(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】加湿素子および加湿装置
(51)【国際特許分類】
F24F 6/04 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
F24F6/04
(21)【出願番号】P 2022035310
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 勝
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋航
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098791(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138095(WO,A1)
【文献】特開2008-209027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの間に隙間を設けるように上下方向と交差する第1の方向に並べられ、前記上下方向および前記第1の方向の両方と交差する第2の方向に空気が前記隙間を通過可能な複数の加湿体と、
前記加湿体を上方から下方へと水が流れるように、前記加湿体に給水する給水手段と、を備え、
少なくとも隣り合う2つの前記加湿体には、前記加湿体を前記第1の方向に貫通する孔が形成され、
前記孔の形状は、上方から下方に向けて前記第2の方向の一方と他方とに交互に突出する形状であり、
隣り合う前記加湿体の前記孔の前記第2の方向における位置は、一致しており、
前記孔のうち前記第2の方向の一方の頂点同士が前記上下方向に互いにずれるように、かつ、前記孔のうち前記第2の方向の他方の頂点同士が前記上下方向に互いにずれるように、隣り合う前記加湿体の前記孔が形成されていることを特徴とする加湿素子。
【請求項2】
前記孔の内壁は、上方から下方に向けて前記第2の方向の一方と他方とに交互に突出するように延びる第1の壁と、前記第2の方向に前記第1の壁と離れて配置され上方から下方に向けて前記第2の方向の一方と他方とに交互に突出するように延びる第2の壁と、を有し、
隣り合う前記加湿体の前記孔が前記上下方向にずれる距離は、前記上下方向に沿った前記第1の壁から前記第2の壁までの最大距離以上であることを特徴とする請求項1に記載の加湿素子。
【請求項3】
前記孔は、前記第2の方向に互いに間隔を空けて複数配置され、
隣り合う前記孔の間隔は、前記一方の頂点から前記他方の頂点までの前記第2の方向に沿った距離よりも短いことを特徴とする請求項1または2に記載の加湿素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の加湿素子と、
隣り合う前記加湿体の間の前記隙間を通過する空気を生成する送風機と、を備えることを特徴とする加湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加湿空気を生成する加湿素子および加湿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加湿空気を生成する加湿装置の加湿方式には、気化式、蒸気式、水噴霧式などがある。このうち、気化式は、吸水機能を有する加湿体に通風することによって、加湿体が含有する水分と空気との間で熱交換を行って、加湿体から水分を蒸発させ、室内の加湿を行う方法である。気化式は、蒸気式および水噴霧式に比べて消費電力量を抑えやすいため、省エネルギー性能が高い。
【0003】
気化式の加湿装置として、例えば、特許文献1には、互いの間に隙間を設けるように上下方向と直交する方向に複数の加湿体を並べて、隣り合う加湿体の間の隙間に空気を通過させるとともに加湿体の上方から下方へと水を流す加湿装置が開示されている。各加湿体の形状は、板状である。加湿体の板厚方向と複数の加湿体が並ぶ方向とは一致する。各加湿体には、加湿体の板厚方向に貫通する孔が設けられている。特許文献1に開示された加湿装置では、隣り合う加湿体の間の隙間に流入した空気が孔の中を通ることにより、加湿体の表面を流れる空気を乱して、加湿体からの水分の蒸発を促進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された加湿装置では、加湿体に孔が設けられるため、上下方向と直交する方向で切ったときの加湿体の断面積が、孔が無い加湿体に比べて小さくなる。これにより、加湿体の内部の空隙を流れる水の流路断面積が小さくなり、水の一部が加湿体の内部から表面に溢れ出やすくなる。
