(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】スリットバルブ付きキャップ、及びスリットバルブ付きキャップの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 47/20 20060101AFI20241122BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B65D47/20 111
B65D47/20 BRH
B65D47/20 BRL
C08L23/08
(21)【出願番号】P 2021082721
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 光
(72)【発明者】
【氏名】蛭名 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大澤 梓
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01671894(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0014369(US,A1)
【文献】国際公開第2016/111090(WO,A1)
【文献】特開2018-070225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 47/20
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ基体と、
前記キャップ基体の口部の開口部に設けられ、容器内圧の上昇によって開口するスリットを有するスリットバルブと、
を有する、スリットバルブ付きキャップであって、
前記キャップ基体は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されており、かつ、
前記スリットバルブは、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されている
スリットバルブ付きキャップ。
【請求項2】
前記スリットバルブを構成する前記低密度ポリエチレンの割合は、前記スリットバルブを構成する前記低密度ポリエチレンと前記エチレン-ヘキセン共重合体との合計100質
量%に対して、20~80質量%である、請求項1に記載のスリットバルブ付きキャップ。
【請求項3】
前記エチレン-ヘキセン共重合体は、密度0.90g/cm
3以下、引張弾性率100MPa以下である、請求項1又は2に記載のスリットバルブ付きキャップ。
【請求項4】
前記キャップ基体は、ヒンジを介して連結された蓋体を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のスリットバルブ付きキャップ。
【請求項5】
前記キャップ基体と前記スリットバルブが、組付け固定されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のスリットバルブ付きキャップ。
【請求項6】
請求項5に記載のスリットバルブ付きキャップの製造方法であって、
ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いて前記キャップ基体及び嵌合リングを成形すること、
低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物を用いて前記スリットバルブを成形すること、及び
前記キャップ基体と前記スリットバルブとを、前記嵌合リングにより組付け固定すること
を含む、スリットバルブ付きキャップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリットバルブ付きキャップ、及びスリットバルブ付きキャップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スリットタイプのバルブ(スリットバルブ)を具備したスリットバルブ付きキャップは、ケチャップ、はちみつ、マヨネーズ等の粘稠な食品又は調味料を収納する容器の吐出具として、広く採用されている。スリットバルブ付きキャップは、通常、キャップの開口部に設置された弾性変形可能なフィルムに、十字状、放射状等のスリットが成されている構成を有する。
【0003】
スリットバルブ付きキャップが装着された容器は、常圧下では内容物は保持されるが、容器胴部を加圧して容器内圧を高めると、スリットバルブのスリットが内容物の圧力で押し開かれ、内容物が吐出される。そして、容器胴部の加圧をやめると、スリットバルブのスリットは弾性によって閉鎖され、内容物の吐出は停止される。したがって、スリットバルブ付きキャップが装着された容器は、内容物吐出時の液切れ性を向上させることができる。
【0004】
スリットバルブを構成する材料としては、弾性が適当であること、内容物と反応し難いこと等の理由から、従来からシリコーン樹脂が多用されている。一方、キャップは、ポリプロピレン(PP)製であることが多い。
【0005】
