(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】クライオポンプシステム、クライオポンプのコントローラ、クライオポンプの運転開始方法
(51)【国際特許分類】
F04B 37/08 20060101AFI20241122BHJP
F04B 37/16 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F04B37/08
F04B37/16 A
(21)【出願番号】P 2021553401
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2020039093
(87)【国際公開番号】W WO2021085184
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2019196122
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】谷津 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 敏之
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170568(JP,A)
【文献】米国特許第05345787(US,A)
【文献】特開昭51-137674(JP,A)
【文献】特開平10-073078(JP,A)
【文献】特開平03-258976(JP,A)
【文献】特開2013-181448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
B01D 53/04
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備えるクライオパネルと、
前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを加熱する加熱装置と、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、
前記不燃性吸着材の温度または前記クライオポンプハウジングの内圧を示す測定信号を生成するセンサと、
再生開始指令を受け、前記測定信号に基づいて、(i)前記不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材から水を昇華させるように構成される昇華再生シーケンスまたは(ii)前記不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で前記真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材を脱水するように構成される脱水シーケンスのいずれかを選択し、選択されたシーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御するコントローラと、を備え
るクライオポンプ
と、
少なくとも1つの他のクライオポンプと、を備え、
前記ラフポンプは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプに共用され、
前記コントローラは、前記脱水シーケンスに続いて追加脱水シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、
前記追加脱水シーケンスは、前記ラフバルブを通じた前記クライオポンプハウジングの真空排気によって、または、前記真空排気と前記パージバルブを通じた前記クライオポンプハウジングへのパージガス供給を交互に繰り返すラフアンドパージによって、前記不燃性吸着材に残留する水を減らすように構成され、
前記コントローラは、前記脱水シーケンスを前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで並行して実行し、前記追加脱水シーケンスを前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで順番に実行することを特徴とするクライオポンプシステム。
【請求項2】
前記センサは、前記不燃性吸着材の温度を示す温度測定信号を生成する温度センサを含み、
前記コントローラは、前記温度測定信号に基づいて、前記不燃性吸着材が室温にあるとみなされる場合に前記脱水シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ
システム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記温度測定信号に基づいて、前記不燃性吸着材が前記室温より低い温度にあるとみなされる場合に前記昇華再生シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御することを特徴とする請求項2に記載のクライオポンプ
システム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記測定信号に代えて、再生開始指令を受ける直前のクライオポンプの状態に基づいて前記昇華再生シーケンスまたは前記脱水シーケンスのいずれかを実行するように前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記脱水シーケンスにおいて、前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを50℃以上に加熱するように前記加熱装置を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記脱水シーケンスにおいて、前記クライオポンプハウジングにパージガスを供給するように前記パージバルブを開くことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項7】
前記コントローラは、前記脱水シーケンスの間、前記ラフバルブを閉じ続けることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項8】
前記真空雰囲気の圧力は、100Pa未満であり、前記乾燥雰囲気の圧力は、少なくとも1000Paであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項9】
前記乾燥雰囲気の圧力は、少なくとも1気圧であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項10】
前記不燃性吸着材は、シリカゲルを主成分として含有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項11】
前記クライオポンプは、活性炭を有しないことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のクライオポンプ
システム。
【請求項12】
クライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備えるクライオパネルと、
前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを加熱する加熱装置と、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、
前記不燃性吸着材の温度または前記クライオポンプハウジングの内圧を示す測定信号を生成するセンサと、
再生開始指令を受け、前記測定信号に基づいて、(i)前記不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材から水を昇華させるように構成される昇華再生シーケンスまたは(ii)前記不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で前記真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材を脱水するように構成される脱水シーケンスのいずれかを選択し、選択されたシーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御するコントローラと、を備えるクライオポンプと、
少なくとも1つの他のクライオポンプと、を備え、
前記ラフポンプは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプに共用され、
前記コントローラは、前記脱水シーケンスに続いて前記昇華再生シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、
前記コントローラは、前記脱水シーケンスを前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで並行して実行し、前記昇華再生シーケンスを前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで順番に実行することを特徴とするクライオポンプシステム。
【請求項13】
それぞれが、
クライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備えるクライオパネルと、
前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを加熱する加熱装置と、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、
前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、を備える複数のクライオポンプと、
脱水シーケンスに従って前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、前記脱水シーケンスに続いて追加脱水シーケンスまたは昇華再生シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御するコントローラと、を備え、
前記ラフポンプは、前記複数のクライオポンプのうちあるクライオポンプと少なくとも1つの他のクライオポンプに共用され、
前記昇華再生シーケンスは、前記不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材から水を昇華させるように構成され、
前記脱水シーケンスは、前記不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で前記真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材を脱水するように構成され、
前記追加脱水シーケンスは、前記ラフバルブを通じた前記クライオポンプハウジングの真空排気によって、または、前記真空排気と前記パージバルブを通じた前記クライオポンプハウジングへのパージガス供給を交互に繰り返すラフアンドパージによって、前記不燃性吸着材に残留する水を減らすように構成され、
前記コントローラは、前記脱水シーケンスを前記あるクライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで並行して実行し、前記追加脱水シーケンスまたは前記昇華再生シーケンスを前記あるクライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで順番に実行することを特徴とするクライオポンプシステム。
【請求項14】
クライオポンプのコントローラであって、前記クライオポンプは、
クライオポンプハウジングと、前記クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備え