【0006】
水が加湿体の表面に溢れ出ると水滴になり、水滴の大きさによっては水滴が隣り合う加湿体を繋いでしまう現象が起こることがある。このような現象が起こると、隣り合う加湿体の間の隙間を通過する空気の流れが阻害されるため、空気の圧力損失が上昇し、風量が減少して加湿量が低下するという問題が生じる。また、隣り合う加湿体を繋ぐ水滴が、隣り合う加湿体の間の隙間を通過する空気に巻き込まれて加湿装置の風下側へと飛散してしまい、加湿装置の外部に漏れ出すという問題が生じる。さらに、水滴が隣り合う加湿体を繋ぐ部分ばかりに水が流れるようになり、他の部分へ水が流れにくくなってしまい、加湿面積が低下して加湿量が低下するという問題が生じる。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、隣り合う加湿体を繋ぐ水滴の発生を抑制することができる加湿素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる加湿素子は、互いの間に隙間を設けるように上下方向と交差する第1の方向に並べられ、上下方向および第1の方向の両方と交差する第2の方向に空気が隙間を通過可能な複数の加湿体と、加湿体を上方から下方へと水が流れるように、加湿体に給水する給水手段と、を備えている。少なくとも隣り合う2つの加湿体には、加湿体を第1の方向に貫通する孔が形成されている。孔の形状は、上方から下方に向けて第2の方向の一方と他方とに交互に突出する形状である。隣り合う加湿体の孔の第2の方向における位置は、一致している。孔のうち第2の方向の一方の頂点同士が上下方向に互いにずれるように、かつ、孔のうち第2の方向の他方の頂点同士が上下方向に互いにずれるように、隣り合う加湿体の孔が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる加湿素子では、隣り合う加湿体を繋ぐ水滴の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1にかかる加湿装置を模式的に示した構成図
【
図2】実施の形態1における加湿素子を示した斜視図
【
図3】
図2に示されるIII-III線に沿った断面図
【
図5】
図4に示される加湿体の孔を隣接する別の加湿体に投影した状態を示した正面図
【
図7】実施の形態1の変形例における加湿素子の加湿体を示した正面図
【
図8】
図7に示される加湿体の孔を隣接する別の加湿体に投影した状態を示した正面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態にかかる加湿素子および加湿装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる加湿装置1を模式的に示した構成図である。加湿装置1は、加湿素子2と、加湿素子2を通過する空気を生成する送風機3と、加湿素子2を通過する空気を加温する熱交換器4とを備えている。また、加湿装置1は、送風機3、熱交換器4といった機器の運転および停止、加湿素子2への水の供給を制御する制御装置5と、加湿素子2の内部を流下してきた水を受けるドレンパン6とを備えている。制御装置5は、電線7を介して、送風機3および熱交換器4と電気的に接続されている。空気は、白抜き矢印Y1で示す方向に流れる。図示は省略するが、加湿素子2、送風機3および熱交換器4は、加湿装置1の外郭を構成する一つの筐体の内部に収容される。なお、加湿素子2、送風機3および熱交換器4の配置は、図示した例に限定されない。例えば、送風機3は、本実施の形態では加湿素子2よりも風上側に配置されて加湿素子2に向けて空気を吹き出しているが、加湿素子2よりも風下側に配置されて空気を吸い込むようにしてもよい。
