(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-21
(45)【発行日】2024-11-29
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02P 25/16 20060101AFI20241122BHJP
【FI】
H02P25/16
(21)【出願番号】P 2024519116
(86)(22)【出願日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2023031508
【審査請求日】2024-09-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】満田 宇宙
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏則
(72)【発明者】
【氏名】深見 正
(72)【発明者】
【氏名】小山 正人
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-73047(JP,A)
【文献】特開昭61-266094(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064373(WO,A1)
【文献】特開2004-328900(JP,A)
【文献】特開2008-199782(JP,A)
【文献】特開2004-120853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の固定子と、
前記固定子の内側に配置された回転子と、を備え、
前記固定子は、円環状のコアバック部及び前記コアバック部から径方向の内側に突出する12個のティース部を有する固定子コアと、各前記ティース部に巻回された電機子巻線と、を有し、
前記電機子巻線は、3相に対応する巻線部を有し、
各相の前記巻線部は、機械的に隣り合う2つのコイルで構成されるコイル対が、前記回転子の回転軸に対して対向する構成とされ、
前記電機子巻線は、前記コイル対を構成する2つの前記コイルが互いに並列とされ、且つ、それぞれの前記コイルが、前記回転子の回転軸に対して対向する同相の前記コイル対のうちの一方の前記コイルと並列とされ、他方の前記コイルと直列とされて2重Y結線とされ、各前記Y結線の中性点が定電圧源回路を介して接続されており、
前記定電圧源回路から供給される界磁電流が前記電機子巻線に流れることで界磁磁束が発生する、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記コイル対を構成する2つの前記コイルは、互いに逆向きに巻回されており、
それぞれの前記コイルは、前記回転子の回転軸に対して対向する同相の前記コイル対のうち、前記回転子の回転軸に対して径方向に対向する一方の前記コイルと並列とされ、他方の前記コイルと直列とされており、
前記界磁磁束は、前記固定子の径方向において、各前記ティース部に全て同じ向きに鎖交する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記コイルは、すべて同じ向きに巻回されており、
それぞれの前記コイルは、前記回転子の回転軸に対して対向する同相の前記コイル対のうち、前記回転子の回転軸に対して径方向に対向する一方の前記コイルと直列とされ、他方の前記コイルと並列とされており、
前記界磁磁束は、前記固定子の径方向において、隣り合う前記ティース部に逆向きに鎖交する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記回転子は、回転子コアと、前記回転子コアの周方向に沿って間隔をあけて配置された永久磁石と、を有し、前記永久磁石と前記回転子コアによって形成された鉄極部とが、前記回転子コアの周方向に交互に配置された構成とされている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の回転電機。
【請求項5】
前記回転子は、回転子コアと、前記回転子コアの周方向に沿って間隔をあけて配置された永久磁石と、を有し、前記永久磁石と前記回転子コアによって形成された鉄極部とが、前記回転子コアの周方向に交互に配置された構成とされている、
ことを特徴とする請求項2に記載の回転電機。
【請求項6】
前記回転子は、回転子コアと、前記回転子コアの周方向に沿って間隔をあけて配置された永久磁石と、を有し、前記永久磁石と前記回転子コアによって形成された鉄極部とが、前記回転子コアの周方向に交互に配置された構成とされている、
