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<図1>
  • 特許-マルテンサイト系ステンレス合金 図1
  • 特許-マルテンサイト系ステンレス合金 図2
  • 特許-マルテンサイト系ステンレス合金 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】マルテンサイト系ステンレス合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241122BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20241122BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/46
C21D6/00 102J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021571522
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2020065508
(87)【国際公開番号】W WO2020245285
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】19178590.6
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】201910870222.1
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】524003998
【氏名又は名称】アレイマ ストリップテック アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴィークルント, サラ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン, ジョナス
(72)【発明者】
【氏名】マットソン, スヴェン-インゲ
(72)【発明者】
【氏名】ホーエル, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】チャイ, クオツァイ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-508863(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0000841(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105525226(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109280862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセント(wt.%)で:
0.5超、かつ0.60以下
Si 0.10~0.60,
Mn 0.40~0.80;
Cr 13.50~14.50;
Ni 0~1.20;
Mo 0.80~2.50;
N 0.050~0.12;
Cu 0.4超、かつ1.50以下
V 最大0.10;
S 最大0.03;
P 最大0.03;
を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である、マルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項2】
Siの含有量が、0.20~0.55wt%である、請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項3】
Mnの含有量が、0.50~0.80wt%である、請求項1または請求項2に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項4】
Moの含有量が、0.80~2.00wt%である、請求項1から3のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項5】
Ni含有量が、0.80wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項6】
N含有量が、0.050~0.10wt%である、請求項1から5のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項7】
V含有量が、0.030~0.10wt%である、請求項1から6のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項8】
C含有量が、0.51~0.60wt%である、請求項1から7のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項9】
ステンレス合金が、0.50~1.5wt%のCuを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のマルテンサイト系ステンレス合金を含む、ステンレス鋼物品。
【請求項11】
物品がストリップである、請求項10に記載のステンレス鋼物品。
【請求項12】
前記物品が冷間圧延、硬化および焼戻しされた、請求項10または11に記載のステンレス鋼物品。
【請求項13】
