(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】列車制御装置及び列車制御方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/10 20220101AFI20241122BHJP
B61L 27/60 20220101ALI20241122BHJP
G06Q 50/40 20240101ALI20241122BHJP
【FI】
B61L27/10
B61L27/60
G06Q50/40
(21)【出願番号】P 2021092295
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 祥太
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基也
(72)【発明者】
【氏名】堤 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 有紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝美
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175134(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/155733(WO,A1)
【文献】特開平7-2109(JP,A)
【文献】特開平6-221015(JP,A)
【文献】特開平6-212825(JP,A)
【文献】米国特許第6135396(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/00-27/70
G06Q 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本線上に列車の留置線路を設定可能な列車制御装置であって、
転線可能な設備を有する前記本線上の区間において、留置線路を設定し、
前記留置線以外の線路を走行許可線路として設定し、
運行対象の列車(以下、「運行列車」という。)に前記走行許可線路を走行させ、
留置対象の列車(以下、「留置列車」という。)を前記留置線路に留置させる運行制限進路計画を作成する運行計画作成部を有する列車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御装置において、
前記列車制御装置は、留置路線候補抽出部を有し、
前記留置路線候補抽出部は、路線設計情報に含まれる分岐器について、2つの分岐器の番線および分岐側の向きを相互に比較し、両者が同じ番線であって、分岐側の向きが逆であり、分岐側同士が向き合っている場合に、当該分岐器に挟まれた区間を留置線路候補として抽出する
ことを特徴とする列車制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の列車制御装置において、
前記列車制御装置は、シミュレーション計算部を有し、
前記シミュレーション計算部は、前記運行計画作成部が作成した前記運行制限進路計画に基づいてシミュレーションを行い、
前記列車制御装置は、前記運行計画作成部が、前記シミュレーションにおいて列車の遅延が発生しないことが確認できた場合に、前記運行制限進路計画に従い運行列車及び留置列車を制御する
ことを特徴とする列車制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の列車制御装置において、
前記列車制御装置は、遅延時評価部と留置解除評価部を有し、
前記遅延時評価部は、遅延発生時に留置線路を解除せずに継続する場合の評価値(以下、「運行制限評価値」という。)を算出し、
前記留置解除評価部は、遅延発生時に留置線路を解除した場合の進路計画(以下、「留置解除進路計画」という。)を作成し、前記留置解除進路計画を採用した場合の評価値(以下、「留置解除評価値」という。)を算出し、
前記列車制御装置は、前記運行制限評価値と、前記留置解除評価値の比較に基づいて、前記運行制限進路計画と前記留置解除進路計画のどちらを採用するか決定することを特徴とする列車制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の列車制御装置において、
前記運行制限評価値と前記留置解除評価値は、前記運行列車の遅延時間に基づいて算出するか、又は、前記運行列車及び前記留置列車の運行により消費する電力に基づいて算出するか、又は、遅延する列車に乗車する人数に基づいて算出することを特徴とする列車制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の列車制御装置において、
前記留置解除評価部は、前記運行制限進路計画に従い列車を走行させている状況において、列車が前記運行制限進路計画を満たした走行ができないことを検知したタイミングで前記留置解除進路計画の作成を開始する
ことを特徴とする列車制御装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の列車制御装置において、
前記留置解除評価部は、前記シミュレーション計算部を用いてシミュレーションを行い、
前記シミュレーションにおいて、列車の遅延が所定時間発生しないことが確認できた場合に、留置線路から解除した線路を再び前記留置線路に切り替える運行制限進路計画を作成することを特徴とする列車制御装置。
【請求項8】
留置路線候補抽出部及び運行計画作成部を有する列車制御装置において、
前記留置路線候補抽出部は、
路線設計情報に含まれる分岐器について、2つの分岐器の番線および分岐側の向きを相互に比較し、
両者が同じ番線であって、分岐側の向きが逆であり、分岐側同士が向き合っている場合に、当該分岐器に挟まれた区間を留置線路候補として抽出し、
前記運行計画作成部は、
前記抽出した留置線路候補の中から留置線路を設定し、
前記留置線以外の線路を走行許可線路として設定し、
