(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】巻線負荷再現装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法、および回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/72 20200101AFI20241122BHJP
【FI】
G01R31/72
(21)【出願番号】P 2023575087
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2022043008
(87)【国際公開番号】W WO2023139910
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2022008389
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】坂上 篤史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貞治
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-095889(JP,U)
【文献】特開昭48-016175(JP,A)
【文献】特開2016-180629(JP,A)
【文献】特開2010-210386(JP,A)
【文献】特開2003-248028(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079050(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112489879(CN,A)
【文献】中国実用新案第209906093(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第113138117(CN,A)
【文献】国際公開第2022/153821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造における前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥の発生を模擬し、
前記負荷再現機構として、前記マグネットワイヤを複数の板によって挟むバックテンショナを備え、通過する前記マグネットワイヤに対して動摩擦力を付与して両側から押圧することで摩擦による前記絶縁被膜への負荷を再現するバックテンショナ負荷再現部を備える巻線負荷再現装置。
【請求項2】
前記負荷再現機構として、中空の巻線ノズルを備え、巻線ノズル内部を通過する前記マグネットワイヤに対して、マグネットワイヤ巻取時における、巻線ノズル端部との摩擦による前記絶縁被膜への負荷を再現する巻線ノズル負荷再現部を備える請求項1に記載の巻線負荷再現装置。
【請求項3】
前記負荷再現機構として、ダンサローラと直方体形状のダミーコア回転体を備え、前記マグネットワイヤに対して、前記ダミーコア回転体によって前記マグネットワイヤの動線経路で周期的かつ急峻な張力変動を発生させることで、テンション変動による前記絶縁被膜への負荷を再現するテンション変動負荷再現部を備える請求項1または請求項2に記載の巻線負荷再現装置。
【請求項4】
前記負荷再現機構として、直方体形状の角部再現回転体を備え、前記マグネットワイヤに対して、前記角部再現回転体によって前記マグネットワイヤの動線経路が直角に曲げられた箇所で周期的な屈曲を生じさせ、コア角部での屈曲による前記絶縁被膜への負荷を再現する周期的屈曲コア角部負荷再現部を備える請求項1または請求項2に記載の巻線負荷再現装置。
【請求項5】
前記負荷再現機構として、円筒形状の丸型角部再現回転体を備え、前記マグネットワイヤに対して、前記丸型角部再現回転体によって前記マグネットワイヤの動線経路が直角に曲げられた箇所で連続的な屈曲を生じさせ、コア角部での屈曲による前記絶縁被膜への負荷を再現する連続的屈曲コア角部負荷再現部を備える
請求項1または請求項2に記載の巻線負荷再現装置。
【請求項6】
請求項1
または請求項2
に記載の巻線負荷再現装置を備え、更に前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出装置と、を備えたマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項7】
マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造における前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥の発生を模擬する巻線負荷再現装置を備え、
更に前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出装置と、を備え、
前記欠陥検出装置は、導電性液体槽内の導電性液体を含侵させ、前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の周囲を前記導電性液体が接触するように形成された電極を備え、前記マグネットワイヤの導電部と前記電極と
の間に電圧を印加し、前記マグネットワイヤと前記導電性液体との間に発生する部分放電の放電電荷量を計測し、前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出するマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項8】
前記電極は、軟質かつ吸湿性の素材で構成された湿式電極である請求項7に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項9】
前記マグネットワイヤの前記導電部と前記湿式電極との間に交流電圧を印加する請求項8に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項10】
前記湿式電極は、前記導電性液体の液面に接触し、前記マグネットワイヤの前記導電部と前記導電性液体との間に交流電圧を印加する請求項8に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項11】
前記導電性液体槽に、液面レベルスイッチと前記導電性液体の給液タンクとバルブからなる導電性液体補給機構を備える請求項10に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項12】
前記湿式電極は、2つの直方体形状であり、前記マグネットワイヤを挟み込むように配置されている請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項13】
前記湿式電極は、U字形状であり、U字を形成するための折り曲げ部が前記マグネットワイヤの周囲と接触するように形成されている請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項14】
前記湿式電極は、前記マグネットワイヤにらせん状に巻きつくように形成されている請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項15】
