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特許7592277マイクロストリップ伝送線アレイRFコイル、RFシールド構造、及び、RFコイル・放射線画像化装置一体型デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-22
(45)【発行日】2024-12-02
(54)【発明の名称】マイクロストリップ伝送線アレイRFコイル、RFシールド構造、及び、RFコイル・放射線画像化装置一体型デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20241125BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20241125BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20241125BHJP
【FI】
A61B5/055 351
A61B5/055 362
A61B5/055 390
G01N24/00 C
G01N24/00 540B
G01N24/00 570C
G01T1/161 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019036114
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2019171028
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-10-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】62/649,129
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エムディ シャハダト ホサイン アクラム
(72)【発明者】
【氏名】小畠 隆行
(72)【発明者】
【氏名】山谷 泰賀
【合議体】
【審判長】南 宏輔
【審判官】渡▲辺▼ 純也
【審判官】伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0219347(US,A1)
【文献】特開2004-616(JP,A)
【文献】特開2006-280929(JP,A)
【文献】特開2018-15091(JP,A)
【文献】特開2010-99473(JP,A)
【文献】特開2008-190901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0299675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/055
G01N22/00-22/04, 24/00-24/14
G01R33/28-33/64
G01T1/161-1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴システムのボアで用いられる放射線画像化装置のためのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであり、
磁気共鳴システムのRFアンテナとして機能する複数のマイクロストリップ伝送線であって、放射線画像化検出器のボア中心面側に配置されたものと、
それぞれ前記マイクロストリップ伝送線の一つに沿って配置され、ボア中心からのγ線を検出するための複数の放射線画像化検出器と、
前記放射線画像化検出器を包含するRFシールドであって、前記放射線画像化検出器のシールド及び前記マイクロストリップ伝送線の接地導体として機能すると共に、少なくとも一つの放射線画像化検出器を独立して覆う複数のRFシールドケージを用いたモジュール構造であるものと、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線の間に挿入された誘電体と、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線とを接続するシャントキャパシタと、を有することを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項2】
磁気共鳴システムのボアで用いられる放射線画像化装置のためのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであり、
磁気共鳴システムのRFアンテナとして機能する複数のマイクロストリップ伝送線であって、放射線画像化検出器のボア中心面側に配置されたものと、
それぞれ前記マイクロストリップ伝送線の一つに沿って配置され、ボア中心からのγ線を検出するための複数の放射線画像化検出器と、
前記放射線画像化検出器を包含するRFシールドであって、前記放射線画像化検出器のシールド及び前記マイクロストリップ伝送線の接地導体として機能するものと、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線の間に挿入された誘電体と、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線とを接続するシャントキャパシタと、
複数の前記RFシールド又は前記マイクロストリップ伝送線の間を絶縁する切離回路と、を有することを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされて用いられるバードケージ構造を有するバードケージRFコイルであり、
該バードケージRFコイルが独立したコイルで、
前記バードケージRFコイルが、少なくともRF送信器及びRF受信器のいずれか一方として用いられ、
前記マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが、少なくともRF受信器及びRF送信器のいずれか一方として用いられていることを特徴とするバードケージRFコイル。
【請求項4】
磁気共鳴システムのボアで用いられる放射線画像化装置のためのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであり、
磁気共鳴システムのRFアンテナとして機能する複数のマイクロストリップ伝送線で構成される複数のRFコイルであって、放射線画像化検出器のボア中心面側に配置されたものと、
それぞれ前記マイクロストリップ伝送線の一つに沿って配置され、ボア中心からのγ線を検出するための複数の放射線画像化検出器と、
前記放射線画像化検出器を包含するRFシールドであって、前記放射線画像化検出器のシールド及び前記マイクロストリップ伝送線の接地導体として機能するものと、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線の間に挿入された誘電体と、
前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線とを接続するシャントキャパシタとを備え
前記複数のRFコイルが、それぞれ切離し及び磁気共鳴分光の少なくともいずれか一方のために並べられた、それぞれ異なる次数の高調波コイルであることを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項5】
前記マイクロストリップ伝送線はRF受信コイルとして機能するものであり、
更に、独立したRFコイル及び放射線装置外の磁気共鳴システム組込用ビルトインRFコイルの少なくともいずれか一方が、RF送信コイルとして機能することを特徴とする請求項1に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項6】
RFシールドされた放射線検出器モジュールと組合わせるマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであって、
前記放射線検出器モジュールのRFシールドケージが前記マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルの接地体とされ、
RFシールドされた前記放射線検出器モジュールが軸方向及び軸横断方向の両方に沿う視野の複数の放射線画像化検出器を持ち、組合わされたコイルが、コイルの長手及び幅方向の少なくともいずれか一方にまっすぐ伸びるか曲がっていることを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項7】
マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが組合わされた放射線装置中のRFシールドされた放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路のデータ及び電源ケーブルがRFシールドされ、
前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドケージとケーブルシールドが、直結され、又は、切離回路によって接続されていることを特徴とする請求項6に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項8】
マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線装置中の前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドケージが、磁気共鳴システムの傾斜フィールドから誘導される低周波数傾斜渦電流を減少させるか、前記放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路を冷却するか、データ及び電源ケーブルを前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドゲージ内側に配設された前記放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路へ接続するかの少なくともいずれか一つを行うための、スリット及び穴の少なくともいずれか一方を有することを特徴とする請求項7に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の放射線画像化検出器が組合わされたマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイとして単一コイルを有することを特徴とする請求項8に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル。
【請求項10】
マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線画像化検出器のRFシールドケージのRFシールド構造であって、
連続的、又は、セグメントされた金属材料、又は、メッシュ状の導電材料、又は、非金属導電材料のいずれかであるシールド設計のRFシールドを複数層有し、該複数層のRFシールドが互いに異なるシールド設計を有することを特徴とするRFシールド構造。
【請求項11】
マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線画像化検出器のRFシールドケージのRFシールド構造であって、
前記放射線検出器のRFシールドケージのRF送信コイルに面する部分が複数層のRFシールドを有し、
前記RFシールドケージの残りの部分が単一層のRFシールドを有することを特徴とするRFシールド構造。
【請求項12】
前記RFシールドの複数層の異なる層が、同じシールド設計を有することを特徴とする請求項11に記載のRFシールド構造。
【請求項13】
任意の層又は全部の層が、セグメント間に狭いギャップを有するセグメント型シールド設計を有し、
