IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トタルエナジーズ ワンテクの特許一覧 ▶ ユニヴェルシテ ドゥ モンレアルの特許一覧

特許7592065ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質
<>
  • 特許-ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質 図1
  • 特許-ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質 図2
  • 特許-ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質 図3
  • 特許-ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】ポリアルケンカーボネートを含む固体高分子電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20241122BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241122BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241122BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241122BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20241122BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20241122BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0565
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01B1/10
H01B1/08
H01B13/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022503778
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2020070336
(87)【国際公開番号】W WO2021013741
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】19305958.1
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(73)【特許権者】
【識別番号】511110854
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ モンレアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】エメ-ペロ,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ドレ,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ルパージュ,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】プレベ,アルノー
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/030127(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3457486(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0065730(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0340476(US,A1)
【文献】古賀舞都,ほか2名,プロピレンカーボネート/プロピレンオキシド共重合体電解質のイオン伝導特性,高分子論文集,日本,公益社団法人高分子学会,2017年11月25日,Vol.74, No.6,pp.577-583,[online],[2024年6月17日検索],インターネット<URL: https://www.jstate.jst.go.jp/article/koron/74/6/74_2017-0051/_pdf>,<DOI: 10.1295/koron.2017-0051>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06- 1/10
H01B 13/00
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイオン性塩を含むポリマーマトリクスを含む固体高分子電解質であって、前記ポリマーマトリクスが少なくとも1つのポリアルケンカーボネートと、弾性重合体である少なくとも1つの第2のポリマーと、ポリアルケンカーボネートの分解に由来する少なくともアルケンカーボネートとを含む、固体高分子電解質。
