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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】リアクトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/00 20060101AFI20241122BHJP
   H01F 41/10 20060101ALI20241122BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20241122BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01F41/00 B
H01F41/10 C
H01F41/04 A
H01F37/00 E
H01F37/00 J
H01F37/00 F
H01F37/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022200476
(22)【出願日】2022-12-15
(65)【公開番号】P2024085764
(43)【公開日】2024-06-27
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】金子 真人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-198847(JP,A)
【文献】特開2018-46083(JP,A)
【文献】特開2022-182026(JP,A)
【文献】特開2004-095999(JP,A)
【文献】特開2005-197388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0041676(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/00
H01F 41/04
H01F 41/10
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脚部と前記脚部を繋ぐ一対のヨーク部を有するコアと、前記脚部に装着されたコイルと、前記コアのヨーク部の一部を被覆するヨーク被覆部を有する樹脂部材と、前記コイルの引出線と溶接により接続するバスバーと、を備えるリアクトルの製造方法であって、
導電性部材を巻回して前記コイルを作製するコイル作製工程と、
前記コイル作製工程により作製された前記コイルを前記脚部に装着する装着工程と、
前記装着工程を経た後、前記一対のヨーク部をそれぞれ前記コイルの方向に向けて押し込む押圧工程と、
前記押圧工程の経た後、前記コイルの引出線と前記バスバーを溶接する溶接工程と、
を含み、
前記ヨーク被覆部は、前記コイルと対向する前記ヨーク部の端面を被覆した対向面を有し、
前記バスバーは、前記引出線と接触する接触面が前記対向面よりも前記コイル側に配置されており、
前記コイル作製工程では、前記対向面間の長さよりも巻軸方向の長さが長くなるように前記コイルを作製し、
前記押圧工程では、前記対向面で前記コイルを押し込んで、前記コイルの巻軸方向の長さを前記対向面間の長さにするとともに、前記バスバーが配置される位置に前記引出線を配置させること、
を特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂部材は、前記脚部を被覆する脚部被覆部を有し、
前記ヨーク被覆部は、前記対向面から前記コイルに向かって突出する規制部を有し、
前記規制部は、前記脚部被覆部の間に設けられ、
前記規制部の高さは、前記対向面の上端から下端まであり、
前記コイルの引出線は、前記脚部被覆部と前記規制部の間に設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項3】
前記対向面は、前記脚部被覆部及び前記ヨーク被覆部の上面よりも上方に張り出した張出部を有し、
前記張出部は、長板形状であり、幅広面が巻軸方向と直交しており、
前記張出部の幅広面は、前記コイル及び前記引出線と対向していること、
を特徴する請求項2に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項4】
前記対向面は、前記張出部の一方端部から下方に延びる延出部を有し、
前記延出部は、板状部材であり、幅広面が巻軸方向と直交しており、
前記延出部の幅広面は、前記引出線と対向していること、
を特徴とする請求項3に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項5】
前記コア、前記コイル、前記樹脂部材及び前記バスバーを備えるリアクトル本体はケースに収容され、
