IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図1
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図2
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図3
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図4
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図5
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図6
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図7
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図8
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図9
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図10
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図11
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図12
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図13
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図14
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図15
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図16
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図17
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図18
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図19
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図20
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図21
  • 特許-磁気歯車内蔵回転電機の制御装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】磁気歯車内蔵回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20241122BHJP
   H02P 23/04 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P23/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023539412
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028710
(87)【国際公開番号】W WO2023012888
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 彰
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 天次郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507639(JP,A)
【文献】特開2005-117842(JP,A)
【文献】特開平05-316706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気歯車を内蔵する回転電機の固定子巻線に印加する電圧を制御して、前記回転電機からの出力を出力指令に追従させる磁気歯車内蔵回転電機の制御装置であって、
前記回転電機はフレームの内部に固定された固定子、前記固定子と径方向に離間して配置されるとともに回転自在に支持された第一の回転子、前記固定子と前記第一の回転子との間に離間して配置されるとともに前記第一の回転子と同軸上で回転自在に支持され、前記第一の回転子の回転により減速比に従って回転する第二の回転子を有しており、
前記固定子に対する前記第一の回転子の回転角度を用いてダンピング指令を発生するダンピング指令発生器と、
前記出力指令に前記ダンピング指令を加算して補正出力指令を生成する第一の加算器と、
前記補正出力指令に従い前記回転電機が発生する出力を制御する出力制御器と、を備え、
前記ダンピング指令発生器は、前記固定子に対する前記第一の回転子の回転角度から速度信号を算出し、前記速度信号を前記第一の回転子の共振周波数を用いて補正して、前記ダンピング指令を発生させる、磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記回転電機からの出力がトルクであって、
前記第一の加算器は、トルク指令に前記ダンピング指令を加算して補正トルク指令を生成し、
前記出力制御器は、前記補正トルク指令に従い前記回転電機が発生するトルクを制御するトルク制御器である、請求項1に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記回転電機からの出力が有効電流であって、
前記第一の加算器は、有効電流指令に前記ダンピング指令を加算して補正有効電流指令を生成し、
前記出力制御器は、前記補正有効電流指令に従い前記回転電機が発生する有効電流を制御する有効電流制御器である、請求項1に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機の固定子巻線電流及び固定子巻線端子電圧から実電力値を演算する電力演算器と、
電力指令から演算された前記実電力値を減じて電力偏差を算出する第二の加算器と、
算出された前記電力偏差から前記トルク指令を出力する電力制御器と、をさらに備えた、請求項2に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記電力指令及び固定子巻線端子電圧からフィードフォワード指令を出力するフィードフォワード指令発生器をさらに備え、
前記第一の加算器は、前記電力制御器から出力された前記トルク指令、前記ダンピング指令及び前記フィードフォワード指令を加算して補正トルク指令を出力する、請求項4に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項6】
磁気歯車を内蔵する回転電機の固定子巻線に印加する電圧を制御して、前記回転電機からの出力を出力指令に追従させる磁気歯車内蔵回転電機の制御装置であって、
前記回転電機はフレームの内部に固定された固定子、前記固定子と径方向に離間して配置されるとともに回転自在に支持された第一の回転子、前記固定子と前記第一の回転子との間に離間して配置されるとともに前記第一の回転子と同軸上で回転自在に支持され、前記第一の回転子の回転により減速比に従って回転する第二の回転子を有しており、
前記固定子に対する前記第一の回転子の回転角度を用いてダンピング指令を発生するダンピング指令発生器と、
