(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電力用半導体素子の駆動調整回路、パワーモジュール、および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2023525208
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020785
(87)【国際公開番号】W WO2022254569
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸熊 健一
(72)【発明者】
【氏名】玉田 美子
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-229151(JP,A)
【文献】特表2010-528570(JP,A)
【文献】特開平09-065644(JP,A)
【文献】特開2020-145560(JP,A)
【文献】特開2008-086068(JP,A)
【文献】特開2016-073052(JP,A)
【文献】特開2009-213313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子のコレクタ・エミッタ間電圧を検出する電圧検出部と、
前記電力用半導体素子のコレクタ電流を検出する電流検出部と、
前記コレクタ・エミッタ間電圧を微分し、かつ前記コレクタ電流を微分する微分部と、
前記コレクタ・エミッタ間電圧の微分値を規格化し、前記コレクタ電流の微分値を規格化する規格部と、
前記コレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値と前記コレクタ電流の微分値の規格化値との差分値を算出する差分部と、
前記差分値と比較基準値とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて、前記電力用半導体素子の駆動信号を調整するための駆動調整信号を生成する駆動制御部と、
前記駆動調整信号に基づいて、前記電力用半導体素子の駆動信号を出力する駆動可変回路と、を備えた電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項2】
前記規格部は、
第1の規格化定数および第2の規格化定数を設定する規格化定数設定部と、
前記第1の規格化定数に基づいて前記コレクタ・エミッタ間電圧の微分値を規格化し、前記第2の規格化定数に基づいて前記コレクタ電流の微分値を規格化する規格化部と、を含む請求項1に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項3】
前記差分部は、
前記コレクタ・エミッタ間電圧の規格化された微分値の最大値を保持し、前記コレクタ電流の規格化された微分値の最大値を保持する最大値保持部と、
前記最大値保持部において保持する期間を設定する保持期間設定部と、
前記最大値保持部において保持されている前記コレクタ・エミッタ間電圧の規格化された微分値の最大値と、前記最大値保持部において保持されている前記コレクタ電流の規格化された微分値の最大値との差分値を生成する差分器と、を含む請求項1または2に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項4】
前記比較部は、
比較基準値を設定する比較基準値設定部と、
前記差分値と前比較基準値とを比較する比較器と、
前記比較器で比較する期間を設定する比較期間設定部と、を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項5】
前記駆動制御部は、
前記比較部の比較結果に応じて、前記電力用半導体素子の駆動信号を調整する駆動調整信号を生成する駆動調整部と、
前記駆動調整部で生成した前記駆動調整信号を前記比較部の比較結果に応じて保持し、出力する駆動調整信号保持部と、を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項6】
前記駆動制御部は、
前記電力用半導体素子のコレクタ・エミッタ間電圧の単位時間当たりの変化量と、コレクタ電流の単位時間当たりの変化量とのうちの調整する変化量を設定する駆動調整設定部を含み、
前記駆動調整設定部の設定に基づき、前記比較部の比較結果に応じて、調整した前記駆動調整信号を出力する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項7】
前記電力用半導体素子の損失を算出する損失計算部をさらに備え、
前記規格部は、さらに、前記電力用半導体素子の損失を規格化し、
前記差分部は、規格化された前記コレクタ・エミッタ間電圧の微分値、規格化されたコレクタ電流の微分値、および規格化された前記電力用半導体素子の損失のうちのいずれか2つの差分値を算出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項8】
前記電圧検出部と前記電流検出部に接続され、前記電力用半導体素子のサージ電圧、および前記電力用半導体素子のサージ電流を検出するサージ検出部をさらに備え、
前記規格部は、さらに、前記電力用半導体素子のサージ電圧を規格化し、前記電力用半導体素子のサージ電流を規格化し、
前記差分部は、規格化された前記コレクタ・エミッタ間電圧の微分値、規格化されたコレクタ電流の微分値、規格化された前記電力用半導体素子の損失、規格化された前記電力用半導体素子のサージ電圧、および規格化された前記電力用半導体素子のサージ電流のうちのいずれか2つの差分値を算出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項9】
前記駆動制御部の前記駆動調整部は、
前記電力用半導体素子のターンオン動作における駆動信号と前記電力用半導体素子のターンオフ動作における駆動信号のうち調整する駆動信号を選択する選択部と、
前記選択部によって前記電力用半導体素子のターンオン動作における駆動信号を調整することが選択された場合に、前記電力用半導体素子のターンオン動作の駆動信号を調整するターンオン駆動調整部と、
前記選択部によって前記電力用半導体素子のターンオフ動作における駆動信号を調整することが選択された場合に、前記電力用半導体素子のターンオフ動作の駆動信号を調整するターンオフ駆動調整部と、を含み、
前記駆動制御部の駆動調整信号保持部は、
前記比較部の比較結果に応じて、前記ターンオン駆動調整部で調整した駆動調整信号を保持し、出力するターンオン保持部と、
前記比較部の比較結果に応じて、前記ターンオフ駆動調整部で調整した駆動調整信号を保持し、出力するターンオフ保持部と、を含む請求項
5に記載の電力用半導体素子の駆動調整回路。