前記ケース内には充填材が充填され、充填材が固化して成る充填成形部が形成されていること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のリアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルの引出線とバスバーを溶接するリアクトルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源など様々な用途にリアクトルが用いられている。リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。リアクトルは、主としてコア、コイル、樹脂部材及びバスバーを備える。
【0003】
コアは、複数の脚部とこの複数の脚部を繋ぐ一対のヨーク部を有する環状のコアである。コイルは、コアの脚部に装着される。樹脂部材は、コアとコイル間に設けられ、コアとコイルを絶縁する。コイルからは引出線が引き出されており、引出線がバスバーの一方端部と溶接により接続している。バスバーの他方端部は、外部機器の端子と接続している。このように、バスバーを介して外部機器からリアクトルに電力が供給される。そして、コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させ、コアは、コイルが発生させた磁束を通す磁路となる。そのため、コイルの引出線とバスバーを溶接によって接続させることが重要な要素となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-169425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、コイルの巻軸方向の長さは、一対のヨーク部間の長さと合致するようにコイルを作製する。しかし、寸法公差や巻回ばらつきによって、ヨーク部間の長さと同一に作成することは難しい。特に、ヨーク部間にコイルを収容させるため、ヨーク部間の長さよりも若干小さくなってしまうことが多い。
【0006】
コイルの巻軸方向の長さがヨーク部間より短くコイルが作製されると、コイルの引出線の位置も所定の位置からずれ、バスバーとの接触位置に引出線が配置されないことになる。この状態で溶接する場合、作業者は、引出線をバスバーの位置まで引き寄せ、治具等で固定したうえで溶接作業を行うため、作業性が悪い。
【0007】
また、引出線はバスバーに引き寄せた状態で溶接により固定されている。そのため、溶接後においても引出線は元の位置に戻ろうと反発し、溶接部分に負荷がかかった状態となる。よって、溶接部分が損傷し、場合によって引出線がバスバーから剥がれてしまう虞がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、溶接前の状態において、コイルの引出線とバスバーを接触させ、溶接作業の効率を向上させるとともに、溶接個所の損傷を防止するリアクトルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリアクトルの製造方法は、複数の脚部と前記脚部を繋ぐ一対のヨーク部を有するコアと、前記脚部に装着されたコイルと、前記コアのヨーク部の一部を被覆するヨーク被覆部を有する樹脂部材と、前記コイルの引出線と溶接により接続するバスバーと、を備えるリアクトルの製造方法であって、導電性部材を巻回して前記コイルを作製するコイル作製工程と、前記コイル作製工程により作製された前記コイルを前記脚部に装着する装着工程と、前記装着工程を経た後、前記一対のヨーク部をそれぞれ前記コイルの方向に向けて押し込む押圧工程と、前記押圧工程の経た後、前記コイルの引出線と前記バスバーを溶接する溶接工程と、を含み、前記ヨーク被覆部は、前記コイルと対向する前記ヨーク部の端面を被覆した対向面を有し、前記バスバーは、前記引出線と接触する接触面が前記対向面よりも前記コイル側に配置されており、前記コイル作製工程では、前記対向面間の長さよりも巻軸方向の長さが長くなるように前記コイルを作製し、前記押圧工程では、前記対向面で前記コイルを押し込んで、前記コイルの巻軸方向の長さを前記対向面間の長さにするとともに、前記バスバーが配置される位置に前記引出線を配置させること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接前の状態において、コイルの引出線とバスバーを接触させ、溶接作業の効率を向上させるとともに、溶接個所の損傷を防止するリアクトルの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のリアクトルの全体構成を示す斜視図である。
図2】本実施形態のリアクトル本体の全体構成を示す斜視図である。
図3】樹脂部材に被覆されたコアの分解斜視図である。
図4】U字型コアを被覆する樹脂体の斜視図である。
