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特許7592187電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023554218
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2021039142
(87)【国際公開番号】W WO2023067810
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】堤 翔英
(72)【発明者】
【氏名】豊留 慎也
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和徳
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232591(JP,A)
【文献】特開2020-058184(JP,A)
【文献】特開2017-112755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、
前記整流部の出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成して負荷に含まれるモータに出力するインバータと、
前記インバータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記モータの振動を低減する振動抑制制御、および前記コンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、前記負荷電流制御として、前記負荷で発生する負荷トルクに対して、前記モータで発生するモータトルクの正負のピーク値の差の絶対値が小さく、かつ正のピークの位相が遅れ位相となるように前記インバータが出力する電圧を制御する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記負荷電流制御として、前記モータで消費される瞬時電力の正負のピーク値の差の絶対値が小さくなるように前記インバータが出力する電圧を制御する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、
前記整流部の出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成して負荷に含まれるモータに出力するインバータと、
前記インバータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記モータの振動を低減する振動抑制制御、および前記コンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、前記負荷電流制御として、前記負荷電流の正側の波形および負側の波形が異なる状態を前記負荷電流の正側の波形および負側の波形が等しい状態にするため前記モータで消費される瞬時電力の正負のピーク値の差の絶対値が小さくなるように前記インバータが出力する電圧を制御する、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の電力変換装置を備えるモータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の電力変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力を所望の電力に変換する電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の動作を制御する電動機制御装置などの装置は、シングルロータリ圧縮機、ツインロータリ圧縮機などを駆動する電動機の状態に応じて、トルクの脈動成分を適切に補償することで、騒音の原因となる振動の発生を抑制している。このような技術が特許文献1において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/059350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、騒音、振動などの低減を目的にトルク脈動成分を補償するものであるが、電源周波数と非同期の周波数とで電動機のトルク脈動を発生させると、平滑コンデンサの充放電電流が電源電流の正側と負側とでアンバランス状態となり、偶数次高調波成分が増加してしまうおそれがある、という問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、接続される負荷での振動の発生を抑制しつつ、高調波成分の発生を抑制可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電力変換装置は、商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、整流部の出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成して負荷に含まれるモータに出力するインバータと、インバータの動作を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、モータの振動を低減する振動抑制制御、およびコンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、負荷電流制御として、負荷で発生する負荷トルクに対して、モータで発生するモータトルクの正負のピーク値の差の絶対値が小さく、かつ正のピークの位相が遅れ位相となるようにインバータが出力する電圧を制御する
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電力変換装置は、接続される負荷での振動の発生を抑制しつつ、高調波成分の発生を抑制できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成例を示す図
図2】実施の形態1に係る電力変換装置が備えるインバータの構成例を示す図
図3】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置の構成例を示すブロック図
図4】実施の形態1に係る制御装置が備える電圧指令値演算部の構成例を示すブロック図
図5】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える負荷電流制御部の構成例を示すブロック図
図6】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える振動抑制制御補償値演算部の構成例を示すブロック図
図7】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える振動抑制制限制御部の構成例を示すブロック図
図8】実施の形態1に係る振動抑制制限制御部が備える電源高調波規格値計算部の構成例を示すブロック図
図9】実施の形態1に係る振動抑制制限制御部が備える次数成分演算部の構成例を示すブロック図
図10】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える速度制御部および振動抑制制御部の構成例を示すブロック図
図11】実施の形態1に係る電力変換装置において振動を抑制するための振動抑制制御を行った場合のモータトルク、負荷トルク、および負荷電流の各波形の例を示す図