前記セグメントが、シールドの目的でRFの連続性を維持するためにRF電流を短絡し、低周波傾斜電流に対しては回路を開く結合回路を有することを特徴とする請求項10に記載のRFシールド構造。
【請求項14】
請求項1又は2及び4乃至9のいずれか1項に記載のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイル、請求項3に記載のバードケージRFコイル、及び、請求項10乃至13のいずれか1項に記載のRFシールド構造の少なくともいずれか一を備えたことを特徴とするRFコイル・放射線画像化装置一体型デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイル、RFシールド構造、及び、RFコイル・放射線画像化装置一体型デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出トモグラフィ(PET)画像化システムは、陽電子消滅によって発生された2つの反対向きのガンマ線を検出することによって動作する。これにより、関心領域に分布する放射性トレーサ濃度が測定可能となり、代謝的機能を評価することができる。他方、磁気共鳴画像化(MRI)システムは、関心原子の核磁気共鳴(NMR)信号を検出することによって、優れたコントラストで柔らかい組織の解剖学的、機能的及び分光学的な画像を与えることができる。PET/MRI複合システムは、一つのモジュールのみでは不可能な診断調査の詳細な情報を与えることができ、従って、患者処置プロセス及び治療モニタリングの品質を向上することができる。既存のMRIシステム用のPETインサートは、MRIシステムの様々な四肢用高周波(RF)コイルと同様に、スタンドアローンMRIシステムの値段に比べて商業的に利用可能な全身用PET/MRIシステムに対する手頃な選択肢となりうる。しかしながら、画像化性能に影響するMRIシステム用のPETインサートの考慮は技術的な挑戦である。PET前段(F/E)検出器電子回路とMRIシステム要素間の相互の電磁(EM)干渉を避けるため、PET F/E電子回路は、銅(Cu)又は炭素繊維のような薄い導電材料を用いて高周波(RF)シールドされている。既に設けられているMRIシステムの内側にこれらの特別なシールド材料を設けると、MR信号対ノイズ比(SNR)を他の性能と共に低下させる。これらのシールド材料による2つの主な悪影響は、
・RF電力の増大の必要性であり、これに対応してSN比が減少し、比吸収率(specific absorption ratio)(SAR)が増加する可能性がある、及び、
・MRI傾斜磁場が誘導する渦電流の発生であり、これは本来の傾斜磁場を歪め、画像にアーチファクトを引き起こしてしまう。
【0003】
渦電流が少なく、このRFシールドされたPET検出器リングと両立可能な効率的なRFコイルが、上記の課題に対する基本的な要請である。更に、RFシールドされたPETインサートと両立可能なRFコイルのアレイは、パラレルイメージングが可能となり、SNR値を改善し、MR画像化を高速化できる。RFコイル設計中のマイクロストリップ伝送線(MTL)の概念の適用は、この点に関して有望な設計概念であり、ここで、RFコイルとしてのマイクロストリップ導体は、通常RF伝送線を構成する同じ長さの電気接地導体と平行に位置され、接地導体は通常マイクロストリップ導体よりも広い単一層の導体面である。MRI用のPETインサートのためのMTL RFコイルのアレイを考えると、通常用いられるMTLコイルの単一層接地面の代わりに接地導体としてPETインサートのRFシールドを用いると、SNRを改良し、MR画像化の渦電流の影響を減少するRFシールド材料の総量を減らすであろう。
【0004】
いくつかの研究グループが、脳PET/MR画像化を主眼に、MRIシステム用のPETインサートの様々な設計面について研究している(非特許文献1-5)。これらの設計の全てにおいて、RFコイルは独立モジュールとされ、PETリングと分離され又は一体化されるいずれの場合においても多くはシールドされたPETリングの内側に用いられている。一つの研究(非特許文献3)ではMRIビルトインボディRFコイルはPETインサートの外側にある。これらの研究は全て既存の3T(テスラ)MRIシステムに向けられており、単一チャネルバードケージRFコイルを少なくとも送信器として用いている。MTLコイルのアレイのようなマルチチャネルRFコイルは、超高磁場(UHF)MRIシステムに特に好適であるが、この場合、UHFのRF波長は、関心のある画像化寸法と同程度なので画像化領域(ROI)内のコイルの場のRF干渉が優勢となる。その結果、単一チャネルRFコイルでは、場の均一性が非常に下がり、UHF MRIの画像中に黒い領域が現れる可能性がある(非特許文献6)。RFコイルアレイ中の各コイルの位相及び振幅を制御することによって、この影響は、受け入れ可能な画像化性能にまで解決することができる。
【0005】
又、既存のMRIシステム用のPETインサートを開発するためのPET前段電子回路のRFシールドについて次の2つの従来法がある。
【0006】
(i)モジュラーシールド-複数のRFシールドケージを用いるものであり、各RFシールドケージは複数の放射線検出器及びその前段回路を含むことができる(非特許文献1-3)。
【0007】
(ii)連続シールド-リング中の全てのPET検出器をシールドするための大きな連続したRFシールドケージを用いる(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-152551号公報
【文献】特開2006-280929号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】H.P. Schlemmer, B.J. Pichler, M. Schmand M, et al. Simultaneous MR/PET imaging of the human brain: feasibility study, Radiology 248 (2008) 1028-1035. doi: 10.1148/radiol.2483071927
【文献】F. Nishikido, T. Obata, K. Shimizu, et al., Feasibility of a brain-dedicated PET-MRI system using four-layer DOI detectors integrated with an RF head coil, Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. A 756 (2014) 6-13. http://dx.doi.org/10.1016/j.nima.2014.04.034
【文献】P. Olcott, E. Kim, K. Hong, et al., Prototype positron emission tomography insert with electro-optical signal transmission for simultaneous operation with MRI, Phys. Med. Biol. 60 (2015) 3459-478. doi: 10.1088/0031-9155/60/9/3459
【文献】K. Hong, Y. Choi, J.H. Jung, et al., A prototype MR insertable brain PET using tileable GAPD arrays, Med. Phys. 40 (2013) 1-11. doi: 10.1118/1.4793754
【文献】A.J. Gonzalez, S. Majewski, F. Sanchez, et al., The MINDView brain PET detector, feasibility study based on SiPM arrays, Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. A, 818 (2016) 82-90. http://dx.doi.org/10.1016/j.nima.2016.02.046
【文献】C.M. Collins and Z. Wang, Calculation of Radiofrequency Electromagnetic Fields and Their Effects in MRI of Human Subjects, Mag. Reson. Med., 65 (2011) 1470-1482. DOI 10.1002/mrm.22845
【文献】X. Zhang, K. Ugurbil, and W. Chen, Microstrip RF Surface Coil Design for Extremely High-Field MRI and Spectroscopy, Mag. Reson. Med., 46 (2001) 443-450. DOI: 10.1002/mrm.1212
【文献】R.F. Lee, C.J. Hardy, D.K. Sodickson, and P.A. Bottomley, Lumped-Element Planar Strip Array (LPSA) for Parallel MRI, Mag. Reson. Med., 51 (2004) 172-183. DOI 10.1002/mrm.10667
【文献】J.T. Vaughan, C.J. Snyder, L.J. DelaBarre, et al., Whole-Body Imaging at 7T: Preliminary Results, Mag. Reson. Med., 61 (2009) 244-248. DOI 10.1002/mrm.21751
【文献】G. Adriany, E.J. Auerbach, C.J. Snyder, et al., A 32-Channel Lattice Transmission Line Array for Parallel Transmit and Receive MRI at 7 Tesla, Mag. Reson. Med., 63 (2010) 1478-1485. DOI 10.1002/mrm.22413
【文献】An eight-channel T/R head coil for parallel transmit MRI at 3T using ultra-low output impedance amplifiers, K.L. Moody, N.A. Hollingsworth, F. Zhao, Journ. Mag. Reson., 246 (2014) 62-68. http://dx.doi.org/10.1016/j.jmr.2014.06.019
【文献】A.L. Brownell, B.G. Jenkins, D.R. Elmaleh et al. Combined PET/MRS brain studies show dynamic and long-term physiological changes in a primate model of Parkinson disease. Nat Med 1998; 4:1308-1312.
【文献】V. Panebianco, Giove F, Barchetti F et al. High-field PET/MRI and MRS: potential clinical and research applications. Clin Transl Imaging 2013; 1:17-29.
【文献】Zhang X, Chen YE, Lim R et al. Synergistic role of simultaneous PET/MRI-MRS in soft tissue sarcoma metabolism imaging. Magn Reson Imag 2016; 34:276-279.