【請求項2】
ポリアルケンカーボネートが、マトリクスのポリマー総質量に対して5~80質量%の量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項3】
前記ポリマーマトリクスが、互いに相対的にモル質量の大きいポリアルケンカーボネートとモル質量の小さいポリアルケンカーボネートとを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の固体高分子電解質。
【請求項4】
イオン性塩が、周期表の第1族に属する金属の金属イオンの塩の中から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項5】
イオン性塩が、LiBETI、LiCSO、LiCSO、LiCFSO、NaI、NaSCN、NaBr、KI、KBr、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiNO、Li(CFSON、Li(CFSOC、LiN(SO、リチウムアルキルフルオロホスフェート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、MTFSiLi、STFSiLi、およびそれらのいずれかの混合物で構成される群の中から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項6】
第2のポリマーが、HNBR、ポリイソプレン、ゴム状ポリマー、およびそれらのいずれかの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項7】
マトリクスが、ポリアルケンカーボネートを含む相と、第2のポリマーを含む相との間のマクロ分離を含まないことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項8】
マトリクスが、無機または有機固体充填剤を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項9】
固体高分子電解質が、1mm未満の厚さのフィルムの形態であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項10】
前記ポリマーマトリクスは、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとが両方とも可溶性であり、溶媒によって、または溶融により、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとを混合することによって得られることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載の固体高分子電解質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の固体高分子電解質の製造方法であって、前記方法が、請求項1から10のいずれか一つに記載の固体高分子電解質の獲得のために、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとが両方とも可溶性であり、溶媒によって、または溶融により、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーを混合することと、ポリアルケンカーボネートをアルケンカーボネートへ部分的分解することとを含む製造方法。
【請求項12】
前記方法が、固体高分子電解質の加熱を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一つに記載の固体高分子電解質、または請求項11もしくは12に記載の方法によって得ることができる固体高分子電解質を少なくとも1つ含む電極。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一つに記載の固体高分子電解質、または請求項11もしくは12に記載の方法によって得ることができる固体高分子電解質を少なくとも1つ含む蓄電池。
【請求項15】
蓄電池が、固体高分子電解質を有するリチウム電池であることを特徴とする、請求項14に記載の蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質、特に蓄電池のための電解質の分野に関する。
【0002】
本発明は特に、固体状態の蓄電池のための電解質の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