るクライオパネルと、前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを加熱する加熱装置と、前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、を備え、前記コントローラは、
前記不燃性吸着材の温度、前記クライオポンプ内の圧力、または前記クライオポンプのステータスを取得することと、
取得された前記不燃性吸着材の温度、前記クライオポンプ内の圧力、または前記クライオポンプのステータスに基づいて、(i)前記不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材から水を昇華させる昇華再生シーケンスまたは(ii)前記不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で前記真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材を脱水する脱水シーケンスのいずれかを選択することと、
前記昇華再生シーケンスおよび前記脱水シーケンスのうち、選択されたシーケンスを実行することと、を実行するように構成され
、
前記ラフポンプは、前記クライオポンプと少なくとも1つの他のクライオポンプに共用され、
前記実行することは、前記脱水シーケンスに従って前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、前記脱水シーケンスに続いて追加脱水シーケンスまたは前記昇華再生シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御することを含み、
前記追加脱水シーケンスは、前記ラフバルブを通じた前記クライオポンプハウジングの真空排気によって、または、前記真空排気と前記パージバルブを通じた前記クライオポンプハウジングへのパージガス供給を交互に繰り返すラフアンドパージによって、前記不燃性吸着材に残留する水を減らすように構成され、
前記脱水シーケンスは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで並行して実行され、前記追加脱水シーケンスまたは前記昇華再生シーケンスは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで順番に実行されることを特徴とするクライオポンプのコントローラ。
【請求項15】
クライオポンプの運転開始方法であって、前記クライオポンプは、
クライオポンプハウジングと、前記クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を
備えるクライオパネルと、前記不燃性吸着材および前記クライオパネルを加熱する加熱装置と、前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、前記クライオポンプハウジングに取り付けられ、前記クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、を備え、前記運転開始方法は、
前記不燃性吸着材の温度、前記クライオポンプ内の圧力、または前記クライオポンプのステータスを取得することと、
取得された前記不燃性吸着材の温度、前記クライオポンプ内の圧力、または前記クライオポンプのステータスに基づいて、(i)前記不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材から水を昇華させる昇華再生シーケンスまたは(ii)前記不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で前記真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって前記不燃性吸着材を脱水する脱水シーケンスのいずれかを選択することと、
前記昇華再生シーケンスおよび前記脱水シーケンスのうち、選択されたシーケンスを実行することと、を備え
、
前記ラフポンプは、前記クライオポンプと少なくとも1つの他のクライオポンプに共用され、
前記実行することは、前記脱水シーケンスに従って前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、前記脱水シーケンスに続いて追加脱水シーケンスまたは前記昇華再生シーケンスを実行するように、前記加熱装置、前記パージバルブ、前記ラフバルブのうち少なくとも一つを制御することを含み、
前記追加脱水シーケンスは、前記ラフバルブを通じた前記クライオポンプハウジングの真空排気によって、または、前記真空排気と前記パージバルブを通じた前記クライオポンプハウジングへのパージガス供給を交互に繰り返すラフアンドパージによって、前記不燃性吸着材に残留する水を減らすように構成され、
前記脱水シーケンスは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで並行して実行され、前記追加脱水シーケンスまたは前記昇華再生シーケンスは、前記クライオポンプと前記少なくとも1つの他のクライオポンプで順番に実行されることを特徴とするクライオポンプの運転開始方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ、クライオポンプシステム、クライオポンプの運転開始方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。クライオポンプはいわゆる気体溜め込み式の真空ポンプであるから、捕捉した気体を外部に定期的に排出する再生を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クライオポンプは、クライオパネルに凝縮しない水素などの非凝縮性気体を吸着するために、クライオパネル上に吸着材を有する。典型的に吸着材は活性炭であり、ある用途においては酸素やオゾンを含む気体がクライオポンプによって排気される。この場合、再生中に、活性炭は酸素雰囲気にさらされうる。活性炭は可燃物であるから、何らかの原因で偶発的な発火が生じるかもしれない。
【0005】
本発明者らは、安全上のリスクを極力小さくするために、活性炭とは別の代替吸着材を使用するクライオポンプの実現可能性を考察した。しかしながら、そうした代替吸着材は、活性炭に比べて、使用環境など諸要因によって粉末状に砕けやすい傾向にあることが判明した。吸着材が破損すればクライオポンプの排気性能が低下する。また、砕けた粉末は飛散してクライオポンプの構成部品に侵入し当該部品に悪影響を及ぼしうる。例えば、クライオポンプに付属し又は接続されるバルブに吸着材の粉末が噛み込まれ、バルブのリークを生じさせるかもしれない。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、非凝縮性気体を排気する代替吸着材を搭載した新規なクライオポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、クライオポンプハウジングと、クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備えるクライオパネルと、不燃性吸着材およびクライオパネルを加熱する加熱装置と、クライオポンプハウジングに取り付けられ、クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、クライオポンプハウジングに取り付けられ、クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、不燃性吸着材の温度またはクライオポンプハウジングの内圧を示す測定信号を生成するセンサと、再生開始指令を受け、測定信号に基づいて、(i)不燃性吸着材を真空雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材から水を昇華させるように構成される昇華再生シーケンスまたは(ii)不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材を脱水するように構成される脱水シーケンスのいずれかを実行するように、加熱装置、パージバルブ、ラフバルブのうち少なくとも一つを制御するコントローラと、を備える。
【0008】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、クライオポンプハウジングと、クライオポンプハウジング内に配置され、不燃性吸着材を備えるクライオパネルと、不燃性吸着材およびクライオパネルを加熱する加熱装置と、クライオポンプハウジングに取り付けられ、クライオポンプハウジングをパージガス源に接続するパージバルブと、クライオポンプハウジングに取り付けられ、クライオポンプハウジングをラフポンプに接続するラフバルブと、脱水シーケンスに従って加熱装置、パージバルブ、ラフバルブのうち少なくとも一つを制御し、脱水シーケンスに後続してクライオポンプハウジングに真空雰囲気を生成するようにラフバルブを制御するコントローラと、を備える。脱水シーケンスは、不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材を脱水するように構成される。
【0009】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、不燃性吸着材と、クライオポンプの真空排気運転を開始するために、不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材を脱水することと、不燃性吸着材の脱水後に、不燃性吸着材の周囲環境を真空排気することと、不燃性吸着材を真空雰囲気で極低温に冷却することと、を逐次実行するコントローラと、を備える。
【0010】
本発明のある態様によると、クライオポンプの運転開始方法が提供される。クライオポンプは、不燃性吸着材を有する。運転開始方法は、不燃性吸着材を室温またはそれより高温下で乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材を脱水することと、不燃性吸着材の脱水後に、不燃性吸着材の周囲環境を真空排気することと、不燃性吸着材を真空雰囲気で極低温に冷却することと、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非凝縮性気体を排気する代替吸着材を搭載した新規なクライオポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ある実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す図である。
【
図2】ある実施の形態に係り、吸着領域を形成する不燃性吸着材として使用可能なシリカゲルの代表的な物性を示す表である。
【
図3】加熱によるシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。
【
図4】パージガス流れによるシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。
【
図5】低圧乾燥雰囲気でのシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。
【
図6】実施の形態に係るクライオポンプの運転開始方法を例示するフローチャートである。
【
図7】ある実施の形態に係るクライオポンプのブロック図である。
【
図8】ある実施の形態に係るクライオポンプ再生方法の概略を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示される昇華再生シーケンスを示すフローチャートである。
【
図10】
図8に示される脱水シーケンスを示すフローチャートである。
【
図11】
図8に示される再生方法における温度及び圧力の時間変化の一例を示す図である。
【
図12】ある実施の形態に係るクライオポンプシステムを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0015】