ことを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【請求項7】
前記定電圧源回路は、各前記Y結線の中性点がダイオードを介して接続された構成とされ、
前記2重Y結線のうち、一方のY結線における同相の前記コイルの巻数の和と、他方のY結線における同相の前記コイルの巻数の和とが異なり、
各相の前記コイルに発生する逆起電力によって各相の前記コイルを循環する交流電流が、前記ダイオードによって整流されることで界磁磁束が発生する、
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動用モータとして、永久磁石式の回転電機が広く使用されている。例えば、特許文献1には、ロータコアの周方向に複数のマグネットが間隔をあけて埋め込まれ、ロータコアに一体形成された突極部が各マグネット間に空隙をあけて配置されたコンシクエントポール型のロータを備えたモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動用モータは、電気自動車、産業用機器、及び空気調和装置等の用途に使用される場合、広範囲の運転領域を実現するために、低速回転時に磁石の界磁を強めて高トルクを出力し、高速回転時に磁石の界磁を弱めて電圧飽和を緩和させることが要求される。しかしながら、特許文献1に開示されたモータは、磁石の界磁磁束を調整できず、広範囲の運転領域を実現できない。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、磁石の界磁磁束を調整することができ、広範囲の運転領域を実現することができる回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる回転電機は、円筒状の固定子と、固定子の内側に配置された回転子と、を備え、固定子は、円環状のコアバック部及びコアバック部から径方向の内側に突出する12個のティース部を有する固定子コアと、各ティース部に巻回された電機子巻線と、を有している。電機子巻線は、3相に対応する巻線部を有している。各相の巻線部は、機械的に隣り合う2つのコイルで構成されるコイル対が、回転子の回転軸に対して対向する構成とされる。電機子巻線は、コイル対を構成する2つのコイルが互いに並列とされ、且つ、それぞれのコイルが、回転子の回転軸に対して対向する同相のコイル対のうちの一方のコイルと並列とされ、他方のコイルと直列とされて2重Y結線とされ、各Y結線の中性点が定電圧源回路を介して接続されている。定電圧源回路から供給される界磁電流が電機子巻線に流れることで界磁磁束が発生する。
【発明の効果】
【0007】
本開示にかかる回転電機によれば、磁石の界磁磁束を調整することができ、広範囲の運転領域を実現することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1にかかる回転電機の構成を模式的に示した平面図
【
図2】
図1に示したII-II矢視断面であって、フレーム及びブラケットを設けた状態を示した断面斜視図
【
図3】実施の形態1にかかる回転電機の電機子巻線の結線図
【
図4】実施の形態1にかかる回転電機であって、界磁磁束の向きの一例を示した説明図
【
図5】
図4に示した界磁磁束の向きにおいて、コイルに流れる界磁電流の向きを示した説明図
【
図6】実施の形態1にかかる回転電機の変形例1であって電機子巻線の結線図
【
図7】実施の形態1にかかる回転電機の変形例2の構成を模式的に示した平面図
【
図8】実施の形態1にかかる回転電機の変形例3の構成を模式的に示した平面図
【
図9】実施の形態1にかかる回転電機の変形例4の構成を模式的に示した平面図
【
図10】実施の形態2にかかる回転電機の構成を模式的に示した平面図
【
図11】
図10に示した界磁磁束の向きにおいて、コイルに流れる界磁電流の向きを示した説明図
【
図12】実施の形態2にかかる回転電機の変形例であって電機子巻線の結線図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態にかかる回転電機を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる回転電機の構成を模式的に示した平面図である。
図1に示すように、本実施の形態1にかかる回転電機100は、円筒状の固定子1と、固定子1の内側に配置された回転子2と、を備えたラジアルギャップ型の回転電機である。
【0011】
固定子1は、円環状のコアバック部11及びコアバック部11から径方向の内側に突出する12個のティース部12を有する固定子コア10と、ティース部12に巻回された電機子巻線13と、を有している。電機子巻線13は、図示省略の3相電源に接続されている。
