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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】管体内面除染装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20241122BHJP
   B08B 9/027 20060101ALI20241122BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20241122BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20241122BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20241122BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
B23K26/36
B08B9/027
B23K26/082
B23K26/142
B23K26/352
G21F9/28 B
G21F9/28 501B
G21F9/28 551Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021138639
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2022054423
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020161019
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光浩
(72)【発明者】
【氏名】宇野 哲生
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-210290(JP,A)
【文献】特開平8-110396(JP,A)
【文献】特開平9-304593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B08B 9/027
B23K 26/082
B23K 26/142
B23K 26/352
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振器から集光光学系を介して内部に導かれたレーザー光を偏角する偏角手段を有し、その両端が保持手段によって保持された除染対象の管体の内面に照射させるために前記管体内に挿入される筒状体を外殻とするレーザー光照射手段と、
該レーザー光照射手段を、前記管体内の軸方向に直動させる直動駆動機構と、前記偏角手段を、前記筒状体の軸心線周りに回転させる回転駆動機構とを備えた駆動手段と、
前記管体内に圧縮空気を供給する圧縮空気送気手段と、
を備え、
前記駆動手段の運転動作によって前記レーザー光照射手段を、前記管体内で直動させるとともに前記偏角手段を前記筒状体の軸心線周りに回転させ、前記偏角手段によって偏角されたレーザー光を、前記管体内面に照射させて前記管体内面の放射性物質を削剥し、前記圧縮空気送気手段によって前記管体内に形成された空気流で、削剥された前記放射性物質を除染物として前記管体内から排出させることを特徴とする管体内面除染装置。
【請求項2】
前記回転駆動機構は、前記筒状体の軸心線周りに回転可能な前記偏角手段を支持する羽根車を有し、該羽根車を、前記圧縮空気送気手段から供給された圧縮空気流によって回転させて前記偏角手段を回転させる請求項1記載の管体内面除染装置。
【請求項3】
前記羽根車は、前記筒状体の端面にスラスト軸受を介して回転可能に支持された請求項2に記載の管体内面除染装置。
【請求項4】
前記圧縮空気は、前記羽根車を回転させた後に、空気流として前記管体内に供給され、前記管体内で削剥された前記放射性物質を除染物として前記管体内から排出させる請求項2または請求項3に記載の管体内面除染装置。
【請求項5】
前記空気流の排出側に設けられた除染物回収手段に、前記空気流中の除染物が捕集される請求項1または請求項4に記載の管体内面除染装置。
【請求項6】
前記回転駆動機構は、前記筒状体の軸心線周りに回転可能な前記偏角手段を支持する回転筒体からなり、該回転筒体を、電動モータによって回転制御させて前記偏角手段を回転させる請求項1記載の管体内面除染装置。
【請求項7】
前記レーザー光照射手段は、内部をその軸心線方向に沿って進行する前記レーザー光を、前記偏角手段で前記軸心線に略直角をなすように偏角させ、前記管体の内面に照射させる請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の管体内面除染装置。
