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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】水電解装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20241122BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20241122BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20241122BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20241122BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20241122BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20241122BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20241122BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B15/08 304
C25B15/023
C25B15/00 302Z
B01D19/00 G
B01D61/00
C02F1/44 A
C02F1/44 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021136648
(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公開番号】P2023031133
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】八巻 昌宏
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191333(JP,A)
【文献】中国実用新案第213142213(CN,U)
【文献】特開2006-131957(JP,A)
【文献】特開2012-241207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 1/00
C25B 15/00
B01D 19/00
B01D 61/00
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる水電解槽と、
前記陰極において発生した水素と水とを分離して、該水を分離水として放出する水素気液分離器と、
前記水素気液分離器から放出された前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置と、
前記逆浸透膜を透過した透過水を貯水する貯水タンクと、
を備える水電解装置。
【請求項2】
前記フィルタ装置と前記貯水タンクとの間に配置され、前記透過水の流れを調整する第1調整機構をさらに備える請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記第1調整機構は、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて前記透過水の流れを調整する請求項2に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記第1調整機構の下流側に配置され、前記透過水に含まれる水素を分離する第1分離機構をさらに備える請求項2または3に記載の水電解装置。
【請求項5】
前記分離水が前記逆浸透膜を透過することなく濃縮された結果生じた濃縮水を前記フィルタ装置から排水する排水ラインと、
前記排水ラインに配置され、前記濃縮水の流れを調整する第2調整機構と、
をさらに備える請求項1から4のいずれか1項に記載の水電解装置。
【請求項6】
前記第2調整機構は、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて、または前記濃縮水が定期的に排水されるように、前記排水ラインにおける前記濃縮水の流れを調整する請求項5に記載の水電解装置。
【請求項7】
前記第2調整機構の下流側に配置され、前記濃縮水に含まれる水素を分離する第2分離機構をさらに備える請求項5または6に記載の水電解装置。
【請求項8】
水電解装置の制御方法であって、
高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる工程と、
前記陰極において発生した水素と水とを水素気液分離器によって分離して、該水を分離水として放出する工程と、
前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置の前記逆浸透膜を透過した透過水の流れを、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて調整する工程と、
前記透過水を貯水タンクに貯水する工程と、
を含む水電解装置の制御方法。
【請求項9】
前記水電解装置は、前記分離水が前記逆浸透膜を透過することなく濃縮された結果生じた濃縮水を前記フィルタ装置から排水する排水ラインをさらに備え、
前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて、または前記濃縮水が定期的に排水されるように、前記排水ラインにおける前記濃縮水の流れを調整する工程をさらに含む請求項8に記載の水電解装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電解して水素と酸素とを発生させる水電解装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然エネルギーを一次エネルギーとする水素の製造技術が開発されており、その1つに、固体高分子型水電解装置が知られている(特許文献1)。この種の水電解装置では、水電解槽の陰極にて発生した水素と水とを分離する水素気液分離器から放出される水素ブロー水(分離水)は貯水タンクに戻され、水素の製造に再利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-173788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、水素ブロー水は純水と考えられていた。しかしながら、水素ブロー水にはイオン性の不純物が含まれ、このイオン性の不純物の影響により電気伝導度が高くなることを本発明の発明者が明らかにした。このような電気伝導度が高い水素ブロー水を水素の製造に再利用した場合、水電解槽が劣化する等の問題が生じる。