【0012】
電機子巻線13は、3相の巻線部として、A相に対応する巻線部Aと、B相に対応する巻線部Bと、C相に対応する巻線部Cと、を有している。A相に対応する巻線部Aは、コイルA1、コイルA2、コイルA3及びコイルA4である。B相に対応する巻線部Bは、コイルB1、コイルB2、コイルB3及びコイルB4である。C相に対応する巻線部Cは、コイルC1、コイルC2、コイルC3及びコイルC4である。各相の巻線部A,B,Cは、機械的に隣り合う2つのコイルで構成されるコイル対が、回転子2の回転軸に対して対向する構成とされている。A相に対応する巻線部Aでは、機械的に隣り合う2つのコイルA1及びコイルA2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルA3及びコイルA4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。B相に対応する巻線部Bでは、機械的に隣り合う2つのコイルB1及びコイルB2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルB3及びコイルB4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。C相に対応する巻線部Cでは、機械的に隣り合う2つのコイルC1及びコイルC2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルC3及びコイルC4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。
【0013】
また、コイル対を構成する2つのコイルは、互いに逆向きに巻回されている。具体的には、コイルA1とコイルA2とが逆向きに巻回されている。コイルA3とコイルA4とが逆向きに巻回されている。コイルB1とコイルB2とが逆向きに巻回されている。コイルB3とコイルB4とが逆向きに巻回されている。コイルC1とコイルC2とが逆向きに巻回されている。コイルC3とコイルC4とが逆向きに巻回されている。
【0014】
回転子2は、円筒状の回転子コア20と、回転子コア20の中央に挿通され、磁性体で構成された回転軸としてのシャフト21と、回転子コア20の周方向に沿って間隔をあけて配置された永久磁石22と、を有している。回転子2は、一例として、永久磁石22が回転子コア20の外周面に環状に張り付けられた表面磁石型である。回転子2は、N極を持つ永久磁石22と、永久磁石22を設けずに回転子コア20によって形成されたS極を持つ鉄極部23とが、回転子コア20の周方向に交互に配置されたコンシクエントポール型である。回転子2は、5つの永久磁石22と、5つの鉄極部23とで10極構造とされている。すなわち、本実施の形態1にかかる回転電機100は、回転子2の磁極数と固定子1のスロット数とが10:12系列となる。
【0015】
図2は、
図1に示したII-II矢視断面であって、フレーム及びブラケットを設けた状態を示した断面斜視図である。なお、
図2では、界磁磁束の流れを見やすくするために、一部ハッチングを省略している。回転電機100は、
図2に示すように、固定子1が固定される円筒状のフレーム3と、回転子2の回転軸方向におけるフレーム3の両端部に取り付けられたブラケット4と、をさらに備えている。フレーム3及びブラケット4は、磁性体からなる。フレーム3の筒内部には、固定子1及び回転子2が収容される。フレーム3の内壁面には、固定子1の外周面が固定される。フレーム3の外壁面は、冷却源になる。フレーム3と固定子コア10とは、電気的に導通している。ブラケット4は、シャフト21を回転自在に保持すると共に、フレーム3の両端の開口部を塞ぐものである。
図2では、フレーム3の両端部に取り付けられた2つのブラケット4のうち、一方のブラケット4のみを示している。ブラケット4は、フレーム3にボルト等の図示省略の締結部材で固定されている。
【0016】
図3は、実施の形態1にかかる回転電機の電機子巻線の結線図である。
図3に示すように、電機子巻線13は、コイル対を構成する2つのコイルが互いに並列とされ、且つ、それぞれのコイルが、回転子2の回転軸に対して対向する同相のコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルと並列とされ、他方のコイルと直列とされて2重Y結線とされている。
【0017】