前記湿式電極を外面から挟み込むクランプを備えた請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項16】
前記欠陥検出装置は、軟質かつ導電性素材のブラシ形状の乾式電極を備え、前記マグネットワイヤの導電部と前記乾式電極との間に交流電圧を印加し、前記マグネットワイヤと前記乾式電極との間に発生する部分放電の放電電荷量を計測し、前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出する請求項6に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項17】
前記電極は、軟質かつ導電性素材のスポンジ電極である請求項7に記載のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置。
【請求項18】
マグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出する方法であって、
前記マグネットワイヤを複数の板によって挟むバックテンショナによって通過する前記マグネットワイヤに対して動摩擦力を付与して両側から押圧することで摩擦による前記絶縁被膜への負荷を再現するバックテンショナ負荷再現ステップ
を備えるマグネットワイヤ絶縁被覆の検査方法。
【請求項19】
マグネットワイヤ巻取時における巻線ノズル端部との摩擦による前記絶縁被膜への負荷を再現する巻線ノズル負荷再現ステップと、
前記マグネットワイヤの動線経路で周期的かつ急峻な張力変動を発生させることで、テンション変動による前記絶縁被膜への負荷を再現するテンション変動負荷再現ステップと、
マグネットワイヤ巻取時におけるモーターコアの角部での屈曲による絶縁被膜への負荷を前記マグネットワイヤの動線経路が直角に曲げられた箇所で周期的屈曲、または連続的屈曲によって発生させて再現するコア角部負荷再現ステップと、
前記マグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出ステップと、
をさらに備える請求項18に記載のマグネットワイヤ絶縁被覆の検査方法。
【請求項20】
使用する巻線機に合わせて、前記バックテンショナ負荷再現ステップ、前記巻線ノズル負荷再現ステップ、前記テンション変動負荷再現ステップ、およびコア角部負荷再現ステップの内のいずれか1つのステップ、またはいずれか2つのステップ、またはいずれか3つのステップ、またはすべてのステップを選択して実施する請求項19に記載のマグネットワイヤ絶縁被覆の検査方法。
【請求項21】
請求項19に記載のマグネットワイヤ絶縁被覆の検査方法で検査し、巻線負荷によるマグネットワイヤの絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握された前記マグネットワイヤと同一ロットの前記マグネットワイヤを用いて、巻線された鉄心を用いて回転電機を製造するステップを備えた回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、巻線負荷再現装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法、および回転電機の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーターおよびトランスのコイルに巻線されるマグネットワイヤは、表面をワニスでコーティングして電気絶縁処理がなされている。ワニス絶縁被膜にキズおよび気泡、ピンホール、クラック等の欠陥が存在すると、そこが電気的に脆弱な箇所となり電圧を印加した際の破壊の起点となり得る。
【0003】
皮膜欠陥の検出方法として、使用するマグネットワイヤが巻線される前にその欠陥を検出する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。また、巻線された後のコイルを導電性の液体に浸漬させて欠陥の位置を特定する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-42147号公報
【文献】特許第3614141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
巻線製品の製造にあっては、使用するマグネットワイヤの材料を選定する上で、予めその絶縁被膜の欠陥発生頻度がどの程度か把握するための検査法及び検査装置が求められる。また、巻線製品の電気的な不良発生低減のためには、マグネットワイヤ製造、輸送時に発生する欠陥のみならず、巻線製品の製造時に受ける負荷による欠陥についても把握する必要がある。
しかし、特許文献1の方法では、巻線製品の製造工程で発生する絶縁被膜欠陥について把握することは難しく、また特許文献2の方法では、巻線製品として完成してからの検査となるため、全量を検査すると非常にコストと時間のかかる問題がある。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出する装置および検査する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される巻線負荷再現装置は、マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造におけるマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥の発生を模擬し、負荷再現機構として、マグネットワイヤを複数の板によって挟むバックテンショナを備え、通過するマグネットワイヤに対して動摩擦力を付与して両側から押圧することで摩擦による絶縁被膜への負荷を再現するバックテンショナ負荷再現部を備えるものである。
本願に開示されるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、巻線負荷再現装置を備え、更にマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出装置と、を備えたものである。
本願に開示されるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造におけるマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥の発生を模擬する巻線負荷再現装置を備え、更にマグネットワイヤの前記絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出装置と、を備え、欠陥検出装置は、導電性液体槽内の導電性液体を含侵させ、マグネットワイヤの絶縁被膜の周囲を導電性液体が接触するように形成された電極を備え、マグネットワイヤの導電部と電極と間に電圧を印加し、マグネットワイヤと導電性液体との間に発生する部分放電の放電電荷量を計測し、マグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出するものである。
本願に開示されるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法は、マグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出する方法であって、マグネットワイヤを複数の板によって挟むバックテンショナによって通過するマグネットワイヤに対して動摩擦力を付与して両側から押圧することで摩擦による絶縁被膜への負荷を再現するバックテンショナ負荷再現ステップを備えたものである。