【請求項8】
前記保持手段は、前記管体の軸心線と、前記レーザー光照射手段の軸心線とが略一致するように前記管体の両端を、気密性を確保して保持可能な請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の管体内面除染装置。
【請求項9】
前記偏角手段は、前記レーザー光を略直角に反射させて前記管体内面を照射するように支持され反射ミラーである請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の管体内面除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管体内面除染装置に係り、特に管体内面が放射性物質で汚染された小口径の配管等の管体内面から放射性物質を除去するための管体内面除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の廃止措置に伴う廃炉、発電所施設の解体作業において、放射性物質が管体内面に付着し、あるいは管体内面の表面金属が放射能を帯びたような放射性廃棄物としての小口径配管類が大量に発生する。これらの小口径配管類の管体内面をクリアランスレベルまで除染して放射性廃棄物量を減量する技術が種々開発、提案されている。
【0003】
その一例として、鋭角形状の投射材(ブラスト材)を管体内面に投射して小口径配管の管体内面の除染を行うようにした乾式除染装置が提案されている(非特許文献1)。この乾式除染装置は、大量の微小な鋭角形状をした鋼片投射材を管体内面に投射することで、従来の鋼球を用いたブラスト装置に比べて短時間での管体内面の除染を行えるとしている。
【0004】
また、電解液を管体内面に噴射して小口径配管の内面の除染を行うようにした電解除染装置も提案されている(非特許文献2)。この電解除染装置は、電解液を管体内面に噴射しながら管内を移動可能な電極を用いて管体内面を電解研磨することで、管体内面を効率よく除染することが可能である。
【0005】
非特許文献1に開示された乾式除染装置は、管体内面に投射された投射材の押し込みによって放射性廃棄物が残存して除染効率が落ちるというおそれがある。また、使用され回収された投射材を二次廃棄物として取り扱う必要があるという問題がある。電解除染装置においても、二次廃棄物として回収された電解液の処理工程、処理設備、管洗浄及び乾燥等の付加工程、付加設備が必要となるという問題がある。
【0006】
上述した各装置では、投射材、電解液等の二次廃棄物を取り扱う工程、設備が必要となる。これに対して、これらのような二次廃棄物を発生させず、また除去物質をガス化させることで後処理工程を容易に行えるようにした除染技術としてレーザーによる除染方法がある(特許文献1)。
【0007】
この除染方法では、除染を行う材料にレーザー光を照射して材料表面の放射性酸化物層を除去する工程が示されている。その実施例では、除染対象の配管材内にレーザー光の光路を構成するガイドパイプが挿入され、このガイドパイプ内に設置されたビームスプリッタと反射ミラーとによってレーザー光は直角に偏角され配管材の内面に照射される。このとき配管材は回転機構を備えた移動台車上に載置され、回転機構を駆動することで配管材を軸心周りに回転させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】土田大輔、他1名、“小口径配管廃棄物の内面除染方法の開発(その3)”、[online]、2018年8月20日発刊、日本原子力学会、[2019年9月10日検索]、インターネット<URL:https://confit.atlas.jp/guide/event/aesj2018f/subject/1F17/advanced>
【文献】丸山聡、他5名、“配管用電界除染装置の開発”、[online]、2018年8月20日発刊、日本原子力学会、[2019年9月10日検索]、インターネット<URL:https://confit.atlas.jp/guide/event/aesj2018f/subject/1F18/advanced>
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-110396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された発明の実施例によれば、配管材の内面の除染作業は、上述したレーザー発生装置で発生させたレーザー光がガイドパイプを通じて配管材内に導光され、集光レンズ(照射光学装置)を介して配管材の内面の一点に合焦するように照射される。配管材の内面全体の除染を行うためには、配管材を移動台車上に載置された状態で配管材の軸方向に所定量移動させるとともに、台車上の回転機構によって配管材の軸心周りに所定量回転させることで、照射位置を移動させていく必要がある。