図12】実施の形態1に係る電力変換装置において電源高調波を抑制するための負荷電流制御を行った場合のモータトルク、負荷トルク、および負荷電流の各波形の例を示す図
図13】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置の動作を示すフローチャート
図14】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置を実現するハードウェア構成の一例を示す図
図15】実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態に係る電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置200の構成例を示す図である。図2は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備えるインバータ30の構成例を示す図である。電力変換装置200は、商用電源1および圧縮機8に接続される。電力変換装置200は、商用電源1から供給される電源電圧Vの第1の交流電力を所望の振幅および位相を有する第2の交流電力に変換し、圧縮機8に供給する。電力変換装置200は、リアクタ2と、整流部3と、平滑コンデンサ5と、インバータ30と、母線電圧検出部10と、負荷電流検出部40と、制御装置100と、を備える。なお、電力変換装置200、および圧縮機8が備えるモータ7によって、モータ駆動装置400を構成している。
【0011】
商用電源1は、周波数が50Hzまたは60Hzを想定しているがこれらに限定されない。また、商用電源1は、交流電力を出力できればよいので、分散電源などであってもよい。リアクタ2は、商用電源1と整流部3との間に接続される。リアクタ2は、電磁鋼板などを積層したEI形状、EE形状などの形状のものであり、フェライト、アモルファスなどの鉄心を用いたものであり、巻線は銅、アルミなどである。整流部3は、整流素子131~134によって構成されるブリッジ回路を有し、商用電源1から供給される電源電圧Vの第1の交流電力を整流して出力する。整流部3は、全波整流を行うものである。整流素子131~134は、例えばダイオードであるが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのパワー半導体であってもよい。
【0012】
平滑コンデンサ5は、整流部3の出力端に接続され、整流部3によって整流された電力を平滑化する平滑素子である。平滑コンデンサ5は、例えば、電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどのコンデンサである。平滑コンデンサ5は、整流部3によって整流された電力を平滑化するような容量を有し、平滑化により平滑コンデンサ5に発生する電圧は商用電源1の全波整流波形形状ではなく、直流成分に商用電源1の周波数に応じた電圧リプルが重畳した波形形状となり、大きく脈動しない。この電圧リプルの周波数は、商用電源1が単相の場合は電源電圧Vの周波数の2倍成分となり、商用電源1が三相の場合は6倍成分が主成分となる。商用電源1から入力される電力とインバータ30から出力される電力が変化しない場合、この電圧リプルの振幅は平滑コンデンサ5の容量によって決まる。例えば、平滑コンデンサ5に発生する電圧リプルの最大値が最小値の2倍未満となるような範囲で脈動している。
【0013】
母線電圧検出部10は、平滑コンデンサ5の両端電圧、すなわち直流母線12a,12b間の電圧を母線電圧Vdcとして検出し、検出した電圧値を制御装置100に出力する検出部である。負荷電流検出部40は、平滑コンデンサ5からインバータ30に流入される直流電流である負荷電流Idcを検出し、検出した電流値を制御装置100に出力する検出部である。
【0014】
インバータ30は、平滑コンデンサ5の両端に接続され、整流部3および平滑コンデンサ5から出力される電力を所望の振幅および位相を有する第2の交流電力に変換、すなわち第2の交流電力を生成して、モータ7に出力する。具体的には、インバータ30は、母線電圧Vdcを受けて、周波数および電圧値が可変の3相交流電圧を発生して、出力線331~333を介してモータ7に供給する。インバータ30は、図2に示すように、インバータ主回路310と、駆動回路350と、を備える。インバータ主回路310の入力端子は、直流母線12a,12bに接続されている。インバータ主回路310は、スイッチング素子311~316を備える。スイッチング素子311~316の各々には、還流用の整流素子321~326が逆並列接続されている。
【0015】
駆動回路350は、制御装置100から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号Sm1~Sm6に基づいて、駆動信号Sr1~Sr6を生成する。駆動回路350は、駆動信号Sr1~Sr6によってスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。これにより、インバータ30は、周波数可変かつ電圧可変の3相交流電圧を、出力線331~333を介してモータ7に供給することができる。
【0016】
PWM信号Sm1~Sm6は、論理回路の信号レベル、すなわち0V~5Vの大きさを持つ信号である。PWM信号Sm1~Sm6は、制御装置100の接地電位を基準電位とする信号である。一方、駆動信号Sr1~Sr6は、スイッチング素子311~316を制御するのに必要な電圧レベル、例えば、-15V~+15Vの大きさを持つ信号である。駆動信号Sr1~Sr6は、それぞれ対応するスイッチング素子311~316の負側の端子、すなわちエミッタ端子の電位を基準電位とする信号である。
【0017】
圧縮機8は、圧縮駆動用のモータ7を有する負荷である。モータ7は、インバータ30から供給される第2の交流電力の振幅および位相に応じて回転し、圧縮動作を行う。例えば、圧縮機8が空気調和機などで使用される密閉型圧縮機の場合、圧縮機8の負荷トルクは定トルク負荷とみなせる場合が多い。モータ7について、図1ではモータ巻線がY結線の場合を示しているが、一例であり、これに限定されない。モータ7のモータ巻線は、Δ結線であってもよいし、Y結線とΔ結線とが切り替え可能な仕様であってもよい。本実施の形態では、圧縮機8として、シングルロータリ圧縮機、スクロール圧縮機などを想定しているが、これらに限定されない。
【0018】
なお、電力変換装置200において、図1に示す各構成の配置は一例であり、各構成の配置は図1で示される例に限定されない。例えば、リアクタ2は、整流部3の後段に配置されてもよい。また、電力変換装置200は、昇圧部を備えてもよいし、整流部3に昇圧部の機能を持たせるようにしてもよい。以降の説明において、母線電圧検出部10および負荷電流検出部40をまとめて検出部と称することがある。また、母線電圧検出部10で検出された電圧値、および負荷電流検出部40で検出された電流値を、検出値と称することがある。
【0019】
制御装置100は、母線電圧検出部10から母線電圧Vdcを取得し、負荷電流検出部40から負荷電流Idcを取得する。制御装置100は、各検出部によって検出された検出値を用いて、インバータ主回路310の動作、具体的には、インバータ主回路310が有するスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。本実施の形態において、制御装置100は、電力変換装置200で発生する電源高調波の発生を抑制するように、インバータ30の動作を制御する。なお、制御装置100は、各検出部から取得した全ての検出値を用いなくてもよく、一部の検出値を用いて制御を行ってもよい。