90年代からのリチウムイオン電池の商品化は、エネルギー貯蔵の分野における真の革新であり続けている。性能の絶え間ない改善のおかげで、この科学技術は飛躍的な成長を遂げている。蓄電池の容量は特に、ポータブル電子システムの連続動作能力を今もなおさらに進展させることを可能にしている。蓄電池の容量は今日、ハイブリッド車または純粋な電気自動車への統合を可能にする閾値に達している。将来の自動車は電気自動車となるであろう。その時から、蓄電池のエネルギー密度を最大にし、ひいてはできるかぎり高い電気車両用連続動作能力を達成するための、蓄電池の性能に対する常により凄まじい競争が始まっている。
【0004】
その上、車両の内部に搭載されるエネルギー貯蔵システムのエネルギー密度が増加しているので、それらの安全性はより重要である。蓄電池の電気化学エネルギーは、事故が発生した場合に熱として放出されないようにすることが基本的に重要である。これは、従来のリチウムイオン電池の場合に提起される問題である。従来のリチウムイオン電池は、爆発にまで及ぶ可能性のある、激しい温度上昇の場合の蓄電池の熱暴走に至らしめかねない引火性の有機電解質を有する。こうしてリチウムイオン電池パックは今日、このタイプの危機的な展開を防いで発生リスクゼロに近づくことを通常ならば可能にする、複雑な熱管理システムを備えている。
【0005】
この状況において、「全固体電池」と呼ばれる蓄電池を開発することを目的とした、徹底した研究努力が確認されている。基本的な考え方は、液体電解質をイオン伝導性固体電解質に置き換えることにある。このような材料は、過熱の場合に電解質が蒸発および引火しないようにするものであり、このことは事実上、熱暴走を妨げる。このことは、単純化されるつまり(質量および体積において)さほど重要ではない熱管理を可能にし得る。そのうえ、電解質として固体材料を使用することは、従来の溶媒(主として環状カーボネートまたは線形カーボネート)と比べて異なるさらには拡大した電気化学的安定領域を得ることを可能にすることができる。特に、ポリエチレンオキシド(PEO)を用いた場合のようにリチウム金属に対して安定な固体電解質を有すること、ひいては液体媒質において生じるものと比べると樹枝状結晶成長を抑制/減速することが想定され得る。最も還元性のある元素であるリチウム金属の、負電極としての使用はこうして、電気化学セルの作動電圧の上昇、ひいてはそのエネルギー密度の増加を可能にすることができる。
【0006】
固体電解質を作製するためのいくつもの技術的アプローチが探求されてきた。
【0007】
中でも、高分子固体電解質が挙げられる。それらの中で、PEOは、今日最も信頼度の高い技術的解決策であるが、しかし効果的に機能するために高温(60℃超)を必要とする。PEOのエーテル官能基は、リチウム塩(典型的にはLiTFSi)を解離させることを可能にし、また高温(70~80℃)で得られた鎖運動性はそのとき、ポリマーマトリクス内部のカチオンLiの拡散を助長することを可能にする。PEOは、80℃で10-3S/cmの最大伝導率を表示する。特に、PEOによって表示されたものと比べて室温でのより良い伝導率を達成するために、広範囲のポリマーがテストされた。
【0008】
この視点において、ゲル化した電解質の開発に過去および現在のさまざまな取り組みが関わっている。それは液体電解質が捕捉されたポリマー系であり、それはイオン移動度に有利に働くことを可能にする。しかしながら、材料が(特に室温にて)より良い伝導率を表示しようとも、材料は、重大な不都合とりわけ機械的耐性の顕著な喪失を示す。そのうえ、システムが加熱される場合に、電解質の喪失の真のリスクがある。換言すれば、イオン伝導率の上昇は、蓄電池用安全特性の喪失となって現れる。
【0009】
ポリマーによるアプローチに加えて、多くのLi伝導性無機相(セラミックスやガラス)が探求されている。中でも、市販品のLiLaZr12(LLZO)または置換組成物[ガーネット構造]、Li1+xAlTi2-x(PO4)(LATP)[ナシコン構造]またはLi0.05-3xLa0.5+xTiO(LLTO)[ペロブスカイト構造]が挙げられる。LLZOは、構造内のTi4+の存在が考慮されるLATPとLLTOとは違って、リチウム金属に対して安定であるという大きな利点を有する。これらの製品は、有望な「結晶粒内」伝導率を有する(室温で10-4~10-3S/cm)。真の問題は、結晶粒界に由来し、この場合、結晶粒間の界面での抵抗寄与率を制限することが必須である。それゆえにこれらの材料は従来、焼結によって成形される。得られたセラミック板はその場合、その厚さを最小にするために、ひいては数アンペア時のセル内での統合のために致命的な欠陥となると思われる重大な脆性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、蓄電池の貯蔵の安全性を高めるイオン伝導性電解質を提供することにある技術的問題を解決することを目的とする。
【0011】
本発明はとりわけ、特に固体状態の蓄電池のための、イオン伝導性固体電解質を提供することにある技術的問題を解決することを目的とする。
【0012】
本発明は、60℃以下の温度でイオン伝導性固体電解質を提供することにある技術的問題を解決することを目的とする。
【0013】