運行対象の列車(以下、「運行列車」という。)に前記走行許可線路を走行させ、
留置対象の列車(以下、「留置列車」という。)を前記留置線路に留置させる運行制限進路計画を作成する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の列車制御方法において、
前記列車制御装置は、シミュレーション計算部を有し、
前記シミュレーション計算部は、前記運行計画作成部が作成した前記運行制限進路計画に基づいてシミュレーションを行い、
前記運行計画作成部が、前記シミュレーションにおいて列車の遅延が発生しないことが確認できた場合に、前記運行制限進路計画に従い運行列車及び留置列車を制御する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の列車制御方法において、
前記列車制御装置は、遅延時評価部と留置解除評価部を有し、
前記遅延時評価部は、遅延発生時に留置線路を解除せずに継続する場合の評価値(以下、「運行制限評価値」という。)を算出し、
前記留置解除評価部は、遅延発生時に留置線路を解除した場合の進路計画(以下、「留置解除進路計画」という。)を作成し、前記留置解除進路計画を採用した場合の評価値(以下、「留置解除評価値」という。)を算出し、
前記列車制御装置は、前記運行制限評価値と、前記留置解除評価値の比較に基づいて、前記運行制限進路計画と前記留置解除進路計画のどちらを採用するか決定する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の列車制御方法において、
前記運行制限評価値と前記留置解除評価値は、前記運行列車の遅延時間に基づいて算出するか、又は、前記運行列車及び前記留置列車の運行により消費する電力に基づいて算出するか、又は、遅延する列車に乗車する人数に基づいて算出する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の列車制御方法において、
前記留置解除評価部は、前記運行制限進路計画に従い列車を走行させている状況において、列車が前記運行制限進路計画を満たした走行ができないことを検知したタイミングで、前記留置解除進路計画の作成を開始する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の列車制御方法において、
前記留置解除評価部は、前記シミュレーション計算部を用いてシミュレーションを行い、
前記シミュレーションにおいて、列車の遅延が所定時間発生しないことが確認できた場合には、留置線路から解除した線路を再び前記留置線路に切り替える運行制限進路計画を作成する
ことを特徴とする列車制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御装置及び列車制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の車両基地等には、車両を留置するために多くの留置線が存在しており、大規模な土地を必要としている。そして、多くの留置線の線路設備を維持するためには多大な費用を要する。このため、サステナブルな鉄道設備を構築する観点から、鉄道の運行に支障を生じない範囲内で車両を留置するための留置線の規模を抑制し、車両基地等に要する費用を抑制することが求められている。
そして、留置線を抑制するためには、その代替設備の確保とその運行計画を作成する必要がある。
【0003】
留置線の使用量を削減する運行計画を作成し、列車を制御する発明として、特許文献1がある。この公報には、列車の制御目標を表すダイヤを、列車が停車する各駅における旅客の行先およびその数を時間帯毎に示す移動需要の予測結果に応じて変更する目標ダイヤ作成装置が開示されている。目標ダイヤ作成装置は、移動需要の予測結果を表す予測需要情報に基づいて列車の混雑度を算出し、混雑度が所定の許容範囲外となる違反箇所を抽出する違反箇所抽出プログラムP01aを有する。また、目標ダイヤ作成装置は、違反箇所の混雑度が許容範囲内となるように、あるいは違反箇所の混雑度が許容範囲に近づくように、列車の行先の変更を含めて運行ダイヤを変更するダイヤ修正プログラムP01bを有する。
これらの中で、旅客の需要に応じて車両基地や留置線の各番線も統合的に管理し最適な運行計画を提案するシステムが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、留置線の利用方法も含めた運行ダイヤグラム(以下、「ダイヤ」と略称する。)を提案することで、留置線の各番線も含めた効率的な運行を可能とする。しかしながら、特許文献1においては、既存の留置線をすべて用いることを前提として制御を行っている。このため、車両基地等の留置線を削減することまでは意図されていない。さらに、列車の運行状況に応じて、本線上に新たな留置線路を設定することは想定されていない。
【0006】
本発明の目的は、列車の運行状況に応じて、本線上に一時的な留置線路を設定可能な列車制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の列車制御装置の一つは、本線上に列車の留置線路を設定可能な列車制御装置であって、転線可能な設備を有する前記本線上の区間において、留置線路を設定し、前記留置線以外の線路を走行許可線路として設定し、運行対象の列車(以下、「運行列車」という。)に前記走行許可線路を走行させ、
留置対象の列車(以下、「留置列車」という。)を前記留置線路に留置させる運行制限進路計画を作成する運行計画作成部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、列車の運行状況に応じて本線上に一時的な留置線路を設定可能な列車制御装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本線、渡線、留置線路を説明する概略図である。
【
図2】
図2は、本線、実質的な渡線、留置線路を説明する概略図である。