図5】U字型コアを被覆する樹脂体の斜視図である。
図6図1のA-A断面図である。
図7】同じ巻回数において、密巻きのコイルと、スペース巻きのコイルを比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態におけるリアクトルについて、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面においては、理解容易のため、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合や構成部材を省略している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0013】
リアクトル10は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、無停電電源といった各種の分野で使用されている。
【0014】
図1は、本実施形態のリアクトルの全体構成を示す斜視図である。リアクトル10は、リアクトル本体1と、ケース6及び充填成形部7を備える。リアクトル本体1がケース6内に収容され、ケース6内に充填材が充填され、充填材が固化した充填成形部7が形成されることでリアクトル10が作製される。図2は、本実施形態のリアクトル本体の全体構成を示す斜視図である。リアクトル本体1は、コア2、樹脂部材3、コイル4及びバスバー5を備える。
【0015】
コア2は、磁性体から成り、後述するコイル6が発生させた磁束が流れる磁路となる。コア2は、圧粉磁心、フェライト磁心、積層鋼板、又はメタルコンポジットコア等を用いることができる。メタルコンポジットコアとは、磁性粉末と樹脂とが混練され、樹脂が硬化されて成る磁性体である。
【0016】
図3は、樹脂部材に被覆されたコアの分解斜視図である。コア2は、2つのU字型コア部材21、22から成る。U字型コア部材21、22は、コイル6が装着される直線状に延びる一対の脚部23と、一対の脚部23を繋ぐヨーク部24とから成る。各U字型コア部材21、22の互いの脚部23の端面を接合することで、コア2は環状形状の閉磁路と成る。なお、脚部23の端面の間に磁気的なギャップを設けてもよい。磁気的なギャップとしては、スペーサやエアギャップ等を用いればよい。
【0017】
樹脂部材3は、U字型コア部材21、22の周囲を被覆する部材である。樹脂部材3は、モールド成型によってU字型コア部材21、22を被覆することで形成される。
【0018】
樹脂部材3は、樹脂から成る。樹脂部材3の樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合を挙げることができる。また、樹脂部材3の樹脂として、例えば、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよい。なお、樹脂に熱伝導性のフィラーを混ぜてもよい。
【0019】
樹脂部材3は、U字型コア部材21を被覆する樹脂体31とU字型コア部材22を被覆する樹脂体32から成る。つまり、リアクトル10は、U字型コア部材21及び樹脂体31から成るモールドコアと、U字型コア部材22と樹脂体32から成るモールドコアにより構成されている。樹脂体31及び樹脂体32は、それぞれ脚部被覆部33及びヨーク被覆部34を有する。
【0020】
図4は、U字型コア21を被覆する樹脂体31の斜視図である。脚部被覆部33は、コア2の脚部23の周囲を被覆する部材である。もっとも、脚部被覆部33は、脚部23の先端面は被覆せず、露出している。脚部被覆部33の周囲にコイル4が装着され、脚部被覆部33は、脚部23(コア2)とコイル4を絶縁する。
【0021】
なお、樹脂体31の脚部被覆部33は、コア2の脚部23の先端面からヨーク部24に向かって延びる凹み部331を有する。凹み部331は、脚部23の上面、下面、外側に位置する側面を被覆する脚部被覆部33に設けられている。即ち、凹み部331は3つ設けられている。外側に位置する側面とは、リアクトル本体1がケース6に収容された際に、ケース6と対向する端面のことを指す。
【0022】
一方、樹脂体32の脚部被覆部33は、コア2の脚部23の先端面よりも突出した嵌合部332を有する。嵌合部332は、凹み部331に対応する位置、即ち、脚部23の上面、下面、外側に位置する側面を被覆する脚部被覆部33から延出している。嵌合部332は、凹み部331に嵌合できる大きさである。嵌合部332が凹み部331に嵌合することで、樹脂体31と樹脂体32は嵌合し、連結される。
【0023】
ヨーク被覆部34は、コア2のヨーク部24の周囲を被覆する部材である。ヨーク被覆部34は、脚部被覆部33と連接している。ヨーク被覆部34は、巻軸方向と直交するコイル4の端面と対向する対向面341を有する。対向面341は、脚部被覆部33とヨーク被覆部34の境界部分に形成される。この対向面341によって、後述する押圧工程においてコイル4を押圧する。