【文献】G. Shajan, G. Mirkes, K. Buckenmaier et al. Three-layered radio frequency coil arrangement for sodium MRI of the human brain at 9.4 Tesla. Mag. Reson. Med., 75 (2016) 906-916.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの全てのプロトタイプPETインサートの研究(非特許文献1-5)において、局所的なRFコイル(例えばヘッドコイル)が(PETリング内側に)独立して、又は、局所的なPETリング(例えば脳サイズPET)と共に一つのフレーム中に一体化されて用いられている。PETリングとRFコイルは独立したモジュールとして作用する。既存のMRIシステムの場合、MR装置は通常、最高の画像化性能を得るように据付の際に最適化される。その結果、PET前段電子回路をシールドするために必要なRFシールド材料は、MRIシステムにとって「望まれない」ものとなる。MRIシステムは異なる静的及び低-高周波磁場(例えば傾斜磁場、RF場)を用いて動作するものであるが、MRIボア内側の導電材料はこれらと悪い干渉を起こし、MRIイメージング品質を低下させる。シールドされたPETインサートは、(傾斜エコーイメージングのような)通常のMR画像化プロトコルにおいて、MRI信号対ノイズ比(SNR)を少なくとも40%(非特許文献3)、最大で約80%(非特許文献4)という大きなレベルで低下させる。エコープラナーイメージング(EPI)又はファストスピンエコーイメージングのような通常用いられる高速のMR画像化プロトコルにおいて、SNRは更に低下する。他方、PETインサートに含まれる、これらのシールド材料のため、伝送RFコイル中におけるRF電力要求は、MRIボア内にPETインサートが無い通常のMR画像化での要求に比べて増大し、PETインサートを伴うRFコイルのSAR値を増加させる。このシールドされたPETインサートのため、コイルのRFフィールドの均一性も同様に低下する。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明において、PETインサートのRFシールドは、PET/MRIやPET/MRS(MRスペクトロスコピー)を含むPET、MRI及びMRS複合研究のためのRF送信器及び/又は受信器として用いられるマルチチャネル伝送線RFコイルのアレイを構成するマイクロストリップ導体のアレイの電気接地導体として用いられる。完全リング又は部分リングPETインサート構造における全てのPET検出器のRFシールドとして用いられるRFシールドケージの数に基づいて、PETインサートは次の2つに分類される。
【0013】
(i)モジュラーPET:1より多い(2以上)RFシールドケージを用いる。
【0014】
(ii)完全包囲PETインサート:PETリング中の全ての検出器をシールドする1つの連続したRFシールドケージを用いる。
【0015】
上記のPETインサート分類のいずれのRFシールドケージも、MR画像化シークエンスで用いられる傾斜電流スイッチングで発生する低周波傾斜渦電流(ファラデーの法則)の大きなループを招く源となり、傾斜電流パルスの迅速なスイッチングに反対してMR画像化性能を妨げる(レンツの法則)。渦電流の場は信号強度の損失を発生させ、再構成画像中の幾何学的な歪みを生じさせ、ノイズの多い音を発生させ、インサートされたPETモジュール中に機械的な振動を発生させる。傾斜渦電流の影響を減少させるため、RFシールドは、単一層シールディングの代わりにRFシールドの複数層を用いることができる。ここで複数の層は、金属箔又はメッシュ状金属シールド又は炭素繊維のような非金属導電材料でなるRFシールド材料の同じ又は異なる型の組合せとすることができる。
【0016】
これまでのところ、7T MRIシステムのような超高磁場MRIシステム用の人間用PETインサートについての研究は無い。MR画像のSNRは、強い磁場強度のためUHFにおいて大きく改良される。しかしながら、UHFにおいて、RF波長が短くなりコイルや画像化領域の長さに近くなると定在波が生じて、単一チャネルボリュームRFコイル(例えばバードケージコイル)が高い充填率で均一なRF場を発生するのをほぼ不可能にする。UHFにおいて、構造的で有害な干渉のため、画像化領域中に暗い領域が発生する(非特許文献6)。RFシミング可能性を伴う/伴わないマルチチャネルRFコイルを設計することによって、この問題を解決するための多くの研究がなされている(非特許文献7-11)。RFシミングにおいて、RFコイルのアレイ中の各コイルの位相及び振幅は、標的である画像化領域に均一なRF場を発生するように制御される。
【0017】
MRIシステムを伴うPETインサート研究のほとんどにおいて、RFシールドされたPETリング中のRF送信コイルが考慮されている。RFシールドされたPET検出器モジュール間のギャップが狭いモジュール構造でPETリング用RFシールドが設計されていれば、PETリング外側のRF送信コイルとMRIビルトインボディRFコイルを用いることは、一つの選択肢である。ここで、モジュラー間ギャップは、軸横断及び軸方向の両方に与えることが可能であり、後者(軸方向)の場合、時々「リングギャップ」と呼ばれる。しかしながら、PET検出器モジュール間のギャップはアーチファクトが無いPET画像を生成するのに可能な限り小さいほうが良く、PETリング設計において通常2-3mmのギャップが維持される。PETインサートのRFシールドケージはRF電気接地から電気的に浮いていることが良く、これは、RFシールドされたモジュール型PETインサートのPETリング中に与えられたモジュール間ギャップを通してPETインサートの外側のRFコイルから内側のROIにRF送信場が入ることを可能とする。PETインサートのこの概念は、時々、RF透過可能なPETインサートと呼ばれる。既存のMRIシステムは、既にMRボア内に置かれた患者ベッドを持っているので、ベッド上のスペースがMRボア内のPETインサートに用いることが可能な領域である。患者ベッドを含む既存のMRIシステムのPETインサートによる大人又は子供用の研究を考えた人間用ボディPET、MRI及びMRS研究において、患者ベッド上の利用可能なオープンスペースの最適な有効利用が必要である。そして、MRIビルトインボディRFコイルを送信器とする完全リング又は部分リングの形の楕円又は半楕円(semi-oval)形のRF透過可能なPETインサートがこれらの考慮に適切である。ここで完全リングは、単一の検出器ブロックの寸法に比べて大きな検出器ギャップを持たないROIを囲むPETリングとして定義され、部分リングは、ROIを囲む1以上の領域で検出器を持たないPETリングとして定義される。ボリュームRFコイルは、幾何学的な対称性に依存する。本発明の送信器及び/又は受信器としてのマルチチャネルアレイコイルは、これらの全ての問題に対して、コンパクトで非対称な配置で対応できる。
【0018】
他方、陽子画像化と共に、ナトリウム(Na)又はリン(P)のような陽子以外の核(他核種(nuclei)とも呼ばれる)の画像化に興味を持つMRS研究(非特許文献12-14)においては、異なる核に対応する複数のNMR周波数に同調可能な複数のRFコイルを必要とする(非特許文献15)。PET画像化と同様に、MRS研究も、分子画像化を考慮しており、PET/MRS複合研究は、更に、病気の進行の詳細について新しい知見を与えることができ、同様に治療過程と治療モニタリングを改良できる。他核種のSNR応答は、陽子分光に比べてはるかに低い。UHFでは、磁場の強度が大きいため、他核種研究は有望なSNR性能を示した(非特許文献13)。本発明は、PET/MRS研究のためのマルチチューンコイルも同様に考慮する。
【0019】
更に、RFコイルの作用を有するPETシールドが特許文献1中に示されている。又、ストリップ導体アンテナを構成するRFコイルが特許文献2中に示されている。
【0020】
本発明において、RFシールドされたPETインサートの3つの形態が考慮される。図6(a)に例示される1番目の形態において、モジュラーPETインサートの各RFシールドケージは各シールドケージ内に1以上の放射線検出器を収容し、マイクロストリップ送信線RFコイルのRF電気接地とされる。そして、そのような各種複合PET-マイクロストリップコイルは、(完全リング/部分リング配置の)PETインサートと同様にRFコイルのアレイとして実現される。図において、10はRFシールドPET検出器モジュール、12はマイクロストリップ導体である。
【0021】
図6(b)に例示される2番目の形態において、モジュール型PETインサートの各RFシールドケージは複数の放射線検出器を収容し、複数のRFコイルとしての複数のマイクロストリップ伝送線導体の電気接地面とされる。そして、そのような複数のコイルの幾つかは、(完全リング/部分リング配置の)PETインサートと同様に、RFコイルのアレイとして実現される。図において、30は連続RFシールドケージ、42はPET検出器である。
