(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2023554219
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2021039143
(87)【国際公開番号】W WO2023067811
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】堤 翔英
(72)【発明者】
【氏名】豊留 慎也
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和徳
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232591(JP,A)
【文献】特開2020-058184(JP,A)
【文献】特開2017-112755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、
前記整流部の出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成してモータに出力するインバータと、
前記インバータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記モータに供給する電流の振幅の変動を低減する電流ピーク制御、および前記コンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、前記電流ピーク制御および前記負荷電流制御の
各制御の制御量の割合であってどちらの制御を優先的に行うのかを表す制御割合を調整し、
前記負荷電流制御を優先的に行うため前記負荷電流制御の制御割合が大きくなるほど、前記モータに供給する電流において前記モータの運転周波数である機械周波数の1倍成分が大きくなるように前記インバータの動作を制御する、
電力変換装置。
【請求項2】
商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、
前記整流部の出力端に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成してモータに出力するインバータと、
前記インバータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記モータに供給する電流の振幅の変動を低減する電流ピーク制御、および前記コンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、前記モータの運転周波数が前記商用電源の電源周波数の0.6倍または1.4倍の場合、前記モータに供給する電流において前記モータの運転周波数である機械周波数の1倍成分が前記負荷電流制御を行わないときと比較して大きくなるように前記負荷電流制御を行う、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力変換装置を備えるモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電力変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力を所望の電力に変換する電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の動作を制御する電動機制御装置などの装置は、シングルロータリ圧縮機、ツインロータリ圧縮機などを駆動する電動機の状態に応じて、トルクの脈動成分を適切に補償することで、消費電力の増加を抑制している。このような技術が特許文献1において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、消費電力の低減を目的にトルク脈動成分を補償するものであるが、電源周波数と非同期の周波数とで電動機のトルク脈動を発生させると、平滑コンデンサの充放電電流が電源電流の正側と負側とでアンバランス状態となり、偶数次高調波成分が増加してしまうおそれがある、という問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、消費電力を低減する制御および高調波成分の発生を抑制する制御の制御量を調整可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電力変換装置は、商用電源から供給される第1の交流電力を整流する整流部と、整流部の出力端に接続されるコンデンサと、コンデンサの両端に接続され、第2の交流電力を生成してモータに出力するインバータと、インバータの動作を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、モータに供給する電流の振幅の変動を低減する電流ピーク制御、およびコンデンサの出力電流である負荷電流を所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行い、電流ピーク制御および負荷電流制御の各制御の制御量の割合であってどちらの制御を優先的に行うのかを表す制御割合を調整し、負荷電流制御を優先的に行うため負荷電流制御の制御割合が大きくなるほど、モータに供給する電流においてモータの運転周波数である機械周波数の1倍成分が大きくなるようにインバータの動作を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電力変換装置は、消費電力を低減する制御および高調波成分の発生を抑制する制御の制御量を調整することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1に係る電力変換装置が備えるインバータの構成例を示す図
【
図3】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置で電流ピーク制御を行った場合の負荷電流の波形およびインバータから出力される相電流の波形の例を示す図
【
図4】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置で負荷電流制御を行った場合の負荷電流の波形およびインバータから出力される相電流の波形の例を示す図
【
図5】一般的な振幅変調における被変調波の周波数スペクトルの例を示す図
【
図6】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置が負荷電流制御を行ったときにモータに流れる電流の各周波数での強度を示す図
【
図7】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置の構成例を示すブロック図
