(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】個別推定および共同推定を用いた複数の車両の協調的な状態追跡
(51)【国際特許分類】
G01S 19/03 20100101AFI20241122BHJP
G01S 19/44 20100101ALI20241122BHJP
G01S 19/14 20100101ALI20241122BHJP
G01S 19/07 20100101ALI20241122BHJP
【FI】
G01S19/03
G01S19/44
G01S19/14
G01S19/07
(21)【出願番号】P 2024500700
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2022001871
(87)【国際公開番号】W WO2022209183
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-15
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーントープ,カール
(72)【発明者】
【氏名】グレイフ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ディ・カイラノ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン・ジン
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-175721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0269223(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-G01S 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両の状態を共同で追跡するためのサーバであって、各車両の状態は、大気遅延の残余誤差を取り込む1つまたは複数の状態バイアスを含み、前記サーバは、少なくとも1つのプロセッサと、命令を格納したメモリとを備え、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記サーバに、
前記複数の車両から
の複数の送信を受信することを行わせ、車両からの各送信は、前記車両で受信された衛星信号の測定値と、前記車両の前記状態の確率分布のパラメータとを含み、前記サーバにさらに、
対応する前記確率分布の前記パラメータによって定義される前記複数の車両の前記状態を融合させて、前記複数の車両の拡張状態にすることと、
前記複数の車両の前記衛星信号の測定値を融合させて、非ゼロの非対角要素を有する非対角共分散行列によって定義される拡張測定ノイズを受ける前記拡張状態の拡張測定値にすることとを行わせ、各非ゼロの非対角要素は、一対の対応する車両の前記測定値の誤差に関連し、前記サーバにさらに、
前記拡張測定ノイズを受ける前記拡張測定値に基づいて前記拡張状態を更新する確率的フィルタを実行することと、
前記複数の車両のうちの少なくともいくつかの前記状態の前記確率分布の前記パラメータを、更新された前記拡張状態の対応する部分と融合させて、前記複数の車両のうちの少なくともいくつかの前記状態の前記確率分布の融合パラメータを出力することとを行わせ
、
前記拡張測定値は、前記複数の車両における前記衛星信号の測定値を組み合わせることによって得られ、
前記拡張測定ノイズは、前記複数の車両における測定ノイズを組み合わせることによって得られる、サーバ。
【請求項2】
前記拡張状態は、前記複数の車両の状態の和集合であり、前記拡張状態の次元は、前記複数の車両の各々の状態の次元の和よりも小さい、請求項1に記載のサーバ。
【請求項3】
前記確率的フィルタは、混合整数最小二乗問題を解いて、前記複数の車両の前記拡張状態の確率分布の第1および第2のモーメントを更新する、混合整数カルマンフィルタを含む、請求項1に記載のサーバ。
【請求項4】
前記確率的フィルタは、サイズが増加し続ける再帰的な混合整数最小二乗問題(recursive mixed-integer least squares problem:RMILS)を解いて、前記複数の車両の
拡張状態の第1および第2のモーメントを更新する、再帰的な混合整数カルマンフィルタを含む、請求項1に記載のサーバ。
【請求項5】
前記確率的フィルタは、前記拡張状態の実数値要素を有する制約なし確率分布と、前記拡張状態の更新された前記実数値要素に基づいて重み付き整数最小二乗問題を解くことによって求められる前記拡張状態のいくつかの要素に整数制約を課す制約付き確率分布とを維持することによって、前記RMILSを解く、請求項4に記載のサーバ。
【請求項6】
前記確率的フィルタは、
前記拡張測定値に基づいて前記拡張状態の前記制約なし確率分布を更新して、更新された実数値の拡張状態を生成し、
前記更新された実数値の拡張状態の前記重み付き整数最小二乗問題を解いて、前記拡張状態のいくつかの要素の制約付き曖昧さの値を生成し、
前記制約付き曖昧さの値で前記拡張測定値を更新して、制約付き拡張測定値を生成し、
前記制約付き拡張測定値に基づいて前記拡張状態の前記制約付き確率分布を更新して、更新された拡張状態を生成するように構成される、請求項5に記載のサーバ。
【請求項7】
前記非対角共分散行列を求めるために、前記サーバは、
共通のベース衛星に対する一対の車両の衛星信号の測定値の間の一重または二重差を形成し、
前記一対の車両が共有する衛星の数に基づいて、求められた前記一重または二重差の間の共分散を求めるように構成される、請求項1に記載のサーバ。
【請求項8】
車両の前記状態の前記確率分布の前記融合パラメータは、前記拡張状態と前記車両の前記状態との間の重み付けされた組み合わせとして求められる、請求項1に記載のサーバ。
【請求項9】
前記重み付けされた組み合わせの重みは、前記車両の前記状態の前記確率分布の融合した前記共分散の行列式を最小化することによって求められる、請求項8に記載のサーバ。
【請求項10】
前記重み付けされた組み合わせの重みは、前記車両の前記状態の前記確率分布の融合した前記共分散のトレースを最小化することによって求められる、請求項8に記載のサーバ。
【請求項11】
更新された前記拡張状態の第1のモーメントおよび第2のモーメントに基づいて前記車両の前記状態の前記確率分布の前記パラメータの第1のモーメントおよび第2のモーメントを融合させるために、前記サーバは、
前記拡張状態および前記車両の前記状態を共通の状態空間に変換し、
前記共通の状態空間における前記拡張状態と車両の前記状態との間の前記融合の相互共分散を求め、
前記相互共分散の重み付けされた組み合わせとして前記第1のモーメントを融合させ、
前記第2のモーメントの間の加重差に基づいて前記第2のモーメントを融合させるように構成され、前記重みは、前記相互共分散の前記重み付けされた組み合わせである、請求項8に記載のサーバ。
【請求項12】
前記融合の前記相互共分散は、前記車両の確率的フィルタのカルマンゲインと、前記車両の前記状態と前記拡張状態との間の相互共分散とに基づいて求められる、請求項11に記載のサーバ。
【請求項13】
前記車両の前記状態と前記拡張状態との間の前記相互共分散は、前記複数の車両の前記状態についての共同カルマンゲインの関数として求められる、請求項12に記載のサーバ。
【請求項14】
前記複数の車両から前記複数の送信を受信し、前記状態の前記確率分布の前記融合パラメータを前記複数の車両のうちの少なくともいくつかに送信するように構成されたトランシーバをさらに備える、請求項1に記載のサーバ。
【請求項15】
複数の車両の状態を共同で追跡する方法であって、各車両の状態は、大気遅延の残余誤差を取り込む1つまたは複数の状態バイアスを含み、前記方法は、前記方法を実行する格納された命令に結合されたプロセッサを使用し、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、前記方法のステップを実行し、前記ステップは、
前記複数の車両から
の複数の送信を受信するステップを備え、車両からの各送信は、前記車両で受信された衛星信号の測定値と、前記車両の前記状態の確率分布のパラメータとを含み、前記ステップはさらに、
対応する前記確率分布の前記パラメータによって定義される前記複数の車両の前記状態を融合させて、前記複数の車両の拡張状態にするステップと、
前記複数の車両の前記衛星信号の測定値を融合させて、非ゼロの非対角要素を有する非対角共分散行列によって定義される拡張測定ノイズを受ける前記拡張状態の拡張測定値にするステップとを備え、各非ゼロの非対角要素は、一対の対応する車両の前記測定値の誤差に関連し、前記ステップはさらに、
前記拡張測定ノイズを受ける前記拡張測定値に基づいて前記拡張状態を更新する確率的フィルタを実行するステップと、
前記複数の車両のうちの少なくともいくつかの前記状態の前記確率分布の前記パラメータを、更新された前記拡張状態の対応する部分と融合させて、前記複数の車両のうちの少なくともいくつかの前記状態の前記確率分布の融合パラメータを出力するステップとを備え
、
前記拡張測定値は、前記複数の車両における前記衛星信号の測定値を組み合わせることによって得られ、
前記拡張測定ノイズは、前記複数の車両における測定ノイズを組み合わせることによって得られる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、全地球測位システム(global positioning system:GPS)または準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)などの測位システムに関し、より具体的には、情報の非同期協調を用いて車両の状態を解決することに関する。
【背景技術】
【0002】
全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)は、地球に対する移動受信機の地理的位置を求めるために使用され得る衛星のシステムである。GNSSの例としては、GPS、Galileo、Glonass、QZSS、およびBeiDouが挙げられる。移動受信機の地理的位置のより迅速で正確な計算を達成するために、GNSS衛星からGNSS信号データを受信し、これらのGNSSデータを処理し、GNSSデータからGNSS補正を計算し、これらの補正を移動受信機に提供するように構成される、さまざまな全地球航法衛星(GNS)補正システムが知られている。
【0003】
さまざまな位置推定方法が知られている。これらの方法では、位置計算は、地球ベースのGNSS受信機によるいわゆる擬似距離(pseudo range)および搬送波位相観測値の反復測定に基づいている。「擬似距離」または「コード」観測値は、GNSS衛星信号の送信時刻とこの衛星信号のローカル受信時刻との差を表し、したがって、衛星の無線信号によってカバーされる幾何学的距離を含む。受信したGNSS衛星信号の搬送波と、受信機内で生成されるそのような信号のコピーとの間のアライメントを測定することで、衛星と受信機との間の見かけの距離を求めるための別の情報源が提供される。この対応する観測値は「搬送波位相」と呼ばれ、送信側衛星と受信機との相対運動に起因するドップラー周波数の積分値を表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すべての擬似距離観測値は不可避の誤差寄与を含み、この誤差寄与の中には、受信機と送信機とのクロック誤差、および大気の非ゼロ屈折率によって生じる追加遅延、機器遅延、マルチパス効果、および検出器ノイズがある。すべての搬送波位相観測値は、この信号アライメントへのロックインが得られるまでに経過した未知の整数の信号サイクル、すなわち整数の波長をさらに含む。この数は「搬送波位相曖昧さ」と呼ばれる。通常、観測値は、連続した離散時刻に受信機によって測定され、すなわちサンプリングされる。観測値が測定される時刻のインデックスは「エポック」と呼ばれる。公知の位置判定方法は、一般に、連続したエポックにおいてサンプリングされた観測値の測定に基づく、距離および誤差成分についての動的な数値推定および補正スキームを伴う。
【0005】
GNSS信号が連続して追跡され、ロックの喪失が発生していない場合、追跡段階の開始時に解決された整数曖昧さは、全GNSS測位期間にわたって維持することができる。しかしながら、GNSS衛星信号は、(たとえば、「アーバンキャニオン」環境における建物によって)時折遮られることがあり、または、(たとえば、受信機が橋の下をくぐるもしくはトンネルを通るときに)瞬間的にブロックされることがある。一般に、そのような場合、整数曖昧さの値は失われ、再度求めなければならない。このプロセスは数秒から数分かかることがある。実際、擬似距離または搬送波位相のいずれか一方の1つ以上の測定値に大きなマルチパス誤差またはモデル化されていない系統的バイアスが存在していると、現在の商用測位システムを用いて曖昧さを解決することが困難になり得る。受信機の離隔(すなわち、基準受信機と、位置を判定中の移動受信機との間の距離)が大きくなるにつれて、距離依存バイアス(たとえば、軌道誤差ならびに電離層効果および対流圏効果)が増大し、その結果、信頼性のある曖昧さ解決(または再初期化)がより一層困難になる。さらに、サイクルスリップと呼ばれる、信号に対する受信機の連続的な位相ロックの不連続性に起因して、ロックの喪失も発生することがある。たとえば、サイクルスリップは、電力損失、受信機ソフトウェアの故障、または衛星発振器の不具合によって生じることがある。加えて、サイクルスリップは、電離層の状態が変化することによって生じることがある。
【0006】
GNSSの向上は、全地球測位システムまたはその他の全地球航法衛星システム、一般に航法に使用される衛星のネットワークによって提供される測位情報の精度を高めるために使用される技術を指す。たとえば、衛星間の差分、受信機間の差分、エポック間の差分、およびその組み合わせに基づく差分技術を使用する方法もある。衛星と受信機との間の一重および二重差は、誤差原因を減らすが、取り除くことはない。
【0007】