【0013】
送風機3は、加湿装置1の外部から空気を取り込み、取り込んだ空気を加湿素子2に供給する機器である。熱交換器4は、送風機3と加湿素子2との間に配置されている。熱交換器4は、加湿素子2を通過する空気を加温することができれば特に制限されないが、例えば、直膨コイル、ヒーターである。送風機3により供給された空気は、熱交換器4を通過した後、加湿素子2の後記する複数の加湿体20の間の隙間を通過して、加湿装置1の外部へと吹き出される。複数の加湿体20の間の隙間に空気を通過させることにより、空気と加湿体20に含まれた水とが接触し、空気が加湿される。また、熱交換器4により加温された空気を加湿素子2に供給することにより、加湿装置1の加湿量を増やすことができる。なお、加湿装置1は、熱交換器4を備えていなくてもよい。
【0014】
ドレンパン6は、加湿素子2の下方に配置されている。ドレンパン6は、加湿素子2からの余剰水を受け止める役割を果たす。余剰水とは、加湿素子2の加湿体20で空気の加湿に用いられずに残った水を指す。ドレンパン6は、受け止めた余剰水を排出する排水部8を備える。ドレンパン6から排水部8を通じて排出された余剰水は、加湿に使用されるか、または、加湿装置1の外部に排出される。なお、排水部8は、図示しないチューブ、ポンプなどを備えた排水機構であってもよい。
【0015】
図2は、実施の形態1における加湿素子2を示した斜視図である。
図3は、
図2に示されるIII-III線に沿った断面図である。以下、加湿素子2の各構成要素について方向を説明するときには、加湿素子2の奥行方向をX軸方向とし、加湿素子2の高さ方向をY軸方向とし、加湿素子2の幅方向をZ軸方向とする。また、X軸方向の+向きを前方、X軸方向の-向きを後方とする。X軸方向の+向きは、X軸の-側から+側への向きであり、X軸方向の-向きは、X軸の+側から-側への向きである。また、Y軸方向の+向きを上方、Y軸方向の-向きを下方とする。Y軸方向の+向きは、Y軸の-側から+側への向きであり、Y軸方向の-向きは、Y軸の+側から-側への向きである。また、Z軸方向の+向きを右方、Z軸方向の-向きを左方とする。Z軸方向の+向きは、Z軸の-側から+側への向きであり、Z軸方向の-向きは、Z軸の+側から-側への向きである。Y軸方向を上下方向と称する場合もある。水は、
図3に示される黒矢印Y2で示す方向に流れる。
【0016】
図2に示すように、加湿素子2は、ケーシング10と、複数の加湿体20とを備えている。各加湿体20の形状は、平板状である。複数の加湿体20は、互いの間に隙間を設けるようにZ軸方向に並べられている。本実施の形態では、Z軸方向が上下方向と交差する第1の方向である。隣り合う加湿体20の間の隙間は、空気が通過可能な風路となる。
図1に示される送風機3は、隣り合う加湿体20の間の隙間を通過する空気を生成する。空気は、X軸方向の-側から+側に向かって隣り合う加湿体20の間の隙間を流れる。本実施の形態では、X軸方向が上下方向および第1の方向の両方と交差する第2の方向である。
【0017】
図3に示すように、加湿体20の上端部のうちX軸方向に沿った中央部には、他の部位よりも下方に窪んだ凹部20aが形成されている。凹部20a内には、拡散材30が配置されている。拡散材30は、Z軸方向に沿って延びるように配置されている。1つの拡散材30に複数の加湿体20の上端部がまとめて接触するように、拡散材30および複数の加湿体20が配置されている。加湿体20の上方には、加湿体20に供給するための水を貯留する貯水部12、図示しない給水管から送られてくる水を貯水部12へ供給する給水部11が配置されている。加湿体20の下方には、加湿体20から流下してきた余剰水を排水するための排水口10kが配置されている。
【0018】
図2に示すように、ケーシング10は、加湿体20を収容する樹脂製または金属製の部材である。ケーシング10は、箱状の部材であり、底壁10cと天井壁10dと正面壁10eと背面壁10fと第1の側壁10gと第2の側壁10hとを有している。正面壁10eには、給水部11と、加湿体20へ被加湿空気を流入させるための第1の開口部10iとが設けられている。背面壁10fには、加湿体20を通過した加湿空気を流出させるための第2の開口部10jが設けられている。底壁10cには、排水口10kが設けられている。複数の加湿体20は、第1の開口部10i、第2の開口部10jおよび排水口10kを通じてケーシング10の外部に露出している。
