(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】制振機構
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241122BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20241122BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/06 G
E04H9/02 341A
(21)【出願番号】P 2022113231
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2024-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 株式会社奥村組 刊行物名 奥村組技術研究年報No.47 該当頁 97~102頁「係数励振を利用した制振技術の研究」 発行日 令和3年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】安井 健治
(72)【発明者】
【氏名】栗本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】三澤 孝史
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】実開平1-157852(JP,U)
【文献】特開2020-148339(JP,A)
【文献】特開平3-144138(JP,A)
【文献】特開昭60-242267(JP,A)
【文献】特開平6-280934(JP,A)
【文献】特開2004-150486(JP,A)
【文献】特開平10-252821(JP,A)
【文献】実開平6-56533(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02-15/08
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の固有振動数(f)を持つ制振対象構造物と、
前記制振対象構造物に設置され、前記制振対象構造物の振動方向と交差する方向に振動可能で、且つ前記制振対象構造物の固有振動数(f)の半分の固有振動数(f/2)を持つ制振手段とを有し、
前記制振手段は、
前記制振対象構造物に回動自在に支持されるとともに回動軸が前記制振対象構造物の構造面と平行に配置された軸部、前記回動軸に対して垂直となるように前記軸部に取り付けられて当該軸部を回動させるように振動するアーム部、および前記アーム部に取り付けられた錘部が設けられた振動部と、
前記軸部の回動と連動して当該軸部と平行に往復移動する移動体、および一端が前記制振対象構造物に取り付けられるとともに他端が前記移動体に取り付けられて前記移動体の移動によって伸縮するコイルばねが設けられ、前記アーム部の振動を調整する調整部とを備える、
ことを特徴とする制振機構。
【請求項2】
前記制振手段を構成する前記アーム部の振動方向と前記制振対象構造物の振動方向とは直交している、
ことを特徴とする請求項1記載の制振機構。
【請求項3】
前記コイルばねは、
前記移動体の両側または片側に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の制振機構。
【請求項4】
前記アーム部の振れ角が等時性を担保でき且つ振動数がf/2となるように、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さと前記錘部の質量から、前記コイルばねのばね定数が設定される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の制振機構。
【請求項5】
前記アーム部の振れ角が等時性を担保でき且つ振動数がf/2となるように、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さと前記錘部の質量から、前記コイルばねのばね定数が設定される、
ことを特徴とする請求項3記載の制振機構。
【請求項6】
前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、
前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の制振機構。
【請求項7】
前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、
前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、
ことを特徴とする請求項3記載の制振機構。
