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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】インサータ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/06 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
A61M25/06 554
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023559342
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2021041727
(87)【国際公開番号】W WO2023084734
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】内村 将
(72)【発明者】
【氏名】香山 昇太
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-253671(JP,A)
【文献】実開昭50-108287(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0112317(US,A1)
【文献】特開2009-261521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用デバイスの挿入を補助するインサータであって、
偏平形状を有する偏平部と、
前記偏平部よりも先端側に設けられた長尺状の筒状部と、
を備え、
前記筒状部は、
基端に設けられた基端側開口と、先端に設けられた先端側開口と、を有し、
前記筒状部の側面には、前記基端側開口と前記先端側開口とを接続するとともに、前記筒状部の内外を連通するスリットが設けられており、
基端部における前記筒状部の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移しており、
前記偏平部は、先端側から基端側に向かって前記インサータの軸線から離れる方向に湾曲しており、
前記インサータの側面から前記偏平部を見たとき、前記偏平部の基端側部分の曲率半径は前記偏平部の先端側部分の曲率半径よりも小さくなっている、インサータ。
【請求項2】
請求項1に記載のインサータであって、
前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは周方向に離間している、インサータ。
【請求項3】
請求項1に記載のインサータであって、
前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは重なり合っている、インサータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインサータであって、
前記偏平部及び前記筒状部は、1枚のシート部材から形成されている、インサータ。
【請求項5】
請求項4に記載のインサータであって、
前記シート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成され、
前記PTFE樹脂の延伸方向は、前記基端側開口から前記先端側開口まで延びる前記スリットの延伸方向と平行である、インサータ。
【請求項6】
請求項1に記載のインサータであって、
前記スリットの最小幅は、0.2mm以上かつ0.6mm以下であり、
前記筒状部の最大外径は、2.30mm以上かつ2.55mm以下である、インサータ。
【請求項7】
医療用デバイスの挿入を補助するインサータであって、
偏平形状を有する偏平部と、
前記偏平部よりも先端側に設けられた長尺状の筒状部と、
を備え、
前記筒状部は、
基端に設けられた基端側開口と、先端に設けられた先端側開口と、を有し、
前記筒状部の側面には、前記基端側開口と前記先端側開口とを接続するとともに、前記筒状部の内外を連通するスリットが設けられており、
基端部における前記筒状部の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移しており、
前記偏平部及び前記筒状部は、1枚のシート部材から形成されており、
前記シート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成され、
前記PTFE樹脂の延伸方向は、前記基端側開口から前記先端側開口まで延びる前記スリットの延伸方向と平行である、インサータ。
【請求項8】
請求項7に記載のインサータであって、
前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは周方向に離間している、インサータ。
【請求項9】
請求項7に記載のインサータであって、
前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは重なり合っている、インサータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガイドワイヤ等の医療用デバイスを挿入対象へ挿入する場合に、挿入を補助するインサータを用いることがある。そのようなインサータには、例えば、ガイドワイヤを挿入対象であるカテーテルに挿入する際の補助に用いられるインサータがある。特許文献1には、カテーテルを血管へ挿入する際の補助に用いられるインサータとして、カテーテル導入装置が開示されている。特許文献2には、チューブを内視鏡のチャンネルへ挿入する際の補助に用いられるインサータとして、内視鏡用挿入補助具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公昭61-010698号公報