したがって、GNSS測位の精度を高めることが必要である。この問題に対処するために、多数のさまざまな方法が、複数のGNSS受信機の協調を用いてGNSS測位の精度を高めている。しかしながら、適切に協調させるためには、複数のGNSS受信機を同期させる必要があり、それらの動作を制約する必要がある。たとえば、米国特許第9,476,990号には、機械的に接続された複数のモジュールによる協調的なGNSS測位推定が記載されている。しかしながら、GNSS測位の精度の協調的向上に対するそのような制限は、必ずしも現実的ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの実施形態は、全地球航法衛星システム(GNSS)から受信した衛星信号に基づいて車両の状態を追跡する現在の方法は、車両の内部モジュールに基づく個別もしくは集中推定、または厳密に制御されたおよび/もしくは同期された方法で状態推定を実行する分散推定のいずれか一方を前提とする、という認識に基づいている。そのような分散推定の例としては、状態追跡の異なる局面を判定し、コンセンサスに達することによって車両の状態を推定する非集中システム、一方のタイプの追跡が他方のタイプの追跡よりも支配的である間にシステムの状態を独立して追跡するアンバランスなシステム、および、好ましくは互いに一定距離を置いて配置された複数の同期GNSS受信機を含む分散システムが挙げられる。
【0009】
いくつかの実施形態は、移動車両の内部モジュールが外部から求められた追加情報を使用する場合、協調的な状態追跡の利点を認識する。しかしながら、いくつかの実施形態は、そのような外部情報は常に利用可能であるとは限らない、という認識に基づいている。したがって、追跡が車両の内部モジュールによって実行されるが、外部情報が利用可能であるときはそのような情報をシームレスに統合することができる場合、協調的であるが非同期の状態追跡が必要である。
【0010】
いくつかの実施形態は、車両の状態を再帰的に追跡するさまざまな確率的フィルタは2つの部分を含む、という認識に基づいている。第1の部分は車両の状態のサンプルを推定し、第2の部分はこれらの推定サンプルに基づいて状態の確率分布を更新する。一見すると、一方の部分は他方の部分がなければ実行されないので、これら2つの部分は統合されている。しかしながら、いくつかの実施形態は、これら2つの部分は時間の依存性ではなく因果的依存性によって関連している、という認識に基づいている。具体的には、確率的更新は、新しい状態サンプルが推定されると、その到着が更新をトリガするはずであるという意味で、状態サンプル推定の存在に依存している。しかしながら、いつどのように状態サンプルが推定されるかは、確率分布の更新に依存しない。
【0011】
いくつかの実施形態は、この理解を利用して、確率的状態推定および更新部分の曖昧さを除去する。この曖昧さ除去により、状態サンプルが推定される時間および方法にかかわらず確率的更新を再利用することができる。したがって、状態推定値を、GNSS測定値に基づいて車両の内部モジュールによって求めることができ、または、車両の外部のモジュールが利用可能な場合はそのようなモジュールによって求めることができる。状態推定の原理にかかわらず、確率的更新は同じように動作し、その品質は、新しい情報の到着頻度ではなく、その推定の品質に依存する。このようにして、内部および外部状態推定器は非同期に動作することができる。
【0012】
これらの理解に基づいて、いくつかの実施形態は、確率的フィルタが異なるソースを使用して車両の状態に対する信頼を更新することを可能にする、マルチヘッド測定モデルを開示する。マルチヘッド測定モデルは、異なるタイプの出力を生成するが同一の確率的構造を有する複数の経路を含む。たとえば、いくつかの実現例において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドを含む。第1のヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付け、第2のヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける。したがって、測定モデルは、異なる情報および異なるタイプのノイズを含むが、異なるヘッドの出力を個別にまたは共同で使用することを可能にする確率的フィルタによって受け入れられる同様の構造を有する。
【0013】
このようにして、いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、各更新ステップにおいて、プロセスノイズを受ける車両の状態遷移のモーションモデルに従って、車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に伝搬させ、マルチヘッド測定モデルの第1のヘッドおよびマルチヘッド測定モデルの第2のヘッドのうちの一方または組み合わせの出力を受信すると確率分布のパラメータを更新する。
【0014】
たとえば、第1のヘッドは、状態推定の精度および/または品質に影響を及ぼす特定の不確実性、バイアス、および曖昧さを有するGNSS測定値を使用して、車両の状態の信頼を更新することを可能にする。第1のヘッドの出力は、通常は確率的フィルタの更新頻度で利用可能である。これに対して、第2のヘッドは、たまにしか受信され得ないがより高い状態推定精度を有し得る外部情報を使用して、車両の状態の信頼を更新することを可能にする。たとえば、第2のヘッドは、外部測定モジュールから受信した状態推定値を処理することができる。したがって、第2のヘッドは情報の受信頻度が低くなり得るが、マルチヘッド測定モデルの第1および/または第2のヘッドの実行頻度にかかわらず、第1および第2のヘッドの出力は確率的フィルタの確率的保証を損なうことなくシームレスに統合される。
【0015】
いくつかの実施形態は、外部測定モジュールはパッシブであり得る、アクティブであり得る、またはその双方であり得る、という理解に基づいている。パッシブモードでは、外部測定モジュールは、内部測定モジュールによって実行されるGNSS測定から独立して求められた車両の状態の推定値を受信する。たとえば、車両は、さまざまな遠隔測定技術を使用して車両の状態を推定するように構成された路側機(roadside unit:RSU)の近くを通過し得る。アクティブモードでは、車両は、これもRSUであり得るリモートサーバに車両の状態の現在の情報を送信し、これに応答して、内部測定値の補正に基づいて得られた外部測定値を受信することができる。ここで、現在の情報は、車両の状態推定値の平均、車両の状態の推定値の共分散、ならびに、内部測定モジュールがその内部状態を更新するために使用するコードおよび搬送波位相測定値のセットを含む。
【0016】
そのため、いくつかの実施形態の目的は、確率的状態推定による使用に適した、協調的であるが非同期の車両の状態の推定を提供することである。いくつかの実施形態の別の目的は、外部アクティブモジュールが内部確率的フィルタの実行とは異なり得る更新速度で実行する場合に、そのような協調的な非同期の推定を提供することである。
【0017】
いくつかの実施形態は、GNSS測位問題は、衛星の1つまたはいくつかのコンステレーションから受信したコードおよび搬送波位相測定値のセットからの受信機の状態の推定に関する、という認識に基づいている。関係する測定方程式は、時間的に変化し、受信機の位置において非線形であり、さまざまなバイアスおよび整数曖昧さを組み込んでいる。搬送波位相測定値には、各衛星からの各搬送波位相測定値に固有の、曖昧さとして知られている整数バイアスが存在する。これらのバイアスを時間的に考えると、これらのバイアスは、一定に保たれた後、散発的かつ互いに独立して新しい整数値にジャンプする、一般に「サイクルスリップ」と呼ばれる整数ジャンプ過程をたどる。したがって、GNSS測位問題は、サイズが増加し続ける(各時間ステップに新しい整数バイアスが含まれる)混合整数問題を解く混合整数GNSS測位問題と見なすことができ、結果として得られるアルゴリズムを実行可能にするためにこの推定問題をどのように緩和するのが最適であるかを慎重に検討する必要がある。
【0018】
いくつかの実施形態は、確率的フィルタの設定において、たとえばサイクルスリップに起因する整数曖昧さの不確実性が、車両の状態の確率分布の第2のモーメント、すなわち共分散に反映される、という認識に基づいている。そのため、外部測定モジュールのアクティブモードから恩恵を受けるために、いくつかの実施形態は、確率分布のパラメータを送信して、リモートサーバがこの情報を補正できるようにする。リモートサーバは、近接した他の車両から同様の情報を収集し、受信した情報を融合させて車両の状態の確率分布のパラメータを補正し、更新された確率的パラメータを車両に送り返すことができる。更新された確率的パラメータを受信すると、外部測定モジュールは、更新されたパラメータと一致する現在の瞬間における車両の状態を推定し、確率的フィルタの実行をトリガする。たとえば、外部測定モジュールは、車両のモーションモデルに基づいて確率分布の平均を時間的に伝搬させ、伝搬した平均と受信した分散とによって定義される更新された確率分布をサンプリングし、サンプリングされた状態推定値で確率的フィルタを使用して車両の状態の確率分布を更新することができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、車両の状態は、車両の位置、車両の速度、特定の衛星からの車両の搬送波位相測定値に対応付けられた整数曖昧さ、ならびに、たとえば電離層遅延および対流圏遅延などの大気遅延をモデル化する残余バイアス状態を含む。たとえば、衛星間の差分、受信機間の差分、エポック間の差分、およびその組み合わせに基づく差分技術を使用する方法もある。衛星と受信機との間の一重および二重差は、誤差原因を減らすが取り除くことはないので、状態推定精度を低下させる。
【0020】
いくつかの実施形態は、電離層誤差などの状態バイアスを無視すると、状態推定のわずかな不正確さが生じることがある、という認識に基づいている。その理由は、バイアスは通常、GNSS測定値の一重または二重差分によって除去されるからである。この解決策は、車両の位置推定に望まれる精度がメートルのオーダーである場合は役立つが、望まれる精度がセンチメートルのオーダーである場合は問題となり得る。そのため、いくつかの実施形態は、車両の状態に状態バイアスを含み、確率的フィルタによって提供される状態追跡の一部としてそれらの状態バイアスを求める。
【0021】
いくつかの実施形態は、外部サーバとの非同期であるが協調的な通信を可能にするマルチヘッド測定モデルは、リモートサーバで求められた外部状態推定値が十分正確であれば状態推定精度の問題に対処することができる、という認識に基づいている。しかしながら、そのサーバは、やはり所望の精度で状態を求めることが必要である。
【0022】
いくつかの実施形態は、個々の車両について確率的フィルタは整数曖昧さの不確実性および大気遅延の双方を解決する必要があるため、個々の車両について大気時間遅延を正確に求めることは非現実的であり得る、ということを認識している。しかしながら、大気遅延は、たとえば2~10kmなど互いに十分近い車両では同程度である。したがって、複数の車両から同様の情報を収集する外部アクティブモジュールの場合、異なる車両の状態が互いに大きく重複しているため、外部測定モジュールは、個々の車両の確率的フィルタではできないやり方で個々の車両の状態を更新することができる。たとえば、電離層状態バイアスは、互いに近接した車両間で共有することができる。
【0023】
これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態は、確率的フィルタによって求められる状態推定値の不正確さは、曖昧さおよび残余遅延だけでなく測定ノイズにも起因し得る、という認識に基づいている。いくつかの実施形態は、複数の車両の状態を協調的に求める場合、車両の状態は重複する場合もあればそうでない場合もあり、曖昧さまたは遅延は重複する場合もあればそうでない場合もあるが、異なる車両の測定ノイズは協調的な状態推定によって探索可能な相関を有する、という認識に基づいている。たとえば、異なる対の車両の測定値の誤差は互いに関連付けられ得る。
【0024】
そのため、いくつかの実施形態は、異なる車両からの情報を組み合わせて拡張ドメインにする拡張確率的フィルタに基づいて、複数の車両の確率的追跡を実行する。たとえば、拡張確率的フィルタは、複数の車両の状態を融合させて拡張状態にし、複数の車両の衛星信号の測定値を融合させて、非対角共分散行列によって定義される拡張測定ノイズを受ける拡張状態の拡張測定値にする。この非対角共分散行列は、異なる車両の測定ノイズ間の相関を取り込む非ゼロの非対角要素を有する。この相関は、拡張確率的フィルタが複数の車両の状態を共同で追跡するために探索することができる追加情報である。
【0025】
いくつかの実施形態において、確率的フィルタは混合整数最小二乗カルマンフィルタであり、非線形測定方程式はその現在の推定値の周りで線形化され、結果として混合整数拡張カルマンフィルタ(extended Kalman filter:EKF)が得られる。他の実施形態は、EKFにおける線形化は不正確であり得る、ということを認識している。したがって、いくつかの実施形態において、確率的フィルタは混合整数線形回帰カルマンフィルタである。そのようなフィルタは、確率分布の第1および第2のモーメントをより正確に表すが、計算コストが非常に高くなる。
【0026】
一実施形態では、車両の状態の一部、たとえば整数曖昧さはモデルにおいて線形であるが、位置は非線形である、ということを認識している。したがって、第1および第2のモーメントの一部は分析的に求めることができるが、他の部分は線形回帰カルマンフィルタで推定される。
【0027】
GNSS測位問題は、サイズが増加し続ける(各時間ステップに新しい整数バイアスが含まれる)混合整数問題を解く混合整数GNSS測位問題と見なすことができ、結果として得られるアルゴリズムを実行可能にするためにこの推定問題をどのように緩和するのが最適であるかを慎重に検討する必要がある。特に、複数の車両からの情報を組み合わせる場合の状態の外部推定では、結果として得られる推定問題は非常に高次元となり、したがって計算コストが高くなる。
【0028】
いくつかの実施形態において、この緩和は、関連するが別個の2つの確率分布を求めることによって解かれ、一方の分布は、実数値パラメータのみを考慮し、すなわち、曖昧さが実際は整数であることを無視し、第2の分布は、最適化問題を解くことによって第1の分布から求められた整数曖昧さに基づいて求められる。
【0029】