微細構造が、金属炭窒化物;M23およびM炭化物(式中、Mは1個または複数個の金属原子を表す。);および/または他のタイプの炭化物の存在によって特徴付けられる、請求項12に記載のステンレス鋼物品。
【請求項14】
微細構造が、Cu沈殿物および/またはクラスタを含む、請求項12または13に記載のステンレス鋼物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルテンサイト系ステンレス合金、マルテンサイト系ステンレス合金およびそれでできた異なる構成要素を含むステンレス鋼ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
今日のマルテンサイト系ステンレス鋼は、一般に高い性能および良好な特性、例えば高い強度および高い延性を有し、それによって様々なストリップ用途での使用に適している。
【0003】
欧州特許EP 303 1942は、フラッパー弁に使用できるマルテンサイト系ステンレス鋼を開示している。しかしながら、この鋼は、使用するその組成および製造工程が原因でその機械的強度を失うことになるので、要求が厳しい用途および高温用途での使用に適していない。したがって、使用する場合、この鋼は、必要な機械的性質を有していないことになり、さらに耐用年数が短くなる。
【0004】
したがって、良好な機械的性質と温度安定性の組合せを有している、すなわち要求が厳しい用途および高温(温度約300℃)で良好な機械的性質を有している、かつ維持しているマルテンサイト系ステンレス合金が必要とされている。
【0005】
本開示の態様の1つは、したがってこの問題の解決策を提供することまたはこの問題を減らすことである。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、したがって、以下の組成を重量パーセント(wt.%)で有するマルテンサイト系ステンレス合金に関する:
C >0.50~0.60;
Si 0.10~0.60;
Cu >0.4~1.50;
Mn 0.40~0.80;
Cr 13.50~14.50;
Ni 0~1.20;
Mo 0.80~2.50;
N 0.050~0.12;
V 最大0.10;
S 最大0.03;
P 最大0.03;
を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0007】
本開示はまた、マルテンサイト系ステンレス合金を含む、またはマルテンサイト系ステンレス合金からなる構成要素に関する。さらに、本開示はまた、そのような構成要素を製造するための方法を提供する。
【0008】
本発明は、炭素含有量が0.50超(>0.50)~0.60wt%のマルテンサイト系ステンレス合金を含む構成要素では、高い延性と併せて引張強度および硬度が改善し、それによって耐疲労性が向上するという発見に基づいている。さらに、上記または以下に定義されているマルテンサイト系ステンレス合金の組成物は、良好な温度安定性をもたらし、それによって材料は、高温用途で優れていることが分かっている。一般にこの高い炭素含有量(0.50wt%超)は、一次炭化物と粗い炭化物粒子の炭化物分布の両方をもたらし、機械的性質に悪影響を与えることになるので、この発見は、非常に驚くべきものである。
【0009】
その上、上記または以下に定義されている本発明のマルテンサイト系ステンレス合金では、意図的に銅を添加すると、強度などの機械的性質が改善することが分かっている。さらに、銅を添加すると、A1温度の低下がもたらされることが驚くべきことに分かっている。これは、焼鈍中および硬化中のオーステナイト化中に使用される温度の低下を可能にするので、熱処理に良い影響を与えることになり、言い換えるとエネルギー効率およびコストの観点から有益である。
【0010】
さらに、意図的に添加したCuと大量の炭素の組合せは、熱処理後に高い機械的強度をもたらすことになることが分かっている。いかなる理論にも拘泥するものではないが、これは、マルテンサイトの強度を増加させるCの効果、オーステナイトとマルテンサイトに固溶体強化効果をもたらすCuの効果によるものであり、またクラスタおよび沈殿物の形成によって硬化効果も得られるものと考えられる。得られた最終生成物は、したがって、機械的強度が高いので冷後に焼戻し温度が高くなる可能性があるため、温度安定性が改善されることになる。
【0011】
その上、上記または以下に定義されているマルテンサイト系ステンレス合金を含む、またはそれからなる物品、例えば機械構成要素またはストリップは、高温環境(温度約300℃)における改善された疲労強度および引張強度、高い硬度および良好な温度安定性ならびに改善された耐摩耗性の組合せを有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】疲労試験の結果を示す図である。関係Rは、疲労限度と引張強度の比を表す。
図2】合金の熱安定性を評価した結果を示す図である。
図3】合金のCu粒子を調査したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、重量パーセント(wt.%)で:
C >0.50~0.60;
Si 0.10~0.60,
Mn 0.40~0.80;
Cr 13.50~14.50;
Ni 0~~1.20;
Mo 0.80~2.50;
N 0.050~0.12;
Cu >0.4~1.50;
V 最大0.10;
S 最大0.03;
P 最大0.03;