【請求項10】
電力用半導体素子と、請求項1~9のいずれか1項に記載された電力用半導体素子の駆動調整回路とを備えたパワーモジュール。
【請求項11】
電力用半導体素子と、請求項1~9のいずれか1項に記載された電力用半導体素子の駆動調整回路とを有し、入力される電力を変換して出力する主変換回路と、
前記主変換回路を制御する制御信号を前記主変換回路に出力する制御回路と、
を備えた電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力用半導体素子の駆動調整回路、パワーモジュール、および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力を制御する電力用半導体素子は、直流または交流から周波数の異なる交流を発生させる電源回路、またはその回路を有する電力変換装置などに使用されている。電力用半導体素子が電力変換装置などに使用される場合には、温室効果ガスの削減のために電力消費を抑えることが重要である。電力用半導体素子を制御することによって、電力用半導体素子で発生するエネルギーを低減する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の電力用半導体素子の駆動方法は、電力用半導体素子をゲート駆動信号によって駆動することと、電力用半導体素子の負荷経路電圧の微分および負荷経路電流の微分のうち少なくとも一方を測定することと、ゲート駆動信号の微分を測定することと、基準信号と、測定されたゲート駆動信号の微分と、測定された電力用半導体素子の負荷経路の電圧の微分または測定された電力用半導体素子の負荷経路電流の微分のうちの少なくとも一方と、に基づいてエラー信号を形成することと、ゲート駆動信号を形成することとを含む。ゲート駆動信号を形成することは、動的コントローラを使用してエラー信号を処理することを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力用半導体素子で生じる損失は、負荷経路電圧と電流との積で表される。負荷経路電圧と電流のうちのどちらか一方を制御することによって損失を低減することは可能である。しかしながら、損失とノイズとはトレードオフの関係にあるため、半導体素子の負荷経路電圧、または電流のいずれか一方だけを制御すると、損失とノイズのどちらかの一方の特性しか改善することができない。例えば、損失を改善した場合、ノイズ特性が劣化する恐れがあり、逆にノイズを改善した場合、損失が劣化する恐れがある。
【0006】
特許文献1に記載の装置は、電圧、または電流の微分値を用いて個別にゲート信号を調整する。ノイズ低減のために、電圧の微分値、または電流の微分値を小さくすると、損失が大きくなる。
【0007】
本開示の目的は、電力用半導体素子で生じる損失およびノイズの両方を低減することができる電力用半導体素子の駆動調整回路、パワーモジュール、および電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の電力用半導体素子の駆動調整回路は、電力用半導体素子のコレクタ・エミッタ間電圧を検出する電圧検出部と、電力用半導体素子のコレクタ電流を検出する電流検出部と、コレクタ・エミッタ間電圧を微分し、かつコレクタ電流を微分する微分部と、コレクタ・エミッタ間電圧の微分値を規格化し、コレクタ電流の微分値を規格化する規格部と、コレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値とコレクタ電流の微分値の規格化値との差分値を算出する差分部と、差分値と比較基準値とを比較する比較部と、比較部の比較結果に基づいて、電力用半導体素子の駆動信号を調整するための駆動調整信号を生成する駆動制御部と、駆動調整信号に基づいて、電力用半導体素子の駆動信号を出力する駆動可変回路とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の電力用半導体素子の駆動調整回路は、コレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値とコレクタ電流の微分値の規格化値との差分値と比較基準値とを比較し、比較結果に基づいて、電力用半導体素子の駆動信号を調整するための駆動調整信号を生成する。これにより、本開示の電力用半導体素子の駆動調整回路は、電力用半導体素子で生じる損失およびノイズの両方を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1による電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の構成を表わす図である。
【
図2】実施の形態1における、電力用半導体素子1がターンオンする場合の電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の動作を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1の電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の動作を表わすフローチャートである。
【
図4】実施の形態2による電力用半導体素子1の駆動調整回路2000の構成を表わす図である。
【
図5】実施の形態2の駆動調整回路2000の動作を表わすフローチャートである。
【
図6】実施の形態3による電力用半導体素子1の駆動調整回路3000の構成を表わす図である。
【
図7】実施の形態3の駆動調整回路3000の動作を表わすフローチャートである。
【
図8】実施の形態4による電力用半導体素子1の駆動調整回路4000の構成を表わす図である。
【
図9】実施の形態4の駆動調整回路4000の動作を表わすフローチャートである。
【
図10】実施の形態5による電力用半導体素子1の駆動調整回路5000の構成を表わす図である。
【
図11】実施の形態5の駆動調整回路5000の動作を表わすフローチャートである。
【
図12】実施の形態6のパワーモジュール9000の構成を表わす図である。
【
図13】実施の形態7の電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。以下の実施の形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の構成を表わす図である。駆動調整回路1000は、電圧検出部2と、電流検出部3と、微分部4と、規格部5と、差分部6と、比較部7と、駆動制御部8と、駆動可変回路9とを備える。
【0013】
電圧検出部2は、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧を検出する。電圧検出部2は、たとえば、抵抗分圧回路などによって構成される。