図1は、ある実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。クライオポンプ10は、排気されるべき気体を真空チャンバから受け入れるための吸気口12を有する。吸気口12を通じて気体がクライオポンプ10の内部空間14に進入する。
【0016】
なお以下では、クライオポンプ10の構成要素の位置関係をわかりやすく表すために、「軸方向」、「径方向」との用語を使用することがある。軸方向は吸気口12を通る方向(
図1において中心軸Aに沿う方向)を表し、径方向は吸気口12に沿う方向(中心軸Aに垂直な方向)を表す。便宜上、軸方向に関して吸気口12に相対的に近いことを「上」、相対的に遠いことを「下」と呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ10の底部から相対的に遠いことを「上」、相対的に近いことを「下」と呼ぶことがある。径方向に関しては、吸気口12の中心(
図1において中心軸A)に近いことを「内」、吸気口12の周縁に近いことを「外」と呼ぶことがある。なお、こうした表現はクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられたときの配置とは関係しない。例えば、クライオポンプ10は鉛直方向に吸気口12を下向きにして真空チャンバに取り付けられてもよい。
【0017】
また、軸方向を囲む方向を「周方向」と呼ぶことがある。周方向は、吸気口12に沿う第2の方向であり、径方向に直交する接線方向である。
【0018】
クライオポンプ10は、冷凍機16、第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20、及び、クライオポンプハウジング70を備える。第1クライオパネルユニット18は、高温クライオパネル部または100K部とも称されうる。第2クライオパネルユニット20は、低温クライオパネル部または10K部とも称されうる。
【0019】
冷凍機16は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの極低温冷凍機である。冷凍機16は、二段式の冷凍機である。そのため、冷凍機16は、第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を備える。冷凍機16は、第1冷却ステージ22を第1冷却温度に冷却し、第2冷却ステージ24を第2冷却温度に冷却するよう構成されている。第2冷却温度は第1冷却温度よりも低温である。例えば、第1冷却ステージ22は65K~120K程度、好ましくは80K~100Kに冷却され、第2冷却ステージ24は10K~20K程度に冷却される。第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24はそれぞれ、高温冷却ステージ及び低温冷却ステージとも称しうる。
【0020】
また、冷凍機16は、第2冷却ステージ24を第1冷却ステージ22に構造的に支持するとともに第1冷却ステージ22を冷凍機16の室温部26に構造的に支持する冷凍機構造部21を備える。そのため冷凍機構造部21は、径方向に沿って同軸に延在する第1シリンダ23及び第2シリンダ25を備える。第1シリンダ23は、冷凍機16の室温部26を第1冷却ステージ22に接続する。第2シリンダ25は、第1冷却ステージ22を第2冷却ステージ24に接続する。室温部26、第1シリンダ23、第1冷却ステージ22、第2シリンダ25、及び第2冷却ステージ24は、この順に直線状に一列に並ぶ。
【0021】
第1シリンダ23及び第2シリンダ25それぞれの内部には第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサ(図示せず)が往復動可能に配設されている。第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサにはそれぞれ第1蓄冷器及び第2蓄冷器(図示せず)が組み込まれている。また、室温部26は、第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサを往復動させるための駆動機構(図示せず)を有する。駆動機構は、冷凍機16の内部への作動気体(例えばヘリウム)の供給と排出を周期的に繰り返すよう作動気体の流路を切り替える流路切替機構を含む。
【0022】
冷凍機16は、作動気体の圧縮機(図示せず)に接続されている。冷凍機16は、圧縮機により加圧された作動気体を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を冷却する。膨張した作動気体は圧縮機に回収され再び加圧される。冷凍機16は、作動気体の給排とこれに同期した第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサの往復動とを含む熱サイクルを繰り返すことによって寒冷を発生させる。
【0023】
図示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ10の中心軸Aに交差する(通常は直交する)よう配設されているクライオポンプである。
【0024】
第1クライオパネルユニット18は、放射シールド30と入口クライオパネル32とを備え、第2クライオパネルユニット20を包囲する。第1クライオパネルユニット18は、クライオポンプ10の外部またはクライオポンプハウジング70からの輻射熱から第2クライオパネルユニット20を保護するための極低温表面を提供する。第1クライオパネルユニット18は第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。よって第1クライオパネルユニット18は第1冷却温度に冷却される。第1クライオパネルユニット18は第2クライオパネルユニット20との間に隙間を有しており、第1クライオパネルユニット18は第2クライオパネルユニット20と接触していない。第1クライオパネルユニット18はクライオポンプハウジング70とも接触していない。
【0025】
第1クライオパネルユニット18は、凝縮クライオパネルと称することもできる。第2クライオパネルユニット20は、吸着クライオパネルと称することもできる。
【0026】
放射シールド30は、クライオポンプハウジング70の輻射熱から第2クライオパネルユニット20を保護するために設けられている。放射シールド30は、クライオポンプハウジング70と第2クライオパネルユニット20との間にあり、第2クライオパネルユニット20を囲む。放射シールド30は、クライオポンプ10の外部から内部空間14に気体を受け入れるためのシールド主開口34を有する。シールド主開口34は、吸気口12に位置する。
【0027】
放射シールド30は、シールド主開口34を定めるシールド前端36と、シールド主開口34と反対側に位置するシールド底部38と、シールド前端36をシールド底部38に接続するシールド側部40と、を備える。シールド側部40は、軸方向にシールド前端36からシールド主開口34と反対側へと延在し、周方向に第2冷却ステージ24を包囲するよう延在する。
【0028】
シールド側部40は、冷凍機構造部21が挿入されるシールド側部開口44を有する。シールド側部開口44を通じて放射シールド30の外から第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25が放射シールド30の中に挿入される。シールド側部開口44は、シールド側部40に形成された取付穴であり、例えば円形である。第1冷却ステージ22は放射シールド30の外に配置されている。
【0029】
シールド側部40は、冷凍機16の取付座46を備える。取付座46は、第1冷却ステージ22を放射シールド30に取り付けるための平坦部分であり、放射シールド30の外から見てわずかに窪んでいる。取付座46は、シールド側部開口44の外周を形成する。第1冷却ステージ22が取付座46に取り付けられることによって、放射シールド30が第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。
【0030】
このように放射シールド30を第1冷却ステージ22に直接取り付けることに代えて、ある実施の形態においては、放射シールド30は、追加の伝熱部材を介して第1冷却ステージ22に熱的に結合されていてもよい。
【0031】
図示される実施の形態においては、放射シールド30は一体の筒状に構成されている。これに代えて、放射シールド30は、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。例えば、放射シールド30は軸方向に2つの部分に分割されていてもよい。
【0032】
入口クライオパネル32は、クライオポンプ10の外部の熱源(例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバ内の熱源)からの輻射熱から第2クライオパネルユニット20を保護するために、吸気口12(またはシールド主開口34、以下同様)に設けられている。また、入口クライオパネル32の冷却温度で凝縮する気体(例えば水分)がその表面に捕捉される。
【0033】
入口クライオパネル32は、吸気口12において第2クライオパネルユニット20に対応する場所に配置されている。入口クライオパネル32は、吸気口12の開口面積の少なくとも中心部分を占有する。入口クライオパネル32は、吸気口12に配設される平面的な構造を備える。入口クライオパネル32は例えば、同心円状または格子状に形成されたルーバーまたはシェブロンを備えてもよいし、平板(例えば円板)のプレートを備えてもよい。
【0034】
入口クライオパネル32は取付部材(図示せず)を介してシールド前端36に取り付けられる。こうして入口クライオパネル32は放射シールド30に固定され、放射シールド30に熱的に接続されている。入口クライオパネル32は第2クライオパネルユニット20に近接しているが、接触はしていない。
【0035】
第2クライオパネルユニット20は、クライオポンプ10の内部空間14の中心部に設けられている。第2クライオパネルユニット20は、複数のクライオパネル60と、パネル取付部材62と、を備える。パネル取付部材62は、第2冷却ステージ24から軸方向に上方および下方に向けて延びている。第2クライオパネルユニット20は、パネル取付部材62を介して第2冷却ステージ24に取り付けられている。このようにして、第2クライオパネルユニット20は、第2冷却ステージ24に熱的に接続されている。よって、第2クライオパネルユニット20は第2冷却温度に冷却される。
【0036】
複数のクライオパネル60が、シールド主開口34からシールド底部38へと向かう方向に沿って(即ち中心軸Aに沿って)パネル取付部材62上に配列されている。複数のクライオパネル60はそれぞれ中心軸Aに垂直に延在する平板(例えば円板)であり、互いに平行にパネル取付部材62に取り付けられている。なおクライオパネル60は平板には限られず、その形状はとくに限定されない。例えば、クライオパネル60は、逆円錐台状または円錐台状の形状を有してもよい。
【0037】
複数のクライオパネル60は図示されるようにそれぞれ同一形状を有してもよいし、異なる形状(例えば異なる径)を有してもよい。複数のクライオパネル60のうちあるクライオパネル60は、その上方に隣接するクライオパネル60と同一形状を有するか、またはそれより大型であってもよい。また、複数のクライオパネル60の間隔は図示されるように一定であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0038】
