(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】廃二次電池からの有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20241122BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241122BHJP
C22B 5/16 20060101ALI20241122BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241122BHJP
C01D 15/04 20060101ALI20241122BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B5/16
H01M10/54
C01D15/04
(21)【出願番号】P 2023568505
(86)(22)【出願日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 KR2023009404
(87)【国際公開番号】W WO2023244094
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】10-2022-0102031
(32)【優先日】2022-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0112306
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519197594
【氏名又は名称】高麗亞鉛株式会社
【氏名又は名称原語表記】KOREA ZINC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ホン シク
(72)【発明者】
【氏名】ユン,テ フン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-507413(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0131258(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107964593(CN,A)
【文献】特開2022-016471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00-7/04
C22B 26/12
C22B 5/16
H01M 10/54
C01D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃二次電池を前処理する前処理工程;
前処理された廃二次電池を加熱して溶融液を生成する溶融工程;及び
前記溶融液から有価金属を回収する回収工程を含み、
前記溶融工程で
フラックス及び塩素化剤が投入され、
前記回収工程でリチウムがリチウムダストの形態で回収され
、
前記溶融工程で前記フラックスが、CaO21~28%、SiO
2
55~63%、Al
2
O
3
12~17%を含むCaO-SiO
2
-Al
2
O
3
の三相スラグが生成されるように投入され、
前記溶融工程中に生成される前記スラグの組成を分析するスラグ組成分析工程が行われ、
前記スラグの組成分析結果に基づいて、前記スラグがCaO21~28%、SiO
2
55~63%、Al
2
O
3
12~17%を含むようにフラックスの投入量が調整される、
廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項2】
前記塩素化剤は、CaCl
2、CuCl
2、NaCl、KCl、CuClのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項3】
前記塩素化剤は、CaCl
2またはCuCl
2を含む、請求項2に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項4】
前記塩素化剤は、前記前処理された廃二次電池に含まれたリチウムに対する塩素の
モル当量が1.2以上になるように投入される、請求項1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項5】
前記溶融工程で前記前処理された廃二次電池は、1500℃以上の温度で加熱される、請求項1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項6】
前記リチウムダストはLiClである、請求項1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項7】