【
図8】実施の形態1に係る制御装置が備える電圧指令値演算部の構成例を示すブロック図
【
図9】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える電源高調波規格値計算部の構成例を示すブロック図
【
図10】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える次数成分演算部の構成例を示すブロック図
【
図11】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える設定部の制御内容の例を示す図
【
図12】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える電流ピーク制御部の構成例を示すブロック図
【
図13】実施の形態1に係る電圧指令値演算部が備える負荷電流制御部の構成例を示すブロック図
【
図14】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置の動作を示すフローチャート
【
図15】実施の形態1に係る電力変換装置が備える制御装置を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【
図16】実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態に係る電力変換装置、モータ駆動装置および冷凍サイクル適用機器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置200の構成例を示す図である。
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備えるインバータ30の構成例を示す図である。電力変換装置200は、商用電源1および圧縮機8に接続される。電力変換装置200は、商用電源1から供給される電源電圧V
sの第1の交流電力を所望の振幅および位相を有する第2の交流電力に変換し、圧縮機8に供給する。電力変換装置200は、リアクタ2と、整流部3と、平滑コンデンサ5と、インバータ30と、母線電圧検出部10と、負荷電流検出部40と、制御装置100と、を備える。なお、電力変換装置200、および圧縮機8が備えるモータ7によって、モータ駆動装置400を構成している。
【0011】
商用電源1は、周波数が50Hzまたは60Hzを想定しているがこれらに限定されない。また、商用電源1は、交流電力を出力できればよいので、分散電源などであってもよい。リアクタ2は、商用電源1と整流部3との間に接続される。リアクタ2は、電磁鋼板などを積層したEI形状、EE形状などの形状のものであり、フェライト、アモルファスなどの鉄心を用いたものであり、巻線は銅、アルミなどである。整流部3は、整流素子131~134によって構成されるブリッジ回路を有し、商用電源1から供給される電源電圧Vsの第1の交流電力を整流して出力する。整流部3は、全波整流を行うものである。整流素子131~134は、例えばダイオードであるが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などのパワー半導体であってもよい。
【0012】
平滑コンデンサ5は、整流部3の出力端に接続され、整流部3によって整流された電力を平滑化する平滑素子である。平滑コンデンサ5は、例えば、電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどのコンデンサである。平滑コンデンサ5は、整流部3によって整流された電力を平滑化するような容量を有し、平滑化により平滑コンデンサ5に発生する電圧は商用電源1の全波整流波形形状ではなく、直流成分に商用電源1の周波数に応じた電圧リプルが重畳した波形形状となり、大きく脈動しない。この電圧リプルの周波数は、商用電源1が単相の場合は電源電圧Vsの周波数の2倍成分となり、商用電源1が三相の場合は6倍成分が主成分となる。商用電源1から入力される電力とインバータ30から出力される電力が変化しない場合、この電圧リプルの振幅は平滑コンデンサ5の容量によって決まる。例えば、平滑コンデンサ5に発生する電圧リプルの最大値が最小値の2倍未満となるような範囲で脈動している。
【0013】
母線電圧検出部10は、平滑コンデンサ5の両端電圧、すなわち直流母線12a,12b間の電圧を母線電圧Vdcとして検出し、検出した電圧値を制御装置100に出力する検出部である。負荷電流検出部40は、平滑コンデンサ5からインバータ30に流入される直流電流である負荷電流Idcを検出し、検出した電流値を制御装置100に出力する検出部である。
【0014】
インバータ30は、平滑コンデンサ5の両端に接続され、整流部3および平滑コンデンサ5から出力される電力を所望の振幅および位相を有する第2の交流電力に変換、すなわち第2の交流電力を生成して、モータ7に出力する。具体的には、インバータ30は、母線電圧V
dcを受けて、周波数および電圧値が可変の3相交流電圧を発生して、出力線331~333を介してモータ7に供給する。インバータ30は、
図2に示すように、インバータ主回路310と、駆動回路350と、を備える。インバータ主回路310の入力端子は、直流母線12a,12bに接続されている。インバータ主回路310は、スイッチング素子311~316を備える。スイッチング素子311~316の各々には、還流用の整流素子321~326が逆並列接続されている。
【0015】
駆動回路350は、制御装置100から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号Sm1~Sm6に基づいて、駆動信号Sr1~Sr6を生成する。駆動回路350は、駆動信号Sr1~Sr6によってスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。これにより、インバータ30は、周波数可変かつ電圧可変の3相交流電圧を、出力線331~333を介してモータ7に供給することができる。
【0016】
PWM信号Sm1~Sm6は、論理回路の信号レベル、すなわち0V~5Vの大きさを持つ信号である。PWM信号Sm1~Sm6は、制御装置100の接地電位を基準電位とする信号である。一方、駆動信号Sr1~Sr6は、スイッチング素子311~316を制御するのに必要な電圧レベル、例えば、-15V~+15Vの大きさを持つ信号である。駆動信号Sr1~Sr6は、それぞれ対応するスイッチング素子311~316の負側の端子、すなわちエミッタ端子の電位を基準電位とする信号である。
【0017】