したがって、一実施形態は、複数の車両の状態を共同で追跡するためのサーバを開示し、各車両の状態は、大気遅延の残余誤差を取り込む1つまたは複数の状態バイアスを含み、上記サーバは、少なくとも1つのプロセッサと、命令を格納したメモリとを備え、上記命令は、上記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、上記サーバに、上記複数の車両から複数の送信を受信することを行わせ、車両からの各送信は、上記車両で受信された衛星信号の測定値と、上記車両の上記状態の確率分布のパラメータとを含む。上記サーバにさらに、対応する上記確率分布の上記パラメータによって定義される上記複数の車両の上記状態を融合させて、上記複数の車両の拡張状態にすることと、上記複数の車両の上記衛星信号の測定値を融合させて、非ゼロの非対角要素を有する非対角共分散行列によって定義される拡張測定ノイズを受ける上記拡張状態の拡張測定値にすることとを行わせ、各非ゼロの非対角要素は、一対の対応する車両の上記測定値の誤差に関連する。上記サーバにさらに、上記拡張測定ノイズを受ける上記拡張測定値に基づいて上記拡張状態を更新する確率的フィルタを実行することと、上記複数の車両のうちの少なくともいくつかの上記状態の上記確率分布の上記パラメータを、更新された上記拡張状態の対応する部分と融合させて、上記複数の車両のうちの少なくともいくつかの上記状態の上記確率分布の融合パラメータを出力することとを行わせる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】いくつかの実施形態に係る、全地球航法衛星システム(GNSS)の概略を示す図である。
【
図1B】GNSS受信機を備えた2台の追加車両140および150が存在する例を示す図である。
【
図1C】いくつかの実施形態に係る、モーションおよび/または測定モデルのモデル化において単独でまたは組み合わせて使用されるさまざまな変数を示す図である。
【
図1D】マルチパスが受信機のための信号を乱すシナリオを示す図である。
【
図1E】いくつかの実施形態によって使用される確率的フィルタの概念図である。
【
図1F】いくつかの実施形態に係る、異なる信号の非同期受信を示す図である。
【
図1G】いくつかの実施形態に係る、マルチヘッド測定モデルの構造を示す図である。
【
図1H】一実施形態に係る、ある時間インスタンスに状態推定の第1および第2のモーメントを更新する方法の一例のフローチャートを示す図である。
【
図1I】別の実施形態に係る、状態推定の第1および第2のモーメントを更新する方法の別のフローチャートを示す図である。
【
図1J】別の実施形態に係る、特定の時間インスタンスに状態推定の第1および第2のモーメントのみが受信された、逆の状況を示す図である。
【
図1K】手順の一例のフローチャートを示す図である。
【
図2A】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期協調を用いて車両の状態を追跡する方法のフローチャートを示す図である。
【
図2B】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期協調を用いて車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
【
図2C】いくつかの実施形態に係る、推定値を求める(240a)方法の一例のフローチャートを示す図である。
【
図2D】いくつかの実施形態に係る、車両の状態に対する信頼を求める方法の一例を示す図である。
【
図3A】いくつかの実施形態に係る、車両の状態推定のための例示的な実現例の方法のフローチャートを示す図である。
【
図3B】いくつかの実施形態に係る、搬送波位相曖昧さを求める方法のフローチャートを示す図である。
【
図3C】一実施形態に係る、モーションモデルおよびそのプロセスノイズと一致する浮動小数点値をサンプリングする方法の例示的な実現例のフローチャートを示す図である。
【
図3D】いくつかの実施形態によって採用されるいくつかの原理を示す概略を示す図である。
【
図4】一実施形態に係る、車両の状態の確率分布のパラメータを更新するための確率的フィルタを実行する方法のフローチャートを示す図である。
【
図5A】いくつかの実施形態に係るシナリオを示す交通シナリオを示す図である。
【
図5B】IEEEの精密時間プロトコル(precision time protocol:PTP)ベースの同期における同期メッセージ交換を示す図である。
【
図5C】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期協調を用いて車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
【
図5D】別の実施形態に係る交通シナリオを示す図である。
【
図6A】いくつかの実施形態に係る、複数の車両からの複数の送信を使用して車両の状態の第1および第2のモーメントを求める再帰的方法のフローチャートを示す図である。
【
図6B】いくつかの実施形態に係る、リモートサーバにおいて拡張状態のパラメータを更新する再帰的方法のフローチャートを示す図である。
【
図6C】いくつかの実施形態に係る、車両の複数の状態を拡張状態と融合させる方法のフローチャートを示す図である。
【
図6D】いくつかの実施形態に係る、状態空間の重複の一例を示す図である。
【
図6E】いくつかの実施形態に係る、拡張状態を車両の状態と融合させる方法のフローチャートを示す図である。
【
図6F】一実施形態に係る、相互共分散を求める方法のフローチャートを示す図である。
【
図6G】いくつかの実施形態に係る、複数の送信からの測定値を含む完全測定モデルの測定ノイズにおける相互共分散の一例を示す図である。
【
図6H】
図6Gの構造が得られるように測定ノイズ行列を求める方法のフローチャートを示す図である。
【
図7】いくつかの実施形態に係る、RFチャネルを介して送信される、車両から受信される情報の非同期協調を用いて複数の車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
【
図8】一実施形態に係る、状態推定に基づく車両間(vehicle-to-vehicle:V2V)通信およびプランニングの一例を示す図である。
【
図9】一実施形態に係る、事故回避シナリオのための複数車両小隊シェーピングの概略図である。
【
図10】いくつかの実施形態に従う、混合自律車両の直接および間接制御のためのシステム1000のブロック図である。
【
図11A】いくつかの実施形態に係る、直接的または間接的に制御される車両1101の概略を示す図である。
【
図11B】いくつかの実施形態に係る、システム1000から制御コマンドを受信するコントローラ1102と車両1101のコントローラ1100との間のやり取りの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
実施形態の説明
図1Aは、いくつかの実施形態に係る、全地球航法衛星システム(GNSS)の概略を示す。たとえば、N番目の衛星102は、コードおよび搬送波位相測定値を受信機130および131のセットに送信する(120および121)。たとえば、受信機130は、N個の衛星101、103、104および102から信号110、120を受信するように位置決めされる。同様に、受信機131は、N個の衛星101、103、104および102から信号121および111を受信するように位置決めされる。
【0032】
さまざまな実施形態において、GNSS受信機130および131は異なるタイプのものであり得る。たとえば、
図1Aの例示的な実施形態において、受信機131は、その位置が既知のベース受信機である。たとえば、受信機131は、地上に設置された受信機であり得る。これに対して、受信機130は、移動するように構成された移動受信機である。たとえば、受信機130は、携帯電話、車、またはタブレットに搭載され得る。いくつかの実現例において、第2の受信機131は任意であり、大気効果ならびに受信機および衛星の内部クロックの誤差などのさまざまな原因に起因する不確実性および誤差を除去するまたは少なくとも減少させるために使用され得る。いくつかの実施形態において、コードおよび搬送波位相信号を受信する複数のGNSS受信機が存在する。
【0033】
図1Bは、GNSS受信機を備えた2台の追加車両140および150が存在する例を示す。衛星はコードおよび搬送波位相信号をいくつかの受信機に送信することができ、受信機はコードおよび搬送波位相信号の同一ソースを共有する。たとえば、衛星104は受信機140および受信機150の双方に信号を送信することができ、衛星101は受信機130、140および150の双方に信号を送信することができる。これに加えてまたはこれに代えて、GNSS信号の受信機は電波161上で互いに情報交換することができる。
【0034】
いくつかの実施形態の目的は、GNSS受信機を備えた車両の状態の衛星ベースの追跡を改善するためのシステムおよび方法を開示することである。別の目的は、衛星信号から受信した情報の非同期協調を用いるそのようなシステムおよび方法を提供することである。いくつかの実施形態のさらに別の目的は、確率的である、すなわち確率的障害および誤差原因を考慮する、そのようなシステムおよび方法を提供することである。他の実施形態の目的は、衛星信号のみに依存せずに異なるソースからの異なる情報を使用して車両の状態を追跡することである。たとえば、いくつかの実施形態において、GNSS受信機を使用して衛星から受信したGNSS信号と、無線周波数(RF)受信機を使用してリモートサーバから受信した車両の状態の確率分布の第1および第2のモーメントとを使用して、車両の状態を追跡する。
【0035】
これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態の目的は、確率的であるフィルタを提供することである。フィルタは、状態推定フィルタなどの確率的フィルタであり、モーションモデルおよび測定モデルに基づいて状態推定値を提供する。
【0036】
状態推定器の一例は、カルマンフィルタである。カルマンフィルタは、統計ノイズおよびその他の不正確さを含む経時観測された一連の測定値を使用し、単一の測定値のみに基づく推定値よりも正確である傾向にある未知の変数の推定値を、この変数に対する結合確率分布を時間枠ごとに推定することによって生成する。カルマンフィルタは、システムの推定状態、および推定値の不確実性を追跡する。推定値は、状態遷移のモーションモデルおよび測定値を使用して更新される。いくつかの実施形態は、GNSS受信機のプロセスノイズを受けるモーションモデルと、測定ノイズを受ける衛星信号の測定モデルとを用いる、カルマンフィルタベースのシステムを使用する。いくつかの実施形態において、測定モデルは確率的でマルチヘッドであり、すなわち、異なるタイプの出力を生成する複数の経路を含む。いくつかの実現例において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドを含む。第1のヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付け、第2のヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける。したがって、測定モデルは、異なる情報および異なるタイプのノイズを含むが、異なるヘッドの出力の個別のまたは共同の使用を可能にする、確率的フィルタによって受け入れられる同様の構造を有する。
【0037】
このようにして、いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、各更新ステップにおいて、プロセスノイズを受ける車両の状態遷移のモーションモデルに従って、車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に伝搬させるとともに、マルチヘッド測定モデルの第1のヘッドおよびマルチヘッド測定モデルの第2のヘッドのうちの一方または組み合わせの出力を受信すると確率分布のパラメータを更新する。
【0038】
【0039】
いくつかの実施形態において、曖昧さが車両の状態に含まれている。他の実施形態は、大気遅延、たとえば電離層遅延の残余誤差を取り込むバイアス状態も含む。受信機同士が互いに十分近い場合、電離層遅延は、異なる車両でも同一であるか、またはほぼ同様である。いくつかの実施形態はこの関係を利用して、これらの遅延および/または曖昧さを解決する。
【0040】
【0041】
いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、搬送波位相一重差(single difference:SD)および/または二重差(double difference:DD)を使用して、受信機の位置を示す受信機の状態を推定する。1つの衛星から送信された搬送波信号が2つの受信機によって受信される場合、第1の搬送波位相と第2の搬送波位相との差は、搬送波位相の一重差(SD)と呼ばれる。これに代えて、SDは、受信機に到達する2つの異なる衛星からの信号間の差と定義することができる。たとえば、第1の衛星をベース衛星と呼ぶ場合、差は第1および第2の衛星から生じ得る。たとえば、衛星101からの信号110と衛星102からの信号120との差は1つのSD信号であり、衛星101はベース衛星である。
図1Aの対の受信機131および130を使用して、2つの衛星からの無線信号から得られる搬送波位相のSD間の差は、搬送波位相の二重差(DD)と呼ばれる。搬送波位相差を波長数に変換すると、たとえば、L1 GPS(および/またはGNSS)信号の場合はλ=19cmに変換すると、これは小数部分および整数部分によって分けられる。測位装置は小数部分を測定することができるが、整数部分を直接測定することはできない。したがって、整数部分は整数バイアスまたは整数曖昧さと呼ばれる。
【0042】
一般に、GNSSは、複数のコンステレーションを同時に使用して受信機状態を求めることができる。たとえば、GPS、Galileo、Glonass、およびQZSSは同時に使用可能である。衛星システムは典型的に、最大で3つの異なる周波数帯で情報を送信し、周波数帯ごとに、各衛星がコード測定値および搬送波位相測定値を送信する。これらの測定値は、一重差または二重差として組み合わせることができる。一重差は、基準衛星とその他の衛星との差を取ることを含み、二重差分は、対象となる受信機と既知の静止位置を有するベース受信機との差も取ることを含む。
【0043】
【0044】
【0045】
これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態は、電離層誤差などの状態バイアスを無視すると、状態推定のわずかな不正確さが生じることがある、という認識に基づいている。その理由は、バイアスは通常、GNSS測定値の一重または二重差分によって除去されるからである。この解決策は、車両の位置推定に望まれる精度がメートルのオーダーである場合は役立つが、望まれる精度がセンチメートルのオーダーである場合は問題となり得る。そのため、いくつかの実施形態は、車両の状態に状態バイアスを含み、確率的フィルタによって提供される状態追跡の一部としてそれらの状態バイアスを求める。
【0046】
特定のシナリオ、たとえばディープアーバンキャニオンでは、衛星信号の複数の歪みが存在するため、コードおよび搬送波位相信号に含まれる情報は、高精度の状態推定の実行を困難にする。たとえば、
図1Dは、マルチパスが受信機101dのための信号を乱すシナリオの図を示す。受信機101dは、衛星110dおよび120dからさまざまな信号109dおよび119dを受信する。信号128d、129d、138d、139dを送信する他の衛星130dおよび140dが存在するが、たとえば都会の建物などの障害物170dがあるため、これらの信号は受信機に直接送信されない。
【0047】
これまで、衛星140dから送信される信号138dは利用できなかったが、突然、衛星信号139dがマルチパス102dを経て受信機に到達する。そのようなシナリオでは、推定器が誤った曖昧さ推定値にロックオンすることによって推定誤差が大きくなるため、車両の状態を追跡する際に確率的フィルタの性能が著しく損なわれることがある。しかしながら、そのような問題がない他の受信機が近くにあるかもしれない。たとえば、ある受信機はマルチパスを有し、大きな建物の影に隠れているので見える衛星が少ないかもしれないが、数ブロック離れた車両の推定性能は良好である。いくつかの実施形態において、これは、GNSS測定モジュールからの測定値と、車両の状態のリモート推定値とを使用することで、確率的フィルタにおける確率分布のパラメータを更新することによって利用され、リモート推定値は複数の車両からのデータを使用することで求められる。
【0048】
確率的フィルタの一例は、カルマンフィルタである。
図1Eは、状態推定のためにいくつかの実施形態によって使用されるカルマンフィルタ(KF)の概略を示す。KFは、線形状態空間モデルにおける状態推定のためのツールであり、また、ノイズ源が既知でガウス形である(その場合は状態推定値もガウス分布である)ときの最適な推定器である。KFはガウス分布の平均および分散を推定する。なぜなら、平均および分散は、ガウス分布を記述するための2つの必要な量、十分統計量であるからである。
【0049】
KFは、状態の初期知識110eから開始して、状態の平均およびその分散111eを求める。次に、KFは、車両のモーションモデルなどのシステムのモデルを使用して、次の時間ステップへの状態および分散を予測し(120e)、状態の更新された平均および分散121eを得る。次に、KFは、システムの測定モデルを使用して更新ステップ140eにおいて測定値130eを使用して、状態の更新された平均および分散141eを求める。次に、出力150eが得られ、次の時間ステップ160eについてこの手順が繰り返される。
【0050】
いくつかの実施形態は、KFのさまざまな変形、たとえば、アンセンティッドKF(UKF)などの拡張KF(EKF)、線形回帰KF(LRKF)を含む確率的フィルタを採用する。KFの複数の変形がある場合でも、それらは
図1Eによって例示したように概念的に機能する。注目すべきことに、KFは、確率的測定モデルによって記述された測定値130eを使用して、対象となる確率分布の第1および第2のモーメント、すなわち平均および共分散を更新する。いくつかの実施形態において、確率的測定モデルは、KFにおける測定値更新の原則を満たすように構造化されたマルチヘッド測定モデルである。
【0051】
いくつかの実施形態は、いくつかの実施形態のマルチヘッド測定モデルの異なるヘッドの出力は同期していなくてもよく、異なる時間ステップで信号を受信することができる、という認識に基づいている。他の実施形態は、KFをそのまま実行するために、KFが測定モデルを受け付けることができるように測定モデルを構造化する必要がある、という理解に基づいている。
【0052】
図1Fは、いくつかの実施形態に係る、異なる信号の非同期受信の図を示す。時間が経過するにつれて、GNSS信号が特定の時間ステップにおいて受信され、第1および第2のモーメントがその他の時間ステップにおいて受信される。たとえば、GNSS信号ならびに第1および第2のモーメントはいずれも時刻110fに受信される。しかしながら、第2のGNSS信号は時刻120fに受信されるが、第1および第2のモーメントの2回目の受信は時刻130fである。すなわち、信号は同時に受信されることもあれば、そうでないこともある。異なる時間ステップにおいて受信される可能性があるそのような信号を処理するために、測定モデルは、異なる信号を互いに独立してKFで使用できるような形態になるように構造化される。
【0053】
そのため、いくつかの実施形態において、測定モデルは確率的でマルチヘッドであり、すなわちいくつかの部分を含み、第1のヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付け、第2のヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける。したがって、測定モデルは異なる情報および異なるタイプのノイズを含む。
【0054】
一実施形態において、測定ノイズを受ける測定モデルの第1のヘッドを使用して、GNSS測定値を車両の状態の信頼に対応付け、測定ノイズを受ける測定モデルの第2のヘッドを使用して、車両の状態の推定値を他の手段によって受信される車両の状態の信頼に対応付ける。
【0055】
いくつかの実施形態は、測定モデルを使用して測定値を処理することにより、測定値130eおよび測定モデルを使用して第1および第2のモーメントを補正および更新する(140e)、という原理に基づいている。KFを使用するために、測定モデルおよび測定ノイズは、測定値が第1および第2のモーメントを誤ってスケーリングしないように、バランスよく処理され得るような確率的形態で記述されなければならない。
【0056】
他の実施形態は、測定モデルの第1のヘッドと第2のヘッドとの間で確率的構造を調和させる必要がある、という認識に基づいている。具体的には、車両の状態の確率分布の更新ステップ140eが、GNSS信号を使用して行われるか、たとえば第1および第2のモーメントとして表される、受信した車両の状態の推定値および推定ノイズを使用して行われるかにかかわらず、出力は同一構造を有する。
【0057】
図1Gは、いくつかの実施形態に係る、マルチヘッド測定モデル100gの構造の図を示す。マルチヘッド測定モデルは、入力を受け付け、測定モデルの第1のヘッド110gを使用してGNSS測定値を車両の状態の信頼と関連付け、第2のヘッド120gを使用して車両の状態の代替の推定値を車両の状態の信頼と関連付ける。たとえば、マルチヘッド測定モデルは、GNSS測定値130gおよび測定ノイズ140gを受け付ける。次に、マルチヘッド測定モデルは、測定ノイズ140gを、測定ノイズを表す(150g)第2のモーメントに変換する。たとえば、測定ノイズは、ゼロ平均および共分散R
kを有するガウス分布を使用して表される(150g)。測定ノイズの表現150gを使用して、第1のヘッド110gは、測定値130gを車両の状態の信頼160gと関連付ける(111g)。測定モデルの第1のヘッドからの出力112gは、KFによって受け入れられ得る形態である。たとえば、一実施形態において、出力112gは、測定値と、測定モデルに挿入された状態の信頼と、測定ノイズとの間の誤差として記述される関係111gである。別の実施形態において、出力112gは、測定値と、測定モデルに挿入された状態の信頼と、測定ノイズ共分散とに分解される関係111gである。
【0058】
【0059】
いくつかの実施形態は、出力112gおよび122gを同一の確率的形態で表すことで、更新情報が112gであるか122gであるかにかかわらず、すなわち情報が第1のヘッドから生じるか第2のヘッドから生じるかにかかわらず、KFの更新を同一原理で行うことが可能になる、という理解に基づいている。
【0060】
他の実施形態は、第1のヘッドを使用する更新および第2のヘッドを使用する更新を順次または共同で行うことができる、という認識に基づいている。
図1Hは、一実施形態に係る、ある時間インスタンスに第1および第2のモーメントを更新する方法の一例のフローチャートを示す。マルチヘッド測定モデルからの出力112gを使用して、この方法は、測定モデルの第1のヘッドを使用して第1および第2のモーメントを更新する(110h)。次に、更新されたモーメント111hは、第2のヘッドからの出力122gを使用して再び更新され(120h)、結果として、更新されたモーメント121hが得られる。
【0061】
他の実施形態は、
図1Fに例示したように、GNSS測定値および受信した車両の状態の推定値と推定ノイズとは同一の時間インスタンスに受信されない場合がある、という理解に基づいている。
図1Iは、たとえばKFを使用して第1および第2のモーメントを更新する方法の別のフローチャートを示す。測定モデルの第1のヘッドからの出力112gを使用して、この方法はモーメント111hを更新する(110h)。
【0062】
図1Jは、特定の時間インスタンスに第1および第2のモーメントのみが受信された、逆の状況を示す。したがって、一実施形態は、測定モデルの第2のヘッドからの出力122gを使用してモーメント111jを更新する(110h)。
【0063】
他の実施形態は、第1および第2のヘッドを使用する更新を共同で、すなわち同時に行うことができる、という認識に基づいている。
図1Kは、そのような手順の一例のフローチャートを示す。第1のヘッドからの出力112gおよび第2のヘッドからの出力122gを使用して、この方法は、第1および第2のヘッドを使用してモーメントを更新し(110k)、結果として、更新されたモーメント111kが得られる。一実施形態において、共同更新は、測定モデルの2つのヘッドを積み重ねることによって行われ、結果として、測定モデルの拡張出力が得られる。すなわち、GNSS測定値と、車両の状態の推定値と、対応付けられた関係とが結合され、結果として、共同の大規模更新がもたらされる。
【0064】
図2Aは、いくつかの実施形態に係る、情報の非同期協調を用いて車両の状態を追跡する方法のフローチャートを示す。実施形態において、情報は、全地球航法衛星システム(GNSS)によって送信され、さらに無線周波数(RF)チャネルを介して送信される衛星信号から受信される。まず、この方法は、いくつかの実施形態に係る衛星101、102、103、104のセットから送信される信号をGNSS受信機209aから受信する(210a)。この信号はコード信号および搬送波位相信号を含み、各搬送波信号は、衛星101、102、103または104と車両130との間を移動した搬送波信号の未知の整数の波長として搬送波位相曖昧さを含む。GNSS信号215aを使用して、この方法は、衛星信号の測定値と、対応する測定ノイズ225aとを求める(220a)。この方法はまた、外部サーバによって求められた車両の状態の推定値および推定ノイズを、RF信号235aを介して車両のRF受信機229aから受信する(230a)。さまざまな実施形態において、推定値および推定ノイズ235aは、車両の状態の第1のモーメントおよび車両の状態の第2のモーメント235aとして確率的に求められる。これに加えてまたはこれに代えて、推定値および推定ノイズ235aは、さまざまな確率的技術を使用して車両の状態の第1のモーメントおよび車両の状態の第2のモーメントに変換されてもよい。
【0065】
第1および第2のモーメントを使用して、この方法は、車両の状態の推定値と、車両の状態の推定値の対応付けられた推定ノイズとを求める(240a)。推定値245aと、測定値225aと、マルチヘッド測定モデル249aとを使用して、この方法は、測定ノイズを受ける測定モデルの第1のヘッドを使用してGNSS測定値225aを車両の状態の信頼と関連付け(250a)、測定モデルの第2のヘッドを使用して状態の推定値を推定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける(250a)。関連付けられた測定値および推定値255aを使用して、この方法は、車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に更新して(260a)、車両の状態に対する信頼265aを生成する。
【0066】
図2Bは、いくつかの実施形態に係る、航法衛星システム(GNSS)によって送信される衛星信号209から受信される情報と無線周波数(RF)チャネル239を介して送信される情報との非同期協調を用いて車両の状態を追跡するための確率的システム200を示す。この確率的システムは、衛星信号209を受信するためのGNSS受信機220を含む。一実施形態において、この信号は、衛星信号に影響を及ぼすさまざまな遅延および障害を判定するために必要な、コード信号、搬送波位相信号、タイムスタンプ、ナビゲーションメッセージ、および観測メッセージを含む。たとえば、ナビゲーションメッセージは、大気遅延を求めるために必要なパラメータを含み得る。たとえば、Klobuchar大気遅延モデルを使用する場合、ナビゲーションメッセージは、大気遅延モデルによって求められた信号伝搬に対する電離層の影響に従って電離層時間遅延を求めるためのパラメータを含む。他の実施形態において、そのようなメッセージは、SBAS遅延モデルに従って電離層遅延を求めるためのパラメータを含み得る。
【0067】