【0022】
図6(c)に例示される3番目の形態において、PETリングの全ての放射線検出器が(特に完全リング配置において)、単一の連続RFシールドケージ30を用いてRFシールドされる。そして、RFシールドケージ30全体が、RFコイルのアレイとしてマイクロストリップ導体12のアレイの電気接地とされるとともに、(完全リング/部分リング配置の)PETインサートとして実現される。
【0023】
本発明において、PETインサートのRFシールドは、RF供給線に接続されたマイクロストリップ導体のアレイの電気接地導体とされ、これらは共にRF伝送線コイルとしても働く。コイルのアレイは、マルチチャネルRFコイル送信及び/又は受信コイルとして実現されるもので、他のタイプのRFコイルを伴ってもよい。他のタイプのRFコイルは、単一チャネルボリュームRFコイル又は複数チャネルのその他のRFコイル(例えばループ状RFコイル)のようなものである。これは陽子画像化を考慮したもので、他核種研究用のRFコイルを伴ってもよい。いずれの場合も、他のコイルは送信及び/又は受信コイルとして実現できる。PET/MRS研究のための他核種研究で、関心のある異なる共鳴周波数に対応するため、複数のコイルを組み合わせて、マルチチューニングする。1アレイを構成するコイル間の分離と、PET/MRS多核種研究のためのマルチチューンRFコイルの場合のコイル間の分離のために、キャパシタやインダクタを用いた異なる設計の分離回路が用いられる。
【0024】
提案するコイルの一番単純な形態において、単一のPETシールドケージと単一のマイクロストリップ導体が平行に配置され、二つの導体間の複数のシャントキャパシタが、コイルの軸方向の「電気長」(配線長を、物理的な長さでなく、信号の遅延時間を基準に表わしたもの)を画像化関心領域の長さとマッチングさせるために減少させると共に、関心のある共鳴周波数にコイルをチューニングするために用いられる。上記コイルをシャントキャパシタを伴うことなく用いることも可能であるが、コイルの軸方向長さが増加し、これは、実際の画像化関心寸法とマッチしない。組合わせコイルは、コイルの長さに沿って直線状である必要は無く、曲げることができる。シャントキャパシタは、文献中で利用可能なマイクロストリップ伝送線の理論に基づいて計算される値のトリマ型及びセラミック型のキャパシタの組み合わせである。既存の計算アプローチは、単一層接地面を考慮して提案されている。マイクロストリップ導体と接地PETシールド間の容量のような幾つかの設計パラメータは、提案されたコイルの場合と少し異なるが、これは可変トリマチューニング及びマッチングキャパシタによって取り扱うことができる。誘電材料を二つの導体間に用いることができるが、誘電体材料によるγ光子の減衰を避ける為にPET研究の際には好ましくない。接地シールド及びマイクロストリップ導体の長さは同じである必要は無いが、接地面の長さが、マイクロストリップ導体の長さと同じか、より長いことが好ましい。慣例的に、接地シールドの幅は、マイクロストリップ導体の幅よりも広い。更に、マイクロストリップ導体に面するPETインサートRFシールドケージの部分は曲がっていても良く、放射方向及び/又は軸方向のRFシールドの延長を持つことができる。マイクロストリップ導体及びRF接地シールドケージの厚さは、同じである必要は無く、マイクロストリップ導体の厚さが対応する共鳴周波数の表皮深さの3倍よりも大きいことが好ましい。マイクロストリップ導体は、銅箔のような金属導体とすべきである。接地シールドの材料は、マイクロストリップ導体と同じである必要は無い。
【0025】
本発明は、理論的にはより低い磁場強度のMRIにも適用できるが、主に、中程度(例えば3テスラ)から超高磁場(例えば7テスラ)のMRIシステム用のRFコイルと組合されるPETインサートを開発することに集中している。ここで提案したPET-マイクロストリップコイル組み合わせシステムは、7テスラ、9.4テスラなどのようなUHF PETとMRI及びMRS複合研究用のPETシステムの開発を容易とする。3T MRIシステムまでに対しては、必要ならば、(バードケージコイルのような)単一チャネルボリューム伝送コイル及び提案したマルチチャネル受信コイルを含む、他の設計が同様に提案される。3T MRIシステム用の送信器としての単一チャネル局所的バードケージコイルは、実用的なMR画像化目的に必要な受け入れ可能な高RF場の均一性と充填率を発生する。UHF MR研究に対しては、マルチチャネル縮退(degenerate)バードケージコイルと提案したPET-マイクロストリップの組合わせも可能である。
【0026】
PETリング外側のRF送信コイル(例えばMRI組み込みボディRFコイル)を有するRF透過可能PETインサートの場合、PETインサートのRFシールドケージ(個別にシールドされたモジュラーPET検出器を備える)は、低損失でのRF透過のため、MRI RF接地から電気的に浮いている状態を維持することが望ましい。RFコイルをPETインサート外側の受信器とすると、RFシールドPETインサート内側の受信用RFコイルを用いる場合に比べて受信感度が非常に低くなるので、MR画像のSNRが著しく低下する。許容可能なMRイメージング性能を得るためには、PETリングの内側に別個の受信アレイコイルを設計することが推奨される。RF受信器として適切に離調(detune)された本発明のコイルは、PETインサート外側のRFコイルからRF送信の際にPETインサートのRFシールドに必要な電気的フローティングを与える。
【0027】
既設のMRIシステムで大人又は子供用のボディ画像化のためのボディサイズPETインサートを開発するため、楕円又は半楕円のリング形式の円筒形でないPETインサートが必要である。楕円又は半楕円形は、既存のMRIシステムの患者ベッドの上で最大の利用可能なスペースを使うために必要である。脳画像化に対しても、楕円形状は人間の頭の形状によく適合する。PETについては、画像化領域に密接するPET検出器によって、感度が向上する。従来のボリューム伝送コイルは、幾何学的な対称性に依存し、そのようなPETインサートの非対称な形状に適していない。更に、ボディ用PETインサートを考えると、MRボア内側のスペースが限定され、PETインサートは可能な限り小型である必要がある。提案する組み合わせシステムは、PETモジュールとRFコイルが小型で組み合わされた単一モジュールなので、この側面も解決している。本発明のRFコイルのアレイでRFシミングをすることで、PET-アレイ組合せシステムの非対称な配置でも均一なRF場の発生が可能である。
【0028】
PET検出器リング用のRFシールドケージの場合、最初に適用された傾斜磁場と逆向きの傾斜渦電流の大きなループがRFシールドケージ中に誘導される。これが、傾斜電流の迅速なスイッチングを妨害するため、より迅速なMR画像化が非常に困難になる。渦電流の発生を減少させ、同時にRF電気連続性を維持するPETインサートに好適なシールド設計が、提案された組み合わせシステムを考慮しつつ本発明中に述べられている。
【0029】
渦電流の振幅はRFシールドの厚みの増加と共に増加するので、薄い(例えば対応するRF周波数の表皮深さの1又は2倍)RFシールドがこの点に関しては望ましい。銅メッシュのようなメッシュ状金属RFシールドも渦電流を減少するのに望ましい。更に、PETインサートのRFシールド中に大きな渦電流のループが発生するのを避ける為、RFシールドはセグメントされた小さな寸法の部分に分割することができる。RFシールド中にスクリーン印刷された縦方向及び/又は横方向(軸横断方向)の狭いスロット(例えば1又は2mm)は、大きな傾斜渦電流ループの発生を阻止する。効率的なRFシールドのため、シールド中に誘導されたRF電流はシールドを通して電気的な連続性を維持する必要がある。この目的で、セグメント化されたシールド間のRF電流を短絡し、低周波傾斜渦電流の開路として作用する、好ましくはセラミックキャパシタを用いた電気結合が、シールドのセグメント間のスロットされた領域間で用いられる。炭素繊維シールドのような非金属シールドを金属シールドの代わりとすることができる。これらは低周波では絶縁体として働き、MR画像化の関心RF周波数では導電性を持つ。PET検出器モジュールのRFシールドは、上記のタイプのいずれかの単一層シールドであることができる。同様に好ましくは二層シールドの複数層シールドであることができる。そのような場合、ある設計においては、一つの層は薄く(例えば1mm)連続する金属導体箔(例えば銅)であり、他の層はセグメントされたタイプ、又はメッシュタイプ又は非金属タイプシールドであることができ、シールドの各タイプの厚みは同じである必要は無い。他の設計において、一つの層はセグメントされた金属箔タイプであり、他の層は、メッシュタイプ又は非金属タイプであり、二つの層の厚みは必ずしも同一である必要は無い。他の設計において、一つの層は非金属タイプシールドであり、他の層はメッシュ状金属導体であることができる。更に他の設計において、両方の層が共にセグメントタイプであったり、又はメッシュ状金属導体であったり、又は非金属RFシールドであることができ、ここで、メッシュの厚み又は密度は異なる層で異なることができる。他の設計において、PET検出器モジュールのRFシールドケージの部分、好ましくはRF送信コイルに面するシールドの部分(例えばPETリング内側の送信コイルケージのシールドケージの内側周辺表面)は、上記任意のタイプの複数層タイプシールドであることができ、他の部分は、上記のいずれかのタイプの単一層シールドであることができる。複数層シールドの場合、全ての層がMRIシステムのRF接地に接続されている必要は無い。PETデータ読み出し及び電源ケーブルは、同様にRFシールドされる必要がある。PET検出器モジュールのRFシールドケージとRFケーブルシールド間の接続は、必ずしも必要でないが、分離回路を用いて接続することができる。PET検出器モジュールのRFシールドケージの複数シールド層の場合、RFシールドの全ての層がケーブルのRFシールドに接続されている必要は無い。