圧縮機8は、圧縮駆動用のモータ7を有する負荷である。モータ7は、インバータ30から供給される第2の交流電力の振幅および位相に応じて回転し、圧縮動作を行う。例えば、圧縮機8が空気調和機などで使用される密閉型圧縮機の場合、圧縮機8の負荷トルクは定トルク負荷とみなせる場合が多い。モータ7について、
図1ではモータ巻線がY結線の場合を示しているが、一例であり、これに限定されない。モータ7のモータ巻線は、Δ結線であってもよいし、Y結線とΔ結線とが切り替え可能な仕様であってもよい。本実施の形態では、圧縮機8として、シングルロータリ圧縮機、スクロール圧縮機などを想定しているが、これらに限定されない。
【0018】
なお、電力変換装置200において、
図1に示す各構成の配置は一例であり、各構成の配置は
図1で示される例に限定されない。例えば、リアクタ2は、整流部3の後段に配置されてもよい。また、電力変換装置200は、昇圧部を備えてもよいし、整流部3に昇圧部の機能を持たせるようにしてもよい。以降の説明において、母線電圧検出部10および負荷電流検出部40をまとめて検出部と称することがある。また、母線電圧検出部10で検出された電圧値、および負荷電流検出部40で検出された電流値を、検出値と称することがある。
【0019】
制御装置100は、母線電圧検出部10から母線電圧Vdcを取得し、負荷電流検出部40から負荷電流Idcを取得する。制御装置100は、各検出部によって検出された検出値を用いて、インバータ主回路310の動作、具体的には、インバータ主回路310が有するスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。本実施の形態において、制御装置100は、電力変換装置200で発生する電源高調波の発生を抑制するように、インバータ30の動作を制御する。なお、制御装置100は、各検出部から取得した全ての検出値を用いなくてもよく、一部の検出値を用いて制御を行ってもよい。
【0020】
ここで、本実施の形態において、制御装置100の制御によって得られる効果について説明する。制御装置100の具体的な構成および動作については後述する。本実施の形態において、平滑コンデンサ5の両端に接続される負荷は、例えば、
図1に示すようにインバータ30およびモータ7などで構成される負荷などを想定しているが、周期的に脈動が発生するような負荷であればこれらに限定されない。
【0021】
モータ7の機械1f周期に1回脈動が大きく起きるような機器では、脈動による速度変化が生じる。なお、機械1fは、モータ7の運転周波数である機械周波数の1倍成分を表している。このとき、モータ7の速度変化の修正に寄与しない無駄な電流については、制御装置100の制御によって抑制効果を働かせ、モータ7の実効電流を低下させて消費電力を低減する手法が広く使われている。このような制御装置100による消費電力を低減する制御を電流ピーク制御と称する。
【0022】
図3は、実施の形態1に係る電力変換装置200の制御装置100で電流ピーク制御を行った場合の負荷電流I
dcの波形およびインバータ30から出力される相電流の波形の例を示す図である。
図3において、上段は負荷電流I
dcの波形を示し、下段は相電流の波形を示している。なお、横軸はいずれも時間を示している。相電流は、インバータ30とモータ7との間の出力線331~333に流れる電流である。
図3の下段では、出力線331~333、すなわち三相に流れる相電流のピークは全て揃っている様子が見てとれる。なお、このときの特徴として、
図3の上段に示すように、負荷電流I
dcが正負にアンバランスするといった現象が起きる。これはつまり、制御装置100が電流ピーク制御を行うことで、実効電流および消費電力の抑制効果を得られる一方で、負荷電流I
dcの機械1f成分の脈動は大きくなってしまい、電源高調波規格に適合しない可能性を生じるということを意味する。規格に適合しない機器の使用は認められないため、電源高調波に関しても抑制する必要がある。ここで、制御装置100では、電流ピーク制御をオフにすることで高調波を抑えることも考えられるが、急な制御切替などは脱調などを引き起こす切り替えショックに繋がるため、制御をオンオフするのではなく、徐々に制御を切り替えていくような手法を選択することが望ましい。
【0023】
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置200の制御装置100で負荷電流制御を行った場合の負荷電流I
dcの波形およびインバータ30から出力される相電流の波形の例を示す図である。
図4において、上段は負荷電流I
dcの波形を示し、下段は相電流の波形を示している。なお、横軸はいずれも時間を示している。負荷電流制御は、制御装置100において電源高調波を抑制するための制御である。電源高調波が増大する原理として、平滑コンデンサ5の充放電電流である負荷電流I
dcの正負でアンバランス状態となることが起因しているため、
図4の上段に示すように負荷電流I
dcの正負がバランス状態となっている場合は、電源高調波を抑え込むことができていると言える。このとき、
図4の下段の相電流の波形をみると、
図3の下段に示す電流ピーク制御のときと比較して、ピーク値が時間的に変化していることがわかる。電流ピーク制御においては、例えば、周波数推定部の出力にフィルタを設け、トルク電流であるδ軸電流指令値が変動しないように制御することで実現される。これに対して、負荷電流制御については、当該フィルタを用いずに制御される。そのため、当該フィルタのカットオフ周波数を徐々に変更し、フィルタによる減衰効果を徐々に弱めていくことで、電流ピーク制御から負荷電流制御に変化させることができる。これにより、トルク電流の変動が許容されるようになり、ピーク電流を機械1f成分に合わせて変動させることが可能となる。詳細については後述する。
【0024】
電流ピーク制御では、負荷が機械的に1回転で変化、すなわち機械1fで変化する。これに対して、モータ7は、インバータ30が一定のトルクを出力することで電流ピークを一定に保つよう制御される。そのため、モータ7は、高負荷のときには速度が低下し、低負荷のときには速度が増加するように動作する。そのため、
図3の下段に示すように、モータ7に流れる電流、すなわち相電流の電流ピークは一定で、周波数が機械1f周期で変動する波形となる。つまり、相電流は周波数変調をかけた状態となるため、機械1f成分をfm、モータ7の極数をPmとすると、モータ7の電気1f成分はPm・fmとなり、電流スペクトルはPm・fmおよびPm・fm±fmの周波数に顕著に表れる。例えば、fm=30Hzの場合、90Hz、60Hz、および120Hzに顕著な電流が現れる。
【0025】
一方、負荷電流制御では、負荷電流Idcを所望の値に近付けるように制御される。すなわち、負荷電流制御は、高負荷のときには電流を低減させ、低負荷のときには電流を増加させるような動作となる。そのため、モータ7に流れる電流は、機械1f周期で電流のピークが増減する波形となる。つまり、相電流は振幅変調をかけた状態となる。
