(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】フィラー用六方晶窒化ホウ素粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241122BHJP
C08K 3/013 20180101ALN20241122BHJP
C08K 3/38 20060101ALN20241122BHJP
C08L 63/02 20060101ALN20241122BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C08K3/013
C08K3/38
C08L63/02
(21)【出願番号】P 2023549703
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2022035036
(87)【国際公開番号】W WO2023048149
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021157192
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 尚臣
(72)【発明者】
【氏名】中川 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】片山 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 誠司
(72)【発明者】
【氏名】宮口 雅史
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/124961(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/092952(WO,A1)
【文献】特開2018-104253(JP,A)
【文献】特開2010-047450(JP,A)
【文献】特開2018-165241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
C08K 3/013
C08K 3/38
C08L 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子および前記一次粒子の凝集粒からなるフィラー用六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記一次粒子の平均円相当径が4μm以上であり、
前記一次粒子の平均厚みが0.5μm以上であり、
前記平均厚みに対する前記平均円相当径の比が1以上10以下であり、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、
嵩密度が0.5g/cm
3以上1.0g/cm
3未満であり、
溶出B量が60ppm以下である、フィラー用六方晶窒化ホウ素粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラー用六方晶窒化ホウ素粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末(以下、h-BN粉末ともいう)は、固体潤滑材、ガラス離型材、絶縁放熱材、および化粧品の材料など、様々な用途に用いられている。
【0003】
従来、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、特許文献1に記載されているように、ホウ酸やホウ酸塩などのホウ素化合物と尿素やアミンなどの窒素化合物とを比較的低温で反応させて結晶性の低い粗製h-BN粉末を製造し、次いで、得られた粗製h-BN粉末を、高温で加熱して結晶を成長させる方法で製造するのが一般的であった。
【0004】
h-BN粉末は、黒鉛と類似した層状構造をしており、下記(1)~(3)などの電気材料として優れた特性を有している。
(1)熱伝導性が高く放熱性に優れる。
(2)電気絶縁性が高く、絶縁耐力に優れる。
(3)誘電率がセラミックスの中で最も小さい。
【0005】
上記特性を活かしたh-BN粉末の用途として、フィラーが挙げられる。すなわち、h-BN粉末をエポキシ樹脂やシリコンゴム等の樹脂材料にフィラーとして添加することにより、熱伝導性(放熱性)および絶縁性に優れたシートやテープを製造することができる。
【0006】
このような用途にh-BN粉末を用いる場合、h-BN粉末の樹脂に対する置換率、(充填性)が熱伝導性を左右する。そのため、h-BN粉末の充填性を向上させて、より高い熱伝導性を得ることが望まれている。
【0007】
しかしながら、従来のh-BN粉末は充填性が十分とはいえず、h-BN粉末を樹脂に添加したシートやテープの熱伝導性は、必ずしも要求特性を満足するとはいえなかった。