【文献】実公昭54-012955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたインサータにおいては、インサータの先端が血管内に配置された状態において、インサータの後端からカテーテルを挿入して先端から送り出すことにより、カテーテルが血管内に挿入される。このような形状のインサータを用いて、挿入対象としてのカテーテルに対して、ガイドワイヤ等の医療用デバイスを挿入する場合について考える。ガイドワイヤ等の医療用デバイスは、血管選択性を向上させるために、先端に小さな湾曲形状(以降「湾曲部」とも呼ぶ)が付されることが多い。このような湾曲部を有する医療用デバイスでは、湾曲部が妨げとなることで、インサータの後端から医療用デバイスを挿入する際の作業が煩雑になり、手技の遅延や医療用デバイスの先端部の破損を招くという課題があった。なお、特許文献2に開示されたインサータでは、インサータの側面からインサータ内にチューブが挿入されて使用されることから、インサータの後端からの挿入については何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、先端に湾曲部を有する医療用デバイスを容易に挿入することができるインサータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、インサータが提供される。このインサータは、医療用デバイスの挿入を補助するインサータであって、偏平形状を有する偏平部と、前記偏平部よりも先端側に設けられた長尺状の筒状部と、を備え、前記筒状部は、基端に設けられた基端側開口と、先端に設けられた先端側開口と、を有し、前記筒状部の側面には、前記基端側開口と前記先端側開口とを接続するとともに、前記筒状部の内外を連通するスリットが設けられており、基端部における前記筒状部の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移している。
【0008】
この構成によれば、インサータが備える筒状部の側面には、基端側開口と先端側開口とを接続するとともに筒状部の内外を連通するスリットが設けられている。このため、医療用デバイスとして、例えば、先端に湾曲部を有するガイドワイヤをインサータに挿入する場合に、ガイドワイヤのうち湾曲部より基端側の部分(湾曲していない直線状部分)をスリットの全長にわたって押し当ててインサータ内に挿入したのち、ガイドワイヤを基端側に引っ張ることにより、湾曲部を直線形状に矯正してインサータ内に収納することができる。したがって、先端に湾曲部を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータの後端から挿入する場合と比べて、医療用デバイスをインサータ内に容易に挿入することができる。また、この構成によれば、インサータは、偏平形状を有する偏平部を備え、基端部における筒状部の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移している。このため、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをスリットに押し当てる前に、医療用デバイスを偏平部の上に載置するとともに、筒状部の基端部によって医療用デバイスを位置決めすることができる。したがって、インサータに対して医療用デバイスが位置決めされている状態で、筒状部の基端部から先端に向かって医療用デバイスをスリットに押し当てることにより、スリットが順に拡幅されて医療用デバイスをインサータ内へ挿入することができる。このような点においても、この構成のインサータによれば、医療用デバイスをインサータ内に容易に挿入することができる。
【0009】
(2)上記形態のインサータにおいて、前記偏平部は、先端側から基端側に向かって前記インサータの軸線から離れる方向に湾曲していてもよい。
この構成によれば、インサータを筒状の対象物に挿入する場合に、その対象物内にインサータ全体が挿入されることを防止できる。また、2本の指で偏平部を挟んでインサータを保持する場合において、偏平部の面のうち軸線側とは反対側を向いている面の湾曲と指表面の曲面(指の腹)との接触面積が大きくなることから、インサータを保持しやすくすることができる。また、インサータを平面に載置している際、インサータのうち筒状部の基端部周辺が偏平部の湾曲により平面から浮いた状態になる可能性が高いことから、基端部周辺を掴むことによって、平面に載置している状態のインサータを拾い上げやすくすることができる。また、偏平部の湾曲を受ける曲面が表面に形成された台紙を用いて、その台紙の上にインサータを配置する場合に、インサータを安定して配置することができる。
【0010】
(3)上記形態のインサータにおいて、前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは周方向に離間していてもよい。
この構成によれば、第1端部と第2端部とは周方向に離間している。このため、インサータの外部から医療用デバイスがスリットに嵌まりやすいことから、スリットによって医療用デバイスが位置決めされやすくなる。また、医療用デバイスの押し当てによるスリットの拡幅(インサータ内への医療用デバイスの挿入が可能となる程度の拡幅)に要する力を低減することができる。
【0011】
(4)上記形態のインサータにおいて、前記筒状部は、任意の横断面において、前記スリットを挟んで向かい合う第1端部と第2端部とを有しており、前記第1端部と前記第2端部とは重なり合っていてもよい。
この構成によれば、第1端部と第2端部とは重なり合っている。このため、医療用デバイスがインサータ内に挿入された状態において、医療用デバイスはインサータにより全周にわたって覆われていることから、インサータから医療用デバイスが飛び出すことを防止できる。
【0012】
(5)上記形態のインサータにおいて、前記偏平部及び前記筒状部は、1枚のシート部材から形成されていてもよい。
この構成によれば、それぞれ別の部材から形成された偏平部及び筒状部を連結してインサータを製造する場合と比べて、インサータの製造工程を省力化することができる。また部材同士を連結したことによる連結部分がないことから、破断しにくいインサータを実現することができる。
【0013】
(6)上記形態のインサータにおいて、前記シート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成され、前記PTFE樹脂の延伸方向は、前記基端側開口から前記先端側開口まで延びる前記スリットの延伸方向と平行であってもよい。
この構成によれば、シート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成される。インサータの製造工程においては、一軸延伸されたPTFE樹脂からシート部材が切り出され、そのシート部材からインサータが形成される。一軸延伸されたPTFE樹脂では、樹脂中の分子が延伸方向に沿って配向していることから、その延伸方向に沿ってシート部材を切り出すことにより、切り出し作業を容易且つ迅速に進めることができる。したがって、インサータの製造効率を向上することができる。また、この構成によれば、(シート部材中の)PTFE樹脂の延伸方向は、基端側開口から先端側開口まで延びるスリットの延伸方向と平行である。このため、スリットの延伸方向と直交する方向への裂け目が生じにくいインサータを実現することができる。
【0014】