【0005】
そのため、系内の純水を維持するためには、水素ブロー水を全量廃棄して新たな純水を補給することが考えられるが、この場合、大量の純水が必要となる。
【0006】
本発明は、イオン成分を低減した水素ブロー水を水素の製造に再利用可能な水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水電解装置は、高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる水電解槽と、前記陰極において発生した水素と水とを分離して、該水を分離水として放出する水素気液分離器と、前記水素気液分離器から放出された前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置と、前記逆浸透膜を透過した透過水を貯水する貯水タンクと、を備える。
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の一態様に係る水電解装置の制御方法は、水電解装置の制御方法であって、高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる工程と、前記陰極において発生した水素と水とを水素気液分離器によって分離して、該水を分離水として放出する工程と、前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置の前記逆浸透膜を透過した透過水の流れを、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて調整する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、イオン成分を低減した水素ブロー水を水素の製造に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る水電解装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示される粗フィルタ装置およびROフィルタ装置の周辺構成を示す模式図である。
図3図2に示される粗フィルタ装置本体の構成例を示す図であり、3001は粗フィルタ装置本体の正面図を示し、3002は粗フィルタ装置本体の断面図を示す。
図4】前記粗フィルタ装置本体が備える粗フィルタの機能を説明する模式図である。
図5図2に示される空気抜き弁の構成例を示す縦断面図である。
図6】前記ROフィルタ装置が備える逆浸透膜の機能を説明する模式図である。
図7】前記水電解装置における透過水の流量制御の一例を示すフローチャートである。
図8】前記水素気液分離器の内部構造を示す断面図である。
図9】前記水電解装置における濃縮水の排水制御の一例を示すフローチャートである。
図10】前記水電解装置における異常判定制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図10に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は本発明に係る水電解装置およびその制御方法の一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0012】
〔水電解装置の構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る水電解装置100の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、水電解装置100は、水電解槽10と、直流電源11と、水素気液分離器12と、酸素気液分離器13と、貯水タンク15と、粗フィルタ装置30と、ROフィルタ装置(フィルタ装置)80とを含む。水電解装置100の各部の動作は、制御部20によって制御される。
【0013】
水電解槽10は、高分子電解質膜(固体高分子膜)を用いて水を電解(電気分解)し、陽極に酸素、陰極に水素(気体)を発生させる。水電解槽10には直流電源11が接続される。水の電解に必要な電力は直流電源11から水電解槽10へ供給される。
【0014】
水電解槽10の陰極において発生した水素は、電解されずに残った水(高分子電解質膜を透過した水)と共に気液混合水の状態で、水電解槽10から水素気液分離器12へ供給される。また、水電解槽10の陽極において発生した酸素(気体)は、電解されずに残った水と共に気液混合水の状態で、水電解槽10から酸素気液分離器13へ供給される。
【0015】
水素気液分離器12は、水電解槽10から供給される水素を含んだ気液混合水を、水素と水とに気液分離する。気液分離後の水素(水素ガス)は、水分を多く含んだ湿潤水素である。そのため、気液分離後の水素は、図示しない除湿装置等へ供給されて水分が除去される。一方、気液分離後の水は水素ブロー水(分離水、液体)として、水電解装置100の水素ライン19を通って貯水タンク15へ供給される。
【0016】
水素気液分離器12は、水素気液分離器12の液面レベルを検出するレベルセンサを含む。水素気液分離器12は、レベルセンサによって検出した水素気液分離器12内の液面レベルを信号線SL1を介して制御部20へ出力する。
【0017】
水素ライン19は、水素気液分離器12から貯水タンク15へ水素ブロー水を供給する。水素ライン19には、上流側から、粗フィルタ装置30と、ROフィルタ装置80と、制御弁(第1調整機構)91と、第1分離器(第1分離機構)92とが配置される。
【0018】
水素ライン19は、第1分離器92で分岐した水素排気ライン19aを含む。この水素排気ライン19aには、逆止弁(逆流防止機構)70が配置される。また、水素ライン19は、ROフィルタ装置80で分岐した排水ライン19bを含む。この排水ライン19bには、上流側から、開閉弁(第2調整機構)93と、調整弁(第2調整機構)94と、第2分離器(第2分離機構)95とが配置される。排水ライン19bは、逆浸透膜81を透過せずに濃縮された水素ブロー水(以下、濃縮水と称する場合がある)をROフィルタ装置80から排出し、系外へ排水する。
【0019】
ここで、水電解槽10の運転中、水素気液分離器12は加圧されている。そのため、水素気液分離器12から分離された水素ブロー水は圧力が高く、高圧の水素ブロー水には水素が溶存する。従って、水素気液分離器12によって放出された水素ブロー水には微細気泡状の水素が含まれ得る。
【0020】
粗フィルタ装置30は、液体中に含まれる気体、およびカーボン粉末等の水素ブロー水に含まれる異物(固形物)を除去する。本実施形態では、粗フィルタ装置30は、水素ブロー水に含まれる水素およびカーボン粉末を主に除去する。粗フィルタ装置30は、水素ブロー水から水素を除去する粗フィルタ41を備える粗フィルタ装置本体40と、粗フィルタ41によって除去された水素を排出するガス抜き弁(排出機構)50とを含む。なお、粗フィルタ装置30の詳細は後述する。
