(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】サッチ分解菌含有カプセル及び芝生地の保全方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/10 20060101AFI20241125BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20241125BHJP
A01G 20/43 20180101ALI20241125BHJP
【FI】
C12N11/10
C12N1/20 C
C12N1/20 F
A01G20/43
(21)【出願番号】P 2020032848
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508156041
【氏名又は名称】株式会社MCラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】武井 孝行
(72)【発明者】
【氏名】大角 義浩
(72)【発明者】
【氏名】服巻 晃志
(72)【発明者】
【氏名】幡手 泰雄
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-083222(JP,A)
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology,2017年,vol.101,pp.93-102
【文献】Journal of Environmental Biology,2014年,Vol.35,pp.555-561
【文献】International Journal of Engineering and Technology,2006年,Vol.3 No.1,pp.47-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00-11/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bacillus pumilusに属するサッチ分解菌と、
前記サッチ分解菌を内包する、
アルギン酸ゲルを壁材とするカプセルと、
前記サッチ分解菌の乾燥を抑制する保護剤と、
を含
み、
前記保護剤は、
グルコース、スクロース又はトレハロースである、
サッチ分解菌含有カプセル。
【請求項2】
請求項
1に記載のサッチ分解菌含有カプセルを芝生地に散布する、
芝生地の保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッチ分解菌含有カプセル及び芝生地の保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場のグリーン、競技場及び庭園等の芝生地では、芝丈を揃えるために定期的に芝刈りが行われる。芝刈りの際に発生する刈りかすが土壌に蓄積する。刈りかす、枯れた葉、茎及び根等の堆積層はサッチと言われ、サッチが形成されると、土壌及び芝草の根への水、空気肥料及び農薬が浸透しにくくなる。水等の浸透が阻害されることで、芝草の生育が不良になったり、枯死が増えたりする。また、サッチは腐敗菌の温床ともなることがある。
【0003】
サッチを除去する手段として物理的手段及び生物学的手段が知られている。物理的手段として、芝生地ではバーチカル作業が実施される。バーチカル作業では、機械を用いてサッチが掻き取られる。また、土壌の通気性及び透水性を向上させるために、地面に穴をあけるエアレーションが行われる。また、芝草の生育を促進するために芝生地の上に砂利をかぶせる目土入れが行われる。
【0004】
生物学的手段としては、微生物が利用される。特許文献1には、サッチ分解菌を内包するマイクロカプセルが開示されている。当該マイクロカプセルは多孔質であって、ポリ-ε-カプロラクトンを主体とする環境分解性ポリマー又はアルギン酸-キトサンゲルビーズで形成されている。
【0005】
マイクロカプセルに内包させずにサッチ分解菌単体を芝生地に直接に散布すると、日照、温度変化及び降雨等の厳しい自然条件の影響を受けるため、サッチ分解菌が芝生地に定着し難い上に短期間で失活し易かった。これに対し、特許文献1では、マイクロカプセルにサッチ分解菌を担持させることで、サッチ分解菌を芝生地に効率よく定着させることができるうえ、サッチ分解能力がサッチ分解菌単体よりも長く安定的に得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
芝生地を効率的に保全するために、サッチ分解菌含有カプセルの改良が求められている。サッチ分解菌の保存性能を高め、活性をさらに長期間維持することができれば、サッチ分解菌を散布する頻度を抑え、芝生地を効率的に保全できる。
