(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】インクジェット記録媒体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/52 20060101AFI20241122BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B41M5/52 110
B32B27/00 K
(21)【出願番号】P 2021052216
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 美子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】大関 崇史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 実
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321047(JP,A)
【文献】特開平10-175368(JP,A)
【文献】特開2011-113088(JP,A)
【文献】特開2007-168160(JP,A)
【文献】特開2007-069414(JP,A)
【文献】特開2004-127135(JP,A)
【文献】特表2022-532391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0126765(US,A1)
【文献】特開2013-184452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、溶剤吸収層、及び顔料定着層がこの順に積層されており、
前記溶剤吸収層は、親水性樹脂を含有しており、
前記顔料定着層は、第1の無機粒子、及びバインダー樹脂を含有しており、かつ
前記バインダー樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂、及びアクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの架橋重合体を含
んでおり、
前記ウレタンアクリレートにおける、分子量1000当たりのアクリル基の数は、5~10である、
インクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記親水性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂である、請求項
1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記溶剤吸収層は、第2の無機粒子を更に含有している、請求項1
又は2のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記溶剤吸収層の質量に対する前記第2の無機粒子の質量は、0質量%超40質量%以下である、請求項
3に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記第1の無機粒子の平均一次粒子径は、0.1μm~20.0μmである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記顔料定着層の質量に対する前記第1の無機粒子の質量は、20質量%~60質量%以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項7】
前記顔料定着層の厚みは、3.0μm~50.0μmである、請求項1~
6のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項8】
前記顔料定着層における、前記非結晶性ポリエステル樹脂と前記ウレタンアクリレートの架橋重合体との合計に対する前記ウレタンアクリレートの架橋重合体の割合は、10質量%~30質量%である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項9】
前記基材層が不透明基材層である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インクジェット方式によるプリンタに用いられる記録媒体として、インク受容層が、顔料インク内の溶媒を吸収することのできる溶媒吸収層の上に、顔料を担持することのできる顔料定着層を有することを特徴とする、顔料インク用インクジェット記録媒体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録媒体の実用において、耐水性及び耐擦過性の向上が求められている。高い耐水性は、水分に接する環境下、例えば屋外におけるインクジェット記録媒体の適用に有利である。高い耐擦過性もまた、例えば屋外におけるインクジェット記録媒体の適用に有利である。
【0005】
特許文献1が開示するような、基材層、溶剤吸収層、及び顔料定着層がこの順に積層されているインクジェット記録媒体に対してインクジェットプリントを行うと、インク中の顔料は顔料定着層に保持され、インク中の溶剤は、溶剤吸収層に吸収される。
【0006】
上記のような構成を有するインクジェット記録媒体の耐水性及び耐擦過性を向上させることが求められている。
【0007】
したがって、本発明は、高い耐水性及び高い耐擦過性を有するインクジェット記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
基材層、溶剤吸収層、及び顔料定着層がこの順に積層されており、
前記溶剤吸収層は、親水性樹脂を含有しており、
前記顔料定着層は、第1の無機粒子、及びバインダー樹脂を含有しており、かつ