本願に開示される回転電機の製造方法は、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法で検査し、巻線負荷によるマグネットワイヤの絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤと同一ロットのマグネットワイヤを用いて、巻線された鉄心を用いて回転電機を製造するステップを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される巻線負荷再現装置によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現することができる。
本願に開示されるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出する装置を提供することができる。
本願に開示されるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出する方法を提供することができる。
本願に開示される回転電機の製造方法によれば、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法で検査され、巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤと同一ロットを使用した回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の全体構成図である。
【
図2】実施の形態1による巻線負荷再現装置のバックテンショナ負荷再現部の概略構成図である。
【
図3】実施の形態1による巻線負荷再現装置の巻線ノズル負荷再現部の概略構成図である。
【
図4】実施の形態1による巻線負荷再現装置のテンション変動負荷再現部の概略構成図である。
【
図5】実施の形態1による巻線負荷再現装置のテンション変動負荷再現部のダミーコア回転体の斜視図である。
【
図6】実施の形態1による巻線負荷再現装置のコア角部負荷再現部の概略構成図である。
【
図7】実施の形態1による巻線負荷再現装置のコア角部負荷再現部の角部再現回転体の斜視図である。
【
図8】実施の形態1による巻線負荷再現装置のコア角部負荷再現部の概略構成図である。
【
図9】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置の構成図である。
【
図10】
図10Aは、実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の検査対象(丸線型)の構造概念図である。
図10Bは、実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の検査対象(平角線型)の構造概念図である。
【
図11】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置の別の構成図である。
【
図12】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の導電性液体補給機構の構成概念図である。
【
図13】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法のフローチャートである。
【
図14】実施の形態1によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法の回転電機への適用例の説明図である。
【
図15】
図15Aは、実施の形態2によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の湿式電極の構造図である。
図15Bは、実施の形態2によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の湿式電極の斜視図である。
【
図16】
図16Aは、実施の形態2によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の湿式電極の構造図である。
図16Bは、実施の形態2によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の湿式電極の斜視図である。
【
図17】実施の形態3によるマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1は、マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造におけるマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥の発生を模擬するものである。また、実施の形態1は、巻線負荷再現装置を備えたマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置に関するものである。さらに、巻線負荷再現装置を用いたマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法、およびマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法で検査し、巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤを用いて、巻線された鉄心を用いて製造する回転電機の製造方法に関するものである。
【0011】
以下、実施の形態1に係る巻線負荷再現装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法、および回転電機の製造方法について、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の全体構成図である
図1、巻線負荷再現装置のバックテンショナ負荷再現部の概略構成図である
図2、巻線ノズル負荷再現部の概略構成図である
図3、テンション変動負荷再現部の概略構成図である
図4、ダミーコア回転体の斜視図である
図5、コア角部負荷再現部の概略構成図である
図6、角部再現回転体の斜視図である
図7、コア角部負荷再現部の概略構成図である
図8、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置の構成図である
図9、検査対象(丸線型)の構造概念図である
図10A、検査対象(平角線型)の構造概念図である
図10B、欠陥検出装置の別の構成図である
図11、検査装置の導電性液体補給機構の構成概念図である
図12、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法のフローチャートである
図13、およびマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法の回転電機への適用例の説明図である
図14に基づいて説明する。
なお、各図において、同一部分もしくは相当部分は、同一符号で示し、重複する説明は、省略する。
【0012】
まず、実施の形態1のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100の全体構成を