【0030】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、磁気共鳴システムのボアで用いられる放射線画像化装置のためのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであり、磁気共鳴システムのRFアンテナとして機能する複数のマイクロストリップ伝送線と、前記マイクロストリップ伝送線に沿って配置され、ボア中心からのγ線を検出するための複数の放射線画像化検出器と、前記放射線画像化検出器を包含するRFシールドと、前記RFシールドと前記マイクロストリップ伝送線とを接続するシャントキャパシタと、を有し、前記マイクロストリップ伝送線は前記放射線画像化検出器のボア中心面側に配置され、前記RFシールドが、前記放射線画像化検出器のシールド及び前記マイクロストリップ伝送線の接地導体として機能することを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルを提供することにより、前記課題を解決するものである。
【0031】
ここで、前記RFシールドを、少なくとも一つの放射線画像化検出器を独立して覆う複数のシールドケージを用いたモジュール構造とすることができる。
【0032】
又、前記RFシールドを、複数の放射線画像化検出器をまとめて覆う構造とすることができる。
【0033】
又、前記RFシールド又は前記マイクロストリップ伝送線が複数からなる場合に、それらの間を切離回路で絶縁することができる。
【0034】
又、前記RFコイルが前記マイクロストリップ伝送線と組合わされて用いられるバードケージ構造を有するバードケージRFコイルである場合、該バードケージRFコイルを独立したコイルとし、前記バードケージRFコイルをRF送信器及び/又はRF受信器として用い、前記マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルをRF受信器及び/又はRF送信器として用いることができる。
【0035】
又、異なる次数の高調波コイルを、切離し及び/又は磁気共鳴分光のために並べることができる。
【0036】
又、前記マイクロストリップ伝送線をRF受信コイルとして機能させ、更に、独立したRFコイル及び/又は放射線装置外の磁気共鳴システム組込用ビルトインRFコイルをRF送信コイルとして機能させることができる。
【0037】
本発明は、又、RFシールドされた放射線検出器モジュールと組合わせるマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルであって、前記放射線検出器モジュールのRFシールドケージが前記マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルの接地体とされ、RFシールドされた前記放射線検出器モジュールが軸方向及び軸横断方向の両方に沿う視野の複数の放射線画像化検出器を持ち、組合わされたコイルがコイルの長手及び/又は幅方向にまっすぐ伸びるか曲がっていることを特徴とするマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルを提供するものである。
【0038】
ここで、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが組合わされた放射線装置中のRFシールドされた放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路のデータ及び電源ケーブルをRFシールドし、前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドケージとケーブルシールドを、直結し、又は、切離回路によって接続することができる。
【0039】
又、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線装置中の前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドケージが、磁気共鳴システムの傾斜フィールドから誘導される低周波数傾斜渦電流を減少させ、及び/又は、前記放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路を冷却し、及び/又は、データ及び電源ケーブルを前記放射線検出器モジュールの前記RFシールドゲージ内側に配設された放射線検出器モジュールフロントエンド電子回路へ接続するための、スリット及び/又は穴及び/又はコネクタを有することができる。
【0040】
又、前記放射線画像化検出器が組合わされたマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイとして単一コイルを有することができる。
【0041】
本発明は、又、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線画像化検出器のRFシールドケージのRFシールド構造であって、連続的、及び/又は、セグメントされた金属材料、及び/又は、メッシュ状の導電材料、及び/又は、非金属導電材料のRFシールドの単一層を有することを特徴とするRFシールド構造を提供するものである。
【0042】
本発明は、又、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線画像化検出器のRFシールドケージのRFシールド構造であって、連続的、及び/又は、セグメントされた金属材料、及び/又は、メッシュ状の導電材料、及び/又は、非金属導電材料のRFシールドを複数層有することを特徴とするRFシールド構造を提供するものである。
【0043】
本発明は、又、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組合わされる放射線画像化検出器のRFシールドケージのRFシールド構造であって、前記放射線検出器モジュールのRFシールドケージの一部が複数層のRFシールドを有し、前記RFシールドケージの残りの部分が単一層のRFシールドを有することを特徴とするRFシールド構造を提供するものである。
【0044】
ここで、前記RFシールドの複数層の異なる層が、同じ型のRFシールド材料の同じシールド設計を有することができる。
【0045】
又、前記複数層のRFシールドが、RFシールド材料が異なる型の異なるシールド設計を有することができる。
【0046】
又、任意の層又は全部の層が、セグメント間に狭いギャップを有するセグメント型シールド設計を有し、前記セグメントが、シールドの目的でRFの連続性を維持するためにRF電流を短絡し、低周波傾斜電流に対しては回路を開く結合回路を有することができる。
【0047】
本発明は、又、前記マイクロストリップ伝送線アレイRFコイル、及び/又は、前記RFシールド構造を備えたことを特徴とするRFコイル・放射線画像化装置一体型デバイスを提供するものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、PET検出器用のRFシールドがRFコイルの接地面として作用する。従って少ない量のシールド材料で小型で多目的のシステムが得られ、その材料減が渦電流を減らし、RF電力減少をもたらすことになる。
【0049】
単一で小型のシステムとすることによって、マルチモーダルシステム全体に対する電磁気制御が増す。
【0050】
RF信号受信能力をマルチチャネル化し、磁気共鳴研究用のSNRを高める。
【0051】
加速されたMRイメージングのための並列イメージングが、患者検査の際のMRイメージング所要時間を減少させる。
【0052】
特に超高磁場のMRIに必要なRF場局在化のためのRFシミングを与える。このオプションは、PETインサートとコイルを非対称形状で開発することを許容する。
【0053】
RF透過型PETインサート用のPET-コイルモジュールの新しい概念を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】高周波(RF)シールドPET検出器モジュールがコイルの接地面として用いられたストリップ伝送線コイルの概念図