を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である、マルテンサイト系ステンレス合金に関する。
【0014】
本発明のマルテンサイト系ステンレス合金は、以下「ステンレス合金」または「ステンレス鋼」とも呼ばれ、硬化および焼戻し後、マルテンサイト、残留オーステナイト、炭化物および炭窒化物ならびに銅沈殿物を含む微細構造を有する。上記または以下に定義されている硬化および焼戻しマルテンサイト系ステンレス合金の微細構造は、金属炭窒化物;M23およびM炭化物;および/または他のタイプの炭化物の存在によってさらに特徴付けられ、式中Mは1個または複数の金属原子を表す。
【0015】
本発明のステンレス合金は、従来のマルテンサイト系ステンレス鋼と比較して、温度安定性を損なうことなく硬度の増加をもたらすことになる。高温安定性は、ステンレス合金が高温用途(約300℃)で使用できることを意味するため、重要である。
【0016】
本発明のマルテンサイト系ステンレス合金に適した硬化温度は、980~1100℃、例えば1020~1060℃の温度範囲内にある。適当な焼戻し温度は、用途に応じて、200~500℃の範囲内にあり得る。これらの温度で焼戻し工程を行なうことにより、本発明のステンレス合金を含むまたはそれからなる構成要素は、高温(約300℃)で安定な温度になる。一実施形態によれば、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼は、400~450℃の温度で焼戻してもよい。得られた材料は、所望の用途で使用するのに十分高い硬度を有することになる。
【0017】
硬化および焼戻し時間は、製品の用途および寸法によって異なっていてもよい。硬化および焼戻しは、炉内で行なわれる。
【0018】
一実施形態によれば、本発明のマルテンサイト系合金は、0.5wt%以下の不可避的不純物、好ましくは0.3wt%以下の不可避的不純物を含む。不可避的不純物は、ステンレス合金の製造に使用される原料またはリサイクル材料で自然に発生することがある。
【0019】
不可避的不純物の例は、意図的に添加されたものではないが、通常不純物として発生するため完全に回避することができない元素および化合物である。不可避的不純物は、したがって、最終的な特性に非常に限られた影響しか与えない濃度で合金中に存在する。ステンレス合金中に存在する不可避的不純物には、例えば1種または複数のCo、Sn、Ti、Nb、W、Zr、Ta、B、CeおよびOが含まれていてもよい。
【0020】
また、少量の合金元素は、製造プロセス、例えば脱酸素工程中に、または他の特性を改善するために添加することができる。そのような合金元素の例は、それだけには限らないが、AlおよびMgおよびCaである。どの元素が使用されるかに応じて、当業者は、どのくらい必要か知っているはずである。しかしながら、一実施形態によれば、これらの元素は、ステンレス合金に≦0.02wt%添加されてもよい。
【0021】
提案されたマルテンサイト系ステンレス合金の合金元素について以下に論じる。しかしながら、下記のそれらの効果は、限定として解釈されるべきものではない。
【0022】
炭素(C)
Cは、金属炭窒化物;M23およびM炭化物;および/または他のタイプの炭化物の形成のための重要な元素であり、式中Mは1個または複数の金属原子を表す。Cはまた、鋼の焼入れ性に重要である。Cの含有量が多すぎると、しかしながら、他の合金元素と併せて、一次製造段階中に形成される大きくて不要な一次炭化物が発生し得る。さらに、Cの含有量が多いと、マルテンサイトがより脆くなり、マルテンサイトが形成し始めるMs-温度が下がり、また残留オーステナイトの量が高すぎるレベルに増加し得る。したがって、本発明の合金の最大C含有量は、0.60wt%、例えば0.58wt%、例えば0.56wt%である。
【0023】
本発明の合金の高い炭素含有量は、驚くべきことに、炭化物の高い粒子密度および高い粒子面積率ももたらした。さらに、かつ驚くべきことに、形成された炭化物は、細かく分散していた。より小さいサイズおよびより多数の炭化物が存在すると、機械的性質が改善される。
【0024】
これは、耐摩耗性に良い影響を与え得る。高い炭素含有量は、したがって、>0.50、例えば0.51wt%、例えば0.52wt%、例えば0.53wt%である。
【0025】
Cの量は、本発明の合金において>0.50~0.60wt%、好ましくは0.51~0.56wt%に制限されている。
【0026】
銅(Cu)
本発明のステンレス合金では、Cuは、意図的に添加される。Cuは、オーステナイト安定剤であり、驚くべきことに、本発明の鋼において鋼の代替固溶体強化に寄与し、それによって優れた特性に新しい可能性をもたらすことが分かっている。Cuはまた、強度を高める一種のクラスタおよび/または沈殿物を形成することになる。
【0027】
マトリックス中のCuの溶解度は、平衡状態で0.4wt%超である。本開示では、発明者らは、硬化および焼戻し後のマルテンサイトと残留オーステナイトの相の固溶体強化の最大化を確実にするために、Cuを過飽和にすることが重要であり、さらに過飽和はクラスタ強化および沈殿硬化を可能にすることを発見した。Cuは、ステンレス合金の耐食性も改善することになる。
【0028】
したがって、Cuの含有量は、0.4超~1.50wt%、例えば0.50~1.50wt%Cu、例えば0.55~1.30wt%である。
【0029】
ケイ素(Si)