このため、一般消費者が廃棄したシリコーンバルブ付きのポリプロピレンキャップを、マテリアルリサイクルしようとした場合、粉砕・溶融・再混錬する工程においてシリコーンが異物となり、リサイクル製品の品質や外観を損なう恐れがあった。
【0006】
特許文献1には、非フッ素系エラストマーを材料とするスリットバルブを備えるスリットバルブ付き注出具が記載されており、食品衛生性に優れる点から、スチレン系、又はオレフィン系の熱可塑性エラストマーが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今、環境問題への対応の一環として、マテリアルリサイクルへの取り組みが進められているところ、スチレン系エラストマーとPPとの相溶性は必ずしも良好ではなく、一体成型品をそのまま粉砕・溶融することは、あまり良い状況ではなかった。
【0009】
また、スリットバルブの構成材料として、オレフィン系の熱可塑性エラストマーを使用する場合には、スリットを形成する際にバルブにシワやバリが発生し、加工性が問題となる場合があった。
【0010】
スリットバルブの構成材料として、ポリエチレンを使用する場合には、キャップ材料であるPPとの相溶性が良好であり、かつマテリアルリサイクルの際にブツが生じる等の問題は生じにくい。しかしながら、ポリエチレン単体では、スリットバルブが硬くなり、内容物の吐出が困難となる場合があった。
【0011】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、キャップ基体とスリットバルブとの溶融混錬時に、相溶性に優れ、マテリアルリサイクルが可能であるとともに、内容物の吐出性にも優れ、かつ、バルブのスリット加工性も良好な、スリットバルブ付きキャップ、及びスリットバルブ付きキャップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されたキャップ基体に対して、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されたスリットバルブを適用すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0013】
《態様1》
キャップ基体と、
前記キャップ基体の口部の開口部に設けられ、容器内圧の上昇によって開口するスリットを有するスリットバルブと、
を有する、スリットバルブ付きキャップであって、
前記キャップ基体は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されており、かつ、
前記スリットバルブは、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されている
スリットバルブ付きキャップ。
《態様2》
前記スリットバルブを構成する前記低密度ポリエチレンの割合は、前記スリットバルブを構成する前記低密度ポリエチレンと前記エチレン-ヘキセン共重合体との合計100質量%に対して、20~80質量%である、態様1に記載のスリットバルブ付きキャップ。
《態様3》
前記エチレン-ヘキセン共重合体は、密度0.90g/cm3以下、引張弾性率100MPa以下である、態様1又は2に記載のスリットバルブ付きキャップ。
《態様4》
前記キャップ基体は、ヒンジを介して連結された蓋体を備える、態様1~3のいずれか一態様に記載のスリットバルブ付きキャップ。
《態様5》
前記キャップ基体に前記スリットバルブが、組付け固定されている、態様1~4のいずれか一態様に記載のスリットバルブ付きキャップ。
《態様6》
態様5に記載のスリットバルブ付きキャップの製造方法であって、
ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いて前記キャップ基体及び嵌合リングを成形すること、
低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物を用いて前記スリットバルブを成形すること、及び
前記キャップ基体と前記スリットバルブとを、前記嵌合リングにより組付け固定すること
を含む、スリットバルブ付きキャップの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、キャップ基体等とスリットバルブとの溶融混錬時に、相溶性に優れ、マテリアルリサイクルが可能であるとともに、内容物の吐出性にも優れる、スリットバルブ付きキャップ、及びスリットバルブ付きキャップの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る本発明のスリットバルブ付きキャップの斜視図である。
【
図2】
図1のスリットバルブ付きキャップの蓋を閉じた正面図と、そのA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《スリットバルブ付きキャップ》
本発明のスリットバルブ付きキャップは、
キャップ基体と、
キャップ基体の口部の開口部に設けられ、容器内圧の上昇によって開口するスリットを有するスリットバルブと
を有する、スリットバルブ付きキャップであって、
前記キャップ基体は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されており、かつ、