【0020】
制御装置100の構成について説明する。図3は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100の構成例を示すブロック図である。制御装置100は、運転制御部102と、インバータ制御部110と、を備える。
【0021】
運転制御部102は、外部から指令情報Qを受け、指令情報Qに基づいて、周波数指令値ω を生成する。周波数指令値ω は、下記の式(1)に示すように、モータ7の回転速度の指令値である回転角速度指令値ω にモータ7の極対数Pを乗算することで求めることができる。
【0022】
【数1】
【0023】
制御装置100は、冷凍サイクル適用機器として空気調和機を制御する場合、指令情報Qに基づいて空気調和機の各部の動作を制御する。指令情報Qは、例えば、図示しない温度センサで検出された温度、図示しない操作部であるリモコンから指示される設定温度を示す情報、運転モードの選択情報、運転開始及び運転終了の指示情報などである。運転モードとは、例えば、暖房、冷房、除湿などである。なお、運転制御部102については、制御装置100の外部にあってもよい。すなわち、制御装置100は、外部から周波数指令値ω を取得する構成であってもよい。
【0024】
インバータ制御部110は、電流復元部111と、3相2相変換部112と、励磁電流指令値生成部113と、電圧指令値演算部115と、電気位相演算部116と、2相3相変換部117と、PWM信号生成部118と、を備える。
【0025】
電流復元部111は、負荷電流検出部40で検出された負荷電流Idcに基づいてモータ7に流れる相電流i,i,iを復元する。電流復元部111は、負荷電流検出部40で検出された負荷電流Idcを、PWM信号生成部118で生成されたPWM信号Sm1~Sm6に基づいて定められるタイミングでサンプリングすることによって、相電流i,i,iを復元することができる。
【0026】
3相2相変換部112は、電流復元部111で復元された相電流i,i,iを、後述する電気位相演算部116で生成された電気位相θを用いて、γ軸電流である励磁電流iγ、およびδ軸電流であるトルク電流iδ、すなわちγδ軸の電流値に変換する。
【0027】
励磁電流指令値生成部113は、前述の回転座標系における励磁電流指令値iγ を生成する。具体的には、励磁電流指令値生成部113は、トルク電流iδに基づいて、モータ7を駆動するために最も効率が良くなる最適な励磁電流指令値iγ を求める。励磁電流指令値生成部113は、トルク電流iδに基づいて、モータ7の出力トルクTが規定された値以上または最大になる、すなわち電流値が規定された値以下または最小になる電流位相βとなる励磁電流指令値iγ を出力する。なお、ここでは、励磁電流指令値生成部113が、トルク電流iδに基づいて励磁電流指令値iγ を求めているが、一例であり、これに限定されない。励磁電流指令値生成部113は、励磁電流iγ、周波数指令値ω などに基づいて励磁電流指令値iγ を求めても、同様の効果を得ることができる。また、励磁電流指令値生成部113は、弱め磁束制御などによって励磁電流指令値iγ を決定してもよい。以降の説明において、励磁電流指令値をγ軸電流指令値と称することがある。
【0028】
電圧指令値演算部115は、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idcと、運転制御部102から取得した周波数指令値ω と、3相2相変換部112から取得した励磁電流iγおよびトルク電流iδと、励磁電流指令値生成部113から取得した励磁電流指令値iγ とに基づいて、γ軸電圧指令値Vγ およびδ軸電圧指令値Vδ を生成する。さらに、電圧指令値演算部115は、γ軸電圧指令値Vγ と、δ軸電圧指令値Vδ と、励磁電流iγと、トルク電流iδとに基づいて、周波数推定値ωestを推定する。
【0029】
電気位相演算部116は、電圧指令値演算部115から取得した周波数推定値ωestを積分することで、電気位相θを演算する。
【0030】
2相3相変換部117は、電圧指令値演算部115から取得したγ軸電圧指令値Vγ およびδ軸電圧指令値Vδ 、すなわち2相座標系の電圧指令値を、電気位相演算部116から取得した電気位相θを用いて、3相座標系の出力電圧指令値である3相電圧指令値V ,V ,V に変換する。
【0031】
PWM信号生成部118は、2相3相変換部117から取得した3相電圧指令値V ,V ,V と、母線電圧検出部10で検出された母線電圧Vdcとを比較することによって、PWM信号Sm1~Sm6を生成する。なお、PWM信号生成部118は、PWM信号Sm1~Sm6を出力しないようにすることによって、モータ7を停止することも可能である。
【0032】
本実施の形態において、制御装置100は、γ軸およびδ軸を有する回転座標系において制御を行う。以降の説明において、γ軸電流、δ軸電流などを励磁電流、トルク電流などと称することがある。
【0033】
電圧指令値演算部115の構成について説明する。図4は、実施の形態1に係る制御装置100が備える電圧指令値演算部115の構成例を示すブロック図である。電圧指令値演算部115は、周波数推定部501と、速度制御部502と、振動抑制制御補償値演算部503と、振動抑制制限制御部504と、振動抑制制御部505と、積分制御部506と、機械角位相演算部507と、負荷電流制御部508と、加算部509と、減算部510,511と、γ軸電流制御部512と、δ軸電流制御部513と、を備える。
【0034】
周波数推定部501は、励磁電流iγと、トルク電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ と、δ軸電圧指令値Vδ とに基づいて、モータ7に供給される電圧の周波数を推定し、周波数推定値ωestとして出力する。
【0035】
速度制御部502は、電力変換装置200が圧縮機8の備えるモータ7に第2の交流電力を出力する場合において、モータ7の回転速度が所望の回転速度になるようにインバータ30の動作を制御する定電流負荷制御を行う。具体的には、速度制御部502は、周波数指令値ω に対する、周波数推定部501で推定された周波数推定値ωestの差分(ω -ωest)を算出する。速度制御部502は、差分(ω -ωest)に対して比例制御を行って得られた比例項、および差分(ω -ωest)に対して積分制御を行って得られた積分項を加算して、差分(ω -ωest)をゼロに近付ける第1のトルク電流指令値iδ を生成する。速度制御部502は、このようにして第1のトルク電流指令値iδ を生成することで、周波数推定値ωestを周波数指令値ω に一致させるための制御を行う。
【0036】
振動抑制制御補償値演算部503は、モータ7の出力トルクTが負荷トルクTの周期的変動に追従するように振動抑制制御補償値であるトルク電流補償値iδtrq を生成する。具体的には、振動抑制制御補償値演算部503は、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestに基づいて、トルク電流補償値iδtrq を生成する。トルク電流補償値iδtrq は、周波数推定値ωestの脈動成分、特に周波数がωmnである脈動成分を抑制するためのものである。ここで、「周波数推定値ωestの脈動成分、特に周波数がωmnである脈動成分」とは、周波数推定値ωestを表す値である直流量の脈動成分、特に脈動周波数がωmnである脈動成分を意味する。なお、mは直流量に関係するパラメータであり、nはモータ7が駆動する負荷を示すパラメータである。nについては、例えば、モータ7が駆動する負荷が、シングルロータリ圧縮機の場合は1とし、ツインロータリ圧縮機の場合は2とする。また、nは3以上であってもよい。