このシステムは、受信した測定値を車両の状態と関連付ける確率的マルチヘッド測定モデルを格納する(281)メモリ280を含む。いくつかの実施形態において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドで構成される。第1のヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける。第2のヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズを受ける車両の状態に対する信頼と関連付ける。メモリは、そのような関係の求め方に関する命令も格納し(283)、メモリは、本発明のいくつかの実施形態に係る確率的フィルタを実行する命令を格納する(284)。メモリは、車両の状態に関する以前の信頼を、モーションモデルに従った車両の状態の予測と関連付ける、確率的モーションモデルも格納する(285)。たとえば、モーションモデルは、車両ダイナミクスモデル、定加速度モデル、定位置モデル、協調旋回モデル、Singerモデル、運動学的車両モデル、動的車両モデル、または異なるモデルの組み合わせであり得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、衛星信号の測定値を状態に対する信頼と関連付けること、および状態の推定値を状態の信頼と関連付けることは、上記量を測定モデルの第1および第2のヘッドにそれぞれ挿入することによって行われる。
【0069】
GNSS受信機はGNSS測定モジュールに動作可能に接続され(250)、GNSS測定モジュールは、上述の遅延および障害を求めた後、衛星信号の測定値および対応付けられた測定ノイズを求める。たとえば、一実施形態において、測定ノイズは、衛星の仰角の関数でスケーリングされてメモリに格納された(282)公称測定ノイズに基づいて求められる。
【0070】
確率的システム200は、RFチャネルを介して送信された情報239を受信するRF受信機260に動作可能に接続された(250)RF測定モジュール240を含む。いくつかの実施形態において、この情報は、車両の状態の第1のモーメントを含む。他の実施形態において、この情報は、車両の第1のモーメントおよび第2のモーメントを含む。他の実施形態において、この情報は、車両の状態の全体的な確率分布を形成するための高次モーメントを含む。他の実施形態において、この情報は、車両の状態の推定値および推定ノイズを示すデータを、たとえばサンプルとして第1および第2のモーメントを含み、あるいは高次モーメントを含む。さらに他の実施形態において、情報を受信する時刻は、情報が求められた時刻とは異なる。たとえば、いくつかの実施形態において、アクティブなリモートサーバは、第1および第2のモーメントを求める命令を含み、そのような命令の実行は、リモートサーバとRF受信機との間の通信時間と関連している可能性がある。このため、いくつかの実施形態において、情報239は、第1および第2のモーメントが求められた時刻のタイムスタンプを含む。
【0071】
さまざまな実施形態において、GNSS測定モジュールおよびRF測定モジュールは、現在の時間インスタンスにおける車両の状態に対する信頼に関連するそれぞれの推定値を生成する。たとえば、GNSS信号が受信され、この信号を受信すると、プロセッサ230は現在の時間ステップにおける測定値を求める(231)。しかしながら、いくつかの実現例において、たとえばリモートサーバの上記命令を実行するのに時間がかかる場合、RF測定モジュールは、前の時間ステップについて求められた車両の状態の第1および第2のモーメントを受信する。この結果、求められた測定値と受信された第1および第2のモーメントとが同一の瞬間に対応しなくなる。
【0072】
この問題に対処するために、モーションモデルを使用して、いくつかの実施形態は、前の時間ステップの状態の第1および第2のモーメントを、現在の時間ステップにおける状態の信頼と時間的に関連付けて、現在の時間インスタンスにおける車両の状態に対する信頼を示す状態の推定値を求める。たとえば、一実施形態は、車両の時間伝搬のモデル、たとえばメモリに格納されたモーションモデルを使用して、車両の状態の第1および第2のモーメントを現在の時間インスタンスまで時間的に伝搬させる。時間伝搬のモデルの例としては、Singerモデル、定加速度モデル、および単線車両モデルが挙げられる。双方のモーメントを時間伝搬に使用すると、不確実性の伝搬が、したがって状態の信頼を更新する際に第1のモーメントをどの程度信用できるかが考慮されるため、第1のモーメントのみを伝搬させるよりも有利である。他の実施形態において、時間伝搬は、車両のモーションモデルと車両の測定値とを組み合わせることによって行われる。
【0073】
いくつかの実施形態は、車両の状態の第1および第2のモーメントを受信する時間インスタンスにかかわらず、測定ノイズを受ける状態の推定値で確率分布のパラメータを更新する際に、状態の信頼の確率分布が、受信した状態の第2のモーメントの確率分布に収束するように、推定ノイズを構成する必要がある、という認識に基づいている。いくつかの実施形態は、受信した第2のモーメントの共分散と、状態の現在の信頼の確率分布の共分散とを釣り合わせることによって、収束性を確保することができる、という認識に基づいている。言い換えると、状態の推定値および対応付けられた測定ノイズは、釣り合いが収束を維持するように求められる。
【0074】
いくつかの実施形態において、プロセッサ230は、確率分布のパラメータを更新するために使用される確率的フィルタ232を実行し、車両の状態の推定値を求める(233)。
【0075】
いくつかの実施形態は、確率分布のパラメータを、受信した第1および第2のモーメントのパラメータと一致するように直接設定したくなることがある、という理解に基づいている。しかしながら、収束性を強制することが有利である。なぜなら、車両側からみて、同一の確率的フィルタを使用して確率分布のパラメータを更新できることが保証されるからである。その上、車両は、たとえば車両の追加の車載センサからの追加の測定値を処理することがあるので、受信した第1および第2のモーメントを直接使用すると、車両の更新された状態推定値に不連続性が生じることがある。推定値を使用して車両を制御する場合、そのような不連続性があると制御の連続性が失われるため不利となり得る。
【0076】
図2Cは、いくつかの実施形態に係る、推定値を求める(240a)方法の一例のフローチャートを示す。まず、車両の状態の推定値と推定ノイズとを示す受信した情報に基づいて、この方法は、車両の状態の推定値の分布を求める(210c)。たとえば、この方法は、第1および第2のモーメントをガウス確率密度関数に挿入することによって分布を求める。次に、この方法は、車両の状態の信頼の分布を求める(220c)。たとえば、この方法は、車両の状態の確率分布のパラメータを挿入し、確率分布は所定の形状に従うと仮定される。たとえば、ガウス分布の場合、確率分布のパラメータは第1および第2のモーメントである。たとえば、スチューデントのt分布を仮定すると、パラメータは、第1のモーメント、スケール、および自由度である。車両の推定値の分布215cと、状態の信頼の分布225cとを使用して、この方法は分布215cと225cとの差を求める。求めた差235cを使用して、最後に、この方法は推定ノイズの共分散を求める(240c)。
【0077】
差を求めること(230c)は、いくつかのやり方で行うことができる。たとえば、ガウス分布の場合、差は、同一分布を達成するために第2のモーメントをスケーリングして第1のモーメントをシフトする量と定義することができる。いくつかの実施形態において、差は、周知のカルバック・ライブラー発散によって求められる。
【0078】
いくつかの実施形態は、基礎となる分布がガウス分布ではなくても、典型的には最初の2つのモーメントが分布を適切に記述する、という認識に基づいている。いくつかの実施形態において、この認識は、RF測定モジュールによって受信される第2のモーメントと車両の状態の確率分布の第2のモーメントとの重み付けされた組み合わせとして推定ノイズの共分散を求める(240c)際に利用される。他の実施形態において、車両の状態の推定値は、車両の状態の信頼と車両の状態の推定値の受信した第1のモーメントとの重み付けされた組み合わせとして求められ、この重み付けは推定ノイズの共分散を含む。
【0079】
【0080】
【0081】
いくつかの実施形態は、測定モデルの第2のヘッドの1つの目的は、測定モデルの第1のヘッドを使用するときに行われるのと同じ原理を使用して確率分布のパラメータの更新を可能にすることである、ということを認識している。いくつかの実施形態は、受信した第1および第2のモーメントを使用して求められた車両の状態の推定値を使用して確率分布のパラメータを更新するために、測定モジュールの第2のヘッドは、車両の状態の信頼の収束が車両の状態の推定値に収束するように特定の性質を保証しなければならない、ということを認識している。たとえば、一実施形態において、測定モデルの第2のヘッドは、車両の推定状態と、前の反復時に求められた車両の状態に対する信頼とを、推定ノイズの共分散で重み付けされた差として含む。たとえば、一実施形態において、測定モデルの第2のヘッドはzk=xk+rkであり、式中、zkは車両の状態の推定値であり、xkは車両の状態の信頼であり、rkは推定ノイズであり、kは再帰の時間ステップである。
【0082】
いくつかの実施形態は、確率的フィルタを使用して確率分布のパラメータを更新するために、確率的フィルタは、車両の状態の一部が実数値であり一部が整数値であることを考慮してパラメータを更新可能であるべきである、という認識に基づいている。その理由は、ある部分、たとえば車両の位置は状態に含まれて実数値であるが、曖昧さは状態に含まれて整数値であるからである。
【0083】
【0084】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタは、最適化方法を使わなくても混合整数推定問題を解くことができるフィルタである、という理解に基づいている。他の実施形態は、最適化方法を使わなくてもいいようにするために、粒子フィルタは多数の粒子を必要とし、これは計算上禁止され得る、ということを理解している。このため、いくつかの実施形態は、混合整数拡張KFを採用することによって再帰的な混合整数重み付き最小二乗問題を解く。他の実施形態は、混合整数線形回帰KFを解く。
【0085】
図3Aは、車両の状態推定のための例示的な実現例の方法のフローチャートを示す。この方法は、マルチヘッド測定モデルを含む状態の測定値および推定値を受信する(310a)。各搬送波信号は、衛星101、102、103または104と受信機130との間を移動した搬送波信号の未知の整数の波長として搬送波位相曖昧さを含む。次に、この方法は、搬送波信号の搬送波位相曖昧さと、車両の状態の信頼に対する車両の状態の推定値とを使用して、車両の前の状態を車両の現在の状態と関連付けるモーションモデルと、搬送波およびコード信号の測定値を車両の状態の現在の信頼と関連付けるマルチヘッド測定モデルとを、メモリから取り出す(322a)。双方のモデル、すなわちモーションモデルおよび測定モデルは、確率的である。たとえば、モーションモデルはプロセスノイズを受ける確率的モデルであり、測定モデルは測定ノイズを受ける確率的モデルである。
【0086】
次に、この方法は、プロセスノイズおよび測定ノイズのうちの一方または組み合わせによって定義される範囲内で、モーションモデルおよび測定モデル322aのうちの一方または組み合わせに従って、搬送波およびコード信号の測定値と一致する搬送波位相曖昧さの整数値の可能な組み合わせのセット325aを求める(320a)。このステップは、搬送波位相曖昧さを求めて状態推定を行おうとする代わりに、搬送波位相曖昧さの異なる可能な組み合わせを求めてテストして状態推定を行うことが有益である、という理解に基づいている。このようにして、状態推定のニュアンスをより適切に反映した確率モデルを使用して、最良の搬送波位相曖昧さを選択することができる。
【0087】
そのため、この方法は、モーションモデルおよび測定モデル322aを共同で使用することによって車両の状態を求める状態推定器のセットを実行する(330a)。各状態推定器は、モーションモデルおよび測定モデル322aに対する車両の状態の結合確率分布335aを求めるために、搬送波位相曖昧さの整数値の対応する組み合わせを含む。このようにして、少なくともいくつかの異なる状態推定器の測定モデルが、可能な組み合わせのセット325aから選択された搬送波位相曖昧さの整数値の異なる組み合わせを含むので、搬送波位相曖昧さの整数値の組み合わせを確率的に評価することができる。次に、この方法は、マルチヘッド測定モデルを使用した搬送波およびコード信号の測定値と車両の状態の推定値とに従って、車両の状態の最も高い結合確率を有する状態推定器を使用して車両の状態を判断する(340a)
【0088】
そのため、いくつかの実施形態は、搬送波位相曖昧さの可能な整数値の範囲の推定、およびその範囲からの搬送波位相曖昧さの整数値の選択を、測定モデルの第1のヘッドのノイズおよび測定モデルの第2のヘッドのノイズの確率密度関数(probability density function:PDF)に対するモーションおよび測定モデルの一致を使用して確率的に行うことができる、という認識に基づいている。
【0089】
図3Bは、いくつかの実施形態に係る、搬送波位相曖昧さの整数値の可能な組み合わせを求める(320a)方法のフローチャートを示す。この方法は、プロセッサを使用して実行することができる。モーションモデルのプロセスノイズと一致する車両の少なくとも1つの状態について、この方法は、少なくとも1つの衛星について、搬送波位相曖昧さのノイズレスフィットを中心とする測定ノイズのPDF、状態、測定モデルへの搬送波およびコード信号の測定値、ならびに状態の推定値に対して、搬送波位相曖昧さの浮動小数点値311bをサンプリングする(310b)。
【0090】
いくつかの実施形態において、測定ノイズのPDFは、たとえばGNSS受信機の特性に基づいて予め定められている。本明細書で使用する「ノイズレスフィット」とは、搬送波およびコード信号の得られた測定値が正しいと仮定した場合の、搬送波位相曖昧さ、位置、ならびに搬送波およびコード信号の測定値のフィットである。すなわち、搬送波およびコード信号の測定値が正しいと仮定し、残余誤差は搬送波位相曖昧さに起因する。このようにして、ノイズレスフィットは、PDFに対するサンプリングがモーションおよび測定モデルの確率的ノイズを強調せず、搬送波位相曖昧さの位置推定に対する影響を強調する位置に、PDFを配置する。言い換えると、搬送波位相曖昧さ、位置、ならびに搬送波およびコード信号の測定値を測定モデルに挿入した後の測定モデルへのフィットの誤差は、搬送波位相曖昧さの誤差に起因する。
【0091】
次に、この方法は、サンプリングされた浮動小数点値の和集合を形成して(320b)、サンプリングされた浮動小数点値のすべてを含む和集合321bを生成し、浮動小数点値の和集合を整数ベースで離散化して(330b)、GNSS衛星のセットについての搬送波位相曖昧さの可能な整数値331bを生成する。最後に、この方法は、すべての衛星についての搬送波位相曖昧さの可能な整数値331bを使用して、整数値の可能な組み合わせのセット325aを生成する(340b)。