前記バインダー樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂、及びアクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの架橋重合体を含む、
インクジェット記録媒体。
《態様2》
前記ウレタンアクリレートにおける、分子量1000当たりのアクリル基の数は、5~10である、態様1に記載のインクジェット記録媒体。
《態様3》
前記親水性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂である、態様1又は2に記載のインクジェット記録媒体。
《態様4》
前記溶剤吸収層は、第2の無機粒子を更に含有している、態様1~3のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
《態様5》
前記溶剤吸収層の質量に対する前記第2の無機粒子の質量は、0質量%超40質量%以下である、態様4に記載のインクジェット記録媒体。
《態様6》
前記第1の無機粒子の平均一次粒子径は、0.1μm~20.0μmである、態様1~5のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
《態様7》
前記顔料定着層の質量に対する前記第1の無機粒子の質量は、20質量%~60質量%以下である、態様1~6のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
《態様8》
前記顔料定着層の厚みは、3.0μm~50.0μmである、態様1~7のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
《態様9》
前記顔料定着層における、前記非結晶性ポリエステル樹脂と前記ウレタンアクリレートの架橋重合体との合計に対する前記ウレタンアクリレートの架橋重合体の割合は、15質量%~25質量%である、態様1~8のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
《態様10》
前記基材層が不透明基材層である、態様1~9のいずれか一つに記載のインクジェット記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い耐水性及び高い耐擦過性を有するインクジェット記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体1を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体2を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
本発明のインクジェット記録媒体は、基材層、溶剤吸収層、及び顔料定着層がこの順に積層されており、溶剤吸収層は、親水性樹脂を含有しており、顔料定着層は、第1の無機粒子、及びバインダー樹脂を含有しており、かつバインダー樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂、及びアクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの架橋重合体を含む。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体1を示す模式図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に従うインクジェット記録媒体1は、基材層10、溶剤吸収層20、及び顔料定着層30がこの順に積層されている。溶剤吸収層20は、親水性樹脂を含有している。顔料定着層30は、第1の無機粒子、及びバインダー樹脂を含有している。バインダー樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂、及びアクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの架橋重合体を含んでいる。
【0015】
原理によって限定されるものではないが、本発明のインクジェット記録媒体が、高い耐水性及び高い耐擦過性を有する原理は、以下のとおりである。
【0016】
特許文献1が開示する様に、従来のインクジェット記録媒体は、顔料定着層に、無機粒子及び樹脂バインダとしてのポリビニルアルコールを含有している。
【0017】
樹脂バインダとしてポリビニルアルコールを採用した顔料定着層を有するインクジェット記録媒体は、耐水性が低い。これは、水溶性の樹脂であるポリビニルアルコールの耐水性が低いため、インクジェット記録媒体が水分に接する環境下において、ポリビニルアルコールがバインダーとして機能しにくく、第1の無機粒子が顔料定着層から脱落しやすいことによると考えられる。
【0018】
顔料定着層にウレタンアクリレートの共重合体を含有させることで、インクジェット記録媒体の耐水性及び耐擦過性を向上させることが考えられる。
【0019】
しかしながら、ウレタンアクリレートの共重合体の種類によっては、耐水性及び耐擦過性が十分に得られないことがある。ウレタンアクリレートの官能基数が少なすぎる場合に、ウレタンアクリレートの共重合体の架橋密度が十分に得られず、十分な耐水性及び耐擦過性が得られないと考えられる。
【0020】
本発明では、アクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの共重合体を採用することで、高い耐水性及び高い耐擦過性を実現した。
【0021】
また、ウレタンアクリレートの共重合体を含有する顔料定着層は、その組成によっては溶剤吸収層との密着性が不十分であり、すなわち、容易に剥離し得るため、実用に適さない場合がある。
【0022】