【0014】
電流検出部3は、電力用半導体素子1のコレクタ電流を検出する。電流検出部3は、たとえば、シャント抵抗または電力用半導体素子1に含まれるセンスセルなどによって構成される。
【0015】
微分部4は、電圧検出部2の検出結果である電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧を微分する。微分部4は、電流検出部3の検出結果である電力用半導体素子1のコレクタ電流を微分する。微分部4は、たとえば、容量および抵抗によって構成されるものとしてもよく、あるいは容量、抵抗およびオペアンプによって構成されるものとしてもよい。
【0016】
規格部5は、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値を規格化する。規格部5は、電力用半導体素子1のコレクタ電流の微分値を規格化する。規格部5は、規格化定数設定部52と、規格化部51とを備える。
【0017】
規格化定数設定部52は、規格化定数α1、α2を設定する。
規格化部51は、規格化定数α1に基づいて、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値を規格化する。規格化部51は、規格化定数α2に基づいて、電力用半導体素子1のコレクタ電流の微分値を規格化する。
【0018】
規格化定数設定部52は、規格化定数α1、α2を任意の値に設定することができる。例えば、電力用半導体素子1が電圧1200V、電流100Aで動作し、電圧と電流のターンオン動作における変化時間が同じ時間dtの場合には、電圧の微分値(変化量)は1200V/dtとなり、電流の微分値(変化量)は100A/dtとなる。これらの値は、大きく相違する。本実施の形態では、規格化定数設定部52によって規格化定数α1、α2を任意の値に設定することによって、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の単位時間当たりの変化量と、電力用半導体素子1のコレクタ電流の単位時間当たりの変化量との差を小さくすることができる。
【0019】
差分部6は、電力用半導体素子1のコレクタ電流の微分値の規格化値の最大値から電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値の最大値を減算する。
【0020】
差分部6は、差分器61と、最大値保持部62と、保持期間設定部63とを備える。
保持期間設定部63は、制御信号に基づいて、規格化値の最大値を保持する期間を設定する。
【0021】
最大値保持部62は、保持期間設定部63によって設定された保持期間の開始時刻から現在時刻までにおける、規格部5から出力される電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値の最大値と、電力用半導体素子1のコレクタ電流の微分値の規格化の最大値とを保持し、保持した結果を差分器61に出力する。最大値保持部62は、たとえば、スイッチおよび容量などによって構成される。
【0022】
差分器61は、最大値保持部62から出力される2つの信号の差分値を生成する。すなわち、差分器61は、電力用半導体素子1のコレクタ電流の微分値の規格化値の最大値から電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化値の最大値を減算して、差分値を出力する。差分器61は、たとえば、オペアンプおよび抵抗などによって構成される。
【0023】
比較部7は、差分部6から出力される差分値と比較基準値とを比較する。比較部7は、比較器71と、比較基準値設定部72と、比較期間設定部73とを備える。
【0024】
比較期間設定部73は、制御信号に基づいて、比較器71が比較する期間を設定する。
比較基準値設定部72は、比較基準値を設定する。
【0025】
比較器71は、比較期間設定部73によって設定された比較期間において、差分部6から出力される差分値と、比較基準値設定部72によって設定された比較基準値とを比較する。
【0026】
駆動制御部8は、比較部7の比較結果に基づいて、電力用半導体素子1の駆動信号を調整する信号を出力することによって、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)および電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)を制御する。
【0027】
駆動制御部8は、駆動調整部81と、駆動調整信号保持部82とを備える。
駆動調整部81は、比較部7の比較結果に基づいて、電力用半導体素子1の駆動信号を制御する駆動調整信号を出力する。
【0028】
駆動調整信号保持部82は、比較部7の比較結果に基づいて、駆動調整部81が生成した駆動調整信号を保持する。
【0029】
駆動可変回路9は、駆動制御部8によって生成された駆動調整信号に基づいて、電力用半導体素子1を駆動する駆動信号を生成する。駆動可変回路9は、駆動制御部8によって生成された駆動調整信号に基づいて、電力用半導体素子1のターンオン時およびターンオフ時の駆動信号を過渡的に制御することによって、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)および電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)を制御する。駆動可変回路9は、1つ以上の出力トランジスタ、電流源、もしくはゲート抵抗などによって構成される。
【0030】
図2は、実施の形態1における、電力用半導体素子1がターンオンする場合の電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の動作を説明するための図である。
【0031】
Vgeは、電力用半導体素子1を駆動する駆動信号である。Icは、電流検出部3によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ電流である。Vceは、電圧検出部2によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧である。dIc/dtは、微分部4から出力されるコレクタ電流Icの微分値である。dVce/dtは、微分部4から出力されるコレクタ・エミッタ間電圧Vceの微分値である。
【0032】
dVSTDは、規格部5から出力されるdVce/dtの規格化値である。|dVce/dt|はdVce/dtの絶対値である。dISTDは、規格部5から出力されるdIc/dtの規格化値である。
【0033】