【0011】
このとき、ガイドパイプはレーザー光の照射位置にあわせて配管材の開放端から挿入され保持され、照射位置直近には除去物回収装置の吸込口等が配置されるようになっている。この吸込口から配管材内面から取り除いた除去物を吸引して除去物回収装置に回収するようになっている。
【0012】
特許文献1に開示された発明では、除染対象の配管材のレーザー光の照射位置は、移動台車の移動に伴って調整されるため、移動台車の移動量の制御に所定の精度が必要で、駆動系も制御の精度に対応した動作が求められる。また、除去物回収装置も移動台車の移動に伴って移動させる必要があるため、装置全体の構成が大がかりになるという問題もある。さらに、ガス化した除去物を除去物回収装置の吸引機能で回収するが、発生ガスを完全に吸引することができないので、発生ガスを確実に作業環境下に留めるための付加設備も必要である。
【0013】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、配管等の管体内面の除染を効率よく行え、除染物を確実に回収できるようにした管体内面除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の管体内面除染装置は、レーザー発振器から集光光学系を介して内部に導かれたレーザー光を偏角する偏角手段を有し、その両端が保持手段によって保持された除染対象の管体の内面に照射させるために前記管体内に挿入される筒状体からなるレーザー光照射手段と、該レーザー光照射手段を、前記管体内の軸方向に直動させる直動駆動機構と、前記偏角手段を、前記筒状体の軸心線周りに回転させる回転駆動機構とを備えた駆動手段と、前記管体内に圧縮空気を供給する圧縮空気送気手段とを備え、前記駆動手段の運転動作によって前記レーザー光照射手段を、前記管体内で直動させるとともに前記偏角手段を回転させ、前記偏角手段によって偏角されたレーザー光を、前記管体内面に照射させて前記管体内面の放射性物質を削剥し、前記圧縮空気送気手段によって前記管体内に形成された空気流で、削剥された前記放射性物質を除染物として前記管体内から排出させることを特徴とする。
【0015】
前記回転駆動機構は、前記筒状体の軸心線周りに回転可能な前記偏角手段を支持する羽根車を有し、該羽根車を、前記圧縮空気送気手段から供給された圧縮空気流によって回転させて前記偏角手段を回転させることが好ましい。
【0016】
前記羽根車は、前記筒状体の端面にスラスト軸受を介して回転可能に支持されることが好ましい。
【0017】
前記圧縮空気は、前記羽根車を回転させた後に、空気流として前記管体内に供給され、前記管体内で削剥された前記放射性物質を除染物として前記管体内から排出させることが好ましい。
【0018】
前記空気流の排出側に設けられた除染物回収手段に、前記空気流中の除染物が捕集されることが好ましい。
【0019】
前記回転駆動機構は、前記筒状体の軸心線周りに回転可能な前記偏角手段を支持する回転筒体からなり、該回転筒体を、電動モータによって回転制御させて前記偏角手段を回転させることが好ましい。
【0020】
前記レーザー光照射手段は、内部をその軸心線方向に沿って進行する前記レーザー光を、前記偏角手段で前記軸心線に略直角をなすように偏角させ、前記管体の内面に照射させることが好ましい。
【0021】
前記保持手段は、前記管体の軸心線と、前記レーザー光照射手段の軸心線とが略一致するように前記管体の両端を、気密性を確保して保持することが好ましい。
【0022】
前記偏角手段は、前記レーザー光を略直角に反射させて前記管体内面を照射するように支持され反射ミラーとすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の管体内面除染装置の第1実施形態の構成を、各部材の縦断面図とブロック図とで示した装置構成図。
図2図1に示した管体内面除染装置のレーザー光照射プローブの一構成例を示した部分拡大断面図。
図3】レーザー光照射プローブの変形例の構成を示した部分拡大断面図。
図4】レーザー光照射プローブの他の変形例の構成を示した部分拡大断面図。
図5】本発明の第1実施形態の管体内面除染装置による管体内面の除染作業の状態を示した状態説明図。
図6】本発明の管体内面除染装置の第2実施形態の構成を、各部材の縦断面図とブロック図とで示した装置構成図。
図7図6に示した管体内面除染装置のレーザー光照射プローブの一構成例を示した部分拡大断面図。
