IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人富山大学の特許一覧 ▶ 学校法人北海道科学大学の特許一覧

<>
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図1
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図2
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図3
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図4
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図5
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図6
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図7
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図8
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図9
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図10
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図11
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図12
  • 特許-水処理方法および凝集剤組成物 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】水処理方法および凝集剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20241125BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20241125BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
C02F1/28 A
B01J20/26 B
B01D21/01 102
B01D21/01 107B
B01D21/01 110
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021007779
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112115
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519057081
【氏名又は名称】学校法人北海道科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】倉光 英樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】三原 義広
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊逸
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137442(JP,A)
【文献】特開2019-195792(JP,A)
【文献】特開2012-075970(JP,A)
【文献】特開昭51-073758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0235391(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52-1/56
C02F1/28
C02F1/24
B01J20/00-20/34
B01D21/01
C12N11/00-13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の被除去物を凝集剤とのフロックとして除去する水処理方法であって、
微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子を前記被処理水中で前記フロックに吸着させること、および
前記高分子ハイドロゲル粒子に吸着している前記フロックを回収することを含む、水処理方法。
【請求項2】
前記凝集剤を前記被処理水に添加して前記フロックを生成させることを含む請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記フロックの生成後、前記高分子ハイドロゲル粒子を前記被処理水に添加する請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記フロックに吸着している前記高分子ハイドロゲル粒子が前記被処理水中で浮遊している状態で回収される請求項1~3のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である請求項1~5のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記凝集剤がポリグルタミン酸を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項9】
凝集剤と微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子とを含む凝集剤組成物。
【請求項10】
前記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含み、
前記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含み、
前記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である請求項9に記載の凝集剤組成物。
【請求項11】