図1に基づいて説明する。
実施の形態1のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100は、検査対象であるマグネットワイヤを検査するために、巻線負荷再現装置300、欠陥検出装置400、およびワイヤ掃引装置(サーボモータ5等)を備えている。
【0013】
まず、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100の全体的な動作(マグネットワイヤ2の流れ)を説明する。
ワイヤ掃引装置は、検査対象であるマグネットワイヤ2を掃引するための装置であり、
供給ボビン1、テンショナ3、巻取ボビン4、サーボモータ5、およびトラバース機構6A、6Bを備えている。
なお、
図1において、矢印「WPD」はマグネットワイヤ2の進行方向を表している。
図2以降についても同様である。トラバース機構6A、6Bを区別する必要がない場合は、適宜トラバース機構6と記載する。
【0014】
マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100は、地面に対して軸方向が垂直になるように置かれた供給ボビン1から、材料であるマグネットワイヤ2が引き出されている。引き出されたマグネットワイヤ2は、テンショナ3を通り、巻線負荷再現装置300、欠陥検出装置400、トラバース機構6を経て、巻取ボビン4に巻き取られる。
巻取ボビン4の軸方向はマグネットワイヤ2の進行方向に対して垂直の位置にあり、サーボモータ5から動力が伝達されることで軸が回転する。
テンショナ3から巻取ボビン4までの区間におけるマグネットワイヤ2は、テンショナ3により所定の張力に保たれている。また、マグネットワイヤ2は供給ボビン1における巻始め側の端部を通じて電気的に繋がるように設置されている。
なお、
図1ではベルトによる動力伝達が示されているが、巻取ボビン4の軸を回転させる機構であれば動力伝達方式にはチェーンおよびギアを採用しても良い。
【0015】
本実施の形態では、巻線負荷再現装置300は、テンショナ3の後のトラバース機構6Aとトラバース機構6Bとの間の領域に配置され、マグネットワイヤ2の動線が横切る場所に設置される。
欠陥検出装置400は、巻線負荷再現装置300とトラバース機構6Bとの間の領域に配置され、マグネットワイヤ2の動線が横切る場所に設置される。
【0016】
次に、巻線負荷再現装置300について説明する。
巻線負荷再現装置300では、一般的なモーターコイル巻線機で生産を行う際、ボビンから供給されコアに巻き取られるまでの経路でマグネットワイヤが受ける負荷を再現する機能を有する。
すなわち、巻線負荷再現装置300は、マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造におけるマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥の発生を模擬することができる。
例えば、スピンドル巻線機の場合、マグネットワイヤには、主に(1)テンショナとの摩擦による負荷、(2)巻線ノズルとの摩擦による負荷、(3)直方体のコアに巻線する際に生じるテンション変動による負荷、(4)直方体のモーターコアに巻線する際のコア角部での屈曲による負荷がある。
【0017】
巻線負荷再現装置300によりモーターコイル巻線機における経路の負荷を再現することで、マグネットワイヤの生産工程から存在するピンホール等の欠陥のみならず、モーターコイル加工の負荷によるクラック等の欠陥等も把握することができる。このためモーター製造の材料選定において、より高精度なマグネットワイヤの性能評価が期待できる。
【0018】
巻線負荷再現装置300は、負荷再現機構として、バックテンショナ負荷再現部300A、巻線ノズル負荷再現部300B、テンション変動負荷再現部300C、およびコア角部負荷再現部300Dを備えている。
各負荷再現部の構成、機能、動作について、
図2から
図8に基づいて順次説明する。
なお、各負荷再現部(300A、300B、300C、300D)を区別しないで、まとめて記載する場合は、適宜、負荷再現機構と記載する。
【0019】
バックテンショナ負荷再現部300Aについて、
図2に基づいて説明する。バックテンショナ負荷再現部300Aは、上記の(1)のテンショナとの摩擦による負荷を再現する。なお、
図2において、Pは「押圧」である。
バックテンショナ負荷再現部300Aでは、バックテンショナ31がマグネットワイヤ2を複数のサファイア板32で挟み、通過するマグネットワイヤ2に対して動摩擦力を付与して両側から押圧する。押圧力およびその調整にはエアシリンダ等を用いる。
また、本実施の形態ではサファイア板を用いて説明しているが、代わりに他の結晶性材料およびフェルト素材を使用しても良い。
実際のコイル巻線工程を想定する場合においても、
図3の巻線ノズル負荷再現部300Bの前部に設置する。
【0020】
巻線ノズル負荷再現部300Bについて、
図3に基づいて説明する。巻線ノズル負荷再現部300Bは、上記の(2)の巻線ノズルとの摩擦による負荷を再現する。
巻線ノズル負荷再現部300Bは、中空の巻線ノズル33、プーリー34、可動プーリー35が設けられ、マグネットワイヤ2が通される。巻線ノズル33、プーリー34はマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100内に固定される。
巻線ノズル負荷再現部300Bは、中空の巻線ノズル33を備え、巻線ノズル内部を通過するマグネットワイヤ2に対して、マグネットワイヤ巻取時における、巻線ノズル端部との摩擦による絶縁被膜への負荷を再現する。
可動プーリー35は、可動プーリー35を通過した後のマグネットワイヤ2の進行方向に沿って前後に固定位置を移動させることができる。巻線ノズル33のノズル口からマグネットワイヤ2が出る角度を変えることで、マグネットワイヤ2が受ける巻線ノズル33との摩擦負荷を任意に調整できる。
【0021】
テンション変動負荷再現部300Cについて、
図4、
図5に基づいて説明する。テンション変動負荷再現部300Cは、上記の(3)の直方体のコアに巻線する際に生じるテンション変動による負荷を再現する。
図4はテンション変動負荷再現部300Cの側面図である。
図5は、ダミーコア回転体36の斜視図である。
実際のコイル巻線工程を想定する場合においても、巻線ノズル負荷再現部300Bの後部に設置する。
【0022】
テンション変動負荷再現部300Cは、ダミーコア回転体36、ダンサローラ37、プーリー34を備えている。通過するマグネットワイヤ2は、
図5のダミーコア回転体36の斜視図のようにダミーコア回転体36に1周または複数回巻きつけて、ダンサローラ37側へ通される。
ダミーコア回転体36が回転する際、角型で長方形の断面形状のため、動線経路で周期的かつ急峻な張力変動を発生させる。このため、実際のスピンドル巻線におけるテンション変動負荷を再現できる。ダンサローラ37は、以降の動線経路で生じる張力変動を吸収する。
【0023】
また、ダミーコア回転体36の軸方向端部には、回転時にマグネットワイヤ2が脱落しないために、断面形状より面積の大きいガイドを設ける。ダミーコア回転体36の側面は、接するマグネットワイヤ2が滑らないよう摩擦力の大きい素材を使用することが望ましい。