【0026】
ここで、振幅変調の一般的な原理を考える。まず、電流に相当する搬送波を式(1)と仮定する。
【0027】
【0028】
この場合、振幅変調後の波形である被変調波は式(2)となる。
【0029】
【0030】
ここで、Aは振幅を示し、mは変調度を示し、ωsは変調波の角周波数を示し、θsは変調波の位相を示し、ωcは搬送波の角周波数を示し、θcは搬送波の位相を示している。さらに、式(2)を和積の公式を用いて分解すると式(3)が得られる。
【0031】
【0032】
得られた式(3)は、第一項が搬送波周波数の成分、第二項が搬送波周波数と変調波周波数との和の成分、第三項が搬送波周波数と変調波周波数との差の成分となっている。これはつまり、搬送波の両側に変調波の和差信号が現れることを意味する。
図5は、一般的な振幅変調における被変調波の周波数スペクトルの例を示す図である。
図5において、横軸は周波数を示し、縦軸は各周波数での強度を示している。また、
図5において、f
sは変調波の周波数を示し、f
cは搬送波の周波数を示している。ここで注目すべきは、振幅変調の前後で変調波の周波数f
sが顕著となることである。
【0033】
負荷電流制御の説明に戻る。負荷電流制御の制御時には、電流スペクトルは電流振幅が機械1f周期で変動するため、機械1f成分が顕著に表れるようになる。機械1f成分は振幅変調における変調波の周波数f
sに相当するため、負荷電流制御は振幅変調をかけた状態と言える。実際の負荷電流制御時の周波数解析結果の波形を
図6に示す。
図6は、実施の形態1に係る電力変換装置200の制御装置100が負荷電流制御を行ったときにモータ7に流れる電流の各周波数での強度を示す図である。
図6において、横軸は周波数を示し、縦軸は電流の強度を示している。
【0034】
以上のことから、制御装置100は、モータ7に供給する電流の振幅の変動を低減する電流ピーク制御、および平滑コンデンサ5の出力電流である負荷電流Idcを所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行う。制御装置100は、電流ピーク制御と負荷電流制御とを切替える際、モータ7に流れる電流の機械1f成分を増減させるようにインバータ30が出力する電流を変化させることで、各制御のスムーズな切り替えが可能となる。
【0035】
つづいて、上記のような制御を行う制御装置100の構成および動作について説明する。
図7は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100の構成例を示すブロック図である。制御装置100は、運転制御部102と、インバータ制御部110と、を備える。
【0036】
運転制御部102は、外部から指令情報Qeを受け、指令情報Qeに基づいて、周波数指令値ωe
*を生成する。周波数指令値ωe
*は、下記の式(4)に示すように、モータ7の回転速度の指令値である回転角速度指令値ωm
*にモータ7の極対数Pmを乗算することで求めることができる。
【0037】
【0038】
制御装置100は、冷凍サイクル適用機器として空気調和機を制御する場合、指令情報Qeに基づいて空気調和機の各部の動作を制御する。指令情報Qeは、例えば、図示しない温度センサで検出された温度、図示しない操作部であるリモコンから指示される設定温度を示す情報、運転モードの選択情報、運転開始及び運転終了の指示情報などである。運転モードとは、例えば、暖房、冷房、除湿などである。なお、運転制御部102については、制御装置100の外部にあってもよい。すなわち、制御装置100は、外部から周波数指令値ωe
*を取得する構成であってもよい。
【0039】
インバータ制御部110は、電流復元部111と、3相2相変換部112と、励磁電流指令値生成部113と、電圧指令値演算部115と、電気位相演算部116と、2相3相変換部117と、PWM信号生成部118と、を備える。
【0040】
電流復元部111は、負荷電流検出部40で検出された負荷電流Idcに基づいてモータ7に流れる相電流iu,iv,iwを復元する。電流復元部111は、負荷電流検出部40で検出された負荷電流Idcを、PWM信号生成部118で生成されたPWM信号Sm1~Sm6に基づいて定められるタイミングでサンプリングすることによって、相電流iu,iv,iwを復元することができる。
【0041】
3相2相変換部112は、電流復元部111で復元された相電流iu,iv,iwを、後述する電気位相演算部116で生成された電気位相θeを用いて、γ軸電流である励磁電流iγ、およびδ軸電流であるトルク電流iδ、すなわちγδ軸の電流値に変換する。
【0042】
励磁電流指令値生成部113は、前述の回転座標系における励磁電流指令値iγ
*を生成する。具体的には、励磁電流指令値生成部113は、トルク電流iδに基づいて、モータ7を駆動するために最も効率が良くなる最適な励磁電流指令値iγ
*を求める。励磁電流指令値生成部113は、トルク電流iδに基づいて、モータ7の出力トルクTmが規定された値以上または最大になる、すなわち電流値が規定された値以下または最小になる電流位相βmとなる励磁電流指令値iγ
*を出力する。なお、ここでは、励磁電流指令値生成部113が、トルク電流iδに基づいて励磁電流指令値iγ
*を求めているが、一例であり、これに限定されない。励磁電流指令値生成部113は、励磁電流iγ、周波数指令値ωe
*などに基づいて励磁電流指令値iγ
*を求めても、同様の効果を得ることができる。また、励磁電流指令値生成部113は、弱め磁束制御などによって励磁電流指令値iγ
*を決定してもよい。以降の説明において、励磁電流指令値をγ軸電流指令値と称することがある。
【0043】
電圧指令値演算部115は、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idcと、運転制御部102から取得した周波数指令値ωe
*と、3相2相変換部112から取得した励磁電流iγおよびトルク電流iδと、励磁電流指令値生成部113から取得した励磁電流指令値iγ
*とに基づいて、γ軸電圧指令値Vγ
*およびδ軸電圧指令値Vδ
*を生成する。さらに、電圧指令値演算部115は、γ軸電圧指令値Vγ
*と、δ軸電圧指令値Vδ
*と、励磁電流iγと、トルク電流iδとに基づいて、周波数推定値ωestを推定する。
【0044】
電気位相演算部116は、電圧指令値演算部115から取得した周波数推定値ωestを積分することで、電気位相θeを演算する。
【0045】
2相3相変換部117は、電圧指令値演算部115から取得したγ軸電圧指令値Vγ
*およびδ軸電圧指令値Vδ