Siは、フェライト安定剤であり、脱酸素剤として作用する。Siはまた、炭素活性を高め、固溶体強化による強度増大に寄与する。含有量が多すぎると、不要な介在物の形成をもたらす可能性がある。Siの量は、したがって0.10~0.60wt%、例えば0.20~0.55wt%、例えば0.30~0.50wt%に制限されている。
【0030】
マンガン(Mn)
Mnは、オーステナイト安定剤であり、脱酸素剤として作用する。Mnは、Nの溶解度を高め、熱間加工性を改善する。含有量が多すぎると、Sと併せてMnS介在物の形成に寄与し得る。Mnの量は、したがって0.40~0.80wt%、例えば0.50~0.80wt%に制限されている。
【0031】
クロム(Cr)
Crは、鋼マトリックス中のCrの量によって決定される鋼の耐食性に必須である。Crは、炭化物(M23、M、炭窒化物)を形成し、CおよびNの溶解度を高める。Crは、フェライト安定剤であり、量が多すぎると、デルタフェライトの形成をもたらし得る。Crの量は、したがって13.50~14.50wt%に制限されている。
【0032】
モリブデン(Mo)
Moは、フェライト安定剤であり、強力な炭化物形成剤である。Moは、鋼の耐食性と焼入れ性の両方に良い影響を与える。Moはまた、延性の改善に寄与する。Moは高価な元素なので、含有量は、経済的な理由で必要以上に高くすべきではない。Moの量は、したがって0.80~2.50wt%、好ましくは0.80~2.00wt%、より好ましくは0.90~1.30wt%に制限されている。
【0033】
窒素(N)
Nは、オーステナイト安定剤であり、侵入型固溶体強化により鋼の強度を高める。Nは、マルテンサイトの硬度の増加に寄与する。Nは、窒化物および炭窒化物を形成することになる。Nの量が多すぎると、しかしながら熱間加工性が低下することになる。Nの量は、したがって0.050~0.12wt%、好ましくは0.050~0.10wt%、例えば0.055~0.085wt%に制限されている。
【0034】
ニッケル(Ni)
Niは、オーステナイト安定剤であり、CおよびNの溶解度を低下させる。Niは高価な元素なので、含有量は、経済的な理由で低く保つべきであり、Niは通常、本発明のステンレス合金に意図的に添加されない。Niの量は、≦1.20wt%、好ましくは≦0.40wt%、より好ましくは≦0.35wt%であるべきである。一実施形態によれば、Niは、0.15~0.35wt%である。
【0035】
バナジウム(V)
Vは、強力な炭化物形成剤であり、粒成長を制限する。炭化物形成元素として、Vは、マルテンサイト系合金中に存在していてもよく、意図的に添加してもよい。リサイクル材料が原因で存在する場合もあるが、その場合不純物としてみなされる。含有量もクロムの供給源によって決まることになる。しかしながら、Vの含有量が多すぎると、延性および焼入れ性が低下し、不要な一次炭化物をもたらし得る。ステンレス合金中に存在する場合、Vの量は、したがって0.010~0.10wt%、例えば0.030~0.10wt%に制限される。
【0036】
リン(P)
Pは、脆化を引き起こす。Pは、通常添加されず、≦0.03wt%に制限されるべきである。
【0037】
硫黄(S)
Sは、熱間加工性に悪影響を与えることになり、量が多すぎると、MnS介在物の形成を引き起こすことになる。Sは、通常添加されず、≦0.03wt%に制限されるべきである。
【0038】
一実施形態によれば、本発明のステンレス合金は、上記の範囲のいずれかの上述の合金元素のいずれかを含む。別の実施形態によれば、本発明のステンレス合金は、上記の範囲のいずれかの上述の合金元素のいずれかからなる。
【0039】
したがって、本発明の合金とそれから構成された物品は、本明細書に開示された範囲で意図的に添加されたCuによって固溶体硬化が最大化されるため、かつ微粉砕した炭化物による沈殿硬化のため、優れた強化があるであろう。さらに、延性は、微細構造の組成によって改善された。
【0040】
マルテンサイト系ステンレス合金は、構成要素、例えばストリップの形態で適切に製造できるが、ワイヤー、ロッド、バー、チューブなどの形態で製造することもできる。
【0041】
本発明のマルテンサイト系ステンレス合金は、異なる機械構成要素、例えばコンプレッサーのためのバルブ構成部品、例えばフラッパー弁として使用することができる。本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼は、高い疲労強度および/または耐摩耗性およびエッジ性能が望ましい他の用途にも適している。
【0042】
一実施形態によれば、本発明のステンレス合金は、下記に応じて製造することができる:
- 溶融-溶融プロセスは、EAF-電気アーク炉-を用いて実施でき、続いてAODプロセスおよび任意選択の最終調整を実施してもよい;
- 鋳造-所望の形状、例えば100~600mmのブルームに鋳造する;
- 加熱-材料が1200~1350℃の温度に達するまでブルームを加熱する;
- 圧延-ブルームをストリップに熱間圧延する。熱間圧延は、使用しているロールミルに応じて複数パスを実行することができる。この工程では、所望のストリップ寸法を得るために必要だと分かった場合、任意選択で1つまたは複数の熱処理工程を実行することができる。
- 巻取り-ストリップの巻取り、冷却後の巻取温度は約500~800℃である
- 焼鈍-700~900℃で少なくとも1hの熱間圧延ストリップの焼鈍。
- 任意選択の表面処理
- 圧延-例えば0.040~3mmの最終厚さまでの冷間圧延。
- 任意選択の焼鈍-約650~800℃の温度での中間焼鈍が再結晶のために必要な場合がある。