図8】本発明の第2実施形態の管体内面除染装置による管体内面の除染作業の状態を示した状態説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の管体内面除染装置の第1実施形態の構成について、図1を参照して説明する。
【0025】
図1は、除染対象となる所定長さに切断された管体1がセットされた、本発明の第1実施形態の管体内面除染装置10の全体構成を示した装置構成図である。本図において、形態、動作が発明の特徴となる部位以外の公知の構成からなる設備、手段については、ブロック図で示している。本発明の除染対象となる管体1の例としては、解体された原子力発電所設備において大量に発生する、放射性物質で汚染された小口径配管(φ10~100mm)を想定している。なお、本発明の管体内面除染装置10によって除染対象の管体内面(表面)から取り除かれる物質としては、管体表面に付着した放射性物質や、放射能を帯びた管体1の表面金属がレーザー光Lの照射により削剥されガス化し、さらに粒状に再固結した放射性廃棄物粒子があるが、本発明の装置による除染作業によって回収される種々の粒子化した放射性廃棄物を総称して「除染物」と記す。
【0026】
管体内面除染装置10は、除染対象となる管体1の一端を保持するレーザー光照射ユニット11と、管体1の他端を保持する除染物回収ユニット12と、レーザー光照射プローブ20(以下、プローブ20と記す。)に軸方向移動および偏角手段としての反射ミラー22(後述する。)の回転動作を付与する駆動系30とから構成される。
【0027】
レーザー光照射ユニット11は、レーザー発振器15と、レーザー発振器15からのレーザー光Lを管体内面に照射するレーザー光照射プローブ20(後述する。)と、レーザー光Lをレーザー光照射プローブ20に導く光路上に設けられた集光光学系16とから構成されている。
【0028】
[レーザー光照射ユニットの各部の構成]
レーザー発振器15は、本実施形態では出力300W程度の連続波(CW)レーザー光Lを発振可能な公知の発振器からなる。レーザー光Lは、レーザー発振器15から光路上の集光光学系16を介してプローブ20の後端に導かれる。レーザー光Lは、集光光学系16内のレンズ群(図示せず)により平行光にコリメートされて細いビーム状に集光され、後端プローブ20内に配線された光ファイバー18を導光路としてプローブ20内に導かれる。
【0029】
プローブ20は、図1図2各図に示したように、除染対象となる管体1の内径より十分小さな外径のステンレススチール製の細長円筒からなる。図2各図は、一実施形態としての細長円筒形状のプローブ20の一部を示している。プローブ20は、内部に収容された、レーザー光の光路の偏角手段としての反射ミラー22を軸心線X(図2(a))周りに回転駆動するミラー回転機構35の軸方向の前後で前端プローブ20Aと、後端プローブ20Bとに区分されている。レーザー光の光路の偏角手段としては、所定の鏡面が形成されたガラス製、金属製の反射ミラー22の他、直角プリズム22(図2(c))、ハーフミラー、ビームスプリッタ等の好適な光学素子を用いることは言うまでもない。ハーフミラー、ビームスプリッタの光学素子を用いた場合、光学素子を透過したレーザー光は光路上に別の反射ミラー等を配置することで、すでに反射光が偏角された箇所と別の箇所で偏角(反射)させるようにしてもよい。
【0030】
前端プローブ20A内には、プローブ20の軸心線Xから距離e(図2(a))だけ偏心した位置にミラー支持軸21が軸心線Xに平行をなして設けられている。このミラー支持軸21の先端には軸心線Xと約45°をなして反射ミラー22が取り付けられている。反射ミラー22の取り付け位置に対応した前端プローブ20部分にはステンレススチールに代えて全周にわたりプローブ20と同一外径からなる円筒形状の透明ガラス部材が嵌め込まれており、このガラス部分が反射ミラー22で反射したレーザー光Lの射出窓23として機能する。この構成により、プローブ20は、レーザー光Lの照射手段として、レーザー発振器15で発生し、集光光学系16を介して管体1内に導かれたレーザー光Lを、内蔵された偏角手段としての反射ミラー22によって、その軸線方向に沿って導かれた状態からほぼ90°に偏角させてプローブ20が挿入されている管体1の内面に向けて照射させることができる。
【0031】
[除染物回収ユニットの構成]
除染物回収ユニット12は、レーザー光Lの照射により管体内面から削り剥がされた(以下、レーザー光Lの照射により管体表面が所定の厚さで削り剥がされる行為を削剥と記す。)除染物dを管体1内から排出するための圧縮空気を管体の後端側のホルダ17Bに設けられたエアノズル26から管体1内に圧縮空気を供給する圧縮空気送気手段25と、管体1内に送気された圧縮空気によって管体1内から排出された除染物dを捕集して回収、除去する公知の除染物回収手段27から構成されている。