【請求項8】
前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、
前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、
ことを特徴とする請求項4記載の制振機構。
【請求項9】
前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、
前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、
ことを特徴とする請求項5記載の制振機構。
【請求項10】
前記制振対象構造物は水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物であり、
前記制振手段は、前記制振対象構造物の下面側に設置されて前記制振対象構造物の上下振動を減衰させる、
ことを特徴とする請求項1記載の制振機構。
【請求項11】
前記制振対象構造物は水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物であり、
前記制振手段は、前記制振対象構造物の上面側に設置されて前記制振対象構造物の上下振動を減衰させる、
ことを特徴とする請求項1記載の制振機構。
【請求項12】
前記制振対象構造物は、両端で支持された両持ち構造であり、
前記制振手段は、前記アーム部が前記制振対象構造物の両端の支持位置の中央位置に設置される、
ことを特徴とする請求項10または11記載の制振機構。
【請求項13】
前記制振対象構造物は、一端のみで支持された片持ち構造であり、
前記制振手段は、前記制振対象構造物の前記一端とは反対側の自由端に設置される、
ことを特徴とする請求項10または11記載の制振機構。
【請求項14】
前記制振対象構造物は塔状の構造物であり、
前記制振手段は、前記制振対象構造物の側面側に設置されて前記制振対象構造物の水平振動を減衰させる、
ことを特徴とする請求項1記載の制振機構。
【請求項15】
前記制振手段は、前記制振対象構造物の上端部に設置される、
ことを特徴とする請求項14記載の制振機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振対象構造物に発生した振動を抑制する制振機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、道路や鉄道などが陸上の障害物や川や谷、海などの上を通過するために架け渡された橋梁などのように水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物や高層建築物などのような塔状の構造物(制振対象構造物)においては、地震時や強風時における揺れの周期が長く、地震や強風がおさまった後においてもしばらくの間は揺れが続いてしまう。
【0003】
そこで、近年、高層建築物のように横揺れ(水平振動)が発生する塔状の構造物においては、揺れ幅が最も大きくなる最上層部に、同調質量ダンパ(チューンドマスダンパ:Tuned Mass Damper、TMD)と呼ばれる制振装置を設置することが行われている。この装置は、制振対象の構造物に、ばねなどを介して補助的な質量体(補助質量体)を付加することにより、補助質量体が構造物の振動を肩代わりするように振動することで、構造物の固有振動数周辺での共振現象を抑制するものである。
【0004】
なお、制振装置に関する文献としては、例えば特開平10-082208号公報などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、橋梁などのように水平方向に延在して構築された構造物においては、縦揺れ(上下振動)になるので、前述した同調質量ダンパを設置することが困難である。
【0007】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、制振対象構造物が有する固有振動数における共振現象を抑制することのできる制振機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の制振機構は、所定の固有振動数(f)を持つ制振対象構造物と、前記制振対象構造物に設置され、前記制振対象構造物の振動方向と交差する方向に振動可能で、且つ前記制振対象構造物の固有振動数(f)の半分の固有振動数(f/2)を持つ制振手段とを有し、前記制振手段は、前記制振対象構造物に回動自在に支持されるとともに回動軸が前記制振対象構造物の構造面と平行に配置された軸部、前記回動軸に対して垂直となるように前記軸部に取り付けられて当該軸部を回動させるように振動するアーム部、および前記アーム部に取り付けられた錘部が設けられた振動部と、前記軸部の回動と連動して