで、ラミネート施工時のプレス圧に第2の封止材が対抗できる。
【0010】
また、前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の周縁部の一部が、前記第2の封止材を有さないものとできる。
【0011】
また、前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の平面視形状が長方形または正方形であり、前記第2の封止材は、前記第1の保護部材及び前記第2の保護部材の前記周縁部のうちで、平面視で対向する二辺側にのみ配置されるものとできる。
【0012】
これらの構成によれば、第2の封止材で第1の封止材が全周囲まれないようにできるので、ラミネート施工時において、第1の封止材の脱気が阻害されにくい。
【0013】
また、前記第2の封止材はUV吸収剤を含むことができる。
【0014】
この構成によれば、封止体の周縁部に配置される第2の封止材にUV耐性が高いものを用いることで、周縁部において第2の封止材が第1の保護部材及び第2の保護部材から剥がれてしまうことを効果的に抑制できる。
【0015】
また、前記第2の封止材は濃色を呈することができる。
【0016】
この構成によれば、第2の封止材に濃色のものを用いることで、太陽電池セルが発熱した際に第2の封止材が熱を吸収するので、太陽電池モジュールにおいて周縁部と中央部との温度差が発生しにくいことから、封止体に亀裂が生じにくい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ラミネート施工時のプレス圧に第2の封止材が対抗できる。よって、ラミネート工程で周縁部が押しつぶされることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の封止体を構成する各部を概略的に示す分解斜視図である。
【
図2】前記封止体の内部構成を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明につき、一実施形態を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。
【0020】
本実施形態の太陽電池モジュール(図示していない)のうち、フレームや電気配線を除いたものであって、2枚の保護部材(ガラス)に挟まれたひと固まりの物体を封止体1として説明する。この封止体1は、例えば
図1及び
図2に示すように構成され、主に、太陽電池ストリング2、第1の保護部材3、第2の保護部材4、第1の封止材5、第2の封止材6を有する。
【0021】
太陽電池ストリング2は、各々が第1及び第2の主面を有する複数(本実施形態では2枚)の太陽電池セル21,21が電気的に接続されて構成されたものである。第1の主面は、太陽光線が主に当たる受光面に対応し、第2の主面は裏面に対応する。本実施形態の封止体1には、太陽電池ストリング2が複数(本実施形態では3組)、電気的に接続された状態で配置される。
【0022】
第1の保護部材3は、複数の太陽電池セル21の第1の主面側に配置されている。第2の保護部材4は、複数の太陽電池セル21の第2の主面側に配置されている。本実施形態の各保護部材3,4は、板状(平板状)とされた強化ガラスである。各保護部材3,4の平面視形状は長方形または正方形である。本実施形態では正方形とされている。各保護部材3,4の厚みは、例えば1.5~3.2mmの範囲で設定できる。本実施形態では2.5mmとされている。第1保護部材及び第2保護部材の一辺の寸法は、例えば200~1500mmの範囲で設定できる。本実施形態では300mmとされている。
【0023】
第1の封止材5は、熱可塑性の樹脂材料から形成され、ラミネート施工前の状態がシート状とされている。第1の封止材5は、第1の保護部材3と第2の保護部材4との間において複数の太陽電池ストリング2を封止する。第1の封止材5は、複数の太陽電池セル21の第1の主面側と第2の主面側のそれぞれに配置されている。このため、複数の太陽電池ストリング2は、2枚の第1の封止材5によって挟み込まれる。第1の封止材5の厚みは、2枚の積層状態の総厚みで、例えば1~3mmで設定できる。本実施形態では1.5mmとされている。
【0024】
第2の封止材6は、熱可塑性の樹脂材料から形成され、ラミネート施工前の状態がシート状とされている。第2の封止材6は、第1の保護部材3及び第2の保護部材4の周縁部に対応して、第1の封止材5の外方(周縁部に近い方向)に配置されている。第2の封止材6の厚みは、第1の封止材5と同様に、2枚の積層状態の総厚みで、例えば1~3mmで設定できる。本実施形態では1.5mmとされている。
【0025】
第2の封止材6の幅寸法は、ラミネート工程における、厚み方向にかかるプレス圧を受けても厚みを保つことができる寸法であって、かつ、太陽電池ストリング2(太陽電池セル21)による発電に関して有効発電エリアを損なわない範囲で設定する。具体的には、4~20mmで設定できる。本実施形態では7~8mmとされている。
