(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2022079305
(22)【出願日】2022-05-13
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000103208
【氏名又は名称】コーセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】川高 伸人
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-007060(JP,A)
【文献】特開2002-051542(JP,A)
【文献】特開2010-288404(JP,A)
【文献】特開平07-177737(JP,A)
【文献】特開2022-011459(JP,A)
【文献】特開2006-304481(JP,A)
【文献】米国特許第09590510(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主スイッチング素子のスイッチング動作によって入力電圧を所定の出力電圧に変換し、負荷に向けて前記出力電圧及び出力電流を出力する電力変換回路と、前記出力電圧又はこれに対応した電圧を検出して出力電圧検出信号を出力する出力電圧検出回路と、前記出力電流又はこれに対応した電流を検出して出力電流検出信号を出力する出力電流検出回路と、出力電圧目標値情報を取得し、前記出力電圧目標情報に基づくデジタル信号処理を行って基準電圧を生成する基準電圧生成部と、前記出力電圧目標値情報を取得し、前記出力電圧目標値情報に基づくデジタル信号処理を行って電流信号上限値を決定する電流信号上限値決定部と、主スイッチング素子のオンデューティを制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記主スイッチング素子のオンデューティを、前記出力電圧検出信号が前記基準電圧に近づくように調節する出力電圧制御部と、前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値に達すると、前記出力電圧制御部の動作に関係なく前記主スイッチング素子のオンデューティを小さくし、前記出力電圧を低下させることによって前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値を超えるのを阻止する出力電流制御部とを備え、
前記電流信号上限値決定部は、前記出力電圧目標値情報から認識される出力電圧目標値が高い時ほど、前記電流信号上限値を小さい値に
決定し、且つ前記出力電圧目標値と前記電流信号上限値との積が一定の値になるように、又は、前記出力電圧目標値情報から認識される出力電圧目標値が高い時ほど、前記出力電圧目標値と前記電流信号上限値との積が大きくなるように、前記電流信号上限値を決定することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記電力変換回路は、前記主スイッチング素子に流れるスイッチング電流の波高値が前記出力電流に対応した値になるインバータ方式であり、前記出力電流検出回路は、スイッチング電流の波高値を検出して前記出力電流検出信号を出力し、前記出力電流制御部は、前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値に達すると、前記スイッチング素子のオンデューティをパルス・バイ・パルス方式で小さくする請求項
1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
ユーザが前記出力電圧目標値情報を外部入力するための外部入力端子を備える請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力電圧可変機能及び過電流保護機能を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
<従来のスイッチング電源装置10>
従来、