【0037】
振動抑制制限制御部504は、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idc、3相2相変換部112から取得した励磁電流iγおよびトルク電流iδ、γ軸電流制御部512から取得したγ軸電圧指令値Vγ 、およびδ軸電流制御部513から取得したδ軸電圧指令値Vδ に基づいて、振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim を生成する。
【0038】
振動抑制制御部505は、圧縮機8で発生する振動を抑制するため、電力変換装置200において圧縮機8の負荷トルクに一致するように出力トルクTを補償し、振動を抑制する振動抑制制御を行う。具体的には、振動抑制制御部505は、速度制御部502から取得した第1のトルク電流指令値iδ 、振動抑制制御補償値演算部503から取得したトルク電流補償値iδtrq 、および振動抑制制限制御部504から取得した振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim に基づいて、第2のトルク電流指令値iδ ***を生成する。振動抑制制御部505は、第1のトルク電流指令値iδ をトルク電流補償値iδtrq を用いて補償することによって、負荷トルクの脈動により発生する速度脈動を抑制することができる。
【0039】
積分制御部506は、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestに対して積分制御を行う。
【0040】
機械角位相演算部507は、積分制御部506で得られた値に1/Pを乗算する、すなわち積分制御部506で得られた値をモータ7の極対数Pで除算することで、機械角位相θを演算する。
【0041】
負荷電流制御部508は、負荷電流Idcの脈動を低減するモータ制御、すなわち負荷電流制御を行う。具体的には、負荷電流制御部508は、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idc、および機械角位相演算部507から取得した機械角位相θに基づいて、トルク電流補償値iδlcc を生成する。負荷電流制御部508は、例えば、ノッチフィルタによって構成される。
【0042】
加算部509は、振動抑制制御部505で生成された第2のトルク電流指令値iδ ***と、負荷電流制御部508で生成されたトルク電流補償値iδlcc とを加算して、第3のトルク電流指令値iδ ****を生成する。
【0043】
減算部510は、励磁電流指令値iγ に対する励磁電流iγの差分(iγ -iγ)を算出する。
【0044】
減算部511は、第3のトルク電流指令値iδ ****に対するトルク電流iδの差分(iδ ****-iδ)を算出する。
【0045】
γ軸電流制御部512は、減算部510で算出された差分(iγ -iγ)に対して比例積分演算を行って、差分(iγ -iγ)をゼロに近付けるγ軸電圧指令値Vγ を生成する。γ軸電流制御部512は、このようにしてγ軸電圧指令値Vγ を生成することで、励磁電流iγを励磁電流指令値iγ に一致させるための制御を行う。
【0046】
δ軸電流制御部513は、減算部511で算出された差分(iδ ****-iδ)に対して比例積分演算を行って、差分(iδ ****-iδ)をゼロに近付けるδ軸電圧指令値Vδ を生成する。δ軸電流制御部513は、このようにしてδ軸電圧指令値Vδ を生成することで、トルク電流iδを第3のトルク電流指令値iδ ****に一致させるための制御を行う。
【0047】
負荷電流制御部508の構成について説明する。図5は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える負荷電流制御部508の構成例を示すブロック図である。負荷電流制御部508は、乗算部521と、正弦演算部522と、余弦演算部523と、ローパスフィルタ524,525と、減算部526,527と、積分制御部528,529と、正弦演算部530と、余弦演算部531と、加算部532と、を備える。
【0048】
乗算部521は、機械角位相θをn倍し、制御対象となる周波数成分n×θを演算する。
【0049】
正弦演算部522は、負荷電流Idcに制御対象となる周波数成分n×θの正弦sin(n×θ)を乗算する。ローパスフィルタ524は、時定数Tfsのローパスフィルタリングを行って、正弦演算部522で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ここで、sはラプラス演算子である。減算部526は、ローパスフィルタ524で得られた直流成分が0になるように直流成分と0との差分を算出する。積分制御部528は、減算部526で得られた差分に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける電流指令値の正弦成分を算出する。正弦演算部530は、積分制御部528で演算された電流指令値の正弦成分に正弦sin(n×θ)を乗算し、複素平面上の虚軸方向の交流成分を演算する。
【0050】
余弦演算部523は、負荷電流Idcに制御対象となる周波数成分n×θの余弦cos(n×θ)を乗算する。ローパスフィルタ525は、時定数Tfsのローパスフィルタリングを行って、余弦演算部523で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。減算部527は、ローパスフィルタ525で得られた直流成分が0になるように直流成分と0との差分を算出する。積分制御部529は、減算部527で得られた差分に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける電流指令値の余弦成分を算出する。余弦演算部531は、積分制御部529で演算された電流指令値の余弦成分に余弦cos(n×θ)を乗算し、複素平面上の実軸方向の交流成分を演算する。
【0051】
加算部532は、正弦演算部530で演算された複素平面上の虚軸方向の交流成分と、余弦演算部531で演算された複素平面上の実軸方向の交流成分とを加算し、機械角周波数のn倍成分に起因する交流量であるトルク電流補償値iδlcc を生成する。
【0052】
なお、nは機械1f周期で負荷変動が起きる回数を表し、例えば、シングルロータリ圧縮機の場合n=1である。特に、電力変換装置200に接続される負荷がモータ7を含む圧縮機8の場合、商用電源1の電源周波数の0.6倍および1.4倍のモータ運転周波数において、電源高調波規格に対してNGとなりやすい。そのため、制御装置100は、商用電源1の電源周波数の0.6倍および1.4倍のモータ運転周波数においてモータ7に供給する電流の機械周波数の1f成分が顕著となるように電力変換装置200の動作を制御することで、電源高調波規格を満たす運転が可能となる。制御装置100は、商用電源1の電源周波数について、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idcの値およびインバータ30に対する制御内容から把握してもよいし、接続される商用電源1が固定の場合は予め商用電源1の電源周波数の情報を保持していてもよい。また、制御装置100は、モータ7の運転周波数である機械周波数について、インバータ30に対する制御内容から把握することが可能である。