【0019】
ケーシング10は、前方に位置する第1のケーシング10aと後方に位置する第2のケーシング10bとに分割されている。ケーシング10は、第1のケーシング10aと第2のケーシング10bとを組み合わせることにより形成される。第1のケーシング10aは、ケーシング10の正面壁10eを構成するとともに、底壁10c、天井壁10d、第1の側壁10gおよび第2の側壁10hの一部を構成する。第2のケーシング10bは、ケーシング10の背面壁10fを構成するとともに、底壁10c、天井壁10d、第1の側壁10gおよび第2の側壁10hの残部を構成する。
【0020】
給水部11および第1の開口部10iは、第1のケーシング10aに設けられている。第2の開口部10jは、第2のケーシング10bに設けられている。第1のケーシング10aおよび第2のケーシング10bのうち底壁10cとなる部分には、切り欠き10mがそれぞれ形成されている。第1のケーシング10aと第2のケーシング10bとを組み合わせることにより、第1のケーシング10aの切り欠き10mと第2のケーシング10bの切り欠き10mとが互いに連通して排水口10kが形成される。
【0021】
図3に示すように、貯水部12は、加湿体20を上方から下方へと水が流れるように、加湿体20に給水する給水手段となる。貯水部12の材料には、樹脂、金属などが使用される。貯水部12は、ケーシング10に固定されている。貯水部12は、拡散材30の上方に設けられている。貯水部12の底面には、拡散材30へ水を注水するための複数の注水孔12aが形成されている。なお、
図3では、1つの注水孔12aが図示されているが、実際にはZ軸方向に互いに間隔を空けて複数の注水孔12aが形成されている。
【0022】
拡散材30は、多孔質の板材で形成される。拡散材30の板幅方向をX軸方向と一致させ、拡散材30の板厚方向をY軸方向と一致させ、かつ、拡散材30の長さ方向をZ軸方向と一致させた状態で、拡散材30が配置されている。拡散材30は、注水孔12aの直下に配置されている。拡散材30は、貯水部12から滴下した水を吸収し、加湿体20へと水を送る。拡散材30に吸収された水は、毛細管力の作用によりX軸方向かつZ軸方向に拡散しながら加湿体20に向かって流下する。拡散材30で拡散された水は、Z軸方向に並べられた複数の加湿体20のそれぞれに供給される。拡散材30は、常に水に触れるため、水によって劣化しにくい材料で形成されることが好ましい。水によって劣化しにくい材料で形成された拡散材30には、樹脂であるポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate:PET)樹脂といったポリエステル、セルロースで作られた多孔質板、金属であるチタン、銅、ステンレスで作られた多孔質板が挙げられる。拡散材30の下端部と加湿体20の上端部とは、互いに接触している。拡散材30と加湿体20とが互いに接触していれば、加湿体20の毛細管力の作用により水が淀みなく加湿体20に流下する。
【0023】
加湿体20は、第1のケーシング10aと第2のケーシング10bとの間に挟み込まれている。加湿体20のY軸方向に沿った中心と第1の開口部10iのY軸方向に沿った中心と第2の開口部10jのY軸方向に沿った中心とは、同じ高さ位置にある。一方で、加湿体20のY軸方向に沿った寸法L1は、第1の開口部10iのY軸方向に沿った寸法L2および第2の開口部10jのY軸方向に沿った寸法L3よりも大きい。つまり、加湿体20の上端部と下端部とは、X軸方向の両側からケーシング10に挟み込まれている。加湿体20は、第1の開口部10iおよび第2の開口部10jから脱落しないようにケーシング10の内部に保持されている。
【0024】