前記出力指令に前記ダンピング指令を加算して補正出力指令を生成する第一の加算器と、
前記補正出力指令に従い前記回転電機が発生する出力を制御する出力制御器と、を備え、
前記回転電機からの出力が有効電流であって、
前記第一の加算器は、有効電流指令に前記ダンピング指令を加算して補正有効電流指令を生成し、
前記出力制御器は、前記補正有効電流指令に従い前記回転電機が発生する有効電流を制御する有効電流制御器である、磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記回転電機の固定子巻線電流及び固定子巻線端子電圧から実電力値を演算する電力演算器と、
電力指令から演算された前記実電力値を減じて電力偏差を算出する第二の加算器と、
算出された前記電力偏差から前記有効電流指令を出力する電力制御器と、をさらに備えた、請求項3または6に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【請求項8】
前記電力指令及び固定子巻線端子電圧からフィードフォワード指令を出力するフィードフォワード指令発生器をさらに備え、
前記第一の加算器は、前記電力制御器から出力された前記有効電流指令、前記ダンピング指令及び前記フィードフォワード指令を加算して前記補正有効電流指令を出力する、請求項7に記載の磁気歯車内蔵回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、磁気歯車内蔵回転電機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気歯車内蔵回転電機は、トルクを発生する高速回転子と出力軸である低速回転子とが磁気歯車機構を介して接続されている。磁気歯車機構は伝達剛性が低く振動が発生しやすい。そのため、この振動が問題になる場合には、磁気歯車機構内部の磁気回路構造を変更して、一部の駆動力が磁気歯車機構を介さずに出力軸に直接発生するようにすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-25700号公報(13頁37行~14頁22行、図11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された磁気歯車内蔵回転電機にあっては、振動が発生しにくく円滑かつ高周波まで応答可能な装置を構成する際に、回転電機が複数の駆動力を出力軸に発生するように設計を見直す必要があり、設計が複雑になり制約が増えるという問題点があった。
また、従来の磁気歯車機構を介した駆動力の伝達剛性はもともと低いため、応答性に課題があり、特許文献1のように複数の駆動力を合わせて使用する場合には依然としてその課題が解決されていない。
【0005】
本願は、上記の課題を解決するための技術を開示するものであり、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく、円滑かつ高周波までの応答を可能とする磁気歯車内蔵回転電機の制御装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示される磁気歯車内蔵回転電機の制御装置は、磁気歯車を内蔵する回転電機の固定子巻線に印加する電圧を制御して、前記回転電機からの出力を出力指令に追従させる磁気歯車内蔵回転電機の制御装置であって、
前記回転電機はフレームの内部に固定された固定子、前記固定子と径方向に離間して配置されるとともに回転自在に支持された第一の回転子、前記固定子と前記第一の回転子との間に離間して配置されるとともに前記第一の回転子と同軸上で回転自在に支持され、前記第一の回転子の回転により減速比に従って回転する第二の回転子を有しており、
前記固定子に対する前記第一の回転子の回転角度を用いてダンピング指令を発生するダンピング指令発生器と、
前記出力指令に前記ダンピング指令を加算して補正出力指令を生成する第一の加算器と、
前記補正出力指令に従い前記回転電機が発生する出力を制御する出力制御器と、を備え、
前記ダンピング指令発生器は、前記固定子に対する前記第一の回転子の回転角度から速度信号を算出し、前記速度信号を前記第一の回転子の共振周波数を用いて補正して、前記ダンピング指令を発生させる、ものである。

【発明の効果】
【0007】
本願に開示される磁気歯車内蔵回転電機の制御装置によれば、ダンピング指令発生器を備えたことにより、出力指令にダンピング指令を加算した補正出力指令に従い、制御を行うので、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく円滑かつ高周波までの応答が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る磁気歯車内蔵回転電機の構造を示す断面摸式図である。
図3】実施の形態1に係るダンピング指令発生器の構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に係る磁気歯車機構の伝達トルクと伝達剛性の関係を示す図である。
図5】実施の形態1に係る磁気歯車機構の伝達トルクと高速回転子の共振周波数の関係を示す図である。
図6】実施の形態1に係るダンピング指令発生器内の速度フィルタの第一の周波数特性を示す図である。
図7】実施の形態1に係るダンピング指令発生器内の速度フィルタの第二の周波数特性を示す図である。
図8】実施の形態1に係る別のダンピング指令発生器の構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態2に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態2に係る電力制御器の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態2に係る電力制御器の電力フィルタの周波数特性の例を示す図である。
図12】実施の形態2に係る電力制御器において電力フィルタを用いない場合の電力フィードバック制御系の開ループ応答特性を示す図である。
図13】実施の形態2に係る電力制御器において電力フィルタを用いた場合の電力フィードバック制御系の開ループ応答特性を示す図である。
図14】実施の形態3に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図15】実施の形態3に係るフィードフォワード指令発生器の構成を示す図である。
図16】実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図17】実施の形態4に係るダンピング指令発生器の構成を示すブロック図である。
図18】実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機の別の制御装置の構成を示すブロック図である。
図19】実施の形態4に係る電力制御器の構成を示すブロック図である。
図20】実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機のさらに別の制御装置の構成を示すブロック図である。
図21】実施の形態4に係るフィードフォワード指令発生器の構成を示す図である。
図22】実施の形態1から4に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置のハードウエア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施の形態について図を参照して説明する。なお、各図中、同一符号は、同一または相当部分を示すものとする。
【0010】
実施の形態1.