【0032】
圧縮空気送気手段25は、圧源として公知の圧縮空気ボンベとレギュレーター(図示せず)とを有し、プローブ20による管体内面の除染作業中、管体1に所定圧、風量の圧縮空気を供給し、内部に空気流fを形成する。
【0033】
排出路29上に設けられた除染物回収手段27は、内部にHEPAフィルタ、活性炭フィルタ等の排気フィルタ28を備え、内蔵されたブロア(図示せず)の運転により管体内面から削剥された除染物dを含む圧縮空気を吸気し、内部の排気フィルタ28で濾過して除染物dを捕集し、清浄空気を装置外に排気する。
【0034】
管体1の保持手段として、管体1の両端部を保持するホルダ17A,17Bは、架台18上に支持された、管体1を保持する側の直径が大きな円錐台形の硬質ゴム製筒体からなる。これらホルダ17A,17Bで管体1の両端を適切な把持力を軸方向に加えて挟持することで、管体1の軸心線とホルダ17A,17Bの軸心線とを略一致させつつ管体1の先端(除染物回収側)、後端(レーザー光照射側)を、気密性を確保した状態で保持することができる。除染対象の配管径が決まっている場合には、ホルダ17A,17Bの形状は管体に、気密性を確保して外接可能な円筒形状等としてもよい。また、管体を保持する部位にパッキン等の気密性を保持する部材を付加した鋼管等を使用してもよい。
【0035】
[駆動系の構成]
駆動系30は、第1の駆動系としての直動機構31と、第2の駆動系としてのミラー回転機構35とからなる。直動機構31は、プローブ20が、図1に示したように、除染対象の配管内をその軸心線に沿って直線運動できるように、制御部32からの動作指令を受けてリニアガイド33に沿って移動させることができる。直動機構としては、リニアガイドに沿って伸縮可能なシリンダロッド、ベルトドライブ機構、ラックピニオン機構を用いることができる。ミラー回転機構35は、前端プローブ20側に取り付けられたミラー支持軸21を所定回転数でプローブ20の軸心線X(図2(a))周りに回転させるプローブ20内に収容された回転筒体からなるモータ機構で、筒体内に内蔵された、図示しない回転モータと変速機とで構成され、制御部32からの動作指令を受けて反射ミラー22を所定の回転数、回転方向で回転させる。このミラー回転機構35による反射ミラー22の回転動作は、プローブ20の直動機構31の直動動作とリンクして設定することができる。
【0036】
直動機構31によるプローブ20の直動動作と、ミラー駆動機構35による反射ミラー22の回転動作とのリンクについて、簡単に説明する。レーザー光Lの管体内面への照射は、反射ミラー22を1回転させることで、レーザー光Lのスポット径を幅とする1周分(360°)の照射が可能となる。この間に直動機構31によりプローブ20をスポット径分だけ軸方向に移動させることで、レーザー光Lは管体内面に対して略らせん形をなして照射される。この動作を連続させることにより管体内面を漏れなく照射して管体内面の除染を行うことができる。直動機構31による軸方向移動は、反射ミラー22の1回転ごとのステップ動作としてもよいことはいうまでもない。
【0037】
[プローブの変形例]
プローブ20(前端プローブ20)の変形例について、図3,4を参照して説明する。図3各図は、反射ミラー22がミラー支持軸21に対してステッピングモータ41を介して取り付けられたプローブ20を示している。このプローブ20では、ステッピングモータ41のステップ動作により反射ミラー22の取付角度を微小角度ずつ変化させることができる。このため、反射ミラー22で偏角されたレーザー光Lを管体内面に所定範囲を設けて照射することができる。このステッピングモータ41の動作と、プローブ20の直動機構31(図1)との連係によりレーザー光Lによる管体内面の削剥動作を効率よく行うことができる。上述したように、反射ミラー22に代えて、直角プリズム等の光学素子を用いてもよい。
【0038】
図4各図は、内部に反射ミラー42が設置された細径の筒状体43からなるプローブ20を示している。この筒状体43では、同図に示したように、先端部分に反射ミラー42が筒状体43の軸心線Xに対して略45°をなして収容され、筒状体43の反射ミラー42の位置に対応する部位にレーザー光Lの射出窓44が設けられている。そしてミラー回転機構35の動作により筒状体43が軸心線X周りに制御されて回転することができる。このプローブ20は、反射ミラー42を内蔵した筒状体43自体がプローブ20として機能するため、部品点数の少ないコンパクトなプローブ20を実現することができる。この場合にも反射ミラー42に代えて、直角プリズム等の光学素子を用いてもよい。