【0053】
振動抑制制御補償値演算部503の構成について説明する。図6は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える振動抑制制御補償値演算部503の構成例を示すブロック図である。振動抑制制御補償値演算部503は、演算部550と、余弦演算部551と、正弦演算部552と、乗算部553,554と、ローパスフィルタ555,556と、減算部557,558と、周波数制御部559,560と、乗算部561,562と、加算部563と、を備える。
【0054】
演算部550は、周波数推定値ωestを積分し、極対数で除算することによってモータ7の回転位置を示す機械角位相θmnを算出する。余弦演算部551は、機械角位相θmnに基づいて、余弦cosθmnを算出する。正弦演算部552は、機械角位相θmnに基づいて、正弦sinθmnを算出する。
【0055】
乗算部553は、周波数推定値ωestに余弦cosθmnを乗算し、周波数推定値ωestの余弦成分ωest・cosθmnを算出する。乗算部554は、周波数推定値ωestに正弦sinθmnを乗算し、周波数推定値ωestの正弦成分ωest・sinθmnを算出する。乗算部553,554で算出される余弦成分ωest・cosθmnおよび正弦成分ωest・sinθmnには、周波数がωmnである脈動成分の他、周波数がωmnより高い周波数の脈動成分、すなわち高調波成分が含まれている。
【0056】
ローパスフィルタ555,556は、伝達関数が1/(1+s・T)で表される一次遅れフィルタである。Tは時定数であり、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去するように定められる。なお、「除去」には、脈動成分の一部が減衰、すなわち低減される場合が含まれるものとする。時定数Tについては、速度指令値に基づいて運転制御部102で設定され、運転制御部102がローパスフィルタ555,556に通知してもよいし、ローパスフィルタ555,556が保持していてもよい。ローパスフィルタ555,556については、一次遅れフィルタは一例であって、移動平均フィルタなどであってもよいし、高周波側の脈動成分を除去できればフィルタの種類は限定されない。
【0057】
ローパスフィルタ555は、余弦成分ωest・cosθmnに対してローパスフィルタリングを行なって、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去し、低周波数成分ωestcosを出力する。低周波数成分ωestcosは、周波数推定値ωestの脈動成分のうち、周波数がωmnである余弦成分を表す直流量である。
【0058】
ローパスフィルタ556は、正弦成分ωest・sinθmnに対してローパスフィルタリングを行なって、周波数ωmnよりも高い周波数の脈動成分を除去し、低周波数成分ωestsinを出力する。低周波数成分ωestsinは、周波数推定値ωestの脈動成分のうち、周波数がωmnである正弦成分を表す直流量である。
【0059】
減算部557は、ローパスフィルタ555から出力された低周波数成分ωestcosと0との差分(ωestcos-0)を算出する。減算部558は、ローパスフィルタ556から出力された低周波数成分ωestsinと0との差分(ωestsin-0)を算出する。
【0060】
周波数制御部559は、減算部557で算出された差分(ωestcos-0)に対して比例積分演算を行って、差分(ωestcos-0)をゼロに近付ける電流指令値の余弦成分iδtrqcosを算出する。周波数制御部559は、このようにして余弦成分iδtrqcosを生成することで、低周波数成分ωestcosを0に一致させるための制御を行う。
【0061】
周波数制御部560は、減算部558で算出された差分(ωestsin-0)に対して比例積分演算を行って、差分(ωestsin-0)をゼロに近付ける電流指令値の正弦成分iδtrqsinを算出する。周波数制御部560は、このようにして正弦成分iδtrqsinを生成することで、低周波数成分ωestsinを0に一致させるための制御を行う。
【0062】
乗算部561は、周波数制御部559から出力された余弦成分iδtrqcosに余弦cosθmnを乗算してiδtrqcos・cosθmnを生成する。iδtrqcos・cosθmnは、周波数n・ωestを持つ交流成分である。
【0063】
乗算部562は、周波数制御部560から出力された正弦成分iδtrqsinに正弦sinθmnを乗算してiδtrqsin・sinθmnを生成する。iδtrqsin・sinθmnは、周波数n・ωestを持つ交流成分である。
【0064】
加算部563は、乗算部561から出力されたiδtrqcos・cosθmnと、乗算部562から出力されたiδtrqsin・sinθmnとの和を求める。振動抑制制御補償値演算部503は、加算部563で求められたものを、トルク電流補償値iδtrq として出力する。
【0065】
振動抑制制御部505は、振動抑制制御補償値演算部503において上記のようにして求められたトルク電流補償値iδtrq を演算途中のトルク電流指令値に加算し、加算結果を、補正された第2のトルク電流指令値iδ ***として用いることで、脈動成分を抑制することができる。
【0066】
振動抑制制限制御部504の構成について説明する。図7は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える振動抑制制限制御部504の構成例を示すブロック図である。振動抑制制限制御部504は、電源高調波規格値計算部601と、次数成分演算部602と、減算部603と、積分制御部604と、設定部605と、を備える。
【0067】
電源高調波規格値計算部601は、電源高調波において各次数に対する電源高調波規格値を計算する。図8は、実施の形態1に係る振動抑制制限制御部504が備える電源高調波規格値計算部601の構成例を示すブロック図である。電源高調波規格値計算部601は、電力計算部611と、電力乗算部612と、限度値換算部613と、係数乗算部614と、を備える。
【0068】
電力計算部611は、γ軸電圧指令値Vγ 、δ軸電圧指令値Vδ 、励磁電流iγ、およびトルク電流iδを用いて、γ軸電圧指令値Vγ ×励磁電流iγ+δ軸電圧指令値Vδ ×トルク電流iδの計算式で電力Wを計算する。
【0069】
電力乗算部612は、電力Wから規定された600ワットを超える電力を(W-600)として算出し、算出した値を次数ごとに規定されている最大許容高調波電流の第2項に乗算する。600ワットは、JIS(Japanese Industrial Standards) C 61000-3-2で規定された値である。図8の例では「1.08+0.00033」は電源高調波の次数が2のときの最大許容高調波電流であるので、電力乗算部612は、「1.08+0.00033(W-600)」のように計算する。電力乗算部612は、電源高調波の他の次数についても同様の計算を行う。
【0070】
限度値換算部613は、電力乗算部612で得られた各次数の値に対して(230/電源電圧)を乗算し、各次数についての限度値を計算する。なお、230は、前述のJIS C 61000-3-2で規定された、電源が単相の場合の値である。電源電圧は、一般的な使用環境であれば100Vまたは200Vとなる。
【0071】