Htrigは、差分部6の保持期間設定部63から出力される保持期間設定信号である。Htrigがハイレベルになると、最大値保持部62は、Htrigがハイレベルとなった以降の規格部5の出力信号の最大値を保持する。Htrigは、制御信号に基づいて生成される。任意のタイミングでHtirgをロウレベルに立下げられることによって、保持期間が終了する。
【0034】
HdISTDは、最大値保持部62によって保持されるdISTDの最大値である。
HdVSTDは、最大値保持部62によって保持されるdVSTDの最大値である。
【0035】
Vdiffは、差分部6の差分器61の出力である。つまり、Vdiffは、dISTDとdVSTDとの差分値である。
【0036】
Vrefは、比較部7の比較基準値設定部72によって設定される比較基準値である。
Ctrigは、比較部7の比較期間設定部73から出力される比較期間設定信号である。Ctrigがハイレベルとなると、比較器71は、VdiffとVrefとを比較し、その比較結果を出力する。
【0037】
Vcmoutは、比較部7の比較器71の出力信号である。Vcmoutがハイレベルの時に、駆動制御部8は、電力用半導体素子1の駆動信号を調整し、駆動調整信号保持部82によって調整した信号を保持して出力する。Vcmoutがロウレベルの時は、駆動制御部8は、設定した所望の特性に調整済みとみなし、駆動信号の調整を行わずに、Vcmoutがハイレベルの時に駆動調整信号保持部82で保持した調整信号を保持し続ける。
【0038】
次に、
図2を用いて、実施の形態1の電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の動作を説明する。
【0039】
時刻t0において、制御信号がロウレベルからハイレベルに切り替わると、駆動可変回路9が動作し、電力用半導体素子1を駆動する信号Vgeの上昇が開始する。差分部6の保持期間設定部63は、制御信号のハイレベルへの切り替わりに基づき、Htrigをロウレベルからハイレベルに切り替える。これによって、最大値保持部62は、規格部5の出力信号(dVSTD、dISTD)の最大値の保持を開始する。
【0040】
時刻t1において、Vgeが電力用半導体素子1の閾値電圧Vthを超えると、電力用半導体素子1のコレクタ電流Icが流れ始める。電流検出部3によって検出されたIcは微分部4によって微分される。微分結果であるdIc/dtが上昇を開始する。dIc/dtは、規格部5の規格化定数設定部52によって設定された規格化定数α2に基づいて規格化される。規格部5の出力信号dISTDが上昇を開始する。規格部5の出力信号dISTDの最大値HdISTDが増加する。
【0041】
差分器61は、最大値保持部62で保持した出力(HdVSTD、HdISTD)の差分値Vdiffを出力する。
【0042】
時刻t2において、Vgeがミラー期間に入ると電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧Vceが変化し始める。電圧検出部2によって検出されたVceは微分部4によって微分される。微分結果であるdVce/dtが上昇を開始する。dVce/dtは、規格部5の規格化定数設定部52によって設定された規格化定数α1に基づいて規格化される。規格部5の出力信号dVSTDが上昇を開始する。規格部5の出力信号dVSTDの最大値HdVSTDが増加する。差分器61は、時刻t0から継続して最大値保持部62で保持した出力(HdVSTD、HdISTD)の差分値Vdiffを出力する。
【0043】
時刻t3において、コレクタ電流Icが減少を開始する。これによって、dIc/dtおよびdISTDが減少する。最大値保持部62の出力信号HdISTDは、変化しない。
【0044】
時刻t4において、コレクタ・エミッタ間電圧Vceの変化が終了する。これによって、dVce/dtが減少する。最大値保持部62の出力信号HdVSTDは、変化しない。
【0045】
時刻t5において、比較部7の比較期間設定部73は、制御信号に基づき、コレクタ・エミッタ間電圧Vceとコレクタ電流Icの変化が終了した後の予め設定したタイミングで比較期間設定信号Ctirgをロウレベルからハイレベルに立上げることによって、比較器71の動作を有効にする。比較器71は、Ctrigがハイレベルになったため、比較器71への入力信号Vdiffと比較基準値設定部72で設定した比較基準値Vrefとを比較し、その比較結果を出力する。実施の形態1の動作の説明では、比較基準値Vrefよりも差分器61の差分値Vdiffが大きいため、比較器71の比較結果Vcmoutがロウレベルからハイレベルに立ち上がる。これによって、電力用半導体素子1の駆動信号の調整が有効となり、駆動制御部8の駆動調整部81は、駆動可変回路9への調整信号を生成し、駆動調整信号保持部82が調整信号を保持して出力する。比較器71の比較結果Vcmoutがロウレベルの場合は、駆動調整部81は、設定した所望の特性に調整済みとみなし、駆動信号の調整を無効とし、駆動調整信号保持部82は、Vcmoutがハイレベルの時に保持した調整信号をそのまま保持し続ける。
【0046】
図3は、実施の形態1の電力用半導体素子1の駆動調整回路1000の動作を表わすフローチャートである。
【0047】
ステップS101において、駆動信号の調整が開始されると、制御信号が入力される。
ステップS102において、駆動可変回路9が、制御信号の入力に基づいて動作し、電力用半導体素子1を駆動する駆動信号を出力する。
【0048】
ステップS103において、電力用半導体素子1が、駆動可変回路9の駆動信号に基づいて動作する。これによって、コレクタ電流Icとコレクタ・エミッタ間電圧Vceとが変化する。
【0049】
ステップS104において、電圧検出部2が、電力用半導体素子1の動作に応じて変化するVceを検出する。電流検出部3が、電力用半導体素子1の動作に応じて変化するIcを検出する。
【0050】
ステップS105において、微分部4は、検出したVceとIcとをそれぞれ微分する。
【0051】
ステップS106において、規格化定数設定部52が、規格化定数α1、α2の値を設定する。
【0052】
ステップS107において、規格化部51が、以下のように、規格化定数α1、α2に基づき、微分値(dVce/dt)および微分値(dIc/dt)を規格化する。
【0053】
dVSTD=α1・dVce/dt・・・(1)
dISTD=α2・dIc/dt・・・(2)
ステップS108において、保持期間設定部63が、制御信号に基づいて、保持期間設定信号Htrigを有効(ハイレベル)に設定する。
【0054】
ステップS109において、保持期間設定信号Htrigが有効(ハイレベル)の場合に、処理がステップS110に進む。保持期間設定信号Htrigが無効(ロウレベル)の場合に、処理がステップS104に戻る。