前記前処理された廃二次電池の組成を分析する、廃二次電池の組成分析工程をさらに含み、
前記前処理された廃二次電池の組成分析結果に基づいて、前記スラグ
がCaO21~28%、SiO
255~63%、Al
2O
312~17%
を含むようにフラックスの投入量が調整される、請求項
1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項8】
前記前処理工程は、
前記廃二次電池の放電を行う放電工程;
前記廃二次電池をパックからモジュールに解体する解体工程;
解体された前記廃二次電池を破砕及び粉砕する破/粉砕工程;及び
破/粉砕された廃二次電池を乾燥する乾燥工程を含む、請求項1に記載の廃二次電池から有価金属を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃二次電池から有価金属を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車市場が急激に成長するのに伴い、電気自動車の電力供給源として用いられる二次電池(例えば、リチウム二次電池)の需要も急増している。電気自動車用二次電池には、ニッケル、コバルト、銅、リチウムのような有価金属が多量に含まれており、これにより、使用後に廃棄された電気自動車用二次電池から有価金属を回収してリサイクルする方法について、最近では様々な研究が進められている。
【0003】
電気自動車用廃二次電池から有価金属を回収する方法は、炉(furnace)で電気自動車用廃二次電池を溶融して有価金属をスラグから分離/濃縮して回収する乾式法と、酸で有価金属を浸出して精製する湿式法に分かれる。
【0004】
乾式法は、多量の電気自動車用の廃二次電池を処理するのに適しており、ニッケル、コバルト、銅がスラグからすぐに分離されて回収されるという長所がある。しかし、リチウムは大部分がスラグとして排出されるので、これを回収するためにはスラグからリチウムを浸出させるための追加工程、及び、そのための大規模の追加設備が必要であるという短所がある。
【0005】
湿式法は、高濃度の酸と中和剤の使用で多量の廃水が発生し、アルミニウム、鉄、炭素などを除去せずに処理されるので、多量の電気自動車用廃二次電池を処理するには限界があるという短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、廃二次電池からニッケル、コバルト、銅、リチウムなどの有価金属を容易に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明の一実施例による廃二次電池から有価金属を回収する方法は、廃二次電池を前処理する前処理工程、前処理された廃二次電池を加熱して溶融液を生成する溶融工程、及び前記溶融液から有価金属を回収する回収工程を含む。前記溶融工程で塩素化剤が投入され、前記回収工程でリチウムがリチウムダストの形態で回収される。
【0008】
本発明の一実施例によれば、前記塩素化剤は、CaCl2、CuCl2、NaCl、KCl、CuClのうちの少なくとも1つを含む。
【0009】
本発明の一実施例によれば、前記塩素化剤はCaCl2またはCuCl2を含む。
【0010】
本発明の一実施例によれば、前記塩素化剤は、前記前処理された廃二次電池に含まれるリチウムに対する塩素の当量が1.2以上になるように投入される。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記溶融工程で前記前処理された廃二次電池は1500℃以上の温度で加熱される。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記リチウムダストは、LiClである。
【0013】
本発明の一実施例によれば、前記溶融工程で生成されるスラグは、CaO-SiO2-Al2O3の三相スラグである。
【0014】
本発明の一実施例によれば、前記スラグの組成は、CaO21~28%、SiO255~63%、Al2O312~17%である。
【0015】
本発明の一実施例によれば、前記前処理された廃二次電池の組成を分析する廃二次電池の組成分析工程をさらに含み、前記前処理された廃二次電池の組成分析結果に基づき、前記スラグの組成がCaO21~28%、SiO255~63%、Al2O312~17%になるようにフラックスの投入量が調整される。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記溶融工程中に生成された前記スラグの組成を分析するスラグ組成分析工程が行われ、前記スラグの組成分析結果に基づいて、前記スラグの組成がCaO21~28%、SiO255~63%、Al2O312~17%になるようにフラックスの投入量が調整される。
