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特許7592010制御ラジカル逆相乳化重合によるポリマーの合成方法
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  • 特許-制御ラジカル逆相乳化重合によるポリマーの合成方法 図1
  • 特許-制御ラジカル逆相乳化重合によるポリマーの合成方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】制御ラジカル逆相乳化重合によるポリマーの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20241122BHJP
   C08F 2/32 20060101ALI20241122BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F2/32
C08F20/56
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021524203
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2019052609
(87)【国際公開番号】W WO2020094963
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】1860202
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510338248
【氏名又は名称】エスエヌエフ・グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・リード
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・ルブラン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102382230(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102746476(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104695385(CN,A)
【文献】特開2017-082246(JP,A)
【文献】Huan PENG et al.,Water-Soluble ReactiveCopolymers Based on Cyclic N-Vinylamides with Succinimide Side Groups forBioconjugation with Proteins,Macromolecules,2015年07月02日,Vol. 48,No. 13,pp.4256-4268,DOI: 10.1021/acs.macromol.5b00947
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/38
C08F 2/32
C08F 20/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆相乳化重合によってポリマーを調製する方法であって、
a)少なくとも1種の水溶性モノマー及び少なくとも1種の式(I)の水溶性前駆体を含む水性相を調製する工程と、
【化1】
(式中、
・ ZはO又はSであり、
・ R1及びR2は同一又は異なっており、
・ 置換されていてもよいアルキル、アシル、アルケニル若しくはアルキニル基(i)、或いは、
・ 飽和若しくは不飽和の、置換されていてもよい炭素系の環(ii)、又は芳香族の炭素系の環(ii)、或いは
・ 飽和若しくは不飽和の、置換されていてもよい複素環(iii)、又は芳香族の複素環(iii)を表し、
これらの基及び環(i)、(ii)及び(iii)は、置換芳香族基、又はアルコキシカルボニル若しくはアリールオキシカルボニル(-COOR)、カルボキシ(-COOH)、アシルオキシ(-O2CR)、カルバモイル(-CONR2)、シアノ(-CN)、アルキルカルボニル、アルキルアリールカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルキルカルボニル、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、アミジノ、グアニジノ、ヒドロキシ(-OH)、アミノ(-NR2)、ハロゲン、アリル、エポキシ、アルコキシ(-OR)、S-アルキル、S-アリール、親水性若しくはイオン性を有する基によって置換されていてもよく、
Rはアルキル又はアリール基を表し、
・ Aは、n個の同一又は異なるモノマーを含む直鎖状又は構造化ポリマー鎖であり、
・ nは4から500の間の整数である)
b)親油性溶媒及び少なくとも1種の油中水型界面活性剤を含む有機相を調製する工程と、
c)水性相と有機相を撹拌混合して、逆エマルションを形成する工程と、
d)逆エマルションが形成された後、前記逆エマルションにラジカル重合開始剤を添加し、少なくとも1種の水溶性モノマーを重合することによってポリマーを得る工程
を含み、
水性相が、12,500:1から300,000:1の間の水溶性モノマー/前駆体比を有し、得られるポリマーの分子量が、質量で1,250,000から30,000,000の間であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
ZがOであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