本発明では、アクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの共重合体に加えて、顔料定着層に樹脂バインダとしての非晶性ポリエステルを更に含有させることで、顔料定着層の溶剤吸収層との密着性を高めている。
【0023】
なお、本発明のインクジェット記録媒体は、例えばインクジェット印刷を行う任意の対象に適用することができる。本発明のインクジェット記録媒体は、例えば印刷用紙、包装体、標識、又はステッカー等であってよい。特に、本発明のインクジェット記録媒体は、高い耐水性を有することから、例えば建築物の壁や掲示板、及び乗物、例えば自動車やバイク等に適用する標識、例えばステッカー等に採用してよい。
【0024】
《顔料定着層》
顔料定着層は、第1の無機粒子、及びバインダー樹脂を含有している。
【0025】
顔料定着層は、第1の無機粒子間に形成される空隙等により、多孔質となっている。
【0026】
顔料定着層は、所望により、更に架橋剤、分散剤、及びインク定着剤等の各種添加剤を含有していることができる。
【0027】
顔料定着層の厚みは、3.0μm~50.0μmであってよい。
【0028】
顔料定着層の厚みが3.0μm以上であると、顔料定着層の空隙の数を増やすことができ、インク中の溶剤を吸収しやすく、したがって、特に高いインク速乾性が得られる。他方、顔料定着層の厚みが50.0μm以下であると、インク記録媒体全体をより薄型化することができ、加えて、顔料定着層の強度を特に高めることができる。
【0029】
顔料定着層の厚みは、3.0μm以上、4.0μm以上、5.0μm以上、又は10.0μm以上であってよく、50.0μm以下、45.0μm以下、40.0μm以下、又は30.0μm以下であってよい。
【0030】
顔料定着層の厚みは、5.0μm~30.0μmであることが特に好ましい。
【0031】
なお、顔料定着層の「厚み」とは、平均の厚みを意味している。
【0032】
〈バインダー樹脂〉
バインダー樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂、及びアクリル基の数が6~15であるウレタンアクリレートの架橋重合体を含有する。
【0033】
ここで、本発明における「非晶性」とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて-100℃から300℃まで20℃/minの速度で昇温した際に明確な融解ピークを持たないことを意味する。
【0034】
ウレタンアクリレートが有するアクリル基の数が6未満であると、架橋密度が小さいため、十分な耐水性及び耐擦過性が得られない。
【0035】
ウレタンアクリレートにおける、分子量1000当たりのアクリル基の数は、5~10であることが好ましい。ウレタンアクリレートにおける、分子量1000当たりのアクリル基の数が5以上であると、架橋密度を特に高めることができる。
【0036】
ウレタンアクリレートにおける、分子量1000当たりのアクリル基の数は、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、10以下、9以下、8以下、又は7以下であってよい。
【0037】
ウレタンアクリレートの分子量は、600~5000であってよい。ウレタンアクリレートの分子量は、600以上、800以上、1000以上、又は2000以上であってよく、5000以下、4000以下、3000以下、又は2500以下であってよい。
【0038】
ウレタンアクリレートは、分子量が600~1000であり、かつアクリル基の数が5~8であるか、分子量が2000~3000であり、かつアクリル基の数が10~15であってよい。
【0039】
顔料定着層における、非結晶性ポリエステル樹脂とウレタンアクリレートの架橋重合体との合計の質量に対するウレタンアクリレートの架橋重合体の質量は、15質量%~25質量%であることが好ましい。
【0040】
非結晶性ポリエステル樹脂とウレタンアクリレートの架橋重合体との合計の質量に対するウレタンアクリレートの架橋重合体の質量が15質量%以上である場合、特に高い耐水性及び耐擦過性が得られる。他方、非結晶性ポリエステル樹脂とウレタンアクリレートの架橋重合体との合計の質量に対するウレタンアクリレートの架橋重合体の質量が25質量%以下であると、顔料定着層の溶剤吸収層に対する密着性を更に向上させることができる。
【0041】
非結晶性ポリエステル樹脂とウレタンアクリレートの架橋重合体との合計の質量に対するウレタンアクリレートの架橋重合体の質量は、15質量%以上、16質量%以上、18質量%以上、又は19質量%以上であってよく、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、又は22質量%以下であってよい。
【0042】
第1の無機粒子及びバインダー樹脂の合計の質量に対するバインダー樹脂の質量は、50質量%以上80質量%以下であってよい。
【0043】
第1の無機粒子及びバインダー樹脂の合計の質量に対するバインダー樹脂の質量は、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、又は65質量%以上であってよく、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、又は65質量%以下であってよい。
【0044】
〈第1の無機粒子〉
第1の無機粒子は、顔料定着層に空隙を形成させることができ、当該空隙にインク中の顔料を受容させること、例えば吸収及び/又は保持させることができる任意の無機粒子を採用することができる。
【0045】
第1の無機粒子は、例えばシリカ、タルク、カオリン、クレー、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、及びこれらの混合物等を使用することができる。
【0046】