ダミーコア回転体36の断面形状は、生産での使用が想定されるモーターコアの断面形状と合わせることができる。
以上説明のように、テンション変動負荷再現部300Cは、ダンサローラ37と直方体形状のダミーコア回転体36を備え、マグネットワイヤ2に対して、ダミーコア回転体36によりマグネットワイヤ2の動線経路で周期的かつ急峻な張力変動を発生させることで、テンション変動による絶縁被膜への負荷を再現する。
【0024】
コア角部負荷再現部300Dについて、
図6、
図7、
図8に基づいて説明する。コア角部負荷再現部300Dは、上記の(4)の直方体のモーターコアに巻線する際のコア角部での屈曲による負荷を再現する。
図6はコア角部負荷再現部300Dの側面図である。
図7は角部再現回転体38の斜視図である。
図8は丸型角部再現回転体39を使用したコア角部負荷再現部300Dの側面図である。
【0025】
コア角部負荷再現部300Dは、直方体形状の角部再現回転体38、プーリー34を備えている。通過するマグネットワイヤ2は、
図7の角部再現回転体38の斜視図のように銅線経路が角部再現回転体38で直角に曲がるようにプーリー34の位置が調整される。
角部再現回転体38が回転する際、角型の断面形状のため、最大90°の周期的な屈曲が動線経路で生じる。このため、実際のスピンドル巻線のコア角部におけるマグネットワイヤの屈曲負荷を再現できる。
【0026】
また、角部再現回転体38の軸方向端部には、ダミーコア回転体36同様、回転時にマグネットワイヤ2が脱落しないために、断面形状より面積の大きいガイドを設ける。角部再現回転体38の側面は、接するマグネットワイヤ2が滑らないよう摩擦力の大きい素材を使用することが望ましい。
角部再現回転体38の断面形状は、生産での使用が想定されるモーターコアの角部のRと合わせることができる。
【0027】
テンション変動負荷再現部300Cでもダミーコア回転体36によってコア角部におけるマグネットワイヤの屈曲負荷を再現することが可能であるが、コア角部負荷再現部300Dを使えば、角部再現回転体38の周長をモーターコアより短くできる。これによりコア角部における屈曲負荷を、同じ線長においてモーターコアの場合よりも高密度でマグネットワイヤ上に再現することができる。
【0028】
また、
図8のコア角部負荷再現部300Dの側面図のように、モーターコアの角部のRと同等の微小な直径を有するプーリーである円筒形状の丸型角部再現回転体39を角部再現回転体38の代わりに使用すれば、コア角部の屈曲による負荷をマグネットワイヤ上に連続的に再現できる。すなわち、モーターコアの角部のRと同等の屈曲を連続的に動線経路に生じさせる。
【0029】
なお、角部再現回転体38を用いた
図6のコア角部負荷再現部と丸型角部再現回転体39を用いた
図8のコア角部負荷再現部とを区別する場合は、
図6のコア角部負荷再現部を周期的屈曲コア角部負荷再現部と記載する。
図8のコア角部負荷再現部を連続的屈曲コア角部負荷再現部と記載する。区別せずに、まとめて記載する場合は、コア角部負荷再現部と記載する。
【0030】
本実施の形態では、
図2から
図8に示した各負荷再現部(300A、300B、300C、300D)の設定調整で、種々の巻線機でマグネットワイヤが動線経路で受ける負荷の再現が可能である。
例えば、ノズル巻線機における負荷を再現する場合、
図3の巻線ノズル負荷再現部300Bにおいて、可動プーリー35をノズル出口直下に移動させ、マグネットワイヤ2がノズル出口で90°曲がるように経路変更する。
フライヤー巻線機のマグネットワイヤ動線経路におけるマグネットワイヤへの負荷は、基本的にスピンドル巻線機と同様である。しかし、適用を想定する生産設備に合わせて可動プーリー35を移動し、ノズル出口におけるマグネットワイヤ角度を調整することで、実態に近い負荷を再現することができる。
【0031】
次に、欠陥検出装置400の構成、機能、動作を
図9に基づいて説明する。
欠陥検出装置400は、マグネットワイヤ2に部分放電検出用電圧を印加するための設備として、導電性液体槽41、導電性液体42、湿式電極43A、43B、導電性液体42に下部を浸漬した金属電極44、および湿式電極43を保持するクランプ45を備えている。
欠陥検出装置400は、さらに、部分放電を検出するための装置として、マグネットワイヤ2の導体と絶縁被膜の表面との間に検出用電圧を印加する電源46、部分放電検出装置47、およびパソコン48を備えている。
なお、
図9では、「D1」は湿式電極43の電極幅を表し、パソコンを「PC」と記載している。
また、湿式電極43A、43Bは、特に区別する必要がない場合は、湿式電極43と記載する。
【0032】
導電性液体槽41の内部に導電性液体42が保持されている。導電性液体槽41の上部に軟質かつ吸湿性を持つフェルト素材による直方体形状の湿式電極43A、43Bが設けられている。この湿式電極43A、43B間にマグネットワイヤ2が配置される。
湿式電極43A、43Bは、導電性液体槽41に固定されたクランプ45によって、マグネットワイヤ2に押し付けられ、保持される。すなわち、直方体形状の湿式電極43A、43Bがマグネットワイヤ2を挟み込むように接触している。
【0033】
下部が導電性液体42に浸漬されている湿式電極43は、吸湿性であるため、導電性液体42で湿潤している。さらに、湿式電極43は軟質であるため、クランプ45によってマグネットワイヤ2に押し付けられることで、湿式電極43の電極幅D1の領域においてマグネットワイヤ2の全周と接触している。すなわち、湿式電極43の電極幅D1の領域において導電性液体42がマグネットワイヤ2の全周で接触していることとなる。この構成によって、導電性液体42をマグネットワイヤ2の表面に効率的に接触することができる。
マグネットワイヤ2は、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100の全体的な動作で説明した
図1の巻取ボビン4への巻取動作により、湿式電極43と電極幅D1の接触領域を保ちながら摺動する。
【0034】
電源46と部分放電検出装置47に接続されている金属電極44は、下部が導電性液体42に浸漬され、導電性液体42に部分放電検出用電圧を印加する電極として使用する。 さらに、湿式電極43A、43Bは導電性液体42で湿潤しているため、電源46を接続すると、湿式電極43の電極幅D1の領域においてマグネットワイヤ2の全周に部分放電検出用電圧が印加される。
【0035】
ここで、2つのタイプのマグネットワイヤ2について、
図10A、
図10Bに基づいて説明する。
図10Aは丸線型のマグネットワイヤ21であり、軸方向に対して垂直に切った断面図である。マグネットワイヤ21は軸中心部に導体21Aがあり、その表面全体を絶縁被膜21Bが定められた皮膜厚みで覆う形で構成されている。
図10Bは平角線型のマグネットワイヤ22であり、軸方向に対して垂直に切った断面図である。導体22Aおよび絶縁被膜22Bの断面形状が角型であること以外において、基本的な構成は
図10Aの丸線型と同様である。
マグネットワイヤ21(22)がこのような構成であるため、以下の測定方法でマグネットワイヤ21(22)の絶縁被膜21B(22B)における電気的な欠陥を連続的に検出することが可能となる。
なお、ここでは、区別するために、丸線型をマグネットワイヤ21、平角線型をマグネットワイヤ22とした。まとめて記載する場合は、マグネットワイヤ2とし、必要がある場合は、丸線型のマグネットワイヤ21を代表例として記載する。