- ZがOであり、
- Aが、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のカチオン性モノマーを含む、1から100個のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー鎖である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
- ZがOであり、
- Aが、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個の会合性のカチオン性モノマーを含む、1から100個のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー鎖である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
- ZがOであり、
- Aが、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のLCST基を含むモノマーを含む、1から100個のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー鎖である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前駆体が式(II)
【化2】
(式中、nは1から100の間の整数である。)
であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水溶性モノマーが、非イオン性モノマー、アニオン性モノマー、並びに非イオン性モノマー及びアニオン性モノマーの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
水溶性モノマーが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン(ACMO)、グリシジルメタクリレート、グリセリルメタクリレート及びジアセトンアクリルアミドを含む群から選択される非イオン性モノマーであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水溶性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、アリルスルホン酸、アリルホスホン酸、スチレンスルホン酸から選択されるアニオン性モノマー、塩形成されていない前記アニオン性モノマー、部分的又は完全塩形成されている前記アニオン性モノマー、及び3-スルホプロピルメタクリレートの塩を含む群から選択されるアニオン性モノマーであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
得られるポリマーが、2以下の多分散度を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
R1及びR2が、同一又は異なっており、1から20個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、2から20個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアシル基、2から20個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、2から20個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキニル基を含む群から選択され、
Rが、1から20個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を表すことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆エマルション中での新規なラジカル重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のラジカル重合は実施が容易であるため、工業レベルで高分子量のポリマーを合成する経路として最適な方法である。実際に、従来のラジカル重合は広範囲なモノマーに対して応用可能であり、モノマーが担持する官能基や反応媒体中に存在する不純物に寛容であり、再現性があり、均質又は不均質媒体中で適合性があり、水を含むプロトン性溶媒中での実行が可能である。
【0003】
しかし、この手法では正確な連鎖長を得ることはできない。更に、異なるサイズの連鎖により、相当に高い分散が示されるものと思われる。2種類のモノマーの従来のラジカル共重合中に、一方の種類のモノマーが、他方の種類のモノマーよりもより早く消費された場合には、組成ドリフトも生じる。高分子構造及び制御された微細構造を有するポリマーを得ることは、その場合困難であることが分かる。
【0004】
リビングイオン重合で制御された構造を得ることは可能であるが、実施は困難であり、不純物、水及び/又は微量の酸素を含まない媒体等の厳しい条件が求められる。
【0005】
可逆的不活性化ラジカル重合(RDRP)は、従来のラジカル重合の実施容易性と、イオン重合の リビング性(liveliness)の両方を兼ね備えている。
【0006】
RDRPは、ヨウ素移動重合(ITP)、ニトロキシドによって制御される重合であるNMP(ニトロキシド媒介重合)、原子移動によって制御される重合であるATRP(原子移動ラジカル重合)、MADIX技術(MAcromolecular Design by Interchange of Xanthates:ザンテートの交換反応による高分子設計)を包含するRAFT(可逆的付加開裂連鎖移動重合)、有機金属化合物を用いた重合の種々のバリエーションであるOMRP(有機金属媒介ラジカル重合)、ヘテロ原子含有化合物によって制御されるラジカル重合(有機ヘテロ原子媒介ラジカル重合(OHRP))等の手法を合わせたものである。