【0008】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、サッチ分解菌を長期間にわたって保存し、活性を維持することができるサッチ分解菌含有カプセル及び芝生地の保全方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係るサッチ分解菌含有カプセルは、
Bacillus pumilusに属するサッチ分解菌と、
前記サッチ分解菌を内包する、アルギン酸ゲルを壁材とするカプセルと、
前記サッチ分解菌の乾燥を抑制する保護剤と、
を含み、
前記保護剤は、
グルコース、スクロース又はトレハロースである。
【0013】
本発明の第2の観点に係る芝生地の保全方法は、
本発明の第1の観点に係るサッチ分解菌含有カプセルを芝生地に散布する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サッチ分解菌を長期間にわたって保存し、活性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】サッチ分解菌を内包するカプセルの形態を示す図である。(A)はBacillus subtilisを内包するカプセルの形態を示す。(B)はBacillus pumilusを内包するカプセルの形態を示す。
【
図2】サッチ分解菌を内包するカプセル中の菌体の生存割合を示す図である。(A)はBacillus subtilisの生存割合を示す。(B)はBacillus pumilusの生存割合を示す。
【
図3】乾燥後のカプセルの形態を示す図である。(A)はBacillus subtilisを内包するカプセルの形態を示す。(B)はBacillus pumilusを内包するカプセルの形態を示す。
【
図4】乾燥後のカプセル中の菌体の生存割合を示す図である。(A)はBacillus subtilisの生存割合を示す。(B)はBacillus pumilusの生存割合を示す。
【
図5】乾燥後のカプセルのセルロース分解活性を示す図である。(A)、(B)及び(C)は、それぞれ保存から0日目、7日目及び21日目のカプセルを含むカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液の経過時間ごとの粘度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態および図面によって限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態)
本実施の形態に係るサッチ分解菌含有カプセルは、サッチ分解菌と、サッチ分解菌を内包するカプセルと、サッチ分解菌の乾燥を抑制する保護剤と、を含む。サッチ分解菌は、サッチ分解能力を備える菌体であれば任意である。サッチ分解菌としては、例えば、Bacillus subtilisに属する菌及びBacillus pumilusに属する菌が挙げられる。特に好ましくは、サッチ分解菌は、Bacillus pumilusに属する菌である。
【0018】
サッチ分解菌は、環境分解性ポリマーを壁材とするカプセルに内包される。環境分解性ポリマーには、土壌中で微生物によって水と二酸化炭素とに分解される生分解性ポリマー及び自然環境下で日光及び水等によって経時的に分解する崩壊性ポリマーが包含される。環境分解性ポリマーとしては、サッチ分解菌の食餌となる点で生分解性ポリマーが好適である。
【0019】
生分解性ポリマーの具体例として、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート及びポリエチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル類の他、ポリビニルアルコール、ポリリン酸、ポリアミノ酸類、キトサン、キチン、セルロース、澱粉、酢酸セルロース、バクテリアセルロース、カードラン、プルラン及びバイオポリエステル等、並びにこれらの複合物等が挙げられる。好適には、環境分解性ポリマーは、アルギン酸ゲルである。
【0020】
本実施の形態に係るサッチ分解菌含有カプセルは、使用の態様に応じて乾燥させて使用され得る。この場合、乾燥によりサッチ分解菌の生存に必要な細胞水分が失われる。これに対し、本実施の形態に係るサッチ分解菌含有カプセルは、含有する保護剤によって、サッチ分解菌の乾燥が抑制される。保護剤は、サッチ分解菌の乾燥を抑制する物質であれば特に限定されないが、環境を汚染しない物質が好ましい。保護剤としては特には水酸基を含む物質が適している。具体的に例示される保護剤は、糖類、ポリオール及びアミノ酸である。糖類は結合水を保持するため、細胞膜表面に水分を持続的に保持することができる。糖類はタンパク質の保護効果が高く、環境に影響がほとんどなく、生物に対する毒性が極めて低い。糖類としては、単糖類、二糖類又は多糖類であってもよい。好適には、糖類は、例えば、グルコース、トレハロース及びスクロースである。