【
図3】
図3は、渡線が複数ある場合の留置線路候補の設定を説明する概略図である。
【
図4】
図4は、渡線が複数ある場合の留置線路候補の抽出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の第3実施形態の列車制御装置の概略構成図である。
【
図6A】
図6Aは、運行計画作成部102の処理を説明するフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、運行計画作成部102の処理を説明する他のフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、留置線路候補となる区間Xが設定されている路線における、上下方面列車の経路を模式的に示した図である。
【
図7B】
図7Bは、留置線路候補が留置路線に切り替わった後の路線における、上り方面及び下り方面の列車の経路を模式的に示した図である。
【
図8】
図8は、遅延時評価部103の処理を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、留置解除評価部104の処理を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、留置解除の際の列車運行の流れを説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
本開示において、「本線」とは、営業運行に用いる線路、つまり、乗客等を乗せた車両が走行する線路を意味する。
「留置線路」とは、一時的に車両を停めておくための本線上の線路を意味する。
「渡線」とは、近接する二つの軌道を連結するために設けられた、2組の分岐器と軌道から構成される分岐線路を意味する。通常は、上り線及び下り線の間を連結した軌道である。しかし、実質的に近接する二つの軌道を連結している軌道構造であれば、本開示における渡線に含まれるものとする。
「転線」とは、列車が上記の渡線を用いて、近接する他の軌道に移動することを意味する。
【0011】
(第1実施形態)
以下、
図1及び2を用いて第1実施形態について説明する。
図1は、本線、渡線、留置線路を説明する概略図である。
図1において、実線で表す上り線路10及び下り線路20は、営業運行に用いる線路であり、本線に該当する。
図1の区間においては渡線A、渡線Bが設けられているため、例えば、下り列車Tは、渡線A、渡線Bを用いれば、点線で示す下り列車経路50を走行許可路線とすることにより、下り線路20から、上り線路10を経て、再度下り線路20に到達することができる。このため、
図1に示すように区間Xを留置線路として留置列車を留置することができる。
【0012】
図2は、本線、実質的な渡線、留置線路を説明する概略図である。
図2においては、近接する二つの軌道を連結している実質的な渡線を用いている点で
図1の場合と異なっている。以下の説明において、上述の
図1と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0013】
図2においては、路線上にA駅、B駅、C駅が存在しており、それぞれの駅には、ホームAH1、AH2、BH1、BH2、BH3、CH1、CH2が設けられている。そして、A駅及びB駅には、上り線路10及び下り線路20から列車を引き込むための路線が設置されている。このような場合、下り列車Tは、列車を引き込むための路線を用いて、ば、点線で示す下り列車経路51を走行許可路線とすることにより、下り線路20から上り線路10を経て、再度下り線路20に到達することができる。
つまり、
図2に示すような列車を引き込むための路線は、実質的に近接する二つの軌道を連結している軌道構造となる。そして、
図2に示すように、留置線路となる区間Xは、駅間を跨って設定することもできる。
【0014】
このように、転線可能な設備を有する本線上の区間を活用して、走行許可線路と留置線路とを設定し、運行列車に走行許可線路を走行させ、留置列車を留置線路に留置させる運行制限進路計画を作成すれば、車両基地における留置線の使用を低減させることができる。
さらに、本実施形態における留置路線は、本線上の様々な区間で設けることが可能であるため、留置の需要に応じて、柔軟に設置及び解除が可能である。このため、留置線の削減にとどまらず、効率的な運行計画が作成可能となる。
【0015】
(第2実施形態)
第2実施形態は、列車制御装置が留置線候補抽出部を有する点で、第1実施形態と異なる。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0016】
<留置線候補抽出部>
まず、留置線候補抽出部の前提条件について、
図1及び
図3を用いて説明する。
図1において、渡線に使用される分岐器は、線路が分岐する側と、線路が合流する側があり、合流する側から分岐する側へ進む場合に限り転線が可能となる。
【0017】
図1の例では、列車T1は、渡線Bを経由して上り線路10に転線が可能となり、渡線Aを経由して再び下り線路20へ戻る走行は可能である。しかし、上り線路の列車T2は渡線Aを経由して上り線路10から下り線路20へ転線し、渡線Bを経由して上り線路10へ戻る走行は不可能である。
【0018】
このため、留置線路候補を抽出するためには、
図1に示すように、まず、分岐器の分岐側で挟まれる区間を抽出する。このように留置線路候補を抽出すれば、運行列車は渡線を経由し、留置線路候補を避けて走行することが可能となる。
なお、各分岐器の位置や分岐側が上り方向と下り方向のどちらを向いているかの情報は、路線設計情報から得ることが可能である。
【0019】
図1では渡線が2本のみ設定されている路線の一例を説明したが、渡線が複数ある路線の場合であっても、同じ考え方を適用して、留置線路候補を複数抽出することが可能である。
次に、
図3を用いて、渡線が複数ある場合について説明する。
図3は、渡線が複数ある場合の留置線路候補の設定を説明する概略図である。渡線が複数ある路線では、一部の区間を重複させた複数の留置線路候補を抽出することもできる。