【0007】
これらの手法のすべては、図1に示すような、ドーマント種と活性種(成長マクロラジカル)間の可逆的平衡に基づいている。
【0008】
この活性化-不活化プロセスによって、モノマーを完全に消費するまで連鎖を同じ速度で成長させることができるため、ポリマーの分子量を制御して狭い分子量分布を得ることが可能になる。これにより組成の不均質性を最小にすることも可能になると思われる。成長連鎖を可逆的に不活性化することは、不可逆的な停止反応を最小にすることの起源にある。大部分のポリマー連鎖はドーマント形態を保っており、それ故、再活性化し得る。更に他の重合様式を開始するために、又は連鎖を延長するために、連鎖の末端を官能化することが可能である。これが高分子量の制御された組成と構造を得るための鍵である。
【0009】
制御ラジカル重合は、それ故、以下の特徴的な態様を有する。
1.ポリマー連鎖の数が、反応の持続期間全体を通して固定される。
2.ポリマー連鎖はすべて同じ速度で成長し、
・ 分子量の線形増加
・ 緊密な分子量分布
をもたらす。
3.平均分子量が、モノマー/前駆体のモル比によって制御される。
【0010】
制御された特性は、ラジカル連鎖の再活性化速度が、連鎖の成長(プロパゲーション)速度と比較して非常に大きいときに一層顕著である。しかし、ある場合においては、ラジカル連鎖の再活性化速度はプロパゲーション速度よりも大きいか又は等しい。これらの場合には条件1及び2が認められず、その結果分子量を制御することが不可能になる。
【0011】
特許EP 991 683には、直接エマルション制御ラジカル重合が記載されている。この重合様式では、ポリマーを回収する工程、例えば真空蒸着等が必要である。特許EP 991 683に記載されているポリマーは、親油性モノマーの重合によって得られる。従って、エマルション重合の場合は、エマルションは直接エマルションであり、モノマーは分散相すなわち有機相中で重合される。提示された手法では、低分子量のブロックポリマーがもたらされる。
【0012】
特許出願WO 2012/042167では、ゲル重合経路が使用されている。水溶性前駆体が使用されているが、この手法では高分子量のポリマーを得ることは可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許EP 991 683
【文献】特許出願WO 2012/042167
【文献】特許FR 2 868 783
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
出願人が解決することを提案する課題は、高分子量であると同時に、有利には2より低い低多分散指数を有する水溶性ポリマーを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、逆相乳化重合によってポリマーを調製するための方法であって、
a)少なくとも1種の水溶性モノマー及び少なくとも1種の式(I)の水溶性前駆体を含む水性相を調製する工程と、
前駆体
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、
・ ZはO、S又はNであり、
・ R1及びR2は同一又は異なっており、
・ 置換されていてもよいアルキル、アシル、アルケニル若しくはアルキニル基(i)、或いは、
・ 飽和若しくは不飽和の、置換されていてもよい炭素系の環(ii)、又は芳香族の炭素系の環(ii)、或いは
・ 飽和若しくは不飽和の、置換されていてもよい複素環(iii)、又は芳香族の複素環(iii)を表し、
これらの基及び環(i)、(ii)及び(iii)は、置換芳香族基、又はアルコキシカルボニル若しくはアリールオキシカルボニル(-COOR)、カルボキシ(-COOH)、アシルオキシ(-O2CR)、カルバモイル(-CONR2)、シアノ(-CN)、アルキルカルボニル、アルキルアリールカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルキルカルボニル、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、アミジノ、グアニジノ、ヒドロキシ(-OH)、アミノ(-NR2)、ハロゲン、アリル、エポキシ、アルコキシ(-OR)、S-アルキル、S-アリール、親水性若しくはイオン性を有する基、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸のアルカリ金属塩、ポリアルキレンオキシド連鎖(POE、POP)、カチオン性置換基(四級アンモニウム塩)によって置換されていてもよく、
Rはアルキル又はアリール基を表し、
・ Aは、n個の同一又は異なるモノマーを含む直鎖状又は構造化ポリマー連鎖であり、
・ nは1から500の間の、有利には2から500の間の整数である)
b)親油性溶媒及び少なくとも1種の油中水型界面活性剤を含む有機相を調製する工程と、
c)水性相と有機相を撹拌混合して逆エマルションを形成する工程と、
d)逆エマルション形成後に、前記逆エマルションにラジカル重合開始剤を添加し、少なくとも1種の水溶性モノマーを重合することによってポリマーを得る工程
を含む、方法に関する。
【0018】