【0021】
サッチ分解菌含有カプセルの大きさは、例えば、平均粒子径として0.1~10mm、0.5~8mm、1~5mm又は2~4mmである。サッチ分解菌含有カプセルの平均粒子径は、好適には3~4mmである。
【0022】
サッチ分解菌含有カプセルの形態は限定されないが、例えば、ゲルビーズである。ゲルビーズは、皮張り状の表面を有して内部全体が荒目のスポンジ状で、スポンジ状の空隙部にサッチ分解菌を含む。ゲルビーズのサッチ分解菌含有カプセルとしては、アルギン酸ゲルビーズ又はアルギン酸-キトサンゲルビーズがサッチ分解菌の担持性及び棲息適性に優れている。
【0023】
ゲルビーズの形態のサッチ分解菌含有カプセルの製造方法を以下に例示する。当該製造方法では、ゲル化剤を含む連続相に、サッチ分解菌を含む環境分解性ポリマー水溶液を分散相として滴下混合する。これにより、サッチ分解菌を内包する、環境分解性ポリマーを壁材とするカプセルが形成される。続いて形成されたカプセルを硬化させる。カプセルを硬化するには、例えば、新たに調製した上記の連続相内で撹拌すればよい。
【0024】
サッチ分解菌を含む環境分解性ポリマー水溶液は、培養したサッチ分解菌を含む培地内にアルギン酸塩を溶解させて調製されてもよい。環境分解性ポリマー水溶液における環境分解性ポリマーの濃度は任意であるが、環境分解性ポリマーとしてアルギン酸塩を用いる場合、例えば重量体積パーセント(w/v)で、0.1~10%、0.5~5%又は1~3%である。連続相におけるゲル化剤の濃度も任意であるが、例えば重量体積パーセント(w/v)で、0.1~10%、0.5~5%又は1~3%である。環境分解性ポリマーがアルギン酸塩の場合、ゲル化剤は、好ましくは多価金属塩を含む。アルギン酸は多価イオンと塩を形成する。アルギン酸分子中の複数のカルボキシル基が多価カチオンによって架橋され、アルギン酸の多価金属塩は水に溶けない塩となる。ゲル化剤としては塩化カルシウムが好ましい。
【0025】
次に、硬化させたカプセルをろ過によって回収し、保護剤を含む溶液にカプセルを浸漬する。保護剤を含む溶液に浸漬する前にカプセルを乾燥させてもよい。保護剤の溶液の濃度は、適宜調整されるが、例えば、0.1~1.0mol/Lである。浸漬する時間は、例えば数時間、好ましくは1~5時間又は2~4時間である。
【0026】
なお、保護剤は、連続相に混合されるサッチ分解菌を含む環境分解性ポリマー水溶液(分散相)に含まれていてもよい。これにより、硬化させたカプセルを、保護剤を含む溶液に浸漬しなくてもサッチ分解菌含有カプセルに保護剤を含有させることができる。保護剤が分散相に含まれていても、硬化させたカプセルを、保護剤を含む溶液にさらに浸漬してもよい。
【0027】
サッチ分解菌含有カプセルは、ろ過によって回収できる。回収したサッチ分解菌含有カプセルは、凍結乾燥してもよい。また、凍結乾燥の前にサッチ分解菌含有カプセルを洗浄してもよい。
【0028】
サッチ分解菌含有カプセルの形態はコアーシェルであってもよい。コアーシェルの場合、サッチ分解菌含有カプセルが1つ又は複数の空洞状の内腔部を有し、内腔部にサッチ分解菌を含む。コアーシェルでは、内腔部においてサッチ分解菌が環境変化の影響を受けずに盛んに増殖し、サッチ分解菌含有カプセル外への放出による減少分が補充される。このため、コアーシェルにはサッチ分解菌のサッチ分解能力をより長期にわたって安定的に発揮できるという利点がある。
【0029】
コアーシェルのサッチ分解菌含有カプセルを製造するには、まず、環境分解性の壁材ポリマーを低沸点有機溶媒に溶解した有機相O中に、サッチ分解菌を含む環境分解性のポリマー水溶液を混合することにより、該有機相O中に内水相Sとしてサッチ分解菌を含むポリマー水溶液の液滴が分散したS/Oエマルションを調製する。そして、S/Oエマルションを水相中に混合して撹拌することにより、外水相W中にS/Oエマルションの液滴が分散したS/O/Wエマルションを調製する。次に、加温及び減圧の少なくとも一方による液中乾燥を行い、S/O/Wエマルションの有機相O中の有機溶媒を除去して壁材ポリマーをゲル化させることにより、環境分解性ポリマーからなるカプセルの内腔部にサッチ分解菌を含む内水相Sが充満したカプセルを生成させる。
【0030】
続いて、ゲルビーズと同様に、カプセルをろ過によって回収し、保護剤を含む溶液にカプセルを浸漬する。保護剤を含む溶液に浸漬する前にカプセルを乾燥させてもよい。なお、有機相O中に混合されるサッチ分解菌を含む環境分解性のポリマー水溶液に保護剤を加えてもよい。