(7)また、本発明の別の一形態によれば、インサータが提供される。このインサータは、医療用デバイスの挿入を補助するインサータであって、偏平形状を有する偏平部と、前記偏平部よりも先端側に設けられた長尺状の筒状部と、を備え、前記筒状部は、基端に設けられた基端側開口と、先端に設けられた先端側開口と、を有し、前記筒状部の側面には、前記基端側開口と前記先端側開口とを接続するとともに、前記筒状部の内外を連通するスリットが設けられており、前記スリットの最小幅は、0.2mm以上かつ0.6mm以下であり、前記インサータの厚さは、0.2mm以上かつ0.5mm以下である。
この構成によれば、インサータが備える筒状部の側面には、基端側開口と先端側開口とを接続するとともに筒状部の内外を連通するスリットが設けられている。このため、医療用デバイスとして、例えば、先端に湾曲部を有するガイドワイヤをインサータに挿入する場合に、そのガイドワイヤのうち湾曲部より基端側の部分(湾曲していない直線状部分)をスリットの全長にわたって押し当ててインサータ内に挿入したのち、ガイドワイヤを基端側に引っ張ることにより、湾曲部を直線形状に矯正してインサータ内に収納することができる。したがって、先端に湾曲部を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータの後端から挿入する場合と比べて、そのような医療用デバイスをインサータ内に容易に挿入することができる。また、この構成によれば、スリットの最小幅は、0.2mm以上かつ0.6mm以下であり、インサータの厚さは、0.2mm以上かつ0.5mm以下である。このため、0.6mm以上かつ0.9mm以下の直径を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスの挿入を補助する場合に、インサータ内へ医療用デバイスが挿入しやすく、かつ、インサータから医療用デバイスを抜去しやすいインサータを実現することができる。また、先端に湾曲部を有する医療用デバイスの挿入を補助する場合には、スリットから湾曲部が飛び出しにくいインサータを実現することができる。
【0015】
(8)上記形態のインサータにおいて、前記スリットの最小幅は、0.3mm以上かつ0.4mm以下であってもよい。
この構成によれば、0.6mm以上かつ0.9mm以下の直径を有するとともに先端に湾曲部を有する医療用デバイスの挿入を補助する場合に、スリットから湾曲部が一層飛び出しにくいインサータを実現することができる。
【0016】
(9)上記形態のインサータにおいて、前記偏平部の先端から前記筒状部の先端までの長さは、110mm以上かつ130mm以下であってもよい。
この構成によれば、先端に湾曲部を有する医療用デバイスの挿入を補助する場合において、湾曲部が直線形状に矯正された状態で医療用デバイスを収納しているインサータを筒状の対象物に挿入したのち、偏平部の先端から110mm以上かつ130mm以下だけ離れた位置(筒状部の先端)から矯正を解除して湾曲部を送り出すことができる。
【0017】
(10)上記形態のインサータにおいて、前記スリットの幅は、前記基端側開口から前記先端側開口に向かうにつれて徐々に狭くなっていてもよい。
この構成によれば、筒状部のうち先端側に向かうほどインサータ内から医療用デバイスを飛び出しにくくすることができる。
【0018】
(11)また、本発明の別の一形態によれば、ガイドワイヤキットが提供される。このガイドワイヤキットは、上記形態に記載のインサータと、前記医療用デバイスとしてのガイドワイヤと、を備え、前記ガイドワイヤの直径は、0.6mm以上かつ0.9mm以下である。
このガイドワイヤキットによれば、上記インサータと同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスを容易に挿入することができる。
【0019】
(12)また、本発明の別の一形態によれば、カテーテルキットが提供される。このカテーテルキットは、上記形態に記載のインサータと、前記インサータが挿入されるコネクタと、前記コネクタが接続されるカテーテルと、を備え、前記コネクタの挿入孔の最大内径から、前記インサータの前記筒状部の最大外径を減じたクリアランス幅は、0.10mm以上かつ0.35mm以下である。
このカテーテルキットによれば、上記インサータと同様に、先端に湾曲部を有する医療用デバイスを容易に挿入することができる。また、インサータをコネクタに挿入しやすくすることができる。
【0020】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、インサータと、ガイドワイヤと、を備えたガイドワイヤセット、インサータと、コネクタを有するカテーテルと、を備えたカテーテルキット、インサータの製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態のインサータの平面図である。
図2】第1実施形態のインサータの側面図である。
図3】第1実施形態のインサータの横断面図である。
図4】インサータの製造工程を説明するための斜視図である。
図5】一連の装着過程を示した平面図である。
図6】一連の装着過程を示した側面図である。
図7】インサータをコネクタに挿入した状態を示した説明図である。
図8】一連の抜去過程を示した平面図である。
図9】一連の抜去過程を示した側面図である。
図10】実施例1~12及び比較例1~5の評価を示した表である。
図11】第2実施形態のインサータの平面図である。
図12】第2実施形態のインサータの横断面図である。
図13】第3実施形態のインサータの平面図である。
図14】第4実施形態のインサータの平面図である。
図15】第5実施形態のインサータの平面図である。
図16】第6実施形態のインサータの平面図である。
図17】第7実施形態のインサータの平面図である。
図18】第8実施形態のインサータの平面図である。
図19】第9実施形態のインサータの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のインサータ1の平面図である。図2は、インサータ1の側面図である。図3は、インサータ1の横断面図である。図3(A)は、図1及び図2のA―A線における横断面を示している。図3(B)は、図1及び図2のB―B線における横断面を示している。
【0023】
インサータ1は、ガイドワイヤ等の医療用デバイスを挿入対象へ挿入する際に、その挿入を補助する長尺状の器具である。本実施形態では、インサータ1は、ガイドワイヤを挿入対象であるカテーテルに挿入する際の補助に用いられる。インサータ1は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等で形成することができる。本実施形態では、インサータ1は、フッ素樹脂であるPTFE樹脂で形成されている。インサータ1は、偏平部10と、筒状部20と、を備えている。
【0024】