【0024】
対向面341は、ヨーク被覆部34と脚部被覆部33の上面位置から上方に張り出した張出部342を有する。つまり、張出部342は、脚部被覆部33の上面及びヨーク被覆部34の上面よりも高い位置に設けられている。張出部342は、コイル4の上面程度の高さまで張り出していれば足りる。なお、上下方向とは、ケース6の底面と直交する方向(高さ方向と称する場合がある。)を指し、ケース6の底面に向かう方向が下、ケース6の底面から離れる方向が上であり、上面とは、ケース6の底面と対向する脚部被覆部33、ヨーク被覆部34又はコイル4の端面とは反対側の面である。
【0025】
張出部342は、長板状の部材である。張出部342は、幅広面が巻軸と直交する。即ち、張出部342の幅広面は、巻軸と直交するコイル4の端面と対向する。この幅広面は、後述する規制部344を除き平坦である。張出部342は、ヨーク被覆部34と脚部被覆部33の境界部分及び一対の脚部被覆部33の間に拡がっている。
【0026】
張出部342の一方端部には、延出部343が設けられている。ここでいう一方端部とは、コイル4の引出線43が引き出されている側の端部である。延出部343は、板状の部材であり、幅広面が巻軸と直交するように設けられている。この幅広面は、平坦である。延出部343は、張出部342と継ぎ目無く一続きに形成されている。延出部343の巻軸方向の厚さは、張出部342と略同一であり、延出部343は脚部被覆部33とヨーク被覆部34の境界部分に設けられている。延出部343は、コイル4の引出線43の幅広面と対向している。
【0027】
延出部343は、張出部342から下方に向かって延びている。延出部343は、例えば、脚部被覆部33の高さ方向の長さの中央部分に未達程度まで延びている。このように、張出部342及び延出部343は、対向面341の一部となっている。
【0028】
また、ヨーク被覆部34は規制部344を有する。規制部344は、脚部被覆部33の間に設けられている。規制部344と脚部被覆部33の間は、導電性部材の幅広面の長さより若干大きい程度に隙間が設けられている。規制部344は、対向面341からコイル4に向かって突出している。規制部344は、引出線43の巻軸方向の厚み程度突出していれば足りる。規制部344は、対向面の下端から張出部342の上端まで延びている。なお、対向面341は、規制部344が設けられているところ以外は、平坦面である。
【0029】
なお、樹脂体32における規制部344には、センサ(不図示)を保持するためのセンサ保持部345が設けられている(図5参照)。センサ保持部345は、規制部344から延び、一対の脚部被覆部33の間に設けられている。
【0030】
コイル4は、エナメルなどで絶縁被覆した1本の導電性部材により構成される。コイル4は、巻き位置を巻軸方向にずらしながら導電性部材を筒状に巻回して成る。導線製部材は平角線であり、コイル4は、導電性部材の幅広面がコイル4の巻軸との直交する方向に拡がるエッジワイズコイルである。コイル4は、4つの平坦面41と4つの湾曲面42が交互に形成された角筒形状となっている。
【0031】
コイル4の巻軸方向の長さは、作製された段階、即ち、コア2の脚部23に装着される前の段階では、ヨーク部24間(ヨーク被覆部34の対向面341間)の長さよりも長い。後述する製造方法の押圧工程によって、ヨーク部24間の長さに調整され、ヨーク部24間に配置される。なお、押圧工程によってヨーク部24間に配置された後において、コイル4を構成する導電性部材間には隙間が設けられている。
【0032】
コイル4は、2つ設けられている。各コイル4は、コア2の脚部23にそれぞれ装着されている。即ち、2つのコイル4は、巻軸方向が平行となるように隣接して配置されている。コイル4は、バスバー5と溶接により接続する引出線43を有する。引出線43がバスバー5と接続することで、コイル4は外部機器と電気的に接続する。
【0033】
引出線43は、各コイル4から2本ずつ引き出されている。各コイル4が有する2本の引出線43は、巻軸と直交するコイル4の各端面からそれぞれ引き出されている。即ち、2本の引出線43のうち、1本は巻軸と直交するコイル4の一方端面から引き出され、もう1本は巻軸と直交するコイル4の他方端面から引き出されている。引出線43は、導電性部材の幅広面が対向面341に対向している。引出線43は、ヨーク被覆部34の上面よりも高い位置に向かって上方に延び、先端部分がバスバー5と接触している。引出線43の先端面は、バスバー5の上面と面一になっており、この面一となった面で溶接される。
【0034】