【0031】
有機相Oの低沸点有機溶媒としては、加温及び減圧の少なくとも一方による液中乾燥を行う上で沸点が85℃以下の無極性溶剤が好ましく、例えばジクロロメタン、クロロホルム及び酢酸エチル等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよいが、ジクロロメタンを単独使用もしくは主体として他と併用することが好ましい。
【0032】
好ましくは、有機相Oの壁材ポリマーは、ポリ-ε-カプロラクトンを主体とするものである。ポリ-ε-カプロラクトンを壁材ポリマーとすることにより、回収率及び物理的強度に優れたカプセルを製出できることに加え、ポリ-ε-カプロラクトンとサッチ分解菌との相性が特によく、これを食餌としてサッチ分解菌の活性が高いレベルで持続するため、より優れたサッチ分解能力が発揮される。なお、好ましくは、ポリ-ε-カプロラクトンの平均分子量は10000~500000である。
【0033】
また、有機相O中には、内水相S添加によるS/Oエマルションの調製のために、エマルション安定剤を配合しておくのがよい。エマルション安定剤としては、ソルビタンモノオレエート等のスパン系界面活性剤の他、一般的にエマルション調製に用いる種々の界面活性剤、水溶性樹脂及び水溶性多糖類等がある。
【0034】
内水相Sに用いる環境分解性のポリマーとしては、サッチ分解菌の活動及び増殖を妨げない水溶性ポリマーであればよく、例えばアルギン酸塩、κ-カラギーナン及びキトサン等の水溶性高分子多糖類並びにポリビニルアルコール等が挙げられるが、特にサッチ分解菌との相性の良さからアルギン酸塩が好ましい。アルギン酸塩としてアルギン酸ナトリウムを用いる場合の水溶液濃度は、0.5~10質量%程度とするのがよく、高過ぎてはS/Oエマルションの分散安定性が低下して凝集を生じ易くなる。なお、ポリマー水溶液中には、サッチ分解菌の栄養源として、ポリペプトン、イーストエキス及び硫酸マグネシウム等を適宜配合してもよい。
【0035】
有機相O中に内水相Sを添加混合してS/Oエマルションを調製する際には、サッチ分解菌を保護するために氷冷下で撹拌するのが好ましい。また、S/O/Wエマルションの外水相Wに用いる水相には、分散安定剤を含むことが望ましい。分散安定剤としては、一般的にエマルション調製に使用されるものをいずれも使用できるが、高分子量のエマルション安定剤を用いることで優れたエマルション効果が得られる点から、ゼラチンが特に好適なものとして挙げられる。ゼラチンを使用する場合の外水相における濃度は0.1~10質量%程度が好適である。液中乾燥後には、高分子量のゼラチンを低分子量へ分解し、調製したカプセルと外水相とのろ過特性を向上させる目的で、パパイン等のタンパク質分解酵素を添加してもよい。
【0036】
上記の液中乾燥では有機相の低沸点有機溶媒を揮散除去するために、撹拌下で加温と減圧の一方もしくは両方を行うが、処理効率面より加温と減圧を同時に行うことが好ましい。加温ではエマルションの液温を数時間かけて段階的又は連続的に昇温すればよいが、最高到達温度は低沸点有機溶媒の沸点より低い温度でよい。減圧ではエマルションの液面が接する雰囲気の圧力を同様に数時間かけて段階的又は連続的に減じればよいが、最高減圧は大気圧の数分の1程度まででよい。
【0037】
本実施の形態に係るサッチ分解菌含有カプセルは、好ましくは、芝生地の保全方法で使用される。当該芝生地の保全方法では、サッチ分解菌含有カプセルを芝生地に散布する。散布では、サッチ分解菌含有カプセルを含む液体が散布されてもよいし、サッチ分解菌含有カプセルを乾燥させた粉末を散布されてもよい。サッチ分解菌含有カプセルは、フィラー(充填剤)と混合されて散布されてもよい。公知のフィラーが用いられるが、フィラーは、例えば、砂、ゼロライト及び硫酸アンモニウム等である。
【0038】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るサッチ分解菌含有カプセルは、保護剤を含むため、下記実施例に示すように、乾燥下でもサッチ分解菌が生存し、長期にわたってサッチ分解菌が安定的に保存され、活性を維持することができる。したがって、当該サッチ分解菌含有カプセルによれば、サッチ分解菌含有カプセルを散布する頻度を抑え、芝生地を効率的に保全できる。当該サッチ分解菌含有カプセルを散布した芝生地では、サッチが厚く堆積して土中及び芝草の根に対して空気及び水が浸透しにくくなったり、散布した肥料や農薬がサッチに吸収されて効きにくくなったりすることがない。また、病原菌又は害虫の繁殖及び腐敗による有毒ガスの発生も防止されるため、芝草が健全な状態で長期間安定的に維持される。