第2クライオパネルユニット20においては、少なくとも一部の表面に不燃性吸着材64が配置されている。不燃性吸着材64は非凝縮性気体(例えば水素)を吸着により捕捉するために設けられ、クライオパネル60上に吸着領域を形成する。吸着領域は、吸気口12から見えないように、上方に隣接するクライオパネル60の陰となる場所に形成されていてもよい。例えば、吸着領域はクライオパネル60の下面(背面)の全域に形成されている。また、吸着領域は、クライオパネル60の上面(前面)の少なくとも中心部に形成されていてもよい。
【0039】
不燃性吸着材64は、粒状の吸着材であってもよく、これをクライオパネル60の表面に接着することにより吸着領域が形成されてもよい。吸着材の粒径は、例えば2mmから5mmであってもよい。このようにすれば、製造時の接着作業がしやすくなる。
【0040】
この実施の形態では、不燃性吸着材64は、シリカゲルを主成分として含有する。不燃性吸着材64は、少なくとも約50質量パーセント、または少なくとも約60質量パーセント、少なくとも約70質量パーセント、少なくとも約80質量パーセント、少なくとも約90質量パーセントのシリカゲルを含んでもよい。不燃性吸着材64は、実質的に全部がシリカゲルであってもよい。シリカゲルは、二酸化ケイ素を主成分とするので、酸素と化学反応をしない。
【0041】
このように、吸着領域は、無機物質からなる多孔質体により形成され、有機物質を含まない。典型的なクライオポンプとは異なり、クライオポンプ10は、活性炭を含まない。
【0042】
多孔質体の吸着特性に関連する代表的なパラメータとして、平均細孔径、充填密度、細孔容積、および比表面積がある。一般に入手可能なシリカゲルには、いくつかの型があり、例えば、シリカゲルA型、シリカゲルB型、シリカゲルN型、シリカゲルRD型、シリカゲルID型がある。そこで、各型のシリカゲルのこれら4つのパラメータを
図2に示す。
【0043】
本発明者は、各型の粒状シリカゲルをクライオパネル60に接着することによりクライオパネル60上に吸着領域を形成し、共通の条件下で水素の吸蔵量を測定した。シリカゲルA型、シリカゲルRD型、シリカゲルN型については、シリカゲルB型およびID型に比べて、より多くの水素を吸着することが判明した。吸着領域の単位面積あたりの水素吸蔵量の測定結果を、シリカゲルA型、シリカゲルN型、シリカゲルRD型について以下に示す。
シリカゲルA型:251(L/m2)
シリカゲルRD型:195(L/m2)
シリカゲルN型:179(L/m2)
【0044】
したがって、シリカゲルA型、シリカゲルRD型、シリカゲルN型は、クライオポンプ10に用いられる非凝縮性気体の吸着材として、実用に適しうると期待される。シリカゲルB型およびID型についても、要求される吸蔵量が比較的少ない用途においては、非凝縮性気体の吸着材として利用可能でありうる。
【0045】
ある吸着材による非凝縮性気体の吸蔵量は、次の2つの理由から、その吸着材の平均細孔径が小さいほど向上するものと考えられる。第1に、細孔の径が小さいほど、吸着材の表面において単位面積当たりの細孔数を多くすることができるからである。その結果、気体が吸着される表面積が大きくなり、気体分子は吸着されやすくなる。
【0046】
また、吸着は、吸着材の表面と気体分子との物理的相互作用、例えば分子間力によって生じる。細孔の径が小さいほど、細孔のサイズが気体分子の大きさに近づく。そうすると、気体分子が細孔内に進入したとき、気体分子を中心として相互作用が生じうる距離範囲に細孔の内壁面が存在する可能性が高まる。気体分子と細孔の壁面との相互作用が起こりやすくなり、気体分子は吸着されやすくなる。これが第2の理由である。
【0047】
このような知見を踏まえると、良好な非凝縮性気体の吸着特性を得るために、シリカゲルは、3.0nm以下の平均細孔径を有することが好ましい。また、水素分子の大きさはおよそ0.1nmであるから、シリカゲルは、それよりも大きい平均細孔径、例えば、0.5nm以上の平均細孔径を有することが好ましい。
【0048】
より好ましくは、シリカゲルは、2.0nmから3.0nmの平均細孔径を有する。
図2からわかるように、シリカゲルA型、シリカゲルRD型、シリカゲルN型は、この好ましい範囲に含まれる平均細孔径を有する。シリカゲルB型およびID型の平均細孔径は、この範囲よりもかなり大きい。
【0049】
シリカゲルA型、シリカゲルRD型、シリカゲルN型の平均細孔径を比べると、シリカゲルA型のほうが他の2つの型よりも平均細孔径が大きい。しかし、シリカゲルA型のほうが、上述のように、単位面積あたりの水素吸蔵量が大きい。このようにシリカゲルA型が良好な結果をもたらす理由は、シリカゲルA型は、均一な形状の粒状シリカゲルを入手しやすいためである。均一な粒状シリカゲルは、クライオパネル表面に密に並べて接着しやすい。よって、シリカゲルA型は、不定形状の粒状シリカゲルに比べて、クライオパネル60上に高密度に設置することができ、吸蔵量を高めることができる。
【0050】
また、シリカゲルは、上述の範囲の平均細孔径を有することに加えて、0.7~0.9g/mLの充填密度、0.25~0.45mL/gの細孔容積、550~750m2/gを有することが好ましい。このような物性を有するシリカゲルであれば、シリカゲルA型、シリカゲルRD型、シリカゲルN型と同様に良好な吸着特性を有するものと期待される。
【0051】
第2クライオパネルユニット20の少なくとも一部の表面には凝縮性気体を凝縮により捕捉するための凝縮領域66が形成されている。凝縮領域66は例えば、クライオパネル表面上で吸着材の欠落した区域であり、クライオパネル基材表面例えば金属面が露出されている。例えば、クライオパネル60の上面外周部は凝縮領域66であってもよい。
【0052】
クライオポンプハウジング70は、第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20、及び冷凍機16を収容するクライオポンプ10の筐体であり、内部空間14の真空気密を保持するよう構成されている真空容器である。クライオポンプハウジング70は、第1クライオパネルユニット18及び冷凍機構造部21を非接触に包含する。クライオポンプハウジング70は、冷凍機16の室温部26に取り付けられている。
【0053】
クライオポンプハウジング70の前端によって、吸気口12が画定されている。クライオポンプハウジング70は、その前端から径方向外側に向けて延びている吸気口フランジ72を備える。吸気口フランジ72は、クライオポンプハウジング70の全周にわたって設けられている。クライオポンプ10は、吸気口フランジ72を用いて真空排気対象の真空チャンバに取り付けられる。
【0054】
クライオポンプハウジング70には、ラフバルブ80、パージバルブ84、ベントバルブ88が取り付けられている。
【0055】
ラフバルブ80は、ラフポンプ82に接続される。ラフバルブ80の開閉により、ラフポンプ82とクライオポンプ10とが連通または遮断される。ラフバルブ80を開くことによりラフポンプ82とクライオポンプハウジング70とが連通され、ラフバルブ80を閉じることによりラフポンプ82とクライオポンプハウジング70とが遮断される。ラフバルブ80を開きかつラフポンプ82を動作させることにより、クライオポンプ10の内部を減圧することができる。
【0056】
ラフポンプ82は、クライオポンプ10の真空引きをするための真空ポンプである。ラフポンプ82は、クライオポンプ10の動作圧力範囲の低真空領域、言い替えればクライオポンプ10の動作開始圧力であるベース圧レベルをクライオポンプ10に提供するための真空ポンプである。ラフポンプ82は、大気圧からベース圧レベルまでクライオポンプハウジング70を減圧することができる。ベース圧レベルは、ラフポンプ82の高真空領域にあたり、ラフポンプ82とクライオポンプ10の動作圧力範囲の重なり部分に含まれる。ベース圧レベルは、例えば1Pa以上50Pa以下(例えば10Pa程度)の範囲である。
【0057】
ラフポンプ82は典型的にはクライオポンプ10とは別の真空装置として設けられ、例えばクライオポンプ10が接続される真空チャンバを含む真空システムの一部を構成する。クライオポンプ10は真空チャンバのための主ポンプであり、ラフポンプ82は補助ポンプである。
【0058】
パージバルブ84はパージガス源86を含むパージガス供給装置に接続される。パージバルブ84の開閉によりパージガス源86とクライオポンプ10とが連通または遮断され、パージガスのクライオポンプ10への供給が制御される。パージバルブ84を開くことにより、パージガス源86からクライオポンプハウジング70へのパージガス流れが許容される。パージバルブ84を閉じることにより、パージガス源86からクライオポンプハウジング70へのパージガス流れが遮断される。パージバルブ84を開きパージガス源86からパージガスをクライオポンプハウジング70に導入することにより、クライオポンプ10の内部を昇圧することができる。供給されたパージガスは、ラフバルブ80を通じてクライオポンプ10から排出される。
【0059】
パージガスの温度は、たとえば室温に調整されているが、ある実施の形態においてはパージガスは、室温より高温に加熱されたガス、または、室温よりいくらか低温のガスであってもよい。本書において室温は、10℃~30℃の範囲または15℃~25℃の範囲から選択される温度であり、例えば約20℃である。パージガスは例えば窒素ガスである。パージガスは、乾燥したガスであってもよい。
【0060】
ベントバルブ88は、クライオポンプ10の内部から外部環境へと流体を排出するために設けられている。ベントバルブ88は、通常は閉鎖されているが、外部圧力とクライオポンプハウジング70の内圧との圧力差によって機械的に開弁されうる。ベントバルブ88が開弁されることにより、クライオポンプハウジング70の内部に生じた陽圧を外部に解放することができる。ベントバルブ88から排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。
【0061】
クライオポンプ10には、不燃性吸着材64およびクライオパネル60を加熱する加熱装置が設けられている。加熱装置は、例えば、冷凍機16である。冷凍機16は、昇温運転(いわゆる逆転昇温)を可能とする。すなわち、冷凍機16は、室温部26に設けられた駆動機構が冷却運転とは逆方向に動作するとき作動気体に断熱圧縮が生じるよう構成されている。こうして得られる圧縮熱で冷凍機16は第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を加熱する。第1クライオパネルユニット18及び第2クライオパネルユニット20はそれぞれ第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を熱源として加熱される。
【0062】
加熱されたパージガスが供給される場合には、パージバルブ84が加熱装置の一部を構成するとみなされてもよい。あるいは、クライオポンプ10には、例えば電気ヒータなどの加熱装置が設けられてもよい。例えば、冷凍機16の運転から独立して制御可能な電気ヒータが冷凍機16の第1冷却ステージ22及び/または第2冷却ステージ24に装着されていてもよい。
【0063】
クライオポンプ10は、第1冷却ステージ22の温度を測定するための第1温度センサ90と、第2冷却ステージ24の温度を測定するための第2温度センサ92と、を備える。第1温度センサ90は、第1冷却ステージ22に取り付けられている。第2温度センサ92は、第2冷却ステージ24に取り付けられている。よって、第1温度センサ90は、第1クライオパネルユニット18の温度を測定し、第2温度センサ92は、第2クライオパネルユニット20の温度を測定することができる。第2温度センサ92の測定温度は、不燃性吸着材64の温度を示すものとみなされる。また、クライオポンプ10の運転開始前のようにクライオポンプ10の全体の温度が均一(例えば室温)である場合、第1温度センサ90の測定温度は、不燃性吸着材64の温度を示すものとみなされる。
【0064】