係数乗算部614は、限度値換算部613で得られた各次数についての限度値に対してマージンを設定するため、0<K≦1の係数Kを乗算し、電源高調波において各次数に対する電源高調波規格値を得る。例えば、k=0.5の場合は電源高調波規格値に対して50%のマージンを持たせる場合であり、k=1の場合は電源高調波規格値に対してマージンを持たせない場合である。
【0072】
図7の説明に戻る。次数成分演算部602は、負荷電流Idcを用いて、電源高調波の各次数成分を演算する。図9は、実施の形態1に係る振動抑制制限制御部504が備える次数成分演算部602の構成例を示すブロック図である。次数成分演算部602は、乗算部621,622と、ローパスフィルタ623,624と、ピーク値演算部625と、実効値演算部626と、2乗部627と、除算部628,629と、加算部630と、1/2乗部631と、を備える。ここで、次数成分演算部602は、電源高調波の各次数について、整数値のみを対象とせず、前後の次数と連携することで全ての範囲を対象とする。次数成分演算部602は、例えは、2次を対象にする場合は1.5~2.5次を対象とし、3次を対象にする場合は2.5~3.5次を対象とする。具体的には、商用電源1の電源周波数が50Hzの場合、次数成分演算部602は、次数が2次の場合、75Hzから125Hzの範囲において5Hz単位で演算を行う。そのため、次数成分演算部602は、乗算部621,622、ローパスフィルタ623,624、ピーク値演算部625、および実効値演算部626を、対象の次数分×各次数での演算対象の周波数成分の数分備える。
【0073】
乗算部621は、負荷電流Idcに演算対象となる周波数成分θの余弦cosθを乗算する。乗算部622は、負荷電流Idcに演算対象となる周波数成分θの正弦sinθを乗算する。ローパスフィルタ623は、乗算部621で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ローパスフィルタ624は、乗算部622で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ピーク値演算部625は、ローパスフィルタ623から取得したIdccosxおよびローパスフィルタ624から取得したIdcsinxを用いて、演算対象となる周波数成分θのピーク値を演算する。実効値演算部626は、ピーク値演算部625で得られた演算対象となる周波数成分θのピーク値を√(2)で除算することで、演算対象となる周波数成分θの実効値を演算する。なお、√(2)は2の平方根を表している。
【0074】
2乗部627は、演算対象の次数の各周波数で演算された実効値を2乗する。なお、図9では、周波数成分のうち、最小周波数を(n-1).5次と記載し、0.1次ずつ大きくして、最大周波数をn.5次と記載している。例えば、次数が2のとき、最小周波数は1.5次となり、最大周波数は2.5次となる。ここで、各次数で演算される対象の周波数成分のうち、最小周波数は1つ下の次数の最大周波数と同一となり、最大周波数は1つ上の次数の最小周波数と同一となる。除算部628は、重複する部分の影響を排除するため、2乗部627で得られた最小周波数の実効値の2乗値を1/2にする。除算部629は、重複する部分の影響を排除するため、2乗部627で得られた最大周波数の実効値の2乗値を1/2にする。加算部630は、演算対象の次数の各周波数で演算された実効値を2乗した値、または2乗した値を1/2にした値を加算して合計値を求める。1/2乗部631は、加算部630で得られた合計値の平方根を取って演算対象の次数成分の大きさを求める。次数成分演算部602は、同様の演算を次数分行う。
【0075】
図7の説明に戻る。減算部603は、電源高調波規格値裕度を計算する。具体的には、減算部603は、各次数について、電源高調波規格値計算部601で演算された電源高調波規格値と、次数成分演算部602で演算された電源高調波の次数成分との差分を計算する。減算部603は、計算した差分を電源高調波規格値裕度として積分制御部604に出力する。
【0076】
積分制御部604は、減算部603で計算された電源高調波規格値裕度に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける、すなわち次数成分演算部602で演算された電源高調波の次数成分を電源高調波規格値計算部601で演算された電源高調波規格値に近付ける電流値idckを演算する。
【0077】
設定部605は、積分制御部604で演算された電流値idckが0以上か0未満によって、振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim を設定する。具体的には、設定部605は、式(2)のように、振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim を設定する。
【0078】
【数2】
【0079】
速度制御部502および振動抑制制御部505の構成について説明する。図10は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える速度制御部502および振動抑制制御部505の構成例を示すブロック図である。速度制御部502は、減算部711と、比例制御部712と、積分制御部713と、加算部714と、を備える。振動抑制制御部505は、加算部721と、制限部722と、減算部726と、加算部727と、リミッタ728と、加算部729と、を備える。制限部722は、記憶部723と、選択部724と、リミッタ725と、を備える。
【0080】
速度制御部502において、減算部711は、周波数指令値ω に対する、周波数推定部501で推定された周波数推定値ωestの差分(ω -ωest)を算出する。比例制御部712は、減算部711から取得した、周波数指令値ω と周波数推定値ωestとの差分(ω -ωest)に対して比例制御を行い、比例項iδp を出力する。積分制御部713は、減算部711から取得した、周波数指令値ω と周波数推定値ωestとの差分(ω -ωest)に対して積分制御を行い、積分項iδi を出力する。加算部714は、比例制御部712から取得した比例項iδp と、積分制御部713から取得した積分項iδi とを加算して、第1のトルク電流指令値iδ を生成する。
【0081】
振動抑制制御部505において、加算部721は、速度制御部502で生成された第1のトルク電流指令値iδ と、振動抑制制御補償値演算部503から取得したトルク電流補償値iδtrq とを加算して、中間トルク電流指令値iδ **を生成する。
【0082】
制限部722は、中間トルク電流指令値iδ **に対するリミット値を設定する。一般的に、冷凍サイクル適用機器を制御する電力変換装置200では、振動抑制制御などを目的として、中間トルク電流指令値iδ **に対してリミット値を設定している。本実施の形態において、振動抑制制御部505は、中間トルク電流指令値iδ **に対するリミット値として、δ軸電流リミット値iδlim1,iδlim2,iδtrqlimを用いる。δ軸電流リミット値iδlim1は式(3)で表すことができ、δ軸電流リミット値iδlim2は式(4)で表すことができ、δ軸電流リミット値iδtrqlimは式(5)で表すことができる。
【0083】
【数3】
【0084】
【数4】
【0085】
【数5】
【0086】