凝集剤と微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子とが混合されずに組み合わされて提供される水処理用凝集剤
【請求項12】
前記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含み、
前記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含み、
前記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である請求項11に記載の水処理用凝集剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法および凝集剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水質改善のため浄化槽やため池などの水中の夾雑物を除去する方法としては、水抜き後清掃を行なう大掛かりな方法のほか、微生物を用いる方法、凝集沈殿法などが知られている。凝集沈殿法で用いられる凝集剤としては、無機凝集剤、およびアニオン系、カチオン系、ノニオン系の高分子凝集剤がある。さらに、これらを組み合わせて用いることも知られており、例えば特許文献1では硫酸アルミニウム等の無機凝集剤とアルギン酸ナトリウム等の高分子凝集成分とを組み合わせた排水処理用凝集剤が開示されている。
【0003】
一方、特許文献2には、アルギン酸ゲルなどのマトリックス中に気体を生成する微生物を含む組成物が水性媒体中で自律浮沈すること、および、上記組成物にさらに吸着剤を内包させて水分散系でのセシウムイオンを効率的に除去したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-154726号公報
【文献】特開2016-137442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凝集沈殿法では、短時間で目的の水質が得られるが、凝集剤の添加により生じる有機物であるフロックが水底に堆積するため、長期的な視点で考えると水質を悪化させることになる。従って、フロックを即座に回収することが望ましい。
本発明の課題は、凝集剤を用いた水処理方法において生じるフロックを容易に回収することができる水処理方法およびフロックを容易に回収することができる凝集剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決のため検討していたところ、特許文献2に記載の微生物を含むアルギン酸ゲルが、フロックを吸着することを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成させた。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1]被処理水中の被除去物を凝集剤とのフロックとして除去する水処理方法であって、
微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子を上記被処理水中で上記フロックに吸着させること、および
上記高分子ハイドロゲル粒子に吸着している上記フロックを回収することを含む、水処理方法。
[2]上記凝集剤を上記被処理水に添加して上記フロックを生成させることを含む[1]に記載の水処理方法。
[3]上記フロックの生成後、上記高分子ハイドロゲル粒子を上記被処理水に添加する[2]に記載の水処理方法。
[4]上記フロックに吸着している上記高分子ハイドロゲル粒子が上記被処理水中で浮遊している状態で回収される[1]~[3]のいずれかに記載の水処理方法。
[5]上記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含む[1]~[4]のいずれかに記載の水処理方法。
[6]上記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である[1]~[5]のいずれかに記載の水処理方法。
[7]上記凝集剤がポリグルタミン酸を含む[1]~[6]のいずれかに記載の水処理方法。
[8]上記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含む[1]~[6]のいずれかに記載の水処理方法。
【0008】
[9]凝集剤と微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子とを含む凝集剤組成物。
[10]上記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含み、
上記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含み、
上記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である[9]に記載の凝集剤組成物。
[11]水処理のための、凝集剤と微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子との組み合わせ。
[12]上記凝集剤がポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含み、
上記反応系が乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含み、
上記高分子ハイドロゲル粒子がアルギン酸をゲル化した粒子である[11]に記載の組み合わせ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、凝集剤を用いた新規な水処理方法および新規の凝集剤組成物が提供される。
本発明の方法は、被処理水に凝集剤を添加して生じるフロックを水面に浮上させる機構を組み込んだ新規な凝集分離法である。具体的には、上記フロックを沈殿後に浮上させるか、または沈殿させずに浮上させる新規な凝集分離法である。凝集沈殿法による浄化槽やため池などの水質改善を想定した場合、水抜きと清掃作業などによるフロックの回収は非常に高コストで労力も大きい。本発明の方法により従来の手法と比較してコストおよび労力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アルギン酸ゲル粒子の浮上に要する時間を異なる乳酸菌濃度で比較したグラフである。