また、クライオポンプハウジング70の内部に圧力センサ94が設けられている。圧力センサ94は例えば、第1クライオパネルユニット18の外側で冷凍機16の近傍に設けられている。圧力センサ94は、クライオポンプハウジング70の内圧を測定することができる。
【0065】
クライオポンプ10は、クライオポンプ10の運転(例えば、真空排気運転、再生運転など)を制御するコントローラ100を備える。コントローラ100は、クライオポンプコントローラ、あるいは再生コントローラとも称されうる。
【0066】
コントローラ100は、詳細は後述するが、不燃性吸着材64を乾燥させるための脱水シーケンス(以下、基本脱水シーケンスともいう)を実行可能に構成されている。脱水シーケンスは、不燃性吸着材64を室温またはそれより高温下で真空雰囲気よりも高い圧力(例えば少なくとも1000Pa)の乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材64を脱水するように構成される。コントローラ100は、脱水シーケンスに従って加熱装置、パージバルブ84、ラフバルブ80のうち少なくとも一つを制御する。コントローラ100は、脱水シーケンスに後続してクライオポンプハウジング70に真空雰囲気(例えば100Pa未満)を生成するようにラフバルブ80を制御する。コントローラ100は、この真空雰囲気のもとで極低温冷却を提供するように冷凍機16を制御する。
【0067】
本書の冒頭で述べたように、従来典型的なクライオポンプは吸着材として活性炭を用いており、ある用途においては酸素やオゾンを含む気体がクライオポンプによって排気される。この場合、再生中に、活性炭は酸素雰囲気にさらされる。活性炭は可燃物であるから、何らかの要因により偶発的な発火が生じるかもしれない。事故の可能性を低減するためには、複数の危険因子の併存を回避することが肝要である。
【0068】
実施の形態によれば、クライオポンプ10は、不燃性吸着材64を有するので、たとえ酸素が存在したとしても、吸着材の発火および燃焼は確実に防止される。従来と異なり、複数の危険因子(活性炭と酸素)の併存が回避され、発火リスクをなくすことができる。よって、クライオポンプ10の安全性は向上される。排気すべき気体に酸素が含まれる用途に適するクライオポンプ10を提供することができる。
【0069】
不燃性吸着材64は、シリカゲルには限られない。不燃性吸着材64としてモレキュラーシーブなど他の無機多孔質体を用いる考えもありうる。無機吸着材であれば同様に安全性は向上される。
【0070】
しかし、本実施の形態のようにシリカゲルを用いることには、クライオポンプ10の再生を容易にするという利点がある。多孔質体の吸着特性は一般に、高温になるほど吸着量が低下するという温度依存性をもつ。すなわち、多孔質体が加熱されると、そこに吸着されている気体が放出されやすくなる。シリカゲルは、他の無機多孔質体に比べて、高温での吸着特性の低下が顕著に大きい。したがって、シリカゲルを含有する不燃性吸着材64は、再生されやすい。
【0071】
ところで、クライオポンプ10が製造業者から出荷されるとき、ユーザーには吸気口12に蓋が取り付けられた状態で配送される。クライオポンプ10内には窒素ガスまたは他の清浄な乾燥ガスが充填されていてもよい。ユーザーに届いたクライオポンプ10は蓋がついた状態で保管される。ユーザーは、クライオポンプ10を使用する現場で吸気口12から蓋を取り外し、クライオポンプ10を真空チャンバに取り付ける。そして、クライオポンプ10はラフバルブ80を通じてラフポンプ82によりベース圧(例えば、100Pa未満の微小な圧力)まで真空引きされ、冷凍機16の冷却運転が開始される。第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20は極低温に冷却され、クライオポンプ10の真空排気運転が開始される。
【0072】
クライオポンプ10から蓋が取り外されたまま放置される等、ユーザーの保管の仕方がよくない場合には、不燃性吸着材64が大気に長期間触れ、多くの水分を吸着する可能性がある。保管が悪く、不燃性吸着材64が長期に大気暴露されると、不燃性吸着材64の吸湿率(質量比、例えば1gの不燃性吸着材64あたりの吸水量)は、少なくとも30%に達しうる。
【0073】
本発明者は、このような状況で運転開始のためにクライオポンプ10を真空引きすると、不燃性吸着材64が直ちに粉末状に砕けるという、これまで知られていない現象が起こることに気づいた。この現象は、吸着材として活性炭を有する従来のクライオポンプには起こらない。
【0074】
これは問題である。不燃性吸着材64が破損すればクライオポンプの非凝縮性気体の排気性能が低下する。また、ラフバルブ80、パージバルブ84などクライオポンプ10に付属し又は接続されるバルブに不燃性吸着材64の砕けた粉末が噛み込まれれば、バルブにリークが生じうる。ラフバルブ80、パージバルブ84にリークが起こればクライオポンプ10内で真空が維持されず、バルブの交換などメンテナンスが必要となる。砕けた粉末はセンサなどクライオポンプ10の他の構成部品に侵入し当該部品に悪影響を及ぼすかもしれない。
【0075】
この新現象は、真空引きによって不燃性吸着材64の周囲が急速に減圧され、不燃性吸着材64から水分が急激に気化して脱離し、これが吸着材内部に局所冷却や熱応力を発生させ、その結果、不燃性吸着材64が破壊されるというメカニズムに基づくと考えられる。こうした破砕は、不燃性吸着材64がシリカゲルで形成される場合に顕著であるが、例えばゼオライトなど他の無機吸着材についても同様のメカニズムにより発生する可能性はありうる。
【0076】
本発明者は、不燃性吸着材64の吸湿率を24%未満(好ましくは20%未満)とすれば、真空引きによる不燃性吸着材64の破砕が防止されることを実験的に見出した。そこで、実施の形態では、クライオポンプ10は、クライオポンプ10の真空排気運転を開始するために、不燃性吸着材64を乾燥させる脱水シーケンスを実行するように構成される。乾燥条件は、不燃性吸着材64の吸湿率を24%未満(好ましくは20%未満)に低下させるように設定される。乾燥条件は、加熱温度、乾燥雰囲気の圧力、および乾燥時間の少なくとも1つを含みうる。
【0077】
図3は、加熱によるシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。これは本発明者が行った実験により取得された結果であり、
図3には、シリカゲルを乾燥炉で所定の乾燥温度に加熱したときの吸湿率の時間変化がプロットされている。初期の吸湿率は30%とし、これはクライオポンプに設けられたシリカゲルが長期に大気暴露され多量の水分を吸着している状態を模擬している。80℃、60℃、50℃の3つの乾燥温度で大気圧下で試験をしている。
【0078】
どの乾燥温度でも、時間の経過とともに吸湿率は低下しシリカゲルから水分が脱離する。乾燥温度が高いほど、速く吸湿率が低下する。80℃の乾燥温度では、吸湿率は、乾燥開始から約20~25分で約24%に低下し、約35~40分で約20%に低下する。60℃の乾燥温度では、吸湿率は、約50分で約24%に低下し、約90分で約20%に低下する。50℃の乾燥温度では、吸湿率は、約140分で約24%に低下し、約250分で約20%に低下する。
【0079】
したがって、この実験結果から、シリカゲルの脱水には乾燥温度を少なくとも50℃とすることが有効であることがわかる。乾燥時間は短いほど実用上有利である。乾燥温度を少なくとも60℃とすれば、約1時間以内の乾燥時間で吸湿率を約24%以下に低下させることができる。また、乾燥温度を少なくとも80℃とすれば、約30分以内の乾燥時間で吸湿率を約24%以下に低下させることができる。
【0080】
したがって、不燃性吸着材64の乾燥温度(目標加熱温度)は、室温より高温(例えば、30℃以上、または40℃以上)であってもよく、好ましくは、少なくとも50℃(例えば、60℃以上、または70℃以上)であってもよく、より好ましくは、少なくとも80℃(例えば、90℃以上)であってもよい。
【0081】
乾燥温度を高くしすぎると、クライオポンプ10の耐熱温度を超えてしまうリスクがある。そこで、乾燥温度は、130℃以下、または120℃以下、または110℃以下、または100℃以下、または95℃以下であってもよい。
【0082】
図4は、パージガス流れによるシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。これも本発明者が行った実験により取得された結果であり、
図4には、所定のパージガス流量でパージガスを容器に供給してシリカゲルを乾燥したときの吸湿率の時間変化がプロットされている。パージガスは、乾燥窒素ガスである。初期の吸湿率は30%である。90SLM(standard liter/min)、44SLM、28SLMの3つのパージガス流量で非加熱下(すなわち室温)で試験をしている。
【0083】
どのパージガス流量でも、時間の経過とともに吸湿率は低下しシリカゲルから水分が脱離する。パージガス流量が多いほど、速く吸湿率が低下する。
図4に示されるように、例えば、90SLMのパージガス流量の場合、吸湿率は、約40分で約24%に低下し、約70分で約20%に低下する。この実験結果から、パージガスの供給はシリカゲルの脱水に有効であることがわかる。脱水は、加熱をすることなく、パージガスの供給のみによっても可能である。
【0084】
図5は、低圧乾燥雰囲気でのシリカゲルの吸湿率の変化を示すグラフである。これも本発明者が行った実験により取得された結果であり、
図5には、1000~1100Paの低圧乾燥雰囲気にシリカゲルを保持したときの吸湿率の時間変化がプロットされている。同様に、初期の吸湿率は30%である。乾燥雰囲気へのパージガスの供給は無く、加熱もされていない。
【0085】
乾燥雰囲気を大気圧よりも低圧とすることによっても、時間の経過とともに吸湿率は低下しシリカゲルから水分が脱離する。
図5に示されるように、1000~1100Paの低圧乾燥雰囲気では、吸湿率は、約200分で約24%に低下し、約400分で約20%に低下する。このとき、シリカゲルの破砕は見られない。この実験結果から、乾燥雰囲気を大気圧よりも低圧とすることはシリカゲルの脱水に有効であることがわかる。乾燥雰囲気の圧力は、例えば、少なくとも1000Pa、または少なくとも0.1気圧、または少なくとも1気圧であってもよい。
【0086】
図6は、実施の形態に係るクライオポンプ10の運転開始方法を例示するフローチャートである。この方法は、不燃性吸着材64を室温またはそれより高温下で乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材64を脱水することを備える(S10)。上述のように、乾燥条件は、不燃性吸着材64の吸湿率を24%未満(好ましくは20%未満)に低下させるように設定される。
【0087】
不燃性吸着材64の脱水工程は、不燃性吸着材64を室温よりも高い乾燥温度(例えば、50℃以上、または80℃以上)に加熱すること、クライオポンプハウジング70にパージガスを供給すること、およびクライオポンプハウジング70を1000Paよりも高い圧力(例えば、大気圧以上の圧力)に保持することのうち少なくとも1つによって、不燃性吸着材64の周囲に乾燥雰囲気を形成することを含む。不燃性吸着材64は、加熱装置(例えば、冷凍機16の逆転昇温、高温のパージガスの供給、または、冷凍機16またはクライオパネル60に設けられた電気ヒータの作動)によって加熱される。パージガスの供給は、パージバルブ84によって制御される。クライオポンプハウジング70の減圧は、ラフバルブ80によって制御される。
【0088】
不燃性吸着材64の脱水(S10)の後に、不燃性吸着材64の周囲環境の真空排気が行われる(S20)。ラフバルブ80が開かれ、ラフポンプ82が作動される。クライオポンプハウジング70は、ラフバルブ80を通じてラフポンプ82によってベース圧に粗引きされる。上述のように、ベース圧は例えば100Pa未満である。不燃性吸着材64の周囲には真空雰囲気が形成される。
【0089】