第1の無機粒子は、シリカ粒子であることが特に好ましい。
【0047】
第1の無機粒子の平均一次時粒子径は、0.1μm~20.0μmであることが好ましい。
【0048】
第1の無機粒子の平均一次粒子径は、0.1μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、又は1.5μm以上であってよく、20.0μm以下、10.0μm以下、5.0μm以下、又は3.0μm以下であってよい。第1の無機粒子の平均一次粒子径は、0.1μm~5.0μmであることが特に好ましい。
【0049】
なお、平均一次粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)、例えばTitan Cubed G2 60-300(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子の最大となる対角線を測定、または丸みを帯びている場合は長軸(長方向の接線)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値をいう。
【0050】
顔料定着層の質量に対する第1の無機粒子の質量は、20質量%~60質量%であることが好ましい。
【0051】
顔料定着層の質量に対する第1の無機粒子の質量が20質量%以上であると、顔料定着層の空隙の量を適度に大きくすることができる。そのため、特に高いインク速乾性が得られる。他方、顔料定着層の質量に対する第1の無機粒子の質量が60質量%以下であると、顔料定着層の強度を特に高めることができる。
【0052】
顔料定着層の質量に対する第1の無機粒子の質量は、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、又は35質量%以上であってよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、又は45質量%以下であってよい。顔料定着層の質量に対する第1の無機粒子の質量は、25質量%~55質量%であることが特に好ましい。
【0053】
《溶剤吸収層》
溶剤吸収層は、親水性樹脂を含有している。
【0054】
溶剤吸収層は、インクジェット記録媒体に対してインクジェット印刷を行った際に、インク中に含まれる顔料を分散させている溶剤を、吸収/吸着する。溶剤吸収層において、親水性樹脂は、溶剤を吸収/吸着して膨潤する。
【0055】
溶剤吸収層の強度を増加させる観点から、溶剤吸収層は、第2の無機粒子を含有していることが好ましい。
【0056】
また、溶剤吸収層は、所望により、架橋剤、分散剤、及びインク定着剤等の各種添加剤を含有していることができる。
【0057】
溶媒吸収層の厚みは、0.1μm~10.0μmであってよい。
【0058】
溶剤吸収層の厚みが0.1μm以上であると、親水性樹脂がインク中の溶剤をより吸収しやすく、したがって、特に高いインク速乾性が得られる。他方、溶剤吸収層の厚みが10.0μm以下であると、インク記録媒体全体をより薄型化することができる。更には、溶剤吸収層の側面からの水分の吸収を抑制することができるため、インクジェット記録媒体耐水性をより高めることができる。加えて、溶剤吸収層の強度を特に高めることができる。
【0059】
溶剤吸収層の厚みは、0.1μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、又は5.0μm以上であってよく、10.0μm以下、9.0μm以下、8.0μm以下、又は7.0μm以下であってよい。溶剤吸収層の厚みは、1.0μm~8.0μmであることが特に好ましい。
【0060】
〈親水性樹脂〉
親水性樹脂は、インクジェット記録媒体に対してインクジェット印刷を行った際に、インク中に含まれる、顔料を分散させている溶剤を、吸収/吸着して、膨潤する。
【0061】
親水性樹脂は、インクジェット記録媒体の溶剤吸収層に用いることができる任意の親水性樹脂を採用することができる。
【0062】
親水性樹脂は、例えばポリビニルアルコール系樹脂であってよい。ここで、「ポリビニルアルコール系樹脂」とは、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコールの誘導体、例えばポリビニルアルコールにアルデヒドを反応させてアセタール化して得られるポリビニルアセタール等を挙げることができる。
【0063】
ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ベンズアセタール化ポリビニルアルコールであってよい。
【0064】
〈第2の無機粒子〉
第2の無機粒子は、溶剤吸収層の強度を増加させることができる。
【0065】
第2の無機粒子は、例えばシリカ、タルク、カオリン、クレー、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、及びこれらの混合物等を使用することができる。第2の無機粒子は、シリカ、特にコロイダルシリカ粒子であることが好ましい。
【0066】
溶剤吸収層の質量に対する第2の無機粒子の質量は、0質量%超40質量%以下であることが好ましい。
【0067】
溶剤吸収層の質量に対する第2の無機粒子の質量が40質量%以下であると、溶剤吸収層中の親水性樹脂による溶剤の吸収効率を維持しつつ溶剤吸収層の強度を増加させることができる。
【0068】
溶剤吸収層の質量に対する第2の無機粒子の質量は、0質量%超、5質量%以上、10質量%以上、又は20質量%以上であってよく、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
【0069】
溶剤吸収層の質量に対する第2の無機粒子の質量は、0質量%超30質量%以下であることが特に好ましい。
【0070】
《基材層》
基材層は、溶剤吸収層及び顔料定着層がこの順に積層される基材となる層である。