図1及び図2では、インサータ1の中心を通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。図1及び図2では、説明の便宜上、各構成部材の大きさの相対比を実際とは異なるように記載している部分を含んでいる。また、各構成部材の一部を誇張して記載している部分を含んでいる。また、図1及び図2には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸はインサータ1の長手方向に対応し、Y軸はインサータ1の高さ方向に対応し、Z軸はインサータ1の幅方向に対応する。図1の左側(-X軸方向)をインサータ1及び各構成部材の「基端側」と呼び、図1の右側(+X軸方向)をインサータ1及び各構成部材の「先端側」と呼ぶ。また、インサータ1及び各構成部材の長手方向(X軸方向)における両端のうち、先端側に位置する一端を「先端」と呼び、基端側に位置する他端を「基端」と呼ぶ。また、先端及びその近傍を「先端部」と呼び、基端及びその近傍を「基端部」と呼ぶ。これらの点は、図3以降においても共通する。
【0025】
偏平部10は、インサータ1の基端側を構成する部分である。偏平部10は、図3(A)に示すように、偏平形状を有する。また、偏平部10は、図2に示すように、先端側から基端側に向かってインサータ1の軸線Oから離れる方向に湾曲している。
【0026】
筒状部20は、インサータ1のうち偏平部10よりも先端側に設けられた長尺状の部分である。筒状部20のうち基端部21より先端寄りの位置における横断面形状は、図3(B)に示すように、筒状である。
【0027】
図3(A)及び図3(B)に示すように、インサータ1のA―A線における横断面形状は、偏平形状であり、インサータ1のB―B線における横断面形状は、筒状である。基端部21における筒状部20の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移している。換言すれば、基端部21における筒状部20の横断面形状は、基端側から先端側に向かうにつれて偏平形状から徐々に丸まって筒状へと変化している。
【0028】
筒状部20は、基端に設けられた基端側開口22と、先端に設けられた先端側開口24と、を有する。また、筒状部20の側面には、基端側開口22と先端側開口24とを接続するとともに、筒状部20の内外を連通するスリット26が設けられている。本実施形態では、スリット26の幅(Z軸方向における長さ)は、基端部21より先端寄りの位置において、略一定の幅である。なお、スリット26の幅は、インサータ1内に挿入される医療用デバイス(挿入対象への挿入を補助する対象である医療用デバイス)の径よりも短くなるよう設計されている。
【0029】
図3(B)に示すように、筒状部20は、任意の横断面において、スリット26を挟んで向かい合う第1端部27と第2端部28とを有している。また、第1端部27と第2端部28とは周方向に離間している。ここでいう第1端部27及び第2端部28には、横断面の周方向における端及びその近傍が含まれる。なお、厚さT及び最大外径Φ1については後述する。
【0030】
図4は、インサータ1の製造工程を説明するための斜視図である。図4(A)は、中間製品1Pの斜視図である。図4(B)は、インサータ1の斜視図である。
【0031】
中間製品1Pは、筒状部材である。中間製品1Pは、1枚のシート部材のうち一対の向かい合う辺を接合して筒状に成形することによって製造される。このシート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂から延伸方向に沿って切り出されたシート部材である。PTFE樹脂の延伸方向は、筒状に成形される際に接合される2つの辺が延びる方向と平行である。すなわち、中間製品1Pの長手方向と、中間製品1Pを構成しているPTFE樹脂の延伸方向と、は平行である。
【0032】
インサータ1の製造工程について説明する。まず、中間製品1Pの長手方向に沿って、中間製品1Pの側面に切り込みCT(破線で図示)を入れる。このとき、切り込みCTは、中間製品1Pの全長にわたって入れられる。切り込みCTを入れたのち、中間製品1Pのうちの一方の端部では、中間製品1Pが長手方向に沿って一定の幅(スリット26の幅に相当)で開かれて、筒状部20が形成される。一方、中間製品1Pのうちの他方の端部からは、中間製品1Pが大きく開かれて、偏平部10が形成される。なお、偏平部10の形成工程において、筒状部20のうち基端部21にあたる部分では、横断面形状が偏平形状から筒状へと遷移する形状となるよう中間製品1Pが開かれる。このようにして形成されたインサータ1において、偏平部10及び筒状部20は、1枚のシート部材から形成されており、そのシート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成されている。本実施形態のインサータ1に用いられる材料のPTFE樹脂は、可塑性が比較的高いことから、予め熱をかけずに上述の製造工程を実施しても、製造工程後の形状は維持される。インサータ1に用いられる材料が熱可塑性樹脂である場合には、予め熱をかけてから上述の製造工程を実施する。
【0033】
上述したように、中間製品1Pの長手方向と、中間製品1Pを構成しているPTFE樹脂中の延伸方向と、は平行である。また、インサータ1におけるスリット26は、中間製品1Pの長手方向に沿って形成される。したがって、インサータ1を構成しているPTFE樹脂の延伸方向は、基端側開口22から先端側開口24まで延びるスリット26の延伸方向と平行である。
【0034】
図5及び図6は、医療用デバイスであるガイドワイヤGWをインサータ1に装着する際の過程を示す説明図である。図5(A)~(C)は、一連の装着過程を示した平面図である。図6(A)~(C)は、一連の装着過程を示した側面図である。図5及び図6において、ガイドワイヤGWは、先端に湾曲部CVを有するガイドワイヤである。ガイドワイヤGWのように、ガイドワイヤ等の医療用デバイスは、血管選択性を向上させるために、先端に小さな湾曲形状(以降「湾曲部」とも呼ぶ)が付されることが多い。
【0035】
図5(A)及び図6(A)に示すように、まず、術者は、インサータ1に設けられたスリット26の上に、ガイドワイヤGWのうち湾曲部CVより基端側の部分を配置する。そして、ガイドワイヤGWを基端側から先端側に向けて順にインサータ1(スリット26)に押し当てる(白抜き矢印で示す方向)。すなわち、ガイドワイヤGWのうち湾曲部CVより基端側の部分をスリット26の全長にわたって押し当てる。スリット26の幅はガイドワイヤGWの径よりも短く設計されているから、ガイドワイヤGWが押し当てられた位置に対応するスリット26は、幅方向に広げられることによって順次ガイドワイヤGWをインサータ1内に取り込む。
【0036】