以下、実施の形態1に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置について図を用いて説明する。
図1は実施の形態1に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図、図2は磁気歯車内蔵回転電機の構造を示す断面摸式図である。図において、磁気歯車内蔵回転電機1は、フレーム5の内部に固定子2が固定され、また低速回転子3はフレーム5により回転自在に支持されている。高速回転子4は低速回転子3の内部に低速回転子3と同じ軸上で回転自在に支持されている。
磁気歯車内蔵回転電機1は、少なくとも高速回転子4の外周面に永久磁石が設けられ、固定子2のコイルの起磁力により高速回転子4を回転させ、高速回転子4が回転することで低速回転子3が減速比にしたがって回転する、磁気歯車機構を組み込んだ回転電機である。
【0011】
磁気歯車内蔵回転電機の制御装置100(以下、単に「制御装置100」と称する)は、回転電機が発生するトルクが外部からのトルク指令に追従するように制御する。そのため、制御装置100は、磁気歯車内蔵回転電機1のフレーム5上に固定され、高速回転子4と固定子2の間の角度を検出する角度検出器10が検出した角度信号を入力とし、ダンピング指令を出力するダンピング指令発生器20と、外部からのトルク指令にダンピング指令を加算して補正トルク指令を生成する第一の加算器30と、補正トルク指令にしたがい回転電機の固定子2の固定子巻線端子に印加する電圧を操作して、回転電機が発生するトルクを制御するトルク制御器40と、を備えている。なお、磁気歯車内蔵回転電機1においては、有効電流とトルクが概ね比例することが知られているので、トルク制御器40は後述する有効電流制御器に置き換えることができる。これらトルク制御器、有効電流制御器は、それぞれ第一の出力制御器、第二の出力制御器に相当する。すなわち、磁気歯車内蔵回転電機1の出力であるトルクあるいは有効電流に対し、出力を補正された出力指令に追従するように固定子巻線端子に印加する電圧を制御する。
【0012】
図3は、実施の形態1に係るダンピング指令発生器20の構成を示すブロック図である。ダンピング指令発生器20は、微分器21、速度フィルタ22及びゲイン23を備えている。微分器21は入力された角度信号を微分して速度信号を出力し、速度フィルタ22は予め設定された周波数特性により速度信号の帯域を制限して補正速度信号を出力する。この補正速度信号にゲイン23を乗じて、ダンピング指令が生成される。なおゲイン23は、一般的に負の値を有する。
【0013】
制御装置100がダンピング指令発生器20を有するので、高速回転子4に振動が発生した場合、この振動は角度信号に重畳されるため角度検出器10によって検出され、その振動の速度成分に比例し符号が逆のダンピング指令がダンピング指令発生器20より出力される。このダンピング指令によりトルク制御器40が発生する成分は、高速回転子4の振動を抑制する方向にトルクを発生するので、高速回転子4の振動を抑えることができる。
【0014】
一方、高速回転子4が振動以外の運動をする場合には、ダンピング指令発生器20はその運動を妨げるダンピング指令を発生しないことが望ましい。このためダンピング指令発生器20内部に速度フィルタ22を設け、予め設定された周波数範囲の速度信号が入力された場合にのみダンピング指令が発生されるようにするのが好適である。
【0015】
高速回転子4に発生する振動は主に高速回転子4の共振振動であり、その共振周波数は高速回転子4の軸慣性と、回転電機内に構成される磁気歯車機構の伝達剛性により決まる。図4に磁気歯車機構の伝達トルクと伝達剛性の関係を、図5に伝達トルクと高速回転子の共振周波数の関係を示す。
図4に示すように磁気歯車機構の伝達剛性は伝達するトルクにより大きく変化し、その最大伝達トルクに近づくにつれて急激に小さくなる。このため図5に示すように、高速回転子の共振周波数も伝達トルクに応じて変化し、運転に使用する伝達トルク範囲を最大伝達トルクに近づけるほど、共振周波数移動範囲も拡大する。