具体的には、A相に対応する巻線部Aの場合、コイル対を構成するコイルA1とコイルA2とが、並列とされている。コイル対を構成するコイルA3とコイルA4とが、並列とされている。コイルA1は、回転子2の回転軸に対して対向するコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルA3と並列とされ、他方のコイルA4と直列とされている。同様に、コイルA2は、回転子2の回転軸に対して対向するコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルA4と並列とされ、他方のコイルA3と直列とされている。B相に対応する巻線部B、及びC相に対応する巻線部Cについても同様である。
【0018】
そして、本実施の形態1にかかる回転電機100は、各Y結線の中性点Nが開放され、各開放端が定電圧源回路200で接続されている。定電圧源回路200は、各Y結線の中性点Nを、直流電源201を介して接続した構成である。回転電機100は、定電圧源回路200によって供給される界磁電流が、各相の巻線部A,B,Cで循環する。
図3に示した例において、A相に対応する巻線部Aでは、一点鎖線の矢印Xで示すように、コイルA3、コイルA2、コイルA1、コイルA4の順番に界磁電流が循環する。また、B相に対応する巻線部Bでは、実線の矢印Yで示すように、コイルB3、コイルB2、コイルB1、コイルB4の順番に界磁電流が循環する。また、C相に対応する巻線部Cでは、破線の矢印Zで示すように、コイルC3、コイルC2、コイルC1、コイルC4の順番に界磁電流が循環する。なお、界磁電流の流れを逆向きにすることで、A相に対応する巻線部Aでは、コイルA4、コイルA1、コイルA2、コイルA3の順番に界磁電流が循環する。B相に対応する巻線部Bを循環する界磁電流、及びC相に対応する巻線部Cを循環する界磁電流についても同様である。
【0019】
図4は、実施の形態1にかかる回転電機であって、界磁磁束の向きの一例を示した説明図である。
図4に示した白抜き矢印は、界磁磁束の向きを示している。
図5は、
図4に示した界磁磁束の向きにおいて、コイルに流れる界磁電流の向きを示した説明図である。
図5に示した白抜き矢印は、各相の巻線部を循環する界磁電流の向きを示している。
【0020】
図4に示すように、定電圧源回路200から供給され、各相の巻線部A,B,Cで循環する界磁電流によって発生する界磁磁束は、固定子1の径方向において、各ティース部12に全て同じ向きに鎖交している。
図4に示す場合、界磁磁束は、各ティース部12において径方向内側に向かって鎖交している。
図2において実線矢印で示すように、ティース部12における界磁磁束の流れは、回転子2の内側に向いている。ティース部12を流れた界磁磁束は、シャフト21の軸方向に流れて、ブラケット4を通り、フレーム3に戻る。
図4に示した向きの界磁磁束は、
図5に示すように、A相に対応する巻線部AにおいてコイルA3、コイルA2、コイルA1、コイルA4の順番に界磁電流が循環し、B相に対応する巻線部BにおいてコイルB3、コイルB2、コイルB1、コイルB4の順番に界磁電流が循環し、C相に対応する巻線部CにおいてコイルC3、コイルC2、コイルC1、コイルC4の順番に界磁電流が循環することにより発生する。
【0021】
このように、
図5に示した白抜き矢印の向きに、各相を循環する界磁電流によって、各ティース部12において径方向内側に向かう界磁磁束、すなわち、鉄極部23にN極を形成する方向の界磁磁束が発生する。これによって、鉄極部23におけるS極の磁束が打ち消され、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度は減少する。その結果、高速回転時において、電圧飽和を緩和させることができる。
【0022】
次に、各ティース部12の径方向外側に向かって界磁磁束が発生するように、すなわち、
図4に示した白抜き矢印とは逆向きに界磁磁束が発生するように、界磁電流が流れる場合について説明する。回転子2の鉄極部23は、永久磁石22によってS極が形成されている。
図5に示した白抜き矢印の向きとは逆向きに界磁電流を流すことによって、鉄極部23にS極を形成する方向の界磁磁束が発生する。これによって、鉄極部23におけるS極の界磁磁束が強められる。その結果、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度が増加し、トルクを増加させることができる。
【0023】