図5に示すスイッチング電源装置10があった。スイッチング電源装置10は、主スイッチング素子12aのスイッチング動作によって入力電圧Viを所定の出力電圧Voに変換し、負荷14に向けて出力電圧Vo及び出力電流Ioを出力する電力変換回路12を備えている。また、出力電圧Voを検出して出力電圧検出信号Vo1を出力する出力電圧検出回路16と、負荷14が接続されている出力ラインに流れる出力電流Ioを検出して出力電流検出信号Io1を出力する出力電流検出回路18とを備え、さらに、コントロール端子22を介して入力された出力電圧目標値情報J(Vref)を取得し、出力電圧目標情報J(Vref)に基づくデジタル信号処理を行って基準電圧Vrefを生成する基準電圧生成部22と、主スイッチイング素子のオンデューティを制御する制御回路24とを備えている。基準電圧生成部22が取得する出力電圧目標値情報J(Vref)は、アナログ電圧でもよいし、デジタル信号でもよい。
【0003】
制御回路24は、出力電圧制御部26と出力電流制御部28とで構成される。出力電圧制御部26は、誤差増幅回路30及び駆動パルス生成回路32を備えている。誤差増幅回路30は、出力電圧信号Vo1から基準電圧Vrefを差し引いた電圧を反転増幅した誤差増幅信号V30を出力する。駆動パルス生成回路32は比較器で成り、非反転入力端子に誤差増幅信号V30が入力され、反転入力端子に基準三角波Voscが入力され、出力端子から、誤差増幅信号V30をパルス幅変調した駆動パルスVgを出力する。主スイッチング素子12aは、駆動パルスVgがハイレベルの時にオンし、ローレベルの時にオフする。したがって、主スイッチング素子12aのオンデューティ(駆動パルスVgのハイレベルのデューティ)は、誤差増幅信号V30が低い時ほど小さくなり、誤差増幅信号V30が高い時ほど大きくなる。
【0004】
出力電圧制御部26は、上記の構成により、主スイッチング素子12aのオンデューティを、出力電圧検出信号Vo1が基準電圧Vrefに近づくように調節する制御を行い、その結果、出力電圧Voが出力電圧目標値情報J(Vref)に対応した目標値Vrに保持される。
【0005】
出力電流制御部28は、出力電流検出信号Io1(電圧)から電流信号上限値Ith(電圧)を差し引いた電圧を反転増幅する増幅回路であり、出力端子がダイオード34を介して駆動パルス生成回路32の非反転入力端子に接続されている。電流信号上限値Ithは、あらかじめ規定された一定の電圧である。
【0006】
Io1<Ithの時、出力電流制御部28は、出力端がハイレベルに保持され、ダイオード34が非導通になって誤差増幅回路30から切り離されるので、出力電圧制御部26の動作に影響を与えない。
【0007】
Io1がIthに達すると、出力電流制御部28の出力が低下してダイオード34が導通し、駆動パルス生成回路32の非反転入力端子の電圧を強制的に低下させる。つまり、出力電流制御部28は、Io1がIthに達すると(過電流状態になったことを検知すると)、出力電圧制御部26の動作に関係なく、主スイッチング素子12aのオンデューティを小さくし、出力電圧Voを低下させることによってIo1がIthを超えるのを阻止する動作(過電流保護の動作)を行う。
【0008】
なお、
図5では、出力電流制御部28の出力端を駆動パルス生成回路32の非反転入力端子に接続しているが、スイッチで表しているように、出力電流制御部28の出力を誤差増幅回路30の非反転入力端子に接続しても、ほぼ同様の動作が行われる。
【0009】
スイッチング電源装置10と類似した構成は、例えば特許文献1の
図7に開示されている。特許文献1(
図7)の電源装置では、各演算増幅器103,104,105の反転入力端子及び非反転入力端子の関係がスイッチング電源装置10と少し違っているが、出力電圧制御及び過電流保護の基本的な動作は同じである。ただし、スイッチング電源装置10は、外部から出力電圧目標値情報J(Vref)を入力することによって出力電圧Voの目標値Vrを可変する機能(出力電圧可変機能)を備えているが、特許文献1(
図7)の電源装置は、出力電圧可変機能を備えていない。
【0010】
<従来のスイッチング電源装置32>
また、従来、
図6に示すスイッチング電源装置36があった。スイッチング電源装置36は、スイッチング電源装置10と共通点が多いので、スイッチング電源装置10と同様の構成は同一の符号を付して説明を省略し、構成が異なる点を中心に説明する。
【0011】