式(I)において、R1及びR2は、同一又は異なっており、有利には(i)の基(アルキル、アシル、アルケニル又はアルキニル)を表し、より有利には、1から20個の炭素原子、好ましくは1から10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、2から20個の炭素原子、好ましくは2から10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアシル基、2から20個の炭素原子、好ましくは2から10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基、又は2から20個の炭素原子、好ましくは2から10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキニル基から選択される基を表し、これらの基は、1個又は複数の、4から7個の炭素原子を含んでもよい置換芳香族基、又はアルコキシカルボニル若しくはアリールオキシカルボニル(-COOR)、カルボキシ(-COOH)、アシルオキシ(-O2CR)、カルバモイル(-CONR2)、シアノ(-CN)、アルキルカルボニル、アルキルアリールカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルキルカルボニル、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、アミジノ、グアニジノ、ヒドロキシ(-OH)、アミノ(-NR2)、ハロゲン、アリル、エポキシ、アルコキシ(-OR)、S-アルキル、S-アリール、親水性若しくはイオン性を有する基、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸のアルカリ金属塩、ポリアルキレンオキシド連鎖(POE、POP)、カチオン性置換基(四級アンモニウム塩)で置換されていてもよい。
【0019】
Rは、有利には、1から20個の炭素原子、好ましくは1から10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は6から10個の炭素原子を含むアリール基を表す。
【0020】
有利には、炭素環(ii)は6から10個の炭素原子を含む。一方、複素環(iii)は、有利には5から9個の炭素原子を含む。
【0021】
炭素原子を含む基は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基である。更に、複素環は1個又は複数のヘテロ原子、有利にはN、O、S又はPを含む。
【0022】
モノマーは、重合によってポリマーを形成することが可能な分子、有利にはビニル不飽和(CH2=CH-及び少なくとも1個の水素の置換によって形成されるその誘導体)を有する分子を意味する。説明の明確さに影響を及ばさないように、モノマーという用語は、その重合した形態中のモノマーのことも指す。つまり、アクリルアミドモノマーは、CH2=CH-C(=O)NH2だけでなく、-(CH2-CH(C(=O)NH2))-のパターンをも示す。
【0023】
NR2官能基においては、2個のR基が互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
工程d)により、水溶性ポリマーを得ることが可能である。水溶性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーである。
【0025】
「逆エマルション」という表現は、逆エマルション及び逆マイクロエマルションの両方を示す。これらは油中水型のエマルションであり、その中では水性相が液滴又は小液滴の形態で有機相に分散している。
【0026】
「水溶性前駆体」という表現は、25℃の温度において、少なくとも50g/lの割合で水に溶解する前駆体を示す。この定義は、言及される他の水溶性化合物(ポリマー、モノマー等)にも関係する。
【0027】
一般的に、ポリマー連鎖Aは、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のカチオン性モノマーを含む。有利には、Aは少なくとも2個の同一のモノマーを含む。
【0028】
以下の様々な種類のモノマーを、水性相のモノマー又は前駆体のポリマー連鎖A中のモノマーとして使用することができる。
【0029】
本発明の枠組みの中で使用できる非イオン性モノマーは、具体的には、水に溶解するビニルモノマーを含む群から選択することができる。このクラスに属する好ましいモノマーは、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン(ACMO)、グリシジルメタクリレート、グリセリルメタクリレート及びジアセトンアクリルアミドである。好ましい非イオン性モノマーはアクリルアミドである。
【0030】
アニオン性モノマーは、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、アリルスルホン酸、アリルホスホン酸、スチレンスルホン酸であって、前記アニオン性モノマーが塩形成されていないもの、部分塩形成又は完全塩形成されたもの、及び3-スルホプロピルメタクリレートの塩から選択される。塩形成形態は、有利には、アルカリ金属(Li、Na、K等)、アルカリ土類金属(Ca、Mg等)又はアンモニウム塩、特に四級アンモニウム塩に相当する。
【0031】
本発明に関して使用することができるカチオン性モノマーは、具体的には、アクリルアミド型、アクリリック、ビニル、アリル又はマレイック型のモノマーから選択することができ、これらは塩形成又は四級化による四級アンモニウム官能基を有する。具体的には、四級化ジメチルアミノエチルアクリレート(ADAME)、四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート(MADAME)、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド(DADMAC)、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)が挙げられるがこれらに限定されず、前記カチオン性モノマーは塩形成されていないか、部分的又は完全に塩形成されている。