【0016】
この共振周波数の移動に対応するため、伝達トルクの運転使用範囲が最大トルクに対して余裕がある場合には、速度フィルタ22には、図6に示されるように、運転される伝達トルク範囲に応じた共振周波数移動範囲は信号を通過させ、それ以外の帯域の信号は阻止するような周波数特性を与えることが好適である。
一方、伝達トルクの運転使用範囲が最大トルクに近くなる場合には、速度フィルタ22には、図7に示されるように伝達トルクに応じて信号を通過させる周波数帯域を変化する特性を持たせるのが好適である。
【0017】
図7に示される速度フィルタ22の周波数特性を持たせる場合、これに対応してダンピング指令発生器20の構造を一部変更すれば良い。
図8は、実施の形態1に係る別のダンピング指令発生器の構成を示すブロック図である。共振周波数演算器24は図5に示すような伝達トルクと共振周波数の関係をあらかじめ求めた式あるいはテーブルの形で記憶しており、入力されるトルク指令に応じて共振周波数を出力する。速度フィルタ22は図7に示すように、速度信号のうちで入力された共振周波数付近の成分のみを通過する機能を有しており、通過させる周波数は入力される共振周波数に従い変化する。
【0018】
以上のように、実施の形態1に係る制御装置100によれば、磁気歯車内蔵回転電機1の高速回転子4と固定子2との間の角度を検出する角度検出器10の角度信号が入力され、この角度信号を用いてダンピング信号を発生するダンピング指令発生器20を具備し、出力指令であるトルク指令にダンピング指令を加算した補正トルク指令に従い、制御を行う。この構成により、高速回転子4に発生する共振振動を抑制することが可能となり、磁気歯車内蔵回転電機1の構造を変更することなく回転電機1を円滑に運転することが可能になる。
また、共振が発生すると平均トルクに対して振動成分が重畳され、その振幅分だけ最大トルクが増加するが、最大トルクが磁気歯車機構の最大伝達トルクで制限された場合、共振がある方がそれによる振動振幅分平均トルクが減少する。本実施の形態1では、共振振動を抑制することでこの平均トルクの低下を抑え、さらに高周波までの応答を実現することができる。
すなわち、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく、高速回転子の共振周波数以上の高周波まで、指令に追従した目標量の出力を制御可能な磁気歯車内蔵回転電機の制御装置を実現できる。
【0019】
実施の形態2.
以下、実施の形態2に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置について図を用いて説明する。図9は、実施の形態2に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置100の構成を示すブロック図である。本実施の形態2に係る制御装置100は、実施の形態1の図1の構成からさらに、電圧センサ31、電流センサ32、電力演算器60、電力制御器50、第二の加算器33を備える。また、実施の形態1と同様の構成については、以下において詳細な説明を省略する。
なお、本実施の形態2に係る制御装置100は、回転電機1により発生する電力が外部からの電力指令に追従するように制御する。
【0020】
以下、図9から図13を用いて、制御装置100の動作について説明する。
電圧センサ31は回転電機の固定子巻線の端子電圧を検出し、電流センサ32は固定子巻線に流れる電流を検出する。回転電機1の固定子巻線は通常多相であるので電圧センサ31および電流センサ32は実際には複数個配置されることになる。なお電圧センサ31の検出値の代わりに、トルク制御器40内の端子印加電圧の指令値を用いることも可能である。この端子印加電圧の指令値は固定子端子への印加電圧の指令値であり、トルク制御器40内で生成される。
【0021】