【0008】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、h-BN粉末を凝集粒とし、一次粒子の大きさや一次粒子の平均径/厚みの比、凝集粒の大きさ等を適正範囲に規定した六方晶窒化ホウ素粉末を新たに開発し、特許文献2において開示した。
【0009】
ところで、近年、絶縁シートの薄膜化が進行していることから、絶縁性を悪化させる導電性物質の存在を極力低減することが望まれている。また、窒化ホウ素粉末を樹脂と混合する際に凝集粒が破壊されることを防ぐためには、高い粉末強度が必要である。さらに、窒化ホウ素粉末を樹脂と混合した材料に気孔が多いと熱伝導性および絶縁耐圧が低下するので、気孔の低減も要求される。
【0010】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、一次粒子の径や厚み、平均径/厚みの比、さらには凝集粒の大きさ等を適正範囲に規定するとともに、不純物である導電性物質の上限を規定した六方晶窒化ホウ素粉末を新たに開発し、特許文献3において開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平09-295801号公報
【文献】特開2007-308360号公報
【文献】特開2011-98882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上掲した特許文献3に開示の技術により、絶縁性に優れ、粉体強度が高く、熱伝導性および絶縁耐圧にも優れた六方晶窒化ホウ素粉末が得られるようになった。
【0013】
しかしながら、この六方晶窒化ホウ素粉末をフィラー用として用いる場合には、以下に述べる問題があることが分かった。
【0014】
すなわち、六方晶窒化ホウ素粉末をフィラーとして用いた際の熱伝導率を高めるためには、一次粒子の厚みを厚くする(径に対する厚みの比を大きくする)ことにより、凝集粒内の空隙を低減して密度を高めることが望ましい。
【0015】
しかし、一次粒子の厚みを厚くすると、六方晶窒化ホウ素粉末からの溶出B量が増加し、その結果、所望の熱伝導率を得ることができなかった。
【0016】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、一次粒子の厚みを増加させた場合でも溶出B量が低減されており、その結果、高い熱伝導率を達成することができるフィラー用六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、本発明に想到するに到った経緯を説明する。
【0018】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく検討を重ねた結果、窒化ホウ素粉末からのBの溶出が、鱗片状の形状を有する六方晶窒化ホウ素粒子の端面から主として生じることを突き止めた。そして、六方晶窒化ホウ素粉末を製造する際の条件を適切に制御することによって端面の結晶構造を安定させ、一次粒子の厚みが厚くてもBの溶出を低減できることを見出した。
【0019】
本発明は、上記の知見に立脚して開発されたもので、その要旨構成は次のとおりである。
【0020】
1.六方晶窒化ホウ素の一次粒子および前記一次粒子の凝集粒からなるフィラー用六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記一次粒子の平均円相当径が4μm以上であり、
前記一次粒子の平均厚みが0.5μm以上であり、
前記平均厚みに対する前記平均円相当径の比が1以上10以下であり、
平均粒径が5μm以上100μm以下であり、
嵩密度が0.5g/cm3以上1.0g/cm3未満であり、
溶出B量が60ppm以下である、フィラー用六方晶窒化ホウ素粉末。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の厚みを厚くした場合でも溶出B量の増加を効果的に抑制することができ、その結果、高い熱伝導率を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0023】
[一次粒子]
本発明のフィラー用六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子と、前記一次粒子の凝集粒からなる六方晶窒化ホウ素粉末である。本発明では前記一次粒子の形状は特に限定されず、平均円相当径と、厚みに対する円相当径の比の平均値とが、それぞれ以下に述べる条件を満たしていればよい。しかし、上述したように六方晶窒化ホウ素は黒鉛類似の結晶構造を有しているため、前記一次粒子は典型的には鱗片状(板状)の構造を有していてよい。なお、ここで「鱗片状」には、粒子が双晶構造である場合も包含するものとする。また、「一次粒子の凝集粒」とは、一次粒子が2個以上凝集した状態で存在する二次粒子と定義する。