当該軸部と平行に往復移動する移動体、および一端が前記制振対象構造物に取り付けられるとともに他端が前記移動体に取り付けられて前記移動体の移動によって伸縮するコイルばねが設けられ、前記アーム部の振動を調整する調整部とを備える、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1記載の発明において、前記制振手段を構成する前記アーム部の振動方向と前記制振対象構造物の振動方向とは直交している、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1または2記載の発明において、前記コイルばねは、前記移動体の両側または片側に設けられている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1または2記載の発明において、前記アーム部の振れ角が等時性を担保でき且つ振動数がf/2となるように、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さと前記錘部の質量から、前記コイルばねのばね定数が設定される、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の本発明の制振機構は、上記請求項3記載の発明において、前記アーム部の振れ角が等時性を担保でき且つ振動数がf/2となるように、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さと前記錘部の質量から、前記コイルばねのばね定数が設定される、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1または2記載の発明において、前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の本発明の制振機構は、上記請求項3記載の発明において、前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の本発明の制振機構は、上記請求項4記載の発明において、前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の本発明の制振機構は、上記請求項5記載の発明において、前記錘部は、前記アーム部の長さ方向に移動可能とされ、前記錘部の重心と前記軸部の軸心間の長さである前記アーム部の有効長さを前記錘部の移動により変化させて前記アーム部の振動数がf/2となるように調整する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1記載の発明において、前記制振対象構造物は水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物であり、前記制振手段は、前記制振対象構造物の下面側に設置されて前記制振対象構造物の上下振動を減衰させる、ことを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1記載の発明において、前記制振対象構造物は水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物であり、前記制振手段は、前記制振対象構造物の上面側に設置されて前記制振対象構造物の上下振動を減衰させる、ことを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の本発明の制振機構は、上記請求項10または11記載の発明において、前記制振対象構造物は、両端で支持された両持ち構造であり、前記制振手段は、前記アーム部が前記制振対象構造物の両端の支持位置の中央位置に設置される、ことを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載の本発明の制振機構は、上記請求項10または11記載の発明において、前記制振対象構造物は、一端のみで支持された片持ち構造であり、前記制振手段は、前記制振対象構造物の前記一端とは反対側の自由端に設置される、ことを特徴とする。
【0021】
請求項14に記載の本発明の制振機構は、上記請求項1記載の発明において、前記制振対象構造物は塔状の構造物であり、前記制振手段は、前記制振対象構造物の側面側に設置されて前記制振対象構造物の水平振動を減衰させる、ことを特徴とする。
【0022】
請求項15に記載の本発明の制振機構は、上記請求項14記載の発明において、前記制振手段は、前記制振対象構造物の上端部に設置される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、回動軸が制振対象構造物の構造面と平行に配置された軸部を回動させるように振動するアーム部を備えた制振手段の固有振動数を制振対象構造物が有する固有振動数の1/2にすることにより、制振対象構造物が有する固有振動数における共振現象を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る制振機構を示す概略図である。