【0039】
[管体内面の除染作業]
本発明の第1実施形態の管体内面除染装置10を用いた配管等の管体内面の除染作業を行う手順について、図5各図を参照して説明する。
図5(a)は、除染対象の管体1の両端がホルダ17A,17Bに保持された状態を示している。プローブ20はその先端がホルダ17Bに位置し、ホルダ17Bの細径端と気密性を確保した状態で摺動可能に密着している。同図には管体内面の削剥に先立ち、圧縮空気送気手段25のエアノズル26から圧縮空気が管体1内に送気され、管体1内に空気流fが形成されている状態が示されている。この状態で直動機構31(図1)を動作させてプローブ20を管体1内に進行させ、プローブ20のレーザー光射出窓23が管体1の端部を通過したらレーザー光Lを管体内面に照射開始する(図5(b))。レーザー光Lの管体内面への照射は、上述したように、あらかじめ制御されたミラー回転機構35、プローブ20の直動機構31の連係動作によって行われる。レーザー光Lが照射された管体1の表面は、レーザー光のエネルギーによって放射性物質が付着した薄層が削剥されると同時にガス化し、気中にて微小粒子として再固結する。管体1内には十分な風量の空気流fが形成されているため、微小粒子としての除染物dは空気流fによって管体1内を先端側に送られ、排気管29を介して除染物回収手段27の排気フィルタ28に捕集され、清浄空気は装置外に排気される(図5(c))。管体内面の除染作業は、プローブ20を管体1の先端部まで進行させることで管体全長にわたり行われる。反射ミラー22の回転動作、レーザー光Lの照射はレーザー光Lの照射箇所が管体1の先端部に到達した段階で終了する(図5(d))。レーザー光Lの照射開始、終了のタイミングはプローブ20に公知の位置センサを備えてもよいし、装置にセットする除染対象の管体1の全長をあらかじめ認識させ、それをプローブ20の移動量として設定してもよい。
【0040】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の管体内面除染装置の全体構成を示した装置構成図である。この第2実施形態の装置では、上述した駆動系30の構成に対して、駆動系130が採用されている。本実施形態における除染対象の管体1は、同図に示したように、前端が第1実施形態のホルダ17Aと同形のホルダ117Aで、後端が後述するプローブ120のミラー回転機構135を収容可能な有底円筒形状のホルダ117Bで保持され、その保持状態で駆動系130によりプローブ120を管体1内で進行させ、プローブ120からの管体1の内周面(以下、管体内面)へのレーザー光Lの照射により、管体内面の除染が行われる。レーザー光Lは、第1実施形態と同様に、レーザー発振器15から光路上の集光光学系16内のレンズ群(図示せず)により平行光にコリメートされて細いビーム状に集光され、後端プローブ120B内まで配線された光ファイバー18を導光路としてプローブ120内に導かれる。なお図6は、図1に示した第1実施形態の装置構成に対応する図であり、同一構成の他の部材には同一符号が付されている。
【0041】
本実施形態で用いられる駆動系130は、同図に示したように、第1実施形態の直動機構31とほぼ同様の構成からなる第1の駆動系としての直動機構131と、第1実施形態と異なる技術的特徴を有する第2の駆動系としてのミラー回転機構135とからなる。第1の駆動系としての直動機構131は、制御部132からの動作指令を受けてリニアガイド133に沿って染対象の管体1内をその軸心線X方向に沿って往復直線運動することができる。
【0042】
以下、第2駆動系としてのミラー回転機構135を含む第2実施形態のプローブ120の構成について、図7(a)を参照して説明する。プローブ120は、第1実施形態と同様に、ミラー回転機構135の軸方向の前後で前端プローブ120Aと、後端プローブ120Bとに区分されている。前端プローブ120Aと後端プローブ120Bとは、ともに第1実施形態のものより短尺の円筒形状の鋼製管体からなり、前端プローブ120Aには、第1実施形態と同様に、透明ガラス部材からなる射出窓123が形成されている。前端プローブ120Aの後端側には軸心線X周りに回転可能な羽根車140(インペラ)がスラスト軸受145を介して支持されている。一方、円筒形状の後端プローブ120Bは、管体中央部分が後述する送気カバー125の後端開口125aの内周面に嵌まるようにして固定保持されている。後端プローブ120Bの長さは、図7(b)に示したように、プローブ120をホルダ117Bに装着した状態で、後端プローブ120Bがホルダ117Bの後端開口で確実に支持される程度に設定されている。なお、図7(b)は、後述する図8(b)に示されたプローブ120とホルダ117Bの状態を拡大して示した図に相当する。