前記スリットバルブは、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されている
スリットバルブ付きキャップである。
【0017】
キャップ基体は、ヒンジを介して連結された蓋体を備えていてもよい。また、スリットバルブ付きキャップは、キャップ基体とスリットバルブとを必須の構成要素としていればよく、その他の部品等を任意に備えていてもよい。その他の部品としては、例えば、キャップ基体とスリットバルブとを組付け固定するための嵌合リング等が挙げられる。
【0018】
以下、本発明のスリットバルブ付きキャップにおける、キャップ基体、及びその構成材料について順に説明する。次いで、スリットバルブ付きキャップの構成について説明する。
【0019】
<キャップ基体の構成材料>
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるキャップ基体は、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成される。「ポリプロピレンを主成分とする樹脂」とは、ポリプロピレンのみから成る樹脂であるか、又はポリプロピレンと他の樹脂等とを含む樹脂組成物であって、かつ、該樹脂組成物中のポリプロピレン含量が、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上である場合をいう。
【0020】
キャップ基体を構成するポリプロピレンは、プロピレンのホモポリマーであってもよいし、プロピレンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、プロピレン以外のオレフィンを好ましく使用できる。具体的には、例えば、炭素数2又は4~10のα-オレフィンを例示でき、好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、又は1-ヘキセンである。他のモノマーは、1種のみならず、2種以上が用いられていてもよい。
【0021】
ポリプロピレンが、プロピレンと他のモノマーとの共重合体である場合には、共重合の形態としては、ブロック共重合体、及びランダム共重合体、並びにこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0022】
ポリプロピレンの結晶構造は、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックのいずれであってもよい。
【0023】
キャップ基体を構成するポリプロピレンとして、特に好ましくは、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体、又はブロック共重合体であって、ポリプロピレンの結晶構造がアイソタクチックの場合である。
【0024】
キャップ基体が蓋体を備えている場合には、キャップ基体の蓋体とその他の部分とは、同種の材料から構成されていてもよいし、相異なる材料から構成されていてもよい。しかしながら、蓋体付きのキャップ基体を一工程で製造できる観点から、キャップ基体の蓋体とその他の部分とは、同種の材料から構成することが好ましい。
【0025】
キャップ基体が、ポリプロピレンと他の樹脂等を含む樹脂組成物である場合には、他の樹脂等としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に限定されるものではない。例えば、スリットバルブとキャップとを共に溶融混錬するマテリアルリサイクルの際の相溶性についても問題が生じにくいことから、オレフィン系の樹脂やエラストマーであってもよい。また、各種の添加剤を、用途に応じて配合してもよい。
【0026】
なお、本発明のスリットバルブ付きキャップが嵌合リングを備えるものであり、キャップ基体とスリットバルブとが、嵌合リングにより組付け固定されている場合には、嵌合リングは、キャップ基体と同種の材料から構成されていてもよいし、相異なる材料から構成されていてもよい。しかしながら、マテリアルリサイクルの観点からは、キャップ基体と嵌合リングとは、同種の材料から構成されていることが好ましい。
【0027】
<スリットバルブの構成材料>
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるスリットバルブは、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されている。スリットバルブは、低密度ポリエチレンとエチレン-ヘキセン共重合体とを必須の構成成分として含んでいればよく、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を任意に含んでいてもよい。
【0028】
(低密度ポリエチレン)
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるスリットバルブを構成する低密度ポリエチレン(LDPE)は、分岐鎖を含めて、メチレン基の繰返し単位を80mol%以上、90mol%以上、95mol%以上、若しくは98mol%以上含み、又は実質的にすべての繰返し単位がメチレン基である、ポリエチレンをいう。