【0021】
ROフィルタ装置80は、液体中に含まれるイオン成分を除去する。本実施形態では、ROフィルタ装置80は、水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去する。ROフィルタ装置80は、水素ブロー水からイオン成分を除去する逆浸透膜81を含む。なお、ROフィルタ装置80の詳細は後述する。
【0022】
制御弁91は、ROフィルタ装置80と貯水タンク15との間に配置され、ROフィルタ装置80を透過した水素ブロー水(以下、透過水と称する場合がある)の流れを調整する。具体的には、制御弁91は、水素気液分離器12側の圧力(高圧)と貯水タンク15側の圧力(低圧)との圧力差を利用し、弁開度を0%以上100%以下の範囲で調整することで水素ライン19を流れる透過水の流量を調整する。制御弁91の弁開度の調整は、信号線SL3を介して制御部20によって制御される。
【0023】
第1分離器92は、制御弁91の下流側に配置され、透過水に含まれる水素を分離する。水素ライン19を流れる透過水が制御弁91によって減圧されることにより、透過水に溶存していた水素の一部が気化する。第1分離器92は、この気化した水素を透過水から分離する。第1分離器92は水素排気ライン19aに接続されており、第1分離器92によって分離された水素は、水素排気ライン19aを通って排気される。
【0024】
開閉弁93および調整弁94は、排水ライン19bに配置され、濃縮水の流れを調整する。具体的には、開閉弁93は、弁の開閉を切り替えることで排水ライン19bを流れる濃縮水の排水タイミングを制御する。制御弁91の弁の開閉の切り換えは、信号線SL4を介して制御部20によって制御される。
【0025】
開閉弁93の下流側に配置される調整弁94は、弁開度が一定になっており、排水ライン19bを流れる濃縮水の流量を調整する。排水ライン19bに調整弁94を配置することにより、濃縮水の排水時における排水量が調整される。
【0026】
このように、本実施形態では、開閉弁93の開閉を切り替えることによって濃縮水の排水タイミングを制御し、その下流側に弁開度が一定である調整弁94を配置することにより、排水タイミングおよび排水量を調整している。ただし、開閉弁93および調整弁94に代えて、弁開度を電気的またが電磁的に調整可能な制御弁を排水ライン19bに配置してもよい。これにより、制御部20が制御弁の弁開度を調整することにより、濃縮水の排水タイミングおよび排水量を制御することができる。
【0027】
第2分離器95は、調整弁94の下流側に配置され、濃縮水に含まれる水素を分離する。排水ライン19bを流れる濃縮水が調整弁94によって減圧されることにより、濃縮水に溶存していた水素の一部が気化する。第1分離器92は、この気化した水素を濃縮水から分離する。第2分離器95は水素排気ライン19aに接続されており、第2分離器95によって分離された水素は、水素排気ライン19aを通って排気される。
【0028】
酸素気液分離器13は、水電解槽10から供給される酸素を含んだ気液混合水を、酸素と水とに気液分離する。気液分離後の酸素(酸素ガス)は例えば大気へ排気される。一方、気液分離後の水は、酸素側循環水として、水電解装置100の酸素側循環ライン17を通って水電解槽10へ供給される。酸素側循環ライン17は、酸素気液分離器13から水電解槽10へ酸素側循環水を供給する。酸素側循環ライン17には、酸素気液分離器13から水電解槽10へ酸素側循環水を送り出すポンプ14が配置される。
【0029】
酸素気液分離器13は、酸素気液分離器13内の液面レベルを検出するレベルセンサを含む。酸素気液分離器13は、レベルセンサによって検出した酸素気液分離器13の液面レベルを、信号線SL2を介して制御部20へ出力する。
【0030】
貯水タンク15は、水電解槽10で電解される水を貯水する。貯水タンク15には、純水が供給される。また、貯水タンク15には、粗フィルタ41および逆浸透膜81を透過した透過水が供給される。貯水タンク15に貯水された水は、水電解装置100の水供給ライン18を通って酸素気液分離器13へ供給される。貯水タンク15から酸素気液分離器13へ水を供給する水供給ライン18には、貯水タンク15から酸素気液分離器13へ水を送り出すポンプ16が配置される。貯水タンク15から酸素気液分離器13へ供給された水は、酸素側循環ライン17を通って、酸素気液分離器13から水電解槽10へ供給される。
【0031】
制御部20は、水電解装置100の各部の動作を制御する。制御部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサによって構成されるか、または、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路によって構成される。
【0032】
制御部20は、直流電源11から水電解槽10への電力の供給を制御し、水電解槽10の運転を制御する。また、制御部20は、水素気液分離器12の液面レベルに基づいて制御弁91を制御することで、透過水の流量制御を実行する。また、制御部20は、水素気液分離器12の液面レベルに基づいて、または濃縮水が定期的に排水されるように、開閉弁93を制御することで、濃縮水の排水制御を実行する。さらに、制御部20は、水素気液分離器12および酸素気液分離器13への流入水量、逆浸透膜81の透過水量に関する水電解槽10の運転状況、制御弁91の弁開度等に基づいて、水電解装置100に異常が生じている可能性があるか否を判定する異常判定制御を実行する。
【0033】
図2は、図1に示される粗フィルタ装置30およびROフィルタ装置80の周辺構成を示す模式図である。図2は、図1の一点破線枠囲み内の構成を示す。図2に示すように、粗フィルタ装置30およびROフィルタ装置80は、水素ライン19の水平配管に配置される。具体的には、ROフィルタ装置80は、貯水タンク15の液面レベルL1よりも高い位置に設置された水素ライン19の水平配管に配置される。これにより、粗フィルタ装置30およびROフィルタ装置80の設置高さが、貯水タンク15の液面レベルL1よりも高くなっている。
【0034】
ROフィルタ装置80の上流側には粗フィルタ装置30が配置され、下流側には制御弁91およびT型に分岐するチーズ管で構成される第1分離器92が配置される。第1分離器92において、水素ライン19から水素排気ライン19aが分岐する。第1分離器92において、透過水に残存する水素が水素ガスとなって水素排気ライン19aへ流入し、排気される。一方、第1分離器92において水素が分離された後の透過水は、貯水タンク15へ供給水される。
【0035】