スイッチング電源装置36の場合、電力変換回路12がシングルエンディッドフォワード方式(主スイッチング素子12aに流れるスイッチング電流Iswの波高値が出力電流Ioに略比例した値になるインバータ方式)である点に鑑みて、上記の出力電流検出回路18に代えて、スイッチング電流Iswの波高値を検出して出力電流検出信号Io1を出力する出力電流検出回路38が設けられている。また、これに合わせて、上記の制御回路24(出力電圧制御部26及び出力電流制御部28)が、新規な制御回路40(出力電圧制御部42及び出力電流制御部44)に置き換えられている。
【0012】
出力電流制御部44は比較器で成り、反転入力端子に出力電流検出信号Io1(電圧)が入力され、非反転入力端子に電流信号上限値Ith(電圧)が入力され、出力端子からハイレベル又はローレベルの出力信号V44を出力する。電流信号上限値Ithは、上記と同様に、あらかじめ規定された一定の電圧である。
【0013】
出力電圧制御部42は、上記の誤差増幅回路30と新規な駆動パルス生成回路46とで構成される。駆動パルス生成回路46は、後述する特許文献2に記載されている駆動パルス生成回路と同様のものであり、
図7に示すように、発振器46a、比較器46b、NANDゲート46c、RSフリップフロップ46d等を組み合わせて構成され、a1端子に誤差増幅回路30が出力した誤差増幅信号V30が入力され、a2端子に出力電流制御部44の出力信号V44が入力され、a0端子から駆動パルスVgを出力する。
【0014】
Io1<Ithの時、出力電流制御部44の出力信号V44がハイレベルになるので、出力電圧制御部42(誤差増幅回路30及び駆動パルス生成回路46)は、NANDゲート46c及びRSフリップフロップ46dを通じて上記の出力電圧制御部26と同様の動作を行い、その結果、出力電圧Voが出力電圧目標値情報J(Vref)に対応した目標値Vrに保持される。
【0015】
Io1がIthに達すると、過電流保護の動作を行う。まず、スイッチングの1周期が開始して駆動パルスVgがハイレベルに転じて主スイッチング素子12aがオンし、スイッチング電流Iswが流れ始める。そして、Io1の波高値がIthに達した時、出力電流制御部44の出力信号V44がローレベルに転じる。すると、駆動パルス生成回路46内のNANDゲート46cの出力が、誤差増幅信号V30の値に関係なくハイレベルとなり、RSフリップフロップ46dが動作して駆動パルスVgを強制的にローレベルに反転させ、主スイッチング素子12aがオフに転じる。主スイッチング素子12aがオフするとスイッチング電流Iswの波高値が瞬時にゼロアンペアになり、出力電流制御部44の出力信号V44がハイレベルに戻るが、RSフリップフロップ46dのラッチ動作により、次のスイッチング周期が開始されるまでの間、駆動パルスVgがローレベルに固定され、主スイッチング素子12aがオフに保持される。
【0016】
このように、出力電流制御部44は、Io1がIthに達すると(過電流状態になったことを検知すると)、出力電圧制御部38の動作に関係なく、主スイッチング素子12aのオンデューティを小さくし、出力電圧Voを低下させることによってIo1がIthを超えるのを阻止する動作(過電流保護の動作)を行う。このスイッチング電源装置36の過電流保護は、いわゆるパルス・バイ・パルス方式の過電流保護と呼ばれ、上記のスイッチング電源装置10の過電流保護よりも動作が非常に高速であるという特徴がある。
【0017】
スイッチング電源装置36と類似した構成は、例えば特許文献2(
図12、
図13)に開示されている。ただし、スイッチング電源装置36は、外部から出力電圧目標値情報J(Vref)を入力することによって出力電圧Voの目標値Vrを可変する機能(出力電圧可変機能)を備えているが、特許文献2(
図12、
図13)の電源装置は、出力電圧可変機能を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2001-119933号公報
【文献】特開2016-77131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
汎用スイッチング電源装置に設けられる出力電圧可変機能は、多くの場合、出力電圧Voを微調整するためのものである。したがって、出力電圧Voの可変範囲はそれほど広くはなく、可変範囲の上限値Vr2は下限値Vr1の約1.1~1.2倍程度である。
【0020】