図3に示すように、留置線路となる区間Yは渡線Cと渡線Eの分岐器の分岐側で挟まれる区間であり、留置線路となる区間Xは渡線Dと渡線Eの分岐器の分岐側で挟まれる区間である。そして、区間Xと区間Yは、渡線Dから渡線Eの間で重複して設定されている。
【0020】
次に、留置線候補抽出部の機能の一例を
図4を用いて説明する。
図4は、渡線が複数ある場合の留置線路候補の抽出方法を説明するためのフローチャートである。
留置線候補抽出部においては、路線設計情報に含まれるすべての分岐器について、2つの分岐器の番線および分岐側の向きを相互に比較する。そして、2つの分岐器が同じ番線であって、かつ、分岐側の向きが逆であり、かつ、分岐側同士が向き合っている場合に、当該分岐器に挟まれた区間を留置線路候補として抽出することとなる。
これを実施するためには、例えば、
図4に示す以下の工程を採用することができる。
【0021】
ステップ451は、路線設計情報に含まれるすべての分岐器について、分岐器の位置毎に繰り返し処理を行うループである。この処理は、路線設計情報に含まれる分岐器についてすべて行った後に処理を終了する。
【0022】
ステップ452は、ステップ451のループ処理で参照中の分岐器に対して、留置線路を構成し得る分岐器を判定するためのステップである。ステップ452においても、路線設計情報に含まれるすべての分岐器について、位置毎に繰り返し処理を行う。
具体的には、ステップ451のループ処理で参照中の分岐器の番線および分岐側の向きと、ステップ452のループ処理で参照中の分岐器の番線及び分岐側の向きを比較し、両者が同じ番線、分岐側の向きが逆、分岐側同士が向き合っている場合にステップ454へ進み、それ以外の場合はステップ452のループ処理へ戻る。
ステップ454は、ステップ451のループ処理で参照中の分岐器と、ステップ452のループ処理で参照中の分岐器で挟まれた区間を留置線路候補として追加し、ステップ452のループ処理へ進む。
このようにして、本線上のすべての分岐器に対して、これと対になって留置線路を構成し得る分岐器をすべて抽出することができる。
そして、留置線候補抽出部は、これらの線路を留置線路候補として出力する。
【0023】
(第3実施形態)
第3実施形態は、列車制御装置がシミュレーション機能を有する点で、第1、第2実施形態と異なる。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0024】
<列車制御装置>
図5は、本発明の第3実施形態の列車制御装置の概略構成図である。
図5に示す列車制御装置100は、列車運行状態取得部101、運行計画作成部102、遅延時評価部103、留置解除評価部104、判断部105、列車制御部106、シミュレーション計算部107から構成される。
【0025】
列車運行状態取得部101は、列車制御装置100が制御対象とする路線内を走行する全列車の走行位置、速度、運行計画ダイヤグラム(以下、「計画ダイヤ」という。)に対する遅れ情報を取得し、列車運行状態情報111を作成する。そして、列車運行状態情報111は、列車運行状態取得部101から、運行計画作成部102、遅延時評価部103および留置解除評価部104へ出力される。
【0026】
運行計画作成部102は、列車運行状態情報111を取得し、本線上の一部区間を留置線路に指定するために用いる運行制限進路計画112を作成する。そして、運行制限進路計画112は、運行計画作成部102から、遅延時評価部103、留置解除評価部104、判断部105へ出力される。
なお、運行制限進路計画112には、回送列車を含む各列車の進路計画とダイヤ、本線上のどの位置を留置線として設定するかの情報が含まれている。運行計画作成部102の詳細は後述する。
【0027】
遅延時評価部103は、列車運行状態情報111と運行制限進路計画112を取得し、遅延発生をトリガーとして、本線上の一部区間が留置線路に指定されている状態で運行を続けた場合の評価値113を算出する。そして、評価値113は、遅延時評価部103から判断部105へ出力される。
なお、評価値113には、消費電力量、遅延の影響を受ける人数、その他遅延によって発生するコストなどの情報が含まれている。遅延時評価部103の詳細は後述する。
【0028】
留置解除評価部104は、列車運行状態情報111と運行制限進路計画112を取得し、遅延発生をトリガーとして、本線上に設定された留置線路を解除して、走行許可路線に変更した場合の進路計画である留置解除進路計画114Aと、本線上に設定された留置線路を解除して、走行許可路線に変更した場合の評価値114Bを算出する。そして、留置解除進路計画114Aおよび評価値114Bをまとめた情報として評価値114が留置解除評価部104から判断部105へ出力される。
なお、評価値114には、消費電力量、遅延の影響を受ける人数、その他遅延によって発生するコストなどの情報が含まれている。
また、留置解除進路計画114Aには、回送列車を含む各列車の進路計画とダイヤ、本線上のどの留置線を解除するかの情報が含まれている。留置解除評価部104の詳細は後述する。
【0029】
判断部105は、本線上の一部区間が留置線路に指定されている状態で運行を続けた場合の評価値113、本線上に設定された留置線路を解除した場合の進路計画である留置解除進路計画114Aと、本線上に設定された留置線路を解除した場合の評価値114Bをまとめた評価値114を取得し、最終的に採用する進路計画115を設定する。そして、最終的な進路計画115は、判断部105から列車制御部106へ出力される。判断部105の詳細は後述する。
【0030】
列車制御部106は、最終的な進路計画115を取得し、最終的な進路計画115に従って、列車制御装置が対象とする路線内の全列車を制御する。列車制御部106の詳細については後述する。
【0031】
シミュレーション計算部107は、シミュレーション条件117を取得し、指定された列車運行シミュレーションを行い、シミュレーション結果127を出力する。