【0017】
本発明の一実施例によれば、前記前処理工程は、前記廃二次電池の放電を行う放電工程、前記廃二次電池をパックからモジュールに解体する解体工程、解体された前記廃二次電池を破砕及び粉砕する破/粉砕工程、及び破/粉砕された廃二次電池を乾燥する乾燥工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニッケル、コバルト、及び銅を溶融工程で還元させてスラグから分離して回収することができる。
【0019】
本発明によれば、塩素化剤を投入することによって溶融工程でリチウムを塩化リチウムの形態にすることができ、これによりスラグからリチウムを回収する追加工程なしで、リチウムをリチウムダストの形態で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例による廃二次電池から有価金属を回収する方法に関する工程図である。
【
図2】CaO-SiO
2-Al
2O
3の三相スラグの相平衡図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施例による廃二次電池から有価金属を回収する方法に関する工程図である。
【0023】
図1を参照すると、本発明の一実施例による廃二次電池から有価金属を回収する方法は前処理工程(S100)、溶融工程(S200)、及び回収工程(S300)を含む。
【0024】
[前処理工程(S100)]
前処理工程(S100)は、廃二次電池を溶融する前に行われる工程であり、放電工程(S10)、解体工程(S20)、破/粉砕工程(S30)、及び乾燥工程(S40)を含み得る。
【0025】
[放電工程(S10)]
放電工程(S10)は、後続工程中に発生し得る廃二次電池の爆発を防止するために廃二次電池に蓄積されている電力を放電させる工程である。放電工程(S10)は、放電器を用いた放電、あるいは塩水を用いた塩水放電等を通じて行われ得る。例えば、放電工程(S10)を通じて、廃二次電池の充電率は20%以下に低下し得る。
【0026】
[解体工程(S20)]
解体工程(S20)は、パック形態の廃二次電池をモジュールまたはセル単位に解体する工程である。一実施例によれば、
図1に示されたように、解体工程(S20)は放電工程(S10)後に行われ得る。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、他の実施例によれば、
図1に示されたものとは異なって、解体工程(S20)が先に行われた後に放電工程(S10)が行われ得る。解体工程(S20)は、例えば、自動化解体設備を用いて行われ得る。
【0027】
[破/粉砕工程(S30)]
破/粉砕工程(S30)は、解体された廃二次電池を破砕及び粉砕して破砕物の形態にする工程である。破/粉砕工程(S30)は、スパーク及び爆発防止のために窒素雰囲気中で水を噴霧して行われ得る。破砕及び粉砕が行われた後、噴霧された水及び廃二次電池から流れ出た電解質は除去され得る。例えば、水と電解質は、ロータリーバレル(rotary barrel)を通じて遠心分離方法で除去され得る。
【0028】
[乾燥工程(S40)]
乾燥工程(S40)は、破/粉砕工程(S30)後に残留する水と電解質を除去するための工程である。例えば、乾燥工程(S40)は、破砕物が配置された乾燥器内に約50℃以上で加熱した窒素ガスを加えることによって行われ得る。
【0029】
[組成分析工程(S150)]
本発明の一実施例によれば、前記前処理工程(S100)が行われた廃二次電池(以下、「前処理された廃二次電池」)の組成を分析する組成分析工程(S150)が行われ得る。前処理された廃二次電池の組成分析結果は、後述する溶融工程(S200)で投入されるフラックスの成分及び含量を決定するのに用いられる。これとは異なり、本発明の他の実施例によれば(例えば、前処理された廃二次電池の組成を既に知っている場合)、組成分析工程(S150)は省略され得る。
【0030】
[溶融工程(S200)]
溶融工程(S200)は、前処理された廃二次電池を加熱して溶融する工程である。具体的には、溶融工程(S200)は、前処理された廃二次電池をフラックス及び塩素化剤と混合して溶融する。好ましくは、これを1,500℃以上で約3~5時間加熱することによって行われ得る。前記加熱中に、空気が、好ましくは酸素を混合した空気が、より好ましくは酸素が投入され得、これによって前処理された廃二次電池に含まれる炭素、アルミニウム、マンガン、鉄などの付随物を酸化させることができる。炭素は酸化して二酸化炭素または一酸化炭素となってガスとして排出され得、アルミニウム、マンガン、鉄、残部炭素などの酸化物は共に、後述のようにスラグに含まれ得る。溶融工程(S200)での加熱温度が1,500℃未満の場合、十分な反応性が確保されず、後続工程でリチウムの回収率が低くなり得る。