【0024】
一次粒子の平均円相当径:4μm以上
一次粒子の平均厚み:0.5μm以上
本発明では、上記一次粒子の平均円相当径を4μm以上、一次粒子の平均厚みを0.5μm以上とする。これにより、凝集粒の密度を高めることができる。そしてその結果、六方晶窒化ホウ素粉末をフィラーとして樹脂に添加する際の充填性を高め、熱伝導性を向上させることができる。前記一次粒子の平均円相当径は、5μm以上とすることが好ましい。また、前記一次粒子の平均厚みは、0.8μm以上とすることが好ましく、0.9μm以上とすることがより好ましい。
【0025】
なお、本発明者らの検討によると、従来の六方晶窒化ホウ素粉末では、一次粒子の厚みを厚くすると六方晶窒化ホウ素粉末からの溶出B量が増加した。溶出B量が増加すると、六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂との混合状態の混合状態が悪化するとともに、密着性が低下するため、一次粒子の厚みを厚くしても、所望の熱伝導率を得ることができなかった。しかし、本発明によれば、後述する製造方法を採用することにより、六方晶窒化ホウ素粒子の端面からのホウ素の溶出を抑制できるため、溶出B量を増加させることなく一次粒子の厚みを0.5μm以上とすることができる。
【0026】
一方、前記一次粒子の平均円相当径の上限は特に限定されないが、過度に大きくすると焼成に必要な時間が増加し、生産性が低下する。そのため、前記平均円相当径は20μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがより好ましく、13μm以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
同様に、前記一次粒子の平均厚みの上限についても特に限定されないが、過度に大きくすると焼成に必要な時間が増加し、生産性が低下する。そのため、前記平均厚みは10μm以下とすることが好ましく、5.0μm以下とすることがより好ましく、2.0μm以下とすることがさらに好ましく、1.7μm以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
一次粒子の円相当径および厚みは、六方晶窒化ホウ素粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した画像を、画像解析することによって測定することができる。すなわち、本発明における一次粒子の円相当径および厚みは、走査型電子顕微鏡視野下における見掛の円相当径および厚みと定義される。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0029】
平均厚みに対する平均円相当径の比:1以上10以下
本発明では、前記一次粒子の平均厚みに対する平均円相当径の比を1以上10以下とする。これにより、凝集粒の密度を高め、樹脂シート内での充填率を高めることができる。なお、本発明の一実施形態においては、前記一次粒子の平均厚みに対する平均円相当径の比が、1.0以上10.0以下であってよい。前記一次粒子の平均厚みに対する平均円相当径の比は、3.0以上とすることが好ましく、5.0以上とすることがより好ましい。また、前記平均円相当径の比は9.5以下であってもよく、9.0以下であってもよい。前記比の値は、一次粒子の平均円相当径を一次粒子の平均厚みで割ることにより求めることができる。
【0030】
平均粒径:5μm以上100μm以下
嵩密度:0.5g/cm3以上1.0g/cm3未満
さらに、本発明では、六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径を5μm以上100μm以下、嵩密度を0.5g/cm3以上1.0g/cm3未満とする。これにより、六方晶窒化ホウ素粉末をフィラーとして樹脂に添加する際の充填性(充填密度)を高め、熱伝導性を向上させることができる。なお、本発明の一実施形態においては、前記嵩密度が、0.50g/cm3以上1.00g/cm3未満であってよい。
【0031】
前記平均粒径が5μmより小さいと、樹脂と窒化ホウ素粒子との密着度が弱く、一方、100μmより大きいと、樹脂シート内で異物となりシートの破壊につながるおそれがある。前記平均粒径は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、前記平均粒径は、80μm以下であることは好ましく、70μm以下であることがより好ましい。
【0032】