【0092】
図3Cは、一実施形態に係る、浮動小数点値をサンプリングする方法310bの例示的な実現例のフローチャートを示す。しかしながら、浮動小数点値のサンプリング310bは、異なる実施形態によっていくつかのやり方で実行される。
図3Cの方法は、モーションモデルおよびそのプロセスノイズと一致する浮動小数点値をサンプリングする(309c)。この方法は、サンプリングされた搬送波位相曖昧さ、推定状態、ならびに搬送波およびコード信号の測定値を測定モデルに挿入することにより、コードおよび搬送波位相信号の測定値との一致を判定する(311c)。測定値との一致に基づいて、この方法は、サンプリングされた各浮動小数点値をプロセスノイズおよび測定ノイズの関数として補正し(312c)、補正後の測定値との一致に基づいて各曖昧さの確率を更新し(313c)、搬送波位相曖昧さの補正されたサンプリング済み浮動小数点値を取り除いて、測定モデルにフィットする確率がしきい値を超える搬送波位相曖昧さの浮動小数点値を保存する(314c)。
【0093】
図3Dは、いくつかの実施形態によって採用されるいくつかの原理を示す概略を示す。具体的には、いくつかの実施形態は、搬送波位相曖昧さの有限数の可能な整数値は、車両の状態を追跡するためのそれらの可能な整数値の異なる組み合わせを求めること(340d)を可能にする、という認識に基づいている。そのような認識は、搬送波位相曖昧さを評価して(310d)車両の状態330dを推定すること(320d)を、搬送波位相曖昧さの異なる組み合わせ340dを使用して求められた車両の異なる状態350dを評価すること(360d)に置き換える(380d)ことを可能にする。受信機のモーションの確率的性質は、搬送波位相曖昧さなどの位置の導関数をテストするよりも位置をテストするのに適しているため、この置き換えは有利である。このようにして、車両のモーションの確率的性質を使用して選択された最良の状態370dは、そのような状態370dを求めるために使用される搬送波位相曖昧さの対応する組み合わせを自動的に示す。
【0094】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタは計算上禁止されることがあり、計算上の理由から、最適化ソルバを埋め込むカルマン型フィルタが有利であり得る、という認識に基づいている。
【0095】
図4は、一実施形態に係る、パラメータが分布の第1および第2のモーメントである場合に車両の状態の確率分布のパラメータを更新するための確率的フィルタを実行する方法260aのフローチャートを示す。この方法は、マルチヘッド測定モデルを含む状態の測定値および推定値を受信する(410a)。各搬送波信号は、衛星101、102、103または104と車両130との間を移動した搬送波信号の未知の整数の波長として搬送波位相曖昧さを含む。次に、この方法は、搬送波信号の搬送波位相曖昧さと、車両の状態の信頼に対する車両の状態の推定値とを使用して、車両の前の状態を車両の現在の状態と関連付けるモーションモデルと、搬送波およびコード信号の測定値を車両の状態の現在の信頼と関連付けるマルチヘッド測定モデルとを、メモリから取り出す(422a)。双方のモデル、すなわちモーションモデルおよび測定モデルは、確率的である。たとえば、モーションモデルはプロセスノイズを受ける確率的モデルであり、測定モデルは測定ノイズを受ける確率的モデルである。マルチヘッド測定モデルと、測定値255aと、モーションモデルと、前の反復時に求められた確率分布のパラメータとを使用して、この方法は、確率分布の第1および第2のモーメントを更新するKFを実行し(420a)、状態に含まれる曖昧さの更新された第1のモーメントは実数値である。次に、この方法は、整数値を有するように曖昧さを固定する重み付き最小二乗最適化問題を解き(430a)、最適化問題コスト関数は、カルマンフィルタ420aによって求められた実数値の推定値425aに対する、状態の第1のモーメントの偏差の二乗ユークリッドノルムである。結果として得られる整数曖昧さ435aを使用して、この方法は次に、第1のモーメントの実数値部分および第1のモーメントの整数値部分で初期化されたカルマンフィルタを実行し(440a)、結果として、更新された(445a)確率分布のパラメータが得られる。
【0096】
いくつかの実施形態において、KFは拡張KFであり、モーションおよび測定モデルの非線形部分は、状態の現在の信頼の周りで線形化される。他の実施形態において、KFは、たとえば、アンセンティッドKF、立体求積法KF、またはスマートサンプリングKFなどの線形回帰KFである。線形回帰KFは、拡張KFのような現在の状態推定値の周りの線形化を回避し、一般により正確であるが、より計算が複雑である。線形化の代わりに、線形回帰KFは、重み付き積分点のセットによって関係するモーメント積分を解き、また、確率分布の他のパラメータ、たとえば高次モーメントを求めるために使用することもできる。そのような高次モーメントは、第1および第2のモーメントが基礎となる分布を十分よく表していない状況において有用であり得る。
【0097】
RF受信機から受信した第1および第2のモーメントは、複数のソースから受信した情報であり得る。たとえば、いくつかの実施形態において、カメラを備えたパッシブな路側機(RSU)が、コンピュータビジョンアルゴリズムを用いて車両の状態の一部、たとえば位置および速度を高精度で求める。他の実施形態において、RSUは、RSUに対する車両の位置および速度を直接測定する距離センサ、たとえばレーダまたはライダを備えている。状態の一部を直接センシングを使用して高精度で直接解決できる場合、RSUは次に、車両の残りの状態を求め、それを車両に送信することができる。
【0098】
図5Aは、いくつかの実施形態に係るシナリオを示す交通シナリオを示す。いくつかの実施形態は、アクティブなリモートサーバがエッジコンピューティングデバイスとしてクラウドに配置されており、車両とクラウドとの間の通信を確立するために、クラウドと車両との間の情報転送は
図5Aに示すようにコアインフラストラクチャネットワークおよびRSUを通る必要があり、車両V1 510aとクラウド520aと間の通信はRSU530aおよびコアネットワーク540aを通る必要がある、という認識に基づいている。
【0099】
他の実施形態は、クラウドで計算を行うと大きな通信遅延が生じる、ということを認識している。そのような状況では、エッジコンピューティングデバイスをRSUに直接有すると有利である。
【0100】
いくつかの実施形態は、車両と通信するリモートサーバを使用すると、異なるデバイスに異なるクロックを使用することが必要となり、そのようなクロック間の同期が必要である、という認識に基づいている。
【0101】
車両のクロックは、車両のGNSS受信機と通信するGNSSのクロックと同期させることができる。しかしながら、いくつかの実施形態は、異なる車両が有し得る異なるクロックオフセット誤差があるため、車両のクロックをGNSSのクロックに個別に同期させることは車両通信ネットワークにおける車両の同期を保証するものではない、という認識に基づいている。加えて、GNSS同期は、都市環境では衛星信号のマルチパスの悪影響を受ける場合がある。加えて、車両通信ネットワーク内の一部の車両がGNSS受信機を有していない場合がある。
【0102】
さまざまな規格が、クロックの相互同期のためのプロトコルを提供している。たとえば、IEEEは、精密時間プロトコル(PTP)ベースの同期規格を策定している。しかしながら、それらのプロトコルは、同期するデバイス間の情報交換が必要であり、これは多用途の車両通信ネットワークの文脈では非現実的であり得る。
【0103】
いくつかの実施形態は、車両通信ネットワークは参加車両に対して特別な要件を有する、という認識に基づいている。他のネットワークにおけるノードとは異なり、車両通信ネットワークにおける車両は、周期的に自身の存在をアナウンスする。たとえば、車両環境における無線アクセス(Wireless Access in Vehicular Environments:WAVE)のためのIEEEの専用狭域通信(Dedicated Short Range Communications:DSRC)では、車両は100msごとにハートビートメッセージを送信して自身の存在を近傍の車両にアナウンスすることが要求される。ハートビートメッセージの属性は、一時的なID、時刻、緯度、経度、標高、位置精度、速度および伝送、進行方向、加速度、ステアリングホイール角、ブレーキシステム状態、ならびに車両サイズ、のうちの1つまたは組み合わせを含む。
【0104】
いくつかの実施形態は、このハートビートメッセージは必要な同期データを含み、したがって同期のために使用可能である、という認識に基づいている。このアプローチは、ネットワークトラフィックを削減して干渉を緩和する。同期データが自動的に送信されるので、車両は、従来の同期方法で実行されるメッセージ交換を行わずにサイレント同期を達成することができる。
【0105】
たとえば、いくつかの実施形態は、車両のクロックオフセットおよび車両の位置が未知であるという仮定の下で、複数のハートビートメッセージにおいて受信した情報の三辺測量に基づいて、車両のクロックを他の車両のクロックと同期させることができる、という認識に基づいている。その理由は、車両の三辺測量は2種類の方法で実行できるからである。1つの方法は、未知のクロックオフセットの関数であるハートビートメッセージの送信時刻と受信時刻との間に光が移動する距離を使用する。もう1つの方法は、複数の車両の位置間の距離と、ハートビートメッセージの送信時刻と、特定の時刻における車両の未知の位置とを使用する。これら2種類の距離を比較することにより、特定の時刻における車両の未知のクロックオフセットおよび未知の位置を同時に求めることが可能である。
【0106】
【0107】
いくつかの実施形態において、車両の状態の確率分布のパラメータは、GNSS測定値とともにリモートサーバに送信される。
【0108】
図5Cは、いくつかの実施形態に係る、航法衛星システム(GNSS)によって送信される衛星信号209から受信される情報と無線周波数(RF)チャネル239を介して送信される情報との非同期協調を用いて車両の状態を追跡するための確率的システム200を示す。このシステムは、確率分布のパラメータおよび衛星測定信号511cをリモートサーバに送信する送信機510cを含む。
【0109】
他の実施形態では、複数の車両が、確率分布の各自のパラメータおよびGNSS測定信号をリモートサーバに送信している。パラメータは、車両の状態の確率分布の第1のモーメントおよび第2のモーメントを含む。そのような情報送信は、たとえばRSUまたはクラウドに配置されたリモートサーバが追加のセンシング能力を有していない場合に有益であり得る。そのような場合、リモートサーバは、複数の車両から受信した情報を使用してそのような情報を結合することができ、したがって、各車両の状態の推定値を改善して第1および第2のモーメントを車両に送信することができる。言い換えると、車両の確率的システムは、確率分布のパラメータを衛星測定値とともに送信し、送信に応答して、車両の状態の第1および第2のモーメントを受信する。いくつかの実施形態において、リモートサーバは、複数の車両の状態に基づいて拡張状態を形成する。
【0110】
いくつかの実施形態において、拡張状態は、複数の車両の状態の和集合である。たとえば、拡張状態は、車両の位置および速度、搬送波位相曖昧さ、ならびに残余バイアス状態、たとえば電離層の残余遅延を含む。車両同士が十分近い、たとえば離隔が3~10km未満である場合、電離層遅延は、異なる車両でも同一であると見なすことができる。たとえば、
図5Dを参照して、領域510dの中の車両はほぼ同様の電離層遅延を有する。したがって、いくつかの実施形態において、そのような電離層遅延は複数の車両で同一であるため、拡張状態の次元はすべての車両の状態の和よりも小さい。
【0111】
ほとんどのGNSSアプリケーションでは、残余バイアスは一重または二重差演算を通して抑制され、これらのアプリケーションの焦点は、GNSS測定値の一部を形成する整数曖昧さを回復することである。しかしながら、いくつかの実施形態は、GNSS信号の伝搬の物理現象の性質が原因で、残余バイアスが依然としてGNSS測定値に影響を及ぼしている、という認識に基づいている。しかしながら、これらのバイアスは単一のGNSS受信機のみから求めることはできず、複数の受信機を測定する複数の衛星からの複数の測定の測定値の拡張を使用して求められる。その理由は、整数曖昧さは衛星と車両との各組み合わせに固有であるが、残余バイアスはそうではないからである。たとえば、電離層遅延は、残余バイアスとして状態に含まれており、これは、互いに近接した状態で測定される車両では同一である。そのため、これらの残余バイアスを回復するために、測定ノイズを推定して、衛星信号の複数の車両の測定値間の相関を求める必要があるが、これは整数曖昧さ推定のタスクとは非常に異なるタスクである。
【0112】
いくつかの実施形態は、残余バイアスを推定するそのようなタスクは、多くの未知数があるため、個々の車両レベルで対処することは困難である、という認識に基づいている。その理由は、各車両は複数の衛星から複数のGNSS信号を受信し、残余バイアスは異なるGNSS信号でも同様であるが、曖昧さはそうではないからである。したがって、単一の受信機であっても、より多くの測定値を使用することは、残余バイアスの推定という点ではあまり役に立たない。
【0113】
一方、複数の車両の複数の測定値を使用する場合、そのような測定値は同一衛星から生じるので、異なる車両のGNSS測定値の間に相互相関が存在する。
【0114】
図6Aは、いくつかの実施形態に係る、複数の車両の協調的な状態追跡のための再帰的方法600のフローチャートを示す。この方法は、リモートサーバ、たとえばRSU内またはクラウド内のエッジデバイスのプロセッサによって実行される。リモートサーバは、複数の車両から複数の送信605aを受信する(610a)。車両からの各送信605aは、車両で受信された衛星信号の測定値と、車両の状態の確率分布のパラメータとを含む。
【0115】