*、すなわち2相座標系の電圧指令値を、電気位相演算部116から取得した電気位相θeを用いて、3相座標系の出力電圧指令値である3相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*に変換する。
【0046】
PWM信号生成部118は、2相3相変換部117から取得した3相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*と、母線電圧検出部10で検出された母線電圧Vdcとを比較することによって、PWM信号Sm1~Sm6を生成する。なお、PWM信号生成部118は、PWM信号Sm1~Sm6を出力しないようにすることによって、モータ7を停止することも可能である。
【0047】
本実施の形態において、制御装置100は、γ軸およびδ軸を有する回転座標系において制御を行う。以降の説明において、γ軸電流、δ軸電流などを励磁電流、トルク電流などと称することがある。
【0048】
電圧指令値演算部115の構成について説明する。
図8は、実施の形態1に係る制御装置100が備える電圧指令値演算部115の構成例を示すブロック図である。電圧指令値演算部115は、周波数推定部501と、調整部502と、積分制御部508と、機械角位相演算部509と、減算部510と、電流ピーク制御部511と、速度制御部512と、負荷電流制御部513と、加算部514と、減算部515,516と、γ軸電流制御部517と、δ軸電流制御部518と、を備える。調整部502は、電源高調波規格値計算部503と、次数成分演算部504と、減算部505と、積分制御部506と、設定部507と、を備える。
【0049】
周波数推定部501は、励磁電流iγと、トルク電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ
*と、δ軸電圧指令値Vδ
*とに基づいて、モータ7に供給される電圧の周波数を推定し、周波数推定値ωestとして出力する。
【0050】
調整部502は、制御装置100における、電流ピーク制御部511で行われる電流ピーク制御、および負荷電流制御部513で行われる負荷電流制御の各制御の制御割合を調整する。具体的には、調整部502において、電源高調波規格値計算部503は、電源高調波において各次数に対する電源高調波規格値を計算する。
図9は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える電源高調波規格値計算部503の構成例を示すブロック図である。電源高調波規格値計算部503は、電力計算部611と、電力乗算部612と、限度値換算部613と、係数乗算部614と、を備える。
【0051】
電力計算部611は、γ軸電圧指令値Vγ
*、δ軸電圧指令値Vδ
*、励磁電流iγ、およびトルク電流iδを用いて、γ軸電圧指令値Vγ
*×励磁電流iγ+δ軸電圧指令値Vδ
*×トルク電流iδの計算式で電力Wを計算する。
【0052】
電力乗算部612は、電力Wから規定された600ワットを超える電力を(W-600)として算出し、算出した値を次数ごとに規定されている最大許容高調波電流の第2項に乗算する。600ワットは、JIS(Japanese Industrial Standards) C 61000-3-2で規定された値である。
図8の例では「1.08+0.00033」は電源高調波の次数が2のときの最大許容高調波電流であるので、電力乗算部612は、「1.08+0.00033(W-600)」のように計算する。電力乗算部612は、電源高調波の他の次数についても同様の計算を行う。
【0053】
限度値換算部613は、電力乗算部612で得られた各次数の値に対して(230/電源電圧)を乗算し、各次数についての限度値を計算する。なお、230は、前述のJIS C 61000-3-2で規定された、電源が単相の場合の値である。電源電圧は、一般的な使用環境であれば100Vまたは200Vとなる。
【0054】
係数乗算部614は、限度値換算部613で得られた各次数についての限度値に対してマージンを設定するため、0<K≦1の係数Kを乗算し、電源高調波において各次数に対する電源高調波規格値を得る。例えば、k=0.5の場合は電源高調波規格値に対して50%のマージンを持たせる場合であり、k=1の場合は電源高調波規格値に対してマージンを持たせない場合である。
【0055】
図8の説明に戻る。次数成分演算部504は、負荷電流I
dcを用いて、電源高調波の各次数成分を演算する。
図10は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える次数成分演算部504の構成例を示すブロック図である。次数成分演算部504は、乗算部621,622と、ローパスフィルタ623,624と、ピーク値演算部625と、実効値演算部626と、2乗部627と、除算部628,629と、加算部630と、1/2乗部631と、を備える。ここで、次数成分演算部504は、電源高調波の各次数について、整数値のみを対象とせず、前後の次数と連携することで全ての範囲を対象とする。次数成分演算部504は、例えは、2次を対象にする場合は1.5~2.5次を対象とし、3次を対象にする場合は2.5~3.5次を対象とする。具体的には、商用電源1の電源周波数が50Hzの場合、次数成分演算部504は、次数が2次の場合、75Hzから125Hzの範囲において5Hz単位で演算を行う。そのため、次数成分演算部504は、乗算部621,622、ローパスフィルタ623,624、ピーク値演算部625、および実効値演算部626を、対象の次数分×各次数での演算対象の周波数成分の数分備える。
【0056】
乗算部621は、負荷電流Idcに演算対象となる周波数成分θxの余弦cosθxを乗算する。乗算部622は、負荷電流Idcに演算対象となる周波数成分θxの正弦sinθxを乗算する。ローパスフィルタ623は、乗算部621で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ローパスフィルタ624は、乗算部622で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ピーク値演算部625は、ローパスフィルタ623から取得したIdccosxおよびローパスフィルタ624から取得したIdcsinxを用いて、演算対象となる周波数成分θxのピーク値を演算する。実効値演算部626は、ピーク値演算部625で得られた演算対象となる周波数成分θxのピーク値を√(2)で除算することで、演算対象となる周波数成分θxの実効値を演算する。なお、√(2)は2の平方根を表している。
【0057】
2乗部627は、演算対象の次数の各周波数で演算された実効値を2乗する。なお、