図8(a)は、スイッチング電源装置10,36の、Vo=Vr1に設定された時のVo-Io特性と、Vo=Vr2=Vr1×1.1~1.2倍に設定された時のVo-Io特性を表している。Vo=Vr1で過電流状態になった時の最大出力電流Ioth1と、Vo=Vr2で過電流状態になった時の最大出力電流Ioth2は、同じ電流信号上限値Ithに対応した一定の値Iothに制限される(Ioth1=Ioth2=Ioth)。したがって、Vo=Vr1で過電流状態になった時の最大出力電力Poth1と、Vo=Vr2で過電流状態になった時の最大出力電力Poth2との関係は、Poth2≒Poth1×1.1~1.2倍となる。
【0021】
スイッチング電源装置10,36は、最大出力電力Pothを出力している状態(過電流状態)が一定の期間継続しても安全性が確保されるように、内部部品の放熱設計等を行うことが求められるところ、Poth1に対するPoth2の増加量が10~20%程度であれば、放熱設計等はそれほど難しくはない。
【0022】
しかしながら、出力電圧Voの可変範囲を広くして、1台のスイッチング電源装置を様々な用途に使用できるようにする場合、上記の放熱設計等が非常に難しくなる。例えば、スイッチング電源装置10,36において、可変範囲の上限値Vr2を下限値Vr1の約2倍にした場合、
図8(b)のVo-Io特性に示すように、最大出力電力Poth2は、最大出力電力Poth1の約2倍にまで増加し、内部部品に加わる電力ストレスや発熱が非常に大きくなる。そのため、最大出力電力Poth2を出力している状態(過電流状態)でも安全性が確保されるように、内部部品をハイスペックの大型品に変更したり放熱構造を格段に強化したりしなければならず、大きなコストアップが生じる。また、これらの対策は、出力電圧Voを上限値Vr2付近に設定して使用するユーザにとって有益であるが、出力電圧Voを専ら下限値Vr1付近に設定して使用するユーザにとっては過剰品質であり、無駄に高価な製品となってしまう。
【0023】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、出力電圧の可変範囲を広くしつつ、過電流状態になった時の安全性を容易に確保できるスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、主スイッチング素子のスイッチング動作によって入力電圧を所定の出力電圧に変換し、負荷に向けて前記出力電圧及び出力電流を出力する電力変換回路と、前記出力電圧又はこれに対応した電圧を検出して出力電圧検出信号を出力する出力電圧検出回路と、前記出力電流又はこれに対応した電流を検出して出力電流検出信号を出力する出力電流検出回路と、出力電圧目標値情報を取得し、前記出力電圧目標情報に基づくデジタル信号処理を行って基準電圧を生成する基準電圧生成部と、前記出力電圧目標値情報を取得し、前記出力電圧目標値情報に基づくデジタル信号処理を行って電流信号上限値を決定する電流信号上限値決定部と、主スイッチング素子のオンデューティを制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記主スイッチング素子のオンデューティを、前記出力電圧検出信号が前記基準電圧に近づくように調節する出力電圧制御部と、前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値に達すると、前記出力電圧制御部の動作に関係なく前記主スイッチング素子のオンデューティを小さくし、前記出力電圧を低下させることによって前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値を超えるのを阻止する出力電流制御部とを備え、
前記電流信号上限値決定部は、前記出力電圧目標値情報から認識される出力電圧目標値が高い時ほど、前記電流信号上限値を小さい値に決定し、且つ前記出力電圧目標値と前記電流信号上限値との積が一定の値になるように、又は、前記出力電圧目標値情報から認識される出力電圧目標値が高い時ほど、前記出力電圧目標値と前記電流信号上限値との積が大きくなるように、前記電流信号上限値を決定するスイッチング電源装置である。
【0025】