【0055】
ステップS110において、最大値保持部62が、dVSTDの最大値HdVSTD、およびdISTDの最大値HdISTDを保持する。
【0056】
ステップS111において、差分器61は、HdISTDからHdVSTDを減算して、差分値Vdiffを出力する。
【0057】
ステップS112において、比較期間設定部73が、制御信号に基づいて、比較期間設定信号Ctrigを有効(ハイレベル)に設定する。
【0058】
ステップS113において、比較期間設定信号Ctrigが有効(ハイレベル)の場合に、処理がステップS115に進む。比較期間設定信号Ctrigが無効(ロウレベル)の場合に、処理がステップS104に戻る。
【0059】
ステップS114において、比較基準値設定部72が、比較基準値Vrefを設定する。
【0060】
ステップS115において、比較器71が、差分値Vdiffと比較基準値Vrefとを比較し、比較結果を出力する。比較基準値Vrefが差分値Vdiff以下の場合に、処理がステップS116に進む。比較基準値Vrefが差分値Vdiffよりも大きい場合に、処理がステップS118に進む。
【0061】
ステップS116において、駆動調整部81が、駆動可変回路9の駆動信号を調整する駆動調整信号を生成する。
【0062】
ステップS117において、駆動調整信号保持部82が、駆動調整信号を保持する。その後、処理がステップS101に戻り、再度、駆動調整が開始される。
【0063】
ステップS118において、駆動調整部81が、駆動可変回路9の駆動信号を調整する駆動調整信号を生成せずに、駆動信号の調整が終了する。駆動調整信号保持部82によって保持された駆動調整信号に基づいた駆動可変回路9の駆動信号によって、制御信号の入力に応じて電力用半導体素子1が動作する。
【0064】
以上のように、実施の形態1の駆動調整回路は、電力用半導体素子1のターンオン動作、もしくは、ターンオフ動作において、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の微分値の規格化された値とコレクタ電流の微分値の規格化された値との差分値と比較基準値とを比較する。駆動調整回路は、比較結果を用いて、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)および電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)のバランスを考慮しながらそれぞれを制御する。これによって、損失およびノイズの両方を低減することができる。駆動調整回路は、比較基準値を調整することによって、ノイズ、もしくは損失のどちらかを優先して低減することも可能である。
【0065】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2による電力用半導体素子1の駆動調整回路2000の構成を表わす図である。
図4に示す駆動調整回路2000と、
図1に示す実施の形態1の駆動調整回路1000との相違点は、以下である。
【0066】
図4の駆動調整回路2000の駆動制御部8は、駆動調整設定部83を備える。
実施の形態1の駆動調整回路1000では、比較部7の結果に応じて、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)と、電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)の両方を調整する。
【0067】
実施の形態2の駆動調整回路2000では、駆動調整設定部83は、電力用半導体素子1のターンオン動作、またはターンオフ動作において、駆動調整部81が電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)と、電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)とのうちのいずれを調整するかを設定する。損失、およびノイズの低減に有効な特性が予め判明している場合、駆動調整設定部83によって調整する特性を設定することによって、駆動信号を調整する試行回数を短くすることができる。例えば、損失およびノイズの低減に有効な特性が、ターンオン動作では、電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)、ターンオフ動作では、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)の場合、駆動調整設定部83は、ターンオン動作において調整する特性を電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)に設定し、ターンオフ動作において調整する特性を電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)に設定する。これによって、実施の形態1の駆動調整回路1000と比べて、調整する特性数が2つから1つに低減するため、駆動信号を調整する試行回数を短くすることができる。試行回数が短くなると、より早い時間で電力用半導体素子1を所望の特性に調整することができる。
【0068】
図5は、実施の形態2の駆動調整回路2000の動作を表わすフローチャートである。
図5のフローチャートが、
図3に示す実施の形態1のフローチャートと相違する点は、
図5のフローチャートが、ステップS201を備える点である。
【0069】
ステップS201において、駆動調整設定部83が、調整する特性として、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)、もしくはコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)のうちのいずれか一方を選択する。
【0070】
ステップS202において、駆動調整部81が、選択された特性が調整されるように駆動可変回路9の駆動信号を調整する駆動調整信号を生成する。
【0071】
以上のように、実施の形態2の駆動調整回路2000は、電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)と、電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)のうちの調整するものを設定する。これによって、実施の形態2の駆動調整回路2000は、実施の形態1の駆動調整回路1000と比べて、駆動信号を調整する試行回数を短くすることができるので、電力用半導体素子1を所望の特性に短時間で調整することができる。
【0072】
実施の形態3.