図10では、周波数成分のうち、最小周波数を(n-1).5次と記載し、0.1次ずつ大きくして、最大周波数をn.5次と記載している。例えば、次数が2のとき、最小周波数は1.5次となり、最大周波数は2.5次となる。ここで、各次数で演算される対象の周波数成分のうち、最小周波数は1つ下の次数の最大周波数と同一となり、最大周波数は1つ上の次数の最小周波数と同一となる。除算部628は、重複する部分の影響を排除するため、2乗部627で得られた最小周波数の実効値の2乗値を1/2にする。除算部629は、重複する部分の影響を排除するため、2乗部627で得られた最大周波数の実効値の2乗値を1/2にする。加算部630は、演算対象の次数の各周波数で演算された実効値を2乗した値、または2乗した値を1/2にした値を加算して合計値を求める。1/2乗部631は、加算部630で得られた合計値の平方根を取って演算対象の次数成分の大きさを求める。次数成分演算部504は、同様の演算を次数分行う。
【0058】
図8の説明に戻る。減算部505は、電源高調波規格値裕度を計算する。具体的には、減算部505は、各次数について、電源高調波規格値計算部503で演算された電源高調波規格値と、次数成分演算部504で演算された電源高調波の次数成分との差分を計算する。減算部505は、計算した差分を電源高調波規格値裕度として積分制御部506に出力する。
【0059】
積分制御部506は、減算部505で計算された電源高調波規格値裕度に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける、すなわち次数成分演算部504で演算された電源高調波の次数成分を電源高調波規格値計算部503で演算された電源高調波規格値に近付ける電流値idckを演算する。
【0060】
設定部507は、積分制御部506で演算された電流値i
dckに基づいて、電流ピーク制御部511に対するカットオフ周波数ω
ff、および負荷電流制御部513に対するカットオフ周波数ω
fsを設定する。
図11は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える設定部507の制御内容の例を示す図である。ここで、時定数の逆数はカットオフ周波数となるため、電流ピーク制御部511に対する時定数をT
ffとし、負荷電流制御部513に対する時定数をT
fsとすると、「ω
ff=1/T
ff」となり、「ω
fs=1/T
fs」となる。本実施の形態では、設定部507は、電流値i
dckに応じてカットオフ周波数ω
ff,ω
fsを可変にしている。
【0061】
設定部507は、電流値idckが0以上となる範囲、すなわち高調波規格に対して余裕がある範囲では、カットオフ周波数ωffを大きくし、カットオフ周波数ωfsを小さくする。これにより、調整部502は、高調波規格に対して余裕がある運転範囲では、電流ピーク制御部511を優先的に動作させて負荷電流制御部513の動作を抑える、すなわち電流ピーク制御部511の制御量を大きくして負荷電流制御部513の制御量を小さくすることができる。一方、設定部507は、電流値idckが0未満となる範囲、すなわち高調波規格に対して余裕のない範囲では、カットオフ周波数ωffを小さくし、カットオフ周波数ωfsを大きくする。これにより、調整部502は、高調波規格に対して余裕のない運転範囲では、電流ピーク制御部511の動作を抑えて負荷電流制御部513を優先的に動作させる、すなわち電流ピーク制御部511の制御量を小さくして負荷電流制御部513の制御量を大きくすることができる。
【0062】
設定部507は、
図11に示すように、電流値i
dckが0以上の規定された範囲内で各カットオフ周波数を徐々に変化させていくことで、各制御の切替ショックなどを引き起こす事態を回避することが可能となる。なお、設定部507は、
図11の例では、線形的に各カットオフ周波数の値を変化させているが、一例であり、これに限定されない。設定部507は、各カットオフ周波数の値を連続的に変化させることができればよいので、一次関数以外の関数を用いて各カットオフ周波数の値を変化させてもよい。設定部507は、前述のように関数を用いて電流値i
dckに応じて各カットオフ周波数の値を演算して求めてもよいし、電流値i
dckに応じた各カットオフ周波数の値を予め保持しておき、電流値i
dckの値から各カットオフ周波数の値を読み取るようにしてもよい。
【0063】
積分制御部508は、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestに対して積分制御を行う。
【0064】
機械角位相演算部509は、積分制御部508で得られた値に1/Pmを乗算する、すなわち積分制御部508で得られた値をモータ7の極対数Pmで除算することで、機械角位相θmを演算する。
【0065】
減算部510は、周波数指令値ωe
*に対する、周波数推定部501で推定された周波数推定値ωestの差分(ωe
*-ωest)を速度偏差Δωとして算出する。
【0066】
電流ピーク制御部511は、δ軸電流を一定に制御する電流ピーク制御を行う。具体的には、電流ピーク制御部511は、機械角位相θ
mに基づいて、速度偏差Δωに含まれる負荷変動成分を除去する。電流ピーク制御部511は、速度偏差Δωから負荷変動成分を除去したものを、新たな速度偏差Δω
fとして速度制御部512に出力する。電流ピーク制御部511は、例えば、ノッチフィルタによって構成される。
図12は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える電流ピーク制御部511の構成例を示すブロック図である。電流ピーク制御部511は、乗算部541と、正弦演算部542と、余弦演算部543と、ローパスフィルタ544,545と、正弦演算部546と、余弦演算部547と、加算部548と、減算部549と、を備える。
【0067】
乗算部541は、機械角位相θmをn倍し、制御対象となる周波数成分n×θmを演算する。
【0068】
正弦演算部542は、速度偏差Δωに制御対象となる周波数成分n×θmの正弦sin(n×θm)を乗算する。ローパスフィルタ544は、時定数Tffのローパスフィルタリングを行って、正弦演算部542で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。ここで、sはラプラス演算子である。正弦演算部546は、ローパスフィルタ544で抽出された直流成分に正弦sin(n×θm)を乗算し、複素平面上の虚軸方向の直流成分を演算する。
【0069】
余弦演算部543は、速度偏差Δωに制御対象となる周波数成分n×θmの余弦cos(n×θm)を乗算する。ローパスフィルタ545は、時定数Tffのローパスフィルタリングを行って、余弦演算部543で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。余弦演算部547は、ローパスフィルタ545で抽出された直流成分に余弦cos(n×θm)を乗算し、複素平面上の実軸方向の直流成分を演算する。