【0032】
カチオン性モノマーは、特許FR 2 868 783に記載の通り、会合性のカチオン性モノマーから選択することもできる。
【0033】
モノマーは、任意選択で、アクリルアミド型、アクリリック、ビニル、アリル又はマレイック型の両性イオンモノマーであってもよく、それらはアミン又は四級アンモニウム官能基と、カルボン酸型、スルホン酸型又はリン酸型の酸性官能基を有する。具体的には、2-((2-(アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)エタン-1-スルホネート、3-((2-(アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート、4-((2-(アクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)ブタン-1-スルホネート、[2-(アクリロイルオキシ)エチル)](ジメチルアンモニオ)アセテート等のジメチルアミノエチルアクリレートの誘導体、2-((2-(メタクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)エタン-1-スルホネート、3-((2-(メタクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート、4-((2-(メタクリロイルオキシ)エチル)ジメチルアンモニオ)ブタン-1-スルホネート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル)](ジメチルアンモニオ)アセテート等のジメチルアミノエチルメタクリレートの誘導体、2-((3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)エタン-1-スルホネート、3-((3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート、4-((3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)ブタン-1-スルホネート、[3-(アクリロイルオキシ)プロピル)](ジメチルアンモニオ)アセテート等のジメチルアミノプロピルアクリルアミドの誘導体、2-((3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)エタン-1-スルホネート、3-((3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート、4-((3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ)ブタン-1-スルホネート、及び[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル)](ジメチルアンモニオ)アセテート等のジメチルアミノプロピルメチルアクリルアミドの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
モノマーは、任意選択で、LCST基又はUCST基を有することができる。
【0035】
当業者の一般知識によれば、LCSTを示す基(group at LCST)は、決められた濃度に対する水への溶解性が、ある温度を超えると変わる基、及びそれが塩分濃度に応じて変わる基に相当する。この基は、加熱により、溶媒媒体との親和性の欠如を定める転移温度を示す基である。溶媒との親和性を欠くと、不透明化すなわち透明度の消失が起こるが、その原因は、沈殿、凝集、ゲル化、又は媒体の高粘度化(viscosification)のことがある。最低転移温度は「LCST」(下限臨界溶液温度)と呼ばれる。LCSTを示す各基濃度に対して、加熱転移温度を観測する。それは曲線の最小点であるLCSTよりも高い。この温度よりも低いとポリマーは水に溶解し、この温度よりも高いとポリマーは水への溶解性を失う。
【0036】
通常、LCSTは目視で測定できる。溶媒との親和性の欠如が生じる温度、すなわち曇り点を決定する。曇り点は、溶液の不透明化すなわち透明度の消失に相当する。
【0037】
LCSTは、例えばDSC(示差走査熱量測定)、透過率測定、又は粘度測定等によって、相転移の種類に応じて決定することもできる。
【0038】
好ましくは、LCSTは、以下のプロトコルに従った透過率による曇り点の決定により決定する。
【0039】
転移温度は、LCSTを示す化合物を対象に、脱イオン水中に前記化合物を1質量%の質量濃度で有する溶液に対して測定する。曇り点は、溶液が、400から800nmの間の波長を有する光線の透過率が85%に等しいことを示す温度に相当する。
【0040】
つまり、溶液が85%に等しい透過率を示す温度は、LCSTを示す化合物、この場合マクロモノマーの最低LCST転移温度に相当する。
【0041】
一般に、透明な組成物は、400から800nmの間のいずれの波長であれ、1cmの厚みの試料により、最低で85%の、好ましくは最低で90%の最大光透過率の値を示す。このことが、曇り点が85%の透過率に相当する根拠である。
【0042】