シミュレーション計算部107は、車両重量や牽引力等の車両に関する設計情報と、線路の勾配や曲線、制限速度や分岐器位置などの路線設計情報、各列車の計画ダイヤ、運行制限進路計画を基に、各時間における全列車の位置速度を計算する機能を有する。
【0032】
<運行計画作成部>
図6A及び
図6Bは、運行計画作成部102の処理を説明するフローチャートである。以下、運行計画作成部102の処理の詳細について、
図6Aを用いて説明する。
図6Aの処理は、任意のタイミングで開始されてよい。例えば、開始スイッチを人が押下することで処理を開始してもよいし、あらかじめ定められた周期ごとに処理を開始してもよい。また、運行管理装置などと連携し、処理開始の指令を受信することで処理を開始する構成でもよい。
【0033】
ステップ201は、列車制御装置が制御対象とする路線内の区間から、留置線路の候補となる区間である留置線路候補を抽出する。留置線路候補の抽出方法は第2実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0034】
ステップ202は、ステップ201で抽出された留置線路候補数分だけ以降の処理を繰り返し行う繰り返し処理である。留置線路候補数分だけ繰り返し処理が終了するとステップ205へ進む。留置線路候補が複数存在する場合、繰り返し処理の順番は、留置線路候補の中から優先度が高い順に処理が実行されることが望ましい。
留置線路候補は、路線内の区間の様々な場所に、様々な容量で存在するため、留置線路の利便性は、個々の留置線路ごとに異なる。
【0035】
<優先度の設定>
優先度の設定方法としては、いくつかの方法が考えられる。本線上に留置線路を設けると留置線路上は、営業運行ができなく、渡線を用いた迂回が必要となる。このため、列車需要の大きい地域の本線上に留置線路を設けると、遅延が発生しやすいリスクが生じる。一方、列車需要の少ない地域に留置線路を設けると、回送列車をその地域まで運行する必要があり、往復のためにエネルギーを消費することとなる。
【0036】
こうしたことから、例えば、列車の運行に要する消費電力量の最小化を重視する場合は、留置列車を留置線路から営業運行の需要がある場所まで回送する距離を減らすように留置路線候補の優先度を高めることが望ましい。つまり、営業運行の需要が大きいターミナル駅に近い留置線路候補の優先度を最も高くすれば、全体の回送距離を最小化できるため、消費電力の削減が可能となる。そして、留置線路がターミナル駅から離れるにしたがって、その優先度を低くするよう設定することが望ましい。
【0037】
また、遅延発生時の遅延拡大を防止することを重視する場合は、列車運行本数の少ない区間、例えば、末端区間に近い留置線路の優先度を最も高くすることが望ましい。つまり、列車運行本数の少ない区間においては、一度遅延が発生すると遅延が拡大しやすいため、早急に留置されている列車を回送して営業運行に復帰させる必要がある。このため、列車運行本数の少ない区間の留置路線候補の優先度を高め、列車運行本数の多い区間、例えば、需要の大きいターミナル駅に近づくにつれて、優先度を低く設定することが望ましい。
【0038】
さらに、回送距離を減らしつつ、遅延発生時の遅延拡大を防止したい場合には、区間の中で列車本数が減少し始める最初の駅間に存在する留置線路候補の優先度を最も高くすることが考えられる。これは、例えば、大都市圏から離れ、列車本数が減少し始める最初の駅間であれば、回送するための距離が比較的短く、しかも、列車運行本数が少ないことから、遅延拡大が発生しやすい区間に容易に回送しやすいためである。以降は区間における列車本数と回送の需要先との距離との関係を総合的に勘案して優先度を設定する方法も考えられる。
また、災害リスクからの車両の防護を重視する場合は、気象観測機関が提供する気象情報と連携し、大雨や洪水のリスクが比較的高い区間に近い留置線路候補の優先度を低くしたり、地震発生時などに津波の被害を受ける可能性がある災害ポテンシャルの高い区間に近い留置線路候補の優先度を低くする、等の設定方法も考えられる。
【0039】
また、複数の編成を併結して運行する必要がある路線の場合、併結した状態の列車を留置できる長さが確保できる留置線路候補の優先度を高くし、分割しなければ留置できないような長さしか確保できない留置線路候補の優先度を低くする設定方法も考えられる。
【0040】
<留置路線の追加>
ステップ203は、最新の運行制限進路計画に、留置時間条件と共に、留置線路候補を留置線路として追加する。そして、ステップ204へ進む。
<シミュレーションの実施>
ステップ204は、最新の運行制限進路計画を基に、列車運行シミュレーションの条件を設定し、シミュレーション条件117としてシミュレーション計算部107へ出力する。そして、シミュレーション計算部107から出力されたシミュレーション結果127を受信したら、ステップ205へ進む。
【0041】
<シミュレーションの判定1>
ステップ205は、ステップ204の列車運行シミュレーションの結果、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であり、かつ留置時間の間に列車の遅延が発生しないことを判定する。ステップ205において、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であり、かつ遅延が発生しないことが確認できた場合には、Yesとして、ステップ206に進む。ステップ205において、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下ではないか、または、遅延が発生した場合には、Noとして、ステップ206に進む。
なお、列車の遅延発生の判定方法としては、1秒でも遅着が発生した場合を遅延発生と判定してもよいし、任意に定めることができる遅着許容時分を設定しておき、それを超えて遅着する列車が発生した場合に遅延発生と判定し、遅延が遅着許容時分以内の場合は遅延が発生しないことを確認できたとしてもよい。