また、ROフィルタ装置80のハウジング82には排水ライン19bが接続される。開閉弁93の下流側には、調整弁94およびT型に分岐するチーズ管で構成される第2分離器95が配置される。第2分離器95において、濃縮水に残存する水素が水素ガスとなって水素排気ライン19aへ流入し、排気される。一方、第2分離器95において、水素が分離された後の濃縮水は、系外へ排水される。なお、図示していないが、排水ライン19bにおける第2分離器95の下流側(排水側)に、例えばU字管、S字管等で構成される水封機構を配置してもよい。排水ライン19bに水封機構を配置することにより、排水ライン19bの排水側の端部からの大気の流入を防止することができる。
【0036】
なお、水電解装置100の運転中は水素気液分離器12が加圧されており、上述した通り、貯水タンク15側よりも水素気液分離器12側が高圧になっている。仮に水素気液分離器12とROフィルタ装置80との間(すなわち、ROフィルタ装置80の上流側)に制御弁91を配置した場合、制御弁91によってROフィルタ装置80へ流入する水素ブロー水の圧力低下が生じる可能性がある。水電解装置100では、ROフィルタ装置80と貯水タンク15との間、つまりROフィルタ装置80の下流側に制御弁91が配置されているため、上述したROフィルタ装置80へ流入する水素ブロー水の圧力低下を回避することができる。
【0037】
(粗フィルタ装置の詳細)
図3は、図2に示される粗フィルタ装置本体40の構成例を示す図であり、図3の3001は粗フィルタ装置本体40の正面図を示し、図3の3002は粗フィルタ装置本体40の断面図を示す。
【0038】
図3に示すように、粗フィルタ装置30は、粗フィルタ41および該粗フィルタ41を収容するハウジング42を含む粗フィルタ装置本体40と、該粗フィルタ装置本体40に接続されたガス抜き弁50とを備える。粗フィルタ装置本体40が備える粗フィルタ41およびハウジング42は、例えば円筒状である。粗フィルタ41の中心軸とハウジング42の中心軸とが略一致するように、カートリッジ式の粗フィルタ41がハウジング42に収容される。
【0039】
ハウジング42は、粗フィルタ41を収容する筐体である。ハウジング42は、粗フィルタ41を収容する一端が開口した胴部42aと、胴部42aの開口を塞ぐように着脱可能に取り付けられる蓋部42bとを含む。蓋部42bには、導入口43と、排出口44と、弁接続口(排出機構)45とが配置される。
【0040】
導入口43および排出口44は、蓋部42bの上部側面に、ハウジング42の中心軸に対して略垂直な位置に互いに対向して配置される。導入口43は、上流側の水素ライン19に接続され、水素ブロー水をハウジング42の内部へ導入する。排出口44は、下流側の水素ライン19に接続され、粗フィルタ41を透過した水素ブロー水をハウジング42の外部へ排出する。弁接続口45は、蓋部42bの上面に配置される。この弁接続口45には、後述するガス抜き弁50が接続される。
【0041】
粗フィルタ41は、水素ブロー水を濾過して、水素ブロー水に含まれる水素を除去する。粗フィルタ41は水素ブロー水(液体)が流入する表面で微細水素気泡(気体)を捕捉する。粗フィルタ41としては、水素ブロー水に含まれる微細水素気泡をその表面で捕捉する表面濾過型のフィルタが好適に用いられる。円筒状の粗フィルタ41は、表面41a側(外周面側)が粗フィルタ41の1次側となり、内面41b側(内周面側または中心軸側)が粗フィルタ41の2次側となる。
【0042】
図4は、粗フィルタ41の機能を説明する模式図である。図4に示すように、水素ブロー水は、粗フィルタ41の表面41a側に供給される(供給工程)。表面41a側に供給された水素ブロー水は、粗フィルタ41の表面41aから粗フィルタ41の内面41bへ粗フィルタ41を透過する。水素ブロー水が粗フィルタ41を透過する際、水素ブロー水に含まれる微細水素気泡H2-1が粗フィルタ41の表面41aで捕捉される(捕捉工程)。粗フィルタ41の表面41aで捕捉された微細水素気泡H2-1は、該表面41aで結合して大きくなり水素気泡H2-2となる。これにより、水素気泡H2-2の浮力が増加し、粗フィルタ41の表面41aに沿って水素気泡H2-2が浮上する。浮上した水素気泡H2-2は、弁接続口45を通ってガス抜き弁50へ流入する。つまり、粗フィルタ41によって捕捉された微細水素気泡H2-1は、水素気泡H2-2となり粗フィルタ41を収容するハウジング42の内部から排出される(排出工程)。
【0043】
また、水素ブロー水が粗フィルタ41を透過(通過)する透過方向D1と、粗フィルタ41によって捕捉された微細水素気泡H2-1が排出される排出方向(粗フィルタ41によって捕捉された微細水素気泡H2-1の移動方向)D2とは交差(クロスフロー)している。
【0044】
より詳しくは、ハウジング42は、導入口43および排出口44が鉛直上側になるように、水素ライン19の水平配管に取り付けられる(図3参照)。そのため、円筒状の粗フィルタ41の中心軸が鉛直方向と略平行になるように、粗フィルタ41が水素ライン19に配置される。言い換えると、粗フィルタ41の表面41aが略鉛直方向に延伸するように、粗フィルタ41が水素ライン19に配置される。これにより、図4に示すように、粗フィルタ41の表面41aで捕捉された微細水素気泡H2-1は、鉛直方向上側に向かって移動する。その結果、水素ブロー水が粗フィルタ41を透過する透過方向D1と、粗フィルタ41によって捕捉された微細水素気泡H2-1が排出される排出方向D2とは、略直交する。
【0045】
なお、粗フィルタ41の配置は前記に限らない。粗フィルタ41の表面41aが水平方向に対して角度を有するように、粗フィルタ41が水素ライン19に配置されていればよい。
【0046】
このように、透過方向D1と排出方向D2とが交差していることにより、例えば透過方向D1と排出方向D2とが交差していない構成(透過方向D1と排出方向D2とが略平行な構成)に比べて粗フィルタ41によって処理可能な水素ブロー水の流量が多くなる。これにより、水素ライン19を流れる多量の水素ブロー水を粗フィルタ装置30によって処理することが可能となり、粗フィルタ装置30を水電解装置100に好適に組み込むことができる。
【0047】
また、粗フィルタ41は、水電解槽10で発生するカーボン粉末C等の水素ブロー水に含まれる異物(固形物)を表面41aで捕捉する。つまり、粗フィルタ41は、水素ブロー水に含まれる水素(微細水素気泡H2-1)と異物(カーボン粉末C)とを同時に除去することができる。
【0048】
カーボン粉末Cは、水電解装置100内の機器の閉塞等を引き起こすほか、最終的には、水電解槽10の陽極側で酸化されて炭酸ガスとなり、水電解装置100内の循環水の劣化に繋がる。そのため、カーボン粉末Cを粗フィルタ41で除去することができれば、水電解装置100内の機器の閉塞、および水電解装置100内の循環水の劣化を防ぐことができる。特に水素ライン19にROフィルタ装置80を配置した水電解装置100では、カーボン粉末Cが逆浸透膜81の目詰まり(閉塞)を引き起こす主な原因となり得る。そのため、ROフィルタ装置80の上流側に粗フィルタ装置30を配置して水素ブロー水からカーボン粉末Cを除去することにより、逆浸透膜81の目詰まりを効果的に低減することができる。