前記電力変換回路は、前記主スイッチング素子に流れるスイッチング電流の波高値が前記出力電流に対応した値になるインバータ方式であり、前記出力電流検出回路は、スイッチング電流の波高値を検出して前記出力電流検出信号を出力し、前記出力電流制御部は、前記出力電流検出信号が前記電流信号上限値に達すると、前記スイッチング素子のオンデューティをパルス・バイ・パルス方式で小さくする構成にしてもよい。また、ユーザが前記出力電圧目標値情報を外部入力するための外部入力端子を備える構成にしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のスイッチング電源装置は、出力電圧目標値情報に基づくデジタル信号処理を行って電流信号上限値を自動的に変更し、過電流状態における最大出力電力を適切な大きさに制限する動作を行う。したがって、出力電圧の可変範囲を広くした場合でも、過電流状態になった時の安全性を、放熱構造を格段に強化する等の特別な対策を行うことなく、容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態を示す回路図である。
【
図2】第一~第三の実施形態のスイッチング電源装置のVo-Io特性を示すグラフ(a)、(b)である。
【
図3】本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態を示す回路図である。
【
図4】本発明のスイッチング電源装置の第三の実施形態を示す回路図である。
【
図5】従来のスイッチング電源装置の一例を示す回路図である。
【
図6】従来のスイッチング電源装置の他の例を示す回路図である。
【
図7】
図6の中の駆動パルス生成回路の内部構成を示す回路図である。
【
図8】従来のスイッチング電源装置のVo-Io特性を示すグラフ(a)、(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第一の実施形態のスイッチング電源装置48>
以下、本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態について、
図1、
図2に基づいて説明する。ここで、従来のスイッチング電源装置10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
この実施形態のスイッチング電源装置48は、出力電圧Voの可変範囲が広く、上限値Vr2を下限値Vr1の約2倍としている。
図1の回路図に示すように、スイッチング電源装置48の全体の構成はスイッチング電源装置10と類似しているが、大きく異なるのは、独特な電流信号上限値決定部50が設けられている点である。
【0030】
電流信号上限値決定部50は、出力電圧目標値情報J(Vref)を取得し、出力電圧目標値情報J(Vref)に基づくデジタル信号処理を行って、電流信号上限値Ithを決定する。具体的には、出力電圧目標値情報J(Vref)から認識される出力電圧目標値Vrが高い時ほど、電流信号上限値Ithを小さい値にする。
【0031】
つまり、従来のスイッチング電源装置10の過電流保護は、出力電流制御部28が、あらかじめ規定された一定の電圧Ithと出力電流検出信号Io1とを比較することによって行われるのに対し、スイッチング電源装置48の過電流保護は、出力電圧目標値Vrに応じて変更される電流信号上限値Ithと出力電流検出信号Io1とを比較することによって行われるという特徴がある。
【0032】
図2(a)は、スイッチング電源装置48の、Vo=Vr1に設定された時のVo-Io特性と、Vo=Vr2≒Vr1×2倍に設定された時のVo-Io特性の一例を表している。この例の場合、電流信号上限値決定部50は、出力電圧目標値Vrと電流信号上限値Ithとの積が一定の値Pxになるように電流信号上限値Ithを決定している。そのため、出力電流Ioが電流信号上限値Ithに対応した値Iothに制限され、Vo=Vr1で過電流状態になった時の最大出力電力Poth1と、Vo=Vr2で過電流状態になった時の最大出力電力Poth2との関係は、Poth2=Poth1=Pxとなる。したがって、最大出力電力Poth2を出力している状態(過電流状態)でも、内部部品に加わる電力ストレスや発熱が適切に抑えられ、従来のスイッチング電源装置10のように特別な対策を行わなくても、安全性が確保される。
【0033】
図2(b)は、スイッチング電源装置48の、Vo=Vr1に設定された時のVo-Io特性と、Vo=Vr2=Vr1×2倍に設定された時のVo-Io特性の他の例を表している。この例の場合、電流信号上限値決定部50は、Ith2<Ith1(Ioth2<Ioth1)の関係を満たすように電流信号上限値Ithを決定しているが、Poth2=Poth1=Pxではなく、あえてPoth2>Poth1=Pxとしている。