電力演算器60は、巻線端子電圧と巻線電流とから回転電機1が発生する有効電力を計算する。例えば、固定子巻線各相の電圧と電流の内積により、実電力値を計算して出力する。加算器33は外部からの電力指令から実電力値を減じて電力偏差を算出する。この電力偏差が電力制御器50に入力され、電力制御器50はこの電力偏差を0に制御するようなトルク指令を出力する。
【0022】
ダンピング指令発生器20、加算器30、トルク制御器40の動作は実施の形態1と同じであり、また回転電機1では有効電流とトルクが概ね比例することが知られているので、トルク指令を有効電流指令、トルク制御器40を有効電流制御器に置き換えて構成することも可能である。
【0023】
図10は、実施の形態2に係る電力制御器50の構成を示すブロック図である。電力フィルタ51は入力された電力偏差に予め設定された周波数特性を与えて、補正電力偏差を出力する。制御器52は例えば積分器あるいは比例積分器などであって、入力された補正電力偏差を内部の演算で加工して、トルク指令を出力する。電力制御器50はトルク制御器40、電力演算器60及び制御対象である回転電機1と、により電力フィードバック制御系を構成するが、電力フィルタ51はこの制御系の応答性及び安定性を向上するために、必要に応じて挿入するものである。
【0024】
図11は、電力フィルタ51として進み遅れフィルタを使用した場合の電力フィルタ51の周波数特性の例を示す図である。図12は、電力フィルタ51を用いない場合の電力フィードバック制御系の開ループ応答特性を示す図、図13図11の特性を有する電力フィルタ51を用いた場合の電力フィードバック制御系の開ループ応答特性を示す図である。
【0025】
図12図13の両方において、例えば位相が-90°から位相余裕を同じ45°になるように設計することとする。この場合、ゲインが0になる周波数で位相が-135°になるように制御系を調整する必要があるが、電力フィルタ51を用いた図13の方が、用いない図12に比べて位相の遅れがより高い周波数で発生するようにできる。すなわち、電力フィルタ51を用いることで、応答周波数帯域を高い周波数まで確保できることがわかる。このように、制御系に高周波数領域までの応答性及び高い安定性が求められる場合は、電力フィルタ51を用いるのがよい。
【0026】
本実施の形態2に係る制御装置100において、高速回転子4に振動が発生した場合、実施の形態1と同様に、この振動が角度検出器10によって検出され、その振動の速度成分に比例し符号が逆のダンピング指令がダンピング指令発生器20より出力される。このダンピング指令によりトルク制御器40は、高速回転子4の振動を抑制する方向にトルクを発生するので、高速回転子4の振動を抑えることができる。また、電力制御器50は高速回転子4の振動の影響を受けることないので、トルク制御器40を介して、回転電機1の発生する電力を制御することが可能になる。
【0027】
なお実施の形態1の場合は、ダンピング指令発生器20が高速回転子4の振動以外の運動を妨げるダンピング指令を発生しないようにするために速度フィルタ22を使用したが、実施の形態2による制御装置100のように帰還的に電力指令に追従させる電力制御器50を有する場合には、ダンピング指令発生器20が高速回転子4の振動以外の運動を妨げるダンピング指令を打ち消す成分が電力制御器50より発生するので、ダンピング指令発生器20において速度フィルタ22を用いなくてもよい。
【0028】
以上のように、実施の形態2に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置100によれば、実施の形態1と同様の効果を奏する。すなわち、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく回転電機1を円滑に運転することが可能になるとともに、振動によって生じる一時的なトルク増大に起因する平均電力の低下を抑えることが可能となる。さらに、高周波域までの応答を実現することができる。
【0029】
実施の形態3.