本発明は、Liイオン伝導性固体電解質を提供することにある技術的問題を解決することを目的とする。
【0014】
本発明はまた、イオン伝導性電解質の工業的製造方法または工業化可能な製造方法、またとりわけ容易に工業化可能で実施が簡単な方法を提供することにある技術的問題を解決することも目的とする。
【0015】
本発明はまた、限られたコストで、挙げられた技術的問題を解決することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、少なくとも1つのイオン性塩を含むポリマーマトリクスを含み、前記ポリマーマトリクスが少なくとも1つのポリアルケンカーボネートと、ポリアルケンカーボネートと異なる少なくとも1つの第2のポリマーと、ポリアルケンカーボネートの分解に由来する少なくともアルケンカーボネートとを含む固体高分子電解質を提供することによって、上述の技術的問題のうちの少なくとも1つまた好ましくは全部を解決することができることが分かった。
【0017】
ポリアルケンカーボネートを利用する先行技術にしたがって提案される解決策の中に、固体電解質を支える基材の使用が見いだされる。中でも、ポリアルケンカーボネート(PPC)の受け部品として不織布セルロース膜を使用する、Adv.Ener.Mater.2015,5,1501082,J.Zhang et alを引用することができる。PPCとLiTFSI塩とが、アセトニトリル中で溶ける。均一な溶液が、セルロース不織布基材の上に流し込まれ、ついで真空で蒸発する(100℃-24h)。PPC/セルロース系はこうして、PPC単独と比べて改善される機械的耐性を有し、また室温およびそれを超える温度での良好な伝導率(20℃で3.0×10-4S/cm)を表示する。しかしながらこの解決策は、興味深い結果を得るためにポリアルケンカーボネートが基材上に被着されなければならないという技術的欠点を有する。同様に、Electro.Comm.66(2016)46-48,K.Kimura et alによると、塩の含有量が非常に多い、つまりLiTFSI80%であるポリ(エチレンカーボネート)(PEC)系の作製が報告されている。この系単独では良好な機械的耐性を有しないので、ポリイミドマトリクスが、固体電解質を支える多孔質基材として使用される。PECとLiTFSI塩とは、アセトニトリル中で溶ける。溶液は、ポリイミドマトリクスの上に流し込まれ、ついで真空で蒸発する(60℃-24h)。材料のイオン伝導率は、30℃で10-5S/cmである。ここでもまた、ポリアルケンカーボネートは、興味深い結果を得るために基材上に被着されるので、つまり工業的に十分に単純な方法とはならない。
【0018】
先行技術によるこれらの解決策はしたがって、満足のゆくものではない。
【0019】
本発明はまた、本発明に記載の固体高分子電解質の製造方法にも関しており、前記方法は、本発明に記載の固体高分子電解質の獲得のために、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとが両方とも可溶性であり、溶媒によって、または溶融により、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーを混合することと、ポリアルケンカーボネートをアルケンカーボネートへ部分的分解することとを含む。
【0020】
有利には、本発明によるマトリクスは、室温(典型的には20℃)以上で、イオン、典型的にはイオンLiを効果的に伝導することができる自立したポリマー系である。本発明はしたがって、ポリアルケンカーボネートを基材によってサポートすることにある、先行技術の技術的問題を乗り越えることを可能にする。
【0021】
有利には、本発明によるマトリクスは、アモルファスポリマーである、少なくとも1つの第2のポリマーを含む。
【0022】
有利には、本発明によるマトリクスは、ポリマーの分解のためマトリクス内に液体画分を含む。
【0023】
有利には、本発明によるマトリクスは、非常に良好なイオン伝導率を示す特有の形態を有する。
【0024】
本発明によると、マトリクスは、ポリアルケンカーボネートとは別のポリマーを単数または複数含むことができる。このようにマトリクスは、本発明による第2のポリマータイプのポリマーを単数または複数含むことができる。
【0025】
一実施形態によると、マトリクスは、第2のポリマーとして、以下の中から選択される単数または複数のポリマーを含む:ポリオレフィン、ポリカーボネート、ハロゲン化ポリマー、アクリルポリマー、アクリレート重合体、メタクリル酸塩重合体、酢酸ビニル重合体、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリマー、弾性重合体、例えばHNBR、ポリイソプレン、ゴム状ポリマー、およびそれらのいずれかの混合物。
【0026】
好ましくは、第2のポリマーは、エラストマーである。
【0027】