【0029】
低密度ポリエチレンの密度は、0.930g/cm3未満であってよく、0.925g/cm3以下、又は0.923g/cm3以下であってもよく、0.870g/cm3以上、0.875g/cm3以上、0.880g/cm3以上、0.900g/cm3以上、0.910g/cm3以上、又は0.915g/cm3以上であってもよい。
【0030】
低密度ポリエチレンは、いわゆる直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であってもよく、又は長鎖若しくは短鎖の分岐構造を有していてもよい。なお、短鎖の分岐構造は、炭素原子数4~18、4~10、又は4~8のα-オレフィン、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、1-オクテン等に由来する分岐構造であってよい。
【0031】
好ましい低密度ポリエチレンの熱特性としては、特に限定されるものではないが、例えば、そのメルトマスフローレートが、温度190℃かつ荷重21.18Nの条件の下で、JIS K6922-1及び-2、並びにJIS K7210-1に準拠して測定した場合に、0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であってよく、100g/10min以下、50g/10min以下、30g/10min以下、又は20g/10min以下であってよい。
【0032】
(低密度ポリエチレンとエチレン-ヘキセン共重合体の組成)
スリットバルブを構成する低密度ポリエチレンの割合は、スリットバルブを構成する低密度ポリエチレンと、後記する、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体との合計100質量%に対して、20~80質量%としてもよい。
【0033】
低密度ポリエチレンの割合が上記範囲であれば、内容物の吐出性に優れたスリットバルブ付きキャップを実現することができる。
【0034】
スリットバルブを構成する低密度ポリエチレンの割合は、スリットバルブを構成する低密度ポリエチレンとエチレン-ヘキセン共重合体の合計100質%に対して、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上であってよく、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下であってよい。
【0035】
(エチレン-ヘキセン共重合体)
エチレン-ヘキセン共重合体は、少なくともエチレン及びヘキセン(例えば1-ヘキセン)を含むモノマー混合物の共重合体である。エチレン-ヘキセン共重合体は、エチレン及びヘキセンの共重合によって得られる2元共重合体であってもよいし、エチレン及びヘキセンの他に他のモノマーを含むモノマー混合物の共重合体によって得られる、多元共重合体であってもよい。本発明においては、エチレン及びヘキセンの他に他のモノマーを含むモノマー混合物の共重合体によって得られる、多元共重合体であることが好ましい。
【0036】
他のモノマーとしては、エチレン及びヘキセン以外のオレフィンを、好ましく使用できる。具体的には、例えば、炭素数3~5又は7~10のα-オレフィンを例示でき、好ましくは、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、又は1-オクテンである。
【0037】
エチレン-ヘキセン共重合体の共重合体の形態は、ブロック共重合体、及びランダム共重合体、並びにこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0038】
エチレン-ヘキセン共重合体は、ポリマー鎖中に、ヘキセン単位に由来する3級炭素が一定の割合で存在すると考えられ、同様にポリマー鎖中に3級炭素を多数有するポリプロピレンとの溶融混錬時の相溶性が向上されていると考えられる。
【0039】
したがって、エチレン-ヘキセン共重合体を含む組成物から構成される本発明に用いられるスリットバルブは、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されるキャップ基体等との溶融混錬時の相溶性に優れ、その結果、マテリアルリサイクルが可能になったと推察される。
【0040】
更に、エチレン-ヘキセン共重合体は、ポリマー鎖中に3級炭素が存在することにより、食品中に含まれる油分(直鎖の長鎖アルケニル基を含む長鎖脂肪酸)との親和性が低減されている。このため、エチレン-ヘキセン共重合体を含む組成物から構成される本発明に用いられるスリットバルブは、食品中の油分による膨潤が抑制されていると考えられる。
【0041】
エチレン-ヘキセン共重合体は、密度が0.90g/cm3以下であり、引張弾性率100MPa以下であってもよい。この要件は、当該エチレン-ヘキセン共重合体において、所定量のヘキセンが共重合されていることを示している。
【0042】