以上のように、本実施の形態1にかかる回転電機100は、定電圧源回路200から供給され、各相の巻線部A,B,Cで循環する界磁電流を制御することによって、界磁磁束の密度を調整することができる。すなわち、回転電機100は、低速回転時に永久磁石22の界磁磁束を強めて、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度を増加させ、高トルクを出力することができる。一方、回転電機100は、高速回転時に永久磁石22の界磁磁束を弱めて、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度を減少させ、電圧飽和を緩和させることができる。また、高速回転時における鉄損を抑制することもでき、弱め界磁電流による銅損を低減することもできる。よって、本実施の形態1にかかる回転電機100は、電気自動車、産業用機器、及び空気調和装置等の用途に使用をされる駆動用モータとして、広範囲の運転領域を実現することができる。
【0024】
また、例えば従来技術として、回転磁界を発生する電機子巻線と、界磁磁界を発生させる界磁巻線と、を固定子のティース部に巻回した構成があるが、製造段階において巻線工程が複雑となるため、生産性が悪化する。また、界磁巻線によって、電機子巻線の占積率を圧迫するため、巻線抵抗が増加するおそれがある。一方、本実施の形態1にかかる回転電機100は、固定子1のティース部12に電機子巻線13のみを巻回した構成なので、製造段階において巻線工程が複雑とならず、生産性の悪化を抑制できる。また、本実施の形態1にかかる回転電機100は、例えば回転子2の磁極数と固定子1のスロット数とが10:12系列となる固定子1を流用することができるので、生産性が向上する。
【0025】
また、本実施の形態1にかかる回転電機100は、コンシクエントポール型であり、従来の永久磁石モータと比べて永久磁石22の量を低減できるので、低コスト化することができ、且つ資源調達リスクの回避に有効である。
【0026】
図6は、実施の形態1にかかる回転電機の変形例1であって電機子巻線の結線図である。
図6に示した回転電機100Aは、各Y結線の中性点Nが開放され、各開放端がダイオード202を介して接続された定電圧源回路200を有する構成である。この場合、2重Y結線のうち、一方のY結線における同相のコイルの巻数の和と、他方のY結線における同相のコイルの巻数の和とが異なる。具体的には、一方のY結線におけるA相のコイルA1とコイルA4との巻数の和と、他方のY結線におけるA相のコイルA2とコイルA3との巻数の和とが異なる。同様に、一方のY結線におけるB相のコイルB1とコイルB4との巻数の和と、他方のY結線におけるB相のコイルB2とコイルB3との巻数の和とが異なる。同様に、一方のY結線におけるC相のコイルC1とコイルC4との巻数の和と、他方のY結線におけるC相のコイルC2とコイルC3との巻数の和とが異なる。
【0027】
これにより、回転電機100Aは、A相に対応する巻線部Aにおいて、コイルA1及びコイルA4と、コイルA2及びコイルA3とで発生する逆起電力差によって交流電流が発生し、ダイオード202によって半波整流されることで界磁電流となる直流成分が抽出される。A相に対応する巻線部Aでは、一点鎖線の矢印Xで示すように、コイルA4、コイルA1、コイルA2、コイルA3の順番に界磁電流が循環する。B相に対応する巻線部B及びC相に対応する巻線部Cにおいても同様に、界磁電流となる直流成分が抽出される。B相に対応する巻線部Bでは、実線の矢印Yで示すように、コイルB4、コイルB1、コイルB2、コイルB3の順番に界磁電流が循環する。C相に対応する巻線部Cでは、破線の矢印Zで示すように、コイルC4、コイルC1、コイルC2、コイルC3の順番に界磁電流が循環する。すなわち、回転電機100Aは、各Y結線の中性点Nの各開放端が直流電源201を介して接続された回転電機100と、同様の効果を得ることができる。
【0028】
図7は、実施の形態1にかかる回転電機の変形例2の構成を模式的に示した平面図である。
図7に示した変形例2の回転電機100Bは、永久磁石22を回転子コア20の内部に埋め込んだ埋め込み磁石型の回転子2とした構成である。その他の構成については、上記した回転電機100,100Aと同じである。
図7に示した回転子2は、2つの永久磁石22を1組とし、N極を持つ1組の永久磁石22と、回転子コア20によって形成されたS極を持つ鉄極部23とが、回転子コア20の周方向に交互に配置されている。永久磁石22を回転子コア20の内部に埋め込むことにより、永久磁石22に発生する渦電流損失を低減できる。また、永久磁石22の量を増やすこともできるため、磁石磁束を増加させることができる。
【0029】
図8は、実施の形態1にかかる回転電機の変形例3の構成を模式的に示した平面図である。
図8に示した変形例3の回転電機100Cは、7つの永久磁石22と、7つの鉄極部23とで、14極構造の回転子2とした構成である。すなわち、変形例3の回転電機100Cでは、回転子2の磁極数と固定子1のスロット数とが14:12系列となる。この場合、