図2】RFシールドPET検出器モジュールを接地面として持つストリップ伝送線コイルの軸方向から見た側面図であって、コイル両端の2つのシャントキャパシタを備えたコイルは第1高調波コイルを表わす図
図3】RFシールドPET検出器モジュールを接地面として持つストリップ伝送線コイルの軸方向から見た側面図であって、マイクロストリップ導体の両端に2つ、中央に1つ(計3つ)のシャントキャパシタを備えたコイルである第2高調波コイルを表わす図
図4】RFシールドPET検出器モジュールを接地面として持つストリップ伝送線コイルの軸横断方向から見た正面図
図5】マイクロストリップ導体がRFシールドPET検出器モジュール軸方向長さよりも短い、RFシールドPET検出器モジュールを接地面として持つストリップ伝送線コイルの(軸横断方向から見た)側面図
図6】RFアレイコイルとPETモダリティの組み合わせを示す概念図であって、(a)(b)は独立してシールドされたPET検出器モジュールを備えたもの、(c)(d)は全ての検出器に対する連続したシールドケージを備えたものを示す図
図7】個別のPET検出器シールドケージ(a)(b)(c)と連続したシールドケージ(d)の場合の両方について、バードケージRFコイルが、RFシールドPET検出器モジュール間(a)、又は、マイクロストリップ導体間(b)、又は、ストリップコイルと並んで設けられた(c)(d)RFコイルとPETシステムの組み合わせを示す概念図
図8】(a)マイクロストリップコイルのアレイの容量的分離及び(b)異なる高調波コイルアレイを用いた分離の例を示す図であって、異なる高調波コイルがMR分光学研究のための複数RF周波数共鳴のために用いられることを示す図
図9】MRIシステム組み込みボディRFコイルがRF送信器として用いられ、PET検出器を備えたマイクロストリップコイルがRF信号送信及び/又は受信器として用いられるRF透過可能なPETインサートを示す概念図であって、受信専用コイルは通常、組み込みRFコイルからのRFフィールド送信の際に電気的にフローティングを与える離調(detuning)回路に接続されている状態を示す図
図10】既存のMRIシステムの患者ベッド上に最大のスペースを用いるためのPET-コイル組み合わせモジュールの半楕円配置を示す図
図11】既設のMRIシステムの脳イメージングを考慮したPET-コイル組み合わせモジュールの半楕円配置を示す図
図12】マイクロストリップ伝送アレイコイルを備えた部分リングPET配置を示す図
図13】低周波数傾斜渦電流を減らすための連続したRFシールドPETリングの場合の様々なシールド設計を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0056】
RFシールドされたPETインサートを考えると、シールド設計の2つのタイプが考えられる。1つの実施形態は、PET検出器の完全なリングが独立したシールドケージ間が狭いギャップを持つ多数の独立したRFシールドケージによってシールドされている。通常8又は12又は16の、そのようなRFシールドPET検出器モジュールが単一及び/又は複数のリング形式の中で軸横断方向に配列されている。他の実施形態では、リング中のこれらのPET検出器の全てが、連続したRFシールドケージの内側に配置される。
【0057】
いずれの場合も、シールドされたPETはシールドのためMRI RFグランドに接続(接地)される。他方、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルは、マイクロストリップ導体と、計算されたギャップを間に持つ接地導体面で構成されている。接地面はマイクロストリップ導体によって発生された場のシールド又は反射器として作用する。マイクロストリップ導体の幾何学的長さ(その電気的な長さはπ又は2π)は、1/4波長(λ/4)の整数倍とされる。MRIシステムの関心共鳴周波数のため、コイルの長さは画像化関心長さよりも長くなる。誘電体材料有り/無しの独立したシャントキャパシタがコイルの必要な長さ(例えば25cm)をλ/4の整数倍と一致させるために使われる。本発明において、独立してシールドされた複数のモジュラー検出器形式又は連続したRFシールドケージ形式のどちらでも、シールドされたPETリングが、マイクロストリップコイルのアレイの接地面として使用される。従って、PETインサートのシールド材料はRFコイルの一体的な部分(例えば図1、6、及び7)となり、組み合わせシステムはRF効率を最大限とするようにチューンされ、マッチングされる。マイクロストリップ導体12とRFシールドPET検出器モジュール10間のギャップは、空気のみの空気ギャップ16である(図2(a)、3(a)及び4(a))。
【0058】
マイクロストリップ導体12とRFシールドPET検出器モジュール10間のギャップは、低損失のタンジェント特性を有する誘電体材料18、好ましくはPTFEも持つことができる(図2(b)、3(b)及び4(b))。PET画像化を考えると、誘電体がギャップ中に用いられた場合に発生するガンマ光子減衰を避けるためにギャップは空気のみで構成されることが望ましい。接地されたPET検出器シールドケージのシールドは、RF場を画像化領域に、より良く閉じ込め、コイル間の確かな分離を与えるために、2つのマイクロストリップ導体間で放射方向に延長することができる(例えば図4(c)の延長シールド20)。マイクロストリップ導体の長さはRFシールドPET検出器モジュールの長さと同じであることができるが、必ずしもその必要は無い。マイクロストリップ導体は、RFシールドPET検出器モジュールの端部近くで短くすることができる(図5(a)-(b))。ここではPET検出器データ及び電源ケーブルがシールドボックスの中に入り、コイルとPETデータ及び電源ケーブル間のRF干渉の影響を減らす。マイクロストリップ導体12は、RFシールドPET検出器モジュール10の両端から短くすることができる(図5(c)-(d))。PET検出器データ及び電源ケーブルがシールドボックスの内側に入るか、及び/又は他方の端部近くのRFシールドPET検出器モジュール10(例えば図5(e))の端部近くのRFシールドケージの下側面(例えばマイクロストリップ導体と面するシールド面)で延長された延長シールド20を用いることも可能である。他方、RFシールドケージの内側に取り付けられたPET前段読み出し電子回路に接続されるデータケーブル及び電源ケーブルも、PETとMRI間のRF干渉を避ける為にRFシールドされる。ケーブルシールドは、通常、RFシールドPET検出器モジュールのRFシールドケージに接続される。コイル作用を適切にする目的で、ケーブルシールドはPET検出器モジュールのRFシールドケージから分離されることができ、これは、切離回路を用いることによって、好ましくは、キャパシタ及び/又はインダクタ及び/又はフィルタをPET検出器モジュールのRFシールドケージとケーブルのRFシールド間に用いることによって行われる。
【0059】
又、マイクロストリップ線の幅もPET検出器モジュールのRFシールドケージの幅よりも小さく(好ましくは1/3以下)、独立した複数のRFシールドPET検出器モジュール(図6(a)-(b))の場合、マイクロストリップ導体は、RFシールドPET検出器モジュールの長さに沿って(MRIシステムの画像化領域の軸方向長さに沿って)整列され、画像化領域に面するように位置される。独立してシールドされたモジュール型PETリング配置の場合、単一又は複数のマイクロストリップコイルが、PETリングの軸方向及び軸横断方向に沿って配置された複数のPET検出器を含む独立したRFシールドケージと共に用いることができる。一つの大きなRFシールドを備えたマイクロストリップ導体を含む、連続的にシールドされたPETリングの場合、各マイクロストリップ導体の位置は、図6(c)-(d)に示したように、必ずしも各PET検出器の中心を考える必要は無い。又、連続的にシールドされたPETリングの場合、シールドは、大きな渦電流を発達させるのを避ける為にスリット50を有することができる(例えば図13)。この場合、スリット50はRF電流の連続性の為に容量的に結合され、同時にMRI傾斜コイルで発生された渦電流のループがシールド中で大きく発達するのを阻止する。マイクロストリップ導体、好ましくは銅の厚みは、原理的には、マイクロストリップ導体の幅よりもかなり小さく、且つ、磁気共鳴画像化システムの対応する共鳴高周波の表皮厚さ(例えば銅の100MHzの表皮厚さは0.066mm)よりも数倍(例えば約6倍)厚く、シールドされたPET検出器モジュールのシールド材料の厚みはマイクロストリップ導体の厚みよりも小さく、更に磁気共鳴画像化の目的及び冷却の目的で低周波数スイッチング傾斜磁場から発生する渦電流の大きなループの発達を避ける為、シールドケージ中にスリット及び/又は穴及び/又は何らかのシールドの不均一性を持つことができ、更に、PETデータ及び電源ケーブルをRFシールドボックス内側の前段PET検出器電子回路に接続するためのRFシールド開口を持つことができる。PET検出器モジュールのシールド材料は、スイッチングされた傾斜渦電流の誘導を避けるため低周波数領域では絶縁体の性質を持ち、必要な高周波数領域ではシールドの目的で導電性を持つ、好ましくはカーボンファイバーであることができ、及び/又は、PET検出器モジュールのシールドケージのマイクロストリップ導体に面する部分は純粋な導電性材料、好ましくは銅であり、シールドケージの他の部分は、炭素繊維又は同様な材料であることができる。マイクロストリップ線の寸法、空気及び/又は誘電体材料で満たされるギャップの寸法、及びその間のシャントキャパシタの値及び他の設計パラメータは、マイクロストリップコイルの磁気共鳴画像化システムに必要な共鳴高周波数へのチューニングに依存する。4又は8以上のそのような各ストリップコイルは、マルチチャネルRFコイルのアレイを作る(図6、7、8、9、10、11及び12)。コイルのアレイは送信器及び受信器の両方として用いることができる。多数の受信コイルのため、単一チャネルビルトインコイルに比べてSNRは上昇する。このマルチチャネルアレイコイルによって並列送信及び受信が可能である。並列化で画像化を加速化し、画像化時間を短縮できる。各チャネルのRF信号の位相及び振幅を制御することにより、マルチチャネルコイルは、脳組織、心臓、肺組織、前立腺がんなどのような特定の関心画像化領域での高い均一性を有するRFフィールド局在化のためのRFシミング可能性を与える。