【0026】
第2の封止材6は第1の封止材5と比べ、ラミネート施工時の加熱温度での弾性率が高い。第2の封止材6は第1の封止材5と比べ、80~120℃時の弾性率が高い。弾性率は、例えば、JIS K 6394に規定の貯蔵弾性率で評価できる。また例えば、ずり弾性率等、種々の弾性率で評価できる。
【0027】
各封止材の材質に関し、第1の封止材5は、本実施形態では、ポリオレフィンエラストマー(POE)が用いられている。第1の封止材5はこの他、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いることができる。第2の封止材6は、本実施形態では、アイオノマーが用いられている。第2の封止材6はこの他、例えば、ポリオレフィンエラストマー(POE)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)のうち、第1の封止材5と比較し高弾性率であるものを用いることができる。
【0028】
第2の封止材6は、第1の保護部材3及び第2の保護部材4の周縁部の全部(本実施形態の形状では、四辺の全て)に設けられることができる。しかし、第1の保護部材3及び第2の保護部材4の周縁部の一部が、第2の封止材6を有さないものであってもよい。本実施形態では、第2の封止材6は、第1の保護部材3及び第2の保護部材4の周縁部のうちで、平面視で対向する二辺側(
図1上の上側と下側、
図2上の左側と右側)にのみ配置されている。ここで、第1の封止材5に比べて融点が高いことから、第2の封止材6は、第1の封止材5の軟化時の脱気を阻害する可能性がある。そこで、前記の位置関係で第2の封止材6を設けることにより、第2の封止材6で第1の封止材5が全周囲まれないようにできる(つまり、気体の逃げ道ができる)ので、ラミネート施工時において、軟化した第1の封止材5からの脱気が阻害されにくいことから、第1の封止材5の硬化後に気泡が残留しにくい。本実施形態のように二辺側にのみ配置する場合であって、封止体1の平面視形状が長方形である場合、第2の封止材6は長辺側に配置することが好ましい。また、第2の封止材6を辺の全長に沿って配置することに限られず、断続的に設けることもできる。
【0029】
ここで、ラミネートによる封止体1の形成は、例えば特許文献1の
図3に示すような方法により実施される。簡単に説明すると、気圧を低下させられる(真空引き可能な)閉鎖空間内において、表面が発熱する台の上面に、太陽電池ストリング2、第1の保護部材3、第2の保護部材4、第1の封止材5、第2の封止材6が厚さ方向に重ね合わされた集合体を配置する。その状態で、集合体の上方から、上側に位置する方の保護部材3,4に面接触するようにプレスがなされる。加熱により各封止材5,6が軟化し、集合体の重ね合わせ方向へのプレス圧により一体化した封止体1が形成される。なお、軟化した各封止材5,6からはガスが発生するが、真空引きにより脱気される。
【0030】
本実施形態の封止体1では、封止体1の中央側に配置した第1の封止材5よりもラミネート施工時の加熱温度での弾性率が高い第2の封止材6を封止体1の周縁部に配置することで、ラミネート施工時のプレス圧に第2の封止材6が対抗できる。このため、封止体1における平面視での周縁部(
図2における左右両端部)が、ラミネート工程におけるプレス圧を受けても、平面視での中央部(
図2における左右中央部)に比べて大きく押しつぶされることによって薄くなることがない。よって、従来のような、太陽電池モジュールの現場設置後において、封止材がガラスから剥がれてしまったり、封止材に亀裂が発生したりする可能性を大きく低減できる。
【0031】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0032】
例えば、第2の封止材6はUV吸収剤を含むものであってよい。これにより、第2の封止材6につきUV耐性を高められる。封止体1の周縁部に配置される第2の封止材6にUV耐性が高いものを用いることで、周縁部において第2の封止材6が第1の保護部材3及び第2の保護部材4から剥がれてしまうことを効果的に抑制できる。
【0033】
また、第2の封止材6は濃色を呈するものであってよい。例えば黒色とすることができる。このように、第2の封止材6に濃色のものを用いることで、太陽電池セル21が発熱した際に第2の封止材6が熱を吸収するので、太陽電池モジュールにおいて周縁部と中央部との温度差が発生しにくいことから、封止体1に亀裂が生じにくい。
【0034】
また、前記実施形態では、封止材として第1の封止材5と第2の封止材6の2種を使用したが、3種以上を使用することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 封止体
2 太陽電池ストリング
21 太陽電池セル
3 第1の保護部材
4 第2の保護部材
5 第1の封止材
6 第2の封止材