【0039】
サッチ分解菌含有カプセルが壁材とする環境分解性ポリマーはサッチ分解菌の食餌となってサッチ分解菌の活性低下の防止に寄与するのに加えて、自然環境下で経時的に分解されて消失するため、散布した芝生地及びその周辺に環境負荷を与えることもない。
【0040】
なお、別の実施の形態では、上記サッチ分解菌含有カプセルを含む芝保全材が提供される。芝保全材は、フィラーをさらに含んでもよい。
【0041】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(サッチ分解菌のカプセル化)
702培地(超純水 140mL、Polypepton 1.4g、Bacto Yeast Extract 0.28g及び硫酸マグネシウム七水和物 0.14g)を培養用フラスコに入れてシリコ栓をし、オートクレーブ(ATS-40、ALP社製)で、121℃、15分の条件で滅菌した。凍結保存したBacillus菌をクリーンベンチ内で解凍し、702培地の入った培養用フラスコ内に菌体を投与した。菌体を投与したフラスコをバイオシェイカー(TB-12T、高崎科学器械社製)に移し、30℃、150rpmの条件で菌体を培養した。Bacillus pumilus NBRC12092(以下、単に「Bp」とする)及びBacillus subtilis NBRC13714(以下、単に「Bs」とする)の培養時間は、それぞれ36時間及び18時間とした。Bp及びBsの培養によって、それぞれ約108cells/mLの菌体が得られた。なお、Bp及びBsは、独立行政法人製品評価技術基盤機構から取得した。
【0043】
培養後の702培地内にアルギン酸ナトリウムを2%(w/v)となるように加えて溶解させ、アルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。これをゲル化浴である1.1%(w/v)の塩化カルシウム水溶液中にシリンジで滴下してカプセルを調製した。この時のアルギン酸ナトリウム水溶液の滴下量は塩化カルシウム水溶液との重量比が1:10となるようにした。カプセルを調製後、吸引ろ過によりカプセルを回収し、新しく用意した1.1%(w/v)の塩化カルシウム水溶液内に再度添加した。30分マグネチックスターラーで緩やかに撹拌させながらカプセルを硬化させた。硬化が終わった後、再度ろ過することでカプセルを回収した。回収したカプセルは遠沈管に入れ、凍結乾燥機(FDU-1200、EYELA社製)を用いて12時間、凍結乾燥させた。
【0044】
硬化させて、ろ過、回収したカプセルをプラスチックシャーレにのせて、実体顕微鏡(C-DSD115、Nikon社製)で撮影した(倍率は16.4倍)。
【0045】
カプセル内の生菌数は希釈平板法にて測定した。まず、カプセルをpH7に調整したクエン酸ナトリウム水溶液内に加えて溶解させ、菌懸濁液を調製した。寒天培地(超純水 1L、Polypepton 10g、Bacto Yeast Extract 2g、硫酸マグネシウム七水和物 1g及び寒天粉末 15g)をクリーンベンチ内へ移し、シャーレへ10mL注ぎ薄く広げ固まらせた。複数のチューブへそれぞれ0.9wt%生理食塩水を0.9mLピペットマンで量り取り、注いだ。菌懸濁液を0.1mL量り取り生理食塩水の入ったチューブへと注ぎ、懸濁させた。その懸濁液を0.1mL量り取り、次の試験管へと移した。この動作を繰り返し行い、段階希釈を行った。すべての希釈した試料をピペットマンで0.1mL量り取り、寒天培地へ滴下し、薄く塗布した。シャーレを逆さにし、インキュベーター(SLI-450N、EYELA社製)内で30℃、2日間静置培養を行った。
【0046】
培養後インキュベーターからシャーレを取り出し、寒天培地表面に形成したコロニーの数を計数した。コロニーは1つの菌体が増殖することで形成される菌集落のことで、コロニーを数えることで寒天培地上の生菌数を測定できる。コロニーが多すぎるとコロニーが重なり合って正確な計数ができなくなり、逆にコロニーが少なすぎるとコロニーが正しく形成されなかった時の誤差が大きくなる。コロニーの数は段階希釈時の希釈倍率により制御可能であり、コロニー数が30~300個の試料を生菌数の評価に用いた。カプセル1g中に含まれる生菌数を次の式で算出した。
(コロニー数×使用したクエン酸ナトリウム水溶液量[cells])/クエン酸ナトリウム水溶液に溶解させたカプセル量[g])
【0047】
(結果)
図1(A)及び
図1(B)は、それぞれBs及びBpを内包するカプセルの乾燥前の形態を示す。3~4mmの球形のカプセルが得られた。カプセルに固定化した生菌数は、約10
7cells/g-wetであった。
【0048】