【0036】
巻線負荷再現装置300の各負荷再現部は個別に着脱可能であるため、欠陥発生要因を切り分けて検証することが可能である。
つまり本実施の形態の構成によれば、マグネットワイヤ2に発生した欠陥が、巻線ノズルによる負荷の影響か、あるいはバックテンショナ31による負荷の影響か、あるいはマグネットワイヤ素線の特性かを把握できる。
この結果、巻線機のノズル先端形状の設計変更、あるいはバックテンショナ31の押しつけ力の軽減、あるいはマグネットワイヤ2の耐摩耗性が高いグレードへの変更等、巻線製品の開発において適切な対策を講じることができる。
【0037】
また、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100は、マグネットワイヤの材料選定、および巻線機内での負荷設計検討のために使用することを想定しており、検査したマグネットワイヤの生産への再利用は基本的に行わない。なお、検査して巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤと同一製造ロットのマグネットワイヤを用いて、回転電機に用いる固定子を製造してもよい。
【0038】
次に、マグネットワイヤ2の絶縁被膜の欠陥検出の具体的方法について説明する。
なお、部分放電検出のために電圧を印加する電源として、直流電源、交流電源のいずれも使用できるが、高電圧の発生が容易な交流電源を使用することを想定して説明する。
マグネットワイヤ2の絶縁被膜の欠陥の検出を行う際、前述した通り、電源46をマグネットワイヤ2の導体21Aと金属電極44に接続し、湿式電極43の電極幅D1の領域においてマグネットワイヤ2の外周表面に交流電圧を印加する。
もし湿式電極43の電極幅D1の検出領域に絶縁被膜21Bを貫通するピンホール欠陥が存在する場合、導電性液体42は絶縁被膜21Bの内側の導体21Aと直接接触するため、電圧印加時には電流が検出され、電極幅D1領域で絶縁欠陥を検出できる。
【0039】
また、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100内で巻線動作が行われる際、マグネットワイヤ2は必ず欠陥検出装置400の湿式電極43の電極幅D1領域を通過する。そのため供給ボビン1から巻き出されるマグネットワイヤ2の全領域に対して、製造時および巻線負荷により発生する欠陥を検知できる。
【0040】
さらに絶縁被膜21Bに、非貫通であるが、内部に気泡またはクラックが存在する場合においても、絶縁被膜の欠陥の検出が可能である。
すなわち、あらかじめ定められた大きさの交流電圧を印加することで、湿式電極43を湿潤する導電性液体42とマグネットワイヤ2との間には部分放電が発生し、部分放電検出装置47では電荷が検出される。絶縁被膜21Bに気泡またはクラックの欠陥がある場合に検出される放電電荷量は、欠陥がない場合と比較して大きくなる。
このように部分放電を利用することで、絶縁被膜21Bの欠陥が導通するような貫通穴ではなくても検出することが可能である。
【0041】
部分放電が長期間に渡り同じ箇所に発生する場合は、絶縁被膜21Bを劣化させる原因となり得るが、一般的な巻線機の送り速度で湿式電極43の電極幅D1を通過する時間であれば、ほとんど劣化の影響は受けない。つまり、マグネットワイヤ2の絶縁被膜21Bにおける欠陥を非破壊で検出することが可能である。
【0042】
部分放電は印加する交流電圧の1波長につき、最大2回発生する。このため、欠陥検出装置400の測定電圧の周波数を50Hzとした場合、部分放電の発生頻度は1秒当たり100回である。
したがって、巻線されるマグネットワイヤ2の全領域の欠陥を漏れなく検査するためには、巻線速度である1秒当たりに進む距離を湿式電極43の電極幅D1の領域の100倍以下(周波数の2倍以下)に設定しなければならない。仮に電極幅D1が10mmとすると、巻線速度は1000mm/sec以下で設定する必要がある。
湿式電極43の電極幅D1を更に大きくすると、マグネットワイヤ2の絶縁被膜の欠陥の検出確率をさらに向上させることが期待できる。
【0043】
上記説明は例として
図10Aの丸線型のマグネットワイヤ21を用いて説明を行ったが、湿式電極43は軟質であるため、
図10Bで示した平角線型のマグネットワイヤ22でも同様に適用可能である。
湿式電極43の素材としてフェルト素材を挙げたが、吸水性があり使用するマグネットワイヤ2の曲面に沿って密着できる程度軟質であり、導電性があればよく、例えばスポンジのような海綿素材を用いても良い。すなわち、湿式電極43をスポンジ電極としてもよい。
【0044】
導電性液体42には、メチルアルコール、エチルアルコール等の揮発性のアルコール類が使用できる。導電性液体42は、アルコール類以外の液体でも良いが、高い導電性を有するとともに、ピンホール等のマグネットワイヤ2の欠陥に浸透するための低い粘性を有している必要がある。導電性液体42は、更に湿式電極43の電極幅D1の検出領域の通過後に速やかに除去される性質を有する必要がある。
【0045】
クランプ45は、湿式電極43A、43Bをマグネットワイヤ2に押し付けるために用いるが、気中において湿式電極43A、43Bの表面から導電性液体42が蒸発することを抑制する役割も持つ。
またクランプ45の素材は樹脂でも金属でも良いが、銅または鉄のような導電性金属素材を用いることで、次に説明するように、金属電極44を削除することができる。
【0046】
ここで、金属電極44を削除した欠陥検出装置の別の構成例を
図11に基づいて説明する。
図11の欠陥検出装置401は、
図9の欠陥検出装置400と基本的な構成は同じであるが、部分放電検出のための交流電圧の印加方法が異なっている。
図9の欠陥検出装置400と区別するため、欠陥検出装置401としている。
図11の欠陥検出装置401では、電源46および部分放電検出装置47をクランプ45に直接接続して、交流電圧を印加して、部分放電を検出する。
【0047】
次に、導電性液体槽41について、説明する。
導電性液体槽41は絶縁性の素材を使用し、導電性液体42に溶解されない素材を選択する。本実施の形態では、上面の開いた直方体の箱形状で説明しているが、導電性液体42を保持できれば立方体、円柱および円錐形状のいずれでもよい。また、液面からの導電性液体42の蒸発を抑制するため、フロートを浮かべても良く、また導電性液体槽41の上面に蓋を設けても良い。
【0048】
ここで、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置100の導電性液体補給機構450について、
図12に基づいて説明する。
湿式電極43は、マグネットワイヤ2の検査中、常に導電性液体42で湿潤している必要がある。金属電極44を介して湿式電極43に電圧を印加する場合には、湿式電極43の両端は常に導電性液体42の液面下に位置していなければならない。液面高さを維持するには、先に説明した蒸発を抑制するためのフロートの設置に加え、
図12に示すように導電性液体槽41に導電性液体42を補給するための導電性液体補給機構450を設置することが有効である。
【0049】
図12に示すように、導電性液体補給機構450は給液タンク51、およびバルブ52を備えた給液機構液体槽50を備える。導電性液体槽41には液面レベルスイッチ53が設置され、この液面レベルスイッチ53の信号でバルブ52が開閉される。