典型的には、マトリクスは、少なくとも2つの高分子相を含み、1つは、アルケンカーボネートに分解または分裂することができる少なくとも1つのポリアルケンカーボネートを含む相であり、もう1つは、少なくとも、1つの第2のポリマーを含む相である。
【0028】
典型的には、マトリクスは、マトリクスの総質量に対して少なくとも10ppmのアセンカーボネートを含む。一変形例によると、マトリクスは、マトリクスの総質量に対して少なくとも100ppm、さらには少なくとも1000ppmのアセンカーボネートを含む。
【0029】
典型的には、アルケンポリカーボネートは、アルケンポリカーボネートの初期質量に対して多くて99質量%、好適には多くて70質量%、さらにより好適には多くて50質量%まで分解される。一変形例によると、マトリクスは、マトリクスの総質量に対して50%未満のアセンカーボネートを含む。
【0030】
一変形例によると、アルケンカーボネートはモノマーの形態である。
【0031】
有利には、本発明によると、マトリクスは、ポリアルケンカーボネートを含む相と、第2のポリマーを含む相との間のマクロ分離を含まない。
【0032】
このように、第2のポリマーは、マクロ相分離を避けるために選択される。マクロ相分離がないとは、数百μmを超える大きさを有する、分散していないポリマーの純相がほぼ検出されないということを意味する。ナノスケールフーリエ変換赤外分光法によって、マクロ相分離を探すことができる。また、走査電子顕微鏡技術によって、マクロ相分離を探すこともできる。
【0033】
より一般的には、形態が、上に定義されるようなマクロ相分離をもたらしさえしなければ、すべての高分子塩基が、ポリアルケンカーボネートに結びつくことができる。
【0034】
概して、多くて80%(質量/質量)の存在下での、ポリマーの総量に対するポリアルケンカーボネートの量は、電気化学サイクルにおける、またはリチウム金属との接触における、十分な機械的性質を得ることを可能にし、ひいては満足のゆく固体電解質の製造を可能にする。
【0035】
一実施形態によると、ポリアルケンカーボネートは、マトリクスのポリマー総質量に対して5~80質量%、好ましくは10~70質量%の量で存在する。
【0036】
一実施形態によると、10~70%(質量/質量)のポリアルケンカーボネートの量が好ましい。概して、15~60%(質量/質量)のポリアルケンカーボネートの量がさらに好ましい。さらに好ましくは、ポリアルケンカーボネートの量は、20~50%(質量/質量)に及ぶ。
【0037】
ポリアルケンカーボネートは、特定のモル質量を有しない:それは単独でまたはさまざまなモル質量の混合物として使用することができるであろう。
【0038】
有利には、前記ポリマーマトリクスは、互いに相対的にモル質量の大きいポリアルケンカーボネートとモル質量の小さいポリアルケンカーボネートとを含む。
【0039】
このように、小さいモル質量(15000g/mol未満)のオリゴマーは、大きいモル質量(15000g/mol超)のポリマーの可塑化により混合物を流動化することを可能にする。この実施形態は有利には、混合物の最終粘度を、溶媒を用いたあるいは用いない選択された方法との関係において、または充填剤を用いたあるいは用いない最終配合組成との関係において、またはさらに、より厚いまたはより薄い最終生成物との関係において適合させることを可能にする。したがって、ポリアルケンカーボネートの総量に対するモル質量の小さいポリアルケンカーボネートの割合は、典型的には0.1と99.9%との間、好適には5と90%との間、またさらに好適には10と80%の間で変化する。
【0040】
例として、モル質量の小さいポリアルケンカーボネートとして、例えばConverge 212-10のようなPPCポリオールを、またモル質量の大きいポリアルケンカーボネートとしてQPac(登録商標)40を挙げることができる。
【0041】
一実施形態によると、イオン性塩が、周期表の第1族に属する金属の金属イオンの塩の中から選択される。
【0042】
こうして、単数または複数のイオン性塩は、高分子相のうちの少なくとも1つにおいて、少なくとも部分的に解離する。
【0043】
一実施形態によると、イオン性塩は、LiBETI、LiCSO、LiCSO、LiCFSO、NaI、NaSCN、NaBr、KI、KBr、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiNO、Li(CFSON、Li(CFSOC、LiN(SO、リチウムアルキルフルオロホスフェート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、MTFSiLi、STFSiLi、およびそれらのいずれかの混合物で構成される群の中から選択される。
【0044】
一実施形態によると、マトリクスは、無機または有機固体充填剤を含む。
【0045】
このように一実施形態によるとマトリクスは、機械的補強、例えばイオン伝導率に対する補助あるいはまた金属イオンの挿入および脱離に対する補助のようなさまざまな特性をもたらすための無機または有機固体充填剤を含む。
【0046】