- 硬化-硬化は、以下の工程:オーステナイト化、急冷、追加冷却、焼戻し、室温までの冷却および研磨を含む連続硬化ラインで実施することができる。硬化ラインの速度は、材料の厚さまたは質量流量および炉(複数可)のサイズによって決まり、100~1000m/hであってよい。オーステナイト化炉および焼戻し炉の長さは、ほぼ同じである。
〇 オーステナイト化温度は、950~1100℃である。
〇 急冷は、脆性または耐食性の低下を回避するために、材料温度が急速に、通常2分以内に、約500℃未満になるように行なうべきである。
〇 追加冷却は、材料をMs温度未満で通過させ、所望のレベル残留オーステナイトを得るために、任意選択で行なわれる。冷却温度は、通常室温が適用されるが、最終用途に応じて-100~100℃であってよい。
〇 焼戻しは、目的とする最終引張強度に応じて250~500℃に設定することができる。
【0043】
本開示を、以下の非制限的な実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0044】
実施例1
真空誘導溶解炉(VIM)を用いて溶融させることによっていくつかの合金を製造した。wt%での合金の元素組成を表Iに示す。残部は、Feおよび不可避的不純物である。特定の元素に値が示されていない場合、その元素の量は検出限界未満である。合金1、2および3は、比較例として含まれているが、残りの合金は、本開示によるステンレス合金の様々な実施形態を表す。合金は、後述のように製造し、ステンレス合金であった。
【0045】
ヒートから、円柱状の試験ロッドの形態の試料を試験用に製造した。
【0046】
プロセスフローは、したがって;
原料の真空誘導溶解炉(VIM)での溶融、
鋳造、
熱間加工前に予熱700℃(30分)、続いて1150℃(30分)での熱処理、
焼鈍(825~875℃で6h)および
試料の機械加工;
続いて硬化および焼戻し
であった。
【0047】
試験試料は、1030℃および1050℃で硬化し、続いて急冷(RTまで)し、次いで焼戻しを450℃(1050℃での硬化のため)と250および450℃(1030℃での硬化のため)で2h行ない、結果を表IIAおよび表IIBで見ることができる。
【0048】
これらの硬度(HV1)測定は、SS-EN IS O 6507に基づいて実施した。値は、5回の測定の平均値である。
【0049】
表IIAを見ても分かるように、結果は、1030℃で硬化した2組のデータについて硬度の増加を示した。データは、焼戻し温度が高くても硬度の明らかな増加を示し、Cuの添加による硬度の増加を示した。
【0050】
表IIAは、より高温、450℃での焼戻しにより、本発明の合金の硬度がより高くなった(それにより引張強度がより高くなった)ことをさらに示す。これは、本発明の合金が、高温用途で使用した場合に、より高い性能を有することを意味する。
【0051】
表IIBは、本発明の合金の硬度が、1050 HV、450℃で比較の合金よりも高いことを示す。これは、本発明の合金が、それらのより高い性能を保持するので、高温用途で使用するのに適していることを示唆する。
【0052】
疲労測定
【0053】
合金の疲労特性を測定するために、合金11を製造し、上記の組成を有し、最終厚さが0.305mmであり、次に、約80Hzの共振で動作する10%予圧で変動引張試験機AMSLERを使用して、階段法を用いて、疲労特性を試験した。試験の不足は、510サイクルと定義される。いくつかの試料を製造し、試料は、胴体中央部10mm、長さ15mmで構成されている。
【0054】
方法は、完全な断面を加えられる応力条件に曝露し、それによって制限要因についてより大きな体積で材料特性を試験することを意味する。試料は、適切なエッジおよび高い表面残留応力を保証するためにタンブルさせる。実施した疲労試験で破損する確率は50%である。
【0055】
図1では、疲労試験結果の結果を示す。関係Rは、疲労限度と引張強度の比を表す。得られた標準偏差は、それぞれ、各ボックスのサイズで示されている。図から分かるように、本発明の材料は、1505MPaの疲労限度を示し、一方参照物質(EN 1.4031に基づく)は、1390を示した。
【0056】
沈殿物
表III 炭化物を測定するのに使用した合金の組成。合金Aは、本開示の範囲内である。合金A(製造時HV1 593)、B(製造時HV1 520)およびC(製造時HV1 552)およびD(製造時HV1 612)は、比較用の合金である。
【0057】
本発明の表から分かるように、本開示の合金は、粒子密度が50を超えている。
【0058】
表Vのデータは、画像処理されたSEM画像から得られた。その例を図3に示す。本発明の合金のCu粒子は、Thermo Calc計算によれば、A1温度未満の温度で安定である。画像中のCu粒子の存在は、最大化された固溶体に加えて、目に見えないCuクラスタおよび目に見えないより細かいCu粒子も存在していることを示している。Cu沈殿物とCuクラスタの両方とも、機械的性質に寄与することになる。
【0059】
表IIIの一部の合金の熱安定性を評価した。結果を図2に示す。
【0060】
図2は、合金Dが、焼戻し中に安定化されている温度よりも高い温度に曝露されると、それらの特性を失うことになることを示す。合金Aの場合、温度範囲全体でほとんど影響を受けない硬度として示される熱安定性を損なうことなく、より高い硬度とそれによってより高い引張強度が得られる。
図1
図2
図3