【0060】
PETリング中の独立してシールドされた多数のPET検出器モジュールの場合、PET検出器ブロック間の広いギャップのためにPET再構成画像中に生じる視差を避ける為に、独立してRFシールドされたPET検出器モジュールを互いに非常に近く用いることが薦められる。そのような場合、組み合わされた検出器-コイル要素はPET検出器の接地されたRFシールドケージを通して非常に互いに近くなる(例えばシールドされたPET検出器モジュール間で3mm以下のギャップ)一方、最も近い隣接するマイクロストリップ導体間のギャップはかなり広く保たれる。画像化領域中で必要なRFフィールドを発生する、RFパワーを少なくとも有効に用いるため、隣接するコイル要素を切離する必要がある。一つの選択肢は、好ましくは切離キャパシタ22を用いた切離回路を用いること(例えば図8)、及び/又は、マイクロストリップ導体間、及び/又は、接地されたシールドボックス間でインダクタを用いることである。更に、並んだマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルで異なる高調波を用いることも、切離キャパシタ22を用いることなく必要な切離を与えることができる。異なる高調波コイルを与えることは、複数核のMR分光学的研究のための複数のRF周波数共鳴を可能とすることができる。マイクロストリップ導体の両端でマイクロストリップ導体とRFシールドPET検出器間モジュール間にシャントキャパシタ(C)14を持つマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルは、図2に示す第1高調波コイルh1(図8(b)参照)である。マイクロストリップ導体とRFシールドPET検出器モジュール間に3つのシャントキャパシタCs1、Cs2を与えると、図3に示す第2高調波コイルh2(図8(b)参照)となる。必要に応じて、マイクロストリップ伝送線のより高い次数の高調波も与えられる。
【0061】
提案したアプローチは、超高磁場MRIシステムに非常に良く合う。7以上のテスラの磁場のRF波長は、コイル及び/又は患者の寸法と同等となり、画像化領域中で暗い点を生じる構造的で有害な干渉を生じる。このため、RF場は、超高磁場MRIでボリュームコイルに対して非常に不均一となる。コイルのアレイ中の各コイルの位相及び振幅を制御することによって、画像化領域中で均一なRF場を発生することが可能である。
【0062】
必要ならば、バードケージコイルを送信器(バードケージコイルは低い磁場のMRIシステムではRF送信器としても作用)、及び/又は、受信器として含み、アレイコイルのみを図7に示したように受信器として含む、3テスラ以下の磁場のMRIシステムに良い他の実施形態も可能である。独立してシールドされたPET検出器の場合の3つの異なる設計形状が図7(a)-(c)に示されている。図7(a)及び(b)において、バードケージコイルユニット32が、シールドされたPETモジュール間、又はマイクロストリップ導体間に配置され、マイクロストリップ導体はRFとしてのみ用いられる。独立してシールドされたPET検出器の他の実施形態において、バードケージコイルユニット32は、シールドされたPETリング(図7(c))の内側の他の位置(例えばマイクロストリップコイル1個ごと、又は2個以上ごとの間)に方位をもって配置され、マイクロストリップコイルの数が少なくなる。図7(b)及び(c)と同様の配置が連続したシールドケージに対しても可能であり、一例が図7(d)に示されている。図7(d)の連続したシールドケージ配置の場合、各マイクロストリップ導体の位置は、図6(b)-(c)に示したように必ずしもPET検出器42の中心でなければならないことはない。
【0063】
RF透過可能PETインサートの場合、MRI組み込みボディRFコイルは送信器として用いられる。ビルトインボディRFコイルの代わりに、PETインサート外側の独立したRFコイルをフローティングさせるために同様に用いることができる。独立してRFシールドされたPET検出器モジュールは、RFフィールドを画像化領域に通過させるため、狭いモジュール間ギャップでリング形状に用いられる。(PETリングの外側から)ボディRFコイルから送信されたRFフィールドは、シールドされたPETモジュールがMRI接地から電気的に浮いていた場合、モジュール間ギャップを幾らかの減衰をもって通過する(図9(a))。図9において、44はストリップコイル付きPET検出器、60はMRIシステム、62は傾斜磁場コイルアセンブリ、64は送信用ビルトインRFコイル、70は患者ベッドである。
【0064】
あるいは、(例えばシールドが接地されていると)送信されたRF場は多く減衰される可能性がある。RF透過可能なPETインサートの場合、本発明のマイクロストリップRFコイルは、RF受信器としてのみ用いられる。先に述べたように、マイクロストリップRFコイルはその動作のための基本的な要素として接地面を必要とし、本発明では、RFシールドPET検出器モジュールが接地面として作用する。通常、RF受信器は常に本発明のコイルに必要な電気的フローティングをボディRFコイルからのRF場送信の際に与える離調回路を含んでいる。しかしながら、シールドボックスの内側に取り付けられたPET前段読み出し電子回路に接続されるデータケーブル及び電源ケーブルもRFシールドされている。ケーブルのシールドは、通常、RFシールドPET検出器モジュールのRFシールドケージに接続されている。RFシールドケージを更に電気的にフローティングする目的で、ケーブルシールドは、PET検出器モジュールのRFシールドケージから切り離されなければならず、これは、何らかの種類の切離回路、好ましくはキャパシタ及び/又はインダクタ及び/又はフィルタをRFシールドPET検出器モジュールのRFシールドケージとケーブルのRFシールド間に用いることによって達成される。フローティングだけでなく、上記で説明した全ての他の場合において、PET検出器モジュールのRFシールドケージと、ケーブルのRFシールド間を切離することが望ましい。
【0065】
従来のバードケージ型又は横断電磁フィールド(TEM)型ボリュームコイルは幾何学的な対称性を要求する。RFシミング機能を備えた本発明のマルチチャネルアレイコイルを用いることによって、非対称なPETリング配置に対してもRF場を均一に送信することが可能である。通常、PETインサートは患者ベッド70を含む既存のMRIシステムに用いることが考えられている。ボディ形状PETインサートに関して、半楕円形状(図10)のような非対称PETリング配置が、患者ベッド70上に最大のスペースを用いるのに適切な選択である。脳の画像化に際しても、半楕円形状配置(図11)がより小型であり、PET及びMRI感度を共に向上させる。図12に示すように、独立したRF送信コイル(バードケージRFコイルのような)を持つか持たないマイクロストリップ伝送線アレイコイルを持つ部分リングPET40の配置も可能である。本発明におけるこの概念は、組み合わせシステムを一つの小型モジュールにするもので、これにより計装条件としてより少ないスペースにできる。『電気的に浮いたPETインサート』という概念は、非対称配置においても用いられる。
【0066】