図6は、図1のA-A断面図である。図6に示すように、コイル4の一方端面から延びる引出線43aは、脚部被覆部33と規制部344の間に配置され、規制部344の高さ方向に沿って引き出されている。引出線43aは、脚部被覆部33や規制部344に接触している必要がない。一方、引出線43aは、対向面341及び張出部342と対向している。
【0035】
引出線43aとは反対側から引出されている引出線43bは、図1図2に示すように、ケース6の側壁と対向するコイル4の外側面側に設けられている。この引出線43bは、延出部343と対向している。
【0036】
バスバー5は、一方端部がコイル4の引出線43と溶接により接続し、他方端部が外部機器の端子と接続する。バスバー5は、例えば、平角線からなる導電性部材である。リアクトル10は、バスバー5を介して外部機器から電力が供給される。バスバー5は、端子台51によって固定されている。端子台51は、ヨーク被覆部34の上面に設けられている。端子台51には、ケース6に固定する固定部511が設けられている。
【0037】
バスバー5は、引出線43と溶接される溶接部52を有する。溶接部52は、端子台51から露出している。溶接部52は、幅広面が巻軸と直交するように脚部被覆部33とヨーク被覆部34の境界部分の上方に、当該境界部分に沿って延びている。溶接部52は、巻軸と直交する幅広面であり、引出線43と接触する接触面521を有する。接触面521は、引出線43よりもヨーク部24側に配置されている。
【0038】
接触面521は、対向面341よりコイル4側に配置されている。対向面341よりコイル4側に配置されているとは、溶接部52全体が、対向面431の投影領域上よりもコイル4側に配置されている必要はなく、溶接部52自体は対向面341の投影領域上に配置されているが、例えば、0.1mmなど僅かでも接触面521が対向面341よりもコイル4側に配置されていれば足りる。
【0039】
ケース6は、図1に示すように、リアクトル本体1を収容する部材である。ケース6は、上面が開口している箱型形状である。つまり、ケース6は、底面と、底面の縁から立ち上がる側壁により構成され、上面は開口している。この開口からリアクトル本体1をケース6内に収容する。ケース6は、例えばアルミニウム合金等、熱伝導性が高く軽量な金属で構成されており、放熱性を有する。
【0040】
充填成形部7は、充填材が固化して成る部材である。充填成形部7は、ケース6内に設けられ、コア2、樹脂部材3、コイル4及びケース6の各部材間に形成されている。また、充填成形部7は、コイル4を構成する電線間にも入り込んでいる。充填材は、リアクトル10の放熱性能の確保及びリアクトル本体1からケース6への振動伝搬の軽減のため、比較的柔らかく熱伝導性の高い樹脂が適している。また、充填材は絶縁性を有することが好ましい。
【0041】
次に、本実施形態のリアクトルの製造方法について説明する。本実施形態のリアクトルの製造方法は、コイル作製工程、装着工程、押圧工程、収容工程、端子台固定工程、溶接工程、充填工程を順次経る。
【0042】
コイル作製工程は、コイル4を作製する工程である。コイル作製工程では、巻き位置を巻軸方向にずらしながら導電性部材を筒状に巻回する。コイル作製工程では、巻回された導電性部材間の隙間が広くなるように巻回していく。これをスペース巻きと呼ぶ。一方、巻回された導電性部材間の隙間が空かないように巻回するものを密巻きと呼ぶ。図7は、同じ巻回数において、密巻きのコイル(a)と、本実施形態のスペース巻きのコイル4(b)を巻軸方向の長さを比較するための図である。図7に示すように、同じ巻回数の場合、本実施形態のようにスペース巻きのコイル4は、導電性部材間の隙間がある分、巻軸方向の長さが長くなる。
【0043】
コイル作製工程では、コイル4の巻軸方向の長さは、一対のヨーク部24、より詳細には、一対のヨーク被覆部34の対向面341間の長さよりも敢えて長くなるようにスペース巻きによってコイル4を作製する。なお、一対のヨーク被覆部34の対向面341間の長さとは、各U字型コア部材21、22の互いの脚部23を接合させ、コア2が環形状になった状態における長さであり、本実施形態では、脚部被覆部33の嵌合部332と凹み部331が嵌合した状態における長さである。なお、脚部23の間に磁気的なギャップを設けた場合には、当該ギャップの長さも一対のヨーク被覆部34の対向面341間の長さに含まれる。
【0044】
コイル作製工程で作製されるコイル4の巻軸方向の長さは、一対のヨーク被覆部34の対向面341間の長さの2倍より短い方が好ましい。即ち、コイル4の巻軸方向の長さは、一対のヨーク被覆部34の対向面341間の長さの1倍超え2倍未満である。コイル4の2倍以上の長さにすると、後述する押圧工程において、コイル4の形状が安定せず、コイル4を押圧によって圧縮しにくくなり、生産性が悪化する。
【0045】