【
図2】
図1の制振機構において制振装置のアーム部が振動したときの概略図であり、(a)は図面手前側に振れたときを、(b)は図面奥側に振れたときを示す。
【
図3】
図1の制振機構における制振装置による制振の検証を行うために作成された試験体を示す概略図である。
【
図4】
図3の制振装置を構成するアーム部を自由振動させた場合において、(a)は梁に発生する加速度を示すグラフ、(b)はアーム部の振れ角を示すグラフである。
【
図5】(a)は
図4(a)の梁の加速度フーリエスペクトル、(b)は
図4(b)のアーム部の振動のフーリエスペクトルである。
【
図6】
図3の制振装置を構成するアーム部が作動しない場合と作動する場合において、(a)は応答加速度の時系列の最大値から求めた共振曲線を示すグラフ、(b)は位相曲線を示すグラフである。
【
図7】
図3の制振装置を構成するピエゾアクチュエータの入力加速度が0.29m/s
2の場合において、(a)は梁の応答加速度を示すグラフ、(b)はアーム部の振れ角を示すグラフである。
【
図8】
図3の制振装置を構成するピエゾアクチュエータの入力加速度が0.37m/s
2の場合において、(a)は梁の応答加速度を示すグラフ、(b)はアーム部の振れ角を示すグラフである。
【
図9】
図3の制振装置において、梁の固有振動数におけるアーム部の入力加速度と梁の応答加速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態の制振機構を構成する制振装置(制振手段)Dは、道路や鉄道などが陸上の障害物や川や谷、海などの上を通過するためにかけられた架空構造物である橋梁などのように水平方向に延在して構築された梁状または盤状の構造物である制振対象構造物Sの下面側に設置されており、当該制振対象構造物Sの上下振動を減衰させる機能を有するものである。
【0027】
なお、制振対象構造物Sの上下振動は、地震や台風などによる強風、さらに橋梁の場合には当該橋梁を通過する車両や列車により引き起こされる。そして、これらの上下振動では揺れの周期が長く、地震や強風がおさまった後や車両等が通過した後においてもしばらくの間は揺れが続く。
【0028】
このような制振対象構造物Sの上下振動を抑制するための本実施の形態の制振装置Dは、振動部D1と調整部D2とから構成されている。
【0029】
振動部D1には、制振対象構造物Sに取り付けられた一対の軸受けSaに回動自在に支持されるとともに回動軸が制振対象構造物Sの構造面と平行に配置された軸部11と、軸部11の回動軸に対して垂直となるように当該軸部11に取り付けられて軸部11を回動させるように振動するアーム部12(
図2参照)、およびアーム部12に取り付けられた錘部13が設けられている。
【0030】
また、調整部D2には、軸部11の回動と連動して軸部11と平行に往復移動する移動ブロック(移動体)21、および一端が制振対象構造物Sに取り付けられるとともに他端が移動ブロック21に取り付けられて移動ブロック21の移動によって伸縮する一対のコイルばね22が設けられており、コイルばね22の伸縮によりアーム部12の振動が調整される。
【0031】
ここで、振動部D1において、軸部11の両端には、当該軸部11の回動軸と同軸上に取り付けられるとともに軸受けSaに回動自在に嵌め込まれた一対の支持アーム14が設けられている。したがって、軸部11は支持アーム14を介して前述の軸受けSaに回動自在に支持されている。但し、軸部11の両端を直接軸受けSaに回動自在に嵌め込むようにしてもよい。あるいは、両端が軸受けSaに固定された1本の支持アーム14を設け、この支持アーム14に対して、軸部11を回動自在且つ回動軸方向に移動不能に貫通した状態で設けてもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、錘部13はアーム部12の長さ方向に移動可能となっており、図示しない固定ピンなどの固定部材によってアーム部12の所望の移動位置に固定できるようになっている。但し、後述するように、制振装置Dの固有振動数の調整において錘部13を動かす必要がない場合には、当該錘部13は移動不能となっていてもよい。
【0033】