複数のマイクロストリップ導体を含むことができるような、PETインサートの大きなRFシールドについて、幾つかのシールド設計例が(この例に限定されることなく)図13に示される。1つの実施形態(図13(a)-(b))において、PETリングの内側周辺部分のシールド層は、大きなループの渦電流の発生を防止すると同時に、PET検出器に十分なRFシールドを与えるために、PETリングの内側部分におけるシールド層は、小ギャップを介した2枚の長穴を有する金属箔による導電層(スロット付きシールド48)を用いて設計することができる。これらの2枚の長穴を有する層は、スリット50の位置を交互にするように配置される。マイクロストリップ導体がPETリングの内径シールド層に近いので、このシールド層がPET検出器のRF干渉を減らすための主な配慮事項となる。PETリングの外径部分において、連続シールド46を用いることができ、そのシールド材料としては、大きな渦電流ループを防止する非常に薄い金属箔(例えば約1表皮深さ)、又は、MRIシステムの傾斜磁場から発生する低周波数渦電流に対して絶縁体として作用する(炭素繊維のような)シールド材料を用いることができる。又、外側部分表面を容量的に結合した(連続でない)セグメント型シールド47(図13(b))とすることができる。この外側部分表面は、内側表面と同様の多層シールドを用いて設計もできる。他の実施形態(図13(c))において、PETリングの内径部分のシールド層は、必要な高周波に対しては短絡として作用すると同時にシールド中に大きな渦電流ループを発達させないように低周波数の渦電流をブロックするキャパシタ52によって連結されたスリット50付きの単一層とすることができる。又は、シールドの内側及び外側層は、キャパシタ52によって連結されたスリット50で溝を設けることができる(図13(d)))。
【0067】
本発明の第1の側面によれば、PET及び磁気共鳴画像化及び分光学の複合研究用に向けられたPETインサートのRFシールドのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが提供される。ここで、PETインサートはモジュール型RFシールドケージ構造であったり、又は完全包囲形RFシールドケージ構造であったり、又はモジュール型と完全包囲形RFシールドケージ構造の組合わせであったりすることができる。ここで、RFシールドケージは少なくとも一つの放射線検出器をシールドケージの内側に含み、放射線研究のPETリング及び磁気共鳴画像化及び分光学研究用のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイとして共に作用するマイクロストリップ導体のアレイの電気接地導体とされる。ここで、コイル要素間の電気的な絶縁は、PETインサートの接地されたRFシールドケージ及び/又はマイクロストリップ導体間で分離回路を用いて成される。
【0068】
本発明の第2の側面によれば、バードケージRFコイルと本発明の第1の側面で規定されたマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイの組合せであって、バードケージがRF送信器及び/又は受信器として用いられ、マイクロストリップコイルのアレイがRF受信器は送信器として用いられる。
【0069】
本発明の第3の側面によれば、本発明の第1又は第2の側面で規定されたマイクロストリップ伝送線アレイであって、切離し及び/又は磁気共鳴分光学研究の目的で、異なる次数の高調波コイルが並んで配置される。
【0070】
本発明の第4の側面によれば、本発明の第1又は第2の側面において、放射線研究用のPET及び磁気共鳴画像化及び分光学研究用のマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイとの両方として作用するマイクロストリップ導体を備えたモジュラー型RFシールドPET検出器が、PETインサート外側の独立したRFコイルを備えたRF透過可能PETインサートのRF受信コイルのアレイとされ、及び/又はMRIビルトインボディRFコイルが送信器とされる。
【0071】
本発明の第5の側面によれば、本発明の第1、第2、第3及び第4の側面が、磁気共鳴画像化及び/又は磁気共鳴分光学研究のためにPET研究との組合せで用いられ、本発明の第1、第2、第3及び第4の側面を含むマルチチューンRFコイルの組合せが1以上の核磁気共鳴研究のために用いられ、他のタイプのRFコイル、好ましくはループ又は二重極又はバードケージ型RFコイルが、1以上の核磁気共鳴研究のためにマルチモーダルPET、MRI及びMRS研究の目的で用いられる。
【0072】
本発明の第6の側面によれば、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが、PET検出器モジュールのRFシールドケージがマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルの接地面とされたRFシールドPET検出器モジュールと組み合わされ、RFシールドPET検出器モジュールが複数のPET検出器を視野の軸方向及び軸横断方向に持ち、組み合わされたコイルがコイルの長さ方向に直線的である必要は無く、曲げることができる。
【0073】
本発明の第7の側面によれば、PET、MRI及びMRS複合研究のためのPETインサートが組み合わされるマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルにおいて、RFシールドPET検出器モジュールの前段電子回路のデータ及び電源ケーブルがRFシールドされ、PET検出器モジュールのRFシールドケージとケーブルシールドが、必ずしも必要としない分離回路で接続されている。
【0074】
本発明の第8の側面によれば、PET、MRI及びMRS複合研究のためのマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが組み合わされたPETインサートにおいて、PET検出器モジュールのRFシールドケージが、MRIシステムの傾斜場から誘導される低周波傾斜渦電流の影響の低減、PET検出器前段電子回路の冷却、PET検出器モジュールのRFシールドケージ内側に取り付けられたPET検出器モジュールの前段電子回路のデータ及び電源ケーブルとの接続などの多目的でスリット及び/又は穴及び/又はコネクタを有することができる。
【0075】
本発明の第9の側面によれば、本発明の第6の側面において、本発明の第1、第2、第3、第4及び第5の側面におけるマイクロストリップ伝送線アレイRFコイルのアレイとして単一のコイルが与えられる。
【0076】
本発明の第10の側面によれば、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルと組み合わされるPETインサートのPET検出器モジュールのRFシールドケージが、連続的及び/又はセグメントされた金属導体材料であるRFシールドの単一層を有する。単一層シールドはメッシュ状導電材料又は炭素繊維のような非金属導電材料で形成することができる。
【0077】
本発明の第11の側面によれば、マイクロストリップ伝送線アレイRFコイルが組み合わされるPETインサートのPET検出器モジュールのRFシールドケージが、複数層、好ましくは2層のシールドを有し、異なる層が同じタイプのシールド材料を用いた同じシールド設計を有することができる。
【0078】
本発明の第12の側面によれば、本発明の第11の側面において、複数層RFシールドは、異なるタイプのシールド材料の異なるシールド設計を有する異なる層を有することができる。
【0079】
本発明の第13の側面によれば、本発明の第11又は第12の側面において、任意の層又は全ての層のシールドがセグメント間に狭いギャップを有するセグメントタイプであり、セグメントが、必ずしも必要でないが、RF電流を短絡し、低周波傾斜渦電流に対しては開路として作用する、好ましくはセラミックキャパシタで結合される。
【0080】
本発明の第14の側面によれば、PET検出器モジュールのRFシールドケージの一部は、本発明の第11、第12又は第13の側面に基づく複数層のシールドを持つことができ、シールドケージの残りは、本発明の第10の側面に基づく単一層のシールドを持つことができる。
【0081】
なお前記説明においては、主にMRIシステム用のPETインサートが説明されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えばMRSシステム用のPETインサートやSPECTインサート等にも同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
発症前及び発症後の画像化及び分光に利用できるMRI又はMRSシステム用のPET又はSPECTインサートを提供する。
【符号の説明】
【0083】
10…RFシールドPET検出器モジュール
12…マイクロストリップ導体
14…シャントキャパシタ
16…空気ギャップ
18…誘電体材料
20…延長シールド
22…切離キャパシタ
30…連続RFシールドケージ
32…バードケージコイルユニット
40…部分リングPET
42…PET検出器
44…ストリップコイル付きPET検出器
46…連続シールド
47…セグメント型シールド
48…スロット付きシールド
50…スリット
52…キャパシタ
60…MRIシステム
62…傾斜磁場コイルアセンブリ
64…送信用ビルトインRFコイル
70…患者ベッド
h1…第1高調波マイクロストリップコイル
h2…第2高調波マイクロストリップコイル
図1
図2
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図10
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