δ軸電流リミット値iδlim2は、モータ7の回転速度が中高速領域の場合において、モータ7の電圧値に基づいて制限をかけることを想定したものである。式(4)において、Lγはγ軸インダクタンスであり、Lδはδ軸インダクタンスである。一般的に、インバータ30がモータ7に出力できる交流電圧の最大電圧には制限があるので、γδ軸電圧の制限値をVomとした場合、励磁電流iγとトルク電流iδとの関係は、式(6)のように表される。なお、制限値Vomについては、例えば、モータ7の巻線抵抗、インバータ30のスイッチング素子311~316などの電圧降下分を差し引いた値にしてもよい。インバータ30の出力限界範囲は、厳密には六角形状であるが、ここでは円で近似して考えている。本実施の形態では、円で近似することを前提として議論するが、厳密に六角形を考えて議論してもよいことは言うまでも無い。
【0087】
【数6】
【0088】
式(6)をトルク電流iδについて解くと、式(4)を導出することができる。式(4)のδ軸電流指令値は、電圧限界および弱め磁束制御の効き具合を考慮できている。δ軸電流リミット値iδlim2は、インバータ30がモータ7に出力可能な電圧に基づく制限値Vomである電圧制限値、モータ7の回転速度である電気角速度ω、モータ7のγδ軸磁束鎖交数Φ、γ軸インダクタンスLγ、δ軸インダクタンスLδから既定される。
【0089】
図10において、制限部722の記憶部723は、δ軸電流リミット値iδlim1,iδlim2を記憶している。すなわち、制限部722は、δ軸電流リミット値iδlim1,iδlim2を有している。選択部724は、記憶部723に記憶されているδ軸電流リミット値iδlim1,iδlim2のいずれかを選択し、δ軸電流リミット値iδlimとして出力する。δ軸電流リミット値iδlimは、中間トルク電流指令値iδ **に対する電流リミット値である。リミッタ725は、中間トルク電流指令値iδ **に対してδ軸電流リミット値iδlimで制限したものを制限トルク電流指令値iδlim として出力する。なお、制限部722は、δ軸電流リミット値iδlim1,iδlim2について、自身で演算して求めたものを記憶部723に記憶させてもよいし、外部、例えば、運転制御部102から取得して記憶部723に記憶させてもよい。
【0090】
減算部726は、制限部722から取得したδ軸電流リミット値iδlimと制限トルク電流指令値iδlim との差分を算出する。リミッタ725がδ軸電流リミット値iδlimの範囲内で制限した場合、iδ **≧iδlim≧iδlim となる。リミッタ725がδ軸電流リミット値iδlimを使い切らないケースもあるため、使い切らなかった分をδ軸電流リミット値iδlimと制限トルク電流指令値iδlim との差分として算出する。加算部727は、減算部726で算出された差分と、振動抑制制限制御部504で演算された振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim とを加算し、トルク電流補償値iδtrq に対するδ軸電流リミット値iδtrqlimを算出する。リミッタ728は、トルク電流補償値iδtrq に対してδ軸電流リミット値iδtrqlimで制限したものをリミッタ後のトルク電流補償値iδtrqlim として出力する。加算部729は、制限トルク電流指令値iδlim と、リミッタ後のトルク電流補償値iδtrqlim とを加算して、第2のトルク電流指令値Iδ ***を生成する。
【0091】
ここまで詳細に説明してきた構成および制御内容に基づいて、本実施の形態で得られる効果について説明する。図1に示す電力変換装置200において、平滑コンデンサ5の両端に接続された負荷は、例えば、インバータ30およびモータ7などで構成される負荷などが挙げられるが、ここでは周期的に脈動が発生するような負荷の接続を想定する。モータ7の機械角1周期中に1回脈動が大きく起きるような機器では、機器の振動、振動に起因する騒音などを防ぐ必要があるため、制御装置100が行う制御として、前述したような振動抑制制御、すなわち機械1f補償が広く使われている。振動抑制制御は、脈動する負荷トルクに出力トルクTを追従させることで、振動の原因となる速度むらを抑制する制御である。なお、機械1fは、モータ7の運転周波数である機械周波数の1倍成分を表している。
【0092】
図11は、実施の形態1に係る電力変換装置200において振動を抑制するための振動抑制制御を行った場合のモータトルク、負荷トルク、および負荷電流Idcの各波形の例を示す図である。図11において、上段はモータトルクおよび負荷トルクの各波形を示し、下段は負荷電流Idcの波形を示している。なお、横軸はいずれも時間を示している。図11の例では、負荷トルクに対して、モータトルクが追従している様子が見てとれる。なお、このときの特徴として、図11の下段に示すように電源側で発生する負荷電流Idcが正負にアンバランスするといった現象が起きる。これはつまり、制御装置100が振動抑制制御を行うことで、振動の抑制効果を得られる一方で、電源側の負荷電流Idcの機械1f成分の脈動は大きくなってしまい電源高調波規格に適合しない可能性が生じるということを意味する。規格に適合しない機器の使用は認められないため、電源高調波に関しても抑制する必要がある。ここで、制御装置100では、振動抑制制御をオフにすることで高調波を抑えることも考えられるが、急な制御切替などは脱調などを引き起こす切り替えショックに繋がるため、制御をオンオフするのではなく、徐々に制御を切り替えていくような手法を選択することが望ましい。
【0093】
図12は、実施の形態1に係る電力変換装置200において電源高調波を抑制するための負荷電流制御を行った場合のモータトルク、負荷トルク、および負荷電流Idcの各波形の例を示す図である。図12において、上段はモータトルクおよび負荷トルクの各波形を示し、下段は負荷電流Idcの波形を示している。なお、横軸はいずれも時間を示している。電源高調波が増大する原理として、負荷電流Idcが正負にアンバランス状態となることが起因しているため、図12の下段の波形のように負荷電流Idcの正負がバランス状態となっている場合は、電源高調波を抑え込むことができていると言える。このとき、図12の上段のモータトルクおよび負荷トルクの波形をみると、図11と比較して、モータトルクが負荷トルクに対して小振幅で遅れ位相となっていることがわかる。そのため、負荷電流制御というのは、すなわち、モータトルクを生成するトルク電流に対して、モータトルクを振幅が小さく、かつ位相が遅れ位相となるようにシフトするような補償量を加算することに他ならない。本実施の形態では、モータトルクの振幅および位相を徐々にシフトするトルク電流補償値iδtrq を生成する振動抑制制御補償値演算部503を備えている。
【0094】
なお、ここで、モータ7のイナーシャが十分に大きい場合、トルクの振幅を小さくすることで、モータ7で消費される電力の瞬時電力振幅もまた小さくなるため、制御装置100がこの瞬時電力を制御するようにしてもよい。モータトルクの振幅および位相を徐々にシフトさせる方法として、前述した電源高調波規格値と次数成分との差分を計算する演算部を制御装置100の内部に持たせ、次数成分が電源高調波規格値を超えた範囲で負荷電流制御を動作させる振動抑制制限制御部504を用いることで達成できる。本実施の形態のような制御を行うことによって、高調波規格適合の課題に対して、コンバータ回路の回路定数、スイッチング方法などを変更する必要がなく、制御によってのみ解決を図ることができ、開発負荷が小さくかつ安価かつ信頼性の高い電力変換装置200を得ることが出来る。
【0095】