【0071】
基材層は、インク受容層を積層することができる任意の材料からなる層であってよい。基材層は、紙、布、又はプラスチック等であってよい。基材層がプラスチックである場合、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレート等を採用することができる。
【0072】
基材層は、不透明基材層であってよい。なお、不透明であるとは、例えば全光線透過率が、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満であることを意味する。へーズ値は、50%以上、40%以上、30%以上、20%以上、10%以上、5%以上、又は1%以上であってよい。
【0073】
ここで、全光線透過率は、JIS K 7361に準拠して測定できる。また、ヘーズ値は、JIS K7136に準拠して測定できる。
【0074】
また、基材層は、任意の色に着色されている、有色基材層であってよい。有色基材層は、例えば白色、青色、赤色、黄色、橙色、紫色、緑色、ピンク色、茶色、銀色、灰色、黒色、又はその他の任意の色に着色されていてよい。また、基材層には任意の絵柄が印刷されていてもよく、このような印刷としては例えばオフセット印刷を挙げることができる。
【0075】
《粘着層》
本発明のインクジェット記録媒体は、溶剤吸収層及び顔料定着層が積層されている側の反対側に、粘着層が積層されていることができる。
【0076】
粘着層は、本発明のインクジェット記録媒体を他の物体に貼付するための層である。
【0077】
粘着層は、例えばアクリル系の粘着性樹脂であってよい。
【0078】
粘着層は、経年による粘着性の低下を抑制する観点から、例えば紫外線吸収剤を含有していることができる。
【0079】
図2は、本発明の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体2を示す模式図である。
【0080】
図2に示すように、本発明の第2の実施形態に従うインクジェット記録媒体2は、基材層10のうち溶剤吸収層20及び顔料定着層30が積層されている側の反対側に、粘着層40が積層されていることを除いて、
図1と同様である。
【実施例】
【0081】
《実施例1~3及び比較例1~3》
〈実施例1〉
以下のようにして、実施例1のインクジェット記録媒体を調製した。
【0082】
(溶剤吸収層の形成)
親水性樹脂としての部分ベンザール化ポリビニルアルコール(重合度:3500、ベンズアセタール化度:8mol%)の水/2-プロパノール溶液(固形分8.4質量%)に無機粒子としてのコロイダルシリカ(粒子径9nm)を混合し、次いで、ジルコニウム化合物架橋剤(固形分35質量%)を添加、撹拌させて溶剤吸収層用の塗工液を調製した。
【0083】
次いで、卓上塗工機(製品名:コントロールコーター 7000型、(株)井元製作所製)を使用し、基材層としてのポリエチレンテレフタレート(PET)系合成紙上に塗工液を塗布後、100℃で3分間オーブンで乾燥させた後、60℃で1日エージングして、基材層上に厚さ3μmの溶剤吸収層を形成した。
【0084】
なお、溶剤吸収層における部分ベンザール化ポリビニルアルコール及びコロイダルシリカの合計の質量に対する部分ベンザール化ポリビニルアルコール及びコロイダルシリカの質量は、それぞれ順に、80質量%及び20質量%であった。
【0085】
(顔料定着層の形成)
メチルエチルケトン20重量部とトルエン20重量部シクロヘキサノン20重量部との混合液に、ポリエーテル燐酸エステル(製品名:ディスパロンDA-375、固形分100質量%、楠本化成(株)製)1.05重量部を加え、これに無機粒子としてのシリカ粒子(粒子径:3μm)10.5重量部を加え、ペイントシェーカーを使用し分散させ、シリカ分散液を調製した。
【0086】
次いで、非晶性ポリエステル樹脂(分子量:3×103、水酸基価:50KOHmg/g)を、メチルエチルケトン/トルエン/シクロヘキサノンの割合が1:1:1である溶媒に溶解させ、樹脂分が65質量%の非晶性ポリエステル樹脂の溶液を調製した。この非晶性ポリエステル樹脂の溶液と、ウレタンアクリレート(分子量2300、官能基数15)を混合し、次いで上記シリカ分散液を攪拌混合し、ヘキサメチレンジイソシアネート系架橋剤(固形分100質量%)、開始剤(固形分100質量%)を添加、攪拌させて顔料定着層用の塗工液を調製した。
【0087】
次いで、溶剤吸収層表面に対して、塗工液をバーコーターにて塗布後、100℃2分間オーブンで乾燥させた後、60℃で3日間エージングして、厚さ14μmの顔料定着層を、溶剤吸収層上に形成した。
【0088】
なお、顔料定着層におけるシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの質量は、それぞれ順に、30質量%、63質量%、及び7質量%であった。
【0089】
したがって、非晶性ポリエステル樹脂及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するウレタンアクリレートの質量は10質量%であった。
【0090】
表1に、実施例1のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0091】
〈実施例2〉
顔料定着層におけるシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの質量を、それぞれ順に、30質量%、56質量%、及び14質量%としたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録媒体を調製した。
【0092】
したがって、非晶性ポリエステル樹脂及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するウレタンアクリレートの質量は20質量%であった。