不燃性吸着材64が真空雰囲気で極低温に冷却される(S30)。冷凍機16の冷却運転が開始され、第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24がそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。よって、これらに熱的に結合されている第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20もそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。不燃性吸着材64は第2クライオパネルユニット20に設けられているから、不燃性吸着材64も第2冷却温度に冷却される。
【0090】
実施の形態に係るコントローラ100は、
図6に示されるクライオポンプ10の運転開始方法を実行するように構成される。コントローラ100は、クライオポンプ10の真空排気運転を開始するために、(a)不燃性吸着材64を室温またはそれより高温下で乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材64を脱水することと、(b)不燃性吸着材64の脱水後に、不燃性吸着材64の周囲環境を真空排気することと、(c)不燃性吸着材64を真空雰囲気で極低温に冷却することと、を逐次実行するように構成される。
【0091】
このようにして、クライオポンプ10の真空排気運転が開始される。入口クライオパネル32は、真空チャンバからクライオポンプ10に向かって飛来する気体を冷却する。入口クライオパネル32の表面には、第1冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第1種気体と称されてもよい。第1種気体は例えば水蒸気である。こうして、入口クライオパネル32は、第1種気体を排気することができる。第1冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体の一部は、吸気口12から内部空間14へと進入する。あるいは、気体の他の一部は、入口クライオパネル32で反射され、内部空間14に進入しない。
【0092】
内部空間14に進入した気体は、第2クライオパネルユニット20によって冷却される。第2クライオパネルユニット20の表面には、第2冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第2種気体と称されてもよい。第2種気体は例えばアルゴンである。こうして、第2クライオパネルユニット20は、第2種気体を排気することができる。
【0093】
第2冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体は、第2クライオパネルユニット20の不燃性吸着材64に吸着される。この気体は、第3種気体と称されてもよい。第3種気体は非凝縮性気体とも称され、例えば水素である。こうして、第2クライオパネルユニット20は、第3種気体を排気することができる。したがって、クライオポンプ10は、種々の気体を凝縮または吸着により排気し、真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0094】
排気運転が継続されることによりクライオポンプ10には気体が蓄積されていく。蓄積した気体を外部に排出するために、クライオポンプ10の再生が行われる。クライオポンプに排気される気体に水蒸気が含まれるケースは珍しくない。クライオポンプ10の真空排気運転中には水蒸気は第1クライオパネルユニット18に凝縮され、氷となっている。再生中にはクライオポンプ10は室温またはそれより高温(たとえば290K~330K)に加熱されるので、氷は溶けて水になる。吸着材に水滴が付着するかもしれない。
【0095】
シリカゲルはOH基を有する親水性材料の一種である。こうした親水性吸着材が液体の水に触れると、吸着材の分子と水分子との間に水素結合が容易に形成される。水素結合は強い結合であるため、吸着材の脱水にはかなり時間を要することになり、再生時間が長くなってしまうことが予想される。これは望ましくない。加えて、シリカゲルは、液体の水に浸かると脆くなり、その後自然に砕けてしまう性質がある。そのため、不燃性吸着材64がシリカゲルを含有する場合には、液体の水との接触を避けることがとくに望まれる。なお従来よく用いられる活性炭はシリカゲルとは異なり、疎水性材料である。
【0096】
そこで、クライオポンプ10の再生は、氷を昇華により、液体の水を経ることなく水蒸気へと気化し、外部に排出するようにして行われてもよい。不燃性吸着材64の脱水シーケンスをこのような昇華再生に組み込んで実装する実施の形態を以下に説明する。
【0097】
図7は、ある実施の形態に係るクライオポンプ10のブロック図である。
【0098】
第1温度センサ90は、第1クライオパネルユニット18の温度を定期的に測定し、第1クライオパネルユニット18の測定温度を示す第1温度測定信号S1を生成する。第1温度センサ90は、コントローラ100に通信可能に接続されており、第1温度測定信号S1をコントローラ100に出力する。第2温度センサ92は、第2クライオパネルユニット20の温度を定期的に測定し、第2クライオパネルユニット20の測定温度を示す第2温度測定信号S2を生成する。第2温度センサ92は、コントローラ100に通信可能に接続されており、第2温度測定信号S2をコントローラ100に出力する。
【0099】
圧力センサ94は、クライオポンプハウジング70の内圧を定期的に測定し、クライオポンプハウジング70の内圧を示す圧力測定信号S3を生成する。圧力センサ94は、コントローラ100に通信可能に接続されており、圧力測定信号S3をコントローラ100に出力する。
【0100】
コントローラ100は、第1温度測定信号S1、第2温度測定信号S2、圧力測定信号S3を受信するよう構成されている。コントローラ100は、第1温度測定信号S1、第2温度測定信号S2、圧力測定信号S3のうち少なくとも1つに基づいて、冷凍機制御信号S4、ラフバルブ制御信号S5、パージバルブ制御信号S6のうち少なくとも1つを生成するよう構成されている。コントローラ100は、冷凍機制御信号S4を冷凍機16に送信し、ラフバルブ制御信号S5をラフバルブ80に送信し、パージバルブ制御信号S6をパージバルブ84に送信するよう構成されている。
【0101】
冷凍機16は、冷凍機制御信号S4に従って制御される。冷凍機16の冷却運転のオンオフや逆転昇温運転のオンオフ、冷却運転と逆転昇温運転の切替は、冷凍機制御信号S4に基づく。また、冷凍機16の運転周波数(冷凍機16を駆動するモータの回転数に対応する)は冷凍機制御信号S4に従って可変に制御されてもよい。ラフバルブ80は、ラフバルブ制御信号S5に従って開弁され、または閉弁される。パージバルブ84は、パージバルブ制御信号S6に従って開弁され、または閉弁される。また、コントローラ100は、クライオポンプ10に設けられた加熱装置(例えば、冷凍機16に装着された電気ヒータ)のオンオフを切り替えるように加熱装置を制御してもよい。
【0102】
クライオポンプ10は、記憶部102、入力部104、及び出力部106を備える。記憶部102は、クライオポンプ10の制御に関連するデータを記憶するよう構成されている。記憶部102は、半導体メモリまたはその他のデータ記憶媒体であってもよい。入力部104は、ユーザまたは他の装置からの入力を受け付けるよう構成されている。入力部104は例えば、ユーザからの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段、及び/または、他の装置との通信をするための通信手段を含む。出力部106は、クライオポンプ10の制御に関連するデータを出力するよう構成され、ディスプレイやプリンタ等の出力手段を含む。記憶部102、入力部104、及び出力部106はそれぞれコントローラ100と通信可能に接続されている。
【0103】
コントローラ100は、昇華再生部110と脱水部112を備える。昇華再生部110は、第1温度測定信号S1、第2温度測定信号S2、圧力測定信号S3に基づいて、昇華再生シーケンスを実行するように構成される。脱水部112は、第1温度測定信号S1、第2温度測定信号S2、圧力測定信号S3に基づいて、脱水シーケンスを実行するように構成される。昇華再生部110は昇華再生コントローラと称されてもよく、脱水部112は脱水コントローラと称されてもよい。
【0104】
コントローラ100は、再生開始指令S7を受け、クライオポンプ10の再生を開始するように構成されている。再生開始指令S7は、例えば、入力部104からコントローラ100に入力される。
【0105】
コントローラ100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図7では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0106】
たとえば、コントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。そうしたハードウェアプロセッサは、たとえば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスで構成してもよいし、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。ソフトウェアプログラムは、クライオポンプ10の再生シーケンス(例えば、昇華再生シーケンス、脱水シーケンス)をコントローラ100に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0107】
図8は、ある実施の形態に係るクライオポンプ再生方法の概略を示すフローチャートである。このクライオポンプ再生方法は、コントローラ100によって実行される。コントローラ100は、再生開始指令S7を受け、不燃性吸着材64の温度を示す温度測定信号(例えば、第1温度測定信号S1および第2温度測定信号S2の少なくとも一方)に基づいて、昇華再生シーケンスまたは脱水シーケンスのいずれかを実行するように、加熱装置としての冷凍機16、パージバルブ84、ラフバルブ80を制御する。昇華再生シーケンスは、不燃性吸着材64を真空雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材64から水を昇華させるように構成される。脱水シーケンスは、不燃性吸着材64を室温またはそれより高温下で真空雰囲気よりも高い圧力の乾燥雰囲気にさらすことによって不燃性吸着材64を脱水するように構成される。
【0108】
再生開始指令S7を受けると、コントローラ100は、
図8に示されるように、第1温度測定信号S1に基づいて、第1クライオパネルユニット18の測定温度である第1測定温度T1が第1基準温度Tr1より低いか否かを判定する(S51)。また、コントローラ100は、第2温度測定信号S2に基づいて、第2クライオパネルユニット20の測定温度である第2測定温度T2が第2基準温度Tr2より低いか否かを判定する(S52)。
【0109】
これらの温度に基づく判定は、再生開始指令S7を受ける直前のクライオポンプ10の状態を把握するために行われる。クライオポンプ10の真空排気運転が行われていた場合には、第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20は極低温に冷却されている。一方、クライオポンプ10が真空チャンバに新たに設置され、これから真空排気運転を開始すべき場合には、クライオポンプ10は室温にある。あるいは、停電またはその他の異常事態が発生しその復旧に長い時間を要した場合にも、クライオポンプ10は極低温から室温まで自然に昇温される。そこで、第1基準温度Tr1と第2基準温度Tr2は、クライオポンプ10が極低温冷却されているのか、または室温にあるのかを切り分けるために、例えば250K~280Kの温度値に設定されてもよく、例えば273Kに設定される。ここでは、第1基準温度Tr1と第2基準温度Tr2は同じ値に設定されるが、異なる値に設定されてもよい。