以下、実施の形態3に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置について図を用いて説明する。図14は、実施の形態3に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置100の構成を示すブロック図である。本実施の形態3に係る制御装置100は、実施の形態2の図9の構成からさらに、フィードフォワード指令発生器70を備える。また、実施の形態1及び2と同様の構成については、以下において詳細な説明を省略する。
なお、本実施の形態3に係る制御装置100は、実施の形態2と同様に回転電機1により発生する電力が外部からの電力指令に追従するように制御する。
【0030】
以下、図14及び図15を用いて、制御装置100の動作について説明する。
電力演算器60、加算器33、電力制御器50の動作は実施の形態2と同様であり、電力制御器50から電力偏差を0に制御するトルク指令を出力する。
ダンピング指令発生器20の動作は実施の形態1と同様であり、フィードフォワード指令発生器70は、電力指令と巻線端子電圧とからフィードフォワード指令を出力する。加算器30は、トルク指令にダンピング指令およびフィードフォワード指令を加算して補正トルク指令を生成し、トルク制御器40に出力する。トルク制御器40は入力されたこの補正トルク指令にしたがい、回転電機1が発生するトルクを制御する。
【0031】
回転電機1では有効電流とトルクが概ね比例することが知られているので、トルク指令を有効電流指令、トルク制御器40を有効電流制御器に置き換えて構成することが可能である。また巻線端子電圧として電圧センサ31の検出値の代わりに、トルク制御器40内の端子印加電圧の指令値を用いることも可能である。
【0032】
図15はフィードフォワード指令発生器70の構成を示した図である。図において、電圧絶対値演算器71は入力される多相の巻線端子電圧より電圧絶対値を計算する。フィードフォワード電流演算器72は、電力指令と電圧絶対値とを用い、回転電機1の力率を考慮して回転電機1の固定子2に流すべきフィードフォワード電流指令を計算する。例えば、以下に示す計算式を用いる。
フィードフォワード電流指令=電力指令/(電圧絶対値×力率)
【0033】
トルク指令演算器73はフォードフォワード電流指令からトルクのフィードフォワード指令を、例えば回転電機1のトルク定数をフォードフォワード電流指令に乗じて算出する。なお回転電機1の有効電流とトルクが概ね比例することを利用して有効電流に置き換えて、上記のように制御系を構成する場合には、フィードフォワード指令はフィードフォワード電流指令と同じになるので、トルク指令演算器73は不要である。
【0034】
このような構成のフィードフォワード指令発生器70より出力されるフィードフォワード指令は、計算に巻線電流を用いないので回転電機内部の共振の影響を強く受けることなく、より高応答な指令の生成が可能であるので、補正トルク指令の応答を高めることが可能になる。
一方、フィードフォワード指令は実際の巻線電流を反映していないために誤差が生じるが、この誤差は電力偏差に反映されて電力制御器50に入力されるので、電力フィードバック制御系では抑制されることになる。
【0035】
さらに、実施の形態1及び2と同様、高速回転子4に生じる共振振動は角度検出器10により検出され、これに基づきダンピング指令発生器20が発生するダンピング指令が補正トルク指令に加算されることにより、高速回転子4の共振振動を抑えることができる。
【0036】
以上のように、実施の形態3に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置100によれば、実施の形態1及び2と同様の効果を奏する。すなわち、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく回転電機1を円滑に運転することが可能になるとともに、振動によって生じる一時的なトルク増大に起因する平均電力の低下を抑えることが可能となる。また、高周波域までの応答を実現することができる。さらに、固定子巻線電流を用いずに算出されたフィードフォワード指令を考慮して補正トルク指令を生成するので、応答性をより高めることが可能となる。
【0037】
実施の形態4.
実施の形態1から3において、トルク制御器40について説明したが、上述したように磁気歯車内蔵回転電機においては、有効電流とトルクが概ね比例することが知られているので、トルク制御器40は有効電流制御器で置き換えることができる。本実施の形態4では、有効電流制御器で置き換えた構成について説明する。
【0038】
図16は、実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機の制御装置の構成を示すブロック図で、実施の形態1の図1中トルク制御器40を有効電流制御器80に置き換えたものである。他の構成は図1と同様のため、詳細な説明は省略する。
本実施の形態4に係る制御装置100において、高速回転子4に振動が発生した場合、実施の形態1と同様に、この振動が角度検出器10によって検出され、その振動の速度成分に比例し符号が逆のダンピング指令がダンピング指令発生器20より出力される。このダンピング指令により有効電流制御器80は、高速回転子4の振動を抑制する方向に有効電流指令を補正するので、高速回転子4の振動を抑えることができる。この時、ダンピング指令発生器20の構成は図3と同様である。
【0039】