一例として、伝導率を改善することができる固体充填剤は:
-例えばAl、SiO、セルロース、でんぷんといった不活性充填剤であって、カチオン伝導性ではないがしかし前記充填剤の表面相互作用を通してイオンの移動に改善することができる充填剤かあるいは、
-容量的カチオン伝導性充填剤(例えばセラミックまたはガラス)
である。
【0047】
一実施形態によると、マトリクスは、「活性」と呼ばれる、金属塩の挿入および脱離を可能にする固体充填剤を含む。一例として、C-LiFePOを挙げることができるが、それだけでなく例えば正極活物質(例:LiCoO、LiMnO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3など)または負極活物質(例:LiTi12、黒鉛)といった、当業者に知られているすべての活物質もまた考慮されるべきである。
【0048】
一実施形態によると、マトリクスは、電気伝導性充填剤を含む。例えば導電性カーボンブラックを挙げることができるが、それだけでなくまた黒鉛、グラフェン、カーボンナノファイバおよびカーボンナノチューブまたはそれらの混合物も挙げることができる。
【0049】
一実施形態によると、固体高分子電解質は、1mm未満の厚さのフィルムの形態である。
【0050】
本発明によるフィルムは、典型的には10~500マイクロメートル、例えば80~300マイクロメートルまた典型的には90~200マイクロメートルの厚さを有する。
【0051】
典型的には、本発明による製造方法は、乾式法、「溶融状態のポリマー」(溶融法とも呼ばれる)によるものかまたは溶媒法(湿式法とも呼ばれる)によるものである、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとを含むポリマーの混合を含む。
【0052】
一実施形態によると、方法は、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとの混合の際の加熱を含む。
【0053】
有利には、一実施形態によると、溶融混合は、完全にもしくは部分的に実行され、または続いてポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解に十分な温度で加熱される。
【0054】
一変形例によると、溶融混合は、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解に十分な温度で完全に実現される。
【0055】
一変形例によると、溶融混合は、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解に十分な温度で部分的に、好ましくは混合の終わりに実現される。
【0056】
一実施形態によると、溶媒法による混合は、室温(典型的には20℃)で実現され、ついで混合物は、溶媒を取り除きまたポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへ部分的分解するのに十分な温度で乾燥される。
【0057】
液体法では、好適には、沸騰温度がポリアルケンカーボネートの分解温度に達しない溶媒が使用される。
【0058】
一実施形態によると、方法は、ポリアルケンカーボネートと第2のポリマーとの溶融混合であって、該混合が、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解を促進する無機充填剤と少なくとも部分的に接触して実現される混合を含む。
【0059】
一実施形態によると、方法は、乾燥後に、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへ部分的に分解する状況下で、例えばリチウムである還元金属の付加を含む。有利には、そのような金属の存在下では、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解を得るために加熱する必要はない。
【0060】
好ましくは、混合物は次に、フィルムの形態に成形されてついで乾燥される。
【0061】
有利には、ポリマーの混合物は、前述の先行技術とは違って、基材を必要としないフィルムの獲得を可能にする。
【0062】
好ましくは、混合物は、乾燥工程中に乾く。
【0063】
典型的には、混合物の乾燥は、所望の乾燥を達成するのに十分な時間の間ずっと、例えば真空60℃で少なくとも1時間行われる。真空は、例えば真空ポンプを用いるといった、当業者に知られている状況にしたがって実現される。
【0064】
好ましくは、一変形例によると、溶融法による混合の終わりのまたは液体法での乾燥後に、材料は、ポリマーマトリクス内部のアルケンカーボネートの一部をその場で放出する温度で加熱される。このように一変形例によると方法は、コンディショニング温度とも呼ばれる、ポリアルケンカーボネートをアルケンカーボネートへ部分的に分解する、十分な温度での加熱を含む。
【0065】