コイル作製工程におけるコイル4の巻回数は10ターン以上が好ましい。また、導電性部材の巻軸方向の厚みは0.8mm以上であることが好ましい。10ターン以上にすること又は導電性部材の巻軸方向の厚みは0.8mm以上にすることで、コイル4の反発力が上がり、引出線43の幅広面とバスバー5の接触面521がより密着する。
【0046】
装着工程は、コア2の脚部23にコイル4を装着する工程である。2つに分割された一方のモールドコアの両脚部23にコイル4をそれぞれ装着する。その後、他方のモールドコアの脚部23を反対側の端面からコイル4の内周に挿入する。この装着工程が終了した段階では、コイル4の巻軸方向の全長が対向面341間よりも長いため、脚部被覆部33の嵌合部332と凹み部331は連結されていない。
【0047】
押圧工程は、コイル4を押し込み、嵌合部332と凹み部331を連結させる工程である。押圧工程は、一対のモールドコイルを用いてコイル4を押圧する。各モールドコイルは、互いのモールドコイルに向かって押圧される。より詳細には、対向面341、張出部342及び延出部343をコイル4方向に向かって押し込む。コイル4は、対向面341、張出部342及び延出部343によって両端から押し込まれ、導電性部材間の隙間が徐々に短くなり、コイル4の巻軸方向の長さも短くなる。
【0048】
コイル4の押圧をコイル4の巻軸方向の長さが、対向面341間に収まるまで続ける。コイル4を押圧することで、引出線43の位置も移動し、コイル4が対向面341間に収まる状態では、引出線43はバスバー5の接触面521が配置される位置に配置されている。コイル4が対向面341間に収まった状態においても、コイル4を構成する導電性部材間には隙間が生じており、この隙間は密巻きで巻回した場合よりも大きい。
【0049】
収容工程は、リアクトル本体1をケース6に収容する固定である。リアクトル本体1の固定部をケース6の固定部に重ね合わせ、ボルト等の固定具で締結することで、リアクトル本体1はケース6に固定される。
【0050】
端子台固定工程は、端子台51をケース6に固定する工程である。この段階の前において、バスバー5はモールド成型等によって端子台51に固定されている。端子台51は、固定部511を対応するケース6の固定部に重ね合わせ、ボルト等の固定具で締結する。端子台51が固定されると、バスバー5の接触面521と引出線43が接触した状態となる。
【0051】
溶接工程は、コイル4の引出線43とバスバー5の溶接部52を溶接する工程である。溶接工程では、既に引出線43とバスバー5の接触面521は接触しているので、引出線43を引き寄せることなく治具等により引出線43とバスバー5の溶接部52を固定する。そして、面一になっている引出線43の上面と溶接部52の上面を溶接する。溶接工程を経ることで、引出線43と溶接部52が接触した状態で固定される。
【0052】
充填工程は、ケース6内に充填材を充填する工程である。充填工程経ることで、リアクトル本体1とケース6の隙間やコイル4を構成する導電性部材間の隙間に充填材が固化した充填成形部7が形成される。
【0053】
(作用効果)
以上のように、本実施形態のリアクトルの製造方法は、一対のヨーク部24間の長さよりも巻軸方向の長さが長くなるように導電性部材を巻回するコイル作製工程と、コイル作製工程により作製されたコイル4をコア2の脚部23に装着する装着工程と、装着工程を経た後、一対のヨーク部24をそれぞれコイル4の方向に向けて押し込む押圧工程と、押圧工程の経た後、コイル4の引出線43とバスバー5の溶接部52を溶接する溶接工程と、を含む。バスバー5は、引出線43と溶接される溶接部52の接触面521がヨーク被覆部34の対向面341よりもコイル4側に配置されている。押圧工程では、コイル4の巻軸方向の長さをヨーク部24間の長さまで押し込むとともに、バスバー5が配置される位置に引出線43を配置させる。
【0054】
これにより、コイル4の引出線43をバスバー5に接触させることができる。従来は、コイル作製工程において作成されるコイルの巻軸方向の長さは、対向面341間の長さであった。もっとも、コイルの作製には寸法公差や巻回ばらつき等により、対向面341間の長さを狙って作製しても誤差が生じる。この誤差により、コイルの巻軸方向の長さが短くなった場合、コイルの引出線がバスバーと接触する位置からずれて配置されてしまう。この場合、引出線をバスバーの位置まで強引に引き寄せて溶接を行うことなり、溶接作業に時間がかかる。また、引き寄せた引出線は、元の位置に戻ろうと反発する。そのため、溶接個所に負荷がかかり、場合によっては、溶接個所が損傷し、引出線がバスバーから剥がれてしまう虞もある。
【0055】
しかし、本実施形態では、コイル作製工程において、敢えて対向面341間よりも巻軸方向の長さが長くなるようにコイルを作製し、押圧工程において、コイル4の長さを対向面341間の長さにしている。そのため、対向面341間よりもコイルの巻軸方向の長さが短くなることがない。よって、コイル4の引出線43をバスバー5の接触面521の位置に配置することができ、溶接作業を効率良く行うことが可能となり、リアクトル10の生産性が上がる。