また、ダンピング指令発生器20の速度フィルタ22に図7のような特性を持たせる場合は、実施の形態1の図8に相当する、図17に示されるダンピング指令発生器の構成とすればよい。共振周波数演算器24は図5に示すような伝達トルクと共振周波数との関係に対応する有効電流指令と共振周波数との関係を予め式あるいはテーブルの形で記憶しており、入力される有効電流ク指令に応じて共振周波数を出力する。速度フィルタ22は図7に示すように、速度信号のうちで入力された共振周波数付近の成分のみを通過する機能を有しており、通過させる周波数は入力される共振周波数に従い変化する。
【0040】
図18は実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機の別の制御装置の構成を示すブロック図で、実施の形態2の図9中トルク制御器40を有効電流制御器80に置き換えたものである。他の構成は図9と同様のため、詳細な説明は省略する。この制御装置100は、有効電流制御器80を介して、結果的に回転電機1により発生する電力が外部からの電力指令に追従するように制御する。
【0041】
図19は、実施の形態4に係る電力制御器50の構成を示すブロック図である。電力フィルタ51は入力された電力偏差に予め設定された周波数特性を与えて、補正電力偏差を出力する。制御器52は例えば積分器あるいは比例積分器などであって、入力された補正電力偏差を内部の演算で加工して、有効電流指令を出力する。
【0042】
この図18及び図19に示された本実施の形態4に係る制御装置100においては、実施の形態2と同様に、磁気歯車内蔵回転電機の構造を変更することなく回転電機1を円滑に運転することが可能になるとともに、振動によって生じる一時的なトルク増大に起因する平均電力の低下を抑えることが可能となる。さらに、高周波域までの応答を実現することができる。
【0043】
図20は実施の形態4に係る磁気歯車内蔵回転電機のさらに別の制御装置の構成を示すブロック図で、実施の形態3の図14中トルク制御器40を有効電流制御器80に置き換えたものである。他の構成は図14と同様のため、詳細な説明は省略する。この制御装置100も、有効電流制御器80を介して、結果的に回転電機1により発生する電力が外部からの電力指令に追従するように制御する。
【0044】
また、図21は、フィードフォワード指令発生器70の構成を示した図である。図において、電圧絶対値演算器71は入力される多相の巻線端子電圧より電圧絶対値を計算する。フィードフォワード電流演算器72は、電力指令と電圧絶対値とを用い、回転電機1の力率を考慮して回転電機1の固定子2に流すべきフィードフォワード電流指令を計算する。
【0045】
このような構成のフィードフォワード指令発生器70より出力されるフィードフォワード指令は、計算に巻線電流を用いないので回転電機内部の共振の影響を強く受けることなく、より高応答な指令の生成が可能であるので、補正有効電流指令の応答を高めることが可能になる。
【0046】
以上のように、実施の形態4によれば、トルク制御器40を有効電流制御器80に置き換えた制御装置100においても実施の形態1から3と同様の効果を奏する。
【0047】
実施の形態1から4に係る制御装置100は、磁気歯車を内蔵する回転電機1の固定子巻線に印加する電圧を制御して、回転電機1からの出力であるトルク、有効電流あるいは電力をそれぞれ出力指令であるトルク指令、有効電流指令、電力指令に追従させる磁気歯車内蔵回転電機1の制御装置100であって、回転電機1の固定子2と高速回転子4との間の角度を検出する角度検出器10により検出された角度を用いてダンピング指令を発生するダンピング指令発生器20と、出力指令(トルク指令あるいは有効電流指令)に前記ダンピング指令を加算して補正出力指令(補正トルク指令あるいは補正有効電流指令)を生成する第一の加算器30と、補正出力指令に従い回転電機1が発生する出力(トルクあるいは有効電流)を制御する出力制御器(トルク制御器40あるいは有効電流制御器80)と、を備える。この構成により、磁気歯車内蔵回転電機1の構造を変更することなく円滑かつ高周波までの応答が可能となる。
【0048】
なお、上述の実施の形態1から4において、制御装置100は、ハードウエアの一例を図22に示すように、プロセッサ101と記憶装置102から構成される。記憶装置は図示していないが、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ101は、記憶装置102から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ101にプログラムが入力される。また、プロセッサ101は、演算結果等のデータを記憶装置102の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0049】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0050】
1:回転電機、 2:固定子、 3:低速回転子、 4:高速回転子、 5:フレーム、 10:角度検出器、 20:ダンピング指令発生器、 21:微分器、 22:速度フィルタ、 23:ゲイン、 24:共振周波数演算器、 30:加算器、 31:電圧センサ、 32:電流センサ、 33:加算器、 40:トルク制御器、 50:電力制御器、 51:電力フィルタ、 52:制御器、 60:電力演算器、 70:フィードフォワード指令発生器、 71:電圧絶対値演算器、 72:フィードフォワード電流演算器、 73:トルク指令演算器、 80:有効電流制御器、 100:制御装置、 101:プロセッサ、 102:記憶装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22