有利には、ポリアルケンカーボネートからアルケンカーボネートへの部分的分解を促進する金属の存在下で、例えば、金属例えばリチウム金属のアノードと接触する固体電解質の製造のための、コンディショニング温度を低くすることができる。有利には、一実施形態によると、コンディショニング温度での加熱は、固体高分子電解質を含む蓄電池に対して、例えば商品化前または使用前に行われる。
【0066】
一実施形態によると、方法は、混合の後の固体高分子電解質の、コンディショニング温度での加熱を含む。
【0067】
コンディショニング温度は、例えば80℃超、例えば100℃超、またさらに例えば120℃超である。
【0068】
一実施形態によると、コンディショニング温度は、150℃超、また例えば170℃超である。
【0069】
このように有利には、本発明に係る方法における一変形例によると、得られた混合物は、そのイオン伝導率を改善するのに十分な時間(典型的には1~30分)の間コンディショニング温度で処理されついで室温に戻される。
【0070】
一変形例によると、方法は、固体高分子電解質の製造方法を改善および/または最適化するための特定添加剤の、ポリマー混合物への付加を含む。
【0071】
一変形例によると、方法は、好ましくはポリアルケンカーボネートとの混合の際の、単数または複数の第2のポリマーの架橋を含む。この架橋は、もっぱら単数または複数の第2のポリマーだけ(ポリアルケンカーボネート以外のもの)に対して起こり得るか、または対応するアルケンカーボネートのその場での生成をこの架橋が妨げない限り、ポリアルケンカーボネートと相互架橋して起こり得る。
【0072】
一変形例によると、方法は、ポリアルケンカーボネートに混合される単数または複数の第2のポリマーの架橋剤を形成する単数または複数の化合物の付加を含む。
【0073】
一変形例によると、方法は、架橋およびその均質化を助ける単数または複数の助剤の付加を含む。例えば、架橋剤として有機過酸化物あるいは助剤としてシアヌル酸トリアリルを挙げることができる。しかし同様に、例えばゴムの架橋に特有の光開始剤や硫黄化合物のような、第2のポリマーの架橋を可能にする全ての化合物を用いることもできる。また、ペンダント官能基への反応がポリマー鎖間の橋の形成およびしたがって系の架橋結合をもたらすということを考慮すると、無水マレイン酸、エポキシドあるいはまた酸、アルコール、アミン、アミドまたはエステルの官能基といった、第2のポリマーのペンダント分子鎖(存在する場合)への二重機能性化合物の化学反応を利用することもできる。有利には、架橋は、マトリクスの凝集力を増す。このように、架橋剤また場合によっては助剤の使用はしたがって、本発明に有用であるが不可欠ではなく、完全に、対象となる用途および想定される方法しだいである。
【0074】
本発明はまた、本発明に記載の、または本発明に記載の方法によって得ることができる固体高分子電解質を少なくとも1つ含む電極にも関する。
【0075】
本発明はまた、本発明に記載の、または本発明に記載の方法によって得ることができる固体高分子電解質を少なくとも1つ含む蓄電池にも関する。
【0076】
一変形例によると、蓄電池は、固体高分子電解質を有するリチウム電池である。
【0077】
とりわけ、フィルムの形態の固体高分子電解質が、エネルギー貯蔵用電池の膜として利用されることができる。膜は典型的には、蓄電池の2つの電極間に挿入される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】60℃での、2つの金属リチウム間の実施例2bによる高分子固体電解質を用いたシステムの、時間(h)に応じた電圧(Vで表示されるボルト数)を示している。
図2】60℃での、2つの金属リチウム電極間の実施例4による高分子固体電解質を用いたシステムを示しており、使用30分以内にショートが発生している。
図3】実施例5中に記述される組成を有する電極の初回放電を示している。
図4】C-LFP電極(実施例5)vs.Li金属を使用する半電池のサイクル安定性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0079】
パーセンテージは、相反する指示がない限り、検討される組成物の総質量に対する質量で表される。
【0080】
温度は、相反する指示がない限り、室温(20℃)である。圧力は、相反する指示がない限り、大気圧(101325 Pa)である。
【0081】
電気化学的分析が、温調用付属品(ITS装置,バイオロジック社)を用いた電気化学インピーダンス分光法(MTZ-35装置,バイオロジック社)を利用して行われた。形態は、走査電子顕微鏡写真(SEM)によって得られた。
【0082】
実施例1:溶融法(または乾式法)によって製造された固体電解質
1.a. 混合物が、10.1gのHNBR(zetpol 2010)、5.5gのPPC(QPac40)、5.3gのPPCポリオール(Converge 212-10)および8.5gのLiTFSIをインターナルミキサーの中で混ぜ合わせることによって作製された。材料は、付加された後、85±10℃で5分間混合された。
【0083】