すなわち、上記した密度及び引っ張り弾性率を範囲とするエチレン-ヘキセン共重合体は、エチレンのホモポリマーであるポリエチレンと比較して、密度及び引張弾性率が低い。これは、エチレン-ヘキセン共重合体中で、ヘキセン単位によってエチレン連鎖が分断され、高密度かつ高引張弾性率のポリエチレン結晶を保持し得なくなったことによると考えられる。
【0043】
エチレン-ヘキセン共重合体の引張弾性率が100MPa以下と低い場合には、スリットバルブとしたときに、内容物の吐出及び液切れ性に優れる。
【0044】
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるスリットバルブを構成するエチレン-ヘキセン共重合体の密度は、0.90g/cm3以下であり、0.89g/cm3以下、又は0.88g/cm3以下であってもよい。エチレン-ヘキセン共重合体の密度は、JIS K7112に準拠して測定される値である。
【0045】
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるスリットバルブを構成するエチレン-ヘキセン共重合体の引張弾性率は、100MPa以下であり、90Mpa以下、80MPa以下、70MPa以下、60MPa以下、50MPa以下、45MPa以下、40MPa以下、35MPa以下、30MPa以下、25MPa以下、又は20MPa以下であってもよい。
【0046】
エチレン-ヘキセン共重合体の引張弾性率は、スリットバルブ材料として必要な強度及び硬度を確保する観点から、5MPa以上、又は10MPa以上であってよい。エチレン-ヘキセン共重合体の引張弾性率は、JIS K7161に準拠して、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行って得られる引張弾性率(ヤング率)である。
【0047】
(その他の材料)
本発明のスリットバルブ付きキャップにおけるスリットバルブを構成する、低密度ポリエチレンとエチレン-ヘキセン共重合体以外のその他の材料としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に限定されるものではない。
【0048】
キャップ材料や、任意に備える嵌合リングの材料であるポリプロピレンとのマテリアルリサイクルの際の相溶性について問題が生じにくいことから、オレフィン系の樹脂やエラストマーであってもよい。
【0049】
また、各種の添加剤を、用途に応じて配合してもよい。
【0050】
《スリットバルブ付きキャップの構成》
本発明のスリットバルブ付きキャップは、
キャップ基体と、
キャップ基体の口部の開口部に設けられ、容器内圧の上昇によって開口するスリットを有するスリットバルブと
を有する、スリットバルブ付きキャップであって、
キャップ基体とスリットバルブとが、それぞれ、上記の材料から構成されている。
【0051】
本発明のスリットバルブ付きキャップでは、キャップ基体とスリットバルブとは、嵌合リングにより組付け固定されていてよい。
【0052】
本発明のスリットバルブ付きキャップは、上記の要件を満たし、かつ、スリットバルブ付きキャップとしての機能を発揮し得る限り、任意の形状をとることができる。以下、本発明のスリットバルブ付きキャップの構成について、非限定的な例を示して説明する。
【0053】
図1に、本発明のスリットバルブ付きキャップの構成の一例を説明するための斜視図を示す。また、
図2(a)は、
図1のスリットバルブ付きキャップの蓋を閉じた正面図であり、
図2(b)は、
図2(a)におけるA-A線断面図である。
【0054】
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)は、キャップ基体(10)と、キャップ基体(10)の口部(12)の開口部(13)に設けられたスリットバルブ(50)と、を有する。
【0055】
キャップ基体(10)は、キャップ基体懸垂部(11)と、このキャップ基体懸垂部(11)に連結するキャップ基体上面部に保持された状態で、内容物を突出させるための開口部(13)を有する口部(12)を有している。キャップ基体(10)において、口部(12)は、キャップ基体上面部の中央に突出して形成されていてよい。
【0056】
スリットバルブ付きキャップ(100)は、キャップ基体(10)の裏面側(キャップ基体懸垂部(11)に囲繞された、図示されていない領域)で、容器口部(図示せず)と連結されて使用されることが予定されている。キャップ基体(10)の裏面側と容器口部との連結の形式は任意であり、例えば、ネジ込み式、スナップフィット式、ビヨネット式等であってよい。
【0057】
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)のキャップ基体(10)は、ヒンジ(20)を介して連結された蓋体(30)を有する。蓋体(30)は、ヒンジ(20)によって揺動して開栓及び閉栓を行うことができる。
【0058】
図1には、蓋体(30)が開状態のスリットバルブ付きキャップ(100)を示している。
図2(a)には、
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)の蓋体(30)を閉じた状態のスリットバルブ付きキャップ(100)の正面図を示している。
【0059】