図2】アルギン酸ゲル粒子の浮上に要する時間を異なる炭酸水素ナトリウム濃度で比較したグラフである。
図3】アルギン酸ゲル粒子の浮上に要する時間を異なる水温で比較したグラフである。
図4】フミン酸の凝集沈殿における凝集剤の添加量に対する濁度の変化を示したグラフである。
図5】(a)フミン酸の凝集沈殿における凝集剤の添加量に対する吸光度の変化を示したグラフである。(b)図5(a)のグラフのAbs0~0.1の領域の拡大図である。
図6】カオリナイトの凝集沈殿における凝集剤の添加量((a)0~100mg(b)0~500mg)に対する濁度の変化を示したグラフである。
図7】凝集沈殿による池水処理における、写真(a)、濁度測定の結果(b)、および吸光度測定の結果(c)である。
図8】本発明の方法を用いたフミン酸を含む水の処理における、(a)処理前のフミン酸溶液、(b)凝集剤PGα21ca添加後(アルギン酸ゲル粒子は添加していない)、および(c)静置後の写真、ならびに(d)処理前のフミン酸溶液、(e))凝集剤PGα21c添加後のアルギン酸ゲル粒子添加直後、(f)静置後の写真を示す。
図9】本発明の方法を用いたフミン酸を含む水の処理における吸光度測定の結果を示すグラフである。
図10】本発明の方法を用いたカオリナイトを含む水の処理における、(a)処理前のカオリナイト溶液および(b)凝集剤PGα21ca添加後(アルギン酸ゲル粒子は添加していない)、の写真、ならびに(c)処理前のカオリナイト溶液、(d)凝集剤PGα21c添加後のアルギン酸ゲル粒子添加直後、(e)静置後の写真を示す
図11】本発明の方法を用いたカオリナイトを含む水の処理における吸光度測定の結果を示すグラフである。
図12】本発明の方法を用いた池水の処理における、(a)処理前の写真、(b)凝集剤PGα21c添加後のアルギン酸ゲル粒子添加直後、および(c)静置後の写真を示す。
図13】本発明の方法を用いた池水の処理における吸光度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「水処理方法」は、被処理水を混入物がより少ない水に処理する方法を意味し、例えば、水の浄化方法、または水中の混入物の除去方法である。本発明の水処理方法で処理される「被処理水」は特に限定されず、河川水、池水、湖水、海水、生活排水、産業排水などがあげられる。本発明の水処理方法は、特に、浄化槽、ため池、湖などの水面と水底を有する場所に溜められた水を被処理水とすることが好ましい。被処理水において、本発明の水処理方法で除去される被処理水中の被除去物(夾雑物)としては、濁度成分、色度成分、デトリタスがあげられ、より具体的には、粘土鉱物、金属イオン、有機成分(フミン酸など)、藻類、プランクトンなどの微生物などがあげられる。
【0012】
本発明の水処理方法は、凝集剤を利用する方法である。凝集剤を利用する方法としては、凝集沈殿法があり、これは代表的な水処理方法のひとつである。凝集沈殿法は、被処理水に凝集剤を添加して、負電荷を帯びた被除去物を凝集剤がもつ正電荷で電気的に中和することで、被除去物と凝集剤との凝集体であるフロックを形成させ、被除去物を沈降分離する手法である。この処理法は、ため池などの効率的な水質改善法として使用されるが、沈降したフロックが水底で腐敗することで、長期的にみると水質の悪化を助長する可能性がある。従って、沈降したフロックを回収することが望ましいが、それは容易ではない。水中の微細な気泡の浮力を利用してフロックを浮上させる加圧浮上法が知られており、これを使用すれば浮上したフロックを回収することが可能である。しかし、加圧浮上法は、気泡を発生させる加圧装置等を要し、適用範囲が限定されている。
【0013】
本発明の水処理方法は、上記加圧装置のような追加の装置を要せずに、フロックを水底に堆積させないようにさせて、すなわち、水中に浮遊している状態として、回収することができる方法である。特に、本発明の水処理方法は、フロックを水面に浮上させて、回収することができる方法である。
【0014】
本発明者らは特許文献2の記載に基づき検討を重ね、被処理水への添加の一定時間後に浮上する機構を有する高分子ハイドロゲル粒子を得た。実施例で示す高分子ハイドロゲル粒子は被処理水への添加直後は沈降し一定時間後に浮上している。さらにこの高分子ハイドロゲル粒子が、フロックや藻類に吸着する現象を発見した。このとき、高分子ハイドロゲル粒子にフロック等に吸着させるための成分を含ませる必要はなかった。すなわち、例えば吸着剤を高分子ハイドロゲル粒子に包埋させたり、表面に存在させたりしておく必要はなかった。実施例に示すように、この高分子ハイドロゲル粒子を用いて、フロックを堆積させずに、高分子ハイドロゲル粒子と共に水中で浮上させることができる。
【0015】
被処理水への添加の一定時間後に浮上する機構は微生物の生体活動により気体を生成する反応系を高分子ハイドロゲル粒子に内包させることにより実現している。ここで内包するとは保持することを意味する。例えば、反応系(微生物、資化物質、水など)は、高分子ハイドロゲルをシェルとして有する粒子のコアにあってもよいが、高分子ハイドロゲルに保持された状態であれば、粒子のコア部分(外部に接する部分)に存在していてもよい。
【0016】
時間の経過とともに、高分子ハイドロゲル粒子内部に反応系で生成した気体の気泡が生じ、高分子ハイドロゲル粒子の体積が大きくなる過程で比重が小さくなり浮上する。
微生物の生体活動により気体を生成する反応系を高分子ハイドロゲル粒子は水より比重が大きい粒子として製造することにより、被処理水への添加直後は沈降させることができる。このとき水底まで達することが好ましい。その後、時間の経過とともに、上述のように比重が小さくなり水の比重を下回り、浮上する。
【0017】
本発明の水処理方法は、具体的には、微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子を被処理水中で上記フロックに吸着させること、および上記高分子ハイドロゲル粒子に吸着している上記フロックを回収することを含む。