図6は、実施の形態3による電力用半導体素子1の駆動調整回路3000の構成を表わす図である。
図6に示す駆動調整回路3000と、
図1に示す実施の形態1の駆動調整回路1000との相違点は、以下である。
【0073】
図6の駆動調整回路3000は、損失計算部11を備える。損失計算部11は、電圧検出部2によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧Vceと、電流検出部3によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ電流Icとに基づいて、電力用半導体素子1で生じるスイッチング損失を計算する。
【0074】
図6の駆動調整回路3000の規格部5は、実施の形態1の機能に加えて、スイッチング損失を規格化する。
【0075】
規格部5の規格化定数設定部52Aは、実施の形態1の機能に加えて、規格化定数α3を設定する。規格部5の規格化部51Aは、実施の形態1の機能に加えて、規格化定数α3に基づき、スイッチング損失を規格化する。
【0076】
差分部6の最大値保持部62Aは、実施の形態1の機能に加えて、保持期間設定部63によって設定された保持期間において、さらに、規格化された損失値の最大値を保持する。
【0077】
図6の駆動調整回路3000の差分部6は、さらに、差分選択部64を備える。
差分部6の差分選択部64は、最大値保持部62Aによって保持された3つの値(規格化した損失の最大値、規格化した電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)の最大値、および規格化した電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)の最大値)から差分器61において演算する値を選択する。差分器61は、選択された2つの値の差分値を算出する。
【0078】
一例として、差分選択部64が、規格化した損失値と、規格化した電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)とを選択すると、差分器61は、その2つの値の差分値を出力する。このように、差分選択部64は任意に差分器61で演算する値を選択することができる。差分選択部64において選択する差分器61で演算する値は、ターンオン動作とターンオフ動作で異なる値を選択することもできる。
【0079】
比較部7と、駆動制御部8と、駆動可変回路9は、実施の形態1の駆動調整回路1000と同じである。
【0080】
差分選択部64が規格化した損失値を選択した場合、駆動制御部8は、規格化した損失値ともう一方の選択した値との差分結果と、比較基準値設定部72によって設定された比較基準値との比較結果に基づいて、電力用半導体素子1の駆動信号を制御する駆動調整信号を出力する。実施の形態3の駆動調整回路3000では、差分選択部64で規格化した損失を選択することによって、実施の形態1の駆動調整回路1000と比べて、損失値を直接低減するように駆動制御部8で電力用半導体素子1の駆動信号を制御することができるため、損失の低減効果を高くすることができる。
【0081】
図7は、実施の形態3の駆動調整回路3000の動作を表わすフローチャートである。
図7のフローチャートが、
図3の実施の形態1のフローチャートと相違する点は、以下である。
【0082】
ステップS301において、損失計算部11が、電圧検出部2によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧Vceと、電流検出部3によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ電流Icとから、電力用半導体素子1で生じるスイッチング損失(loss)を演算する。
【0083】
ステップS302において、規格化定数設定部52が、規格化定数α1、α2に加えて、規格化定数α3を設定する。
【0084】
ステップS303において、規格化部51が、微分値(dVce/dt)および微分値(dIc/dt)の規格化に加えて、以下のように、規格化定数α3に基づき、スイッチング損失(loss)を規格化して、規格化した損失LSTDを出力する。
【0085】
LSTD=α3・loss・・・(3)
ステップS304において、差分部6の最大値保持部62が、保持期間設定部63によって設定された保持期間設定信号Htrigが有効な時に、dVSTDの最大値HdVSTD、およびdISTDの最大値HdISTDを保持するのに加えて、規格化した損失LSTDの最大値をHLSTDとして保持する。
【0086】
ステップS305において、差分選択部64が、最大値保持部62で保持された3つの値(規格化した損失の最大値、規格化した電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)の最大値、および規格化した電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)の最大値)から2つの値を選択する。
【0087】
ステップS306において、差分器61は、選択された2つの値の差分値を出力する。
以上のように、実施の形態3によれば、差分選択部64において選択する差分器61の演算値をターンオン動作とターンオフ動作で任意に選択することができる。差分選択部64において規格化した損失値を選択することによって、実施の形態1の駆動調整回路1000と比べて、損失の低減効果を高くすることができる。
【0088】
実施の形態4.
図8は、実施の形態4による電力用半導体素子1の駆動調整回路4000の構成を表わす図である。
図8に示す駆動調整回路4000と、
図6に示す実施の形態3の駆動調整回路3000との相違点は、以下である。
【0089】
図8の駆動調整回路4000は、サージ検出部12を備える。
サージ検出部12は、ターンオン動作時に電流検出部3によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ電流のサージ電流、およびターンオフ動作時に電圧検出部2によって検出された電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧のサージ電圧を検出する。
【0090】
図8の駆動調整回路4000の規格部5は、実施の形態3の機能に加えて、サージ電流およびサージ電圧を規格化する。
【0091】
規格部5の規格化定数設定部52Bは、実施の形態3の機能に加えて、規格化定数α4、α5を設定する。規格部5の規格化部51Bは、実施の形態3の機能に加えて、規格化定数α4に基づいてサージ電流を規格化し、規格化定数α5に基づいてサージ電圧を規格化する。
【0092】
差分部6の最大値保持部62Bは、実施の形態3の機能に加えて、保持期間設定部63によって設定された保持期間において、規格化されたサージ電流の最大値および規格化されたサージ電圧の最大値を保持する。
【0093】