【表1】
【0084】
最終混合物は、Dr CollinのTeachline CR72Tを利用した圧延によっておよそ100μmの厚さの複数のフィルムに形作られた。フィルムは次に、Edwards RV12ポンプによって実行された真空下で少なくとも12時間60℃で乾燥される。
【0085】
1.b. 同じ組成物のフィルムが、190℃で1時間コンディショニングされた。
【0086】
さまざまなフィルムの伝導率の測定が行われた。結果は、表5中にまとめられている。
【0087】
実施例2:溶融法によって製造された固体電解質
2.a. 混合物が、13.4gのHNBR(zetpol 2010)、2.7gのPPC(QPac40)、2.8gのPPCポリオール(Converge 212-10)および8.2gのLiTFSIをインターナルミキサーの中で混ぜ合わせることによって作製された。材料は、付加された後、85±10℃で5分間混合された。
【0088】
【表2】
【0089】
最終混合物は、Dr CollinのTeachline CR72Tを利用した圧延によっておよそ100μmの厚さの複数のフィルムに形作られた。フィルムは次に、Edwards RV12ポンプによって実行された真空下で少なくとも12時間60℃で乾燥される。
【0090】
2.b. 同じ組成物のフィルムが、190℃で1時間コンディショニングされた。
【0091】
最後に、さまざまなフィルムの伝導率の測定が行われ、結果は、表5中にまとめられている。コンディショニングされたフィルムの分極における挙動が、異なった電流密度を受けた金属リチウムの2つの電極間でテストされた(図1)。
【0092】
実施例3:溶融法によって製造された固体電解質
3.a. 混合物が、8.4gのHNBR(zetpol 0020)、5.6gのPPC(QPac40)、5.3gのPPCポリオール(Converge 212-10)および8.4gのLiTFSIをインターナルミキサーの中で混ぜ合わせることによって作製された。材料は、付加された後、85±10℃で5分間混合された。
【0093】
【表3】
【0094】
最終混合物は、Dr CollinのTeachline CR72Tを利用した圧延によっておよそ100μmの厚さの複数のフィルムに形作られた。フィルムは次に、Edwards RV12ポンプによって実行された真空下で少なくとも12時間60℃で乾燥される。
【0095】
3.b. 同じ組成物のフィルムが、190℃で1時間コンディショニングされた。
【0096】
最後に、さまざまなフィルムの伝導率の測定が行われた。結果は、表5中にまとめられている。
【0097】
実施例4:比較例
30mlのインターナルミキサーの中で、混合物が、12.2gのPPC(QPac40)および11.6gのPPCポリオール(Converge 212-10)ならびに10.2gのLiTFSIを混ぜ合わせることによって作製された。材料は、付加された後、65±5℃で5分間混合された。
【0098】
【表4】
【0099】
さまざまなフィルムの伝導率の測定値が得られ、結果は、表5中にまとめられている。コンディショニングされたフィルムの分極における挙動が、0.1mA/cmを受けた金属リチウムの2つの電極間でテストされた(図2)。
【0100】
【表5】
【0101】
実施例5:溶融法によって製造された-高分子固体電解質を含む電極
30mlのインターナルミキサーの中に、4.8gのHNBR(zetpol 2010)、3.0gのPPC(QPac40)、2.9gのPPCポリオール(Converge 212-10)、4.6gのLiTFSI、33.5gのLiFePO(Lifepower P2)および2.6gのカーボンブラック(Timcal C65)。材料は、付加された後、85±10℃で5分間混合された。
【0102】
最終混合物は、以下のような組成を有する:
【0103】
【表6】
【0104】
最終混合物は、Dr CollinのTeachline CR72Tを利用した圧延によっておよそ50μmの厚さの複数のフィルムに形作られた。フィルムは次に、集電体に張り付けられ、ついでEdwards RV12ポンプによって実行された真空下で少なくとも12時間60℃で乾燥される。
【0105】
このように得られた電極は、セパレータとしておよそ75μmの厚さの実施例1の混合物をそしてアノードとしてリチウム金属を利用して、ボタン電池に組み立てられた。2つのフィルムは、ボタン電池タイプの蓄電池への組立て前に、190℃で1時間コンディショニングされた。C/20のスピードでの初回放電時に60℃でLFP164mAh/gであり(図3)、また少なくとも12サイクルにわたって安定した(図4)容量が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0106】
【文献】Adv.Ener.Mater.2015,5,1501082,J.Zhang et al
【文献】Electro.Comm.66(2016)46-48,K.Kimura et al
図1
図2
図3
図4