【0070】
加算部548は、正弦演算部546で演算された複素平面上の虚軸方向の直流成分と、余弦演算部547で演算された複素平面上の実軸方向の直流成分とを加算し、機械角周波数のn倍成分に起因する交流量Δωnfを生成する。
【0071】
減算部549は、速度偏差Δωと交流量Δωnfとの差分を演算する。減算部549は、速度偏差Δωと交流量Δωnfとの差分を、速度偏差Δωから機械角周波数のn倍成分に起因する交流量Δωnfが除去された速度偏差Δωfとして出力する。
【0072】
図8の説明に戻る。速度制御部512は、電流ピーク制御部511で演算された速度偏差Δω
fに基づいて、δ軸電流指令値である第1のトルク電流指令値i
δ
*を演算する。速度制御部512は、例えば、比例制御、積分制御などを行って、第1のトルク電流指令値i
δ
*を演算する。
【0073】
負荷電流制御部513は、負荷電流I
dcを一定値に制御する負荷電流制御を行う。具体的には、負荷電流制御部513は、機械角位相θ
mに基づいて、負荷に流れ込む負荷電流I
dcに含まれる負荷変動成分を除去する。負荷電流制御部513は、負荷電流I
dcから負荷変動成分を除去したものを交流量i
δlcc
*として加算部514に出力する。負荷電流制御部513は、例えば、ノッチフィルタによって構成される。
図13は、実施の形態1に係る電圧指令値演算部115が備える負荷電流制御部513の構成例を示すブロック図である。負荷電流制御部513は、乗算部521と、正弦演算部522と、余弦演算部523と、ローパスフィルタ524,525と、減算部526,527と、積分制御部528,529と、正弦演算部530と、余弦演算部531と、加算部532と、を備える。
【0074】
乗算部521は、機械角位相θmをn倍し、制御対象となる周波数成分n×θmを演算する。
【0075】
正弦演算部522は、負荷電流Idcに制御対象となる周波数成分n×θmの正弦sin(n×θm)を乗算する。ローパスフィルタ524は、時定数Tfsのローパスフィルタリングを行って、正弦演算部522で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。減算部526は、ローパスフィルタ524で得られた直流成分が0になるように直流成分と0との差分を算出する。積分制御部528は、減算部526で得られた差分に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける電流指令値の正弦成分を算出する。正弦演算部530は、積分制御部528で演算された電流指令値の正弦成分に正弦sin(n×θm)を乗算し、複素平面上の虚軸方向の交流成分を演算する。
【0076】
余弦演算部523は、負荷電流Idcに制御対象となる周波数成分n×θmの余弦cos(n×θm)を乗算する。ローパスフィルタ525は、時定数Tfsのローパスフィルタリングを行って、余弦演算部523で得られた演算値から交流成分を除去し、直流成分を抽出する。減算部527は、ローパスフィルタ525で得られた直流成分が0になるように直流成分と0との差分を算出する。積分制御部529は、減算部527で得られた差分に対して積分制御を行い、差分を0に近付ける電流指令値の余弦成分を算出する。余弦演算部531は、積分制御部529で演算された電流指令値の余弦成分に余弦cos(n×θm)を乗算し、複素平面上の実軸方向の交流成分を演算する。
【0077】
加算部532は、正弦演算部530で演算された複素平面上の虚軸方向の交流成分と、余弦演算部531で演算された複素平面上の実軸方向の交流成分とを加算し、機械角周波数のn倍成分に起因する交流量iδlcc
*を生成する。
【0078】
なお、nは機械1f周期で負荷変動が起きる回数を表し、例えば、シングルロータリ圧縮機の場合n=1である。特に、電力変換装置200に接続される負荷がモータ7を含む圧縮機8の場合、商用電源1の電源周波数の0.6倍および1.4倍のモータ運転周波数において、電源高調波規格に対してNGとなりやすい。そのため、制御装置100は、商用電源1の電源周波数の0.6倍および1.4倍のモータ運転周波数においてモータ7に供給する電流の機械周波数の1f成分が顕著となるように電力変換装置200の動作を制御することで、電源高調波規格を満たす運転が可能となる。制御装置100は、商用電源1の電源周波数について、負荷電流検出部40から取得した負荷電流Idcの値およびインバータ30に対する制御内容から把握してもよいし、接続される商用電源1が固定の場合は予め商用電源1の電源周波数の情報を保持していてもよい。また、制御装置100は、モータ7の運転周波数である機械周波数について、インバータ30に対する制御内容から把握することが可能である。
【0079】
図8の説明に戻る。加算部514は、速度制御部512で生成された第1のトルク電流指令値i
δ
*と、負荷電流制御部513で生成された交流量i
δlcc
*とを加算して、δ軸電流指令値である第2のトルク電流指令値i
δ
**を生成する。
【0080】
減算部515は、励磁電流指令値iγ
*に対する励磁電流iγの差分(iγ
*-iγ)を算出する。
【0081】
減算部516は、第2のトルク電流指令値iδ
**に対するトルク電流iδの差分(iδ
**-iδ)を算出する。
【0082】
γ軸電流制御部517は、減算部515で算出された差分(iγ
*-iγ)に対して比例積分演算を行って、差分(iγ
*-iγ)をゼロに近付けるγ軸電圧指令値Vγ
*を生成する。γ軸電流制御部517は、このようにしてγ軸電圧指令値Vγ
*を生成することで、励磁電流iγを励磁電流指令値iγ
*に一致させるための制御を行う。
【0083】
δ軸電流制御部518は、減算部516で算出された差分(iδ
**-iδ)に対して比例積分演算を行って、差分(iδ
**-iδ)をゼロに近付けるδ軸電圧指令値Vδ
*を生成する。δ軸電流制御部518は、このようにしてδ軸電圧指令値Vδ
*を生成することで、トルク電流iδを第2のトルク電流指令値iδ
**に一致させるための制御を行う。
【0084】
このように、制御装置100は、電流ピーク制御および負荷電流制御の制御割合を調整し、負荷電流制御の制御割合が大きくなるほど、モータ7に供給する電流においてモータ7の運転周波数である機械周波数の1倍成分が大きくなるようにインバータ30の動作を制御する。制御装置100は、モータ7の運転周波数が商用電源1の電源周波数の0.6倍または1.4倍の場合、モータ7に供給する電流においてモータ7の運転周波数である機械周波数の1倍成分が負荷電流制御を行わないときと比較して大きくなるように負荷電流制御を行う。