差分部6の差分選択部64Bは、最大値保持部62Bによって保持される5つの値(規格化したターンオン動作時の電力用半導体素子1のコレクタ電流のサージ電流の最大値、規格化したターンオフ動作時の電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧のサージ電圧の最大値、規格化した損失の最大値、規格化した電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧の電圧変化(dVce/dt)の最大値、および規格化した電力用半導体素子1のコレクタ電流の電流変化(dIc/dt)の最大値)から差分器61で演算する2つの値を選択する。このように、差分選択部64Bは、任意に差分器61で演算する2つの値を選択することができる。差分選択部64Bで選択する差分器61で演算する2つの値は、ターンオン動作とターンオフ動作で異なる値を選択することもできる。差分器61は、選択された2つの値の差分値を算出する。
【0094】
比較部7と、駆動制御部8と、駆動可変回路9は、実施の形態3の駆動調整回路3000と同じである。
【0095】
たとえば、差分選択部64Bが、規格化したサージ電圧の最大値、または規格化したサージ電流の最大値を選択した場合、駆動制御部8は、もう一方の選択した値との差分結果と、比較基準値設定部72によって設定された比較基準値との比較結果に基づき、電力用半導体素子1の駆動信号を制御する駆動調整信号を出力する。つまり、実施の形態4は、差分選択部64Bが、ターンオフ時に規格化したサージ電圧の最大値を選択し、ターンオン時に規格化したサージ電流の最大値を選択することによって、実施の形態3の駆動調整回路3000と比べて、ターンオン時のサージ電流、およびターンオフ時のサージ電圧を低減することができる。その結果、サージ電流、またはサージ電圧による電力用半導体素子1の破壊を抑制することができる。
【0096】
図9は、実施の形態4の駆動調整回路4000の動作を表わすフローチャートである。
図9のフローチャートが、
図7の実施の形態3のフローチャートと相違する点は、以下である。
【0097】
ステップS401において、サージ検出部12が、ターンオン時に電流検出部3で検出した電力用半導体素子1のコレクタ電流のサージ電流ISGと、ターンオフ時に電圧検出部2で検出した電力用半導体素子1のコレクタ・エミッタ間電圧のサージ電圧VSGを検出する。
【0098】
ステップS402において、規格部5の規格化定数設定部52Bが、規格化定数α1、α2、α3の設定に加えて、規格化定数α4、α5を設定する。
【0099】
ステップS403において、規格化部51が、微分値(dVce/dt)、微分値(dIc/dt)、スイッチング損失(loss)の規格化に加えて、以下のように、検出したサージ電流ISG、およびサージ電圧VSGを規格化して、規格化したサージ電流ISGSTD、規格化したサージ電圧VSGSTDを出力する。
【0100】
ISGSTD=α4・ISG・・・(4)
VSGSTD=α5・VSG・・・(5)
ステップS404において、差分部6の最大値保持部62Bが、保持期間設定部63によって設定された保持期間設定信号Htrigが有効な時に、dVSTDの最大値HdVSTD、dISTDの最大値HdISTD、およびLSTDの最大値HLSTDの保持に加えて、規格化したサージ電流ISGSTDの最大値HISGSTDを保持し、規格化したサージ電圧VSGSTDの最大値HVSGSTDを保持する。
【0101】
ステップS405において、差分選択部64Bが、任意に差分器61の演算値を選択する。
【0102】
ステップS406において、差分器61は、選択された2つの値の差分値を出力する。
以上のように、実施の形態4によれば、差分選択部64で選択する差分器61の演算値をターンオン動作とターンオフ動作で任意に設定することができる。差分選択部64が、ターンオン動作での規格化したサージ電流、およびターンオフ動作での規格化したサージ電圧を選択することで、ターンオン時のサージ電流、およびターンオフ時のサージ電圧を低減し、サージ電流、またはサージ電圧による電力用半導体素子1の破壊を抑制することができる。
【0103】
実施の形態5.
図10は、実施の形態5による電力用半導体素子1の駆動調整回路5000の構成を表わす図である。
図10に示す駆動調整回路5000と、
図1に示す実施の形態1の駆動調整回路1000との相違点は、以下である。
【0104】
図10の駆動調整回路5000の駆動制御部8の駆動調整部81は、選択部88、ターンオン駆動調整部84、およびターンオフ駆動調整部85を備える。駆動調整信号保持部82は、ターンオン保持部86、およびターンオフ保持部87を備える。
【0105】
実施の形態1の駆動調整回路1000は、電力用半導体素子1のターンオン動作、もしくはターンオフ動作の何れか一方を制御する。
【0106】
選択部88が、制御信号に基づいてターンオン動作またはターンオフ動作を選択する。
ターンオン駆動調整部84は、選択部88によってターンオン動作が選択されたときに、比較部7の比較結果に応じて、電力用半導体素子1のターンオン動作での駆動信号を制御する駆動調整信号を出力する。ターンオン保持部86は、ターンオン駆動調整部84での駆動調整が有効なときに、ターンオン駆動調整部84から出力された駆動調整信号を保持する。
【0107】
ターンオフ駆動調整部85は、選択部88によってターンオフ動作が選択されたときに、比較部7の比較結果に応じて、電力用半導体素子1のターンオフ動作での駆動信号を制御する駆動調整信号を出力する。ターンオフ保持部87は、ターンオフ駆動調整部85での駆動調整が有効なときに、ターンオフ駆動調整部85から出力された駆動調整信号を保持する。
【0108】
図11は、実施の形態5の駆動調整回路5000の動作を表わすフローチャートである。
図11のフローチャートが、
図3に示す実施の形態1のフローチャートと相違する点は、以下である。
【0109】
ステップS115において、比較基準値Vref<差分値Vdiffの時、処理がステップS501に進む。
【0110】
ステップS501において、選択部88は、制御信号に基づき、ターンオン動作、またはターンオフ動作を選択する。ターンオン動作が選択された時は、処理がステップS502に進む。ターンオフ動作が選択された時は、処理がステップS504に進む。
【0111】
ステップS502において、ターンオン駆動調整部84が、ターンオン動作における駆動信号を調整する駆動調整信号を出力する。
【0112】
ステップS503において、ターンオン保持部86が、ターンオン動作における駆動調整信号を保持する。
【0113】
ステップS504において、ターンオフ駆動調整部85が、ターンオフ動作における駆動信号を調整する駆動調整信号を出力する。
【0114】
ステップS505において、ターンオフ保持部87が、ターンオフ動作における駆動調整信号を保持する。
【0115】
以上のように、実施の形態5によれば、実施の形態1と同じ損失とノイズの両方を低減する効果を得つつ、電力用半導体素子1が連続して動作する時に、選択部88の選択結果に基づき、ターンオン動作、およびターンオフ動作での駆動信号を制御することで、ターンオン、およびターンオフの両方の動作での電力用半導体素子1の損失とノイズを低減することができる。
【0116】
実施の形態6.
図12は、実施の形態6のパワーモジュール9000の構成を表わす図である。
【0117】
パワーモジュール9000は、電力用半導体素子1と、実施の形態1の駆動調整回路1000とを備える。パワーモジュール9000は、駆動調整回路1000の代わりに、実施の形態2~5の駆動調整回路2000~5000を備えてもよい。
【0118】
パワーモジュール9000は、1つの電力用半導体素子1だけを備えるのではなく、例えば6つの電力用半導体素子を備えてもよい。
【0119】
実施の形態7.