図5(B)及び図6(B)には、図5(A)及び図6(A)で説明した過程を経て、ガイドワイヤGWがスリット26を介してインサータ1内に挿入された状態が示されている。ガイドワイヤGWのうち湾曲部CVは、先端側開口24からインサータ1の外側に露出している。このような状態から、図5(C)及び図6(C)に示すように、術者は、ガイドワイヤGWを基端側に引っ張ることによって、湾曲部CVをインサータ1内に収納する(白抜き矢印で示す方向)。この収納に伴って、湾曲部CVは、長尺状のインサータ1に沿った直線形状に矯正される。
【0037】
図7は、インサータ1をコネクタ50に挿入した状態を示した説明図である。図7に示した状態は、図5(C)及び図6(C)に示した状態を維持したインサータ1がコネクタ50に挿入されたのち、ガイドワイヤGWが先端側開口24から先端方向へと送り出されて、カテーテルCAに挿入された状態である。図7において、インサータ1のうちコネクタ50内に挿入されている部分は破線で示されている。また、ガイドワイヤGWのうちインサータ1内に挿入されている部分は、図示を省略している。
【0038】
コネクタ50は、インサータ1が挿入されるコネクタである。また、コネクタ50は、止血弁を備えた第1ポート51と、造影剤等を注入するための第2ポート52と、カテーテルハブHBに連結する連結部53と、を備えている。カテーテルハブHBは、連結部53に連結されている。カテーテルCAは、カテーテルハブHBを介して、コネクタ50に接続されている。インサータ1において偏平部10の先端から筒状部20の先端までの長さL1は、コネクタ50の挿入孔(コネクタ50内に筒状部20を挿入する孔)の基端からカテーテルハブHBの先端までの長さL2より長くなるよう設計されている。図7において、長さL2は110mmであることから、長さL1は、110mm以上かつ130mm以下であるのが好ましい。このような範囲内の長さとなるよう長さL1が設計されている場合には、カテーテルハブHBの先端から筒状部20が露出してカテーテルCA内に配置できるとともに、その筒状部20の先端から矯正を解除して湾曲部CV(図7には不図示)をカテーテルCA内に送り出すことができる。
【0039】
図8及び図9は、ガイドワイヤGWをインサータ1から抜去する際の過程を示す説明図である。図8(A)~(C)は、一連の抜去過程を示した平面図である。図9(A)~(C)は、一連の抜去過程を示した側面図である。
【0040】
図7に示すように、インサータ1がコネクタ50に挿入されてガイドワイヤGWがカテーテルCAに挿入されたのち、インサータ1のみがガイドワイヤGWに沿ってコネクタ50から抜去される。図8(A)及び図9(A)に示すように、術者は、コネクタ50から抜去されたインサータ1において、偏平部10とガイドワイヤGWとの間に指等を挟んでガイドワイヤGWを偏平部10から離れる方向に持ち上げる(白抜き矢印で示す方向)。
【0041】
次に、術者は、図8(B)及び図9(B)に示すように、偏平部10とガイドワイヤGWとの間に挟んだ指等をインサータ1の表面に沿って先端側に移動させること(白抜き矢印で示す方向)により、インサータ1内に取り込まれていたガイドワイヤGWをインサータ1から抜去する。図8(C)及び図9(C)には、図8(B)及び図9(B)で説明した過程を経て、ガイドワイヤGWがスリット26を介してインサータ1から抜去された状態が示されている。
【0042】
以上説明したように、第1実施形態のインサータ1によれば、筒状部20の側面には、基端側開口22と先端側開口24とを接続するとともに筒状部20の内外を連通するスリット26が設けられている。このため、医療用デバイスとして、例えば、先端に湾曲部CVを有するガイドワイヤGWをインサータ1に挿入する場合(図5及び図6参照)に、ガイドワイヤGWのうち湾曲部CVより基端側の部分(湾曲していない直線状部分)をスリット26の全長にわたって押し当ててインサータ1内に挿入したのち、ガイドワイヤGWを基端側に引っ張ることにより、湾曲部CVを直線形状に矯正してインサータ1内に収納することができる。したがって、先端に湾曲部CVを有するガイドワイヤGW等の医療用デバイスをインサータの後端から挿入する場合と比べて、そのような医療用デバイスをインサータ1内に容易に挿入することができる。また、第1実施形態のインサータ1によれば、インサータ1は、偏平形状を有する偏平部10を備え、基端部21における筒状部20の横断面形状は、基端側から先端側に向かって偏平形状から筒状へと遷移している。このため、ガイドワイヤGW等の医療用デバイスをスリット26に押し当てる前に、医療用デバイスを偏平部10の上に載置するとともに、筒状部20の基端部21によって医療用デバイスを位置決めすることができる(図5(A)及び図6(A)参照)。したがって、インサータ1に対して医療用デバイスが位置決めされている状態で、筒状部20の基端部21から先端に向かって医療用デバイスをスリット26に押し当てることにより、スリット26が順に拡幅されて医療用デバイスをインサータ1内へ挿入することができる。このような点においても、この構成のインサータ1によれば、ガイドワイヤGW等の医療用デバイスをインサータ1内に容易に挿入することができる。
【0043】
また、第1実施形態のインサータ1によれば、インサータ1を筒状の対象物(例えば、図7のコネクタ50)に挿入する場合に、その対象物内にインサータ1全体が挿入されることを防止できる。また、2本の指で偏平部10を挟んでインサータ1を保持する場合において、偏平部10の面のうち軸線側とは反対側(図2では-Y軸方向側)を向いている面の湾曲と指表面の曲面(指の腹)との接触面積が大きくなることから、インサータ1を保持しやすくすることができる。また、インサータ1を平面に載置している際、インサータ1のうち筒状部20の基端部21周辺が偏平部10の湾曲により平面から浮いた状態になる可能性が高いことから、基端部21周辺を掴むことによって、平面に載置している状態のインサータ1を拾い上げやすくすることができる。また、偏平部10の湾曲を受け止める曲面が表面に形成された台紙を用いて、その台紙の上にインサータ1を配置する場合に、インサータ1を安定して配置することができる。
【0044】
また、第1実施形態のインサータ1によれば、第1端部27と第2端部28とは周方向に離間している。このため、インサータ1の外部から医療用デバイスがスリット26に嵌まりやすいことから、スリット26によって医療用デバイスが位置決めされやすくなる。また、医療用デバイスの押し当てによるスリット26の拡幅(インサータ1内への医療用デバイスの挿入が可能となる程度の拡幅)に要する力を低減することができる。
【0045】
また、第1実施形態のインサータ1によれば、それぞれ別の部材から形成された偏平部10及び筒状部20を連結してインサータ1を製造する場合と比べて、インサータ1の製造工程を省力化することができる。また部材同士を連結したことによる連結部分がないことから、破断しにくいインサータ1を実現することができる。