また、前記嵩密度が0.5g/cm3より低いと樹脂へ添加可能な量が減少し、樹脂への充填性が低下する。一方、前記嵩密度が1.0g/cm3以上になると、充填性は向上するが、樹脂への混合時の分散性が低下し、粉末を樹脂内に均一に分散させることが難しくなる。前記嵩密度は、0.60g/cm3以上であることが好ましい。また、前記嵩密度は、0.95g/cm3以下であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明における六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定した粒径分布における体積基準でのメジアン径D50を指すものとする。したがって、前記平均粒径は、一次粒子および凝集粒(二次粒子)の両者を含む六方晶窒化ホウ素粉末全体の平均粒径である。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0034】
上記嵩密度は、六方晶窒化ホウ素粉末を容器に充填し、タップした後の前記六方晶窒化ホウ素粉末の容積と重量から求めることができる。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0035】
六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径と嵩密度は、後述するように、脱炭処理後の六方晶窒化ホウ素粉末を、粉砕、分級する際の条件を制御することによって調整することができる。
【0036】
溶出B量:60ppm以下
従来の六方晶窒化ホウ素粉末では、一次粒子の厚みを厚くした場合、BN粒子からの溶出B量が増加し、その結果、樹脂との混合後に樹脂の硬度が不安定になる問題や、樹脂とBNとの密着性が悪化する問題があった。これに対して、本発明では、後述する製造方法を採用することにより、溶出B量を60ppm以下に低減することを可能とした。前記溶出B量は50ppm以下とすることが好ましい。一方、溶出B量は少なければ少ないほど良いため、下限は0ppmであってよい。しかし、工業的な生産の観点からは、溶出B量は10ppm以上であってよく、15ppm以上であってよい。
【0037】
六方晶窒化ホウ素粉末の溶出B量は、測定対象の六方晶窒化ホウ素粉末2.5gを水30ml+エタノール10mlの混合溶媒に添加し、50℃で60分加熱攪拌した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、ろ液に含まれるBを、JIS K 0116:2014に規定するICP発光分光分析法を用いて測定することにより得ることができる。より具体的には、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0038】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末における凝集粒の割合は特に限定されないが、フィラーとしての性能をさらに高めるという観点からは、凝集粒の破壊などによって生じる微粉の割合が低い方が好ましい。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布をレーザー回折散乱法で測定した際の、該六方晶窒化ホウ素粉末全体における粒径10μm以下の粒子の割合を30体積%以下とすることが好ましく、20体積%以下とすることがより好ましい。六方晶窒化ホウ素粉末全体における粒径10μm以下の粒子の割合の下限は特に限定されず、0体積%であってよい。
【0039】
以下、本発明に従う六方晶窒化ホウ素粉末の好適な製造工程について説明すると共に、一次粒子の厚みを厚くする方法、溶出B量を低減する方法について具体的に説明する。
【0040】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、炭化ホウ素(B4C)を窒素雰囲気下で焼成し、次いで脱炭処理を施した後に、必要に応じて粉砕、分級などの処理を行うことにより製造することができる。
【0041】
前記炭化ホウ素としては、特に限定されることなく任意のものを使用できる。一般的には、市販されている炭化ホウ素を用いればよい。また、次式(1)の反応により、ホウ酸(H3BO3)から炭化ホウ素を製造することもできる。すなわち、ほう酸を炭素含有材料と非酸化性雰囲気中にて高温で反応させたのち、粉砕・分級することによって、炭化ホウ素粉末を得ることができる。
4H3BO3+ 7C → B4C + 6H2O + 6CO ・・・(1)
【0042】
炭化ホウ素粉末を窒素雰囲気中で焼成(窒化処理)して、次式(2)の反応によりBN粉末とする。
(1/2)B4C + N2 → 2BN +(1/2)C ・・・(2)
【0043】
上記窒化処理を行う際の窒素分圧が0.005MPa未満であると、窒化反応の進行が遅くなり、処理に長時間を要する。そのため、前記窒化処理を行う際の窒素分圧は、0.005MPa以上とする。一方、窒素分圧の上限は特に限定されないが、設備上の制約から、一般的には窒素分圧は5MPa以下であってよい。
【0044】