【0049】
粗フィルタ41としては、0.2μm以上10μm以下の孔径を有するものであることが好ましく、粗フィルタ41の孔径が1μ程度であることがより好ましい。また、粗フィルタ41は、ポリプロピレン製であることが好ましい。このような粗フィルタ41によれば、水素ブロー水に含まれる微細水素気泡を表面41aで好適に捕捉し、結合させることができる。
【0050】
また、粗フィルタ41としては、特にプリーツフィルタが好適である。粗フィルタ41として濾過面積の大きいプリーツフィルタを用いることにより、水素ブロー水に含まれる微細水素気泡および異物を表面41aで効率的に捕捉することができる。また、円筒状のプリーツフィルタを用いることにより、粗フィルタ装置30を小型化することができる。
【0051】
ガス抜き弁50は、粗フィルタ41によって捕捉された気体をハウジング42の内部から排出する。図5は、図2に示されるガス抜き弁50の構成例を示す縦断面図である。図5に示すように、ガス抜き弁50は、弁体51と、フロート52と、ハウジング接続口(排出機構)53と、排出口54と、を備える。
【0052】
ガス抜き弁50は、粗フィルタ装置本体40のハウジング42の上部に接続される。具体的には、ガス抜き弁50のハウジング接続口53とハウジング42の弁接続口45とを介して、ガス抜き弁50がハウジング42の蓋部42bに接続される。
【0053】
ガス抜き弁50には、粗フィルタ41の表面41aで捕捉されて水素気泡H2-2となった水素を含む水素ブロー水がハウジング接続口53を介して流入する。水素気泡H2-2がガス抜き弁50の内部に溜まるにつれて、水素ブロー水の液面が低くなりフロート52が下降する。このフロート52の下降と連動して弁体51が開状態となり、ガス抜き弁50の内部に溜また水素気泡H2-2が水素ガスとして排出口54から排出される。一方、水素が排出されると、ガス抜き弁50の内部の水素ブロー水の液面が高くなりフロート52が上昇する。このフロート52の上昇と連動して弁体51が閉状態となり、排出口54からの水素ガスの排出が停止する。
【0054】
ガス抜き弁50の排出口54は、水素排気ライン19aに接続される(図2参照)。具体的には、排出口54は、チーズ管60と逆止弁70との間の水素排気ライン19aに接続される。チーズ管60において、粗フィルタ41を透過した水素ブロー水に残存する水素、すなわち、粗フィルタ41によって除去しきれなかった水素が水素ガスとなって水素排気ライン19aへ流入する。排出口54から排出された水素ガスは、チーズ管60から水素排気ライン19aへ流入した水素ガスと共に、水素排気ライン19aを通って排気される。
【0055】
このようなガス抜き弁50を用いることで、粗フィルタ41によって水素ブロー水から除去された水素を粗フィルタ装置本体40から適宜排出することができる。そのため、粗フィルタ41の表面41aが水素で詰まるエアロック現象による有効濾過過面積の減少、および粗フィルタ41の圧損増加を防ぐことができる。
【0056】
なお、ガス抜き弁50は、粗フィルタ41を収容するハウジング42から水素を排出可能な位置に配置されていればよい。ガス抜き弁50は、例えばハウジング42の内部に配置されていてもよい。
【0057】
〔ROフィルタ装置の詳細〕
従来、水素気液分離器12から放出される水素ブロー水は純水と考えられていた。しかしながら、水素ブロー水中にはイオン性の不純物であるイオン成分が含まれ、このイオン成分の影響により電気伝導度が高くなることを本発明の発明者が明らかにした。このようなイオン成分は粗フィルタ41では除去することができず、電気伝導度が高い水素ブロー水を水素の製造に再利用した場合、水電解槽10が劣化する等の問題が生じる。
【0058】
そこで、水電解装置100では、粗フィルタ装置30の下流側にROフィルタ装置80を配置し、逆浸透膜81によって水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去している。
【0059】
図6は、図2に示されるROフィルタ装置80が備える逆浸透膜81の機能を説明する模式図である。図6に示すように、ROフィルタ装置80は、逆浸透膜81および該逆浸透膜81を収容するハウジング82を含む。逆浸透膜81およびハウジング82は、例えば円筒状である。逆浸透膜81の中心軸とハウジング82の中心軸とが略一致するように、カートリッジ式の逆浸透膜81がハウジング82に収容される。
【0060】
逆浸透膜81は、水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去する。逆浸透膜81は、例えば多数の孔が穿設されたパイプの外周に巻回された状態でハウジング81内に配置されている。この逆浸透膜81は、定期的な交換が可能なようにモジュール(デバイス)化されていてもよい。
【0061】
逆浸透膜81は、架橋による網の目状の高分子膜でできており、この網の目の大きさによって、基本的には水分子のみがこの逆浸透膜81を透過する。そのため、水素ブロー水からイオン成分が分離され、高い浄化性能を得ることができる。逆浸透膜81は、濃縮水の電気伝導度に対する透過水の電気伝導度の割合が、例えば10%以上80%以下、好ましくは20%以上25%以下の範囲となるように水素ブロー水からイオン成分を分離する。
【0062】
ROフィルタ装置80は、一定の水圧を掛けながら逆浸透膜81の表面に水素ブロー水を流すことによって、水分子とイオン成分等の不純物とを分離する。ROフィルタ装置80は、逆浸透膜81を透過した透過水を純水として取出口84から取り出し、逆浸透膜81を透過せずに濃縮された濃縮水を排水口85から排出する。
【0063】
ハウジング82は、逆浸透膜81を収容する略円筒形状の筐体である。ハウジング82には、粗フィルタ装置30を透過した水素ブロー水を取り込むための取込口83と、逆浸透膜81を透過した透過水を取り出すための取出口84と、逆浸透膜81を透過しなかった濃縮水を排水するための排水口85とが形成される。取込口83および取出口84には、水素ライン19が接続される。また、排水口85には、濃縮水を系外へ排水する排水ライン19bが接続される。
【0064】
水電解装置100では、水素気液分離器12と貯水タンク15との間に配置された逆浸透膜81によって水素ブロー水に含まれるイオン成分が除去されるため、透過水に含まれるイオン成分を低減することができる。また、水電解装置100では、水素気液分離器12側の圧力(高圧)と貯水タンク15側の圧力(低圧)との圧力差を利用するため、ポンプ等の動力源を水素ライン19ヘ追加する必要性がない。従って、水電解装置100によれば、動力源を追加することなく水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去して、イオン成分を低減した透過水を水素の製造に再利用することができる。