【0018】
フロックは被処理水中で既に生じているもの、例えば被処理水中で堆積しているフロックであってもよい。また、フロックを形成していない水中の被除去物を回収するために、本発明の水処理方法は、凝集剤を被処理水に添加して被処理水中の被除去物と凝集剤とのフロックを生成させることを含んでいてもよい。凝集剤と高分子ハイドロゲル粒子とは被処理水に同時に添加してもよく、別々に順次添加してもよいが、凝集剤を添加した後、高分子ハイドロゲル粒子を添加することが好ましい。例えば、凝集剤はフロックの生成時または生成後に被処理水に添加すればよい。本発明の水処理方法により、凝集剤の添加によるフロックの生成とほぼ同時に沈降したフロックを浮上させ、これを回収することも可能である。
【0019】
凝集剤と微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子とは混合されて、水処理に用いられる凝集剤組成物としてもよく、凝集剤と高分子ハイドロゲル粒子とを被処理水に同時に添加する場合は、上記凝集剤組成物を用いてもよい。上記凝集剤組成物は、使用時まで、微生物の生体活動の進行を抑えるため、冷蔵、冷凍または凍結乾燥で保存されていることが好ましい。凝集剤と高分子ハイドロゲル粒子とは混合せずに組み合わせて提供され、使用時に同時にまたは別々に被処理水に添加してもよい。
【0020】
凝集剤は特に限定されず、無機凝集剤、水溶性高分子凝集剤、またはこれらの混合物などを用いることができる。無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、石灰、生石灰、硫酸鉄、硫酸第二鉄アンモニウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、活性珪酸、アルミン酸ナトリウム、塩化鉄、ポリ硫酸鉄などがあげられる。水溶性高分子凝集剤としては、ポリアミンなどの直鎖脂肪族炭化水素;ポリグルタミン酸などのポリペプチド;アルギン酸ナトリウムポリアクリル酸ナトリウムなどのアニオン性高分子;キトサンなどのカチオン性高分子;ポリアクリルアミドなどのノニオン性高分子があげられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の方法において、凝集剤は、被処理水に含まれる被除去物の種類および用いられる高分子ハイドロゲル粒子の種類に応じて選択すればよい。本発明者は、実施例に示すように、少なくともポリグルタミン酸を含む凝集剤を、アルギン酸ゲル粒子とともに用いた場合、様々な被処理水中の異なる被除去物の除去が可能であることを見出した。凝集剤としては、ポリグルタミン酸と硫酸アルミニウムとを併用して用いることが好ましい。
【0022】
高分子ハイドロゲル粒子はゲル化能を有する水溶性高分子から形成された水を内部に含む粒子である。本発明において、高分子ハイドロゲル粒子は、微生物の生体活動により気体を生成する反応系を保持することができるものであればよい。具体的には、高分子ハイドロゲル粒子としては、少なくとも微生物および必要に応じて資化物質などを保持可能であり、微生物が生体活動を維持するために可能である資化物質源や酸素などを外部から取り込むことができ、反応系で生じた気体を高分子ハイドロゲル粒子外に移動させることができるものであればよい。
【0023】
高分子ハイドロゲル粒子の例としては、脂肪酸、天然油脂系脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸、β-ラクトグロブリン、ヒアルロン酸、アルギン酸、アクリル酸、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ポリ乳酸、およびポリエチレングリコールからなる群より選ばれるゲル前駆体成分を粒子状にゲル化したもの;イオン液体/ポリジメチルシロキサン(IL/PDMS)ゲル;シリカゲル;シリコーンゲル;ポリメタクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルメチルエーテル、ポリロタキサン、およびゼラチンからなる群より選ばれるゲル前駆体成分を粒子状にゲル化したもの;等があげられる。
【0024】
上述したゲル前駆体成分をゲル化する方法は、使用する各ゲル前駆体成分に応じて適宜選択できる。
例えば、アルギン酸ゲル粒子は、アルギン酸および/またはアルギン酸塩を溶解した水溶液を金属塩溶液に滴下することにより製造することができる。このとき用いられる金属塩の金属種としては特に制限されないが、例えば、カルシウム、鉄、マンガン、または亜鉛が好ましく、カルシウムまたは鉄がより好ましく、カルシウムが更に好ましい。
【0025】
高分子ハイドロゲル粒子としてはアルギン酸ゲル粒子を用いることが好ましい。
【0026】
高分子ハイドロゲル粒子は微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する。この反応系は、微生物とともに、微生物の生体活動およびこの微生物の生体活動により気体を生成する反応に必要な物質を含む。微生物の生体活動およびこの微生物の生体活動により気体を生成する反応に必要な物質としては、後述する、資化物質、酸の作用により気体を生成する物質などがあげられる。
【0027】
微生物の生体活動は特に制限されず、例えば、微生物による澱粉などの資化物質の代謝ならびに微生物による光合成等があげられる。代謝は発酵も含む意味である。生成される気体としては、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、およびメタンなどがあげられる。
【0028】
微生物としては、例えば、酵母菌、腸内菌、乳酸菌、酢酸菌、好気性芽胞菌、嫌気性菌、カビ、藻類、プランクトンなどがあげられる。酵母菌または腸内菌は資化物質を発酵させ、気体として二酸化炭素を生成することができる。一部の好気性芽胞菌および嫌気性菌は、資化物質を発酵させ、二酸化炭素および/または水素を生成することができる。麹カビは、糖化によりデンプン(資化物質または重りとなり得る)を分解して二酸化炭素を生成することができる。藻類は、光合成により酸素を生成することができる。藻類の一種であるラン藻は、水素を生成することもある。プランクトンは、呼吸により二酸化炭素を生成することができる。