調整部D2において、移動ブロック21の移動方向に沿ってスライド溝(図示せず)が形成されるとともに制振対象構造物Sに固定された移動案内部材23が設けられている。そして、移動ブロック21は当該スライド溝に嵌め込まれて垂下した状態で設置され、スライド溝に案内されて移動するようになっている。また、移動案内部材23の両端には、下方に屈曲した壁部23aが形成されており、前述した一対のコイルばね22は、一端が壁部23aに取り付けられ、他端が移動ブロック21の端部に取り付けられている。このように、本実施の形態では、コイルばね22は壁部23aが形成されて制振対象構造物Sに固定された移動案内部材23を介して制振対象構造物Sに取り付けられているが、壁部23aを直接制振対象構造物Sに固定して、そこにコイルばね22の一端を取り付けるようにしてもよい。また、スライド溝についても、移動案内部材23を設けることなく、直接制振対象構造物Sに形成してもよい。
【0034】
なお、本実施の形態において、コイルばね22は移動ブロック21の両側に設けられているが、片側だけに設けられていてもよい。
【0035】
さて、軸部11には、下方を向けて移動ブロック21に取り付けられた係合ピン24と係合する螺旋溝11aが形成されている。
【0036】
したがって、
図2(a)に示すように、アーム部12が図面手前側に振れると、当該アーム部12によって回動する軸部11に形成された螺旋溝11aの位置が移動し、それに連動して係合ピン24が軸部11の軸方向右側に移動する。これにより、移動ブロック21が軸部11と平行に右側に移動し、当該移動ブロック21の右側に取り付けられたコイルばね22が収縮し、左側に取り付けられたコイルばね22が伸長する。
【0037】
また、
図2(b)に示すように、アーム部12が図面奥側に振れると、当該アーム部12によって回動する軸部11に形成された螺旋溝11aの位置が移動し、それに連動して係合ピン24が軸部11の軸方向左側に移動する。これにより、
図2(a)に示した場合とは逆に、移動ブロック21が軸部11と平行に左側に移動し、当該移動ブロック21の右側に取り付けられたコイルばね22が伸長し、左側に取り付けられたコイルばね22が収縮する。
【0038】
そして、制振装置Dでは、アーム部12の振動により発生する固有振動数を後述するように設定することで、制振対象構造物Sの上下方向の振動を減衰させる。
【0039】
ここで、水平方向に延在して構築された制振対象構造物Sの上下方向の振動を減衰させるため、前述の制振装置Dは、当該制振装置Dを構成するアーム部12の振動方向が、制振対象構造物Sの振動方向と直交する方向となるように設置されている。
【0040】
なお、アーム部12の振動方向と制振対象構造物Sとの振動方向は交差していれば足り、本実施の形態のように直交していることには限定されない。但し、後述するように、直交していれば制振対象構造物Sの制振効果が極めて大きくなることから、アーム部12の振動方向と制振対象構造物Sの振動方向とは直交していることが望ましい。
【0041】
なお、制振装置Dは制振対象構造物Sの振動が最大となる場所に設置する。つまり、制振対象構造物Sが両持ち構造(両端で支持された構造)の場合には、アーム部12が制振対象構造物Sの両端の支持位置F(
図1)の中央位置となるように制振装置Dを設置し、片持ち構造(一端のみで支持された構造)の場合には、支持された一端とは反対側の自由端に制振装置Dを設置する。なお、本実施の形態では、制振対象構造物Sが両持ちとなっているものとして、アーム部12が制振対象構造物Sの2カ所の支持位置Fの中央位置となるように制振装置Dが取り付けられている。
【0042】
また、制振対象構造物Sには所定の固有振動数(f)を持っているが、この制振対象構造物Sに設置された制振装置Dは、制振対象構造物Sの固有振動数(f)の半分の固有振動数(f/2)を有している。そして、コイルばね22のばね定数(ばねに負荷を加えた時の荷重を伸びで割った比例定数)の設定、およびアーム部12の有効長さ(錘部13の重心と軸部11の軸心間の長さ)の設定、の何れか一方の設定または両方の設定を適用することにより、制振装置Dの固有振動数をf/2とすることができる。
【0043】
すなわち、コイルばね22のばね定数の設定とは、振動部D1の振れ角(つまり、アーム部12の振れ角)が等時性を担保でき、且つ振動部D1の振動数がf/2となるように、アーム部12の有効長さと錘部13の質量から、コイルばね22のばね定数を設定することである。また、アーム部12の有効長さの設定とは、錘部13を所定の位置に移動することによりアーム部12の有効長さを変化させて、アーム部12の振動数がf/2となるように設定することである。
【0044】
なお、本願において、制振装置Dが有する固有振動数(f/2)とは、制振対象構造物Sの固有振動数に対して厳密に半分となった固有振動数(つまり、制振対象構造物Sの固有振動数fに0.5を乗じた数値の固有振動数)との意味ではなく、制振対象構造物Sの固有振動数の約半分の固有振動数との意味である。これは、制振装置Dが有する固有振動数が制振対象構造物Sの固有振動数の厳密に半分の固有振動数の場合における制振対象構造物Sの制振効果が極めて大きくなるが、厳密に半分ではなくても有効な制振効果が得られるからである。