【0065】
また、逆浸透膜81は酸化剤に弱いという特性が一般的に知られているが、水電解装置100では、水素ライン19に逆浸透膜81が配置されている。そのため、水電解装置100によれば、酸化剤による逆浸透膜81の劣化を防ぎつつ、水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去することができる。
【0066】
〔水電解装置の制御〕
(透過水の流量制御)
図7は、水電解装置100における透過水の流量制御の一例を示すフローチャートである。制御部20は、制御弁91の弁開度を調整することにより、透過水の流量を制御する。水電解装置100の運転停止時において制御弁91は閉じられており、水電解装置100の運転が開始されると制御部20は図7に示す制御を繰り返し実行する。
【0067】
流量制御が開始されると、制御部20は、水電解槽10が運転中か否かを判定する(S1)。例えば、制御部20は直流電源11から水電解槽10への電力の供給状態等に基づいて水電解槽10が運転中か否かを判定する。水電解槽10が運転中であると判定した場合(S1でYES)、制御部20は、弁開度が初期設定値となるように制御弁91を開く(S2)。一方、水電解槽10が運転中でないと判定した場合(S1でNO)、制御部20は制御弁91が閉じた状態を維持する。
【0068】
次に、制御部20は、S2にて制御弁91を開いた後、水素気液分離器12の液面レベルL2が、基準レベルCLよりも高いか否かを判定する(S3)。
【0069】
図8は、図1に示される水素気液分離器12の内部構造を示す断面図である。図8に示すように、水素気液分離器12には、基準となる液面レベルL2である基準レベルCL(例えば200mm)、基準レベルCLよりも液面レベルL2が高い調整レベル高MH(例えば220mm)および基準レベルCLよりも液面レベルL2が低い調整レベル低ML(例えば180mm)の3つのレベルが予め設定されている。図8では、水素気液分離器12の液面レベルL2が、基準レベルCLと調整レベル高MHとの間に位置する状態を例示している。
【0070】
水素気液分離器12の液面レベルL2が急激に変動した場合、水電解装置100の酸素側と水素側との圧力バランスが崩れ、高分子電解質膜等が破損する可能性がある。そこで、水電解装置100では、水素気液分離器12の液面レベルL2に基づいて透過水の流れを調整することにより、酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ透過水の流量を調整する。
【0071】
具体的には、制御部20は、信号線SL1を介して水素気液分離器12の液面レベルL2の計測値を取得し、取得した液面レベルL2が基準レベルCLよりも高いか否かを判定する。液面レベルL2が基準レベルCLよりも高いと判定した場合(S3でYES)、制御部20は、制御弁91を制御して、弁開度を初期設定値よりも大きくする(S4)。これにより、制御部20は、水素ライン19を流れる透過水の流量を増加させ、基準レベルCLに近づくように水素気液分離器12の液面レベルL2を低下させる。一方、液面レベルL2が基準レベルCL以下と判定した場合(S3でNO)、制御部20は、水素気液分離器12の液面レベルL2が、調整レベル低MLよりも高いか否かを判定する(S5)。
【0072】
液面レベルL2が調整レベル低MLよりも高いと判定した場合(S5でYES)、制御部20は、制御弁91を制御して、弁開度を初期設定値よりも小さくする(S6)。これにより、制御部20は、水素ライン19を流れる透過水の流量を減少させ、基準レベルCLに近づくように水素気液分離器12の液面レベルL2を上昇させる。一方、液面レベルL2が調整レベル低ML以下と判定した場合(S5でNO)、制御部20は、制御弁91を制御して、弁開度を0にする(S7)。これにより、制御部20は、水素ライン19を流れる透過水の流量を0にし、基準レベルCLに近づくように水素気液分離器12の液面レベルL2を上昇させる。
【0073】
このように、制御部20は、水電解槽10の運転中、水素気液分離器12の液面レベルL2に基づいて透過水の流量を適宜調整する。これにより、水電解装置100の酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ透過水の流れを適切に調整することができる。
【0074】
(濃縮水の排水制御)
図9は、水電解装置100における濃縮水の排水制御の一例を示すフローチャートである。制御部20は、開閉弁93の開閉を切り替えることにより、濃縮水の排水タイミングを制御する。水電解装置100の運転停止時において開閉弁93は閉じられており、水電解装置100の運転が開始されると制御部20は図9に示す制御を繰り返し実行する。
【0075】
排水制御が開始されると、制御部20は、水電解槽10が運転中か否かを判定する(S11)。水電解槽10が運転中であると判定した場合(S11でYES)、制御部20はカウンタをリセットし、カウントを開始する(S12)。一方、水電解槽10が運転中でないと判定した場合(S11でNO)、制御部20は、開閉弁93が閉じた状態を維持する。
【0076】
次に、制御部20は、カウント開始から所定時間経過したか否かを判定する(S13)。カウント開始から所定時間経過したと判定した場合(S13でYES)、制御部20は、水素気液分離器12の液面レベルL2が、調整レベル低MLよりも高いか否かを判定する(S14)。液面レベルL2が調整レベル低MLよりも高いと判定した場合(S14でYES)、制御部20は、開閉弁93を制御して、弁を開く(S15)。これにより、排水ライン19bを濃縮水が流れるようになり、ROフィルタ装置80から排出された濃縮水が系外へ排水される。一方、液面レベルL2が調整レベル低ML以下と判定した場合(S14でNO)、制御部20は、制御弁91が弁を閉じた状態を維持する。
【0077】
一方、S13のカウント開始から所定時間経過していないと判定した場合(S13でNO)、つまりカウント開始から所定時間経過するまでの間に、制御部20は、水素気液分離器12の液面レベルL2が、調整レベル高MHよりも高いか否かを判定する(S16)。
【0078】
液面レベルL2が調整レベル高MHよりも高いと判定した場合(S16でYES)、制御部20は、開閉弁93を制御して、弁を開く(S15)。これにより、排水ライン19bを濃縮水が流れるようになり、ROフィルタ装置80から排出された濃縮水が系外へ排水される。
【0079】