具体的には、導電性液体槽41の導電性液体42が予め定められた下限水位を下回ったとき、バルブ52を開き、給液タンク51から導電性液体42を導電性液体槽41内に供給する。導電性液体42が上限水位に達したとき、バルブ52を閉めて導電性液体42の供給を停止する。
電気式の液面レベルスイッチの替わりにフロート式の液面レベルスイッチを用いても良い。
【0050】
このように、導電性液体補給機構450を設けることで、湿式電極43に安定して導電性液体42を供給し続けることができる。この結果、湿式電極43を常に湿潤させておくことができ、金属電極44を介して導電性液体42にまたは湿式電極43に交流電圧を印加することで、マグネットワイヤ2の絶縁被膜の部分放電の検出を安定して行うことができる。
【0051】
以上、実施の形態1のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の構成、機能、動作を中心に説明した。ここでマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法について、
図13のフローチャートに基づいて説明する。
なお、
図13において、バックテンショナ負荷再現ステップを「BLS」と、巻線ノズル負荷再現ステップを「WNS」と、テンション変動負荷再現ステップを「TFS」と記載している。
【0052】
マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法の処理は、ステップ01(S01)からステップ07(S07)で構成される。
ステップ01(S01)において、バックテンショナ負荷再現ステップ(S02)を実施するかどうかを選択する。バックテンショナ負荷再現ステップ(S02)を実施する場合は、ステップ02(S02)に進み、実施しない場合は、ステップ03(S03)に進む。
【0053】
バックテンショナ負荷再現ステップ(S02)では、巻線製造工程におけるテンショナとの摩擦による負荷を再現する。すなわち、通過するマグネットワイヤ2に対して動摩擦力を付与して両側から押圧することで摩擦による絶縁被膜への負荷を再現する。
ステップ02(S02)の処理が完了すると、ステップ03(S03)に進む。
【0054】
ステップ03(S03)において、巻線ノズル負荷再現ステップ(S04)を実施するかどうかを選択する。巻線ノズル負荷再現ステップ(S04)を実施する場合は、ステップ04(S04)に進み、実施しない場合は、ステップ05(S05)に進む。
【0055】
巻線ノズル負荷再現ステップ(S04)では、巻線製造工程における巻線ノズルとの摩擦による負荷を再現する。すなわち、マグネットワイヤ巻取時における巻線ノズル端部との摩擦による絶縁被膜への負荷を再現する。
ステップ04(S04)の処理が完了すると、ステップ05(S05)に進む。
【0056】
ステップ05(S05)において、テンション変動負荷再現ステップ(S06)を実施するかどうかを選択する。テンション変動負荷再現ステップ(S06)を実施する場合は、ステップ06(S06)に進み、実施しない場合は、ステップ07(S07)に進む。
【0057】
テンション変動負荷再現ステップ(S06)では、巻線製造工程における直方体のコアに巻線する際に生じるテンション変動による負荷を再現する。すなわち、マグネットワイヤ2の動線経路で周期的かつ急峻な張力変動を発生させることで、テンション変動による絶縁被膜への負荷を再現する。
ステップ06(S06)の処理が完了すると、ステップ07(S07)に進む。
【0058】
欠陥検出ステップ(S07)では、マグネットワイヤの導体と絶縁被膜の表面と間に交流電圧を印加して、部分放電を検出することで、マグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出する。
【0059】
上記の
図13のフローチャートに基づいたマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法の説明では、各負荷再現ステップを実施するかの選択を行った。しかし、通常のマグネットワイヤ2の検査では、すべての負荷再現ステップを実施して、その後、欠陥検出ステップを実施する。
しかし、新規に開発したマグネットワイヤ、または製造工程を変更したマグネットワイヤを検査する場合は、検証対象の負荷に合わせて、各負荷再現ステップの内、いずれか1つ、またはいずれが2つ、またはすべての負荷再現ステップを実施すれば良い。
【0060】
なお、直方体のモーターコアに巻線する際のコア角部での屈曲による負荷を再現する場合は、欠陥検出ステップ(S07)の前にコア角部負荷再現ステップを追加することができる。すなわち、マグネットワイヤ巻取時におけるモーターコアの角部での屈曲による絶縁被膜への負荷を周期的屈曲、または連続的屈曲によって発生させて再現する。
【0061】
次に、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法を適用して巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤのロットと同一ロットのマグネットワイヤ2を使用して、回転電機を製造する例を
図14に基づいて説明する。
図14は、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法を適用して巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤ2を巻線機のノズル71で巻線された固定子鉄心72を備えた回転電機80を製造するステップを備えた回転電機の製造方法を示している。
すなわち、この回転電機の製造方法により、信頼性の高いマグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法で検査されたマグネットワイヤを使用した回転電機を製造できる。
【0062】
この回転電機80は、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置を適用して巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤ2を巻線された固定子鉄心72を用いて、回転電機を製造するステップを備えた回転電機の製造方法によっても製造することができる。
【0063】
上記説明のように、実施の形態1の巻線負荷再現装置によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現することができる。
マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出する装置を提供することができる。
マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法によれば、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出する方法を提供することができる。
回転電機の製造方法によれば、マグネットワイヤ絶縁被膜の検査方法で検査され、巻線負荷による絶縁被膜欠陥の発生頻度傾向に問題ないことが把握されたマグネットワイヤを使用した回転電機を提供できる。
【0064】
実施の形態2.