【0043】
プローブ120自体は、前端プローブ120Aと後端プローブ120Bが送気カバー125を介して一体接合され、部材長手方向に直動する部材として機能する。このときスラスト軸受145に支持され、送気カバー125内に収容された羽根車140は、直動するプローブ120内で、さらに軸心線X周りに回転する部材として機能する。回転駆動源については後述する。
【0044】
羽根車140は、図7(a)に示したように、大径ハブ141及び小径ハブ142の直径の異なる2段形状の円筒形状のロータハブからなり、大径ハブ141の端面と小径ハブ142の端部側周面とがスラスト軸受145に支持されている。大径ハブ141の外周面には、複数枚の小さな動翼143が周方向に沿って所定間隔をあけて取り付けられている。各動翼143は、翼前方から当たる風を受けて揚力風車として機能する翼型形状に設計されている。小径ハブ142の前端プローブ120A側の端面には、反射ミラー122を支持するミラー支持軸121が軸心線Xに対して所定の偏心距離eをあけて取り付けられている。なお、羽根車140に取り付けられる翼は、羽根車140を効率よく回転させるとともに、羽根車140の背後に十分な空気流を送れるような形状であれば、各種の翼型形状を採用することができることはいうまでもない。
【0045】
本実施形態のスラスト軸受145は、図7(a)に示したように、玉軸受構造からなり、ハウジング軌道盤145aは前端プローブ120Aの端面に堅固に支持されている。一方、軸軌道盤145bは、上述したように、ロータハブの大径ハブ141の端面と小径ハブ142との端部接合部の外周面に支持されている。よって、スラスト軸受145に支持された羽根車140は、固定部としての前端プローブ120A側に対して軸心線X周りに自由回転することができる。本実施形態では、羽根車140のロータハブの回転駆動源として圧縮空気送気手段25から供給された圧縮空気が用いられている。この圧縮空気Aは、たとえば図8(b)に示したように、本来、管体1内に送気され、管体内面から剥離した除染物dを管体1外まで排出するために機能するが、その前段階で、送気管先端の噴射ノズル126を介してロータハブの動翼143の一面に噴射されるようになっている(図7(b))。
【0046】
送気カバー125の構成について、図7(a)を参照して説明する。本実施形態の送気カバー125は、プローブ120の外周面に取り付けられて前端プローブ120Aと後端プローブ120Bとを一体連結するとともに、羽根車140に向けて噴射された圧縮空気の流れを規制し、さらに羽根車140を通過した圧縮空気を整流して管体1内に供給する役割を果たす。送気カバー125は、圧縮空気の出口側である前端プローブ120A側が開放し、後端プローブ120Bの円筒管体側が円曲面状となるカップ形状からなり、開口側は、前端プローブ120A側の外周面に放射状に配設された棒状フレーム126に圧縮空気が抵抗なく通過できるように支持されている。
【0047】
送気カバー125の羽根車140の下流側の内周面には、複数枚の固定翼127が内周面に沿って所定間隔をあけて取り付けられている。固定翼127は、羽根車140を高速回転させて通過して乱流状態の圧縮空気を整流する役割を果たす。送気カバー125の肩部外側にはリングパッキン128が装着されている。このリングパッキン128は、プローブ120が管体内に進行した際に、管体1の内周面と密着し、圧縮空気が送気カバー125の外側面を介して管体1の後方に漏気するのを防止する役割を果たす(図6図8(c)参照)。
【0048】
以下、圧縮空気による羽根車140の回転、および管体1内への送気状況について、図7(b)を参照して説明する。図7(b)は、内部にプローブ120を収容したホルダ117Bが除染対象の管体1の後端部に気密性を保持して取り付けられ、圧縮空気送気手段25から供給された圧縮空気によって、羽根車140が高速回転し、反射ミラー122がプローブ120の軸心線X周りに回転した状態を示している。
【0049】
圧縮空気送気手段25から供給された圧縮空気は、同図に示したように、送気パイプ先端の噴射ノズル126を介してロータハブの動翼143の一面に噴射される。動翼143に当たる圧縮空気によって動翼143上面に揚力が生じ、その分力が羽根車140の回転成分となって羽根車140を回転させる。羽根車140の高速回転に伴い、羽根車140の小径ハブ142の端面に支持されたミラー支持軸121が軸心線X周りに回転し、反射ミラー122も同図に示したように回転する。羽根車140を高速回転させて通過した圧縮空気Aは乱流となるが、固定翼127が設けられた領域を通過することで整流され、除染対象の管体1内に安定した空気流として流れ込む。これにより、後述する除染作業によって管体内面から剥離した除染物dは、確実に管体外まで排出される。なお、圧縮空気を供給する送気パイプ129は、その先端の噴射ノズル126が羽根車140の近傍に位置するように送気カバー125の後端プローブ120Bの円筒管体に沿って延設され、ホルダ117Bに設けられた切欠部((図示せず))を自由に通過することができる。また、羽根車140の回転速度は圧縮空気の風力に依存するが、小径ハブ142内に減速機(図示せず)を内蔵させ、反射ミラー122の回転速度を制御することも好ましい。