本実施の形態は、上述した実施の形態1~5の駆動調整回路1000~5000を電力変換装置に適用したものである。本開示は特定の電力変換装置に限定されるものではないが、以下、実施の形態7として、三相のインバータに本開示を適用した場合について説明する。
【0120】
図13は、実施の形態7の電力変換システムの構成を示すブロック図である。
電力変換システムは、電源100、電力変換装置200、および負荷300を備える。
【0121】
電源100は、直流電源である。電源100は、電力変換装置200に直流電力を供給する。電源100は種々のもので構成することが可能であり、例えば、直流系統、太陽電池、または蓄電池で構成することができるし、交流系統に接続された整流回路またはAC/DCコンバータで構成することとしてもよい。電源100を、直流系統から出力される直流電力を所定の電力に変換するDC/DCコンバータによって構成することとしてもよい。
【0122】
電力変換装置200は、電源100と負荷300の間に接続された三相のインバータである。電力変換装置200は、電源100から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷300に交流電力を供給する。電力変換装置200は、直流電力を交流電力に変換して出力する主変換回路201と、主変換回路201を制御する制御信号を主変換回路201に出力する制御回路203とを備える。
【0123】
負荷300は、電力変換装置200から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。負荷300は特定の用途に限られるものではなく、各種電気機器に搭載された電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道車両、エレベーター、もしくは、空調機器向けの電動機として用いられる。
【0124】
以下、電力変換装置200の詳細を説明する。
主変換回路201は、スイッチング素子と還流ダイオードとを備える(図示せず)。
【0125】
スイッチング素子がスイッチングすることによって、電源100から供給される直流電力を交流電力に変換し、負荷300に供給する。主変換回路201の具体的な回路構成は種々のものがあるが、本実施の形態にかかる主変換回路201は、2レベルの三相フルブリッジ回路である。2レベルの三相フルブリッジ回路は、6つのスイッチング素子とそれぞれのスイッチング素子に逆並列された6つの還流ダイオードとを備える。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続され上下アームを構成し、各上下アームはフルブリッジ回路の各相(U相、V相、W相)を構成する。そして、各上下アームの出力端子、すなわち主変換回路201の3つの出力端子は、負荷300に接続される。
【0126】
主変換回路201の各スイッチング素子は、上述した実施の形態1~5における電力用半導体素子1である。
【0127】
上述した実施の形態1~5で説明したように、各スイッチング素子(電力用半導体素子1)を駆動する駆動調整回路1000~5000が半導体装置202に内蔵されているため、主変換回路201は駆動調整回路1000~5000を備えている。
【0128】
駆動調整回路は、主変換回路201のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成し、主変換回路201のスイッチング素子の制御電極に供給する。具体的には、後述する制御回路203からの制御信号に従い、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とを各スイッチング素子の制御電極に出力する。スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧未満の電圧信号(オフ信号)となる。
【0129】
制御回路203は、負荷300に所望の電力が供給されるよう主変換回路201のスイッチング素子を制御する。具体的には、負荷300に供給すべき電力に基づいて主変換回路201の各スイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するPWM制御によって主変換回路201を制御することができる。そして、各時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号を、オフ状態となるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるよう、主変換回路201が備える駆動調整回路に制御指令(制御信号)を出力する。駆動調整回路は、この制御信号に従い、各スイッチング素子の制御電極にオン信号又はオフ信号を駆動信号として出力する。
【0130】
本実施の形態に係る電力変換装置では、主変換回路201が、実施の形態1~5の駆動調整回路1000~5000を備えるために、電力用半導体素子1の損失とノイズを低減することができる。
【0131】
本実施の形態では、2レベルの三相インバータに本開示を適用する例を説明したが、本開示は、これに限られるものではなく、種々の電力変換装置に適用することができる。本実施の形態では、2レベルの電力変換装置としたが3レベルまたはマルチレベルの電力変換装置であっても構わないし、単相負荷に電力を供給する場合には単相のインバータに本開示を適用しても構わない。また、直流負荷等に電力を供給する場合にはDC/DCコンバータまたはAC/DCコンバータに本開示を適用することも可能である。
【0132】
本開示を適用した電力変換装置は、上述した負荷が電動機の場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機、レーザー加工機、誘導加熱調理器、非接触給電システムの電源装置として用いることもでき、さらには太陽光発電システムや蓄電システム等のパワーコンディショナーとして用いることも可能である。
【0133】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0134】
1 電力用半導体素子、2 電圧検出部、3 電流検出部、4 微分部、5 規格部、6 差分部、7 比較部、8 駆動制御部、9 駆動可変回路、11 損失計算部、12 サージ検出部、51,51A,51B 規格化部、52,52A,52B 規格化定数設定部、61 差分器、62,62A,62B 最大値保持部、63 保持期間設定部、64,64B 差分選択部、71 比較器、72 比較基準値設定部、73 比較期間設定部、81 駆動調整部、82 駆動調整信号保持部、83 駆動調整設定部、84 ターンオン駆動調整部、85 ターンオフ駆動調整部、86 ターンオン保持部、87 ターンオフ保持部、88 選択部、100 電源、100A 電流、200 電力変換装置、201 主変換回路、202 半導体装置、203 制御回路、300 負荷、1000,2000,3000,4000,5000 駆動調整回路、9000 パワーモジュール。