図2に示される加湿体20の形状は、特に制限されないが、本実施の形態のように一定の厚みを持つ平板状であることが好ましい。平板状の加湿体20の板厚は、0.3mm~2mm程度であることが好ましい。加湿体20の形状は、例えば、四角柱状、円柱状、内部に空洞を有する円筒状形状、四角筒形状、三角筒形状でもよい。加湿体20の形状は、製造する加湿装置1の大きさに合わせて適宜変更すればよい。
【0025】
加湿体20の材料には、織布、不織布、連続気孔を有する樹脂成形体が使用されることが好ましい。ただし、加湿体20の材料には、複数の空隙を備えた三次元網目構造を有する材料であれば、多孔質のセラミック体、多孔質の金属体などが使用されてもよい。加湿体20の材料に前記した材料のいずれかを用いる場合でも、加湿体20の全体に水が広がりやすくするため、加湿体20の表面に親水性の加工を施すことが好ましい。加湿体20を親水化する方法は、特に制限されないが、例えば、親水化樹脂で加湿体20の表面をコーティングする方法、コロナ放電または大気圧プラズマを加湿体20の表面に施す方法がある。
【0026】
なお、送風機3により供給された空気が隣り合う加湿体20の間の隙間を通過することにより、加湿体20には、水に含まれるカルシウム、マグネシウム等の微細なスケールが析出する。加湿体20にスケールが析出すると、加湿体20からスケールが剥離して加湿する環境内に排出される場合がある。また、スケールが析出することで、加湿体20の三次元網目構造が目詰まりを起こしてしまい、加湿体20の全体に水が行き渡らなくなるため、加湿装置1の加湿性能が低下する場合がある。加湿体20の表面に親水性の加工を施すことにより、水が加湿体20に滞留しにくくなるため、スケールの析出が抑制される。これにより、加湿する環境内へのスケールの排出を抑制することができるとともに、スケールの析出による加湿装置1の加湿性能の低下を抑制することができる。
【0027】
ここで、
図4から
図6を参照して、加湿体20の構成についてさらに詳しく説明する。なお、
図4は、実施の形態1における加湿体20を示した正面図である。
図5は、
図4に示される加湿体20の孔20bを隣接する別の加湿体20に投影した状態を示した正面図である。
図6は、
図5に示されるVI-VI線に沿った断面図である。
【0028】
図4に示すように、各加湿体20には、各加湿体20をZ軸方向に貫通する孔20bが形成されている。以下、加湿体20のうち孔20b以外の部分を基部20cと称する。孔20bは、加湿体20の表面を流れる空気を乱して、加湿体20からの水分の蒸発を促進させる役割を果たす。孔20bの形状は、上方から下方に向けてX軸方向の一方と他方とに交互に突出する形状である。孔20bの形状は、本実施の形態では、直線部分が連続的かつ規則的に折れ曲がるジグザグ形状であるが、曲線部分が規則的に連なる波形形状などでもよい。
【0029】
孔20bは、X軸方向の一方から他方に向かうにつれて斜め上向きに延びる第1の延伸部20fと、X軸方向の一方から他方に向かうにつれて斜め下向きに延びる第2の延伸部20gとを含んでいる。第1の延伸部20fおよび第2の延伸部20gの形状は、本実施の形態では平行四辺形であるが、長方形、菱形、楕円形などでもよい。孔20bの形状は、加湿体20の表面を流れる空気を乱すことによる加湿量の増加、加湿体20の製造方法などを考慮して適宜調整すればよい。孔20bの数は、本実施の形態では1つであるが、複数でもよい。例えば、2つの孔20bがX軸方向に互いに間隔を空けて設けられてもよい。孔20bの位置は、特に制限されないが、本実施の形態では加湿体20のX軸方向の中心よりも風下側である。
図3に示すように、孔20bは、加湿体20のうち被加湿空気が流れる領域に形成されている。孔20bは、X軸方向に沿って見たときに第1の開口部10iおよび第2の開口部10jと重なる位置に設けられている。
【0030】
図5に示すように、隣り合う加湿体20の孔20bのX軸方向における位置は、一致している。隣り合う加湿体20の孔20bの形状は、同一である。孔20bのうちX軸方向の一方の頂点20d同士が上下方向に互いにずれるように、かつ、孔20bのうちX軸方向の他方の頂点20e同士が上下方向に互いにずれるように、隣り合う加湿体20の孔20bが形成されている。すなわち、隣り合う加湿体20の孔20bの位相は、上下方向に互いにずれている。本実施の形態では、隣り合う一方の加湿体20の孔20bの頂点20dと他方の加湿体20の孔20bの頂点20eとが同じ高さ位置にあるように、かつ、隣り合う一方の加湿体20の孔20bの頂点20eと他方の加湿体20の孔20bの頂点20dとが同じ高さ位置にあるように、隣り合う加湿体20の孔20bが形成されている。