当業者の一般知識によれば、UCST基は、決められた濃度に対する水への溶解性が、ある温度より下がると変わる基、及びそれが塩分濃度に応じて変わる基に相当する。この基は、溶媒媒体との親和性を欠く境界を定める、冷却転移温度を有する基である。溶媒との親和性を欠くと、不透明化すなわち透明度の消失が起こるが、その原因は、沈殿、凝集、ゲル化、又は媒体の高粘度化のことがある。最大転移温度は「UCST」(上限臨界溶液温度)と呼ばれる。UCSTの各基濃度に対して、冷却転移温度を観測する。それは曲線の最小点であるUCSTよりも高い。この温度より高いとポリマーは水に溶解し、この温度より低いとポリマーは水への溶解性を失う。
【0043】
本発明及びそれによってもたらされる利益は、限定することなく本発明を説明するために提供された、以下の図や実施例により更に明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】可逆的不活性化によるラジカル重合方法における、ドーマント種と活性種の間の可逆的平衡を示す図である。
図2】実施例1の式(I)の水溶性前駆体のプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H NMR)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
好ましい実施形態によれば、前駆体は式(I)であり、式中、
・ ZはOである。
【0046】
別の好ましい実施形態によれば、前駆体は式(I)であり、式中、
・ ZはOであり、
・ Aは、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のカチオン性モノマーを含む1から100個(有利には2から100個)のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー連鎖である。
【0047】
別の好ましい実施形態によれば、前駆体は式(I)であり、式中、
・ ZはOであり、
・ Aは、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個の会合性のカチオン性モノマーを含む1から100個(有利には2から100個)のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー連鎖である。
【0048】
別の好ましい実施形態によれば、前駆体は式(I)であり、式中、
・ ZはOであり、
・ Aは、少なくとも1個の非イオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のアニオン性モノマー及び/又は少なくとも1個のLCSTを示す基を含むモノマーを含む、1から100個(有利には2から100個)のモノマーから得られる直鎖状又は構造化ポリマー連鎖である。
【0049】
有利には、Aはn個の同一の非イオン性モノマーからなる。より好ましくは、Aはポリアクリルアミドである。
【0050】
別の好ましい実施形態によれば、前駆体は以下の式(II)
【0051】
【化2】
【0052】
(式中、「n」は1から100、好ましくは1から50の間の整数を示す。)
である。
【0053】
別の実施形態によれば、式(I)又は式(II)において、「n」は2から100、好ましくは3から100、より好ましくは4から50の間の整数を示す。
【0054】
本発明によれば、エマルション中の前駆体の量は、エマルションの質量に対して5.10-7%から5%の間、好ましくは5.10-4%から5.10-2%の間であってよい。
【0055】
水性相中の水溶性モノマー/前駆体のモル比は、有利には12,500:1から300,000:1の間、好ましくは、27,500:1から250,000:1の間、より好ましくは27,500:1から10,000:1の間である。
【0056】
ラジカル重合開始剤は、ラジカル重合において従来使用されている開始剤から選択することができる。ラジカル重合開始剤は、例えば、以下の開始剤の1つであってよい。
- ターシャリーブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシオクトエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、ラウロイルペルオキシド、t-アミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウムを含む群から選択されたもの等の過酸化水素類、
- 2-2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-ブタンニトリル)、4,4'-アゾビス(4-ペンタン酸)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(t-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(1,1)-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチルアミジン)ジクロリド、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジクロリド、2,2'-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチルアミド)、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド)、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド)、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、及び2,2'-アゾビス(イソブチルアミド)二水和物を含む群から選択されたもの等のアゾ化合物、