【0050】
[管体内面の除染作業]
第2実施形態の管体内面除染装置10を用いた配管等の管体内面の除染作業を行う手順について、図8各図を参照して説明する。
図8(a)は、除染対象の管体1の両端をホルダ117A,117Bで保持する直前の状態を示している。このときプローブ120は円筒形状のホルダ117B内に収容されており、ホルダ117A,117Bを管体1の前後端に密着させることで管体1とホルダ117A,117Bとの間に気密性が確保される。図8(b)に示した状態では、ホルダ117Bが管体1の後端にセットされた状態でプローブ120の前端プローブ120Aのレーザー光射出窓123が管体1の端部の内周面に相対している。この状態でプローブ120に取り付けられた送気カバー125内に位置する噴射ノズル126から圧縮空気を羽根車140に向けて噴射するとともに、レーザー光Lを管体内面に照射開始する(図8(b))。圧縮空気Aを受けた羽根車140は高速回転し、ロータハブの小径ハブ142に支持された反射ミラー122も軸心線X周りに高速回転する。軸心線X方向に進行するレーザー光Lは、この高速回転している反射ミラー122に当たって偏向され、管体内面へ連続した円周状に照射される。このとき羽根車140を通過した圧縮空気Aは送気カバー125内で整流されて十分な風量の空気流fとして管体1内に送られる。以後、あらかじめ制御されたミラー回転機構135、プローブ120の直動機構131(図6)の連係動作によってプローブ120による管体内周面の除染が行われる。
【0051】
図8(c)は、プローブ120が管体の長手方向のほぼ中程に到達した状態を示している。レーザー光Lが照射された管体1の表面は、レーザー光Lのエネルギーによって放射性物質が付着した薄層が削剥されると同時にガス化し、気中にて微小粒子として再固結する。管体1内には羽根車140を通過した十分な風量の空気流fが形成されているため、第2実施形態の場合も、第1実施形態の場合と同様に、微小粒子としての除染物dは空気流fによって管体1内を先端側に送られ、排気管29を介して除染物回収手段27の排気フィルタ28に捕集され、清浄空気は装置外に排気される(図8(b)、(c))。管体内面の除染作業は、プローブ120を管体1の先端部まで進行させることで管体全長にわたり行われる。反射ミラー122の回転動作、レーザー光Lの照射はレーザー光Lの照射箇所が管体1の先端部に到達した段階で終了する(図8(d))。レーザー光Lの照射開始、終了のタイミングは、第1実施形態と同様に、プローブ120に公知の位置センサを備えてもよいし、装置にセットする除染対象の管体1の全長をあらかじめ認識させ、それをプローブ120の移動量として設定してもよい。
【0052】
以上に説明した第2実施形態に示されたミラー回転機構135以外の部材構成については、第1実施形態で述べた部材構成を各種適用できることは言うまでもない。また、第1実施形態、第2実施形態を説明する各図では、水平に設置された管体1の内面の除染を行う態様が描かれているが、管体1を立てるようにして鉛直方向に設置して管体内面の除染を行うような装置としてもよい。この場合には、除染物dは自重で落下するとともに、下向きの空気流fによって強制的に効率的に排出させることができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 管体
10 管体内面除染装置
11 レーザー光照射ユニット
12 除染物回収ユニット
15 レーザー発振器
16 集光光学系
17A,17B 117A,117B ホルダ
20,120 レーザー光照射プローブ(プローブ)
22,42,122 反射ミラー
25 圧縮空気送気手段
26 エアノズル
27 除染物回収手段
28 排気フィルタ
30,130 駆動系
31,131 直動機構
35,135 ミラー回転機構
125 送気カバー
126 噴射ノズル
140 羽根車
145 スラスト軸受
d 除染物
f 空気流
L レーザー光
X 軸心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8