【0042】
ステップ206は、ステップ204の列車運行シミュレーションの結果、遅延が発生したか否か、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であるか否かを判定する。遅延が発生している場合にはNoとして、ステップ202の繰り返し処理に進む。
また、遅延が発生していないが、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下でない場合には、Yesとして、ステップ209に進む。
なお、列車の遅延判定方法は、上述したステップ205と同様に判定基準を定めることができる。
【0043】
<シミュレーションの判定2>
シミュレーションの判定1では、ステップ205の後にステップ206を行う方法を説明したが、ステップ205とステップ206は順序を逆にしてもよい。
図6Bは、運行計画作成部102の処理を説明するシミュレーションの判定2のフローチャートである。
図6Bは、
図6Aにおけるステップ205とステップ206の順序を逆にした点で
図6Aと異なる。以下の説明において、上述の
図6Aと同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0044】
図6Bの例では、ステップ206は、ステップ204の列車運行シミュレーションの結果、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であるか否かを判定する。留置ができない回送列車の編成数が許容値以下である場合には、Yesとしてステップ205に進む。
また、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下ではない場合には、Noとして、ステップ209に進む。
【0045】
ステップ205は、ステップ204の列車運行シミュレーションの結果、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であり、かつ留置時間の間に列車の遅延が発生しないことを判定する。ステップ205において、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であり、かつ遅延が発生しないことが確認できた場合には、Yesとして、ステップ208に進む。ステップ205において、遅延が発生した場合には、Noとして、ステップ202の繰り返し処理に進む。
【0046】
なお、列車の遅延判定方法は、シミュレーション判定1におけるステップ205の場合と同様に判定基準を定めることができる。
また、留置ができない回送列車の編成数の許容値の設定方法については、列車本数が多く遅延発生時の遅延拡大が発生しやすい路線であれば、大きい値を設定し、列車本数が少なく、遅延発生時の遅延拡大がしにくい路線であれば、省エネ性を考慮して0に設定することが望ましい。
【0047】
なお、上述の説明では、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であるか否かの観点と遅延が発生したか否かの観点を2段階のステップ205及びステップ206を用いたフローチャートとして説明した。しかし、ステップ205及びステップ206は1段階ステップで処理してもよい。
すなわち、ステップ205及びステップ206は、ステップ204の列車運行シミュレーションの結果に戻づいて、以下の3ルートに選択的に進むステップとしてまとめることとしてもよい。
(A)留置ができない回送列車の編成数が許容値以下であり、かつ遅延が発生しないことが確認できた場合には、ステップ208に進む。
(B)遅延は発生しないが、留置ができない回送列車の編成数が許容値以下ではない場合にはステップ209に進む。
(C)遅延が発生した場合にはステップ202の繰り返し処理に進む。
【0048】
ステップ209は、ステップ204の列車運行シミュレーションの条件に、留置線路を追加して、ステップ204へ進む。ステップ209で留置線路を追加する場合は、ステップ202で説明した優先順位で留置線路を追加することが望ましい。
【0049】
ステップ207は、列車運行シミュレーションの結果、遅延が発生しない留置線路候補を見つけることができなかった場合の処理である。この場合は、最善の留置路線候補を留置路線に採用した場合であっても、却って遅延が発生するか、必要な回送列車の留置ができない状況であることが判明したわけである。このため、ステップ207として、処理開始時の運行制限進路計画を出力し、処理を終了することとなる。
【0050】
ステップ208は、最終的な運行制限進路計画を出力し、処理を終了する。つまり、ステップ208は、列車運行シミュレーションの結果、遅延を発生させることなく留置線路を設定可能である条件が見つかった場合の処理である。この場合の運行制限進路計画には、留置線路を設定することを前提として、回送列車を含む各列車の進路情報と、留置線路の設定情報が含まれる。
【0051】
<列車運行シミュレーション>
次に、
図6A及び
図6Bのステップ204で実施する列車運行シミュレーションの流れについて、
図7A,Bを用いて説明する。
【0052】
図7Aは、留置線路候補となる区間Xが設定されている路線における、上り方面及び下り方面の列車の経路を模式的に示した図である。
図7Bは、留置線路候補が留置路線に切り替わった後の路線における、上り方面及び下り方面の列車の経路を模式的に示した図である。
列車運行シミュレーションは、
図5の列車運行状態取得部101から取得した各列車の位置、速度を初期状態として開始される。初期状態においては、留置線路候補の区間Xはまだ走行許可線路となっており、運行列車が走行できる状態となっている。つまり、各列車は、あらかじめ定められた計画ダイヤに沿って営業運行を行っている。
【0053】
列車運行シミュレーションの計算ステップが進み、営業運行を終えた回送列車T3が発生した場合、回送列車は最寄りの留置線路候補の区間Xに向かって、営業列車の合間を縫って走行する。