【0029】
乳酸菌は、資化物質(糖類)を乳酸発酵させ乳酸を産生することができる。また、酢酸菌は、資化物質(糖類)の酢酸発酵により酢酸を産生することができる。いずれも、酸の作用により気体を生成する物質とともに反応系に含めることにより、気体を生成することができる。酸の作用により気体を生成する物質としては炭酸水素ナトリウムなどをあげることができる。
【0030】
酵母菌としては、以下に示すサッカロミケス属に属する微生物をあげることができる。
Saccharomyces bayanus、Saccharomyces boulardii、Saccharomyces bulderi、Saccharomyces cariocanus、Saccharomyces cariocus、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces chevalieri、Saccharomyces dairenensis、Saccharomyces ellipsoideus
Saccharomyces florentinus、Saccharomyces kluyveri、Saccharomyces martiniae、Saccharomyces monacensis、Saccharomyces norbensis、Saccharomyces paradoxus、Saccharomyces pastorianus、Saccharomyces spencerorum、Saccharomyces turicensis、Saccharomyces unisporus、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces zonatus
【0031】
このうち、酵母菌としては、特に、Saccharomyces cerevisiaeが好ましい。Saccharomyces cerevisiaeはパン発酵やアルコール発酵で用いられている酵母菌であり。比較的入手が容易であり、二酸化炭素の生成能力が高い。
【0032】
乳酸菌としては、ビフィズス菌(Bifidobacterium)、フェカリス菌 (Enterococcus faecalis)、およびアシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)などをあげることができる。これらのいずれかの2つ、またはこれら3つを組み合わせて用いてもよい。
【0033】
資化物質は、微生物等の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、糖類、澱粉、アルコール、有機酸などがあげられる。微生物が酵母菌である場合には、資化物質は糖類である。糖類としてはグルコース、スクロースなどがあげられる。また、資化物質は澱粉であってもよい。澱粉は、澱粉を分解して微生物が作用できる糖類を生成する酵素と併用することが好ましい。乳酸菌の資化物質は、糖類または澱粉であり、ラクトース、ガラクトース、およびグルコースが好ましい。麹カビに対する資化物質は、澱粉、セルロースなどである。カビ(の種菌)は、固体の有機物に担持されていることが望ましい。
【0034】
微生物の生体活動により気体を生成する反応系は、資化物質を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。ここで資化物質が含まれていないとは、予め高分子ハイドロゲル粒子に内包されていないことを意味し、本発明の方法の実施時に被処理水から取り込んだ資化物質が含まれている場合を含む意味である。例えば、藻類およびプランクトンについては、通常、反応系に資化物質は含まれていなくてもよい。また、一部の資化物質を予め高分子ハイドロゲル粒子に内包させ、残りの必要な資化物質を、被処理水から取り込んでもよい。
【0035】
微生物の生体活動により気体を生成する反応系は、これを包含した高分子ハイドロゲル粒子が水より比重が大きい粒子となり、被処理水への添加後、時間の経過とともに比重が水より小さくなるように設計されることが好ましい。
【0036】
微生物の生体活動により気体を生成する反応系としては、乳酸菌を含む反応系が好ましく、乳酸菌、糖類または澱粉、および炭酸水素ナトリウムを含む反応系がより好ましい。
乳酸菌は常温(15℃~30℃)において、グルコースなどの糖類より乳酸を生成することができる。この乳酸から解離した水素イオンによって高分子ハイドロゲル粒子内のpHが低下することで、炭酸水素ナトリウムが溶解し、二酸化炭素が発生する。
乳酸菌および糖類または澱粉としては、市販の乳酸菌錠剤を用いてもよい。
【0037】
微生物の生体活動により気体を生成する反応系が内包された高分子ハイドロゲル粒子は、水への添加前は、冷蔵、冷凍または凍結乾燥で保存されていることが好ましい。冷蔵、冷凍または凍結乾燥によって保存されることで、微生物の生体活動(代謝など)を抑制し、反応系が気体を生成する機能の喪失を抑制しつつ、長期の保管と、持ち運びやすさを備えることができる。
【0038】
高分子ハイドロゲル粒子は、水を含有する。水は微生物等の生体活動に用いられ、かつ微生物等が生成する気体を溶解して高分子ハイドロゲル粒子の表面に移行させる役割も果たす。さらに、水は資化物質を保持しつつ、外界の物質(資化物質も含む)を高分子ハイドロゲル粒子中への輸送を媒介する機能を果たすこともできる。
【0039】