同様に、上記窒化処理を行う際の温度が1800℃未満であると、窒化反応の進行が遅くなり、処理に長時間を要する。そのため、前記窒化処理を行う際の温度は、1800℃以上、好ましくは1900℃以上とする。一方、前記温度が2200℃を超えると逆反応が生じるため、かえって反応速度が低下する。そのため、前記窒化処理を行う際の温度は、2200℃以下、好ましくは2100℃以下とする。
【0045】
上記窒化処理によって得られた生成物には、窒化ホウ素だけでなく炭素が含まれている。そこで、前記生成物に脱炭処理を施して混在するCを除去する。この脱炭処理は、前記生成物に三酸化二ホウ素および/またはその前駆体(以下、三酸化二ホウ素等という)を混合し、窒素雰囲気下で加熱することにより行われる。前記脱炭処理では、下記(3)式の反応により、前記生成物に含まれるCがCO(気体)として除去されるとともに、炭化した三酸化二ホウ素等からBNが生成する。
2BN+(1/2)C+(1/6)B2O3+(1/6)N2 →(7/3)BN+(1/2)CO↑・・・(3)
【0046】
なお、三酸化二ホウ素の前駆体とは、加熱により三酸化二ホウ素になり得るホウ素化合物であり、具体的には、ホウ酸のアンモニウム塩、オルトホウ酸、メタホウ酸および四ホウ酸などが挙げられる。三酸化二ホウ素およびその前駆体の中で、特に好ましいのは三酸化二ホウ素である。
【0047】
上記脱炭処理に供する前記生成物と三酸化二ホウ素等との混合は任意の方法で行うことができる。例えば、ボールミルに溶媒を加えて湿式で混合を行うこともできるが、V-ブレンダーのような乾式混合機を用いて行うことが好ましい。なお、混合は均一状態になるまで実施される。具体的には、目視にて混合物が均質な灰色になればよい。
【0048】
上記(3)式の反応は1500℃以上で進行するが、後述するように三酸化二ホウ素を蒸発除去するために、前記脱炭処理を行う際の温度は1800℃以上、好ましくは1900℃以上とする。一方、前記温度の上限は特に限定されないが、通常は2200℃以下、好ましくは2100℃以下であってよい。
【0049】
また、十分に反応を進行させるために、上記脱炭処理を行う時間は、6時間以上、好ましくは12時間以上とする。
【0050】
適切な量の三酸化二ホウ素等を混合した上で、上記条件で脱炭処理を行うことにより、上記生成物に含まれる炭素の量を、例えば、0.2質量%以下まで低減することができる。
【0051】
本発明において、一次粒子の厚みを増加させる考え方および具体的手段は次のとおりである。
【0052】
〔厚みを増加させる考え方〕
上記脱炭処理における六方晶窒化ホウ素粒子の成長について、本発明者らが検討した結果、三酸化二ホウ素等が過剰であると、六方晶窒化ホウ素粒子の面方向における成長が促進され、その結果、厚み方向における成長が抑制されることが判明した。これは、三酸化二ホウ素等が過剰であると、上記(3)式の反応によりCが除去された後にも三酸化二ホウ素等が残存し、残存した前記三酸化二ホウ素等の液相中において、窒化ホウ素粒子同士が接触、合体することで成長するためであると考えられる。その際、六方晶窒化ホウ素は、その結晶構造から活性が高い端面同士で合体が起こりやすいため、結果的に面方向への成長が優先的に生じる。
【0053】
したがって、一次粒子の厚みに対する円相当径の比を小さくするには、過剰な三酸化二ホウ素等を低減することにより、面方向の成長を抑制することが有効である。
【0054】
そのため、炭化ホウ素を窒素雰囲気で焼成した後の生成物(BN,C)に、三酸化二ホウ素等を混合し、焼成して副生炭素を除去する際に、炭化ホウ素を窒素雰囲気で焼成した後の生成物(BN,C)の全量に対して、三酸化二ホウ素等の混合量を(3)式の反応に相応する量を添加して脱炭を行うこと、すなわち過剰な三酸化二ホウ素等をなるべく少なくして脱炭を行うことが重要である。
【0055】
〔厚みを増加させる具体的手段〕
上述したように、上記脱炭処理における反応は(3)式で表すことができ、その左辺より、1質量部のCを脱炭するために必要な三酸化二ホウ素等の量(化学量論的当量)は、B2O3換算で、約2質量部である(下記(4)式)。
(1/2)C:(1/6)B2O3≒1/2×12:1/6×70≒1:2 …(4)
【0056】
脱炭処理の際に使用する三酸化二ホウ素等の量が、前記化学量論的当量の1.0倍未満であると脱炭が不十分となり、Cが残存する。そのため、脱炭処理の際に使用する三酸化二ホウ素等の量を、前記化学量論的当量の1.0倍以上とする。一方、脱炭処理の際に使用する三酸化二ホウ素等の量が、前記化学量論的当量の3.2倍より多いと、脱炭後に過剰の三酸化二ホウ素が残存するため、一次粒子の厚みに対する円相当径の比の平均値を所望の範囲とすることができない。そのため、脱炭処理の際に使用する三酸化二ホウ素等の量を、前記化学量論的当量の3.2倍以下、好ましくは2.4倍以下とする。
【0057】