この時、回送列車は、各駅間の走行時分や各駅の発着時分をあらかじめ定めた回送列車用計画ダイヤを用いて、営業運行終了時に最も近い留置線路候補に向かって走行するようにしてもよい。また、回送列車は営業列車に対して十分に安全な距離を取りながら、先行する営業列車に追従する形で留置線路候補に向かって走行してもよい。
【0054】
回送列車T3が留置線路候補の区間Xの区間に到達した時刻から、この区間を走行許可線路から留置線路に切り替え、留置される回送列車T3以外の列車T4が進入ができないよう設定する。
なお、留置線路が列車で満たされ、これ以上列車を追加で留置できない場合、以降の回送列車はその留置線路を目標とせず、空いている別の最寄りの留置線路を目標として走行するようにすることが望ましい。
さらに、留置線路が列車で満たされ、これ以上列車を追加で留置できない状況で、他に空いている留置線路がない場合は、以降の回送列車はその留置線路を目標とせず、営業車両の合間を縫って本線上を回送し続けることが望ましい。
【0055】
区間Xを走行線路から留置線路に切り替えて以降は、
図7Bに示すように、回送列車ではない下り列車Tは渡線Bで上り線路10へ転線し、渡線Aを経由して再び下り線路20へ戻る下り列車経路50に沿って走行する。
その後、再び列車需要が増加し、留置線路として設定されている区間Xに停車していた留置列車がすべて、区間Xから出発したタイミングで、区間Xを
図7Aの状態に戻し、走行許可線路に切り替える。最終的に、区間Xを営業列車が走行し、その列車が駅に到着した時点でシミュレーションを終了する。
また、シミュレーションが終了した時点で、従前の計画ダイヤと比較した場合の各列車のシミュレーション上の遅延時間を集計する。
【0056】
なお、留置線路に配置した車両は、営業運行再開時刻に営業運行再開駅に到着できるよう、留置線路から営業運行再開駅までの走行時間を逆算して留置線路を出発する。この時の営業運行再開時の列車回送においても、あらかじめ定められた回送ダイヤに従って走行してもよいし、営業列車の合間を縫って走行するようにしてもよい。
なお、今回の説明では、営業列車についてのみ言及して説明を行ったが、メンテナンス車両等を含めて列車運行シミュレーションを実施してもよい。
【0057】
<遅延時評価部>
図5の遅延時評価部103の処理の詳細について、
図8を用いて説明する。
図8は、遅延時評価部103の処理を説明するフローチャートである。
ステップ501では、遅延時評価部103は、列車運行状態取得部101から取得した、各列車の計画ダイヤに対する遅れ情報を基に、遅延が発生している列車があるか否かを判定する。遅延が発生している列車がある場合は、Yesとして、ステップ502へ進む。遅延が発生している列車がない場合は、Noとして、評価値は出力せずに処理を終了する。
【0058】
ステップ502では、遅延時評価部103は、列車運行状態取得部101から取得した各列車の位置と速度、運行計画作成部102から取得した運行制限進路計画112を基に、留置線路を解除せずに、継続する場合の遅延時間を予測する。
このため、シミュレーションを行う時点で留置線路を継続する場合の列車運行シミュレーションの条件をシミュレーション条件117として作成し、シミュレーション計算部107へ出力する。そして、シミュレーション計算部107から出力されたシミュレーション結果127を受信した後にステップ503へ進む。
【0059】
ステップ503では、遅延時評価部103は、ステップ502の列車運行シミュレーションで算出した評価値を、本線上の一部区間が留置線路に指定されている状態で運行を続けた場合の評価値113として出力し、処理を終了する。
【0060】
<留置解除評価部>
図5の留置解除評価部104の処理の詳細について、
図9を用いて説明する。
図9は、留置解除評価部104の処理を説明するフローチャートである。
留置解除評価部104は、ステップ601において、列車運行状態取得部101から取得した、各列車の計画ダイヤに対する遅れ情報を基に、遅延が発生している列車があるか否かを判定する。遅延が発生している列車がある場合には、Yesとしてステップ602へ、遅延が発生している列車がない場合には、Noとして処理を終了する。
【0061】
ステップ602では、留置解除評価部104は、遅延が発生している列車がある場合には、列車運行状態取得部101から取得した各列車の位置と速度、運行計画作成部102から取得した運行制限進路計画112を基に、留置線路を解除した場合の遅延時間を予測する。
このため、シミュレーションを行う時点で留置線路を解除した場合の列車運行シミュレーションの条件をシミュレーション条件117として作成し、シミュレーション計算部107へ出力する。
そして、シミュレーション計算部107から出力されたシミュレーション結果127を受信した後に、ステップ603へ進む。ステップ602の列車運行シミュレーションの詳細については後述する。
【0062】
ステップ603では、留置解除評価部104は、ステップ602のシミュレーションで算出した評価値を、本線上に設定された留置線路を解除した場合の評価値114Bとして出力し、また本線上に設定された留置線路を解除した場合の進路計画である留置解除進路計画114Aを出力し、処理を終了する。
【0063】
<列車運行シミュレーション>
ステップ602の列車運行シミュレーションの詳細について説明する。
ステップ602の列車運行シミュレーションは、車両重量や牽引力等の車両に関する設計情報と、線路の勾配や曲線、制限速度などの路線設計情報、各列車の計画ダイヤ、運行制限進路計画を基に、各時間における全列車の位置速度を計算する。
【0064】
以下、留置解除の際の列車運行シミュレーションの流れについて説明する。
図10は、留置解除の際の列車運行の流れを説明する概略図である。列車運行シミュレーションは、列車運行状態取得部101から入力した、各列車の位置、速度を初期状態として開始される。シミュレーション開始時において、留置線路は直ちに走行線路に切り替えられ、留置列車は回送列車として走行させることとなる。この場合、回送列車の走行経路を、最小限にとどめるためには、