【0046】
また、第1実施形態のインサータ1によれば、インサータ1を構成するシート部材は、一軸延伸されたPTFE樹脂により形成される。インサータ1の製造工程においては、一軸延伸されたPTFE樹脂からシート部材が切り出され、そのシート部材からインサータ1が形成される。一軸延伸されたPTFE樹脂では、樹脂中の分子が延伸方向に沿って配向していることから、その延伸方向に沿ってシート部材を切り出すことにより、切り出し作業を容易且つ迅速に進めることができる。したがって、インサータ1の製造効率を向上することができる。また、この構成によれば、(シート部材中の)PTFE樹脂の延伸方向は、基端側開口から先端側開口まで延びるスリット26の延伸方向と平行である。このため、スリット26の延伸方向と直交する方向への裂け目が生じにくいインサータ1を実現することができる。
【0047】
図10には、各種パラメータを調整して作成したそれぞれのインサータ1(実施例1~12及び比較例1~5)に対して、ガイドワイヤを挿入した際の使用感を評価した評価試験の結果が表として示されている。ここでいう各種パラメータには、スリット26の最小幅Wと、インサータ1の厚さT(図3(B)参照)と、筒状部20の最大外径Φ1(図3(B)参照)と、が含まれる。最小幅Wは、スリット26のうち幅が最小になっている位置での幅のことである。厚さTは、インサータ1を構成するシート部材の厚さであるともいえる。最大外径Φ1は、筒状部20の横断面のうち外径が最大になっている位置での外径のことである。なお、実施例1~12及び比較例1~5において、スリット26の幅及び筒状部20の外径は概ね一定になるよう製作されているものとする。
【0048】
図10において、「ガイドワイヤ直径」は、インサータ1内に挿入されたガイドワイヤの直径を示す。「最小幅W」は、スリット26の最小幅Wを示す。「厚さT」は、インサータ1の厚さTを示す。「最大外径Φ1」は、筒状部20の最大外径Φ1を示す。「クリアランス幅C」は、コネクタ50の挿入孔(コネクタ50内に筒状部20を挿入する孔)の最大内径から筒状部20の最大外径Φ1を減じたクリアランス幅Cを示す。最大内径は、コネクタ50においてインサータ1が挿入される部分のうち内径が最大になっている位置での内径のことであり、図10においては、2.65mmである。「ガイドワイヤ直径」を示す数値のうち左側の数値の単位はインチであり、右側のカッコ内の数値は、左側の数値をミリに換算した数値であり、その単位はミリである。「最小幅W」「厚さT」「最大外径Φ1」「クリアランス幅C」を示す数値の単位はミリである。
【0049】
図10には、使用感の評価項目が示されている。「コネクタ挿入性」は、インサータ1をコネクタ50に挿入した際の挿入しやすさを示している。「スリット形成性」は、インサータ1の製造工程において、中間製品1Pの側面に切り込みCTを入れて切断したときの切断しやすさを示している(図4(A)参照)。「スリット抜け」は、先端に湾曲部を有するガイドワイヤをインサータ1内に挿入した場合(図5及び図6参照)における、スリット26からの湾曲部の飛び出しにくさを示している。「耐キンク性」は、コネクタ50内にインサータ1を挿入していく過程において(図7参照)、インサータ1が屈曲したときのインサータ1の内腔の閉塞しにくさを示している。「着脱性」は、インサータ1内へのガイドワイヤの挿入のしやすさ及びインサータ1からのガイドワイヤの抜去のしやすさを示している。使用感の評価項目の各々は、B、C、Dの3段階で評価した。また、「総合評価」は、各々の使用感の評価項目の勘案した総合的な評価であり、A、B、C、Dの4段階で評価した。なお、評価結果は、Aが最も優れ、Dが最も劣ることを意味する。
【0050】
比較例1~5において、各々の「総合評価」はDであった。比較例1~3では、各々の「コネクタ挿入性」の評価がDであり、これは、各々の「クリアランス幅C」の数値が0.00mmであったことによるものと考えられる。また、比較例4では、「スリット抜け」の評価がDであり、これは、「最小幅W」の数値が0.7mmであったことによるものと考えられる。また、比較例5では、「耐キンク性」の評価がDであり、これは、「クリアランス幅C」の数値が0.55mmであったことによるものと考えられる。
【0051】
一方、実施例1~12においては、各々の「総合評価」は、A、B、Cとばらつきはあったものの、Dはなかった。したがって、図10に示された結果から、0.6mm以上かつ0.9mm以下の直径を有するガイドワイヤの挿入を補助するインサータ1においては、スリットの最小幅Wは、0.2mm以上かつ0.6mm以下であり、インサータ1の厚さTは、0.2mm以上かつ0.5mm以下であるのが好ましい。この構成によれば、0.6mm以上かつ0.9mm以下の直径を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスの挿入を補助する場合に、インサータ1内へガイドワイヤが挿入しやすく、かつ、インサータ1から医療用デバイスを抜去しやすいインサータを実現することができる。また、先端に湾曲部を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスの挿入を補助する場合には、スリットから湾曲部が飛び出しにくいインサータ1を実現することができる。すなわち、「着脱性」及び「スリット抜け」において優れたインサータを実現することができる。
【0052】
また、スリットの最小幅Wについては、0.3mm以上かつ0.4mm以下である方がより好ましい。この構成によれば、0.6mm以上かつ0.9mm以下の直径を有するとともに先端に湾曲部を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスの挿入を補助する場合に、スリット26から湾曲部が一層飛び出しにくいインサータ1を実現することができる。
【0053】
また、クリアランス幅Cは、0.10mm以上かつ0.35mm以下であるのが好ましい。この構成によれば、インサータ1をコネクタ50に挿入しやすくすることができる。すなわち、「コネクタ挿入性」及び「耐キンク性」において優れたインサータを実現することができる。
【0054】
また、図7において説明したように、長さL2が110mmである場合には、インサータ1において偏平部10の先端から筒状部20の先端までの長さL1は、110mm以上かつ130mm以下であるのが好ましい。この構成によれば、先端に湾曲部を有するガイドワイヤ等の医療用デバイスの挿入をインサータ1が補助する場合において、湾曲部が直線形状に矯正された状態で医療用デバイスを収納しているインサータ1を筒状の対象物(図7においてはコネクタ50)に挿入したのち(図5~7参照)、偏平部10の先端から110mm以上かつ130mm以下だけ離れた位置(筒状部20の先端)から矯正を解除して湾曲部を送り出すことができる。図7においては、カテーテルCA内に配置された筒状部20の先端から矯正を解除して湾曲部CV(図7には不図示)を送り出すことができる。