(保護剤添加の有無によるカプセル内のサッチ分解菌の生存評価)
サッチ分解菌を培養した702培地内にアルギン酸ナトリウムを溶解させ、アルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。これをゲル化浴である1.1%(w/v)の塩化カルシウム水溶液中にシリンジで滴下してカプセルを調製した。カプセルを調製し、30分硬化させた後、回収したカプセルを、所定の濃度で糖を含む糖水溶液(グルコース水溶液、スクロース水溶液又はトレハロース水溶液)の入ったサンプル瓶に加え、常温で3時間浸漬した。この時のカプセルの添加量は糖水溶液40mLあたりに4gほどを目安とした。糖を導入したカプセルをろ過にて回収した後、12時間、凍結乾燥した。
【0049】
カプセル内の菌の生存割合を算出するために、上記と同様に希釈平板法にて生菌数を測定した。凍結乾燥前のカプセル内の生菌数(Ni[cells/g])と凍結乾燥後の生菌数(N[cells/g])を算出し、生存割合を求めた。
【0050】
(結果)
図2(A)及び
図2(B)は、それぞれBs及びBpを内包するカプセル中の菌体の生存割合を示す。Bs及びBpにおいて、グルコース(Glc)、スクロース(Suc)及びトレハロース(Tre)は、糖を加えない場合と比較して、生存割合が高かった。Glc、Suc及びTreは保護剤として機能し、カプセルに内のサッチ分解菌の保存性能を高めた。
【0051】
(日数経過時のカプセル中のサッチ分解菌の生存割合の経時変化)
0.2mol/Lのスクロース水溶液に3時間浸漬したカプセルをろ過にて回収した後、12時間、凍結乾燥した。12時間の凍結乾燥が終わり、カプセルを調製した日を保存日数0日として、4℃の冷蔵庫内で0、7、21日間保存したカプセルを評価対象とした。カプセルを、pH7に調整したクエン酸ナトリウム水溶液内に加えて溶解させ、菌懸濁液を調製した。寒天培地をクリーンベンチ内へ移し、シャーレへ10mL注ぎ薄く広げ固まらせた。上記と同様に菌懸濁液を段階希釈した。すべての希釈した試料をピペットマンで0.1mL量り取り、寒天培地へ滴下し、薄く塗布した。シャーレを逆さにし、インキュベーター内で30℃、2日間静置培養を行った。培養後インキュベーターからシャーレを取り出し、寒天培地表面に形成したコロニーの数を計数し、カプセル1g中に含まれる生菌数を算出した。保存期間の経過につれて内包された菌数は減少するため、保存開始時からの生菌数の推移を生存割合で評価した。比較のために、スクロース水溶液に浸漬していないカプセル(保護剤なし)についても同様に評価した。
【0052】
(結果)
図3(A)及び
図3(B)は、それぞれBs及びBpを内包するカプセルの形態を示す。Bs又はBpを内包するカプセルは保存日数が経過しても外観に変化はなかった。
【0053】
図4(A)及び
図4(B)は、それぞれBs及びBpを内包するカプセル中の菌体の生存割合の経時変化を示す。保護剤を含むことで、Bs又はBpを内包するカプセルは、保護剤なしと比較して菌体の生存割合が高く、少なくとも21日目まで菌体の生存割合が維持された。
【0054】
(サッチ分解菌含有カプセルを使用したセルロース分解試験)
0.2mol/Lのスクロース水溶液に3時間浸漬したBp内包カプセルをろ過にて回収した後、12時間、凍結乾燥した。カプセルを調製した日を保存日数0日として、4℃の冷蔵庫内で0、7、21日間保存したカプセルを評価対象とした。カプセル0.1gをカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を溶解させたHEPES水溶液の入った三角フラスコに加え、30℃の条件下で、3日間撹拌した(150rpm)。3日間の撹拌の中で、カプセルを添加したHEPES水溶液を1日おきにサンプリングして回転式粘度計(LVDV-E、BROOKFIELD社製)で粘度を測定した。サッチ層はセルロースが主成分であり、セルロースの誘導体であるCMC-Naは水溶液の粘度を増大させている。そのため、粘度の減少量を測定することで、セルロースの分解能力を評価した。比較のために、スクロース水溶液に浸漬していないカプセル(保護剤なし)についても同様に評価した。
【0055】
(結果)
図5(A)、
図5(B)及び
図5(C)は、それぞれ保存0日目、7日目及び21日目のBpを内包するカプセルによるセルロース分解活性を示す。0日目、7日目及び21日目のいずれにおいても、粘度の減少がみられた。保護剤を含むカプセルは、21日間保存しても、セルロース分解活性を維持した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、芝草の保全又は管理、特には芝生地の保全方法及び芝生保全材に好適である。