リモートサーバは、対応する確率分布のパラメータによって定義される複数の車両の状態を融合させて、複数の車両の拡張状態625aを形成する(620a)。一実施形態において、方法600は、ベクトル、行列またはテンソルにすべての状態を互いに連結するだけである。しかしながら、いくつかの他の実施形態において、近傍の車両のいくつかの残余バイアスは同一であり、方法600は、拡張状態625aを複数の車両の状態の和集合として形成して(620a)重複を除去し、拡張状態の次元は、複数の車両の各々の状態の次元の和よりも小さい。
【0116】
加えて、方法600は、複数の車両の衛星信号の測定値を融合させて、拡張測定ノイズ635aを受ける拡張状態の拡張測定値にする(630a)。いくつかの実施形態は、異なる車両の測定ノイズの依存性の認識に基づいている。したがって、拡張測定ノイズ623aは、非ゼロの非対角要素を有する非対角共分散行列によって定義され、各非ゼロの非対角要素は、一対の対応する車両の測定値の誤差に関連する。
【0117】
方法600は、拡張測定ノイズを受ける拡張測定値に基づいて拡張状態645aを更新する確率的フィルタを実行する(640a)。状態変数の冗長性および測定ノイズの相互相関のうちの一方または組み合わせにより、個々の車両ごとの更新された拡張状態645aの精度は、個別に求められた車両の状態の精度よりも高くなり得る。
【0118】
制御の不連続性を回避するため、方法600は、複数の車両のうちの少なくともいくつかの状態の確率分布のパラメータを、更新された拡張状態645aの対応する部分と融合させて、複数の車両のうちの少なくともいくつかの状態の確率分布の融合パラメータ655aを出力する(650a)。融合パラメータ655aは車両に送信され、車両の制御のために、および状態推定値を利用する他の目的で、使用され得る。
【0119】
確率的フィルタの実行640aは、マルチヘッドまたはシングルヘッド測定モデルなどの異なる測定モデルを使用して、かつ、定速モーションモデル、定加速度モーションモデル、Singerモデル、運動学的車両モデル、および動的車両モデルなどのさまざまなモーションモデルを使用して、多くのやり方で実行することができる。確率的フィルタの例としては、粒子フィルタまたは混合整数カルマンフィルタが挙げられる。
【0120】
いくつかの実施形態は、個々の車両の確率的追跡の原理と同様の確率的推定の原理を使用して、複数の車両の状態を共同で追跡することができる、という理解に基づいている。一見すると、そのような共同追跡は、すぐに分かる利点がなく追跡問題の次元を増加させるので、意味がない。その理由は、ほとんどのGNSSアプリケーションの焦点である異なる車両の整数曖昧さは、そのような集団追跡においては互いに独立したものとなり、したがって集団追跡は曖昧さの解決に役立たないからである。
【0121】
しかしながら、いくつかの実施形態は、複数の車両の集団状態推定時に、複数の車両の集団状態(すなわち本開示では拡張状態と呼ばれる)に課せられる測定ノイズは、実際は、拡張状態の推定に関する不確実性を低減するために探索することができる、異なる車両の状態の測定値のノイズ間の有用な相互相関を有する、という認識に基づいている。たとえば、衛星が2台の車両を測定する場合、2つの測定値は同一ソースから生じ、したがって同様のノイズ特性を有するので、これら2つの測定値の間には直接的な相互相関が存在する。
【0122】
いくつかの実施形態は、拡張状態推定は、個々の車両によって実行される状態推定を補正することができる、または少なくとも改善することができる、という理解に基づいている。しかしながら、車両の制御の不連続性を回避するため、拡張状態追跡および個別状態追跡の結果をソフトに結合することが必要である。その理由は、個々の車両はより速い速度で更新可能であり、異なる情報を提供できる追加の車載センサ、たとえば慣性測定装置およびホイールエンコーダを有し得るからである。したがって、拡張状態からの結果を直接使用するだけでは、推定の連続性が失われることがあり、これは車両の安全性に悪影響を及ぼすことがある。そのため、いくつかの実施形態は、個々の車両自体の状態を更新するのとは対照的に、個々の車両の状態の確率分布のパラメータを、更新された拡張状態の対応する部分と融合させる。このようにして、結果として得られる推定値は、サーバによって使用される相関した測定ノイズおよび残余バイアスの類似性などの追加情報と、常に個々の車両の推定値を使用することによって提供されるスムーズさとの間のトレードオフである。
【0123】
これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態は、拡張状態を追跡するそのような高次元の確率的フィルタの計算負担を軽減する必要性を理解している。たとえば、車両の状態は、推定される残余バイアスの数と、現在車両を測定している衛星の数とに応じて、最大で100次元の状態次元を有し得る。一方、何百台もの車両が互いに近接することがあり、最悪のシナリオでは、拡張状態の次元は数万になることがある。したがって、リモートサーバに関係する計算は、計算量が多くなり、特に、多数の整数曖昧さを固定する必要がある混合整数推定問題の解決は禁止的になる。いくつかの実施形態は、拡張状態についての混合整数最小二乗問題を解くために、混合整数カルマンフィルタを使用すべきである、ということを認識している。
【0124】
いくつかの実施形態は、再帰的な混合整数推定器を設計する場合、状態の現在の推定値は整数値の全履歴に依存するため、サイズが増加し続ける混合整数問題を解く必要性を意味する、という理解に基づいている。したがって、そのような大規模な推定問題を解くために、さまざまな緩和を行う必要がある。そうしなければ、複雑さが時間とともに指数関数的に増大するからである。
【0125】
一実施形態は、混合整数推定問題を緩和する方法として、実数値曖昧さからの最適化によって整数曖昧さを求めて、次に上記整数曖昧さに基づいて分布のパラメータを更新する代わりに、2つの確率分布のパラメータを再帰的に共同で求めることが有益であり、一方の分布は実数値状態でのみ機能し、他方の分布は整数曖昧さをモデル化する、という理解に基づいている。その理由は、2つの分布を使用する場合、実数値の推定値は混合整数の推定値と混合されず、したがって実数値状態の真の分布は劣化しないからである。
【0126】
図6Bは、いくつかの実施形態に係る、リモートサーバにおいて拡張状態の確率分布のパラメータを更新する(620a)再帰的方法のフローチャートを示す。複数の送信の測定値605aを使用して、この方法は、分布のパラメータの2つのセットを共同で更新する。一方は、実数値を使用する制約されないセット、もう一方は、曖昧さを整数値として有するように制約されるセットである。まず、モーションモデルおよび測定モデル622bを使用して、この方法は、制約なし拡張状態の確率分布のパラメータの1ステップ予測を求める(620b)。次に、この方法は、衛星測定値を使用して、制約なし拡張状態の確率分布のパラメータを更新する(630b)。
【0127】
曖昧さの実数値パラメータを使用して、この方法は曖昧さを固定し(640b)、制約付き曖昧さおよび測定モデル622bを使用して、この方法は、曖昧さを整数として有する衛星測定値と拡張状態との関係を求めることによって拡張状態を制約し(619b)、結果として、制約関係が得られる。次に、この方法は、制約付き拡張状態の確率分布のパラメータの1ステップ予測を求め(639b)、最後に、制約付き拡張状態の確率分布のパラメータを更新する(649b)。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
図6Cは、いくつかの実施形態に係る、車両の複数の状態を拡張状態と融合させる方法630aのフローチャートを示す。一般に車両の状態と拡張状態とは同一次元ではないので、状態を、異なる状態を等しく表す結合状態空間に変換する必要がある。一実施形態において、方法630aは、車両の状態のパラメータを、拡張状態のパラメータと同一の状態空間に変換する(610c)。
【0134】
【0135】
【0136】
図6Dは、いくつかの実施形態に係る、状態空間の重複の一例を示す。
図6Dの左側では、状態空間は、3つの異なる車両610d、620d、630dと拡張状態640dとの間で同様であり、すなわち、両者の間に変換は必要ない。
図6Dの中央では状態空間は完全に分離しているが、右の図では状態同士が重複している。
【0137】
上述の融合規則は、拡張状態と車両の状態との間の相互共分散を考慮しないので、保守的である。
【0138】
図6Eは、いくつかの実施形態に係る、拡張状態を車両の状態と融合させる方法620cのフローチャートを示す。必要に応じて、
図6Dの第3のケースのように、この方法は、結合状態空間に変換された(610e)パラメータと、衛星測定の測定モデル615eとを使用して、車両の状態間の、ならびに車両の状態と拡張状態との間の相互共分散を再帰的に更新する。最後に、この方法は、求められた相互共分散に従って第1および第2のモーメントを融合させる(630e)。
【0139】
相互共分散を再帰的に求めること(620e)は、複数のやり方で行うことができる。たとえば、一実施形態は、カルマンフィルタ、たとえば、拡張カルマンフィルタ、線形回帰カルマンフィルタ、混合整数拡張カルマンフィルタ、または混合整数線形回帰カルマンフィルタを使用する場合、推定の各時間ステップkにおいて相互共分散を再帰的に求めることができる、ということを認識している。その理由は、そのようなフィルタにおける確率分布は、ガウス分布の形で最初の2つのモーメントによって表されるからである。
【0140】
図6Fは、一実施形態に係る、相互共分散を求める方法620cのフローチャートを示す。拡張状態および車両の状態のモーションモデルおよび測定モデル615fを使用して、この方法は、関係するカルマンフィルタのカルマンゲインを求める(610f)。たとえば、一実施形態は、車両についてのカルマンゲインと、拡張状態を推定するカルマンフィルタについてのカルマンゲインとを求め、カルマンゲインは確立した技術に従って求められる。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
これに代えてまたはこれに加えて、カルマンゲインは、車両から受信した情報215aの一部である。
【0146】
他の実施形態は、粒子フィルタを使用する場合、そのようなアプローチでは分布が第1および第2のモーメントとしてパラメータのみによって表されず、ガウス混合物としての第1および第2のモーメントの混合物として表されるため、相互共分散を再帰的に計算することは問題となり得る、という認識に基づいている。しかしながら、他の実施形態は、粒子フィルタの場合、最も可能性の高い粒子についてのカルマンゲインを代わりに使用することができる、ということを認識している。
【0147】
【0148】
【0149】
他の実施形態は、複数の車両からの測定値を使用する場合、この測定値から推測できる余分な情報が存在する場合がある、という理解に基づいている。
【0150】
図6Gは、いくつかの実施形態に係る、複数の車両からの複数の送信からの測定値を含む完全測定モデルの測定ノイズにおける相互共分散の一例を示す。
図6Gは、測定ノイズの共分散の要素を表す行列を示す。拡張状態についての拡張測定モデルをもたらす測定値を積み重ねるが、車両間で衛星が共有されない場合、対角要素610gは、非ゼロ成分を有する唯一の部分となる。しかしながら、車両が、差分衛星測定値、すなわち一重差または二重差を作成する際に使用される同一衛星を共有する場合、非対角要素620gおよび630gは、適切にモデル化されれば、非ゼロ成分640gを有することができる。そのような非ゼロ成分は、拡張状態推定値の知識を増やすために確率的フィルタによって利用される。
【0151】
いくつかの実施形態は、測定ノイズ行列Rが形成されると、非対角の非ゼロ要素があるか否かにかかわりなく、それらを自動的にKFに使用できる、ということを理解している。しかしながら、非ゼロの非対角要素、すなわち非ゼロの相互共分散を有する場合、KFはこれを利用して、測定誤差に基づいて第1および第2のモーメントの更新を決定するカルマンゲインをより適切に求めることができる。
【0152】
一実施形態において、測定ノイズ行列は、測定値間に相互共分散が存在するような原理を使用して、コードおよび搬送波位相測定値の一重および/または二重差によって形成される。たとえば、いくつかの実現例において、非ゼロの非対角要素640は、一対の車両に対応し、対応する対の車両の共分散の組み合わせによって求められる。
【0153】
図6Hは、
図6Gの構造が得られるように測定ノイズ行列を求める方法のフローチャートを示す。この方法は、衛星測定値をソートして(
610h)、ソートされた衛星測定値615hの構造を形成する。たとえば、測定値は衛星の仰角に従ってソートされ、仰角が最も高い衛星が1番目に高く、2番目に高い衛星が2番目であり、仰角が最も低い衛星は最後にソートされる。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
図7は、いくつかの実施形態に係る、たとえばRFチャネルを介して送信される(709)、車両から受信される情報の非同期協調を用いて複数の車両の状態を追跡するためのサーバ700を示す。このサーバは、複数の車両からの複数の送信から、第1および第2のモーメントと、衛星測定値と、上記測定値の対応する測定ノイズとを受信するためのRF受信機760を含む。
【0159】
このシステムは、受信した衛星測定値を車両の状態と関連付ける確率的測定モデルを格納する(781)メモリ780を含む。メモリは、モーションモデルに従って車両の前の状態を車両の状態の予測と関連付ける確率的モーションモデルも格納する(782)。たとえば、モーションモデルは、積み重ねた車両ダイナミクスモデル、積み重ねた定加速度モデル、積み重ねた定位置モデル、積み重ねた協調旋回モデル、積み重ねたSingerモデル、または積み重ねた異なるモデルの組み合わせとすることができ、「積み重ねる」とは、複数のモデルを互いに積み重ねることを意味する。
【0160】
メモリは、本発明のいくつかの実施形態に係る確率的フィルタを実行する命令も格納する(783)。
【0161】
確率的システム700は、複数の車両からRFチャネルを介して送信された情報709を受信するRF受信機760に動作可能に接続された(750)RF測定モジュール740を含む。いくつかの実施形態において、この情報は、複数の車両の第1のモーメントおよび第2のモーメントを含む。他の実施形態において、この情報は、上記車両から受信した衛星信号を含み、この信号は、衛星測定値、位置情報、およびタイミング情報を含む。
【0162】