【0085】
本実施の形態のような制御を行うことによって、高調波規格適合の課題に対して、コンバータ回路の回路定数、スイッチング方法などを変更する必要がなく、制御によってのみ解決を図ることができ、開発負荷が小さくかつ安価かつ信頼性の高い電力変換装置200を得ることが出来る。
【0086】
制御装置100の動作を、フローチャートを用いて説明する。
図14は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100の動作を示すフローチャートである。制御装置100において、調整部502は、電流ピーク制御部511で行われる電流ピーク制御、および負荷電流制御部513で行われる負荷電流制御の各制御の制御割合を調整し、電流ピーク制御部511に対するカットオフ周波数ω
ff、および負荷電流制御部513に対するカットオフ周波数ω
fsを設定する(ステップS1)。電流ピーク制御部511は、カットオフ周波数ω
ffを用いて電流ピーク制御を行い、速度偏差Δω
fを生成する(ステップS2)。速度制御部512は、速度偏差Δω
fを用いて、第1のトルク電流指令値i
δ
*を生成する(ステップS3)。負荷電流制御部513は、カットオフ周波数ω
fsを用いて負荷電流制御を行い、交流量i
δlcc
*を生成する(ステップS4)。加算部514は、第1のトルク電流指令値i
δ
*と交流量i
δlcc
*とを加算し、第2のトルク電流指令値i
δ
**を生成する(ステップS5)。
【0087】
つづいて、電力変換装置200が備える制御装置100のハードウェア構成について説明する。
図15は、実施の形態1に係る電力変換装置200が備える制御装置100を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置100は、プロセッサ91およびメモリ92により実現される。
【0088】
プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ92は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施の形態によれば、電力変換装置200において、制御装置100は、消費電力を低減する電流ピーク制御、および平滑コンデンサ5の出力電流である負荷電流Idcを所望の値に近付けるように制御する負荷電流制御を行う。制御装置100は、モータ7に第2の交流電力を出力するインバータ30の動作状態、すなわちインバータ30に対する制御内容に応じて、電流ピーク制御および負荷電流制御の制御割合を調整する。これにより、電力変換装置200は、消費電力を低減する制御および高調波成分の発生を抑制する制御の制御量を調整することができる。
【0090】
なお、電力変換装置200において、制御装置100は、有効電流であるδ軸電流の代わりに無効電流であるγ軸電流を用い、モータ7の巻線抵抗による有効電力の変化を利用して、インバータ30に流入される直流電流である負荷電流Idcが規定された値、すなわち一定の値に近付くよう制御することで、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。以降の実施の形態についても同様である。
【0091】
実施の形態2.
図16は、実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した電力変換装置200を備える。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。なお、
図16において、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素には、実施の形態1と同一の符号を付している。
【0092】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1におけるモータ7を内蔵した圧縮機8と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。
【0093】
圧縮機8の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ7とが設けられている。
【0094】
冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御されるモータ7によって駆動される。
【0095】
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0096】
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0097】
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0098】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 商用電源、2 リアクタ、3 整流部、5 平滑コンデンサ、7 モータ、8 圧縮機、10 母線電圧検出部、12a,12b 直流母線、30 インバータ、40 負荷電流検出部、100 制御装置、102 運転制御部、110 インバータ制御部、111 電流復元部、112 3相2相変換部、113 励磁電流指令値生成部、115 電圧指令値演算部、116 電気位相演算部、117 2相3相変換部、118 PWM信号生成部、131~134,321~326 整流素子、200 電力変換装置、310 インバータ主回路、311~316 スイッチング素子、331~333 出力線、350 駆動回路、400 モータ駆動装置、501 周波数推定部、502 調整部、503 電源高調波規格値計算部、504 次数成分演算部、505,510,515,516,526,527,549 減算部、506,508,528,529 積分制御部、507 設定部、509 機械角位相演算部、511 電流ピーク制御部、512 速度制御部、513 負荷電流制御部、514,532,548,630 加算部、517 γ軸電流制御部、518 δ軸電流制御部、521,541,621,622 乗算部、522,530,542,546 正弦演算部、523,531,543,547 余弦演算部、524,525,544,545,623,624 ローパスフィルタ、611 電力計算部、612 電力乗算部、613 限度値換算部、614 係数乗算部、625 ピーク値演算部、626 実効値演算部、627 2乗部、628,629 除算部、631 1/2乗部、900 冷凍サイクル適用機器、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管。