【0031】
前記フラックスは、SiO2及びCaCO3を含み、これにより廃二次電池に含まれたアルミニウムの酸化物(Al2O3)と共にCaO-SiO2-Al2O3の三相スラグが生成される。また、前処理された廃二次電池に含まれている付随物、例えば、マンガン、鉄、炭素などがスラグに含まれ得、ニッケル、コバルト、銅、リチウムの一部もスラグに含まれ得る。
【0032】
溶融工程(S200)中に生成される三相スラグの組成は、CaO21~28%、SiO
255~63%、Al
2O
312~17%が望ましく、これを達成するためにフラックスの投入量(投入されるフラックスの成分及び含量)が調整され得る。この場合、スラグの溶融点は約1,200℃になる(
図2参照)。前記フラックスの投入量が組成分析工程(S150)で得られた、前処理された廃二次電池の組成分析結果に基づいて行われ得る。具体的には、前処理された廃二次電池の組成に基づいて、三相スラグの組成がCaO21~28%、SiO
255~63%、Al
2O
312~17%になるようにSiO
2及びCaCO
3の投入量が調整され得る。
【0033】
また、溶融工程(S200)中に生成されるスラグの組成を分析する工程が行われ得る。この場合、生成されたスラグの組成分析結果に基づいて、三相スラグの組成が好ましくはCaO21~28%、SiO255~63%、Al2O312~17%になるように溶融工程(S200)中にフラックスの投入量が調整され得る。具体的には、生成されたスラグの組成に基づいて、三相スラグの組成がCaO21~28%、SiO255~63%、Al2O312~17%になるように追加で投入されるSiO2及びCaCO3の投入量が調整され得る。
【0034】
前記塩素化剤は、CaCl2、CuCl2、NaCl、KCl、CuClのうちの少なくとも1つを含み得、前処理された廃二次電池に含まれるリチウムに対する塩素の当量が好ましくは1.2以上になるように投入され得る。塩素化剤の当量が1.2未満の場合、リチウムの塩素化反応が十分に行われないことがあり、これによって後続工程でリチウムの回収率が低くなり得る。
【0035】
溶融工程(S200)中に前処理された廃二次電池に含まれたニッケル、コバルト、銅が酸化物から還元される。これと関連した反応式は、下記(式1)の通りである。
【0036】
MO + C = CO + M (M=Ni,Co,Cu) …(式1)
【0037】
還元されたニッケル、コバルト、銅は、溶融して溶融液の形態で存在し、スラグとの比重差によってスラグの下に分離されて存在する。
【0038】
溶融工程(S200)中に前処理された廃二次電池に含まれたリチウムは、塩素化剤で塩素化反応が行われて塩化リチウム(LiCl)の形態となる。これと関連した反応式は、下記(式2)、(式3)、(式4)の通りである。
【0039】
Li2O + SiO2 + MCl2 = 2LiCl + MSiO3 (M=Ca,Cu) …(式2)
【0040】
Li2O + 2SiO2 + Al2O3 + MCl2 = 2LiCl + MAl2Si2O8 (M=Ca,Cu) …(式3)
【0041】
Li2O + 6SiO2 + Al2O3 + 2MCl = 2LiCl + 2MAlSi3O8 (M=Na,K,Cu) …(式4)
【0042】
具体的には、塩素化剤としてCaCl2またはCuCl2が用いられる場合、(式2)と(式3)の反応式を通じて塩化リチウムが生成され得、NaCl、KCl、またはCuClが用いられる場合、(式4)の反応式を通じて塩化リチウムが生成され得る。
【0043】
[回収工程(S300)]
回収工程(S300)は、ニッケル、コバルト、銅、及び塩化リチウム(LiCl)を回収する工程である。
【0044】
溶融工程(S200)で還元されて生成されたニッケル、コバルト、銅の溶融液は、スラグより高い比重を有し、従ってスラグの下に分離されて存在する。これを用いて、ニッケル、コバルト、銅をスラグから分離、回収することができる。
【0045】
溶融工程(S200)で生成された塩化リチウム(LiCl)の沸騰点は、約1,382°Cであるところ、よって、溶融工程(S200)中に気化してダスト形態になり得る。ダスト形態の塩化リチウム(LiCl)は集塵機、例えば、電気集塵機、またはバックフィルタ集塵機を通じて回収され得る。
【0046】