図2(b)の設定は、
図2(a)の設定よりも、スイッチング電源装置48の使用可能な範囲を広くしたものであり、次のような場合に使用できる。
【0034】
例えば、Vo=Vr1に設定されて最大出力電力Poth1=Vr1・Ioth1を出力している時、内部部品の中で最も電力ストレスが大きいものが抵抗性パワー部品(例えば、損失の多くが銅損であるトランスやインダクタ等)である場合等である。抵抗性パワー部品に加わる電力ストレスは、概ね出力電流Ioの2乗に比例するので、Vo=Vr2に設定された時、Ioth2<Ioth1の関係を満たしていれば、Poth2>Poth1=Pxであっても、抵抗性パワー部品に加わる電力ストレスや発熱が適切に抑えられ、安全性が確保される可能性がある。
【0035】
上記の2つの例から分かるように、電流信号上限値Ithの値は、一般的にはVrとIthとの積が一定になるように設定することと好ましいが、常にこの設定方法が最良というわけではなく、最終的には、個々の電源装置の事情に合わせて設定すればよい。
【0036】
以上説明したように、スイッチング電源装置48は、出力電圧目標値情報J(Vref)に基づくデジタル信号処理を行って電流信号上限値Ithを自動的に変更し、過電流状態における最大出力電力Pothを適切な大きさに制限する動作を行う。したがって、出力電圧Voの可変範囲を広くした場合でも、過電流状態になった時の安全性を、放熱構造を格段に強化する等の特別な対策を行うことなく、容易に確保することができる。
【0037】
<第二の実施形態のスイッチング電源装置52>
次に、本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態について、
図3に基づいて説明する。ここで、従来のスイッチング電源装置36と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
この実施形態のスイッチング電源装置52は、出力電圧Voの可変範囲が広く、上限値Vr2を下限値Vr1の約2倍としている。
図3の回路図に示すように、スイッチング電源装置52の全体の構成はスイッチング電源装置36と類似しているが、大きく異なるのは、独特な電流信号上限値決定部54が設けられている点である。
【0039】
電流信号上限値決定部54は、出力電圧目標値情報J(Vref)を取得し、出力電圧目標値情報J(Vref)に基づくデジタル信号処理を行って、電流信号上限値Ithを決定する。具体的には、出力電圧目標値情報J(Vref)から認識される出力電圧目標値Vrが高い時ほど、電流信号上限値Ithを小さい値にする。
【0040】
つまり、従来のスイッチング電源装置36の過電流保護は、出力電流制御部44が、あらかじめ規定された一定の電圧Ithと出力電流検出信号Io1とを比較することによって行われるのに対し、スイッチング電源装置52の過電流保護は、出力電圧目標値Vrに応じて変更される電流信号上限値Ithと出力電流検出信号Io1とを比較することによって行われるという特徴がある。
【0041】
スイッチング電源装置52のVo-Io特性は、
図2(a)、(b)と同様であり、スイッチング電源装置52においても、第一の実施形態のスイッチング電源装置48と同様の作用効果が得られる。また、スイッチング電源装置52は、主スイッチング素子12aのスイッチング電流Iswを検出してパルス・バイ・パルス方式の過電流保護を行うので、スイッチング電源装置48の過電流保護よりも応答速度が高速である。
【0042】
<第三の実施形態のスイッチング電源装置56>
次に、本発明のスイッチング電源装置の第三の実施形態について、
図4に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態のスイッチング電源装置48と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
この実施形態のスイッチング電源装置56は、出力電圧Voの可変範囲が広く、上限値Vr2を下限値Vr1の約2倍としている。