【0031】
孔20bの形状は、延伸方向の長さよりも上下方向に沿う幅Wが小さいスリット状である。孔20bの内壁は、上方から下方に向けてX軸方向の一方と他方とに交互に突出するように延びる第1の壁20hと、X軸方向に第1の壁20hと離れて配置され上方から下方に向けてX軸方向の一方と他方とに交互に突出するように延びる第2の壁20iとを有している。孔20bの上下方向に沿った第1の壁20hから第2の壁20iまでの距離が、孔20bの幅Wとなる。隣り合う加湿体20の孔20bが上下方向にずれる距離D1は、孔20bの上下方向に沿った第1の壁20hから第2の壁20iまでの最大距離以上であることが好ましい。隣り合う加湿体20の一方の頂点20d同士が上下方向にずれる距離D2は、各加湿体20の隣り合う一方の頂点20d同士の上下方向に沿った距離D3よりも短い。隣り合う加湿体20の他方の頂点20e同士が上下方向にずれる距離D4は、各加湿体20の隣り合う他方の頂点20e同士の上下方向に沿った距離D5よりも短い。
【0032】
隣り合う加湿体の孔20bの位相を上下方向にずらすことにより、Z軸方向に沿って見たときに2つの孔20bが互いに重なり合う箇所と互いに重なり合わない箇所とが生じる。
図6に示すように、2つの孔20bが互いに重なり合わない箇所では、隣り合う加湿体20の孔20bおよび基部20cのうちいずれか一方と他方とがZ軸方向に隙間を空けて配置される。以下、2つの孔20bが互いに重なり合わない箇所のことを非重複部分21と称する。
図6では、非重複部分21の範囲を矩形の二点鎖線で示している。非重複部分21では、隣り合う加湿体20のうち一方に孔20bがあって他方に基部20cがあるため、加湿体20の表面に溢れ出た水滴40が隣の加湿体20と繋がらない。
【0033】
次に、加湿装置1の動作について説明する。
【0034】
図1に示される加湿装置1は、加湿運転と乾燥運転とが可能であり、ユーザーは加湿運転と乾燥運転とを選択的に行うことができる。
図3に示すように、給水部11から流入した水は、貯水部12内に流れる。貯水部12内に流入した水は、貯水部12の底面の複数の注水孔12aから滴下し、拡散材30に吸水される。拡散材30に吸水された水は、拡散材30が有する傾斜と拡散材30の毛細管力と水の重力とにより拡散材30の内部に拡散しながら流下し、拡散材30の下端部に到達する。
【0035】
拡散材30の下端部と各加湿体20の上端部とが互いに接触しているため、拡散材30を流下した水は各加湿体20へと供給される。加湿体20に供給された水は、加湿体20の毛細管力の作用により加湿体20の内部に拡散しながら流下する。
【0036】
加湿体20の内部を水が流下する際に、
図1に示される送風機3により生成された空気が加湿体20の間の隙間を通過することにより、加湿体20の表面から水分が奪われて、加湿空気として加湿素子2から排気される。すなわち、加湿体20の表面では、加湿体20の間の隙間を流れる空気と、加湿体20に保水された水の水蒸気分圧差により、空気への加湿が行われる。一方、加湿体20で空気の加湿に用いられずに残った水は、加湿体20の下端部から滴下して
図3に示される排水口10kからケーシング10の外部に排水される。このため、加湿体20の下端部から排水される流量は、給水部11から加湿体20に供給される水量から加湿体20で空気の加湿に用いられた水量を差し引いた水量となる。
【0037】
図1に示される加湿装置1は、所定時間の加湿運転を行った後に、給水部11からの水の供給を停止する。続いて、加湿装置1は、複数の加湿体20を乾燥させる乾燥運転を行う。具体的には、加湿運転の後に送風機3の運転をそのまま一定時間だけ継続させ、送風機3により生成された空気を加湿体20に送る。この乾燥運転によって加湿体20が乾燥し、加湿体20における細菌、カビなどの微生物の生長が抑制される。細菌、カビなどの微生物が生長すると加湿体20が不衛生となり、加湿運転を行ったときに、微生物、カビの胞子などが加湿空気中に混入される場合があり好ましくない。