蓋体(30)は、ヒンジ(20)から立ち上がる蓋懸垂部(31)と、この蓋懸垂部(31)に保持された蓋平面部(32)とを有していてよい。蓋体(30)は、閉状態のときに口部(12)とともに、密閉を形成する。例えば、蓋体(30)は、閉状態のときに口部(12)と接触して密閉を形成するための蓋密閉形成部(33)を更に有していてよい。この蓋密閉形成部(33)は、密閉を形成するために、例えば、リング、フィン、ピン、インサート、スリーブ、スカート等を有していてよい。
【0060】
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)において、キャップ基体(10)の口部(12)の開口部(13)には、スリットバルブ(50)が設けられている。このスリットバルブ(50)には、スリットが設けられており、常圧下ではスリットが閉じており、内容物は保持されるが、容器胴部(図示せず)を加圧して容器内圧を高めると、スリットバルブ(50)のスリットが内容物の圧力で押し開かれ、内容物が吐出される。また、容器胴部(図示せず)の加圧をやめると、スリットはその弾性によって閉鎖され、内容物の吐出は停止される。
【0061】
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)では、スリットバルブ(50)のスリットは、十字状であるが、スリットの形状は、内容物の吐出が可能である限り任意であり、放射状や一文字状等であってもよい。
【0062】
図2(a)は、
図1のスリットバルブ付きキャップ(100)の蓋体(30)を閉じた状態のスリットバルブ付きキャップ(100)の正面図である。
図2(b)は、
図2(a)のA-A線断面図であり、スリットバルブ付きキャップ(100)におけるキャップ基体(10)とスリットバルブ(50)との位置関係の一例を示している。
【0063】
スリットバルブ付きキャップ(100)において、スリットバルブ(50)は、キャップ基体(10)の口部(12)内側に形成された凹部に、嵌合リング(40)によって組付け固定されて、開口部(13)の全領域にわたって配置されている。具体的には、キャップ基体(10)の口部(12)の開口部(13)の裏側から、スリットバルブ(50)と嵌合リング(40)とが挿入されて、嵌合リング(40)とキャップ基体(10)の口部(12)とで、スリットバルブ(50)が挟み込まれるように組付けられている。
【0064】
スリットバルブ付きキャップ(100)におけるキャップ基体(10)とスリットバルブ(50)との位置関係は、
図2に示した態様に限定されるものではなく、これ以外の任意の態様であってもよい。また、スリットバルブ付きキャップ(100)において、キャップ基体(10)の口部(12)へのスリットバルブ(50)の係合方法は、
図2に示した態様に限定されるものではなく、スリットバルブ付きキャップにおいてスリットバルブを装着できる公知の方法であってよい。
【0065】
本発明のスリットバルブ付きキャップでは、
キャップ基体(10)が、ポリプロピレンを主成分とする樹脂から構成されていること;及び
スリットバルブ(50)が、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物から構成されていることを要件とし;更に、
キャップ基体とスリットバルブとは、組付け固定されていてよい。
【0066】
図1に示した形状スリットバルブ付きキャップの形状は、本発明の一実施形態にすぎず、本発明のスリットバルブ付きキャップの形状は、
図1に示した形状に限定されるものではない。本発明のスリットバルブ付きキャップは、スリットバルブ付きキャップとしての機能を発揮し得る限り、任意の形状をとることができる。
【0067】
《スリットバルブ付きキャップの製造方法》
本発明のスリットバルブ付きキャップは、上記の構成を有するものである限り、任意の方法で製造されてよい。例えば、以下の方法で製造されてよい。
【0068】
ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いてキャップ基体を成形すること(キャップ基体成形工程)、
ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いてバルブをキャップ基体に組み付ける際の嵌合リングを成形すること(嵌合リング成形工程)
低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物を用いてスリットバルブを成形すること(スリットバルブ成形工程)、及び
キャップ基体とスリットバルブとを、嵌合リングにより組付け固定すること(組付け工程)
を含む、スリットバルブ付きキャップの製造方法(第1の製造方法)。
【0069】
<第1の製造方法>
本発明のスリットバルブ付きキャップを製造するための第1の製造方法は、キャップ基体成形工程、嵌合リング成形工程、スリットバルブ成形工程、及び組付け工程を含む。
【0070】
(キャップ基体成形工程及び嵌合リング成形工程)