【0045】
次に、本実施の形態の制振機構において、上下方向に振動する制振対象構造物Sの固有振動数(f)の半分の固有振動数(f/2)を持つ制振装置Dにより、制振対象構造物Sの振動が抑制されることについて説明する。ここでは、
図3に示すように制振機構の試験体Tを作成して検証を行った。
【0046】
図3において、制振対象構造物Sに相当するのが梁Bである。この梁Bの両端には、一対の支持アーム14を回動自在に支持するための軸受けBaが下方に屈曲して形成されている。また、梁Bには、当該梁Bを上下振動させるために、負荷マスMの取り付けられたピエゾアクチュエータPからなる加振機が固定されている。その他の構成部材は
図1と同様となっている。
【0047】
なお、
図3に示す試験体Tにおいて、梁Bには、長さ(支持される両端間の長さ)853mm、幅100mm、厚さ6mm、重量3.978kgの鉄板を用いた。梁Bの中央に位置するアーム部12の長さは70mm、重量は45gである。また、錘部13の長さは30mm、重量は48g、軸部11と支持アーム14の合計重量は195gである。さらに、負荷マスMの重量は394g、ピエゾアクチュエータPの重量は206gで、両者を合計した加振機全体の重量は600gである。なお、加振機は梁Bの中心から70mm離れた位置に設置した。そして、アーム部12を梁Bの固有振動数に同調させるために、錘部13の位置(錘部13を最上部および最下部としたときの軸部11の径方向下端から錘部13の中心までの長さ)を25mm~60mmまで変更できるようにし、アーム部12の固有周期が6.9Hz_~12.3Hzの範囲で調整できるようになっている。なお、ピエゾアクチュエータPは、入力電圧5Vで発生する変位は8.0×10
-5mで製作されている。
【0048】
さて、
図3に示す試験体Tのアーム部12に強制変位を与え、アーム部12を自由振動させた場合の梁Bに発生する加速度を
図4(a)に、アーム部12の振れ角を
図4(b)に示す。
図4において、梁Bの振動は15.5秒、アーム部12の振動は4.58秒間続いている。また、アーム部12の振動が梁Bの振動を励起していることで、梁Bの振動とアーム部12を振動が同調されていることが分かる。
【0049】
図4(a)の梁Bの加速度フーリエスペクトルを
図5(a)に、
図4(b)のアーム部12の振動のフーリエスペクトルを
図5(b)に示す。梁Bの固有振動数は16.2Hz、アーム部12の固有振動数は8.06Hzで梁Bの固有振動数とアーム部12の固有振動数が1:2に同調されている。
【0050】
ここで、アーム部12の制振効果を把握するため、アーム部12が作動しない場合と作動する場合について共振実験を行った。ピエゾアクチュエータPの入力加速度は0.29m/s
2である。また、梁Bの振動が定常状態と判断した時刻から100秒間計測した。加振周波数の範囲は梁Bの固有振動数から16.05Hz_~16.3Hzとし、梁Bの減衰定数が非常に小さいことから、0.01Hzピッチで周波数を増加させた。応答加速度の時系列の最大値から求めた共振曲線を
図6(a)に示す。
図6(a)において、16.05Hz以下、16.30Hz以上の周波数ではアーム部12は振動しないため、梁Bの応答加速度は等しくなる。アーム部12が振動しない場合、固有振動数は16.16Hzを示し、自由振動実験から求めた固有振動数より0.04Hz低くなった。また、
図6(b)に示す位相曲線から、16.16Hzで梁Bの位相がピエゾアクチュエータPの位相から約90°遅れていることから、梁Bの固有振動数(f)は16.16Hzであることが確認できる。
【0051】
そして、
図6(a)の共振曲線に示すように、16.13Hzから16.23Hzにおいてアーム部12が振動した場合、応答加速度はアーム部12が振動しない場合に比較して小さくなっている。固有振動数において、アーム部12が振動しない場合の振幅比は30倍、振動する場合の振幅比は15倍となっており、梁Bの応答加速度が約1/2に低減していることが分かる。
【0052】
次に、ピエゾアクチュエータPの入力加速度が0.29m/s
2における梁Bの応答加速度を
図7(a)に、アーム部12の振れ角を
図7(b)に示す。
図7(a)、(b)において、ピエゾアクチュエータPの加振振動数は16.16Hz、
図7(b)において、アーム部12の振動開始(手動による振動開始)時刻はピエゾアクチュエータPへの電圧印加開始から22.4秒後である。
【0053】
図7において、アーム部12が振動しない場合の梁Bの加速度は9.08m/s