【0038】
本実施の形態のように熱交換器4を用いることにより、加湿素子2に温風を送れるため、加湿体20の乾燥時間を短縮することができる。ただし、空気の加熱にエネルギーが必要であるため、乾燥運転時に熱交換器4を用いるか否かは、加湿装置1が目標とする仕様によって適宜選択すればよい。直膨コイルなどの熱交換器4は、乾燥運転のみならず、加湿運転時も使用することができる。空気を加熱して温風を複数の加湿体20に送ることにより、加湿体20における水の蒸発量を増加させ、単位時間当たりの加湿量を増加することができる。加湿運転も乾燥運転と同様に、空気の加熱にエネルギーが必要であるため、加湿運転時に熱交換器4を用いるか否かは、加湿装置1が目標とする仕様によって適宜選択すればよい。
【0039】
次に、本実施の形態にかかる加湿装置1および加湿素子2の効果について説明する。
【0040】
図4に示すように、加湿体20に孔20bを設けることにより、加湿体20の表面を流れる空気を乱して、加湿体20からの水分の蒸発を促進させる効果を得られる。一方で、加湿体20に孔20bを設けると、加湿体20に孔20bが無い場合に比べて、上下方向と直交する方向で切ったときの加湿体20の断面積が小さくなる。これにより、加湿体20の内部の空隙を流れる水の流路断面積が小さくなり、水の一部が加湿体20の内部から表面に溢れ出ることがある。
図6に示すように、水が加湿体20の表面に溢れ出ると水滴40になり、水滴40の大きさによっては水滴40が隣り合う加湿体20を繋いでしまう現象が起こることがある。このような現象が起こると、以下に示す問題が生じる。
(1)隣り合う加湿体20の間の隙間を通過する空気が阻害されるため、空気の圧力損失が上昇し、風量が減少して加湿量が低下するという問題。
(2)隣り合う加湿体20を繋ぐ水滴40が、隣り合う加湿体20の間の隙間を通過する空気に巻き込まれて加湿装置1の風下側へと飛散してしまい、加湿装置1の外部に漏れ出すという問題。
(3)水滴40が隣り合う加湿体20を繋ぐ部分ばかりに水が流れるようになり、他の部分へ水が流れにくくなってしまい、加湿面積が低下して加湿量が低下するという問題。
【0041】
本実施の形態では、
図5に示すように、各加湿体20に形成された孔20bの形状は、上方から下方に向けてX軸方向の一方と他方とに交互に突出する形状である。また、本実施の形態では、孔20bのうちX軸方向の一方の頂点20d同士が上下方向に互いにずれるように、かつ、孔20bのうちX軸方向の他方の頂点20e同士が上下方向に互いにずれるように、隣り合う加湿体20の孔20bが形成されている。これらの構成により、本実施の形態では、
図6に示すように、隣り合う加湿体20の孔20bおよび基部20cのうちいずれか一方と他方とがZ軸方向に隙間を空けて配置される非重複部分21が形成される。特に、本実施の形態では、
図5に示される隣り合う加湿体20の孔20bが上下方向にずれる距離D1が、孔20bの上下方向に沿った第1の壁20hから第2の壁20iまでの最大距離以上であることにより、
図6に示される非重複部分21が確実に形成される。一方、Z軸方向に沿って見たときに隣り合う加湿体20の孔20bが互いに完全に重なり合うように形成された場合には、非重複部分21が形成されない。
【0042】
非重複部分21では、隣り合う加湿体20のうち一方に孔20bがあって他方に基部20cがあるため、隣り合う加湿体20のうち一方の表面に溢れ出た水滴40が隣の加湿体20と繋がらない。また、非重複部分21の上方において隣り合う2つの加湿体20に繋がる水滴40が発生して流下した場合に、流下した水滴40が非重複部分21に到達すると、水滴40が非重複部分21で引き延ばされて、孔20bから加湿体20の内部に入り込んだり孔20bの縁に沿って流下したりする。そのため、加湿体20に孔20bを設けた場合でも、水滴40が隣り合う加湿体20を繋いでしまう現象の発生を抑制でき、上記(1)から(3)の問題の発生を抑制することができる。また、本実施の形態では、Z軸方向に沿って見たときに隣り合う加湿体20の孔20bが互いに完全に重なり合うように形成された場合に比べて、隣り合う2つの加湿体20に繋がる水滴40の継続時間および発生面積を減少させることができるため、単位時間当たりの加湿量を増加することができる。これにより、空気を加熱するために