【0093】
表1に、実施例2のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0094】
〈実施例3〉
顔料定着層におけるシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するシリカ粒子、非晶性ポリエステル樹脂、及びウレタンアクリレートの質量を、それぞれ順に、30質量%、49質量%、及び21質量%としたことを除いて実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録媒体を調製した。
【0095】
したがって、非晶性ポリエステル樹脂及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するウレタンアクリレートの質量は30質量%であった。
【0096】
表1に、実施例3のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0097】
〈比較例1〉
顔料定着層の形成において、非結晶性ポリエステル樹脂を用いなかったことを除いて実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット記録媒体を調製した。
【0098】
なお、顔料定着層におけるシリカ粒子及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するシリカ粒子及びウレタンアクリレートの質量は、それぞれ順に、30質量%及び70質量%であった。
【0099】
表1に、比較例1のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0100】
〈比較例2〉
顔料定着層の形成において、官能基数が15であるウレタンアクリレートに替えて、官能基数が6であるウレタンアクリレートを用いたことを除いて比較例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録媒体を調製した。
【0101】
表1に、比較例2のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0102】
〈比較例3〉
顔料定着層の形成において、ウレタンアクリレートを用いなかったことを除いて実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット記録媒体を調製した。
【0103】
表1に、比較例3のインクジェット記録媒体の構成を示す。
【0104】
〈評価〉
(耐水性)
各例のインクジェット記録媒体の顔料定着層を形成した側の表面を水を含んだガーゼで200回強く擦り、顔料定着層の剥離の程度を評価した。
【0105】
顔料定着層の剥離が生じなかったものは、高い耐水性を有していることを示す。また、顔料定着層の剥離が生じたものは、低い耐水性を有していることを示す。
【0106】
以下の表1において、顔料定着層の剥離が全く生じなかったものを「良」、顔料定着層のエッジ部分において僅かな剥離が生じたものを「並」、及び顔料定着層のエッジ部分において剥離が生じたものを「不良」と記載している。
【0107】
(耐擦過性)
鉛筆硬度試験を行い、顔料定着層の表面に形成される傷跡の程度を比較した。
【0108】
顔料定着層の表面に形成される傷跡が見られない場合や、その程度が僅かなものは、高い耐擦過性を有しているといえる。他方、顔料定着層の表面に形成される傷跡が見られるものは、耐擦過性が低いといえる。
【0109】
以下の表1において、顔料定着層の表面に鉛筆硬度「H」にて傷跡が見られなかったものを「良」、顔料定着層の表面にわずかな傷跡が見られたものを「並」、及び顔料定着層の表面に傷跡が見られたものを「不良」と記載している。
【0110】
(密着性)
セロハン(登録商標)テープを顔料定着層に貼り付けて剥がし、その際に、顔料定着層も剥離するかを確認した。
【0111】
顔料定着層が剥離することは、顔料定着層の溶剤吸収層への密着性が低いことを意味する。
【0112】
以下の表1において、顔料定着層が剥離しなかったものを「良」、顔料定着層が部分的に剥離したものを「並」、及び大部分の顔料定着層が剥がれたものを「不良」としている。
【0113】
〈結果〉
各例の構成及び評価結果を、以下の表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示すように、顔料定着層が非晶性ポリエステル樹脂及びウレタンアクリレートを含有していた実施例1~3のインクジェット記録媒体は、耐水性、耐擦過性、及び密着性のいずれも「並」又は「良」であった。中でも、非晶性ポリエステル樹脂及びウレタンアクリレートの合計の質量に対するウレタンアクリレートの質量は20質量%であった。実施例2のインクジェット記録媒体は、耐水性、耐擦過性、及び密着性のいずれも「良」であり、高い耐水性、耐擦過性、及び密着性を有していた。
【0116】
これに対して、顔料定着層が非晶性ポリエステル樹脂を含有していなかった比較例1及び2のインクジェット記録媒体は、いずれも耐水性及び耐擦過性は「良」であり、高い耐水性及び耐擦過性を有していたが、密着性は「不良」であった。すなわち、比較例1及び2のインクジェット記録媒体は、顔料定着層が溶剤吸収層から容易に剥離してしまうため、インクジェット記録媒体としての実用性に欠く。
【0117】
また、顔料定着層がウレタンアクリレートを含有していなかった比較例3のインクジェット記録媒体は、耐水性及び耐擦過性は「不良」であり、耐水性及び耐擦過性を有していなかった。
【符号の説明】
【0118】
1及び2 インクジェット記録媒体
10 基材層
20 溶剤吸収層
30 顔料定着層
40 粘着層