いくつかの実施形態は、モーションモデルを使用して、前の時間ステップの状態の第1および第2のモーメントを、現在の時間ステップにおける状態の第1および第2のモーメントと関連付ける。たとえば、一実施形態は、モーションモデルを使用する時間伝搬のモデルを使用して、車両の状態の第1および第2のモーメントを現在の時間インスタンスまで時間的に伝搬させる。時間伝搬のモデルの例としては、Singerモデル、定加速度モデル、および単線車両モデルが挙げられる。双方のモーメントを時間伝搬に使用すると、不確実性の伝搬が、したがって状態を更新する際に第1のモーメントをどの程度信用できるかが考慮されるため、第1のモーメントのみを伝搬させるよりも有利である。他の実施形態において、時間伝搬は、車両のモーションモデルと車両の測定値とを組み合わせることによって行われる。
【0163】
さまざまな実施形態において、確率的システムは、第1および第2のモーメントならびに衛星測定値を使用して、複数の車両からの複数の送信から受信した情報を使用して第1および第2のモーメントを更新する。たとえば、GNSS信号が受信され、この信号を受信すると、プロセッサ730は確率的フィルタ732を使用して、更新された第1および第2のモーメントを求める(733)。
【0164】
他の実施形態において、確率的システム700は、車両に対応する更新された第1および第2のモーメント、すなわち平均および共分散を送信する(739)ためのRF送信機770を含む。たとえば、車両1の平均および共分散が車両1に送信される。
例示的な実施形態
【0165】
図8は、一実施形態に係る、状態推定に基づく車両間(V2V)通信およびプランニングの一例を示す。本明細書で使用される各車両は、乗用車、移動ロボット、またはローバを含む、任意のタイプの移動輸送システムであり得る。たとえば、車両は自律型または半自律型であり得る。
【0166】
この例では、複数の車両800、810、820が所定の高速道路801を移動している。各車両は、多くのモーションを行うことができる。たとえば、車両は同一経路に留まることができ(850、890、880)、または経路(もしくは車線)を変更することができる(860、870)。各車両は、各自のセンシング能力、たとえば、ライダ、カメラ等を有する。各車両は、近傍の車両と情報を送受信することが可能であり(830、840)、および/または、リモートサーバを介して他の車両を通して間接的に情報交換することができる。たとえば、車両800および820は、車両810を通して情報交換することができる。このタイプの通信ネットワークでは、高速道路または幹線道路801の大部分にわたって情報を伝送することができる。
【0167】
いくつかの実施形態は、以下のシナリオに対処するように構成される。たとえば、車両820は、経路を変更したいと考えており、その経路プランニングにおいてオプション870を選択する。しかしながら、同時に、車両810も車線変更を選択し、オプション860に従いたいと考えている。この場合、これら2台の車両は衝突する可能性があり、よく見ても車両810は車両820との衝突を避けるために非常ブレーキをかけなければならなくなる。ここで本発明が役立つことができる。そのため、いくつかの実施形態は、車両が、現在の瞬間tに車両が検知するものを送信することだけでなく、これに加えてまたはこれに代えて、時刻T+δtに車両が行う予定であるものを送信することも可能にする。
【0168】
図8の例では、車両820は、車線変更する自身の計画の実行をプランニングしてコミットした後、その計画を車両810に通知する。このため、車両810は、時間間隔δ
tの後に車両820がその左側870に移動する予定であることが分かっている。したがって、車両810は、860の代わりにモーション890を選択することができ、すなわち同一車線に留まることができる。
【0169】
これに加えてまたはこれに代えて、車両のモーションは、協調的に求められた状態推定値に基づいてリモートサーバによって共同制御することができる。たとえば、いくつかの実施形態において、結合状態推定のために決定される複数の車両は、共有された制御目的で共同制御される車両小隊を形成する、および潜在的に形成し得る車両である。
【0170】
図9は、一実施形態に係る、事故回避シナリオのための複数車両小隊シェーピングの概略図である。たとえば、車両930、970、950、960のグループが高速道路901を移動していると想定する。ここで、突然、ゾーン900において車両小隊の前方で事故が発生したと想定する。この事故により、ゾーン900は車両が移動するのに安全ではなくなる。車両920、960は、たとえばカメラで問題を検知し、この情報を車両930、970に伝達する。次に、小隊は、事故ゾーン900を避けるとともに車両の流れを妨げないようにするために小隊の最良の形状を選択する分散最適化アルゴリズム、たとえば形成維持マルチエージェントアルゴリズムを実行する。この説明のための例では、小隊の最良の形状は、ゾーン900を避けて一列に並ぶこと(995)である。
【0171】
図10は、いくつかの実施形態に従う、混合自律車両の直接および間接制御のためのシステム1000のブロック図を示す。システム1000は、自律車両、半自律車両、および/または手動運転車両を含む、通過する混合自律車両を制御するために、RSUの一部としてリモートサーバ上に配置され得る。システム1000は、システム1000と他のマシンおよびデバイスとを接続する複数のインターフェイスを有し得る。ネットワークインターフェイスコントローラ(NIC)1050は、バス1006を介してシステム1000とネットワーク1090とを接続するように適合された受信機を含み、ネットワーク1090は、システム1000と混合オートマトン車両とを接続して、同一方向に走行する混合自律車両のグループの交通状態を受信する。混合自律車両のグループは、小隊形成に参加する意思がある制御車両および少なくとも1台の非制御車両を含み、交通状態はグループ内の各車両および制御車両の状態を示す。たとえば、一実施形態において、交通状態は、混合オートマトン車両の現在の運転間隔、現在の速度、および現在の加速度を含む。いくつかの実施形態において、混合オートマトン車両は、小隊内の隣接する制御車両から予め定められた範囲内のすべての非制御車両を含む。
【0172】
NIC1050は、ネットワーク1090を介して制御車両に制御コマンドを送信するように適合された送信機も含む。そのため、システム1000は、ネットワーク1090を介して混合自律車両のグループ内の制御車両に制御コマンド1075を提示するように構成された出力インターフェイス、たとえば制御インターフェイス1070を含む。このようにして、システム1000は、混合オートマトン車両と直接的または間接的にワイヤレス通信するリモートサーバ上に配置され得る。
【0173】
システム1000は、他のタイプの入力および出力インターフェイスも含み得る。たとえば、システム1000は、ヒューマンマシンインターフェイス1010を含み得る。ヒューマンマシンインターフェイス1010は、コントローラ1000をキーボード1011およびポインティングデバイス1012に接続することができ、ポインティングデバイス1012は、とりわけ、マウス、トラックボール、タッチパッド、ジョイスティック、ポインティングスティック、スタイラス、またはタッチスクリーンを含み得る。
【0174】
システム1000は、格納された命令を実行するように構成されたプロセッサ1020と、プロセッサによって実行可能な命令を格納するメモリ1040とを含む。プロセッサ1020は、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、コンピューティングクラスタ、または他のどのような構成であってもよい。メモリ1040は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、またはその他の好適なメモリマシンを含み得る。プロセッサ1020は、バス1006を介して1つ以上の入力および出力デバイスに接続可能である。
【0175】
プロセッサ1020は、命令を格納するとともに命令によって使用されるデータを処理するメモリストレージ1030に動作可能に接続される。ストレージ1030は、メモリ1040の一部を形成してもよく、またはメモリ1040に動作可能に接続されてもよい。たとえば、メモリは、確率的フィルタ1031を格納するように構成されてもよく、確率的フィルタ1031は、混合オートマトン車両の拡張状態を追跡し、交通状態を混合自律車両の目標運転間隔に変換し、車両のモーションを説明するように構成された1つまたは複数のモデル1033を格納するように訓練される。たとえば、モデル1033は、モーションモデル、測定モデル、交通モデルなどを含み得る。
【0176】
プロセッサ1020は、非制御車両も間接的に制御する制御車両のための制御コマンドを決定するように構成される。そのため、プロセッサは、制御生成器1032を実行して車両の状態に基づいて制御コマンドを決定するように構成される。いくつかの実施形態において、制御生成器1032は、個々の車両および/または車両小隊についての拡張状態から制御コマンドを生成するように訓練された深層強化学習(DRL)コントローラを使用する。
【0177】
図11Aは、いくつかの実施形態に係る、直接的または間接的に制御される車両1101の概略を示す。本明細書で使用される車両1101は、乗用車、バス、またはローバ等の、任意のタイプの車輪自動車であり得る。また、車両1101は、自律型または半自律型であり得る。たとえば、いくつかの実施形態は、車両1101のモーションを制御する。モーションの例としては、車両1101のステアリングシステム1103によって制御される車両の横方向モーションが挙げられる。一実施形態において、ステアリングシステム1103は、システム1000と通信するコントローラ1102によって制御される。これに加えてまたはこれに代えて、ステアリングシステム1103は車両1101のドライバーによって制御されてもよい。
【0178】
車両は、コントローラ1102によって、または車両1101のその他の構成要素によって制御されてもよいエンジン1106も含み得る。車両は、周囲の環境を検知するための1つ以上のセンサ1104も含み得る。センサ1104の例としては、距離範囲ファインダ、レーダ、ライダ、およびカメラが挙げられる。車両1101は、その現在のモーションの量および内部状態を検知するための1つ以上のセンサ1105も含み得る。センサ1105の例としては、全地球測位システム(GPS)、加速度計、慣性測定装置、ジャイロスコープ、シャフト回転センサ、トルクセンサ、たわみセンサ、圧力センサ、および流量センサが挙げられる。センサは、情報をコントローラ1102に提供する。車両は、有線または無線通信チャネルを通してコントローラ1102が通信する機能を可能にするトランシーバ1106を備えていてもよい。
【0179】
図11Bは、いくつかの実施形態に係る、システム1000から制御コマンドを受信するコントローラ1102と車両1101のコントローラ1100との間のやり取りの概略を示す。たとえば、いくつかの実施形態において、車両1101のコントローラ1100は、車両
1101の回転および加速度を制御するステアリングコントロール1110およびブレーキ/スロットルコントローラ1120である。そのような場合、コントローラ1102は、制御入力をコントローラ1110および1120に出力して車両の状態を制御する。コントローラ1100は、たとえば予測コントローラ1102の制御入力をさらに処理するレーンキープアシストコントローラ1130である、ハイレベルコントローラも含み得る。いずれの場合も、コントローラ1100は、車両のモーションを制御するために、予測コントローラ1102の出力の使用をマッピングして、車両のステアリングホイールおよび/またはブレーキなどの車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御する。車両マシンの状態x
tは、位置、向き、および縦/横速度を含み得るものであり、制御入力u
tは、横/縦加速度、ステアリング角、およびエンジン/ブレーキトルクを含み得る。このシステムに対する状態制約は、レーンキープ制約および障害物回避制約を含み得る。制御入力制約は、ステアリング角制約および加速度制約を含み得る。収集されたデータは、位置、向きおよび速度プロファイル、加速度、トルク、ならびに/またはステアリング角を含み得る。
【0180】
本発明の上記実施形態は、数多くのやり方で実現することができる。たとえば、これらの実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、またはその組み合わせを用いて実現してもよい。ソフトウェアで実現する場合、ソフトウェアコードは、任意の適切なプロセッサまたはプロセッサの集まりにおいて、これが1つのコンピュータに設けられていても複数のコンピュータに分散されていても、実行することができる。そのようなプロセッサは、1以上のプロセッサが集積回路コンポーネント内にある集積回路として実現してもよい。しかし、プロセッサは、任意の適切なフォーマットの回路を用いて実現してもよい。
【0181】
また、本明細書で概要を述べた各種方法またはプロセスは、さまざまなオペレーティングシステムまたはプラットフォームのうちのいずれか1つを採用した1つ以上のプロセッサ上で実行可能なソフトウェアとして符号化されてもよい。加えて、そのようなソフトウェアは、複数の好適なプログラミング言語および/またはプログラミングもしくはスクリプトツールのうちのいずれかを用いて記述されてもよく、フレームワークもしくは仮想マシン上で実行される、実行可能なマシン言語コードまたは中間コードとしてコンパイルされてもよい。典型的に、プログラムモジュールの機能は、各種実施形態において所望される通りに組み合わせても分散させてもよい。
【0182】
また、本発明の実施形態は、方法として実施されてもよく、その一例が提供されている。この方法の一部として実行される動作の順序は任意の適切なやり方で決められてもよい。したがって、実施形態は、例示されている順序と異なる順序で動作が実行されるように構成されてもよく、これは、いくつかの動作を、例示されている実施形態では一連の動作として示されるが、同時に実行することを含み得る。
【0183】
本発明を好ましい実施形態の例を用いて説明してきたが、その他の各種適合および修正を本発明の精神および範囲の中で行い得ることが理解されるはずである。したがって、以下の請求項の目的は、本発明の真の精神および範囲に含まれるそのような変形および修正のすべてをカバーすることである。