このように、制御装置100は、モータ7の振動を低減する振動抑制制御、および平滑コンデンサ5の出力電流である負荷電流Idcを所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行う。制御装置100は、負荷電流制御として、モータ7で消費される瞬時電力の正負のピーク値の差の絶対値が小さくなるようにインバータ30が出力する電圧を制御する。このような制御は、制御装置100が、モータ7で消費される瞬時電力の正負のピークについてピークtoピークの値が小さくなるようにインバータ30が出力する電圧を制御することと同じである。制御装置100は、負荷電流制御として、負荷で発生する負荷トルクに対して、モータ7で発生するモータトルクの正負のピーク値の差の絶対値が小さく、かつ正のピークの位相が遅れ位相となるようにインバータ30が出力する電圧を制御するとも言える。
【0096】
制御装置100の動作を、フローチャートを用いて説明する。図13は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100の動作を示すフローチャートである。制御装置100において、速度制御部502は、定電流負荷制御用の第1のトルク電流指令値iδ を生成する(ステップS1)。振動抑制制御補償値演算部503は、モータ7の出力トルクTが負荷トルクTの周期的変動に追従するように振動抑制制御補償値であるトルク電流補償値iδtrq を生成する(ステップS2)。振動抑制制限制御部504は、振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim を生成する(ステップS3)。振動抑制制御部505は、第1のトルク電流指令値iδ 、トルク電流補償値iδtrq 、および振動抑制制限トルク電流指令値Δiδtrqlim に基づいて、第2のトルク電流指令値iδ ***を生成する(ステップS4)。負荷電流制御部508は、負荷電流Idc、および機械角位相θに基づいて、トルク電流補償値iδlcc を生成する(ステップS5)。加算部509は、第2のトルク電流指令値iδ ***とトルク電流補償値iδlcc とを加算し、第3のトルク電流指令値iδ ****を生成する(ステップS6)。
【0097】
つづいて、電力変換装置200が備える制御装置100のハードウェア構成について説明する。図14は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置100は、プロセッサ91およびメモリ92により実現される。
【0098】
プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ92は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
【0099】
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置200において、制御装置100は、モータ7の振動を低減する振動抑制制御、および平滑コンデンサ5の出力電流である負荷電流Idcを所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行う。制御装置100は、モータ7に第2の交流電力を出力するインバータ30の動作状態、すなわちインバータ30に対する制御内容に応じて、振動抑制制御および負荷電流制御の各制御内容を調整する。これにより、電力変換装置200は、接続されるモータ7などの負荷での振動の発生を抑制しつつ、高調波成分の発生を抑制することができる。
【0100】
なお、電力変換装置200において、制御装置100は、有効電流であるδ軸電流の代わりに無効電流であるγ軸電流を用い、モータ7の巻線抵抗による有効電力の変化を利用して、インバータ30に流入される直流電流である負荷電流Idcが規定された値、すなわち一定の値に近付くよう制御することで、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。以降の実施の形態についても同様である。
【0101】
実施の形態2.
図15は、実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した電力変換装置200を備える。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。なお、図15において、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素には、実施の形態1と同一の符号を付している。
【0102】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1におけるモータ7を内蔵した圧縮機8と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。
【0103】
圧縮機8の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ7とが設けられている。
【0104】
冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御されるモータ7によって駆動される。
【0105】
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0106】
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0107】
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0108】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 商用電源、2 リアクタ、3 整流部、5 平滑コンデンサ、7 モータ、8 圧縮機、10 母線電圧検出部、12a,12b 直流母線、30 インバータ、40 負荷電流検出部、100 制御装置、102 運転制御部、110 インバータ制御部、111 電流復元部、112 3相2相変換部、113 励磁電流指令値生成部、115 電圧指令値演算部、116 電気位相演算部、117 2相3相変換部、118 PWM信号生成部、131~134,321~326 整流素子、200 電力変換装置、310 インバータ主回路、311~316 スイッチング素子、331~333 出力線、350 駆動回路、400 モータ駆動装置、501 周波数推定部、502 速度制御部、503 振動抑制制御補償値演算部、504 振動抑制制限制御部、505 振動抑制制御部、506,528,529,604,713 積分制御部、507 機械角位相演算部、508 負荷電流制御部、509,532,563,630,714,721,727,729 加算部、510,511,526,527,557,558,603,711,726 減算部、512 γ軸電流制御部、513 δ軸電流制御部、521,553,554,561,562,621,622 乗算部、522,530,552 正弦演算部、523,531,551 余弦演算部、524,525,555,556,623,624 ローパスフィルタ、550 演算部、559,560 周波数制御部、601 電源高調波規格値計算部、602 次数成分演算部、605 設定部、611 電力計算部、612 電力乗算部、613 限度値換算部、614 係数乗算部、625 ピーク値演算部、626 実効値演算部、627 2乗部、628,629 除算部、631 1/2乗部、712 比例制御部、722 制限部、723 記憶部、724 選択部、725,728 リミッタ、900 冷凍サイクル適用機器、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15