高分子ハイドロゲル粒子には、重り物質をさらに含有することもできる。重り物質は、高分子ハイドロゲル粒子を水中に添加したときに高分子ハイドロゲル粒子が沈むことを可能とするための物質であり、重り物質を除く高分子ハイドロゲル粒子の比重より大きい比重を有する。重り物質の比重は、重り物質を除く材料の比重より大きければ特に制限はなく、高分子ハイドロゲル粒子の種類、高分子ハイドロゲル粒子に添加できる重り物質の量等を考慮して適宜選択できる。重り物質は、具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、グルコース、デンプン、グリセロール、麦芽糖等であればよい。重り物質は資化物質を兼ねていてもよい。重り物質の量を高分子ハイドロゲル粒子に添加できる量の範囲で調整し、高分子ハイドロゲル粒子の浮上までに要する時間を調整することができる。例えば、重り物質の量を増やすことにより高分子ハイドロゲル粒子の比重を大きくし、浮上までに要する時間を長くすることも可能である。
【0040】
高分子ハイドロゲル粒子に包含される微生物、資化物質および水等の量は、各材料の種類や本発明の水処理方法が実施される条件などを考慮して適宜決定できる。例えば、1質量部の高分子ハイドロゲル粒子に、0.001~10質量部の微生物等、0.01~1000質量部の資化物質、1~10000質量部の水を含有することができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0041】
本発明の水処理方法においては、微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子をフロックと吸着させる。被処理水中のフロックと吸着させるために、微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子は、水の比重よりも大きい比重を有するように製造されていればよい。例えば、上記高分子ハイドロゲル粒子の比重は、水の比重の1.05倍~1.8倍の範囲であり、下限は好ましくは1.06倍、より好ましくは1.08倍、さらに好ましくは1.1倍である。上限は好ましくは1.5倍、より好ましくは1.3倍、より好ましくは1.2倍である。
微生物の生体活動により気体を生成する反応系を内包する高分子ハイドロゲル粒子はフロックに吸着後、気体を生成する反応系での反応を進ませることにより比重が減少し、沈殿したものも、浮上し、水中で浮遊するか、水面に到達する。そのとき、フロックをともに浮上させることができるため、フロックを浮遊状態で容易に回収することができる。浮上前の沈降の有無、浮上速度、浮上位置は高分子ハイドロゲル粒子が内包する微生物、資化物質、炭酸水素ナトリウムなどのその他の成分の量で制御することができる。
【0042】
高分子ハイドロゲル粒子と吸着したフロックの被処理水からの回収は、高分子ハイドロゲル粒子と吸着したフロックと処理後の水を分離できる限り、公知のいずれの方法を用いて行なってもよい。
【実施例
【0043】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
以下の実施例では乳酸菌錠剤として、米田薬品工業株式会社製アスリセート整腸薬「おなかのための3つの乳酸菌」を使用した。この乳酸菌錠剤は、製品説明書によれば、9錠(約15500mg)あたりで以下の乳酸菌を以下の量で含む。
ビフィズス菌 Bifidobacterium 24mg
フェカリス菌 Enterococcus faecalis 24mg
アシドフィルス菌 Lactobacillus acidophilus 24mg
さらに、他の成分として、同剤は還元麦芽糖水アメ、アメ粉、トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウムを含む。乳酸菌はこれらのうち、還元麦芽糖水アメ、アメ粉を資化物質として利用することができると考えられる。
【0045】
また、以下の実施例で使用した凝集剤PGα21caは、日本ポリグル株式会社製の凝集剤PGα21caであり、ポリグルタミン酸および硫酸アルミニウムを含む。製品説明書によれば、その組成は以下のとおりである。
ポリグルタミン酸:10質量%未満(0質量%ではない)
CaSO4:70質量%以上80質量%以下
CaCO3:10質量%以上20質量%以下
Al3(SO43:10質量%未満(0質量%ではない)
その他の成分:10質量%未満
【0046】
高分子ハイドロゲル粒子の作製および評価
乳酸菌濃度による浮上に要する時間の比較
アルギン酸ナトリウム粉末を1.00g秤量し、脱イオン水100mLに溶解し、1%アルギン酸ナトリウム溶液を調製した。この溶液10mLをビーカーに分取し、氷浴中で冷却した。次に、乳酸菌および糖類として、乳酸菌錠剤を乳鉢で粉末にしたものを電子天秤で秤量し、氷浴中でアルギン酸ナトリウム溶液に溶解した。さらに、この溶液に炭酸水素ナトリウムを電子天秤で200mg秤量し、溶解した。この溶液が均一になるように混合した後、ノズル径1mmのマイクロチップを装着したマイクロピペットに1mL分取し、0.5M、25℃の塩化カルシウム二水和物溶液に滴下することで、アルギン酸ゲル粒子を作製した。粒子は1回の実験で100個程度作製し、5分間ゲル化した。この粒子を蒸留水で3回洗浄し、25℃の蒸留水200mLが入ったビーカーに移した。ビーカーに入れた直後からストップウォッチで時間を測定し、1分毎に浮上した粒子数を計測した。この実験では乳酸菌量が浮上時間に与える影響を調べるために錠剤量を変化させた。アルギン酸ナトリウム溶液10mLに溶解する錠剤量が0mg、2mg、10mg、20mg、100mg、200mg、600mg、2000mgの条件で実験した。結果を図1に示す。
【0047】
図1からわかるように、乳酸菌錠剤を含まないゲル粒子は100分経過しても浮上しなかった。アルギン酸ナトリウム溶液10mLに溶解する錠剤量が2mgの条件では100分後に浮上率が2.4%、10mgの条件では88.4%、20mgの条件では48分後に浮上率が100%であった。この結果から、乳酸菌の濃度が、粒子の浮上時間に影響を与えたことが分かる。乳酸菌の濃度が増加することで生成する乳酸量が増加し、乳酸から解離した水素イオンによって炭酸水素ナトリウムの溶解量が増え、発生する二酸化炭素量が増加したものと考えられる。溶解する錠剤量をさらに増加させると、100mgの条件では9分後に浮上率が100%、200mgの条件では9分後に浮上率が100%、600mgの条件では17分後に浮上率が100%、2000mgの条件では38後に浮上率が100%であった。
【0048】