図1に示される熱交換器4を作動させる頻度が減少し、空気の加熱に必要なエネルギーを低減することができるため、省エネルギー性能が向上する。
【0043】
なお、熱交換器4により空気を加温する場合、加湿素子2を通過した後の加湿空気の温度は、熱交換器4を通過する前の空気の温度と比べて高い。そのため、室内温度よりも高い加湿空気が室内に供給される。これに伴い、室内の温度が上昇する。この上昇した室内の温度を下げるために、図示しない空気調和装置の冷房運転を行う場合がある。この点、本実施の形態では、単位時間当たりの加湿量を増加させることができるため、熱交換器4を用いて空気を加温する頻度を低減することができる。したがって、室内に供給される加湿空気の温度を抑えることができる。これにより、室内の温度の上昇を抑えることができるため、室内に設置されている空気調和装置の冷房負荷を低減でき、空気調和装置の省エネルギー性能も高めることが可能である。
【0044】
本実施の形態では、複数の加湿体20の全部に孔20bを設ける場合を例示したが、少なくとも隣り合う2つの加湿体20に孔20bを設ければよい。すなわち、複数の加湿体20のうち一部に孔20bを設ければよい。
【0045】
図7は、実施の形態1の変形例における加湿素子2の加湿体20を示した正面図である。
図8は、
図7に示される加湿体20の孔20bを隣接する別の加湿体20に投影した状態を示した正面図である。
図7および
図8に示すように、各加湿体20に形成される孔20bは、X軸方向に互いに間隔を空けて複数配置されてもよい。このようにすると、各加湿体20に形成される孔20bが単数の場合に比べて、
図6に示される非重複部分21の範囲が増えるため、水滴40が複数の非重複部分21のいずれかで捕捉されやすくなる。
図7に示される隣り合う孔20bの間隔Gは、孔20bのうちX軸方向の一方の頂点20dからX軸方向の他方の頂点20eまでのX軸方向に沿った距離D6よりも短いことが好ましい。このようにすると、非重複部分21が狭い間隔で点在するようになるため、水滴40が複数の非重複部分21のいずれかで、より一層捕捉されやすくなる。
【0046】
なお、孔20bの数が多ければ多いほど水滴40が隣り合う加湿体20を繋いでしまう現象が誘発される。加湿量を増加させるために孔20bの数を増やすと、上記現象が未発生のときには加湿量が増加するものの、上記現象が発生すると加湿量が減少してしまう。そのため、通常は加湿素子2への給水量を絞って、加湿体20の表面に水が溢れ出さないように調整する方法が取られている。しかし、加湿体20への給水は、加湿体20で加湿に用いられると同時に、加湿体20にスケールが析出する原因となるカルシウム分やマグネシウム分を洗い流す効果もある。加湿体20への給水量を減らすと、加湿体20の内部および表面にスケールの析出が発生しやすくなり、加湿体20の内部の流路が減少することから、結局上記現象が発生しやすくなってしまう。したがって、本実施の形態のように加湿体20に複数の孔20bを設けた構造で上記現象の発生を抑制することは、加湿装置1の加湿性能を確保するために特に有用である。
【0047】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 加湿装置、2 加湿素子、3 送風機、4 熱交換器、5 制御装置、6 ドレンパン、7 電線、8 排水部、10 ケーシング、10a 第1のケーシング、10b 第2のケーシング、10c 底壁、10d 天井壁、10e 正面壁、10f 背面壁、10g 第1の側壁、10h 第2の側壁、10i 第1の開口部、10j 第2の開口部、10k 排水口、10m 切り欠き、11 給水部、12 貯水部、12a 注水孔、20 加湿体、20a 凹部、20b 孔、20c 基部、20d,20e 頂点、20f 第1の延伸部、20g 第2の延伸部、20h 第1の壁、20i 第2の壁、21 非重複部分、30 拡散材、40 水滴。