図1に示した回転子2と比べて、B相に対応する巻線部Bの位置と、C相に対応する巻線部Cの位置とが入れ替わる。なお、変形例3の回転電機100Cの回転子2は、永久磁石22が回転子コア20の外周面に環状に張り付けられた表面磁石型に限定されず、
図7に示すように、永久磁石22を回転子コア20の内部に埋め込んだ埋め込み磁石型でもよい。
【0030】
図9は、本実施の形態1にかかる回転電機の変形例4の構成を模式的に示した平面図である。
図9に示した永久磁石22a,22b上の実線の矢印は、永久磁石22a,22bの磁束の向きを示している。本実施の形態1にかかる回転電機100は、
図1に示したコンシクエントポール型の構成に限定されない。例えば
図9に示した変形例4の回転電機100Dのように、回転子コア20の周方向に沿ってN極の永久磁石22aとS極の永久磁石22bとを交互に配置した構成でもよい。隣り合うN極の永久磁石22aとS極の永久磁石22bとの間には、N極又はS極のいずれか一方の極の磁束を増減できるようにフラックスバリア24が形成されている。なお、変形例4の回転電機100Dの回転子2は、永久磁石22a,22bを回転子コア20の内部に埋め込んだ埋め込み磁石型に限定されず、永久磁石22a,22bが回転子コア20の外周面に環状に張り付けられた表面磁石型でもよい。
【0031】
また、本実施の形態1にかかる回転電機100,100A,100B,100C,100Dは、
図1に示したラジアルギャップ型に限定されず、アキシャルギャップ型であってもよい。本実施の形態1にかかる回転電機100,100A,100B,100C,100Dをアキシャルギャップ型に適用した場合、従来のアキシャルギャップ型に設けられていた環状の界磁巻線を省略することができる。
【0032】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかる回転電機101について説明する。
図10は、実施の形態2にかかる回転電機の構成を模式的に示した平面図である。
図10に示した白抜き矢印は、界磁磁束の向きを示している。また、
図10に示した符号25は磁束線を示している。
図11は、
図10に示した界磁磁束の向きにおいて、コイルに流れる界磁電流の向きを示した説明図である。
図11に示した白抜き矢印は、各相を循環する界磁電流の向きを示している。本実施の形態2にかかる回転電機101の固定子1は、12個のスロットを有している。
【0033】
図10に示した電機子巻線13は、3相の巻線部として、A相に対応する巻線部Aと、B相に対応する巻線部Bと、C相に対応する巻線部Cと、を有している。A相に対応する巻線部Aは、コイルA1、コイルA2、コイルA3及びコイルA4である。B相に対応する巻線部Bは、コイルB1、コイルB2、コイルB3及びコイルB4である。C相に対応する巻線部Cは、コイルC1、コイルC2、コイルC3及びコイルC4である。各相の巻線部A,B,Cは、機械的に隣り合う2つのコイルで構成されるコイル対が、回転子2の回転軸に対して対向する構成とされている。A相に対応する巻線部Aでは、機械的に隣り合う2つのコイルA1及びコイルA2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルA3及びコイルA4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。B相に対応する巻線部Bでは、機械的に隣り合う2つのコイルB1及びコイルB2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルB3及びコイルB4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。C相に対応する巻線部Cでは、機械的に隣り合う2つのコイルC1及びコイルC2のコイル対と、機械的に隣り合う2つのコイルC3及びコイルC4のコイル対とが、回転子2の回転軸に対して対向する。これらのコイルは、すべて同じ向きに巻回されている。
【0034】
回転子2は、一例として、永久磁石22が回転子コア20の外周面に環状に張り付けられた表面磁石型である。回転子2は、N極を持つ永久磁石22と、永久磁石22を設けずに回転子コア20によって形成されたS極を持つ鉄極部23とが、回転子コア20の周方向に交互に配置されたコンシクエントポール型である。本実施の形態2における回転子2は、10個の永久磁石22と、10個の鉄極部23とで20極構造とされている。つまり、実施の形態2にかかる回転電機101は、20極の永久磁石モータとしてトルクが発生する。
【0035】