- 以下を含む群から選択されたもの等の組み合わせを含む還元系:
・ a)水素若しくはアルキルの、過酸化物、過酸エステル、又は過炭酸塩等、b)鉄の任意の塩、チタン塩、ホルムアルデヒドスルホキシル酸亜鉛、又はホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、及びc)還元糖の混合物、
・ メタ重亜硫酸ナトリウム等のアルカリ金属の重亜硫酸塩及び還元糖と組み合わせた、アルカリ金属若しくはアンモニウムの、過硫酸塩、過ホウ酸塩又は過塩素酸塩、並びに
・ ベンゼンホスホン酸等のアリルホスホン酸及び還元糖と組み合わせたアルカリ金属の過硫酸塩。
【0057】
水性相で使用する種々のモノマーは、前駆体のポリマー連鎖Aにも関連する記載中の上記の各リストから選択することができる。有利には、モノマーは非イオン性モノマー、アニオン性モノマー、並びに非イオン性モノマー及びアニオン性モノマーの混合物を含む群から選択される。
【0058】
有利には、本発明によって得られるポリマーは、1,250,000から30,000,000(3000万)g/molの間、好ましくは2,750,000から25,000,000g/molの間の分子量を有する。分子量は、質量平均分子量として理解する。
【0059】
本発明によって得られるポリマーの多分散指数(Ip)は、有利には、最大で2(≦2)、好ましくは最大で1.5(≦1.5)である。多分散指数は、以下の式によって求められる。
Ip=Mw/Mn
Mwは質量平均分子量である。
Mnは数平均分子量である。
【0060】
質量(Mw)による平均分子量の決定及び数(Mn)による平均分子量の決定は、従来の方式で行い、有利には、Dawn Heleos II型18 angles(Wyatt technology社)の多角度光散乱検出器と連結したサイズ排除クロマトグラフィー(CES)によって行う。
【0061】
別の態様によれば、本発明は、上記の重合方法によって得られるポリマーの、原油及びガス産業、水圧破砕、紙、水処理、建設、採鉱、化粧品、繊維又は洗剤における使用に関する。好ましくは、ポリマーは、原油及びガスの回収増強の分野において使用される。
【実施例1】
【0062】
水溶性前駆体の合成
2kgのO-エチル-S-(1-メトキシカルボニル)エチルジチオカルボネート、10kgのアクリルアミド、12kgの水、20kgの酢酸及び140gのアゾ開始剤(V 044)を、室温(20℃)で、50kgの反応器に投入した。混合物を窒素でバブリングすることにより脱気し、次いで撹拌しながら60℃に加熱した。重合反応は撹拌しながら3時間行う。
【0063】
このようにして得られた水溶性前駆体は、式(I)に相当し、式中、
ZはOであり、
R1はCH2-CH3であり、
Aは(CH(C(=O)NH2)-CH2)nであり、
nは7であり、
R2はCH(CH3)-C(=O)-O-CH3である。
【0064】
この前駆体は、具体的には、D2O中での1H NMRスペクトル(300.13MHz)(図2)によって特性決定された。
【実施例2】
【0065】
本発明による逆エマルション中でのポリマーP1の合成
水性相の調製:400gのアクリルアミド(水中50質量%)、90gのアクリル酸、150gの水、及びエマルションに対して0.0015質量%の実施例1の水溶性前駆体を混合した。水性相は、90gの水酸化ナトリウム(50質量%水溶液)で中和した。
【0066】
有機相の調製:すべての油中水型界面活性剤(エマルションに対して2.5質量%のアルカノールアミド、及びエマルションに対して3質量%のステアリルメタアクリレート)を、200gのISOPAR型オイル(Isopar N及びL)中で混合した。
【0067】
水性相及び有機相を混合して乳化した。そのエマルションを次いで60分間脱気した後、還元剤のメタ重亜硫酸ナトリウム(SMB)を加えることによって重合を開始した。
【0068】
重合の終了時に、得られたポリマーをアセトン中で沈殿させることによって回収する。
【実施例3】
【0069】
逆エマルション中でのP2ポリマーの合成
ポリマーP2は、水溶性前駆体を次亜リン酸ナトリウムに置き換えて実施例2の通りに合成する。
【実施例4】
【0070】
逆相乳化ポリマーP3の合成
ポリマーP3は、水溶性前駆体を、式(I)(式中、ZはOであり、R1はCH2-CH3であり、R2はCH3であり、及びAはCH-(CH3)C(=O)-O-である)に相当する前駆体によって置き換えて実施例2の通りに合成するが、この場合(かつ本発明に反して)、Aはモノマーで存在しない。
【0071】
【化3】
【実施例5】
【0072】
ポリマーP1、P2及びP3の特性評価
3つのポリマーP1、P2及びP3を、サイズ排除クロマトグラフィー(CES)により、以下の条件:屈折率検出器(Optilab T-rEX、Wyatt Technology社、及びDawn Heleos II 18 angles、Wyatt Technology社)と連結した1本のShodex SB807-Gプレカラム及び2本のShodex OHpakカラムシリーズ(SB-807 HQ及びSB-805 HQ)、の下で分析した。
【0073】
【表1】
【0074】
数当量分子量(number equivalent molecular weight)においては、親水性前駆体存在下のポリマーの多分散度は、従来のラジカル重合によって調製したポリマーの多分散度よりもはるかに低い。
ポリマーP3の数分子量を制御することは困難であった。理由は使用した前駆体が水に溶解しないためであり、これは前駆体を用いない重合に相当するものである。
図1
図2