【0110】
第1測定温度T1が第1基準温度Tr1より低く、かつ第2測定温度T2が第2基準温度Tr2より低い場合には(S51のNoかつS52のNo)、コントローラ100が再生開始指令S7を受けるまでクライオポンプ10の真空排気運転が行われていたものとみなすことができる。よって、この場合、コントローラ100の昇華再生部110が昇華再生シーケンスを実行する(S100)。
【0111】
一方、第1測定温度T1が第1基準温度Tr1以上であるか、または、第2測定温度T2が第2基準温度Tr2以上である場合には(S51のYesまたはS52のYes)、クライオポンプ10が室温にあるとみなされる。よって、この場合、コントローラ100の脱水部112が脱水シーケンスを実行する(S200)。脱水シーケンスに続いて、コントローラ100の昇華再生部110が昇華再生シーケンスを実行する(S100)。こうしてクライオポンプ10の再生は完了する。再生が完了すると、クライオポンプ10は真空排気運転を開始する。
【0112】
このようにして、コントローラ100は、不燃性吸着材64の温度を示す温度測定信号に基づいて、不燃性吸着材64が室温にあるとみなされる場合に脱水シーケンスを実行するように、加熱装置、パージバルブ84、ラフバルブ80のうち少なくとも一つを制御する。また、コントローラ100は、不燃性吸着材64の温度を示す温度測定信号に基づいて、不燃性吸着材64が室温より低い温度にあるとみなされる場合に昇華再生シーケンスを実行するように、加熱装置、パージバルブ84、ラフバルブ80のうち少なくとも一つを制御する。
【0113】
なお、コントローラ100は、再生開始指令S7を受け、圧力測定信号S3に基づいて、昇華再生シーケンスまたは脱水シーケンスのいずれかを実行するように、加熱装置としての冷凍機16、パージバルブ84、ラフバルブ80を制御してもよい。クライオポンプ10の真空排気運転が行われていた場合には、クライオポンプハウジング70内は真空となっている。一方、クライオポンプ10が真空チャンバに新たに設置され、これから真空排気運転を開始すべき場合には、クライオポンプハウジング70内は大気圧となっている。あるいは、停電またはその他の異常事態が発生しその復旧に長い時間を要した場合にも、クライオポンプハウジング70内は捕捉したガスの再気化により真空から大気圧(またはそれ以上)に昇圧される。したがって、クライオポンプハウジング70の内圧からクライオポンプ10の状態を把握することができる。
【0114】
あるいは、コントローラ100は、センサからの測定信号に代えて、再生開始指令S7を受ける直前のクライオポンプ10の状態に基づいて昇華再生シーケンスまたは脱水シーケンスのいずれかを実行するように加熱装置、パージバルブ、ラフバルブのうち少なくとも一つを制御してもよい。コントローラ100は、クライオポンプ10の現在のステータス(例えば、真空排気運転中、新規設置、再生中など)を示すステータスデータを生成し、記憶部102に保存するように構成されてもよい。コントローラ100は、再生開始指令S7を受ける直前のステータスデータが真空排気運転を示す場合に昇華再生シーケンスを選択し、再生開始指令S7を受ける直前のステータスデータが新規設置を示す場合に脱水シーケンスを選択してもよい。
【0115】
このようにして、脱水シーケンスを要しない場合には、脱水シーケンスを省略することができる。再生時間が長くなることを防ぐことができる。
【0116】
図9は、
図8に示される昇華再生シーケンスを示すフローチャートである。昇華再生シーケンスが開始されると、昇華再生部110は、パージバルブ84を開くとともに、ラフバルブ80を閉じる(S101)。パージガス源86からパージバルブ84を通じてクライオポンプハウジング70にパージガスが供給される。それとともに、昇華再生部110は、冷凍機16の逆転昇温運転を開始する。昇華再生部110は、第1温度測定信号S1に基づいて、第1測定温度T1を目標加熱温度に一致させるように冷凍機16の運転周波数を制御してもよい。
【0117】
昇華再生部110は、第1温度測定信号S1に基づいて、第1測定温度T1をパージ停止温度Tpと比較する(S102)。温度比較の結果に基づいて、昇華再生部110は、ラフバルブ80、ラフポンプ82を制御する。第1測定温度T1がパージ停止温度Tpより低い場合には(S102のNo)、現在の状態が維持される。すなわち、パージバルブ84は開放され、ラフバルブ80は閉鎖される。昇華再生部110は、所定時間経過後に再び、第1測定温度T1をパージ停止温度Tpと比較する(S102)。なお、昇華再生部110は、第2温度測定信号S2に基づいて、第2測定温度T2をパージ停止温度Tpと比較してもよい。
【0118】
パージ停止温度Tpは、水の三重点温度(すなわち273.15K)より低い温度値に設定されている。パージ停止温度Tpは、水の三重点温度の近傍でそれより低い温度、たとえば約230K~270Kの範囲に設定されてもよい。パージ停止温度Tpは、250Kに設定されてもよい。
【0119】
第1測定温度T1がパージ停止温度Tpより高い場合には(S102のYes)、昇華再生部110は、パージバルブ84を閉じ、ラフバルブ80を開く(S103)。こうして、クライオパネル温度が水の三重点温度を超える前にクライオポンプ10へのパージガスの供給が停止される。なお、パージバルブ84の閉鎖からいくらか遅れてラフバルブ80が開放されてもよい。昇華再生部110は、冷凍機16の逆転昇温運転を継続する。
【0120】
続いて、昇華再生部110は、ラフバルブ閉鎖条件が満たされるか否かを判定する(S104)。ラフバルブ閉鎖条件は、次の(a1)と(a2)を含む。
(a1)クライオポンプハウジング70の測定内圧が圧力しきい値より低い。
(a2)第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より高い。
【0121】
したがって、昇華再生部110は、圧力測定信号S3に基づいて、クライオポンプハウジング70の測定内圧を圧力しきい値と比較する。昇華再生部110は、第2温度測定信号S2に基づいて、第2測定温度T2を温度しきい値と比較する。これら比較の結果に基づいて、昇華再生部110は、ラフバルブ80およびパージバルブ84を制御する。
【0122】
クライオポンプハウジング70の測定内圧が圧力しきい値より高い場合には(S104のNo)、現在の状態が維持される。第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より低い場合にも(S104のNo)、現在の状態が維持される。すなわち、ラフバルブ80は開放され、パージバルブ84は閉鎖される。所定時間経過後に再び、ラフバルブ閉鎖条件が満たされているか否かが判定される(S104)。
【0123】
圧力しきい値は、たとえば、10Pa~100Paの圧力範囲から選択され、たとえば30Paであってもよい。温度しきい値は、たとえば、290K~330Kの温度範囲から選択され、たとえば300Kであってもよい。
【0124】
ラフバルブ閉鎖条件が満たされている場合(S104のYes)、すなわち、クライオポンプハウジング70の測定内圧が圧力しきい値より低くかつ第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より高い場合には、ラフバルブ80は閉鎖される(S105)。ラフバルブ80の閉鎖と同時に、またはいくらか遅れてパージバルブ84が開放されてもよい。
【0125】
ステップS105におけるラフバルブ80の閉鎖後は、図示されない更なる排出工程およびクールダウン工程が行われ、昇華再生シーケンスは終了する。
【0126】
昇華再生シーケンスは、いわゆるフル再生であり、第1クライオパネルユニット18と第2クライオパネルユニット20の両方が再生される。そのため、クライオポンプ10は、引き続き加熱され、室温またはそれより高温の再生温度(たとえば290K~330K)に昇温される。このように、再生中にクライオポンプ10を比較的高い温度に維持することは、再生時間の短縮に寄与する。
【0127】
なお、実施形態に係るクライオポンプ再生は、クライオポンプ10内に凝縮した水の量が少なく、昇華によってクライオポンプ10の内圧が水の三重点圧力を超えない場合に適する。クライオポンプ10内に大量の水が凝縮している場合には、昇華により多量の水蒸気が気化し、クライオポンプ10の内圧が水の三重点圧力を超えるかもしれない。このような場合には、コントローラ100は、クライオポンプ10を室温より高温に加熱する代わりに、クライオポンプ10の温度を水の三重点温度より低い温度に保持してもよい。
【0128】
図10は、
図8に示される脱水シーケンスを示すフローチャートである。脱水シーケンスが開始されると、脱水部112は、パージバルブ84を開くとともに、ラフバルブ80を閉じる(S201)。パージガス源86からパージバルブ84を通じてクライオポンプハウジング70にパージガスが供給される。供給されたパージガスはベントバルブ88を通じてクライオポンプハウジング70から排出される。
【0129】
パージバルブ84の開弁とともに、脱水部112は、冷凍機16の逆転昇温運転を開始する。脱水部112は、第2温度測定信号S2に基づいて、第2測定温度T2を目標加熱温度に一致させるように冷凍機16の運転周波数を制御してもよい。あるいは、脱水部112は、第1温度測定信号S1に基づいて、第1測定温度T1を目標加熱温度に一致させるように冷凍機16の運転周波数を制御してもよい。上述のように、目標加熱温度は、例えば、50℃以上の温度に設定される。
【0130】
続いて、脱水部112は、脱水完了条件が満たされるか否かを判定する(S202)。脱水完了条件は、次の(b1)と(b2)を含む。
(b1)第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より高い。
(b2)予め設定された乾燥時間(脱水待ち時間)が経過している。
【0131】
したがって、脱水部112は、第2温度測定信号S2に基づいて、第2測定温度T2を温度しきい値と比較する。温度しきい値は、目標加熱温度に等しくてもよい。脱水部112は、経過時間を測定し、経過時間を予め設定された乾燥時間と比較する。この経過時間は、例えば、第2測定温度T2が温度しきい値に達した時点から起算されてもよいし、あるいは、再生開始指令S7から起算されてもよい。予め設定された乾燥時間は、例えば、10分から60分(例えば30分)に設定されてもよい。これら比較の結果に基づいて、脱水部112は、ラフバルブ80およびパージバルブ84を制御する。
【0132】
第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より低い場合には(S202のNo)、現在の状態が維持される。予め設定された乾燥時間が経過していない場合にも(S202のNo)、現在の状態が維持される。すなわち、パージバルブ84は開放され、ラフバルブ80は閉鎖され続ける。所定時間経過後に再び、脱水完了条件が満たされているか否かが判定される(S202)。
【0133】
脱水完了条件が満たされている場合(S202のYes)、すなわち、第2クライオパネルユニット20の測定温度が温度しきい値より高くかつ予め設定された乾燥時間が経過している場合には、パージバルブ84は閉鎖される(S203)。脱水シーケンスの間、ラフバルブ80は閉鎖され続ける。こうして、脱水シーケンスは終了する。
【0134】
なお、パージガスの供給可能量が限られている場合など、必要に応じて、脱水部112は、脱水完了条件が満たされる前に、パージバルブ84を閉鎖してもよい。
【0135】
図11は、