ここで、S12のカウント開始から所定時間経過するまでの間に液面レベルL2が調整レベル高MHよりも高くなった場合、逆浸透膜81の目詰まり、または高分子電解質膜の破損等が生じている可能性がある。そこで、液面レベルL2が調整レベル高MHよりも高いと判定した場合(S16でYES)、水電解装置100に異常が生じている可能性があるか否を判定する異常判定制御を実行する。なお、異常判定制御の詳細は後述する。
【0080】
次に、制御部20は、S15にて開閉弁93を開いた後、液面レベルL2が調整レベル低ML以下になったか否かを判定する(S17)。液面レベルL2が調整レベル低ML以下でないと判定した場合(S17でNO)、制御部20は液面レベルL2が調整レベル低ML以下になるまで、S17を継続する。一方、液面レベルL2が調整レベル低ML以下になっている判定した場合(S17でYES)、制御部20は、開閉弁93を閉じて、濃縮水の排水を終了する(S18)。
【0081】
このように、制御部20は、水素気液分離器の液面レベルL2に基づいて、濃縮水の排水タイミングを適宜調整する。これにより、水電解装置100の酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ濃縮水の排水を適切に調整することができる。
【0082】
なお、制御部20は、水素気液分離器の液面レベルL2に関わらず、濃縮水が定期的に排水されるように、開閉弁93の開閉を制御してもよい。このように、濃縮水を定期的に排水することにより、逆浸透膜81の目詰まりを防止することができる。
【0083】
(異常判定制御)
図10は、図9に示される異常判定制御の一例を示すフローチャートである。例えば水電解槽10の運転開始から所定期間内に水素気液分離器12の液面レベルL2が調整レベル高MHよりも急激に高くなった場合、逆浸透膜81の目詰まり、または高分子電解質膜の破損等が生じている可能性がある。
【0084】
そのため、S16にて液面レベルL2が調整レベル高MHよりも高いと判定した場合(S16でYES)、制御部20は、水電解装置100に異常が生じている可能性があるか否を判定する異常判定を実行する。
【0085】
異常判定制御では、制御部20は、水素気液分離器12および酸素気液分離器13への流入水量、逆浸透膜81の透過水量に関する水電解槽10の運転状況、制御弁91の弁開度等に基づいて、水電解装置100に異常が生じている可能性があるか否を判定する(S21)。
【0086】
例えば、水素ライン19を透過水が流れ難くなっている場合、具体的には制御弁91の弁開度に対する透過水の流量が所定閾値よりも小さい場合、逆浸透膜81の目詰まりが生じている可能性がある。また、開閉弁93を開いても水素気液分離器12の液面レベルL2が低下しない場合、具体的には図9に示すS15にて開閉弁93を開いてから一定時間経過しても液面レベルL2が調整レベル高MH以下にならない場合、高分子電解質膜の破損等が生じている可能性がある。このような場合、制御部20は、水電解装置100に異常が生じている可能性があると判定する。
【0087】
なお、透過水の流れ易さ(難さ)には、制御弁91の弁開度の他、水素ブロー水の水温(粘性)、逆浸透膜81の前後の圧力差および水電解槽10における電解電流(高分子電解質膜の透過水量に比例)等の値が影響する。このため、制御部20は、制御弁91の弁開度に加えて、これらの値の少なくとも1つを取得し、逆浸透膜81の目詰まりが生じている可能性があるか否かを判定してもよい。
【0088】
水電解装置100に異常が生じている可能性があると判定した場合(S21でYES)、制御部20は、水電解装置100に異常が生じている可能性があることを使用者に警告する(S22)。警告の方法は特に限定されないが、例えば、警告内容をディスプレイに表示する、警告灯を点灯させる、または警告音を発する等が挙げられる。一方、水電解装置100に異常が生じている可能性がないと判定した場合(S21でNO)、制御部20は、警告することなく、異常判定制御を終了する。
【0089】
〔水電解装置の効果〕
以上のように、水電解装置100は、高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる水電解槽10と、陰極において発生した水素と水とを分離して、該水を分離水として放出する水素気液分離器12と、水素気液分離器12から放出された水素ブロー水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜81を含むROフィルタ装置80と、逆浸透膜81を透過した透過水を貯水する貯水タンク15とを備える。
【0090】
水電解装置100では、水素気液分離器12と貯水タンク15との間に配置された逆浸透膜81によって水素ブロー水に含まれるイオン成分が除去されるため、透過水に含まれるイオン成分を低減することができる。従って、本実施形態によれば、イオン成分を低減した透過水を水素の製造に再利用可能な水電解装置100を実現することができる。
【0091】
また、水電解装置100によれば、イオン成分を低減した水素ブロー水を水素の製造に再利用可能になるため、純水の消費量(補給量)を低減することができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0092】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御部20の機能は、当該制御部20としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0093】
この場合、前記装置は、前記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前記プログラムを実行することにより、前記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0094】
前記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、前記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して前記装置に供給されてもよい。
【0095】
また、前記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0096】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る水電解装置は、高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる水電解槽と、前記陰極において発生した水素と水とを分離して、該水を分離水として放出する水素気液分離器と、前記水素気液分離器から放出された前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置と、前記逆浸透膜を透過した透過水を貯水する貯水タンクと、を備える。