炭酸水素ナトリウム濃度による浮上に要する時間の比較
アルギン酸ナトリウム溶液10mLに溶解する乳酸菌錠剤量を600mg、水温を25℃として上記と同様にアルギン酸ゲル粒子を作製し、ビーカーに入れた直後からストップウォッチで時間を測定し、1分毎に浮上した粒子数を計測した。結果を図2に示す。
【0049】
図2からわかるように、炭酸水素ナトリウム量が0mgの条件では120分経過したときの浮上率が17.5%、20mgの条件では47.2%であった。炭酸水素ナトリウム量をさらに増加させると、100mgの条件では36分後に浮上率が100%、200mgの条件では17分後に浮上率が100%であった。しかし、2000mgとした条件ではゲル粒子作製直後から気泡が発生し、水底に沈降させることができなかった。これらの結果から、炭酸水素ナトリウム濃度を高くすることで、水底の粒子が浮上するまでに要する時間を制御できることが分かった。
【0050】
水温による浮上に要する時間の比較
アルギン酸ナトリウム溶液10mLに溶解する乳酸菌錠剤量を600mg、炭酸水素ナトリウム量を200mgとして上記と同様にアルギン酸ゲル粒子を作製し、ビーカーに入れた直後からストップウォッチで時間を測定し、1分毎に浮上した粒子数を計測した。15℃、19℃、25℃、30℃、34℃の条件を比較した。結果を図3に示す。
【0051】
図3からわかるように、水温が15℃の条件では120分経過したときの浮上率が13.5%、19℃の条件では21.1%であった。さらに高温の25℃の条件では17分後に浮上率が100%、30℃の条件では10分後に浮上率が100%、34℃の条件では6分後に浮上率が100%であった。これらの結果から、水底の粒子が浮上するまでに要する時間を水温によって制御可能であることが示された。
【0052】
フミン酸の凝集沈殿
フミン酸を30mg秤量し、蒸留水100mLに溶解した。濁度計と紫外可視分光光度計を用いて溶液の濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。濁度は102.0NTUであった。この溶液を撹拌しながら凝集剤PGα21caを添加した。撹拌した後、溶液を静置し、溶液の上澄みを分取し濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。この操作を繰り返すことで凝集剤の添加量に対する濁度と吸光度の変化を記録した。結果を図4および図5に示す。
【0053】
図4および図5からわかるように、PGα21caの添加量が80mgを超えると凝集剤がフミン酸を捕集し、フロックを形成し始めた。それに伴い濁度が3.8NTUまで減少した。同様にスペクトルからも吸光度の減少が確認された。凝集剤をさらに添加すると濁度が低下し、200mg添加時に0.7NTUとなり、分散していたフロックが凝集し粗大フロックが形成した。その後、凝集剤をさらに添加しても濁度とスペクトルの変化がみられなかった。
【0054】
カオリナイトの凝集沈殿
カオリナイトを9.12mg秤量し、蒸留水100mLに溶解した。濁度計を用いて溶液の濁度を測定した。濁度は86.3NTUであった。この溶液を撹拌しながら凝集剤PGα21caを添加した。撹拌した後、溶液を静置し、上澄みを分取して濁度を測定した。結果を図6(a)に示す。
【0055】
図6(a)からわかるように、凝集剤PGα21caの添加とともに凝集剤がカオリナイトを捕集し、フロックが形成された。PGα21ca添加量が20~60mgのとき、濁度は0NTUに近い値を示した。PGα21ca添加量が100mgのとき、濁度が7.1NTUとなったため、添加量0~500mgの条件で再度実験した。結果を図6(b)に示す。凝集剤を100mg以上添加しても濁度の大きい変化は見られなかった。
【0056】
凝集沈殿法による池水処理
呉羽山公園都市緑化植物園(富山県富山市北代5164)内にある池の水を採取した。pHは10.27、ECは164.0μS/cm、水温は29.2℃であった。
ビーカーにろ過処理を施していない池水を100mL分取し、濁度計を用いて濁度を測定した。濁度は37.0NTUであった。この溶液をスターラーで撹拌しながら凝集剤PGα21caを20mg添加した。このときフロックが形成し、撹拌を停止し静置した。上澄みを分取し、濁度を測定すると1.2NTUであった。また波長200~900nmにおける吸光度を測定した。その後、濁度と吸光度の測定に用いた上澄み液を再びビーカーに戻し、再度撹拌しながら凝集剤PGα21caをさらに20mg添加(総添加量は40mg)し、十分撹拌した後、撹拌を停止し静置した。この溶液の上澄みを分取し、濁度および吸光度を測定した。その後、濁度および吸光度の測定に用いた上澄み液を再びビーカーに戻し、再度撹拌しながら凝集剤PGα21caをさらに20mg添加(総添加量は60mg)し、以降総添加量が100mgになるまで同様の実験を行った。凝集を示した写真、濁度測定の結果、および吸光度測定の結果をそれぞれ図7(a)~(c)に示す。
【0057】
凝集剤および高分子ハイドロゲル粒子を用いた水の処理
実施例1:フミン酸を含む水の処理
フミン酸を30mg秤量し、蒸留水100mLに溶解した。
別に、アルギン酸ナトリウム粉末を1.00g秤量し、脱イオン水100mLに溶解し、1%アルギン酸ナトリウム溶液を調製した。この溶液10mLをビーカーに分取し、氷浴中で冷却した。次に、乳酸菌錠剤を乳鉢で粉末にしたものを電子天秤で600mg秤量し、氷浴中でアルギン酸ナトリウム溶液に溶解した。また、この溶液に、炭酸水素ナトリウムを電子天秤で300mg秤量し、溶解した。この溶液が均一になるように混合した後、マイクロピペットに1000mL分取し、0.5M、25℃の塩化カルシウム二水和物溶液に滴下し、アルギン酸ゲル粒子を作製した。粒子は150個程度作製し、5分間ゲル化した。この粒子を蒸留水で3回洗浄し、アルギン酸ゲル粒子を得た。
【0058】