図10に示すように、回送列車T5乃至T8を図中の(1)、(2)、(3)の順に移動させることが望ましい。つまり(1)留置線路から渡線Aよりも下り側に移動する。(2)折り返し操作を行って、渡線Aを経由して上り線路10に移動し、渡線Bを経由して下り線路20に移動する。(3)折り返し操作を行って、元の留置線路である区間Xに戻る。このような(1)乃至(3)のルートを採用することが望ましい。
【0065】
ただし、渡線A走行前及び渡線B走行後に発生する回送列車の折り返しには多少の時間を要する。このため、区間Xに複数の編成が留置されていた場合には、全留置列車を同じ場所で折り返すと、区間Xを他の運行列車が走行できるようにするまで相当程度の時間を要する可能性がある。その場合、回送列車を下り線路20の渡線Aよりさらに先まで走行させ、その先にある渡線Cも併せて活用し、上り線路10へ転線するようにしてもよい。
そして、シミュレーションにおいて、営業列車の遅延時刻が所定値以下に収まったる時刻が検出された場合には、遅延が収束すると判断して、区間Xを再び留置線路として設定し、留置線路に戻ってきた回送列車を順次留置する運行制限路線計画を作成することができる。
【0066】
最終的に、遅延時評価部103のステップ502で列車運行シミュレーションを終了した時刻と同様の時刻でシミュレーションを終了し、各列車の遅延時間と、全列車の消費電力量を集計し、評価値として出力する。
【0067】
<判断部>
以下では、判断部105の詳細について説明する。
判断部105は、本線上の一部区間が留置線路に指定されている状態で運行を続けた場合の評価値113、本線上に設定された留置線路を解除した場合の評価値114Bが入力されるまでは、本線上の一部区間を留置線路に指定する運行制限進路計画112を進路計画として採用している。
このため、本線上の一部区間を留置線路に指定する運行制限進路計画を最終的な進路計画115として列車制御部106へ出力する。
【0068】
一方、本線上の一部区間が留置線路に指定されている状態で運行を続けた場合の評価値113、本線上に設定された留置線路を解除した場合の評価値114Bが入力された場合、両評価値の優劣を評価し、前者が優れていると判断した場合は、本線上の一部区間を留置線路に指定する運行制限進路計画112を最終的な進路計画115として列車制御部106へ出力する。
一方、それ以外の場合は、本線上に設定された留置線路を解除した場合の進路計画である留置解除進路計画114Aを最終的な進路計画115として列車制御部106へ出力する。
【0069】
評価値の優劣の評価方法としては、消費電力量と遅延による影響をそれぞれコストに換算し、両者のコストの合計を比較してより小さい値となる方を優秀であると判断する方法が考えられる。
【0070】
例えば、消費電力量からコストを算出する際には消費電力量と電気料金を掛けて算出すればよい。遅延による影響については、旅客が他の路線や交通機関を選択したことによる運賃収入損失の推定値や、振替輸送を行う際に要する費用などを、遅延時間ごとにあらかじめデータベースとして格納しておき、それを参照してコストとして算出する手法が考えられる。
また、遅延による影響については、乗車時間が余計にかかることによる旅客の経済的損失を、時間価値と遅延時間によって算出する方法も提案されているため、それを利用して算出してもよい。
【0071】
<列車制御部>
列車制御部106は、最終的な進路計画115に従って、列車制御装置が対象とする路線内の全列車を制御する。列車制御部106における留置線路の扱いは、列車運行シミュレーション時と同様である。すなわち、留置線路が設定される場合、最初は留置線路区間も走行許可路線として扱い、回送列車が留置線路に到達したタイミングでその留置線路区間を他の列車が進入できない留置線路として扱う。そして、回送列車がすべて留置線路を出た段階で、その区間を再び走行許可路線として扱い、営業列車の進入を許すこととなる。
【0072】
<効果>
本実施形態により、使用車両数が少ない時間帯においては、本線上に留置線路を設けることにより、車両基地等の留置線を最小化することが可能となる。
本線上の営業車両の数は、1日の中で倍程度の差があることから、こうした営業車両の増減を活用して本線上に留置線路を設けると、相当程度の留置線路の確保が可能となり、車両基地などにおける固定的な留置線の抑制に大きな効果が期待できる。
また、本線上に留置線路を設定している時間帯において、本線上で何らかの遅延が発生することが起こり得る。その際、本線上に留置線路を設定していることが遅延解消のボトルネックとなり、遅延が拡大する虞もある。本実施形態においては、そのような事態の発生を抑制するために、遅延の発生時には、留置線路の解除の必要性をシミュレーションを用いて判定し、本線上の留置線路の解除の要否を的確に判断できるものである。これによって、留置線の使用数を削減可能な列車制御システムの提供が可能となる。
【0073】
また、留置線路をどの箇所に設定すべきか、どの箇所の留置線路を継続し、または解除すべきかについては、様々な観点が存在する。例えば、代表的な観点としては、消費電力の観点、ユーザーの利便性に関する遅延時間の観点、災害リスクの観点などが存在する。本実施形態においては、これらの観点を自在に選択し、設定できるため、様々なニーズに対応することが可能である。
本技術は既存路線における留置線使用本数削減に寄与することもできるが、建設中の新線に応用することで、車両基地に接続していない区間における部分開業に寄与することも可能となる。
【0074】
<補足事項>
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
101…列車運行状態取得部
102…運行計画作成部
103…遅延時評価部
104…留置解除評価部
105…判断部
106…列車制御部
111…列車運行状態情報
112…運行制限進路計画