図8に示される再生方法における温度及び圧力の時間変化の一例を示す。図において、符号T1、T2はそれぞれ第1クライオパネルユニット18、第2クライオパネルユニット20の測定温度を示す。温度値は左側の縦軸に示される。符号Pはクライオポンプハウジング70の測定内圧を示し、圧力値は右側の縦軸に対数で示される。
【0136】
図示されるプロセスは、クライオポンプ10を新規に運転開始する場合である。クライオポンプ10は全体が室温にあり、内圧は大気圧となっている。再生シーケンスの開始時点T
0では、第1クライオパネルユニット18と第2クライオパネルユニット20はともに約297Kである。よって、第1測定温度T1は第1基準温度Tr1より高く、第2測定温度T2は第2基準温度Tr2より高い。したがって、
図8に示されるフローに従ってまず、脱水シーケンスが実行され(
図8のS200)、それに続いて昇華再生シーケンスが実行される(
図8のS100)。
【0137】
脱水シーケンスが開始されると、パージバルブ84が開かれ、ラフバルブ80が閉鎖される(
図10のS201)。パージガスの供給により、クライオポンプハウジング70の測定内圧Pは引き続き、大気圧程度となる。冷凍機16の逆転昇温により、第1クライオパネルユニット18と第2クライオパネルユニット20(不燃性吸着材64を含む)は、目標加熱温度(例えば、335K)へと加熱される。
【0138】
図11に示されるタイミングTaにおいて第2測定温度T2が目標加熱温度に到達する。第2測定温度T2が目標加熱温度に到達した時点から、コントローラ100は、乾燥時間(脱水待ち時間)を計る。乾燥時間は30分に設定されている。
図11に示されるタイミングTbにおいて乾燥時間が完了すると、脱水完了条件が満たされていると判定され(
図10のS202)、脱水シーケンスは終了する(
図10のS203)。
【0139】
続いて、昇華再生シーケンスが始まる。クライオポンプ10は既に加熱されているので、第1測定温度T1と第2測定温度T2はともにパージ停止温度より高い。したがって、タイミングTbにおいて、パージバルブ84は閉じられ、ラフバルブ80が開かれる(
図9のS103)。
【0140】
クライオポンプ10の真空排気(粗引き)が行われ、クライオポンプ10の内圧が十分に低くなったとき、ラフバルブ80は閉鎖され、クライオポンプ10の真空排気は終了される(
図11のタイミングTc)。より具体的には、クライオポンプハウジング70の測定内圧Pが圧力しきい値Paより低くかつ第2クライオパネルユニット20の測定温度T2が温度しきい値より高い場合に(
図9のS104)、ラフバルブ80は閉鎖される(
図9のS105)。
【0141】
その後、
図11に示されるように、いわゆるラフアンドパージを含む排出工程が行われてもよい。ラフアンドパージは、クライオポンプ10へのパージガスの供給と真空排気を交互に繰り返す工程である。ラフアンドパージは、吸着材に吸着した水蒸気を排出することに役立ちうる。ラフアンドパージの間、クライオポンプ10の内圧および圧力上昇率は監視され、これらが所定値を満たすとき(
図11におけるタイミングTd)、クライオポンプ10のクールダウンが開始される。第1クライオパネルユニット18および第2クライオパネルユニット20がそれぞれ目標冷却温度に冷却されると、再生は完了する。
【0142】
以上説明したように、実施の形態によると、クライオポンプ10の真空排気運転を開始する前に、不燃性吸着材64の脱水を行うことができる。それまでの作業(製造、運搬、保管、設置など)のなかで不燃性吸着材64が吸湿していたとしても、真空引きによる不燃性吸着材64の破損を防ぎ、クライオポンプ10を稼働させることができる。
【0143】
また、クライオポンプ10の真空排気運転中に起こる停電またはその他の異常事態によりクライオポンプ10に溜め込まれた氷が溶け、不燃性吸着材64が高湿度環境にさらされたとしても、クライオポンプ10は、異常事態からの復旧時に脱水シーケンスを実行し、不燃性吸着材64を乾燥させることができる。これにより、真空引きによる不燃性吸着材64の破損を防ぎ、クライオポンプ10を稼働させることができる。
【0144】
コントローラ100は、脱水シーケンスにおいて、不燃性吸着材64およびクライオパネル60を50℃以上に加熱するように加熱装置を制御する。加熱を利用して、不燃性吸着材64の脱水を短時間で行うことができる。
【0145】
また、コントローラ100は、脱水シーケンスにおいて、クライオポンプハウジング70にパージガスを供給するようにパージバルブ84を開く。パージガスを利用して、不燃性吸着材64の脱水を短時間で行うことができる。
【0146】
また、コントローラ100は、脱水シーケンスの間、ラフバルブ80を閉じ続ける。これにより、脱水シーケンスの途中でクライオポンプハウジング70の内圧が過剰に減圧されることが防止される。
【0147】
昇華再生シーケンスによると、昇華により氷は液体の水を経ることなく水蒸気へと気化する。よって、親水性吸着材は、再生中に液体の水と接触しない。吸着材に吸着される水の量が少なくなるので、吸着材の脱水に要する時間を短縮することができる。よって、再生時間を短くすることができる。また、上述のように、シリカゲルは、液体の水に浸かると脆くなり、その後自然に砕けてしまう性質がある。しかしながら、本実施形態によると、親水性吸着材は、再生中に液体の水と接触しない。よって、親水性吸着材がシリカゲルを含有する場合に、親水性吸着材を長持ちさせることができる。
【0148】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0149】
ある実施の形態においては、上述の基本脱水シーケンスに続いて追加脱水シーケンスが実行されてもよい。コントローラ100(例えば脱水部112)は、第1温度測定信号S1、第2温度測定信号S2、圧力測定信号S3に基づいて、追加脱水シーケンスを実行するように構成されてもよい。追加脱水シーケンスは、ラフバルブ80を通じたクライオポンプハウジング70の真空排気(粗引き)によって、不燃性吸着材64に残留する水を減らすように構成されてもよい。または、追加脱水シーケンスは、ラフバルブ80を通じたクライオポンプハウジング70の真空排気とパージバルブ84を通じたクライオポンプハウジング70へのパージガス供給を交互に繰り返すラフアンドパージによって、不燃性吸着材64に残留する水を減らすように構成されてもよい。ラフアンドパージは
図11に例示される。ラフアンドパージに続いて、クールダウンが行われ、追加脱水シーケンスは完了する。こうして、クライオポンプ10の真空排気運転が開始される。なお、追加脱水シーケンスは、上述の昇華再生シーケンスの一部であってもよい。
【0150】
図12は、ある実施の形態に係るクライオポンプシステムを概略的に示す図である。クライオポンプシステムは、複数のクライオポンプを備え、具体的には、少なくとも1つの第1クライオポンプ10aと、少なくとも1つの第2クライオポンプ10bとを備える。
図12に示される例では、クライオポンプシステムは、2台の第1クライオポンプ10aと2台の第2クライオポンプ10bからなる合計4台のクライオポンプで構成されるが、第1クライオポンプ10a、第2クライオポンプ10bの数はとくに限定されない。これら複数のクライオポンプは、それぞれ別個の真空チャンバに設置されてもよいし、ひとつの同じ真空チャンバに設置されてもよい。
【0151】
第1クライオポンプ10aは、シリカゲルを主成分として含有する吸着材を有するクライオポンプであり、例えば、
図1に示されるクライオポンプ10である。第2クライオポンプ10bは、シリカゲルを含有しない吸着材(例えば、活性炭)を有するクライオポンプである。第2クライオポンプ10bは、吸着材を除いて、
図1に示されるクライオポンプ10と同様の構成を有する。よって、第1クライオポンプ10aは、クライオポンプハウジング70およびラフバルブ80を備える。同様に、第2クライオポンプ10bは、クライオポンプハウジング70およびラフバルブ80を備える。
【0152】
クライオポンプシステムは、ラフ排気ライン130を備える。ラフ排気ライン130は、第1クライオポンプ10aと第2クライオポンプ10bに共通するラフポンプ82と、各クライオポンプ(10a、10b)のラフバルブ80から共通のラフポンプ82へと合流するラフ配管132とを備える。ラフポンプ82は、複数の第1クライオポンプ10aと複数の第2クライオポンプ10bに共用される。
【0153】
コントローラ100は、各クライオポンプ(10a、10b)についての再生開始指令S7を受け、当該クライオポンプの再生を開始するように構成されている。再生開始指令S7は、例えば、入力部104(
図3参照)からコントローラ100に入力される。
【0154】
ところで、各クライオポンプ(10a、10b)はラフ排気ライン130を通じて互いに接続されているので、再生がいくつかのクライオポンプで並行して行われた場合には、あるクライオポンプ(クライオポンプAと称する)から他のクライオポンプ(クライオポンプBと称する)へとガスが逆流しうる。例えば、ラフポンプ82がクライオポンプAの粗引きをしている最中にクライオポンプBがパージから粗引きに移行したとすると、その移行時点ではパージガスによりクライオポンプBの内圧はクライオポンプAに比べて高くなっている。そのため、2つのクライオポンプの圧力差によってラフ配管132を通じてクライオポンプBからクライオポンプAにガスが逆流しうる。
【0155】
このようなガスの逆流は、とくに、クライオポンプAが第1クライオポンプ10aである場合には、望まれない。なぜなら、逆流により第1クライオポンプ10aが昇圧され、内圧が水の三重点圧力を超えうるからである。その場合、第1クライオポンプ10aにおいて氷が水へと液化しうる。吸着材に含まれるシリカゲルが液体の水と接触するリスクが高まる。
【0156】
また、ラフ配管132からクライオポンプ(10a、10b)に生じる逆流によって、クライオポンプにパーティクルが進入するおそれもある。
【0157】
そこで、コントローラ100は、基本脱水シーケンスを複数の第1クライオポンプ10aで並行して実行し、追加脱水シーケンスを複数の第1クライオポンプ10aで順番に実行してもよい。基本脱水シーケンスではラフバルブ80が閉鎖されるので、複数の第1クライオポンプ10aが基本脱水シーケンスを同時に実行しても上記の問題は起こらない。追加脱水シーケンスではラフバルブ80が開かれるが、複数の第1クライオポンプ10aが追加脱水シーケンスを順番に実行するので、複数のラフバルブ80が同時に開くことはない。よって、複数の第1クライオポンプ10a間でのガス逆流を防止することができる。
【0158】
ラフバルブ80は、上述の昇華再生シーケンスでも開かれる。したがって同様に、コントローラ100は、基本脱水シーケンスを複数の第1クライオポンプ10aで並行して実行し、昇華再生シーケンスを複数の第1クライオポンプ10aで順番に実行してもよい。このようにすれば、複数の第1クライオポンプ10a間でのガス逆流を防止することができる。
【0159】
また、コントローラ100は、第1クライオポンプ10aの脱水中(基本脱水シーケンス及び/または追加脱水シーケンス)、少なくとも1つの他のクライオポンプ(すなわち、第2クライオポンプ10b)についての再生開始指令S7を受けた場合、少なくとも1つの他のクライオポンプの再生開始を第1クライオポンプ10aの脱水完了以降に遅延させてもよい。このようにすれば、第2クライオポンプ10bから第1クライオポンプ10aへのガス逆流を防止することができる。
【0160】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、クライオポンプ、クライオポンプシステム、クライオポンプの運転開始方法の分野における利用が可能である。
【符号の説明】
【0162】
10 クライオポンプ、 60 クライオパネル、 64 不燃性吸着材、 70 クライオポンプハウジング、 80 ラフバルブ、 82 ラフポンプ、 84 パージバルブ、 86 パージガス源、 100 コントローラ。