実施の形態2のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、湿式電極として、実施の形態1とは、別の形態の電極を使用したものである。
【0065】
実施の形態2のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の湿式電極について、湿式電極の構造図である
図15A、
図16A、および湿式電極の斜視図である
図15B、
図16Bに基づいて、実施の形態1との差異を中心に説明する。
実施の形態2の構成図において、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
なお、各図において、分かりやすくするためにクランプおよび導電性液体を除いている。
【0066】
まず、
図15A、
図15BのU字型湿式電極43Cについて説明する。なお、説明では、U字型湿式電極43Cを湿式電極43Cと記載する。
実施の形態1の
図6に示した湿式電極43は、湿式電極43Aと湿式電極43Bの2つに分割され、マグネットワイヤ2を挟み込む形態をとっている。しかし、
図15A、
図15Bに示す湿式電極43Cのような形状でもよい。
図15Aは湿式電極43Cの正面図を、
図15Bは斜視図を示す。
【0067】
湿式電極43Cは、例えば、
図6で示した湿式電極43A、43Bの約2倍の長さを有する直方体形状の1本の長い湿式電極をU字型に上部で曲げた形態で使用する。この折り曲げた部分でマグネットワイヤ2を包み込むように形成する。
この結果、U字形状の折り曲げた部分から延びる2つの部位は、
図15Aに示すように接触する。なお、同様な形状に湿式電極43Cを形成できれば、直方体形状の1本の長い形状で電極を形成する必要はない。
【0068】
この湿式電極43Cの構成では、
図6で示した湿式電極43A、43Bの接触面とマグネットワイヤ2の上面および下面との間に生じる微小な空隙を削除できる。このため、効率よく、より確実に導電性液体42をマグネットワイヤ2の表面に接触させることができる。
【0069】
次に、
図16A、
図16Bのらせん状湿式電極43Dについて説明する。なお、説明では、らせん状湿式電極43Dを湿式電極43Dと記載する。
図16Aは湿式電極43Dの正面図を、
図16Bは斜視図を示す。湿式電極43Dは、
図6で示した湿式電極43A、43Bの約2.5倍から3倍程度の長さを有する1本の長い湿式電極をマグネットワイヤ2に対してらせん状に巻き付けながら、その両端は導電性液体42に浸漬させる。
【0070】
この湿式電極43Dの構成では、
図6に示した湿式電極43A、43Bの接触面とマグネットワイヤ2の上面および下面との間に生じる微小な空隙を全周にわたり削除できる。このため、実施の形態1の湿式電極43および
図15A、
図15Bの湿式電極43Cよりも確実に導電性液体42をマグネットワイヤ2の表面に接触させることができる。
【0071】
また湿式電極43Dのマグネットワイヤ2への巻き付け方について、マグネットワイヤ2の全周が湿式電極43Dと触れていれば、
図16Bに示すように隣り合う湿式電極には隙間があっても良い。また、巻きつける回数は2巻以上でも良い。
【0072】
以上説明したように、実施の形態2のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、湿式電極として、実施の形態1とは、別の形態の電極を使用したものである。
したがって、実施の形態2のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、巻線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出することができる。さらに、確実に導電性液体をマグネットワイヤの表面に接触させることができる。
【0073】
実施の形態3.
実施の形態3のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置は、湿式電極の代わりに、乾式電極を使用するものである。
【0074】
実施の形態3の欠陥検出装置の構成および動作について、欠陥検出装置の構成図である
図17に基づいて実施の形態1との差異を中心に説明する。
実施の形態3の構成図において、実施の形態1と同一あるいは相当部分は、同一の符号を付している。
なお、実施の形態1と区別するために、欠陥検出装置410としている。
【0075】
図17の欠陥検出装置410は、
図6の欠陥検出装置400の湿式電極43を乾式電極60に変更し、導電性液体槽41を削除したものである。
乾式電極60には、エナメル皮膜層を傷つけない柔らかさのカーボンおよび導電性ポリマー素材のブラシを用いる。乾式電極60の素材は、導電性のスポンジを用いることもできる。
乾式電極60は、ブラシの先端がマグネットワイヤ2の表面に接触するように設置する。
【0076】
図17では説明のため、丸線型のマグネットワイヤ2の上下を挟むようにブラシを配置しているが、実際には全周方向にブラシ先端が接触するような配置とする。これは平角線型のマグネットワイヤでも同様である。
【0077】
部分放電検出時において、マグネットワイヤ2の絶縁皮膜の欠陥が、電圧印加された乾式電極60の領域を通過したとき、乾式電極60と絶縁皮膜の欠陥の間に部分放電が発生し、部分放電検出装置47により検出される。
部分放電検出時において、マグネットワイヤ2の走行中、乾式電極60のブラシ先端が瞬間的にマグネットワイヤ2の表面から離れることも起こり得るが、数mm程度の距離であればマグネットワイヤ2の表面に直接触れていなくても、絶縁皮膜欠陥とブラシ間で部分放電が発生し、欠陥を検出することができる。
【0078】
欠陥検出装置に湿式電極の代わりに乾式電極を用いた場合、導電性液体槽41、導電性液体42が不要となり、また導電性液体42を一定に保持するための給液機構液体槽50および関連設備も不要となる。このため、設備が簡素化され、欠陥検出装置の運用も容易になる。
【0079】
以上説明したように、実施の形態3のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置の欠陥検出装置は、湿式電極の代わりに、乾式電極を使用するものである。このため、実施の形態3のマグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置は、線製品を製造した際にマグネットワイヤ絶縁被膜が受ける負荷を再現し、発生する絶縁被膜の欠陥を検出することができる。さらに、欠陥検出装置が簡素化され、運用も容易になる。
【0080】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるものではなく、単独で、または様々な組合せで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組合せる場合が含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本願の巻線負荷再現装置は、マグネットワイヤの絶縁被膜に摩擦または延伸の少なくとも一つの負荷を再現する負荷再現機構を備え、巻線製品の製造におけるマグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥の発生を模擬するものであるため、マグネットワイヤの絶縁被膜の欠陥を検出する欠陥検出装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 供給ボビン、2 マグネットワイヤ、3 テンショナ、4 巻取ボビン、5 サーボモータ、6A,6B トラバース機構、21 丸線型のマグネットワイヤ、21A,22A 導体、21B,22B 絶縁被膜、22 平角線型のマグネットワイヤ、31 バックテンショナ、32 サファイア板、33 巻線ノズル、34 プーリー、35 可動プーリー、36 ダミーコア回転体、37 ダンサローラ、38 角部再現回転体、39 丸型角部再現回転体、41 導電性液体槽、42 導電性液体、43A,43B 湿式電極、43C U字型湿式電極、43D らせん状湿式電極、44 金属電極、45 クランプ、46 電源、47 部分放電検出装置、48 パソコン、50 給液機構液体槽、51 給液タンク、52 バルブ、53 液面レベルスイッチ、60 乾式電極、71 巻線機のノズル、72 固定子鉄心、80 回転電機、100 マグネットワイヤ絶縁被膜の検査装置、300 巻線負荷再現装置、300A バックテンショナ負荷再現部、300B 巻線ノズル負荷再現部、300C テンション変動負荷再現部、300D コア角部負荷再現部、400,410 欠陥検出装置、450 導電性液体補給機構。