【0055】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態のインサータ1Aの平面図である。図12は、インサータ1Aの横断面図である。図12は、図11のC―C線における横断面を示している。第2実施形態のインサータ1Aは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20aを有する点が異なる。
【0056】
図12に示すように、インサータ1Aにおいて、筒状部20aは、任意の横断面において、スリット26aを挟んで向かい合う第1端部27aと第2端部28aとは重なり合っている。詳細には、第1実施形態においては、第1端部27と第2端部28とは周方向に離間していたことから(図3(B)参照)、平面図(図1)において筒状部20の内側を視認することができたが、第2実施形態においては、第1端部27aと第2端部28aとは重なり合っていることから(図12参照)、平面図(図11)において筒状部20の内側を視認することができない。なお、このような筒状部20aにおいても、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをスリット26a周辺に押し当てた場合には、スリット26aが拡幅されることによって、医療用デバイスをインサータ1A内へ挿入することができる。
【0057】
以上のような第2実施形態のインサータ1Aによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1A内に容易に挿入することができる。また、第2実施形態のインサータ1Aによれば、医療用デバイスがインサータ1A内に挿入された状態において、医療用デバイスはインサータ1Aにより全周にわたって覆われていることから、インサータ1Aから医療用デバイスが飛び出すことを防止できる。
【0058】
<第3実施形態>
図13は、第3実施形態のインサータ1Bの平面図である。第3実施形態のインサータ1Bは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20bを有する点が異なる。
【0059】
図13に示すように、インサータ1Bにおいて、筒状部20bに設けられたスリット26bの幅(Z軸方向における長さ)は、基端部21より先端寄り(先端部を除く)の位置において略一定の幅であるが、先端部においては先端に到るほど徐々に狭くなる。このような第3実施形態のインサータ1Bによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1B内に容易に挿入することができる。また、第3実施形態のインサータ1Bによれば、スリット26bのうち幅が略一定である部分(先端部を除く)にインサータ1Bの外部から医療用デバイスが嵌まりやすいことから、スリット26bによって医療用デバイスが位置決めされやすくなる。また、スリット26bのうち先端部では、インサータ1B内から医療用デバイスが飛び出すことを防止できる。
【0060】
<第4実施形態>
図14は、第4実施形態のインサータ1Cの平面図である。第4実施形態のインサータ1Cは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20cを有する点が異なる。
【0061】
図14に示すように、インサータ1Cにおいて、筒状部20cに設けられたスリット26cの幅(Z軸方向における長さ)は、基端側開口22から先端側開口24に向かうにつれて徐々に狭くなる。このような第4実施形態のインサータ1Cによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1C内に容易に挿入することができる。また、筒状部20cのうち先端側に向かうほどインサータ1C内から医療用デバイスを飛び出しにくくすることができる。
【0062】
<第5実施形態>
図15は、第5実施形態のインサータ1Dの平面図である。第5実施形態のインサータ1Dは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20dを有する点が異なる。
【0063】
図15に示すように、インサータ1Dにおいて、筒状部20dに設けられたスリット26dの幅(Z軸方向における長さ)は、第4実施形態と同様に、基端側開口22から先端側開口24に向かうにつれて徐々に狭くなる。第5実施形態では、スリット26dの先端部においては、第2実施形態(図11及び図12)と同様に、スリット26dを挟んで向かい合う第1端部(不図示)と第2端部(不図示)とが重なり合っている。このような第5実施形態のインサータ1Dによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1D内に容易に挿入することができる。また、第3,4実施形態と同様に、スリット26dによって医療用デバイスが位置決めされやすくなるとともに、インサータ1D内からの医療用デバイスの飛び出しを防止することもできる。
【0064】
<第6実施形態>
図16は、第6実施形態のインサータ1Eの平面図である。第6実施形態のインサータ1Eは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20eを有する点が異なる。
【0065】
図16に示すように、インサータ1Eにおいて、筒状部20eに設けられたスリット26eには、一定間隔ごとに架橋部29が設けられている。換言すれば、スリット26eは、筒状部20eの側面において、基端側開口22と先端側開口24とを接続しておらず、基端側開口22と先端側開口24との間において架橋部29と交互に設けられている。なお、このような筒状部20eにおいても、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをスリット26eに押し当てた場合には、架橋部29が破壊されたのちスリット26eが拡幅されることによって、医療用デバイスをインサータ1E内へ挿入することができる。
【0066】