【0056】
特に、コイル4は、押圧工程において押し込まれている。言い換えれば、コイル4は、元の長さに戻ろうと、ヨーク部24の方向に向かって力が作用する。バスバー5の接触面521は、引出線43よりもヨーク部24側に配置されているので、引出線43は、接触面521に向かって力が作用する。そのため、引出線43と接触面521は、より密着させるとともに、溶接個所が損傷することも防止できる。
【0057】
ヨーク被覆部34は、対向面341に加えて、巻軸方向と直交するコイル4の端面に対向する張出部342及び延出部343を有し、張出部342、延出部343は、引出線43を接触している。これにより、押圧工程において、コイル4を押圧する際に、引出線43が回転したり、ヨーク部24側に倒れ込むことを防止でき、精度良くバスバー5の接触面521の位置に引出線43を配置させることができる。
【0058】
また、張出部342及び延出部343を設けることで、コイル4の端面や引出線43と接触する面積を増加させることができ、引出線43の先端の位置が定まりやすい。特に、延出部343を設けない場合、引出線43bは樹脂部材4と接触せず、バスバー5の接触面521の位置に配置させ難い。しかし、延出部343を設けることで、引出線43bは、延出部343によってバスバー5の接触面521の位置に導かれ、溶接作業を効率良く行うことができる。
【0059】
特に、本実施形態のリアクトル10は、各U字型コア21、22をモールド成型によって樹脂部材3(樹脂体31、32)が被覆するモールドコアで構成されている。そして、このモールドコアを用いて、押圧工程において、コイル4を押し込んでいる。そのため、樹脂部材4がコア2とは別体として構成している場合に比べて、強度が高く、対向面341、張出部342及び延出部343が変形や損傷しにくい。
【0060】
ヨーク被覆部34の対向面341には、規制部344が設けられており、引出線43aは、規制部344と脚部被覆部33の間に設けられている。そのため、引出線43aのコイル4の横並び方向の位置が規制できる。よって、押圧工程時に引出線43aが移動することを規制でき、精度良くバスバー5の接触面521の位置に引出線43aを配置させることができる。
【0061】
また、本実施形態のコイル4は、4つの平坦面41と4つの湾曲面42が交互に形成された角筒形状となっている。そのため、円形に巻回されたコイルと比べて回転し難く、押圧工程によってコイル4を押し込む場合であっても、引出線43の位置ずれを抑制することができる。
【0062】
本実施形態のリアクトルの製造方法は、押圧工程の後において、リアクトル本体1をケース6に収容する収容工程及びケース6内に充填材を充填させ、充填成形部7を形成する充填工程を更に含む。そして、押圧工程を経た後において、コイル4を構成する導電性部材間に隙間があり、この隙間は密巻きで巻回したコイルの隙間よりも大きい。そのため、充填成形部7は導電性部材間にも形成されている。
【0063】
これにより、コイル4から発する熱は、充填成形部7を介してケース6に伝導させやすく、リアクトル10の外部にコイル4の熱を放出できる。よって、放熱性の高いリアクトルを製造することができ、本発明は、このような充填材に充填される用途に好適である。
【0064】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0065】
上記実施形態では、押圧工程後、収容工程、端子台固定工程、溶接工程、充填工程の順でリアクトル1を作製したが、押圧工程後の工程は、この順序に限定されない。例えば、端子台51の固定をケース6ではなく、樹脂部材4に設け、押圧工程直後に、端子台固定工程を行い、その後、溶接工程、収容工程、充填工程との順で作製してもよい。
【0066】
また、この場合、収容工程の前に充填工程を行ってもよい。即ち、先に充填工程によって、ケース6内に充填材を充填させ、その後、充填材が充填されたケース6内にリアクトル本体1を収容してもよい。この場合は、充填材が固化することで、リアクトル本体1は固定される。
【符号の説明】
【0067】
10 リアクトル
1 リアクトル本体
2 コア
21、22 U字型コア
23 脚部
24 ヨーク部
3 樹脂部材
31 樹脂体
32 樹脂体
33 脚部被覆部
34 ヨーク被覆部
341 対向面
342 張出部
343 延出部
344 規制部
345 センサ保持部
4 コイル
41 平坦面
42 湾曲面
43 引出線
5 バスバー
51 端子台
511 固定部
52 溶接部
521 接触面
6 ケース
7 充填成形部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7