また、脱炭処理の温度を1800℃以上の高温とし、脱炭完了後の三酸化二ホウ素の蒸発速度を大きくし、過剰な三酸化二ホウ素等を低減することが有効である。そのため、前記脱炭処理の温度は、1800℃以上、好ましくは三酸化ホウ素の沸点より高い1900℃以上とする。
【0058】
さらに、脱炭処理後に減圧処理を行うと、三酸化二ホウ素等の蒸発速度を大きくすることができ、過剰な三酸化二ホウ素等を低減し、長辺長さ方向の成長を抑制し厚み方向の成長を促進することが出来る。
【0059】
次に、溶出Bを低減する考え方および具体的手段について説明する。
【0060】
〔溶出Bを低減する考え方〕
一次粒子の厚みが大きい六方晶窒化ホウ素粉末では、一次粒子の厚みが小さい六方晶窒化ホウ素粉末に比べて、溶出B量が増加する。これは、上述したように、Bの溶出が主に一次粒子である六方晶窒化ホウ素粒子の端面で生じるためである。
【0061】
発明者らの検討によれば、一次粒子の端面が結晶構造的に不安定なBNでは、加水分解して溶出するB量が多くなると推定される。したがって、厚みが大きいBN一次粒子の溶出B量を低減するためには、端面に多く存在する結晶構造的に不安定なBNを低減し、安定化させることが有効であると考えられる。結晶構造的に不安定なBNとは、明確には分かっていないが、末端構造のBにOH基、NにH基が結合したものと推定している。そして、結晶構造的に不安定なBNはH2Oと反応しNH3が発生し、加水分解しやすい構造となっていると推定される。
【0062】
〔溶出Bを低減する具体的手段〕
溶出B量を低減するには、上述したようにBNの一次粒子の端面を結晶構造的に安定化させ、加水分解して溶出するB量を低減する必要がある。そこで、発明者らは、これを実現すべく数多くの実験と検討を重ねた。
【0063】
その結果、理由は不明であるが、脱炭処理後の冷却速度を、炉温1600℃以下の範囲で50℃/min以下とし、さらに脱炭処理後にBNを炉外に取り出す際の温度を500℃以下にすることにより、一次粒子の端面における結晶構造を安定化し、溶出B量を低減できることが分かった。前記冷却速度は20℃/min以下とすることが好ましく、10℃/min以下とすることがより好ましく、5℃/min以下とすることがさらに好ましい。なお、炉外に取り出す際の温度が500℃以下であるとは、窒化ホウ素粉末の温度が500℃以下まで低下した後に、該窒化ホウ素粉末を炉から取り出すという意味である。炉外に取り出す際の温度は300℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。なお、温度は炉温であり、測定方法は特に限定しないが、熱電対や赤外線放射温度計などで測定することができる。
【0064】
従来のように、脱炭処理後の冷却速度が大きく、また500℃を超える高温でBNを炉外に取り出して急冷した場合には、BNの一次粒子の端面において結晶構造的に不安定性が高まる状態になり、その結果、溶出B量が増加したものと考えられる。
【0065】
これに対して本発明では、上述したように脱炭処理後の冷却速度を遅くすると共に、BNを炉外に取り出す際の温度を低くすることにより一次粒子の端面を結晶構造的に安定化して、溶出B量を低減することができる。
【0066】
以上のプロセスによって得られた六方晶窒化ホウ素を、必要に応じて粉砕、分級して所望の嵩密度および平均粒径とする。
【0067】
(実施例)
以下の手順で六方晶窒化ホウ素粉末を製造し、その特性を評価した。
【0068】
市販の純度:98質量%の炭化ホウ素粉末を目開き44μmの篩にかけ、篩を通過した101.8gの炭化ホウ素粉末を原料粉末とした。前記原料粉末を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼの中に投入し、炉内圧を保持した窒素雰囲気中にて、温度:2000℃、時間:15時間の条件で焼成(窒化処理)を行った。
【0069】
一部の例では、上記窒化処理後に減圧処理を実施した。具体的には、上記15時間の窒化処理が完了した後の降温過程において、炉温が1800℃になった時点で、炉内圧を60kPaに保持する減圧処理を開始した。前記減圧処理における保持時間は3時間とした。
【0070】
上記焼成によって得られた生成物から69.3gを採り、市販の三酸化二ホウ素:35.2gと混合して粉末状混合物を得た。前記混合は、内容積が1LのV-ブレンダーを用い、1Hzの条件で30分間回転することにより行った。
【0071】
得られた粉末状混合物を、内径:90mm、高さ:100mmのカーボンるつぼ内に装入し、窒素気流中にて、2000℃,10時間の脱炭処理を施して、第二焼成生成物を得た。この時、脱炭処理後の冷却速度と炉からの取り出し温度は、表1に示した値とした。また、一部の例では脱炭処理後、炉温:2000℃で、炉内圧を60kPaに3時間保持する減圧処理を施した。
【0072】