以下では、実施例と比較例を通じて本発明を詳細に説明する。実施例では、前述した工程を通じて廃二次電池から有価金属であるニッケル、コバルト、銅、及びリチウムを回収し、その回収率を測定した。一方、比較例では、溶融工程(S200)で塩素化剤を投入せずに工程を行った後、有価金属であるニッケル、コバルト、銅、及びリチウムの回収率を測定した。ニッケル、コバルト、銅、及びリチウムの回収率は、投入量からスラグとして排出された量を差し引いた値で計算した。実施例及び比較例で用いられた廃二次電池の破砕物の(前処理された廃二次電池)成分は、下表1のとおりである。
【0047】
【0048】
[比較例]
比較例では、塩素化剤の投入なしで、廃二次電池破砕物100gにフラックスとしてSiO2を82.2gと、CaCO3を57.0g混合し、1,500℃で3時間酸素を投入して溶融工程を行った。
【0049】
[実施例1~5]
実施例1~5では、溶融工程(S200)での温度による有価金属の回収率を確認した。
【0050】
具体的には、廃二次電池の破砕物100gにフラックスとしてSiO2を82.2gとCaCO3を21.3gを混合し、塩素化剤としてCaCl2を39.6g(リチウムに対する塩素の当量:1.5)を混合した後、3時間、酸素を投入して溶融工程を行った。溶融温度は、実施例1で1300℃、実施例2で1350℃、実施例3で1400℃、実施例4で1450℃、実施例5で1500℃とした。
【0051】
実施例1~5及び比較例での実験条件及び有価金属の回収率は、表2に示した。
【0052】
【0053】
表2で確認できるように、実施例1~5では、スラグに対する追加工程なしでもリチウムを回収することができた。また、実施例1~5では、溶融工程での温度が高いほど有価金属の回収率、特にリチウムの回収率が高くなり、特に溶融工程の温度が1,500℃の実施例5では、91.5%の高いリチウム回収率を示した。
【0054】
一方、溶融工程中に塩素化剤を投入していない比較例では、大部分のリチウムがスラグに排出されたところ、よって、スラグに対する追加の工程なしでリチウムを回収することができなかった。
【0055】
[実施例6~10]
実施例6~10では、塩素化剤の当量による有価金属の回収率を確認した。
【0056】
具体的には、廃二次電池の破砕物100gにフラックスとしてSiO2とCaCO3を混合し、塩素化剤としてCaCl2を混合した後、1,500℃で3時間酸素を投入して溶融工程を行った。CaCl2の投入量は実施例6で26.4g(リチウムに対する塩素の当量:1.0)、実施例7で31.7g(リチウムに対する塩素の当量:1.2)、実施例8で39.6g(リチウムに対する塩素の当量:1.5)、実施例9で47.5g(リチウムに対する塩素の当量:1.8)、実施例10で52.8g(リチウムに対する塩素の当量:2.0)とした。
【0057】
SiO2は実施例6~10の全てにおいて82.2gを投入し、CaCO3はCaCl2(塩素化剤)の投入量に合わせて、実施例6で33.2g、実施例7で28.4g、実施例8で21.3g、実施例9で14.2g、実施例10で9.4gを投入した。
【0058】
各実施例における実験条件及び有価金属の回収率は、表3に示した。
【0059】
【0060】
表3で確認されるように、実施例6~10において、スラグに対する追加工程なしでもリチウムを回収することができた。また、CaCl2(塩素化剤)の投入量が多いほどリチウム回収率が高くなった。特に、CaCl2の投入量が31.7g(リチウムに対する塩素の当量:1.2)以上である実施例2~5では、90%以上の高いリチウム回収率を示した。
【0061】
[実施例5、11~14]
実施例5、11~14では、塩素化剤の種類による有価金属の回収率を確認した。
【0062】
具体的には、廃二次電池の破砕物100gにフラックスとしてSiO2とCaCO3を混合し、塩素化剤をリチウムに対する塩素の当量が1.5になるように混合した後、1,500℃で3時間酸素を投入して溶融工程を行った。実施例5ではCaCl2を39.6g、実施例11ではCuCl2を47.9g、実施例12ではNaClを41.7g、実施例13ではKClを53.2g、実施例14ではCuClを70.6g混合した。
【0063】
SiO2は実施例5、11~14の全てにおいて82.2gを投入し、CaCO3は塩素化剤の投入量に合わせて、実施例5では21.3g、実施例11~14では57.0g投入した。
【0064】
各実施例における実験条件及び有価金属の回収率は、表4に示した。
【0065】
【0066】
表4で確認できるように、実施例5、11~14でスラグに対する追加工程なしでもリチウムを回収することができた。また、塩素化剤の種類によってリチウム回収率が異なり、特にCaCl2とCuCl2が投入された実施例5と11が高いリチウム回収率を示した。