以上のような第6実施形態のインサータ1Eによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1E内に容易に挿入することができる。また、第6実施形態のインサータ1Eによれば、架橋部29が設けられていることにより、外力によって筒状部20eが変形して筒状部20eの径(スリット26eの幅)が製造完成時のインサータ1Eから縮小することを防止できる。また、架橋部29を破壊してインサータ1E内へ医療用デバイスが挿入された後において、スリット26eの幅方向(図16においてはZ軸方向)における端の少なくとも一方に架橋部29の残骸が残っている場合には、その残骸によってインサータ1E内から医療用デバイスが飛び出すことを防止できる。
【0067】
<第7実施形態>
図17は、第7実施形態のインサータ1Fの平面図である。第7実施形態のインサータ1Fは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20fを有する点が異なる。
【0068】
図17に示すように、インサータ1Fにおいて、筒状部20fに設けられたスリット26fの幅(Z軸方向における長さ)は、第4実施形態と同様に、基端側開口22から先端側開口24に向かうにつれて徐々に狭くなる。また、スリット26fの先端部においては、第2実施形態(図11及び図12)及び第5実施形態と同様に、スリット26fを挟んで向かい合う第1端部(不図示)と第2端部(不図示)とが重なり合っている。さらに、第6実施形態では、筒状部20fの径は基端側から先端側に向かうにつれて縮径している。このような第7実施形態のインサータ1Fによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1F内に容易に挿入することができる。また、第3~5実施形態と同様に、スリット26dによって医療用デバイスが位置決めされやすくなるとともに、インサータ1F内からの医療用デバイスの飛び出しを防止することもできる。
【0069】
<第8実施形態>
図18は、第8実施形態のインサータ1Gの平面図である。第8実施形態のインサータ1Gは、第1実施形態のインサータ1と比べて、第1実施形態の筒状部20とは異なる筒状部20gを有する点が異なる。
【0070】
図18に示すように、インサータ1Gにおいて、筒状部20gは、先端部に最細径部23を有する。最細径部23は、筒状部20gのうち最細径部23から基端側の部分よりも径が細い部分である。最細径部23は、第1実施形態のインサータ1を用いて、筒状部20の先端部を軸線Oに沿って延伸することにより作製されてもよい。また、インサータ1Gを成形するための金型を用いたプレス成形によりインサータ1Gが作製されてもよい。このような第8実施形態のインサータ1Gによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1G内に容易に挿入することができる。また、第8実施形態のインサータ1Gによれば、筒状部20gが縮径部25を有することにより、コネクタ50(図7)を経由してインサータ1G(筒状部20g)をカテーテルCA内に案内する際に、その案内をスムーズに行うことができる。
【0071】
<第9実施形態>
図19は、第9実施形態のインサータ1Hの平面図である。第9実施形態のインサータ1Hは、第8実施形態のインサータ1Gと比べて、第8実施形態の筒状部20gとは異なる筒状部20hを有する点が異なる。
【0072】
図19に示すように、インサータ1Hにおいて、筒状部20hは、最細径部23の基端部に縮径部25を有する。縮径部25は、筒状部20hのうち先端側に向かうにつれて径が徐々に縮径する部分である。縮径部25及び最細径部23は、第8実施形態と同様に、インサータ1の先端部を軸線Oに沿って延伸することにより作製されてもよい。また、インサータ1Hを成形するための金型を用いたプレス成形によりインサータ1Hが作製されてもよい。このような第9実施形態のインサータ1Hによっても、第1実施形態と同様に、ガイドワイヤ等の医療用デバイスをインサータ1G内に容易に挿入することができる。また、第9実施形態のインサータ1Hによれば、筒状部20hが最細径部23及び縮径部25を有することにより、コネクタ50(図7)を経由してインサータ1H(筒状部20h)をカテーテルCA内に案内する際に、その案内を一層スムーズに行うことができる。
【0073】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0074】
[変形例1]
上記第1~9実施形態では、インサータ1,1A~1Hの構成を例示した。しかし、インサータの構成は種々の変更が可能である。例えば、第1実施形態では、偏平部10は、先端側から基端側に向かってインサータ1の軸線Oから離れる方向に湾曲していたが、これに限らず、偏平部10は、インサータ1の軸線Oに沿っていてもよい。また、偏平部10及び筒状部20は、1枚のシート部材から形成されていなくてもよく、それぞれ別の部材から形成された偏平部10及び筒状部20が連結されてインサータ1を構成していてもよい。また、偏平部10及び筒状部20は、1枚のシーツ部材から形成されていたとしても、そのシート部材は、一軸延伸されていないPTFE樹脂で形成されていてもよい。
【0075】
また、第6実施形態では、図16に示すように、複数の架橋部29が設けられていたが、架橋部29の数は1つであってもよい。また、第1実施形態では、インサータ1を、ガイドワイヤをカテーテルに挿入する際の補助に用いられるインサータとして説明したが、これに限らず、任意の医療用デバイス(カテーテルやチューブ等)を任意の筒状の対象物(血管、内視鏡のチャンネル等)に挿入する際の補助に用いてもよい。また、インサータの色は、インサータが挿入される筒状の対象物やインサータ使用時に想定される周辺状況に応じて設定されるのが好ましい。例えば、患者が横たわっているベッドに敷かれたシーツの色や筒状の対象物の色とは異なる色を、インサータの色とすることによって、術者がインサータを見失うことを防止できる。
【0076】
[変形例2]
上記第1~9実施形態のインサータ1,1A~1Hの構成、及び上記変形例1の各構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第3~5,8,9実施形態のインサータ1B~D,G,Hにおいて、第6実施形態で説明したように、架橋部29を追加してもよい。
【0077】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A~H…インサータ
1P…中間製品
10…偏平部
20,20a~h…筒状部
21…基端部
22…基端側開口
23…最細径部
24…先端側開口
25…縮径部
26,26a~f…スリット
27,27a…第1端部
28,28a…第2端
29…架橋部
50…コネクタ
51…第1ポート
52…第2ポート
53…連結部
CA…カテーテル
CV…湾曲部
GW…ガイドワイヤ
HB…カテーテルハブ
O…軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19