かくして得られた第二焼成生成物は、白色凝集体であり、粉砕後にX線回折に供した結果、ほぼ完全にh-BNとなっていることが確認された。
【0073】
(一次粒子の評価)
次に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、一次粒子の平均円相当径および平均厚みを測定した。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末をSEMを用いて倍率5000倍で撮像した。得られた画像から、一次粒子の形状が確認できる粒子を無作為に5~10個選択し、画像解析により顕微鏡視野下における見掛の円相当径および厚みを求め、それぞれの平均値を算出した。また、得られた値から、一次粒子の平均厚みに対する平均円相当径の比を算出した。得られた結果を表1に併記する。
【0074】
(六方晶窒化ホウ素粉末の評価)
さらに、得られた六方晶窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、平均粒径、嵩密度、および溶出B量を、以下の手順で評価した。得られた結果を表1に併記する。
【0075】
・平均粒径
六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は、マルバーン社製マスターサイザーレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて、乾式法で測定した。前記測定においては、セルに0.1barで導入した六方晶窒化ホウ素粉末にレーザビームを照射し、得られた光散乱パターンを解析して粒度分布を得た。窒化ホウ素の屈折率は1.7とした。得られた粒径分布における体積基準でのメジアン径D50を平均粒径とした。
【0076】
・嵩密度
得られた六方晶窒化ホウ素粉末を、100mlのポリメスシリンダーに100mlの容積まで穏やかに充填した。次いで、タッピングマシンに前記ポリメスシリンダーを装着し、216回タップした。タップ後、前記ポリメスシリンダー内の六方晶窒化ホウ素粉末の容積(ml)と該六方晶窒化ホウ素粉末の重量(g)から、嵩密度(g/ml)を求めた。
【0077】
・溶出B量
得られた六方晶窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、溶出B量を以下の手順で測定した。まず、測定対象の六方晶窒化ホウ素粉末2.5gを水30ml+エタノール10mlの混合溶媒に添加し、50℃で60分加熱攪拌した後、孔径0.2μm、直径47mmのメンブレンフィルターを装着したバレル式濾過器を用いて濾過した。次いで、ろ液に含まれるBを、JIS K 0116:2014に規定するICP発光分光分析法を用いて医薬部外品原料規格に準拠して測定し、溶出B量を得た。なお、上記の測定においては、Bのコンタミネーションを防止するため、使用した器具はすべて石英製または樹脂製とした。
【0078】
(熱伝導性)
得られた六方晶窒化ホウ素粉末のフィラーとしての性能を評価するために、以下の手順で該六方晶窒化ホウ素粉末を含む樹脂シートを作成し、その熱伝導性を評価した。
【0079】
まず、溶剤としてのメチルセロソルブ40gに、硬化剤を含むエポキシ樹脂20gと六方晶窒化ホウ素粉末とを加え、回転型ボールミルで60分混練して均一に分散させた。前記六方晶窒化ホウ素粉末の添加量は、溶剤を除いた全重量に対して60質量%とした。前記エポキシ樹脂としては、ビスF液状タイプエポキシ樹脂jER807(三菱化学社製)を、前記硬化剤としては、変性脂環族アミングレードエポキシ樹脂硬化剤jERキュア113(三菱化学社製)を使用した。
【0080】
次いで、混練後の六方晶窒化ホウ素粉末を含む樹脂を、ハンドコーターを用い、膜厚が200μmとなるようにポリイミドフィルム上に塗布した。塗布された樹脂を、130℃で10分間乾燥した後、樹脂の表面同士が接するように2枚を重ね合わせ、温度170℃、圧力80kgf/cm2で30分間熱プレス成形して樹脂シートを得た。
【0081】
得られた樹脂シートから、直径10mm×厚み2mmの試験片を切り出し、レーザーフラシュで前記試験片の熱伝導率を測定した。
【0082】
表1に示した結果から分かるように、本発明の条件を満たす六方晶窒化ホウ素粉末は、優れた熱伝導性を備えていた。これは、六方晶窒化ホウ素粉末の樹脂への充填性、密着性、接触抵抗が改善したためであると考えられる。特に本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、一次粒子の平均厚みを0.5μm以上に増加させた場合でも溶出B量が低減されており、その結果、高い熱伝導率を達成することができる。そのため、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、絶縁シートなどに添加するためのフィラーとして極めて好適に用いることができる。
【0083】