2で入力に対する振幅比は31.3倍である。また、ピエゾアクチュエータPへの電圧印加開始から22.4秒後においてアーム部12を振動させると、アーム部12の振れ角は徐々に大きくなり、26.2秒で最大値を示しアーム部12振れ角は徐々に小さくなり、38秒で最小になり、また、振れ角は徐々に大きくなる傾向を示した。このように、梁Bの加速度が3.98m/s
2付近になるとアーム部12の振動は小さくなる。
【0054】
このように、アーム部12を振動させる限界の加速度付近では、アーム部12の振れ角が大きくなると梁Bの加速度は小さくなり、梁Bの加速度が小さくなるとまたアーム部12の振れ角は小さくなり梁Bの加速度は大きくなる傾向が表れた。
【0055】
ピエゾアクチュエータPの入力加速度が0.37m/s
2における梁Bの応答加速度を
図8(a)に、アーム部12の振れ角を
図8(b)に示す。
図8(a)、(b)において、ピエゾアクチュエータPの加振振動数は16.16Hz、
図8(b)において、アーム部12の振動開始(手動による振動開始)時刻はピエゾアクチュエータPへの電圧印加開始から22.3秒後である。
【0056】
図8において、アーム部12が振動しない場合、梁Bの加速度は10.4m/s
2で振幅比は28.1倍である。時刻22.3秒でアーム部12に刺激を与えると約1秒でアーム部12は最大振幅になり、約37秒まで徐々に小さくなり、そのあと定常に振動している。また、梁Bの加速度もアーム部12の振動が始まると同時に小さくなり約37秒で4.28m/s
2となり、そのあとは定常に振動している。
【0057】
このように、梁Bの加速度が3.98m/s
2では、アーム部12と梁Bの振動はうなりのような現象を示し(
図7)、4.28m/s
2ではアーム部12の振動は定常な振動を示している(
図8)。よって、アーム部12を振動させる限界の梁Bの加速度は4m/s
2であると考えられる。
【0058】
梁Bの固有振動数(f=16.16Hz:共振点)におけるアーム部12の入力加速度と梁Bの応答加速度との関係を
図9に示す。図示するように、アーム部12が振動しない場合に比較して、アーム部12が振動する場合の梁Bの加速度は約1/2に低下している。また、アーム部12の入力加速度が増加するとその低下割合は大きくなる傾向がある。
【0059】
以上のことから、上下方向に振動する梁の固有振動数(f)(本実施の形態ではf=16.16Hz)の1/2の振動数に同調させたアーム部12を振動させることにより、つまり、上下方向に振動する制振対象構造物Sの固有振動数(f)の半分の固有振動数(f/2)を持つ制振装置Dにより当該制振対象構造物Sの振動を抑制することが可能になる。
【0060】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0061】
たとえば、制振装置Dの固有振動数を制振対象構造物Sの固有振動数(f)の半分(f/2)にすれば制振効果が得られるが、ここでの「固有振動数の1/2」とは厳密な意味で1/2であることを要しない。
【0062】
また、本実施の形態では、制振装置Dが制振対象構造物Sの下面側に設置されているが、下面側である必要はなく、制振対象構造物Sの上面側に設置されていてもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、軸部11の回動軸が制振対象構造物Sの支持位置Fを向くように制振装置Dが配置されているが、制振装置Dの配置方向は特に限定されるものではない。
【0064】
さらに、制振対象構造物Sとしては縦揺れ(上下振動)が発生する構造物に限定されるものではなく、高層建築物などのような横揺れ(水平振動)が発生する塔状の制振対象構造物Sにも適用可能である。すなわち、制振装置Dを制振対象構造物Sの側面側に設置すれば、当該制振対象構造物Sの水平振動を減衰させることができる。このとき、揺れ(振動)が最も大きくなる塔状の制振対象構造物Sの側面側上端部に制振装置Dを設置するのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の制振機構において、制振対象構造物としては縦揺れ(上下振動)が発生する構造物に限定されるものではなく、高層建築物などのような横揺れ(水平振動)が発生する塔状の構造物にも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
11 軸部
11a 螺旋溝
12 アーム部
13 錘部
14 支持アーム
21 移動ブロック(移動体)
22 コイルばね
23 移動案内部材
23a 壁部
B 梁
Ba 軸受け
D 制振装置(制振手段)
D1 振動部
D2 調整部
M 負荷マス
F 支持位置
P ピエゾアクチュエータ
S 制振対象構造物
Sa 軸受け
T 試験体