キャップ基体成形工程及び嵌合リング成形工程では、ポリプロピレンを主成分とする樹脂を用いて、キャップ基体及び嵌合リングを成形する。ポリプロピレンを主成分とする樹脂は、キャップ又は嵌合リングの所望の組成に応じて、それぞれ適宜に選択されてよい。キャップ基体及び嵌合リングは、公知の方法によって成形されてよく、例えば、射出成形、圧縮成形、真空成形、圧空成形等の適宜の成形方法によって成形されてよい。
【0071】
(スリットバルブ成形工程)
スリットバルブ成形工程では、低密度ポリエチレンと、少なくともエチレンとヘキセンとを含むモノマー混合物の共重合体であるエチレン-ヘキセン共重合体と、を含む組成物を用いてスリットバルブを成形する。低密度ポリエチレンとエチレン-ヘキセン共重合体とを含む組成物の物性等は、スリットバルブの所望の特性に応じて、適宜に選択されてよい。スリットバルブは、公知の方法によって成形されてよく、例えば、射出成形、圧縮成形、真空成形、圧空成形等の適宜の成形方法によって成形されてよい。
【0072】
(組付け工程)
組付け工程では、キャップ基体成形工程で得られたキャップ基体と、スリットバルブ成形工程で得られたスリットバルブとを、嵌合リング成形工程で得られた嵌合リングを用いて固定して、スリットバルブ付きキャップを得る。例えば、スリットバルブを嵌合リングに載置し、キャップ基体の口部の開口部の裏側からスリットバルブと嵌合リングとを挿入し、嵌合リングとキャップ基体の口部とでスリットバルブを挟み込むように組付けてよい。
【0073】
(スリットバルブのスリットの形成時期)
スリットバルブのスリットは、スリットバルブの成形と同時に形成されてよく、スリットバルブの成形後、組付け工程前に、形成されてよく、又は、組付け工程後に形成されてもよい。
【実施例】
【0074】
《実施例および比較例に用いた材料》
実施例及び比較例に用いた材料を、以下に示す。
(1)低密度ポリエチレン
・サンテック(登録商標)M6525(旭化成、MFR(190℃):28g/10min)
(2)エチレン-ヘキセン共重合体
・カーネル(登録商標)KS240T(日本ポリエチレン、MFR(190℃):2.2g/10min、密度(JIS K7112):0.880g/cm3、引張弾性率:100以下)
(3)スチレン系エラストマー
・AR-850C(アロン化成、MFR(230℃):4.0g/10min)
・AR-885C(アロン化成、MFR(230℃):10.0g/10min)
【0075】
《実施例1》
(スリットバルブ用組成物の作製)
低密度ポリエチレンであるサンテック(登録商標)M6525(旭化成、MFR(190℃):28g/10min)80質量部と、カーネル(登録商標)KS240T(日本ポリエチレン、MFR(190℃):2.2g/10min)20部とを混合し、スリットバルブ用樹脂組成物を得た。
【0076】
(スリットバルブの作製)
得られたスリットバルブ用樹脂組成物を射出成形してシートを作製し、得られたシートからφ約13mmの円形サンプル片を切り抜き、スリット長12mmの十字スリットを形成して、スリットバルブを作製した。スリット加工に際しては、サンプル片を受け治具に載置して位置決めした後、サンプル片の上方から、スリット加工刃(両面平刃、刃渡り12mm、厚み0.3mm)をサンプル片に向かって降下させ、押し込むことで、スリットを形成した。得られたスリットバルブの膜部厚みは、約300μmであった。
【0077】
《実施例2~4、比較例1~9》
表1に示す材料を用いた以外は、実施例1と同様に、スリットバルブを作製した。
【0078】
《評価》
得られたスリットバルブ用樹脂組成物、及びスリットバルブについて、以下の評価を実施した。評価結果を、表1に示す。
【0079】
(1)バルブ吐出性
ランダムポリプロピレン(r-PP)から、キャップ基体と嵌合リングを作製し、作製したスリットバルブを嵌合リングに載置し、キャップ基体の口部の開口部の裏側から、スリットバルブと嵌合リングとを挿入し、嵌合リングとキャップ基体の口部とでスリットバルブを挟み込んで組付けて、スリットバルブ付きキャップを作製した。得られたスリットバルブ付きキャップを、みそ調味料が格納された胴部となる容器にセットし、みそ調味料の吐出性を、以下の評価基準で評価した。
○:容易に吐出できる
△:少し力をかければ吐出できる
×:吐出不可
【0080】
(2)リサイクル混練性
ランダムポリプロピレン(r-PP)95質量部に対して、スリットバルブ用材料5質量部を混合・粉砕し、バンバリーミキサーにて、180℃で10分間溶融混練した。得られた混錬物約4gを、2枚の剥離PET(厚み:25μm)で挟み込み、SUS板にて、温度180℃、圧力20MPaにて、30秒の熱プレスを実施することで、シートを作製した。得られたシートの外観観察を目視にて実施し、以下の評価基準で評価した。
〇:ブツや黄変がなく、均一に混練されていた
×:ブツ又は黄変があった
【0081】
(3)切れ性(スリット加工性)
作製したスリットバルブの外観観察を目視にて実施し、以下の評価基準で評価した。
〇:問題なく切れていた
×:切れていたが、バルブにシワやバリが出ていた
【0082】
【符号の説明】
【0083】
10 キャップ基体
11 キャップ基体懸垂部
12 口部
13 開口部
20 ヒンジ
30 蓋体
31 蓋懸垂部
32 蓋平面部
33 蓋密閉形成部
40 嵌合リング
50 スリットバルブ
100 スリットバルブ付きキャップ