濁度計と分光光度計を用いてフミン酸溶液の濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。調製したフミン酸溶液をスターラーで撹拌しながら凝集剤PGα21caを300mg添加し、フミン酸とのフロックを形成させた。約30秒後にアルギン酸ゲル粒子を150個程度加え、1分程度穏やかに撹拌し、フロックとアルギン酸ゲル粒子とを接触させて吸着させた。その後、撹拌を停止し、フロックが浮上するまで静置した。フロック浮上後、マイクロピペットを用いて水底の溶液を10mL分取し、濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。図8(d)に処理前のフミン酸溶液の写真、図8(e)にアルギン酸ゲル粒子添加直後の写真、図8(f)に静置後の写真を示す。比較のため、アルギン酸ゲル粒子を加えなかった例として図8(a)に処理前のフミン酸溶液の写真、図8(b)に凝集剤PGα21ca添加直後の写真、図8(c)に凝集剤PGα21ca添加後数分経過後の写真を示す。吸光度測定の結果を図9に示す。
【0059】
図8から分かるように、アルギン酸ゲル粒子を添加しない場合は、フミン酸のフロックが水底に沈殿し、浮上することはなかった。一方、アルギン酸ゲル粒子を添加すると、水底で粒子と吸着したフロックが水面に浮上した。水底のフロックは1時間以内にほぼ完全に浮上した。水底のフロックを回収する時間は、アルギン酸ゲル粒子内の乳酸菌錠剤濃度、炭酸水素ナトリウム濃度、水温により制御可能であると考えられる。また、図8(f)の写真から、フロックが浮上したことで水中からフミン酸の大部分が除去されていることが目視から確認された。
【0060】
処理前(図8(d))のフミン酸溶液の濁度は99.4NTUであり、フロック浮上後(図8(f))の濁度は11.2NTUであった。また、図9からわかるように、吸光度の減少も確認された。
以上により、浮上機能を有するアルギン酸ゲル粒子と凝集剤を併用することで、溶存しているフミン酸を凝集させ、それを水面で回収することで、水浄化(水質改善)が可能であることが示された。
【0061】
実施例2:カオリナイトを含む水の処理
カオリナイトを9.12mg秤量し、蒸留水100mLに溶解した。
別に、実施例1と同様にアルギン酸ゲル粒子を作製した。
濁度計と分光光度計を用いてカオリナイト溶液の濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。調製したカオリナイト溶液をスターラーで撹拌しながら凝集剤PGα21caを200mg添加し、カオリナイトとのフロックを形成させた。約30秒後にアルギン酸ゲル粒子を150個程度加え、1分程度穏やかに撹拌し、フロックが浮上するまで静置した。フロックが浮上した後、マイクロピペットを用いて水底の溶液を10mL分取し、濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。図10(c)に処理前のカオリナイト溶液の写真、図10(d)にアルギン酸ゲル粒子添加直後の写真、図10(e)に静置後の写真を示す。比較のため、アルギン酸ゲル粒子を加えなかった例として図10(a)に処理前のカオリナイト溶液の写真、図10(b)に凝集剤PGα21ca添加後の写真を示す。吸光度測定の結果を図11に示す。
【0062】
図10からわかるように、アルギン酸ゲル粒子を添加しない例では、カオリナイトのフロックが水底に沈殿し、浮上することはなかった。一方、アルギン酸ゲル粒子を添加すると、水底に沈殿したフロックが水面に浮上した。水底のフロックは1時間以内に浮上した。
【0063】
処理前(図10(c))のカオリナイト溶液の濁度は81.5NTUであり、フロック浮上後(図10(e))の濁度は-0.5NTUであった。また、図11からわかるように、スペクトルからも吸光度の減少が確認された。この結果からも水底環境が改善されていることが確認された。
以上により、アルギン酸ゲル粒子と凝集剤とを併用することで、フミン酸だけでなく、溶存している粘土鉱物であるカオリナイトも水面に浮上させて、回収できることが示された。
【0064】
実施例3:池水の処理
池水としては、上記と同様に呉羽山公園都市緑化植物園内にある池の水を採取して使用した。
別に実施例1と同様にアルギン酸ゲル粒子を作製した。
ビーカーにろ過処理を施していない池水を200mL分取し、濁度計と分光光度計を用いて池水の濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。溶液をスターラーで撹拌しながら、凝集剤PGα21caを40mg添加し、フロックを形成させた。約30秒後にアルギン酸ゲル粒子を約150個程度加え、1分程度穏やかに撹拌し、フロックが浮上するまで静置した。マイクロピペットを用いて水底の溶液を10mL分取し、濁度と波長200~900nmにおける吸光度を測定した。図12(a)に処理前の写真、図12(b)にアルギン酸ゲル粒子添加直後の写真、図12(c)に静置後の写真を示す。吸光度測定の結果を図13に示す。
【0065】
図12からわかるように、処理前の池水に凝集剤とアルギン酸粒子を添加し、溶液を撹拌、静置すると、形成したフロックとゲル粒子が水底に沈殿した(図12(b))。その後、アルギン酸ゲル粒子とアルギン酸ゲル粒子に吸着したフロックが水面に浮上した(図12(c))。水底のフロックは30分以内に浮上した。図12(c)の写真から、本法により水質が改善されていることが目視からも確認できた。
【0066】
処理前(図12(a))の池水の濁度は41.5NTUであり、フロック浮上後(図12(c))の濁度は2.8NTUとなった。また、図13からわかるように、吸光スペクトルからも吸光度の減少が確認された。
これらの結果から、本発明の方法では、環境水に含まれている藻類もフロックとして水面に浮上させ、回収することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の水処理方法により、境水に含まれる色度や濁度の主要な成分のひとつである、溶存腐植物質(フミン酸)や粘土鉱物(カオリナイト)のフロックを浮上させ、除去することができる。また、藻類の除去も可能である。本発明の水処理方法により、環境水、産業排水および生活排水などの水質改善を容易かつ低コストで行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13