図11に示すように、電機子巻線13は、コイル対を構成する2つのコイルが互いに並列とされ、且つ、それぞれのコイルが、回転子2の回転軸に対して対向する同相のコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルと直列とされ、他方のコイルと並列とされて2重Y結線とされている。具体的には、A相の巻線部Aの場合、コイル対を構成するコイルA1とコイルA2とが、並列とされている。コイル対を構成するコイルA3とコイルA4とが、並列とされている。コイルA1は、回転子2の回転軸に対して対向するコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルA3と直列とされ、他方のコイルA4と並列とされている。同様に、コイルA2は、回転子2の回転軸に対して対向するコイル対のうち、回転子2の回転軸に対して径方向に対向する一方のコイルA4と直列とされ、他方のコイルA3と並列とされている。B相に対応する巻線部B、及びC相に対応する巻線部Cについても同様である。
【0036】
そして、本実施の形態2にかかる回転電機101は、各Y結線の中性点Nが開放され、各開放端が定電圧源回路200で接続されている。定電圧源回路200は、各Y結線の中性点Nを、直流電源201を介して接続した構成である。回転電機101は、定電圧源回路200によって供給される界磁電流が、各相の巻線部A,B,Cで循環する。
図11に示した例において、A相に対応する巻線では、コイルA4、コイルA2、コイルA1、コイルA3の順番に界磁電流が循環する。また、B相に対応する巻線では、コイルB4、コイルB2、コイルB1、コイルB3の順番に界磁電流が循環する。また、C相に対応する巻線では、コイルC4、コイルC2、コイルC1、コイルC3の順番に界磁電流が循環する。なお、界磁電流の流れを逆向きにすることで、A相に対応する巻線では、コイルA3、コイルA1、コイルA2、コイルA4の順番に界磁電流が循環する。B相に対応する巻線部Bを循環する界磁電流、及びC相に対応する巻線部Cを循環する界磁電流についても同様である。
【0037】
本実施の形態2にかかる回転電機101は、定電圧源回路200から供給される界磁電流が、
図11に示した白抜き矢印の向きに流れ、各相の巻線部A,B,Cで循環することにより、
図10に示した白抜き矢印の向きに界磁磁束が発生する。界磁磁束は、固定子1の径方向において、隣り合うティース部12に逆向きに鎖交する。この界磁磁束によって、6極対(全12極)の固定磁界が形成される。回転子2が回転することにより、界磁磁束によって形成された6極対の固定磁界が、10個の鉄極部23によって磁束変調され、鉄極部23の10極から固定磁界の6極対を引いた4極対の回転磁界が発生する。この4極対の回転磁界が、電機子による回転磁界と同期してトルクを発生させる。この結果、20極の永久磁石モータのトルクがブーストされる。
【0038】
一方、本実施の形態2にかかる回転電機101は、定電圧源回路200から供給される界磁電流が、
図11に示した白抜き矢印の向きとは逆向きに流れ、各相の巻線部A,B,Cで循環することにより、
図10に示した白抜き矢印の向きとは逆向きに界磁磁束が発生する。これにより、負のトルクが発生して、20極の永久磁石モータのトルクが減少するので、逆起電力を抑制でき、高速回転時の電圧飽和を緩和できる。
【0039】
以上のように、本実施の形態2にかかる回転電機101は、定電圧源回路200から供給され、各相の巻線部A,B,Cで循環する界磁電流を制御することによって、界磁磁束の密度を調整することができる。すなわち、回転電機101は、低速回転時に永久磁石22の界磁磁束を強めて、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度を増加させ、高トルクを出力することができる。一方、回転電機101は、高速回転時に永久磁石22の界磁磁束を弱めて、固定子1と回転子2との間の空隙における回転磁界の磁束密度を減少させ、電圧飽和を緩和させることができる。また、高速回転時における鉄損を抑制することもでき、弱め界磁電流による銅損を低減することもできる。よって、本実施の形態2にかかる回転電機101は、電気自動車、産業用機器、及び空気調和装置等の用途に使用される駆動用モータとして、広範囲の運転領域を実現することができる。また、本実施の形態2にかかる回転電機101は、実施の形態1の回転電機100とは異なり、シャフト21及びフレーム3を磁路として使う必要がなくなるため、シャフト21及びフレーム3に発生する損失もなく、より高効率化することができる。
【0040】
図12は、実施の形態2にかかる回転電機の変形例であって電機子巻線の結線図である。