【0097】
前記構成では、水素気液分離器と貯水タンクとの間に配置された逆浸透膜によって分離水に含まれるイオン成分が除去されるため、透過水に含まれるイオン成分を低減することができる。従って、前記構成によれば、イオン成分を低減した透過水を水素の製造に再利用することができる。
【0098】
本発明の態様2に係る水電解装置では、前記態様1において、前記フィルタ装置と前記貯水タンクとの間に配置され、前記透過水の流れを調整する第1調整機構をさらに備えてもよい。
【0099】
水電解装置の運転中は水素気液分離器が加圧されており、貯水タンク側よりも水素気液分離器側が高圧になっている。仮に水素気液分離器とフィルタ装置との間(すなわち、フィルタ装置の上流側)に第1調整機構を配置した場合、第1調整機構によってフィルタ装置へ流入する分離水の圧力低下が生じる可能性がある。前記構成によれば、フィルタ装置と貯水タンクとの間、つまりフィルタ装置の下流側に第1調整機構が配置されているため、上述したフィルタ装置へ流入する分離水の圧力低下を回避することができる。
【0100】
本発明の態様3に係る水電解装置では、前記態様2において、前記第1調整機構は、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて前記透過水の流れを調整してもよい。
【0101】
水素気液分離器の液面レベルが急激に変動した場合、水電解装置の酸素側と水素側との圧力バランスが崩れ、高分子電解質膜等が破損する可能性がある。前記構成によれば、水素気液分離器の液面レベルに基づいて透過水の流れを調整することにより、酸素側と水素側との圧力バランスが保ちつつ透過水の流れ(流量)を調整することができる。
【0102】
本発明の態様4に係る水電解装置では、前記態様2または3において、前記第1調整機構の下流側に配置され、前記透過水に含まれる水素を分離する第1分離機構をさらに備えてもよい。
【0103】
第1調整機構の作用によって透過水の圧力低下が生じた場合、透過水に溶存する水素が透過水中で気泡状になる。前記構成によれば、第1調整機構の下流側に第1分離機構を配置することにより、透過水から水素(気泡)を分離することができる。
【0104】
本発明の態様5に係る水電解装置では、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記分離水が前記逆浸透膜を透過することなく濃縮された結果生じた濃縮水を前記フィルタ装置から排水する排水ラインと、前記排水ラインに配置され、前記濃縮水の流れを調整する第2調整機構と、をさらに備えてもよい。
【0105】
前記構成によれば、フィルタ装置から濃縮水を排水することにより、逆浸透膜の目詰まり(ファウリング)を防止することができる。また、フィルタ装置から排水される濃縮水の流れを第2調整機構によって調整することにより、排水量または排水タイミングを制御することができる。
【0106】
本発明の態様6に係る水電解装置では、前記態様5において、前記第2調整機構は、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて、または前記濃縮水が定期的に排水されるように、前記排水ラインにおける前記濃縮水の流れを調整してもよい。
【0107】
前記構成によれば、水素気液分離器の液面レベルに基づいて濃縮水の流れを調整することにより、酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ濃縮水を排水することができる。また、濃縮水を定期的に排水することによりで、逆浸透膜の目詰まりを防止することができる。
【0108】
本発明の態様7に係る水電解装置では、前記態様5または6において、前記第2調整機構の下流側に配置され、前記濃縮水に含まれる水素を分離する第2分離機構をさらに備えてもよい。
【0109】
第2調整機構の作用によって濃縮水の圧力低下が生じた場合、濃縮水に溶存する水素が濃縮水中で気泡状になる。前記構成によれば、第2調整機構の下流側に第2分離機構を配置することにより、濃縮水から水素(気泡)を分離することができる。
【0110】
本発明の態様8に係る水電解装置の制御方法は、水電解装置の制御方法であって、高分子電解質膜を用いて水を分解し、陰極に水素を発生させる工程と、前記陰極において発生した水素と水とを水素気液分離器によって分離して、該水を分離水として放出する工程と、
前記分離水に含まれるイオン成分を除去する逆浸透膜を含むフィルタ装置の前記逆浸透膜を透過した透過水の流れを、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて調整する工程と、を含む。
【0111】
前記方法では、逆浸透膜によって分離水に含まれるイオン成分が除去されるため、透過水に含まれるイオン成分を低減することができる。従って、前記方法によれば、イオン成分を低減した透過水を水素の製造に再利用することができる。
【0112】
また、水素気液分離器の液面レベルが急激に変動した場合、水電解装置の酸素側と水素側との圧力バランスが崩れ、高分子電解質膜等が破損する可能性がある。前記方法によれば、水素気液分離器の液面レベルに基づいて透過水の流れを調整することにより、酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ透過水の流れを調整することができる。
【0113】
本発明の態様9に係る水電解装置の制御方法では、前記態様8において、前記水電解装置は、前記分離水が前記逆浸透膜を透過することなく濃縮された結果生じた濃縮水を前記フィルタ装置から排水する排水ラインをさらに備え、前記水素気液分離器の液面レベルに基づいて、または前記濃縮水が定期的に排水されるように、前記排水ラインにおける前記濃縮水の流れを調整する工程をさらに含んでもよい。
【0114】
前記方法によれば、水素気液分離器の液面レベルに基づいて濃縮水の流れを調整することにより、酸素側と水素側との圧力バランスを保ちつつ濃縮水を排水することができる。または、前記方法によれば、濃縮水を定期的に排水することにより、逆浸透膜の目詰まりを防止することができる。
【0115】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0116】
10 水電解槽
12 水素気液分離器
15 貯水タンク
80 ROフィルタ装置(フィルタ装置)
81 逆浸透膜
91 制御弁(第1調整機構)
92 第1分離器(第1分離機構)
93 開閉弁(第2調整機構)
94 調整弁(第2調整機構)
95 第2分離器(第2分離機構)
100 水電解装置
L2 液面レベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10