図4の回路図に示すように、スイッチング電源装置56の全体の構成はスイッチング電源装置48と類似しており、異なるのは、上記の出力電流検出回路18に代えて、出力電流Ioに略比例する入力電流Iiを検出して出力電流検出信号Io1を出力する出力電流検出回路58が設けられている点である。
【0044】
その他、出力電流制御部28の出力端が、ダイオード34を介して誤差増幅回路30の非反転入力端子に接続されるのではなく、駆動パルス生成回路32の非反転入力端子に接続されているという相違点があるが、出力電流制御部28の出力端の接続位置を変更しても、基本的な動作はほぼ同じである。
【0045】
スイッチング電源装置56のVo-Io特性は、
図2(a)、(b)と同様であり、スイッチング電源装置56においても、第一の実施形態のスイッチング電源装置48と同様の作用効果が得られる。
【0046】
なお、本発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態のスイッチング電源装置48,52,56の動作について、出力電圧Voの可変範囲の上限値Vr2を下限値Vr1の2倍であるという想定で説明したが、2倍というのは、あくまでも説明を理解しやすくするために示した数値例に過ぎず、この数値は自由に変更することができることは言うまでもない。例えば、従来と同様に1.1~1.2倍に設定した場合でも、過電流状態になった時の安全性を従来よりも向上させることができる。
【0047】
第一及び第三の実施形態のスイッチング電源装置48,56の構成は、電力変換回路のインバータ方式はシングルエンディッドフォワード方式に限定されず、様々なインバータ方式の電力変換回路に適用することができる。また、スイッチング電源装置48,56は、過電流保護の応答速度が比較的低速なので、高速な過電流保護が必要な場合は、高速応答が可能な別の過電流保護回路(例えば、パルス・バイ・パルス方式の過電流保護回路)を付設し、2重の過電流保護を行うようにすることが好ましい。
【0048】
第二の実施形態のスイッチング電源装置52は、電力変換回路12がシングルエンディッドフォワード方式であることに鑑みて、スイッチング電流Iswの波高値を検出して出力電流検出信号Io1を出力する出力電流検出回路38と、これに対応した出力電流信号Ithを決定する出力電流信号上限値決定部54とを設け、パルス・バイ・パルス方式の過電流保護を行う構成にしている。このように構成にできるのは、シングルエンディッドフォワード方式が、主スイッチング素子12aに流れるスイッチング電流Iswの波高値が出力電流Ioに略比例した値になるという性質を有しているからである。したがって、スイッチング電源装置52の構成は、同様の性質を有した他のインバータ方式(例えば、フルブリッジ方式、ハーフブリッジ方式、プッシュプル方式、降圧チョッパ方式等)の電力変換回路にも適用することができる。
【0049】
上記の各実施形態の説明の中では詳しく述べなかったが、コントロール端子22に入力される出力電圧目標値情報J(Vref)は、スイッチング電源装置のユーザが入力する場合と、スイッチング電源装置の製造工場の担当者が入力する場合とが想定される。ユーザが入力する場合とは、出力電圧Voの設定値をユーザが自ら切り替えたり変化させたりする場合であり、この場合のコントロール端子22は、ユーザが出力電圧目標値情報J(Vref)を入力できるように外部入力端子として設けられる。一方、製造工場の担当者が入力する場合とは、製造工程の中で、出力電圧Voをユーザが指定した値に固定する場合(一定の値に設定する場合)等であり、この場合のコントロール端子22は、電源基板内の配線パターン等の特定部位を利用すればよく、ユーザが使用可能な外部入力端子である必要はない。
【符号の説明】
【0050】
10,36,48,52,56 スイッチング電源装置
12 電力変換回路
12a 主スイッチング素子
14 負荷
16 出力電圧検出回路
18,38 出力電流検出回路
20 基準電圧生成部
22 コントロール端子(外部入力端子)
24,40 制御回路
26,42 出力電圧制御部
28,44,58 出力電流制御部
50,54 電流信号上限値決定部
Ii 入力電流
Io 出力電流
Io1 出力電流検出信号
Isw スイッチング電流
Ith 電流信号上限値
J(Vref) 出力電圧目標値情報
Vi 入力電圧
Vo 出力電圧
Vr 出力電圧目標値
Vo1 出力電圧検出信号
Vref 基準電圧