図12に示した回転電機101Aでは、各Y結線の中性点Nが開放され、各開放端がダイオード202を介して接続された定電圧源回路200を有する構成である。この場合、2重Y結線のうち、一方のY結線における同相のコイルの巻数の和と、他方のY結線における同相のコイルの巻数の和が異なる。具体的には、一方のY結線におけるA相のコイルA1とコイルA3との巻数の和と、他方のY結線におけるA相のコイルA2とコイルA4との巻数の和が異なる。同様に、一方のY結線におけるB相のコイルB1とコイルB3との巻数の和と、他方のY結線におけるB相のコイルB2とコイルB4との巻数の和が異なる。同様に、一方のY結線におけるC相のコイルC1とコイルC3との巻数の和と、他方のY結線におけるC相のコイルC2とコイルC4との巻数の和が異なる。
【0041】
これにより、回転電機101Aは、A相に対応する巻線部Aにおいて、コイルA1及びコイルA3と、コイルA2及びコイルA4とで発生する逆起電力差によって交流電流が発生し、ダイオード202によって半波整流されることで界磁電流となる直流成分が抽出される。B相に対応する巻線部B及びC相に対応する巻線部Cにおいても同様に、界磁電流となる直流成分が抽出される。すなわち、回転電機101Aは、各Y結線の中性点Nの各開放端が直流電源201を介して接続された回転電機101と、同様の効果を得ることができる。
【0042】
なお、本実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、例えば
図7に示すように、永久磁石22を回転子コア20の内部に埋め込んだ埋め込み磁石型の回転子2とした構成でもよい。永久磁石22を回転子コア20の内部に埋め込むことにより、永久磁石22に発生する渦電流損失を低減できる。また、永久磁石22の量を増やすこともできるため、磁石磁束を増加させることができる。
【0043】
また、本実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、
図10に示したラジアルギャップ型に限定されず、アキシャルギャップ型であってもよい。本実施の形態2にかかる回転電機101,101Aをアキシャルギャップ型に適用した場合、従来のアキシャルギャップ型に設けられていた環状の界磁巻線を省略することができる。
【0044】
また、本実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、図示した20極構造に限定されず、その他の極数から成る構造でもよい。例えば、本実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、8つの永久磁石22と、8つの鉄極部23とで16極構造とし、B相に対応する巻線部Bの位置と、C相に対応する巻線部Cの位置とを入れ替えた構成でも可能である。
【0045】
また、実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、
図10に示したコンシクエントポール型の構成に限定されない。実施の形態2にかかる回転電機101,101Aは、回転子コア20の周方向に沿ってN極の永久磁石とS極の永久磁石とを交互に配置した構成でもよい。この場合、隣り合うN極の永久磁石とS極の永久磁石との間には、N極又はS極のいずれか一方の極の磁束を増減できるようにフラックスバリアが形成される。
【0046】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 固定子、2 回転子、3 フレーム、4 ブラケット、10 固定子コア、11 コアバック部、12 ティース部、13 電機子巻線、20 回転子コア、21 シャフト、22,22a,22b 永久磁石、23 鉄極部、24 フラックスバリア、25 磁束線、100,100A,100B,100C,100D,101,101A 回転電機、200 定電圧源回路、201 直流電源、202 ダイオード、A,B,C 巻線部、A1,A2,A3,A4,B1,B2,B3,B4,C1,C2,C3,C4 コイル、N 中性点。
【要約】
回転電機(100)は、固定子(1)と回転子(2)とを備えている。固定子(1)は、固定子コア(10)と、電機子巻線(13)とを有する。電機子巻線(13)は、3相に対応する巻線部(A,B,C)を有している。各相の巻線部(A,B,C)は、機械的に隣り合う2つのコイルで構成されるコイル対が、回転子(2)の回転軸に対して対向する構成とされている。電機子巻線(13)は、コイル対を構成する2つのコイルが互いに並列とされ、且つ、それぞれのコイルが、回転子(2)の回転軸に対して対向する同相のコイル対のうちの一方のコイルと並列とされ、他方のコイルと直列とされて2重Y結線とされ、各Y結線の中性点(N)が定電圧源回路(200)を介して接続されている。